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京都地方裁判所 平成13年(ワ)594号 判決 2001年12月26日

主文

1  被告は,原告に対し,金3624万3720円及びこれに対する平成11年4月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は,これを5分し,その2を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。

4  この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

被告は,原告に対し,金5848万6295円及びこれに対する平成11年4月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は,原告が,被告運転の自動車の発進を阻止しようとして,当該自動車の車体に手を掛けたところ,被告がそのまま当該自動車を発進ないし進行させたため,原告が路上に転倒した事故について,原告が,被告に対し,民法709条に基づき,当該事故により被った損害及びこれに対する事故発生日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求めた事案であり,殊に,当該事故の発生状況,過失相殺,損害額,損害の填補額が争点となったものである。

第3前提事実

1  次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した(争いのない事実,甲1,3)

(1)  日時

平成11年4月20日午前0時45分ころ

(2)  場所

京都市西京区a町b丁目c番地先路上(以下「本件事故現場」という。)

(3)  事故態様

原告が,本件事故現場に停車した被告運転に係る普通乗用自動車(以下「被告車両」という。)の助手席から自分の妻が降車したところを見て,被告と妻との不倫を疑い,被告にその点を問い質そうとして,被告車両に近寄り,そのボンネット付近に手を掛けて被告車両の発進を阻止しようとしたところ,被告車両がそのまま本件事故現場から急発進したため,原告がその場に転倒した(なお,本件事故の発生状況の詳細について,当事者間に争いがある。)。

2  責任原因

本件事故は,被告の前方不注視あるいは安全運転義務違反の過失によって惹起されたものであるから,被告は民法709条により,原告の被った損害を賠償する責任がある(争いがない。)。

3  原告の受傷及び治療経過

原告は,本件事故により,骨盤骨折の傷害を負い,次のとおり,医療法人清仁会洛西シミズ病院に入通院して治療を受けた(争いのない事実,甲5,6,9ないし11)。

(1)  入院

① 平成11年4月20日から同年7月16日まで(88日間)

② 平成11年12月5日から平成12年1月15日まで(42日間)

(2)  通院

平成11年7月17日から平成12年6月28日まで(実日数60日)

4  後遺障害

本件事故による原告の受傷は,平成12年6月28日,症状固定となったが,原告には,次の各後遺障害が残存し,自賠責保険により後遺障害等級併合8級と認定された(争いのない事実,甲6,7)。

①  骨盤骨の変形治癒(自賠法施行令2条別表所定の後遺障害等級12級5号該当,以下,単に後遺障害等級のみを記す。)

②  仙腸関節部の運動時痛(後遺障害等級9級10号)

第4争点

1  本件事故の発生状況及び過失相殺の適否

2  原告が本件事故により被った損害

3  損害の填補額

第5争点に関する当事者の主張

1  争点1(本件事故の発生状況及び過失相殺の適否)について

(1)  原告の主張

本件事故は,被告車両から妻が降車したのを見た原告が,被告車両の前方に出てボンネットに左手を置くなどしたところ,原告の妻との交際が発覚したことに驚いた被告があわてて逃走しようとして被告車両を急発進させたことによって発生したものであり,被告の故意によって発生したとも評価できる事故であるから,過失相殺の法理を適用することはできない。

(2)  被告の主張

本件事故は,原告が,妻と被告が交際している現場を取り押さえるため,既に発進していた被告車両を停止させようとして,被告車両のほぼ真横から正面に飛び出し,被告車両前部のボンネットに両手をついて,被告車両の進行を阻止しようとしたのに対し,被告が,被告車両を加速させれば原告が被告車両から離れてくれるものと思い,被告車両を加速させたところ,原告が被告車両から離れず,なおもその進行を阻止しようとして転倒したことにより発生したものであって,このような本件事故の発生状況に照らし,原告が本件事故により被った全損害について3割の過失相殺をなすべきである。

2  争点2(原告が本件事故により被った損害)について

(1)  原告の主張

原告が本件事故により被った損害は次のとおりである。

ア 治療費 金728万0605円

イ 文書料 金2625円

ウ 入院雑費 金18万2000円

ただし,日額金1400円,入院日数130日にて算出した。

エ 交通費 金5万2800円

ただし,通院実日数60日における原告自宅からのバス料金(往復金880円)として算出した。

オ 装具代 金8万0855円

カ 休業損害 金509万1800円

原告は,トラック運転手として試用期間中に本件事故に遭遇したものであるが,当時の勤務先から正社員として採用される約束を得ていたこと,過去にもいくつかの運送会社で働いていたこと等から,基礎収入として本件事故当時の年齢である29歳の男子平均賃金月額金36万3700円を採用し,休業期間を14月間として算出した。

キ 入通院慰謝料 金270万円

ク 後遺障害逸失利益 金4195万5980円

原告は,前記前提事実4記載のとおり,本件事故による受傷のため,後遺障害等級併合8級の後遺障害を負い,45パーセントの労働能力を喪失した。基礎収入として症状固定当時の原告の年齢である30歳の男子平均賃金月額金37万6700円,就労可能年数を37年として,ホフマン方式により中間利息を控除すると(係数20.6255)を採用すると,次の算式により,原告が本件事故により被った後遺障害逸失利益は上記金額となる。

金37万6700円×12×0.45×20.6255

=金4195万5980円

ケ 後遺障害慰謝料 金820万円

コ 弁護士費用 金460万円

サ よって,損害額の合計は金7014万6665円となる。

(2)  被告の主張

ア 治療費について

否認する。治療費の合計は金747万8465円である。

イ 文書料について

不知。

ウ 入院雑費について

入院期間が130日間であることは認め,日額は争う。

エ 交通費について

不知。

オ 装具代について

認める。

カ 休業損害について

原告の事故当時の収入は日額平均金8860円であるので,これを基礎収入として採用すべきである。休業期間については争わない。

キ 入通院慰謝料について

争う。高額に失する。

ク 後遺障害逸失利益について

(ア) 原告の事故当時の収入は日額平均金8860円であるので,これを基礎収入として採用すべきである。

(イ) 原告の後遺障害のうち,骨盤骨折後の著しい変形(後遺障害等級12級5号該当)は労働能力に影響しない。したがって,労働能力喪失率については,後遺障害等級9級10号に対応する35パーセントを採用すべきである。

(ウ) 労働能力喪失期間は争う。

ケ 後遺障害慰謝料について

争う。高額に失する。

コ 弁護士費用について

争う。

3  争点3(損害の填補額)について

(1)  被告の主張

ア 被告は,本件事故当時に契約していた損害保険会社を通じ,原告に対し,既に金1213万8080円を支払った。

イ また,被告は,上記支払いとは別に,原告に対し,平成11年5月14日から平成13年4月26日にかけて,損害賠償として合計金622万円を支払った。

(2)  原告の主張

ア 被告の主張アは,否認する。原告が損害保険会社から支払いを受けた金額は金1166万0370円である。

イ 被告が,損害保険会社による支払いとは別に,原告に対し,金622万円を支払ったことは認めるが,その金員は,本件事故により原告が被った損害の填補として支払われたものではなく,原告に対する見舞金,生活に対する援助金,原告の妻と交際したことについての慰謝料として支払われたものにすぎない。

第6争点に対する判断

1  争点1(本件事故の発生状況及び過失相殺の適否)について

(1)  証拠(甲3,4,15,乙1ないし3,原告被告各本人)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の各事実が認められる。

ア 本件事故現場は,市営住宅内の,南北に走る幅員5メートルのアスファルトで舗装された直線道路上にあり,当該道路の両側(東側及び西側)には歩道が設けられており,さらに,本件事故現場付近において,東側から上記歩道に突き当たる市営住宅内の通路がある。

イ 被告は,本件事故発生の2年ほど前,スナックでアルバイトをしていた原告の妻と知り合うようになり,その後,同女と被告車両でドライブをするようになったが,その現場を原告に見られ,蹴りつけられるなどしたことから,原告に対し,二度と同女と会わないと約束をしたものの,実際には,しばらくして,再び同女と月に1回程度の頻度で会うようになっていたところ,本件事故発生の数日前にも,電話で同女と会う約束をし,本件事故発生前日の平成11年4月19日午後11時ころ,被告車両を運転して,本件事故現場付近で同女と落ち合って,同女を被告車両の助手席に乗車させて雑談をし,翌12日午前0時40分ころ,同女を送るために,被告車両を運転して本件事故現場に至り,そこで被告車両を停止させて,同女を助手席から降車させた。

ウ 一方,原告は,本件事故発生前日の夜から,東京から神戸に向かう運送トラックの運転業務に従事していたところ,その途中,原告の自宅(市営住宅)に立ち寄ったが,その際,原告の妻は自宅におらず,部屋の電灯とテレビが付けっぱなしの状態で子供が一人で就寝していたことから,原告は,不審に思いつつ,しばらく休憩した後,自宅を出て,付近に駐車中の上記トラックに向かい,前記ア記載の市営住宅内の通路を通って,本件事故現場付近まで歩いてきたところ,折から,前記イ記載のとおり,見覚えのある被告車両が本件事故現場に停止し,その助手席から原告の妻が降車したところを認め,被告が以前の約束に反して再び同女と交際するようになったことを知り,その点を問い質すため,被告車両に近づき,被告車両をその場から発進させまいとして,被告車両の左前角付近に立ち,左手を同車の左前ボンネットに,右手を左前オーバーフェンダーにそれぞれ掛けた。

エ 被告は,その時点でようやく原告の存在に気づき,被告車両を発進させて,その場を離れようと考えた。そして,原告が被告車両の車体に手を掛けていることは認識していたものの,エンジンをふかし,少し被告車両を動かせば原告は手を離すであろうと考え,被告車両のアクセルを踏んだところ,被告の予想に反して原告が手を離さなかったことから,さらに,被告は,その場から早く立ち去りたいとの一心で,被告車両を急発進させたため,原告は被告車両に引きずられて,路上に転倒した。

以上のとおり認められる。

(2)  これに対し,被告は,被告車両から約5.5メートル離れた地点において,走り寄ってきた原告の存在に気づき,その場から離れようとして被告車両を発進させたにもかかわらず,原告が動き出した被告車両のボンネットに両手をついて被告車両を停止させようとしたために本件事故が発生した旨主張し,本人尋問においても,これに沿う供述をする。

しかしながら,証拠(甲2,3,被告本人)によると,被告車両は,車両重量1790キログラム,総排気量3.37リットルの大型の四輪駆動車であることが認められ,この点にかんがみると,原告が約5.5メートルの距離を走って被告車両に近づく間に被告車両が発進することができたとはにわかに考え難い上,経験則に照らし,原告が,被告車両にひかれる危険を冒して,既に動き出した被告車両の進路上に立ちふさがって,そのボンネットに手を掛けたとも考え難い。さらに,被告は,本人尋問において,原告が,停止している被告車両の車体に手を掛けたのか,それとも,既に動き出していたところに手を掛けたのかは,はっきりと分からない,とにかく,原告の存在に気づいて,気が動転し,早く立ち去ろうとばかり考えていた旨供述しているところをも併せ考えると,被告の上記主張は採用することができないといわざるを得ない。

(3)  そして,前記認定に基づいて過失相殺の適否について検討すると,被告は,原告が被告車両の車体に手を掛けていることを認識していたにもかかわらず,エンジンをふかして,少し被告車両を動かせば原告は手を離すであろうと安易に考え,被告車両のアクセルを踏み,さらに,それにもかかわらず原告が被告車両から手を離さなかったことから,その場から早く立ち去りたいとの一心で,被告車両を急発進させ,よって,原告を引きずって路上に転倒させたのであるから,被告には,本件事故発生について,著しい安全運転義務違反の過失があったものというべきである。

しかしながら,他方,前記(2)記載のとおり,被告車両は大型の四輪駆動車であることに照らすと,たとえ,被告が急発進のためアクセルを踏んだとしても,ただちに被告車両が高速度で進行するものではないことはたやすく推認することができ,原告がその間に危険を避けるために被告車両から手を離すことは十分可能であったはずである。また,前記(1)イ記載のような従前の経緯に照らせば,原告は,自分の姿を見れば,被告がその場を立ち去ろうとして被告車両を発進させるであろうことは十分に認識していたと推認されるから(そうであればこそ,原告は,被告車両の左前角付近に立ち,左手を同車の左前ボンネットに,右手を左前フェンダーにそれぞれ掛けたものとみるのが相当である。),自己の行為の危険性を認識することもできたはずである。したがって,本件事故の発生について,原告に過失がなかったということはできない。

そして,以上の事情を総合勘案し,本件においては,原告が被った全損害につき5パーセントの割合で過失相殺を施すのが相当であると認める。

2  争点2(原告が本件事故により被った損害額)について

(1)  治療費について

証拠(甲8ないし11,原告本人)により,金728万0605円の治療費損害の発生を認める。

(2)  文書料について

証拠(甲12)により,金2625円の文書料損害の発生を認める。

(3)  入院雑費について

原告が,本件事故による受傷のため,合計130日間入院したことにかんがみ,金16万9000円の入院雑費損害の発生を認める。

(4)  交通費について

前記前提事実3及び証拠(原告本人)により,原告が,本件事故による受傷のため,合計60日間通院したこと,原告自宅から病院までのバス料金が片道金440円であったことが認められるから,合計金5万2800円の交通費損害の発生を認める。

(5)  装具代について

原告が,金8万0855円の装具代損害を被ったとの点については,当事者間に争いがない。

(6)  休業損害について

証拠(乙4,原告本人)及び弁論の全趣旨によると,原告は,平成11年3月26日,株式会社ケイワイトランスポートに長距離トラックの運転手として試験採用され,本件事故発生の前日である同年4月19日までの間(25日間)に,合計金26万5800円の給与を支給されたことが認められるから,上記期間における原告の平均収入は日額金1万0632円であったと認められる。

そして,原告の休業期間が14か月であったことは当事者間に争いがないところ,その趣旨は,本件事故発生日である平成11年4月20日から本件事故による原告の受傷が症状固定となった平成12年6月28日まで(436日間)休業したとの趣旨と解されるから,原告が本件事故により被った休業損害は,次の算式により,金463万5552円と認められる。

金1万0632円×436日=上記金額

なお,原告は,基礎収入として,本件事故当時の原告の年齢である29歳の男子平均賃金月額金36万3700円を採用すべきであると主張するが,原告は,本人尋問において,上記試験採用の期間が経過して本採用となった場合には,月額約30万円以上はもらえると聞いていた旨供述しており,上記金額を前提に原告の月収を計算しても,金30万円以上の金額となるから,原告の上記主張は採用しない。

(7)  入通院慰謝料について

前記前提事実3記載の本件事故による原告の受傷の内容及び程度,入通院の期間その他本件審理に顕れた諸般の事情を考慮し,金230万円をもって,相当の入通院慰謝料と認める。

(8)  後遺障害逸失利益について

ア 前記前提事実4記載のとおり,原告には,本件事故による受傷の結果,後遺障害等級併合8級の後遺障害が残存するに至ったのであるから,これによる労働能力の喪失率は,45パーセントと認められる。

これに対し,被告は,原告の後遺障害のうち,骨盤骨の著しい変形は労働能力に影響しないとして,労働能力喪失率を後遺障害等級9級10号に対応する35パーセントとみるべきである旨主張するが,証拠(甲6,7,原告本人)によると,原告は,仙腸関節の脱臼及び骨盤内の神経叢の損傷により,慢性的に両股関節部が痛み,さらに荷重すると疼痛の増強することに加え,骨盤骨の著しい変形によって,杖の使用や下肢の長さを調節するための装具の装着を余儀なくされ,長距離歩行が困難であるとともに,運搬業等の両手両足を使った重労働に就くことができない状況にあることが認められ,仙腸関節部の疼痛ばかりでなく,骨盤骨の著しい変形もまた,原告の労働能力喪失に影響を及ぼしていることは明らかであるから,被告の上記主張は採用しない。

イ 基礎収入については,前記(6)記載のとおり,日額金1万0632円を採用する。

ウ 証拠(原告本人)によると,原告は,上記の後遺障害により,当初,主として左足が痛んでいたところ,その左足をかばうために右足に負担がかかるようになり,現在では両足ともに痛みがあることが認められ,このような状況に照らし,原告の労働能力喪失率が将来逓減するとはにわかに考え難いから,労働能力喪失期間については,症状固定時における原告の年齢である30歳から67歳までの37年間と認めるのが相当である。

エ よって,ライプニッツ方式により中間利息を控除すると(係数16.7112),原告が本件事故により被った後遺障害逸失利益は,次の算式により,金2918万2868円と認められる。

金1万0632円×365日×0.45×16.7112

=上記金額

(9)  後遺障害慰謝料について

前記前提事実4記載の原告の後遺障害の内容及び程度その他諸般の事情を総合考慮し,金770万円をもって,相当の後遺障害慰謝料と認める。

(10)  以上の損害額を合計すると,金5140万4305円となる。

3  争点3(損害の填補額)について

(1)  証拠(甲8)及び弁論の全趣旨により,被告が損害保険会社を通じて原告に対して支払った損害賠償金は金1166万0370円と認められる。

(2)  そして,被告が,上記金員と別に,原告に対して,平成11年5月14日から平成13年4月26日にかけて,合計金622万円を支払ったとの点については,当事者間に争いがない。

ところで,上記金員の趣旨について,被告は,その全額が,原告が本件事故により被った損害の填補として支払われたものであると主張し,原告は,原告に対する見舞金,生活に対する援助金,原告の妻と交際したことについての慰謝料として支払われたものにすぎないと主張するところ,その金額の多額さに加え,証拠(乙5,原告被告各本人)によると,上記金員の支払いについては,原告と被告の間において,本件が決着するまでの間,毎月金20万円を支払う(すなわち,本件が決着し,原告が損害の賠償金を得た時には,もはや被告は支払わなくともよい。)との合意がなされて,現在に至っていることが認められ,以上のような事情に照らすと,上記金員の支払いが,原告が本件事故による損害の賠償金を得るまでの間の原告及びその家族の生活保障の趣旨によってなされていることは明らかであって,これが原告が本件事故により被った休業損害及び後遺障害逸失利益の各損害の填補としての性格を有することは優に認められるところである。

しかしながら,他方,被告は,本人尋問において,上記金員の支払いについて,お見舞い金という趣旨や,原告との約束に反して,原告の妻と再び会うようになったことについての慰謝料という趣旨があったことを自認しており,上記金員の全額をもって,損害の填補としての性格を帯びるものとみることも相当でない。

そこで,以上の諸般の事情を総合勘案し,上記金員のうち,原告が本件事故により被った損害の填補としての性格を有するのは,金422万円にとどまり,残額の金200万円については,見舞金あるいは謝罪金として,損害の填補に当たらないと認めるのが相当である。

(3)  したがって,原告が本件事故により被った損害の填補として受領した金額は,合計金1588万0370円と認められる。

4  結論

(1)  前記2(10)記載のとおり,原告が本件事故により被った損害は,弁護士費用を除き,合計金5140万4305円と認められるところ,本件については,前記1(3)記載のとおり,5パーセントの割合の過失相殺を施すのが相当であるから,上記金額に上記割合を乗ずると,その金額は金257万0215円となる。

(2)  したがって,上記損害額から,上記過失相殺額及び前記3(3)記載の損害の填補額を控除すると,その残額は金3295万3720円となる。

(3)  上記認容額及び本件訴訟の審理経過に照らし,金329万円をもって,相当な弁護士費用と認める。

(4)  よって,原告の請求は,金3624万3720円(金3295万3720円+金329万円)及びこれに対する本件事故の発生日である平成11年4月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。

(裁判官 佐藤英彦)

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