京都地方裁判所 平成13年(行ウ)12号 判決 2005年2月24日
主文
1 被告Aは,京都市に対し,金133万7960円及びこれに対する平成13年5月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告Bは,京都市に対し,金32万9568円及びこれに対する平成13年5月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告Cは,京都市に対し,金114万2982円及びこれに対する平成13年5月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告Dは,京都市に対し,金58万2933円及びこれに対する平成13年5月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被告Eは,京都市に対し,金117万8658円及びこれに対する平成13年5月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
7 訴訟費用は,これを2分し,その1を原告の負担とし,その余は被告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1 被告Aは,京都市に対し,287万7619円及びこれに対する平成13年5月26日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告Bは,京都市に対し,397万6009円及びこれに対する平成13年5月26日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告Cは,京都市に対し,435万8766円及びこれに対する平成13年5月26日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告Dは,京都市に対し,334万9346円及びこれに対する平成13年5月26日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被告Eは,京都市に対し,217万3746円及びこれに対する平成13年5月29日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1 本件は,京都市の住民である原告が,平成9年度(同年4月1日から翌年3月31日まで。年度について,以下同じ。)から平成11年度の3年間に京都市から部落解放同盟京都府連合会各支部(以下「同盟各支部」という。なお,同連合会の各支部は,「田中支部」のように支部名でいう。)に対して支出された別紙支出決定一覧表記載1ないし39の各公金支出(以下「本件各公金支出」という。)が違法であると主張して,地方自治法(以下「法」という。)242条の2第1項4号(平成14年法律第4号による改正前のもの)の規定に基づき,京都市に代位して,同号にいう当該職員である被告らに対して,支出された公金相当額(別紙支出決定一覧表「支出額」欄各記載の額)から後に京都市に返還された額(別紙支出決定一覧表「返還額」欄各記載の額)を控除した金額(別紙支出決定一覧表「支出残額」欄各記載の額)及びこれに対する年5分の割合の遅延損害金の賠償を求める事案である。
2 基礎となる事実(当事者間に争いのない事実及び末尾記載の証拠等によって認められる事実)
(1) 原告は,京都市の住民である。
(2) 京都市同和対策事業助成要綱
ア 京都市は,昭和59年11月,京都市同和対策事業助成要綱(甲1,以下「助成要綱」という。)を制定し,同和地区における団体に対する助成について,同和地区住民の文化の向上と自立の促進を図るため自主的に実施する事業,又は市長が公益上必要があると認める事業で,同和問題の解決に有効かつ適切と認められるものに対して助成をするものと定めた(第1条)。
イ 助成要綱において,地区別事業の助成の算定基準については,以下のとおりとされており,助成の額は,いずれも総事業費の3分の2に相当する額を超えないものとされている。
(ア) 老人事業
敬老会の場合,50万円を限度とする。
老人社会見学の場合,交通費,宿泊費等として参加者一人につき,3万円を限度とする。
(イ) 女性事業
女性学習会の場合,交通費,宿泊費等として参加者一人につき,3万円を限度とする。
(ウ) 青少年事業
青年学習会の場合,交通費,宿泊費等として参加者一人につき,3万円を限度とする。
夏事業(水泳,キャンプ等)の場合,交通費,宿泊費として参加者一人につき3万円を限度とする。
冬事業(スキー等)の場合,交通費,宿泊費として参加者一人につき3万円を限度とする。
(エ) 学習会
交通費,宿泊費等として参加者一人につき,3万円を限度とする。
ウ 助成要綱において,助成を受けようとする団体は,事業実施予定日の20日前までに,事業助成申請書に事業計画書及び事業予定書を添えて,市長に対して,助成の申請を行うものとされている。
それに対し,市長は,審査の上,申請団体に対し,助成決定通知書を交付するものとされている。
助成を受けた団体は,事業の実施後速やかに,事業実施報告書及び事業決算報告書を市長に提出するものとされている。
(3) 本件各公金支出
京都市は,平成9年度ないし平成12年度までの間,別紙支出決定一覧表記載1ないし39のとおり,同盟各支部に対して,補助金を支出した(本件各公金支出。個々の公金支出は,別紙支出決定一覧表の番号により「本件公金支出1」のようにいうことがある。)。
なお,京都市局長等専決規程(乙1)により,本件各公金支出のうち,文化市民局に属するものであって,1件100万円を超え500万円以下のものについては,文化市民局長が,同じく1件100万円以下のものについては,文化市民局文化部長が専決権限を有した。また,京都市教育長等専決規程(乙2)により,本件各公金支出のうち,教育委員会の所管に属するものであって,1件100万円を超え500万円以下のものについては,教育長が,同じく1件100万円以下のものについては,教育委員会事務局総務部長が専決権限を有した。
ア 被告Aは,平成9年度,京都市文化市民局長の職にあり,別紙支出決定一覧表の番号5,7,8,10及び12の公金支出について,支出決定をした。
イ 被告Bは,平成10及び11年度,京都市文化市民局長の職にあり,別紙支出決定一覧表の番号20から22まで,24,31,32,35,37及び38の公金支出について,支出決定した。
ウ 被告Cは,平成9ないし11年度,京都市文化市民局文化部長の職にあり,別紙支出決定一覧表の番号1,4,6,14,18,19,23,25,26,28,30,33,34,36及び39の公金支出について,支出決定をした。
エ 被告Dは,平成9及び10年度,京都市教育委員会教育長の職にあり,別紙支出決定一覧表の番号2,3,13及び16の公金支出について,支出決定をした。
オ 被告Eは,平成9及び10年度,京都市教育委員会事務局総務部長の職にあり,別紙支出決定一覧表の番号9,11,15,17,27及び29の公金支出について,支出決定をした。
(4) 監査請求
原告は,平成13年1月24日,京都市監査委員に対し,京都市の平成9年度ないし平成11年度の同盟各支部への公金支出について,法242条1項の規定に基づく住民監査請求を行った。これに対して,京都市監査委員は,同年3月21日付けで,同監査請求を棄却する旨の通知を行った。
(5) 本件訴訟提起
原告は,平成13年4月20日,本件訴訟を提起した。
(6) 調査委員会の設置
京都市は,平成14年12月4日,助成要綱に基づき交付された補助金の請求内容について調査する目的で,文化市民局長を委員長とする「京都市同和対策事業助成要綱に基づく補助金の交付に係る調査委員会」(以下「調査委員会」という。)を設置し,平成9年度から平成11年度までに補助金が交付された同盟各支部による学習会等事業(61事業)についての調査を行った。
(7) 調査委員会の中間報告
調査委員会は,平成15年3月7日,それまでの調査結果を中間報告として発表し,調査した61事業のうち,実施されていなかったのが15事業,事業実施報告書と異なる場所で実施されていたのが3事業,事業実施報告書と異なる団体で実施されていたのが2事業,年度を超えて実施されていたのが2事業,京都市への報告と内容が一致していないものが39事業であったことを明らかにし,次のような考え方に基づいて,また,京都市が同盟各支部に対して,平成9年度ないし平成11年度に支出した補助金合計5422万円のうち,合計3748万4514円及び遅延損害金の返還を求めるべきものとした(乙8)。
ア 事業の実施が確認できないものについては,全額の返還を求める。
イ 事業は実施されているが,事業実施報告書に記載されている宿泊地と異なる場合は,全額の返還を求める。
ウ 事業実施報告書記載の宿泊地で事業が実施されているが,旅館,ホテルが異なる場合は,助成対象事業として認める。
エ 事業が実施されているが,事業実施報告書記載の日程と異なる日程で実施されている場合は,若干の日程のずれは認めるが,年度を異にするときは,全額の返還を求める。
オ 宿泊の事実はあるが,その団体が事業助成申請書及び事業実施報告書記載の団体と同一と認められない場合は,全額の返還を求める。
カ 事業が実施されている場合も,宿泊先の回答,領収書等の客観的な資料により参加人数の確認を行い,独自に総事業費を見直し,先に交付した補助金額が見直し後の総事業費の3分の2(参加人数に3万円を乗じた金額を上限とする。)を超えるときは,その差額の返還を求める。
キ 総事業費の算定に当たっては,交通費については事業決算報告書に記載されている金額(ただし,他の支部の報告に比べて高額な場合には,平均額28万3000円による。),懇親会費等については,1次会のビール,酒等の代金は認め,各部屋に設置されている冷蔵庫使用料,ラウンジ,スナック及び喫茶の利用料,コンパニオン料,追加料理代,カラオケ代,マージャン代,売店利用料,マッサージ代,朝食でのビール代,電報・電話代,内容が不明確なものは認めないなどの基準による。
(8) 補助金の一部返還
京都市は,上記中間報告に基づき,同盟各支部に対して,それぞれ,平成9年度ないし平成11年度に交付した補助金の一部返還及び遅延損害金の支払を請求し,同盟各支部は,それぞれ,平成15年4月18日,京都市が請求した額及び遅延損害金を支払った。本件各公金支出については,別紙支出決定一覧表「返還額」欄記載の金額が返還された(乙10ないし乙60(枝番を含む。),弁論の全趣旨)。
3 争点及びこれに関する当事者の主張
(1) 本件各公金支出の違法性及びそれによる京都市の損害の有無
(原告の主張)
本件各公金支出は,以下の理由で公益上の必要性がないものであるから,法232条の2に反し,違法である。
ア 本件各公金支出は,高級温泉旅館での宿泊及び宴会を伴った,単なる観光,交流,遊びを目的とする事業に対する補助金の支出であって,同和地区内外の経済的格差がほぼ解消し,地区内収入状況が京都市全体と比較して低位にあるとはいえない状況となった今日においては特に,このような事業がそれだけで同和問題の解決に有益かつ適切とはいえないから,助成要綱の趣旨に合致する事業ではない。
本件各公金支出が,学習会事業に対する支出であっても,宿泊を伴う事業が助成要綱の趣旨に合致するためには,しかるべき学習会場が確保され,外部講師及び資料が明確であるなど,学習会の外形が明確に存在することが必要である。しかし,本件各公金支出に係る事業(以下,総称して「本件各事業」ともいい,それぞれの事業を,本件公金支出1に係る事業であれば「本件事業1」のようにもいう。)は,そのような外形がないばかりでなく,会議室など学習会の行えるような部屋の確保が行われていないものが多く,そもそも,それらの事業については,学習会としての実態がない。
個々の事業については,以下のとおりである。
(ア) 本件事業2
「支部大会に向けての意志統一」を学習テーマとしたということであるが,このようなテーマは,教育委員会が助成対象とする「青少年・女性部合同学習事業」とはいえない。
(イ) 本件事業3
講演テーマは,「法期限後における同和教育・同和保育の方向性」となっているが,このようなテーマで行う講演は,教育委員会が助成対象とする「青少年事業」ということはできない。
(ウ) 本件事業4及び本件事業5
八丁味噌工場,ちくわ工場見学も行ったということであるが,観光というべきものであって,助成要綱の趣旨から逸脱した事業である。
また,2泊3日の日程で公金を使って学習会事業を行ったということであるが,講師もいなければ学習会の資料も作成しておらず,バス車中での啓発ビデオ鑑賞とまちづくりの取組を行ったということであるが,それだけでは,学習会としての実体を伴っているとはいえない。
さらに,宿泊施設の領収証は,「千本老人クラブ」と記載されており,千本支部名で行われた事業とはいえないから,助成対象外である。
(エ) 本件事業13
学習会の会場は,千里浜シーサイドクラブというゴルフ場であって,事業の内容は,2泊3日にわたってゴルフに興じることにすぎない。このような事業は,教育委員会が助成対象とする「青少年宿泊事業」とはいえない。
(オ) 本件事業17
実質は,支部の会員家族の海水浴を中心とする旅行にすぎない。なお,「今後の同和教育について」とのテーマで講演が行われたことになっているが,このようなテーマでの講演は,教育委員会が助成対象とする「青少年事業」とはいえない。
(カ) 本件事業32
現地視察に関する資料は何も作成されておらず,京都から丸亀まで現地視察を行ったとは考えられない。
(キ) 本件事業37
事業助成申請書が提出されたのは,事業の終了後であるところ,助成要綱では,事業助成申請書は事業実施予定日の20日前までに提出しなければならないとされているから,助成申請行為自体が違法であり,違法な申請行為に基づいてされた本件公金支出37も違法である。
(ク) 本件事業38
北九州市c地区を北九州市担当部局による説明を受けて現地視察したとされているが,北九州市の担当部署と担当職員名も判然としないから,実際に,このような現地視察が行われたとはいえない。
イ 助成要綱に基づく補助金は,いずれも,事実上,特定の民間団体に所属している者しか参加できない旅行に支出されたものであり,また,京都市は,これらの支出を隠ぺいしていたのであるから,公共性がない。
ウ 本件各事業はいずれも架空事業(「カラ事業」(実際には,事業が行われていなかったもの)あるいは「水増し事業」(参加人数,必要金額等が実際よりも多いものとして助成申請がされた事業)。以下「架空事業」というときは,この双方を含む。)であるから,京都市は,本来,本件各公金支出をすべきではなかった。このような補助金は,同盟各支部と京都市担当部局の共同作業で長年にわたって不正に支出されていたものであり,同盟各支部が提出する事業助成申請書や事業実施報告書は,体裁さえ整っていればよく,内容に虚偽があることは京都市担当者も当然のこととして認識していた。したがって,虚偽の内容と知りつつ補助金の申請を受け付け,申請内容が虚偽であることを知りつつ補助金を支出したこと自体が不正である。仮に,学習事業が行われ,何らかの成果が上がったとしても,本件各公金支出が違法でなくなるものではない。
(被告らの主張)
本件各公金支出は,助成要綱の趣旨に従って,同和問題の解決に有効かつ適切な事業に対して補助金を交付するものであるので,公益上の必要があるものである。したがって,本件各公金支出は,法232条の2により,京都市がその裁量によって行うことができるものについて,裁量権の範囲内で行ったものであるから,違法ではない。
ア 温泉地や遠隔地での事業についても,それまでの同和地区の経済生活環境に照らし同和地区外への旅行の機会の少なかった住民の事業への参加意欲を高め,学習会を効果的にするものとして補助対象としている。また,懇親会を伴う事業についても,懇親会が意見交換の場となっており,宴会という実態のものではなく,意義のある事業である。
(ア) 本件事業2
支部大会は,同和問題解決に向けた地元の共通認識を作り上げようとするものであり,助成要綱の「同和問題の解決に有効かつ適切と認められるもの」であり,このために開催された「支部大会に向けての意志統一」をテーマとする学習会を助成要綱対象事業とすることに問題はない。そして,学習会が青少年及び女性を対象に実施されるものであれば,青少年事業又は女性事業と位置付けることができる。
(イ) 本件事業3
田中支部女性部長による,同支部青少年を対象とした,今後の同和教育,同和保育の将来についての講演等の学習をしたものであって,助成要綱の「同和問題の解決に有効かつ適切と認められるもの」であり,青少年事業に該当する。
(ウ) 本件事業4及び本件事業5
八丁味噌工場及びちくわ工場の見学を行っており,助成要綱に掲げる老人事業の老人社会見学に該当するものである。老人社会見学については,同和地区における高齢者に広く社会についての見識を深めてもらうことを目的とした事業であり,助成要綱の趣旨の逸脱はない。一部「千本老人クラブ」名で発行された領収証があるが,千本支部が広く地区内の老人を対象として主催した老人事業である。
(エ) 本件事業13
「中3生・子ども会運営委員合同宿泊学習会」として,宿泊施設である保養所ちりはまでのスポーツ体験学習を中心として,さらに啓発ビデオ「朝やけの湖」の鑑賞を行ったものである。助成要綱において,青少年事業の例示として,水泳,キャンプ及びスキーが挙げられているように,参加者間の相互交流の一助としてスポーツ交流が実施されることは,それがゴルフであっても,助成要綱の趣旨に反するものではない。さらに,啓発ビデオの鑑賞も行われており,この事業に補助金を支出することは,要綱に違反するものではない。なお,ゴルフ料金などについて,本件補助金が支出されたものでもない。
(オ) 本件事業17
夏休みの時期に,田中支部親子一泊研修として実施されたもので,親子による海水浴と同和教育学習会であり,助成要綱に記載されている青少年事業に該当する。
(カ) 本件事業20
丸亀市営a団地視察を行ったものである。千本住宅改良地区の市営住宅建替事業に対し,自分たちの町づくりを目指すための,千本支部員を対象に実施された学習事業であり,助成要綱に記載する学習事業に該当する。
(キ) 本件事業37
その実施時期に若干のずれがあったとしても,申請年度内に,同和問題の解決に有効かつ適切と認められる事業が実施されている。したがって,助成要綱が定める申請手続の瑕疵は治癒され,当該補助金の支出は適正なものとして,返還を求める必要がない。
(ク) 本件事業38
北九州市の環境改善事業の現地視察及び同市の担当職員の説明を受け,今後の田中地区の環境改善事業に役立てようとした現地視察方式による女性学習会であり,助成要綱に定める女性事業に該当する。
イ 助成要綱に基づく補助金の支出は,同盟各支部という特定の団体のみを対象としているものではない。また,主催者が同盟各支部であったために,事業の参加者が同盟各支部の構成員に限定されていることは,助成要綱に反するものではない。
また,京都市は,同和行政の見直しに支障があるとして,本件各公金支出を非公開にしていたものであり,そのことによって,本件各公金支出が違法となることはない。
ウ 本件各公金支出についての申請に,内容虚偽のものがあり,また,実際に行われた事業についても,参加人数等が異なっていたものがあった。しかし,担当職員が,虚偽と知りながら申請を受け付けたことはない。また,担当職員は,事業が実際にどのように行われたかを厳密にチェックしなかったほか,当該事業に担当職員が同行した場合に,参加人数等が申請内容と異なっていたことはあったが,補助金が同盟各支部の活動全体の中で活用されていればよいという考え方から,あえて問題にしなかった。これらの点において,不適切な事務処理があったものの,本件各公金支出は,助成要綱の趣旨及び基準に合致する事業について,助成要綱の基準内で支出された範囲内では適法であり,また,京都市に損害はない。
また,その範囲を超える部分については,同盟各支部から,遅延損害金を付して返還されており,京都市の損害は回復されている。
(2) 被告らの責任
ア 支出決定者としての責任
(原告の主張)
平成9年3月までに,公刊物により,京都市が助成要綱に基づく補助金について,架空事業による不正受給の事実が指摘されていた。したがって,被告らは,本件補助金の支出決定の際に,本件補助対象事業が架空事業であることを知っていた。仮に知らなかったとしても,事業助成申請の段階で周知ビラや見積書など本来提出を求めるべき資料の提出を一切求めずに,漫然と本件補助金の支出を決定したのであり,架空事業であることを知らずに支出決定をしたことにつき,重大な過失がある。
(被告らの主張)
本件各公金支出の決定において,被告らは,それぞれ,当該経費支出決定書及びそれに添付された事業助成申請書に記載された内容以上に学習会事業の実態を認識しておらず,事業助成申請書の内容に従って適正に事業が実施されていたと認識していたものである。そして,本件助成事業の内容は,事業計画書や事業予算書の記載内容から明らかになっているから,重ねて周知ビラや見積書などの提出を求めなかったものである。
被告らは,本件補助金対象事業が実施されるものと信じて専決したのであるから,仮に,本件各公金支出が違法なものであったとしても,そのことにつき,被告らには,故意も重大な過失もない。
なお,本件訴訟において,京都市の損害も回復されていないとして,原告が求める金員については,調査委員会が,各種の資料等を調査した結果,助成要綱に基づく適正な補助金と判断したものであり,仮に,本件各公金支出が違法であったとしても,その違法行為につき,被告らに故意又は重大な過失があったといえるものはない。
イ 怠る事実
(原告の主張)
仮に,被告らの支出決定に故意及び重過失がないとしても,平成9年3月までに,公刊物により,京都市が助成要綱に基づく補助金について,補助金交付の対象事業が架空事業であるとして,不正受給の事実が公に指摘されていた。それにもかかわらず,被告A,被告B及び被告Dは,以下のとおり,上記返還命令権の行使を怠った。そして,事業実施報告を受ける際に事業実施の内容を示す資料など本来提出を求めるべき資料の提出を一切求めなかったのであるから,返還命令権の行使を怠ったことについて重大な過失がある。
被告Aは,平成9年度において文化市民局長として返還命令の権限を有していたものであり,同年度に文化市民局分として支出された補助金の返還命令権の行使を怠ったものである。
被告Bは,平成10年度及び平成11年度において文化市民局長として返還命令の権限を有したものであり,両年度に文化市民局分として支出された補助金の返還命令権の行使を怠ったものである。
被告Dは,平成9年及び平成10年において教育長として返還命令の権限を有したものであり,両年度に教育委員会分として支出された補助金の返還命令権の行使を怠ったものである。
(被告らの主張)
現時点において,本件各公金支出の対象事業が架空事業であることが明らかになったとしても,被告らが在任中に,京都市に損害賠償請求権等が発生していることが明らかとなったものではなく,被告らがそれを認識できたとはいえない。
被告らは,同和補助金の不正受給に関する記事を目にしたかは明らかではないが,仮に,目にしていたとしても,当該記事は,本件各事業が架空事業であることを具体的かつ明確に立証したものではなく,返還請求権を行使すべき債権を明確に確定していたとは到底いえない。
また,被告らの在職中に,住民監査請求などの形で本件公金支出に関して疑問が呈されたこともなかった。
第3当裁判所の判断
1 本件各公金支出の違法性及びこれによる損害
(1) 助成要綱に基づく支出の適法性及びその基準
ア 補助金の支出は,法232条の2により,公益上の必要がある場合にすることができるとされているところ,公益上の必要の有無の判断は,様々な行政目的を考慮した政策的な判断が要求されるものであるから,支出決定権者等の裁量にゆだねられる。しかし,その裁量権の行使について,逸脱,濫用がある場合には,その公金支出は違法というべきである。
京都市は,同和地区における団体に対する補助金の支出について,助成要綱を作成し,同和地区における団体が,同和地区住民の文化の向上と自立の促進を図るため自主的に実施する事業,又は市長が公益上必要があると認める事業で,同和問題の解決に有効かつ適切と認められるものに対して補助金を支出するものと定めている。
そして,助成要綱は,老人事業については,「老人社会見学」を助成の対象としている。これは,同和地区内の老人が,これまでの同和地区の全体としての低位な実態から,体験,見聞することができなかったものについて,体験あるいは見聞の機会を与えることによって,格差の是正を図ることを趣旨とするものと考えられるところ,同和地区の老人を対象とする社会見学が上記のような趣旨で,同和問題の解決に有効又は適切な場合があることは否定し得ない。そうすると,助成要綱が,老人社会見学を助成の対象として,これについて補助金を交付することも,公益上の必要がないとはいえない。
次に,助成要綱は,青少年事業としては,青少年学習会,水泳,キャンプ等の夏事業及びスキー等の冬事業を助成の対象事業としている。これは,同和地区の青少年が学習の機会を持ち,また,同和地区においては,一般に比べて参加の機会が少ないと想定し得る水泳,キャンプ,スキー等の機会を与えることによって,格差の是正,自立の促進を図ることを趣旨とするものと考えられるところ,同和地区の青少年を対象として,上記のような事業を行うことが,上記の趣旨で同和問題の解決に有効又は適切な場合があることは否定し得ない。そうすると,助成要綱が,上記のような青少年事業を助成の対象として,これについて補助金を交付することも,公益上の必要がないとはいえない。
また,女性事業及び学習会は,いずれも,同和地区の女性ないし住民が学習をすることによって,格差の是正,自立の促進に寄与することを趣旨とするものと考えられるところ,同和地区の女性ないし住民が学習会を持つことが,同和問題の解決に有効又は適切な場合があるから,助成要綱が,上記のような女性事業及び学習会を助成の対象として,これについて補助金を交付することも,公益上の必要があるものである。
そして,本件各公金支出がされた平成9年度から平成11年度において,そのような格差が解消されたことにより,助成要綱に基づく補助金の支出が明らかに不合理となったとまで認めることはできない。
イ 助成要綱は,上記の各事業に対する補助金についても,「交通費,宿泊費等として参加者一人につき3万円を限度とする。」と定めており,宿泊を伴う事業についての補助を当然に予定している。そして,水泳,キャンプ,スキー等については宿泊を伴うことが多く,学習会,社会見学についても,宿泊を伴うことによって,学習会等自体を充実させることが可能となるほか,参加者の参加意欲を高め,参加者の意見交換,懇親を深めることに資することにあると考えられるところ,それを明らかに不合理とすることはできない。
また,参加者一人につき3万円を限度とする点も,宿泊を伴う事業についても助成するのであるから,事業自体に要する費用,宿泊費,交通費等の必要な費用を想定すると,上限の金額として明らかに不合理とすることはできない。
ウ このように,助成要綱に規定されている事業について,助成要綱に定められている限度で補助金を支出することは,同和問題の解決に有効かつ適切なものに対する補助金の支出として,明らかに不合理なものとはいえず,市長の裁量の範囲内というべきである。
しかし,助成要綱が補助金支出の要件を具体的に定めている以上,助成要綱に規定されている事業に該当しない事業に対する助成及び助成要綱に定める限度を超える助成については,もはや,その合理性があるとはいえず,裁量の範囲を逸脱した違法な公金の支出というべきである。
エ なお,原告は,遠方の温泉地等の高級旅館等での事業については,助成の対象とすることはできない旨の主張をする。しかし,遠方の温泉地等の高級旅館等での事業についても参加意欲を高めるために必ずしも不合理なものではなく,補助金の支出の限度額が,参加者一人につき3万円を限度とすると定められていることからすれば,遠方の温泉地等の高級旅館等での事業についても,助成の対象とすることが違法とまではいえない。
また,宿泊を伴う事業において,本来の事業の時間外に懇親会を実施することが,事業に対する参加意欲を高めるほか,懇親会自体が,事業参加者の意見交換の場となることも考えられるから,懇親会がそのようなものとしての範囲内である限り,懇親会費用を含めて助成の対象とすることも,その当否はともかく,違法とまで評価することはできない。
なお,コンパニオン代,カラオケ代,マージャン代,いわゆる二次会費用等が助成の対象となる懇親会費用に含まれないことはもちろんであるが,懇親会終了後に参加者が自らの費用でカラオケやマージャンをしたことがあったとしても,それをもって当該事業に対する補助金の交付を全体として違法とする理由とはならないというべきである。
オ 原告は,助成要綱に基づく京都市の補助金支出は,いずれも,事実上,特定の民間団体に所属している者しか参加できない旅行に支出されたものであり,また,京都市は,これらの支出を隠ぺいしていたのであるから,公共性がないと主張する。
しかし,助成要綱の趣旨に合致する事業である場合に,その事業について補助金を交付することは,その事業が特定の民間団体がその構成員を対象として行う事業であって,その結果,その団体の構成員しか参加できないものであるとしても,当該事業が助成要綱の趣旨に合致するものである限り,参加し得る者の範囲自体は,補助金の交付を違法ならしめる事情とはいえない。また,市が助成要綱に基づく補助金の制度,本件各公金支出の事実を公開していなかったとしても,それ自体の当否はともかく,助成要綱の出資に合致する事業に補助金を交付することの公共性を失わせる事情ということもできず,本件各公金支出を違法とする理由とはならない。
カ 原告は,本件各公金支出が,いずれも,公金を不当に取得するためにされた架空請求であり,そのような請求に基づく支出である以上,全額の公金支出が違法であり,支出額の全額が京都市の損害となる旨の主張をする。後記のとおり,本件各公金支出の申請については,全く実施されていない事業についてのものや,実際の参加人数よりも著しく多い人数が参加するとして申請をしたり,現実に行った事業とは別の事業を行うとして申請されているものが少なくない。このような申請は,補助金をだまし取る目的でされた違法なものというべきであり,そのような申請に基づいてされた補助金の交付も違法な公金の支出というべきである。
しかし,実際に行われた事業が申請されたものと異なっていても,実際に何らかの事業が実施され,その事業内容が助成要綱の趣旨に合致し,実施された内容での申請が行われていれば助成の対象となるものであるときは,補助金が支出されたであろう金額の限度では,京都市に損害が生じているということはできない。
(2) 個別の支出について
そこで,本件各公金支出について,個別に違法なものかどうか,違法である場合の京都市の損害の有無,範囲(同盟各支部からの返還後のもの)について,個別に検討する。
ア 本件公金支出1
(ア) 証拠(甲2の2,乙9,乙63の34)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
吉祥院支部は,平成9年4月28日,京都市長に対し,同年5月9日から1泊の日程で,石川県加賀市(片山津温泉)の加賀観光ホテルにおいて,O支部長ほかを講師とし,「解放運動を取り巻く今日的情勢について」,「支部活動方針について(住環境整備,教育・保育,啓発)」及び「支部結成20周年記念誌作成について」をテーマとする学習会並びに懇親会を主な内容とする事業を行うとし,参加予定人数を18人,総事業予算額を60万8000円として,21万円の助成を申請した。これに対して,被告Cは,同月8日,21万円の支出決定をした。
吉祥院支部は,同月29日,上記事業を参加人数26人で実施した旨の事業実施報告書を京都市長に提出した。
吉祥院支部は,22人が参加して,同月9日から1泊の日程で上記加賀観光ホテルに宿泊し,その会議室を使用し,「「部落解放基本法」制定にむけて」,「部落対策基本法闘争の経過と今後の課題」及び「吉祥院の町づくり基本構想」等の資料を用いた学習会を行った。その事業の費用として,交通費4万円,宿泊費28万6000円,会議室料1万0800円,飲物代(マージャン代,カラオケ代,花代など事業の範囲外というべき費用(前記第2の2(7)キ)を除く。以下同じ。)15万1752円,昼食代16万2000円,資料代5598円,合計65万6150円を要した。なお,この事業には,京都市の職員が4人同行した。
(イ) 上記のとおり,本件事業1については,助成申請書に記載された内容と実際の事業内容とがほぼ合致し(助成申請書に記載された,参加予定人数及び総事業予算額の方が,実際よりも少ない。),そして,その学習会の内容及び補助金の金額は,助成要綱の趣旨に合致するものと認められるから。本件公金支出1は適法である。
イ 本件公金支出2
(ア) 証拠(甲3の1,乙9,乙63の3,乙69,証人F,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
千本支部は,平成9年6月16日,京都市長に対し,同月29日から1泊の日程で,福井県芦原町(芦原温泉)のグランヴィア芳泉で,「バス車内研修・啓発ビデオ鑑賞」,「平成9年度の女性部活動計画」,「子ども会活動」及び「まちづくり活動について」を主な内容とする青少年・女性部合同学習会を開催するとし,参加予定人数を80人,総事業予算額を374万2400円として,230万円の助成申請をした。これに対して,被告Dは,同月27日,230万円の支出決定をした。
千本支部は,同年7月1日,上記事業を参加人数78人,総事業費367万1840円で実施した旨の事業実施報告書を京都市長に提出した。
千本支部は,平成9年6月29日から1泊の日程で,上記グランヴィア芳泉において,20人(うち女性一人)が参加して,「第36回支部大会に向けての意思統一」をテーマに政策委員・各専門部三役学習会を実施し,そのために,交通費28万3000円,宿泊費19万2000円,飲物代5万3492円,昼食代8万円,資料印刷代1万円,保険料及び高速道路通行料2万2150円,合計64万0642円を支出した。
(イ) 上記のとおり,本件事業2に当たる事業は,助成申請書及び事業実施報告書に記載された事業参加人数と実際に参加した人数が大きく異なり,実施内容も異なっており(青少年・女性部合同学習会が行われたとはいえない。),その申請は,内容虚偽のものであり,そのような申請に基づいて行われた本件公金支出2は違法というべきである。
しかし,千本支部は,平成9年6月29日及び30日の両日,支部政策委員・各専門部三役学習会として実施され,宿泊先で会議室を利用していることから,原告指摘のように,青少年・女性部合同事業とはいえないものの,助成要綱の趣旨に合致する学習会の実体があったと考えられる。そして,参加人数が20人の支部学習会として申請したとしても,その限度で補助金が支出されたと考えられる(「支部大会に向けての意志統一」をテーマとする学習会も同和問題の解決のために有効かつ適切なものと認めることも可能である。)から,20人の学習会であった場合に交付されたであろう補助金額(上記64万0642円の3分の2以下かつ一人3万円以下の42万7094円)については,京都市に損害が生じているとはいえない。
そして,本件公金支出2に係る補助金230万円のうち,187万2906円は返還されており,残額は42万7094円であるから,違法な公金支出2によって京都市の被った損害は,回復されているというべきである。
ウ 本件公金支出3
(ア) 証拠(甲3の2,甲39,甲40,乙9,乙61,乙63の14,乙70,乙71,乙72,証人G,証人H,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
田中支部は,平成9年7月15日,京都市長に対し,同年8月1日から1泊の日程で,福井県芦原町(芦原温泉)の芦原国際ホテル美松において,「法期限後における同和教育・同和保育の方向性について」の講演(講師・L田中支部女性部長)及び水泳学習の実習を主な内容とする青少年事業を行うとし,参加予定人数を70人,総事業予算額を186万4950円として,120万円の助成を申請した。これに対して,被告Dは,同年7月25日,120万円の支出決定をした。
田中支部は,同年8月4日,上記事業を参加人数68人,総事業費182万8050円で実施した旨の事業実施報告書を京都市長に提出した。
田中支部は,65人(うち子供が25人)が参加して,同月1日から1泊の日程で,上記芦原国際ホテル美松に宿泊し,両日とも,宿泊先のホテル近くの海水浴場で海水浴を行った(2日目は大人の参加者は一部)。その事業の費用として,交通費52万5000円,高速道路通行料1万8450円,宿泊費66万7500円,飲物代として8万7603円,食事代として27万3000円,保険料として1万9500円,抽選景品代3万8000円,合計162万9053円(資料印刷費1万3000円については,いかなる資料が何に必要であるか明らかではないので,上記事業に必要な費用としては認められない。)を要した。なお,この事業には,京都市職員4人が同行した。
(イ) 上記のとおり,本件事業3については,参加人数も総事業費も助成申請書及び事業実施報告書に記載されたものと多少の相違があり,また,助成申請書及び事業実施報告書に記載された学習会が行われたと認めることもできない(乙61,乙63の14,乙70,乙71の各記載中及び証人G,証人Hの証言中の2日目の午前中に宿舎において学習会が行われていた旨の部分は採用しない。)から,このような申請に基づいてされた本件公金支出3は違法というべきである。しかし,上記事業には,助成要綱にいう夏事業としての青少年事業の実体は含まれており,上記の多少の相違が問題となりうるとしても,実際に実施された事業のとおりの助成申請がされたとしても,交付されたであろう補助金額(上記162万9053円の3分の2以下かつ一人3万円以下の108万6035円)については,京都市に損害が生じていないというべきである。そして,本件公金支出3に係る補助金のうち10万5298円が返還され,未返還は109万4702円であるから,本件公金支出3による京都市の損害で回復されていないのは,8667円である。
エ 本件公金支出4及び本件公金支出5
(ア) 証拠(甲2の3,甲2の4,乙9,乙61,乙63の1,乙69,乙71,証人F,証人H,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
千本支部は,平成9年8月28日,京都市長に対し,同年9月25日から2泊の日程で愛知県蒲郡市(西浦温泉)及び静岡県浜松市(舘山寺温泉)のホテルエンパイアに出かけ,バス車内での啓発ビデオの観賞及び「「まちづくり」の取組みについて」を主な内容とする老人宿泊学習会及び支部学習会をそれぞれ実施するとし,前者については,参加予定人数を45人,総事業予算額を255万6900円として,50万円の助成申請を,後者については,参加予定人員を118人,総事業予算額を670万4760円として,240万円の助成申請をそれぞれした。
これに対し,被告Cは,同月10日,老人宿泊学習会について50万円の支出決定をし,被告Aは,同月12日,支部学習会について,240万円の支出決定をした。
千本支部は,同年10月2日,老人宿泊学習会事業を参加者41人,総事業費232万9620円で実施し,支部学習会事業を参加者117人,総事業費664万7940円でそれぞれ実施した旨の各事業実施報告書を京都市長に提出した。
千本支部は,平成9年9月25日から同月27日まで,多くの老人を含む41人(2泊目は40人)が参加して,上記宿泊予定場所に宿泊し,1日目は八丁味噌工場などを見学し,2日目はちくわ工場を見学し,3日目は海産物屋でお土産を買って帰路につくという内容の事業を行った。その事業の費用として合計139万2198円を要した。なお,この事業には,京都市の職員7人が同行している。
(イ) 上記によると,千本支部は,助成申請をした支部学習会事業は全く行っていないというほかはなく,老人宿泊学習会についても,助成申請に係る事業と,千本支部が実際に行った上記事業とには相当の相違がある。
しかし,千本支部が実際に行った事業も,老人の社会見学といい得るものであり,事業の実際の参加人数も,老人学習会事業として申請書に記載し,事業実施報告書に記載した参加人数と大きな差はない(なお,当該事業に関する領収書中には,「千本老人クラブ」をあて先とするものがあるが,その記載が当該事業が千本支部の事業でないことを示すものとはいえない。),助成要綱も,そのような老人の社会見学も老人事業として助成の対象としている。
そうすると,上記事業は,助成申請に係る事業とは,内容において相違しているから,老人事業としての申請,ひいては補助金の交付の適法性には疑問があるものの,老人社会見学として助成の申請がされた場合には,助成が可能なものと見ることはでき,交付された補助金の金額(50万円)も実際に行われた事業に対して交付可能な補助金額(上記139万2198円の3分の2以下かつ一人3万円以下の92万8132円)の範囲内であるから,老人宿泊学習会に対する補助金の交付(本件公金出4)によって,京都市が損害を被ったとまでは認められない。
これに対し,本件事業5は全く実施されていないから,本件公金支出5に係る助成申請は,補助金をだまし取るためにされたものと推認され,このような申請に基づいてされた本件公金支出5は違法なものである。そして,本件公金支出5によって,京都市は交付した補助金240万円相当の損害を被ったというべきところ,千本支部が京都市に返還したのは197万1868円にとどまるから,その差額である42万8132円について,京都市の損害は回復されていないことになる。
オ 本件公金支出6
(ア) 証拠(甲2の5,乙9,乙61,乙63の21)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
錦林支部は,平成9年9月25日,京都市長に対し,同年10月5日から1泊の日程で石川県加賀市(山代温泉)のゆのくに天祥において,「部落解放運動のこれからの展望(支部員の意志統一)」を主な内容とする支部学習会を開催するとし,参加予定人数を70人,総事業予算額を175万0630円として,50万円の助成を申請した。これに対して,被告Cは,同年10月2日,50万円の支出決定をした。
錦林支部は,平成10年3月2日,上記事業を参加予定人数72人,総事業費179万9220円で実施した旨の事業実施報告書を京都市長に提出した。
錦林支部は,平成9年10月5日から1泊の日程で,14人が参加し,上記ゆのくに天祥に宿泊する事業を県外学習会として実施し,「現在の部落問題を取り巻く諸情勢について」,「まちづくりの展望について等について」などを内容とする学習会を行った。その事業の費用として合計43万0480円を要した。なお,この県外学習会には,京都市の職員4人が同行している(会議室の使用料に関する領収書等の記載はないが,同行した京都市の職員は,助成申請書及び実施報告書の記載を超えた具体的な学習会の内容を報告しており(乙61),その内容の学習会が開催されたものと認める。)。
(イ) 上記のとおり,錦林支部の行った助成申請及び実施結果報告中の参加人数及び総事業費は,実際に行われた事業と大きく異なっており,錦林支部は,参加予定人数及び総事業予算額を水増しして助成申請をすることによって,補助金をだまし取ろうとしたものと推認でき,このような申請に基づいてされた本件公金支出6も違法なものである。しかし,上記のとおり,錦林支部は,助成の申請をしたのと同じ日程,宿泊場所の県外学習会を行っており,その内容も助成要綱に基づく助成が可能な学習事業に当たるから,実際に実施された事業のとおりの助成申請がされたとしても,交付されたであろう補助金(上記43万0480円の3分の2以下かつ一人3万円以下の28万6986円)については,京都市に損害が生じていないというべきである。そして,本件公金支出6に係る補助金のうち21万3014円が返還され,残額は28万6986円であるから,本件公金支出6が違法であるとしても,それによる損害は回復されているというべきである。
カ 本件公金支出7
(ア) 証拠(甲2の6,甲37の1ないし3,甲38,甲39,乙9,乙61,乙63の13,乙70,乙71,証人G,証人H,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
田中支部は,平成9年10月28日,京都市長に対し,同年11月21日から1泊の日程で静岡県焼津市のホテルアンビア松風閣において,G支部長を講師とする「地域の実態に応じた町づくりの総括・点検に対する提起」についての講演を主な内容とする支部一泊学習会を開催するとし,参加予定人数を80人,総事業予算額を263万1830円として,155万円の助成を申請した。これに対して,被告Aは,同月5日,155万円の支出決定をした。
田中支部は,同年12月25日,上記事業を参加人数80人,総事業費259万6590円で実施した旨の事業実施報告書を京都市長に提出した。
田中支部は,同年11月21日から,24人が参加して,上記ホテルアンビア松風閣に1泊する事業を実施した。その事業の費用として合計68万9743円を要した。なお,この事業には4人の京都市の職員が同行した。しかし,ホテルアンビア松風閣の領収書等に会議室等を利用した旨の記載はなく,田中支部が同所において助成要綱の趣旨に合致する何らかの学習会を行ったとは認められない。
この点,証人Gは,宿舎内のラウンジで学習会を行ったと供述するが,宿泊先のラウンジは,学習会を行えるような場所とは言い難く(甲37ないし39),その供述は採用できない。
(イ) 上記のとおり,本件事業7に当たる事業については,参加人数も総事業費も助成申請書及び事業実施報告書に記載されたものと大きく異なる上,助成申請書及び事業実施報告書に記載された学習会は実施されていないのであるから,前記本件公金支出5,本件公金支出6などと同様に本件公金支出7は違法であり,京都市は交付した補助金155万円相当の損害を被ったというべきである。そして,本件公金支出7について,京都市が返還を受けたのは109万0172円にとどまるから,その差額45万9828円については,損害が回復されていない。
キ 本件公金支出8
(ア) 証拠(甲2の8,乙9,乙61,乙63の37,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
辰巳支部は,平成9年11月28日,京都市長に対し,同年12月14日から2泊の日程で石川県七尾市(和倉温泉)の加賀屋において,支部長,副支部長等を講師として,「情勢報告」,「同和対策事業の見直しの動きについて」,「フォーラムTATSUMIの取組みについて」,「部落解放三大闘争勝利に向けて」,「辰巳部落の永住できる町づくりについて」を主な内容とする学習会を開催するとし,参加予定人数を37人,総事業予算額を211万円として,110万円の助成を申請した。これに対して,被告Aは,同年12月12日,110万円の支出決定をした。
辰巳支部は,同月24日,上記事業を参加人数37人,総事業費211万7483円で実施した旨の事業実施報告書を京都市長に提出した。
辰巳支部は,15人が参加して同月14日から上記加賀屋に2泊する事業を行った。その事業の費用として合計141万5010円を要した。なお,1泊目には京都市の職員4人が同行した。この事業において,助成申請書及び事業実施報告書に記載された学習会,あるいはその他の助成要綱の趣旨に合致する学習会を行ったとは認められない(辰巳支部が当日利用したという資料が提出されているが,この資料が上記事業の際に使用されたものであるかどうかは明らかではなく,また,宿泊先の領収書等には,会議室等の使用についての記載はなく,辰巳支部が参加人数等が大きく異なる事業実施報告書をあえて京都市長に提出していることを考慮すると,この資料があるからといって上記の学習会があったとはいえない。)。
(イ) 上記のとおり,本件事業8に当たる事業は,参加人数も総事業費も助成申請書及び事業実施報告書に記載されたものと大きく異なっている上,助成申請書及び事業実施報告書に記載された学習会が行われたとは認められず,その他の助成要綱の趣旨に合致する学習会等が行われたとは認められない(なお,乙61中の本件事業8に係る記載は採用できない。)。
そうすると,本件公金支出8は違法であり,京都市は交付した補助金110万円相当の損害を被ったところ,京都市に返還されたのは65万円にとどまるから,その残額45万円について,京都市の損害は回復されていないというべきである。
ク 本件公金支出9
(ア) 証拠(甲3の5,乙9,乙63の29,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
西三条支部は,平成10年1月10日,京都市長に対し,同月24日から1泊の日程で,I(朱雀第4小学校校長)を講師とし,「女性部の組織強化をめざし,家庭や地域の教育力を高める」,「同和対策事業の改革と新たな部落解放運動の創設にむけて」を主な内容とする女性部学習会を滋賀県大津市の旅亭紅葉で開催するとし,参加予定人数を約30人,総事業予算額を75万円として,40万円の助成を申請した。これに対して,被告Eは,同月14日,40万円の支出決定をした。
西三条支部は,同年2月12日,上記事業を参加人数30人,総事業費75万円で実施した旨の事業実施報告書を京都市長に提出した。
西三条支部は,17人が参加して,同年1月24日から1泊の日程で,上記旅亭紅葉において支部女性部県外学習会として「地域子供教育の現状」をテーマとする学習会を実施した。その事業の費用として,交通費1万5300円,宿泊費47万9910円,会議室料2万1293円,飲物代5万2831円,昼食代3万4000円,資料印刷代1万8700円の合計62万2034円を要した(旅亭紅葉の会議室を使用していることが認められるので,西三条支部が調査票(乙63の29)に記載したテーマでの学習会が実施されたものと認める。)。
(イ) 上記のとおり,本件事業9に当たる事業は,参加人数も助成申請書及び事業実施報告書に記載されたものと異なり,また,学習会の内容も必ずしも助成申請書に記載されたものと同一といえないが,17人が参加して助成要綱の趣旨に合致する学習会が開催されており,本件公金支出9が違法であるとしても,交付された補助金額は40万円であって上記実際に行われた事業として助成申請がされていた場合に交付可能であった補助金額(上記総事業費62万2034円の3分の2以下かつ一人3万円以下の41万4689円)の範囲内であるから,京都市が損害を被ったとは認められない。
ケ 本件公金支出10
(ア) 証拠(甲2の10,乙9,乙63の2,乙69,証人F,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
千本支部は,平成10年1月20日,京都市長に対し,同年2月15日から1泊の日程で,兵庫県温泉町(湯村温泉)の朝野家で「千本ふるさと共生自治運営委員会の取組について」を主な内容として学習会を開催するとし,参加予定人数を120人,総事業予算額を473万6000円として,155万円の助成を申請した。これに対して,被告Aは,同年2月2日,155万円の支出決定をした。
千本支部は,同月27日,上記事業を参加人数118人,総事業費462万3600円で実施した旨の事業実施報告書を京都市長に提出した。
千本支部は,22人が参加し,同月15日から上記朝野屋に1泊して壮年部の「支部活動の今後の展望とまちづくり,高齢者問題について」をテーマとする宿泊学習会を実施した。その事業の費用として宿泊費43万0980円,会議室料1万6632円,乗務員宿泊費8550円,食事代13万2000円,諸経費等3万6350円,飲物代6万5480円の合計68万9992円(そのほか相当額の交通費を要したものと認められる。)を要した(朝野屋の領収書等によって会議室が利用されていることが認められるので,千本支部が調査票(乙63の2)に記載したとおりの学習会が実施されたものと認める。)。
(イ) 上記のとおり,本件事業10に当たる事業は,参加人数も総事業費も助成申請書及び事業実施報告書に記載されたものと大きく異なるほか,学習会の内容も必ずしも助成申請書に記載されたものと同一といえないが,22人が参加して助成要綱の趣旨に合致する学習会が開催されているから,本件公金支出10が違法であるとしても,上記実際に行われた事業として助成申請がされていた場合に交付可能であった補助金額(上記68万9982円の3分の2以下かつ一人3万円以下の45万9994円)の範囲内では京都市が損害を被ったとは認められないところ,千本支部は109万0006円を返還し,残額は45万9994円と上記の助成可能な金額の範囲内であるから,京都市の損害は回復されている。
コ 本件公金支出11
(ア) 証拠(甲3の4,乙9,乙63の15,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
田中支部は,平成10年1月29日,京都市長に対し,同年2月14日から1泊の日程で神戸市(有馬温泉)の陵楓閣において,「高齢化社会に向けて女性が果たす役割とは」とのテーマでの講演(講師・P田中支部女性部書記長)を主な内容とする女性部の学習会を開催するとし,参加予定人数を50人,総事業予算額を170万9363円として,70万円の助成を申請した。これに対して,被告Eは,同月3日,70万円の支出決定をした。
田中支部は,同月16日,上記事業を参加人数50人,総事業費170万9363円で実施した旨の事業実施報告書を京都市長に提出した。
田中支部は,19人が参加して,同月14日から1泊の日程で上記陵楓閣において支部幹部研修と題する事業を行った。その事業の費用として合計92万6291円を要した。しかし,陵楓閣の領収書等に会議室等を利用した旨の記載はなく,田中支部が同所において助成要綱の趣旨に合致する何らかの学習会を行ったとは認められない(乙70及び証人Gの供述中には,「高齢化社会に向けて女性が果たす役割とは」とのテーマで女性部の学習会を行った旨の部分があるが,採用することができない。)。
(イ) 上記のとおり,本件事業11として行われた事業は,参加人数も総事業費も助成申請書及び事業実施報告書に記載されたものと大きく異なる上,申請書及び事業実施報告書に記載された学習会,その他助成要綱の趣旨に合致する学習会が行われたと認めることはできないのであるから,前記の違法とした公金支出と同様に本件公金支出11は違法であり,京都市は,支出額である70万円の損害を被ったというべきである。そして,本件公金支出11について,京都市が返還を受けたのは13万円にとどまるから,その差額57万円については,損害が回復されていない。
サ 本件公金支出12
(ア) 証拠(甲2の13,乙9,乙61,乙63の38,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
改進支部は,平成10年3月2日,京都市長に対し,同年3月15日から1泊の日程で島根県玉湯町(玉造温泉)の保性館で,部落問題を取り巻く最近の諸情勢について」,「改進支部の今後の運動について」をテーマとする学習会及び社会見学(八重垣神社,出雲大社,出雲文化伝承館,松江城,小泉八雲記念館)を主な内容とする支部学習会を開催するとし,参加予定人数を62人,総事業予算額を271万4500円として,180万円の助成を申請した。これに対して,被告Aは,同月3日,180万円の支出決定をした。
改進支部は,同月25日,上記事業を参加人数65人,総事業費280万9000円で実施した旨の事業実施報告書を京都市長に提出した。
改進支部は,32人が参加して,同月15日から1泊の日程で,玉造温泉の保性館において,「地対財特法の改正と部落問題を取り巻く諸情勢」についての学習会を実施,翌日は,上記の見学を行った。なお,この事業には,4人の京都市職員が同行した。同事業の費用として,交通費25万円,宿泊費47万5200円,会議室料2万1600円,乗務員宿泊費1万7100円,食事代22万4000円,高速道路通行料3万3300円,飲物代8万8332円,合計110万9532円を要した(保性館の領収書等に会議室使用料が含まれているので,調査票(乙63の38)記載のとおりの学習会が行われたものと認める。)。
(イ) 上記のとおり,本件事業12に当たる事業は,参加人数が助成申請書及び事業実施報告書に記載されたものと大きく異なり,また,単なる社会見学(見学先からすると観光に近いとの評価も可能である。)は,助成要綱に基づく学習会としての助成対象に含まれるか疑問である。それらの点から,本件公金支出12が違法であり,京都市が交付した補助金相当額の損害を被ったとしても,上記認定のとおり,32人が参加した助成要綱の趣旨に合致した学習会が実施されており,見学に直接要した費用は,上記の実際に要した費用額には含めておらず,上記学習会のみについて助成を申請したとしても,その限度で補助金が交付されたと考えられるから,上記実際に行われた事業として助成申請がされていた場合に交付可能であった補助金額(上記110万9532円の3分の2以下かつ一人3万円以下の73万9688円)の範囲内では京都市が損害を被ったとは認められないところ,千本支部は106万0312円を返還し,残額は73万9688円と上記の交付可能な金額の範囲内であるから,京都市の損害が回復されていることなる。
シ 本件公金支出13
(ア) 証拠(甲3の3,乙9,乙63の4,乙69,乙71,証人F,証人H,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
千本支部は,平成10年2月25日,京都市長に対し,同年3月28日から2泊の日程で石川県羽咋市の保養所ちりはまにおいて,「青年部活動の総括及び今後の取組」,「子ども会活動について」及びスポーツ交流を主な内容とする青少年宿泊研修事業を開催するとし,参加予定人数を65人,総事業予算額を311万6000円として,165万円の助成を申請した。これに対して,被告Dは,同年3月5日,165万円の支出決定をした。
千本支部は,同月31日,上記事業を参加人数61人で実施した旨の事業実施報告書を京都市長に提出した。
千本支部は,1泊目は26人(大人17人,中学生4人,小学生5人),2泊目は22人(大人13人,中学生4人,小学生5人)が参加し,同月28日から上記ちりはまに2泊する「中3生・子ども会合同宿泊学習会」という名称の事業を行った。上記の参加者は,宿泊中,スポーツ体験学習を中心に取り組んだ。もっとも,同事業において行われたスポーツ体験学習(スポーツ交流)とは,千里浜シーサイドクラブにおいてゴルフを行うことであった(ゴルフコースに出られない子供は,パターゴルフを行った。)。と認められる。同事業の費用として合計86万1400円を要した。
(イ) 上記のとおり,本件事業13に当たる事業は,参加人数も総事業費も助成申請書及び事業実施報告書に記載されたものと大きく異なる上,そこで行われた内容も主としては,ゴルフであった。
ところで,助成要綱は,青少年事業においては,水泳,キャンプ,スキーを助成対象として例示している。しかし,これは,前記のとおり,同和地区の青少年に,青少年が一般的に経験する機会が多い水泳(海水浴),キャンプ,スキー等の経験の機会を与えることが,格差の是正に寄与するものと考えられるからと解されるところ,ゴルフは,いまだ青少年(とりわけ中学生や小学生)が一般に経験する機会の多いスポーツということはできず,ゴルフを行う機会を与えることが,同和問題の解決に資するものとは考えられない。
そうすると,ゴルフを行うことを中心とした上記事業は,助成要綱が助成の対象とするものということはできない(なお,乙63の4によると,同事業の中で,啓発ビデオ「朝やけの湖」を鑑賞したことがうかがわれるが,このようなビデオを附随的に見ることがあっても,全体として助成対象外であることに変わりはない。)。
そうすると,参加人数も総事業費も実際のものと大きく異なる申請に基づいて,助成要綱の認める助成対象でないものについて補助金を交付することとした本件公金支出13は違法なものであり,交付された補助金は,その全額が京都市の損害というべきである。そして,京都市が返還を受けたのは,107万5734円にとどまるから,残額の57万4266円について,損害が回復されていない。
ス 本件公金支出14
(ア) 証拠(甲2の16,甲39,乙9,乙63の28,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
西三条支部は,平成10年3月10日,京都市に対し,同年3月28日から1泊の日程で,滋賀県大津市の旅亭紅葉において,J部落解放同盟京都府連合会書記長を講師とし,「市協部落解放企画推進委員会各部会の取組みについての学習と討議」,「部落解放三大闘争の現状と課題について」及び「支部員の交流と親睦をはかる」を主な内容とする支部県外学習会を開催するとして,参加予定人数を約70人,総事業予算額を159万8000円として,30万円の助成を申請した。これに対して,被告Cは,同月26日,30万円の支出決定をした。
西三条支部は,同月31日,上記事業を参加人数70人で実施した旨の事業実施報告書を京都市長に提出した。
西三条支部は,13人が参加して,同月28日から1泊の日程で上記旅亭紅葉に宿泊する事業を行った。その事業に要した費用は,合計42万0485円であった(西三条支部は,宿泊室で学習会を行ったと説明し,学習会で使用したという資料も提出されているが,同じ支部が同じ旅亭紅葉で行った他の事業(参加者17名)では会議室が使用されており(前記ク),宿泊室でどの程度の実質のある学習会が開催できるか疑問があること,西三条支部が,参加人数等が大きく異なる事業報告書をあえて提出していることを考慮すると,資料の提出があるからといって,その内容の学習会が宿泊室で行われたと認めることはできない。)。
(イ) 上記のとおり,本件事業14に当たる事業については,参加人数が助成申請書及び事業実施報告書に記載されたものと大きく異なる上,助成申請書及び事業実施報告書に記載された事業が行われたことを認めることはできず,この事業が助成要綱の趣旨に合致するものであったことを認めるに足りる証拠はない。したがって,本件公金支出14は違法であり,京都市は,交付した補助金30万円相当の損害を被ったというべきところ,西三条支部から返還されたものは1万9667円にとどまるから,その残額28万0323円について,京都市の損害は回復されていない。
セ 本件公金支出15
(ア) 証拠(甲3の7,乙9,乙63の35)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
久世支部は,平成10年3月24日,京都市長に対し,同月28日から1泊の日程で和歌山県白浜町(白浜温泉)のむさしにおいて,「今後の同和対策事業について」及び「今後の女性部活動について」(講師・K支部女性部長ほか)を主な内容とする女性部学習会を開催するとし,参加予定人数を30人,総事業予算額を102万9000円として,40万円の助成を申請した。これに対して,被告Eは,同月27日,40万円の支出決定をした。
久世支部は,同月31日,上記事業を参加人数30人,総事業費102万9000円で実施した旨の事業実施報告書を京都市長に提出した。
久世支部は,5人が参加して,同月28日から1泊の日程で,和歌山県白浜町(白浜温泉)の天山閣に宿泊する事業を行った。その事業の費用として合計16万1050円を要した。しかし,天山閣において助成要綱の趣旨に合致する活動が行われたとは認めることができない(乙63の35(調査票)には,宿泊部屋で今後の女性部活動について協議形式による学習を行った旨の記載があるが,このような学習会が行われたことを裏付ける資料はなく,参加予定人数,宿泊場所についても,虚偽の申請及び事業実施報告がされていることに照らしても,この調査票のみから記載のような学習会が行われたと認めることはできない。)。
(イ) 上記のとおり,本件事業15に当たる事業は,参加人数,総事業費及び宿泊場所が助成申請書及び事業実施報告書に記載されたものと全く異なっている上,事業内容も助成要綱の趣旨に合致する事業であったとも認められないのであるから,本件公金支出15は違法であり,京都市は交付した補助金40万円相当の損害を被ったというべきである。そして,本件公金支出15について,京都市が返還を受けたのは29万2634円にとどまるから,残額である10万7366円については,損害が回復されていない。
ソ 本件公金支出16
(ア) 証拠(甲3の8,乙9,乙63の8,乙69,証人F,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
千本支部は,平成10年6月4日,京都市長に対し,同年7月4日から1泊の日程で石川県加賀市(片山津温泉)の佳水郷において,「バス車内研修・啓発ビデオ観賞」,「1998年度の女性部活動計画」,「子ども会活動」,「まちづくり活動について」を主な内容とする青少年・女性部合同学習会を,参加予定人数を80人,総事業予算額を370万6400円として,180万円の助成を申請した。これに対して,被告Dは,同年6月15日,180万円の支出決定をした。
千本支部は,同年7月7日,上記事業を参加人数74人,総事業費349万5920円で実施した旨の事業実施報告書を京都市長に提出した。
千本支部は,46人が参加して,同年6月4日から1泊の日程で上記佳水郷において,「第37回大会に向けての意志統一」を主な内容とする支部政策委員・各専門部幹部合同学習会を開催した。その事業の費用として,交通費56万6000円,宿泊費81万9060円,会議室料2万1600円,飲物代19万3466円,乗務員宿泊費1万7100円,昼食代18万4000円,資料代1万8400円,保険料など諸経費6万0300円,合計187万9926円を要した(佳水郷の領収書等に会議室使用料が含まれており,調査票の記載のとおりの学習会が行われたものと認める。また,「大会に向けての意志統一」を内容とする学習会が,同和問題の解決のために解決のために有効かつ適切なものであり得る。)。
(イ) 上記のとおり,本件事業16に当たる事業は,参加人数も総事業費も助成申請書及び事業実施報告書に記載されたものと大きく異なり,事業内容も同一ではないが,46人が参加する支部政策委員・各専門部幹部合同学習会という助成要綱の趣旨に合致する学習会が実施されているから,実際に実施された事業のとおりの助成申請がされたとしても,交付されたであろう補助金(上記187万9926円の3分の2以下かつ一人3万円以下の125万3284円)については,京都市に損害が生じていないというべきである。そして,本件公金支出16に係る補助金のうち54万6716円が返還され,残額125万3284円であるから,本件公金支出16が違法であるとしても,それによる損害は回復されているというべきである。
タ 本件公金支出17
(ア) 証拠(甲3の9,乙9,乙61,乙63の17,乙70,乙71,証人G,証人H,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
田中支部は,平成10年7月8日,京都市長に対し,同年8月2日から1泊の日程で福井県芦原町(芦原温泉)の芦原国際ホテル美松で,「今後の同和教育について」の講演(講師・L田中支部女性部長)及び水泳学習の実習を主な内容とする地区の青少年を対象とする事業を開催するとし,参加予定人数を70人,総事業予算額を179万9400円として,60万円の助成を申請した。これに対して,被告Eは,同年7月22日,60万円の支出決定をした。
田中支部は,同年8月4日,上記事業を参加人数70人,総事業費179万9400円で実施した旨の事業実施報告書を京都市長に提出した。
田中支部は,参加者は41人(うち子供16人)が参加して(ほかにキャンセル3人),同月2日から1泊の日程で上記国際ホテル美松において,親子1泊水泳研修会を実施した。なお,この事業には,京都市の職員4人が同行した。この事業の費用として,交通費26万2500円,宿泊費36万7050円,飲物代6万0133円,昼食代17万2200円,高速道路通行料1万8450円,保険料1万2300円,合計89万2633円を要した。
(イ) 上記のとおり,本件事業17に当たる事業については,参加人数及び総費用額が助成申請書及び事業実施報告書に記載されたものと大きく異なっている上,「今後の同和教育について」の講演が実施されたと認めるに足りる証拠もなく(乙61,乙63の17,乙70,乙71の各記載中及び証人G,証人Hの証言中には二日目の午前中に宿舎において学習会が行われていた旨の部分があるが採用しない。),実施された事業内容も同一とはいえない。それらの点から,本件公金支出17が違法であり,京都市が交付した補助金相当額の損害を被ったとしても,青少年事業として助成要綱の趣旨に合致する水泳一泊研修会が実施されているということができるから,上記実際に行われた事業として助成申請がされていた場合に交付可能であった補助金の金額(上記89万2633円の3分の2以下かつ一人3万円以下の59万5088円)の範囲内では京都市が損害を被ったとは認められない。そして,田中支部は4912円を返還し,残額は59万5088円と上記の助成可能な金額の範囲内であるから,京都市の損害は回復されている。
チ 本件公金支出18
(ア) 証拠(甲2の47,乙9,乙61,乙63の25,乙73,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
東三条支部は,平成10年7月30日,京都市長に対し,同年8月2日から1泊の日程で京都府舞鶴市三浜海水浴場の民宿高井において,地区内の小中学生ほかを対象として,水泳教室,学習会,キャンプファイヤー,美化活動などを主な内容とする青少年事業を開催するとし,参加予定人数を約50人,総事業予算額を62万7500円として,20万円の助成を申請した。これに対して,被告Cは,同年7月31日,20万円の支出決定をした。
東三条支部は,同年8月17日,上記事業を参加人数48人,総事業費61万1400円で実施した旨の事業実施報告書を京都市長に提出した。
東三条支部は,31人が参加して,同月17日から1泊の日程で上記民宿高井に宿泊して,同海水浴場で水泳,キャンプファイヤー等を行い,一日目の夜には宿舎で学習会も行われた。なお,この事業には,京都市の職員4人が同行した。同事業の費用として,宿泊費として15万5000円,昼食代3万1000円,保険料3万2550円,資料作成代3万1000円,救急用品購入費1万円,キャンプファイヤー用品代6万円,その他経費5600円,合計32万5150円を要した。
(イ) 上記のとおり,本件事業18に当たる事業は,参加人数及び総事業費が助成申請書及び事業実施報告書に記載されたものと相当異なるものの,助成要綱の趣旨に合致する青少年事業としての実体があったというべきところ,東三条支部が交付を受けた補助金の金額は20万円であって,参加人数を31人として申請した場合に交付されたであろう補助金の金額(上記32万5150円の3分の2以下かつ一人3万円以下の21万6766円)の範囲内であるから,本件公金支出18が違法であるとしても,京都市が損害を被ったとは認められない。
ツ 本件公金支出19
(ア) 証拠(甲2の36,乙9,乙63の24,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
東三条支部は,平成10年9月10日,京都市長に対し,同月12日から1泊の日程で石川県加賀市(片山津温泉)の矢田屋において,「東三条町づくり協議会の現状と課題」,「狭山の現状と今後の展望」,「青年間の親睦」を主な内容とする青年部学習会を開催するとして,参加予定人数を20人,総事業予算額を100万4000円として,20万円の助成を申請をした。これに対して,被告Cは,同月11日,20万円の支出決定をした。
東三条支部は,同月17日,上記事業を参加人数20人,総事業費100万4000円で実施した旨の事業実施報告書を京都市長に提出した。
東三条支部は,11人が参加して,同月12日から上記矢田屋に1泊する事業を行ったが,その事業内容が「東三条町づくり協議会の現状と課題」,「狭山の現状と今後の展望」についての学習会,その他助成要綱の趣旨に合致するものであったとは認められない(乙63の24中には,「今日の部落差別の実態」について宿舎で学習し,金沢市民芸術村などの施設の見学等を行った旨の記載があるが,矢田屋では10名程度の人数で学習会ないし会議を行う場合には別途会議室等を有料で借りる必要があるところ,宿泊先の領収書等に会議室等を利用した旨の記載はないことなどを考慮すると,上記の記載は採用できない。)。
(イ) 上記のとおり,本件事業19に当たる事業は,参加人数及び総事業費が助成申請書及び事業実施報告書に記載されたものと大きく異なる上,助成要綱の趣旨に合致する学習会が行われたとも認められないのであるから,上記の違法とした公金支出と同様に,本件公金支出19は違法であり,京都市は交付した補助金20万円相当の損害を被ったというべきである。
テ 本件公金支出20
(ア) 証拠(甲2の37,乙9,乙61,乙63の5,乙69,乙71,証人F,証人H,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
千本支部は,平成10年10月1日,京都市長に対し,同年11月3日から1泊の日程で和歌山県白浜町(白浜温泉)の三楽荘において,「バス車内研修 啓発ビデオ観賞」,「「千本のまちづくり」の取組について」を主な内容とする幹部学習会を開催するとし,参加予定人数を150人,総事業予算額を565万50500円として,240万円の助成を申請をした。これに対して,被告Bは,同年10月7日,240万円の支出決定をした。
千本支部は,同年11月12日,上記事業を参加人数146人,総事業費549万9820円で実施した旨の事業実施報告書を京都市長に提出した。
千本支部は,21人が参加し,同月3日から1泊で上記三楽荘において,支部執行部学習会を行い,部落問題と関連する何らかの学習会を行った(三楽荘の領収書等に会議室使用料の記載があり,学習会が行われたことは認められるが,その内容については,乙61と乙63の5の記載が異なっており,明らかとはいえない。)。なお,この事業には,京都市の職員5人が同行している。この事業の費用として,宿泊費20万1600円,会議室料1万0500円,飲物代として5万3580円,乗務員宿泊費1万7100円,昼食代8万4000円,資料代8400円,保険料等諸雑費3万3600円,合計40万8780円を要した。
(イ) 上記のとおり,本件事業20に当たる事業は,参加人数も総事業費も助成申請書及び事業実施報告書に記載されたものとは全く異なる上,事業内容も異なっており,このような申請に基づく本件公金支出20は違法というべきである。しかし,上記のとおり,21人が参加して助成要綱の趣旨に合致する学習会が開催されており,その事業については助成が可能であったと考えられるから,その事業について交付が可能であった補助金額(上記40万8780円の3分の2以下かつ一人3万円以下の27万2530円)の範囲内では京都市が損害を被ったとは認められないところ,千本支部は212万7480円を返還し,残額は27万2520円と上記の助成可能な金額の範囲内であるから,京都市の損害は回復されている。
ト 本件公金支出21
(ア) 証拠(甲2の38,乙9,乙61,乙63の16,乙70,乙71,証人G,証人H,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
田中支部は,平成10年10月23日,京都市長に対し,同年11月20日から1泊の日程で兵庫県洲本市のホテルニューアワジにおいて「今後の田中地区の町づくりについて」の基調報告とそれを受けてのそれぞれの立場で自由討論を主な内容とする支部一泊研修と青年事業を開催するとして,参加予定人数を140人,総事業予算額を450万5465円として,220万円の助成を申請をした。これに対して,被告Bは,同月4日,220万円の支出決定をした。
田中支部は,平成11年5月11日,上記事業を参加人数140人,総事業費445万6245円で実施した旨の事業実施報告書を京都市長に提出した。
田中支部は,28人が参加して,平成10年11月20日から1泊の日程で上記ホテルニューアワジに宿泊し,1日目は,ホテル内の会議室で「今後の田中地区の町づくりについて」の学習会を行い,2日目には,ミュージアムパークアルファビア,淡路ファームパーク及び北淡町震災記念公園を見学した。この事業には,京都市の職員4人が同行した。同事業の費用として,交通費28万3000円,宿泊費54万8520円,会議室料3万7800円,飲物代として5万9428円,昼食代8万8200円,高速道路通行料3万5800円,保険料8400円,施設等入場料5万3200円,旅行業務取扱料金17万3864円,合計130万5012円を要した(ホテルニューアワジの領収書等に会議室使用料の記載があるから,調査票(乙63の16)記載のとおりの学習会が行われたものと認める。)。
(イ) 上記のとおり,本件事業21に当たる事業については,参加人数も総事業費も助成申請書及び事業実施報告書に記載されたものと大きく異なり,また,2日目の見学も,北淡町震災記念公園(その見学は「町づくり」についての学習の一環と評価することも可能である。)を除いては単なる社会見学(むしろ観光に近い)ものであって,助成要綱によって青少年事業及び学習会事業においては助成の対象とならない内容のものを含んでおり,このような申請に基づく本件公金支出21は違法というべきであり,京都市は,交付した補助金220万円相当の損害を被ったというべきである。しかし,上記認定のとおり,28人が参加して助成要綱の趣旨に合致すると認められる学習会は行われており,その学習会事業については助成要綱に基づく助成の申請がされておれば補助金の交付は可能であったと考えられるから,その補助金の金額(上記総事業費からミュージアムパークアルファビア及び淡路ファームパーク施設見学料の合計3万9200円を控除した126万5812円の3分の2以下かつ一人3万円以下の84万円)の範囲内では京都市が損害を被ったとは認められないところ,田中支部は136万円を返還しているから,京都市の損害は回復されている。
ナ 本件公金支出22
(ア) 証拠(甲2の39,乙9,乙61,乙63の21,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
錦林支部は,平成10年11月2日,京都市長に対し,同月8日から1泊の日程で福井県芦原町(芦原温泉)の清風荘において,「部落解放運動のこれからの展望(支部員の意志統一)」を主な内容とする支部学習会を開催するとし,参加予定人数を70人,総事業予算額を170万3450円として,50万円の助成を申請した。これに対して,被告Bは,同月5日,50万円の支出決定をした。
錦林支部は,同年12月1日,上記事業を参加人数68人,総事業費165万6380円で実施した旨の事業実施報告書を京都市長に提出した。
錦林支部は,13人が参加して,同年11月8日から1泊の日程で上記清風荘に宿泊する「支部県外学習会」という名称の事業を実施した。この事業の費用として合計31万4888円を要した。なお,この事業には,京都市の職員4人が同行した。しかし,この「支部県外学習会」において「部落解放運動のこれからの展望」をテーマにした学習会が行われたと認めることはできず,その他助成要項の趣旨に合致したものであることを認めるに足りる証拠はない(乙61,乙63の21には,清風荘内で上記の学習会が開かれた旨の記載があるが,清風荘の領収書には,会議室等の使用料についての記載はないことに照らし,採用することはできない。また,乙61には,「社会見学」という学習会事業においては助成の対象とされていないものが行われた旨の記載もある。)。
(イ) 上記のとおり,本件事業22に当たる事業については,参加人数も総事業費も助成申請書及び事業実施報告書に記載されたものと大きく異なり,これらに記載された事業が行われたとは認められないのであるから,前記で違法とした公金支出と同様に,本件公金支出22も違法である。そして,助成要綱の趣旨に合致する事業がされたとも認めるに足りないのであるから,本件公金支出22については,京都市は,交付した補助金50万円相当について損害を被ったというべきところ,錦林支部から返還されたのは31万4888円にとどまるから,その残額18万5112円について,京都市の損害は回復されていない。
ニ 本件公金支出23
(ア) 証拠(甲2の43,乙9,乙61,乙63の36,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
久世支部は,平成10年11月16日,京都市長に対し,同月28日から1泊の日程で石川県七尾市(和倉温泉)の加賀屋において,「久世地域における街づくり,人づくりについて」,「今後の支部活動方針と専門部活動について」を主な内容とする支部学習会を開催するとし,参加予定人数を45人,総事業予算額を117万8250円として,50万円の助成を申請した。これに対して,被告Cは,同月26日,50万円の支出決定をした。
久世支部は,同年12月11日,上記事業を参加人数45人,総事業費117万8250円で実施した旨の事業実施報告書を京都市長に提出した。
久世支部は,18人が参加して,同年11月28日から1泊の日程で上記加賀屋において「久世の街づくり,人づくりと地域交流促進活動について,①河川美化をすすめる会 各班からの報告,②同今後の課題,③久世レインボーフェステバルでの班分と今後の課題,④久世文化振興会の今後の運営,⑤久世文化振興会和太鼓倶楽部今後の運営」等を内容とする「支部幹部学習会」を開催した。その費用としては,合計50万0414円を要した。なお,この事業には,京都市の職員4人が同行した(加賀屋の領収書等には,久世支部が同日利用したという会議室の使用料に関する記載はないが,同行した京都市の職員は,助成申請書及び実施報告書の記載を超えた具体的な学習会の内容について報告しており(乙61),上記学習会において利用したという詳細な資料も提出されているから,上記資料の内容の学習会が開催されたものと認める。)。
(イ) 上記のとおり,本件事業23に当たる事業については,参加人数も総費用額も助成申請書及び事業実施報告書に記載されたものと大きく異なるが,ほぼ助成申請書及び事業実施報告書に記載されたものと同内容の学習会が行われており,実際の参加人数及び総費用額で助成の申請がされておれば,上記総事業費50万0414円の3分の2以下かつ一人3万円以下の33万3609円の交付は可能であったと考えられるから,本件公金支出23が違法であったとしても,その範囲内では京都市が損害を被ったとは認められないところ,久世支部は16万6391円を返還し,残額は33万3609円と上記の助成可能な金額の範囲内であるから,京都市の損害は回復されている。
ヌ 本件公金支出24
(ア) 証拠(甲2の40,乙9,乙63の6,乙69,証人F)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
千本支部は,平成10年11月17日,京都市長に対し,同年12月12日から1泊の日程で石川県加賀市(山代温泉)のいづくらにおいて,「千本まちづくり・基本計画の学習会」,「将来の支部幹部としての学習・討論」を主な内容とする青年国内研修会を開催するとし,参加予定人数を70人,総事業予算額を260万5400円として,130万円の助成を申請した。これに対して,被告Bは,同年12月1日,130万円の支出決定をした。
千本支部は,同月17日,上記事業を参加人数69人,総事業費256万8180円で実施した旨の事業実施報告書を京都市長に提出した。
千本支部は,14人が参加して,同年11月28日から1泊の日程で上記いづくらにおいて,「千本の町づくり・「住環境問題」について」などを内容とする青年部国内研修を行った。この事業に費用として合計42万8921円を要した(千本支部からは,同学習会の案内書,講師に対する依頼書等が提出され,平成11年の支部定期大会において,同研修会の内容が詳細に報告されているから,その内容の研修会が開催されたものと認める。)。
(イ) 上記のとおり,本件事業24に当たる事業については,参加人数も総事業費も助成申請書及び事業実施報告書に記載されたものと大きく異なる上,事業が実施された日も全く異なっており,助成申請及び事業の実施報告は,虚偽のものというほかはなく,このような申請に基づく本件公金支出24は,前記の違法とされた公金支出と同様に違法なものといわざるをえない。しかし,上記のとおり,千本支部は,交付された補助金を利用して,助成要綱の趣旨に合致する青年部国内研修会を実施しており,実際に行われた事業について交付可能であった補助金(上記総事業費か42万8921円の3分の2以下かつ一人3万円以下の28万5947円)の範囲内では京都市が損害を被ったとは認められないところ,久世支部は101万4053円を返還し,残額は28万5947円と上記の助成可能な金額の範囲内であるから,京都市の損害は回復されている。
ネ 本件公金支出25
(ア) 証拠(甲2の41,甲39,乙9,乙63の7,乙69,証人F,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
千本支部は,平成10年12月15日,京都市長に対し,平成11年2月11日から1泊の日程で京都府網野町(当時)の佳松苑において,「車内研修(啓発ビデオ観賞)」,「青年部の運動について」,「「千本のまちづくり」について」を主な内容とする近畿ブロック学習会を開催するとし,参加予定人数を70人,総事業予算額253万1900円として,80万円の助成を申請した。これに対して,被告Cは,平成10年12月24日,80万円の支出決定をした。
千本支部は,平成11年2月19日,上記事業を参加人数68人,総事業費245万9560円で実施した旨の事業実施報告書を京都市長に提出した。
千本支部は,19人が参加して,「壮年部宿泊学習会」との名称で同月11日から1泊の日程で上記佳松苑に宿泊する事業を行った。その事業に要した費用は,合計54万3989円であった。しかし,この事業が助成要項の趣旨に合致する学習会等であったとは認められない(証人Fは,客室において,学習会を行ったと供述(乙69の陳述書も同じ。)するが,佳松苑に19人で学習会を開けるような客室はなく(調査票(乙63の7)には会議室で行ったとの記載がある。),佳松苑の領収書等には会議室等を利用した旨の記載はなく,これらは採用しない。)。
(イ) 上記のとおり,本件事業25に当たる事業は,参加人数も総事業費も助成申請書及び事業実施報告書に記載されたものと大きく異なり,事業内容としても,助成要綱の趣旨に合致する学習会が行われたとすることはできないから,前記の違法とした公金支出と同様,本件公金支出25も違法であり,京都市は,交付した補助金額80万円相当の損害を被ったところ,千本支部から返還されたのは43万7341円にとどまるから,残額36万2659円について,京都市の損害は回復されていない。
ノ 本件公金支出26
(ア) 証拠(甲2の42,乙9,乙63の30,乙69,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
西三条支部は,平成11年1月4日,京都市長に対し,同月30日から1泊の日程で大分県湯布院町(由布院温泉)の由布院ホテル大翔館において,「部落解放運動の現状と課題について」,「支部員間の交流と親睦を深める」,「社会的見聞を広める」などを主な内容とする支部学習会を開催するとし,参加予定人数を約55人,総事業予算額を240万円として,30万円の助成を申請した。これに対して,被告Cは,同月11日,30万円の支出決定をした。
西三条支部は,同年2月5日,上記事業を参加人数55人,総事業費240万円で実施した旨の事業実施報告書を京都市長に提出した。
西三条支部は,28人が参加して,同年1月30日から1泊の日程で上記由布院ホテル大翔館において,「これからの支部活動の方向について」を主な内容とする支部学習会を開催した。その事業の費用として,宿泊費及び交通費を含めて合計107万8000円を要した(由布院ホテル大翔館の宿泊リストに1日目の午後3時から午後5時まで会議室を利用した旨の記載があり,調査票(乙63の30)の記載のとおりの学習会が行われたものと認める。)。
(イ) 上記のとおり,本件事業26に当たる事業については,参加人数も総事業費も助成申請書及び事業実施報告書に記載されたものと大きく異なる上,事業内容も必ずしも同一とはいえない。しかし,上記のとおり,28人が参加して助成要綱の趣旨に合致すると認められる学習会が開催されており,その事業については助成が可能であったと考えられるから,本件公金支出26が違法であったとしても,その事業について交付が可能であった補助金の金額(上記107万80000円の3分の2以下かつ一人3万円以下の71万8666円)の範囲内では京都市が損害を被ったとは認められないところ,西三条支部に交付された補助金はその範囲内である。
ハ 本件公金支出27
(ア) 証拠(甲3の11,乙9,乙63の32)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
西三条支部は,平成11年1月31日,京都市長に対し,同年2月13日から1泊の日程で兵庫県赤穂市(赤穂御崎温泉)の潮光園において,「これからの女性部の在り方について」,「子育て,家庭などについて」,「壬生高齢者昼食サービス事業の総括について」,「史跡めぐり」などを主な内容とする女性部学習会を開催するとし,参加予定人数を約25人,総事業予算額を62万円として,40万円の助成を申請をした。これに対して,被告Eは,同月12日,40万円の支出決定をした。
西三条支部は,同月28日,上記事業を参加人数25人,総事業費62万円で実施した旨の事業実施報告書を京都市長に提出した。
西三条支部は,12人(うち一人は子供)が参加して,同月13日から1泊の日程で上記潮光園に宿泊して「女性部県外学習会」という名称の事業を行った。その事業の費用として合計25万6938円(子供の宿泊費9100円,子供の交通費2940円を含み,拝観料,市内観光用のレンタカー代を除く。)。しかし,その事業内容が助成申請書及び事業実施報告書に記載されたものと同一であるとは認められず,その他助成要綱の趣旨に合致するものであったことを認めるに足りる証拠はない(乙63の32(調査票)には,1日目の午後3時から午後5時まで「これからの女性部のあり方について」の学習会を行ったとの記載があるが,女性事業としては助成の対象とはならない「史跡めぐり」がもともとの目的の中に含められ子供も同行しているところからしても,主としては観光目的の事業ではないかとの疑いがあり(調査委員会も「市内観光のためのレンタカー代」は認めないと,市内観光が行われたことを認めている。),上記の記載は採用しない。なお,潮光園の領収書等には「室料5000円」との記載があるが,事業実施報告書においては会議室料を支出した旨の記載がなく,調査票(乙63の32)でも学習会は「部屋」で行った旨の記載があることを考慮すると,この室料は学習会の場所の使用料とは認められない。)。
(イ) 上記のとおり,本件事業27に当たる事業については,参加人数も総事業費も助成申請書及び事業実施報告書に記載されたものと異なる上,助成要綱の趣旨に合致する事業が行われたとも認められないのであるから,本件公金支出27は違法であり,京都市は,交付した補助金40万円相当の損害を被ったというべきである。そして,西三条支部が京都市に返還したのは22万8709円にとどまるから,その残額17万1292円については,京都市の損害は回復されていない。
ヒ 本件公金支出28
(ア) 証拠(甲2の46,乙9,乙63の31)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
西三条支部は,平成11年2月15日,京都市長に対し,同年3月13日から1泊の日程で滋賀県土山町のイースタンリゾート滋賀において,「部落解放運動についての学習」,「友情・恋愛・結婚などについての意見交換」などを主な内容とする青年部学習会を開催するとし,参加予定人数を約30人,総事業予算額を70万円として,40万円の助成を申請をした。これに対して,被告Cは,同年2月19日,40万円の支出決定をした。
その後,西三条支部は,同年3月25日,上記事業を参加人数30人,総事業費70万円で実施した旨の事業実施報告書を京都市長に提出した。
西三条支部は,28人が参加して,同月13日から1泊の日程で上記イースタンリゾート滋賀において「「差別からの解放」をめざした人権行政の確立について」をテーマとした青年部県外学習会を実施した。その事業の費用として宿泊費42万6300円,資料代2万8000円,高速道路通行料7300円,合計46万1600円を要した(西三条支部からは,当日に使用したという研修会資料が提出されており,助成申請書及び事業実施報告書に記載された人数と実際の参加人数に大きな相違がないことから,調査票(乙63の31)記載の学習会が行われたと認める。)。
(イ) 上記のとおり,本件事業28に当たる事業については,総事業費に相違はあるものの,上記のとおり,ほぼ助成申請書に記載された人数,内容(「「差別からの解放」をめざした人権行政の確立について」も部落解放運動についての学習に含まれる。)の学習会が行われており,その学習会は,助成要綱の趣旨に合致したものということができるから,本件公金支出28は,支出自体としては適法というべきである。もっとも,総事業費は,助成申請書及び事業時実施報告書に記載されたものと相当の差があり,参加人数にも差はあるものの,28人が参加した総事業費46万1600円の事業であっても,30万7733円(総事業費46万1600円の3分の2分で一人3万円以下)は補助金の交付は可能であったところ,西三条支部からは,交付された補助金のうち9万2267円が返還され,その残額は30万7733円と上記の助成可能な金額の範囲内にとどまっているから,内容虚偽の事業実施報告書が提出されたことによる京都市の損害も回復されている。
フ 本件公金支出29
(ア) 証拠(甲3の13,甲39,乙9,乙63の18,乙70,証人G,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
田中支部は,平成11年2月24日,京都市長に対し,同年3月13日から1泊の日程で京都府亀岡市(湯の花温泉)の松園荘において,女性を対象に「今後の田中地区の町づくりについて」及び「地区における女性の果たす役割」の基調報告を主な内容とする女性部学習会を開催するとし,参加予定人数を50人,総事業予算額を146万2050円として,33万円の助成を申請をした。これに対して,被告Eは,同月3日,33万円の支出決定をした。
田中支部は,同月18日,上記事業を参加人数50人,総事業費を135万4950円で実施した旨の事業実施報告書を京都市長に提出した。
田中支部は,19人が参加して,同月13日から1泊の日程で上記松園荘で1泊する事業を実施した。その事業の費用として合計32万5150円を要した。しかし,この事業が助成申請書及び事業実施報告書に記載された内容のものであったとは認められず,その他,助成要綱の趣旨に合致したものであったことを認めるに足りる証拠はない(調査票(乙63の18)には,同月13日,松園荘の会議室において「地区における女性の果たす役割」についての基調提案に基づく学習会を開いた旨の記載があり,証人Gもこれに沿う供述をする(陳述書(乙70)にも同旨の記載がある。)。しかし,松園荘においては,会議等を行う場合には会議室を借りることを求めているところ,その領収書等には会議室の使用料に関する記載はない。また,田中支部の定期総会議案書中の活動日誌には,同月13日から14日の日程で「支部執行委員研修」が行われたとの記載があり,上記の各証拠は採用しない。)
(イ) 上記のとおり,本件事業29に当たる事業については,参加人数も総費用額も助成申請書及び事業実施報告書に記載されたものと大きく異なる上,助成申請書及び事業実施報告書に記載された事業が行われたとは認められず,その他助成要綱の趣旨に合致すると認められる事業が行われた認めるに足りる証拠はないから,本件公金支出29は違法であり,京都市は,交付した補助金33万円相当の損害を被ったというべきである。
ヘ 本件公金支出30
(ア) 証拠(甲2の48,乙9,乙63の26,乙64,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
東三条支部は,平成11年3月8日,京都市長に対し,同月21日から1泊の日程で奈良県及び兵庫県で「水平社の歴史の学習」,「三条町づくりの現状」を主な内容とする学習会を開催するとし,宿泊先を神戸市(有馬温泉)の有馬ロイヤルホテル,参加予定人数を約50人,総事業予算額を138万9500円として,65万円の助成を申請をした。これに対して,被告Cは,同年3月19日,65万円の支出決定をした。
東三条支部は,同月29日,上記事業を参加人数50人,総事業費を138万9500円で実施した旨の事業実施報告書を京都市長に提出した。同報告書には,1日目に水平社博物館での学習をした旨の記載がある。
東三条支部は,40人(うち子供9人)が参加して,同月21日から1泊の日程で,1日目には奈良県御所市の水平社博物館を見学するなどした上,上記有馬ロイヤルホテルに宿泊する支部学習会を実施した。その事業の費用として,宿泊費65万3850円,乗務員宿泊費1万7100円,食事代16万8000円,飲物代として11万5214円,高速道路通行料3万7050円,施設入場料3万6000円,保険料1万2000円,合計103万9214円を要した。
(イ) 上記のとおり,本件事業30に当たる事業については,参加人数及び総事業費は助成申請書及び事業実施報告書に記載されたものと多少相違するものの,おおむね助成申請書及び事業実施報告書に記載されたものと合致する事業が行われている。そして,参加人数及び総事業費が実際に行われたものとして助成申請がされた場合には上記103万9214円の3分の2以下かつ一人3万円以下の69万2809円の助成が可能であったと考えられるところ,本件公金支出30はその範囲内のものであるから,本件公金支出30が違法であるとしても,京都市はこれによる損害を被っていない(なお,事業実施報告書によると,2日目には北淡町震災記念公館を見学し,その入場料2万円,北淡町への往復高速道路通行料合計2万675円が総事業費に含まれている。震災記念公園の見学も,「三条町づくりの現状」に関連する学習目的と見ることも可能である。これが単なる社会見学として助成対象とならないものとしても,本件公金支出30は助成可能な金額の範囲内であることに変わりはない。)。
ホ 本件公金支出31
(ア) 証拠(甲2の19,乙9,乙63の9,乙69,証人F,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
千本支部は,平成11年6月4日,京都市長に対し,同年7月4日から1泊の日程で奈良県桜井市の多武峰観光ホテルにおいて,「バス車内研修(啓発ビデオ観賞)」,「女性部活動計画」,「子ども会活動」,「まちづくり活動について」を主な内容とする青少年・壮年・女性部合同学習会を開催するとして,参加人数を100人,総事業予算額を427万1500円として,250万円の助成を申請した。これに対して,被告Bは,同年6月18日,250万円の支出決定をした。
千本支部は,同年7月30日,上記事業を参加人数96人,総事業費を413万4240円で実施した旨の事業実施報告書を京都市長に提出した。
千本支部は,24人が参加して,同月4日から1泊の日程で上記多武峰観光ホテルに宿泊する事業を実施し,その2日目には水平社博物館を見学している。その事業の費用として合計81万6776円を要した(多武峰観光ホテルにおいて,助成申請書及び事業実施報告書に記載された学習会その他何らかの学習会が行われたと認めるに足りる証拠はない(調査票(乙63の9),乙69のその旨の記載は採用できない。)。しかし,桜井市の多武峰観光ホテルに宿泊した帰途に御所市の水平社博物館を見学することは自然であって,乙63の9によってその限度では認めることができる。)。
(イ) 上記のとおり,本件事業31に当たる事業については,参加人数も総事業費も助成申請書及び事業実施報告書に記載されたものと著しく異なり,事業内容も助成申請書及び事業実施報告書に記載されたものと合致しない。しかし,24人が参加して,少なくとも水平社博物館を見学する行事は行われており,その事業も助成要綱の趣旨に合致するものであると考えることができる。したがって,本件公金支出31が違法であるとしても,京都市は,実際に行われた事業であっても交付可能な補助金(上記81万6778円の3分の2以下かつ一人3万円以下の54万4517円)の範囲では損害を被っていないというべきである。そして,千本支部は,195万5483円を返還し,残額は54万4517円と上記助成可能な金額の範囲内であるから,京都市の損害は回復されている。
マ 本件公金支出32
(ア) 証拠(甲2の20,乙9,乙61,乙63の10,乙69,乙71,証人F,証人H)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
千本支部は,平成10年8月23日,京都市に対し,同年9月23日から1泊の日程で香川県において,「バス車内研修 啓発ビデオ観賞」,「「千本のまちづくり」についての学習会(コーポラティブ住宅実現に向けての研修会及び住民参加型まちづくりの先進事例として,他都市市営団地の視察)」を主な内容とする「支部視察研修会」を開催するとし,宿泊先を岡山県倉敷市(鷲羽山)の「鷲羽グランドホテル」,参加予定人数を120人,総事業予算額を479万8200円として,270万円の助成を申請した。これに対して,被告Bは,同年8月31日,270万円の支出決定をした。
千本支部は,同年11月16日,上記事業を参加人数115人,総事業費46万7055円で実施した旨の事業実施報告書を京都市長に提出した。
千本支部は,24人が参加して,同年9月23日から1泊の日程で,1日目には,香川県丸亀市の市営a団地(住民も参加しての建替事業によって建て替えられた市営住宅)の現地視察を行い,丸亀市の職員,現地住民から説明を受けるなどした。その事業の費用として,交通費34万9860円,宿泊費30万2400円,昼食代6万8150円,資料印刷代1万2000円,乗務員経費2万0160円,保険料等雑費7200円,合計75万9770円を要した。なお,この事業には5人の京都市職員が同行した。
(イ) 上記のとおり,本件事業32に当たる事業については,参加人数も総事業費も助成申請書及び事業実施報告書に記載されたものと著しく異なっている。しかし,事業内容として,おおむね助成申請書及び事業実施報告書に記載されたものと合致するものが行われており,参加人数及び総事業費を現実に行われたものとして助成を申請しても,上記75万9770円の3分の2以下かつ一人3万円以下の50万6513円の範囲内では助成がされたと考えられるから,本件公金支出32が違法であったとしても,上記金額の範囲では京都市は損害を被っていないというべきである。そして,千本支部は,219万3487円を京都市に返還し,残額は50万6513と上記の助成可能な金額の範囲内であるから,京都市の損害は回復されている。
ミ 本件公金支出33
(ア) 証拠(甲2の21,乙9,乙61,乙63の23,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
錦林支部は,平成11年10月8日,京都市長に対し,同年11月7日から1泊の日程で奈良県及び三重県で,「部落解放運動のこれからの展望(支部員の意志統一)」,「水平社博物館見学」を主な内容とする支部学習会を開催するとし,宿泊先を三重県鳥羽市の戸田家,参加予定人数を70人,総事業予算額を158万1350円として,50万円の助成を申請した。これに対して,被告Cは,同年10月21日,50万円の支出決定をした。なお,この事業には,京都市の職員3人が同行している。
錦林支部は,平成12年2月1日,上記事業を参加人数68人,総事業費153万6140円で実施した旨の事業実施報告書を京都市長に提出した。
錦林支部は,15人が参加して,平成11年11月7日から1泊の日程で水平社博物館を見学後上記戸田屋に宿泊する「県外学習会」を実施した。その事業の費用として合計30万7550円を要した。
(イ) 上記のとおり,本件事業33に当たる事業については,参加人数も総費用額も助成申請書及び事業実施報告書に記載されたものと著しく異なる。しかし,上記のとおり,水平社博物館の見学が行われており,少なくとも,助成申請書及び事業実施報告書に記載された事業内容の一部は実施されており,これは助成要綱の趣旨に合致したものと考えられる。
そうすると,本件公金支出33が違法であったとしても,実際に行われた事業について助成申請がされたとしても,助成が可能であったと考えられる範囲(上記総事業費30万7550円の3分の2以下かつ一人3万円以下の20万5033円)では京都市は損害を被ってはいないというべきである。そして,錦林支部は,29万4967円を返還しており,残額は20万5033円と上記の助成可能な金額の範囲内であるから,京都市の損害は回復されている。
ム 本件公金支出34
(ア) 証拠(甲2の22,乙9,乙63の33)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
西三条支部は,平成11年10月20日,京都市長に対し,同年11月13日から1泊の日程で三重県鳥羽市のタラサ志摩において,「介護保険と地域福祉活動について」,「支部員間の交流と親睦を深める」,「社会的見聞を広める」を主な内容とする支部学習会を開催するとし,参加予定人数を約50人,総事業予算額を155万円として,30万円の助成を申請した。これに対して,被告Cは,同年10月29日,30万円の支出決定をした。
西三条支部は,同年11月30日,上記事業を参加人数50人,総事業費155万円で実施した旨の事業実施報告書を京都市長に提出した。
西三条支部は,24人が参加して,同月13日から1泊の日程で上記タラサ志摩に宿泊する事業を行った。その事業に要した費用は,合計83万2920円であった(西三条支部からは,助成申請書及び事業実施報告書に記載された事業内容の一部及び調査票(乙63の33)に学習会のテーマとして記載されたものと一致する内容の当日利用したという資料が提出されている。しかし,宿泊先の領収書等には,会議室等の使用についての記載はなく,西三条支部が,参加人数等が大きく異なる事業実施報告書をあえて提出していることを考慮すると,この資料があるからといって,その内容の学習会が行われたと認めることはできない。)。
(イ) 上記のとおり,本件事業34に当たる事業については,参加人数及び総費用額が助成申請書及び事業実施報告書に記載されたものと大きく異なる上,助成申請書及び事業実施報告書に記載された事業が行われたと認めることはできず,この事業が助成要綱の趣旨と合致するものであったことを認めるに足りる証拠はない。したがって,本件公金支出34は違法であり,京都市は,交付した補助金30万円相当の損害を被ったというべきである。
メ 本件公金支出35
(ア) 証拠(甲2の23,乙9,乙61,乙63の19,乙65,乙70,証人G,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
田中支部は,平成11年10月26日,京都市長に対し,同年11月12日から1泊の日程で三重県津市及び伊勢市において,「田中地区の山積している課題についての基調報告」,「基調報告を受けた自由討論」(ほかに,三重県人権センターでの視察及び研修会)を主な内容とする支部一泊研修と青年事業を開催するとし,宿泊先を伊勢市の三重県厚生年金休暇センター,参加予定人数を120人,総事業予算額を353万8680円として,190万円の助成を申請した。これに対して,被告Bは,同年11月4日,190万円の支出決定をした。
田中支部は,同年12月28日,上記事業を参加人数108人,総事業費329万1324円で実施した旨の事業実施報告書を京都市長に提出した。
田中支部は,28人が参加して,同年11月12日から1泊の日程で,「支部秋の一泊研修」として,三重県人権啓発センターにおいて,施設の概要説明を受け,見学を行った上,伊勢市の三重県厚生年金休暇センターに宿泊する事業を実施した。その事業の費用として,交通費28万3000円,宿泊費14万5648円,朝食代2万8512円,夕食代28万5120円,飲物代3万4000円,乗務員夕食代8316円,昼食代7万5600円,乗務員昼食代3160円,高速道路通行料1万3160円,保険料7200円,旅行業者取扱料金5万6700円,合計94万0416円を要した。なお,この事業には京都市の職員4人が同行している。
(イ) 上記のとおり,本件事業35に当たる事業については,参加人数も総事業費も助成申請書及び事業実施報告書に記載されたものと著しく異なっている。しかし,三重県人権啓発センターに赴き,施設概要についての説明を受けた上での見学が行われており,少なくとも,助成申請書及び事業実施報告書に記載された事業内容の一部は実施されており,これは助成要綱の趣旨に合致したものと考えられる。
そうすると,本件公金支出35が違法であったとしても,実際に行われた事業について助成申請がされたとしても,助成が可能であったと考えられる範囲(上記94万0416円の3分の2以下かつ一人3万円以下の62万6944円)では京都市は損害を被ってはいないというべきである。そして,田中支部は,127万3056円を返還しており,残額は62万6944円と上記の助成可能な金額の範囲内であるから,京都市の損害は回復されている。
モ 本件公金支出36
(ア) 証拠(甲2の25,乙9,乙63の27,乙64)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
東三条支部は,平成11年11月15日,京都市長に対し,同月27日から1泊の日程で三重県において,「青年部員の抱えている問題」,「解放運動の現状と課題」を主な内容とする(ほか,1日目に水平社博物館の見学)学習会を開催するとし,宿泊場所を三重県松阪市のホテルサンルート松阪,参加予定人数を15人,総事業予算額57万7000円として,20万円の助成を申請した。これに対して,被告Cは,同年11月22日,20万円の支出決定をした。
東三条支部は,同年12月20日,上記事業を参加人数15人,総事業費57万7000円で実施した旨の事業実施報告書を京都市長に提出した。
東三条支部は,15人が参加して,同年11月27日から1泊の日程で,水平社博物館を見学した上,上記ホテルサンルート松阪に宿泊して「狭山事件を闘う意義」についての学習会を内容とする青年部学習会を実施した(参加人数は助成申請書及び事業実施報告書に記載されたものと実際の参加人数が同じであり,総事業費も大差はないから,調査票(乙63の27の記載のとおりの学習会が行われたものと認める。)。その事業の費用として,交通費18万円,宿泊費21万2850円,食事代6万3000円,諸経費7500円,高速道路通行料等2万円,乗務員経費1万円,合計49万3350円を要した。
(イ) 上記のとおり,本件事業36に当たる事業については,参加人数は助成申請書及び事業実施報告書に記載されたもののとおりであり,総事業費も大差はなく,事業内容もおおむね一致する(「狭山事件を闘う意義」も「解放運動の現状と課題」の一部であると解することもできる。)。そうすると,本件公金支出36はそれ自体としては適法である。
そして,本件公金支出36の補助金の金額は20万円と,実際の総事業費の3分の2以下かつ一人3万円以下の範囲内にとどまっているから,総事業費を実際に要した費用よりも多額とする事業実施報告書が提出されたことによって,京都市は損害を被っていない。
ヤ 本件公金支出37
(ア) 証拠(甲2の26,甲39,甲41,乙9,乙63の11,乙69,証人F,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
千本支部は,平成11年11月16日,京都市長に対し,同年12月4日から1泊の日程で兵庫県明石市の明石ルミナスホテルにおいて,立命館大学産業社会学部M助教授を講師として,「2010年に向けた千本のまちづくりについての学習会」,「支部青年部体制の見直し並びに将来の支部幹部としての学習及び討論会」を主な内容とする青年部国内研修を開催するとし,参加予定人数を50人,総事業予算額を160万1000円として,100万円の助成を申請した。これに対して,被告Bは,同年11月25日,100万円の支出決定をした。
千本支部は,平成12年2月10日,上記事業を参加人数48人,総事業費156万9280円で実施した旨の事業実施報告書を京都市長に提出した。
しかし,千本支部は,平成11年12月4日からの日程では,何らの事業を行っていない。そして,千本支部は,調査委員会に対しては,同年11月13日から1泊の日程で,14人(調査票(乙63の11)では12人としている。)が参加して,上記明石ルミナスホテルにおいて青年部学習会を実施したとして,明石ルミナスホテルの同月13日付領収書,同日付及び同月14日の高速道路通行料の領収書等の領収書類,その研修において使用したという「国内研修資料」,上記日程の青年部国内研修の予算書,平成12年7月に開催された千本支部の議案書等の資料を提出している。また,上記「国内研修資料」の表紙には研修の日程として1999年11月12日(土)/13日(日)との記載がある(明石ルミナスホテルの領収書の日付とは合致する。)。そして,証人Fは,学習会は同ホテルのリクレーションルームにおいて実施されたと聞いていると供述する(乙69にも同趣旨の記載があり,上記「国内研修資料」中にも研修場所が同ホテルのリクレーションルームである旨を記したものがある。)。しかし,上記青年部国内研修の予算書においては,場所は兵庫県南淡町とされ,上記議案書においても上記日程の青年部国内研修は淡路島で実施した旨の記載がある。また,同ホテルにはリクレーションルームはもとより14人が学習会を行えるような部屋はない(甲39,甲41)。これら事情によると,千本支部の調査委員会に対する報告もそのまま採用することはできない。
(イ) 以上のとおり,本件事業37が実施されていないから,本件公金支出37は違法であり,本件公金支出37による補助金が何らかの助成要綱の趣旨に合致する事業に用いられたという証拠はないから,京都市は交付された補助金額100万円相当の損害を被ったというべきである。
そして,千本支部が京都市に返還したのは85万5544円にとどまるから,残額14万4456円について,京都市の損害は回復されていない。
ユ 本件公金支出38
(ア) 証拠(甲2の27,甲36,乙9,乙63の20,乙70,乙71,証人G,証人H)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
田中支部は,平成12年1月6日,京都市長に対し,同月30日から1泊の日程で北九州市b区において,c地区における現地研修として,「住民参加の町づくりについて」,「地区における女性の果たす役割」についての基調報告を主な内容とする女性の学習会を開催するとし,宿泊先を福岡市の福岡サン・ライフホテル,参加予定人数を60人,総事業予算額を270万円として,113万円の助成を申請した。これに対して,被告Bは,同年1月14日,113万円の支出決定をした。
田中支部は,同年3月28日,上記事業を参加人数55人,総事業費247万7560円で実施した旨の事業実施報告書を京都市長に提出した。
田中支部は,19人が参加して,同年1月30日から1泊の日程で,北九州市b区の同和地区であるc地区を訪れ,同地区における住環境整備事業について,北九州市職員や現地住民からの説明を受けるなどの視察調査等を行い,福岡市の博多東急ホテルに宿泊する事業を実施した。その事業の費用として,交通費及び宿泊代82万2600円,昼食代5万9850円,合計88万2450円を要した。なお,この事業には,京都市の職員二人が同行した。
(イ) 上記のとおり,本件事業38に当たる事業は,参加人数も総事業費も助成申請書及び事業実施報告書に記載されたものと大きく異なる。しかし,助成申請書及び事業実施報告書に記載された事業内容のうちの中心的な同和地区である住環境整備事業についての視察調査は行われており,その事業は,助成要綱の趣旨に合致する学習会と考えられるので,その事業については補助金を交付することはできると考えられるから,本件公金支出38が違法であるとしても,その補助金(上記88万2450円の3分の2以下かつ一人3万円以下の57万円)の範囲内では,京都市は損害を被っていないというべきである。そして,田中支部は,補助金のうち56万円を返還し,残額は57万円と上記の助成可能な金額の範囲内であるから,京都市の損害は回復されている。
ヨ 本件公金支出39
(ア) 証拠(甲2の31,乙9,乙63の12,乙69,証人F,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
千本支部は,平成12年3月9日,京都市長に対し,同月25日から1泊の日程で石川県において,「支部青年部活動の総括及び今後の取組方針について」及び「支部子ども会活動について」の学習会と自然観察会(星座,野鳥)を主な内容(1日目の金沢市長町研修館の視察を含む。)とする青少年宿泊研修を開催するとし,宿泊先を保養所ちりはま,参加予定人数を50人,総事業予算額を113万1000円として,70万円の助成を申請した。これに対して,被告Cは,同月10日,70万円の支出決定をした。
その後,千本支部は,同年4月4日,上記事業を参加人数48人,総事業費109万7400円で実施した旨の事業実施報告書を京都市長に提出した。
千本支部は,18人(うち中学生5人)が参加して,同年3月25日から1泊の日程で,1日目は金沢市の長町研修館において武家屋敷の見学,金沢市の子供会について講演を受けた上,上記ちりはまに宿泊する「中3生子ども会合同宿泊学習会」を実施した。その事業の費用として,交通費28万3000円,宿泊費9万8000円,室料2万8000円,飲物代9500円,昼食代7万2000円,資料印刷代1万8000円,保険料等諸雑費3万5100円,合計54万3600円を要した。
(イ) 上記のとおり,本件事業39に当たる事業については,参加人数も総事業費も助成申請書及び事業実施報告書に記載されたものと大きく異なっている。しかし,上記のとおり,18人が参加しての青少年宿泊事業に該当する事業が行われており,その事業についても助成要綱の趣旨に合致するものとして助成し得るものと考えられるから,本件公金支出39が違法であったとしても,京都市は,実際に行われた事業として助成可能であった補助金(上記54万3600円の3分の2以下かつ一人3万円以下の36万2400円)の範囲内では損害を被っていないというべきである。そして,千本支部は,36万2400円補助金のうち33万7600円を返還しており,残額はと上記の助成可能な金額の範囲内であるから京都市の損害は回復されている。
(3) (2)で認定判断した本件各公金支出のうち,違法であり,それによる京都市の損害が回復されていないもの及び回復されていない損害額を,支出決定をした被告ごとにまとめると,以下のとおりとなる。
ア 被告A
本件公金支出5に係る42万8132円
本件公金支出7に係る45万9828円
本件公金支出8に係る45万円
合計133万7960円
イ 被告B
本件公金支出22に係る18万5112円
本件公金支出37に係る14万4456円
合計32万9568円
ウ 被告C
本件公金支出14に係る28万0323円
本件公金支出19に係る20万円
本件公金支出25に係る36万2659円
本件公金支出34に係る30万円
合計114万2982円
エ 被告D
本件公金支出3に係る8667円
本件公金支出13に係る57万4266円
合計58万2933円
オ 被告E
本件公金支出11に係る57万円
本件公金支出15に係る10万7366円
本件公金支出27に係る17万1292円
本件公金支出29に係る33万円
合計117万8658円
2 被告らの責任について
(1) 証拠(甲7,甲15から甲33まで)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 京都市議会においては,平成4年ころから,議員らから助成要綱に基づく補助金の交付についての問題を指摘し,補助金の支出の必要性や,支出方法の適正性について疑問視する発言がされていた。これに対し,京都市の市民局長(当時)や助役は,書類審査あるいは現認などにより事業実施の確認を適正に行っている旨,実施内容や人数等を確認するなど適正な実施に努めている旨,実施内容や人数を確認するとともに,事業終了後事業実施報告書を提出させるなど適正な執行に努めている旨などの答弁を行っていた。
イ 雑誌「ねっとわーく京都」(京都市職員労働組合が母胎となって発行されており,これを購読する京都市職員も少なくない。)の平成9年7月号に,助成要綱に基づく補助金の支出について,不正支出の疑いがある旨の記事が記載された。
(2) 本件各事業として行われた事業には,京都市の担当職員が同行したものが少なくなく,その中には,明らかに助成申請書及び事業実施報告書の記載と参加人数等が異なっているものも少なくなかった(例えば,職員7人が同行した本件事業4及び本件事業5として実施された事業については,前記のとおり,本件事業5に相当する事業は全く行われていない。)。したがって,同行した職員は,実施された事業と助成申請書及び事業実施報告書の記載とが相違していることを知っていたはずであるのに,京都市においては,その後,調査委員会が設置されるまで,そのことが問題とされていない。
そうすると,平成8年度以前に助成要綱に基づいて補助金が交付された事業についても,助成申請書及び事業実施報告書の記載と実際に行われた事業内容が異なっているものがあったこと,京都市の職員は,そのことを知っていたことを推認することができる。
また,証拠(乙6,乙7,乙71,証人Q,証人H)によると,平成9年度から平成11年度までの間においても,京都市における助成要綱に基づく補助金支出を取り扱う現場の担当者には,同盟各支部からの助成申請には,架空事業についてのものがあることを認識していた者もいたが,その者も支出する補助金については,同盟各支部への団体補助に類するものとして,同盟各支部が年間を通じて何らかの事業に使用すれば良いと考え,同盟各支部からの申請書について,申請が予算の範囲内であるかのみを形式的に確認して決裁書を起案し,決済に回していたことが認められる。
(3) 本件各公金支出に係る助成申請は,助成要綱の求める事業の20日より前に助成申請書が京都市長に提出された場合はむしろ少なく(前記2(2)),助成申請の際に,助成申請書及び事業計画書のほかに,助成申請書記載の記載内容を確認する資料が添附されたものはなく,事業実施報告書に事業の実施を証する証明書等が添附されたものもなかった(甲2,甲3(いずれも枝番を含む。))。
なお,助成申請書の用紙には,周知文書があればそれを添付することを求める文言が記載されている。
(4) 以上のとおり,被告らは,平成9年度より前から,助成要綱に基づく補助金について不正があるとの指摘がされており,助役らが,市議会において事業内容の確認等によって適正な実施に努めているなどと答弁していることを知っていたか,容易に知り得たのであり,また,平成8年度以前の助成要綱に基づいて補助金が交付された事業に架空事業が少なくないことは,これらの事業に同行した職員等から事業の実施状況について聴取するだけで,容易に知ることができた。そして,平成9年度から平成11年度の間においても,上記のとおり,担当者の中には助成要綱に基づく助成申請の中に,架空事業のものがあることを認識していた者がいたというのであるから,被告らにおいてもそれを認識することは困難ではなかった。そうすると,被告らとしては,本件各支出決定のうち前記で違法と認定判断したものについては,予定宿泊先の見積書,予約確認書等の添附を求めるなどして,助成申請に係る事業が,架空事業ではないことを確認した上で,支出決定をすべきであったのに,少なくとも重大な過失によってこれを怠ったというべきである。
したがって,被告らのうち,本件各公金支出のうち前記違法と認定判断したものについて支出決定をした者は,当該支出決定によって京都市が被った損害について,賠償責任を免れない。
第4結論
以上の次第であるから,原告の請求は,主文1項ないし5項掲記の限度で理由があるのでこれを認容し,その余は理由がないので棄却し,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,64条本文,65条に従い,主文のとおり判決する。なお,仮執行宣言については,相当でないからこれを付さないこととする。
(裁判長裁判官 水上敏 裁判官 下馬場直志 裁判官 財賀理行)
(別紙省略)