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京都地方裁判所 平成13年(行ウ)13号 判決 2001年11月30日

原告

被告

左京税務署長

貴田英治

被告指定代理人

山上富蔵

相沢褜雄

丸尾広人

吉良賢司

今井景子

鴫谷卓郎

主文

1  原告甲の訴えのうち、被告が同原告に対し平成11年12月22日付でした相続税に関する更正処分のうち納付すべき税額2403万8800円を超えない部分の取消しを求める部分は、これを却下する。

2  原告甲のその余の請求及び同乙の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  被告が原告甲(以下「原告甲」という。)に対し平成11年12月22日付でした相続税に関する更正処分(以下「本件更正処分1」という。)及び過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分1」という。)は、いずれも取り消す。

2  被告が原告乙(以下「原告乙」という。)に対し平成11年12月22日付でした相続税に関する更正処分(以下「本件更正処分2」という。)及び過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分2」という。)は、いずれも取り消す。

第2事案の概要

本件は、原告らが、被告の本件更正処分1、本件賦課決定処分1、本件更正処分2及び本件賦課決定処分2は、課税とは別の不当な目的を達するための手段として行われた違法な税務調査に基づくものであり、いずれも違法であると主張して、被告に対し、同各処分(以下「本件各処分」という。)の取消しを求めた抗告訴訟である。

1  争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実は、以下のとおりである。

1 丙(以下「丙」という。)は、平成9年4月13日に死亡し、その妻である原告乙、長男である原告甲及び長女である己さよ子の3名がこれを共同相続した(以下「本件相続」という。)。

2  原告ら及び前記己は、平成10年2月12日、被告に対し、連名で、本件相続に係る相続税の申告をした(このうち原告甲の申告を以下「本件申告1」、原告乙の申告を以下「本件申告2」という。)。

本件申告1及び本件申告2(以下「本件各申告」という。)は、原告甲の課税価格を1億5328万7000円、原告乙の課税価格を1億2250万8000円、課税価格の合計額を2億7579万5000円とした上で、原告甲の納付すべき税額を2403万8800円(本件申告1)、原告乙の納付すべき税額を0円(本件申告2)とするものであった。

原告甲は、その後、国に対し、本件申告1における上記納付すべき税額に相当する金員を納付した。

3  左京税務署の担当職員(以下「担当職員」という。)2名は、平成11年4月16日、原告ら宅を訪問し、本件各申告に係る相続税に関する質問及び検査を行った(以下「本件調査」という。)。

4  被告は、同年12月22日付で、本件各処分をした。

本件各処分は、本件各申告につき、相続税の基礎とすべき相続財産の一部が欠落していたとして、原告甲の課税価格を1億5451万7000円、原告乙の課税価格を1億2496万8000円、課税価格の合計額を2億8071万4000円とした上で、原告甲の納付すべき相続税額を2457万5100円(本件更正処分1)、原告乙の納付すべき相続税額を39万2200円(本件更正処分2)とし、さらに、原告甲の納付すべき過少申告加算税の額を5万3000円(本件賦課決定処分1)、原告乙の納付すべき過少申告加算税の額を3万9000円(本件賦課決定処分2)とするものであった。

5  原告甲は本件更正処分1及び本件賦課決定処分1についての、原告乙は本件更正処分2及び本件賦課決定処分2についての、各異議申立てを、平成12年2月22日、被告に対してした。

被告は、同年5月22日付で、上記各異議申立てにつき、棄却する旨の決定をした。

原告甲は本件更正処分1及び本件賦課決定処分1についての、原告乙は本件更正処分2及び本件賦課決定処分2についての、各審査請求を、同年6月23日、国税不服審判所に対してした。

国税不服審判所は、平成13年1月30日付で、上記各審査請求につき、棄却する旨の裁決をし、原告らにこれを通知した。

2 争点及びこれに関する当事者の主張

本件調査につき、本件各処分の取消事由となるべき違法性があるか否か。

(原告らの主張)

本件調査は、相続税の課税との関係では必要性がないのに、課税目的とは別の不当な目的をもって行われた。本件調査及び本件各処分は、原告宅での家宅侵入、家捜し、書類の盗難、組織的集団ストーカー等の事件の一環として、それらの首謀者の指示によってされたものであり、違法である。よって、本件調査に基づく本件各処分はいずれも取り消されるべきである。

(被告の主張)

本件調査は、本件各申告に関し調査が必要との判断のもとに、適正公平な課税を実現する目的のために実施されたものであり、それ以外の目的のために行われたものではなく、何ら違法な点はない。

第3当裁判所の判断

1  前記第2の12によれば、原告甲は、本件申告1において、納付すべき税額を2403万8800円として申告しているのであるから、原告甲の本件相続に係る相続税の納税義務のうち、納付すべき税額2403万8800円を超えない部分については、本件申告1によって確定したものであって、本件更正処分1によって確定したものではない。

よって、本件更正処分1のうち納付すべき税額2403万8800円を超えない部分については、その取消しを求める利益はないというほかなく、この部分に関する本件訴えは、不適法なものというべきである。

2  甲1ないし6(枝番を含む。)、原告甲に対する本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

1 丙は、本件相続の開始当時、安田火災海上保険株式会社との間の別紙目録記載の内容の損害保険契約に基づく同社に対する解約返戻金請求権(以下「本件返戻金請求権」という。)、及び名古屋市東区白壁の土地上のアスファルト舗装路面(以下「本件構築物」という。)の所有権を有していた。

本件相続当時、本件返戻金請求権の価額は336万1400円であり、本件構築物の適正な時価は184万7274円を下回らない。

また、本件相続以前から、原告甲及び原告乙名義の、A生命保険相互会社との生命保険契約があった。

2 原告らは、平成9年10月30日、本件相続にかかる相続税申告に関する事務を、己税理士に委任した。

原告ら及び前記己は、同年12月8日付で、本件相続に係る遺産分割協議を成立させた。その際、本件返戻金請求権及び本件構築物は、分割の対象とならなかった。

原告らは、平成10年2月12日、己税理士を通じて本件各申告を行った。その際、本件返戻金請求権及び本件構築物を、相続税の課税価格の算定の基礎財産としなかった。

3  担当職員は、本件調査のころまでに、本件返戻金請求権及び本件構築物の存在を把握した。

そこで、同担当職員は、平成11年4月9日、原告乙に対し、電話により、税務調査を行いたい旨申入れ、同月16日に訪問することを約した。

4ア  本件調査を実施した担当職員の丁氏及び戊氏は、同年4月16日午前10時ころ、原告ら宅を訪問した。同担当職員らは、少なくとも原告乙に対して、身分証明書を提示し、同原告はその内容の一部をメモした。

イ  上記担当職員らは、原告らとテーブルを囲んで座り、原告らに対し、丙の職歴や原告甲の株取引に関する質問をした。その間、上記担当職員らは、一度、原告らに対して、丙の過去の銀行預金通帳の提示を求めたことがあったが、原告甲が出せない旨回答すると、それ以上は求めなかった。

ウ  その後、上記担当職員らは、原告らに対し、本件各申告について、申告されている株式の株数が実際より少ないのではないかとの疑問を示したり、原告甲名義のA生命保険相互会社(以下「A生命」という。)との保険契約の保険料を丙が負担していたのであれば、本件相続に係る相続税の基礎財産を構成するとの説明をしたり、本件返戻金請求権、本件構築物に関する申告漏れがある旨説明したりして、原告らの対応を求めた。

これに対し、原告甲は、他の相続人(前記己)とも相談して対応したい旨回答した。

エ  上記担当職員らは、上記の問答が終わった午後2時半ころ、本件調査が終了した旨を告げて、原告ら宅を辞した。

5  担当職員は、同年5月31日、再び原告ら宅を訪問して、原告らに対し、本件返戻金請求権及び本件構築物について修正申告の必要がある旨を伝え、さらにその後、原告甲の求めに応じて、文書により同修正申告の必要性を説明した。

しかし、原告甲は、担当職員に対し、同年6月15日到達の郵便により、修正申告の必要はないとの考えを伝えた。

担当職員は、同月29日及び同年11月26日、原告乙に対し、再度電話により、上記修正申告の必要性を説明し、修正申告をする意思の有無を確認した。

しかし、原告甲は、同年12月3日、担当職員に対し、電話により、上記修正申告はしない旨の回答をした。

6  被告は、同月22日付で、本件各処分をした。

3 以上の事実を前提として、以下、争点について判断する。

1 税務署の当該職員は、相続税に関する調査について必要があるときは、納税義務者又は納税義務があると認められる者に質問し、又はこれらの者の財産もしくはその財産に関する帳簿書類を検査することができる(相続税法60条1項)。この場合の質問検査の範囲、程度、時期、場所等、実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまるかぎり、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解すべきである(最判昭和48年7月10日・刑集27巻7号1205頁参照)。

これを本件についてみるに、前記認定事実によれば、本件各申告に関しては、本件調査の実施当時、本件返戻金請求権、本件構築物、株式、A生命保険相互会社との保険契約等についての申告漏れが存在すると考えることにつき十分な根拠があったものと認められるから、原告らに対して税務調査を実施する一般的な必要性はあったものといえる。

そして、本件調査の具体的な態様としては、担当職員が、訪問予定を事前に通知した上で、本件調査当日の午前10時ころ原告ら宅を訪問し、同日午後2時半ころまで、テーブルを囲んで、丙の職歴や、原告甲の株取引に関する質問をしたり、丙の過去の銀行預金通帳を任意に提示するよう求めたり、株式、A生命との保険契約、本件返戻金請求権及び本件構築物について、申告漏れであると判断し又は疑っていることを通告して、原告らの説明を求めたりした、というものであって、いずれも、本件申告における前記申告漏れの存否に関する調査のために必要があり(原告らは、丙の職歴や原告甲の株取引に関する調査は税務調査ではないと主張するが、いずれも、本件相続に係る相続財産の範囲を確定するため必要であることは明らかである。)、かつ、原告らの私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまっているということができる。

2 原告らは、被告や担当職員は本件調査の実施以前に本件返戻金請求権や本件構築物についての申告漏れがあると判断していたのであるから、さらに税務調査を行う必要はなかったと主張する。

しかしながら、仮に、本件返戻金請求権や本件構築物につき申告漏れであることがほぼ間違いないといえるような状況であったとしても、相続人本人は、通常、相続に関する事情を最もよく知っていると考えられ、相続人本人しか知らない重要な事情が存在することも十分あり得るのであるから、担当職員において、上記申告漏れについての修正申告を促すなどする前に、その前後の事情を確認し、資料の提出を促し、原告らの見解を確かめておくことには、小さからぬ意義があったものというべきであって、その必要性を否定することもできない。

よって、原告らの上記主張は理由がない。

3 また、原告らは、本件調査と時期を同じくして、家宅侵入、書類の盗難、組織的集団ストーカー等の被害に遭った、同ストーカー参加者複数を左京税務署内で見かけた、本件更正処分1及び本件更正処分2による増加額が少額である、本件調査の実施についての事前通知の際には原告らに対する相続税の調査であるとは言っていなかった、本件調査の際にも相続税に関する具体的な質問検査はなかった、担当職員の1人が便所に行くと称して10分間近く行方知れずになった、家宅捜索権があることを強調した等と主張して、本件調査は、税務調査とは別の目的で、組織的犯罪の一環として行われたものであると主張する。

しかし、本件調査については、前記のとおり、本件各申告との関係で必要性が認められるのであり、本件の各証拠によっても、本件調査が本来の税務調査以外の目的で行われたことを認めるには足りず、その他、このことを的確に裏付ける証拠はない。

原告らの主張は理由がない。

4 その他、本件調査の違法性を認めるに足りる証拠はなく、本件調査は適法であったというべきである。

四 原告甲は、本件各処分の実体的内容にも誤りがある旨供述しているが、その根拠としては、一般の実務においては税金がかからないものだと思うなどというだけである。そして、被告が原告らに対する本件相続に係る相続税の課税要件について、別表のとおり主張するにもかかわらず、これらの各内訳について、原告らは、いずれも、認否をせず、課税価格や税額の計算の誤りについての具体的な主張立証をせず、前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば、被告主張の課税価格や税額の計算については誤りはなく、その主張のとおりと認められる。

その他、本件各処分の取消事由を認めるに足りる証拠はない。

5 したがって、本件訴えのうち、本件更正処分1のうち納付すべき税額2403万8800円を超えない部分の取消しを求める部分については、不適法であるからこれを却下し、原告甲のその余の請求及び原告乙の請求については、いずれも理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法7条、民訴法61条、65条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 八木良一 裁判官 古谷恭一郎 裁判官 秋吉信彦)

(別紙)

目録

契約者 丙

保険の種類 長期総合保険

保険期間 昭和63年4月2日から平成10年4月2日まで

保険の目的 建物、家財

別表1

課税価格及び相続税の総額の計算明細表

(単位:円)

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