京都地方裁判所 平成13年(行ウ)19号 判決 2003年7月10日
主文
一 被告が原告に対して平成11年6月24日付でした平成7年7月1日から同年9月30日までの課税期間の消費税に係る重加算税の賦課決定処分(国税通則法65条所定の過少申告加算税部分を含む。)は,これを取り消す。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は,これを4分し,その1を被告の,その余を原告の各負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告が原告に対して平成11年6月24日付でした平成7年7月1日から同年9月30日までの課税期間の消費税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。
第二事案の概要
本件は,原告が,平成7年7月1日から同年9月30日までの別表①のとおりのアメリカ合衆国に所在する2社への電子機器等の輸出取引(以下「本件輸出取引」という。)に係る消費税の控除不足還付税額があるとして,平成8年7月1日付でした消費税の確定申告(以下「本件還付申告」という。)について,被告が,本件輸出取引は原告によるものではなく,有限会社a(平成9年3月5日付でa株式会社に組織変更,以下,「a社」という。)によるものであり,原告に対する控除不足還付税額はないとして,平成11年6月24日付でした更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び重加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい,本件更正処分と併せて「本件各処分」という。)は,本件還付申告や還付金の受領がa社の代表者のbの指示によるものであり,原告は単にa社に対し名義を貸しただけである点,及び,原告には仮装・隠蔽の意図がなかった点において,いずれも違法な処分であるなどと主張して,被告に対し,本件各処分の取消しを求めた抗告訴訟である。
一 争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実は,以下のとおりである。
1 平成7年9月12日,被告に対し,原告名義で,個人事業の開業等の届出書(乙1,平成7年1月1日開業。),消費税法9条4項の規定により同条1項本文の規定(納税義務の免除の規定)の適用を受けない旨を記載した消費税課税事業者選択届出書(乙2,適用開始課税期間は平成7年1月1日から同年12月31日まで。)及び同法19条1項3号の規定により課税期間を短縮する旨を記載した消費税課税期間特例選択届出書(乙3,適用開始日を平成7年7月1日に短縮。)が提出された。
2 平成8年3月18日,被告に対し,原告名義で,総所得金額を150万円(事業所得の金額0円,給与所得の金額150万円),納付すべき税額を0円とする平成7年分の原告の所得税の確定申告書(乙4)に平成7年分の原告の所得税の収支計算書(乙5)が添付されて提出された。また,同日,原告名義で,課税標準額を0円,課税標準額に対する消費税額を0円,控除対象仕入税額を218万5888円,控除税額を218万5888円とする平成7年1月1日から同年12月31日までの課税期間の原告の消費税の確定申告書(乙6)が提出された(以下「当初の還付申告」という。)。この確定申告書の内容は,原告が本件輸出取引をしたもので,原告は控除対象仕入税額分218万5888円の還付を受けるべきものである,というものであった。
3 平成8年7月1日,被告に対し,原告名義で,上記確定申告書には課税期間の記載誤りがあるとして,これを取り下げる旨記載した届出書(乙7)が提出されるとともに,消費税法46条1項所定の還付を受けるための,別表②「課税の経緯」の「還付申告」欄記載のとおり,課税標準額を0円,課税標準額に対する消費税額を0円,控除対象仕入税額を218万5888円,控除不足還付税額を218万5888円とする平成7年7月1日から同年9月30日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税の原告名義の確定申告書(乙8)が提出された(本件還付申告)。本件還付申告の内容も,課税期間を除いて当初の還付申告の内容のとおりであった。
4 被告は,平成8年8月30日,本件還付申告の申告書に記載された控除不足額に相当する消費税の還付金218万5888円に還付加算金1万3000円を加算した金額219万8888円を,原告名義の三和銀行h支店の普通預金口座に振り込み,送金した。
5 平成9年1月14日,被告に対し,いずれも原告名義の,個人事業の廃業届出書(乙10,平成8年12月31日廃業。),及び,平成9年分の所得税の申告以降は青色申告による申告を取りやめる旨を記載した所得税の青色申告取りやめ届出書(乙11)が提出された。
6 被告は,平成11年6月24日,本件輸出取引は原告によるものではなく,a社によるものであると判断し,本件課税期間において,原告には消費税控除対象仕入れ税額はないとして,原告に対し,別表②「課税の経緯」の「更正処分等」欄記載のとおり,控除対象仕入税額及び控除不足還付税額が0円である旨の更正処分(本件更正処分),及び,重加算税の額が76万3000円である旨の賦課決定処分(本件賦課決定処分)をした。
7 原告は,平成11年8月23日,被告に対し,本件各処分について異議申立てをしたが,被告は,同年11月26日付で,これらをいずれも棄却する旨の決定をした。
また,原告は,同年12月27日,国税不服審判所長に対し,審査請求をしたが,国税不服審判所長は,平成13年2月28日付で,これらをいずれも棄却する旨の裁決を行った(甲1)。
8 そこで,原告は,平成13年6月12日付で,本件訴訟を提起した。
9 国税通則法(以下「法」という。)の定め
(1) 法68条1項は,法65条1項(過少申告加算税)の規定に該当する場合において,納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし,又は仮装し,その隠ぺいし,又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは,当該納税者に対し,政令で定めるところにより,過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え,当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定する。
(2) 法65条1項は,期限内申告(還付請求申告書を含む。)が提出された場合において,修正申告書の提出又は更正があったときは,当該納税者に対し,その修正申告又は更正に基づき,法35条2項の規定により納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する旨規定する。
そして,法65条4項は,同条1項に規定する納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちにその修正申告又は更正前の税額(還付金の額に相当する税額を含む。)の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には,1項に規定する納付すべき税額からその正当な理由があると認められる事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除して,1項の規定を適用する旨規定する。
(3) 前記の法35条2項の規定により納付すべき税額とは,更正通知書に記載された法28条2項3号イないしハに掲げる金額とされている(法35条2項2号)。そして,法28条2項においては,更正通知書には,更正前の課税標準等及び税額等並びに更正後の課税標準等及び税額等と共に,「その更正前の還付金の額に相当する税額がその更正により減少するときは,その減少する部分の税額」を記載しなければならないとされている(同項3号ロ)。
(4) なお,法24条は,税務署長は,納税申告書の提出があった場合において,その納税申告書に記載された課税標準等又は税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったとき,その他当該課税標準等又は税額等がその調査したところと異なるときは,その調査により,当該申告書に係る課税標準等又は税額等を更正する旨を規定する。
二 争点及びこれに関する当事者の主張
1 本件更正処分は適法か。具体的には,本件還付申告は原告がしたもので,本件輸出取引は原告がしたものではないか否か。
(被告の主張)
(1) 本件還付申告は,その申告書の記載(屋号「c」,氏名「d」)からしても,原告がしたことは明らかである。
(2) 本件輸出取引は,輸出先からの注文書がa社宛であること,取引に係る売上代金もa社名義の銀行預金口座に振り込まれていること,取引に伴う航空運賃等及び銀行手数料もa社が負担していること,原告自身事業を営んでいないことを認めていることからしても,a社がしたもので,原告がしたものではない。
(3) したがって,原告は,本件輸出取引が自己に帰属しないにもかかわらず,自己に帰属するものとして,自己の意思に基づき本件還付申告を行ったことになる。被告が控除不足還付税額を0円として原告に対してした本件更正処分は適法である。
(原告の主張)
(1) 原告は,a社の従業員であり,その代表者であるbの指示に従い,その使者として,本件還付申告をしたにすぎない。単に,bに原告の名義を貸しただけである。原告は,消費税関係の書類の作成については署名押印したこともなく,作成を依頼したこともない。申告書等に印影のある原告の印鑑はa社に保管されていた。
(2) 仮に原告が本件還付申告をしたとしても,本件輸出取引は,原告の個人事業として行われたものといえる。例えば,本件輸出取引は,eこと原告とエターナル・エレクトロニクス社及びACDC社との間で行われた。ただ,仕入れがa社によってされたので,代金決済はa社によってされたにすぎない。
2 本件賦課決定処分は適法か(争点2)。
(被告の主張)
(1) 原告は,bからの依頼により,bと通謀して,真実は,原告はcとして何ら事業を行っておらず本件輸出取引を行っていないにもかかわらず,個人事業の開業等の届出書,消費税課税事業者選択届出書及び消費税課税期間特例選択届出書を提出するなどして,a社に帰属する本件輸出取引を原告が行ったかのように仮装し,仮装したところに基づき,本件還付申告書を提出した。
(2) 仮に,原告が直接仮装行為をしなかったとしても,原告は,本件還付申告書等の作成の基礎となる資料の提示などについてbに一任していたのであり,bは,本件輸出取引を原告がしたものと仮装したことは明らかであり,bの行為は原告の行為と同視すべきものである。
(3) 法24条,28条2項,35条2項,65条1項及び68条1項によれば,原告は,本件更正処分により「還付金の額に相当する税額の減少部分」の納税義務(法28条2項3号ロ,法35条2項2号)を負うから,法2条5号及び法65条1項に規定する納税者に当たる。したがって,原告のように,消費税法に定められた本件課税期間の消費税の納税義務のない者が,控除不足の還付請求をした場合であっても,その者は法65条所定の当該「納税者」に当たり,更に,法68条1項により,その者に重加算税を賦課することができると解される。
(原告の主張)
(1) 原告は,本件還付申告により納税者として利益を享受するという認識はなく,単にbの従業員として本件還付申告をしたに過ぎない。原告は,隠蔽・仮装行為の意図を有していなかった。
(2) 法68条1項には,法65条1項のように「期限内申告(還付請求申告書を含む・・・)が提出された場合」のような記載が存在しない以上,還付請求申告の場合には,重加算税の規定を適用することはできない。
第三当裁判所の判断
一 甲1ないし4,乙1ないし43(枝番を含む。),45,47ないし49(以下「本件各証拠」という。)及び弁論の全趣旨によれば,以下のとおり認められる。
1 a社は,コンピュータ部品を輸入し,国内のパソコンの販売業者に卸売りすること等を業とする有限会社で,その代表者はbで,従業員はアルバイトを含めて数人であった。
2 a社は,平成7年7月1日から同年9月30日までの間に,別表①の「各インボイスの記載内容」のとおりの本件輸出取引をし,同表の「本件輸出取引の決済内容」のとおりの入金があった。
3 しかし,a社のbは,本件輸出取引に係る前記の売上を同社の益金に計上せず,取引の事実を隠蔽して,本件輸出取引は原告個人がしたものであると仮装し,同社の法人税を違法に免れると共に,原告に本件輸出取引に係る消費税について,仕入税額控除分の還付申告をさせて,原告にその還付金を取得させて,その後,その還付金を原告からa社が取得しようと企てた。
4 そこで,原告は,bの指示に基づき,本件還付申告を含む消費税の確定申告手続等を行うために,自己が営業を営んだ事実がなかったにもかかわらず,個人事業の開業等の届出書(乙1)を作成し,平成7年9月12日付で,被告に提出し,平成7年1月1日に電子機器輸出入卸売業を開業した旨を被告に届け出ることで,自己が個人事業者であるかのように装った。
また,原告は,同様に,bの指示に基づき,当初の還付申告及び本件還付申告を被告に提出することを可能にするために,消費税法9条1項本文の規定(納税義務の免除の規定)の適用を受けない旨を記載した消費税課税事業者選択届出書(乙2)及び消費税課税期間特例選択届出書(乙3)を自ら記載の上,押印し,平成7年9月12日付で,被告に提出した。上記の各届出書(乙1ないし3)には,いずれも,原告の屋号として,「a(c)」と記載されていた。
さらに,原告は,bの指示に基づき,本件還付申告による還付金の振込口座として,三和銀行h支店に原告名義の普通預金口座を開設した。
5 その後,b及び原告は,本件還付申告により還付金を受け取るために,平成8年1月ころ,おぎ堂会計事務所のf事務員に対し,原告の平成7年分の所得税の確定申告書(乙4),平成7年分の所得税の収支計算書(乙5)及び当初の還付申告書(乙6)の作成を依頼した。その際,bが,fに対し,上記申告書等の記載内容の説明をした。
fは,bから提示された資料等に基づいて,本件輸出取引の主体は原告(c),その売上は輸出売上,その仕入れは国内の取引先として,上記申告書等を作成した。その後,fは,上記申告書等を原告に手渡し,所得税の申告に関し,売上金額,仕入金額,諸経費の金額,所得金額及び所得税の税額の説明をし,消費税の申告に関し,課税標準額,控除税額,還付金額の説明をし,還付金は申告書を提出してから約1か月ないし2か月程で振り込まれる旨の説明をした。また,その際,fは,原告に対し,還付金の振込口座を聞いたところ,原告が当初の還付申告書の「還付を受けようとする金融機関」欄に原告名義の前記銀行口座名を記載した。
原告は,fの上記説明を聞き,上記申告書等の内容を了知した上,これらに押印し,平成8年3月18日付で,これらを被告に提出した。
6 ところが,当初の還付申告書には,課税期間に関して誤りがあったため,被告の職員は,原告に対し,課税期間の誤りの指摘及びその訂正を促す旨の連絡をした。原告は,被告の職員に対し,上記申告書等はfが作成したものであるので,fに対して連絡をするよう要望した。
そこで,被告職員がfに連絡したところ,fは,当初の還付申告書の取下書(乙7),本件還付申告書(乙8)及び平成7年10月1日から同年12月31日までの課税期間の消費税の確定申告書(乙9)を作成した。
その後,fは,原告に対し,当初の還付申告書には課税期間に誤りがあったこと,そのため,当初の還付申告書について取り下げる旨を記載した書類を提出すると共に,正しい課税期間に係る消費税の確定申告書を提出する必要があること,当初の還付申告書と本件還付申告書とはその内容自体は同一のものであることなどを説明し,これらの書類に原告の押印を得た上で,平成8年7月1日付で,被告にこれらの書類を提出した。
7 その後,被告は,前記第二の一のとおり,平成8年8月30日,消費税の還付金218万5888円に還付加算金1万3000円を加算した金額219万8888円を,原告名義の銀行口座に振り込み,還付金を送金した。その後,この還付金相当額の金員は,a社が取得した。
8 bは,a社の代表者として,平成8年9月30日,平成7年8月1日から平成8年7月31日までの事業年度の法人税の申告をしたが,同申告では,本件輸出取引による売上を除外するなどしていた。
9 原告は,bの指示に基づき,平成9年1月14日付で,個人事業の廃業届出書(乙10)及び所得税の青色申告の取りやめ届出書(乙11)を自ら作成して,被告に提出した。
10 その後,平成10年9月ころから,a社に対する前記の法人税の調査が行われた。bは,同年10月ころ,調査を担当していたg上席調査官に対し,本件輸出取引の主体がcである旨記載した虚偽のインボイスを作成,提出した上,本件輸出取引はcの売上である旨の虚偽の説明をした。
11 その後,被告は,調査の結果,本件輸出取引は原告によるものではなく,a社によるものであることが分かり,平成11年3月9日,a社に対して法人税の前記の申告についての更正及び重加算税の賦課決定処分をし,その後,同年6月24日付で,原告に対し,本件各処分をした。
二 争点1について
1 確かに,原告は,a社の1従業員であり,その代表者であるbの指示に従って行動をする必要があったことが窺えるが,本件各証拠に照らしても,原告が,bから,本件還付申告等について何ら説明を受けることがなかったとは考えられず,むしろ,本件各証拠によれば,前記認定のとおり,原告は,自己の意思に基づき,本件還付申告をしたものと認めるのが相当である。
2 また,本件各証拠によれば,輸出先であるエターナル・エレクトロニクス社からの購入注文書の注文請先がa社であること(乙17の1及び2),本件輸出取引に係る売上代金がa社名義の信用金庫の預金口座に振り込まれていること(乙18ないし25の2),本件輸出取引に伴う航空運賃等及び銀行手数料をa社が負担していること(乙19,24の1ないし28の4),原告がcの屋号を使用して所得税及び消費税の確定申告を行ったのは平成7年度分だけであること,そもそも原告自身,原告ないしcに本件輸出取引が帰属するか否かについて,当事者ではないため不知という旨の陳述をしていること(第4回口頭弁論),以上からすれば,前記認定のとおり,本件還付申告に係る本件輸出取引は,a社に帰属すると認めるのが相当である。
3 以上により,本件輸出取引は,原告によるものではないのに,原告が本件還付申告したものであり,本件課税期間において,原告について,他に消費税法が定める課税要件事実があったとの主張・立証はないから,控除対象仕入税額0円,控除不足還付税額0円とする本件更正処分は適法であることが明らかである。
三 争点2について
1 重加算税を定めた法68条1項は,法65条1項の過少申告加算税の規定に該当する場合において,納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし,又は仮装し,その隠ぺいし,又は仮装したところに基づき,納税申告書を提出したときは,重加算税を課すると規定し,法2条5号は,納税者とは,国税に関する法律の規定により国税を納める義務がある者及び源泉徴収による国税を徴収して国に納付しなければならない者をいうと規定している。そして,前記の認定・判断によれば,原告は,本件輸出取引の帰属主体ではなく,本件課税期間において,原告について,他に消費税法が定める課税要件事実があったとの主張・立証はない。したがって,原告は,本件還付申告の時点においては,本件課税期間の消費税の納税義務者ではなかったことになるので,そもそも,このように,還付申告の時点で消費税の納税義務者ではない者に対して,過少申告加算税が課せられるのか否か,仮に課することができるとしても,更に,同税に代えて,法68条1項所定の重加算税を課することができるかどうかが問題になる。
2 この点につき,被告は,本件更正処分があったことにより,原告は,法28条2項3号ロ,法35条2項2号の「還付金の額に相当する税額の減少部分」についての納税義務を負うことになるから,法2条5号の「納税者」に該当し,したがって,原告は,過少申告加算税を定めた法65条1項の当該「納税者」に該当し,更に,重加算税を定めた法68条1項の納税者にも該当するとの趣旨の主張をする。
3 しかしながら,原告は,法65条1項所定の当該納税者に該当するとはいえないと解され,したがって,原告に対し,同条による過少申告加算税を課することはできず,したがって,それを前提とした法68条1項所定の重加算税を課することもできないというべきである。その理由は,以下のとおりである。
4 還付申告があった後に更正があって,それによって還付金の額が減少した場合についての法の規定をみると,法は,28条2項3号ロにおいて,更正通知書には,「その更正前の還付金の額に相当する税額がその更正により減少するときは,その減少する部分の税額」を更正通知書に記載することを求め,法35条2項は,同項2号所定の更正通知書に記載された前記の減少する部分の税額の金額「に相当する国税の納税者」は,「その国税を」更正通知書が発せられた日の翌日から起算して1月を経過する日までに納付しなければならないと規定している。そして,法65条は,これらの規定を前提にして,「当該納税者に対し」,法35条2項の規定により「納付すべき税額」に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する旨を規定し,更に,法68条1項の重加算税は,法65条1項の規定に該当する場合に,更に,追加要件として,「納税者が・・・・隠ぺい又は仮装し,その隠ぺい又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは」と規定して,過少申告加算税に代えて重加算税を課すると規定している。
5 被告の前記主張によれば,前記の場合には,法は,還付金の減少部分について,この部分について申告者が申告の時点で納税義務を負っていたか否かを問わず,これを常に更正により一種の納税義務がある状態になったものとみなし,それを前提に過少申告加算税,更には重加算税を課する趣旨であるとするものと解さざるを得ない。
6 しかしながら,法は,納税者について2条5号において,定義規定を置いており,「納税者」とは,国税に関する法律の規定により国税を納める義務がある者及び源泉徴収による国税を徴収して国に納付しなければならない者をいうと明確に規定している。そして,法56条1項所定の還付金の還付の法的性質は,実体法上,国が保有すべき正当な理由がないため還付を要する利得の返還であって,国庫からの一種の不当利得の返還の性質を有することは明らかであって(金子宏・租税法・第7版補正版513頁),その還付金が更正によって減少した場合に,その部分について,申告者との関係で,常にその納税義務の増加があるわけではない。この点は,納付申告があった後に増額更正があった場合とは決定的に異なるものというべきである。すなわち,還付申告による還付金が更正によって減少した場合には,確かに,申告者の納税義務が増加したことが判明したことを原因として不当利得関係の調整が生じるときがあるけれども,それだけではなく,申告者の納税義務には無関係に不当利得関係を調整しなければならないときもあるものというべきで,そのようなときにおいては,還付金の減額部分に対応する申告者側の納税義務は,そもそもあり得ないことになる。このような観点から,法の前記各規定をみると,申告者の納税義務が増加することが判明したことを理由として還付金の減額がされるときには,法28条2項3号ロの「その更正前の還付金の額に相当する税額がその更正により減少するときは,その減少する部分の税額」という文言も,法35条2項の「に相当する国税の納税者」は,「その国税を」との文言も,法65条1項の「当該納税者に対し」との文言も,いずれも,そのまま妥当することは明らかあるけれども,それとは異なり,申告者の納税義務には無関係に不当利得関係を調整しなければならないときにおいては,還付金の減額部分に対応する申告者側の納税義務は,そもそもいかなる意味でもあり得ないことになるから,このようなときまで法28条2項3号ロ,法35条2項,法65条1項の場合に含まれるものと解釈したのでは,これらの規定の前記各文言の意味は,全く不可解というほかなくなってしまうといわなければならない。このようにみてくると,少なくとも,法65条1項の「当該納税者」には,このようなときの還付申告者は,そもそも予定されていないと解釈せざるを得ないし,それこそが法2条5号の定義規定の内容にも沿うものというべきである。被告の前記の主張は採用できない。
7 これを本件についてみると,前記認定事実及び前記判断のとおり,本件還付申告の後に本件更正処分がされたことによって,還付金全額が減少することになるけれども,この減少は,還付申告をした原告について消費税の納税義務が発生したり,増加したことが判明したことによるものではないことは明らかであり,原告は,法65条1項の当該納税者ではないことは明らかであり,そもそも,原告に対し,過少申告加算税を課することはできないといわざるを得ない。
8 なお,因みに,仮に被告主張のように法65条1項の「当該納税者」とは,更正処分により発生した特殊の納税義務を負う者,すなわち,法(国税通則法)によりこのような納税義務のみを負うに至った者も含むと解するとしても,更に,重加算税を定めた法68条は,法65条の前記のような過少申告加算税の要件に加えて,「納税者が」その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし,又は仮装し,その隠ぺいし,又は仮装したところに基づき,納税申告書を提出したときを要件とするもので,この要件からすると,ここでいう仮装行為や隠ぺい行為は,納税申告の前に存在しなければならず(最2小判昭和62年5月8日・最高裁裁判集民事151号35頁も,明確に,隠ぺい,仮装行為を「原因として」過少申告の結果が発生したことを要するとの趣旨を説示する。),この「納税者」も,納税申告の前にすでに納税者であった者を意味するもので,そのような納税者がすでに抽象的には負っている納税義務について,その課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺい又は仮装したことが要件とされているものと解さざるを得ない関係で,原告にこれを課することはできないと解さざるを得ないことになる。
9 以上のような判断を前提とすると,前記認定事実によれば,原告は,法65条1項の当該納税者には,そもそも当たらないというべきであるから,その余の点,すなわち,原告本人が仮装隠ぺい行為をしたか否かの点についての判断(なお,この点も,被告主張のように,他人の行為を原告本人がしたものと同視されるかどうかについては慎重な検討が必要である。)をするまでもなく,本件賦課決定は違法といわなければならない。
確かに,前記認定事実によれば,原告は,欺罔行為によって還付金名下に金員を国庫から詐取したともいい得るのであって,それは非難されるべき行為であることは明らかではあるが,国庫に対して還付金を返還した上に,更に,過少申告加算税や重加算税を付加して支払う義務を負うものであるとするためには,法律の明確な根拠が必要であって,仮に立法者がかような者に対して過少申告加算税を課する趣旨であったとしても,法の前記の各規定はあまりに不備であって,法65条1項の解釈として,前記のように判断される以上,原告に同項の過少申告加算税やそれを前提とする重加算税を課することはできないといわざるを得ない。
本件賦課決定処分は,過少申告加算税部分も含めて違法であるから(両加算税の関係につき最1小判昭和58年10月27日・民集37巻8号1196頁参照),取消しを免れない。
第四結論
以上の次第であり,本件各処分中の本件賦課決定処分はこれを取り消すこととし,原告の本件請求のその余の部分は理由がないので,これらを棄却することとし,訴訟費用につき行訴法7条,民訴法61条,64条を適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 八木良一 裁判官 古谷恭一郎 裁判官 谷田好史)
(別表①②省略)