京都地方裁判所 平成13年(行ウ)23号 判決 2002年9月27日
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 被告が平成13年4月12日付けでした原告の事業所税の更正及び過少申告加算金の決定のうち、本税として納付すべき税額1958万2200円を超える部分を取り消す。
二 被告が平成13年6月11日付けでした原告の事業所税の更正及び過少申告加算金の決定のうち、本税として納付すべき税額1588万5717円を超える部分をいずれも取り消す。
第二事案の概要
本件は、家庭用雑貨等を販売する原告が、京都市a区内に店舗を新築し、被告に対し、新増設に係る事業所税の申告をし、更に他の店舗の事業とともに事業に係る事業所税を申告したところ、いずれについても、被告が更正及び過少申告加算金の決定をしたので、これらの各更正等は、新築した前記店舗の課税標準となる新増設事業所床面積及び事業所床面積の算定に当たって、非課税とされるべき危険物庫、ごみ置場及び店舗内の避難通路を課税対象としたもので違法であると主張し、被告に対し、前記の各更正及び過少申告加算金の決定の取消しを求めた事案である。
一 当事者間に争いがない事実、甲1ないし14(枝番を含む。)、乙1ないし21(枝番を含む。)(以上の証拠を以下「本件各証拠」という。)、及び弁論の全趣旨によって認められる事実、それに法令及び条例の定めは、次のとおりである。
1 原告は、「ホームセンター・コーナン」の商号のもとに家庭用雑貨等を販売している会社であり、平成12年11月ころ、京都市a区b町c番地に家庭用雑貨等販売店「ホームセンター・コーナンd店」(以下「本件事業所」という。)を新築し、平成13年2月3日、新増設に係る事業所税の申告を行い、非課税に係る事業所床面積に誤りがあったとして、同年3月9日、その修正申告をし、同年4月3日、新増設に係る事業所税の更正請求を行った。
また、原告は、平成13年6月6日、本件事業所及び他の各店舗における平成12年3月1日から平成13年2月28日までの事業に係る事業所税の申告をした。
2 ところが、被告は、原告に対し、平成13年4月12日、前記の新増設に係る事業所税について、別表(1)の更正及び過少申告加算金の決定を行い(以下「本件第1処分」という。)、同年6月11日、前記の事業に係る事業所税について、別表(2)の更正及び過少申告加算金の決定(以下「本件第2処分」といい、本件第1処分と合わせて「本件各処分」という。)をした。
3 被告は、本件各処分において、本件事業所に設置された危険物庫(以下「本件危険物庫」という。)の床面積23.40平方メートル及びごみ置場(以下「本件ごみ置場」という。)の床面積5.60平方メートルを本件事業所の新増設事業所床面積及び事業所床面積に加え、また、本件事業所の別紙図面2のピンク色部分、青色部分及び黄色部分のみ(以下「被告主張部分」という。)を非課税部分と認め、以上を前提に税額及び過少申告加算金を算出した。
4 原告は、本件第1処分について平成13年5月30日、本件第2処分について同年6月26日、被告に対して異議申立てをし、被告は本件第1処分について同年7月3日、本件第2処分について同月23日、異議申立てをいずれも棄却する決定をした。
5 法令及び条例の定め
(1) 地方税法(以下「法」という。)においては、事業所用家屋の新築若しくは増築に対し、新増設に係る事業所税が、事業所等において行う事業について事業に係る事業所税がそれぞれ課せられるものとされている(法701条の30,701条の31、701条の32)。そして、新増設に係る事業所税の課税標準は、新増設事業所の床面積とされ(法701条の40第3項)、新増設事業所床面積とは、新築又は増築に係る事業所用家屋の床面積として政令で定める床面積であり、その新築又は増築とは、法341条3号の家屋の床面積を増加することであるとされている(法701条の31第1項6号)。事業に係る事業所税は、資産割額及び従業者割額の合算額によって課すものとされ(法701条の32第1項)、資産割とは、事業所床面積を課税標準として課する事業所税で(法701条の31第1項2号)、従業者割とは、従業者給与総額を課税標準として課する事業所税である(同項3号)とされている。そして、事業所床面積とは、事業所用家屋の床面積として政令で定める床面積とされている(同項4号)。
(2) 次に、法は、事業所税の非課税措置の1つとして、百貨店、旅館その他の消防法17条1項に規定する防火対象物で多数の者が出入りするものとして政令で定める防火対象物においては、①それに設置される同項に規定される消防用設備等(政令で定める消防の用に供する設備、消防用水及び消火活動上必要な施設)で政令で定めるもの(消防用設備等、以下「法定消防用設備」という。)、並びに、②それに設置される建築基準法35条に規定する避難施設(廊下、階段、出入口その他の避難施設)その他の政令で定める防災に関する施設又は設備のうち政令で定める部分(防災用設備等、以下「法定防災用設備」という。)については、その事業所床面積に対しては資産割を課することができず、また、その新築又は増築に係る部分の新増設事業所床面積に対しては、新増設に係る事業所税を課することができないとしている(法701条の34第4項)。そして、地方税法施行令(昭和25年7月31日政令第245号、以下「令」という。)56条の43第3項5号イ及び同条の43第4項は、法定防災用設備の1つとして、①指定都市等の条例の規定に基づき設置する避難通路で、スプリンクラー設備(消防法施行令12条に定める技術上の基準に従い、又は当該技術上の基準の例により設置されたものに限る。)の有効範囲内に設置するものの全部を、同条の43第3項5号ロ、同条の43第4項は、②前記①の避難通路以外の避難通路その他防災に関する施設又は設備で総務省令で定めるものの2分の1の面積に対応する部分、をそれぞれ挙げている。更に、地方税法施行規則24条の9は、上記②の総務省令で定める防災に関する施設又は設備について、(ⅰ)条例の規定に基づき設置する喫煙所、(ⅱ)(ⅰ)のほか、条例又は消防組織法13条1項に規定する消防長ら(そのほか、同法14条1項に規定する消防署長、建築基準法2条36号に規定する特定行政庁)の命令に基づき設置する施設又は設備で、火災又は地震等の災害による被害を予防し、又は軽減するために有効に管理されていると指定都市等の長が認めるもの、を挙げている。
(3) 京都市においては、京都市火災予防条例(昭和23年10月1日条例第96号、昭和37年3月1日条例第33号、以下「本件条例」という。)が制定されており、本件条例50条は、百貨店、マーケットその他の物品販売業を営む店舗及び展示場(以下「百貨店等」という。)の階のうち、売場又は展示場の床面積が3000平方メートル以上のものにあっては、売場又は展示場に屋外に通ずる避難口又は階段に直通する有効幅員2メートル以上の主要避難通路を1以上、及び、この主要避難通路に通じる有効幅員1.2メートル以上の補助避難通路を各保有しなければならないとしている(同条1項、2項、24条1項2号)。そして、上記の主要避難通路は、他の部分と明確に区分することができるように表示しなければならないとされている(同条3項)。また、百貨店等の売場又は展示部分等その他の火災が発生した場合に多数の人命に危険を生ずるおそれのある防火対象物においては、避難上必要な措置として、人目にふれやすい場所に避難経路図を掲示するとともに、入場者、利用者等に対し、避難口、避難階段、避難器具の設置場所、災害発生時の通報、避難方法等について周知させること、とされ(本件条例54条1号、24条1項2号参照)、避難通路については、これを避難上有効に管理しなければならないこととされ、避難の妨害となる設備を設け、又は物件を放置しないこと、その床面は、避難に際し、つまずき、滑り等を生じないように常に維持すること、その付近には、危険物、可燃性のガス等を収納し、又は充てんした容器を置かないこと等と規定されている(本件条例52条)。そして、消防法施行令別表第1に掲げる防火対象物をその用途に使用しようとする者は、使用開始の日の7日前までに、その旨を所轄消防署長に届け出なければならない、とされている(本件条例55条)。
(4) 消防法施行令26条1項1号、同項2号及び同項4号は、百貨店等について、避難口誘導灯、通路誘導灯及び誘導標識を設置すべき旨を定め、同条2項1号は、避難口誘導灯は、避難口である旨を表示した緑色の灯火とし、防火対象物の避難口に、避難上有効なものとなるよう設ける旨、同項2号は、通路誘導灯は、避難の方向を明示した緑色の灯火とし、防火対象物又はその部分の廊下、階段、通路その他避難上の設備がある場所に、避難上有効なものとなるように設けるが、階段に設けるものにあっては、避難の方向を明示したものとすることを要しない旨、同項5号は、誘導標識は、避難口である旨又は避難の方向を明示した緑色の標識とし、多数の者の目に触れやすい箇所に、避難上有効なものとなるように設ける旨それぞれ定め、同条3項は、百貨店等に避難口誘導灯又は通路誘導灯を同条2項に定める技術上の基準に従い、又は当該技術上の基準の例により設置したときは、同条1項の規定にかかわらず、これらの誘導灯の有効範囲内の部分について誘導標識を設置しないことができる旨定めている。
6 本件事業所は、前記の法701条の34第4項所定の、百貨店、旅館その他の消防法17条1項に規定する対象物で多数の者が出入りするものとして政令で定める防火対象物に該当するとともに、消防法施行令別表第1の防火対象物に該当する。
7 本件事業所の1階平面図は、別紙図面1,2(ただし、陳列棚のレイアウトが若干異なる。)のとおりであり、その出入口付近には「1階避難経路図」と表示されたプレートが設置されており、そのプレート上の図面には、「非常の際には矢印の方向に避難して下さい。」と表示されて、平面図上に、別紙図面2の黒色の太い直線及び矢印で表示されたものと同様の避難経路が赤い直線で表示されている(甲13、乙5の1)。
8 本件事業所1階の各出入口には、避難口誘導灯が設置され、別紙図面2のピンク色、青色及び黄色で表示された通路部分には、それらの通路部分に沿って、21箇所に通路誘導灯(両面灯及び片面灯のもの)が設置されている(乙5の1の防火対象物棟別概要の添付図面)。
9 原告は、京都市a消防署長に対し、平成12年11月24日、本件条例55条に基づき、本件事業所について、防火対象物の使用届出書を提出した。その際、原告は、同消防署長との間で、本件事業所1階の本件条例50条1項の規定による主要避難通路及び補助避難通路は、別紙図面2のピンク色、青色及び黄色の部分と、更に網掛け部分及びバックヤードと記載された部分であることが確認され、それが表示された図面にa消防署の印章が押印され、同使用届出書に添付された。
10 その後、原告は、本件事業所の陳列棚を1部移動し、別紙図面1のようになった。
三 争点
1 本件危険物庫及び本件ごみ置場は、法341条3号の「家屋」に該当し、その床面積は、本件事業所について新増設事業所床面積や事業所床面積に算入されるのか否か(争点1)。
(原告の主張)
本件危険物庫及び本件ごみ置場は、いずれも本件事業所の店舗から離れてブロックを囲いとして積んで作られたものにすぎず、特に、本件ごみ置場は、その前面が開放されており、いずれも、法341条3号の「家屋」には該当しない。原告は、平成13年1月13日、「家屋」ではなく「消却資産」の1つとして、a区長に固定資産の申告をした(甲6)。
(被告の主張)
本件危険物庫及び本件ごみ置場は、いずれも、屋根及び周壁がいずれも半永久的な資材で構成されており、少なくとも三方に周壁があり、土地に定着した建造物であることから、法341条3号の固定資産税の課税客体となる家屋であることは明らかである。
原告は、これらを、当初、消却資産として申告したことがあったが、その後、原告も申告内容を変更しており、a区長においても、平成13年度の家屋補充課税台帳にこれを登録しており、平成13年度の消却資産課税台帳には登録していない(乙6の2)。
2 原告申告に係る避難通路部分のうち非課税となるのはどの部分か(争点2)。
(原告の主張)
(1) 本件条例50条所定の有効幅員等の要件を充足する避難通路は、すべて、主要避難通路及び補助避難通路として、法701条の34第4項の法定防災用設備に該当することは、法、令及び本件条例の規定上明らかである。
(2) 本件事業所内の本件条例50条所定の要件を充足する主要避難通路及び補助避難通路は、別紙図面1のピンク色部分及び黄緑色部分のすべてであり、その面積は、3,399.93平方メートルである。
(3) 被告の主張は、法令に何ら規定のない判断基準を自ら設定して事業所床面積の非課税部分の範囲を制限するものである。
(被告の主張)
(1) 法が、法定防災用設備を非課税として扱うこととした理由は、不特定多数の者が出入りする建築物について、火災時に一般公衆の安全を確保する上で必要不可欠なものとして条例で設置し、保有することが義務づけられているものについては、事業所の事業目的とする用途の使用がその場所については制限されることから、その部分には事業所税を課税するのは相当でないというところにある。
(2) このような観点及び本件条例の各規定からすると、法定防災用設備に該当する避難通路というためには、本件条例50条1項及び2項所定の有効幅員の要件を充たすだけでなく、更に、消防法施行令26条2項の技術上の基準に基づき設置される通路誘導灯により導かれる通路であるか、本件条例54条1号の規定に基づき掲示された避難経路図に示されている避難通路であるか、又は、売場の各部分から2方向への避難を確保するために必要とされる通路等火災時に来客者の安全を確保するために必要な通路であるか、少なくとも、そのいずれかの要件を満たすものでなければならず、その範囲に限られるというべきである。
(3) 本件事業所のうち、上記の各要件を充たす法定防災用設備の部分は、別紙図面2の被告主張部分に限られ、その面積の合計は1,550.39平方メートルである。
第三当裁判所の判断
一 争点1について
1 法341条3号は、家屋を住家、店舗、工場(発電所及び変電所を含む。)、倉庫その他の建物であると定めているが、同号の家屋とは、不動産取引の対象たり得るものであることを要すると解するべきであるから、民法、不動産登記法の建物とその意義を同じくするものと解するのが相当である。そして当該物件が、不動産登記法の建物に該当するか否かの判断は、不動産登記事務取扱手続準則136条1項が、建物とは、屋根及び周壁又はこれに類するものを有し、土地に定着した建造物であって、その目的とする用途に供し得る状態にあるものをいう旨定めていることから、同項の規定を参考にしつつ、社会通念により決するのが相当である。
2 本件各証拠によれば、本件危険物庫及び本件ごみ置場は、いずれも金属板葺きの屋根を有し、前面を除く三方はブロック積みの周壁を有し、前面は一部がブロック積みの壁であり、本件危険物庫の前面の出入口部分には金属製の扉が設置され、本件ごみ置場の前面の出入口部分には網状の扉が設置されていること、いずれもアスファルトで土地に定着し、その用途に供し得る状態にあること、以上が認められる(甲7,乙4)。
3 前記2の認定事実によれば、本件危険物庫及び本件ごみ置場は、屋根及び周壁又はこれに類するものを有し、土地に定着した建造物であって、その目的とする用途に供し得る状態にあるものであると認められ、社会通念上、建物に当たると認められる。
したがって、本件危険物庫及び本件ごみ置場は、法341条3号に規定する家屋であると認められ、それぞれの床面積はいずれも事業に係る事業所税及び新増設に係る事業所税の課税標準に算入されるものというべきである。
二 争点2について
1 確かに、令56条の43第3項5号イは、条例の規定に基づき設置する避難通路で、スプリンクラー設備の有効範囲内に設置するものは、法701条の34第4項の法定防災用設備に該当するとしており、京都市においては、本件条例50条において主要避難通路及び補助避難通路の有効幅員の要件が定められており、そのほかに法定防災用設備についてこれを限定する明文の規定は存在しない。したがって、本件条例50条所定の主要避難通路及び補助避難通路は、法定防災用設備に当たり、事業所床面積には算入されないものと解される。被告の主張が、上記の主要避難通路及び補助避難通路であっても、法定防災用設備に当たらないものがある、との趣旨であれば、その主張は、失当である。
2 しかしながら、本件事業所について、原告が主張する非課税部分をすべて本件条例50条所定の主要避難通路又は補助避難通路と解することはできない。その理由は、以下のとおりである。
本件条例50条1項及び2項は、あくまで「避難通路」と規定しており、避難通路の定義規定は置いていないが、所定の有効幅員を充たす通路をすべて主要避難通路又は補助避難通路としているのではないと解される。むしろ、同条では、主要避難通路は、避難口及び階段に直通する有効幅員の広い避難通路で、この主要避難通路に通じるものとして補助避難通路の保有が義務づけられ、同条3項では、主要避難通路は、他の部分と明確に区分することができるように表示しなければならないとされている。更に、本件条例の他の規定や京都市の規則や規程によれば、人目に触れやすい場所に避難経路図を掲示することや、入場者、利用者に避難口、避難階段、避難器具の設置場所等について周知させること(本件条例54条)、避難通路については、その場所に妨害となる物件を放置してはならないなど、その機能が有効に果たせるように管理すること(本件条例52条)が求められている。そして、消防法施行令別表第1の防火対象物を使用しようとする者は、使用開始日の7日までに、その旨を所轄消防署長に届け出なければならないとされており(本件条例55条)、消防署長は、使用開始前に検査を行うとともに(京都市火災予防規則10条3項)、使用開始の後も、その用途及び規模に応じて、6ヶ月から12ヶ月の間に1回以上、消防署員が立ち入ってその管理状況等の検査を行うことになっている(京都市火災予防規程7条)。これらの各規定によると、本件条例は、多数の顧客や入場者があり得るこのような店舗の売場において、火災その他の災害に際し、顧客や入場者に対し、出入口や階段に通ずる避難するための通路がすぐ判るように明瞭に表示され、しかも、それが避難のための通路として常時有効に機能し得る状態にあることを求めているもので、通路誘導灯の設置がされるなど客観的にそのような状態にある通路のみを特に避難通路として定めているものというべきである。
3 ところで、前記の認定事実及び本件各証拠によれば、本件事業所の陳列棚の配置は、概ね、別紙図面1、2のとおりであって、いわゆるホームセンターの売場の典型的な状態であって、その売場の大部分に多数の商品陳列棚が配置され、それ以外は、大小の通路となっており、顧客は多数の各陳列棚の間の通路を通って、陳列棚の商品を見て、選択してこれを購入するのが通常であると認められる。このような状態からすると、本件事業所の各陳列棚の間の多数の通路の大半は、むしろ、ホームセンターの売場そのものというべきであって、これを火災その他の災害時の避難通路であるというのは、客観的な状況からも、一般的な顧客の意識からも困難というべきである。前記認定事実のとおり、原告自身も、本件事業所の使用開始に当たって、a消防署長へ提出し、同署長との間で確認した図面においても、前記の主要避難通路及び補助避難通路は、別紙図面2のバックヤード部分及び網掛け部分を除いては、被告主張部分と概ね同様の部分のみであって、上記のような多数の通路を全て避難通路とはしていなかったのであり、このことは、原告においても、当時は、そのような認識であったことが窺えるのである。
4 前記2の観点から、本件事業所について検討すると、本件事業所における法定防災用設備に該当する「条例の規定に基づき設置する避難通路」、すなわち本件条例50条1項及び2項所定の主要避難通路及び補助避難通路については、まず、前記各項所定の有効幅員等の要件を充たす通路で顧客に出入口への避難通路を表示する通路誘導灯により導かれるもの、及び同要件を充たす通路で本件事業所に掲示された前記避難経路図に図示されているものが、これに該当するというべきである。さらに、有効幅員の要件を充たす通路で、これらの避難通路との関係で、本件事業所の構造上、火災時に顧客の安全を確保するために必要であると客観的に認められる通路部分も上記の避難通路に該当するというべきである。具体的には、火災時には顧客が屋外に避難しようとして建物の外周部分にまず逃げるのが一般的であることからすると、本件事業所の売場の外周部分の通路は、火災時に来客者の安全を確保するために必要であると客観的に認められる(ただし、本件各証拠によれば、外周部分のうち南西部分(別紙図面2の本件事業所正面部分)の前記避難経路図により図示された通路部分より外側部分は、同通路部分を、前記のとおり避難通路として認める以上、火災時に来客者の安全を確保するために必要な通路とは認められない。)。さらに、外周部分の顧客の安全のためには、外周部分から前記の通路誘導灯により導かれる通路又は前記避難経路図に図示されている通路に直線的に接続する通路を確保し、複数の動線を作ることが効果的であるから、前記の通路誘導灯により導かれる通路又は前記避難経路図に図示されている通路を延長し外周部分と交わるところまでの通路部分もまた火災時に来客者の安全を確保するために必要であると客観的に認められる。そうすると、本件各証拠によれば、被告主張部分のみが、上記の避難通路に該当するというべきである。
5 原告主張のように本件条例50条1項及び2項による有効幅員の要件を充たす通路のすべてが法定防災用設備に該当するものとすると、本件事業所では、一定程度恒常的な状態が予定された法定防災用設備の範囲自体が、陳列棚の配置替え次第で変動することにもなり得るのであって、本件条例や消防法令の趣旨と相容れないものとなってしまうものというべきである。
6 なお、原告がa消防署長と確認した本件事業所内の主要避難通路及び補助避難通路には、被告主張部分のほか、別紙図面2のバックヤード部分及び網掛け部分があるが、前者は、原告が非課税となる主要避難通路や補助避難通路であるとは主張しておらず、後者の網掛け部分については、別紙図面1と陳列棚の配置が一部異なっており、同網掛け部分と同じ箇所は別紙図面1では、北東方向から南西方向へ一直線状の通路になっているとは認められず、いずれにしても、これらを、本件条例上の主要避難通路や補助避難通路と認めることはできない。
7 以上のとおり、本件事業所の法定防災用設備に該当する避難通路は、別紙図面2の被告主張部分に限られ、その余の原告主張部分は、その要件を充たすものとは認められないものというべきである。
第四結論
以上のとおり、本件危険物庫及び本件ごみ置場はいずれも非課税対象とはならず、また、原告主張の避難通路部分のうち被告が非課税とした部分を除いた部分は、非課税対象とはならず、これらを課税対象とした上で被告が行った本件各処分は、いずれも適法であり、原告の請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 八木良一 裁判官 古谷恭一郎 裁判官 谷田好史)
(別表・別紙図面1及び別紙図面2省略)