京都地方裁判所 平成13年(行ウ)8号 判決 2002年11月29日
主文
一 原告の本件訴えのうち,別紙1請求目録記載の各請求以外の地方自治法242条の2第1項4号前段に基づく請求部分をいずれも却下する。
二 原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告らは,京都市に対し,連帯して,7054万3700円及びこれに対する平成12年6月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 地方公営企業である京都市交通局(以下「交通局」という。)は,平成9年度及び平成10年度の課税期間の消費税の確定申告をしてその税金を納付した。交通局は,同各申告において,同各年度に交付を受けた補助金について,消費税法60条4項所定の特定収入の割合に係る仕入税額控除の制限規定による算定をする際,消費税法施行令及び同施行令附則の解釈として,税率が3パーセント(旧税率)から5パーセント(新税率)に改正された平成9年4月1日以降に交付を受けた補助金について,補助対象の事業費について旧税率が適用されたものについては旧税率をもとに仕入税額控除の制限規定による算出をすべきであると判断し,各課税年度の消費税額を算出した。しかし,中京税務署長は,上記の場合は新税率を基に仕入税額控除の制限規定による算出を行うべきであると判断し,交通局に対し,更正処分並びに過少申告加算税及び延滞税の賦課決定処分をした。
本件は,京都市(以下単に「市」という場合がある。)の住民である原告が,交通局における平成9年度及び10年度の消費税の確定申告及び納付の責任者であった被告らにおいて,消費税法及び同法施行令による仕入税額控除の制限規定による算定を誤った重過失があり,更に,国税当局の判断が判った時点で,直ちに修正申告しなかったことについても重過失があったと主張し,地方自治法(以下「法」という。)242条の2第1項4号に基づき,市が被った損害として,上記過少申告加算税及び延滞税相当額の損害金及びこれらに対する遅延損害金を連帯して市に支払うことを求めた住民訴訟である。
二 争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実は,以下のとおりである。
1 当事者
(1) 原告は市の住民である。
(2) 交通局は,地方公営企業として,消費税法60条1項,2条1項4号,5条により,消費税の納税義務者となる。
(3) 被告Aは,平成9年度(平成9年4月1日から平成10年3月31日までをいう。以下の「年度」も同じである。)ないし平成11年度まで市の交通局長(公営企業管理者)の地位にあった者である。交通局における消費税の確定申告及び納付の権限は,管理者である交通局長に属する。
(4) 被告Bは,平成9年度において交通局管理本部長,平成10年度及び平成11年度において交通局次長,平成12年度において交通局長の地位にあった者である。
(5) 被告C,被告D,被告Eは,それぞれ,平成9年度,平成10年度,平成11年度及び平成12年度において,交通局高速鉄道本部長の地位にあった者である。
(6) 被告Fは,平成12年度において交通局次長の地位にあった者である。
2 補助金の交付
(1) 交通局は,平成9年度及び平成10年度において,運輸施設事業団及び市から,地下高速鉄道整備事業費補助金(以下「本件補助金」という。)の交付を受けた。運輸施設事業団は,運輸設備事業団法により運輸省から交付を受けた補助金を財源として,鉄道事業者に対して補助金を交付する法人である。
(2) 本件補助金は,① 平成8年度以前に執行された地下鉄・α線β・γ間及びδ線ε・ζ間の建設事業費,及び,② 平成8年10月1日前に契約され,平成9年度に執行されたα線γ・η間の建設事業費の補助金として交付された。
①の事業費については,別表1のとおり,平成元年度から平成8年度までの各年度に補助金額が確定された上,それぞれが当年度若しくは翌年度から10回(10年間)に分割されて交付された。このように分割して交付された補助金のうち,平成9年度と平成10年度に現実に交付された金額は,別表1の太線で囲まれた部分であり,合計額299億1492万6000円であった。また,②の事業費については,別表2のとおり,平成9年度に交付決定がされ,分割されることなく平成9年度に一括交付されており,その合計額は13億9878万2000円であった。
3 消費税法等の規定
(1) 消費税法60条4項は,国若しくは地方公共団体が課税仕入れを行う場合において,当該課税仕入れの日の属する課税期間において資産の譲渡等の対価以外の収入(政令で定める収入を除く。以下この項において「特定収入」という。)があり,かつ,当該特定収入の合計額が当該課税期間における資産の譲渡等の対価の額(28条1項に規定する対価の額をいう。)の合計額に当該特定収入の合計額を加算した金額に比し僅少でない場合として政令で定める場合に該当するときは,37条の規定の適用を受ける場合を除き,当該課税期間の課税標準額に対する消費税額から控除することができる課税仕入れ等の税額の合計額は,30条から36条までの規定にかかわらず,これらの規定により計算した場合における当該課税仕入れ等の税額の合計額から特定収入に係る課税仕入れ等の税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した残額に相当する金額とすると規定する。
この規定の趣旨は,市の交通局のような地方公営企業は租税,補助金,寄附金等の特定収入によって運営され,この収入が課税仕入れ等に係る支出に充てられる場合が多いところ,特定収入には対価性がなく,課税の対象とはならないことから,特定収入がある場合にその特定収入が賄っている課税仕入れ等の税額分について,そのまま仕入税額控除を認めると,補助金等の特定収入の二重交付ともみられる部分が生じるので,そのような事態を回避することにある。
そして,消費税法施行令75条4項は,消費税法60条4項が政令に委任する特定収入に係る課税仕入れ等の税額の計算方法を規定する。
(2) 平成9年4月1日以降,消費税の税率が旧税率(3パーセント)から新税率(消費税及び地方消費税の合計5パーセント)に引き上げられた(消費税法29条,地方税法72条の82,72条の83)。
(3) 消費税法の改正に伴う消費税法施行令(平成7年政令第341号,以下「新令」という。)附則15条は,新令75条4項の規定は,「適用日(平成9年4月1日)以後に受け入れる特定収入」について適用し,適用日以前に受け入れた特定収入については,なお従前の例による,と規定する。
4 本件補助金は,消費税法60条4項所定の特定収入であり,平成9年度及び平成10年度において高速鉄道事業特別会計に受け入れられ,交通局が平成8年度以前に行った高速鉄道整備事業に係る費用を賄うために起こした企業債の償還に充てられた。
5 交通局は,本件補助金に係る消費税を含む平成9年度及び平成10年度の消費税の確定申告を,それぞれ,平成10年6月30日,平成11年6月30日に行い(以下「本件各確定申告」という。),その後,いずれも,申告にかかる消費税を納付した。本件各確定申告において,交通局は,特定収入による仕入税額控除の制限の算定にあたり,新令附則15条の解釈上,本件補助金について,新税率ではなく旧税率により算定して,その税額を申告をした。
6 交通局は,平成12年2月4日,大阪国税局による前記各課税年度の消費税の調査を受け,その際,大阪国税局から,本件補助金についての仕入税額控除の制限の算定にあたっては新税率を適用すべきである旨の指摘を受けた(以下「本件指摘」という。)。しかし,交通局は,消費税法,新令附則の解釈上問題があると判断し,直ちには修正申告に応じなかった。
7 その後,交通局は,平成12年6月13日,中京税務署長から,更正処分及び過少申告加算税並びに延滞税の賦課決定(以下「本件処分」という。)の通知を受け,同日,差額税額(合計3億6815万7900円),過少申告加算税(合計4643万9000円)及び延滞税(合計2410万4700円),合計4億3870万1600円を納付した。この金額のうち,前記のとおりの大阪国税局との法律上の見解の相違によって生じた部分は,差額本税額3億5840万5700円であり,これによる過少申告加算税が4500万3432円,延滞税が2339万3700円であった。なお,平成8年度,平成9年度及び平成10年度の内訳は,別紙2のとおりである。
三 争点及びこれに関する当事者の主張
1 交通局が,本件各確定申告に際して,本件補助金に係る仕入税額控除の制限規定につき旧税率を適用し,新税率を適用しなかった判断について過失があったといえるか。過失があったといえるとして,被告A,同B,同C及び同Dに責任が認められるか(争点1)。
(原告の主張)
新令附則15条は,適用日(平成9年4月1日)以降に特定収入を受け入れた場合,5パーセントの新税率を適用して課税仕入等の税額の合計額から控除する特定収入にかかる課税仕入等の税額を計算することを明確に規定している。仮に,交通局において,どのように取り扱うべきかを確定できなかったというのであれば,国税当局に電話するなどして問い合わせさえすれば容易に判明したであろうし,あるいは,税理士に相談すれば回答を得ることができたはずである。交通局において,このように誰にでもできる簡単な調査方法すら行わなかったことが,重過失にあたることは明白である。
平成9年度において被告A,同B及び同C,平成10年度において被告A,同B及び同Dは,それぞれ,故意又は重過失により,新令附則に従わず,3パーセントの旧税率で消費税を計算し,又は,補助職員に対し5パーセントの新税率で計算するように指示・監督・検査すべきであるのにこれをせず,結局,違法に過少申告し,それによって,市は,過少申告加算税及び延滞税相当額の損害を被った。
(被告の主張)
本件各確定申告において,本件補助金についての仕入税額控除の制限の算定について旧税率を基に算定するのか,新税率を基に算定するのかについては,消費税法及び新令附則の解釈をめぐって2つの見解があったもので,交通局が採った旧税率を適用するとの見解(以下,「旧税率適用説」といい,新税率を適用するとの見解を「新税率適用説」という。)も,以下のとおり,法律上十分に成立しうる見解であった。したがって,仮に,消費税法及び新令附則の解釈として旧税率適用説が正しいとしても,被告らには,その判断を結果的に誤ったことについて過失はない。
(1) 旧税率時において交付決定がされ,又は交付決定は新税率時であるが旧税率時に事業費が確定され,補助金が新税率時に現実に交付された場合において,新税率適用説を採ると,前記のとおりの補助金の二重交付ともみられる部分が生じるのを回避するためであるとの消費税法60条4項の趣旨を超えて,かえって,逆に,計画的に決定された補助金の不足をもたらすことになり,補助金の制度に悪影響を与えてしまう結果となる。
(2) 新令附則15条と同様の規定は,消費税が新設された当時の消費税法施行令附則(昭和63年政令860号,以下「旧令附則」という。)19条にもあったが,消費税法施行前の建設費に対する補助金と認められるものについては,国税当局も,その現実の交付が適用日以後であっても,消費税法60条4項の仕入税額控除の制限制度の適用は受けないと解釈・運用していたもので,平成9年の税率改正について国税当局が新税率適用説を採るとすると,法令の解釈として一貫しない態度となる。
(3) 平成9年の税率改正に際し,国自身も本件のような事態の生じることを想定していなかったと考えられる。現に,国は,その後,新税率と旧税率の差額分について補助金の追加措置を講じた。
(4) 税制改革法(昭和63年12月30日法律第107号)4条2項(昭和63年6月15日に行われた税制調査会の答申の趣旨に則って行われる税制の抜本的な改革は,「全体として・・・行われるものとする。」)の趣旨に照らせば,平成9年の税率改正に際しての消費税法及び新令附則の解釈においても,旧税率適用説を採用するのが妥当である。
(5) 同様の過年度の地下鉄建設の分割補助金を交付されている他の地方自治体の地方公営企業においても,本件更正決定等がされた当時,自ら新税率適用説を採用していたのは福岡市のみであり,東京,札幌,横浜,神戸,名古屋,大阪,仙台の各自治体は,旧税率適用説が正しいと判断していた。そして,旧税率適用説を採用していた公営企業のうち,東京都交通局以外の企業は,後に修正申告をしているが,その時期はいずれも交通局が本件更正決定等を受けた後である。
2 交通局が,大阪国税局の指摘(本件指摘)があった後,直ちに修正申告しなかったことについて過失があったといえるか。過失があったといえるとして,被告A,同B,同E及び同Fに責任が認められるか(争点2)。
(原告の主張)
交通局は,平成12年2月4日に大阪国税局から本件指摘を受けたにもかかわらず,同年6月13日に本件処分の通知がされるまで,修正申告を行わなかったものであり,この点につき少なくとも重過失があった。
平成11年度において被告A,同B及び同Eは,本件指摘に従って交通局として直ちに納付手続をすべきであったにもかかわらず,これを怠り,平成12年度において被告B,同F及び同Eは,同様に納付手続をすべきであったにもかかわらず,これを怠り,平成12年6月13日までこれを放置し,本件処分を受けるに至った。
(被告の主張)
新税率適用説を採ると,前記の被告の主張のとおり,新税率と旧税率との差額分については補助されなかったことになるなど補助金の趣旨に反する結果を招来することから,交通局は,にわかに本件指摘が正しいと考えることができなかった。したがって,交通局は,運輸省,自治省とも協議する必要があると判断し,直ちに修正申告に応じなかった。大阪国税局の税務調査以降,交通局では,これまでの行政通知や書籍などにより局内及び市長部局での検討や他都市の公営交通事業者に対する確認などを行ったほか,運輸省,自治省及び大阪国税局との折衝を重ねた。
このように,交通局は,本件指摘が一義的明確に適法であると判断できない状況において,運輸省,自治省などと協議を重ねてその判断を形成していったのであって,その間の期間を経過したことに過失はない。
なお,交通局は,本件処分に対する不服申立てをすることも検討していたが,国から新税率と旧税率の差額分について,別途の対応措置を採るとの見解が示されたため,これを控えることにした。
3 市が被った損害額はいくらか(争点3)。
(原告の主張)
本件処分により交通局が支払った過少申告加算税及び延滞税の合計相当額である7054万3700円とするのが相当である。
(被告の主張)
争う。なお,本件補助金の処理に関するものは,過少申告加算税4500万3432円,延滞税2339万3700円の合計6839万7132円であった。
第三当裁判所の判断
一 前記第二の二の認定事実,甲1ないし3,乙1ないし13(枝番を含む。),各調査嘱託の結果,証人Gの証言(以下「本件各証拠」という。)及び弁論の全趣旨によれば,以下のとおり認められる。
1 本件補助金は,平成9年度及び平成10年度において,地方公営企業である交通局の高速鉄道事業特別会計に受け入れたものであるが,平成元年度から平成9年度までの各年度における事業費を10年間に分割して交付を受けたもの,及び,平成9年度に一括交付を受けたものであり,いずれも交通局が平成8年度以前に行った事業に係る消費税率3パーセントによる課税仕入れに対応する費用を賄うために起こされた企業債の償還等に充てられており,その算定基礎となる補助対象事業費に含まれている消費税相当額は旧税率である3パーセントの税率を用いて算定されていた。
2 交通局は,平成10年6月30日及び平成11年6月30日,平成9年度及び平成10年度の各課税期間の消費税の本件各確定申告をするにあたり,消費税法が改正(平成9年4月1日施行)されて消費税率が3パーセントの旧税率から合計5パーセントの新税率に引き上げられており,かつ,新令附則15条によれば,文言としては,「適用日(平成9年4月1日)以後に受け入れた特定収入」については新税率を適用すると規定されていたが,局内での議論の結果,以下の理由から,本件補助金に係る仕入税額控除制限の算定については旧税率適用説を採用して申告することとした。
(1) 消費税法60条4項の仕入税額控除制限規定の趣旨は,特定収入がある場合にそのまま仕入税額控除を認めると,国庫補助金等の実質的二重交付となる部分が生じるので,それを防止するという点にあるのであるから,特定収入で賄ったことになる課税仕入の税額が旧税率である以上,その特定収入を受け入れたのが平成9年4月1日以後であっても,仕入税額控除の制限の算定となる税率は,旧税率とするのが合理的で自然な法令の解釈であるというべきである。むしろ,本件補助金分について新税率適用説を採ると,建設業者へは3パーセントの消費税を含めて支払っているにもかかわらず,補助金が後年度に交付されることにより,仕入税額控除が制限される結果,実質的に最終負担すべき3パーセントのほかに更に2パーセント相当分の負担が生じることとなり,消費税法60条4項の趣旨に反する結果となる。
(2) 平成元年に新たに消費税法が施行された際にも,同法60条4項の仕入税額控除の制限規定の適用について,消費税法施行令(昭和63年政令860号)附則19条は,「適用日(平成元年4月1日)以後に受け入れる特定収入」について適用すると規定していた。しかし,消費税法施行前の建設費に対する補助金については,その現実の交付が適用日以後であっても,同制限規定の適用はないと解釈・運用されていた。したがって,平成9年の税率の改正の場合も同様に解する旧税率適用説が正しい。
(3) 平成9年度の法改正においては,補助金の取扱いについて,国から特段の通知はされておらず,更に補助金の交付についても取扱いが見直されていなかったから,新税率適用説を採った場合の前記の不合理な結果は不可避である。
3 他の地方公共団体の地方公営企業のうち,少なくとも,東京,札幌,横浜,神戸,名古屋,仙台の6団体は,本件補助金と同様の補助金に係る消費税の取扱いにおいて,市と同様の旧税率適用説を採用し,平成9年度及び平成10年度の消費税の確定申告をした。
4 交通局は,平成12年2月4日,大阪国税局から,本件補助金分については新税率適用説を採るべきであるとの指摘(本件指摘)を受けた。
しかし,交通局は,新税率適用説は前記の理由から,明らかに不合理な結果となることから,にわかには本件指摘が正しいと考えることができなかった。そこで,運輸省及び自治省とも協議する必要があると判断し,直ちに修正申告に応じることはせず,これまでの行政通知や書籍等により局内及び市長部局での検討や他都市の公営交通事業者に対する確認を行った。交通局は,更正処分がされた場合には,状況によっては,事業者として異議申立等の不服申立ての手続を採ることも検討した。
そして,交通局は,以下のとおり,更に,運輸省,自治省及び大阪国税局と折衝を重ねた。
(1) 平成12年2月9日,運輸省鉄道局財務課及び自治省財政局公営企業第一課に対し,本件指摘について報告した。
(2) 同月14日,運輸省の補助金監査時に運輸省財務課職員と協議をし,また,交通局の外郭団体の顧問公認会計士に相談をした。
(3) 同月16日,大手監査法人の公認会計士から大阪国税局消費税課に照会をしてもらったところ,法律の文言の解釈としては5パーセントで読まざるをえないだろうという旨の回答を得た。
(4) 同月17日,大阪国税局に対し,交通局の解釈・見解を再度説明し,協議をした。その際,国税局側から,修正申告を行う場合でも,国税局内部での額の確定作業に2ないし3か月を要するため,年度内の納付は無理である旨の説明を受けた。
(5) 同年3月15日,運輸省及び自治省に対し,交通局と大阪国税局の解釈の相違等について説明した。その際,消費税法改正時に補助金と消費税の関係で関係官庁にて特段の協議があったのかについて確認を求めたが,確認することはできなかった。
(6) 同月17日,大阪国税局に対し,運輸省及び自治省にて考え方を整理するための時間が必要である旨を報告した。
(7) 同年4月4日,運輸省及び自治省から,国の事務レベルでは,消費税法上,国税局の取扱いはやむを得ないとの考え方に傾きつつある旨の報告を受けた。
(8) 同年5月25日,大阪国税局において更正決定をする動きがあることが判明したため,市長及び副市長に状況を説明した。
(9) 同年6月初旬ころ,大阪国税局が予定している更正決定の内容がある程度把握できてきたので,専決補正のための決裁等を準備した。
5 その後,交通局は,平成12年6月13日,中京税務署長から,本件処分の通知を受け,同日付で専決補正の決裁を採り,納税手続を行った。交通局は,上記通知を受け,納税手続を行った以降も,新令附則15条の解釈に係る不服申立てをすることを検討し,同年8月14日の不服申立ての期限を目途に,引き続き関係官庁と協議を続けた。
6 平成12年11月ころ,運輸省及び自治省に対し,本件と同様の補助金分の消費税について新税率適用説を国税当局が採用する結果,追加負担する消費税分について,市を含む政令指定都市から補助金等財源措置を求めるための要望書が提出され,国が補助金の措置として,消費税との整合性を採る方向を示したことから,交通局は,不服申立ての手続を行わないこととした。
7 その後,平成13年3月5日付で,国土交通省鉄道局から,運輸施設整備事業団に対し,仕入税額控除制限規定につき新税率を適用したことにより生じた2パーセント分の消費税相当額を補助対象建設費に含むものとして補助金を交付する旨の通知がされ,さらに,同日付で,運輸施設整備事業団から,各補助金担当者に対し,同様の趣旨の通知がされた。
二 争点1に対する判断
1 前記第三の一の認定事実(以下「本件認定事実」という。)によれば,交通局は,仕入税額控除の制限規定の適用につき,結果的に大阪国税局と判断を異にし,中京税務署長から本件処分を受けるに至ったものである。また,新令附則15条の形式的な文言からのみすると,新税率適用説を採ることが法解釈として正しい様にも考えられる。
2 しかしながら,新税率適用説を採った場合には,消費税法60条4項の特定収入がある場合の仕入税額控除の制限の趣旨を逸脱し,更に,事業者側に税率の差額分の追加負担となる不合理な結果となることは,正に交通局の検討結果のとおり明らかであったものである。また,新令附則の規定自体は,法律の規定ではなく,あくまで政令の規定であって,それは,消費税法の規定に反したり,同法による委任の範囲を超えてはならないことはもちろんである(憲法73条6号)。かような諸点を考慮すると,新令附則15条の「適用日(平成9年4月1日)以後に受け入れる特定収入」との規定は,消費税法60条4項の委任の趣旨を逸脱していると解される余地,又は,同文言を適用日以降の課税仕入に対応するものとして受け入れた特定収入と解釈する余地もあったもので,いずれにしても,法令の解釈として旧税率適用説も成り立ち得る法的見解であったものというべきである。そして,実際に,消費税法が新たに施行された当時の旧令附則においても,新令附則と同様の文言の規定があり,その規定については,むしろ旧税率適用説と同趣旨の見解で課税実務は運用されていたもので,更に,本件補助金と同様の特定収入について,少なくとも相当数の地方公共団体の地方公営企業が旧税率適用説を採っていたのである。
以上の諸点に照らすと,交通局が新税率適用説ではなく,旧税率適用説を採用して本件各確定申告をしたことは十分に理解することができるものであって,そのような確定申告をし,又はそれに関与した交通局の職員には,いずれも,過失がなかったものといわざるを得ない。
三 争点2に対する判断
1 確かに,本件認定事実によれば,平成12年2月4日に,大阪国税局から本件指摘を受け,大阪国税局側は新税率適用説を採ることが明らかとなったのであるから,交通局としては,それ以後は,法的見解に対立があるとしても,延滞税等の多大なリスクを考慮して,見解を改めて新税率適用説に立った修正申告をして過少申告分の消費税を納付することも切実な問題として考慮すべき状況に成りつつあったものと考えられる。
2 しかしながら,前判示のとおり,消費税法60条4項,新令75条4項及び同附則15条の解釈として旧税率適用説も成り立ち得る法的見解であったものであり,また,国税当局の見解は,あくまで行政庁の法解釈の見解であって司法判断ではなく,この問題についての裁判所の判断が示されていたとの証拠もない。更に,その国税当局の見解自体も,消費税法の施行当時の同種問題についての見解とは一貫性がないと考えられる。そして,本件認定事実によれば,交通局は,平成12年2月4日に大阪国税局から本件指摘を受けて以来,新税率適用説によった修正申告をすべきであるかどうかを判断するため,運輸省及び自治省を訪問するなどして何度も折衝の機会を持ち,大阪国税局に対しても交通局の解釈について説明をする機会を持つなどし,また,同年6月13日に中京税務署長から本件処分の通知を受け,延滞税等を納付した後も,本件処分に対して不服申立てをすることを考えていたのである。なお,その後,国から2パーセント分の消費税相当額につき,補助金を交付することが示唆されたため,結局,交通局は,不服申立ての手続きを採ることを控えるに至った。
このようにみてくると,交通局は,大阪国税局から本件指摘を受けた後においても,運輸省や自治省との協議を重ねてどう対応すべきかの判断を形成していこうとしたものであり,本件処分に至るまで修正申告をしなかったことについても,修正申告をする権限を存する公営企業管理者その他の職員のいずれについても,過失があったということはできず,それを認めるに足りる証拠はないといわざるを得ない。
四 結論
1 原告の本件請求の中には,本件各確定申告において過少申告をしたこと,又は平成12年2月4日以降修正申告をしなかったことが,法242条所定の財産管理を怠る事実に該当するものであるなどとして,法242条1項4号前段に基づいて被告らに対して損害賠償の代位請求をする部分もあると解される。しかし,本件各確定申告や原告主張の修正申告をする法律上の権限は,地方公営企業法8条1項により,その業務の執行について市を代表する権限を有する管理者にあり,そうすると,本件各確定申告をする権限は被告Aにあり,平成12年2月4日から本件処分がされた同年6月13日までに修正申告をする権限は同被告及び被告Bにあったもので,それ以外の被告らにおいては,法令上,確定申告や修正申告をする権限を有していたものとは認められない。また,その余の法242条1項4号前段に基づく請求は,原告において,具体的に,いかなる財務会計上の行為の違法をいうものか判然としないから,結局,不適法というほかない。
そうすると,原告の本件請求のうち,別紙1請求目録記載の各請求以外のその余の法242条1項4号前段に基づく請求は,いずれも,その被告が同号所定の「当該職員」に該当しないから,不適法というべきである。
2 そして,別紙1請求目録記載の各請求と原告の法242条の2第1項4号後段の各請求については,前記のとおり,被告らが本件各確定申告に関与したとしても,旧税率適用説も法律上成り立ち得る見解であって,いずれにしても,過失が認められないというべきであるから,その余の争点(争点3)を判断するまでもなく,原告の請求は理由がないことに帰する。よって,訴訟費用につき行訴法7条,民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 八木良一 裁判官 飯野里朗 裁判官 谷田好史)
別紙1請求目録
被告Aに対する京都市交通局の平成9年及び平成10年課税期間に係る消費税の各確定申告において過少申告をしたことを理由とする請求及び同被告及び被告Bに対する同各確定申告に係る修正申告をしなかったことを理由とする請求