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京都地方裁判所 平成14年(モ)2133号 決定 2003年1月15日

原告

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原告ら訴訟代理人弁護士

稲村五男

森川明

渡辺馨

川中宏

村山晃

村井豊明

久保哲夫

飯田昭

荒川英幸

浅野則明

岩橋多恵

藤浦龍治

奥村一彦

藤澤眞美

中村和雄

被告

株式会社塚腰運送

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

置田文夫

後藤美穂

神長信行

山村忠夫

菅野道生

同訴訟復代理人弁護士

栗田昌裕

主文

被告は,被告提出の被告作成に係る平成10年4月度から同14年3月度までの売上振替集計表(乙2号証の1ないし22,同4号証の1及び2,同5号証の1ないし12,同6号証の1ないし12)につき,黒塗り部分を開示して提出せよ。

理由

第1申立ての趣旨

主文同旨

第2事案の概要

1  本件訴訟は,原告らが,被告に対し,被告が輸送技術部門(「車両」部門,「上鳥羽営業所」のこと)に所属していた原告らに対して行った人事異動が権利濫用にあたるなどと主張し,原告らが上鳥羽営業所所属のドライバー職にあることの確認を求めるものである。

2  被告は,上記人事異動の業務上の必要性の根拠となる輸送技術部門の第45期以降の各期の売上高が減少傾向にあることを立証するため,売上振替集計表の輸送技術部門以外の部分を黒塗りとしたものを証拠として提出し,また,準備書面において,45期ないし48期の各期の売上が低減していること,売上の合計額は売上振替集計表の「生産高」の合計額であることを明らかにしている。

3  原告らは,民事訴訟法220条1号又は同条4号に基づき,文書の提出を求めている。すなわち,民事訴訟法220条1号の対象となる文書は黒塗り前の「原本」であり,輸送技術部門の売上高が45期以降減少傾向にあることは,被告によって意図的に操作された結果によるものであり,本来であれば同部門の売上高は他部門と同様,増加傾向にあったはずであり,黒塗り部分を開示して提出されれば,輸送技術部門の売上高の減少と他部門での飛躍的増加の事実,及びその原因を明らかにすることが可能となる。他方,被告が対外的に経営上困難を来す事情は全く考えられず,被告の主張する機密性,不利益は認められない,ないしは部門別売上を知られることが顧客の値下げ圧力や同業他社の対抗戦略に使われる危険性は低く,原告らが入手した資料を被告の顧客や同業他社に伝えることは絶対にあり得ないと主張する。

4  これに対し,被告は,原告らが文書提出命令の申し立ての対象とした売上振替集計表の黒塗り部分は引用文書に該当しないこと,黒塗り部分は,被告側にとって企業秘密に関わる資料であり,関係者以外の者が見ることを前提に作成された書面ではなく,民事訴訟法220条4号ニの「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に該当し,被告には同条4号の規定に基づく提出義務はない旨,また,部門別売上という会計事項は営業秘密に属する事項であり,対外的に明らかになると,顧客からの値下げ圧力や同業他社の対抗戦略に用いられたりする可能性が高い旨主張する。

第3判断

1  本件において,原告らが提出を求める文書は,乙2号証の1ないし22,同4号証の1及び2,同5号証の1ないし12,同6号証の1ないし12として提出された売上振替集計表につき,黒塗り部分を開示したものである。被告は,人事異動の業務上の必要性の根拠として輸送技術部門の第45期以降の各期の売上高が減少傾向にあることを理由としていること,売上振替集計表を作成した趣旨について,被告においては13部署に分かれ,受注した部署が他部署に対して内部外注することが頻繁に生じるから内部振替が必要となり,毎月の部署のやりとりを集計したものであると主張している。そうすると,黒塗り部分と輸送技術部門とが一体となって売上振替集計表をなしており,全体が明らかとならなければ人事異動の根拠となる輸送技術部門の売上高が減少しているかについて,判断することができず,黒塗り部分のみでは裁判所の判断を誤らせるおそれがあることから,黒塗り部分についても引用文書(民訴法220条1号)に当たるというべきである。

しかも,被告が輸送技術部門の売上高の減少を理由に原告らの配置転換の必要性を主張しているところ,売上高の減少は単に同部門のみで判断されるのではなく,他部門の売上高が明らかになってはじめて判断すべき事柄であり,提出を求める必要性も認められる。

2  他方,被告は当該文書を提出することによる不利益について,部門別売上という会計事項が営業秘密に属する事項であり,黒塗り部分を明らかにすることにより不利益を蒙る可能性があると主張する。しかしながら,企業がその業務に関して作成する文書についてはおよそ企業秘密と無関係のものは存在しないからそれを理由に提出を免れることはできず,また,被告の主張する値下げ圧力や同業他社の対抗戦略に使われる危険性についても,それは抽象的な蓋然性にすぎず,理由がないというべきである。

3  よって,原告らの申立ては理由があるのでこれを認容することとし,主文のとおり決定する。

(裁判官 浅田秀俊)

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