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京都地方裁判所 平成14年(ワ)1562号 判決 2004年5月26日

京都市<以下省略>

原告

同訴訟代理人弁護士

木内哲郎

武田信裕

伊山正和

東京都中央区<以下省略>

被告

岡三証券株式会社

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

塚本美彌子

嶋寺基

牟禮大介

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告は,原告に対し,1499万2560円及びこれに対する平成14年6月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

1  本件は,被告と株式指数オプション取引を行った原告が,被告には①適合性原則遵守義務違反,②説明義務違反,③ロールオーバーの取引手法を採用させた違法,④手仕舞い義務・損害拡大防止義務違反による被告自らの不法行為又は使用者責任による損害賠償義務があるとして,被告に対し,上記取引による最終損失金1239万2560円及び弁護士費用260万円の合計1499万2560円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成14年6月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

2  基礎となる事実(証拠を付さない事実は,当事者間に争いがない。)

(1)  当事者

ア 原告は,昭和33年3月に大学卒業した後6年間会社勤務をした経験があり(原告本人),後記(2)イの本件オプション取引当時は,学生向けマンションを所有し,その賃料収入で生計を営んでいた者である。

イ 被告は,内閣総理大臣の許可を受けた証券会社である。

ウ B(以下「B」という。)は,かって山一証券株式会社(以下「山一証券」という。)に勤務していたことがあり,同社における最終的な肩書は同社京都支店営業課長であった(乙23)。Bは,原告が山一証券との取引を終了させるにあたり,同社における当時の原告の担当者であったCから原告を紹介された。Bは,平成10年2月,歩合制外務員として被告に入社し,以後,原告の担当者となった。

エ D(以下「D」という。)は,平成10年2月当時,被告会社京都支店の副支店長であった者であり,同12年6月21日以降,Bの後任として,原告の担当者となった。

(2)  原告と被告の間の取引について

ア 原告は,平成9年12月6日に,被告京都支店に取引口座を開設し,同11年6月25日には,オプション口座を開設した。

イ 原告は,被告を通じ,別紙1のとおり,日経平均225(東京証券取引所市場一部上場株式225銘柄の加重平均株価)について,オプション取引を行った(平成12年4月14日の約定金額欄を除き,争いがない。以下「本件オプション取引」という。)。

別紙において,「C」はコール・オプション取引を,「P」はプット・オプション取引をいう。

(3)  オプション取引について(甲1,4,10)

ア オプション取引とは,ある商品を満期日(権利行使日・SQ日)までに,その時の市場価格に関係なく予め決められた権利行使価格で買う権利又は売る権利を売買する取引であり,買う権利をコール・オプション,売る権利をプット・オプション,それぞれの権利に付けられる価格をプレミアムという。

オプションの売り手と買い手は,満期日までにオプション市場において,買い付けた又は売り付けたオプションそのものを反対売買することによって決済することができる。また,買い手は,権利行使によっても決済することができる。オプションの買い手が買った権利を行使すると,対象とする商品が権利行使価格で手に入ることになり,売り手は権利行使に応じる義務がある。満期日までに決済しなかったオプションは消滅する。満期日までの期間中,いつでも権利行使ができるタイプのオプションをアメリカンタイプのオプション,満期日にしか権利行使ができないタイプのオプションをヨーロピアンタイプのオプションという。

イ 株価指数オプション取引は,株価指数を取引対象とするオプション取引であり,大阪証券取引所は,日経株価指数300を対象とする日経300オプション及び日経平均株価を対象とする日経225オプションを取引している。

株価指数オプション取引は,株価指数という抽象的な数値を取引の対象とするため,反対売買以外の決済は差金決済となる。

日経225オプション取引は,満期日にしか権利行使ができないヨーロピアンタイプのオプションである。

3  被告の責任原因についての原告の主張

(1)  本件オプション取引について

オプション価格は,権利行使価格と日経平均株価との差(本質的価値)だけでなく,権利行使期限までの期間,株価の予想変動率(ボラティリティ),短期利子率,配当などの複数の要因によって左右される要素(時間的価値)によって決定されるのであり,オプション取引は,極めて複雑かつ理解が困難であり,そのリスクにおいて投資金額の全額(買方)又は投資金額以上の限定なき損害(売方)を被るというハイリスクな取引である。

(2)  適合性原則違反

原告は,平成8年頃から上場株式の現物取引を行っていたにすぎず,期間及び取引内容のいずれの点からも,仕組みが複雑難解で危険性も高いオプション取引の仕組みを十分に理解できる経験はなかったし,高齢で証券取引とつながる職歴も一切なかったため,オプション取引を理解できる知識及び能力もなかった。原告は,平成11年6月頃から1年程度の期間,2,3か月に1度,「オール投資」という投資情報雑誌を購入したことがあるが,オプション取引に関する情報は掲載されていなかった。

証券会社は,投資勧誘に際し,投資者の投資目的・財産状態及び投資経験等に鑑み,不適合な証券取引を勧めてはならないとされており,機関投資家である信託銀行でさえ,数年の株式経験を得た上で,時間をかけてオプション理論を習得した後に初めてオプション取引を行っていることに照らすと,オプション取引は多少の株式取引経験があるという程度の個人投資家が容易に行えるようなものではない。しかるに,被告の担当者であったBは,原告に対し,ことさらにオプション取引を勧誘して,これを行わせ,Dも,そのような事情を知りながら,ことさらにこれを継続させた。

(3)  説明義務違反

オプション取引は仕組みが複雑難解で危険性も高い取引であるから,証券会社は,上場株式の現物取引程度の経験しかない原告に対しては,具体的かつ詳細な説明を施し,オプション取引の内容・仕組みのみならずプレミアムの仕組みについても十分な説明を行い,その危険性等を了解させた上で,各取引を受任すべきである。

しかしながら,Bは,原告に対し,オプション取引の具体的な内容やプレミアムの仕組みについて全く説明をせず,決済時期及びロールオーバーについて事実に反する説明を行い,信用させるために歩合外務員としての地位をことさらに秘匿した。

また,Dも,上記の各説明を改めて行わず,ロールオーバーの持つ危険性についても何ら説明しないで,ことさらに取引を継続させた。

(4)  ロールオーバーの違法

ロールオーバーの手法とは,高いプレミアムの売り取引を繰り返すことにより,一時的に得たプレミアム収入により発生した損失を計算上帳消しにしようとするもので,損失が発生した場合に,その損失をカバーするため,損失額以上のプレミアムを得るためにオプションの売りを行って株価の成り行きを見る手法であるが,プレミアムが高いということは権利行使される可能性が高いということであり,そのような売り取引は損失の発生の高い可能性をリスクとして同時に抱えることになるので,投資の専門家である生命保険会社や信託銀行等の機関投資家が採用することはあり得ない。

B及びDは,上記の適合性原則遵守義務に基づき,原告に対し,ロールオーバーなる手法を採用することを勧誘してはならなかったにもかかわらず,ことさらにロールオーバーの手法についての説明を怠り,積極的に勧誘した上,その結果生じた原告の無知につけ込んで,ことさらに手数料収入を吸い上げることを目的として,ロールオーバーの手法を採用させた。

(5)  手仕舞い義務・損害拡大防止義務違反

Bは,平成12年2月17日,原告から,今後はプット・オプション取引を行わない旨告げられたのに,手数料収入を確保・継続するために,決済時期について取引の中止は満期日(権利行使日)でなければならないとの虚偽の説明を行い,事実に反して資金不足ではないのに資金不足である旨を告げ,又は,ことさらに資金不足の状態を放置し,手仕舞い義務に違反して,プット・オプション取引を継続させて,原告に損失を被らせた。

また,B及びDは,手数料収入を確保・継続するために,ことさらにロールオーバーの手法を用いることにより,早期に決済をしていれば生じなかったはずの損失を拡大させ,原告に損失を被らせた。

4  被告の責任原因についての被告の主張

(1)  本件オプション取引について

本件で原告が被告を通じて行ったオプション取引は,原告が主張するような複雑かつ理解困難なものではなく,銘柄も日経平均225という単一の銘柄であった。そこで問題となる指標は,唯一日経平均株価のみであって,オプション,すなわち権利を売買した日(取引日)から満期日に日経平均株価が上がっているのか,それとも下がっているのか,又は上がらないのか,下がらないのかの予測を立てて取引を行うものである。

オプション取引は,プレミアムを支払って権利を売買するものであるが,プレミアムとは要するにオプション自体の値段であり,これは権利行使価格と取引日現在の日経平均株価の差額が最も大きな要素となって決定される。もちろん,満期日までの残存日数及び株価の振れ具合等の影響を否定はしないが,比較すれば大きなものではない。したがって,原告が指摘するような時間的価値の概念分析は必要ではなく,より実践的な理解で足りる。

(2)  適合性原則違反

原告は,平成9年12月16日,被告に対し,口座開設を申し込むにあたり,10年以上の株式現物の取引経験を有し,国内未上場の外国株式の取引も行っていること,商店を経営し,投資に充てる資金も余裕資金であることを自ら申告しているほか,自ら投資雑誌や被告発行の株式情報誌を購読するなどしており,豊富な株式取引の経験及び知識を有していることが明らかである。

また,現物株式取引を行う投資家は,最も一般的な日経平均株価指数である日経平均225の上がり,下がりを参考にするから,原告にとっても,その予想は慣れ親しんだものであった。

したがって,原告がオプション取引の適合性を有していたことは明らかである。

(3)  説明義務違反

証券取引参加者の1人である以上は,市場における損失は自己の責任として負担するのが原則であり,説明義務違反があって不法行為に該当するというには,証券会社側の勧誘行為に証券取引上の自己責任原則を否定するのが相当であると評価できるだけの違法がなければならない。

Bは,平成11年6月,原告にコール・オプション売り取引を提案するに際し,原告宅を2,3度訪問の上,コール・オプション取引について,取引の内容や仕組み,危険性,その投資判断においては日経平均225の値動きが重要であること等について,株式指数オプション取引説明書(乙3)を示しながら,説明を行った。また,被告は,同月25日,原告宅で,被告京都支店の支店長との面談を行い,その後,原告は,オプション取引について理解したことを確認する趣旨で,「株価指数オプション取引に関する確認書」を差し入れた。さらに,Bは,同年12月,原告から,プット・オプション取引の方が儲かるのではないかとの質問を受けたので,同取引についても,同様の説明を行った。

以上によれば,被告が本件オプション取引を勧誘するに際し,十分に説明義務を尽くしたことが明らかである。

(4)  ロールオーバーの違法

原告がロールオーバーの手法と称する取引は,結局のところ,オプション取引においては,限月が定まっているために,満期日までの間に買い戻すか,満期日まで状態を継続し続けるかの選択しかないところ,原告が,日経平均225が下落している状況では,満期日までに買い戻す方が資産の目減りが少ないと判断して買い戻し,買い戻した際には,手仕舞いするか,オプション取引を継続するかの選択において,継続してプット・オプションの売り取引を行ったことをいうもので,手法それ自体で違法性を帯びるものではない。

原告は,上記各取引を自らの意思で行い,プット・オプションの売り取引によって受領したプレミアムを自らの意思で上記買い戻し資金に充てたにすぎず,何ら違法なものはない。

(5)  手仕舞い義務・損害拡大防止義務違反

そもそも,原告は,被告に対し,オプション取引中止の明示的な意思表示をしたことはない。

また,原告は,平成12年4月28日,初めて個々のオプション取引で損失を出し,同年6月に入っても相場は好転しなかったので,Bは,同月5日,原告宅を訪問して,原告に対し,買い戻して手仕舞いすれば,トータルでは利益となることを提案したが,原告は,再度相場が上昇するとの相場観を固持し,損失を取り戻したいとの強い要望を訴えて,プット・オプションの売り取引の継続を申し出た。その後,Dも,買い戻しを提案するなどしたが,原告がその相場観を固持し,プレミアムを丸取りしたいとの希望を有し,自らの判断で,取引を行い,結果として損失を被ったのである。

なお,Bは,同年6月16日,相場が下落を続け,同月6日に売り建てたプット・オプションに含み損が出ていたことから,その下げ幅から追加保証金が必要になり得ることを予め伝えたところ,原告は,追加保証金を要求されたものと誤解したことがある。

第3当裁判所の判断

1  認定事実

第2の2の事実に,証拠(甲11,12,乙1の1・2,2,3,5ないし12,13の1ないし5,19,20の1ないし3,21ないし26,証人B,D,原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。

(1)  原告(昭和9年○月○日生)は,大学卒業後の昭和33年6,7月頃から3年位の間に,株式を購入した経験があり,その後10年位の間,山一証券を介して,株式の現物取引を行っていたが,同社が倒産したため,平成9年12月16日,Bとともに,被告京都支店に赴き,総合取引申込書兼保護預かり口座開設申込書を提出して,口座を開設し,国内上場株式5銘柄及び香港上場株式5銘柄合計7万8001株を同支店に移管した。このとき,原告は,上記申込書に,自ら,株式現物取引の経験が10年あり,純資産及び金融資産は3000万円以上で,余裕資金を用いて株式取引を行う旨記載した。

(2)  原告は,平成10年4月,Bを担当者として,日本アジア投資5000株を買い付け,同年10月には,同株式1万株を買い増す取引を行った。

また,そのほか,原告は,被告を介して,別紙2のとおり,株式の現物取引を行った。

(3)  Bは,原告保有の国内株式に含み損が発生していたことから,コール・オプションの売り取引を提案することとし,平成11年6月頃,原告宅を3回訪問し,クイックのオプション単価表を示すなどして,上記第2の2(3)のコール・オプション取引の内容・特徴について説明し,コール・オプションの売り取引においては,権利行使日の日経平均株価が権利行使価格を加算した額を上回ったときには,その上回った額の1000倍に取引枚数を乗じた額からプレミアムを差し引いた額が損失となること,コール・オプションの売り取引の利益はプレミアムに限定されるが,損失は無限であること,委託証拠金は売り取引の場合は最低でも2000万円必要であることを説明した。

その際,Bは,オプション価格の決定要因は,権利行使価格と取引日現在の日経平均株価の差額が最も大きな要素であると説明し,時間的価値の問題には言及しなかったが,原告は,コール・オプションの売り取引の場合には,権利行使日の日経平均株価が権利行使価格を上回ったときは損失が出ることを理解した。

(4)  Bは,原告がコール・オプションの取引について興味を示したため,平成11年6月25日,被告京都支店のE支店長とともに,原告宅を訪れて,支店長面談を行い,株式指数オプション取引のリスク及び仕組みについて記載した「株価指数オプション取引説明書」(決済方法には,転売又は買い戻しと権利行使がある旨の記載もある。)を交付し,原告は,「先物・オプション取引口座開設申請書」,「株価指数オプション取引に関する確認書」及び「先物・オプション取引口座設定約諾書」にそれぞれ署名押印し,同支店長に対し,住民票とともに,これらの書類を提出した。その際,原告は,上記申請書に,金融資産は5000万円ある旨記載した。

(5)  その後,原告は,Bの助言を受けて,平成11年7月5日から同年11月26日まで,別紙1のとおり,コール・オプションの売り取引を行ったが,一度も損失を出すことなく,すべて利益を得る取引であった。

(6)  平成11年12月頃は,株式相場は上昇基調にあり,Bがコール・オプションの売り取引に加えて,プット・オプションの売り取引をすることを提案し,上記第2の2(3)のプット・オプション取引の内容・特徴や,プット・オプションの売り取引においては,権利行使日の日経平均株価が権利行使価格からプレミアムを差し引いた額を下回ったときには,その下回った額の1000倍に取引枚数を乗じた額からプレミアムを差し引いた額が損失となること,売り取引の損失は理論上無限であることについて説明したところ,原告は,プット・オプションの売り取引については,権利行使日の日経平均株価が権利行使価格を下回ったときは損失が出ることを理解した上で,同取引を行うことを決意した。

また,被告は,同年12月7日,原告に対し,上記(4)の後に改定された「株価指数オプション取引説明書」を送付した。

(7)  そして,原告は,Bの助言を得て,平成11年12月10日から同12年3月28日まで,別紙1のとおり,コール及びプットの各オプションの売り取引を行ったが,一部の取引で割当(オプション取引において権利行使日に権利行使がされた際に決済をすること)が生じたものの,いずれの取引においても,利益を計上した。

(8)  しかし,平成12年4月以降,株式相場は下落を続け,原告が売り建てたプット・オプションには含み損が発生するなどした。

Bは,相場が下落するなどして,日経平均株価が権利行使価格を下回って権利行使がなされた場合には,担保状況に問題がなければ新たにプット・オプションを売り建てて,受領するプレミアムで支払うことができ,後に相場が回復すれば,損失を取り戻すことができる旨説明した。

そこで,原告は,今後相場が上昇することを期待し,別紙1のとおり,1か月を超える限月のプット・オプションの売り取引を行うなどした。

なお,原告は,同年5月末頃に,Bの被告における地位が歩合制外務員であることを知った。

(9)  Bは,このような株式相場の状況から,今後相場の下落が続いたときは追加保証金が必要になると判断し,平成12年6月16日頃,原告に対し,外国株式の売却を提案した。

(10)  原告は,平成12年6月19日,被告京都支店を訪れ,応対したD副支店長に対し,Bから担保不足である旨の指摘を受けたとして,その確認を求めたので,Dは,原告の担保状況を同支店管理部に照会し,担保不足となっている事実はないことを確認して,原告にその旨回答した。

その際,原告は,Dに対し,オプション取引において反対売買をすることはできるのかを尋ねるとともに,Bが歩合制外務員であったのにその事実を隠していたこと,同年4月には原告に損失が生じたのに,Bが原告との取引で得た手数料で家族でハワイ旅行をしたことを挙げて,Bを非難し,同年2月には相場が下がると考えてプット・オプション取引を終了させるよう求めたのにBがこれに応じなかったとの苦情を述べ,このまま株価が下落した場合には,プット・オプションの売り手である原告は大きな損害を被ることになると不満を述べた。

Dは,原告に対し,オプション取引においても反対売買は可能である旨説明し,原告が帰った後には,Bに対し,原告の苦情の内容について確認したところ,Bは,原告にオプション取引及び反対売買ができることについて十分に説明をしており,また,原告から同年2月頃に取引を終了させたいとは言われていないと返答した。

(11)  このため,Dは,原告に説明をするために,平成12年6月21日,被告京都支店管理部の菖蒲谷部長とともに,顧客一括照会及び損益状況表と題する各書面を持参して,原告宅を訪れた。

Dは,原告に対し,同各書面を示しながら,オプション取引においても,反対売買は可能であること,平成12年3月までの取引については,売り立てていたプット・オプションがほとんど権利消滅で終わっており反対売買をする必要がなかったこと,それ以降の取引で,反対売買が必要となったものについては,原告も反対売買を実施していることを再度説明した上で,同月20日現在で含み損が223万円となっているが,同年5月末までの段階で900万円以上の利益があり,損益の累計は同年6月20日時点で若干の利益となっていること,当時売り建てていたプット・オプションを買い戻して手仕舞えば,利益を残して取引を終了させることができるが,手仕舞うには約1300万円の現金が必要になること,株式を売却して決済資金を捻出する場合には,決済日の前々日までに売却の注文をする必要があることを説明した。

これに対し,当時株価が回復基調にあったことから,原告は,1300万円もの資金を用意しなければならないのであれば,直ちに手仕舞うことなく,しばらく様子を見たいと述べ,プット・オプションの売りを持ち続けることとした。

なお,同日以降同13年10月頃までの間に原告が被告に対しオプション取引の終了を申し出たことはない。

(12)  上記(10)のとおり,原告がBに対して不満を抱いていたことから,その後はDが原告を担当することになった。Dは,週に2回位,原告宅を訪問したり電話をかけるなどして,日経平均株価の値動きや,市況の見通し,プレミアムの推移等について説明を行ったが,上記(10)のとおり原告とBの間で既にトラブルが生じていたことから,Dの方からは,積極的に提案することはせずに,原告の意向を確認した上で助言を行うこととした。

(13)  Dは,平成12年7月3日,同月に入って日経平均株価が上昇を続け,同年6月6日に売り建てたプット・オプションの同価格が権利行使価格を上回ったことから,買い戻しについて原告の意向を打診したが,原告は,できるだけ損を取り戻したい旨述べて,このときも買い戻しをしなかった。

(14)  原告は,平成12年7月末頃,同年6月6日に売り建てたプット・オプションの売り4枚の決済期日が近づいてきたことから,Dに対し,その対処方法について相談したところ,同人は,決済するのであれば資金が1500万円必要であり,新たに売りを建てて,そのプレミアムで買い戻しの決済資金に充てる方法もあることを説明した。

これに対し,原告は,決済資金1500万円が必要である旨を聞いて,できる限り決済資金を用意せずに取引を終えたいと考え,1500万円を用意して決済することを選択せず,今後株価が上昇することを期待して,新規に2枚を売り建て,そのプレミアムと香港株を売却した代金とで上記4枚の売りを決済することとして,Dに対し,香港株の売却を指示し,Dも,これ応じた。

(15)  このようにして,原告は,その後も,Dやその後任者であるFの助言を得ながら,自らの判断で,平成13年8月以降は,4回にわたり追加担保を差し入れて,別紙1のとおり,同年12月11日までの間,本件オプション取引を行った。

また,原告は,その間の同12年10月30日には,被告宛に,先物・オプション取引口座設定約諾書を差し入れた。

(16)  被告は,本件オプション取引の都度,原告に対し,「オプション取引計算報告書」を送付したが,原告がこれに対して異議を述べたことはなかった。

2  判断

(1)  適合性原則違反の主張について

第2の2の事実及び上記1の認定事実によれば,原告は,昭和33年3月に大学を卒業した後6年間会社勤務をした経験があり,本件オプション取引当時は,学生向けマンションを所有し,その賃料収入で生計を営んでいたこと,同年6,7月頃から3年位の間に,株式を購入した経験があり,その後10年位の間,山一証券を介して,株式の現物取引を行っていたが,同社が倒産したため,被告京都支店に口座を開設し,国内上場株式5銘柄及び香港上場株式5銘柄合計7万8001株を同支店に移管して,被告と株式の現物取引を行うようになり,別紙2のとおり,その取引の内容も,国内上場株式だけでなく外国株式の売買も行っている上,取引回数も少なくなく,取引金額も高額であること,原告は,被告宛の取引申込書に,自ら,純資産及び金融資産は3000万円以上で,余裕資金を用いて株式取引を行う旨記載していることが認められるほか,原告は,株価指数オプション取引の仕組み及び危険性についても相当程度理解していたと認められるのであり,これらの認定事実に照らすと,原告が本件オプション取引を行う適合性を欠いていたとは認められない。

(2)  説明義務違反の主張について

上記1の認定事実によれば,被告の担当者であるBは,原告にコール・オプションの売り取引を提案するに際し,上記第2の2(3)のコール・オプション取引の内容・特徴について説明し,売り取引の利益は限定的であるが,損失は無限であること,委託証拠金は売り取引の場合は最低でも2000万円必要であることを説明した上で,支店長面談の際には,株式指数オプション取引のリスク及び仕組みについて記載した「株価指数オプション取引説明書」を交付しており,その後,プット・オプションの売り取引を勧めるに当たっても,上記第2の2(3)のプット・オプション取引の内容・特徴や,プット・オプションの売り取引においては損失は理論上無限であることについて説明している。Bは,オプション価格の決定要因について,時間的価値の問題には言及しなかったものの,原告は,Bの説明により,コール・オプションの売り取引の場合には,日経平均株価が権利行使価格を上回ったときは損失が出ること,プット・オプション売り取引については,日経平均株価が権利行使価格を下回ったときは損失が出ること,反対売買が可能であることを理解している。

また,原告がロールオーバーの手法と称する取引については,Bが上記1(8)のとおり,Dが上記1(14)のとおり,それぞれ説明をしているが,上記1の認定の説明内容に照らすと,上記の各説明が事実に反する違法なものであるとは認められない。

したがって,説明義務違反についての原告の主張は理由がない。

(3)  ロールオーバーの違法の主張について

原告主張のロールオーバーの手法が,損失拡大の危険性を包含していることは否定できないが,上記(2)説示のとおり,B及びDの説明内容に格別問題があるとはいえず,上記1認定の事実によれば,原告は,株式相場の上昇を期待し,Bらから助言を受けながらも,自らの判断において,上記手法を行ったと認められるから,Bらに原告主張の違法があるとはいえない。

(4)  手仕舞い義務・損害拡大防止義務違反の主張について

原告は,平成12年2月17日にBに対し,今後はプット・オプション取引を行わない旨告げたのに,その後も,虚偽の説明を行うなどして,手仕舞い義務に違反し,本件オプション取引を継続させて,原告に損失を被らせたと主張するが,原告は,プット・オプションの売り取引については,日経平均株価が権利行使価格を下回ったときは損失が出ることを理解しており,そのような状況下にあることを認識しながら,Dに対して手仕舞いを求めたことがないことは,原告が本人尋問において供述するところであり,平成12年3月28日までの取引においてはすべての取引で利益が生じていたことを併せ考えると,原告がBとのやり取りの中で同人に対しプット・オプションの売り取引の終了を打診した事実があったとしても,原告がBに対して最終的に上記取引の終了を求めたものとは認められず,Bが手仕舞い義務に違反して,原告に取引を継続させたとは認められない。

また,原告は,B及びDが,手数料収入を確保・継続するために,ことさらにロールオーバーの手法を用いて,損失を拡大させたと主張するが,上記(3)説示のとおり,同主張も理由がない。

(5)  結び

上記(1)ないし(4)によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がない。

第4結語

以上の次第で,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山下寛 裁判官 鈴木謙也 裁判官 梶浦義嗣)

<以下省略>

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