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京都地方裁判所 平成14年(ワ)3508号 判決 2004年7月15日

主文

1  被告は,原告に対し,金103万5305円及びこれに対する平成14年7月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  原告の平成14年(ワ)第3508号事件に係るその余の請求及び平成15年(ワ)第1886号事件に係る請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用はこれを6分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。

4  この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

1  平成14年(ワ)第3508号事件

(1)  被告は,原告に対し,金369万9854円及びこれに対する平成14年4月16日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

(2)  被告が原告に対してした平成15年4月30日付け減給処分が無効であることを確認する。

2  平成15年(ワ)第1886号事件

(1)  被告が原告に対してした平成15年6月1日付け減給処分が無効であることを確認する。

(2)  被告が原告に対してした平成15年6月1日付け運転助手への降職処分が無効であることを確認する。

3  訴訟費用は,被告の負担とする。

4  第1項(1)につき仮執行宣言

第2事案の概要

本件は,原告が,被告に対し,(1) 被告から,会議室において「反省しろ」という以外には長期間にわたり何の業務指示も与えられない状態を継続されたなどとして,不法行為に基づき損害賠償及び遅延損害金の支払いを,(2) 理由なく平成15年4月30日付けで減給処分を受けたとしてその無効確認を(以上(1)及び(2)につき平成14年(ワ)第3508号事件),(3) 理由なく同年6月1日付けで減給処分を受けたとしてその無効確認を,(4) 理由なく降職処分を受けたとしてその無効確認を(以上(3)及び(4)につき平成15年(ワ)第1886号事件),それぞれ求める事案である。

1  請求原因

(1)  損害賠償請求

ア 被告は,郵便物及び逓信事業に関連する物品の運送事業等を目的とする株式会社である。

イ 原告は,昭和39年7月,被告に臨時運転助手として採用され,その後,正社員である運転手となって,現在に至っている。

ウ 被告は,平成14年4月16日,原告に対し,被告a集配支店3階の会議室(以下「本件会議室」という。)において「反省しろ」という以外には何らの業務指示も与えられず,トイレ及び食事以外には同所から出てはならない旨の命令を受けた。

エ 被告は,同年7月19日ころ,被告から,「同月26日からb郵便局で9時から6時まで,運送車に郵便物の置忘れがないか監視したりしろ」と告げられたが,そのような業務を行っている従業員は被告には存在しなかったため,原告は,被告に対して文書による辞令の交付を求めたところ,被告は,原告に対し,「それなら,3階の会議室で反省していろ」又は「文書は出せない。身の振り方を考えろ。辞めるか辞めないか申し出てくれ。3階の会議室で反省していろ。」などと命じ,原告は,上記会議室で終業時間まで無為に過ごすことが続いた(以下,原告の本件会議室での勤務を通じて「本件下車勤務」ということがある。)。

オ 以後,毎日同様のことが繰り返されたが,被告は,同年10月31日,原告に対し,元の業務に復帰するよう業務命令を発し,原告は,同年11月1日から本来の業務に従事している。

カ 原告は,上記のとおり,同年4月16日から同年10月31日までの間,業務命令のないままに,被告a集配支店3階会議室での「反省」を命じられるとともに,毎日のように退職を強要されるなどして,その人格権を侵害され,以下の損害を被った。

(ア) 諸手当等減額分 原告は,運転業務からはずされたことにより,賃金のうち運転業務に従事していれば支給されたであろう手当を減額されたから,以下の差額が損害である。

a 特殊手当 平成14年1月から3月までの1万4217円を同年5月から11月まで各9478円に減額されたから,その差額3万3173円。

b 型別運行手当 平成14年2月から4月の平均額2897円を同年5月710円に減額され,同年6月から11月までは支給されなかったから,その差額1万9569円。

c 超勤手当 平成14年2月から4月までの平均額5583円を同年5月は671円及び同年7月は3531円に減額され,同年6月及び8月から11月までは支給されなかったから,その差額3万4879円。

d 開かん手当 平成14年2月から4月までの平均額は1万9853円であったが,同年5月から11月までは支給されなかったから,その差額13万8971円。

e 諸手当(イ) 1か月2000円支給されるべきところ,平成14年9月ないし11月は支給されなかったから,その差額6000円。

f 住居手当 1か月1000円支給されるべきところ,平成14年6月は807円に減額されたから,その差額193円。

g 時間手当 1か月1万0502円支給されるべきところ,平成14年6月は8357円に減額されたから,その差額2145円。

(イ) 休業損害 原告は,被告の上記行為により,神経内科への通院を余儀なくされ,このため,6万9988円の賃金を支給されなかった。このうち,健康保険組合から1万8804円の支給を受けたから,5万1184円が損害である。

(ウ) 治療費等 上記神経内科への通院により,治療費及び文書作成料として1万3740円の損害を被った。

(エ) 慰謝料 原告は,被告の上記行為により金銭に換算すれば300万円を下らない精神的損害を被った。

(オ) 弁護士費用  原告は,被告の上記行為により40万円を超える弁護士費用の出捐を余儀なくされた。

キ よって,原告は,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償請求権により,上記カの(ア)ないし(オ)の合計額である金369万9854円及びこれに対する不法行為の開始した日である平成14年4月16日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(2)  平成15年4月30日付け減給処分の無効確認請求

ア 被告は,平成15年4月30日付けで,原告に対し,7360円の減給とする旨の処分をした(以下「本件4月30日付け減給処分」という。)。

イ よって,上記処分の無効確認を求める。

(3)  平成15年6月1日付け減給処分の無効確認請求

ア 被告は,平成15年6月1日付けで,原告に対し,6320円の減給処分をした(以下「本件6月1日付け減給処分」という。)。

イ よって,上記処分の無効確認を求める。

(4)  平成15年6月1日付け降職処分の無効確認請求

ア 被告は,平成15年6月1日付けで,原告に対し,運転助手への降職処分をした(以下「本件降職処分」という。)。

イ よって,上記処分の無効確認を求める。

2  請求原因に対する認否

(1)  請求原因(1)について

ア 請求原因(1)のア及びイの事実は,いずれも認める。

イ 同ウの事実のうち,被告が,原告に対し,会議室での反省を指示したことは認める(ただし,指示の日は平成14年4月17日である。)が,トイレ及び食事以外はそこから出てはならないことを命じたことは否認する。原告は,一日中会議室内にいたわけではなく,社屋内を自由に徘徊していた。

ウ 同エの事実のうち,被告が,平成14年7月ころ,原告に対し,b郵便局での作業を行うよう命じたこと(ただし,命じた日は同月15日である。),原告が,同年10月31日までの間,運送業務についていなかったことは認めるが,その余は否認する。原告は,被告の命令に従って同年7月26日からb郵便局での作業をする旨約していたところ,当日になって上記郵便局へは行かないと言い,その後も被告が再三にわたり上記郵便局での作業を指示しても,これを無視して社屋内を徘徊していたものである。

エ 同オの事実のうち,原告が平成14年11月1日から従前の業務に復帰した事実は認めるが,その余は否認する。

オ 同カの事実は,否認ないし争う。同事実のうち,(ア)のaの事実については,単に平成14年4月から手当額が改定されたにすぎないものであって,原告が運転業務を外れたことにより減額したものではない。また,同(ア)のdの事実については,被告は,平成14年5月については,開かん手当として1万2044円を支給しているから,少なくとも上記金額は控除されるべきである。他方,同(ア)の事実のうち,原告が運送業務から外れたことにより,b,c及びeの各手当が減額されたことは認める。

(2)  請求原因(2)ないし(4)について

請求原因(2)ないし(4)の事実は,いずれも認める。

3  抗弁

(1)  請求原因(1)に対して(正当事由)

ア 原告は,平成14年2月1日,特定郵便局から郵便物を受け取る業務に従事していたがc郵便局への立ち寄り時間は午後2時10分ころとされていたにもかかわらず,同局に到着したのは,午後3時35分ころであって,1時間30分近く到着が遅延する事故を起こした。原告は,上記遅延事故について,急な腹痛に襲われた旨弁解するけれども,原告は他の特定局への立ち寄りは時間どおり行っていることからすれば,c郵便局への立ち寄りを失念したと考えるのが自然である。

イ 上記事故後,被告は,原告に対し,被告就業規則第95条,第96条に基づいて始末書を作成するよう求めたが,原告はこれを乱雑に作成するなど,真摯な反省の態度をうかがうことができなかった。また,原告は,被告f支店のA支店長らと今後の処遇について話し合っている際にも,携帯電話の通話のために2度も退出するなどした。

ウ 被告は,こうした原告の態度を重く受け止め,被告の就業規則第37条第3号に基づいて原告の従前の勤務を解いて下車勤務とし,会議室での反省を指示した。

エ 原告は,上記下車勤務から3か月が過ぎても黒板に被告を中傷する文言を書くなど反省がみられなかったが,被告は,平成14年7月15日ころに原告の乗務復帰の策として取集便の補助作業を命じた。しかし,原告がこれに従わなかったため,結果として上記下車勤務が同年10月末日まで長期化したものである。

(2)  請求原因(2)に対して(処分事由)

ア 原告は,抗弁(1)のアのとおり,平成14年2月1日,c郵便局への立ち寄りを失念し,その結果,同局への到着が大幅に遅延する事故を起こした。被告は,そのため,本件4月30日付け減給処分をしたものである。

イ 被告は,原告の上記事故に対しては,始末書の提出を求めるとともに会議室での反省を命じているが,これは,就業規則に定める懲戒処分ではなく,非違行為に対する反省を求めるべく行った教育・指導であり,一個の行為に対して二重,三重の処分をするものではない。

(3)  請求原因(3)に対して(処分事由)

ア 被告は,平成14年7月15日ころ,原告に対し,同月26日からのb郵便局における勤務を指示し,原告もこれを理解していたのに上記当日になって突然これを拒否し,以後,被告の再三にわたる指示にもかかわらずこれを一貫して拒否し続けた。被告は,原告の上記業務命令違反により,本件6月1日付け減給処分をしたものである。

イ 被告は,平成15年5月13日,地方人事委員会に上記減給処分の当否を諮った上,これを決定した。

(4)  請求原因(4)に対して(処分事由)

ア 被告においては,ポストや郵便局から郵便物を回収する際,無証郵便物を納入する白郵袋などと,現金,有価証券,内容証明郵便などの有証郵便物を納入する赤郵袋とを区別して授受作業を行っている。

イ 原告は,平成15年4月4日,d郵便局で受け取りe郵便局において授受すべき赤郵袋2袋の内1袋を授受漏れにした。また,その際,1袋不足となった赤郵袋について,切手箱の空箱が上記d郵便局から差し立てられた有証郵便物の現物である旨虚偽の言い逃れをしようとした。

ウ 原告は,結局,その性質上厳正に取り扱うべき赤郵袋と普通郵便とを混同して取り扱っていたものであり,それ自体,被告の郵便局との受託契約に影響を及ぼしかねない重大な過失である。そこで,被告は,原告に対し,本件降職処分をしたものである。

エ 被告は,平成15年5月13日,地方人事委員会に本件降職処分の当否を諮った上,これを決定した。

4  抗弁に対する認否

(1)  抗弁(1)について

ア 抗弁(1)のアの事実のうち,原告が,平成14年2月1日にc郵便局への立ち寄りが遅延したことは認めるが,1時間30分近く遅延したことは否認する。遅延時間は,約1時間ほどであった。原告は,当日,c郵便局での郵便物の受け取りに向かう途中,急な腹痛に襲われたため,商工会議所に立ち寄って用を足し,そこからc郵便局までの間に2,3の郵便局に立ち寄ったため,c郵便局への到着時間に遅延したものである。

イ 同イの事実は,否認する。原告は,緊張すると手が震えるために,始末書の文字が震えてしまったものである。また,被告f支店のA支店長らとの話し合いの際に,原告の携帯電話が鳴ったことはあったが,これは1度だけであり,かつ,上記会議室での反省を命じられた平成14年4月17日以後のことである。そもそも上記始末書の提出については,被告の就業規則第101条所定の手続がとられておらず,指示自体効力がないというべきである。

ウ 同ウの事実は,否認する。被告の就業規則第37条は,数か月にもわたって従業員の勤務場所を変更する場合の定めではない。また,仮に遅延事故の理由及び原告の態度が被告の主張するとおりであったとしても,6か月半にも及ぶ会議室での反省命令を適法な懲戒権の行使や適法な業務命令と解する余地はないというべきである。

(2)  抗弁(2)について

抗弁(2)の事実のうち,原告が,平成14年2月1日にc郵便局への立ち寄りを遅延する事故を起こしたことは認める。しかしながら,同事故については,原告は既に前記のとおり会議室での反省処分及び始末書の提出処分を受けており,上記処分は,同一事由に基づく二重ないし三重の処分である。また,上記処分は,原告から事情を聴取しないなど,被告の就業規則第101条所定の手続によらない処分である。

(3)  抗弁(3)について

抗弁(3)の事実は,否認する。被告は,原告に対し,平成14年7月26日以降も本件会議室での反省を命じていたものであって,原告がb郵便局での勤務を拒否したことはない。

(4)  抗弁(4)について

ア 抗弁(4)のアの事実は,認める。

イ 同イの事実のうち,原告が,平成15年4月4日,b郵便局において授受されるべき赤郵袋2袋のうち1袋について授受漏れとしたことは認めるが,b郵便局到着時に1袋不足となった赤郵袋について,空の切手箱がd郵便局が差し立てた現物である旨虚偽の言い逃れをしようとしたことは否認する。原告は,切手箱については,これを有証扱いする郵便局もあるため,d郵便局からの切手箱も有証扱いのものと誤認したものである。b郵便局の職員も全体の数が一致していたため,その場では切手箱を有証扱いで受け取っている。

ウ 同ウの事実のうち,原告が赤郵袋と普通郵便物とを混同してしまったことに落ち度があったことは認める。仮に本件降職処分に理由があるとしても,上記処分は原告以外の被告従業員の起こした郵便事故に対する処分に比して著しく過重な処分であって,裁量権を逸脱したものであるから違法である。

第3当裁判所の判断

1  請求原因(1)ないし(3)及び抗弁(1)ないし(3)について

(1)  前提となる事実関係

ア 上記各請求原因事実及び各抗弁事実のうち,原告が,平成14年2月1日にc郵便局への立ち寄りを遅延する事故を起こしたこと,被告が,原告に対し,平成14年4月ころ,原告に対し会議室での反省を指示したこと,被告が,同年7月ころ,原告に対し,b郵便局での作業を行うよう命じたこと,原告が,同年10月31日までの間,運送業務についていなかったこと,原告が同年11月1日から従前の業務に復帰したこと,被告は,平成15年4月30日付けで,原告に対し,7360円の減給とする旨の処分(本件4月30日付け減給処分)をしたこと,被告は,同年6月1日付けで,原告に対し,6320円の減給とする旨の処分(本件6月1日付け減給処分)をしたことは,いずれも当事者間に争いがなく,上記争いのない事実に加えて,証拠(甲1ないし3,6,10,12ないし15,22の1及び2,乙1,2,6の1,4及び5,乙7,8,11,13ないし15,16の1ないし36,乙43,証人B,原告本人(ただし,甲10及び原告本人については,以下の認定に反する部分を除く。))によれば,以下の事実が認められる。

(ア) 原告は,平成14年2月1日,被告の業務として郵便車を運転し,予め定められたルートにより郵便ポストから郵便物の収集を行い,また,特定郵便局から郵便物の受け取り等を行う業務に従事していたところ,上記ルートのうちc郵便局への立ち寄り予定時刻は午後2時10分ころとされていたのにこれを失念し,上記ルート上のポスト及び特定郵便局を周回した後にこれに気付いて午後3時40分ころc郵便局に引き返したため,同局への到着時刻が1時間30分ほど遅延するという事故を起こした(以下「本件遅延事故」という。)。c郵便局においては,当時郵便物として入学試験願書の郵送を引き受けており,その締切日等の関係から同日午後5時のe郵便局における結束に間に合う必要があったため,同局の局長は,複数回にわたり上記遅延についてe郵便局に電話をかけて事情を問いただすなどしていた。

(イ) 被告は,原告に対し,上記事故について始末書の作成を指示したが,原告の作成した始末書の書体は震えており,被告としては原告に上記事故に対する反省の態度が見受けられないと判断したため,同年4月17日,当面の間原告を下車勤務とし,本件会議室において勤務させることとした(本件下車勤務)。なお,被告は,同下車勤務を命じる際,原告に対して「進退伺」の書式例を示していた。

(ウ) 被告f集配支店の事務所は3階建てであるところ,本件会議室はその最上階に位置し,およそ50名から60名を収容できる広さの部屋であるが,通常人の出入りはほとんどない。原告は,同日以降同年7月25日までの間,業務を与えられないまま,本件会議室の机に座り,出勤時,昼食時および退勤時以外には他の従業員等に会うことなく一人で勤務時間を過ごしていた。原告は,これにより同年5月下旬ころから神経内科に通院するようになり,同月20日,不安神経症,不眠症との診断を受けた。

(エ) 被告は,当初原告の下車勤務については本件遅延事故に対する反省を促すための措置と考えていたことから,原告に反省の態度が見うけられた場合には,いつでもこれを解除するつもりでいたものの,原告が本件会議室内の黒板に「不当労働行為をただちに会社はやめろ」などと記載したことなどから,本件下車勤務は長期化した。そのため,被告は,平成14年7月15日ころ,原告に対し,b郵便局において取集便等の補助作業を行うよう命じ,これに対し原告は,一旦は同月26日から上記作業に従事する旨を了承したものの,同日になってこれを拒否した。その後も被告は,b郵便局において上記作業に従事するよう記載した業務指示表を作成してこれを原告に示した上,同月27日から同年10月9日までの間,連日のように原告に対して同指示をしたが,原告は,文書での業務命令を出すよう固執してこれを拒否し,出勤後は自ら本件会議室に赴くようになった。

(オ) 原告は,そのころ,京都地方裁判所に対して地位保全の仮処分を申し立て(当庁平成14年(ヨ)第857号)たところ,被告は,同年10月10日及び同月21日の審尋期日において,原告に対し,本件会議室で反省するよう命じたり,進退伺いの提出を命じたり,退職を強要するなどしたこと及び運転業務以外の業務に従事させていることを認める旨の陳述をした。

(カ) 被告は,同月31日付けで,原告に対し,同年11月1日から乗車を命じる旨の業務命令を発し,原告は,同日から乗車業務に復帰した。

(キ) 被告は,平成15年4月22日,地方人事委員会に諮問しその答申を受けた上,同月30日,原告に対し,「平成14年2月1日中京区1区3号便の運行において,特定局(c郵便局)への立ち寄りを失念,結果大幅な遅延となる重大な郵便事故を惹起した」ことなどから「反省を促すとともに正常運行の確保に向けた特段の努力を要請する」として,本件4月30日付け減給処分をした。

(ク) また,被告は,平成15年5月13日,地方人事委員会から答申を受けた上,同年6月1日,原告に対し,「平成14年2月1日中京局1区3号便の運行における郵便事故惹起を契機にb郵便局における勤務を指示したにも関わらず,貴殿はこれを一貫して拒否した」ことが「業務命令違反行為」であるとして,本件6月1日付け減給処分をした。

(2)  損害賠償請求(請求原因(1)及び抗弁(1))について

ア 上記(1)の認定に係る事実からすれば,原告は,平成14年2月1日,c郵便局への到着時間に約1時間30分ほど遅延する事故を起こし,その後も被告の求めるような始末書を作成し得なかったことなどから,被告は,原告が上記事故を十分反省していないと判断し,本件下車勤務を命じたものである上,被告においても当初から上記下車勤務を長期にわたるものとは考えていなかったことは認められるけれども,他方,本件下車勤務は,平成14年4月17日から同年7月25日までの約3か月間,終日にわたり,通常は従業員等の出入りしない会議室において一人机に座らせておくというものである上,被告が「進退伺」の書式例を示していたことや,原告がこれにより不安神経症や不眠症にり患したことに照らすと,本件下車勤務に至った上記事情を考慮しても,本件下車勤務のうち平成14年4月17日から同年7月25日までの分は,使用者として被告に許された権限の範囲を逸脱し,原告の人格権を侵害するものというべきである。

他方,被告は,原告に対し,平成14年7月26日からb郵便局での勤務を命じたにもかかわらず原告はこれを拒否したばかりか,原告は,その後も少なくとも同年10月9日までの間,被告から再三にわたり同局での勤務を指示されていたのにこれを拒否し続けて本件会議室で過ごしていたことは上記認定のとおりであることに照らすと,本件下車勤務のうち平成14年7月26日から同年10月31日までの間については,むしろ原告が被告の業務命令を拒否して自己の意思により本件会議室に滞在していたというべきであるから,これをもって,被告の原告に対する不法行為を構成するということは困難である。

イ 被告は,原告に対し,本件遅延事故について始末書の提出を指示したものの,原告はこれを乱雑に作成した旨主張する。証拠(乙1,31の2ないし4,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,確かに,原告の作成に係る始末書の文字は震えており,判読が困難であることが認められるものの,他方,同始末書には「日々反省し本当に申し訳ありません」などの謝罪の文言も記載されていること,原告自身,緊張すると書体が震える旨供述している上,原告が上記始末書以前に作成した始末書や顛末書の書体,あるいは本件訴訟における原告の「証人等出頭カード」の書体も同様に震えていることが認められることからすれば,原告が故意に上記の書体で始末書を作成したとまでいうことは困難である。

ウ また,乙10には,原告は,本件下車勤務の期間中も本件会議室以外の社屋内をうろうろしており,また,クーラーの効いた部屋でごろごろしていたと思われる旨の記載があるけれども,上記徘徊の日時やその態様等はあいまいである上,会議室内での原告の行動については推測にすぎないものであって,これを直ちに採用することはできない。

エ 以上からすると,本件下車勤務のうち,平成14年4月17日から同年7月25日までの分については,原告に対する不法行為を構成し,被告はこれによって生じた原告の損害を賠償する責に任ずべきである。そこで,以下,上記不法行為と因果関係のある原告の損害について,原告の請求に係る各項目に従って検討する。

(ア) 諸手当減額分について

a 特殊手当 弁論の全趣旨によれば,被告における特殊手当は,平成14年4月に手当額が改定されたにすぎず,原告の主張に係る減額は,本件下車勤務と因果関係のないことが明らかである(原告もこれを認める旨の認否をしている。)。よって,これを損害と認めることはできない。

b 型別運行手当 証拠(甲4の2ないし7)によれば,原告の平成14年2月から4月までの同手当の平均額は2897円であるところ,これを同年5月は710円に減額され,同年6月及び7月分は支給されなかったことが認められる。よって,その差額と同額である7981円を損害と認める。

c 超勤手当 証拠(甲4の2ないし7)によれば,原告の平成14年2月から4月までの同手当の平均額は5583円であるところ,同年5月は671円及び同年7月は3531円に減額され,同年6月はこれを支給されなかったことが認められる。よって,その差額と同額である1万2547円を損害と認める。

d 開かん手当 証拠(甲4の2ないし7)によれば,原告の平成14年2月から4月までの同手当の平均額は,1万9853円であるところ,同年5月は1万2044円に減額され,同年6月及び7月の間は支給されなかったことが認められるから,その差額と同額である4万7515円を損害と認める。

e 諸手当(イ) 証拠(甲4の1ないし7)によれば,原告に対しては,同手当として1か月2000円が支給されていることが認められるものの,同年4月から7月までの間も同額が支給されているから,これを損害と認めることはできない。

f 住居手当 証拠(甲4の1ないし6)によれば,原告に対しては,同手当として1か月1000円が支給されているところ,平成14年6月は807円に減額されているから,その差額と同額である193円を損害と認める。

g 時間手当 証拠(甲4の1ないし6)によれば,原告に対しては時間手当2として1か月1万0502円が支給されているところ,平成14年6月は8357円に減額されているから,その差額と同額である2145円を損害と認める。

h 以上,bないしd,f及びgの合計7万0381円を諸手当減額分の損害と認める。

(イ) 休業損害 原告は,平成14年5月下旬以降神経内科へ通院し,同月20日,不安神経症及び不眠症との診断を受けたことは上記認定のとおりであるところ,証拠(甲4の6)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,原告に対し,上記通院等により平成14年6月分の賃金について6万9988円を減額したこと,原告は,このうち1万8804円について健康保険組合から支給を受けていることが認められるから,その差額と同額である5万1184円を損害と認める。

(ウ) 治療費等 原告は,平成14年5月下旬以降神経内科へ通院し,同月20日,不安神経症及び不眠症との診断を受けたことは上記認定のとおりであるところ,証拠(甲9)によれば,原告は,その治療費及び文書作成費として合計1万3740円をG病院に対して支払ったことが認められるから,これと同額を損害と認める。

被告は,上記治療と本件下車勤務との因果関係は否認ないし争う旨主張し,証拠(乙18の1)によれば,平成14年10月21日の原告の診療録には,「不当労働行為(仕事をさしてくれない)とのことで裁判中→不眠症・不安神経症で通院中であることを書いてほしい。因果関係は不明」との記載があることは認められるけれども,本件下車勤務の態様や期間に照らして,原告の上記症状は本件下車勤務に起因するものと推認するのが合理的であり,被告の指摘に係る上記証拠のみによっては,上記認定を左右するに足りないというべきである。そして,その他に,原告の上記症状が本件下車勤務以外の他の原因に起因するものであることをうかがわせる証拠はない。したがって,被告の上記主張は,採用することができない。

(エ) 慰謝料 上記不法行為に至る経緯,その態様,期間,これによる原告の症状等本件に顕れた一切の事情を考慮すると,上記不法行為による慰謝料は金80万円とするのが相当である。

(オ) 弁護士費用 10万円と認めるのが相当である。

(カ) 以上によれば,上記不法行為により原告が被った損害は103万5305円であり,上記不法行為の態様や期間等を考慮すれば,これに対する遅延損害金の起算日は平成14年7月25日とするのが相当である。また,原告の請求は不法行為に基づく損害賠償請求であるから,上記遅延損害金については民法所定の年5分の利率を用いるべきである。

(3)  本件4月30日付け減給処分の無効確認請求(請求原因(2)及び抗弁(2))について

ア 上記請求原因事実が当事者間に争いのないことは,(1)アのとおりである。

イ 抗弁事実について

(ア) 証拠(乙11)によれば,被告の就業規則には,「重大な過失によって欠便又は不結束等の郵便事故を発生させたとき」は,「減給又はけん責に処する。」旨を定めている(第97条第5号)ことが認められるところ,原告は,平成14年2月1日,c郵便局への立ち寄り予定時刻は午後2時10分ころとされていたのにこれを失念し,定められたルート上のポスト及び特定郵便局を周回した後にこれに気付いて午後3時40分ころc郵便局に引き返したため,同局への到着時刻が1時間30分ほど遅延するという事故を起こしたこと,c郵便局においては,当時郵便物として入学試験願書の郵送を引き受けており,その締切日等の関係から同日午後5時のe郵便局における結束に間に合う必要があったため,同局の局長は,複数回にわたり上記遅延についてe郵便局に電話をかけて事情を問いただすなどしていたことは上記認定のとおりであるから,これは,上記就業規則にいう「重大な過失による郵便事故」に該当するものといわざるを得ない。

(イ) 原告は,これに対し,c郵便局への到着が遅延したのは1時間ほどであり,かつその理由は,同局での郵便物の受け取りに向かう途中,急な腹痛に襲われたため,商工会議所に立ち寄って用を足し,そこからc郵便局までの間に2,3の郵便局に立ち寄ったためである旨主張し,これに沿う供述ないし陳述(甲10)をするけれども,他方,証拠(乙8,13)によれば,平成14年2月1日の原告の郵便物の集配ルート上,c郵便局の後に周回すべき郵便局への到着については特段の遅延は報告されておらず,終点であるe郵便局を除くとc郵便局への到着のみが大幅に遅延していること,通常,20分程度の遅延であれば,各郵便局とも取り立てて遅延事故と扱わないことから,原告が仮に急性の腹痛を起こしたとしても,他の局への到着に遅れないために殊更にc郵便局のみに立ち寄らないとする必要はないこと,c郵便局には到着予定時刻が定められているにもかかわらず,原告はこの間,c郵便局に対しては到着が遅延する旨を一切連絡していないことが認められることからすると,原告がc郵便局への立ち寄りの必要性を認識していたものの腹痛によりやむを得ず遅延したものとは考え難いから,原告の上記供述及び陳述は,これを直ちに採用することはできず,むしろ,原告は,c郵便局への立ち寄りを失念していたものと推認するのが相当である。また,証拠(乙12,13)によれば,被告従業員のCが平成14年2月1日午後3時40分ころc郵便局へ連絡した際,同局から原告は今着いた旨の回答があったこと,被告の実験結果によっても同局への到着時刻は午後3時34分ころとなることが認められることに照らすと,原告の同局への到着の遅延時間は,約1時間30分であったというべきである。

したがって,原告の上記主張は,採用することができない。

(ウ) 原告は,本件遅延事故については,本件下車勤務及び始末書の提出処分を受けており,本件4月30日付け減給処分は,同一事由に基づく二重ないし三重の処分である旨主張する。

しかしながら,会議室で下車勤務を命じることをもって懲戒権の行使ということは困難であるから,本件下車勤務のうち,平成14年4月17日から同年7月25日までの分については原告に対する不法行為を構成することは前記認定のとおりであることを考慮しても,本件4月30日付け減給処分が同一事由に基づく二重処分であるとまでいうことは困難であり,また,証拠(乙11)によれば,被告の就業規則上,始末書の提出は懲戒処分の前提として行われるものであることが認められ,これを独立の懲戒処分ということはできないから,この点でも本件4月30日付け減給処分が二重ないし三重の処分に該当するということはできない。

したがって,原告の上記主張は,採用することができない。

(エ) 原告は,本件4月30日付け減給処分は,原告から事情を聴取しないなど,被告の就業規則第101条所定の手続によらない処分である旨主張するけれども,被告は,平成15年4月22日,地方人事委員会に諮問してその答申を受けた上で本件4月30日付け減給処分をしたことは上記認定のとおりである上,本件下車勤務は長期化し,原告が乗車勤務に復帰したのは平成14年11月1日であったことも上記認定のとおりであることを考慮すると,上記諮問をもって遅きに失するということも困難であるから,上記処分をもって,就業規則第101条所定の手続に違反したものということはできない。

したがって,原告の上記主張は,採用することができない。

ウ 以上から,本件4月30日付け減給処分については抗弁(2)の事実が認められ,上記処分を相当とする事由があるというべきであるから,上記処分の無効確認を求める原告の請求は理由がない。

(4)  本件6月1日付け減給処分の無効確認請求(請求原因(3)及び抗弁(3))について

ア 上記請求原因事実が当事者間に争いのないことは,(1)アのとおりである。

イ 抗弁事実について

(ア) 証拠(乙11)によれば,被告の就業規則は,「会社の諸規則又は職務上の指示に違反し,その情状が重いとき」は,「減給又はけん責に処する。」旨を定めている(第97条第12号)ことが認められるところ,被告は,平成14年7月15日ころ,原告に対してb郵便局で補助作業を行うよう指示したこと,原告は,一旦は同月26日からの同局での勤務を了承したものの,同日になってこれを拒否したこと,また,被告は,同月27日から同年10月9日までの間,連日のように原告に対して同指示をしたが,原告はこれを拒否したことは上記認定のとおりであるから,これは,上記就業規則の「職務上の指示に違反し」た場合に該当するというべきである。

(イ) 原告は,被告は平成14年7月26日以降も本件会議室での反省を命じていたものであって,原告がb郵便局での勤務を拒否したことはない旨主張し,原告はこれに沿う供述をするけれども,証拠(乙15,16の1ないし36)によれば,被告は,平成14年7月27日からから同年10月9日までの間,原告に対してb郵便局における作業を命じる旨の業務指示表を作成していたこと,これを原告に示してその際の原告の対応を記録していたことが認められ,これに照らすと,原告の上記供述はこれを直ちに採用することができない。

ウ 以上から,本件6月1日付け減給処分については抗弁(3)の事実が認められ,上記処分を相当とする事由があるというべきであるから,上記処分の無効確認を求める原告の請求は理由がない。

2  本件降職処分の無効確認請求(請求原因(4)及び抗弁(4))について

(1)  上記請求原因事実は,当事者間に争いがない。

(2)ア  抗弁事実のうち,原告が,平成15年4月4日,b郵便局において授受されるべき赤郵袋2袋のうち1袋について授受漏れとしたこと,原告が赤郵袋と普通郵便物とを混同していたこと,被告が,平成15年6月1日付けで原告を運転助手に降職処分をした(本件降職処分)ことはいずれも当事者間に争いがなく,上記争いのない事実に加えて,証拠(甲16ないし18,乙19,20の1及び2,乙21の1及び2,乙22ないし28,39,43,証人B)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(ア) 被告がポストから回収し,又は郵便局から受け取る郵便物のうち,普通郵便は青色の郵袋に,速達,国際郵便及び大型の普通郵便はオレンジ色の郵袋にそれぞれ収納の上で搬送され,また,現金,有価証券,内容証明郵便,裁判所からの呼出状等のいわゆる有証郵便物は赤色の郵袋(赤郵袋)に収納の上搬送される。そして,上記郵袋の他に切手箱と呼ばれる赤い箱があり,郵政公社から切手等を納入の上各郵便局に宛てて運搬されるが,各郵便局において上記切手等を受け取った後はこれを空の状態のまま回収することとなり,空の切手箱に有証郵便物を収納することはない。切手箱はファスナーによる開閉式の簡易なケースであり,他方,赤郵袋は布製の袋である上,その大きさにも相違がある。

(イ) 各郵便局から赤郵袋の差し立てがあった場合には,回収担当者は受領後直ちに保管箱に格納して施錠しなければならず,さらに,起点局での引渡しの際には担当局員立ち会いの下,個数を確認してから行うものとされているなど,厳重な搬送手続が取られている。

(ウ) 原告は,平成15年4月4日,ポスト及び郵便局からの郵便物の回収ないし受取業務に従事していたところ,順路上の特定郵便局であるd郵便局から赤郵袋2袋を差し立てられたにもかかわらず,これを保管箱に格納せず,他の普通郵便物の郵袋と混同して搬送したため,起点局であるb郵便局到着時に上記赤郵袋のうち1袋を発見することができなかった。そのため,原告は,赤郵袋1袋と他の郵便局から差し立てられた空の切手箱を有証郵便物として申し立てた上,b郵便局の担当職員に2個の有証郵便物として引き渡した。当該担当職員は,その後に空の切手箱は有証郵便物には当たらず,赤郵袋が1袋不足していることに気付き,d郵便局に対して切手箱の差し立ての事実の有無を確認したところ,これがなかったことが確認された。そのため,上記担当職員においてこれを捜索したところ,青郵袋の中に混同された状態で上記赤郵袋1袋が発見された。

(エ) 被告は,同年5月13日,原告による上記事故は,「重大な職務上の怠慢によって事故を発生させた」こと及び重大な虚偽の申立てをしたものであるとして,地方人事委員会に本件降職処分の適否について諮問し,その答申を経た上,同年6月1日付けで本件降職処分とした。

イ  証拠(乙11)によれば,被告の就業規則は,「業務上の怠慢又は監督不行届によって災害,傷害,その他の事故を発生させたとき」は「懲戒解職又は降転職に処する」旨規定する(第98条第2号)ところ,以上の事実によれば,原告は,その授受や搬送について厳格な手続が取られている赤郵袋1袋を青郵袋の中に混同させて一時紛失した上,空の切手箱をもって有証郵便物である旨申し立てて上記紛失の事実を隠そうとしたといわざるを得ず,原告の上記行為は,上記就業規則の「業務上の怠慢による事故」に該当するというべきである。

ウ  これに対し原告は,b郵便局到着時に1袋不足となった赤郵袋について,空の切手箱がd郵便局が差し立てた現物である旨虚偽の言い逃れをしようとしたことはない旨主張し,原告本人はこれに沿う供述ないし陳述(甲21)をする。しかしながら,被告においては,赤郵袋の授受について個数確認等の厳格な手続が取られていること及び特定郵便局から差し立てられる切手箱が有証郵便物として扱われることはないことは上記認定のとおりであることからすれば,昭和39年7月に被告に入社以来運転手として稼働している(当事者間に争いがない。)原告が切手箱を有証郵便物と勘違いしたということ自体にわかに信用することはできず,また,切手箱はその形態や材質等において相違していることは上記認定のとおりであることからすれば,原告が切手箱をもって赤郵袋と誤認したということも考え難く,結局,原告は,b郵便局到着時において赤郵袋1袋を発見することができなかったため,空の切手箱を有証郵便物ではないと知りつつ,これを有証郵便物である旨申し立てて有証郵便物の個数を2個とし,これを引き渡したものと推認するほかはないというべきである。

エ  更に原告は,仮に本件降職処分に理由があるとしても,上記処分は原告以外の被告従業員の起こした郵便事故に対する処分に比して著しく過重な処分であって,裁量権を逸脱したものであるから違法である旨主張する。

証拠(甲20,乙31の2ないし4,乙32ないし38)及び弁論の全趣旨によれば,なるほど,平成14年以降,被告f集配支店においては,① 同年2月19日,ポストの施錠漏れについて契約解除の処分とした事例,② 同年12月30日,特定局差立てに係る郵便物の積載を失念した事故について減給処分とした事例,③ 平成15年2月10日,普通郵便物が被告支店の給油所に落ちているところを発見された事故について始末書の提出とした事例,④ 同年5月18日,ポストの鍵の返納を失念したことについて減給処分とした事例,⑤ 同年6月26日,軽四輪車の金庫上部に郵便物を残留した事故について説諭とした事例,⑥ 同年9月24日,ポストの上部に郵袋を残置した事故について始末書の提出とした事例,⑦ 同年10月8日,有証郵袋を金庫内に残置したまま取集に出たため,これを一時授受漏れとした事故について始末書の提出とした事例,⑧ 同月24日,郵便局への立ち寄りを失念した事故について始末書の提出とした事例,⑨ 同月31日,郵便物を支店内に残留した事故について始末書の提出とした事例があること,被告の就業規則(第96条)によれば,懲戒処分は,始末書の提出を前提とし,けん責,減給,降転職及び懲戒解職の順に重いことが認められ,したがって,本件降職処分は,上記各処分に比して重い処分であるということができるけれども,他方,原告については,① 平成11年7月24日,特定局への立ち寄りを失念した事故について,② 平成12年2月24日,道路中央の車線から左折したために起こした交通事故について,③ 平成13年12月21日,荷台に郵便物を残置した事故についてそれぞれ始末書ないし顛末書を作成したことがあることが認められるばかりか,その後も平成15年4月30日には,本件4月30日付け減給処分を,同年6月1日には,本件6月1日付け減給処分をそれぞれ受けていることは前記のとおりであること,そして,本件降職処分の事由は,有証郵便物の納入された赤郵袋を普通郵便物と混同させて一時これを紛失した上,切手箱を有証郵便物であると申し立ててその紛失を隠そうとしたというものであることを考慮すれば,上記認定に係る他の職員に対する処分と比較したとしても,本件降職処分が著しく加重であって,被告の裁量を逸脱したものであるということは困難である。

したがって,原告の上記主張は,採用することができない。

オ  以上から,本件降職処分については抗弁(4)の事実が認められ,上記処分を相当とする事由があるというべきであるから,上記処分の無効確認を求める原告の請求は理由がない。

第4結論

よって,原告の平成14年(ワ)3508号事件に係る請求のうち,損害賠償請求は主文第1項の限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求及び平成15年(ワ)第1886号事件に係る請求は,いずれも理由がないからこれを棄却し,訴訟費用の負担につき民事訴訟法第61条,第64条を,仮執行の宣言につき第259条第1項を,それぞれ適用して,主文のとおり判決する。

(裁判官 竹内努)

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