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京都地方裁判所 平成14年(行ウ)3号 判決 2003年9月25日

原告

原告

株式会社A

同代表者代表取締役

原告

有限会社B

同代表者代表取締役

上記3名訴訟代理人弁護士

明尾寛

森津純

被告

舞鶴税務署長 鈴鹿良夫

同指定代理人

奥岡直子

鴫谷卓郎

田中茂樹

河田貞明

寺内将浩

的場秀彦

主文

1  被告が平成12年7月7日付けでした平成11年分所得税の更正処分の取消しを求める原告甲の訴えのうち、納付すべき税額87万3700円を超えない部分の取消しを求める部分を却下する。

2  被告が平成12年7月7日付けでした平成10年9月1日ないし平成11年8月31日の事業年度の法人税の更正処分の取消しを求める原告有限会社Bの訴えのうち、納付すべき税額3500円を超えない部分の取消しを求める部分を却下する。

3  原告甲及び同有限会社Bの各その余の請求、並びに、原告株式会社Aの請求をいずれも棄却する。

4  訴訟費用は原告らの各負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  原告甲

被告が平成12年7月7日付けでした、原告甲の平成11年分の所得税の更正処分及びこれに係る過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。

二  原告A

被告が平成12年7月7日付けでした、原告Aの平成10年5月1日から平成11年4月30日までの事業年度についての法人税額の更正処分及びこれに係る過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。

三  原告B

被告が平成12年7月7日付けでした、原告Bの平成10年9月1日から平成11年8月31日までの事業年度についての法人税額の更正処分及びこれに係る過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。

第二事案の概要

本件は、C株式会社(以下「C」という。)の全株式を保有する原告らが、株式会社D(以下「D」という。)との間で、上記全株式をDに譲渡すること等を約した契約をした後にこれを解除し、Dから違約金として10億円を取得して同額の収入を得たとして、被告が、原告らに対し、それぞれ、所得税または法人税額の更正処分及び過少申告加算税賦課決定をしたことに対し、原告らが、上記契約を解除して違約金相当額の収入を得た事実はなく、また、Dに対して反面調査を行うことなく上記各処分をしたことは違法であるなどと主張して、原告らに対する上記各処分の取消しを求めた事案である。

一  争いのない事実等

1(1)  原告Aは、保養施設の管理並びに運営、土地の造成、開発及び販売を業とする株式会社であり、その代表取締役である乙は、原告甲の妻である。

(2)  原告Bは、会社、個人経営及び資産運用に関するコンサルト等を業とする有限会社であり、その代表取締役である丙は、原告甲の長女である(弁論の全趣旨、原告甲、甲20)。

2(1)  原告らは、Cの発行済み全株式200株(以下「本件全株式」という。)について、原告甲が160株、同Aが36株、同Bが4株をそれぞれ保有していた。

(2)  原告らは、平成7年8月29日、Dとの間で、本件全株式200株を1株1000万円(代金合計20億円)でDに売却することを含む以下の内容の契約(以下「本件契約」という。)を締結した(甲6、甲19別添(一))。

ア Dは、申込証拠金として本件契約締結時に5億円を、平成7年11月30日までに5億円を、平成10年8月29日までに10億円を原告らに支払い、最終代金支払と引換えに、原告らは、Dに本件全株式の株券を引き渡す。

イ Dは、当時Cが負担していたE信用金庫、F信用金庫、G信用組合等の金融機関に対する合計53億9000万円の借入金(以下「本件借入金」という。)を重畳的に引き受け、平成10年8月29日までに26億9500万円以上を弁済し、残債務については平成13年8月29日までに弁済する。

ウ Dに本件契約の不履行があったときは、原告らは、Dに対する書面による意思表示をもって本件契約を解除することができる。この場合、Dは、原告らに以下のとおり違約金を支払わなければならない。

(ア) 本件契約締結日から平成7年11月30日までに不履行があったときは、申込証拠金5億円を違約金として支払う。

(イ) 平成7年12月1日以降に不履行があったときは、申込証拠金10億円を違約金として支払う。

(以下、この条項を「本件違約金条項」という。)

(3)  Dは、原告らに対し、本件契約時に5億円を支払ったが、平成7年11月24日、残りの5億円につき支払の延期を申し入れ(甲7)、同月30日、原告らとの間で覚書(甲8)を作成し、覚書締結時に1億5000万円を支払い、残額3億5000万円は平成8年1月31日までに支払う旨約した。

しかし、その後、Dは、上記3億5000万円についてさらに支払期限の猶予を要請してきたので、原告らは、平成8年1月31日、Dとの間で、再度覚書(甲9)を作成し、3億5000万円のうち1億5000万円については覚書締結時に支払い、2億円については支払期日を平成8年2月29日とする約束手形をもって支払う旨約した。

Dは、平成8年2月29日までに、上記支払をすべて終えた(以下、同日までにDが原告らに対して支払った申込証拠金10億円を「本件申込証拠金」という。)。

3(1)  原告らは、平成10年8月20日、Dとの間で、残金10億円の支払期限を以下のとおり猶予する旨約し、合意書(甲10)を作成した。

平成11年1月10日 2億円

平成11年6月30日 2億円

平成11年12月30日 2億円

平成12年6月30日 2億円

平成12年12月30日 2億円

(2)  また、原告らは、平成10年8月28日、Dとの間で、本件借入金の弁済期限を同年9月20日まで猶予する旨合意した(甲11)。

4(1)  原告らは、平成10年10月13日付けで、Dに対し、10億円の履行確保及びCの本件借入金の弁済の履行又はこれに代わる具体的提案をするように要求する催告書(甲12、以下「本件催告書」という。)を送付した。

(2)  原告らは、平成10年11月6日付けで、Dに対し、<1>本件借入金について発生していた未払利息の弁済、<2>本件借入金について10億円以上の弁済、<3>本件借入金について設定された保証債務の消滅、<4>本件借入金について設定された物的担保の取消しを2週間以内に実行するよう求め、また履行なき場合には本件契約を解除する旨の最終催告書(甲13、以下「本件最終催告書」という。)を送付した。

(3)  平成10年12月4日、Dは、原告らに対し、3億円程度支払うことを約し、契約を継続する旨の合意した。

(4)  Dが上記3億円の支払を怠ったため、原告らは、平成11年1月13日付けで、Dに対し、通知書(甲14、以下「本件解除通知書」という。)を送付し、本件契約を解除するとともに、本件申込証拠金10億円を違約金として「没収」する旨通知した(以下、「本件解除通知」という。)。

5  その後、原告甲は、平成12年3月14日、平成11年分の所得税につき、原告Aは平成11年6月30日、同年4月30日までの事業年度の法人税につき、原告Bは平成11年10月29日、同年8月31日までの事業年度の法人税につき、それぞれ、別表1ないし3のとおり確定申告をした(甲1ないし5(枝番を含む。))。原告らは、上記各確定申告において、いずれも、本件申込証拠金をそれぞれの所得として計上していなかった。

6(1)  被告は、本件解除通知書をもって、本件契約は解除され、原告らは、本件違約金条項に基づき、Dに対し、10億円の違約金支払請求権を取得し、これを原告らのDに対する本件申込証拠金10億円の返還債務と相殺することにより、本件申込証拠金を取得し、それぞれで合計10億円の収入を得たものとして、原告甲、同A及び同Bに対して、平成12年7月7日付けで、それぞれ、別表1ないし3の「更正処分等」欄記載のとおりの各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び各過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件各賦課決定」という。)をした(以下、両者をあわせて「本件各処分」ともいう。)。

(2)  原告らは、本件各処分を不服として、平成12年9月4日、被告に対し、それぞれ異議申立てをしたが、同年12月4日付けで異議申立て棄却の決定を受け、更に、同月27日、国税不服審判所長に対し、それぞれ審査請求をしたが、いずれも平成13年10月18日付けをもって、審査請求を棄却する旨の裁決がされ、各裁決書は、同月26日、原告らに到達した(甲1ないし5(枝番を含む。))。

7(1)  なお、原告らとDの本件契約に関する交渉は、その後も続き、Dは、自己が契約の当事者になることをあきらめ、株式会社H(以下「H」という。)を原告らに紹介した。

(2)  平成12年8月10日、原告らは、Hとの間で、以下の内容の契約を締結した(甲17、以下「本件再契約」という。)。

ア 原告らは、本件全株式をHに代金17億円で売却する。Hは、原告らに対し、本件再契約締結時に5000万円、平成13年2月から9月まで毎月末日限り1億円、平成17年6月末日限り8億5000万円を支払う。

イ Hは、本件借入金を被担保債権とする原告ら及び第三者の人的・物的保証を平成17年6月末日までに消滅させなければならない。

ウ Hは、本件再契約締結と同時に本件借入金を重畳的に引き受け、平成17年6月末日限り弁済する。

8(1)  更に、原告らは、Dとの間で、平成12年8月10日、以下の内容の覚書を締結した(甲18)。

ア 本件解除通知にかかわらず、本件契約につき交渉が継続されていたことを確認する。

イ 同日、本件契約を合意解除し、原告らはHと本件再契約を締結する。

ウ Dは、Cに調達資金2億円を支払い、調達資金等につき返還請求せず、ゴルフ場のコース改造費用についてはDの負担において解決し、原告ら及びCには返還請求しない。

エ 原告らは、Dに対し、本件申込証拠金10億円の返還義務があることを認め、本件再契約によって原告らが受領する金員等をもって返還する。

(2)  平成13年1月29日、原告らとDは、舞鶴公証役場において、以下の内容の債務弁済契約公正証書を作成した(甲19)。

ア 原告らは、Dに対し、以下のとおり8億円の債務を負担していることを確認する。

(ア) 原告らは、Dから本件契約の代金20億円のうち、10億円を申込証拠金として平成8年2月29日までに受領した。

(イ) 原告らは、平成12年8月10日付けの覚書で、本件契約を合意解除した。

(ウ) 8億円は、(イ)の合意解除による原告らのDに対する返還債務10億円のうち、平成12年8月10日に返済した2億円を除いた残債務金である。

イ 原告らは、Dに対し、アの債務を、平成13年8月末日から平成20年8月末日まで、毎年8月末日限り1億円ずつ、8回に分割して、無利息で支払う。

二  争点及びこれに対する当事者の主張

1  更正処分の取消しを求める原告甲及び同Bの各訴えのうち、各自の申告額を超えない部分の取消しを求める部分の適法性(争点1)

(被告の主張)

本件各更正処分のうち、原告らの各自の申告額を超えない部分については、原告らがそれぞれ自ら申告をしたことにより納税義務が確定しており、その取消しを求める訴えの利益がない。したがって、本件訴えのうち、原告甲については納付すべき税額87万3700円を超えない部分につき、原告Bについては納付すべき税額3500円を超えない部分につき、それぞれ本件各更正処分の取消しを求める部分は不適法であり、却下を免れない。

(原告らの主張)

争う。

2  原告らは、本件契約を解除したことにより、本件違約金条項に基づき、Dに対する10億円の違約金支払請求権を取得し、同額の収入を得たといえるか(争点2)。

(被告の主張)

(1)ア 本件契約は、平成11年1月13日ころ、Dの債務不履行に基づく原告らの約定解除権の行使により解除され、原告らは、まず、本件解除通知による解除によって損害賠償請求権(違約金支払請求権)を取得し、更に、原告らが取得した損害賠償請求権について、Dの原状回復請求権(本件申込証拠金相当額返還請求権)と相殺することで、現実の収入として取得したというべきである。

イ Dの債務履行状況、本件催告書及び本件最終催告書の記載内容からすれば、本件解除通知は、Dによる履行がもはやされ得ないことを確認してされたものであり、解除の効果意思を伴わないとか、確たる履行のめどもないまま数日後に簡単に撤回するような意思表示ではない。

ウ 原告らは、Cの債権者である各金融機関に対し、本件解除通知をしたことを報告していないが、本件借入金債務をDに重畳的に引き受けてもらうことは、履行の実現可能な相手方を見つけ、その相手方と新たな契約締結をすることにより解消される事項であるから、金融機関に対する報告は、新たな契約締結後の報告で足りる。したがって、本件解除通知による解除に際し金融機関に承諾を得ていないことは、本件解除通知が効果意思を伴わないものであることを裏付けるものではない。

エ その後の交渉は、原告らがDとの契約関係をそのまま維持するために継続されていたというよりも、Dに代わる譲受人に対して本件株式を譲渡するための、新たな契約の締結準備として行われていた。平成12年8月10日付け覚書(甲18)は、原告らが本件各処分を受けた後に、課税を逃れるために作成されたものである。そして、同覚書が作成されたのは、Dとの交渉がうまくいったからであり、決裂していれば、本件解除通知の有効性を主張していたはずである。原告らは、Dとの交渉において、解除の事実を有利に援用できる立場にあり、交渉材料として放棄したとは考えられない。

オ したがって、本件解除通知によって解除の効果は有効に発生したものであり、少なくとも平成12年8月10日までに撤回されたことはなく、仮に同日付け覚書に係る合意によって解除が撤回されたとしても、その効果は同日よりさかのぼるものではない。

(2)ア 原告らは、平成12年8月10日付け覚書に基づき、Dに対し本件申込証拠金10億円の返還金の一部として合計8億円を入金した旨主張する。しかし、実際には、これらの金員は、原告甲の要望に応じて、Hという受皿会社が設立され、Dの口座に入金され、その都度、H経由で原告甲に返還されており、同覚書の条項どおりに本件申込証拠金が返還されたかのごとく見せかけるスキームを作ったにすぎず、結局、Dはこれら金員を受領していない。

イ 仮に原告らが申込証拠金相当額を返還したとしても、原告甲においては、所得税の納税義務は平成11年の末に成立していることから、その後の事情により、さかのぼって過去に確定した課税標準等が変更されることはなく、また、原告A及び同Bにおいては、その返還金額を本件解除契約が撤回された日の属する事業年度の損金の額に算入すべきであり、いずれにしても、本件係争各事業年度の法人税の所得計算に影響するものではない。

(原告らの主張)

(1)ア 本件解除通知は、交渉継続の手段としての「おどし」としてされたものにすぎず、およそ契約関係を解消しようという解除の効果意思を伴わないものであって、これに基づいて原告らが本件申込証拠金相当額の収入を確定的に得たものとは到底いえない。本件解除通知後も、原告らは、Dとの間で従前と変わらず交渉を継続してきたものであり、契約関係は解消されておらず、原告らもDも原状回復に向けた行動を全く行っていない。

イ 本件契約の真の目的は、Cの本件借入金債務をDに重畳的に引き受けてもらうことであり、各金融機関に対して本件契約の説明をして承諾を得ていた以上、原告らが勝手に本件契約を解除することは事実上不可能であった。原告らは、本件解除通知をしたことを各金融機関に報告していなかったし、各金融機関も、本件解除通知がされたことは知らなかった。

(2) 仮に本件解除通知が有効であるとしても、原告らは、平成11年1月20日の話し合いの際に、Dの同意の下に解除の意思表示を撤回した。よって、解除の効果は発生せず、Dに本件申込証拠金相当額の支払義務は発生せず、原告らに同額の収入が発生したことにはならない。

(3) 本件解除通知は、申込証拠金10億円の返還債務との相殺の意思表示は含んでおらず、仮に相殺の意思を含んでいたとしても、平成11年1月20日に撤回されたから、原告らは、本件解除通知によって、本件申込証拠金相当額の課税対象となるべき確定的な収入を得たとはいえない。

(4) 原告らは、平成12年8月10日付け覚書に基づき、Dに対して本件申込証拠金を返還し続け、平成13年12月27日をもって完済しており、実質的に何ら収入はない。本件各処分は、実質主義を無視した著しく不当なものであり、その逸脱の程度は誠に著しく、違法である。

3  Dに対する反面調査をせずにされた本件各処分は違法で取り消されるべきか(争点3)。

(原告らの主張)

本件各処分に際しては、Dに対する反面調査を行うことが不可欠であったにもかかわらず、被告はDに対する反面調査を全く行っていない。被告の本件各処分は、調査を全く行わずにされたもの、または、それと同視すべきであるから、違法である。仮に反面調査を行うのは例外的な場合に限られるとしても、いったん行うと説明した以上、それを無断で撤回した場合には、調査を行うべき事項については空白が生じるはずである。

(被告の主張)

本件各処分の調査としては、原告らに対する本人調査のみで十分であった。

第三当裁判所の判断

一  前記第二の一の事実に、甲1~37(枝番を含む。)、乙1~15、Iの証言、原告甲の本人尋問の結果(以下「本件各証拠」という。)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

1  Cは、京都府船井郡日吉町所在のゴルフ場「J」(現「J」)を経営していた。しかし、Cは、E信用金庫、F信用金庫、G信用組合等の金融機関に、合計53億9000万円の本件借入金の負債を抱え、経営難の状況にあった。

原告らは、Cの全株式を保有していたが、自らその経営の再生を図ることは困難と考え、上記ゴルフ場の経営を引き受けてくれる有力企業を探していたところ、Dが名乗りをあげた。そこで、原告らは、Dとの間で、平成7年8月29日、Cの全株式を譲渡するとともに、Cの金融機関に対する本件借入金の返済を引き受けさせること等を内容とする本件喫約を締結した。

2(1)  Dは、原告らに対し、本件契約時に申込証拠金5億円を支払ったものの、申込証拠金残金5億円の支払につき、2度にわたりその猶予を申し入れ、当初の履行期限を3か月経過した平成8年2月29日に、ようやく申込証拠金10億円の支払を終えた。

(2)  Dは、残代金10億円の支払期限である平成10年8月29日の直前になって、またしても原告らに対しその支払猶予を求め、平成11年1月から平成12年12月まで、5回に分割して2億円ずつ支払う旨の合意をした。更に、本件借入金の返済についても、平成10年9月20日まで、約1か月の猶予を求めた。

(3)  しかし、同日を過ぎても、Dは本件借入金の返済を行わなかったため、原告らは、同年10月13日付けで、本件催告書を送付し、残代金10億円の履行確保及び本件借入金の返済またはこれに代わりうる具体的提案をするよう要求した。

(4)  その後も、Dは契約を履行せず、また本件契約の履行に関して原告らの納得のいく提案をしなかったことから、原告らは、平成10年11月6日付けで、Dに対し、本件最終催告書を送付し、<1>本件借入金について発生していた未払利息の弁済、<2>本件借入金について10億円以上の弁済、<3>本件借入金について設定された保証債務の消滅、<4>本件借入金について設定された物的担保の取消しを2週間以内に実行するよう求め、また履行なき場合には本件契約を解除する旨通知した。

(5)  同年12月4日、原告甲、原告ら代理人弁護士、Dの担当者である野崎ら及びD代理人弁護士の四者で協議が行われ、Dは、これまでの契約不履行を謝罪するとともに本件契約の継続を懇願し、原告らとの間で、本件借入金の返済等を含め同年中に3億円程度支払うことで契約を継続する旨の合意した。

(6)  しかし、Dは上記3億円の支払を怠ったため、原告らは、平成11年1月13日、Dに対し、本件解除通知書を送付し、約定解除権を行使して本件契約を解除することを明示するとともに、Dが原告らに支払った申込証拠金は違約金として「没収」し、Cの調達資金等は放棄されたものとみなされる旨通知した。

3(1)  原告らとDは、同月16日及び20日に話し合いを行い、Dが新しい売却先を見つけることなどが提案され、遅くとも同月27日には、新しい売却先あるいは資金提供者として、Kの名が挙がったが、実現しなかった。

(2)  同年4月ころから、新たな買い手としてDからHが指名され、交渉を経て、平成12年8月10日、原告らとHの間で、本件再契約が締結された。

4  被告による税務調査

(1) 被告は、丁上席国税調査官及び戊国税調査官(以下「被告調査官」という。)をして、原告甲の所得税並びに原告A及び同Bの法人税の調査に当たらせた。

(2)ア 被告調査官は、平成12年4月5日、原告甲の自宅及び同人が代表取締役を務める株式会社L(以下「L」という。)の事務所において、原告甲、原告らの顧問税理士であるM税理士(以下「M税理士」という。)、同税理士方事務員N(以下「N事務員」という。)と面接し、本件契約に関し聴き取り調査を行った。原告甲は、その際、本件申込証拠金10億円を受領したこと等を内容とする確認書(乙2)を作成した。

イ 被告調査官は、同月7日、Lの事務所において、原告甲と面接し、本件契約に関し聴き取り調査を行った。同原告は、その際、平成10年11月6日に最後催告を行ったが、それ以降、本件契約の解除は現在に至るまで一切行っていないとの内容の確認書(乙4)を作成した。

ウ 被告調査官は、同月11日、Lの事務所において、原告甲、M税理士、N事務員と面接し、本件契約に関する聴き取り調査を行った。その際、原告甲は、「1.平成7年8月29日に締結した株式譲渡契約に係る決済金額を平成10年12月以降、(株)Dから一切、受け取っていません。1.平成10年11月6日付の内容証明郵便による最終催告書の後には、書面による契約解除の通知は行っていません。1.平成7年8月29日締結の株式譲渡契約の他に、(株)Dと新たな契約は締結していません。」との内容の確認書(乙5)を作成した。

(3) 被告調査官は、同月13日から19日までの間、本件契約に係る申込証拠金の流れ等を解明するため、原告らの取引金融機関に対し、反面調査を実施した。

(4) 被告調査官は、同月27日、Lの事務所において、これまでの本件契約に関する質問調査の内容である質問てん末確認書(甲22)を原告甲に提示し、同人による内容の確認と、署名捺印を経た上で、同確認書を原告甲から徴した。

(5)ア M税理士は、同年5月12日、舞鶴税務署を訪れ、本件解除通知書の写し及び原告甲の従業員が作成したC株式会社経過報告書の写し(乙6)を提出した。

イ 被告調査宮は、同月16日、M税理士に対し、上記経過報告書の写しに記載された書類のうち、未提出であるJ改造工事に関する覚書、ゴルフ会員権販売業務委託契約の解除通知書、取締役の解任通知書及び最終催告書の各写しを提出するよう、電話で依頼したところ、同月17日及び22日、N事務員が舞鶴税務署を訪れ、上記書類を被告調査官に提出した。

二  争点1について

前記第二の一5のとおり、原告らが、別表1ないし3のとおりそれぞれ確定申告を行ったことについては争いがない。そうすると、原告甲は所得税額87万3700円につき、同Bは法人税額3500円につき、それぞれ納税義務があることを自認しているというべきである。

よって、両原告の更正処分の取消しを求める本件訴えのうち、それぞれ上記自認額を超えない部分の取消しを求める部分は、不適法であるから、却下を免れない。

三  争点2について

1  前記第二の一の事実及び第三の一の事実関係を総合すれば、Dは、本件契約による債務を怠ったもので、原告らは、平成10年11月6日ころ、Dに対し、本件最終催告書を送付し、平成11年1月13日、Dに対し、本件解除通知書を送付して本件契約を解除する旨の意思表示をし、これにより、本件契約は解除されたことは明らかである。そして、これにより、本件違約金条項に基づき、原告らがDに対して違約金10億円支払請求権を有することになり、更に、Dの原告らに対する本件申込証拠金相当額返還請求権と相殺したものというべきである(本件解除通知書の「没収」の意味は、このように解される。)。

(1) 原告らは、本件解除通知は本件契約を継続するためのおどしとしてされたものであり、原告らは、真実は解除及び相殺の意思は有していなかった旨主張し、証人野崎の証言及び原告甲の供述には、これに沿う部分がある。しかし、本件解除通知書が送付されるに至った経緯、本件最終催告書及び本件解除通知書の文言等からも、本件解除通知が単なるおどしであったことは何ら看取しえないし、他に原告らのこの主張を認めるに足りる証拠はない。

むしろ、前記認定事実によれば、Dは、本件契約上の義務履行につき極めて不誠実な対応に終始していたこと、最後通牒ともいえる内容の本件最終催告書を受けて、3億円程度の支払を約しながらも、なおこれを反故にしたことなどに照らせば、この段階に至ってなお、原告らがDを引継先とすることに固執していたとは考えがたい。また、前記認定事実のとおり、本件解除通知の後は、原告らは、KやH等、D以外の新たな売却先あるいは資金提供者との間で本件全株式の譲渡及び本件借入金の返済に関する交渉を行うようになっていることからしても、むしろ、原告らは、本件解除通知を行った段階で、Dを引継先とすることをもはや断念していたものと認められる。

(2) また原告らは、仮に本件解除通知によって本件契約が解除され、違約金支払請求権と申込証拠金返還債務が相殺されたとしても、平成11年1月20日、原告らは、Dとの間で合意したことにより、このような関係は撤回されたとも主張する。しかし、そのような合意がなされたことを認めるに足りる証拠はない。本件各証拠を検討しても、原告らが、Dから何ら具体的な契約の履行もないのに、本件解除通知によっていったん取得した違約金支払請求権を放棄したり、前記の関係を撤回したりする動機は乏しいと考えられる。

むしろ、前記認定事実によれば、本件解除通知の後は、Dは新たな売却先あるいは資金提供先を斡旋するなどの役割を果たしていたと認められることなどからすれば、原告らは、本件解除通知の効力を維持したまま、これを利用して、本件契約に関する事後処理につきDに協力を求めたものと考えるのが自然である。

3  このようにみてくると、本件契約は、平成11年1月13日ころ、Dの債務不履行に基づく原告らの約定解除権の行使により解除され、原告らは、本件解除によって取得した10億円の違約金支払請求権とDの本件申込証拠金返還請求権とを相殺することにより、10億円相当の収入を得たものと認められる。この認定に反する原告らの主張は、いずれも採用しない。

そして、原告甲については、平成11年末をもって納税義務が生じており、その後、仮に原告らが主張するようにDに対して原告らが申込証拠金相当額を返還したとしても、原告甲が平成11年分所得税額には何ら影響しないというべきである。また、原告A及び同Bについても、それぞれの事業年度の末日である平成11年4月30日及び同年8月31日の後に原告らがDに対し本件申込証拠金相当額を返還したとしても、同原告らの本件各事業年度の法人税額には何ら影響しないと解すべきである。

四  争点3について

1  前記認定のとおり、被告調査官は、本件各更正処分に先立ち、原告甲らに対する聴き取り調査及び取引金融機関に対する反面調査を行ったほか、原告甲らに対し関係書類の提出を求め、被告は、これらの調査結果に基づいて、本件各処分を行ったものというべきである。

2  また、争点2についての判断で判示したとおり、被告が主張するとおり原告らは合計10億円の収入を得たものというべきである。

3  そうすると、仮に、原告らが主張するとおり、被告調査官がDに対する反面調査を行うことを約していたとしても、その反面調査は、結果的に不要であったもので、それを行わなかったことが、本件各処分の取消事由となるものとは解されない。また、本件各処分に至る手続に違法があったことは、本件各証拠によっても認められない。

4  いずれにしても、原告らの主張は採用できない。

五  本件各更正処分の適法性

前記の各争点以外の課税要件については、原告らはいずれもこれを争わない。したがって、原告甲の平成11年分の所得税、原告Aの平成11年4月期の法人税及び原告Bの平成11年8月期の法人税についてされた本件各更正処分は、いずれも適法というべきである。

六  本件各賦課決定の適法性

本件各賦課決定は、国税通則法65条1項及び2項の規定により、別表4の過少申告加算税の計算明細表記載のとおり算出される過少申告加算税の額と同額あるいは範囲内の額を、原告らに賦課したものであり、本件各更正処分が適法である以上、その増差税額をもとになされた本件各賦課決定もまた適法である。

七  以上のとおり、被告が原告らにした本件各処分はいずれも適法であるから、原告らの請求のうち、訴えの利益を欠き不適法な部分についてはこれを却下し、その余の部分についてはいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行訴法7条、民訴法65条1項本文、61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 八木良一 裁判官 飯野里朗 裁判官 財賀理行)

別表 1

課税の経緯(甲)

<省略>

別表 2

課税の経緯(株式会社A)

<省略>

別表 3

課税の経緯(有限会社B)

<省略>

別表 4

過少申告加算税の計算明細表

<省略>

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