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京都地方裁判所 平成15年(わ)2124号 判決 2004年8月05日

主文

被告人を懲役3年8月に処する。

未決勾留日数中160日をその刑に算入する。

理由

(犯行に至る経緯)

1  被告人は,平成12年7月ころ,改造自動車を乗り回す暴走族である「A」の初代会長をしていたBと知り合い,それ以降,同人と親しく遊ぶようになったが,そのうち,同人から言われて「A」のシールを車に貼ったり,同年12月ころには,「A」の集会に参加してメンバーと一緒に車で暴走したりするようになり,実質的に「A」のメンバーとして活動していた。そして,「A」では,上下関係は厳しく,後輩は先輩の言うことを絶対に聞かねばならないルールが決められていた。

2  Bは,気性が激しく,暴力的な性格であったことなどから,京都の不良仲間や暴走族の間で恐れられ有名な存在であったが,平成13年ころに「A」を引退したものの,その後も,メンバーに対して絶対的な影響力を有し続け,「A」の集会に頻繁に参加してはメンバーに使い走りなどをさせたり,所持金がなくなれば恐喝をさせて現金を作らせたりしており,これに対し,「A」のメンバーも,Bに逆らえば殴る蹴るの暴行を受けるかもしれないなどと恐れ,同人の指示に逆らうことができないでいた。一方,被告人も,Bと仲が良く,同人より2歳年上で他の暴走族の元総長であった上,Bが敬語を使うなどして気を遣うような存在でもあったことなどから,他のメンバーは,被告人をBの次に恐い存在であると感じ,被告人に逆らう者はほとんどいなかった。また,分離公判前の相被告人Cは,「A」の二代目会長代行であり,その後,二代目会長代行は,分離公判前の相被告人Dに引き継がれ,副会長には分離公判前の相被告人Eがなっていた。

3  ところで,「A」のメンバーであったFは,Bから使い走りなどをさせられていたが,一方で,同人と一緒に行動することも多かったことから,同人の威力を背景に,「A」の後輩であるGに対しては,日ごろから,命令口調で使い走りなどをさせていた。Gは,このようなFの態度に腹を立てており,他のメンバーに「F君,うっとうしいですわ。タイマン張ったら勝てますわ。」などと愚痴をこぼしていたところ,その愚痴を聞いたFが,Gにタイマン,すなわち,素手で殴り合い等をする1対1のけんかを持ちかけたため,2人は,平成15年11月29日夜に行われる集会の後,タイマンをすることになり,FはそのことをBに伝えた。

4  被告人は,同日の夜,仕事を終え,同僚のHと共に車で自宅に向かっていたところ,偶然,ガソリンスタンドでBとFに会い,その際,同人らから,FとGがタイマンをすることを聞いた。被告人は,日ごろから,Bに対し,何か面白いことがあれば見に行くから連絡するようにと頼んでいたものの,その時は,Bからタイマンを見に来るように誘われなかったため,一旦帰宅したが,しばらくすると同人から連絡が入り,タイマンを見に来ないかと誘いを受けたので,タイマンを見るのが久しぶりであったことから乗り気になり,同人に「おもろいな。見に行くわ。」と答え,Hと一緒にタイマンを見に行くことにした。

他方,Cは,同年10月に二代目の会長であるIが逮捕され,「A」を仕切る者がいなくなったことや,Bが引退後も「A」を支配し続け,その活動に口を挟んできたり,メンバーに使い走りなどをさせたりしており,このようなBのやり方に嫌気が差してきたことなどから,一応,事前にBの了解を得た上で,「A」を解散することにした。そして,同年11月29日の夜,京都市a区内のJボールの駐車場にD,F及びGら「A」のメンバーを集め,「A」を解散する旨宣言した。メンバーらは,「A」を解散すればBとの関係が切れて,使い走りなどをさせられないですむと思い,「A」の解散を喜び,その後は,ばらばらに散って遊んでいたため,この後にFとGがタイマンを始めるような雰囲気ではなくなり,また,当のFとGも普通に雑談をしており,2人の間に険悪な様子はなかった。この間,Cは,FとGに対し,タイマンをする気が本当にあるのかどうか,それぞれの本音を聞いたところ,Gは,「チームが解散したし,もういいです。あまりやる気がありません。」と答え,Fも,「体調が悪いし,めんどくさいですわ。」と言うなど,双方ともタイマンをする気がないことを伝えた。もっとも,上記駐車場にBが来ることを聞いたCが,メンバーらに対し,Bが来るから帰らないように指示すると,メンバーらは,本音では早く帰りたいと思っていたものの,Bを無視して帰るわけにはいかず,同人が来るのを待っていた。

5  ところが,上記駐車場にやって来たBは,同所に着くなり,C,D及びBと一緒にやって来たEを呼び寄せ,同人らに,FとGのタイマンを行うことにするので,場所について,人目につかず,警察に通報されないようなところがないかと相談を持ちかけ,Cらが,京都府亀岡市内のK亀岡の駐車場を提案し,結局,同所でタイマンが行われることになった。また,Bは,Fに「負けんなよ。とりあえず鼻を殴るんや。」などと言って,けんかの仕方を教えるなどしていた。こうして,「A」のメンバーらは,Bと共にK亀岡に向かった。K亀岡に向かう途中,Bは,C,Dらに対し,タイマンでどちらが勝つか賭けることを持ちかけたが,全員が体格に勝るGに賭けたため,Bは,それでは面白くないとしてFに賭けた。Gは,車内においても,同乗したCに対し,タイマンをする気がないことを伝え,また,Cも,体格や力の劣るFがほぼ間違いなくタイマンに負けると思っていたことから,同人のことを心配して,Gに「手加減したってや。Fが謝ったら止めたってや。」などと頼むなどした。

ところで,Bから誘いを受けた被告人は,Hと共に車でJボールに向かっていたが,途中でBらの車と合流し,同人らと一緒にK亀岡の駐車場に向かった。そして,被告人らは,同月30日午前1時ころ,上記駐車場に着いたが,Bは,同駐車場の奥にあるシャッターに向けて車をとめた上,車とシャッターの間をタイマンのリングのように見せるため,Cらに指示して,2台の車を,ヘッドライトを点灯させたまま,シャッターに向けて自分の車と並べて駐車させた。すべての準備が整ったところで,Bが,シャッターの前に立ったFとGに対し,「やるんやったらやれや。」と声をかけ,タイマンが始まった。

(罪となるべき事実)

被告人は,B,G,分離公判前の相被告人C,同D及び同Eと共謀の上,平成15年11月30日午前1時15分ころから同日午前1時59分ころまでの間,京都府亀岡市b町c番地d所在の株式会社K亀岡駐車場内南端道路において,F(当時20歳)に対し,多数回にわたり,その顔面等を手拳で殴打し,倒れた同人の頭部等を足蹴にする暴行を加え,よって,同人に,口腔挫創,前歯上2本折損及び急性硬膜下血腫等の傷害を負わせ,同年12月4日午後2時40分ころ,京都市e区f町g所在の医療法人L病院において,同人を上記急性硬膜下血腫により死亡させたものである。

(証拠の標目)

省略

(事実認定の補足説明)

第1弁護人は,(1)被告人がG,C,D及びEと本件の暴行について共謀した事実はなく,Bとの間で意思の連絡はあるが,傷害致死の正犯としての共同実行の意思はない,(2)被告人は,GとFの双方を応援していたもので,GのFに対する暴行のみを支援する意図はなかったのであるから,傷害現場助勢罪が成立するにとどまる,(3)仮に,(2)の主張が認められないとしても,被告人には傷害致死の精神的幇助犯が成立するにとどまる旨主張するので,当裁判所が判示のとおり認定した理由を,以下,説明する。

第2前提となる事実

上記犯行に至る経緯で認定した事実のほか,関係証拠によれば,本件の犯行状況等に関し,以下の事実が認められる。

1  FとGは,タイマンを始めたが,互いに相手の顔面めがけて手拳を繰り出したり,体を蹴ろうとしたりするものの,まともに相手の顔面や体に当てることはなく,ただ動き回っているだけであった。そこで,Bは,FとGが地面に倒れて組み合いになり,動かなくなったのを見て,「2人を立たせろ。何もしてへんし。」などとメンバーに指示し,2人を引き離して体勢を立て直させてから,タイマンを再開させた。被告人は,B及びHと並んで,タイマンを見ていたが,体勢を立て直したFとGが殴り合いを始めると,まるで自分が実際にけんかをしているような感じがして興奮し,FやGに対し,「やれ。顔を狙え。殴りつけろ。そこや。もっといけ。いかんかい。」などと叫んだ。Bも,「殴れ。いかんか。顔狙わんか。」などと興奮した様子で叫んでいた。ところが,Fは,Gに地面に倒され,顔面等を何度も一方的に殴られるなどしたため,タイマンが始まってから5分も経たないうちに,土下座をして,Gに「すいません。すいません。」などと謝った。Gも,「もう,気が済んだわ。」と言ってその場を離れ,車に戻って紙パックのウーロン茶を飲んだ後,Fにその残りを手渡した。

2  すると,2人の様子を見ていた被告人は,あんなじゃれ合うようなタイマンはタイマンじゃない,どっちかが動けなくなるまで殴り合うのがタイマンや,何で勝手に止めとるねん,年上が年下に負けるなんて情けないといった気持ちと,もっと殴り合いを見て興奮したいとの気持ちを抑えきれず,FとGに対し,「もっとやらんかい。1ラウンドだけかい。どうしたんや。いかんかい。F,年上のくせに何負けてんねん。」などと言い,Bも,「年上が何負けてるねん。やらんかい。何してんねん。気絶するまでやれや。」などと怒鳴りつけ,更にGに対しては,「やったってくれや。」などと有無を言わさぬ強い口調で,タイマンを続けるように要求した。

一方,他の多くのメンバーは,Fのあまりに無様な負け方を見て,もうこれ以上やっても仕方がないと思っていたが,Bや被告人が,上記のように,タイマンの続行を強く望んでいる以上,2人のタイマンをとめることはできず,沈黙したままでいた。

3  そこで,FとGは,やむを得ず,タイマンを続けることにしたが,2人の戦意は明らかに下がっていたものの,Gは,手加減をすると自分がリンチを受けることになるかもしれないと思い,Fの顔面等を手加減せずに殴り続けた。

そして,被告人は,2人の殴り合いの様子を見て再び興奮し,FやGに対して,「ガードや。頑張れ,頑張れ。しっかりやれ。」などと声をかけ,Bも,興奮した様子で叫んでいた。ところが,Gから顔面等を一方的に殴られたり,蹴られたりしたFは,タイマンが再開してから二,三分も経たないうちに,再び土下座をして,「もうやめてください。すいません。目が見えないんです。次の機会にして下さい。」などとGに何度も謝り,それを受けて,同人もFへの攻撃をやめた。この時,Fは,ぐったりとして,床に座り込み,動けない状態になっていた。

4  しかし,被告人とBは,Fのこのような状態を見ていたのに,それでも,Fに対し,何度も「F,立たんかい。やれへんのか。」などと大声で言ったが,Fから,「もうできません。すいません。」と泣きそうな様子で言われたため,Bが,自己の車から金属バットを持ち出して,「足折られるか,先立つか。どっちにするんや。」と怒鳴りつけるなどし,一方,被告人も,「ほんまや,やらんかい,立てへんのか。立てへんかったら,俺がいこか。しっかりせえ。」などと怒鳴りつけた。そのため,Fは,ふらふらになりながらも立ち上がり,再びタイマンを始めたが,すぐにGに倒され,顔面を蹴りつけられるなどしたため,完全に戦意を喪失し,「すいません。できません。」などと言ってGに謝った。その間,Bは,Cらを呼びつけ,Fに気合いを入れてこいなどと言ってFに対して殴る蹴るの暴行を加えるように命令し,被告人も,Bから,「あいつら,ほんまに情けない。M君,なんとか言ってやって下さい。」などと頼まれたこともあって,Cらに,「Fも年上のくせに情けないし,しっかりせなあかん。これからちゃんとしたチーム作れ。」などと指示した。その後,Bは,Gを呼びつけ,「気済んだか。俺らOBなんやから,うっとうしかったら相談せいや。」などと言い,Bと一緒にいた被告人も,「一緒のチームやから,信用が大切ちゃうか。間違ってることは,間違ってると言ったらいいし。」などと言って,年上であるFに逆らおうとしたGの態度等をとがめるなどした。

5  一方,Cらは,Bらの命令を受けて,Gと入れ替わりに,Fに対し殴る蹴るの暴行を加えた。そして,一通り暴行を加えた後,Cが,Fに対して更にタイマンを続けるように言うと,同人は,タイマンを続ける旨答えた。Cからこの話を聞いたGは,Fに対し,「まだやるんですか。」と驚いた様子で聞いたところ,Fが「目見えへんし,また今度にして。」と訴えてきたので,これ以上Fとのタイマンを避けたいという思いから,その場にいたメンバー全員に聞こえるような大きい声で,「目見えへん,言うてはりますよ。」と言ったが,Cが「まだ張れるやろ。」などと言い,Bも「Fも立っとるぞ。」などと言ってタイマンを続けるように要求した。Gは,ここでタイマンを拒絶すれば,今度は自分がリンチを受けるかもしれないと思い,やむを得ず,Fとのタイマンを再開することにした。

6  そして,Gが,Fを地面に引き倒し,倒れた同人の顔面等を一方的に殴り続け,更に,Bと被告人らの目の前で,その左側頭部を数回蹴りつけ,その後,同じ部位を踏みつけていたところ,Fは,急にいびきをかき始め,意識不明となった。

7  Fの様子を見たBは,Fを病院に運ぶように指示し,Eらは車でFを病院に運んだ。

病院において,Bは,自分,被告人,Hらは現場にいなかったことにしろなどと他のメンバーに口裏合わせをするよう指示をした。その後,Fは,判示病院に転送された後,死亡した。

以上のとおりである。

第3そこで,上記犯行に至る経緯及び第2において認定した犯行状況等に関する事実に基づいて,被告人にいかなる犯罪が成立するか検討する。

1  ところで,傷害現場助勢罪とは,けんかの現場において無責任な助勢行為が行われると,けんかの規模が拡大し,本来ならば生じないであろう重大な結果が生じるおそれがあることから,このような危険を防止するため,傷害又は傷害致死の行われている現場での助勢行為を独立して処罰するという規定であると解される。したがって,いわゆる野次馬的な助勢行為を超えて,実行行為者の犯行と実質的に同視できる,あるいはそれを容易にする行為は,むしろ,傷害罪又は傷害致死罪の正犯,あるいは狭義の共犯を構成するというべきであるから,傷害現場助勢罪は,実行行為者に対するその場限りの野次馬的な助勢行為,すなわち,実行行為者の気勢を高めるような扇動行為のみを処罰するに過ぎないものと解される。

これを本件について見るに,上記のとおり,①Bは,「A」を引退した後もメンバーに絶対的な力を有し続け,「A」のメンバーも,Bに逆らえば殴る蹴るの暴行を受けるかもしれないと恐れ,Bの指示に絶対的に服従していたところ,被告人も,Bと仲が良く,また,Bの先輩で同人が被告人に対しては敬語を使っていたことなどから,メンバーのほとんどが逆らうことはできない存在であって,Bの存在とその威勢を背景にしつつ,メンバーに対して強い影響力を有していた。また,②被告人は,日ごろから,Bに対し,何か面白いことがあれば見に行くから連絡するようにと伝えていたところ,BからFとGがタイマンすることを聞き,見に来ないかと誘いを受けるや,乗り気になって「おもろいな。見に行くわ。」などと答え,本件現場に赴いた後,タイマンが始まるや,「やれ。もっといけ。やらんかい。」などと興奮した様子で叫び,また,「顔を狙え。殴りつけろ。そこや。」などと,相手に対する暴行の方法を具体的に指示するような内容の声援まで送っているのであって,どちらかが動けなくなるほどのタイマンを見たいとの自らの欲求を満足させるため,終始,GとFとのタイマンに強い関心を抱き,積極的な態度で臨んでいた(もっとも,被告人は,公判廷において,Bから,けんかをするから来てくれと言われ,興味はなかったがHと一緒に行った旨弁解するが,タイマンが始まると,興奮した様子で声援を送っている上,一旦タイマンが収まった後も,タイマンの続行を執ように要求して再開させ,それからも興奮して声援を送っていることなどからすると,上記弁解の信用性は乏しいというべきである。)。さらに,③被告人は,FがGに土下座をして謝り,Gも攻撃をやめたのを見て,その時点で2人がタイマンを続ける意思を喪失したことを認識したにもかかわらず,FとGに対し,「もっとやらんかい。1ラウンドだけかい。」などと言ってタイマンを続けるように要求し,とりわけ,負けを認めたFに対しては,「F,年上のくせに何負けてんねん。」などと,タイマンの続行をけしかけるような発言までしているのであって,タイマンを続ける意思を喪失していたFとGに対し,タイマンを続けるよう指示,命令している(なお,被告人は,公判廷において,「やっぱり2人のけんかやし,深追いもしていないです。そしたら,またやり始めよったんです。」旨供述し,タイマンの再開を強く指示したことはない旨弁解するが,FとGは,Fが謝ったことによってタイマンを終え,しかも,GがFにお茶を手渡したりするなど,完全にタイマンを続ける意思を喪失しているのであって,それにもかかわらず,2人が誰からも指示されることなく急にタイマンを再開したというのは極めて不自然であって,被告人の上記供述は信用できない。)。更には,タイマンが再開された後も,被告人は,相変わらず,FやGに対し,「ガードや。頑張れ,頑張れ。」などと興奮した様子で声援を送り,また,Fが再び負けを認めて謝り,Gも攻撃をやめたにもかかわらず,Fに対し,何度も「立てや。」などと強い口調で命令して,タイマンの続行を要求しているのである。このように,被告人の上記のたび重なる指示,命令が,Bのそれらと相前後してなされたことにより,GやFをしてタイマンを続けざるを得ない状況に追いつめたといえる。

以上の,被告人の「A」のメンバーに対する関係及び影響力の強さ,タイマンを見ていた際の被告人の心情やその積極的な言動,タイマンが中断した時の発言内容等にかんがみれば,本件当時の被告人の一連の言動は,Bの存在とその言動とも相まって,タイマンの当事者であるFやGの意思を支配するまでに至っており,それは単に扇動行為にとどまるものではないことは明らかであって,B及びGらと意思を相通じて,まさに同人らと共同意思の下に一体となり,タイマンの名のもと,Gを利用して,Fに暴行を加えるという自らの意思を実行に移したものと評価するのが相当である。

したがって,被告人には,傷害現場助勢罪や傷害致死罪の幇助犯の成立する余地はなく,共謀共同正犯が成立することは明白であり,Gらの上記暴行の結果,Fが傷害を負い死亡した本件においては,傷害致死罪の共謀共同正犯の罪責を負うと解すべきである。

2(1)  これに対し,弁護人は,被告人がGにタイマンの続行を指示する発言をした点が問題となるとしても,被告人とBとでは,Gに対する影響力が大きく異なる旨主張する。

確かに,上記のとおり,被告人は,「A」の初代会長であるBほどの存在感や恐ろしさはなく,メンバーに対する影響力にも差があったと認められるものの,他方,Bが年上である被告人に対しては敬語を使い,気を遣っていたというのであり,周りの者から見れば,被告人もBに次いで恐い存在であると考えていたことは明らかである(そのことは,被告人も,捜査段階において,自分がBより2学年先輩で,Bが敬語を使ったりすることから,「A」のメンバーは,自分のことをBに次ぐ立場と思っていた旨供述(検188)し,自分に相当の影響力があることを認めていることからも,裏付けられる。)上,本件当時は,このような被告人が,Bと一緒になってタイマンの再開や続行を指示,命令しているのであるから,他のメンバーにとって見れば,被告人の上記指示や命令は,Bのそれらと一体のものとして捉えられ,それ故,被告人の指示や命令を拒否することができなかった状況にあったことは上記のとおりである。したがって,被告人とBとの間に,「A」のメンバーに対する影響力に差があるとしても,そのことは,本件共謀共同正犯の成否には何ら影響を及ぼさないと解される。

(2)  また,弁護人は,①Cらによる暴行や,致命傷を負わせたGの暴行は,被告人が知らないうちに開始されたものであり,BがCらに暴行の指示をしたことも知らなかったこと,②被告人が,これ以上タイマンを続けられないと懇願したFの様子を見て,Bに対し,「立てへんかったら,俺が行こか。」などと,タイマンの継続に消極的な発言をしていることなどを根拠に,被告人がGやCらと共謀した事実はない旨主張する。

しかしながら,①については,上記のとおり,被告人とBらとの間では,タイマンが開始された直後の時点から,Fに対する暴行の共謀が成立していたのであって,また,本件の一連の暴行は,場所が同一で,時間的にも連続して行われたものであり,Cらによる暴行や,致命傷を負わせたGの暴行は,いずれもFに対する暴行の共謀が継続している中で実行されたものと評価できることから,被告人において,Cらの暴行やFに致命傷を負わせたと考えられる最後のGの暴行が開始されたことを知らなかった点をもって,被告人の共謀を否定する事情にはならないというべきである。むしろ,被告人は,目の前でCらやGによる暴行自体を目撃していたにもかかわらず,それらの暴行を止めるように指示することは一切なかったのであって,これは,暴行がなされることを黙認していたものと評価でき,当初から,Fに対する強度の暴行が行われることを認識,認容していたことを裏付ける一事情ともなりうるものである。

また,②についても,被告人の発言は,上記第2の4のとおり,床に座り込み,戦意をなくして動けなくなっているFに対し,更にタイマンをやらせるために同人を鼓舞しようとしてなされたものと認めるのが相当であって,弁護人が主張するような消極的なものではないのである。これに対し,被告人は,検察官調書謄本(検188号)において,「「俺が行こか。」と言った相手はBであって,そういうふうに言えば,BがバットでFの足を折ることはしないと思ったからです。」旨供述しているが,Bにバットを使わせないようにしようとしたというのならば,同人にそのように言えば足りることであって(なお,被告人は,Bに対し,そのようなことは言えない旨供述しているが,関係証拠によると,BからFの足を折れと言われてバットを渡されたDは,そんなことはできないと言ってバットを地面に置いていることが認められるのであるから,被告人の上記供述は採用できない。),何も「俺が行こか。」などと,まわりくどい言い方をする必要はないと考えられ,上記検察官調書中の供述部分は不自然な感を否めないこと,警察官調書(検182号)では,上記第2の4で認定したような供述をしていることや,Dの警察官調書(検160号)には,BがFに対し「足の骨を折るか,立つかどっちがいいねん。」と言った時,被告人も,Fに対し,何か大声で叫んでいたように思う旨の記載が存することなどに照らすと,上記検察官調書中の供述部分は信用できない。

そうすると,弁護人の上記主張はいずれも失当というほかなく,その他,弁護人がるる主張する点を検討しても,上記1の判断は揺るがない。

3  以上の次第で,被告人には,傷害致死罪の共謀共同正犯が成立する。

(法令の適用)

被告人の判示所為は刑法60条,205条に該当するので,その所定刑期の範囲内で被告人を懲役3年8月に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中160日をその刑に算入することとし,訴訟費用は,刑訴法181条1項ただし書により被告人に負担させないこととする。

(量刑の理由)

本件は,暴走族の実質的メンバーであった被告人が,暴走族の元会長やメンバーら5名の者と共謀して,他のメンバー1名に対し,タイマンの名のもと,多数回にわたり,その顔面等を手拳で殴打し,倒れた同人の頭部等を足蹴にするなどの暴行を加え,よって,同人に急性硬膜下血腫等の傷害を負わせ,その約4日後に同人を死亡させたという傷害致死の事案である。

被告人は,暴走族の創設者で元会長でもあり,現役メンバーに対して絶対的な影響力を有するBから,被害者と暴走族のメンバー1名がタイマンをすることを聞きつけるや,激しい殴り合いをするタイマンが見物できると期待して現場に赴き,タイマンが始まるや,相手に対する暴行の方法を具体的に指示する内容の声援を送るなどしたが,タイマンが中途半端な形で終わり,十分な興奮が得られなかったため,どちらかが動けなくなるほどの激しいタイマンをさせようと考え,タイマンを続ける意思を喪失していた被害者らタイマンの当事者に対し,Bと一緒になって,タイマンを続けるように怒鳴りつけるなどし,それに従ってタイマンが続けられた結果,被害者を死亡させるに至ったというものであり,自己の興奮を高めるためだけに激しいタイマンを強要するという,その自己中心的かつ身勝手な犯行動機には酌量の余地は全くない。また,犯行の態様も,当初こそ,被害者やその相手方が互いに殴り合うというタイマンの形になってはいたものの,すぐに被害者が相手方からその顔面等を手拳で多数回で殴打されたり,倒れた体の上に馬乗りになられて顔面を殴打され,あるいは,頭部を足蹴にされたりするなどの強度の暴行を一方的に受け続け,そのため,被害者がもう立てないなどと懇願し,もはやタイマンを継続する気力も体力も有しておらず,相手方もやる気をなくしていることを分かっていながら,もっと激しいタイマンを見て興奮したいとの欲求から,メンバーに対するBと自己の持つ圧倒的な影響力を行使して,更にタイマンを続けるように被害者らに何度も指示や命令をするなど,執よう,かつ非情なものであって,犯情はいたって悪質というほかない。被害者は,意に添わないタイマンを半ば強制され,重傷を負った後もタイマンを続けさせられた結果,死亡するに至っており,強度の暴行を振るわれ続けたことによるその肉体的苦痛や絶望感は,想像を絶するものがある上,20歳という若さで,しかも,当時結婚を約束していた同棲中の女性が被害者の子を身ごもっている状況の中で,同女に何の言葉も残せないまま命を落とした被害者の無念さは察するに余りある。被害者は,意識を失った後,生死の境をさまよっていた際,「B君,すいません。」と,自らを死に追いやった犯人に気遣う言葉を発してもいるのであって,その言動は余りにも哀れというほかない。そして,前途ある最愛のわが子を突然にして奪われた遺族等の悲しみも,筆舌に尽くしがたいものがあると思われる。それにもかかわらず,被告人は,共謀したつもりもないとか,暴行をやらせたつもりもないなどと本件犯行を否認し,不合理な弁解を弄しており,真摯な反省の態度を看取できないばかりか,遺族らに対して何らの慰謝の措置も講じていないのであって,遺族らの処罰感情が厳しいのも当然である。

このような事情に照らすと,被告人の刑責は重大である。

そうすると,本件タイマンを計画し遂行させるなど,終始,主導的役割を担ったのは,暴走族創設者で元会長のBであって,被告人は,Bから誘いを受けて本件現場に赴いたに過ぎなかったことや,実行行為者を含む共犯者らに対する被告人の影響力は,Bのそれと比較すると圧倒的なものとはいえず,被告人とBとの間には,その刑責において,大きな差があることは明らかであること,また,タイマンの相手方以外の他の共犯者らによる暴行やその相手方による致命傷を負わせるに至った強度の暴行については,必ずしも積極的に関与しているわけではないこと,被害者に対し謝罪の弁を述べてはいること,傷害罪による罰金刑1犯しか前科がないこと,25歳の青年で稼働していたことなど,被告人のために酌むべき事情を十分考慮しても,犯情の悪質性や結果の重大性等にかんがみると,本件は刑の執行を猶予すべき事案とは到底認められず,主文の程度の刑に処するのが相当であると考えた。

よって,主文のとおり判決する。

(求刑・懲役7年)

(裁判長裁判官 東尾龍一 裁判官 瀬田浩久)

裁判官 楡井英夫は転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官 東尾龍一

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