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京都地方裁判所 平成15年(わ)304号 判決 2004年9月24日

主文

被告人を無期懲役に処する。

未決勾留日数中420日をその刑に算入する。

押収してある大型万能包丁1丁(平成15年押第81号の1)を没収する。

理由

(犯行に至る経緯等(1))被告人は,中華人民共和国で生まれ,黒竜江省において両親や祖母と暮らしていたが,同国の高校に在学中,4年制の大学を受験したものの失敗したため,日本に留学して日本語を勉強し,日本で高学歴を取得して高収入を得られる会社に就職することを夢見て,平成11年7月に同高校を卒業した後,日本に居住する叔母のAに日本語学校を探してもらい,京都市a区内の日本語学校に通うことが決まると,少しずつ日本語の勉強を始め,翌12年4月ころ,当面の生活費として母親が用意した米ドルで1800ドルを持って,日本に入国し,上記日本語学校に入学した。被告人は,入国当初は,京都府b市内のA宅に居住していたが,同月末ころ,Aから金銭的な援助を受けて,日本語学校に近い京都市a区内のアパートを借りて一人暮らしをするようになるとともに,ラーメン店でアルバイトを始め,複数のアルバイトを掛け持ちするようにもなった。このころの被告人の生活は,午前は日本語学校に通い,午後はアルバイトに出るというもので,アルバイトによって得た収入は,家賃や生活費等のほか,日本語学校の学費に使っていた。ところが,被告人は,自分本位な性格等も影響して,なかなかアルバイトの仕事になじむことができずにアルバイト先を転々とし,十分な収入を得ることができなかったため,結局,平成14年3月ころまでは,両親等から金銭的援助を受けて生活費や学費等を支払うなどし,何とか日本語学校を卒業した。

ところで,被告人は,日本語学校の在学中,大学に進学することを希望するようになり,平成13年10月ころには,Aが紹介した金属会社のアルバイトを辞め,受験勉強をしていたが,4年制の大学を受験したものの合格しなかったため,B短期大学に進学することを決めた。被告人が短期大学の高い学費を自力で支払っていけるのか心配に思ったAは,同大学への進学に反対したが,被告人は,その反対を押し切り,アルバイトをして貯めた現金や両親等からの援助金を元手に,入学金や前期の授業料合計45万8000円を支払って,翌14年4月,同大学に進学した。その後,同年5月末ころ,再びAの金銭的な援助を受けて,大学に近い京都市c区内の学生寮に引越しをし,そこで一人暮らしを続けることになったが,今後はアルバイトで得た収入だけで生活していくことにして,以後,Aから経済的な援助を受けることはなかった。しかし,既に大学に入学した同年4月ころには,両親等から援助を受けた金員のほとんどを入学金等の支払いに使ってしまい,希望するアルバイトもなかなか見つからなかったことから,日々の生活費にも窮するようになって,自宅の近隣にある店舗に侵入しては,金品を盗み出すようになり,そこで得た金品で生活するようになった。もっとも,被告人は,大学入学後の同年6月ころから,スーパーでアルバイトをしていたものの,その収入だけでは十分な生活費を賄うことができず,結局,同年9月ころには,店員とのトラブルからそのアルバイトも辞め,それ以降は,同年10月に大学から前期の奨学金12万円の支給を受けた以外に全く収入がなくなり,もっぱら盗みによって得た金品で生活するようになった。

(罪となるべき事実)

被告人は,金品窃取の目的で,

第1平成14年8月12日午前1時ころ,京都市a区(以下省略)所在のスポーツ用品販売店「C」経営者Dが看守する同店舗内に東側高窓から侵入し,同所において,同人管理に係る現金約1万2950円及び野球用バッグ等6点(時価合計約1万9300円相当)を窃取し(平成15年9月26日付起訴状第1),

第2平成14年9月ころ,同区(以下省略)所在のEスーパー店内に西側ブロック塀を乗り越えて侵入し,同店青果部作業場において,同店店長F管理に係る大型万能包丁1本(時価約500円相当)を窃取し(平成15年6月30日付起訴状第1),

第3平成14年9月8日ころ,同区(以下省略)所在のGが看守する美容室「H」に腰高ガラス窓から侵入し,同所において,同人所有に係る現金約2000円及びノートパソコン等4点(時価合計約20万7000円相当)を窃取し(平成15年5月23日付起訴状第1),

第4平成14年9月17日午前1時ころ,同区(以下省略)所在の韓国風居酒屋「I」経営者Jが看守する同店舗内に東側勝手口ドアから侵入し,同所において,同人管理に係る手提げ金庫等3点(時価合計約6100円相当)を窃取し(平成15年9月26日付起訴状第2),

第5平成14年9月19日午前3時30分ころ,同区(以下省略)所在の居酒屋「K」経営者Lが看守する同店舗内に南側勝手口ドアから侵入し,同所において,同人管理に係る現金約450円及び出刃包丁等11点(時価合計約7850円相当)を窃取し(平成15年9月26日付起訴状第3),

第6平成14年11月10日ころ,上記第3記載の美容室「H」に腰高ガラス窓から侵入し,同所において,上記G所有に係るノートパソコン等8点(時価合計約28万2940円相当)を窃取し(平成15年5月23日付起訴状第2),

第7平成14年12月19日午後10時ころ,同区(以下省略)所在のお好み焼き店「M」経営者Nが看守する同店舗内に1階北側浴室の高窓から侵入し,同所において,同人管理に係る現金約1700円及び電気ポット等2点(時価合計約2500円相当)を窃取し(平成15年9月26日付起訴状第4),

第8平成14年12月20日午前2時ころ,同区(以下省略)所在のO方に1階東側の掃き出し窓から侵入し,同所において,同人所有に係る現金約18万円及び名刺入れ等4点(時価合計約3000円相当)を窃取した(平成15年9月26日付起訴状第5)。

(犯行に至る経緯等(2))

被告人は,平成14年9月にスーパーのアルバイトを辞め,それ以降はアルバイトを全くせず,上記の奨学金もすべて生活費に充て,ますます生活費に窮するようになっていたところ,同年10月中に支払うべき後期分の学費59万8000円を滞納し,同年12月ころには,大学からその支払いを催促されるようになっていた。しかし,被告人は,納付期限に従わなくても学期末試験までに支払えばよいと勝手に考え,手持ちの現金がなかったこともあって,学費を支払おうとせず,その後,学費の一部を盗みによって得た現金から捻出したものの,学費を完納することができないでいた。また,同じころ,Aから,後期の学費を支払えるのかと聞かれたこともあったが,支払う目処が全くなかったのに,学費は自分で払える旨答えていた。そして,翌15年1月10日になると,大学の職員から,同月15日を納付期限として,滞納していた学費35万8000円を支払うように催促され,併せて,学費の納付がない場合には退学処分となる旨の警告を受けた。被告人は,この警告に焦りを感じたが,上記第8のとおり,民家に入って多額の現金を盗むことができていたので,あと二,三回盗みに入れば,残りの学費も調達できるなどと考えていた。また,同じころ,大学から同じ内容の連絡を受けたAから,学費を支払っていない理由を問いただされたのに対し,友達に金を貸したから払えなかったが,15日には友達が金を返してくれるので学費を支払うことができるなどと,嘘の話をしていた。こうして,被告人は,民家に侵入して学費相当分の現金を盗み出すことにし,家人に見つかった場合に脅すための包丁,ガラス等を破壊するためのペンチやハンマー,顔を隠すためのマスク等を携帯して,同月12日午後11時30分ころ,自宅を出た。そして,土地勘のあるa区に向かい,侵入できそうな民家を探し回り,2軒の民家に侵入しようとしたものの,防犯装置が作動するなどして失敗したため,更に盗みに入る民家を探しているうち,以前に目をつけていた同区内のP方を思い出し,同所に赴いた。

(罪となるべき事実)

第9被告人は,平成15年1月13日午前6時ころ,金品窃取の目的で,同区(以下省略)所在のP方に掃き出しガラス窓から侵入し,同所において,押し入れ及び家具の扉を開けるなどして金品を物色したが,金目の物が見当たらなかったため,その目的を遂げず,さらに,金品を窃取できなかったことに立腹し,同人が現に住居として使用している同家屋(木造スレート葺2階建,延床面積約100.4平方メートル)に放火してそのうっ憤を晴らそうと決意し,そのころ,同家屋1階台所に設置されたガスコンロで紙類に点火した上,同家屋1階6畳和室において,上記点火した紙類を押し入れ内から取り出した布団等の上に置いて火を放ち,その火を同紙類,布団等から,同所の壁,柱,天井等に燃え移らせるなどし,よって,同和室天井等約21.42平方メートルを焼損した(平成15年4月28日付起訴状)。

(犯行に至る経緯等(3))

被告人は,上記第9の犯行のほか,同年1月12日夜から翌13日朝,同日夜から翌14日の朝にかけて,a区内の民家に侵入して金品を窃取しようとしたが,家人に気付かれたり,家人がいる気配を感じて家の中に侵入することができなかったりして,学費相当分の現金を盗み出すことができないでいた。被告人は,これまでは簡単に現金を盗むことができており,この2日間の失敗は予想外であった。大学入学当初から,短期大学を優秀な成績で卒業し,同大学の推薦を得て4年制の大学に編入し,同大学を卒業後は帰国していい会社に勤め高収入を得るという希望を抱いていたため,短期大学では一生懸命に勉強を続け,成績も上位であったのに,学費が支払えないと同大学を除籍となり,日本にもいられなくなって,これまでの努力がすべて無駄になってしまうという強い危機感を抱くとともに,両親の期待を背負い,また,多額の援助金まで用意してもらって日本に来たにもかかわらず,学費が支払えないだけの理由で大学を退学になることは耐えられないという思いで頭が一杯になり,学費の納付期限を翌日に控えた同日の夕方ころには,今夜は絶対に現金を用意しなければならない,学費を手に入れるためには手段を選ばない,家人に見つかった場合でも,今までのように逃げたりせず,騒がれた場合にはその者を殺してでも金を手に入れるしかないという追い詰められた気持ちになっていた。こうして,被告人は,民家に侵入する際にいつも携帯していた刃体の長さ約23センチメートルの包丁(以下「小包丁」という。)のほかに,より威嚇力が強く,家人の反撃を抑えることができるよう,上記第2の犯行によって盗み出した刃体の長さ約35センチメートルの大型万能包丁(以下「大包丁」という。)を準備し,指紋を残さないための革手袋を手にはめ,顔を隠すためのマスク,髪の毛を残さないためのタオル等を用意し,これらをズボンのポケットやリュックサックに入れ,また,小包丁は,右足と靴下の間に挟んでズボンで隠れるようにし,大包丁は,ズボンと背中の間に挟むようにして背負い,その上からジャンパーを着て外から見えないように隠し持って,同日午後11時30分ころ,自転車に乗って自宅を出た。そして,これまでと同様に,自宅から離れた場所で,土地勘もあるa区内の民家に侵入することにし,同区の方向に自転車を走らせ,下記の第10の犯行を敢行したものの,現金を手に入れることができなかったので,更に現金を奪い取ることができそうな民家を探し,翌15日午前1時30分ころ,甲の居住するQ方を見つけ,同居宅に侵入して金品を奪うことを決意した。

(罪となるべき事実)

被告人は,

第10同日午前零時30分ころ,金品窃取の目的で,同区(以下省略)所在のR方に勝手口から侵入し,同所において,同人所有に係る指輪等3点(時価合計約3万1000円相当)を窃取し(平成15年6月30日付起訴状第2),

第11同年1月15日午前1時40分ころ,金品窃取の目的で,同区(以下省略)所在のQ方に勝手口から侵入し,同所において金品を物色中,Qの内妻である甲に発見され,同女に悲鳴を上げられたことなどから,同女を殺した上,金品を強取しようと決意し,甲(当時59歳)に対し,殺意をもって,所携の刃体の長さ約35センチメートルの大型万能包丁(平成15年押第81号の1)等で,その頭部,胸腹部等を多数回切り付け,あるいは突き刺すなどし,よって,そのころ,同所において,同女を失血死させて殺害した上,同女所有に係る現金1万円及び現金約3000円在中の財布1個(時価約1000円相当),Q所有に係る現金約1万2000円在中のガラス瓶1個及び文化包丁1本を強取し(平成15年3月7日付起訴状第1),

第12業務その他正当な理由による場合でないのに,上記第11の日時場所において,上記大型万能包丁1丁を携帯した(平成15年3月7日付起訴状第2)。

(犯行に至る経緯等(4))

被告人は,上記第11の犯行の後,自己が着用していた衣服や靴が甲の返り血で赤く染まっていたため,以前アルバイトをしていた金属会社に赴き,衣服等を洗濯し,また,上記第10のR方に再び侵入して,犯行に使用した大包丁等についた血を洗い,水路の溝に投棄するなどした後,自宅に戻って仮眠しようとしたが,上記第11の犯行で得た現金が少なく,いまだ学費相当分の現金を調達できていないことが気になって仮眠することができなかった。そこで,再び民家に侵入して現金を奪い取ろうと考え,同年1月15日午前11時30分ころ,マスクや軍手等をリュックサックに入れ黒色の帽子をかぶって自宅を出た。そして,これまでと同様に,土地勘のあるa区内の民家に侵入することにし,同区内まで電車で赴き,同区内で駐輪してあった自転車に乗って,侵入できそうな民家を探し回り,同日午後3時ころ,乙の居住するS1宅を見つけ,同宅に侵入して現金を奪い取ることにした。

(罪となるべき事実)

第13被告人は,同日午後3時ころ,金品窃取の目的で,同区(以下省略)所在の乙方に掃き出しガラス窓から侵入し,同所において金品を物色中,乙を認め,同女を殺した上,金品を強取しようと決意し,乙(当時84歳)に対し,殺意をもって,園芸用火山岩(平成15年押第81号の3)及び陶器製睡蓮鉢(同号の2)等で,その頭部等を多数回殴打するなどした上,同女の長女であるS2ら所有に係る現金約9万5000円を強取し,その際,乙に加療約6週間を要する頭部挫創,外傷性くも膜下出血,左耳介裂創等の傷害を負わせるとともに,頭部外傷に基づく,回復の見込みのない痴呆を生じさせたが,殺害の目的を遂げなかった(平成15年4月1日付起訴状及び同年9月26日付訴因変更請求書)。

(犯行に至る経緯等(5))

被告人は,上記第11及び第13の各犯行によって奪い取った現金等を集めて10万円を用意し,同年1月15日の夕方,大学の学費納付受付担当者の元に赴き,滞納した学費の一部を支払おうとしたが,同担当者から学費全額の支払いを要求され,受領を拒否された。そのため,被告人は,やむを得ず,学費の不足分25万円をAから借りることにし,同日午後7時ころ,Aから25万円を受け取り,翌16日午前9時ころ,滞納分の学費全額を支払って,退学処分を免れた。

その後,被告人は,上記のとおり,強盗殺人等の重大事件を起こしたため,警察に逮捕されないよう,2週間ほど盗みを中断していたが,依然としてアルバイトをせず,収入がない生活を続けていたことから,今後も大学の学費や生活費等を確保する必要があり,また,学費を支払うためにAから借りた金を,自分の誕生日である2月20日までに返済し,さらに,知人から借金を返すように迫られていたことなどもあって,同年1月末ころには,これまでと同様に,民家に侵入して金品を盗むしかないと考えるようになった。もっとも,a区内で起こした強盗殺人事件等が新聞等で報道されていたので,同区内は,警察の取締りが厳しくなっているはずであり,そこで盗みをすれば警察に捕まる可能性が高いのではないかと警戒し,警察の取締りが厳しくなく,土地勘があった京都府d市や同府e市内の住宅地に場所を変えて,金品を盗み出そうと考えた。

(罪となるべき事実)

被告人は,金品窃取の目的で,

第14同年2月1日午後10時30分ころ,京都府d市(以下省略)所在のT方に1階北側の掃き出し窓から侵入し,同所において,同人所有に係る現金約14万円及び指輪等8点(時価合計約98万700円相当)を窃取し(平成15年9月26日付起訴状第6),

第15同年2月4日午後10時ころ,同府e市(以下省略)所在のU方に1階北側の掃き出し窓から侵入し,同所において,同人所有に係る腕時計1個(時価約1万円相当)を窃取し(平成15年9月26日付起訴状第7),

第16同年2月14日午前2時ころ,同市(以下省略)所在のV方に1階北側台所の掃き出しガラス窓から侵入し,同所において,同人所有に係る現金約500円及び懐中電灯1個(時価約500円相当)を窃取し(平成15年6月30日付起訴状第3),

第17同年2月14日午前2時30分ころ,同市(以下省略)所在のW方に1階西側六畳間の腰高ガラス窓から侵入し,同所において,同人ほか1名所有に係る現金約1万9600円及びクレジットカード等約10点在中の財布1個(時価約7000円相当)を窃取し(平成15年6月30日付起訴状第4),

第18同年2月16日午前2時30分ころ,同市(以下省略)所在のX方に1階南側の掃き出し窓から侵入し,同所において,本棚の引き出しを開けるなどして物色したが,金品発見に至らず,その目的を遂げなかった(平成15年9月26日付起訴状第8)。

(証拠の標目)

省略

(法令の適用)

被告人の判示第1ないし第7の各所為のうち,建造物侵入の点は刑法130条前段に,窃盗の点は同法235条に,判示第8,第10,第14ないし第17の各所為のうち,住居侵入の点は同法130条前段に,窃盗の点は同法235条に,判示第9の所為のうち,住居侵入の点は同法130条前段に,窃盗未遂の点は同法243条,235条に,現住建造物等放火の点は同法108条に,判示第11の所為のうち,住居侵入の点は同法130条前段に,強盗殺人の点は同法240条後段に,判示第12の所為は銃砲刀剣類所持等取締法32条4号,22条に,判示第13の所為のうち,住居侵入の点は刑法130条前段に,強盗殺人未遂の点は同法243条,240条後段に,判示第18の所為のうち,住居侵入の点は同法130条前段に,窃盗未遂の点は同法243条,235条にそれぞれ該当するところ,判示第1ないし第7の建造物侵入と窃盗との間及び判示第8,第10,第14ないし第17の住居侵入と窃盗との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので,同法54条1項後段,10条によりそれぞれ1罪としていずれも重い窃盗罪の刑で処断することとし,判示第9の住居侵入と窃盗未遂及び現住建造物等放火との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので,同法54条1項後段,10条により結局以上を1罪として最も重い現住建造物等放火罪の刑で処断することとし,判示第11の住居侵入と強盗殺人との間及び判示第13の住居侵入と強盗殺人未遂との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので,同法54条1項後段,10条により1罪として,判示第11につき重い強盗殺人罪の刑で,判示第13につき重い強盗殺人未遂罪の刑でそれぞれ処断することとし,判示第18の住居侵入と窃盗未遂との間には手段結果の関係があるので,同法54条1項後段,10条により1罪として重い窃盗未遂罪の刑で処断することとし,各所定刑中判示第9の罪については有期懲役刑を,判示第11及び第13の各罪についてはいずれも無期懲役刑を,判示第12の罪については懲役刑をそれぞれ選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるが,同法10条により判示第13の無期懲役よりも犯情の重い判示第11の無期懲役に処すべき場合であるから,同法46条2項本文により他の刑を科さないで,被告人を無期懲役に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中420日をその刑に算入し,押収してある大型万能包丁1丁(平成15年押第81号の1)は判示第11の犯行の用に供した物で被告人以外の者に属しないから,同法19条1項2号,2項本文を適用してこれを没収し,訴訟費用は,刑訴法181条1項ただし書により被告人に負担させないこととする。

(量刑の理由)

1  本件は,当時,大学生であった被告人が生活費や大学に納めるべき学費等に窮したため,(1)店舗や民家に侵入して金品を窃取したという侵入盗14件(判示第1ないし第8,第10,第14ないし第18。なお,判示第18は未遂にとどまったもの),(2)民家に侵入して室内を物色したが,金品を窃取できず,その腹いせに同民家を放火したという住居侵入,窃盗未遂及び現住建造物等放火各1件(判示第9),(3)民家に侵入した上,金品を強取しようと女性1名を殺害したという住居侵入及び強盗殺人(判示第11)と,その際に大型万能包丁1本を携帯したという銃砲刀剣類所持等取締法違反各1件(判示第12),(4)民家に侵入した上,金品を強取しようと女性1名を殺害しようとしたが,同女を殺害するに至らなかったという住居侵入及び強盗殺人未遂各1件(判示第13)からなる事案である。

2  本件の量刑を検討するに当たって最も重要であるのは,上記各犯行のうち,(3)住居侵入及び強盗殺人(判示第11)と,(4)住居侵入及び強盗殺人未遂(判示第13)であるので,まず,これらの犯行について検討する。

判示第11及び第13の各犯行に至る経緯等は,上記認定のとおりであるところ,中華人民共和国の国籍を有し同国の高校を卒業した被告人は,日本で高学歴を身に付け,母国で高収入の得られる会社に就職しようという希望を抱いて来日し,日本語学校,次いで,短期大学に入学したものの,その直後ころから両親らからもらった金員が底をつき,自分本位な性格等も影響してアルバイトになじめず,次第にアルバイトをして生活費等を稼ぐという気持ちも失って,店舗や民家に侵入しては窃取した金品で生活しているうち,生活費に窮するとともに,在学していた大学の学費も支払えなくなり,そのうち,大学から学費の納付を催促され,納付期限に支払うことができなければ退学になる旨の警告を受けて焦り,退学を免れるために人を殺してでも現金を調達して学費を支払わなければならないなどと考えるに至り,上記各犯行に及んだというものであって,自らの困難な状況を打開するためには手段を選ばず,無関係な人間を殺害して金品を奪うことさえも辞さないという態度は,全く身勝手かつ自己中心的で,短絡的でもあって,犯行動機そのものに酌むべき余地はない。

また,犯行の態様等について見るに,判示第11のそれは,下記のとおりである。すなわち,被告人は,甲の居宅を見つけると,持参したマスクをし,頭にタオルを巻き,小包丁を使って勝手口ドアの鍵を開けて居宅内に侵入し,背中に隠し持っていた大包丁を腹部のズボンに挟み,家人が現れた場合にはいつでも即座に使用できる態勢をとった上,まず,1階の各部屋を物色したが,金品を発見することができず,その際,直径二,三センチメートル,長さ約30センチメートルの金属製の棒を見つけたので,これを家人に見つかった際に攻撃する凶器にしようと考えて携帯し,次に,2階に上がって各部屋を物色して現金3000円在中の財布及び現金1万円を奪い,更に,3階に行って現金約1万2000円在中のガラス瓶を発見し,これを奪おうとした時,隣室にいた甲が現れた。被告人の姿を見て驚いた甲が,悲鳴を上げて階段を駆け下りて逃げようとしたため,被告人は,甲が警察に通報しに行くものと思い,これを阻止しようとして,上記の金属棒で同女の頭部や背部を殴打し,なおも同女が階段を駆け下り,1階玄関まで行って外へ逃げようとしたことから,再び金属棒で同女の背後からその後頭部を数回殴打するとともに,しゃがみ込んだまま悲鳴を上げる同女に対し,「静かに。」と言ったものの,同女が「助けて。」と叫び続けたので,その悲鳴が近隣住民に聞かれて警察に通報されることをおそれ,また,このままでは落ち着いて室内を物色し現金を奪うことができないとも考え,この際,同女を殺害して現金を奪い取ろうと決意するに至った。そこで,右足で甲の身体を蹴りつけ,玄関ドアにその身体を激しく打ち付けさせた後,腹部に隠し持っていた大包丁を取り出して大きく振り上げ,同女の頭部等を目掛けて何度も振り下ろして切り付け,更に,大包丁では大き過ぎて使いづらいことから,その場に投げ捨て,同女を確実に殺害すべく,小包丁で同女の腹部,胸部等を,多数回にわたり,その刃先が折れ曲がるまで突き刺したりし,その結果,同女をその場で失血死するに至らしめた。被告人は,甲を殺害した後,遺体が玄関先にあると逃走の邪魔になると思い,同女の遺体を1階洋室まで引きずって運び,それから再び3階に上がって室内を物色し,現金約1万2000円在中のガラス瓶を奪い,また,小包丁の刃先が折れ曲がったことから,将来,他の住居に侵入して現金を奪い取るためには別の包丁が必要であると考え,台所にあった文化包丁を奪い取ったというものである。

次に,判示第13の犯行態様等は,下記のとおりである。すなわち,被告人は,乙の居宅を見つけるや,同宅敷地内にあったコンクリートブロックでガラス窓を破壊して鍵を開けた上,同宅内に侵入したものの,室内から犬をあやすような人の声が聞こえたことから,留守と思っていた同宅に子どもがいるのではないかと感じ,一度は屋外に出て,このまま逃走して金品を奪うことを諦めようかとも考えた。しかし,同日の夕方までに学費を支払わなければならないという焦りの気持ちから,今更,他の民家に侵入する余裕はない,このまま何か凶器となる物で子どもを脅して現金を奪い取ろうなどと考え,付近で凶器となるような物を探し,敷地内にあった園芸用火山岩を見つけてこれを凶器とすべく携帯し,再び室内に入ったところ,突然乙が現れたことに驚き,足早に同女に近づいて,火山岩で同女の頭部を思い切り殴打し,同女をその場に転倒させたものの,同女がすぐに起き上がろうとしたため,乙をそのままにしておくと警察に通報されて現金を奪うことができなくなると思い,火山岩で再び同女の頭部を多数回殴打して失神させた。その後,被告人は,室内でほえている犬を2回位玄関上り口のコンクリート面に投げ付けて静かにさせ,各部屋の物色を始めたものの,現金を見つけることができないでいたところ,リビングの方を見ると,失神していた乙が意識を回復して起き上がろうとしていたため,このまま放置すれば警察に通報されてしまうと思い,起き上がろうとする同女の頭部を火山岩で数回殴打し,同女を痙攣させたが,再び同女が起き上がってくるのではないかとおそれ,また,上記のとおり,既に甲を殺害していたことから,1人殺すのも2人殺すのも同じだという気持ちを抱くに至り,乙を殺害して現金を奪い取ることを決意し,同室内に置いてあった重さ約3.32キログラムの陶器製睡蓮鉢を両手につかんで持ち上げ,倒れている同女の頭部に思い切り投げ落とし,続けて,その睡蓮鉢を同女の頭部目掛けて数回強く打ち付け,同女が全身を激しく痙攣させて動けなくなったのを確認した後,2階に上がって室内を物色し,現金8万円入りの封筒や現金約1万5000円在中の缶を発見して,これらを奪った。その結果,被告人は,これらの暴行により,乙に加療約6週間を要する傷害を負わせるとともに,頭部外傷に基づく回復の見込みのない痴呆を生じさせたが,同女を殺害するには至らなかったというものである。

以上から明らかなごとく,判示第11の犯行は,金属棒で頭部を殴打された甲がその場にしゃがみ込んで「助けて。」と言っているのにそれを無視し,大小2種類の包丁で同女の頭部等を力一杯何度も切り付けたり,突き刺したりし,その結果,小包丁の刃先が折れ曲がったというものであり,また,判示第13の犯行も,火山岩で頭部を殴打された乙が倒れて痙攣しているのに,同女の頭部目がけて相当の重量のある睡蓮鉢を思い切り投げ落としたり,それで強く打ち付けたりするというものであって,いずれも確定的殺意に基づく執よう,かつ凄惨で,残忍,冷酷極まりないものである。しかも,判示第11の犯行後には,1階洋室で甲が血まみれになって死亡していることを確認したにもかかわらず,人を殺すことまでしたのに満足できる現金を奪い取ることができなかったことに苛立ち,また,十分な現金を手に入れることができず,人殺しをせざるを得なかったのは甲のせいだなどという,全くの身勝手,かつ他罰的な考えから,その憤まんの情を晴らすために,同女のパジャマをずらして腰付近の肌を露出させた上,既に刃先が折れ曲がっている小包丁で何度も切り付けたり,更に奪い取った文化包丁で同女の背部,臀部等を突き刺したりするなど,平然と死者を冒?※する行為にまで出ているのである。その上,自己の足跡痕を消すために同宅にあった洗剤や水を犯行現場にまき散らしてもいる。また,判示第13の犯行についても,学費の支払いに必要な現金を奪い取ることができなかったことに苛立ち,それは乙のせいであると,これまた身勝手,かつ他罰的な考えから,そのうっ憤を晴らすため,台所のガスコンロの火を布様のものに燃え移らせて,同宅を放火して同女を焼死させようとしたり,既に失神して痙攣を起こしている同女に対して,睡蓮鉢でその頭部を数回殴打し,その結果,同女が完全に身動きしなくなったのに,同女にとどめを刺そうと,暖房機(ハロゲンヒーター)を同女の頭部に押し付けたり,また,火山岩でその頭部を多数回殴打するなどしている。そして,更には同宅を放火できなかった代わりに,同宅を水浸しにしてうっ憤を晴らし,併せて犯行現場に残された証拠を消失させて自己の犯行の発覚を免れようと,同宅の庭にあった水道のホースを室内に入れて放水したまま逃走しているのである。このように,本件各犯行自体は勿論のこと,その直後の行動は,人命の尊さを全く無視し,被害者に対する憐憫の情も自己の所業に対する悔悟の念もうかがわれない非人間的で非情なものというほかなく,厳しい非難を免れない。

そして,本件により生じた結果も,1名の貴重な生命を奪い,1名に回復見込みのない痴呆を生じさせたというもので,まことに重大である。

判示第11の被害者である甲は,頭部,頸部及び腹部等の全身に多数の刺創等を受け,その場で失血死するに至っているが,現場には大量の血痕が残されている上,遺体の頭蓋骨は骨折し,頸部は長さ約11センチメートルにわたって切り裂かれ,腹部の刺創からは腸の一部が飛び出すなどしているのであって,このような遺体の無惨な傷跡等はまことに凄惨な犯行現場を現出しており,正視に耐えないものがある。甲は,平成6年ころから一緒に生活していた内縁の夫と近々入籍することになっており,また,今は別々に暮らしている実娘らと久しぶりに再会する予定もあって,これらの日を心待ちにしていたというのであり,朝から晩まで働きづめに働いて,女手一つで子ども達を育て上げてきたというこれまでの苦労がようやく報われて,まさにこれから幸せな生活を送ろうとしていた矢先,最も安全であるべき自宅において本件の凶行に遭い,恐怖と苦しみの中,たった1人で絶命するに至っており,夢や希望を一瞬にして奪い取られたその無念さ,悔しさは,想像を絶するものがある。また,遺族らが受けた衝撃と悲しみもまた,まことに深刻であり,最愛の優しい母親を失った娘らの悲しみは深く,甲と入籍の約束を交わし,穏やかで温かい人生を一緒に歩むという希望を抱いていた内縁の夫の失望感も大きく,突然の訃報を聞いたときの衝撃も甚大なものがあったと容易に推察でき,その苦しい心中を察するに,筆舌に尽くし難いものがあると思われる。したがって,当然のことながら,遺族らの被害感情は峻烈で,被告人に対し極刑を望んでおり,その心情は,当裁判所としても十二分に理解することができる。

判示第13の被害者である乙も,頭蓋骨を骨折し,くも膜下出血を起こすなど,まさに生命の維持が危ぶまれるほどの瀕死の重傷を負っており,懸命な救命活動により一命を取り留めたものの,現在でも,不自由な生活を余儀なくされている上,頭部外傷に基づく痴呆症状も生じ,家族や親族以外の者の顔はよく分からないという状態で,しかも,高齢であることなどもあって,症状が回復する見込みはなく,退院の目処も全く立たないというのである。加えて,PTSD(心的外傷後ストレス障害)を併発している疑いもあるなど,事件の精神的後遺症が残っている様子もうかがわれ,本件で受けた精神的苦痛も甚大であったと推察される。乙は,娘夫婦との穏やかな老後生活を送っており,また,健康に留意し,高齢とは思えないくらい元気であったところ,本件により生じた重度の痴呆により,家族からすると,まるで別人のように変わってしまったように見え,同女の介護をしている乙の家族も,悲痛な心情を吐露しているのである。そして,家族らの被害感情も峻烈で,被告人に対し極刑を望んでおり,その心情もまた理解できるところである。

これに対し,被告人は,遺族や被害者の家族らに謝罪の手紙を送付するなどし,慰謝の措置を講じようとはしているが,それだけで被害感情が癒されるものでないことは当然であり,また,被害弁償等の措置を一切講じていない。加えて,本件は,マスコミ等によって広く報道され,被告人が逮捕されるまで社会一般に対して与えた不安や衝撃,更には同種犯罪が続発することへの危惧感等の社会的影響も大きなものがあったと推察される。

3  次に,住居侵入,窃盗未遂及び現住建造物等放火(判示第9)の犯行について見るに,被告人は,被害者宅の外に置いてあった消火器を同宅のガラス窓に叩きつけて破壊するなどして侵入した上,同宅内で金品を物色したが,金品を探し当てることができなかったため,金品が手に入らないのは被害者のせいだなどと立腹し,その腹いせに被害者宅を放火してうっ憤を晴らそうと本件放火に及んだものであり,その犯行動機は余りに身勝手かつ自己中心的で,酌むべき余地は全くない。犯行の態様も,まず,2階から火をつけることに決め,最初の部屋で,衣服等の燃えやすい物を床の上に積み上げ,ネクタイに所携のライターで火をつけ,その火を上記衣服等に燃え移らせたり,別室でも,上記と同様の方法で,ネクタイにつけた火を布団に燃え移らせたりした後,1階に降りて,台所において紙類にガスコンロで火をつけ,その火を和室の畳の上に積み上げた布団に燃え移らせたり,他の部屋でも火のついた紙類をソファーの上に置いて燃やそうとしたりするなど,確実に火が家全体に回るように,合計4つの部屋に可燃物をかき集めるなどした上で,各部屋を歩き回りながら火をつけるという強固な犯意に基づく,執よう,かつ危険なものである。しかも,事前にライターを準備し,侵入先の民家で十分な現金が得られない場合には,その家人に対する報復として,家に火を放つことまで考えていたというのであって,計画性も認められる。そして,被害者は,本件居宅を平成13年5月に多額の費用を投じて購入したばかりであるのに,本件によりその居宅の1階部分の多くが焼損したため,住宅としての機能を失って解体を余儀なくされ,家屋の撤去作業等にも出費を強いられている上,本件によって保険金を受け取ったとはいえ,損害全部を填補するには足りず,いまだ毎月のローンの支払いが残っているなど,多額の財産的被害を被っており,生じた結果は重大である。したがって,被害者の受けた心痛は想像に難くなく,その被害感情が相当に厳しいのも無理からぬものがある。更には,本件居宅の周辺は住宅密集地であって,発見が遅れていれば周辺家屋に延焼し,大惨事を招いた可能性も存したものであり,近隣住民に与えた不安や恐怖心も大きかったと推察される。

4  また,14件の侵入盗の事案については,生活費や学費,更には借金返済に充てる現金等を得るため本件各犯行に及ぶという,その身勝手かつ利欲的な犯行動機に酌むべき余地はなく,犯行の態様も,窃盗を成功させるための数々の用具を周到に準備した上,土地勘のある地域を選び,自転車に乗るなどして徘徊しては,店員等のいない深夜の店舗や留守中の民家等を探し回り,侵入できそうな店舗等を見つけると,マスクをしたりタオルを頭に巻いたりするなどして必要な準備をし,ガラス窓を包丁等で叩き割ったり,ドライバーでこじ開けたりするなどして侵入しては,金品の所在を求めて物色し尽くすというものであり,また,一度侵入したことのある店舗に再び侵入して金品を窃取するなど,計画的,かつ大胆で,犯情は悪質である。そして,満足できる現金を手に入れることができなかった時には,現金がないのは被害者が悪いなどと考えて数々の嫌がらせ行為に出るなど,全く不合理な理由で損害を与えてもおり,犯行後の情状も芳しくない。しかも,窃盗によって得た現金等で生計を立てるため,わずか約6か月の間に,起訴されただけでも14件の侵入盗を敢行し,いわば職業的に犯行を繰り返していること,強盗殺人等の重大事件を起こした後も侵入盗を敢行していること,窃取した懐中電灯やハンマー等を,また別の犯行の道具として使用していることなどを考慮すると,常習性が顕著であり,盗癖が固着化しているとも認められる。さらに,各犯行により生じた被害は,現金は合計約35万円余り,物品も60点以上で,その時価は合計155万円余りと多額であり,それにもかかわらず,物品の一部が被害者に還付されている以外,被告人は,何ら被害弁償等の措置を講じていないのであって,各被害者の処罰感情も厳しいものがある。

5  そして,以上の諸事情,殊に,判示第11及び第13の各犯行は,いずれの罪質も重大で,犯行動機そのものに酌むべき余地はなく,態様も執よう,かつ凄惨で,残忍,冷酷でもあって,犯情は余りにも悪質というほかない上,1名の生命を奪い,1名に回復見込みのない痴呆を生じさせたその結果も,まことに重く,遺族あるいは家族らの被害感情も深刻かつ峻烈で,本件による社会的影響には大きなものがあったと推察されることなどの事情に照らすと,被告人の刑責は極めて重大である。

6  ところで,検察官は,本件は被告人を死刑に処すべき事案である旨主張するところ,死刑は,人間存在の根源である生命そのものを永遠に奪い去る峻厳な極刑であり,まことにやむを得ない場合における究極の刑罰である以上,被告人を死刑に処することの当否は,より慎重に検討すべきであると解される。そこで,本件における死刑選択の当否について,更に検討を進める。

(1)  この点,死刑選択の基準については,最高裁判所第二小法廷昭和58年7月8日判決・刑集37巻6号609頁が,「死刑制度を存置する現行法制の下では,犯行の罪質,動機,態様ことに殺害の手段方法の執拗性・残虐性,結果の重大性ことに殺害された被害者の数,遺族の被害感情,社会的影響,犯人の年齢,前科,犯行後の情状等各般の情状を併せ考察したとき,その罪責が誠に重大であって,罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむをえないと認められる場合には,死刑の選択も許されるものといわなければならない。」と判示しているとおりである(なお,弁護人は,死刑という刑罰自体が,生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利の尊重を規定した憲法13条に違反し,同法36条にいう残虐な刑罰に該当する旨主張するが,この主張は理由がなく,採用することができない。最高裁判所大法廷昭和23年3月12日判決・刑集2巻3号191頁等を参照)。そして,上記のような,重大極まりない被告人の刑責にかんがみれば,本件は死刑が相当な事案であるとの検察官の主張も,十分に傾聴に値するものである。

(2)  しかしながら,他方で,以下の事情もまた認められるのである。

ア まず,判示第13の乙が一命を取り留めたため,本件により殺害された被害者は判示第11の甲1名のみであったことである。もとより,殺害された被害者が1名であった事案でも,各般の情状を考慮して,極刑がやむを得ないと認められる場合があることはいうまでもないが,上記判例も示しているように,死刑選択の当否を検討するに当たっては,結果の重大性,殊に殺害された被害者の数を考察すべきであって,とりわけ,本件のように,殺害された被害者が1名であったという事情は,量刑上考慮すべき重要な要素であると解される。

もっとも,乙には,判示のとおり,回復見込みのない痴呆症状等が生じており,検察官も,判示第13は被害者が死亡したのにも匹敵するほどの事案である旨主張し,この点を被告人に死刑を科すべき重要な根拠の一つと位置付けていると思われる。

そこで,乙の症状等についてより詳しく見るに,捜査関係事項照会書写し(検405),回答書(検406),Y1の警察官調書(検407)及びS2の公判供述によると,①乙は,本件犯行で負傷したことにより,当初,Z1病院に収容されて治療を受け,平成15年2月にa区のZ2病院に転院したが,同病院医師Y1は,同年8月時点での乙の状態につき,「入院初期は,活動性が低く,うつ状態にあったが,徐々に改善したこと,侵入的想起,過覚醒症状,麻痺症状は出現していないが,事件を連想させる家や飼い犬の話題を避ける傾向があること,自己の年齢,名前,現在する場所を正確に表現できないこと,独語は多いが,内容は理解困難であること,手足を動かす等の指示動作は可能で,歩行はできるが,不安定で転倒の危険性が高いので,歩行練習をしていること,臥床していることが多いが,異常な行動はないこと,食事,トイレは介護なしに可能であること,金銭の管理,電話の対応に問題があり,一人暮らしは困難であること,外傷性両側前頭葉挫傷という,前頭葉の損傷のため自発性の欠如,無欲,無関心といった,いわゆる痴呆症状が出ており,現代の医学では,もはや回復の見込みはなく,年齢とともに痴呆症状が進行することが考えられること,そして,PTSD(心的外傷後ストレス障害)も疑われること」との見解を示していること,そして,②S2から見た平成16年4月時点での乙の状況は,S2夫婦のことは分かっており,また,他の人とうまく話はできているが,後になると相手のことや話の内容が分からなくなることもあること,過去と現在の記憶の混同がよくあること,病院と自宅の区別がつかないこともあること,部屋にあるトイレにも介助なしで行けるが,ふいたり,流したりはできないこと,おむつはしておらず,緊張したりするとたまに漏らすこともあるので,紙のパンツをはいていること,独り言は少なくなっていること,S2が乙と花の本を見ていて,花がきれいだねと一緒に話をしたり,S2が面会に行くと,「何かおいしいもの持ってきてくれたのか。甘い物が食べたい。」などと自己の欲求を表現したり,面会から帰るときにも,「気を付けてお帰り。」などとS2に気を遣う言葉を発したりすることもあること,現在でも,自宅に帰りたがらず拒否反応を起こしたり,消灯を嫌がり明るくないと眠れず,戸締まりにも異常な反応を示したりするなど,PTSDをうかがわせる症状も見受けられることがそれぞれ認められる。

このような事実からすると,乙は,痴呆症状が発現しており,医学的には回復の見込みはなく,身体的に不自由で精神的にも不安定な状況にあり,PTSDをうかがわせる症状も見受けられるとはいえ,自らの努力と周囲の者の献身的な介護や協力等を得て,徐々にではあるが,身体的及び精神的な症状が好転し,人間らしい生活の一端を取り戻しつつあると認められ(もとより,S2と乙の上記やりとりは,重度の痴呆が生じている中での一時的な言動であるから,痴呆症状の回復を示すものと即断することはできないが,一方で,自己の意思や感情を全く伝えることができないという状況にないこともまた,明らかであるといえる。),したがって,少なくとも,生じた結果という観点からは,本件について,被害者が死亡した場合に匹敵するほどの事案とまでは評価できないというべきであり,その限度で,被告人のために考慮する余地がある。

イ 次に,被告人は,判示第11及び第13の各犯行につき,いずれも家人が留守である又は留守の可能性が高いと考え,居宅に侵入することを決意しており,居宅内にいる家人を殺して現金を奪うという,当初からの計画に基づいて居宅に侵入したものではないこと,また,判示第11の犯行の凶器である大包丁等は,事前に準備こそしているものの,当初からの被害者に対する確定的殺意を抱いて携行していたものではないこと,そして,判示第13の犯行も,当初は何の凶器も持たず乙の居宅に忍び込んだものの,人が居宅内にいるのが分かった後,同人を脅迫して金品を奪取しようと考え,凶器として,現場にあった火山岩を持ち込み,その後,睡蓮鉢等を使用したものであって,乙に対する確定的殺意は,犯行の途中に生じたものであることなどからすると,本件強盗殺人及び強盗殺人未遂は,被害者の殺害をあらかじめ強く意図して準備を進めていたとか,これを実行する機会を冷静かつ慎重にうかがっていたといった,被害者の殺害について事前に周到な計画をした上で冷徹に犯行を遂行したような事案とは,大きくその性質を異にするというべきであり,この点の差異も,死刑選択の当否に当たっては重要な要素であると解される。

もっとも,判示第11の犯行においては,これまでの侵入盗の際に携帯していた包丁のほか,殺傷能力のより高い大包丁をも準備して現場に赴いていること,判示第13の犯行についても,上記のとおり,乙が居宅内にいることを認識した上で火山岩を持ち出しているものであることなどから,いずれも,場当たり的で偶発的な犯行といえないことは明らかであり,また,全く殺意を有していなかった者が突発的に殺意を抱き,実行に移したような事案とも犯情を異にすることはいうまでもない。しかしながら,犯行前の殺意としては,家人に発見されたり声を上げられたりした場合にはその者を殺してでも現金を奪い取ろうという,いわば不確実なものにとどまっており,実際にも,判示第11の犯行については,玄関の前に車がとまっておらず,家の中の電気もすべて消えていたので,家人がいて寝ている可能性を完全に否定することはできないが,誰もいない可能性の方が大きいと考えて居宅に侵入したものの,室内を物色していた際,予想に反して甲が現れ,大声を上げられたので,まずは同女を静かにさせようと暴行を加え,それでも階段を駆け下りて玄関から外に出ようとする同女を追いかけて,再度暴行を加え,静かにするよう告げたが,同女が依然として「助けて。」と大声で叫んだことから,このままでは近隣住民に叫び声が聞こえて警察に通報されるかもしれないとの強い危機感を抱き,とっさに同女を殺害するしかないと考えて本件に及んでおり,このように,被告人は,窃盗の実行着手後,家人に発見され大声を上げられたことを契機として確定的殺意を抱いたものであって,一時の感情に駆られた衝動的犯行の側面を多分に有しているといえる。また,判示第13の犯行についても,乙の居宅に侵入したところ,同女に発見されたため,所携の火山岩を同女の頭部に何度も打ち付けるなどの激しい暴行を加え,同女が失神し身体を痙攣させたので,もう起き上がってくることはないと思い,居宅内の物色を始め,再び戻ってみると,予想に反して,同女が意識を回復して起き上がろうとしていたため,更に同女の頭部を火山岩で殴打して同女を痙攣させたが,また同女が起き上がってくるのではないかなどと考えて殺害行為に及んだものであり,このとき,被告人は,1人殺すも2人殺すも同じという意思を抱いて殺害行為に及んではいるものの,当初からそのような意思を抱いて居宅に侵入したわけではなく,激しい暴行を加えたにもかかわらず乙が起き上がってきたという予想外の展開に強い危機感を覚え,その時点ではじめて確定的殺意を抱いたものである。このように,いずれの場合においても,被害者殺害についての高度の計画性があるとまでは認められないのであるから,計画性の程度という点においても,被告人のために考慮する余地があると解される。

ウ また,判示第11の犯行では,大小2種類の包丁で,甲の頭部や頸部等を多数回切り付けるなどして同女を失血死させ,更に同女の死亡を確認した後も,十分な現金が見つからなかったことなどに憤激し,同女の腰部付近の肌を露出させた上で包丁で何度も突き刺したり,判示第13の犯行でも,無防備の乙に対し,その頭部を火山岩や重量のある睡蓮鉢で多数回殴りつけ,更に判示第11と同様に,満足できる現金を入手できなかったことなどに憤激し,火山岩で同女の頭部を何度も殴打したり,ハロゲンヒーターを近づけて同女を焼死させようとしたりしており,その犯行態様等は執よう,かつ凄惨で,残忍,冷酷でもあって,被告人には,自らが窮地を招きながらそれについての自己の責任を自覚せず,それから免れるため他人に大きな犠牲を負わせても意に介さず歯止めの効かない行動に出てしまうという,自己中心的で危険な犯罪傾向が存することは明らかであり,検察官も,被告人の他罰的,攻撃的かつ残忍な犯罪傾向を指摘し,この点も,被告人に死刑を科すべき根拠の一つとして強く主張しているところである。

しかしながら,被告人が何故上記認定のような犯行に及んだのか,その背景を考えてみるに,被告人は,判示第11及び13の各犯行当時,22歳の青年であったところ,内気で,普段は大人しく,甘えん坊であるが,一人っ子として,幼いころから欲しい物は何でも手に入る環境で育てられるなどしたため,負けず嫌い,かつ見栄っ張りで,虚栄心も強く,何でも自分の思いどおりにしないと気がすまないという性格であり(Aの検察官調書,検98号),例えば,在学していた日本語学校において,同学校の規則を破ったことを職員から注意されると,その注意を聞き入れないどころか,大声で怒鳴ったり,にらみつけたりするといった態度に出たり(Y2の警察官調書,検431号),滞納していた学費の一部を支払おうと大学に行った際も,一部の支払いを拒絶した担当者に対し,興奮した様子で罵声を浴びせたりしている(Y3の警察官調書,検97号)のであって,このような性格や言動等から見ると,被告人は,年齢相応の社会性を欠いており,精神的にも未成熟な面が多分にあり,そのため,自分の思いどおりにならなかった場合の怒りの抑制方法を身に付けていないのではないかと思われるのである。それ故に,本件においても,家人に発見され警察に通報されそうになったり,学費の納付期限が押し迫っていた中で満足できる現金を入手できなかったりするなどの困難な状況に直面すると,他人に責任転嫁をして激しく憤慨するとともに,その状況を打開する方策として,被害者の殺害という短絡的かつ最悪の方法しか考えられなくなり,いったん殺害行為が開始されるや,その憤まんの情を抑えきれず,歯止めが効かなくなって,本件のような犯行に至ったと考えられるのである。

加えて,被告人は,各侵入盗の事案では,民家に侵入する際,居宅内に人の気配がないことを殊更に気にしており,民家に侵入した後も,家人から声を上げられたり,室内に人がいることが分かったりすると,何も取らずに真っ先に逃走しているのであり,また,他人の殺害又は重大な傷害を目的とした犯行は本件以前にはなく,普段から他者への粗暴的行動が特に際立っていたという事情も必ずしもうかがわれないこと,そして,判示第11の犯行では,玄関の前に車がとまっていないことや,家の中の電気がついてないことなどを確認したり,判示第13の犯行でも,窓ガラスを叩いて屋内の反応がないことなどを確認するなどした上で,その居宅が留守であるか又はその可能性が高いと考えて,各居宅に侵入しているのであって,当初から平然と他人の生命や身体に対して危害を加える意思を有して犯行に及んでいるのではないのである。

以上の諸事情からすると,本件の犯行態様等から,被告人には,自己中心的で危険な犯罪傾向が存することは確かであるものの,それは被告人の社会性の欠如と精神的な未熟さに由来するものと考えられ,その年齢や従前の被告人の行動等から,いまだその犯罪傾向は,相当深化しているとか,固着化しているとは認められないというべきである。したがって,この点もまた,死刑選択の当否の検討に当たっては,考慮すべき事情であると解される。

エ さらに,被告人は,滞納していた学費相当分の現金を何とか他人の力を借りずに調達しようとしたが,思いどおりに現金を作ることができず,ついに学費納付期限を翌日に控え,焦りが高じて,本件強盗殺人等の重大事犯を敢行したというものである。この点,その自分本位な性格等からアルバイトを簡単に辞めてしまい,また,窃盗を続ければ何とか学費を工面できるといった安易な考えから,結局,窃盗によっても学費相当額の金員を得ることができずに自らを窮地に追い込み,挙げ句の果てに,学費の捻出に窮して上記重大事犯に至ったという経緯において,その責任の大半は被告人にあるということができるものの,被告人は,窃盗を続けながらも大学での勉強を続けて,上位の成績を修めており,滞納している学費についても,それまで何かと援助を受けてきた親類に相談していれば貸してもらえた可能性が高かったのに,これ以上親類に迷惑をかけられないとの思いなどから,自ら工面しようとして上記重大事犯を惹起してしまったという面もあり,その経緯に一片の酌量の余地もないともいい切れないものがあって,全くの遊興費目的で犯行に及んだ場合や,堕落した無為徒食の生活を続ける中で金銭に窮して犯行に及んだ場合等と同程度の厳しい非難を,被告人に対して向けることができないこともまた,否定できないところである。

オ その他,被告人が,逮捕当初から,本件に至る経緯や犯行動機,犯行状況,更には犯行後の隠蔽工作に至るまで,本件各犯行の全容を素直に認め,また,捜査官にも知られていなかった事情や起訴されていない余罪を含めて,詳細な供述をしてきたこと,自らの犯した罪の重大さに対する自覚を次第に深めつつあるとともに,各被害者に対する謝罪の弁を述べ,また,被害者又は遺族に対して謝罪の手紙を送付するなど,反省の態度を示していること,現住建造物等放火による人的被害はなかったこと,前科がないこと,これまで勉学そのものは真面目に励んできたこと,24歳といまだ若年であることなど,被告人のために酌むべき事情も存する。

もっとも,遺族や各被害者の立場を考えれば,上記のアないしオの各事情を過大評価すべきでないことは当然ではあるが,こと死刑選択の当否を検討するに当たっては,決して無視できない事情であるというべきである。そして,これらの事情を総合考慮すれば,被告人には自己中心的で危険な犯罪傾向が認められるとはいえ,それが相当に深化しているとか,固着化しているとはいえず,検察官が主張するように,もはや改善更生の余地が見出せず,矯正が不可能であるとまでは評価できないのである。

7  以上,検討したとおり,本件の量刑において最も重視すべき,強盗殺人事件及び強盗殺人未遂事件について,その罪質及び犯行態様がまことに悪質で,生じた結果も重く,被告人の刑責は重大極まりないといえるが,他方において,殺害された被害者が1名にとどまっており,負傷した1名は死亡したのに匹敵する状態にあるとまでは評価できないという点は,死刑選択の当否において消極的な要素として斟酌せざるを得ないこと,犯行現場において確定的殺意が形成されたという経緯等からすれば,高度の計画性は認められず,また,矯正教育による改善更生の余地がないほど,被告人の犯罪傾向が相当に深化しているとか固着化しているとまではいえないことなど,被告人のために酌むべき事情が種々認められ,更に,上記のとおり,死刑の適用はまことにやむを得ない場合にのみなされなければならないことなどの事情を総合的に考慮すると,罪刑の均衡の見地,一般予防の見地及び近年の我が国における死刑求刑事案に関する量刑の実情のいずれの見地からも,本件において,被告人を死刑に処することが,まことにやむを得ない場合に該当するとまではいい難い。

そうすると,本件では,被告人に対し無期懲役刑を科することとし,自己の犯した罪の重大さ,深刻さを改めて深く自覚させ,生涯にわたって,殺害した被害者の冥福を祈らせるとともに,強盗殺人未遂の被害者等に対する贖罪と猛省の日々を送らせるのが相当であると考えた。

よって,主文のとおり判決する。

(求刑・死刑,大型万能包丁の没収)

(裁判長裁判官 東尾龍一 裁判官 瀬田浩久)

裁判官 楡井英夫は填補のため署名押印できない。 裁判長裁判官 東尾龍一

<編注:『※』部分は原文のとおり。>

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