大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 平成15年(ワ)2295号 判決 2004年6月04日

京都市●●●

原告

●●●

同訴訟代理人弁護士

功刀正彦

東京都千代田区大手町1丁目2番4号

被告

プロミス株式会社

同代表者代表取締役

●●●

同訴訟代理人弁護士

●●●外1名

主文

1  原告の主位的請求を棄却する。

2  被告は,原告に対し,156万6132円及びこのうち102万7328円に対する平成15年6月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  この判決の主文2項は,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1当事者が求めた裁判

1  原告

(1)  (主位的請求)

被告は,原告に対し,156万6132円及びこのうち102万7328円に対する平成15年6月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(予備的請求)

主文2項と同旨

(2)  主文3項と同旨

(3)  仮執行宣言

主文同旨

2  被告

(1)  原告の請求を棄却する。

(2)  訴訟費用は原告の負担とする。

第2当事者の主張

1  請求原因

(1)  原告は,被告から,昭和57年11月2日,100万円を借り入れ,同年12月7日から平成15年4月15日までの間,その弁済として,金員を支払い続けた。

(2)  被告は,原告から,これによる不当利得の発生について悪意でありながら,金員の支払を受け続けた。これを利息制限法の制限に従って充当すると,平成15年6月27日現在,元本102万7328円,昭和61年4月18日以降に発生した利息53万8804円の合計156万6132円を返還すべきである。

(3)  被告は,この過払を受けたことについて故意ないし過失があり,不当利得相当分を賠償すべき義務を負っているし,そうでないとしても,不当利得として返還すべき義務を免れない。

よって,原告は,被告に対し,主位的に不法行為に基づく損害賠償請求として,予備的に不当利得の返還請求として,156万6132円及びこのうち102万7328円に対する平成15年6月28日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  被告の認否及び反論

(1)  1(1)(貸付け,弁済)の事実は認め,同(2)(原告の過払い)の事実のうち,原告の弁済を利息制限法の制限に従って充当すると,被告が平成15年6月27日現在,102万7328円を不当利得した結果になることは認め,被告が不当利得の発生について悪意であることは否認し,被告が昭和61年4月18日以降に発生した利息53万8804円の合計156万6132円を返還すべきであるとの主張は争う。仮に被告が利息を支払わなければならないとしても,それは,本件訴えの提起によって,不当利得の返還を求められた後の期間に関するものに限られるべきである。

同(3)(不法行為,不当利得)の主張は争う。

(2)  抗弁(消滅時効)

ア 被告は,平成5年8月20日までに,58万0828円を不当利得していた。

イ 平成15年8月20日が経過した。

ウ 被告は,平成16年1月19日の本件弁論準備手続期日において,前記時効を援用する旨の意思表示をした。

3  抗弁に対する認否及び反論

(1)  2(2)(消滅時効)の各事実は認め,その効力は争う。

原告が,被告に対し,不当利得返還請求権を行使できるようになったのは,平成15年6月27日になってからである。

(2)  再抗弁(援用権の濫用)

被告が消滅時効を援用するのは,権利の濫用である。

4  再抗弁に対する認否

3(2)の再抗弁(援用権の濫用)の主張は争う。

第3当裁判所の判断

1  第2・1(1)(貸付け,弁済)の事実,同(2)(原告の過払い)の事実のうち,原告の弁済を利息制限法の制限に従って充当すると,被告が平成15年6月27日現在,102万7328円を不当利得した結果になることについては,当事者間に争いがない。

2  このほか,甲2の1の1(計算書)・2(取引照合表),2の2(封筒),4の1・2(預金通帳)及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実を認めることができる。

(1)  原告は,被告から,昭和57年11月2日,100万円を借り入れ,同年12月7日から,その弁済として,金員を支払い続けたが,それが利息制限法の制限を超過していたことから,昭和61年4月18日には,過払いとなり,被告は,同日現在,1万0122円を不当利得している状態になった。なお,被告が原告に対し,各支払を受けた都度,貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)所定の書面を交付していたことを認めるに足りる証拠はない。

しかし,原告は,被告に対し,平成15年4月15日までの間,過払いになっていることを知らないまま,金員の支払を続けた。この結果,被告が不当利得した額は,増加し続け,平成15年6月27日現在,元本だけで102万7328円となっている。

(2)  ところで,被告は,原告に対し,本件に関する資料として,原告の金員の支払状況に関する資料を開示したのみで,その詳細を明らかにしていない。そして,原告は,被告から,昭和57年11月2日に100万円を借り入れたのみであり,その後,これに追加して金員を借り入れたわけではない。

しかし,被告の営業形態から考えると,被告は,原告に対し,前記貸付けの際,金員をその後も継続的に貸し付けることを当然に予定していたことが推認されるのであって,この認定を左右するに足りる事情は認められない。

(3)  被告は,原告から,各支払を受けた時点において,その都度,不当利得している額を正確に計算し,把握していたというわけではない。

しかし,被告は,手元に有している契約書や取引記録などの資料に基づいて,利息制限法の制限を超過して受領した金員の額を容易に計算することができたのであるうえ,貸金業法に基づく登録を受けた貸金業者なのであるから,原告から各支払を受ける際には,それが利息制限法の制限を超過しており,不当利得が発生すべきものであることを充分に認識していたというべきである。

3(1)  以上によれば,先ず,被告は,前記不当利得の発生について悪意であるから,原告に対し,102万7328円及びこれに対する昭和61年4月18日以降に発生した利息ないし遅延損害金を返還すべきことになる。

ところで,利息制限法は,このような過払いであっても,それが任意になされたものであれば,返還を請求できないと規定しており(同法1条2項),被告が原告から支払を受ける際,過払いについて悪意であったとしても,これによって直ちに不法行為が成立するわけではない。これと異なる前提に立った原告の主位的請求(不法行為による損害賠償請求)は,その他の点を検討するまでもなく,理由がないというべきである。

(2)  次に,不当利得返還請求権は,一般に,その発生と同時に行使することが可能であるから,消滅時効の期間は,直ちに進行を開始するものとされている(大審院昭和12年9月17日判決・民集16巻1435頁など)。

しかし,被告は,原告に対し,昭和57年11月2日に100万円を貸し付けた際,その後も継続的に金員を貸し付けることを予定していたのであるから,被告の不当利得は,このような継続的な関係に基づいて,当然にその後の増減と通算されるべきものである。なお,このように解したからといって,利息制限法の制限に基づいて,個々の貸付けについて不当利得を算定し,それに関する遅延損害金を計上することまでが妨げられるわけではない。

そして,原告の被告に対する不当利得返還請求権は,被告がこのような継続的な金員の貸付けに応ずることを終了ないし中断し,消費貸借関係の精算が開始された時点において,初めて行使されるべきものであり,その消滅時効の期間も,この時点から進行を開始するというべきである。

これを本件についてみると,被告が継続的な金員の貸付けに応ずることを終了ないし中断し,消費貸借関係の精算が開始されたのは,原告が被告に対し,不当利得の返還を請求した平成15年6月27日ころになってからのことであるから,これと異なる前提に立って,平成5年8月20日までの不当利得について消滅時効が完成したことを理由とする被告の抗弁(消滅時効)は,採用できないというべきである。

したがって,原告の被告に対する予備的請求(不当利得の返還請求)には,理由がある。

4  よって,主文のとおり判決する。

(裁判官 亀井宏寿)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例