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京都地方裁判所 平成15年(ワ)3627号 判決 2004年10月05日

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原告

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訴訟代理人弁護士

功刀正彦

訴訟復代理人弁護士

安保嘉博

荒川英幸

飯田昭

小川顕彰

長尾治助

小田宏之

小原健司

加藤進一郎

黒澤誠司

武久秀浩

中隆志

平井宏俊

東京都品川区東品川2丁目3番14号

被告

CFJ株式会社

代表者代表取締役

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訴訟代理人支配人

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主文

1  被告は,原告に対し,金231万0538円及び内金214万4922円に対する平成15年7月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は,被告の負担とする。

3  この判決は,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

主文と同じ。

第2当事者の主張

1  請求原因

(1)  原告は,被告又は被告が権利義務を承継した株式会社ユニマットライフ若しくはタイヘイ株式会社(以下,上記3社をまとめて呼称するときは,便宜上「被告ら」という。)から,別紙計算書1記載の「貸付・返済日」欄記載の年月日に,「実際交付額」欄記載の額を借り入れ,他方,「貸付・返済日」欄記載の年月日に,「返済額」欄記載の額をそれぞれ返済してきた(なお,被告は,別紙計算書1記載の取引経過のうち,平成4年9月3日の債務残高を45万7481円と主張するけれども,文書提出命令(当庁平成16年(モ)第149号)にもかかわらず同日以前の取引経過を明らかにしないから,同日時点での債務残高を0円として計算する。)。

(2)ア  被告らの貸付に係る利息について利息制限法所定の利率に引き直した上,上記返済額を順次上記利息及び残元本に充当すると,別紙計算書1の「法定利息充当後の元金残」欄に記載のとおり,元本について214万4922円の過払いとなる。

イ  また,被告らは貸金業者であって,利息の支払い等に関して利息制限法等の諸規制を知っているはずであるから,上記過払金については,被告らの受益のときから民法所定の年5分の割合による利息を附してこれを返還すべきであるところ,平成15年7月2日までのその額は,別紙計算書1記載のとおり16万5616円である。

(3)  よって,原告は,被告に対し,民法第704条による不当利得返還請求権に基づき,上記(2)のア及びイの合計額である231万0538円及び内アの額である214万4922円に対する最終の弁済日の翌日である平成15年7月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

2  請求原因に対する認否

(1)  請求原因(1)の事実のうち,被告が株式会社ユニマットライフ及びタイヘイ株式会社の権利義務を承継したこと,平成4年9月3日時点での債務残高を除き,原告との間で別紙計算書1記載の経過による貸付け及び返済があったことは認めるが,同日時点での債務残高は否認する。同日以前の貸付けは,株式会社ユニマットライフが原告に対して行ったものであるが,同社が被告との合併(平成15年1月6日)以前に使用していたコンピューターの容量の小ささゆえに,同社は顧客との取引履歴を廃棄せざるを得なかったものであり,被告には,平成4年9月3日以前の原告との取引履歴は存在しない。被告の把握し得る資料によると,同日時点での原告の債務残高は45万7481円である。

(2)ア  同(2)のアの事実のうち,利息制限法所定の利率及び利息計算の基礎となる日数が別紙計算書1の「前回取引からの日数」欄記載のとおりであることは認めるが,過払額が214万4922円であることは否認する。

イ  同(2)のイの事実のうち,被告らが貸金業者であることは認めるが,その余は否認ないし争う。被告らについては貸金業の規制等に関する法律第43条第1項のいわゆる「みなし弁済」が成立する可能性があり,その場合には利息制限法所定の利率を超える利息の支払いであっても被告らにおいてこれを受領し得るのであるから,被告らが上記「みなし弁済」の適用がないことを認識していない限り,利息制限法所定の利率を超える利息を受領している認識があったとしても,「悪意の受益者」には該当しないというべきである。

3  抗弁(いずれも一部抗弁である。)

(1)  消滅時効

ア 別紙計算書1記載の取引のうち,平成5年12月10日以前に発生した原告の被告に対する不当利得返還請求権については,平成15年12月10日の本件訴訟の提起までに10年が経過した。

イ 被告は,平成16年8月24日,原告に対し,本件第8回口頭弁論期日において,上記時効を援用する旨の意思表示をした。よって,原告の被告に対する不当利得返還請求権は,104万4524円に止まるものである。

(2)  相殺

ア タイヘイ株式会社は,原告に対し,別紙計算書2記載のとおり,平成12年1月21日から同計算書の「取引日」欄記載の年月日に「貸付金額」欄記載の額を貸し付け,原告から「入金額」欄記載の額の返済を受けたが,平成15年6月6日の時点で28万3333円の残債務がある。

イ 被告は,平成16年1月20日,原告に対し,本件第1回口頭弁論期日において,原告の本件請求債権(ないしそのうち上記(1)のイの部分)と上記アの債権とを対当額で相殺する旨の意思表示をした。

4  抗弁に対する認否

(1)  抗弁(1)について

抗弁(1)の事実のうち,本件訴訟の提起が平成15年12月10日であることは認めるが,その余は否認する。原告の請求に係る不当利得返還請求権について時効の起算点である「権利ヲ行使スルコトヲ得ル時」とは,消費者において継続的に借入れをしている間は権利の行使が期待できないことに鑑みると,消費者(原告)において訴訟代理人に委任し,その受任通知が送付された時点であると解すべきである。そして,本件において原告訴訟代理人が被告に対して上記受任通知を送付したのは平成15年7月2日であることから,原告の請求に係る不当利得返還請求権は時効消滅していない。

(2)  抗弁(2)について

タイヘイ株式会社から原告に対する貸付けの事実は認めるが,原告の請求に係る別紙計算書1記載の取引は,被告の主張に係る上記タイヘイ株式会社からの借入れも含んだものであって,合計すると原告に過払金が生じているものである。

第3当裁判所の判断

1  請求原因事実について

(1)  同(1)の事実のうち,被告が株式会社ユニマットライフ及びタイヘイ株式会社の権利義務を承継したこと,平成4年9月3日時点での債務残高を除き,原告との間で別紙計算書1記載の経過による貸付け及び返済があったことは当事者間に争いがない。

被告は,平成4年9月3日時点での債務残高は45万7481円である旨主張し,これを0円であるとする原告の主張を否認するけれども,被告は,「原告と被告との間の金銭消費貸借契約について,契約当初から平成15年7月2日までの間の契約年月日,貸付金額,受領金額等を記載した貸金業の規制等に関する法律第19条所定の帳簿又はこれに代わる同法施行規則第17条第2項所定の書面(いずれも電磁的記録を含む。)を提出せよ。」とする当裁判所の文書提出命令(当庁平成16年(モ)第149号)にもかかわらず,平成4年9月3日以前の原告との取引に係る上記書面を提出しなかったものであるから,民事訴訟法第224条第1項により,原告の上記主張に係る事実を真実と認める。

この点,被告は,同日以前の貸付けを行った株式会社ユニマットライフが使用していたコンピューターの容量の小ささゆえに,同社は顧客との取引履歴を廃棄せざるを得なかったものであり,被告には,同日以前の原告との取引履歴は存在しない旨主張するけれども,10年前のものとはいえ貸金業者において将来の返還請求の根拠となるべき取引履歴をすべて抹消ないし廃棄したとの主張自体にわかには信用し難い上,被告の主張に係る上記のような事情をうかがわせるような適格な証拠もないことからすれば,被告の上記主張は採用することができないというべきである。

以上から,請求原因(1)の事実が認められる。

(2)  そこで,同(2)のイの事実について判断するに,被告らがいずれも貸金業者であることは当事者間に争いがないことに照らすと,被告らは,いずれも,利息制限法所定の利率を超えた利息については,同法第1条第1項により,その超過部分は無効であること,上記利率を超える利息を支払った結果元本が完済されたときは,同法第1条第2項の規定にかかわらず,これを不当利得として返還すべきこと(最高裁昭和43年11月13日大法廷判決・民集22巻12号2526頁)を知って原告からの返済を受領したものというべきであるから,被告は,原告が同法所定の利率を超える利息を返済したことにより元本が完済され,過払金が発生したときは,同過払金については民法第704条所定の「悪意の受益者」に該当するというべきである。

被告は,貸金業の規制等に関する法律第43条第1項のいわゆる「みなし弁済」の適用がないことを認識していない限り「悪意の受益者」には該当しない旨主張するけれども,貸金業者は,上記「みなし弁済」の適用によってはじめて過払金の返還義務を免れるにすぎず,過払金の発生について悪意であったこと自体が否定されるわけではないことに加えて,そもそも本件全証拠によっても,被告について上記「みなし弁済」の規定が適用される事実を認めることはできないから,いずれにしても被告の上記主張は,採用することができない。

2  抗弁(1)(消滅時効)の事実について

抗弁(1)の事実のうち,本件訴訟の提起が平成15年12月10日であることは当事者間に争いがない。しかしながら,原告と被告らとの取引経過が別紙計算書1記載のとおりであることは(平成4年9月3日時点での債務残高を除き)当事者間に争いがないところ,上記取引は,その経過に照らし,被告らによる貸付けと原告による返済を繰り返し,概ね従前の貸付けの残債務を新たな貸付けによって返済させる形態のいわば継続的な消費貸借契約であって,そうすると,上記取引の継続中は,原告が利息制限法所定の利率を超える利息を支払ったことにより過払金が発生したとしても,当該過払金はその後の新たな貸付けに充当されて順次一旦消滅し,上記充当後の返済により再度新たな過払金が発生するということを繰り返すもので,その内容が変動する性質のものであるということができるから,原告の被告らに対する不当利得返還請求権は,上記継続的な消費貸借契約の終了時において確定的に発生し,その時点から時効の進行を開始するものというべきである。

そして,本件においては,原告と被告らとの最終の取引日が平成15年6月12日であることは当事者間に争いがないから,上記本件訴訟の提起時点(同年12月10日)において,原告の被告に対する不当利得返還請求権の一部が時効により消滅したということはできない。

したがって,抗弁(1)を認めることはできない。

3  抗弁(2)(相殺)の事実について

証拠(乙2の1)によれば,なるほど,原告は,被告(当時のタイヘイ株式会社)から,平成12年1月21日に20万円,同年5月31日に10万4000円,同年11月7日に8万5957円,同日に12万7000円,平成13年1月26日に1万円及び同年2月15日に10万円をそれぞれ借り受けたことが認められるけれども,他方,原告と被告らとの貸付及び返済の経過が別紙計算書1記載のとおりであること,及び,利息計算の基礎となる日数が別紙計算書の「前回取引からの日数」欄記載のとおりであることは(平成4年9月3日時点における債務残高の点を除いては)当事者間に争いがないことは上記のとおりであり,そうすると,原告は,被告の主張に係るタイヘイ株式会社の上記貸付けを含めて過払金の計算をしていることが明らかであって,原告が被告らに対して利息制限法所定の利率を超える利息を支払ったことにより,被告の主張に係るタイヘイ株式会社の上記貸付金を含めて元本が完済された上,後記4記載の額の過払金が発生しているというべきであるから,結局,被告の主張に係る上記貸付の残債務は存在しないということになる。

したがって,抗弁(2)の事実を認めることはできない。

4  被告が返還すべき過払金の額(請求原因(3)のア)について

以上からすれば,被告が原告に返還すべき過払金の額は,別紙計算書1記載のとおり214万4922円である。また,上記過払金については,被告は,原告に対し,受益のときから民法所定の年5分の割合による利息を附して返還すべきであることは上記1の(2)の判断のとおりであるところ,平成15年7月2日までの上記利息の合計額は,別紙計算書1記載のとおり16万5616円であり,更に上記214万4922円に対する同月3日から支払済みまで上記同率による利息を附して返還をすべきである。

第4結論

よって,原告の請求は理由があるからこれを認容することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法第61条を,仮執行の宣言につき第259条第1項を,それぞれ適用して,主文のとおり判決する。

(裁判官 竹内努)

<以下省略>

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