大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 平成16年(わ)567号 判決 2004年10月21日

主文

被告人を懲役5年に処する。

未決勾留日数中110日をその刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、

第1  平成14年6月6日午前5時ころから同日午前5時半ころまでの間、京都市北区上賀茂荒草町64番地所在のトータス溝川1生鮮館かみがも前路上において、仮眠中のBが所持していたクレジットカード等6点在中のセカンドバッグ1個(時価合計4000円相当)を窃取した、

第2  上記第1で窃取したB名義のクレジットカードの番号等を冒用し、出会い系サイトのメール情報受送信サービスを利用する際の決済手段として使用されるいわゆる電子マネーを不正に取得しようと企て、別表記載のとおり、同年10月21日から同月23日までの間、5回にわたり、同区a町9番地新弥生寮○号室ほか1か所から、被告人の携帯電話機を使用して、インターネットを介し、出会い系サイト通信事業提供者である株式会社アジャスト及び株式会社マトリックスファームから委託を受けたクレジットカード決済代行業者であるテレコムクレジット株式会社(代表取締役C)が東京都港区三田1丁目2番22号所在の東洋ビル8階に設置し、電子マネー販売等の事務処理に使用する電子計算機に対し、クレジットカード名義人名(B)、上記B名義のクレジットカード番号(<省略>)及び有効期限(2004年10月)を入力送信し、上記Bが同人名義のクレジットカードを使用して販売価格合計11万3000円相当の電子マネーを購入する旨虚偽の情報を与え、同所に設置された上記電子計算機に接続されているハードディスクに、同人が同人名義のクレジットカードを使用して上記電子マネーを購入したとする財産権の得喪に係る不実の電磁的記録を作り、よって、同額相当の電子マネーの利用権を取得し、もって、同額相当の財産上不法の利益を得た、

第3  出会い系サイトに「下着売ります。」などと投稿掲示していたAに対し、代金を騙し取ろうとしたなどと因縁をつけ、同女を強姦するとともに詫び料名下に金員を喝取することを企て、

1  平成15年9月28日午後5時30分ころ、京都市下京区五条大橋西詰下材木町453番地の1所在の五条公園において、A(当時15歳)に対し、暴力団組員であることを告げた上、「どう責任とってくれるんや。高校生なら売り飛ばすところだけど、お前中学生だから無理やし。お金を払うか、体で払って終わらせるかどっちかにしろ。携帯の番号調べたら家とか分かんねんぞ。逃げられへん。」などと申し向けて脅迫し、同女の反抗を著しく困難にした上、同公園内の公衆トイレに連れ込み、そのころ、同所において、強いて同女を姦淫した、

2  同月29日から翌30日にかけて、数回にわたり、同区<以下省略>所在のb会本部において、電話又はメールで、Aに対し、「何で電話しいひんかった。この責任はどうとってくれんねん。しばいてしまうぞ。お前、家嵐山の方やろ。わかってんのやぞ。どうなっても知らんぞ。1万5000円や。」などと申し向けて金員の交付を要求し、上記要求に応じなければ同女及びその家族の生命、身体、貞操等に危害を加えかねない気勢を示して脅迫し、同女をしてその旨畏怖させ、よって、同月30日午後6時30分ころ、同市東山区c通2丁目d町148番地アルカサールろくはら2階○号室において、同女から現金1万5000円を喝取した、

3  同月30日午後6時30分ころ、上記アルカサールろくはら2階○号室において、Aに対し、「30分遅れたんや。どうするんや。10分ごとに利子が付くんやで。脱げ。」などと申し向け、拒否する同女に更に、「そんな口聞くな。誰に向かって言ってんねん。」などと怒鳴って脅迫し、同女の反抗を著しく困難にした上、強いて同女を姦淫した

ものである。

(証拠の標目)省略

(法令の適用)

被告人の判示第1の所為は刑法235条に、判示第2の所為は包括して同法246条の2に、判示第3の1及び3の各所為はいずれも同法177条前段に、判示第3の2の所為は同法249条1項にそれぞれ該当するが、以上は同法45条前段の併合罪であるから、同法47条本文、10条により刑及び犯情の最も重い判示第3の3の罪の刑に同法14条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役5年に処し、同法21条を適用して未決勾留日数中110日をその刑に算入し、訴訟費用は、刑訴法181項1項ただし書により被告人に負担させないこととする。

(量刑の理由)

1  本件は、<1>路上で仮眠中の男性が所持していたクレジットカード等在中のセカンドバッグを窃取したという窃盗1件(判示第1)、<2>出会い系サイトの利用料金を利用者に代わって支払っていたクレジットカード決済代行業者に対し、<1>で窃取したクレジットカードの名義人が5回にわたり合計11万3000円相当の電子マネーを購入したとする虚偽の情報を与え、同業者の使用する電子計算機にその旨記録させて、同額相当の電子マネーの利用権を取得したという電子計算機使用詐欺1件(同第2)、<3>出会い系サイトに「下着売ります。」などと掲示していた少女を2回にわたり脅迫し、強いて姦淫したという強姦2件(同第3の1及び3)、<4>同女を脅迫して現金1万5000円を喝取したという恐喝1件(同第3の2)からなる事案である。

2(1)  まず、<3><4>の犯行について見ると、携帯電話の出会い系サイトにアクセスしていた被告人が、女性の名前による「下着売ります。」などという掲示を見つけ、当初、その掲示が被害者と知人の少年(当時16歳)によるものであることを知らず、応募して少年と交信しているうち、同人が男性であることが分かったことなどから、代金をだまし取ろうとした旨因縁を付け、同人から詫び料を取った上、被害者も公園に呼び出し、自分は暴力団組員であり、調べれば自宅も分かるなどと脅迫しつつ、「お前も責任をとれ。金を払うか、体で払うか。」などと迫り、同女を同公園内にある公衆トイレの個室に連れ込み、<3>の1回目の強姦に及んだ。その後、被告人は、いったんは被害者に許してやると言って帰したのに、翌日には更に連絡をしてこなかったなどと文句を言って同女らに金を集めるよう命じ、同日、同女らから現金を受け取ったが、なおも約束の場所に来なかったなどと言いがかりを付け、メールを送信するなどして執ように同女に金員や性交を要求し、再度公園に呼び出した同女を知人宅に連れ込み、<4>の犯行に至り、被害者の用意した現金を脅し取ったにもかかわらず、更に金員を要求し、これに応じなかった同女に<3>の2回目の強姦を敢行したというものである。このように、犯行の動機は、いずれも自己の性欲と金銭欲を満たすだけのものであって、身勝手、かつ自己中心的で、酌むべき余地は全くない。また、その犯行の態様も、10代半ばの被害者に対し、暴力団の威を示したり、家族にまで危害を加えることができるかのようにほのめかしたりするなど、強度の脅迫を加えるとともに、次々と難癖を付けて、畏怖、困惑させた上、被害者から現金を巻き上げたのみならず、同女を2度にわたって強姦し、しかもいずれの機会にも同女に口淫を強いるなど、同女の人格やその気持ちを全く顧みず、性欲の赴くままに犯行に及んでおり、執よう、かつ狡猾で卑劣極まりない。家族に危害が加えられるかもしれないなどと恐れ戸惑う中で、2度にわたって陵辱された当時中学3年生の被害者が味わわされた恥辱、恐怖等の精神的苦痛は甚大であり、精神的な後遺症が残っているなど、本件が同女の今後の成長に悪影響を及ぼすことも十分に考えられるのであって、もとよりその処罰感情が厳しいのは当然である。

(2)  次に、<1>の窃盗は、パチンコ等の遊興に明け暮れる生活を続け、金員に窮していた被告人が、路上に寝ていた被害者の近くにセカンドバッグがあるのを発見するや、中の現金等欲しさに犯行に及んだものであり、<2>の電子計算機使用詐欺は、有料の出会い系サイトで遊ぶために父親のクレジットカードを勝手に使用するなどしていた被告人が、<1>で窃取した他人のクレジットカードを使って、そのサイトの利用料金として使用可能な電子マネーを繰り返しだまし取ったというものであり、いずれも安易かつ利欲的な動機に酌むべき余地は全くない上、各犯行の態様にも狡猾さがうかがわれる。<2>の被害額は、11万3000円と少なくないばかりか、重要な決済手段であるクレジットカードに対する信用を害している点も軽視できず、さらに同カードを知人にも同様に利用させており、犯情は一層悪質である。そして、<1>、<2>についての被害弁償は一切なされておらず、各被害者の処罰感情も厳しいものがある。

(3)  加えて、被告人は、上記のような徒遊生活を送りながら、暴力団組員として活動していたものであって、その生活態度は芳しくなく、規範意識も希薄である。

以上の事情に照らすと、被告人の刑責は重いといわざるを得ない。

3  そうすると、被告人が本件各犯行を認め、反省の態度を示していること、<3>、<4>の犯行は、知人の誘いに乗って出会い系サイトに下着販売等の掲示を出した被害者の軽はずみな行動がその契機となっていること、被告人の父親が同被害者に対し被害弁償として30万円を支払っていること、被告人が同被害者とその家族に謝罪と反省の気持ちを記した手紙を送付し、また、同様の気持ちを表した上申書を提出していること、今後は組との関係を断ち、真面目に生活していく旨述べ、所属していた暴力団に脱会届も提出していること、前科がないこと、被告人の父親が出廷し、今後は二度と犯罪行為を起こさないように被告人を監督していく旨述べていること、親戚が経営する建設会社等が稼働先として確保されていることなど、被告人のために酌むべき諸事情を十分考慮しても、主文の刑に処するのが相当であると考えた。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑・懲役8年)

別表

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例