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京都地方裁判所 平成16年(ワ)1944号 判決 2005年7月15日

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原告

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上記訴訟代理人弁護士

功刀正彦

東京都目黒区三田一丁目6番21号

被告

GEコンシューマー・ファイナンス株式会社

上記代表者代表取締役

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上記訴訟代理人弁護士

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主文

1  被告は,原告に対し,177万7679円及び内金169万2036円に対する平成16年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  被告は,原告に対し,8万5000円及びこれに対する平成16年8月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  原告のその余の請求を棄却する。

4  訴訟費用はこれを20分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。

5  この判決の1項及び2項は仮に執行することができる。

事実

第1当事者の求めた裁判

1  請求の趣旨

(1)  被告は,原告に対し,177万7679円及び内金169万2036円に対する平成16年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  被告は,原告に対し,17万7000円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(3)  訴訟費用は被告の負担とする。

(4)  (1),(2)につき仮執行宣言

2  請求の趣旨に対する答弁

(1)  原告の請求をいずれも棄却する。

(2)  訴訟費用は原告の負担とする。

第2当事者の主張

1  請求原因

(1)  請求の趣旨(1)の請求について

ア 原告と被告は,遅くとも平成2年ころから,被告が設定する極度額の範囲内で,被告が貸付をし,原告が返済をするという金銭消費貸借取引を繰り返してきた。

イ 上記金銭消費貸借取引による原告と被告との間の貸付及び返済の経過,返済額のうち利息の支払いについて利息制限法の制限利率の超過による過払い金を元金に充当した結果は別紙のとおりであり,これによると平成16年3月31日現在において,過払い金は合計169万2036円となっている。

また,過払い金については,被告は,利息制限法による利率の制限を知っているから,悪意をもって受益したといえ,受益のとき(過払金の発生の日)から民法所定年5分の割合による利息の返還義務があり,平成16年3月31日現在における過払い金に対する利息の合計額は8万5643円である。

ウ 原告は,平成16年3月31日付けでそのころ被告に到達した受任通知をもって,上記過払い金合計169万2036円の返還を催告した。

エ よって,原告は,被告に対し,不当利得返還請求権に基づき,上記過払い金合計169万2036円及びこれに対する平成16年4月1日から支払済みまで民法所定年5分の割合による金員(上記ウの催告によって遅滞に陥ったこと基づく遅延損害金又は民法704条による悪意の受益者の利息)の金員並びに上記利息合計額8万5643円の支払いを求める。

(2)  請求の趣旨(2)の請求について

ア 原告は,本件訴訟の提起に先立ち,被告に対し,原告と被告との間の金銭消費貸借取引につき,貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)19条に基づく帳簿の提示を求めたが,被告は,原告と被告との間の金銭消費貸借取引の一部に過ぎない平成11年1月29日以降の取引履歴を開示したに過ぎず,原告は本件訴訟の提起を余儀なくされた。

イ 被告の上記取引履歴の一部開示は貸金業法13条2項が禁止する不正行為であるうえ,また,原告は,本件訴訟における被告の争い方により,訴え提起から判決に至るまで長期間の審理を余儀なくされ,多大な労力を要した。

これによって原告が被った弁護士費用相当額の損害は,前記過払い金合計169万2036円と前記利息合計額8万5643円の総合計177万7679円の10%に相当する17万7000円である。

ウ よって,原告は,被告に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,上記損害17万7000円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

2  請求原因に対する認否

(1)  請求原因(1)(請求の趣旨(1)の請求について)について

アのうちの平成6年8月10日以降原告と被告との間に金銭消費貸借取引が繰り返されてきたことは認め,その余は否認ないし争う。

(2)  請求原因(2)(請求の趣旨(2)の請求について)について

アのうちの被告が平成11年1月29日以降の取引履歴を開示したことは認め,その余は否認ないし争う。

3  抗弁(請求の趣旨(1)の請求について)

(1)  みなし弁済

被告は,取引相手に対し,店頭取引においては乙2ないし乙4の各書面を,ATM取引においては乙5ないし乙11の各書面をそれぞれ交付しており,原告との取引においても同様であるから,貸金業法17条及び18条の各書面を交付しているといえる。

(2)  消滅時効

原告が本件訴訟を提起したのは平成16年7月12日であり,平成6年7月11日までに発生した不当利得返還請求権については消滅時効が完成しているから,被告は時効を援用する(平成16年9月8日の第1回口頭弁論期日において援用)。

4  抗弁に対する認否

(1)  抗弁(1)は否認する。

(2)  抗弁(2)のうち,本件訴訟提起の日は認め,その余は争う。

理由

1  請求の趣旨(1)の請求について

(1)  被告は,乙17を提出し,平成5年10月25日以降の原告と被告との間の取引履歴を開示したが,原告と被告との間の平成2年4月5日から平成6年8月9日までの間の金銭消費貸借取引にかかる文書提出命令(平成16年(モ)第1767号文書提出命令申立事件)に対する抗告が棄却されて初めて提出されたものであり,その内容はにわかに措信できない。

したがって,甲1,甲2,乙1及び上記文書提出命令による真実擬制によれば,原告と被告との間の金銭消費貸借取引の貸付日・貸付額及び返済日・返済額は別紙のとおりと認められる。

そして,別紙によれば,平成16年3月31日現在における原告の過払い金は合計169万2036円であると認められる。

(2)  みなし弁済について

被告は,貸金業者であるから利息制限法による利率の制限を知っていることは明らかであり,被告が,原告との間の金銭消費貸借取引において,貸金業法17条及び18条の各書面を交付したことを認めるに足りる証拠はないから,みなし弁済の抗弁は理由がなく,被告は,悪意の受益者といえる。

したがって,被告は,受益のとき(過払い金の発生の日)から過払い金に対する民法所定年5分の割合による利息の返還義務があり,別紙のとおり,平成16年3月31日現在における利息の合計額は8万5643円であると認められる。

(3)  消滅時効の抗弁について

過払い金についての不当利得返還請求権は,過払い金の発生のときから法律上権利行使が可能であるから,そのときから消滅時効が進行する。

ところで,本件のように過払い金が発生した後も,新たな貸付,返済が繰り返されている場合,過払い金があれば,これをその後の貸付の返済に充当するのが当事者の合理的意思であると解される。

本件では,本件訴訟提起の日は平成16年7月12日であるから,消滅時効の対象となる過払い金は平成6年7月11日以前に発生したものであり,その合計額は,別紙のとおり,35万1314円であるが,平成6年7月12日以降平成10年8月1日までに35万1314円を超える貸付がなされており,上記過払い金合計35万1314円は平成6年7月12日以降の貸付の返済に順次充当されてその返還債務は消滅しており,平成16年3月31日現在における過払い金合計額は平成6年7月12日以降の返済によって発生した過払い金の合計額であると認められる。

したがって,被告の消滅時効の抗弁は主張自体失当である。

(4)  付帯請求について

原告は,過払い金返還債務について催告をしたとは認められない(甲7の記載は催告としては不十分である。)が,過払い金が返還されるまで,被告は悪意の受益者として利息の返還義務があるから,この点において原告の付帯請求は理由がある。

2  請求の趣旨(2)の請求について

(1)  被告の不法行為について

被告は,本件訴訟の提起前,原告に対し,平成11年1月29日以降の取引履歴を開示し(甲1,甲2),原告はこれを前提に平成16年3月31日現在の過払い金合計額261万7969円及び利息合計額85万8099円等について本件訴訟を提起したが,本件訴訟の提起後,被告は平成6年8月10日以降の取引履歴を開示し(乙1),その結果,過払い金合計額は176万0379円,利息合計額は8万9356円であることが判明した(原告の平成16年9月21日付準備書面参照)。

しかし,弁論の全趣旨によれば,被告は本件訴訟の提起前に平成6年8月10日以降の取引履歴の開示が可能であったと認められるから,本件訴訟の提起前には平成11年1月29日以降の取引履歴を開示し,本件訴訟の提起後に至って平成6年8月10日以降の取引履歴を開示した被告の行為には何ら合理的な理由はなく,信義則に違反するものであって違法であるといえ,不法行為が成立する。なお,本件訴訟における被告の争い方については,不法行為が成立する程の違法性を有するとはいえない。

(2)  原告の損害について

本件訴訟を弁護士に委任するかどうかは原告の任意であり,本件訴訟に要する弁護士費用のすべてが被告の前記不法行為と相当因果関係のある損害とは直ちにはいえない。

しかし,甲7によれば,被告は,原告が弁護士を訴訟代理人として過払い金及び利息の返還請求訴訟を提起するであろうことは容易に予想し得たと認められるところ,前記のとおり,被告は,本件訴訟の提起前に平成6年8月10日以降の取引履歴の開示が可能であったにもかかわらず,平成11年1月29日以降の取引履歴のみを開示したものであるが,被告が本件訴訟の提起前に平成6年8月10日以降の取引履歴を開示していれば,原告は,過払い金合計額及び利息合計額の請求としては,261万7969円及び85万8099円を請求するのではなく,176万0379円及び8万9356円を請求したはずである(被告もこのことを容易に予想し得たはずである。)。

したがって,少なくとも,原告が本件訴状をもって請求した過払い金合計額のうち85万7590円(=261万7969円-176万0379円)については弁護士費用を要しなかったはずであるから,原告は,被告の前記不法行為により,少なくとも上記85万7590円の請求に対応した弁護士費用相当額である8万5000円(85万7590円の10%相当額)の損害を被ったといえる。

3  結論

以上によれば,原告の請求は,請求の趣旨(1)の請求は理由があり,請求の趣旨(2)の請求は8万5000円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成16年8月7日(裁判所に顕著な事実)から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるが,その余は理由がない。

よって,訴訟費用の負担について民事訴訟法64条本文,61条を,仮執行宣言について同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。

(裁判官 田中義則)

<以下省略>

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