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京都地方裁判所 平成16年(ワ)2160号 判決 2005年9月16日

京都市●●●

原告

●●●

同訴訟代理人弁護士

功刀正彦

東京都目黒区三田1丁目6番21号

被告

GEコンシューマー・ファイナンス株式会社

同代表者代表取締役

●●●

同訴訟代理人弁護士

●●●

主文

1  被告は,原告に対し,336万5963円及びうち230万0029円に対する平成15年4月2日から,うち10万円に対する平成16年8月17日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は,これを20分し,その3を原告の,その余を被告の各負担とする。

4  この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

被告は,原告に対し,385万7378円及びうち246万9435円に対する平成15年4月2日から,うち35万円に対する平成16年8月17日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

1  本件は,被告から金員を複数にわたって借り受けた原告が,被告に対し,①原告と被告の間の貸借及び返済の状況は別紙1記載のとおりであるから,原告は被告に対し,原告代理人が受任通知をした平成15年4月1日には246万9435円の不当利得返還請求権を有しており,同日までの法定利息金は103万7943円であるとして,合計350万7378円及びうち不当利得金246万9435円に対する受任通知の翌日である平成15年4月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による法定利息金の支払を求め,また,②原告は本訴に先立ち被告に対し取引履歴の開示を求めたが,被告は貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)13条2項に違反して,同15年5月に,同11年1月8日以降の取引履歴しか開示せず,それ以前の取引履歴を隠匿する不法行為を行ったとして,本訴提起のための弁護士費用相当損害金35万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である同16年8月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

2  これに対し,被告は,原告と被告の平成5年11月1日以降の取引履歴は別紙2記載のとおりであるとするほか,貸金業法43条に基づくみなし弁済の抗弁を提出し,また,不当利得返還請求権の消滅時効は10年であるとして,同6年8月4日以前の同請求権は時効消滅したと主張する。

3  基礎となる事実(証拠を付さない事実は,当事者間に争いがない。)

(1)  原告は,京都市●●●に在住し,●●●業を営む自営業者である(甲4,原告本人)。

(2)  被告は,貸金業者である。

第3当裁判所の判断

1  原告と被告の間の取引について

(1)  甲4号証,乙16号証及び原告本人尋問の結果によれば,原告と被告の平成5年11月1日以降の取引履歴は別紙2記載のとおりであると認められる。

原告は,この間の取引について別紙1記載のとおりであると推認しているが,その主張事実は原告本人尋問における供述内容とも必ずしも符合しない上,同事実を認めるに足りる的確な証拠はない。

(2)  これに対し,それ以前の取引履歴については,別紙1記載のとおりであると認めるのが相当である。

甲2号証,4号証及び原告本人尋問の結果によれば,原告は,昭和60年2月1日以前に,被告から金員を借り入れていたと認められ,当裁判所が被告の商業帳簿中の同60年2月1日以降の取引履歴を記載した部分の提出を命じたにもかかわらず,被告は,10年を経過した取引履歴は自動的に削除されるシステムを採用しており,取引履歴を所持していないとして,これに応じないので,原告と被告の間の実際の取引履歴は上記のとおり原告が推認する取引履歴よりも被告に有利な内容となっていると考えられるから,上記推認の限度で原告主張の取引履歴の事実を認めるのが相当である。

(3)  以上によれば,不当利得金は230万0029円であり,平成15年4月1日までの既発生の法定利息金は96万5934円である。

2  貸金業法43条に基づくみなし弁済の成否について

(1)  被告は,店頭取引の場合に交付している貸金業法17条書面及び同法18条書面であるとして,そのサンプルを書証として提出するが,原告と被告の間の各取引時に交付した書面そのものを書証として提出しないから,実際にその交付があったと認めることはできない。

(2)  したがって,その余の点について検討するまでもなく,被告の上記抗弁は理由がない。

3  消滅時効の抗弁について

(1)  被告は,不当利得返還請求権の消滅時効は10年であるとして,同6年8月4日以前の同請求権は時効消滅したと主張するが,上記1認定の取引履歴に鑑みると,原告と被告の取引においては,返済のつど貸付がなされることが多く,上記取引は全体として一個の取引というべきであるから,不当利得返還請求権の消滅時効は最終の貸付がなされた平成13年5月7日から進行すると解するのが相当である。

(2)  したがって,被告の上記抗弁も理由がない。

4  取引履歴の隠匿と不法行為の成否等について

(1)  甲1号証及び弁論の全趣旨によれば,原告は,被告に対し,取引履歴の開示を求めたところ,被告は,これに応じなかったため,原告は,原告訴訟代理人に委任して,貸付額及び返済額を推定し,これに基づき,本訴を提起せざるを得なかったこと,原告は,本訴において,被告の商業帳簿のうち原告と被告の間の取引履歴記載部分について,文書提出命令の申立てをしたが,被告は,同命令発令後のみならず,抗告審において即時抗告の申立てが棄却された後も,これを提出していないことが認められる。

(2)  貸金業者は,債務者から取引履歴の開示を求められた場合には,その開示要求が濫用にわたると認められるなど特段の事情がない限り,貸金業法の適用を受ける金銭消費貸借契約の付随義務として,信義則上,保存している業務帳簿に基づいて取引履歴を開示すべき義務を負っているというべきであるから,本件各証拠によっても上記特段の事情が認められない本件においては,上記の取引履歴の開示を拒否し,これを隠匿することは,原告に対する不法行為を構成するものというべきである。

(3)  そして,本件訴訟提起に至る経緯,これに要した事務の内容,本件訴訟の審理経過等に照らすと,上記不法行為と相当因果関係がある弁護士費用相当の損害金は10万円であると認める。

(4)  被告に対する本訴状送達の日が平成16年8月16日であることは,当裁判所に顕著な事実である。

5  結論

以上の次第で,原告の本訴請求は,主文1項の限度で理由があるから認容し,その余を棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条,64条本文を,仮執行宣言について同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。

(裁判官 山下寬)

<以下省略>

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