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京都地方裁判所 平成16年(ワ)3124号 判決 2006年5月25日

主文

1  被告らは,原告Aに対し,連帯して,179万5553円及びこれに対する平成15年12月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  被告らは,原告会社に対し,連帯して,1187万1635円及びこれに対する平成15年12月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

4  訴訟費用は,原告Aと被告らとの間で生じた費用はこれを25分し,そのうち21を原告Aの負担とし,その余は被告らの負担とし,原告会社と被告らとの間で生じた費用はこれを100分し,その43を原告会社の負担とし,その余は被告らの負担とする。

5  この判決は,1,2項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

1  被告らは,原告Aに対し,連帯して,1069万5553円及びこれに対する平成15年12月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  被告らは,原告会社に対し,連帯して,2089万7190円及びこれに対する平成15年12月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要等

1  本件は,被告らが,①原告Aを被害者とする強盗致傷事件を隠ぺいし,同事件の被疑者の釈放等を目的として,同原告を軟禁し,もって,同原告の身体ないし行動の自由を侵害し,また,同原告が代表者を務める原告会社の営業活動を6か月間不能にしたこと,②上記目的のために,原告Aを強要して,上記強盗致傷事件につき偽証させたこと,③原告A所有の自動車を同原告に無断で売却したこと,④原告会社の預金を喝取したこと,⑤原告会社の賃借権及び備品の権利を喪失させたことを理由として,

(1)  原告Aが,被告らに対し,共同不法行為に基づき,連帯して,損害金1069万5553円及びこれに対する最終不法行為日である平成15年12月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,

(2)  原告会社が,被告らに対し,共同不法行為に基づき,連帯して,損害金2089万7190円及びこれに対する最終不法行為日である平成15年12月19日から支払済みまで前同様年5分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事案である。

2  基礎となる事実(証拠を付さない事実は,当事者間に争いがないか弁論の全趣旨により容易に認められる。)

(1)  当事者等

ア 原告会社は,婦人下着,婦人服及びその他の衣料品の卸・販売等を行う有限会社であり,株式会社D1の指揮,監督を受ける会社である(甲11,13,34,乙16)。

イ 原告Aは,原告会社の取締役である(甲11,13,34,乙16)。

ウ 被告B1は,株式会社D1の代表取締役である(乙16)。

エ 被告B2は,株式会社D2の代表者である(甲17,乙9ないし14)。

(2)  事実経過

ア 原告Aは,平成15年2月7日,大阪府a市bc丁目d番e号「D3」D4支店駐車場及び京都府f市gh丁目i番j所在のE1事務所において,指定暴力団E1構成員C1,同C2,同C3(なお,以下,C1,C2及びC3を「C1ら3名」という。)から,暴行,脅迫等を受けて,反抗を抑圧された上,原告会社名義のキャッシュカードを強取され,その際,上記暴行により,全治1か月を要する左眼窩吹き抜け骨折,頭部打撲,頚椎捻挫,胸腹部打撲の傷害を負わされた。

原告会社は,その後,上記キャッシュカードを利用され,同原告名義の預金口座から現金2079万円を引き出された。

(以下,C1ら3名の上記行為を「本件強盗致傷事件」という。)

イ 原告Aは,平成15年2月20日ころ,京都府F警察署(以下「F警察署」という。)に対し,本件強盗致傷事件につき,被害届(以下「本件被害届」という。)を提出した。

ウ C1ら3名は,平成15年6月2日ないし同月3日,本件強盗致傷事件について逮捕された。

エ 原告Aは,平成15年9月9日,京都地方裁判所におけるC1ら3名の強盗致傷等事件の公判期日(以下「本件公判」という。)において,真実は上記ア記載のとおりであるにもかかわらず,「自動車の運転を巡ってC2とトラブルになり,同人とけんかになったが,同人から一方的に暴行を受けたわけではない。C1が仲裁に入ったのであり,同人とC3からは暴行を受けていない。キャッシュカードは,強取されたのではなく,C1に自分から交付したのであり,同人に出金を要請した。現金2079万円は,窃取されたのではなく,C1が経営する金融業に出資したものである。」などと証言し,偽証を行った(乙6,66。以下「本件偽証」という。)。

(3)  賃貸借等

ア 原告会社は,平成15年5月25日ころ,株式会社D5(当時の商号。以下「本件賃貸人」という。)との間で,次の約定で,k市l区m町n番地所在のD6ビル604号室(以下「本件物件」という。)を賃借する旨の合意をした(甲5,原告A本人。以下「本件賃貸借契約」という。)。

(ア) 保証金 95万2000円

(イ) 特約 本件賃貸人は,原告会社に対し,本件賃貸借契約が同賃貸借契約後3年未満で終了した場合には,保証金の70%を,3年以上5年未満で終了した場合には保証金の80%を,5年以上で終了した場合には,保証金の90%を返還する。

イ 原告会社は,上記約定に基づき,本件賃貸人から,本件物件の引渡しを受け,同原告所有の什器備品(以下「本件備品」という。)を本件物件に備え付けるとともに,本件賃貸人に対し,保証金として95万2000円を支払った(甲10,24,原告A本人)。

ウ 本件賃貸借契約は,平成15年8月7日ころ,合意解除された(甲6)。

第3争点

1  原告Aの損害賠償請求の可否

(1)  軟禁の有無

(2)  車両の無断売買の有無

(3)  偽証の強要の有無

2  原告会社の損害賠償請求の可否

(1)  預金の喝取の有無

(2)  営業権侵害の有無

(3)  賃借権侵害等の有無

3  損害額

第4争点に対する当事者の主張

1  原告Aの損害賠償請求の可否(争点1)について

(1)  軟禁の有無(争点(1))について

(原告Aの主張)

被告らは,共謀の上,原告Aに対し,「逃げるな。ヤクザは全国フランチャイズやし逃げても見つかる。そんなことをしたらお前は殺される。」などと申し向け,同原告を畏怖,困惑させ,平成15年6月8日から同年12月19日までの間,同原告を,o市内のホテル,同市内及びp市内のマンションなどに軟禁して,違法に,同原告の身体ないし行動の自由を侵害した。

(被告らの主張)

被告らは,原告Aに対し,同原告主張の発言をしていない。

原告Aは,暴力団関係者若しくは警察から逃れるために,自らの意思で,o市内のホテル等に滞在していたのであり,被告らが,同原告に強迫を加えたり,困惑させるなどして,同原告を軟禁していたのではない。

実際,原告Aは,o市内に来た当初,同市内のビジネスホテルで一人暮らしをし,さらに,食事,買物若しくは漫画喫茶等に赴くなど自由に行動していた。その後,原告Aは,マンションを借り,同所に移り住んだが,昼間はほとんど一人で自由に行動していた。

また,原告Aは,平成15年8月下旬以降,p市内の会社で住み込みで働いていたが,これは,あくまで,同原告が希望したことである。

(2)  車両の無断売買の有無(争点(2))について

(原告Aの主張)

被告らは,共謀の上,被告B1が原告Aの印鑑証明カード,決算書作成のための委任状を預かっていたことを奇貨として,平成15年7月4日ころ,同原告に無断で,同原告使用名義の自動車(メルセデスベンツ,以下「本件車両」という。)を売却し,同代金を不法に取得した。

(被告らの主張)

原告Aは,本件車両のローンの完済又は同原告の生活費の捻出のために,自らの意思で本件車両を売却したのであり,被告らが同原告に無断で本件車両を売却した事実はない。被告B2は,同売却代金のうち本件車両のローン残額及び自動車税等を控除した金員を預かり,原告Aの小遣い,食費,遊興費等に充てた。

なお,被告B1は,原告Aが本件車両を売却したことにつき,何ら関与していない。

(3)  偽証の強要(争点(3))について

(原告Aの主張)

被告らは,共謀の上,原告Aを強要して,本件偽証をさせ,もって,義務なき行為をさせて,同原告の行動の自由を侵害した。

(被告らの主張)

原告Aは,自らの意思で本件偽証を行ったのであり,被告らが同原告に本件偽証を強要した事実はない。

2  原告会社の損害賠償請求の可否(争点2)について

(1)  預金の喝取の有無(争点(1))について

(原告会社の主張)

ア 被告らは,共謀の上,上記1(1)「原告Aの主張」記載のとおり,原告Aが畏怖,困惑していることに乗じて,金員を喝取しようと企て,平成15年6月26日,同原告に,r市s区t所在のD7銀行D8支店及び大阪府u区所在のD9金庫D10支店において,原告会社名義の口座から,合計1070万円の金員を引き出させた上,同日,被告B1宅地下室において,原告Aから上記1070万円を取り上げ,喝取した。

イ 被告らは,上記1070万円が原告Aの生活費等の支払に充てられた旨主張するが,原告会社が,上記1070万円からその控除を認め得るのは,

次のとおり,合計112万5000円のみである。

① 研修センター費 28万5000円

② 国民健康保険 1万0000円

③ 車両代 50万0000円

④ プレゼント代 10万0000円

⑤ 小遣い 23万0000円

(被告B2の主張)

平成15年6月当時,原告会社は既に営業継続が困難な経営状態であったところ,原告Aは,原告会社の債務整理等の目的で,同原告名義の口座から約1000万円を引き出し,同金員から原告Aの生活費相当額を控除した金額を,原告会社の未払金等の支払に充てた。

被告B2は,原告Aの希望により,同原告から同原告の上記生活費相当額をいったん預かり,管理していたが,その後,同原告に対し,同金員全額を返還した。

(被告B1の主張)

原告Aは,原告会社の債務整理等の目的で,同原告名義の口座から金員を引き出した。

被告B1は,原告Aから,上記金員のうち約750万円を受け取り,同原告の元妻であるC4に対し,上記約750万円のうち580万円を渡した。

(2)  営業権侵害の有無(争点(2))について

(原告会社の主張)

被告らは,上記1(1)「原告Aの主張」記載のとおり,原告Aを軟禁し,もって,その間,原告会社の営業を不能にした。

(被告らの主張)

原告会社は,直接の外交員,販社若しくは代理店を有しており,外交員の管理は,原告Aが電話で行うか,若しくは,C4や核となる販社に連絡をとり管理を依頼すれば,同原告が現場にいなくとも可能であった。

(3)  賃借権侵害等の有無(争点(3))について

(原告会社の主張)

被告らは,上記1(1)「原告Aの主張」記載のとおり,原告Aを軟禁し,原告会社が本件物件で営業及び賃料支払を続けさせることを妨げ,もって,同原告の本件賃借権及び本件備品の権利を喪失させた。

(被告らの主張)

原告Aは,原告会社の債務整理の一環として,本件賃貸借契約の解約及び本件備品の処分を希望し,被告B1又はC5に対し,同各行為を委任した。被告B1又はC5は,同委任に基づき,本件賃貸借契約の解約及び本件備品の処分を行ったにすぎず,原告会社の権利を侵害していない。

また,原告Aには共同出資者がいたのであるから,本件賃貸借契約を解約する必要はなかった。

本件備品のうちソファーについては,原告会社の共同出資者が,その余のテーブルと椅子は,株式会社D1が保管している。

3  損害額(争点3)について

(原告らの主張)

原告らは,被告らの共同不法行為により,次のとおり,損害等を被った。

(1) 原告Aについて

ア 軟禁による慰謝料 500万0000円

イ 本件車両売買による損害 469万5553円

(ア) 時価 740万0000円

(イ) 自動車ローン残高の弁済 △270万4447円

なお,上記を除く本件車両のローン19万4145円の弁済は,原告Aが行っているから,これを上記金額から控除することはできない。

ウ 偽証強要による慰謝料 300万0000円

エ 損益相殺(平成16年9月24日支払分) △200万0000円

オ 合計 1069万5553円

(2) 原告会社について

ア 営業不能 919万4390円

1838万8780円(原告会社の平成14年4月1日から平成15年3月31日までの間の営業利益)÷12か月×6か月(営業不能期間)=919万4390円

イ 預金喝取による損害 957万5000円

(ア) 預金の喝取 1070万0000円

(イ) 損益相殺 △112万5000円

ウ 賃借権喪失 85万6800円

原告Aが軟禁されなければ,本件賃貸借契約は5年以上継続し,これにより,原告会社は,本件賃貸人から保証金95万2000円の9割である85万6800円の返還を受けることができた。

エ 本件備品14万6000円

不法行為当時,本件備品の時価は14万6000円であった。

オ 合計 1977万2190円

(被告らの主張)

いずれも争う。

(1) 本件車両は,いわゆる事故車であることや,並行輸入車であること,同車両のスピードメーターが取り替えられていたことなどの理由により,状態が悪いものであった。そして,自動車ローンの残額や自動車税の滞納分を控除した後に自動車買取業者から交付された金額は約100万円であった。したがって,本件車両の時価が,平成15年7月当時,740万円であった事実はない。

(2) 原告会社は,営業権侵害により生じた損害として,同原告の平成14年4月1日から平成15年3月31日までの営業利益が1838万8780円であったと主張するが,これは,原告Aが外交員にコミッションを支払わなかったり,強引な販売をしたことにより計上したものである。そして,平成14年3月31日以前には原告会社が繰越損失を計上していたことや,源泉所得税の未払,税理士報酬の未払,広告宣伝費の未払があったことなどからすれば,同原告が継続的に同程度の収益を上げる蓋然性は低い。

(3) 賃借権喪失に関する原告会社の主張は争う。

ア 本件賃貸借契約が,同契約締結後5年以上継続した可能性があったとの立証はない。また,原告Aは,本件物件において積極的に営業をしておらず,原告会社の共同出資者も解約に反対していないから,いずれにしても,賃貸借喪失につき損害は発生していない。

イ 本件備品は,原告会社の共同出資者が持ち帰ったか,あるいは,株式会社D1において保管されており,いつでも返還可能であるから,同原告に,本件備品の喪失による損害はない。

第5当裁判所の判断

1  認定事実

第2の2の事実に,証拠(甲1,2,11ないし19,33ないし36,乙6ないし16,66,丙1,原告A本人,被告B1本人,被告B2本人)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の各事実が認められる。

(1)  関係者

ア C6は,平成15年2月当時,指定暴力団E2の会長であった。

イ C7は,o市内において,雑貨販売業を営んでいる者であり,C6との交友関係があった者である。

ウ C5は,株式会社D1の専務取締役であり,原告Aに対する強要罪等で逮捕,勾留されたが,起訴猶予処分となった。

エ C8は,株式会社D1の従業員であり,原告Aに対する強要罪等で逮捕されたが,起訴猶予処分となった。

(2)  事実経過

ア 原告Aは,平成15年2月7日,被告B1に対し,本件強盗致傷事件があったことを伝えた。

イ 被告B1は,平成15年2月8日,被告B2に本件強盗致傷事件への対処につき相談したところ,同被告は,同日,C7に同事件への対応につき相談し,さらに,C7は,同日,C6に同事件への対処につき相談した。

ウ C6は,E1関係者との間で,本件強盗致傷事件について交渉を行ったところ,E1が原告Aに1000万円を返還すること,及び,C1らが,同原告に対し,本件強盗致傷事件につき謝罪することで合意に達した。

エ C1は,平成15年2月16日,京都府f市所在のファミリーレストラン「D11」において,C6,C7及び被告らの面前で,原告Aに対し,本件強盗致傷事件につき,謝罪を行った。

C6は,その際,E1が原告Aに返還した1000万円のうち500万円を上記交渉の手数料として受け取り,同原告は,残額500万円を受け取った。

オ 原告Aは,平成15年2月20日ころ,本件被害届をF警察署に提出した。

カ 本件強盗致傷事件を理由に,C1及びC2は,平成15年6月2日に,C3は,同月3日に,それぞれ逮捕された。

キ C1ら3名が逮捕されたことから,原告A,被告B2,C6,C7及びE1の構成員らは,平成15年6月2日,その対処を協議するため,滋賀県v所在のD12ホテルに集まった。

その後,被告ら,C7,C6及びC5は,同日,k市所在のD13ホテルにおいて,原告Aが本件被害届を提出したことについて同原告を糾弾した後,C1ら3名を釈放させるために,同原告に本件被害届を取り下げさせることや同原告を被告らの監視下に置くとの合意をした。

ク 原告Aは,平成15年6月3日から同月8日までの間,同原告宅に帰宅せず,被告B1宅,ホテル,及びC8宅に滞在した。

ケ 原告Aは,平成15年6月3日,被告ら,C7及びC9弁護士と共に,F警察署に赴き,同署の職員に本件被害届の取下げ等を願い出たが,C1ら3名が釈放されることはなかった。

なお,C9弁護士に対する報酬は,被告B1が出捐している。

コ 被告ら及びC7は,警察官が原告Aを発見することを阻止するために,同原告をk市内等からo市内に移動させることとした。

原告Aは,平成15年6月8日から翌9日にかけて,k市内からo市内に移動したが,その際に,被告B1は,同原告から,従前同原告が使用していた携帯電話を取り上げ,同原告に対し,C5が用意したプリペイド式の携帯電話を与えた。

サ 原告Aは,平成15年6月9日から同年8月中旬まで,一時的にk市等を訪れた場合を除き,o市内のホテル,被告B2宅,被告B2が用意したマンション等に滞在していた。そして,上記ホテルについて一部原告Aが宿泊を申し込むなどしたものもあったが,上記のうち大部分の滞在場所は,被告B2が用意した。

原告Aは,その間,被告B2らとともに,漫画喫茶,映画,海若しくはゲームセンターなどに遊びに行ったことがあり,時には,一人でこれらの場所を訪れることもあった。

シ 原告Aは,被告B2及びC7の指示により,「私は,此度被害届を出す気持ちはありませんでした。相手を処罰してもらいたいという様な考えは全く持ち合わせておりません。この書面をもちまして被害届を取り下げます」などと記載した書面(以下「本。件上申書」という。)を作成し,平成15年6月12日,C7,被告B2らと共に,o市内からk市内に移動し,さらに被告B1と合流した上で,k市内のD14郵便局から京都地方検察庁宛に同書面を郵送した。

ス C1ら3名は,平成15年6月23日から同月25日にかけて,本件強盗致傷事件につき,強盗致傷及び窃盗罪で起訴された。

セ 被告ら,C6及びC7は,C1ら3名が起訴された後,遅くとも平成15年6月末ころまでの間に,C1ら3名の罪責を免れさせるため,原告Aに,C1ら3名の刑事裁判において,本件偽証をさせる旨の合意に達した。

ソ 原告Aは,平成15年6月26日,D9金庫D10支店の原告会社名義の口座から,1056万7000円を引き出した(ただし,上記出金のための手数料として別途735円が上記口座から引き落とされている。)。

原告Aは,その後,被告B1宅において,上記金員のうち約500万円を同被告に,その残額をC5及び被告B2に手渡した。

タ 本件車両は,平成15年7月4日ころ,有限会社D15に代金400万円で売却された。

チ 原告Aは,平成15年8月中旬以降,C7の紹介で,p市所在のD16株式会社において,住み込みで働いていた。

ツ 原告Aは,平成15年9月9日,C1ら3名が被告人として,C10が同人らの弁護人として在廷し,被告B2及びC7が傍聴していた本件公判において,本件偽証をした。

その際,被告B2は,原告Aが滞在していたo市内のマンションからk市内まで,自動車で送迎した。

テ 原告Aは,平成15年9月9日から同月11日まで,o市内のマンションに滞在していたが,同日以降,D16株式会社に,同社の従業員とともに住み込みで勤務していた。

原告Aは,D16株式会社に勤務している間に,同社の社員旅行で大韓民国(以下「韓国」という。)を訪れたことがあった。

ト 原告Aは,平成15年12月19日,D16株式会社から退去し,同日以降,京都府x町所在の知人宅で生活していたが,平成16年1月7日,F警察署に出頭した。

ナ 原告Aは,平成16年3月12日,京都地方裁判所において,同原告が平成15年9月9日に証言した内容が虚偽であることを証言した。

ニ 被告B1は,平成16年9月28日,京都地方裁判所において,同被告が被告B2及びC6らと共謀の上,本件強盗致傷事件についての証拠隠滅や原告Aに対する本件上申書作成等の強要を行ったこと,及び,被告B1が被告B2,原告A,C6及びC10と共謀の上,本件偽証を行ったとして有罪判決を受け,被告B2も,上記と同様の有罪判決を受けている。

他方,原告Aは,本件偽証につき起訴猶予処分となった。

2  原告Aの損害賠償請求の可否(争点1)について

(1)  軟禁の有無(争点(1))について

ア 原告Aは,被告らが共謀の上,同原告を,平成15年6月8日から同年12月19日までの間,o市内等に軟禁した旨主張し,同主張に沿う同原告の供述(原告A本人)ないし陳述(甲11,33)がある。

そこで,この点につき検討するに,①上記1の認定事実からすれば,原告Aは,被告ら及びC7の指示により,同原告が警察官若しくは検察官と接触することを防ぐことを目的として,平成15年6月8日から同年12月19日までの間,o市内若しくはp市内等に滞在しているところ,同原告が自発的に警察官若しくは検察官との接触を避ける動機が見当たらないこと,②上記期間中,原告Aの滞在場所を用意したのは,ほとんどが被告B2ないしC7であり,かつ,被告B1においても,o市内に移動する際に,従前同原告が使用していた携帯電話を取り上げ,連絡用のプリペイド式携帯電話を別途与えるなどしていること,③1に判示したとおり,原告Aが,本件上申書を京都地方検察庁に送付し,あるいは,本件偽証を行うため京都地方裁判所に出廷するなどの行動をする際には,常に被告B2ないし被告らが行動を共にしていること,④原告Aは,上記期間中に,被告B2ないしC7の指示により,本件上申書の作成及び本件偽証を行ったと認められるところ,これらの行為は,平成15年2月20日ころ同原告が本件被害届を提出し,本件強盗致傷事件につきC1ら3名の処罰を希望する旨を表明していることや,同原告が,平成16年3月12日に京都地方裁判所において,同原告の平成15年9月9日の証言が虚偽であると証言したことと相容れないものであることからすれば,同原告の意思に反する行為であることは明らかであり,上記期間中にこのような同原告の意思に反する行為が行われること自体が,同原告が被告らの行為により畏怖,困惑していたと推認させることを総合すると,原告Aが,o市内において漫画喫茶等を訪れるなどの単独行動をとっていたことや,D16株式会社の社員旅行により韓国旅行に行ったことがあったことなどを考慮しても,同原告が,被告らの指示により,自己の意思に反して,被告らの監視の下,o市内若しくはp市内において生活を行うことを余儀なくされたと認められる。したがって,被告らは,共謀の上,平成15年6月8日から同年12月19日までの間,原告Aの意思に反して,同原告の行動の自由を制限したものと評価できるから,上記被告らの行為は,同原告に対する共同不法行為を構成する。

イ これに対し,被告らは,原告Aがo市内若しくはp市内に滞在することを承諾していた旨主張し,それに沿う被告らの供述(被告B1本人,被告B2本人)ないし陳述(乙16,丙1)がある。しかし,仮に,被告らの供述ないし陳述のとおり,原告Aが,被告らに対し,外形的にはo市内等に滞在することを承諾したことがあったとしても,上記判示内容に照らせば,同承諾は同原告の真意に基づくものではなく,そのことを被告らも当然知り得たと認められるから,被告らの上記主張は採用できない。

(2)  車両の無断売買の有無(争点(2))について

ア 原告Aは,被告らが共謀の上,同原告に無断で,本件車両を売却した旨主張し,それに沿う同原告の供述(原告A本人)及び陳述(甲11)がある。

そこで,上記1の認定事実を前提に検討するに,①本件車両の売却は,上記判示内容のとおり,原告Aが,被告らの指示により行動の自由を制限されていた時期に行われたものであり,当該状況下では,同原告が,被告らの指示に反することが極めて困難であったこと,②本件車両の売却代金は,同車両のローンの残金に充当されたものを除き,全額被告B2が管理していたこと(丙1)などに照らすと,原告Aの上記供述ないし陳述は採用できるから,同原告の上記主張は認められる。

イ これに対し,被告らは,原告Aが,原告会社の債務整理等の一環として本件車両の売却を被告B2に依頼し,同車両の売却に承諾を与えたものであり,かつ,売却代金を同車両のローンの残金の精算や同原告の生活費等に充当した旨主張し,それに沿う被告らの供述(被告B1本人,被告B2本人)ないし陳述(乙16,丙1)がある。しかし,上記判示内容に加え,①後記3(1)に判示するとおり,原告Aが,平成15年6月ないし7月当時,原告会社の債務整理等を真意から被告らに依頼する意思があったとは認め難いこと,②被告B2が管理していた本件車両の売却代金の残金が,原告Aの生活費等に使用された客観的証拠がないこと,③仮に,上記被告B2が管理していた金員が原告Aの生活費等に使用されたとしても,同生活費等は,同原告が,自己の意思に反してo市内等に滞在させられた際の費用であって,同原告が,真意から支払を行うことを承諾していたとは考え難いことなどからすれば,原告Aの上記供述ないし陳述に対比して,被告らの上記供述ないし陳述は採用できず,また,被告ら主張の売却代金の使途を損益相殺の対象とすべきものとも解されないことからすれば,被告らの上記主張には理由がない。

ウ さらに,被告B1は,同被告が,本件車両の売却につき何ら関与していない旨主張するが,同被告は,本件車両を売却する際,被告B2とともに,駐車中の同車両に乗って被告B1宅に移動するなどしていること(甲11,甲36)からすれば,被告B1が,本件車両の売却に関与していたことは明らかであるから,同被告の主張は採用できない。

(3)  偽証の強要の有無(争点(3))について

ア 原告Aは,被告らが共謀の上,同原告に強要して,本件偽証をさせたと主張し,それに沿う同原告の陳述(甲11)がある。

そこで,上記1の認定事実を前提に検討するに,①原告Aは,平成15年2月20日ころ,本件被害届を提出して,C1ら3名への処罰を希望する旨を表明し,その後,平成16年3月12日には,同原告の平成15年9月9日の証言が虚偽であることを証言したところ,これらの行為と本件偽証とは相容れない行為であり,かつ,同原告において,自発的に本件強盗致傷事件について偽証しなければならない理由が見当たらないことからすれば,本件偽証が同原告の意思に反する行為であることは明らかであること,②原告Aが本件偽証を行った時期は,被告らの監視下のもと,その行動の自由を制限されていた時期であり,同原告が,被告らの指示に反することは極めて困難と推認されることに加え,同原告は,C1ら3名,C10,被告B2及びC7の面前で本件偽証を行っていることなどに照らすと,原告Aの上記陳述は採用でき,同原告の上記主張は認められる。

イ これに対し,被告らは,被告らが偽証の教唆ではなく,偽証の共同正犯として有罪判決を受けていることや本件偽証時の証言内容ないし証言態度等を挙げて,原告Aが自らの意思で本件偽証を行った旨主張し,それに沿う被告らの供述(被告B1本人,被告B2本人)ないし陳述(乙16,丙1)がある。しかし,原告Aが本件偽証を強要されて行ったことと,被告らが偽証罪の共同正犯として有罪判決を受けたことは直ちに矛盾するものではないし,被告らが主張する本件偽証時の証言内容や証言態度等をもって,同原告が自らの意思で偽証を行ったと認めることもできないから,被告らの上記供述ないし陳述は採用できない。したがって,被告らの上記主張は採用できない。

3  原告会社の損害賠償請求の可否(争点2)について

(1)  預金の喝取の有無(争点(1))について

ア 原告会社は,被告らが共謀の上,原告Aに原告会社名義の口座から合計1070万円の金員を引き出させた上で,同金員を喝取したと主張し,それに沿う原告Aの供述(原告A本人)ないし陳述(甲11)がある。

(ア) そこで,1の認定事実を前提に検討するに,①1に判示した事実に加え,少なくとも平成15年6月2日ころまでは原告会社が通常の営業活動を行っていたと認められること(甲5,乙9,原告A本人)からすれば,原告Aが,平成15年6月26日当時,真意から原告会社の預金口座から1000万円以上の金額を引き出すなどして同原告の債務整理等をしようとする意思があったかは疑問であること,②原告Aは,平成15年6月26日当時,自己の意思に反して,被告らの監視の下,行動の自由を制限されていたことなどからすれば,同原告が,被告らの指示に反した行動をとることは極めて困難であったと推認されること,③原告Aが引き出した上記金員のうち,約500万円は被告B1に,その余はC5及び被告B2に交付されていることなどに照らすと,原告Aの上記供述ないし陳述のうち,被告らが共謀の上,同原告に原告会社名義の口座から金員を引き出させた上で,同金員を喝取したとする点については採用できる。したがって,被告らの上記行為は,原告会社に対する不法行為を構成する。

(イ) しかし,証拠(甲1)によれば,原告会社名義の口座から引き出された金員は,1056万7000円(その外に上記出金に要する手数料として735円が上記口座から引き落とされている。)にすぎず,その外に同原告名義の口座から金員が引き出されたことを裏付ける客観的証拠がないことに照らすと,喝取された金額に関する同原告の主張は,合計1056万7000円(及び手数料735円)の限度で採用でき,その余については採用できない。

イ これに対し,被告らは,原告Aが,原告会社の債務整理等の目的で,自らの意思で上記口座から金員を引き出した上で,これを被告ら及びC5に交付した旨主張し,それに沿う被告らの供述(被告B1本人,被告B2本人)ないし陳述(乙16,丙1)がある。しかし,仮に,被告らが主張するような用途で上記金員が使用されたとしても,これにより,原告Aを畏怖,困惑させて上記金員を引き出させて同金員を喝取したことによる不法行為の成立が左右されるものではないことに加え,①確かに,被告B1は受け取った約500万円をC4に渡している(被告B1本人,乙68)ものの,それは,原告Aの希望ではなく,被告B1自身の判断で行われたものであること(甲40,被告B1本人),②被告らは,被告B2及びC5が受け取った金員は,原告会社の経費等若しくは原告Aの生活費等に充てられたと主張するが,原告会社が自認する112万5000円を超える金額については,同原告の経費等若しくは原告Aの生活費等に充当されたと認めるに足りる証拠はないこと(被告B2ないしC5は,丙1号証又は乙15号証において,同被告ないしC5が受け取った金員を原告会社の経費ないし原告Aの生活費等に充てた旨陳述するが,同陳述を裏付ける客観的証拠はないから採用できない。),③仮に,同金員が原告会社の経費等若しくは原告Aの生活費等に充てられたとしても,原告会社の経費等に上記金員を充当した理由は,同原告の外交員等が給料の未払により騒ぎ出し,捜査機関による捜査が及ぶことを阻止する目的もあったこと(乙11)や,原告Aの生活費等は,同原告が,その意思に反してo市内等に滞在させられた際の費用であり,同原告が自発的に支払うとは考え難いことからすれば,上記経費等の支出について同原告が真意から承諾したとも考え難いし,別途不当利得返還請求ができるかどうかは別論として,損益相殺の対象とすべきものとも解されないことに照らすと,被告らの上記主張やこれに沿う供述ないし陳述はいずれも採用できない。

(2)  営業権侵害の有無(争点(2))について

ア 原告会社は,被告らが共謀の上,原告Aを軟禁し,その間,原告会社の営業を不能にしたと主張する。

そこで,この点について検討するに,原告会社は,原告Aが,平成12年4月27日に設立した有限会社である(甲11,弁論の全趣旨)ところ,証拠(甲9,39,原告A本人)及び弁論の全趣旨によれば,同原告は,平成14年4月1日から平成15年3月31日までの間,いわゆる同族会社であり,常勤役員は原告A1名であることや,同原告の事業は,いわゆる外交員に女性用下着を販売させ,同原告がこれを管理するという業態であり,かつ,同原告に所属する外交員を管理していたのは原告Aであり,同原告が原告会社の営業活動において必要不可欠な役割を果たしていたことが認められることを総合すると,実質的には,原告Aのみが原告会社の経営を行っていたものと認められる(これに対し,被告B1は,原告会社に共同出資者がいた旨陳述<乙16>するが,当該共同出資者の役割等を明らかにする客観的証拠がない以上,同陳述をもって,同原告に,原告Aと共に原告会社の運営を行っていた者がいたと認めることはできない。)

そして,これらの事実に加え,被告らが,原告Aを,平成15年6月8日から同年12月19日までの間,被告らの監視下に置き,その行動の自由を制限していたことからすれば,上記期間中,被告らの上記行為により原告会社の営業活動が阻害されたことは明らかであり,また,被告らは,原告Aの同業者であり,同原告が原告会社を設立する以前から,原告Aと知己を得ていたのであるから(甲34,乙16,被告B2本人),原告Aが原告会社の営業活動に必要不可欠な役割を果たしていたことを当然に認識していたと認められる。

よって,被告らは,原告Aの行動の自由を制限することにより,原告会社の営業活動を阻害し,かつ,この点につき故意があったと評価できるから,被告らの上記行為は,共同不法行為を構成する。

イ これに対し,被告らは,原告Aにおいて,電話等により原告会社の外交員等と連絡をとるなどして原告会社の営業活動を行うことができた旨主張し,それに沿う被告B1の供述がある。しかし,上記被告らの主張を前提にしても,上記に判示したとおり,原告Aの行動の自由が制限されたことにより,原告会社の営業活動が阻害されたことは否定できないから,被告らの上記主張は採用できない。

(3)  賃借権侵害等の有無(争点(3))について

ア 原告会社は,被告らが,原告Aを軟禁して,原告会社が賃料等を支払うことができなくなり,その結果,同原告の本件賃借権及び本件備品の権利を喪失させたと主張するので,以下,検討する。

イ 保証金返還請求権について

(ア) 原告会社の主張は,被告らが,同原告が本件賃貸人に対し有していた保証金返還請求権を侵害したというものであると解される。

a そこで,まず,被告らが原告Aの行動の自由を制限していたことと,原告会社が本件賃貸借契約を解約し,その際,同保証金返還請求権を失ったこととの間に相当因果関係があるか否かを検討するに,本件賃貸借契約は,原告会社がk市内で営業活動をするために締結したものである(甲5,原告A本人)ところ,上記(2)に判示したとおり,同原告は,実質的には原告Aのみが経営していたと認められることや,原告Aがその行動の自由を制限された結果,原告会社の営業活動が著しく阻害されたと認められることからすれば,被告らの行為により,同原告が本件物件における営業の中止を余儀なくされ,その結果,本件賃貸借契約を解約せざるを得なくなったものといわざるを得ない。また,証拠(甲5,甲6)及び弁論の全趣旨によれば,①本件賃貸借契約上,原告会社は契約終了日の6か月以前に本件賃貸借契約の解約を申し入れる必要があり,これを遵守しない場合,解約申入れ日から6か月間の賃料を支払う義務を負う旨規定されているところ,同原告が,被告らの行為により上記規定を遵守できず,違約金として,解約申入れ日から6か月分の賃料相当額の債務を負担したこと,及び,②原告会社の本件賃貸人に対する保証金返還請求権と,本件賃貸人の原告会社に対する上記中途解約による違約金を含めた債権とが相殺されたことが認められる。

b これに対し,被告らは,原告Aには共同出資者がいたから,本件賃貸借契約を解約する必要はなかった旨主張する。しかし,上記(2)に判示したとおり,被告らが主張する共同出資者が,原告会社の経営を原告Aと共に行っていたとは認められないことなどからすれば,上記被告らの主張は採用できない。

(イ) 以上のとおり,被告らの行為により,原告会社の保証金返還請求権は相殺により消滅することとなったところ,証拠(甲5)によれば,同請求権は,あくまで,本件賃貸借契約が終了した時に初めて発生するものであるが,本件賃貸借契約に定められた解約の告知をした上で解約すれば,少なくとも,保証金の70%相当額である66万6400円の返還を請求できると解されるから,同請求権は,具体的請求権ではないものの,不法行為に対して,法律上保護され得る利益であると解するのが相当であり,かつ,本件賃貸借契約の解約を被告B1又はC5が行った(乙16,弁論の全趣旨)ことなどからすれば,被告らが同請求権の消滅を認識していたと推認される。

したがって,被告らは,原告会社の上記保証金返還請求権を消滅させ,そのことにつき故意があったのであるから,上記被告らの行為は,共同不法行為を構成する。

(ウ) これに対し,被告らは,原告Aが本件賃貸借契約の解約を希望した旨主張するが,本件賃貸借契約は平成15年5月25日ころに締結されていたところ,そのわずか3か月後に同契約が解約されていることや,上記に判示した原告会社が本件賃貸借契約を締結した目的等に照らし,被告らの上記主張は採用できない。

ウ 本件備品について

(ア) 原告会社の主張は,被告らが,本件備品を処分することにより,同備品に対する同原告の所有権を侵害したことが不法行為であるとして,その代金相当額の損害賠償を請求するものと解される。

(イ) そこで,この点につき検討をすると,被告らは,本件備品のうち一部(ソファー)は原告会社の共同出資者が保管し,その余は株式会社D1が保管している旨主張する。

このうち,原告会社の共同出資者が本件備品のうち一部(ソファー)を保管しているとの被告らの主張に対し,原告会社は,これを争い,同旨の原告Aの陳述書(甲33)を提出するが,これのみでは,上記共同出資者が本件備品を保管していることを否定できないし,他に,被告らが上記ソファーを処分するなどして,原告会社の所有権を侵害したと認めるに足りる証拠はない。したがって,この点に関する原告会社の主張は採用できない。

また,被告らは,本件備品のうち,上記共同出資者が持ち帰ったとする備品以外の備品(テーブルと椅子)については,株式会社D1で預かっており,何時でも返還する旨原告らに申し出ていること(乙2,弁論の全趣旨)などからすれば,株式会社D1で預かっているとされる備品について,原告会社の所有権が喪失したとは認められない。したがって,原告会社がその引渡しを請求できるか否かは別論として,上記テーブルと椅子の代金相当額の損害賠償を被告らに請求することはできないものと解される。

(ウ) 以上から,本件備品に関する原告会社の主張は理由がない。

4  損害額(争点3)について

原告らは,被告らの上記各共同不法行為により,次のとおり損害等を被ったものと認められる。

(1)  原告Aについて

ア 軟禁による慰謝料 200万0000円

上記2(1)で判示したとおり,原告Aは,平成15年6月8日から同年12月19日までの間,被告らの監視下のもと,その行動の自由を制限されている。したがって,原告Aは,上記被告らの行為により,精神的苦痛を受けたと認められるところ,本件に表れた一切の事情を考慮すれば,上記精神的苦痛を金銭で慰謝するには200万円が相当である。

イ 本件車両売買による損害 129万5553円

(ア) 上記1(2)で判示したとおり,本件車両が400万円で第三者に売却されたことに鑑みれば,本件車両の本件売買当時の時価は,400万円を下らないと解するのが相当であり,このことは,被告B2が,本件車両の売却の際,買取業者から約200万円の金額を提示された旨陳述(丙1)していることを考慮しても覆るものではない。

これに対し,原告Aは,本件車両の時価が740万円であると主張し,それに沿う証拠(甲20)を提出するが,本件車両は同原告の購入時にメーターが交換されており,正確な走行距離が不明であること(乙11,丙1,原告A,被告B2)などからすれば,3万6000kmを走行した通常の程度の車両を前提とする上記証拠(甲20)をもって,本件車両の時価を認定することはできず,その外,原告Aの主張を裏付けるに足りる客観的証拠はない(甲3号証は,その記載を前提にしても,原告Aが,本件車両及びその付属品等を購入した価格とされる金額が記載されたものにすぎないから採用しない。)から,同原告の同主張は採用できない。

(イ) そして,原告Aは,上記損害から自動車ローンの残高相当額である270万4447円を損益相殺として控除することを自認しているから,結局,同原告が,本件車両の売買により被った損害は,129万5553円であると認められる。

なお,被告B2は,本件車両の売却代金から同車両の自動車税8万8000円を支払った旨陳述する(丙1)が,同被告の同陳述を裏付ける客観的証拠がないことに加え,C5は,被告B1が同自動車税を個人的に支出した旨陳述していること(乙15)や,原告Aが被告B2の上記陳述を否認していることに照らすと,同被告の上記陳述は採用できないから,上記自動車税8万8000円をもって,上記400万円から控除することはできない。

ウ 偽証強要による慰謝料 50万0000円

原告Aは,上記2(3)に判示したとおり,被告らから本件偽証を強要されたことにより,精神的苦痛を被っているものと認められるところ,同原告が,本件偽証により,単に自己の意思に反した行為をすることを強要されただけでなく,偽証罪により処罰される危険にさらされたことや,その外に,上記アのとおり同じく本件強盗致傷事件に起因する軟禁による慰謝料額が200万円と認められること,その他,本件に現れた一切の事情に照らすと,上記精神的苦痛を金銭で慰謝するには50万円が相当であると認められる。

エ 弁済(争いがない事実) △200万0000円

オ 合計 179万5553円

(2)  原告会社について

ア 預金喝取による損害 944万2735円

(ア) 上記3(1)に判示したとおり,被告らによる預金の喝取により,原告会社は,預金されていた金員1056万7000円及びこの出金に要した手数料735円に相当する合計1056万7735円の損害を被ったものと認められる。

(イ) そして,原告会社は,上記損害から112万5000円を損益相殺として控除する旨自認しているから,結局,同原告が預金の喝取により被った損害は,944万2735円であると認められる。

(ウ) なお,被告らは,喝取した金員を原告Aの生活費等に用いた旨主張しているが,仮にそれが事実であったとしても,3(1)イに判示したとおり,上記費用を損益相殺の対象とすることは相当でない。

イ 営業権侵害による損害 180万0000円

上記3(2)に判示したとおり,被告らは,原告Aの行動の自由を侵害することにより,原告会社の営業活動を阻害したと認められるため,その損害額について検討するに,原告会社は,同原告の平成14年4月1日から平成15年3月31日までの営業利益(1838万8780円)を根拠として,同原告に,上記営業利益の6か月相当分である919万4390円の損害が生じた旨主張する。

そこで,この点につき検討するに,確かに,原告会社の損益計算書上,平成14年4月1日から平成15年3月31日までの営業利益として,1838万8780円が計上されている(甲9)ものの,その期初において,同原告が繰越損失として合計295万6318円を計上していること(甲9,原告A本人)などからすれば,同原告が,平成15年4月1日以降も,平成14年4月1日から平成15年3月31日までの間と同様の営業利益を上げる蓋然性が高いとは認められない。また,本件においては,被告らの行為がなければ計上することのできた,平成15年4月以降の原告会社の営業利益の額を推認するに足りる客観的証拠がないことからすれば,同原告の損害を検討する際には,上記平成14年4月1日から平成15年3月31日の営業利益を基礎にしつつも,同営業利益から相当程度減額した金額をもって,損害と認める外ない。

そして,3(2)に判示したとおり,原告会社は,実質的には原告Aのみにより経営されており,同原告が平成15年6月8日から同年12月19日までの間,被告らの管理下で行動の自由を制限されたことにより,原告会社の営業活動が相当程度阻害されたものと認められる(これに対し,被告らは,平成15年6月8日から同年12月19日までの間,原告Aが電話等で原告会社に指示を出すことができた旨主張し,それに沿う被告B1の供述<被告B1本人>ないし陳述<乙16>があるが,これに反する原告Aの供述<原告A本人>があることや,同原告が,当時同原告が所持していた携帯電話を取り上げられるなどして外部との自由な連絡を制限されていたことなど,1(2)に判示した事実経過に鑑みると,同被告の上記供述は採用できない。)一方で,その間,原告会社が,原告Aに対する役員報酬等の支払を免れ得たことなど,本件に現れた原告会社の営業活動に関する一切の事情を考慮すると,同原告の営業活動が阻害されたことにより,同原告に生じた損害は上記営業利益のほぼ2割に相当する180万円と認めるのが相当である。

ウ 保証金返還請求権侵害による損害62万8900円

上記3(3)に判示したとおり,原告会社の保証金返還請求権が被告らにより侵害されたと認められるため,これにより,同原告に生じた損害額を検討する。まず,当該保証金の返還率は,第2の2(3)に判示したとおりであるところ,原告会社が本件賃貸借契約を締結した目的等を考慮したとしても,被告らの行為がなければ,本件賃貸借契約が同契約締結後3年を経過しても存続したと認めるに足りる証拠はないといわざるを得ないから,同原告が返還を受けることができた保証金の額については本件賃貸借契約締結後3年未満の解約に適用される,同原告が本件賃貸人に交付した保証金の70%相当額であることを前提に同保証金返還請求権の価値を判断する外ない。したがって,原告会社の本件賃貸人に対する当該保証金返還請求権の価値は,保証金の70%相当額の66万4600円であり,同原告は,被告らの行為により同66万4600円相当の損害を被ったと認めるのが相当である。

もっとも,本件賃貸人が行った相殺により,原告会社に利益が生じている場合には,この利益相当額は損益相殺の対象となり得る。そして,証拠(甲5,6)及び弁論の全趣旨によれば,原告会社は,本件賃貸人に対し,未払賃料3万5700円,途中解約の違約金として6か月間の賃料相当額71万4000円,及び原状回復に必要な費用相当額につき債務を負うこととなり,本件賃貸人は,これらの債権を自働債権として,上記保証金返還請求権と相殺を行ったと認められるところ,途中解約の違約金としての6か月間の賃料相当額及び原状回復に必要な費用相当額は,被告らの行為がなく,通常どおり本件賃貸借契約が終了していた場合にも発生したと認めるに足りる証拠がないことからすれば,同相殺により同原告に生じた利益は,未払賃料相当額3万5700円であると解するのが相当である。

よって,原告会社が,保証金返還請求権の侵害により被った損害は,66万4600円から3万5700円を控除した62万8900円と解するのが相当である。

エ 合計 1187万1635円

5  結語

以上の次第で,原告らの本件請求は,原告Aが,被告らに対し,連帯して179万5553円及びこれに対する最終不法行為日である平成15年12月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,原告会社が,被告らに対し,連帯して1187万1635円及びこれに対する最終不法行為日である平成15年12月19日から支払済みまで前同様年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,これを認容し,その余は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条本文,65条1項本文を,仮執行宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山下寬 裁判官 衣斐瑞穂 裁判官 脇村真治)

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