京都地方裁判所 平成16年(ワ)803号 判決 2004年11月29日
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原告
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同訴訟代理人弁護士
五十嵐潤
同
金髙望
京都市下京区七条御所ノ内中町60番地
被告
株式会社ロプロ
同代表者代表取締役
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同訴訟代理人弁護士
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主文
1 被告は,原告に対し,1563万9924円及びこれに対する平成15年3月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2事案の概要
1 本件は,被告より手形貸付を受けた原告が,利息制限法の規定に基づき引直し計算を行えば被告への過払いになっているとして,過払金の返還請求を行う事案である。
2 前提となる事実(証拠を掲記しない事実は当事者間に争いがないか弁論の全趣旨により認められる。)
(1) 原告は,●●●で●●●の屋号で電気店を経営していた。他方,被告は貸金業者であり,平成14年11月1日まで株式会社日栄との商号で業務を行っていたが,同日,現在の商号に変更した。
(2) 被告は,平成5年5月6日,原告との間で極度額を1000万円とする手形貸付取引契約(以下,「本件基本契約」という。)を締結した。
(3) 原告は,平成5年5月6日から平成15年3月12日の間,別紙1の「年月日」「借入金額」(ただし,振込手数料相当額の点は後述)「弁済額」欄記載のとおり被告からの借入及び被告への弁済を行った(以下,「本件各貸付」という。)。なお,本件各貸付において原告が現実に受領した金額は上記「借入金額」のとおりであることは当事者間に争いがないが,この金額は,別紙2記載の被告主張の貸付額より数百円程度(具体的には618円から1110円までの間の金額)少なくなっており,この差額は貸付金を銀行振込した際の振込手数料相当額である。
(4) 原告は,平成15年7月22日に●●●地方裁判所●●●支部に自己破産を申し立て,同年8月22日に破産宣告を受けるとともに,同時廃止の決定を受けた。本件で原告が請求する過払金(以下,「本件過払金」という。)の返還請求権は,上記破産手続においてその換価処分がされずに,原告の自由財産となった。
3 原告の主張
(1) 本件過払金の金額は,最後の借入・弁済があった平成15年3月12日時点で別紙1のとおり1563万9924円であり,被告は原告の損失によって同額の利得を得た。
ア 利息制限法の制限を超過する支払利息の元本充当方法(争点1)
同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付が繰り返される金銭消費貸借取引において,借主がそのうちの一つの借入金債務につき利息制限法の制限を超える利息を任意に支払い,この制限超過部分を元本に充当してもなお過払金が存在する場合,この過払金は,当事者間に充当に関する特約が存在するなど特段の事情のない限り,弁済当時存在する他の借入金債務に充当される。
また,弁済充当の計算は,以下の方法により行うべきである。
(ア) 弁済充当の順序及び適用利率について(争点1①)
基本契約によって反復継続して借入をする借主には,充当先を区別せず,単純一体的な充当を望む意思の存在が推定される。したがって,借主が弁済充当に関する具体的な指定を行うか法定充当が適用される旨主張しない限りは,実際に利用することが可能な貸付額とその利用期間とを基礎に,すべての貸付を一体ととらえて弁済充当計算を行うべきである。本件においても原告は上記単純一体的な充当を望む意思を有している。
また,本件各貸付は,同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付とその弁済が繰り返される金銭消費貸借取引であり,全体として一体の貸付ととらえるべきであるから,個別には100万円未満の貸付がなされた場合であっても,総債務額が100万円以上である場合,利息制限法による引直し計算を行う際の制限利率は15パーセントとされるべきである。
(イ) 過払発生後の再貸付の差引計算について(争点1②)
①利息制限法の潜脱を防ぐ必要があること,②本件各貸付が一連の取引として行われていること,③借主は通常,借入総額の減少を望み,複数の権利関係が発生するような事態が生じることは望まない意思を有していること,④貸主は,実際に利用可能な貸付額・期間を基礎とする制限利息のみを得ることができると考えるべきであることに照らし,再貸付の時点で過払金と差引計算がされるべきである。
(ウ) 貸付当日の利息について(争点1③)
弁済日当日に貸付が行われた場合に当日の利息を算入すると,いわゆる両端取りが発生して実質年率が利息制限法上の制限利率を超過する。したがって,このような場合,貸付日当日の利息を算入すべきではない。
イ 保証料等について(争点2)
別紙1記載の「弁済額」の一部には,原告が訴外日本信用保証株式会社(以下,「日本信用保証」という。)に対して保証料名目で支払った金員が含まれているが,日本信用保証の業務内容及び実態に照らせば,被告は利息制限法を潜脱し,100パーセント子会社である日本信用保証に保証料等を取得させ,最終的には同社から受ける株式への配当等を通じて保証料等を自らに還流させる目的で,借主をして日本信用保証に対する保証委託をさせていたと評価できる。したがって,日本信用保証が受領する保証料等は利息制限法3条所定のみなし利息に該当する。
ウ 貸付金の振込手数料について(争点3)
消費貸借契約は要物契約であり,実際に原告が受領した額についてのみ消費貸借契約が成立する。仮に,本件各貸付が諾成的消費貸借契約であったとしても,被告は「貸す債務」を負担するところ,かかる債務は持参債務であり,かつ,弁済の費用は債務者である借主が負担すべきものであるから,貸付金の振込手数料は被告の負担すべき支出である。また,振込手数料が契約費用であるともいえない。したがって,実際に原告が受領した金額を貸付金額として利息制限法による引直し計算を行うべきである。
(2) 信義則違反について(争点4)
原告が本件過払金を故意に隠匿した事実はない。破産手続中は被告の協力が得られなかったため,本件過払金の金額を明らかにすることができず,破産手続終了後に初めて取引履歴が明らかになり,本訴提起に至ったものである。また,本件過払金債権が破産財団に組み込まれていたとしても被告の本件過払金の返還義務は消滅しないから,被告において原告の行為を信頼した結果,被告が何らかの不利益を受けるという関係には立たず,信義則違反を問題とする前提を欠く。さらに,原告が免責を受けたこと自体によっては,本件過払金の返還義務は何ら影響を受けないし,破産免責後も原告の債務は自然債務になるに過ぎず,破産債権者に改めて弁済する余地もある。したがって,本件過払金の返還請求が,破産債権者に対する関係においても信義則に反するとはいえない。
4 被告の主張
(1)ア 利息制限法の制限を超過する支払利息の元本充当方法(争点1)
本件各貸付は,1回ごとに別個独立に計算し,手形の決済によって終了するものである。したがって,過払金も,各貸付ごとにその弁済日の時点で発生し,各貸付ごとに発生した過払金は,不当利得返還請求権として単純に累積されていくと解するべきである。
仮に,ある貸付について発生した過払金が他の貸付に充当されるとしても,その計算方法は以下の(ア)ないし(ウ)に従うべきであり,別紙2のとおり過払金は1157万7812円である。
なお,利息天引が行われた貸付について弁済充当計算をする場合は戻し利息について考慮すべきであるが,別紙2においてはこの点は考慮せずに弁済充当計算を行っている。また,弁済日と同日に新たな貸付が行われた場合は,別紙2においては弁済が先になされたものとして扱っている。
(ア) 弁済充当の順序及び適用利率について(争点1①)
各弁済は,まず,当該貸付の利息,元本について充当され,次に,超過弁済が発生した場合,その時点で存在する別の貸付利息に充当され,さらに超過弁済額が利息の総額を上回るときは,借主にとって充当することが最も有利な貸付の元本,例えば,元本が100万円以上の貸付と100万円未満の貸付では,利息制限法所定の制限利率が高い後者に充当される。
また,利息制限法による引直し計算に適用される制限利率については,個々の貸付の現実交付額を基準に制限利率を個別に適用すべきである。
(イ) 過払発生後の再貸付の差引計算について(争点1②)
過払金が発生した後の貸付と過払金との関係は,弁済充当の問題ではなく,不当利得返還請求権をもってする相殺の問題と考えるべきである。したがって,相殺の意思表示がない限り,新たな貸付と相殺することはできない。
(ウ) 貸付日当日の利息について(争点1③)
弁済日と同日に新たな貸付が行われる場合には,いったん貸付が発生し,同日に過払金への弁済充当が行われるため,貸付日当日の利息が発生する。
イ 保証料等について(争点2)
日本信用保証は,被告とは別個独立に営業を行っている。また,被告が貸付を行った際に預かった保証料や事務手数料は,実際に被告から日本信用保証にすべて交付されており,日本信用保証の収入となっている。したがって,日本信用保証の取得した保証料等は,利息制限法所定のみなし利息に該当しない。
ウ 貸付金の振込手数料について(争点3)
振込手数料は契約費用であるから,利息制限法所定のみなし利息には該当せず,振込手数料を含んだ金額を貸付元本とすべきである。
(2) 信義則違反について(争点4)
原告は,本件過払金について破産財団としての届出を故意に怠り,同時廃止決定を受けた後に本訴を提起したものであり,この行為は破産裁判所及び債権者を欺き,本来破産債権者に配当されるべき財産を隠匿するものである。また,原告は,破産宣告当時,1億7126万9235円の債務を負担していたのであるから,本件過払金は全額債権者への配当に充てられるべき金銭であり,原告が取得すべき金銭ではない。したがって,仮に原告が,被告に対し,本件過払金の返還請求権を有するとしても,破産宣告,同時廃止決定が確定した現時点での本件請求は信義則に反する。
第3当裁判所の判断
1 利息制限法の制限を超過する支払利息の元本充当方法(争点1)
(1) 同一の貸主と借主間で基本契約に基づき継続的に貸付が繰り返される金銭消費貸借取引においては,借主は借入総額の減少を望み,複数の権利義務関係が発生するような事態が生ずることは望まないのが通常であると考えられる。したがって,借主がそのうちの一つの借入金債務につき利息制限法所定の制限利息を任意に支払い,この制限超過部分を元本に充当してもなお過払金が存する場合,この過払金は,当事者間に充当に関する特約が存在するなど特段の事情のない限り,弁済当時存在する他の借入金債務に充当されると解するのが相当である。そして,本件においては,本件全証拠をもってしても,上記特段の事情は認められないから,各弁済によって発生した過払金は弁済当時存在する他の借入金債務に充当されると解するべきである。
(2) 弁済充当の順序及び適用利率について(争点1①)
証拠(甲3,甲37)及び弁論の全趣旨によれば,本件では平成5年5月6日に始まる初回貸付から貸付と弁済が順次繰り返されており,かつ弁済当日に弁済額にほぼ相当する新たな貸付が行われている場合が大部分であること,上記一連の取引は本件基本契約を基礎にしていることがそれぞれ認められ,これらの事実からすれば,本件各貸付は全体として一連の取引であって,形式的には新たな貸付であっても実質的には従前の債務の借換えにすぎないものと認められる。これに加え,(1)において判示したとおり,同一の貸主と借主間で基本契約に基づき継続的に貸付が繰り返される金銭消費貸借取引においては,借主は借入総額の減少を望み,複数の権利義務関係が発生するような事態が生ずることは望まないのが通常であることをも考慮すれば,特段の事情がない限り,このような貸付に関する利息制限法による引直し計算においては,実際に利用することが可能な貸付額とその利用期間とを基礎にすべての貸付を一体ととらえるべきである。そして,本件において上記特段の事情は認められないから,すべての貸付を一体ととらえた上で利息制限法上の引直し計算がされるべきである。
また,利息制限法による引直し計算に適用される制限利率については,上記に判示した本件各貸付の実質に照らし,各貸付における交付額を基準に個別に制限利率を適用することは適当ではなく,各貸付日における残元本額と当該貸付における実際の交付額(同一日に複数の貸付がある場合は交付額の合計額)の合計額を基準として利息制限法所定の制限利率を定めるのが相当である。
(3) 過払発生後の再貸付の差引計算について(争点1②)
(2)に判示した本件各貸付の実質や,同一の貸主と借主間で基本契約に基づき継続的に貸付が繰り返される金銭消費貸借取引においては,借主は借入総額の減少を望み,複数の権利義務関係が発生するような事態が生ずることは望まないのが通常であることに照らし,新たな貸付金が借主に交付された場合,この貸付金のうち,過払額に達するまでの金員は,過払金の返還として交付されたものと解するのが当事者の合理的な意思解釈として相当である。したがって,再貸付の時点で過払金と差引計算を行うべきである。
(4) 貸付当日の利息について(争点1③)
(2)に判示したとおり,本件各貸付は全体として一連の取引であって,形式的には新たな貸付であっても実質的には従前の債務の借換えないし借増しにすぎないことに照らせば,仮に弁済日当日に貸付が行われた場合においても,利息制限法による引直し計算との関係では貸付日当日の利息を算入しないのが相当である。
(5) 以上のとおりであるから,利息制限法の引直し計算については,別紙1で用いられた計算方法を採用すべきであり,被告の主張する計算方法はいずれも採用できない。なお,利息制限法の利率を超える過払金を利息等が天引された他の貸付に充当する場合,当該過払額が充当される貸付については,既に充当日以降の利息等が天引されているから,充当日以降の天引分を割り戻し,かつ,上記過払額の充当により減額された手取額であるべき元本を基礎として,この元本額に対応する利息制限法1条1項所定の制限利率を用いてその後の利息が計算すべきこととなる。しかし,このような場合の弁済充当計算の結果は,実際に交付された額を元本として利息制限法1条1項所定の制限利率を用いて利息後払による計算をした場合と異ならない。したがって,本件においては,便宜上,利息後払による計算方法を採用することとする。
2 保証料等について(争点2)
(1) 証拠(甲2,甲5,甲21,甲22,甲25,甲29,甲31,甲32)及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる。
ア 日本信用保証は,被告の貸付金取引の借主に対する信用保証を行うために,被告が100パーセント出資して平成3年5月に設立した子会社である。
イ 日本信用保証は,被告の貸付に限って保証しており,被告から手形貸付を受ける場合,日本信用保証の保証を付けることが条件とされている。
ウ 日本信用保証の受ける保証料等の割合は銀行等の系列信用保証会社の受ける保証料等の割合に比べて高く,日本信用保証の設立後,被告は貸付利率の引き下げを行ったが,日本信用保証の受ける保証料等の割合と被告の受ける利息等の割合との合計は,日本信用保証を設立する以前に被告が受けていた利息等の割合とほぼ同程度であった。
エ 日本信用保証は,被告の借主との間の保証委託契約の締結業務及び保証料徴収業務を被告に委託しており,信用調査業務についても被告に任せ,保証の可否の決定業務をも事実上被告に委託していた。また,日本信用保証による代位弁済後の債権回収業務も被告が相当程度代行していた。
(2) (1)に判示した日本信用保証の設立経緯,保証料等の割合,業務の内容及び実体並びにその組織の体制等によれば,被告は,利息制限法を潜脱し,100パーセント子会社である日本信用保証に保証料等を取得させ,最終的には同社から受ける株式への配当等を通じて保証料等を自らに還流させる目的で,借主をして日本信用保証に対する保証委託をさせていたということができるから,日本信用保証の受ける保証料等は,利息制限法3条所定のみなし利息に該当するというべきであり,本件各貸付においても,保証料等を利息とみなして利息制限法による引直し計算を行うべきである。上記判断に反する被告の主張は採用できない。
3 貸付金の振込手数料について(争点3)
被告は,貸付金の振込手数料が契約費用に該当するから,利息制限法3条にいうみなし利息に該当しないとして,振込手数料相当額を含んだ額をもって貸付元本とすべきである旨主張する。しかし,利息制限法3条にいう「契約の締結の費用」とは契約締結に直接必要な費用であって契約当事者が等しく利益を受け,本来両当事者に負担させるのを相当とするような費用を指すと解すべきところ,①消費貸借契約は原則として要物契約であり,実際に原告が受領した額についてのみ消費貸借契約が成立するのが原則であること,②仮に本件各貸付が諾成的消費貸借契約であると解しても,貸付金の交付は持参債務となること,③民法上,弁済の費用が債務者である借主負担とされていることとの均衡を考慮する必要があることに照らし,振込手数料は本来的には債権者である貸主負担とすべき費用と解するべきであるから,振込手数料相当額は,上記「契約の締結の費用」とはいえないというべきである。そして,たとえ振込手数料相当額が貸付金の振込のため金融機関に支払われる金銭であったとしても,借主との関係ではこれを控除して貸付金を交付している以上,振込手数料相当額は利息制限法にいう「債権者の受ける元本以外の金銭」であり,みなし利息に該当するといわざるを得ない。したがって,利息制限法の引直し計算においては,振込手数料控除後の,原告が現実に受領した金額(別紙1の「借入金額」欄記載の金額)を元本とすべきである。
4 信義則違反について(争点4)
被告は,原告が破産免責を得た後に本件過払金の返還請求をするのは信義則に反すると主張する。しかしながら,原告が免責を受けたこと自体によっては,本件過払金の返還義務は何ら影響を受けず,被告において原告の行為を信頼した結果,被告が何らかの具体的な不利益を受けているとはいえない。また,破産債権は免責後もいわゆる自然債務になるに過ぎず,原告において自らの意思で破産債権者らに対して改めて弁済する余地もある。さらに,本件において,原告が,被告に対する本件過払金及びその詳細について認識した上で,ことさらにこれを隠匿して免責を得た,といった事実は認められない。したがって,被告に対する本件過払金の返還請求が被告や他の破産債権者との関係で信義則に反するとはいえず,被告の主張は理由がない。
5 以上のとおりであるから,本件においては,別紙1記載のとおり,最後の借入及び弁済があった平成15年3月12日時点で1563万9924円の過払が発生し,被告は原告の損失によって同額の利得を得ているものと認められる。なお,被告は,原告から利息制限法所定の制限利息を超過した金員を受領していることを認識していたものと認められるから,被告は遅くとも平成15年3月12日当時,このような金員の受領につき法律上の原因のないことを認識していたものと認められる。
第4結論
以上の次第で,原告の本訴請求は理由があるからこれを認容することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を,仮執行の宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。
(裁判官 衣斐瑞穂)
<以下省略>