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京都地方裁判所 平成16年(行ウ)13号 判決 2007年3月22日

主文

1  原告らの請求のうち,Aを相手方とする訴えを却下する。

2  原告らのその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は,原告らの負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  被告京都市長は,Aに対し,3123万1690円及びうち1455万5764円に対しては平成14年12月20日から,うち1667万5926円に対しては平成15年11月18日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。

2  被告京都市長は,Bに対し,1210万8600円及びこれに対する平成14年12月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。

3  被告京都市長は,Cに対し,1669万9444円及びうち204万7744円に対しては平成14年12月20日から,うち1465万1700円に対しては平成15年11月18日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。

4  被告京都市長は,Dに対し,202万4226円及びこれに対する平成15年11月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。

第2事案の概要

1  本件は,京都市の住民である原告らが,京都市教育委員会教育長が行った教育実践功績表彰に伴う公金支出が違法であると主張して,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,京都市長に対し,当該公金支出に関与した当該職員らに対する損害賠償請求を求めた住民訴訟である。

2  前提事実(争いがないか,証拠上明白な事実)

(1)  当事者

ア 原告らは,京都市の住民である。

イ 被告は,京都市長である。

ウ 原告らが被告に対し損害賠償請求を求める相手方は,次の者である。

(ア) A

平成14年度及び平成15年度の京都市教育委員会教育長

(イ) B

平成14度の京都市教育委員会事務局総務部長

(ウ) C

平成14年度の京都市教育委員会事務局総務部総務課長,平成15年度の同総務部長

(エ) D

平成15年度の京都市教育委員会事務局総務部総務課長

(2)  公金支出

ア 京都市教育委員会(以下「市教委」ともいう。)のA教育長は,平成14年12月20日,第1回教育実践功績表彰(以下「第1回表彰」という。)を行い,京都市立の小学校,中学校,高等学校及び養護学校並びに幼稚園(以下「市立学校等」という。)の教員約5千数百名のうち,546名を表彰した(甲6)。

その際,式典を行い,被表彰者に対し,2万円の図書カード(オーダーメイドで京都市の景観等の版下作成を行い,京都市の紋章部分に特色(金色)を使用したもの。以下「本件図書カード」という。)や,カード立て,表彰状,額ぶち等を授与した。また,記念写真を撮影して被表彰者に配布するなどした。

これら,第1回表彰に関連して,別表記載のとおり,合計1455万5764円が支出された。

イ 市教委のA教育長は,平成15年11月18日,第2回教育実践功績表彰(以下「第2回表彰」といい,「第1回表彰」と「第2回表彰」とを併せて「本件表彰」という。)を行い,市立学校等の教員約5千数百名のうち,629名を表彰した(甲8)。この629名の中に,第1回表彰を受けた者はいなかった。

その際,第1回表彰と同様に,式典を行い,被表彰者に対し,本件図書カード,カード立て,表彰状,額ぶち等を授与した。また,記念写真を撮影して被表彰者に配布するなどした。

これら,第2回表彰に関連して,別表記載のとおり,合計1667万5926円が支出された(以下,第1回表彰に係る公金支出と併せて「本件公金支出」という。)。

(3)  支出決定,支出命令等

ア 教育委員会の所掌に係る事項に関する予算を執行することは地方公共団体の長の職務権限である(地方教育行政の組織及び運営に関する法律(以下「地教行法」という。)24条5号)。

地方公共団体の長の権限に属する事務のうち教育委員会に関するものについて,京都市においては,地方自治法180条の2及びこれに基づく「教育委員会との間の事務の共同処理について」により,教育委員会の補助職員らに補助執行させ,一定範囲の事項については代決させることとされており(乙2),京都市教育長等専決規程3条及び同規程別表により,専決者及び専決事項が定められている(平成14年6月1日施行分につき乙3,平成15年6月1日施行分につき乙4。以下「本件専決規程」という。)。

イ Bは,平成14年度の京都市教育委員会事務局総務部長として,本件専決規程により,第1回表彰の際の本件図書カード作成(版下作成を除く。)に関する調達決定及び経費支出決定の権限を有していたところ(乙3),平成14年12月6日,本件図書カード作成(版下作成を除く。)に関する公金(1210万8600円)支出の根拠となる調達決定及び経費支出決定をした(甲9の1)。

ウ Cは,平成14年度の京都市教育委員会事務局総務部総務課長として,本件専決規程により,第1回表彰における本件図書カード作成(版下作成を除く。)及び記念写真現像プリント以外の支出に関するもののうち,1件10万円以下の調達契約及び支出決定並びに1件200万円以下の調達決定及びこれに伴う支出決定並びに支出命令の権限を有していたところ(乙3),平成14年12月2日から同月18日にかけて,本件図書カード作成(版下作成を除く。)及び記念写真現像プリント以外の支出に関する公金(合計204万7744円)支出の根拠となる調達契約及び経費支出決定並びに調達決定及び経費支出決定をなし,支出命令をした(甲9の2ないし12,甲9の14ないし17)。

また,同人は,平成15年度の京都市教育委員会事務局総務部長として,本件専決規程により,第2回表彰の際の本件図書カード作成(版下作成を含む。)及び表彰式典経費に関する調達決定及び経費の支出決定の権限を有していたところ(乙4),平成15年10月21日及び同年11月14日頃,本件図書カード作成(版下作成を含む。)及び表彰式典経費に関する公金(合計1465万1700円)支出の根拠となる調達決定及び経費支出決定をした(甲10の1,甲10の12)。

エ Dは,平成15年度の京都市教育委員会事務局総務部総務課長として,本件専決規程により,第2回表彰における本件図書カード作成(版下作成を含む。)及び表彰式典経費以外の支出に関するもののうち,1件10万円以下の調達契約及び支出決定並びに1件200万円以下の調達決定及びこれに伴う支出決定並びに支出命令の権限を有していたところ(乙4),平成15年10月21日から同年11月17日にかけて,本件図書カード作成(版下作成を含む。)及び表彰式典経費以外の支出に関する公金(合計202万4226円)支出の根拠となる調達契約及び支出決定並びに調達決定及び支出決定並びに支出命令をした(甲10の2ないし11)。

オ 前記イからエまでの支出のうち,本件図書カード,カード立て,額ぶち,第2回表彰の際の写真撮影に係る支出については,入札に付した上で契約が締結された(甲9の1,2,3,5,甲10の1,2,4,9)。

(4)  監査請求

原告らは,平成16年1月16日,本件公金支出につき,京都市監査委員に対し,地方自治法242条1項に基づく監査請求(以下「本件監査請求」という。)を行ったところ,同年3月10日,京都市監査委員は,原告らに対し,本件監査請求を棄却する旨の通知を行った(甲1の1ないし3,甲2)。

3  本案前の争点

(1)  第1回表彰に係る本件訴えは,適法な監査請求を経たか。

ア 被告の主張

第1回表彰に係る本件監査請求は,支出決定が行われた日から1年以上経過して行われた。

また,平成14年12月21日付けの京都新聞において,「校長・園長の内申に基づき,市民や保護者らを含めた選考委員会で選出された計五百四十六人が表彰を受けた。」と報道がなされており,これにより,原告らは,第1回表彰に係る公金支出につき容易に知ることができた。

そうであるから,本件監査請求には地方自治法242条2項に定める正当な理由がなく,第1回表彰に要した経費を対象とした訴えについて,原告らの請求は却下されるべきである。

イ 原告らの主張

本件監査請求は,第1回表彰についての具体的な内容が記載された公文書が公開された平成15年12月19日から相当な期間内に行われたものであり,正当な理由があるというべきである。

平成14年12月21日付けの京都新聞には,当該表彰に関連して,具体的にいかなる支出がなされたかについては全く報道されてはおらず,財務会計行為の存在及び内容は明らかになっていない。この程度の報道では,住民が相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて監査請求をするに足りる程度に財務会計行為の存在及び内容を知ることができたということはできない。

(2)  Aは,本件訴訟の相手方といえるか。

ア 被告の主張

京都市教育委員会の教育長であったAは,財務会計行為について権限を有しないから,地方自治法242条の2第1項4号にいう当該職員には該当しない。したがって,Aは損害賠償請求の相手方となり得ず,Aを相手方とする請求については却下されるべきである。

イ 原告らの主張

本件表彰につき,Aは,その要綱の制定,市立学校等の学校長及び園長(以下「学校長等」という。)に対する通知及び内申の依頼について,最終的な決定を行い,表彰の実施,来賓者・被表彰者に対する案内等について,多額の経費支出を伴うことを承知しながら最終的な決定を行った。

また,本件専決規程によると,「1件200万円以下の集会,行事,催物その他これに類するものの開催に伴う経費の支出決定に関すること」が教育長の専決事項として定められているところ,本件表彰は,上記専決事項にいう「集会,行事,催物その他これに類するもの」に該当し,それに伴う経費については,教育長に支出決定を行う権限がある。

よって,Aは,地方自治法242条の2第1項4号にいう当該職員に該当する。

4  本案の争点

(1)  本件公金支出は地方公務員法25条に違反するか。

ア 原告らの主張

本件表彰に関連して,被表彰者に対し,金券である本件図書カードやその他の記念品が配布されたが,社会通念上儀礼の範囲にとどまるものではなく,条例に基づかない給与の支給である。したがって,本件公金支出は地方公務員法25条に違反する。

イ 被告の主張

本件表彰において,本件図書カードその他の記念品を配布したのは,表彰の記念品としての性質であって,勤務の対価としての報酬として評価されるような性質のものではない。本件図書カードについては,自己研修にも役立てるように授与したものであり,その金額も,社会通念を逸脱した高額なものではなく,勤務の対価としての報酬と評価されるようなものではない。したがって,本件公金支出は地方公務員法25条に違反しない。

(2)  本件公金支出は地方自治法210条,地方財政法3条1項に違反するか。

ア 原告らの主張

(ア) 第1回表彰に係る支出について,当初予算への計上がなされておらず,総計予算主義を定めた地方自治法210条,地方財政法3条1項に違反する。

(イ) 通常,新規事業が行われる場合には,新規事業に関する報告書に掲載された上で議会等に説明されるが,第1回表彰について,新規事業として報告書への掲載も議会等での説明もなされなかった。

(ウ) 本件表彰は,「教員研修」や「学校指導」の実質がないから,「教員研修及び学校指導事業費」から本件公金支出がなされたならば,それはまさに予算の流用であり,「歳出にあっては,その目的に従ってこれを款項に区分しなければならない。」と定めた地方自治法216条及び「歳出予算の経費の金額は,各款の間又は各項の間において相互にこれを流用することができない。」と定めた地方自治法220条2項にも違反する。

イ 被告の主張

(ア) 地方自治法210条は,一会計年度における一切の収入及び支出は歳入歳出予算に編入することとし,同法211条1項は,普通地方公共団体の長は,毎年度,会計年度予算を調製し,年度開始前に,議会の議決を経なければならないとし,同条2項は,予算を議会に提出するときは,政令で定める「予算に関する説明書」をあわせて提出することとしている。

そして,予算は,同法216条,同法施行規則14条,15条及び15条の2の規程に基づき,款,項,目,節に区分し,款,項についてはは議会の議決を経る必要があるが,目,節については議決を経る必要はない。

本件表彰に係る費用は,「款(10教育費)」,「項(1教育総務費)」,「項(1教育総務費)」,「目(2事務局費)」「目(2事務局費)」,「節(8報償費)」,「節(11需用費)」,「節(12役務費)」,「節(13委託料)」に経費の性質に応じて計上して議会の議決を受け,この款及び項から支出しており,何ら流用はない。

したがって,本件公金支出は地方自治法210条,216条,220条2項,地方財政法3条1項に違反するものではない。

(イ) 原告らは,本件表彰が新規事業として議会等への説明がなされていない旨主張する。この点,京都市においては,議会において,局別の主要施策とこれに対する予算額を示し,その中の新規事業についてはその旨の表示をしているが,すべての施策につきそのような扱いをするものではなく,いかなる施策をどのように扱うかについては行政の裁量事項であるから,原告らの主張は失当である。

(ウ) 京都市においては,「予算に関する説明書」の説明欄には,款項目節の区分とは違った観点から,目に掲げた予算額についての事業別の内訳が記載されているが,法令上定められた予算の区分ではなく,予算の流用の問題は生じない。

なお,本件表彰は,「教員研修及び学校指導事業費」の事業項目に含まれているが,目的に照らして適当な区分である。

(3)  本件公金支出は地方自治法2条14項,地方財政法4条に違反するか。

ア 原告らの主張

①本件表彰の趣旨・目的,態様など,本件表彰に関すること,②本件表彰により配布されている記念品が,到底目的を達し得ないものであること,③スーパーティーチャー制度や教員評価システムなど,教員を評価する他の制度を並行して創設し,その制度によって実質的な教員の評価を行っていること,④本件表彰の基準が不明確かつ非合理的であることなどからすると,本件表彰は,実質的には表彰とはいえない制度であり,かかる制度に対する支出行為は費用対効果を失しており,地方自治法2条14項,地方財政法4条に違反する。

イ 被告の主張

地方自治法2条14項及び地方財政法4条1項は,財政運営の効率化すなわち経費効率の向上を図るべきことを規定したものであるが,これらの規定は,地方公共団体がその事務を処理するにあたって準拠すべき指針を一般的,抽象的に示したものにすぎず,これらの規定が公金の支出を具体的に規制しているものではない。

①本件表彰の趣旨・目的は,「優れた教育活動の実践によって,教育活動の充実や広く京都市教育の振興発展への貢献が認められる者の功績を称え表彰し,教員のさらなる意欲喚起及び人材の育成を図り,活力ある学校教育の実現を図る。」ところにあり,何らの違法性もない。②本件表彰のために支出した経費は決して多額なものではなく,無駄な経費支出もない。③本件表彰制度は,スーパーティーチャー制度や教員評価システムなど,教員を評価する他の制度とは目的・要件が相違しているのみならず,仮に他の制度が存しているとしても,そのことゆえに本件表彰が違法となるわけではない。④本件表彰の基準は,他の地方自治体の表彰基準と比べても,決して不明確でも非合理的でもない。

(4)  本件公金支出は憲法23条,26条,教育基本法10条に違反するか。

ア 原告らの主張

本件表彰は,教育長や教育委員会が教員の教育活動や教育実践について評価し,表彰し,指導する制度で,地方自治体が教育内容に過度に介入するものである。したがって,教育を受ける権利や教師の教育の自由を侵害するものであり,憲法23条,26条及び教育基本法10条に違反する。

そして,本件表彰が行われれば当然に記念品が授与され,それに関する費用が支出されるのだから,本件表彰は本件公金支出について直接の原因をなすものであり,本件表彰が違法であればそれに伴う費用の支出も違法となるというべきであって,本件公金支出は違法である。

イ 被告の主張

本件表彰は,内申や再評価にあたって,教育内容に対する評価はなされておらず,教員の教育活動に対して何らの法的拘束力も有するものではないから,教育内容に干渉するものでも,教師による創造的かつ弾力的な教育を侵害するものでも,教師に対し一方的な一定の理論ないし観念を生徒に教え込むことを強制するものでもない。よって,本件表彰は,憲法23条,26条,教育基本法10条に違反しない。

また,違法な制度が経費支出を伴うものであっても,制度自体が財務会計上の行為でなければそれに伴う経費支出は違法とならないというべきであるから,本件表彰の違法事由によって,本件公金支出が直ちに違法となることはない。

(5)  本件表彰制度は教育長の権限外の行為であり,地教行法26条に違反するか。

ア 原告らの主張

地教行法26条は,教育委員会から教育長への事務委任を定めており,これを受けて京都市教育委員会通則13条(以下「本件通則」という。)で事務委任に関する事項が定められているが,同条6号において,表彰に関することは明確に除外されているのであり,教育長が教育に関して表彰行為を行うことは明らかにその権限外の行為であり,違法な行為といわなければならない。

そして,本件表彰が違法であれば,本件公金支出が違法となることは前述のとおりである。

イ 被告の主張

地教行法43条,45条及び58条の規定により,京都市教育委員会は教職員の任免,服務監督,研修等の包括的権限を有している。本件表彰は,被表彰者の実績を評価し,それを顕彰することにより,被表彰者の意欲のさらなる向上を図り,もって職務内容の一層の充実につなげることを目的とするものであり,教員としての職務を十分に果たすよう促し,指導監督する服務監督権及び職務遂行能力の向上を目指す研修権に含まれる事務である。京都市教育委員会が有する教員に対する服務監督権及び研修権は,本件通則13条1項により教育長に委任されており,教育長が服務監督権及び研修権に基づき要綱を定め,教育長名で本件表彰を行っているものであり,適正な手続きを経て実施しており,地教行法に違反するものではない。

また,本件表彰の違法事由によって,本件公金支出が直ちに違法となることはないことは前述のとおりである。

第3本案前の争点についての当裁判所の判断

1  争点(1)(第1回表彰に係る本件訴えは,適法な監査請求を経たか)

(1)  第1回表彰に係る公金支出は,前提事実記載のとおり,平成14年12月2日から同月18日にかけてなされており,これに係る本件監査請求は,平成16年1月16日になされているから,上記支出がなされた日から1年以上経過して行われたことは明らかである。

(2)  原告らは,本件監査請求には地方自治法242条2項ただし書にいう正当な理由があると主張するので,検討するに,原告らが,第1回表彰に係る公金支出について,支出の具体的な内容が記載された公文書を情報公開によって入手したのは,平成15年12月19日と認められるところ(弁論の全趣旨),本件監査請求は,それから相当な期間と認められる1か月以内に行われている。

してみると,本件監査請求には,上記正当な理由があるというべきである(最判平成14年9月12日・民集56巻7号1481頁参照)。

(3)  被告は,平成14年12月21日付けの京都新聞(乙1)において,「校長・園長の内申に基づき,市民や保護者らを含めた選考委員会で選出された計五百四十六人の教員が表彰を受けた。」との報道がなされており,原告らが第1回表彰に必要な経費の支出についても容易に知ることができた旨主張する。しかし,上記新聞では,永松記念教育センターにて第1回表彰が行われたことのみが報道されており,式典の態様,副賞の存否や内容は報道されておらず,具体的にいかなる支出がなされたかが不明であって,この程度の報道では,住民が相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて監査請求をするに足りる程度に財務会計行為の存在及び内容を知ることができたということはできない。

よって,この点に関する被告の主張は採用できない。

2  争点(2)(Aは,本件訴訟の相手方といえるか)

(1)  地方自治法242条の2第1項4号にいう当該職員とは,財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するとされている者及びその者から権限の委任を受けるなどして当該権限を有するに至った者をいうところ(最判昭和62年4月10日・民集41巻3号239頁参照),本件全証拠によるも,京都市教育委員会の教育長であったAが,本件公金支出について,これら財務会計上の行為を行う権限を有すると認めることはできない。

(2)ア  原告らは,Aは,本件表彰に際し,その要綱の制定,各学校長等に対する通知及び内申の依頼について最終的な決定を行い,本件表彰の実施,来賓者・被表彰者に対する案内等について,多額の経費支出を伴うことを承知しながら最終的な決定を行ったのであるから,財務会計上の権限があると主張する。

しかし,これら要綱の制定,各学校長等に対する通知及び内申の依頼,表彰の実施に関する行政内部の意思決定に係る行為は,それ自体,上記財務会計上の行為にあたるものではない。

イ  また,原告らは,本件専決規程によると「1件200万円以下の集会,行事,催物その他これに類するものの開催に伴う経費の支出決定に関すること」が教育長の専決事項として定められているから,本件表彰に伴う経費については,教育長に支出決定を行う権限があると主張する。

しかし,同規程等京都市の専決規程においては,職員に関する事項についてはその旨明記されていることから(弁論の全趣旨),ここにいう集会,行事,催物等は,市民を対象とするものをいい,本件表彰のような内部職員に対する式典等は含まれていないと解するのが相当である。

(3)  したがって,Aは,財務会計上の行為を行う権限を有すると認められないので,同人を相手方とする請求は,不適法として,却下を免れない。

第4本案の争点についての当裁判所の判断

1  認定事実

証拠(甲41,乙17,乙42,証人E,同F,同G)及び弁論の全趣旨並びに文中掲記の証拠によれば,以下の事実が認められる。

(1)  京都市では,教員に対する表彰制度として,昭和60年度から「教育推進者表彰」が実施され,主に養護育成教育,同和教育,へき地教育等に10年程度貢献した熱意ある教員を対象とする表彰が行われていた。そして,平成5年度あたりから,養護育成教育等に限らず,学校運営や研究会活動,部活動指導に功績のあった者にも対象が広げられた。

しかし,「教育推進者表彰」は,10年程度の活動実績がある教員を対象としていたため,若手教員が表彰されないことが課題とされていた。

(2)  一方,平成12年3月,内閣総理大臣の下に教育改革国民会議が発足し,同年12月,公聴会などによる国民の意見を反映した最終答申が提出された。その中で,「学校教育で最も重要なのは一人ひとりの教師である。」として,「教師の意欲や努力が報われ評価される体制を作る。」ことが提案され,「努力を積み重ね,顕著な効果を上げている教師には,特別手当などの金銭的処遇,準管理職扱いなどの人事上の措置,表彰などによって報いる。」ことが提言された(乙39)。

また,平成14年度には新しい学習指導要領が小中学校で全面実施されるなど教育改革が本格的に実施されることとなった。

このような状況の下,京都市では,個々の教師の努力や意欲を評価し得る新しく幅広い表彰制度を創設するべく,平成13年度から,教育委員会の教職員課内で検討作業を開始した。

(3)  さらに,市教委は,平成14年4月15日付けで,文部科学省から,同月1日に文部科学省初等中等教育局長が決定した「新しい教員の人事管理の在り方に関する調査研究実施要綱」に基づき,「優秀な教員の表彰制度等の調査研究」を含めた「新しい教員の人事管理の在り方に関する調査研究」事業の委嘱を受けた(乙19,乙18の1)ことを契機として,関係各課からなる「表彰制度改革プロジェクト」を組織し,表彰制度について研究・議論を重ね,表彰分野拡大,表彰要件緩和,表彰の機会拡大等の視点から検討を進めた。

前記プロジェクトの主な構成員は,市教委事務局総務部の同部長,総務課長,教育計画課長ら及び教職員課の担当課長,福利係長事務取扱課長補佐及び係員であった。平成14年4月24日から15回程度プロジェクト会議が開かれ,表彰の枠組み,表彰の式典の実施に関することなど実務的な打合せが行われた。その中で,あらかじめ表彰人数を限定せずに教育現場の最前線で地道かつ熱心に指導している教員などを幅広く表彰することができないだろうか,経験年数を要件としないほうが良いのではないか,再度表彰を受けることができる制度にすれば,意欲喚起,資質向上につながるのではないか,これまでのような教育委員会主導の表彰制度ではなく,学校現場で日頃から所属教職員を見ている学校長等の判断を尊重してはどうか,副賞の効果は少なくないからその額を増やせないか,自己研鑽のために教育に関する専門書を購入してもらうことを念頭において2万円相当の図書カードを副賞としてはどうかなどという意見が出された。

このような検討を経て,プロジェクト会議において,本件表彰の目的を,「優れた教育活動の実践によって,教育活動の充実や広く教育の振興発展への貢献が認められる者の功績を称え表彰し,教員のさらなる意欲喚起及び人材の育成を図り,活力ある学校教育の実現を図る。」こととし,対象者を,学校教育活動において意欲的かつ効果的な取組実績が認められる者とし,選出方法を,在職年数概ね5年ごとに区分して選出することとし,評価の対象分野を,①学校指導分野,②生徒指導分野,③人権教育推進分野,④学校運営分野,⑤部活動指導分野,⑥研究会活動分野,⑦その他の分野の7分野とすることとし,各学校長等から候補者の内申を得ることとした。そして,約300の市立学校等に各1ないし2名の対象教員がいることを想定し,表彰人数の見込みを500名から600名程度とし,副賞の額を予算の範囲内で検討して2万円の図書カードとした。

そして,平成14年8月14日,上述の内容の教育実践功績表彰要綱案がまとまり,同月30日,A教育長の決裁を得て同要綱が制定され(甲5),同年9月18日,各学校長等に同要綱及び内申書記載例を発送して候補者内申の依頼を行った(乙8,9,10)。この内申書には,推薦順位,年数区分,内申分野(複数該当すれば複数),功績内容・表彰理由,表彰歴等を記載することとされていた(乙10)。

(4)ア  これと並行して,市教委事務局の職員が,本件表彰の考え方や実施方法等について,平成14年8月7日に小学校長会長に,同月8日に中学校長会長に,同月15日に高等学校長会長に,同月16日に幼稚園長会長に,同月27日に養護学校長会長にそれぞれ説明し,同月30日に小学校支部長会において,同年9月2日に養護学校長会において,同月4日に中学校理事会において,同月9日に高等学校長会及び幼稚園長会において,それぞれ説明した。

イ  上記説明の内容は,次のようなものである。

(ア) 表彰対象者を在職年数概ね5年ごとに区分し,各年数区分ごとに検討することにより,若年教員から経験豊富な50歳代後半の教員までを表彰対象に含めること(ただし,管理職は除く。)。教員が,各在職年数区分の間に表彰を受けるのは1回に限るが,在職年数区分が変われば再表彰が可能であるため,最大で6回の表彰を受け得ること。

(イ) 次の①から⑦までの推薦にあたっての対象分野別観点を参考に,京都市の学校教育活動への貢献が認められる者を候補者とすること。

① 学校指導分野…各教科・領域等の学習指導における実践的な取組を推進し,教育指導の成果に寄与するなど,学習指導への貢献が認められる者

② 生徒指導分野…いじめ・不登校をはじめとする児童・生徒の問題行動への対応や「心の教育」の推進に熱意を持って取り組むなど,生徒指導への貢献が認められる者

③ 人権教育推進分野…男女平等教育,養護育成教育,同和教育,外国人教育等への貢献が認められる者

④ 学校運営分野…教務主任,学年主任,研究主任及び進路指導主事等顕著な実績を残した者をはじめ,へき地等困難な条件にある学校の運営に寄与するなど,多様な取組により学校運営への貢献が認められる者

⑤ 部活動指導分野…部活動(小学校・中学校・高等学校・養護学校)における顕著な実績を残した者をはじめ,熱意を持って指導に取り組み,その活性化に寄与するなど,部活動指導への貢献が認められる者

⑥ 研究会活動分野…専門的研究活動に尽力し,また研究会運営の活性化に寄与するなど,研究会活動への貢献が認められる者

⑦ その他の分野…「開かれた学校づくり」,「(勤務校を離れての)各種ボランティア活動」等をはじめとする各種活動に熱意を持って取り組み,京都市の学校教育活動の振興発展への貢献が認められる者

(ウ) 可能な限り,各学校から3名程度,各幼稚園から1名以上の内申を検討すること。ただし,各年数区分における候補者の数は問わない。該当候補者のいない年数区分が生じたり,ある年数区分に複数の候補者が集中してもよい。

また,教員数や取組内容等,各市立学校等の実情に応じて候補者総数を増減することができる。ただし,候補者総数を増やして内申する場合は事前に担当人事主事へ相談すること。

(エ) 候補者の内申にあたっては,実績年数等形式的な要件のみにとらわれず,具体的な功績の事例や各教員の自己評価等多様な観点から実績を評価し,真に京都市教育の振興発展に貢献している者の内申に努めること。

これまで表彰の対象にならなかったような活動であっても,日々地道に教育活動に取り組み,学校教育活動に貢献している教員について,各学校長等が,適切に評価して,内申すること。

(オ) 教育功労者表彰,教育推進者表彰についての表彰歴にかかわらず,京都市の学校教育活動への貢献が表彰に値すると認められる者については候補者に含めることができる。

ウ  しかし,本件表彰についての説明は,第1回表彰が行われるまでは,各教員にまでは必ずしも行き届いてはいなかった。

(5)  各学校長等からの候補者内申については,市教委事務局総務部教職員課で内申書を取りまとめ,市教委事務局関係各課で内申分野にそった取組実績があるかどうかを再評価し,表彰に値する功績があるのに内申がなされていない場合や表彰に値する功績がない場合には,該当学校長等に再考を依頼した。

(6)  保護者,市民の代表や経済界等の代表を含む選考委員で構成される教育実践功績表彰選考委員会議(以下「選考委員会議」という。)において,平成14年11月26日に第1回,同年12月3日に第2回選考委員会議をそれぞれ開催し,新たな表彰制度の意義や,これまでの経過,被表彰者案の説明を行い,質疑等を経て546名を表彰する旨の答申を受けた。

(7)  平成14年12月4日,式典の実施及び来賓等の出席依頼,被表彰者への案内状の発送等について教育長の決裁を経て,同月20日午後3時から永松記念教育センター(現在の総合教育センター)で第1回教育実践功績表彰式典を執り行った(以下「第1回式典」という。)。

第1回式典において,被表彰者を表彰し,被表彰者に対し,表彰状,表彰状を入れる額ぶち,本件図書カード及び本件図書カードを使用後も記念品として飾るためのカード立てを授与し,式典の式次第及び被表彰者名が記載された記念冊子,これらを入れるための封筒及び紙袋,式典において撮影した集合写真を配布した。

なお,表彰状には,「京都市教育委員会教育長A」と記載されていたが(乙6),本件図書カード,カード立て及び集合写真には,「教育委員会」と記載されていた(甲13,14,乙5の1,2,乙6参照)。

(8)  第2回表彰も,第1回表彰と同様の過程を経て実施された(乙11)。

ただし,本件表彰の各学校長等への説明については,平成15年度に新たに学校長等に就任した者に対して,市教委事務局の職員が平成14年度と同様の内容を個別に説明した。また,表彰式典(以下「第2回式典」といい,第1回式典と併せて「本件式典」という。)の会場については,被表彰者が増えたため,ウェスティン都ホテル京都とした。

2  争点(1)(本件公金支出は地方公務員法25条に違反するか)

前記前提事実及び認定事実によると,本件表彰は,第1回及び第2回表彰の被表彰者数が合計1175人であって京都市の教職員の約2割であること,1つの在職年数区分にある間は1回しか表彰されないことから,その運用によっては京都市の大多数の教員が表彰されることもあり得,被表彰者数が多すぎるのではないか,表彰に値する功績のとらえ方が広すぎるのではないかという疑念も生じ得るところである。

しかしながら,本件表彰の目的は,優れた教育活動の実践によって,教育活動の充実や広く教育の振興発展への貢献が認められる者の功績を称えて表彰し,教員のさらなる意欲喚起及び人材の育成を図り,活力ある学校教育の実現を図るところにある。また,本件表彰は全教員を表彰するものではなく,若手教員から経験豊富な教員までを幅広く対象として,在職年数を5年ごとに区分して,学校活動を支える7つの分野において功績があった教員を表彰する制度であり,各分野ごとに示された観点を人選方法の際の参考として,日頃から地道かつ熱心に教育実践を重ねている教員を表彰しようとするものである。しかも,その人選を教員の日々の活動を身近に接して把握認識していると思われる各学校長等に委ね,各学校長等が候補者として内申した者につき,市教委事務局関係各課で再評価し,市民等も委員として含まれる選考委員会議において検討した上で被表彰者が選定されたものである。してみると,本件表彰の趣旨,目的,対象者,人選方法等に照らして,本件表彰は表彰としての実質を有しないものとまでは認められない。

そして,表彰に際して式典を行うことや式典において記念写真を撮影すること,表彰状及び副賞を授与することは一般的にあり得ること,本件表彰の副賞とされた本件図書カードについては,使途が明確であって,その使途も本件表彰の制度趣旨に合致するものであり,金額も2万円と専門図書を購入することを想定すると常識を逸脱するほど高額であるともいえないこと,カード立て,表彰状,額ぶちについては,換金性に乏しい品物であり,一般的に表彰の記念品とされ得るものであることに照らすと,これらに係る本件公金支出は本件表彰のために行われたものとして社会通念を逸脱するものとはいえず,実質的に給与の性質を有するものではないから,地方公務員法25条に違反するということはできない(最判昭和39年7月14日・民集18巻6号1134頁参照,甲34)。

3  争点(2)(本件公金支出は地方自治法210条,地方財政法3条1項に違反するか)

(1)  地方自治法210条は,一会計年度における一切の収入及び支出は歳入歳出予算に編入することとし,同法211条1項は,普通地方公共団体の長は,毎会計年度予算を調製し,年度開始前に,議会の議決を経なければならないとし,同条2項は,予算を議会に提出するときは,政令で定める予算に関する説明書をあわせて提出することとしている。

そして,地方自治法216条は,歳出予算について,その目的に従って款項に区分することとし,これらについては議会の議決を経る必要がある。また,同法施行規則14条は予算の調製の様式を,同規則15条は予算の区分を,同規則15条の2は予算に関する説明書の様式を定めており,款項はさらに目節に区分され(これら目節については議決を経る必要はない。),予算に関する説明書の説明欄には,予算に計上した目の内訳その他参考となる事項を記載することとされている。

京都市においては,この欄において,款項目節の区分とは違った観点から,目に掲げた予算額についての事業別の内訳が記載されることになっている(乙14,16)。

(2)  末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。

ア(ア) 京都市の平成14年度当初予算(歳出)においては,「款(10教育費)」56,436,000千円のうち31,290,742千円を「項(1教育総務費)」に計上し,議会の議決を受けた(乙13)。

(イ) 京都市の平成14年度当初予算に関する説明書(歳出)においては,前記「項(1教育総務費)」31,290,742千円のうち30,660,286千円を「目(2事務局費)」に計上し,そのうち263,204千円を「節(8報償費)」に,494,604千円を「節(11需用費)」に,1,633,784千円を「節(13委託料)」に,それぞれ計上した(乙14)。

予算に関する説明書(歳出)の説明欄の事業別の説明では,前記目(2事務局費)について,「(7)教員研修及び学校指導事業費」に524,982千円が,「(16)経常経費その他」に737,573千円が,それぞれ計上されている(乙14)。

(ウ) 平成14年度の第1回表彰のために,前記「目(2事務局費)」のうち,「節(8報償費)」263,204千円から1342万3,410円を,同「節(11需用費)」494,604千円から93万2415円を,同「節(13委託料)」1,633,784千円から19万9939円を,それぞれ支出した(甲9の1ないし17)。

イ(ア) 平成15年度当初予算(歳出)においては,「款(10教育費)」56,553,000千円のうち30,129,781千円を「項(1教育総務費)」に計上し,議会の議決を受けた(乙15)。

(イ) 平成15年度当初予算に関する説明書(歳出)においては,「項(1教育総務費)」30,129,781千円のうち29,497,377千円を「目(2事務局費)」に計上し,そのうち278,743千円を「節(8報償費)」に,343,061千円を「節(11需用費)」に,148,309千円を「節(12役務費)」に,1,887,294千円を「節(13委託料)」に,98,569千円を「節(14使用料及び賃借料)」に,それぞれ計上した(乙16)。

予算に関する説明書(歳出)の説明欄の事業別の説明では,前記「目(2事務局費)」について,「(7)教員研修及び学校指導事業費」に786,762千円が,「(15)経常経費その他」に691,284千円が,それぞれ計上されている(乙16)。

(ウ) 平成15年度の第2回表彰のために,前記「目(2事務局費)」のうち,「節(8報償費)」278,743千円から1497万0343円を,同「節(11需用費)」343,061千円から57万1163円を,同「節(12役務費)」148,309千円から3150円を,同「節(13委託料)」1,887,294千円から58万5270円を,同「節(14使用料及び賃借料)」98,569千円から54万6000円を,それぞれ支出した(甲10の1ないし12)。

(3)  前記認定事実によると,本件公金支出について,前記各当初予算への計上がなされており,流用もなされていないことが認められるから,地方自治法210条,地方財政法3条1項に違反するものではない。

(4)  原告らは,本件表彰について,新規事業として議会等に説明されておらず,本件表彰には「教員研修」や「学校指導」の実質がないから,「教員研修及び学校指導事業費」から支出されたというのであれば予算の流用であると主張する。

この点,前述のように,新規事業としての議会等への説明や事業項目ごとの説明が法令により要求されているものではないから,原告らが主張するような事由によって,本件公金支出が予算上違法となるものではない。

4  争点(3)(本件公金支出は地方自治法2条14項,地方財政法4条に違反するか)

(1)  本件表彰について,その趣旨,目的,対象者,選抜方法等に照らして,表彰としての実質を有しないとまでは認められないことは前述のとおりであり,教員の教育活動にとって不必要で効果のないものとはいえず,この点で地方自治法2条14項,地方財政法4条に違反するということはできない。

(2)ア  本件式典に際し,招待者への案内状等,会場設営費,紙バラ,胸バラ(第1回式典のみ),つぼ花,写真撮影等に係る公金が支出されている。この点,表彰を行うに際して式典を行って被表彰者を称え被表彰の記念とすることは本件表彰の趣旨に照らして相当であるから,本件式典のための会場設営費の支出は相当である。また,式典の開催にあたって案内状等,紙バラ等に係る公金を支出したことも,被表彰者を称えて被表彰の記念とするという本件式典の趣旨から不相応であるとはいえない。

なお,第2回式典は,第1回式典と異なり,ホテルで行われたものであるが,第1回式典よりも参加者数が増えたなどの理由によりホテルで行うこととされたのであって,この点においても,本件式典の趣旨に照らして華美に過ぎて不相当であるとまではいえない。

そして,これらに係る公金支出が,それぞれの物や役務の価値に比して過大であるとも認められない。

イ  本件表彰に際し,被表彰者に対して,表彰状,表彰状を入れる額ぶち,本件図書カード,カード立てが授与され,記念冊子,これらを入れる封筒及び紙袋が配布され,これらに係る費用が公金として支出されている。

このうち,表彰状については,被表彰者を称えるための記念品として一般的に相当なものであるといえるし,記念冊子についても,表彰に際しての式典の式次第や被表彰者名を記載したものであって,式典の進行及び記念のためにかかる冊子を配布することも,本件表彰及び本件式典の趣旨に照らして不相当であるとはいえない。

また,本件図書カードについては,その使途や金額から本件表彰の副賞として不相応であるとまではいえず,版下の作成や特色を施した点についても,京都市の景観等を図柄とし,同市の紋章を入れたためであって,本件表彰の記念品として不相応であるとまではいえない。また,カード立て及び額ぶちについても,それぞれ本件図書カード及び表彰状を入れるためとして一応の理由はあり,本件表彰の趣旨に照らして不相応なものであるとまではいえない。

そうであるから,表彰状,本件図書カード等記念品及びこれらを入れる封筒等に公金を支出したこと自体は,本件表彰の趣旨目的から不相応であるとはいえない。

そして,本件図書カード,カード立て,額ぶちに係る契約は入札に付した上で締結されていることなどを考慮しても,これらに係る公金支出が,それぞれの物の価値に比して過大であるとは認められない。

(3)ア  原告らは,本件表彰について,表彰基準が不明確かつ非合理であって表彰としての実質がなく,不必要であると主張する。この点,本件表彰について,事前に各教員にまでその趣旨等制度についての説明を徹底し,被表彰者の被表彰理由を個別具体的に対外的にも公表すれば,より制度趣旨に添うとも考えられる。

しかし,本件表彰は,前記認定事実のとおり,候補者推薦にあたる各学校長等に対し,学校指導分野,生徒指導分野等,教育現場において重要であると考えられる7つの分野について,各分野ごとに,推薦にあたってのある程度具体的な参考観点を示して行われたものであって,その基準が不明確,非合理とまではいえない。

イ  また,原告らは,スーパーティーチャー制度や教員評価システムなど,教員を評価する他の制度を並行して創設しているとして,本件表彰を非難するが,これらの他の制度は,本件表彰制度とは,目的,対象者や人選方法等の要件が相違している(甲32,33,36,39)。

(4)  よって,本件公金支出が,地方自治法2条14項,地方財政法4条に違反するとはいえない。

5  争点(4)(本件公金支出は憲法23条,26条,教育基本法10条に違反するか)

原告らは,本件表彰は,教育長や教育委員会が教員の教育活動や教育実践について評価し,表彰し,指導する制度であって,地方自治体が教育内容に過度に介入するものであるから,憲法23条,同26条及び教育基本法10条に違反すると主張する。

しかし,本件表彰は,前記認定事実のとおり,優れた教育活動の実践によって,教育活動の充実や広く教育の振興発展への貢献が認められる者の功績を称えて表彰し,教員のさらなる意欲喚起及び人材の育成を図り,活力ある学校教育の実現を図るところにある。また,候補者推薦にあたる各学校長等は,7つの対象分野ごとに示された各観点を参考として候補者を人選し,内申書において,内申分野,功績内容・表彰理由等を記載することとされており,その後に選考委員会議に諮問することとされているのであるから,その人選が恣意的に行われたともいえない。また,対象分野ごとに示された観点について,学校指導分野,生徒指導分野等の7つの対象分野は教育現場において重要であると考えられるものであるし,各分野ごとに示された観点についても,ある程度具体的であって人選者の恣意を許すようなものではなく,また,その内容が各教師の教育の内容等に踏み込む等不適当なものではない。

このように,本件表彰は,表彰基準,人選方法等に照らして,何ら子供の教育を受ける権利や教師の教育の内容や方法など教育の自由に干渉したり,介入したりするものではないことは明らかである。

よって,本件表彰は,憲法23条,26条,教育基本法10条に違反するものではない。

6  争点(5)(本件表彰制度は教育長の権限外の行為であり,地教行法26条に違反するか)

(1)  本件表彰が,市教委のA教育長によってなされたことは争いがないところ,原告らは,教育長には,本件表彰を行う権限がなく,地教行法26条に違反する旨主張する。

そして,地教行法26条1項は,教育委員会は,教育委員会規則で定めるところにより,その権限に属する事務の一部を教育長に委任できると定めており,これを受けて本件通則13条は事務委任に関する事項を定めているが,同条6号において,教育に係る表彰に関することは除外されていることが認められる(甲4)。

(2)  しかし,一方,教育長は,地教行法17条1項により教育委員会の指揮監督の下に教育委員会の権限に属するすべての事務をつかさどるとされ,本件通則12条により教育関係職員を指揮監督するとされている。また,市教委は,地教行法23条3号,同条8号,43条,45条及び58条の規定により,教職員の任免,服務監督,研修等の包括的権限を有するところ,これら市教委が有する教員に対する服務監督権及び研修権は,地教行法26条1項,本件通則13条1項により教育長に包括的に委任されていることが認められる(甲4)。

そして,地教行法26条1項が教育委員会から教育長への事務の委任を定めた趣旨は,教育の政治的中立という観点から教育委員会の自主性,独立性を維持する要請がある一方で,教育委員会は数人の委員の合議体であることから,事務効率のため,教育委員会では重要な事項のみを決定し,その他は教育長に委ねることの必要性,妥当性を認めたものである。

そうすると,本件通則13条6号にいう教育に係る表彰に関することとは,教職員の人事評価に関わるような表彰をいうものと解すれば,本件表彰の趣旨目的からすると,本件表彰が教育長の有する前記服務監督権及び研修権に含まれると解することもできなくはない。

してみると,本件表彰が,A教育長の権限外とまではいえず,地教行法26条に直ちに違反するということはできない。

(3)  なお,仮に,本件表彰がA教育長の権限外であったとしても,上述の地教行法26条1項の趣旨,本件表彰の趣旨目的,被表彰者の人選過程等に照らすと,その瑕疵は手続上の瑕疵に過ぎないのであって,本件公金支出を違法ならしめるものではない。

第5結論

そうすると,京都市の財政状況に照らして,本件表彰の被表彰者数や副賞の妥当性等について再検討の余地があるとしても,本件公金支出が違法であるとまではいえない。

以上のとおりであって,原告らの請求のうちAを相手方とする訴えを却下し,その余の訴えはいずれも理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条に従い,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中村隆次 裁判官 豊田里麻)

裁判官森田浩美は,差し支えのため,署名押印することができない。裁判長裁判官 中村隆次

(別表省略)

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