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京都地方裁判所 平成16年(行ウ)41号 判決 2005年9月07日

主文

1  別紙物件目録記載2の土地について建築基準法42条2項の規定に基づく被告の指定処分が存在しないことを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

主文と同旨

第2事案の概要

京都市においては,告示により一定の条件に合致する道を一括して建築基準法(以下「法」という。)42条2項所定の道路(以下「2項道路」という。)と指定している。本件は,別紙物件目録記載1の土地(以下「本件土地」という。)の所有者である原告が,同土地の西南に隣接する同目録記載2の土地(以下「本件通路部分」という。)は2項道路に当たらないとして,被告に対し,本件通路部分について2項道路指定処分が存在しないことの確認を求める事件である。

1  基礎となる事実(末尾に証拠等を掲げたもののほかは,争いのない事実)

(1)ア  本件土地は原告が所有する土地であり,本件土地及び本件通路部分の現況は,別紙図面1のとおりである。本件通路部分の西南側は水路となっている。

イ  昭和25年11月23日当時の本件土地及びその周辺の概況は,別紙図面2のとおりである。

本件通路部分は,別紙図面2のB点(以下,単に「B点」などという。)からC点の間の道の南端部分であって,本件土地はその北東側に位置する。

現在,A点からB点の間の道とa点で交差する形で,道路(α号線)が存在する。また,a点からB点を経てC点に至る道は,大正4年9月1日,旧βにおいて路線認定し,昭和58年1月31日,市道(γ号線)として区域決定及び供用開始がされている(甲21)。

(2)  旧δ,旧ε及び旧ζの区域を除く京都市の区域については,法第3章は,昭和25年11月23日(以下「基準時」という。)から適用されている。

(3)  特定行政庁であった京都府知事は,昭和25年12月8日京都府告示820号(以下「本件告示」という。)により,基準時現在,旧δ,旧ε及び旧ζの区域を除く京都市の区域において現に建築物が立ち並んでいる幅員4m未満1.8m以上の道で袋路を除くものを包括的に2項道路に指定した。なお,現在では被告が京都市における建築基準法上の特定行政庁である。

(4)  原告は,平成15年ころ,本件土地上の建物の増築工事を行うにあたって,京都市都市計画局審査課の担当者から本件通路部分が2項道路である旨を告げられ,同年10月10日,本件土地のうち,本件通路部分の南西側の境界線から本件土地側に水平距離4mの線までいわゆるセットバックをすることとして,建築確認を受けた。

2  争点

本件通路部分は,基準時において,2項道路の要件(「現に建築物が立ち並んでいる」道)を満たしていたかどうか。

(1)  被告の主張

ア 基準時において,B点より北側及びD点より南側にいずれも集落が存在し,B点からD点までの間の道は,上記各集落を結ぶ生活道路であった。

法42条2項が将来的に幅員4m道路の存在する健全な市街地形成を目指している趣旨からすれば,道が2項道路に該当するかどうかは,特定区間に建築物が立ち並んでいるかどうかのみではなく,同特定区間によって結ばれる道の両端には両集落が存在し建築物が立ち並んでいることを考慮し,これら両集落の建築物の立ち並びも含めて一体としての道路と判断すべきである。

したがって,B点からD点の間の道は,「現に建築物が立ち並んでいる」道である。

イ A点からC点までの間の道は,大正9年4月1日,旧βによって道路として認定されているから,これらを一体として,2項道路の要件を満たしているかどうかを判断すべきである。

そうすると,基準時において,A点からC点までの間の道は,そのうちA点からB点までの部分に建物が立ち並んでいたから,全体として「現に建築物が立ち並んでいる」道であった。

ウ 本件告示において,袋路を除くとされているのは,原則として,建築基準法上の道路から道路へ通り抜けていることにより,その道路が交通上,安全上,防火上及び衛生上支障なく機能を果たすからであり,ある道が2項道路に指定されたものである場合,その起点と終点の両端は,原則として建築基準法上の道路に通じている必要がある。

基準時において現に建物が立ち並んでいたA点からB点の間の区間のみを法42条2項にいう道路としての指定要件があるとするならば,B点から先は幅員4m以上の道路とは接続していないことになる。

したがって,道が2項道路に該当するかどうかは,A点からC点の間で考えるべきであり,全体として,2項道路の要件がある。

(2)  原告の主張

基準時において,B点からD点の間の道には,建築物は存在しない。したがって,B点からD点の間の道は,基準時において,「現に建築物が立ち並んでいる」道ではなかった。

法42条2項の規定は,基準時において接道義務を充足しない建築物を適法に存続させるための救済措置である。また,法42条の建築制限による財産権の制限は,公共の福祉のため必要最小限にとどめる趣旨である。道が2項道路に該当するかどうかは,上記趣旨によるべきである。

ア 対象通路に接する建物が一戸も存在しないのに,単にその道が,その両端に存在する集落を結んでいたことをもって,対象通路が「現に建物が立ち並んでいる道」であるということはできない。また,B点以北の集落とC点以南の集落とは,それぞれ独立の道路を有していたものである。

イ 道路法上の道路(市道,府道,国道等)は,道路管理の必要性から起点,終点を明確にするものであり,法42条2項の道の範囲を決めるものではない。

ウ 建築基準法においては,幅員以外の道路形態については定めることはなく,いわゆる道といえる形態であればよいのであり,両端が他の基準法道路に接することは要求されていない。

第3当裁判所の判断

1  証拠(甲5,甲8の2,3,甲10,乙6)及び弁論の全趣旨によると,基準時においては,B点からD点までの間の道の両側は,農地であり,建築物は存在しなかったが,A点からB点までの間の道に沿っては多数の建築物が存在したこと,A点からB点までの間の道は,その間の長さは,B点からC点までよりも多少長く,A点で比較的幅の広い道(η号線)と交差し,B点からは西方にも道が延びているほか,途中でも東方に延びる道等が分岐していたこと,B点からC点までの間の道は,その間の長さが約60mであって,C点で比較的幅の広い道(θ号線)と交差していたこと,C点からD点までの道はD点で東西に延びる道に突き当たり,その道沿いのD点から少し離れた地点には複数の建物が存在したこと,以上の事実を認めることができる。

2(1)  上記事実によると,基準時において,B点からC点までの間の道は,ある程度のまとまった長さを有している上,B点からC点までの間の道を通行する者は,A点からB点までの間の道を通行することなく,他の道を通って他の地点に移動することが可能であったから,A点からB点までの道とは一体としてでなくても,独立した効用を果たすことができるものである(同様に,A点からB点までの間の道も,独立して道としての効用を果たすことができるものである。)。

(2)  ところで,法42条2項は,法施行の際,現に建築物が立ち並んでいる幅員4m未満の道で特定行政庁の指定したものを道路とみなし,その中心線から左右2mの線(当該道がその中心線からの水平距離2m未満でがけ地などに沿う場合においては,当該がけ地等の道の側の境界線及びその境界線から道の側に水平距離4mの線)を道路の境界線とみなすこととしている。これは,法42条1項が,幅員4m(一定の区域においては6m)以上の道を「道路」とし,建築物の敷地は,道路に2m以上接しなければならない(法43条)ものとしたものの,法第3章の施行時において,幅員が4m未満の道が多数存したため,そのままでは,そのような道のみに接する敷地に適法に建築物を建築できないなど,敷地利用上の不都合が生じることから,このような道を道路とみなすことによって,上記不都合を避けつつ,建替え,改築等の際に,道路とみなされる土地上の建築を制限する(法44条1項)ことによって,次第に幅員4mの道路が確保できるようにしたものである。すなわち,法42条2項は,法第3章の施行時には,多数の幅員4m未満の道が多数存したことから,そのような道にのみ接する建物の権利者の救済を主な目的とし,そのような道にのみ接する敷地の利用上の不都合と,幅員4m以上のものを道路とし,建物の敷地が道路に接することを要求することによって,災害時等における安全等を確保することとの調整を図ろうとしたものである。

(3)  法42条2項のこのような趣旨及び法42条2項によって道路とみなされた土地の所有者が一定の権利の制限を受けること(法44条1項,法45条)を考慮すると,ある幅員4m未満の道が2項道路に当たるかどうかは,ある程度の長さを有し,独立して道としての効用を果たし得る最小限の区間を基準に検討すべきであって,その区間を超えて,さらに遠方の位置にある建物等のために必要かどうかで判断するのは相当ではない。また,2項道路に当たるかどうかの判断と,これとは趣旨,目的を異にする道路としての路線認定の有無,区域とが一致しなければならないものでもない。

(4)  被告は,本件告示が「袋路」を2項道路から除外していることから,2項道路の両端が建築基準法上の道路(2項道路を含む。以下同じ。)に通じているものであることを要するとし(両端が建築基準法上の道路に通じないものを袋路とする趣旨と解される。),ひるがえって,2項道路に当たるかどうかは,両端が建築基準法上の道路に通じている区間,本件でいえばA点からC点までの間の道について見るべきである旨主張する。

しかし,本件告示が袋路を除いているのは,その文言上は,単に行き止まりとなっている道を除く趣旨にすぎないと解される上,仮に,両端が建築基準法上の道路に通じていることを2項道路の要件とするものと解しても,それをどの区間で見るのかとは別の問題であって,被告の主張は採用することができない。

3  そうすると,2(1)のとおり,B点からC点までの間の道は,それだけで道としての効用を満たすものであるところ,1認定のとおり,この間には,道に沿った建築物は存在しなかったというのであるから,この間の道について,2項道路の要件はなく,この間の道は2項道路として指定されていないというべきである。したがって,B点からC点までの間の道の一部分である本件通路部分についても2項道路として指定されていないというべきである。

第4結論

以上のとおり,原告の請求は理由があるからこれを認容し,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条に従い,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 水上敏 裁判官 下馬場直志 裁判官 斗谷匡志)

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