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京都地方裁判所 平成16年(行ウ)9号 判決 2006年6月30日

平成16年(行ウ)第9号 公文書非公開決定取消請求事件(以下「第1事件」という。)

平成16年(行ウ)第37号 公文書非公開決定及び公文書部分公開決定取消請求事件(以下「第2事件」という。)

主文

1  被告が原告に対し平成15年12月25日付けでした別紙目録記載1の各公文書非公開決定のうち,以下の各公文書の部分を非公開とした部分について,これらをいずれも取り消す。

(1)  捜査費支出伺のうち,警部補以下の階級にある警察官の氏名等が記録されている部分を除く全ての部分

(2)  捜査費交付書兼支払精算書のうち,警部補以下の階級にある警察官の氏名等が記録されている部分を除く全ての部分

2  被告が原告に対し平成16年6月4日付けでした別紙目録記載2の各公文書非公開決定のうち,以下の各公文書の部分を非公開とした部分について,これらをいずれも取り消す。

(1)  捜査費支出伺のうち,警部補以下の階級にある警察官の氏名等が記録されている部分を除く全ての部分

(2)  捜査費交付書兼支払精算書のうち,警部補以下の階級にある警察官の氏名等が記録されている部分を除く全ての部分

3  被告が原告に対し平成16年6月4日付けでした別紙目録記載3の各公文書部分公開決定のうち,以下の各公文書の部分を非公開とした部分について,これらをいずれも取り消す。

(1)  現金出納簿のうち,警部補以下の階級にある警察官の氏名等が記録されている部分を除く全ての部分

(2)  捜査費支出伺のうち,警部補以下の階級にある警察官の氏名等が記録されている部分を除く全ての部分

(3)  激励慰労費に係る捜査費証拠書のうち,領収書の個人の印影が記録されている部分

4  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

5  訴訟費用は,これを2分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告が原告に対し平成15年12月25日付けでした別紙目録記載1の各公文書非公開決定並びに平成16年6月4日付けでした別紙目録記載2の各公文書非公開決定及び別紙目録記載3の各公文書部分公開決定のうち,警部補以下の階級にある警察官の氏名等が記録されている部分以外について,それらを非公開としたものをいずれも取り消す。

第2事案の概要

1  本件は,原告が,京都府情報公開条例(平成13年京都府条例第1号,以下「本件条例」という。)に基づき,その実施機関である被告に対し,京都府警の各部署の国費捜査費及び府費報償費(これらを区別せず,以下「捜査費」ともいう。)の証拠書等の公開を求めたところ,公文書非公開決定及び公文書部分公開決定(別紙目録記載1ないし3)を受けたことから,警部補以下の階級にある警察官の氏名等が記録されている部分以外については非公開事由があるとはいえないとして,それらを非公開とした決定の取消しを求めている事案である。

2  基礎となる事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の各証拠(証拠の表示については,以下,第1事件証拠及び併合後の証拠については,単に「甲1」などとし,第2事件証拠については,「甲①」などとする。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

(1)  当事者(乙1)

ア 原告は,地方公共団体などの情報公開,行政監視,不正不当な行政の是正を目的として結成された権利能力なき社団であり,京都市内に事務所を有する。

イ 被告は,本件条例1条1項の実施機関たる警察本部長である。

(2)  本件条例のうち,本件に関係する規定は,以下のとおりである。

第1条(定義)

この条例において,「実施機関」とは,知事,議会,教育委員会,選挙管理委員会,人事委員会,監査委員,公安委員会,警察本部長,地方労働委員会,収用委員会,海区漁業調整委員会及び内水面漁場管理委員会をいう。

2 この条例において「公文書」とは,実施機関の職員が職務上作成し,又は取得した文書,図画(中略)であって,当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして,当該実施機関が保有しているものをいう。(以下省略)

第2条(実施機関の責務)

実施機関は,公文書の公開を請求する権利が十分に尊重されるようこの条例を解釈し,及び運用するとともに,公文書の適切な保存及び迅速な検索をするために公文書の適正な管理に努めなければならない。

2 実施機関は,この条例の解釈及び運用に当たっては,通常他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる個人に関する情報を公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない。

第4条(公開請求権)

何人も,実施機関に対し,当該実施機関の保有する公文書の公開を請求することができる。

第6条(公文書の公開義務)

実施機関は,公開請求があった場合は,当該公開請求に係る公文書に次の各号に掲げる情報(以下「非公開情報」という。)のいずれかが記録されているときを除き,請求者に対し,当該公文書を公開しなければならない。

(1)  個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって,個人が特定され得るもの(他の情報と照合することにより,個人が特定され得るものを含む。)のうち,通常他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの又は個人を特定され得ないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの

(2)から(5)まで(省略)

(6) 公にすることにより,個人の生命,身体,財産等が侵害されるおそれのある情報(公務員(国家公務員法(昭和22年法律第120号)第2条第1項に規定する国家公務員及び地方公務員法(昭和25年法律第261号)第2条に規定する地方公務員をいう。)の氏名等であって,公にすることにより,当該公務員個人の生命,身体,財産等が侵害されるおそれがあるもの及びそのおそれがあるものとして実施機関の規則(実施機関が警察本部長である場合にあっては,公安委員会規則)で定めるものを含む。)

(7) 公にすることにより,犯罪の予防,鎮圧又は捜査,公訴の維持,刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が認めることにつき相当の理由がある情報

(8)(省略)

第7条(部分公開)

実施機関は,公開請求に係る公文書の一部に非公開情報が記録されている場合において,当該非公開情報が記録されている部分とそれ以外の部分とが容易に,かつ,公開請求の趣旨を損なわない程度に分離できるときは,当該非公開情報に係る部分を除いて,公文書の公開をしなければならない。

第10条(公開請求に対する措置)

実施機関は,公開請求に係る公文書の全部又は一部を公開するときは,その旨の決定(以下「公開決定」という。)をし,速やかに,請求者に対し,その旨及び公開の実施に関して必要な事項を書面により通知しなければならない。

2 実施機関は,公開請求に係る公文書の全部を公開しないとき(中略)は,公開をしない旨の決定(以下「非公開決定」という。)をし,速やかに,請求者に対し,その旨を書面により通知しなければならない。

3  実施機関は,第1項の規定による公文書の一部を公開する旨の決定又は非公開決定をした旨の通知をするときは,当該通知にその理由を付記しなければならない。(以下省略)

(3) 捜査費(甲20,乙3,7,乙①ないし④,弁論の全趣旨)

ア  捜査費は,犯罪の捜査等に従事する職員の活動のための諸経費及び捜査等に関する情報提供者,協力者等に対する経費であり,性質上,特に緊急を要し,正規の手続を経ていては事務に支障を来したり,秘密を要するため,通常の支出手続を経ることをできないとして,特に現金での取扱いが許されているものである。

イ  捜査費の執行手続は,毎月,取扱責任者である警察本部長が,取扱者である課長等(捜査費を執行する本部の担当課長及び隊長(所属長)並びに署長)からの交付申請に基づき交付額を決定し,支払手続の指示を行う方法によっている。取扱者に交付された現金は,取扱者の補助者である次長等(担当課次長,副署長等)により管理される。補助者により管理された現金の執行については,一般捜査費と捜査諸雑費という2種類の経費に分類され,それぞれ異なった方法により執行される。一般捜査費とは,捜査員等に捜査費を個別に交付する場合であり,捜査諸雑費とは,あらかじめ月初めに中間交付者である警部等を経由して,各捜査員に一定の金額が交付され,各捜査員がその現金を管理するとともに,執行頻度が多くかつ少額なものとして予め定められた使途や金額の範囲内(1件あたり概ね3000円程度)において,捜査員の判断で支出し,月末に清算を行い,残額が返納されるものである。

ウ  捜査費の執行に関する書類としては以下のものが予定されている。

(ア) 捜査費支出伺

取扱者が捜査員及び中間交付者に一般捜査費及び捜査諸雑費を交付するに当たって,補助者が取扱者の決済のために作成する書類である。

同書類には,作成年月日,金額,交付する職員の所属及び氏名,官職,金額,支出事由,交付年月日を記載する欄がある。また,取扱者,補助者が押印する欄があり,出納簿登記の確認の押印をする欄がある。

(イ) 支払精算書

支払精算書は,捜査員が取扱者等に自らが執行した一般捜査費の精算をするために提出する書類である。

同書類には,作成年月日,宛名,捜査費を受領した年月日,既受領額,支払額,差引過不足額,支払年月日,支払事由,金額を記載する欄がある。また,精算の結果の返納又は領収の年月日を記載する欄及び領収印欄がある。さらに,取扱者,補助者が押印する欄があり,出納簿登記の確認の押印をする欄がある。

支払精算書には,領収書を添付することとなっている。

(ウ) 捜査費交付書兼支払精算書

捜査費交付書兼支払精算書は,中間交付者等が取扱者等に捜査諸雑費を精算するために作成される取扱者宛の書類である。

同書類には,作成年月日,宛名,捜査費を受領した年月日,既受領額,交付額,支払額,返納額,交付年月日,交付者の官職及び氏名,交付額,支払額,返納額を記載する欄があり,確認印欄がある。また,取扱者,補助者が押印する欄があり,出納簿登記の確認の押印をする欄がある。

(エ) 支払伝票

支払伝票は,中間交付者等から捜査諸雑費の交付を受けた各捜査員が,捜査諸雑費の執行を報告するための書類である。

同書類には,作成年月日,作成者の階級,氏名及び押印,支払年月日,金額,支払先,支払事由を記載等する欄がある。また,各捜査員は,同書面に領収書等を添付することとなっている。

(オ) 現金出納簿

取扱者は,捜査費の執行について現金出納簿を備えるものとされており,取扱者及び補助者が現金出納簿の記載をする。現金出納簿には,収入(取扱責任者からの受入)ないし支払の金額,年月日,摘要,差引残高を記載する欄がある。また,各月及び各年度の末には,収入及び支払の累計の金額を算定して記載し,取扱者等の押印がされている。さらに,取扱者の交代があった場合には,それまでの収入及び支払の累計の金額を算定して記載し,前任者及び後任者の押印がされている。

エ  捜査費の具体的な使途として想定されているものは以下のとおりである。このうち,交通費,弁当代,消耗品の費用などの経費の一部については,捜査員に予め交付した捜査諸雑費で執行することができるものとされている。

(ア) 捜査本部等設置のための施設,寝具,什器類の臨時借上げ経費,捜査本部等に必要な自動車,船舶等の応急的な借上げ費

(イ) 捜査協力者,情報提供者に対する謝礼

(ウ) 聞き込み,張込み,追尾等に際し必要とする捜査員等の交通費,飲食費など諸経費

(エ) 拠点等のための施設の借上げ等に要する賃料などの経費

(オ) 協力者等との接触に要する交通費,飲食費,部屋代などの経費

(カ) 協力者等の保護に要する賃料,交通費などの経費

(キ) 早朝,深夜等における捜査員又は捜査協力者等の交通費,食料費

(ク) 緊急に捜索等を行う場合の重機等の借上げ又は委託費

(ケ) 捜査関係事項照会に伴う回答に要する経費

(コ) 犯罪の被害者又は第三者が所有する物件を捜査の過程で損壊等した場合の協力謝礼金,物品費

(サ) 被害者等の対策に要する部屋代,交通費,診断書料などの経費

(シ) 長期にわたる重要事件及び困難事件の捜査等に従事する捜査員等に対する簡素な激励慰労費

オ  激励慰労費の執行の方法は,一般捜査費の執行の方法と同様であるが,捜査費支出伺には,参加人員の合計人数及び参加者の所属,所要経費の総額,費用の内訳について記載した書面が添付されることがある。また,支払精算書には,激励慰労会参加者の所属,階級,氏名などが記載された名簿,領収書が添付されており,激励慰労費執行計画書として激励慰労会が開催された日時及び場所が記載された書面が添付されていることもある。また,これらの添付書類には,激励慰労会の対象となる事件名が記載されているものもある。

(4) 本件訴訟の経緯

ア(ア)  原告は,平成15年12月15日,被告に対し,本件条例4条に基づき,京都府警察本部生活安全部生活安全企画課,同部少年課,同部保安課,同部生活経済課,同部環境課,京都府警察本部刑事部刑事企画課,同部捜査第一課(以下「捜査一課」という。),同部捜査第二課(以下「捜査二課」という。),同部捜査第三課,同部捜査第四課,同部暴力団対策課,同部機動捜査隊,京都府警察本部交通部交通指導課,同部駐車対策課,同部交通機動隊について,それぞれ,平成15年4月1日から同年11月30日までに支出手続が完了した府費に係る捜査費証拠書のうち,捜査費支出伺及び支払精算書並びにこれらに添付されている書類(表紙を含む。)の公開を請求した。

(イ)  これに対して,被告は,同年12月25日付けで,以下の趣旨の決定をし,原告に通知した。

Ⅰ 捜査費証拠書の表紙を公開する。

Ⅱ 捜査一課の激励慰労費に係る捜査費支出伺,支払精算書等について,一部公開する。

Ⅲ 捜査費証拠書(捜査費支出伺,支払精算書,捜査費交付書兼支払精算書,支払伝票,領収書)について,いずれも非公開とする(甲1ないし15)。

(ウ)  前項Ⅲの非公開の理由は,本件条例6条7号該当(捜査費の個別支出に関する情報が記録されており,これらの情報を公にすることにより,捜査等の動向が明らかとなり,被疑者等の事件関係者において逃亡,証拠隠滅等の対抗措置をとられるおそれや,捜査協力者等が特定され,被疑者等の事件関係者から危害を加えられたり,今後の協力が得られなくなるおそれがあるなど,公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある。),本件条例6条1号該当(捜査協力者の氏名等個人に関する情報が記載されており,これらは,通常他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる。),本件条例6条6号該当(警部補以下の階級にある警察官の氏名等が記録されている。)というものである。

(エ)  原告は,上記Ⅲに係る決定(別紙目録記載1)うち,警部補以下の階級にある警察官の氏名等が記録されている部分を除く部分について,非公開とした決定が違法として,情報公開請求(第1事件)を提起した。

イ(ア)  原告は,平成16年4月7日,被告に対し,本件条例4条に基づき,捜査一課,捜査二課,京都府中立売警察署,京都府五条警察署について,それぞれ,平成13年9月28日から平成16年3月31日までに支出が完了した国費捜査費及び府費報償費に係る現金出納簿並びに捜査費証拠書のうち個別執行に係る捜査費支出伺及び支払精算書及びこれらに添付されている書類の情報公開を請求した。

(イ)  これに対して,被告は,平成16年6月4日付けで,以下の趣旨の決定をし,原告に通知した。

Ⅰ 激励慰労費に係るものを除く捜査費証拠書(捜査費支出伺,支払精算書,捜査費交付書兼支出精算書,支払伝票,領収書)を非公開とする(甲①ないし④)。

Ⅱ 現金出納簿の年度の累計収入金額及び支払金額の欄を一部公開する(甲⑤ないし⑧)。

Ⅲ 激励慰労費に係る捜査費証拠書のうち,捜査費支出伺(激励慰労費以外の捜査費支出伺が併記されている部分あり,添付書類を含む。),支払精算書(添付書類を含む。)のうち,領収書の印影や特定の奥書等を除いた一部を公開する(甲⑤ないし⑧)。

(ウ)  前項Ⅰの非公開の理由は,別紙目録記載1の決定の理由と同一である。

前項Ⅱの非公開部分の非公開の理由は,本件条例6条7号該当(情報を公にすることにより,捜査の動向等が明らかとなり,被疑者等の事件関係者において,逃亡,証拠隠滅等の対抗措置を講じるおそれがあるほか,報道内容等との照合・分析により,警察の捜査手法や態勢等が推察され,将来の捜査に支障を及ぼし,又は,将来の犯行を容易にするなど,公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある。),本件条例6条6号該当(警部補以下の階級にある警察官の氏名等が記録されている。)というものである。

前項Ⅲの非公開部分の非公開の理由は,本件条例6条1号該当(領収書には,担当者の印影が記録されており,奥書等には個人が特定される職名が記録されており,これらは,個人に関する情報であって,通常他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる。),本件条例6条7号該当(捜査費支出伺には,激励慰労費に係るものを除き,情報を公にすることにより,捜査の動向等が明らかとなり,被疑者等の事件関係者において,逃亡,証拠隠滅等の対抗措置を講じるおそれがあるほか,報道内容等との照合・分析により,警察の捜査手法や態勢等が推察され,将来の捜査に支障を及ぼし,又は,将来の犯行を容易にするなど,公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある。),本件条例6条6号該当(警部補以下の階級にある警察官の氏名等が記録されている。)というものである。

(エ)  原告は,上記Ⅰに係る決定(別紙目録記載2)並びに前項のⅡ及びⅢに係る決定(別紙目録記載3)のうち,警部補以下の階級にある警察官の氏名等が記録されている部分を除く部分について,非公開とした決定が違法として,情報公開請求(第2事件)を提起した。

3  争点及びこれに関する当事者の主張

(1)ア  公共の安全等に関する情報(本件条例6条7号)該当性

(被告の主張)

(ア) 本件条例6条7号の趣旨,解釈

公共の安全と秩序の維持に関する情報の公開,非公開の判断については,性質上犯罪等に関する将来予測としての専門的,技術的な判断を要するなど特殊性があることから,このような情報に該当するか否かについては行政機関の長の第一次的な判断を尊重することとし,行政機関の長に裁量を与えたものと解される。それを踏まえると,本件条例6条7号に該当することを理由とする非公開処分については,まず,行政機関の長において,同号所定のおそれがあるとの判断をし得る情報であることを主張立証する必要があり,これが立証された場合には,その判断の基礎を欠くか,又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くことが明らかであるときに限り,裁量権の逸脱又は濫用があったものとして違法であるということができるものである。そして,裁量権の逸脱又は濫用を基礎付ける具体的事実の主張立証責任は,同号該当性を争う原告が負うものと解される。

(イ) 捜査継続中の事件に関する情報

捜査継続中の事件,捜査に着手しようとしている事件等について捜査費証拠書等を公開した場合,事件の当事者,関係者が,捜査に関する動きを察知する可能性は非常に高い。このような捜査費証拠書等を公開すれば,捜査の動向が明らかになり,被疑者等の事件関係者において逃亡,証拠隠滅等の対抗措置を講じることが考えられるほか,捜査協力者等が特定され,被疑者等の事件関係者から危害を加えられるおそれがあることから,今後の事件捜査などに係る府民の協力を得ることが困難となり,円滑な捜査を遂行することができなくなる。

(ウ) 捜査が終了した事件に関する情報

捜査を終了した事件についても,捜査費証拠書等を公開したとすれば,情報提供者や捜査協力者等は,事後的に事件担当者,事件関係者,あるいは事件の組織団体等から,いわゆるお礼参りとして,脅迫を受け,危害を加えられることは十二分に考えられる。現に危害は加えられなくとも捜査協力者等の氏名が公にされる可能性があることが明らかになれば,今後,事件捜査等に係る府民の協力は,決して得られなくなることは自明の理であり,被告をはじめとする警察官の責務である「府民の生命,身体及び財産の保護に任じ,公共の安全と秩序の維持に当たる」ことはできない。

また,個別の犯罪捜査が終結したとしても,その被疑者が所属する組織等がある場合もあり得,当該捜査に関する情報を開示することによって,当該組織の構成員等に,より具体的に捜査態勢や捜査手法等を提供することになる。

(エ) 具体的な事件名以外の情報

具体的な事件名を伏せたとしても,捜査対象者は,その捜査費執行情報等を分析し,当該部署の事務分掌や被疑者等の事件関係者が持つ犯行の具体的内容等の情報を組み合わせることにより,個別の捜査活動の進展等を推認することが可能となる。

また,現に捜査中の事件に関するものでなくても,捜査費の執行内容を公にすると,報道内容等との照合,分析により,被告がどのような事件について,どのような捜査手法をとるかが推察され,犯罪を企図する者において,対抗措置を講じられるおそれがある。

警察においては,捜査活動の強化月間を設定しているが,強化月間の時期は,例年,どの月間に関しても,ほとんどが同時期に設定されているものである。したがって,犯罪を企図する者又はその関係者等において警察が取り組む強化月間の時期情報が判明することは,今後,特に警察が重点を置いて取り組むべき捜査活動に対して,極めて有用な情報となり,対抗手段を講じられるおそれがあるなど,将来においても,犯罪の予防や捜査活動等に重大な支障が生じるおそれがある。

警察庁や京都府公安委員会等のホームページ上で公開している強化月間は,警察による犯罪捜査月間のうちの一部であり,逃亡,罪証隠滅等の予防のため,原則として公開を予定していない。また,事後的に公安委員会等で報告する措置をとる場合も,月間の捜査が終了し,統計の集計ができた時点で,警察活動の成果として一定の範囲で公表しているものである。

(オ) 警部の氏名

警部の氏名を公開したとすれば,この警部を知り得る被疑者等は,この警部が動いているということは,事件は何で,この事件の情報は誰からで,次の捜査は何処に及ぶなどを推測し,自己の逃亡,証拠の隠滅,情報源へ圧力をかけ,捜査を妨害するなどのおそれも十分あり得る。したがって,警部の氏名という断片的な情報であっても,それが明らかになれば,部署毎,特定捜査員(警部)毎の事件捜査の態勢,進展情報等を推測することが可能となるおそれが生じる。

(原告の主張)

(ア) 本件条例6条7号の解釈

本件条例6条は,原則的一般的な開示義務を定めており,同条7号は,非開示事由を定めているものであるから,同条7号該当性については,非開示を主張する行政機関の側に主張立証責任があると解すべきである。したがって,「公にすることにより,犯罪の予防,鎮圧又は捜査,公訴の維持,刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が認めることにつき相当の理由がある」ことについて,被告が主張立証しなければならない。

また,行政に対して情報公開を求める訴訟においては,行政機関の側がほぼ全ての情報を保有し,原告である市民の側はほとんど情報を有しないのが現実であるから,裁量権の逸脱又は濫用を基礎づける具体的事実の主張立証責任は,同号該当性を争う原告が負うとすると,市民の側に不可能を強いるものであり,相当ではない。

(イ) 捜査費に関する情報

そもそも捜査費は,1件あたり3000円程度までの少額の経費にすぎず,その支出状況が明らかにされたからといって,捜査態勢の手法,進展状況が推察されるということはできない。さらには,具体的な事件名に関する部分を伏せることで,当該支出と具体的な事件との関連性は全く不明となるのであるから,捜査の態勢や手法,進展の状況について推測することは全く不可能となる。

(ウ) 捜査が終了した事件に関する情報

捜査費の対象となった事件につき,既に刑事裁判が確定している場合については,被疑者等による逃亡や証拠隠滅を考慮する必要は全くない。したがって,かかる場合について非公開とする必要はなく,かかる場合にも一括りに非公開とすることは違法である。

犯罪を企図する者の犯行を容易にするという点については,当該支出が明らかとされることで,なぜ犯罪を企図する者の犯行が容易になるのか,全く不明である。

(エ) 具体的な事件名以外の情報

現在捜査中,あるいは刑事裁判が進行中である事件についても,具体的な事件名を伏せることで,具体的な事件との関連性を不明にすることができる。したがって,事件名のみを伏せて公開すれば,被疑者等による逃亡や証拠隠滅のおそれはなくなるものといえ,それにもかかわらず,文書の全部を非公開とすることは違法である。

(オ) 情報提供者や捜査協力者等の氏名に関する情報

情報提供者や捜査協力者等の氏名が判明したとしても,具体的な事件名が伏せられていれば,個別具体的な事件との関連性を不明とすることができ,報復を受けるおそれをなくすことができる。それにもかかわらず,文書の全部を非公開とすることは違法である。

また,既に起訴され刑事裁判になっている事件については,捜査に協力した者の住所氏名等については,供述調書や任意提出書等から,被告人にも明らかとなっており,捜査費の支出先として明らかになったところで,報復を受けるおそれが特段に高まるということはない。

そもそも,情報提供者や捜査協力者等に対して現実に謝礼として支払われた金員がどれだけあるのか非常に疑わしい。

イ  個人に関する情報(本件条例6条1号)該当性

(被告の主張)

府民が被告に対し,事件の情報を提供する,あるいは捜査に協力する等の場合は,通常,事件関係者あるいは当事者,関係組織・団体に知られないように,秘密裡に情報を収集し,捜査員も「他人に知られたくない。」との府民の要望,期待を裏切らないように努めているのである。特に凶悪事件,犯罪組織・団体等に関する捜査情報の提供,捜査協力については,協力した当該府民個人が判明した場合,当該個人とその家族は,犯人,犯罪組織・団体等から,攻撃,襲撃の対象になり得る可能性は非常に高いのである。

したがって,捜査協力者に関する情報は,「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって,個人が特定され得るもの(他の情報と照合することにより,個人が特定され得るものを含む。)のうち,通常他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるもの」として,本件条例6条1号に該当する。

(原告の主張)

捜査協力者の氏名・職名など個人に関する情報を公開したとしても,捜査費を受領したとの事実が明らかになるだけであって,かかる事実は不名誉な事実ではなく,通常他人に知られたくないと望むことが正当であるとは認められない。

しかも,捜査費の交付先が明らかにならなければ,捜査費が適正,妥当に交付されたかどうかについての検証が不可能であり,そのことから言っても,捜査費の交付先は公開されなければなならい。

よって,いずれも本件条例6条1号の非公開事由には該当しない。

ウ  部分開示(本件条例7条)の可否等

(被告の主張)

捜査費証拠書は,所定の順序で編冊され,当月分毎に袋とじされており,支出伺,交付書兼支払書,支払伝票,精算書等を見れば,ある部署において,どのような事件で,何人の捜査員に対し,一般捜査費,捜査諸雑費を支出したのか,あるいはするかが明らかとなるものであって,捜査費証拠書に記載された情報は,非公開事由に該当する独立した不可分一体の情報というべきである。

非公開事由に該当する独立した一体的な情報を更に細分化し,その一部を公開とし,その余の部分にはもはや非公開事由に該当する情報が記録されていないものとみなして,これを公開することまでをも実施機関に義務づけているものと解することはできない。

(原告の主張)

原告は,捜査費に関する個々の捜査費証拠書について公開を求めたところ,これに対して被告は非公開決定をしたのであるから,非公開決定は,個々の捜査費証拠書ごとにされているのである。したがって,個々の捜査費証拠書ごとに非開示事由該当性が主張立証されなればならない。

また,本件条例7条では,部分公開について定めているから,被告は,個々の捜査費証拠書の中の個々の記載事項のそれぞれについて区分して,具体的に非公開事由該当性を立証しなければならない。

(2)ア  捜査費証拠書(激励慰労費を除く)

(ア) 捜査費支出伺(争点1-1)

(被告の主張)

一般捜査費についての捜査費支出伺には,捜査員が捜査中である,あるいは今後,着手する,内偵を開始する事件名が記載されている。また,捜査諸雑費に関しても,交付予定人数が記載されている。それにより,被告の捜査等に関する,現在及び将来の動きが明白になり,捜査諸雑費の交付人数から,被告の捜査態勢,捜査に対する軽重が判断できる。

また,捜査費の個々事件等に対する交付額が記載されており,捜査雑費に関しても交付額の総額及び中間交付者の保留額が記載されており,捜査費の支出の伺い年月日,交付年月日も記載されている。これにより,被告の捜査等に係る動きの重要性,重大性,時期等を推測することができる。

捜査諸雑費の支出伺に記載されている警部の氏名が公開されれば,特定所属における毎月初めに交付されている警部の人数(捜査班の数)が明らかになり,また,それぞれの警部が担当する班の捜査活動の進展状況等に応じて,月初めに交付された捜査諸雑費に不足が生じてきた場合,担当の警部は追加交付を受けるため,その警部の氏名から,捜査活動が活発な捜査班が明らかとなる。また,捜査諸雑費の支出の伺いと同日に一般捜査費の支出の伺いを立てる場合は,警部の氏名は同じ用紙(支出伺)の中に記載するため,その氏名を公表すれば,支出伺から一般捜査費の執行の有無,件数等が明らかになり,捜査等の動きに係る重要性,活発さ,時期等が推測できることとなる。

(原告の主張)

そもそも捜査費支出伺に記載されている事項は,金銭の支出に関する事項にとどまるのであって,聞き込みや張込み,事情聴取などの犯罪捜査が行われた日時場所,具体的に採られた捜査手法,捜査によって得られた情報の具体的な中身といった,捜査に関する詳細な情報を得ることはできない。さらに,既に捜査が終了し,または判決が確定した事件については,捜査費支出伺を公開し,被告が主張するような事項が判断,推測されたとしても,何ら公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれはない。

(イ) 支払精算書(争点1-2)

(被告の主張)

支払精算書には,捜査員が捜査中である,あるいは今後,着手する,内偵を開始する等の事件名,その他捜査に関連する具体的事項が記載されている。これにより,被告の捜査等に関する,現在及び将来の動きが明白になる。

また,情報提供者,捜査協力者等の氏名,住所等が記載されており,情報提供者等の氏名等が判明する。

さらに,捜査費の執行額,執行年月日,返納あるいは追加年月日が記載されており,被告の捜査等に係る動きの重要性,重大性,時期等を具体的に推測することができる。

(原告の主張)

支払精算書の記載から,具体的に採られた捜査手法,捜査によって得られた情報の具体的な中身といった捜査に関する詳細な情報を得るのは不可能である。さらに,既に捜査が終了し,又は判決が確定した事件については,何ら公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれはない。

また,情報提供者等の氏名等が判明したとしても何ら公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがないことは上記のとおりである。

(ウ) 捜査費交付書兼支払精算書(争点1-3)

(被告の主張)

捜査費交付書兼支払精算書には,中間交付者における捜査費の受領額,交付額,支払額及び返納額が記載されている。また,捜査員個々への交付額・追加交付額,捜査員個々の支払額及び捜査員個々の返納額が記載されている。これにより,被告の課,署別における捜査等に係る動きの重要性,重大性,活発度合等を把握することができることから,被告の捜査等に関する,現在及び将来の動きが明白になる。

仮に,捜査費交付書兼支払精算書に記載されている警部の氏名が公開されれば,捜査員に対する捜査諸雑費の交付回数や当該文書に記載されている行数,頁数から,それぞれの警部が担当している捜査班の態勢,活動の活発度合,進展状況等を推測される十分な手がかりとなる。

(原告の主張)

捜査費交付書兼支払精算書については,捜査費支出伺や支払精算書と異なり,支払事由の記載はされておらず,捜査費の支出と個別具体的な事件との関連性は一切表れない。したがって,捜査費交付書兼支払精算書を公開したところで,捜査等に関する情報を得ることは全く不可能である。

(エ) 支払伝票(争点1-4)

(被告の主張)

支払伝票には,捜査諸雑費の支出年月日が記載されているから,被告の捜査時期が明白になる。

また,捜査諸雑費の執行額や捜査員が捜査中である,あるいは今後着手する,内偵を開始する等の事件名,その他捜査に関連する事項等をはじめ,捜査諸雑費の支出理由が記載されており,被告の捜査等に関する,現在及び将来の動きが明白になること,及び被告の捜査等に係る動きの重要性,重大性,活発性,時期等をより具体的に推測できる。

さらに,情報提供者,捜査協力者等の氏名が記載されており,情報提供者等の氏名等が判明する。

(原告の主張)

支払伝票の記載から,具体的に採られた捜査手法,捜査によって得られた情報の具体的な中身といった捜査に関する詳細な情報を得るのは不可能である。さらに,既に捜査が終了し,又は判決が確定した事件については,何ら公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれはない。

また,情報提供者等の氏名等が判明したとしても何ら公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがないことは上記のとおりである。

(オ) 領収書(争点1-5)

(被告の主張)

領収書には,捜査費(捜査諸雑費を含む。)を受領した個人,法人の氏名,名称,住所,電話番号等が記載されており,情報提供者,物品の購入及び借入先等の氏名,名称等が明白になる。

また,受領金額及び年月日,具体的な物品名等が記載されており,被告の捜査等に関する,現在及び将来の動きが明白になること,及び被告の捜査等に係る動きの重要性,重大性,手法,時期等を推測できるものである。

(原告の主張)

領収書の記載から,具体的に採られた捜査手法,捜査によって得られた情報の具体的な中身といった捜査に関する詳細な情報を得るのは不可能である。さらに,既に捜査が終了し,又は判決が確定した事件については,何ら公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれはない。

また,情報提供者等の氏名等が判明したとしても何ら公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがないことは上記のとおりである。

さらに,報償費に関して受け取った領収書のうち約25%が仮名だったということであるが,仮名の領収書は,情報提供者,捜査協力者等が被疑者等から報復を受けるおそれをなくすためになされていることであり,これら仮名の領収書を公開したところで,報復を受けるおそれは一切ない。

イ  現金出納簿(争点2)

(被告の主張)

出納簿には,捜査費の額,事件名,捜査員の階級氏名,捜査諸雑費の交付人数,取扱者が取扱責任者から受領した現金の額,取扱者から取扱責任者への返納額,捜査員に対する交付額,捜査員からの返納額等が記載されている。

そのため,年月日,摘要欄,収入金額,支払金額,差引残高欄に記載された各情報は(累計部分を除き),一体として,事件名とこれを担当する捜査員氏名など,捜査態勢,捜査に対する軽重,捜査に関する動き,活発さ等が推測できる情報であるというべきである。

したがって,これを開示すれば,捜査の動向などが明らかになり,被疑者等の事件関係者において逃亡,証拠隠滅等の対抗措置を講じるおそれがあるほか,報道内容等と照合・分析により,警察の捜査手法や態勢等が推察され,将来の捜査に支障を及ぼし,又は,将来の犯行を容易にするなど,公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると判断したものであり,本件条例6条7号に該当する事由がある。

(原告の主張)

現金出納簿が公開されたところで,個別具体的な支出内容が判明するわけではないのであるから,そもそも,逃亡,証拠隠滅等のおそれや,警察の捜査手法や態勢等が相殺されるおそれがあるとは考えられない。

特に,刑事裁判が確定している場合については,被疑者等による逃亡や証拠隠滅を考慮する必要は全くないのであるから,一括りに非公開とすることは許されない。また,具体的な事件名を伏せて公開すれば,逃亡,証拠隠滅等を講じられることや,警察の捜査手法や態勢等が推察されることはあり得ない。

ウ  激励慰労費に係る捜査証拠書

(ア) 領収書の個人の印影が記録されている部分(争点3-1)

(被告の主張)

領収書の個人の印影については,激励慰労会の会場となった施設(店舗)の経理担当者個人の印鑑の印影であり,その印影を公にすることにより個人が判明することから,当該部分は,本件条例6条1号所定の個人に関する情報であって,個人が特定され得るもののうち,通常他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるものに該当する。

(原告の主張)

争う。

(イ) 捜査二課の領収書の奥書及び激励慰労費執行計画書の職名が記録されている部分(争点3-2)

(被告の主張)

領収書の奥書の職名及び激励慰労費執行計画書の職名については,激励慰労会を開催することとなった事件が収賄事件であり,その表題には官公庁の名称,部署名及び職名が記載されていることから,それらを公にすることにより,必然的に被疑者である個人が判明する。そのため,当該部分は,本件条例6条1号所定の個人が特定され得るもののうち,通常他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる情報に該当する。

(原告の主張)

争う。

第2当裁判所の判断

1  公共の安全等に関する情報(本件条例6条7号)該当性について

ア  本件条例6条7号は,「公にすることにより,犯罪の予防,鎮圧又は捜査,公訴の維持,刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が認めるにつき相当の理由がある情報」と規定されていること,当該情報が一般の地方公共団体の有する情報と異なり,その性質上,公開・非公開の判断に実施機関の高度な政策的判断を必要とするものと考えられることからすると,同号に規定する情報に該当するか否かについては,行政機関の長の第一次的な合目的的裁量判断によって決定すべきものと定められているものと解するのが相当である。

そして,非公開の事由の存否が問題となる文書がそもそも請求者及び裁判所の目に触れる状況に置かれることがなく,当該文書自体を公開できないことにもかんがみると,当該文書の外形的事実等から判断される一般的,類型的な当該文書の性質として,「公にすることにより,犯罪の予防,鎮圧又は捜査,公訴の維持,刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある」と実施機関が判断し得る情報が記録されているものであることについては,実施機関において,主張,立証することを要するというべきである。

しかし,実施機関の判断が,公開・非公開の決定に全く事実の基礎を欠き,あるいは,社会通念上著しく妥当性を欠くなどの裁量権の逸脱ないし濫用があると認められるときには,その判断は違法となるものと解されるが,上記裁量権の逸脱又は濫用があったことを基礎付ける具体的事実については,請求者において主張・立証を要するというべきである。

ところで,捜査費として予定されている使途については,前記基礎となる事実(3)エ記載のとおりであり,激励慰労費以外については,いずれも,個別の捜査の過程で必要となる経費として支出されることが予定されているものであるところ,証拠(甲16ないし21)を検討しても,捜査費として予定されている以外の使途に利用されたと認めるに足りる具体的証拠はない。

イ  そのうち,情報提供者及び捜査協力者に対して支払われる捜査費については,その捜査が終了しているか否かにかかわらず,情報提供者及び捜査協力者等が判明した場合には,被疑者等が情報提供者等に接触し,または,お礼参りなどをするおそれがあるというべきであるから,そのような状態では,情報提供及び捜査協力を得ることが困難となることは,容易に予想できるというべきである。したがって,情報提供者及び捜査協力者を識別できる情報は,本件条例6条7号に該当する情報というべきである。

ウ  また,情報提供者及び捜査協力者が識別できる情報以外でも,各捜査員による捜査費の具体的な執行についての情報は,各捜査員による具体的な捜査についての情報の裏返しというべきであるところ,各捜査員による具体的な捜査についての情報は,捜査の密行性が要請され,本件条例6条7号に該当するというべきである。

原告は,捜査費の対象となった事件につき,既に刑事裁判が確定している場合については,被疑者等による逃亡や証拠隠滅を考慮する必要は全くないと主張するが,捜査の具体的な手法については,それが知られると,今後の同種の捜査に影響が及ぶことが容易に想像できるものである上,公訴の提起及び刑事判決の確定に至った捜査についても,他の事件の捜査として有用であることも考えられるのであるから,刑事判決が確定した事件に関する捜査であるからといって,本件条例6条7号に該当しないということはできない。

エ  他方,捜査費の各捜査員ないし中間交付者に対する交付の情報については,それ自体は,特に,各捜査員の具体的な捜査についての情報を当然に含むものとはいえないというべきである。もっとも,その資料に,各捜査員の具体的な捜査費の執行に関する情報の記載があれば,それを含む部分については,本件条例6条7号に該当するというべきである。

この点,被告は,各部署の捜査費の執行状況を公にすると,報道内容等との照合,分析により,被告がどのような事件について,どのような捜査手法をとるかが推察され,犯罪を企図する者において,対抗措置を講じられるおそれがあると主張するが,各捜査員の捜査費の具体的な執行に関する情報ではなく,各部署単位での捜査費の執行に関する情報が判明したのみでは,それにより,捜査手法が推測されるとはいえず,そのおそれは抽象的にすぎないというべきである。また,被告は,警察の捜査活動強化月間が判明すると不都合であるとの主張をするが,過去の警察の強化月間が判明することで生じる不都合は未だ抽象的と言わざるを得ない。さらに,被告は,過去の警察の強化月間が判明すれば,将来の警察の強化月間が推測できると主張するが,強化月間自体がホームページなどで公表されているものも少なくない上(甲22,23,24の1ないし24の14,25),過去の強化月間により推測されるような将来の強化月間自体,どの程度の秘密性があるのか疑問があると言わざるを得ない。

また,被告は,警部の氏名,支出時期,支出金額が判明することで,被告の捜査等に係る動きの重要性,重大性,時期等を推測することができるという趣旨の主張をするが,そのおそれは抽象的と言わざるを得ず,それをもって,本件条例6条7号に該当する事由があるとはいえない。

2  個人に関する情報(本件条例6条1号)該当性について

本件条例6条1号の趣旨は,個人のプライバシー保護にあると解されるが,他方,本件条例は,2条2項に実施機関の責務として個人情報への最大限の配慮を定めているほか,その前文において,個人のプライバシー保護に最大限の配慮をしつつ,公文書の公開を請求する権利を明らかにすることによって知る権利の具体化を図るとともに,府政に関する情報を多様な形態によって積極的に提供し,もって府政に対する理解と信頼を深め,府政のより公正な運営を確保し,府民参加の開かれた府政の一層の推進を図り,併せて府民福祉の向上に寄与することを,本件条例制定の目的として掲げている(乙1)。このような本件条例制定の目的等に照らすと,本件条例6条1号の特定の個人に関する情報について,通常他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるか否かの判断に当たっては,前文に規定された府政の公正な運営の確保等の観点,個人のプライバシー保護の観点等を踏まえて,それらの適切な調和が図られるように解釈すべきである。

それを前提に検討するに,情報提供者,捜査協力者であることが知られた場合には,被疑者からの接触,嫌がらせなどが十分考えられるのであるから,それを特定し得る情報については,通常他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるというべきである。

この点,原告は,情報提供者及び捜査協力者であることが知られることは不名誉なことではないから,通常他人に知られたくないと望むことが正当であると認められる情報とはいえないと主張するが,情報提供者及び捜査協力者であることが特定された場合の上記不利益は否定できないのであって,原告の主張は採用できない。

3  部分開示(本件条例7条)の可否について

本件条例7条は,当該情報が記録されている部分を容易に,かつ,公文書の公開の請求の趣旨を損なわない程度に分離できるときは,その部分を除いて公文書の公開をすべきことを実施機関に義務づけているが,その文理に照らすと,それ以上に,当該情報が記録されている部分を更に細分化し,相手方識別部分等その一部のみを非公開としその余の部分を公開することまでを実施機関に義務づけているものとは解しがたい。したがって,実施機関において当該情報を細分化することなく一体として非公開決定をしたときに,裁判所は,当該非公開決定の取消訴訟において,実施機関がこのような態様の部分公開をすべきであることを理由として当該非公開決定の一部を取り消すことはできないというべきである。(最高裁第三小法廷平成13年3月27日判決,民集55巻2号530頁参照)

もっとも,独立した一体的な情報をどの範囲でとらえるかについては,当該情報が記録された記載部分の物理的形状,その内容,作成名義,作成目的,当該文書の取得原因等を総合考慮の上,当該条例の非公開事由に関する定めの趣旨に照らし,社会通念に従って判断すべきである。

そして,本件における捜査費証拠書等には,取扱責任者の取扱者に対する現金の交付に関する情報,取扱責任者の各捜査員及び中間交付者に対する現金の交付に関する情報,中間交付者の各捜査員に対する現金の交付に関する情報,各捜査員の現金の使途に関する情報など,様々な情報についての書面が含まれており,それぞれの情報に関して,個別に非開示事由の該当性を判断すべきといえる。

もっとも,警部補以下の階級にある警察官の氏名等が記録されている部分については,その記載が本件条例6条6号の非公開事由に該当することは争いがないところ,警察官の氏名等の情報は,各書面の記載から容易に分離できるものであり,かつ,それが捜査費の支出及び執行の適正の確認というような公開請求の趣旨を損なわないと解されるから,公文書の当該記載を除いた部分については,他の非公開事由がない限り,一部公開すべきものと解されるものである。

4  捜査費証拠書(激励慰労費を除く)

(1)  捜査費支出伺(争点1-1)について

前記基礎となる事実(3)ウ(ア)記載のとおり,捜査費支出伺は,取扱者が捜査員及び中間交付者に一般捜査費及び捜査諸雑費を交付するに当たって,補助者が取扱者の決済のために作成する書類であり,作成年月日,金額,交付する職員の所属及び氏名,官職,金額,支出事由,交付年月日を記載する欄がある。また,取扱者,補助者が押印する欄があり,出納簿登記の確認の押印をする欄がある。

まず,捜査諸雑費についての捜査費支出伺については,取扱者の中間交付者に対する捜査諸雑費の交付に関する情報が記載されるものである。そして,捜査諸雑費に関する捜査費支出伺には,支出事由欄にも何月分の捜査員何名に対する捜査諸雑費であるかが記載されているのみであり(弁論の全趣旨),そこから具体的な捜査状況が推測できるものとも考え難く,捜査費の具体的な執行に関する情報が記載されているということはできない。

また,一般捜査費についての捜査費支出伺についても,取扱者の捜査員に対する捜査費の交付に関する情報が記載されているものであり,それ自体,全体として各捜査員による捜査費の具体的な執行に関する情報ということはできない。もっとも,捜査費支出伺は,補助者が取扱者の決済のために作成する資料であることから,その支出事由欄には,特定の事件名など,具体的な捜査費の執行に関する情報が記載されていることもあるとも考えられる。しかし,捜査費支出伺の支出事由欄は,せいぜい10文字程度が記載できる程度の大きさであること(乙3,乙①ないし④,弁論の全趣旨),後に支払精算書で具体的な捜査費の執行の内容が記載されることが予定されていることなどに照らせば,一般捜査費についての捜査費支出伺の支出事由欄に事件名等が記載されている場合であっても,抽象的一般的な事件名の表示のとどまり,具体的な各捜査員の捜査費の執行についてまで明らかとならないような記載が通常と考えられる。もしも,一般捜査費についての捜査費支出伺の支出事由欄に具体的な各捜査員の捜査の執行に関する情報が記載されている場合には,被告において,当該捜査費支出伺をより特定して,本件条例6条7号に該当する事由があることを主張・立証すべきであるが,そのような主張・立証はない。したがって,一般捜査費についての捜査費支出伺の支出事由欄についても,本件条例6条7号に該当する事由があるとの被告の立証があるとはいえない。

以上によれば,捜査費支出伺については,当該文書の外形的事実等から判断される一般的,類型的な当該文書の性質として,「公にすることにより,犯罪の予防,鎮圧又は捜査,公訴の維持,刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある」と実施機関が判断し得る情報が記録されているものであると認めることはできず,本件条例6条7号に該当する事由があると認めることはできない。

(2)  支払精算書(争点1-2)について

前記基礎となる事実(3)ウ(イ)記載のとおり,支払精算書は,捜査員が取扱者等に自らが執行した一般捜査費の精算をするために提出する書類であり,作成年月日,宛名,捜査費を受領した年月日,既受領額,支払額,差引過不足額,支払年月日,支払事由,金額を記載する欄,精算の結果の返納又は領収の年月日を記載する欄及び領収印欄,取扱者,補助者が押印する欄,出納簿登記の確認の押印をする欄がある。

そこで検討するに,支払精算書自体は,各捜査員が交付を受けた捜査費について,実際に捜査費を具体的に執行した内容に照らした精算についての情報が記載されたものであり,その情報自体が,各捜査員による捜査費の具体的な執行に関する情報というべきである。そして,支払事由以外の欄の記載内容は,通常,それ自体,各捜査員による捜査費の具体的な執行の内容を把握し得るものではないと考えられるが,支払精算書の上記作成趣旨等からすれば,その部分のみを分離して公開することまでも本件条例が義務づけていると解することはできない。

したがって,支払精算書は,当該文書の外形的事実等から判断される一般的,類型的な当該文書の性質として,「公にすることにより,犯罪の予防,鎮圧又は捜査,公訴の維持,刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある」と実施機関が判断し得る情報が記録されているものであると認められるというべきである。

そして,支払精算書の非公開の決定に全く事実の基礎を欠き,あるいは,社会通念上著しく妥当性を欠くなどの裁量権の逸脱ないし濫用があったことを基礎付ける具体的事実についての立証があるとはいえない。

(3)  捜査費交付書兼支払精算書(争点1-3)について

捜査費交付書兼支払精算書は,前記基礎となる事実(3)ウ(ウ)記載のとおり,中間交付者等が取扱者等に捜査諸雑費を精算するための書類であり,作成年月日,宛名,捜査費を受領した年月日,既受領額,交付額,支払額,返納額,交付年月日,交付者の官職及び氏名,交付額,支払額,返納額を記載する欄,確認印欄,取扱者,補助者が押印する欄,出納簿登記の確認の押印をする欄がある。

そこで検討するに,捜査費交付書兼支払精算書は,あくまでも,取扱者から中間交付者に対して交付した現金について,中間交付者が各捜査員に対して交付した現金に照らした精算についての情報が記載されているものであり,その情報自体は,各捜査員による捜査費の具体的な執行の内容に関する情報とはいえない。また,捜査費交付書兼支払精算書には,各捜査員の具体的な捜査費の執行の内容,例えば具体的な事件名などが記載されることは予定されていないというべきである。そうでない場合には,被告において,捜査費交付書兼支払精算書をより特定して,本件条例6条7号に該当する事由があることを主張・立証すべきといえるが,そのような主張・立証はない。

したがって,捜査費交付書兼支払精算書については,当該文書の外形的事実等から判断される一般的,類型的な当該文書の性質として,「公にすることにより,犯罪の予防,鎮圧又は捜査,公訴の維持,刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある」と実施機関が判断し得る情報が記録されているものであると認めることはできず,本件条例6条7号に該当する事由があると認めることはできない。

(4)  支払伝票(争点1-4)について

支払伝票は,前記基礎となる事実(3)ウ(エ)記載のとおり,中間交付者等から捜査諸雑費の交付を受けた各捜査員が,捜査諸雑費の執行を報告するための書類であり,作成年月日,作成者の階級,氏名及び押印,支払年月日,金額,支払先,支払事由を記載等する欄がある。

上記支払伝票の性質上,支払伝票には,捜査費の具体的な執行に関する情報並びに捜査協力者及び情報提供者を識別する情報が当然に含まれているというべきである。

もっとも,支払事由以外の欄の記載内容は,それのみでは,通常,捜査費の具体的な執行の内容を把握し得るものではないと考えられるが,支払伝票の上記作成趣旨等からすれば,その部分のみを分離して公開することまでも本件条例が義務づけていると解することはできない。

したがって,支払伝票は,当該文書の外形的事実等から判断される一般的,類型的にみた限りの当該文書の性質として,「公にすることにより,犯罪の予防,鎮圧又は捜査,公訴の維持,刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある」と実施機関が判断し得る情報が記録されているものであると認められるというべきである。

そして,支払伝票の非公開の決定に全く事実の基礎を欠き,あるいは,社会通念上著しく妥当性を欠くなどの裁量権の逸脱ないし濫用があったことを基礎付ける具体的事実についての立証があるとはいえない。

(5)  領収書(争点1-5)について

領収書は,前記基礎となる事実(3)ウ(イ)(エ)記載のとおり,支払精算書及び支払伝票に添付されることが予定されているものであり,実際に捜査費を執行した各捜査員が,その相手から徴取するものである。したがって,領収書は,捜査費の具体的な執行に関する情報が含まれているというべきである。また,領収書には,捜査協力者及び情報提供者の氏名等が記載されることが考えられる。仮名の領収書の場合も,その筆跡や領収書の体裁が相手方を特定する情報となり得るのであるから,仮名の領収書であるからといって,相手方を識別できない情報ということはできない。

もっとも,領収書の金額欄及び日付欄のみであれば,通常,捜査費の具体的な執行の内容を把握し得るものではなく,また,捜査協力者及び情報提供者等を識別し得るものではないと考えられるが,捜査費証拠書における領収書の作成趣旨等からすれば,その部分のみを分離して公開することまでも本件条例が義務づけていると解することはできない。

したがって,領収書は,当該文書の外形的事実等から判断される一般的,類型的な当該文書の性質として,「公にすることにより,犯罪の予防,鎮圧又は捜査,公訴の維持,刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある」と実施機関が判断し得る情報が記録されているものであると認められるというべきである。

そして,領収書の非公開の決定に全く事実の基礎を欠き,あるいは,社会通念上著しく妥当性を欠くなどの裁量権の逸脱ないし濫用があったことを基礎付ける具体的事実についての立証があるとはいえない。

5  現金出納簿(争点2)について

前記基礎となる事実(3)ウ(オ)記載のとおり,現金出納簿には,収入(取扱責任者からの受入)ないし支払の金額,年月日,摘要,差引残高を記載する欄がある。また,各月及び各年度の末には,収入及び支払の累計の金額を算定して記載し,取扱者等の押印がされている。さらに,取扱者の交代があった場合には,それまでの収入及び支払の累計の金額を算定して記載し,前任者及び後任者の押印がされている。

まず,捜査諸雑費についての現金出納簿の各記載部分については,取扱者の中間交付者に対する捜査諸雑費の交付に関する情報が記載されるものであり摘要欄にも,何月分の捜査員何名に対する捜査諸雑費であるかという程度の記載がされるのみと考えられるのであり,そこから具体的な捜査状況が推測できるものとも考え難く,捜査費の具体的な執行に関する情報が記載されているということはできない。

また,一般捜査費についての現金出納簿の各記載部分についても,取扱者の捜査員に対する捜査費の交付に関する情報が記載されているものであり,それ自体,各捜査員による捜査費の具体的な執行に関する情報ということはできない。そして,その摘要欄には,特定の事件名など,具体的な捜査費の執行に関する情報が記載されていることもあるとも考えられるとしても,捜査費支出伺の判示のとおり,各捜査員による具体的な捜査費の執行の内容を識別できるような記載がないのが通常と考えられる。そうでない場合には,被告においては,一般捜査費についての現金出納簿の摘要欄をより特定して,本件条例6条7号に該当する事由があることを主張・立証すべきといえるが,そのような主張・立証はない。

また,取扱責任者から取扱者への現金の交付に関する記載,取扱者の引継に関する記載など,現金出納簿のその余の記載についても,具体的な捜査費の執行についての情報があるとも考えられないことから,本件条例6条7号に該当するとはいえない。

したがって,現金出納簿については,当該文書の外形的事実等から判断される一般的,類型的な当該文書の性質として,「公にすることにより,犯罪の予防,鎮圧又は捜査,公訴の維持,刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある」と実施機関が判断し得る情報が記録されているものであると認めることはできず,本件条例6条7号に該当する事由があると認めることはできない。

6  激励慰労費に係る捜査証拠書

(1)  領収書の個人の印影が記録されている部分(争点3-1)について

本件非公開とされている印影は,激励慰労会の会場となった施設(店舗)の経理担当者個人の印鑑の印影であるが,かかる施設においては,その業務の態様からして,不特定多数の者を顧客とするのが通例であり,その経理担当者が,代金の請求書領収書等に印鑑を押捺して顧客に交付している場合には,印影の情報を内部限りにおいて管理することよりも,決済の便宜に資することを優先させているものと考えられ,請求書等に記載して顧客に交付することにより,印影の情報が多数の顧客に広く知れ渡ることを容認し,当該顧客を介して更に広く知られうる状態に置いているものということができる。してみると,かかる情報は,他人に知られたくないと望むことが正当である情報とみることはできない。

したがって,領収書の個人の印影が記録されている部分についても,本件条例6条1号に該当する事由があるとはいえない。

(2)  捜査二課の領収書の奥書及び激励慰労費執行計画書の職名が記録されている部分(争点3-2)について

捜査二課の捜査員に平成15年8月4日に交付した激励慰労費14万7000円について,捜査費支出伺の添付書類である激励慰労費執行計画書,支払精算書の添付書類である領収書の奥書に,激励慰労費を支出する具体的な収賄事件名のほか,被疑者の属する官公庁の名称,部署名及び職名が記載されていることがうかがえる(乙②の85頁ないし89頁)。

また,捜査二課の捜査員に平成15年10月7日に交付した激励慰労費12万6000円について,捜査費支出伺の添付書類である激励慰労費執行計画書,支払精算書の添付書類である領収書の奥書に,激励慰労費を支出する具体的な収賄事件名のほか,被疑者の属する官公庁の名称,部署名及び職名が記載されていることがうかがえる(乙②の91頁ないし95頁)。してみると,これらの各記載から当該収賄事件の被疑者を容易に特定できることとなり,かかる情報は他人に知られたくないと望むことが正当であると考えられるので,本件条例6条1号に該当するというべきである。

第3結論

以上のとおり,原告の請求は主文第1項ないし第3項の限度で理由があるから,これを認容することとし,その余は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,64条本文に従い,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中村隆次 裁判官 下馬場直志 裁判官 豊田里麻)

別紙目録

1 公文書非公開決定(平成15年12月25日付け)

(1) 生企 第1780号

(2) 少 第521号

(3) 保 第741号

(4) 生経 第282号

(5) 環 第606号

(6) 刑企 第768号

(7) 捜一 第550号

(8) 捜二 第544号

(9) 捜三 第780号

(10) 捜四 第530号

(11) 暴対 第1278号

(12) 機捜 第309号

(13) 交指 第729号

(14) 駐対 第588号

(15) 交機 第438号

2 公文書非公開決定(平成16年6月4日付け)

(1) 捜一 第348号

(2) 捜二 第239号

(3) 会 第445号

(4) 会 第447号

3 公文書部分公開決定(平成16年6月4日付け)

(1) 捜一 第347号

(2) 捜二 第238号

(3) 会 第444号

(4) 会 第446号

以上

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