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京都地方裁判所 平成17年(わ)1572号 決定 2006年11月15日

主文

本件証拠調べ請求をいずれも却下する。

理由

1  請求の理由及び弁護人の主張

検察官は,被告人の警察官調書(乙3,4)及び検察官調書(乙5,6)について,いずれも不利益供述(自白)を内容とするものであり,被告人が任意に供述した内容を録取したものである旨主張して,刑訴法322条1項本文により,上記各供述調書の取調べを請求し,他方,弁護人は,上記各警察官調書については,警察官が被告人の弁護人選任権を侵害するとともに,取調べの際,被告人に対して暴行,利益誘導,違法な切り違い尋問,理詰めの取調べを加えて作成したものであり,上記各検察官調書については,上記の取調べの際に受けた影響を脱することのできないまま作成されたものであって,上記各供述調書はいずれもその任意性に疑いがある旨主張するので,当裁判所が主文のとおり決定した理由を以下説明する。

2  当裁判所の判断(なお,以下,「第△回公判調書中の証人A又は被告人の供述部分」も,単に「証人A又は被告人の公判供述」と略称する。)

(1)  関係各証拠によれば,被告人の供述経過等について,以下の事実が認められる。

ア  被告人は,平成17年(以下,年は省略する。)9月27日,京都府中立売警察署に出頭し,傷害,窃盗の事実(強盗の目的があったとはされていないこと,共犯者A及び同Bが「氏名不詳の者2名」とされていることを除き,被疑事実は,ほぼ本件公訴事実と同様の内容のもの。ただし,勾留状の被疑事実は,上記「氏名不詳の者2名」が「A・氏名不詳の者1名」に変わっている。以下,その被疑事実を「本件被疑事実」という。)により通常逮捕された。

イ  その後,被告人は,9月27日,28日,10月1日,2日,5日,7日,8日,12日ないし16日(13日は午後1時30分から午後6時10分までと午後7時15分から午後9時8分まで。)及び24日,C警察官による取調べを,また,9月29日,10月6日,17日及び18日には,D副検事の取調べをそれぞれ受け,同月19日,本件公訴事実について起訴された。

ウ  被告人は,逮捕当初,傷害の事実と共犯者がAであったことは認めていたが,財物奪取の事実を否認しており,9月28日の取調べで,自らポーチを奪取したことを認めたものの,財布が奪取されたことについては知らず,本件被疑事実中の上記氏名不詳の者は「タケ」なる人物である旨供述していた。

エ  被告人は,9月30日の勾留質問時,当番弁護士の出動依頼を希望する旨述べ,これを受けた当庁書記官が京都弁護士会に対して当番弁護士出動依頼を行い,同日,京都地方検察庁において,当番弁護士と接見した。

オ  Aは,10月4日,本件被疑事実のうち傷害の事実だけで逮捕され,その後,被告人らが財布やポーチを取ったことは認めていたが,同月7日の取調べになって,本件被疑事実中の氏名不詳の者がBであることを認めるに至った。なお,Aは,同月16日に勾留延長となり,同月25日,本件公訴事実と同様の強盗致傷の罪で起訴された。

カ  被告人も,10月7日の取調べで,Aと同様,本件被疑事実中の氏名不詳の者がBであることを認めた。

キ  Bは,10月12日,本件被疑事実と同様の事実により逮捕され,当初は,「免許証を出せ。」は相手の名前や住所等を知ろうとしただけであると弁解していたが,C警察官から,そんなことは喧嘩の最中におかしいのではないかと追及されるなどして,結局,その日のうちに,「金を出せ」という意味で,「免許証を出せ。」と言った旨供述するに至った。Bは,勾留延長されることもなく,同月21日,本件公訴事実と同様の強盗致傷の罪で起訴された。

なお,被告人及びBの取調主任官はC警察官で補助官がE警察官,Aの取調主任官は同警察官でC警察官もAの取調べには最初から最後までほぼ立ち会っていた。

ク  被告人は,10月14日になって,本件犯行時,Bの「免許証を出せ。」という発言を聞き,同人は金を取ろうとしていると思ったことなどを記載した自供書を作成し,同月15日ないし18日,強盗の目的を認める旨の警察官調書(乙3,4)及び検察官調書(乙5,6)が作成された。

そして,Aも,同月14日になって,Bの言った「免許証を出せ。」と言った言葉が「金を出せ。」という意味であったことを認める自供書を作成しているが,この日に留置場にある弁護士名簿をもとに,留置場で一緒だった者に弁護士を紹介してもらって,同弁護士を自分の私選弁護人として選任している。

ケ  被告人の実父Fは,被告人が強盗致傷の罪で起訴された翌日である10月20日,京都弁護士会に私選弁護人の紹介を依頼し,同月21日,G弁護士が被告人の接見に赴き,同月27日,同弁護士が弁護人に選任された。

以上のとおりである。

(2)  警察官調書について

ア  警察官調書(乙3,4)作成に至る取調べ過程において,弁護人が上記1記載のとおり主張する,任意性に疑いを容れる事情があるか否かについては,被告人とC警察官及びE警察官の各公判供述に食い違いがあるので,その各供述の信用性を判断し,併せて,任意性に疑いを容れる事情の有無について検討することとする。

(ア) 被告人の公判供述の要旨は以下のとおりである。

「逮捕後,C警察官に対し,弁護人を選任したいので親に言ってほしいと言ったところ,「金かかるだけやし,すぐに帰れる事件やから,必要ない。」というようなことを言われた。その後何度も,10日で帰れる事件であるとか,二,三回は執行猶予で帰れるとも言われた。9月30日,当番弁護士と面会し,逮捕されたのが初めてだから,今後自分がどうなるのか,処分はどうなるのかなどを聞き,罪名が傷害と窃盗であること,喧嘩をしてポーチを取ったことを認めたと言った。当番弁護士は,執行猶予になるという趣旨のこと言い,強盗致傷になる可能性があるとか,弁護人を選任した方がいいとは言っておらず,供述調書に違うことが書かれていたら署名してはいけないといった助言を受けたかは覚えていない。C警察官から,Aが弁護人を選任しようとしていることを聞き,再度同警察官に対し,自分も弁護人を選任した方がいいかを尋ねると,「お金の無駄や。」,「すぐ帰れるから必要ない。」などと言われた。自分の方から,弁護士をつけた方がいいのか尋ねたのは2回だけである。10月14日以降にC警察官から強盗致傷になるかもしれないと言われたかもしれないが,罪名が強盗致傷になったら,刑罰が変わるのかについて尋ねると,全部認めたら反省していると思われ,絶対帰れるようになると言われた。しかし,刑罰の違い等については聞いた覚えがない。執行猶予になると思っていたが,起訴された日に検察庁や裁判所に押送され,裁判所で強盗致傷の起訴状を見せてもらった際,集団のバスの中で,他の事件の被疑者から,強盗致傷罪であれば,執行猶予となる可能性は低いと言われ,あわてて,すぐに弁護人を選任してくれるよう両親に依頼した。

10月12日,Bが逮捕され,警察官から,Bが,「免許証を出せ。」という発言は,金を取るという合図であると供述していると聞かされた。10月13日,午後1時半から午後6時10分までと,午後7時15分から午後9時過ぎまで取調べを受け,E警察官から,「最初から金を取る目的がなかったのは分かったから,ほかのところは認めろ。」などと言われ,そのように供述すると,同日の取調べは終わったが,翌14日の取調べの際,C警察官から,「最初から金を取る目的であったのでなければ話全体が矛盾する。」,「3人が供述を合わせて反省しているところを見せたら,全員で帰れる。そうしないと,Bだけが懲役に行くことになる。おれを信じろ。前にもこういうケースがあって,おれの言うとおりにしたやつは全員執行猶予で帰っている。」などと言われ,その話を信じてしまった。

また,E警察官は,取調べの際,私に対し,「こういうふうに殴ったんやろう。」とか言って,全部で10回ないし20回くらい,殴るふりをしたり,こぶしを寸止したりした。最初に殴るふりがされたのがいつかは覚えていないが,Bが逮捕されてから頻繁になった。C警察官から,私の親が殴ってでもいいから本当のことをしゃべってもらいたいと言っていると聞いていたこともあって,実際に殴られると感じた。また,C警察官とE警察官は,毎日のように,取調室の机や私が座っている椅子を蹴ったりした。10月13日の取調べの際にも,1回か2回,E警察官は,私が椅子に座っているのに対し,私の正面を向いて,Bが被害者に馬乗りになったというのをまねして私のひざの上にまたがったり,机に座ったりして,殴るふりをした。E警察官は,机の上に座る時,机の上に置いてあった灰皿を壁に向かって投げつけたりした。C警察官自身は,殴るふりをするということはなかったが,E警察官の上記の行為を止めることはなく,同警察官がいないところで,「同警察官は怖いやろう。」などと言った。殴るふりなどをされて嫌な感じだった。そのようなことがあって,10月14日,C警察官が言うとおりの内容の自供書を書いた。それ以降の取調べで,警察官調書(乙3,4)が作成され,自分の言い分と違う内容となっていたが,私の言い分を聞いてもらえる状況ではなかった。

私は,警察官と検察官の違いは分からず,C警察官が,言うとおりにしたらすぐ帰れると言っていたので,警察で供述したとおりに供述すれば帰らせてもらえると思い,警察で言ったことは事実とは異なるとは言わず,上記各警察官調書と同様の供述をして,検察官調書(乙5,6)が作成された。その際,D副検事から,強盗目的を認めるようになった理由を聞かれてはいない。D副検事から,本件犯行時のBの「免許証を出せ。」という発言を聞き,金を取る目的だと分かった理由を聞かれ,とっさに,もっともらしいことを言おうと思い,先輩が「免許証を出せ。」と言って,金を取るところを見たと供述した。」

(イ) 証人C警察官の公判供述の要旨は以下のとおりである。

「被告人を逮捕した日か翌日に本件が強盗致傷になるかもしれないことを被告人に言っている。被告人は10月13日まではへ理屈ばかりを言って,ほとんどまともな話をしていなかった。10月12日,Bを逮捕し,同日夕方の被告人の取調べの際,被告人に対し,「共犯者はすべて逮捕し,真実は一つだから,嘘をついても分かる。」などと話をしたが,翌13日から後に,被告人がいろいろと供述し出したのは,Bから「本当のことを言うように伝えてくれ。」と言われていたのを被告人に伝え,「Bだけに責任を負わせるのか。本当のことを言ってはどうか。」などと説得したことと,被告人がE警察官を怖がっていたことが原因であると思う。

E警察官は,声が大きくて太く,ドスが利いた話し方をし,体格もよく,ひげを生やした威嚇的な顔つきであり,被告人は,同警察官を怖がっている様子だった。E警察官は,被告人が頑なに否認していた時に,机を叩いたことが五,六回くらいはあり,その際,机の上の灰皿がひっくり返るということはあったが,灰皿を投げて壁に当てるというようなことはしなかった。E警察官のこれらの行為は,被告人が同警察官を怖がる直接的な原因とはなっていないと思うが,その一因となっていたかもしれない。また,自分も,被告人が目撃者がいるのに本当のことを言っていない時に,「何で嘘をつかなあかんのだ。」と言って机を三,四回叩いたことがあった。10月13日の2回目の取調べを午後7時15分から始めたが,その際,E警察官が,Bの暴行について,被告人の顔の約50センチメートル手前で,「こういうふうに殴ったのか。」と言って,実際にやって確認をしたことや,「こういうふうに蹴ったのちゃうか。」と言って,素振りをして,被告人が座っている椅子の右下のパイプに,同警察官の足が当たり,ゴーンという音がしたことがそれぞれ1回ずつあった。E警察官が机を叩き,灰皿がひっくり返ったのもこの取調べの時である。もっとも,被告人が殴られるのではないかと思うような状況ではなかった。そして,私は,E警察官の上記のような行動を止めていない。また,E警察官が座っている被告人のひざの上に馬乗りになったというのは知らない。

10月13日,私は,被告人がE警察官に対しかなり萎縮している様子であったことや,Aの最終の取調べが残っていたので,E警察官にそちらに専従してもらうこととして,その日の2回目の取調べを始めて30分程度経過した時点で,被告人の取調べから外れてもらった。その後,被告人は,Bの「免許証を出せ。」という発言は,金を出せという意味であるという,同人の供述に近い供述をするようになったが,翌日に話を聞くから頭を整理しておくように言って,取調べを終え,翌14日,自供書を作成させた。

弁護人が必要かどうかについて被告人と話をしたことはない。9月25日に被告人宅に逮捕状を持っていった際,被告人の実母と会い,同月28日に被告人宅に捜索に行った際,被告人の両親と会った。同日,被告人の両親から,事件の状況を聞かせてほしいと言われ,傷害については認めているが,窃盗については否認していると言うと,被告人の実父から,被告人に正直に言うよう諭してほしいと言われた。被告人の携帯電話の充電器を被告人宅に取りに行った記憶はない。両親と会った際に,「弁護士はどうですか。」と聞かれて,「入れるのは自由ですよ。入れるんやったら,入れてもいいですよ。」と話した記憶はある。

被告人に対し,おまえが認めたら刑が三等分になるという趣旨のことや,認めればすぐに出られるという意味のことを言ったことはない。

被告人から,強盗致傷罪と窃盗罪,傷害罪との刑の違いを聞かれたり,検察官調べの際にどのように供述すればいいのかという相談を受けたことはない。」

(ウ) 証人E警察官の公判供述の要旨は以下のとおりである。

「私は,刑事として事件を担当するのは本件が初めてであり,先輩の取調べの方法を学ぶとともに,取調べの雰囲気を和ませるため,10月5日から同月13日までの被告人の取調べに立ち会った。10月14日,Aが本件の重要な部分についての供述を始めたので,私はAの取調べに専念するため,被告人の取調べから外れた。

被告人が取調べの中で,共犯者が被害者に馬乗りになって殴ったという話をしたので,具体的にどういうふうな向きで馬乗りになり,どこを殴ったのかを私自身が確認する必要があると思い,被告人を相手に馬乗りの格好をした。馬乗りは,顔の方に向いて正対する形でやったのか,足先の方に向いて背中を見せる形でやったのか,姿勢を確認するためにやった。椅子の上に座っている被告人のひざの上にまたがった。被告人の足に私の尻が一,二秒くらいは付いたかもしれないが,全体重を掛けて座ったことはない。実際には確認のためにこのようなことをする必要はなかったと思うが,逮捕被疑者を取り調べるのは初めてで,燃えており,経験のなさから,やってしまった。殴るまねは,椅子に座っていた被告人に対し,右手で顔を殴ったのか腹を殴ったのかと聞きながら,その動作をした。またがった状態のままで殴るまねをすると,被告人に負担を掛けることとなるので,ひざの上から下りて殴るまねをした。私のこぶしと被告人の顔との距離も約1メートル離れていた。被告人が殴られるのではないかと怖くなる状況ではなかった。取調室で被告人を不用意に立ち上がらせるなどすることは,危険を伴う場合もあるので,被告人には再現をさせなかった。馬乗りと殴るまねは,共犯者がどのような行為をしたかを取り調べている段階であり,勾留の始めのころにやったと思う。10月13日の時点では,どういう暴行を振るったかという話は終わっており,「免許証を出せ。」という言葉の真意について話をしており,共犯者の行為を確認する必要はないので,C警察官が私が殴るまねをしたのは同月13日であると言っているのは勘違いだと思う。その日の取調べを途中で外されたということはなく,最後までついていた。初めての事件である以上,途中で外されたのであれば,そのことはしっかり記憶に焼き付いているはずである。10月13日,被告人が,「免許証を出せ。」という発言について,金を出せという意味である旨供述したかについては記憶がない。私は,そのころ,Aの取調べをもっとがんばるぞという気持ちが強く,10月13日の取調べで被告人がどこまで供述したかはどうでもいいという気持ちが少しあったため,被告人の供述内容についてのはっきりした記憶がないのかもしれない。

取調べに入った当初のことであったと思うが,被告人がまじめに答えようとせず,態度が非常に不まじめであったので,怒りに任せて,こぶしで机を叩き,そのこぶしが机の上に置いてあった灰皿に当たってひっくり返ったことが何回かあった。灰皿を壁に投げつけたことはない。また,同じように怒りに任せて,机が被告人には当たるようなことのないことを承知の上で,机の側面を蹴ったことも何回かある。被告人を脅すつもりでやったのではないが,結果的に被告人を怖がらせてしまったかもしれない。逮捕被疑者を取り調べるのが初めての機会で,燃えており,経験のなさから,怒りに任せてこのような行為をしたことについては,非常に悪いことをしたと反省している。

取調室に出入りする際,刑事課を通ることとなるので,一つの礼儀として,被告人に対し,入るときには,入ります,帰るときには,帰りますとあいさつさせていたが,ふざけた言い方であいさつをしたときがあれば,やり直しをさせたかもしれない。

また,Aが「弁護士をつけた方がいいんでしょうか。」と聞いてきたので,「法律の専門の弁護士に話を聞いたりするのはいいんじゃないか。」と返事をした。当番弁護士の制度とか,法律扶助協会というのがあってお金がなくても,そこに連絡すれば費用がかからず弁護士が来てくれるという説明もした。

被告人に対し,おまえが罪を認めれば,罪が三等分され,3人とも執行猶予になるという趣旨のことを言ったことはない。」

イ  弁護人選任権の侵害及び利益誘導の有無について

(ア) 弁護人は,被告人は,逮捕された後に接見禁止となったため,C警察官に両親に弁護士をつけてほしいと伝言を頼んだが,同警察官から,「この事件はすぐに帰れるから弁護士は必要ない。」,あるいは「無駄である。」とか,「弁護士は金がかかるだけである。」と言われ続けたため,弁護人を選任しなくても問題がないと考えて弁護人を選任しなかったし,被告人の両親も,C警察官に弁護士をつけた方がいいか尋ねると,「弁護士は高いだけで,今つけても子どもには会えないし,意味がないよ。」「心配しんでも国選弁護人がつく。」「執行猶予がつくだろうし,弁償したら軽くなるから心配せんでもいい。」などと言われたことから,私選弁護人を選任しなかったもので,これらのC警察官の上記発言は被告人やその両親の弁護人選任権を侵害するものであるとともに,被告人に対し,「認めれば執行猶予になる。」という利益誘導をして自白を引き出したものであるから,いずれも違法な行為である旨主張するので,以下,検討する。

(イ) 証人Fの公判供述の要旨は以下のとおりである。

「平成17年9月25日に妻から電話があり,自宅に刑事2名が被告人を捜しに来たと聞いた。そして,同月27日,被告人は,「ただのけんかやし,警察に行ってちゃんと説明してくる。」と言って,警察に出頭した。その際,被告人から,弁護人をつけてほしいという話は特になかった。その翌日か翌々日にC警察官を含む警察官4名が自宅に捜索に来て,その際,妻は,C警察官から,被告人が弁護人をつけたいと言っていること,今つけても会えないし,意味はないよということを言われた。その数日後,C警察官を含む2名の警察官が,自宅に(被告人の)携帯電話の充電器を取りに来た。その際,私が,C警察官に対し,弁護人をつけた方がいいのではないかと聞くと,同警察官は,「今つけても,子どもに会えへんよ。意味ないんちゃう。弁護士は高いだけやで。自動的に国選もちゃんとつくし,大丈夫。」と言われた。国選弁護人と私選弁護人の差についても聞くと,C警察官は,「例えば保釈請求をした場合,私選弁護人はその日に動くのに対し,国選弁護人は二,三日経ってから動くという程度の違いしかない。」などと言った。事件の内容について聞くと,C警察官は,「喧嘩の中の流れで物を取ったようやから,経験上,執行猶予がつくやろうし,奪ったお金に3家族で上乗せして弁償すれば,刑はもっと軽くなる。」などと言われた。そして,C警察官から,被告人が人の名前をしゃべらないというようなことを聞き,私は,真実は一つしかないから,隠しても仕方がないという気持ちで,同警察官に対し,被告人に真実を話すよう伝えてくださいと言った。10月3日,中立売署に差入れに行って,C警察官と会った時,「明日Aを捕まえに行く。2人は先に軽い処分で送致するつもりやけど,もう1人は,1年かかっても,とことん捕まえて,重い罪で刑務所に入れてやる。」などと言われた。

私は,被告人が弁護人をつけたいと言っているのを聞いていたので,自宅の捜索があった二,三日後,妻と相談をして弁護士に会いに行こうと思って,電話を調べたり,弁護士の本を見たりしたが,C警察官の話を信じて,私は,被告人はそんなに重い罪にはならないだろう,今私選弁護人をつけても,弁護人が被告人に会うことはできず,意味はないが,ほうっておいても捜査段階のうちに国選弁護人がついて,執行猶予もつくのではないかと思い,結局弁護士会に行かなかった。

その後,差入れに行った際に,何度かC警察官と会ったが,国選弁護人が選任されたかどうかを聞いたことはなく,起訴されるまでに国選弁護人がついているのかどうかは考えなかった。「本」というのは,病院かどこかに置いてあったパンフレットみたいなもののことで,見た内容をはっきり覚えていない。また,妻がインターネットで犯罪の刑罰等を調べ,それについて聞いたことはあるが,弁護人については聞いていない。捜査段階では国選弁護人がつかないことや,接見禁止がついていても,弁護人は被告人に会うことができるということは知らなかった。もっとも,起訴される前後かはっきりしないが,妻がインターネットをしていて,弁護人であれば,接見禁止がついていても被疑者と会えることが分かった。

起訴の翌日の10月20日,接見禁止がつかなくなり,被告人の面会に行ったところ,被告人から,強盗致傷で起訴されたこと,強盗致傷は執行猶予がなかなかつかないので,すぐに私選弁護人をつけてくれるよう言われ,その日のうちに弁護士会に連絡し,弁護士を紹介してもらった。」

(ウ) 以上のとおり,捜査段階で,被告人及びその父親Fと,C警察官との間で,弁護人をつけるかどうか,被告人の今後の処分がどうなるかなどといった点につき話がなされたか否かなどについて,被告人及びFとC警察官の各公判供述が大きく食い違っている。

そこで,まず,被告人の上記公判供述を見るに,C警察官が被告人に述べたという弁護人に関する言葉や事柄等はかなり具体的で真実味を帯びていることに加え,被告人が本件公訴事実で起訴された日の翌日に,Fが私選弁護人を選任するため京都弁護士会に連絡をとり,翌21日にG弁護人が被告人の接見に赴いているところ,このFの行動は,被告人が供述するように,起訴された日に他の事件の被疑者から強盗致傷罪では執行猶予になる可能性は低いと言われたため,あわてて両親と接見をして弁護人を選任するよう頼んだことによるもの,と見るのが自然であって,そうすると,これらのことは,捜査段階で,C警察官から執行猶予になると言われていたため弁護人を選任しなかったとの趣旨の被告人の上記供述を裏付けるものといえるので,その供述の信用性を肯認することができるのである。

次に,Fの上記公判供述については,確かに,Fは,一人息子である被告人が初めて逮捕されたという重大な出来事に直面したのであり,Fが供述するように,C警察官を介して被告人が私選弁護人の選任を望んでいると聞いており,それ故に,弁護人選任を含む刑事手続に多大な関心をよせていたはずであり,実際にも,弁護士についての本(なお,後に「パンフレットのようなもの」との供述に転じている。)を読み,妻もインターネットで刑罰について調べたり,起訴の前後ころには接見禁止のことについても調べたりするなど,刑事手続についての一般的な知識を得る機会があったにもかかわらず,C警察官の話をそのまま信じていたというのもやや理解し難いものがあるし,同警察官の発言内容から,捜査段階で国選弁護人がつくと思っていたと述べながら,国選弁護人がついたか否かをC警察官に一度も確かめていないというのも,不自然な感を否めず,Fが供述する同人やその妻とC警察官との間の弁護人に関するやりとりは,その供述の具体性等を考慮しても,何らかの虚偽や誤解に基づく内容が含まれていると見ざるを得ず,その供述するとおりのやりとりがあったという形では信用し難いといわざるを得ない。

しかし,上記のとおり,被告人が強盗致傷で起訴されるや,すぐに被告人のために弁護人を選任するべく京都弁護士会に連絡をとっていることは,やはり,Fもまた被告人が執行猶予になるだろう,あるいは少なくとも執行猶予になる可能性が高いと思っていたところ,起訴された罪名等からその可能性が低いことが分かったことによるものと推察されるのであって,Fが,被告人が弁護人を選任することを希望しているとも聞きながら,起訴前の段階では弁護人を選任しないという判断をしたのは,C警察官が被告人の科刑予想について少なくとも執行猶予の可能性が高いといった程度の言及をしたことによると見るほかないのである。そして,C警察官がFにこのような発言をしたことは,被告人の上記供述を一定程度裏付けるものということができる。

これに対し,C警察官は,弁護人が必要かどうかについて被告人と話をしたことはないし,被告人の両親に対しては,「弁護士を入れるのは自由ですよ。入れるんやったら,入れてもいいですよ。」と話をした旨供述しているが,その供述は具体性が乏しい上,もし,C警察官が,上記のように,Fに対し,「弁護士を入れてもいい。」という趣旨の発言をしていたのみであって,被告人の科刑予想について執行猶予がつく可能性が高いかのような言及をしていないとすれば,Fは,被告人が強盗致傷罪で起訴され執行猶予になる可能性が低いことが分かるや,すぐに私選弁護人を選任していることからして,起訴前の段階で私選弁護人を選任していたはずであって,Fがそのような行動に出ていないということは,C警察官がFに弁護人を選任する必要性が高くないと思わせるに足りる発言をしたためであると見るのが自然であること,初めて逮捕されたような被疑者は普通弁護人をつけるかどうか悩み,とりわけ,接見禁止がついていれば,話をできるのは警察官だけであるから,弁護人のことを警察官に相談すると思われるのに(実際,Aの取調主任官であるE警察官は,Aから弁護士をつけた方がいいかどうか相談をされ,アドバイスをした旨供述している。),被告人から弁護人の話が全くなかったというのは不自然な感を否めないことにかんがみると,C警察官の上記供述の信用性は乏しいというべきである。

(エ) そして,基本的に信用できる被告人の上記公判供述及びこれをある程度裏付けるといえるFの上記公判供述によれば,被告人は,C警察官から,弁護人の選任につき,「金かかるだけやし,すぐに帰れる事件やから,必要ない。」といったことや,「3人が供述を合わせて反省しているところを見せたら,全員執行猶予で帰れる。」などと,二,三回は執行猶予で帰れるとも言われたことが認められ,C警察官が当時傷害と窃盗の事実で被告人を逮捕,勾留していたとはいえ,強盗致傷をも視野に入れて捜査していたことからすると,同警察官の上記発言は,強盗致傷罪で起訴されることになれば,その法定刑の関係から執行猶予になる可能性は低かったのに,それを秘し,あたかも執行猶予になるだろうと被告人に思い込ませて,弁護人の選任を思いとどまらせたというほかなく,被告人の弁護人選任権の行使を実質的に妨害した違法なものと解されるばかりか,自白獲得に向けた違法な利益誘導と評価すべきものである(なお,Fも,C警察官から,少なくとも,被告人の科刑予想について執行猶予がつく可能性が高いという趣旨のことを言われたことが認められるが,これがFの弁護人選任権の行使を妨害した違法なものとまでは認められない。)。

ウ  違法な切り違い尋問及び理詰めの取調べの有無について

(ア) 弁護人は,被告人の捜査段階における供述中,「「免許証を出せ。」というBの言葉を聞いて,それが金を取るという意味だと分かった。」旨の部分は,その供述に先立つ10月12日,警察官が,Bに対し,被告人及びAが,「免許証を出せ。」という発言は金を取るという意味である旨述べているということを告げ,Bから同旨の供述を引き出した上,同人がかかる供述をしている旨を被告人に告げたことによって引き出したものである旨主張し,被告人もこれに沿う供述をしている。

しかし,証人Bは,公判廷で,検察官の主尋問では,「10月12日に逮捕され,その日にうちに,「免許証を出せ。」というのは,「金を出せ。」という意味ですと認めている。最初は違うと言っていたが,C警察官から,「2人がそう言うとんやから,そうしろ。」などと言われたので,3人の調書は合わせなあかんもんやというふうに思って認めた。」旨供述していたが,その後の弁護人の反対尋問では,「C警察官から,「被告人とAはもうほとんどしゃべっている。」ということは言われたが,「2人が「免許証を出せ。」というのが金を取る意味だったということも認めているぞ。」とは,特に言われてなかったと思います。」などと供述を変えているのであって,このような供述の変遷等にかんがみると,Bは,C警察官から,「被告人とAが「免許証出せ。」の言葉は「金を出せ。」の意味であると認めているぞ。」などと嘘を言われたというのではなく,「2人はもうほとんどしゃべっているぞ。」と言われたり,追及されたりして,「免許証を出せ。」は「金を出せ。」という趣旨であることをも含めてすべての事柄を自供するに至ったものと認定すべきである。そうすると,弁護人の上記主張は前提を欠き,失当である。

(イ) また,弁護人は,E警察官から,被告人は,当初から金を取る目的であること以外は認めるよう言われ,被告人がこれに従うと,今度は,C警察官から,当初から金を取る目的でなければ,話全体が矛盾すると言われるといった理詰めの尋問をされた旨主張し,被告人もこれに沿った供述をするが,そもそも理詰めの尋問自体は尋問の技術として,合理的な必要性がある限り許されるもので,理詰めの尋問であるというだけでは直ちに任意性を否定する事由とはならないと解されるところ,被告人の上記供述だけでは,黙秘権を侵害するような強度な精神的圧迫を与えるものとか,虚偽の自白を誘発する程度に達したものに該当するとはいえないので,弁護人の上記主張は採用できない。

(ウ) したがって,任意性に疑いを差し挟むような違法な切り違い尋問及び理詰めの取調べはなかったと認めるのが相当である。

エ  暴行又は脅迫の有無について

(ア) 上記ア記載のとおり,①E警察官が,被告人の取調べ中,数回にわたり,机を叩いたり,蹴るなどしたこと,並びに,少なくとも1回,被告人に対して,こぶしと被告人の身体との間隔が,少なくとも50センチメートルないし1メートルを超えない状態で,殴るふりをしたことについて,両警察官及び被告人の各公判供述が一致していること,②E警察官が,少なくとも1回,椅子に座っている被告人のひざの上にまたがったことについても,これらの行為に及んだ本人である同警察官及び被告人の各公判供述が一致していること,これらの諸事情にかんがみると,E警察官は,少なくとも上記①及び②の行為に及んだことは明白といえる。

しかし,①E警察官が被告人に対して殴るふりをした際の同警察官のこぶしと被告人の身体との距離と,②同警察官が被告人のひざの上にまたがった上で,殴るふりをしたか否かについて,同警察官と被告人の各公判供述との間に食い違いが見られる。

(イ) この点について,E警察官の供述するところによると,同警察官はBのとった行動を再現しようとしたというのであるから(この点の信用性については後述する。),そうであるとすれば,被告人のひざの上にまたがった上で,Bが被害者のどの部分を殴ったのかを再現するのが普通であって,被害者の顔の方を向いていたのか,足の方を向いていたのかを確認するために馬乗りの態勢を確かめたというのは,余りにも不自然極まりないばかりか,Bが殴った状況を確認するのなら,馬乗りのまま殴った状況を再現するのに何ら不都合はなく,いったん馬乗りになったのをやめた後に,殴った状況を確認する必要もないのであって,したがって,馬乗りになった後に降りてから殴る格好をしたというのも,不自然,不合理であって,E警察官の上記供述部分の信用性は全くないというべきである。

そうすると,被告人が供述するように,E警察官は,被告人に馬乗りの態勢になりながら,顔面を殴る格好をし,その右手は被告人の顔面の近くで止まったと認定するのが相当である。

(ウ) 次に,馬乗りになって殴るふりなどをした時期について,E警察官は取調べの前半の時期であると供述しているのに対し,C警察官は,10月13日である旨供述しているところ,その時期がいずれであるかは,殴るふり等の目的についての両警察官の供述の信用性にも影響を及ぼすものである。

そこで検討するに,C警察官は,刑事課の警察官として約18年の経験を有し,被告人の取調主任官を担当しており,メモにより記憶を喚起した上で供述をしているのであって,被告人の取調べ状況について記憶に誤りがあるとは考え難い上,10月13日の2回の取調べのうち,2回目の午後7時15分からの取調べの際にE警察官が殴るふりをしたことや,机を叩いたため灰皿がひっくり返ったこと,そして,それらも一因となって被告人が萎縮していたため,同警察官を途中で退席させた旨,具体的かつ説得力のある説明をしていることなどに照らすと,C警察官の上記供述部分の信用性は高いというべきである。

これに対し,E警察官は,馬乗りになったり,殴るふりをしたのは,Bの犯行の再現であったから,被告人の取調べに入った当初のころであって,10月13日の被告人の取調べには最後まで立ち会っていたが,Aの取調べに関心が向けられており,被告人の供述内容はどうでもよかったので,同日の被告人の供述内容は記憶にないとも供述しているが,馬乗りになった時期につき,具体的な供述をしていないばかりか,上記のとおり,C警察官の供述によると,同日の取調べの際,被告人が,従前の供述と異なり,「免許証を出せ。」との発言は,金を取る目的でしたものであるとのBの供述と近い内容の供述をしたというのであるから,そのことはAの取調べにおいても重要な意味を有するものであることは明らかであって,E警察官が同日の被告人の取調べに最後まで立ち会っていたとすれば,その際の供述内容が記憶にないというのは不自然であって,同警察官は途中退出したからこそ,その日の被告人の供述の記憶がないと見るのが自然であるから,同警察官の上記供述部分の信用性はないといえる。

したがって,E警察官が被告人のひざに馬乗りとなり殴る格好をしたのは,C警察官が供述するように,10月13日であると認められる。

(エ) ところで,C警察官及びE警察官とも,E警察官が殴るふりをしたのは,Bの暴行を再現する目的で行ったものである旨供述するが,そもそも,Bの暴行の内容は,被告人の勾留延長後の10月13日の時点では既に明らかとなっており(E警察官自身も,再現であったから,取調べの当初の時点であった旨供述していることは,上記のとおりである。),その時点で,被告人の取調室で再現などする必要性は全くなかったと考えられるのであって(実際に,被告人立ち会いの犯行全体の再現は,10月15日に中立売警察署三階道場で行われている。),したがって,E警察官の上記行動は,灰皿がひっくり返るほどの力で机を叩いたこととも相まって,専ら被告人を威圧する目的でなされたものと見るべきであり,そのことは,C警察官がE警察官の当日の行動等によって被告人が畏怖していると感じ,取調べ開始後30分してE警察官を被告人の捜査から外し退出させていることからも裏付けられているといえる。

(オ) 以上によれば,10月13日のE警察官の上記行動は違法な脅迫に該当し,その行為等により,被告人はかなり畏怖した状態にあったことは明らかである。しかるに,C警察官は,被告人の取調主任官であって,補助官であるE警察官の当日の違法な脅迫等を目の前で見ているのに,何らそれを制止しようとしておらず,同日被告人の取調べから外しただけであることからすると,被告人の立場からすれば,E警察官と一体となって上記脅迫に及んだとも見られかねないにもかかわらず,今後自分を含む警察官が脅迫に及ぶなどして恐怖を感じさせることは一切ない旨十分に説明するなど,被告人の畏怖心を払拭する措置を何ら講じることもなく,その日の取調べを継続し,被告人が暴行前から財物奪取の目的があったというBの供述に近い内容の供述をし始めたことから,その翌日及び翌々日に更に取調べを行い,強盗目的を認める内容の警察官調書(乙3,4)を作成したものであって,E警察官の上記違法な脅迫等を利用して被告人から自白を獲得したと見る余地も十分にあるのである。

オ  以上の検討の結果によれば,上記警察官調書(乙3,4)は,警察官による違法な脅迫に加え,弁護人選任権行使に対する実質的な妨害と利益誘導のもとに作成されたもので,その取調べ過程には重大な違法があると解され,自由な意思に基づいて供述し又は供述しないことを困難にしたという点で被告人の黙秘権を著しく侵害するものでもあって,その任意性には疑いがあるといわざるを得ないのである。

(3)  検察官調書について

上記各警察官調書の作成後である10月17日及び18日のD副検事による取調べにおいて,D副検事が上記脅迫等の事情を知っていたとは認められないものの,上記脅迫等による影響を遮断するための特段の措置を講じたとの証拠もないのであるから,そのような中で作成された検察官調書(乙5,6)もまた,警察段階における違法が遮断されておらず,やはりその任意性に疑いがあると見るべきである。

なお,検察官は,被告人は,D副検事による取調べの際,Bの「免許証を出せ。」という発言を聞いて金を取る目的だと分かった理由を聞かれ,警察官調書の内容と合わせるため,先輩が「免許証を出せ。」と言って,金を取るところを見た旨供述している点について,もし,被告人が警察官の取調べに不満を抱いていたのであれば,同発言の意味は分からない旨述べれば足りるのであるから,警察官調書の内容と合わせるため嘘をついた旨の被告人の弁解は明らかに虚偽であり,上記各検察官調書の任意性に疑いはない旨主張しているが,上記のとおり,同副検事による取調べにおいて,上記脅迫による影響が排除又は軽減されたと見るべき事情が認められない上,いったん強盗の目的を認めたことにより,捜査段階においてその訂正は困難と考えるということは,了解可能な心理状態であって,被告人が供述するように,同副検事から同発言の意味を聞かれて,警察官調書の内容と合わせようとして,とっさに思いついたことを供述するということもあり得ることであると思われ,被告人の弁解を一概に排斥することはできないのであるから,検察官の上記主張は採用できない。

3  以上の次第で,上記各供述調書は,いずれもその任意性に疑いがあるから,検察官の本件証拠調べ請求を全部却下することとし,主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 東尾龍一 裁判官 景山太郎 裁判官 炭村啓)

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