京都地方裁判所 平成17年(ワ)1415号 判決 2006年4月13日
原告
X
同訴訟代理人弁護士
中村和雄
湯file_6.jpg麻里子
佐武直子
被告
社団法人近畿建設協会
同代表者理事
W
同訴訟代理人弁護士
岡本正治
宇仁美咲
主文
1 原告の後記第1の請求2項に係る金員給付を求める訴えのうち,本判決確定の日の翌日以降の訴え部分を却下する。
2 原告が被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
3 被告は,原告に対し,平成17年5月から本判決の確定する日まで毎月25日限り18万8000円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告のその余の請求を棄却する。
5 訴訟費用は10分し,その9を被告の,その1を原告の各負担とする。
事実及び理由
第1請求
1 主文2項同旨
2 被告は,原告に対し,平成17年5月から毎月25日限り20万8794円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要など
1 事案の概要
本件は,原告が被告の業務職員,後には管理員として毎年期間を更新して雇用を継続されてきたところ,被告が平成17年4月30日,期限が到来したことを理由に同年5月1日以降の雇用継続を拒絶したため,同更新拒絶が更新拒絶(雇止め)の濫用に該当するとして,<1>被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを確認するとともに<2>被告に対し,平成17年5月から毎月25日限り20万8794円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実(文章の末尾に証拠などを掲げた部分は証拠などによって認定した事実,その余は当事者間に争いのない事実)
(1) 被告は,建設事業普及のための広報活動や建設事業施工の調査研究に関する事業などを行う社団法人である。
(2) 原告は,平成9年8月,被告に「業務職員」として採用され,京都市伏見区にある被告の水質研究支所において,水質検査のデーター入力作業や報告書作成業務などを担当してきた。管理員となった後もほぼ同様の業務を担当してきた(原告本人)。
なお,原告への賃金支払は,当月分を毎月25日限り(但し,残業代の支払いは翌月25日限り)支払うとの約束であった。
(3) 原告の雇用契約更新の経過は以下のとおりである。
ア 業務職員として(雇用期間は1年)
(ア) 平成9年8月11日付け
同日~平成10年3月31日まで
(イ) 平成10年2月27日付け(<証拠略>・雇用通知書,就業承諾書)
同年4月1日~平成11年3月31日まで
(ウ) 平成11年3月18日付け(<証拠略>・雇用通知書,就業承諾書)
同年4月1日~平成12年3月31日まで
(エ) 平成12年3月24日付け(<証拠略>・雇用通知書,就業承諾書,<証拠略>・雇用期間満了通知書)
同年4月1日~平成13年3月31日まで
なお,業務職員としての雇用期間は上記のとおりの期間で契約されたが,後記のとおり管理員としての雇用契約が同年5月1日付けで締結されため(ママ),平成12年4月30日限りで終了した。被告は,同年5月25日,原告に対し,業務職員退職に伴い,退職金として36万2093円の支払をした。
イ 管理員として
(ア) 平成12年5月1日付け(<証拠略>・辞令,<証拠略>・委嘱期間満了通知書)
同日~平成13年3月31日まで
(イ) 平成13年4月1日付け(<証拠略>・辞令,<証拠略>・委嘱期間満了通知書)
同日~平成14年3月31日まで
(ウ) 平成14年4月1日付け(<証拠略>・辞令,<証拠略>・委嘱期間満了通知書,委嘱期間満了通知受領書)
同日~平成15年3月31日まで
(エ) 平成15年4月1日付け(<証拠略>・辞令,<証拠略>・雇用期間満了通知受領書)
同日~平成16年3月31日まで
(オ) 平成16年4月1日付け(<証拠略>・辞令,乙6・雇用期間満了通知書,<証拠略>・雇用期間満了通知受領書)
同日~平成17年4月30日まで
(4) 被告は,原告に対し,平成17年4月28日,同月30日限り退職する旨の退職辞令(<証拠略>)を交付し,同年5月1日以降の雇用契約を更新しなかった(以下「本件雇止め」という。)。
(5) 原告は,更新拒絶前の3か月間,以下のとおりの給与の支払を受けた。
ア 平成17年2月分 20万5660円
イ 同年3月分 21万0361円
ウ 同年4月分 21万0361円
なお,上記3か月分の平均額は20万8794円である。
3 争点及び争点に対する当事者の主張
本件雇止めは拒絶権(雇止め)の濫用にあたるか。
(原告)
ア 原告と被告との間の雇用契約は以下の事情からすると,「期間の定めのない労働契約」と実質的に異ならない状態となっていた。少なくとも,以下の事情からすると,原告は,被告との間における平成17年5月1日以降の雇用継続(更新)に対して,期待を有していたところ,その期待には合理性が認められる。
(ア) 原告が従事していた業務は恒常的なものであった。
(イ) 被告は,原告の採用に当たって,長期間の雇用継続を予定し,現実にも原告に対する雇用契約の更新を繰り返して8年間の長期にわたって雇用を継続し,その地位も業務職員から1ランク上の管理員となっていた。
(ウ) 原告と同じ立場の職員は平成17年5月1日以降も業務職員として被告との雇用契約が継続されている。
(エ) 原告についても当初本件雇止めをするのではなく平成17年5月1日以降も雇用継続することが予定されていた。
(オ) 被告は,平成17年4月30日の期間満了に当たって,原告に対し,「解雇予告通知書」(甲27)ではなく,その後の継続雇用を前提とする「雇用期間満了通知書」(乙6)を交付している。
イ 原告との雇用契約が期間の定めのある雇用契約であったとしても,上記のような原告と被告との雇用契約の場合には,解雇権濫用の法理が適用されるため,その更新拒絶(雇止め)は合理的理由がない限りできない。
ウ しかし,本件雇止めには合理性がなく,濫用と言わざるを得ず,したがって,無効である。したがって,原告は,平成17年5月1日以降,管理員としての地位,仮に,管理員としての雇用更新ができないとしても業務職員としての地位を有しているといわなければならない。
なお,管理員と業務職員と名前に相違はあるものの原告が担当してきた職務内容は両者の地位を通じて同一であって,原告は,これまで業務職員としての雇用継続を拒否したことはない。
(被告)
ア 管理員としての雇用契約による雇用期間は1年で最長5年である。
イ 被告は,平成12年4月に管理員制度が発足したため,原告を同年5月から管理員として雇用したが,その当時のみならずその後の平成14年3月1日にも,原告を含む原告と同時期に管理員として雇用したBやCに管理員の雇用契約による雇用期間は1年で最長5年であることを事前に説明をしている。
したがって,原告と被告との期間を定めた雇用契約が「期間の定めのない労働契約」と実質的に異ならない状態となっていたとはいえない。
ウ また,以下の事情からすると,原告には平成17年5月1日以降の管理員のみならず業務職員としての雇用契約の更新について合理的期待はなかった。
(ア) 原告は,業務職員として平成12年4月30日限りで退職し,その際,業務職員として勤務した期間の退職金を取得している。
(イ) 原告は,管理員として雇用契約を締結した当初,最長である5年後の更新について,どうなるのか聞いたところ,A支所長(以下「A支所長」という。)から「わからない」旨の説明を受けている(<証拠略>)。その際,A支所長は,原告に対し,管理員として更新する,また,業務職員として雇用するなどの説明をしたことはない。
(ウ) 原告は,平成17年2月28日,A支所長に対し,「業務職員ではなく管理員として採用して欲しい。業務職員は嫌です。業務職員では雇用が安定しない。給与が下がるので困ります。」旨述べ,業務職員としての雇用を拒否している。また,その後行われた全日本建設交通一般労働組合京都地域支部(以下「組合」という。)との団体交渉の場でも管理員としての雇用継続のみを申し入れ,業務職員としての雇用継続を希望することはなかった(<証拠略>)。
なお,管理員としての雇用契約と業務職員としての雇用契約とはその雇用条件(例えば,<1>月給制,<2>雇用期間,<3>就業時間など)が異なるため(<証拠略>),その性質も全く異なる。
エ そうすると,原告の被告との管理員としての雇用契約は平成17年4月30日限りで終了し,仮に,原告が同年5月1日以降の業務職員としての雇用契約を希望したとしても,被告が原告との間で同契約を締結するか否かは,改めで(ママ)被告において判断すべきことであって,雇止めに対する権利濫用の問題ではない。
第3当裁判所の判断
1 事実認定
前提事実及び証拠(<証拠・人証略>)によれば,以下の事実が認められる。
(1) 業務職員制度,管理員制度について
被告の業務職員就業規則,管理員就業規則には以下の規定がある。
ア 業務職員就業規則(<証拠略>)
(ア) 雇用期間 1年
但し,期間満了後,1年に限り雇用期間を更新することがある。業務の都合により被告が必要と認めた場合には更に雇用期間を更新することができる。
(イ) 給与・賞与・退職金
業務職員として規定され,職員の規程が準用されていない(25条ないし40条)
(ウ) 有給休暇 年次有給休暇は,採用日より6ケ月継続勤務した日を起算日とし,起算日前1年間(初年度は6ケ月間)の所定労働日の8割以上勤務した業務職員に対し,次の表に定める勤務年数に応じた日数を付与する(16条)。
<省略>
(エ) 退職 雇用期間が満了したとき(8条)
イ 管理員就業規則(<証拠略>)
(ア) 雇用期間 1年
但し,業務の都合により被告が必要と認めた場合には更に雇用期間を更新することがある。雇用期間の更新当初の1年を含めて5年を限度とする。(4条1項,3項本文)
(イ) 給与・賞与・退職金
概ね職員の給与規程を準用する(30条ないし49条)
(ウ) 有給休暇 年次有給休暇は,採用時に10日を与え,その後暦年毎に2年間は1年につき1日を,3年目以降は1年につき2日を加算する(19条)
(エ) 退職 雇用期間が満了したとき(9条)
(2) 事実の経過
ア 原告は,平成9年8月,被告に「業務職員」として採用され,その後,上記のとおり業務職員としての雇用契約が更新され,平成12年4月,管理員制度の発足にともない,同年5月1日から管理員として雇用契約を結び,管理員として働くことになった。
A支所長は,原告に対し,管理員としての雇用期間は1年で,初年度を含めて最長5年である旨の説明をしたところ,原告から5年後はどうなるのかと聞かれたため,5年後についてはわからない旨答えた。
なお,原告は,業務職員から管理員となった際,業務職員の退職を事由に被告から退職金の支給を受けている(<証拠略>)。
イ 原告は,その後,A支所長から毎年,業務職員の更新の際と同様,管理員としての1年の雇用期間が満了する1か月ぐらい前に引き続き管理員として勤務をする意向があるかどうか聞かれ,その際,継続して勤務する意思がある旨返答してきた。被告は,原告の同意向を踏まえて業務職員の時と同様に管理員としての雇用契約を各更新してきた。
なお,原告は,被告から,同各更新に当たって,事前に委嘱期間満了通知書または雇用期間満了通知書という書面を受領し,また,同各更新の際の4月1日に管理員雇用に係る同日付け辞令内容を職員ら立ち会いの下で読み上げられ,その場で辞令を受け取ってきた。
ウ 原告は,平成16年4月1日,同日付けの管理員の辞令交付を受けた後,原告とともに同時期に管理員になったB,CとともにA支所長から本年度で管理員としての期間が5年となるので来年度は管理員としての更新はできない,業務職員として働いてもらえるかとの意向聴取を受け,その際,業務職員としての処遇は元の業務職員としての条件で管理員としての処遇よりも悪くなる旨説明を受けた。遅くとも原告とBは,同月末ころまでには,業務職員でお願いしますと答え,Cは,当年度で辞めさせてもらう旨答えた。
エ(ア) 原告は,その後,特に平成17年5月1日以降の雇用についてA支所長を含めて被告と話をすることがなかったが,同年2月8日,A支所長に対して以下のことを質問した。
<1> 休暇が現在いくら残っているか。
<2> 業務職員になった場合給与はいくらになるか。ボーナスはどうか。
<3> 交通費の支給はどうなるか。
<4> 昨年度管理員が採用されているにもかかわらず,どうして今年業務職員にならなければならないのか。
(イ) A支所長は,翌週の14日に支所長会議が予定されていたため,来週になれば業務職員となった場合の原告の給与額などがわかる旨の返事をした。
オ A支所長は,同日の支所長会議及び同月16日の管理員制度の廃止に関する被告からの補足説明を受けて,同月17日ころ,原告及び原告と同じ立場にあったBに対して,給与などの業務職員としての雇用条件を説明し,5月から(来年度)業務職員としてきてくれるかとの質問をした。
原告は,被告に言われるがまま業務職員として雇用契約をするのはいやとの気持ちからA支所長にこれまでの管理員と同じ条件で,引き続き雇用して欲しい旨話すとともに同月28日ころ,今回の処置に対する疑問点などを記載した書面を持参して,被告の本部に原告作成に係る書面を取り次いで疑問点を聞いて欲しい旨話した。その際,A支所長から持参した書面内容について訂正などを示唆された。そこで,原告は,その数日後,訂正した書面を持参してA支所長と話をしたところ,A支所長は,同書面の本部への取り次ぎを拒否した。
カ(ア) 原告は,平成17年3月22日,組合に加入した(<証拠略>)。
(イ) 組合は,被告に対し,以下の内容を含む平成17年3月22日付け団体交渉申入書(<証拠略>)をもって団体交渉を要請した。
<1> 年月日 同年4月1日
<2> 議題 同年5月1日以降も原告をして管理員としての雇用を継続すること
(ウ) 組合と被告との間で同年4月1日,上記議題で団体交渉が持たれた。
被告は,同交渉の場で管理員の雇用期間は5年が限度で,原告を同年5月1日以降管理員として雇用することができない旨回答した。
(エ) 被告は,本件の被告訴訟代理人である弁護士を通じて同年4月4日付け内容証明郵便で同年5月1日以降原告を管理員としても業務職員としても雇用できない旨の通知をした。
そこで,組合は,同年4月6日付け申入書(<証拠略>)も(ママ)って引き続き同年5月1日以降の原告の管理員としての雇用継続を申し入れた。被告は,同年4月8日開かれた組合との団体交渉の中で同年5月1日以降,原告を管理員のみならず業務職員としても雇用も(ママ)できない旨回答した。そのため,組合は,同年4月9日付け申入書(<証拠略>)の中で明示的に原告を同年5月1日以降業務職員として雇用するよう申し入れている。
同年4月15日,同月22日,3回目,4回目の各団体交渉が開かれ,それを受けて組合は,同年4月20日付け申入書(<証拠略>),同月26日付け申入書(<証拠略>)で原告が同年5月1日以降も業務職員として働く意思を持っているので,同日以降も業務職員として雇用するよう申し入れている。
(オ) 原告自身も同年4月9日付け内容証明郵便(甲17)で管理員としての雇用が無理であれば,業務職員として働く意思があることを伝え,同月21日付け内容証明郵便(<証拠略>)で同年2月,3月にA支所長と話をした際,業務職員として働く意思のあることを伝えていた旨通知している。
キ 被告は,原告に対し,同年3月29日,同年4月30日で雇用期間が満了する旨の雇用期間満了通知書を交付したが,原告は,その通知受領書をすぐに出さず,同年4月5日になって同通知受領書を被告に提出した。その際,被告からの要請を受けてその提出日付けを同日から同年3月29日付けに訂正をしている。
ところで,被告は,これまで管理員としての雇用契約を更新する者には雇用期間満了通知書を交付し,更新せず退職する者には解雇予告手当通知書を交付してきた。
なお,被告は,業務職員として更新したBに対しては原告と同様の雇用期間満了通知書を交付し,更新をしないCに対しては,解雇予告通知書を交付した(甲27)。
ク 被告は,同年4月11日,原告に対し,退職金の支給手続書類を交付し,同月30日限りで雇用期間が満了する管理員13名のうち原告を除く12名に対し,同年5月2日,退職金を支給した。
被告は,上記13名のうち10名について同月1日付けで業務職員として採用した。
ケ 原告において,平成17年5月1日以降,業務職員として雇用契約が締結された場合,雇用期間は1年で,給与は日額9400円,通勤手当は,実費,有給休暇は同年4月末時点の残日数をそのまま使用することができることとなっていた。
2 事実認定上争いのある事実に対する認定判断
平成17年2月,3月当時,同年5月1日以降の業務職員として雇用継続を原告が拒否する意思を有し,そのことを被告ないしA支所長に明示していたか,検討する。
被告は,原告が平成17年2月28日,A支所長に対し,「業務職員ではなく管理員として採用して欲しい。業務職員は嫌です。業務職員では雇用が安定しない。給与が下がるので困ります。」旨述べ,業務職員としての採用を拒否し,また,その後行われた組合との団体交渉の場でも管理員としての雇用継続を申し入れ,業務職員としての雇用を希望するなどしていない旨主張するところ,証人Aは,被告の主張に沿う証言をし,また,原告は,同月18日,同僚数名に対して,「このまま黙って言われるがままに,業務職員で契約するのは嫌なんです。」とのメール送(ママ)付している(<証拠略>)。しかし,同メールの記載は,「このまま黙って言われるがままに」という条件の下で「業務職員で契約するのは嫌なんです。」との記載であって,その記載自体から直ちに,当時,原告が平成17年5月1日以降業務職員としての雇用継続まで拒絶していたとまでいうことはできない。かえって,原告は,同年2月8日の時点では業務職員になった場合,給与はいくらになるか,ボーナスはどうかなど,A支所長に同年5月以降の業務職員としての雇用継続も視野においた質問をし,A支所長も同月17日ころ,原告に対し,同年5月1日以降における業務職員の労働条件について説明をしているうえ,本件証拠上,それ以降,原告が同年5月1日以降の業務職員としての雇用継続を拒絶していたことを直接示す書面はなく,かえって,被告は,同年3月末ころ,原告に対し,解雇予告通知書ではなく,雇用継続を想定した雇用期間満了通知書を交付している。また,上記1(2)のオで認定した原告とA支所長とのやりとりに甲第24ないし第26号証に係る原告の本件での供述を総合すると少なくとも甲第24号証は真正に成立した書面で同やりとりの当初原告によって持参された書面であることが認められるところ,同書面によれば,原告は,「管理員から業務職員になり,今度は整理解雇されるのではないかと不安でいっぱいです。労働条件の切り下げ,不利益変更は,良識のある範囲で譲歩しても,雇用は自分の意思で退職を伝えるまでは,働き続けられるよう継続していただきたい。」との気持ちを持っていたこと,それをA支所長も認識していたことが認められる。そして,原告は,被告に対する同年4月9日付け内容証明郵便(甲17)の中でこれまでA支所長に管理員としての雇用が無理であれば業務職員としての雇用継続意思を伝えてきた旨記載している。以上の事実を踏まえると,原告は,積極的に同年5月1日以降,業務職員としての雇用継続を明示的に拒否したとまで認めることができず,かえって,雇用継続の意思を有し,そのことをA支所長に話したりしていたことが推認され,同認定に反する証人Aの証言部分は採用しがたい。
3 前提事実及び上記1,2で認定した事実を踏まえて本件雇止めが濫用に当たるか検討する。
(1)ア 原告は,原告と被告との間の雇用契約は「期間の定めのない労働契約」と実質的に異ならない状態となっていた旨主張する。
イ 確かに,原告の被告との雇用契約(業務職員及び管理員として)は平成9年8月以降平成17年4月30日まで毎年更新されてきた(初年度は翌10年3月末日まで)。しかし,被告は,原告に対し,業務職員のみならず管理員として原告を雇用する際,いずれも期間1年の期間雇用であることを説明し,その更新に当たって,その都度,更新時の1か月前ぐらいに原告に次年度も働くのか,その意向確認をしてきた。また,管理員の雇用期間終了にあたっては期間満了の通知がなされ,その更新当初の各年度の4月1日に当該年度の雇用に関する辞令が交付されるとともに職員の前でその辞令内容(但し,給与額は除く。)が読み上げられてきた。以上の事実からすると原告と被告との間の雇用契約は「期間の定めのない労働契約」と実質的に異ならない状態となっていたとまで認めることはできず,その他,それを認めるに足りる証拠はなく,かえって,そのような事実までにいたっていなかったことが推認される。
ウ そうすると,原告の上記(1)アの主張は理由がない。
(2)ア 原告は,少なくとも,原告が被告との間における平成17年5月1日以降の雇用継続(更新)に対して,期待を有していたところ,その期待には合理性が認められる旨主張する。
イ まず,管理員としての雇用契約の更新について検討する。
(ア) 確かに,原告が従事していた業務は恒常的なものであったし,被告との雇用契約は何度も更新が繰り返され,平成12年5月1日には業務職員としての雇用契約から管理員としての雇用契約となり,平成17年4月末日までの雇用契約の通算期間は8年間にもわたっているし,平成17年4月末日までの雇用契約の期間満了に当たっては「解雇予告通知書」(甲27)ではなく,Bと同様の「雇用期間満了通知書」(乙6)が被告から原告に交付されている。
(イ) ところで,原告は,平成12年5月1日からの管理員としての雇用契約を結ぶにあたって,A支所長から同雇用契約は1年更新で最長5年との説明を受け,その際,原告は,5年後はどうなるかと質問した際,A支所長からわからない旨の応答を受けている。また,平成16年5月1日以降に係る管理員の雇用契約の際にもA支所長から本年度で管理員としての雇用期間が5年間となるため終了する旨の説明を受け,管理員に係る就業規則にもその期間について同趣旨の規定がある。以上の事実を踏まえると,原告は,平成17年5月1日以降,管理員し(ママ)ての雇用契約が結ばれないことを認識していたことが推認され,それを覆すに足りる証拠はない。そうすると,原告は,同月1日以降について管理員としての雇用契約の更新について期待を有していたとまで認めることはできず,その他,それを認めるに足りる証拠はない。
(ウ) したがって,原告の同年5月1日以降の管理員としての雇用契約の更新に対する主張は理由がないといわなければならない。
ウ 次に,業務職員としての雇用契約の更新について検討する。
(ア) 管理員と業務職員としての地位は上記1(1)で認定したとおり相違している部分もあるが,原告が業務職員として行ってきた業務と管理員として行ってきた業務は同一で,仮に,原告が平成17年5月1日以降業務職員としての雇用が継続された場合には有給休暇が持ち越しになったことからするとその質的相違を強調することはできないところ,原告に対する管理員としての雇用契約の更新拒絶が正当としても,平成17年5月1日以降における業務職員としての雇用拒絶が当然に正当化されるわけではない。ところで,被告は,原告について,平成16年度の更新時に平成17年度(同年5月1日から1年間)における業務職員としての雇用について同人から事前確認をとるなど,元々,同日以降,原告を業務職員として雇用することを予定していたこと,仮に,原告について同日以降の業務職員としての雇用がなされた場合には有給休暇などは持ち越されることになるなど,更新予定の業務職員と管理員との継続性があること,また,上記2で認定,説示したとおり原告は,管理員としての更新を要請していた間も少なくとも業務職員としての雇用継続の意思を有し,そのことをA支所長に話したりしていたこと,原告と同じ立場(同じ時期に業務職員から管理員となり,平成17年4月末日で管理員としての雇用契約が終了する者)にあったBは平成17年5月1日以降も業務職員として被告との雇用契約が継続されていることを踏まえると,原告が同日以降,少なくとも業務職員として雇用契約が更新されることを期待していたこと,その期待には合理性があることが推認され,同認定を覆すに足りる証拠はない。以上の事実を踏まえると,原告に対する同日以降の業務職員としての雇用契約締結拒否はその実質,雇止めと同様の効果を有し,権利の濫用といわなければならない。
そうすると,原告は,同日以降,業務職員としての地位,少なくとも労働契約上の権利を有する地位にあるとするのが相当である。
ところで,被告は,組合と被告との団体交渉の場では原告を管理員として雇用継続するよう申し入れ,業務職員としての雇用を希望するなどといったことはしていない旨主張するところ,証人Aも自認するとおり遅くとも2回目の団体交渉(平成17年4月8日)の際には,原告ないし原告側から少なくとも業務職員としての雇用継続をして欲しい旨の意思が表明されていたこと(<証拠・人証略>)からすると,被告の上記主張は理由がない。
(イ) 原告の業務職員としての給与額であるが,上記認定した事実に証拠(<証拠略>)をあわせると,少なくとも1か月18万8000円を下ることがないことが認められ,同認定を覆すに足りる証拠はない。
4 原告は,給与の支払について,終期を定めることなく本判決確定後もその請求をする。しかし,雇用契約上の地位の確認とともに将来の給与の確認を請求する場合,地位を確認する判決の確定後も被告が原告からの労務の提供の受領を拒否してその給与請求権の存在を争うことが予想されるなどの特段の事情でもない限り,給与請求のうちの本判決確定後に係る部分については,予め請求する必要がないと解するのが相当である。本件においては同特段の事情を認めることができないから,本判決確定後における給与の支払を求める訴えは訴えの利益がなく不適法といわなければならない。
5 よって,主文のとおり判決する。
(裁判官 中村哲)