京都地方裁判所 平成17年(ワ)167号 判決 2006年11月30日
主文
1 被告Aは,原告に対し,149万5609円及びこれに対する平成16年8月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告Bは,原告に対し,5229円及びこれに対する平成17年2月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,原告と被告Aとの間で生じた費用は被告Aの負担とし,原告と被告Bとの間で生じた費用はこれを100分し,その99を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。
5 この判決は,1,2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
被告らは,各自,原告に対し,149万9809円及びこれに対する平成16年8月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要等
1 本件は,被告Bが経営する店舗において,被告Aが製造した足場台を購入した原告が,同足場台には,初期不整(座屈の前の状態における微妙な変形)と補強金具の不具合等があり,それが相まって同足場台が変形し,原告が傷害を負ったとして,被告Bに対し,瑕疵担保責任(民法570条)に基づき,また,被告Aに対し,製造物責任法3条に基づき,各自,損害金149万9809円及びこれに対する原告の上記傷害に対する治療が了した日の翌日である平成16年8月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
2 基礎となる事実(証拠を付さない事実は,当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
ア 原告は,昭和○年○月○日生まれの男性であり,平成16年4月3日当時,その身長は約178cmであり,その体重は約72から76kgであった(甲11,12の1,乙1)。
イ 被告Bは,家庭用大工道具等の卸売及び小売等をその業とする株式会社である(弁論の全趣旨)。
ウ 被告Aは,各種登高器械,一般機械,器具,工具及び部品の製造販売並びに修理等をその業とする株式会社である(弁論の全趣旨)。
(2) 事実経過
ア 原告は,平成12年7月16日,被告Bが経営する被告店舗において,被告Aが製造した足場台(以下「本件足場台」という。)を代金5229円で購入した(甲11,14,原告本人)。
イ 原告は,平成16年4月3日午後1時ころ,本件足場台の上に立ち,作業を行っていたところ,何らかの理由により,本件足場台から落下し,原告は傷害を負った(以下「本件事故」という。)(甲11,原告本人)。
第3争点
1 瑕疵の有無等
2 損害額
第4当事者の主張
1 瑕疵の有無等(争点1)について
(原告の主張)
(1) 上記第2の2(2)イのとおり原告が本件足場台の上に立っていたところ,突然,本件足場台の塀に向かって右後ろの1脚が変形し(以下「本件変形」といい,本件変形が生じた脚のことを「本件脚」という。),同足場台の最下段の桟の下で右下後方に傾き,その反動で,原告は,地上に転落し,その結果,原告は,左胸下部を強打した。
これに対し,被告らは,後記のとおり原告が主張する本件事故の状況を争うが,本件変形は,本件足場台に存した初期不整及び補強金具の不具合が相まって生じた,いわゆるねじれ座屈であるから,被告らの主張には理由がない。
(2) 本件事故の状況及び次の各事実から明らかなとおり,本件足場台は,通常の使用において有すべき安全性を欠いており,欠陥及び隠れたる瑕疵を有していた。
ア 本件足場台は,被告店舗において,足場台として販売されていた日用家庭品であり,専門知識を有しない一般消費者の利用において安全であることが求められる。
イ 本件足場台は,その上に人が乗って,台の上を左右に移動しながら作業するための製品であるから,原告が本件足場台の上に立って同足場台を使用することは,本件足場台の通常予見された使用形態の典型である。
ウ 本件事故は,原告が本件足場台を購入してから本件事故まで3年8か月を経過した時に生じたものであって,通常予想される使用期間中での事故である。また,原告は,本件足場台の使用時も安全に注意して使用してきており,その使用後は屋外で雨ざらしにしたというものでもなく,畳んで自宅の室内に保管してきたもので,保管方法に問題はない。
エ 原告は,本件事故当時,本件足場台の上で身を乗り出したり,揺すったり蹴ったりという行為はしていない。
(被告Aの主張)
(1)ア 原告が,本件足場台の天板上で作業中,その体のバランスを崩したことで転倒し,その際,原告の体の一部か原告が握持していた金づち等が同足場台の支柱の補強金具取付部付近に衝撃落下荷重として加わり,そのため,本件変形,すなわち補強金具を固定しているリベットが破断し,支柱に内上がるなどの変形が発生したと考えるのが自然である。
これに対し,原告は,本件変形がいわゆるねじれ座屈により生じたことを前提に,上記のとおり主張するが,本件変形は,縦方向の荷重を受けたことによるねじれ座屈ではなく,脚の先端に横方向の荷重を受けたことによるものであり,その変形の様相は,過大な荷重を受けた片持ち梁の付け根部分の塑性変形により生じたものであるから,同主張には理由がない。
イ 仮に,原告が主張するとおりの機序で本件変形が生じたとしても,その振動により,原告が本件足場台から転落するとは考えられない。
(2) 本件足場台は,次のとおり,通常有すべき安全性を欠いていない。
ア 本件変形が生じた部分は,本件足場台の踏ざんの取下部であり,そこから脚先端までの長さは相対的に短いものであるところ,材料力学的には,同部分は,弾性不安定の生じる長柱ではなく,過大応力による塑性変形から座屈が始まる短柱であり,同部分にねじれ座屈は生じないから,ねじれ座屈を考慮に入れて設計する必要はない。
イ 原告は,本件足場台に初期不整があることを前提に,本件足場台に瑕疵があると主張するが,仮に初期不整が存在したとしても,これにより脚の変形が生じるとはいえない。
ウ 本件足場台の補強金具は,同足場台の脚の強度を高めることを目的として設置されていない。また,補強金具がない状態でも本件足場台の脚は十分な強度を有しており,その補強金具の不具合が原因で脚変形が生じるものではない。
(被告Bの主張)
(1) 原告が,本件足場台上で作業中,不適切な使用方法あるいは不注意により,バランスを崩して転落し,その際に,原告の身体ないし手に持っていた金づちが本件足場台の1脚に当たり,座屈ないしねじれ座屈のような損傷が生じたにすぎない。
これに対し,原告は,上記のとおり主張するが,その主張する本件事故の態様自体不自然であり,本件足場台の一脚が座屈したことにより原告が本件足場台から転落したとは考え難い。
(2) 本件足場台は,本件事故の状況,及び本件足場台から補強金具のリベットを取り外したとしても,その座屈強度が少なくとも2000kg存し,かつ,本件足場台に補強金具又はその取付けに不良があったとの具体的な立証もないことからすると,通常有すべき安全性を欠いていない。
2 損害額(争点2)について
(原告の主張)
本件事故により,外傷性気胸及び左肋骨4本骨折等の傷害を負ったところ,原告は,次のとおり,合計149万9809円の損害を被った。
(1) 治療費 合計6万1480円
ア 入院治療費 5万6580円
イ 通院治療費 4900円
(2) 入院中の雑費 3万1500円
原告は,重傷であったから,1日当たりの入院雑費は1500円を下らない。
21日間×1500円=3万1500円
(3) 通院交通費 1600円
4回×400=1600円
(4) 慰謝料 120万0000円
原告は,4本の肋骨骨折と血気胸の傷害を負い,胸部の疼痛に苦しみ,集中治療室で1リットルもの血を抜き,骨折痕がなお残っている。これらの負傷と治療の経過における精神的苦痛は計り知れない。しかも,退院後において,原告として原因究明に努力をしてきたが,被告らはこれらを妨害するための実験に多額の費用と時間をかけ,原因究明を妨害してきた。これらによって,原告の精神的苦痛はさらに拡大されたものであり,少なくとも120万円をもって慰謝されるべきである。
(5) 足場台代金 5229円
本件事故によって,本件足場台は使用不能となった。
(6) 弁護士費用 20万0000円
原告は,自ら調停を申し立てたが,被告らは,これを争ったため,やむなく本件訴訟を提起せざるを得なかった。本件訴訟は,原告の主張立証が困難な事案であり,弁護士費用として20万円を下らない。
(被告らの主張)
原告の主張は争う。
第5当裁判所の判断
1 認定事実
(1) 第2の2の事実に,後記認定事実中に掲記の各証拠によると,次の各事実が認められる。
ア 本件足場台は,長方形の天板及び同天板の4隅にそれぞれ繋がる4本の脚からなる足場台であり,現時点では,本件足場台を立てた場合,同足場台の天板の地面からの高さは,約81.5cmから81.8cmであるが,その形状からして,天板の上に人が立ち,作業をすることが予定されている。
本件足場台の脚は,地面と平行する面で切った場合,その断面はコの字型であり,薄肉溝型構造を有しているところ,同薄肉溝型構造は,2つの平行な面とそれらとほぼ直角に結合する底面部からなる。
本件足場台の脚には,天板の短辺とほぼ平行に,向かい合っている2脚の間に踏ざんがそれぞれ2本ずつ(合計4本)取り付けられている。そして,同踏ざんのうち下側(地面に近い側)の踏ざん2本には,上記脚の間に筋交い様の補強金具が設置されており,本件事故前,同踏ざんと補強金具,脚と補強金具はそれぞれリベットで連結されていた(以下,本件脚と上記踏ざんとの間に設置されていた補強金具を「本件補強金具」,同脚と本件補強金具を連結していたリベットを「本件リベット」という。)。(以上,甲13,乙1,9,検証)
イ 平成18年4月20日に当裁判所が実施した検証当時,本件足場台を天板を上にして立てた場合,本件脚を含めて4脚すべてが地面に接しており,その上に人が立つことができる程度に安定していた(検証)。
また,本件足場台の脚のうち一脚(本件脚)が,下側(地面に近い側)の踏みざんと脚の接合部より地面側で,足場台中央に向けて右側にねじれるように曲がっており(本件変形),かつ,同脚と踏みざんとの間に筋交い様に取り付けられた補強金具(本件補強金具)のうち,踏ざん側のリベット(本件リベット)の頭部がせん断され,本件補強金具が外れた状態になっている(甲13,乙1,9,検証)。
ウ 原告は,平成16年4月3日午前11時過ぎころから,a市b区c町d番地に所在する原告の兄が所有する家屋の北側のトイレの外側に当たる塀を,同西側に所在するガレージ側から修理するために,同ガレージの同塀際に本件足場台を置き,本件足場台の天板の上に立った上で,同塀を向いて,右手に持った金づちで,同塀に取り付けられていたトタンをその上から釘打ちしていた(甲11,原告本人)。
エ 原告が,上記作業を行っていたところ,原告は同足場台から転落し,これにより胸部打撲,左肋骨4本骨折及び外傷性血気胸の傷害を負った(甲2,11,12の1,原告本人)。
オ 本件変形及び本件リベットの破断は,本件事故の際,あるいは,本件事故に接近した時点に発生した(甲11,13,原告本人)。
(2) ここで被告らは,本件変形は,原告が本件足場台から転落した際,原告の身体の一部か原告が握持していた金づち等が本件足場台の本件補強金具取付部付近に衝突し,この衝撃落下荷重として加わったことを理由として生じたと主張し,原告が主張する本件変形の発生機序を争うため,以下,検討する。
ア(ア) まず,e大学院工学研究科社会基盤工学専攻応用力学講座教授C(以下「C証人」という。)は,意見書(甲1,10,15)及び証人尋問において,圧縮力を受ける部材が材料の持つ固有の強度と比べ相当程度小さな応力で湾曲する現象を「座屈」と定義した上で,①本件足場台の脚は,その断面がコの字型であり,薄肉溝型構造を有しているところ,同溝を構成する2つの平行な面に局部的な湾曲が起こり,その面の長さが短くなるので,それに追随して同溝の底面部が足場台の中央方向に曲がることにより,本件変形が生じたと考えられること,②①のような現象が生じた原因として,本件脚に初期不整が存在したことにより,座屈が生じる荷重が初期不整がない場合と比較して小さい状態であったことに加え,本件補強金具ないしその取付方法に何らかの不具合が存在したことが相まって,いわゆるねじれ座屈が生じた可能性が最も高いと意見を述べているが,C証人の上記意見は,それ自体として特段不自然・不合理な点はなく,本件変形の状態や本件足場台の現在の状態とも整合的である。
(イ) また,原告本人は,本件事故時の状況等に関して,上記(1)ウないしオのとおり供述するとともに,原告は,①本件事故当時,本件洗車台を塀にほぼ接するように設置していた,②本件洗車台から転落後も,本件洗車台は倒れておらず,本件洗車台が原告の前(原告と塀の間に本件洗車台が位置していた)にあった旨供述するとこ。ろ,その供述自体には特段不自然な点は認められないし,上記①については,塀に取り付けられていたトタンに釘を打ち付けるという作業の性質からしても首肯できるところである。また,上記(1)イのとおり,本件足場台の現在の状態について,本件変形が生じている脚を含めて4脚すべてが地面に接しており,かつ,その上に人が立つことができる程度に安定していることは,原告の上記各供述と整合的であるともいえる。したがって,原告の上記各供述は採用できるところ,この供述ないし陳述を前提にすると,本件変形は,原告の身体の一部や原告が握持していた金づち等による衝撃落下荷重により生じたというよりは,それ以外の事由により生じたと考えるのがより自然であり,C証人の上記意見とも整合している。
(ウ) したがって,本件変形が生じた機序としては,原告が本件足場台の天板部分に乗って作業をしていた際に,本件リベットが破断するとともに,本件足場台の立てかけられていた塀からみて右後ろにある脚(本件脚)に本件変形が生じたものであり,このような変形が生じたのは,本件脚に初期不整(最初の状態における微妙な変形,例えば,当該脚がねじれている。)が存在したこと及び本件補強金具に不具合が存在したことが原因である蓋然性が高いものと推認される。そして,原告は,これにより,本件足場台のバランスが崩れるなどしたため,身体のバランスを崩して本件足場台から転落したと推認される。
イ(ア) これに対し,被告らは,原告の身体,あるいは原告の握持していた金づち等が本件脚に落下したことにより,本件変形が生じたと主張する。しかし,仮に,本件変形が被告ら主張の機序で生じたというのであれば,本件脚に衝撃が加えられた後に,上記(1)イのとおりに本件変形が生じている脚を含めて4脚すべてが地面に接しており,その上に人が立つことができる程度に安定するような状態になる可能性は低いといわざるを得ない。また,本件足場台を子細に検証しても,その足場台から被告らの上記主張を裏付ける痕跡を見出すことができない(なお,被告Aは,事故調査報告書<乙1>において,本件足場台の本件変形が生じた部分付近に,金づちにより生じたとみられる打痕傷を確認したと述べるが,検証の結果に照らすと,同打痕傷が金づちにより生じたものとは認められず,また,金づちが当該部分に当たりその結果本件変形が生じたと認めることもできない。)。そして,被告Aが提出する実験報告書(乙2)についても,本件足場台を用いて,かつ,本件事故と同一の条件で行ったものではないし,本件変形と同様の現象が再現されているとも認め難いから,採用できない。以上からすると,本件変形が,原告の身体の一部か,あるいは原告が握持していた金づち等が同足場台の支柱の補強金具取付部付近に衝撃落下荷重として加わったことにより生じたものであるとの被告らの主張は採用できない。
(イ) また,被告Aは,事故調査報告書等(乙1,5,7,10)及び証人Dの証言のとおり,同被告が本件足場台と同種類の足場台を利用してその強度検査を行ったが,これらの足場台にはねじれ座屈が生じなかったこと,また,強度計算書(乙6)のとおり,本件足場台と同種類の足場台につき強度計算を行ったところ,これらの足場台の強度は十分であるとの結果が出たことを理由に,本件変形は,ねじれ座屈により生じたものではないと主張する。しかし,仮に,本件足場台と同種の足場台を使用したとしても,当該実験及び強度計算に使用した足場台はあくまで本件足場台とは別の足場台であり,当該実験に用いた足場台に存在しない傷や変形等が本件足場台に存在していた可能性も十分にあることなどからすれば,被告Aが行った上記各種実験等は,その各種実験等で使用された足場台に本件変形と同様の現象が生じなかったことを証明するものとはいえても,本件変形がねじれ座屈により生じたとする原告の主張に対する反証になるとはいえないから,被告Aの上記主張は採用できない。
また,E技術士事務所Eは,意見書(乙11)において,本件変形はねじれ座屈により生じたものではなく,脚の先端に横方向の荷重を受けたことによるものであると述べる(以下「E意見書」という。)ところ,その内容には一般論としては首尾し得る点もないではないが,C証人の上記意見が,本件変形の状態や本件足場台の現在の状態,上記に判示した本件事故当時の状況等に関する原告本人の供述(原告本人)ないし陳述(甲11)とより整合的であることに鑑みれば,C証人の意見に対比して,E意見書は採用できない。
2 瑕疵の有無(争点1)について
原告は,本件足場台には,初期不整及び本件補強金具の不具合等の欠陥及び瑕疵があったと主張する。
そこで,この点につき検討するに,上記1(1)及び(2)の認定事実によると,原告は,本件足場台の天板の上に立って作業を行っていたところ,これは,本件足場台の通常の使用方法であり,その際に突然,同足場台の脚が変形したのであるから,原告が本件足場台を使用していた時点で,同足場台に何らかの不具合があったと推認される。
そして,上記認定事実に加え,①第2の2(2)の事実及び上記1(1)の認定事実によると,本件事故は,原告が本件足場台を購入してから約3年9か月後に発生しているが,同期間は,本件足場台が通常有する安全性が維持されてしかるべき合理的期間の範囲内であると考えられること,並びに,②本件足場台の形状からして,本件足場台の通常の用法以外の方法で使用されることがにわかに考え難い上,原告も,本件足場台を購入後,同足場台を通常の用法に従い使用していたと供述(原告本人)及び陳述(甲11)しており,特段この供述ないし陳述の信用性を疑うに足りる証拠もないことからすると,原告が,同足場台を購入後,同足場台を通常の用法に従い使用していたと推認される一方で,被告Aが被告Bに本件足場台を納入した当時から,本件足場台に本件変形の原因となる不具合があったと推認されることを総合すれば,本件足場台には,欠陥及び隠れたる瑕疵があったと認められる。
上記判示に反する被告らの主張はいずれも採用できない。
3 損害額(争点2)について
(1) 被告Aとの関係について
本件足場台には,欠陥が存在したのであるから,原告は,被告Aに対し,同欠陥により原告に生じた損害につき,その賠償を求めることができる。
そして,本件足場台の欠陥及び瑕疵により,原告は,次のとおり,合計149万5609円の損害を被ったと認められる。
ア 治療費 6万1480円
上記1及び2の認定事実によると,本件足場台の欠陥によって,原告が胸部打撲,左肋骨4本骨折及び外傷性血気胸の傷害を負ったと認められるところ,同事実に証拠(甲3ないし9<同5ないし9は枝番を含む。>,原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すると,原告は,上記傷害の治療費として6万1480円を支出したことが認められる。
イ 入院中の雑費 2万7300円
証拠(甲2ないし4,11,12,原告本人)によると,原告は,前項記載の傷害を治療するために,平成16年4月4日から同月24日まで,医療法人F(以下「F病院」という。)に入院したことが認められるところ,弁論の全趣旨によると,同期間の1日当たりの入院雑費は1300円であると解するのが相当であるから,同期間の入院雑費は合計2万7300円であると解するのが相当である。
ウ 通院交通費 1600円
証拠(甲5ないし9<枝番を含む。>,原告本人)によると,原告は,上記ア記載の傷害を治療するために,平成16年5月8日,同月24日,同年6月12日,同年7月12日,同年8月7日,F病院に通院していたことが認められるところ,弁論の全趣旨によると,同各通院1回当たりの交通費は400円であると認められるから,原告が通院交通費として少なくとも1600円を支出したことが認められる。
エ 慰謝料 120万0000円
原告は,左肋骨4本骨折及び外傷性血気胸の傷害を負ったこと,上記イ及びウのとおり,原告は,同傷害の治療のために21日間入院し,退院後も同日から約3か月半を経過するまで通院していたこと,及び,その他本件に表れた一切の事情を考慮すると,本件足場台の欠陥により原告が負った精神的苦痛を慰謝する金額は,120万円が相当であると認められる。
オ 足場台の代金5229円
本件足場台の欠陥によって本件変形が生じたことにより,本件足場台は社会通念上その使用が不可能になったと評価できる。したがって,原告は,本件足場台の欠陥により,本件足場台の価値相当額を喪失したと評価できるところ,原告が同足場台を5229円で購入したことからすると,原告が,本件足場台と同価値の物を購入するためには少なくとも5229円が必要となると解されるから,原告は,足場台の代金相当額として5229円の損害を被ったと認められる。
カ 弁護士費用 20万0000円
上記損害額,本件訴訟の審理経過,審理内容,その他本件における一切の事情を考慮すると,被告Aが原告に対し賠償すべき弁護士費用の額は20万円とするのが相当である。
(2) 被告Bとの関係について
原告は,被告Bに対し,瑕疵担保責任に基づく損害賠償を請求しているところ,本件足場台には隠れたる瑕疵が存在したのであるから,原告は,被告Aに対し,同瑕疵により原告に生じた損害につき,瑕疵担保責任に基づいて,その賠償を求めることができる。そして,上記2及び3(1)オの説示に照らすと,本件足場台には本件足場台が社会通念上使用不能に陥る瑕疵が存在していたから,同瑕疵により本件洗車台の売買契約はその目的を達することができないと解されるから,原告は,被告Bに対し,瑕疵担保責任に基づき,同足場台の代金5229円につき損害を被ったとして,同代金相当額を請求することができる。
しかし,他方で,瑕疵担保責任に基づく請求は,いわゆる信頼利益に限られると解するのが相当であるところ,治療費,入院中の雑費,通院交通費,慰謝料,弁護士費用などはいわゆる拡大損害に属するものであって,信頼利益に含まれないから,原告は,被告Bに対し,瑕疵担保責任に基づき,本件足場台の代金相当額以外の上記各損害につき請求することはできない。
なお,原告は,被告Bに対し,債務不履行責任又は不法行為に基づく損害賠償を請求していない。しかし,本件全証拠及び弁論の全趣旨をもってしても,被告Bにおいて,本件足場台に瑕疵が存したことやこれにより本件事故が発生することを予見することはできたとは認められず,同被告に本件事故に対する過失は認められないと解されるから,仮に,原告が,被告Bに対し,債務不履行又は不法行為に基づき,治療費等を損害金として請求していたとしても,同請求には理由がない。
以上から,原告は,被告Bに対し,瑕疵担保責任に基づき,足場台の代金相当額として5229円を請求することができる。
4 被告Bに対する損害賠償請求権の履行遅滞の起算点について
原告は,被告Bに対する遅延損害金の起算点は,原告がF病院に対し最後に治療費を支払った日の翌日である平成16年8月8日であると主張する。しかし,瑕疵担保責任に基づく損害賠償債務は,いわゆる期限の定めがない債務であるから,債権者が催告して初めて履行遅滞に陥ると解するのが相当であるところ,本件全証拠及び弁論の全趣旨によっても本件訴え提起以前に原告が被告Bに対しその損害金の支払を求めたと認めることはできない(なお,原告は,陳述書(甲11,13)及び本人尋問において,調停を申し立てたと陳述及び供述するが,同陳述及び供述だけでは,原告が申し立てた調停の内容及びその時期が不明確であるから,同陳述及び供述をもって,原告が本件訴え前に被告Bに対し催告を行ったと認めることはできない。)。したがって,原告の被告Bに対する損害賠償請求権の遅延損害金の起算点は,本件訴状送達の日の翌日と解するのが相当であるところ,本件訴状送達の日の翌日が平成17年2月5日であることは,本件記録上明らかである。
よって,原告の被告Bに対する損害賠償請求権の遅延損害金の起算点は,平成17年2月5日となる。
5 証拠調べの可否
なお,原告は,乙第10号証及び乙第11号証の提出が時機に後れた攻撃防御方法の提出であるとしてこれを却下することを求めている。しかし,乙第10号証及び乙第11号証を取り調べることにより本件訴訟の完結を遅延させることになるとまでは認められないことなどから,これらの証拠を採用することにする。
6 結語
以上の次第で,原告の請求は,被告Aに対し,損害金149万5609円及びこれに対する傷害の治療を了した日の翌日である平成16年8月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,被告Bに対し,損害金5229円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成17年2月5日から支払済みまで前同様年5分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める限度で理由があるから,その限度でこれを認容し,その余の請求はいずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条,64条本文,同条ただし書を,仮執行宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 山下寛 裁判官 衣斐瑞穂 裁判官 脇村真治)