京都地方裁判所 平成17年(ワ)1776号 判決 2006年3月30日
主文
1 原告らと被告B総支部及び被告Aとの間で,被告Aが被告B総支部の代表者の地位にないことを確認する。
2 原告らと被告B総支部及び被告Cとの間で,被告Cが被告B総支部の会計責任者の地位にないことを確認する。
3 原告らと被告B総支部及び被告Dとの間で,被告Dが被告B総支部の会計責任者の職務代行者の地位にないことを確認する。
4 原告らの被告Eが被告B総支部の会計責任者の地位にないことの確認を求める訴えを却下する。
5 訴訟費用は,第1事件のうち被告Eが被告B総支部の会計責任者の地位にないことの確認を求める訴えに係るものは原告らの負担とし,その余の第1事件に係るものは被告B総支部,被告A及び被告Dの負担とし,第2事件に係るものは被告B総支部及び被告Cの負担とする。
事実及び理由
第1請求及び答弁
1 第1事件
(1) 請求
ア 主文1項同旨
イ 原告らと被告B総支部及び被告Eとの間で,被告Eが被告B総支部の会計責任者の地位にないことを確認する。
ウ 主文3項同旨
(2) 答弁
ア 本案前の答弁
原告らの訴えをいずれも却下する。
イ 本案の答弁
原告らの請求をいずれも棄却する。
2 第2事件
(1) 請求
主文2項同旨
(2) 答弁
ア 本案前の答弁
原告らの訴えをいずれも却下する。
イ 本案の答弁
原告らの請求をいずれも棄却する。
第2事案の概要等
1 事案の概要
本件各事件は,原告らが,民主党の総支部である被告B総支部は代表者であった被告Aが民主党を離党し,また民主党の公認候補者でなくなったことにより,民主党総支部としての存立根拠を失ったので,解散するべきであるにもかかわらず,被告Aらが平成17年法律第105号による改正前の政治資金規正法(以下「政治資金規正法」という。)上必要な届出を行なわず,活動を継続していたため,民主党本部が,被告B総支部の全役員を解任し,原告らを被告B総支部の代表者等として選任したなどと主張して,被告A,被告E及び被告Dのほか,被告B総支部が被告Eに代えて会計責任者に選任したと主張する被告Cが被告B総支部の代表者等の地位にないことの確認を求めた事案である。
2 基礎となる事実(証拠を付さない事実は,当事者間に争いがない。)
(1) 被告B総支部の設立等
被告B総支部は,平成10年4月30日,民主党F総支部の名称で,被告Aを代表者として設立された民主党の総支部であり,同11年1月1日,その名称を現在のとおり異動した。
(2) 事実経過等
ア 被告Aは,平成13年2月6日,民主党に対し,離党届(以下「本件離党届」という。)を提出した(同党が本件離党届を受理したか否かについては,後記のとおり当事者間に争いがある。)。
イ 本件離党届は,平成13年3月27日,民主党常任幹事会において,承認され,民主党は,同年4月3日,総務大臣に対し,被告Aの離党を届け出た。(甲7の1・2,8,9)
ウ 民主党は,平成16年2月3日,常任幹事会において,当時の民主党規約25条7項,組織規約10条2項,3項に基づき,次のとおり,決定をし,措置を講じた(甲12,13。以下「本件決定」という。)。
(ア) 被告B総支部は既に代表者被告Aが離党し,その実体が消滅している。従って,被告B総支部を廃止することを決定し,合わせてその廃止に必要な諸手続を以下のとおり定める。
(イ) 被告B総支部の全役員を解任する。
(ウ) 被告B総支部について,新たに次の役員を選任した。
代表者 訴外 G
会計責任者 訴外 H
職務代行者 訴外 I
(エ) 新たに選任された被告B総支部代表者訴外G等らは,速やかに同総支部の廃止手続を行うこと。
(オ) 被告B総支部廃止に伴う諸手続については,党組織規則10条3項に基づき民主党京都府総支部連合会に委任するので,訴外G等らと協力して速やかに履行すること。
エ 被告Aは,平成16年2月10日,被告B総支部の代表者として,京都府選挙管理委員会に対し,同15年10月1日に被告B総支部の会計責任者が被告Eから被告Cに異動したとの届出をした(乙1)。
オ 原告訴訟代理人は,平成16年10月9日,被告Aに対し,本件決定を通知した(甲18の1・2)。
カ 民主党は,平成17年1月13日,総務大臣に対し,同党の支部など政党助成法5条1項記載の事項につき届出を行ったが,その際,同党の支部として被告B総支部を,同総支部の代表者として被告Aを,その会計責任者として被告Eを,会計責任者の職務代行者として被告Dを届け出た(甲16)。
キ 民主党は,平成17年5月17日,常任幹事会において,本件決定について再度確認を行った上,当時の民主党規約27条7項に基づき,次のとおり,被告B総支部の代表者等を選任した(甲3,14。以下「本件新役員選任」という。)。
代表者 原告J
会計責任者 原告 K
職務代行者 原告 L
ク 被告B総支部は,現在,民主党の支部として活動を継続している。
(3) 民主党規約等
ア 平成16年2月当時の民主党規約(以下「改正前の規約」という。)は,以下のとおり定めていた(甲2,12)。
(ア) 国会議員が離党しようとするときは,常任幹事会に申し出て,その承認を得ることを必要とする(4条2項)。
(イ) 衆議院議員選挙,参議院議員選挙の候補者の公認,推薦等は,選挙対策委員会の発議にもとづき常任幹事会で決定する。衆議院議員選挙における比例代表名簿の登載順位,衆議院議員選挙および参議院議員選挙における各比例代表選挙の名簿記載順番は,常任幹事会において決定する(22条1項)。
(ウ) 衆議院の比例代表選出議員および公認候補者,参議院の選挙区選出議員および公認候補者,参議院の比例代表選出議員および公認候補者の活動を支える党員組織として,総支部を設けることができる。比例代表選出議員および公認候補者総支部は,いずれかの県連に所属するものとする(25条2項)。
(エ) 県連および総支部等の設置および廃止,ならびに総支部長の選任には,常任幹事会の承認を要する。常任幹事会は,とくに必要と判断する場合は,県連および総支部等の支部廃止に必要な措置を講ずることができる(同条7項)。
(オ) 各級支部の設立,異動,解散に関する党内手続きについては,組織規則の定めによるものとする(同条9項)。
イ 平成17年5月17日当時の民主党規約(以下「改正後の規約」という。)には,上記ア(イ)と同旨の規定が23条1項に,上記ア(ウ)と同旨の規定が27条2項に,上記ア(オ)と同旨の規定が27条9項にあったほか,上記ア(エ)と類似の規定として,次の規定があった(甲3)。
県連および総支部等の設置および廃止,ならびに総支部長の選任には,幹事長が認め,役員会の議を経て常任幹事会が承認することを要する。幹事長は,とくに必要と判断する場合は,役員会の議を経て常任幹事会の承認にもとづき,県連および総支部等の支部廃止に必要な措置を講ずることができる(27条7項)。
ウ 民主党の組織規約には,以下の規定がある(甲2,4,12)。
(ア) 常任幹事会が(改正前の)規約第25条第7項後段に該当すると判断した場合には,本部は当該支部等の解散の勧告,解散手続きの代行等を行うことができる(10条2項)。
(イ) 本部は,前項の事務を,県連に委任することができる(同条3項)。
(ウ) 参議院議員選挙の選挙区選出議員または公認候補者を代表者とする総支部の名称は,「民主党○○○参議院選挙区第△総支部」とする(11条3項)。
第3争点
1 訴訟要件の有無
2 被告Aが民主党員又は民主党の公認候補者であるか否か。
3 本件決定及び本件新役員選任の効力
第4争点に対する当事者の主張
1 訴訟要件の有無(争点1)について
(原告らの主張)
(1) 被告Aは,民主党を離党したから,民主党の国会議員又は公認候補者の活動を支える党員組織としての被告B総支部は存立の基礎を失った。しかし,政治資金規正法上,政党の支部の解散手続は,政党の本部ではなく,当該支部の代表者等が行う以外に方法がないが,被告らは,被告B総支部の解散手続を進めず,また,代表者等の異動の届出を行わない。そこで,民主党は,本件決定のとおり,被告B総支部の解散を決定し,同総支部の役員の解任等を行った上,訴訟によって,被告B総支部を除く被告らが被告B総支部代表者等の地位にないことを法的に明らかにし,同結果に基づき,新代表者等である原告らが京都府選挙管理委員会に対し,役員異動の届出をして,同総支部の解散手続を進める必要がある。
(2) 原告らは,後記3の原告らの主張(2)のとおり,被告B総支部の代表者等であるから,本件訴訟の原告適格を有し,また,その地位はいずれも法律上の地位(政治資金規正法6条参照)であるから,本件訴訟について確認の利益を有している。
(被告らの主張)
(1) 原告Jは,後記3の被告らの主張(2)のとおり,被告B総支部の代表者ではないし,原告K及び同Lは,単なる会計責任者及び職務代行者との肩書きを表示する者にすぎないから,本件訴訟の原告適格を欠いている。また,本件訴訟には確認の利益もない。
(2) 被告B総支部は,平成15年10月1日,被告Eに替えて,被告Cを被告B総支部の会計責任者とし,同異動について,平成16年2月10日,京都府選挙管理委員会に届出をした。
2 被告Aが民主党員又は民主党の公認候補者であるか否か(争点2)について
(原告らの主張)
被告Aは,以下の各理由により,現在,民主党員ではなく,民主党の公認候補者でもない。
(1) 被告Aは,平成13年2月6日,民主党に対し,本件離党届を提出し,民主党は,同年3月27日,常任幹事会において,これを承認した。したがって,被告Aは現在民主党員ではない。
これに対し,被告らは,後記のとおり主張するが,被告Aは民主党本部に本件離党届を提出後,本件離党届を撤回していないし,幹事長に対する離党の申出は離党の要件ではなく,常任幹事会の承認があれば足りるほか,常任幹事会の決定事項は公表されていて,個別の告知は義務づけられておらず,そもそも,被告Aは自らが離党した事実を認識しているから,被告らの同主張は理由がない。
(2) 民主党の国政選挙の公認候補者は,常任幹事会において選挙ごとに決定されるものであり,当該選挙終了後も当然に公認候補者であり続けることはない。被告Aは,民主党を離党している以上,党所属国会議員でも党公認候補予定者でもない。
(被告らの主張)
被告Aは,現在も,民主党員であり,かつ,民主党の公認候補予定者である。
(1) 被告Aは,平成13年2月6日,民主党に対し,本件離党届を提出しようとしたが,党事務局は,本件離党届の受け取りを拒否し,その後,同届は受理されていない。したがって,同被告は,離党の要件の一つである民主党幹事長に対する離党の申出をしていない。
また,被告Aは,民主党から,被告Aの離党届につき党役員会の議や常任幹事会の承認を受けたことも知らされていない。
よって,被告Aが民主党から離党する手続は存在しないし,また,仮に同手続があったとしても,それは無効であるから,同被告は,今なお,民主党の党籍を有している。
(2) 当時,民主党の代表であった訴外Mは,被告Aを京都選挙区における同党の公認候補とするとの発言をしたが,その後,同被告を同党の公認候補としないとの意思表示をしていない。
したがって,被告Aは,今なお,民主党の公認候補予定者である。
3 本件決定及び本件新役員選任の効力(争点3)について
(被告らの主張)
本件決定及び本件新役員選任は,次の各理由により,無効である。
(1) 上記2の被告らの主張のとおり,被告Aは,今なお,民主党員であり,党公認候補予定者であるから,被告B総支部はその存在根拠を有している。
(2) 被告B総支部の代表者は,参議院議員選挙の選挙区選出議員又は公認候補者でなければならない(改正後の規約27条9項,組織規則11条3項)が,原告Jは,そのいずれでもない。
(3) 党規約の正式の改正は,被告Aに通知して京都府選挙管理委員会に届けさせる必要があるにもかかわらず,党規約はいずれも同被告が知らない間に改正されたものであり,同被告は京都府選挙管理委員会に届出をしていないから,これらの規約は無効である。
(4) 本件決定は,被告らに一切通知されていない。当事者に告知のない一連の手続には重大な瑕疵がある。
(5) 政治資金規正法上,当該政治団体の支部の解散権は一つの政治団体とみなした支部のみが専有する。
(原告らの主張)
本件決定及び本件新役員選任は,次の理由により,有効である。
(1) 被告Aは,民主党を離党し,党所属国会議員でも党公認候補予定者でもないから,被告B総支部の代表者たり得ず,被告B総支部はその存在根拠を失った。
(2) 本件決定当時の民主党規約は,総支部の廃止及び総支部長の選任を常任幹事会の承認事項としており(改正前の規約25条7項),誰を総支部代表者に選任するかは党本部にその裁量権がある。また,総支部の廃止の手続が民主党本部の裁量事項である(改正前の規約25条7項,改正後の規約27条7項)以上,同条項に基づき,原告K及び原告Lの選任も有効である。
被告らが被告B総支部の代表者の資格の根拠とする改正後の規約27条9項は設立,解散等に関する手続について組織規則によるとした規定であり,組織規則11条3項は総支部の名称を定めた規定にすぎず,被告らの上記主張は理由がない。
(3) 党規約の改正は東京都選挙管理委員会経由で,総務省(当時自治省)に届け出るものであり,京都府選挙管理委員会に届出をする必要はない。
(4) 本件決定は,①民主党が長期間にわたり被告B総支部の解散要請を行った後に採られた解散手続であること,②本件決定は公表されており,その後,原告訴訟代理人が被告らに対し,被告B総支部廃止の決定及び役員解任の通知を送達していることからすれば,本件決定の手続に瑕疵はない。
第5当裁判所の判断
1 被告Aが民主党員等であるか否か(争点2)について
(1) 第2の2の事実に,証拠(甲2,7の1・2,8,9,13,14)及び弁論の全趣旨を総合すると,被告Aは,平成13年2月6日,民主党に対し,本件離党届を提出し,同党は,これを受理した上で,平成13年3月27日,被告Aが本件離党届を撤回しないまま,常任幹事会においてこれを承認したこと,民主党の公認候補者は同党の常任幹事会で決定されるところ,常任幹事会は,その後被告Aを同党の公認候補者とする決定をしていないことが認められ,被告Aは,平成13年3月27日以降は,民主党の党員ではなく,同党の公認候補者でもないというほかない。
(2) これに対し,被告らは,被告Aが現在も民主党の党員であり,同党の公認候補予定者であると主張するが,本件各証拠によっても,民主党事務局が同被告が提出しようとした本件離党届の受け取りを拒否した事実は認められないし,甲10号証によれば,被告Aは平成13年7月当時に民主党を離党したこと及び民主党の公認候補者でないことを認識していたことが認められ,これらの事実に照らすと,上記主張事実を認めることはできない。
2 本件決定及び本件新役員選任の効力(争点3)について
(1) 上記1のとおり,被告Aは本件決定当時既に民主党の党員ではなく,同党の公認候補者でもなかったから,同被告を代表者とする被告B総支部は,参議院の比例代表選出議員及び公認候補者等の活動を支える民主党の総支部として存立する基盤を失ったと認められ,民主党としては解散手続をとる必要があったというべきである。
しかしながら,第2の2の事実に,証拠(甲13,14,18の1・2)及び弁論の全趣旨を総合すると,被告B総支部は,その後も,解散手続をとることなく,民主党本部の解散要請に対しても応ずることがなかったため,民主党は,平成16年2月3日,常任幹事会において,改正前の規約25条7項,組織規約10条2項,3項に基づき,本件決定をし,同17年5月17日,常任幹事会において,本件決定について再度確認を行った上,改正後の規約27条7項に基づき,本件新役員選任をしたことが認められる。
以上によれば,本件決定及び本件新役員選任は,民主党の規約等に従った適正なものであり,これらが効力を有することは明らかである。
(2) これに対し,被告らは,本件決定及び本件新役員選任の効力を争うが,改正後の規則27条9項や組織規則11条3項は党総支部の代表者が国会議員又はその公認候補者であることまで要求しているとはいえないし,政治資金規正法7条1項後文,同法6条1項3号によれば,政党の規約に異動があった場合に,京都府選挙管理委員会に対して同異動について届出をしなければならないとはされておらず,原告訴訟代理人が被告Aに対し本件決定を通知していることなどに照らすと,本件決定及び本件新役員選任の各手続に瑕疵があるとはいえないから,被告らの上記主張は理由がない。
3 訴訟要件の有無(争点1)について
(1) 上記2説示のとおり,原告Jは被告B総支部の代表者,原告Kはその会計責任者,原告Lは会計責任者の職務代行者であり,原告らが本件訴訟について当事者適格を有していると認められる。
(2) そして,被告A,被告C及び被告Dは本件決定及び本件新役員選任の効力を争い,依然として,被告Aは被告B総支部の代表者,被告Cはその会計責任者,被告Dは会計責任者の職務代行者であると称し,被告B総支部の解散手続を行わず,被告B総支部が民主党の支部として活動を継続していることに鑑みると,被告Eが被告B総支部の会計責任者でないことの確認を求める訴えを除く本件訴えについて,確認の利益があることは明らかである。
(3) これに対し,被告B総支部及び被告Eは,第4の1の被告らの主張(2)のとおり,平成15年10月1日に被告Cが被告B総支部の会計責任者に選任され,被告Eは会計責任者でなくなったと主張して,その旨の届出事項の異動届(乙1)を証拠として提出し,同被告が会計責任者の地位にないことを争っていないので,被告Eが被告B総支部の会計責任者でないことの確認を求める訴えについては,確認の利益がないというべきである。
4 結論
以上の次第で,被告Eが被告B総支部の会計責任者でないことの確認を求める訴えは不適法であるから却下すべきであり,原告らのその余の請求はいずれも適法であり,かつ,理由があるから,これらを認容することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,65条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 山下寛 裁判官 衣斐瑞穂 裁判官 脇村真治)