京都地方裁判所 平成17年(ワ)2346号 判決 2007年8月22日
主文
1 原告らの被告らに対する各請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 原告らの請求
1 被告甲野小吉は原告らに対し,別紙物件目録1ないし3及び5記載の各土地を明け渡せ。
2 被告丙川梅男は原告らに対し,同目録7記載の屋根付きガレージを収去し,同目録6記載の土地を明け渡せ。
第2 事案の概要
本件は,別紙物件目録1ないし4の土地について共有持分を有している原告らが,同目録1ないし3の土地及び同目録4の土地の一部である同目録5の土地を占有している被告甲野小吉(以下「被告甲野」という)及び同目録4の土地の一部である同目録6の土地上に同目録7記載の屋根付きガレージを所有して同目録6の土地を占有している被告丙川梅男(以下「被告丙川」という)に対し,各土地の明渡しを求めた事案である。
1 前提事実〔争いがないか,証拠(甲21,丙4)及び弁論の全趣旨によって明らかに認められる〕
(1) 当事者
ア 甲野大介(以下「大介」という)は,昭和20年10月13日死亡した。乙山春子(昭和46年12月28日死亡,以下「春子」という)及び東町夏子(以下「夏子」という)は,大介の子である。大介には長男がいたが,若くして死亡した。
イ 春子は,乙山春夫(昭和22年6月18日死亡,以下「春夫」という)と結婚し,春夫との間に,長女西村一美(平成2年8月20日死亡,以下「一美」という),長男乙山一郎(昭和18年10月2日死亡,以下「一郎」という),二男乙山二郎(春子が死亡する前に死亡した。以下「二郎」という),三男甲野三郎(平成11年2月14日死亡,以下「三郎」という),四男乙山四郎(昭和43年6月11日死亡,以下「四郎」という),五男である原告乙山五郎(以下「原告五郎」という)の6子をもうけた。原告南原美朗(以下「原告南原」という)は,一美の子であり,原告北島四葉(以下「原告北島」という)は,四郎の子であり,原告乙山進一(以下「原告進一」という)は,一郎の子である。
ウ 東町夏夫(以下「夏夫」という)は,夏子の子である。
エ 被告甲野(昭和21年2月*日生)は,大介の弟である甲野大吉の子である甲野中吉(平成13年5月9日死亡,以下「中吉」という)の子である。
オ 被告丙川の父は丙川竹男(平成15年4月4日死亡,以下「竹男」という)であり,その父は,丙川松男(昭和47年4月16日死亡,以下「松男」という)である。
(2) 別紙物件目録1ないし4記載の土地(以下「本件各土地」という)の所有関係
ア 春子及び夏夫は,本件各土地の持分各2分の1を共有していた。
イ 昭和46年12月28日に春子が死亡し,春子が所有していた本件各土地の共有持分は,原告進一,一美,乙山浩二(二郎の子,以下「浩二」という),三郎,原告北島,原告五郎がそれぞれ12分の1ずつ承継した。
ウ 平成2年8月20日一美が死亡し,本件各土地に対する一美の共有持分12分の1は原告南原が承継した。
エ 平成11年2月14日三郎が死亡し,本件各土地に対する三郎の共有持分12分の1は甲野勇三(以下「勇三」という)が承継した。
オ 以上の経緯を経て,現在,本件各土地は,夏夫が2分の1の,原告4名,浩二及び勇三がそれぞれ12分の1の各共有持分を有している(以上の7名を「本件各土地共有者ら」ということがある)。
(3) 本件各土地の現況と占有
ア 別紙物件目録1ないし3記載の土地(以下「祇園田の土地」という)の現況は農地であり,被告甲野が耕作している。
イ 同目録4記載の土地(以下「珠城の土地」という)のうち,同目録5記載の土地部分(以下「珠城の土地の西半分」という)は,被告甲野が農地として耕作して占有しており,同目録6記載の土地部分(以下「珠城の土地の東半分」という)は,被告丙川が,その一部に同目録7記載の建物(以下「本件ガレージ」という)を所有し,その余の部分を農地として耕作して占有している。
(4) 本件訴訟においてなされた意思表示
ア 原告らによる被告甲野に対する使用貸借契約の解除
原告らは,平成18年11月2日に開かれた本訴第8回弁論準備手続期日において,原告第3準備書面を陳述することによって被告甲野に対し,祇園田の土地及び珠城の土地の西半分についての使用貸借契約を解除する旨の意思表示をした(以下「本件解除の意思表示」という)。
イ 被告甲野による使用借権の時効取得の援用
被告甲野は,平成19年7月17日に開かれた本訴第3回口頭弁論期日において,被告甲野準備書面(4)を陳述することによって,祇園田の土地及び珠城の土地の西半分の使用借権について取得時効を援用する旨の意思表示をした。
ウ 被告丙川による転借権の時効取得の援用
被告丙川は,平成18年12月5日に開かれた本訴第9回弁論準備手続期日において,同月4日付準備書面を陳述することにより,珠城の土地の東半分の転借権について取得時効を援用する旨の意思表示をした。
2 当事者の主張と争点
原告らは,本件各土地の共有持分権に基づき,保存行為として,被告甲野に対し,祇園田の土地及び珠城の土地の西半分の,被告丙川に対し,本件ガレージを収去して珠城の土地の東半分の各明渡しを求めている。
被告甲野は,祇園田の土地及び珠城の土地の西半分について,①本件各土地共有者らから黙示に使用借権の設定を受けた,②仮にそうでないとしても使用借権を時効取得した,③仮にそうでないとしても,原告らの被告甲野に対する本訴請求は権利の濫用として許されないと主張した。被告甲野の①②の各主張に対し,原告らは,使用借権の設定ないし時効取得の事実を否認するとともに,本件解除の意思表示をすることによって使用貸借契約を解除したと主張し,被告甲野は,解除の効力を争った。
被告丙川は,珠城の土地の東半分について,①使用借権者である被告甲野から賃借(転借)している,②仮にそうでないとしても,転借権を時効取得したと主張した。
本件の争点及び争点に対する当事者の主張の骨子は次のとおりである。
(1) (原告らと被告甲野との間の争点)
ア 祇園田の土地及び珠城の土地の西半分について,本件各土地共有者らが被告甲野に対し,使用借権を設定したか
【被告甲野の主張】
(ア) 被告甲野の父中吉は,幼くして両親が死亡したことから,伯父である大介に引き取られ,大介によって,春子や夏子と兄弟同様に育てられた。大介は,本件各土地を耕作しており,中吉もそれを手伝っていた。大介が死亡して間もなく,大介の長男も死亡したため,唯一の男手となった中吉が,本件各土地の耕作を続け,その後被告甲野もこれを手伝うようになった。そのことについて,春子や夏子,これらの相続人から異議を述べられることはなかった。
(イ) 平成13年に中吉が死亡したので,その後は被告甲野が祇園田の土地及び珠城の土地の西半分の耕作を続けたが,そのことについて,本件各土地共有者らは異議を述べなかった。
(ウ) よって,平成13年に被告甲野が祇園田の土地及び珠城の土地の西半分について単独で耕作を始めた時点で,本件各土地共有者らと被告甲野との間で,これらの土地について期限の定めのない使用貸借契約が黙示に成立した。
【原告らの主張】
否認する。
イ 祇園田の土地及び珠城の土地の西半分について,被告甲野が使用借権を時効取得したか
【被告甲野の主張】
仮に,上記使用貸借契約の事実が認められないとすれば
(ア) 被告甲野は,遅くとも昭和49年4月1日からは,祇園田の土地及び珠城の土地の西半分について,自らが主体となって耕作をしてきた。
(イ) 昭和49年4月1日以降,被告甲野による土地の継続的な使用収益という外形的事実が存在し,その使用収益が土地の借主としての権利の行使の意思に基づくものであることが客観的に表現されていたから,被告甲野は,平成6年4月1日に祇園田の土地及び珠城の土地の西半分に対する使用借権を時効取得した。
(ウ) 被告甲野は,1の(4)イのとおり,上記取得時効を援用する旨の意思表示をした。
【原告らの主張】
(ア),(イ)の事実は否認する。
ウ 原告らの被告甲野に対する本訴請求は権利の濫用として許されないか
【被告甲野の主張】
大介が死亡した後,60年以上もの間,中吉及び被告甲野が祇園田の土地及び珠城の土地の西半分を耕作してきたものであり,そのことについて本件各土地の共有者ら,あるいはその先代らは何らの異議を述べなかったのであるから,原告らの被告甲野に対する本訴請求は,権利の濫用として許されない。
【原告らの主張】
否認ないし争う。
エ 原告らがした本件解除の意思表示は効果を生ずるか
【原告らの主張】
仮に,被告甲野が祇園田の土地及び珠城の土地の西半分について使用借権を有するとしても,原告らがした本件解除の意思表示によって,被告甲野の上記使用借権は消滅した。なお,共有土地についての使用貸借契約の解除は,共有目的物や共有者の権利に新たな負担を発生させるものではないから,保存行為として,各共有者が単独でなすことができると解するべきである。
【被告甲野の主張】
争う。
(2) (原告らと被告丙川との間の争点)
ア 珠城の土地の東半分について中吉の使用借権の有無
【被告丙川の主張】
中吉は,珠城の土地の東半分について,その共有者らから使用貸借してきた。
【原告らの主張】
否認する。
イ 珠城の土地の東半分について,被告丙川は転貸権を取得したか
【被告丙川の主張】
(ア) 松男は,中吉との間で,珠城の土地の東半分について賃貸借(転貸借)契約を締結した。
(イ) 松男の死亡により,竹男が転借人の地位を承継し,竹男の死亡により被告丙川が転借人の地位を承継した。
【原告らの主張】
否認する。
ウ 被告丙川は,珠城の土地の東半分について転借権を時効取得したか
【被告丙川の主張】
(ア) 松男は,中吉との間で賃貸借契約を締結した後,珠城の土地の東半分を畑として耕作し,賃借人の地位を承継した竹男は,中吉との間で改めて同土地の賃貸借契約を締結して,遅くとも昭和40年分以降,中吉に対して賃料の支払を続けた。
(イ) よって,土地の継続的な用益という外形的事実が存在し,その用益が賃借の意思に基づくものであることが客観的に表現されているから,竹男は昭和60年12月末日をもって珠城の土地の東半分の転借権を時効取得した。
(ウ) 被告丙川は,1の(4)のウ記載のとおり,上記取得時効を援用する旨の意思表示をした。
【原告らの主張】
(ア),(イ)の事実は否認する。
第3 当裁判所の判断
1 祇園田の土地及び珠城の土地の西半分について,本件各土地共有者らが被告甲野に対し,使用借権を設定したか(争点(1)ア)
農地について使用貸借による権利を設定するには,当事者が農業委員会の許可を受けなければならず,この許可を受けないでした行為は,その効力を生じない(農地法3条1項,4項)。被告甲野は,祇園田の土地及び珠城の土地の西半分について,平成13年に成立した本件各土地共有者らと被告甲野との間の使用貸借契約を主張するが,その契約について農業委員会の許可を受けた事実を主張しないから,被告甲野の上記主張は,それ自体で失当である。
なお,証拠(乙1,2)によると,京都府久世郡久御山町農業委員会保管の小作台帳には,祇園田の土地について,賃貸人を春子及び夏夫,賃借人を中吉とする旨の記載があることが認められるから,中吉については,祇園田の土地の賃借権ないし使用借権について,農業委員会の許可を得たか,農地法施行前の契約であったため農業委員会の許可を得る必要がなかったか,いずれかの理由で有効に賃借権ないし使用借権を取得していた可能性がある。しかしながら,被告甲野は,中吉が有していた祇園田の土地の耕作権を被告甲野が相続取得した旨の主張をしないから,小作台帳に上記の記載がある旨の事実は,上記判断を左右しない。
2 祇園田の土地及び珠城の土地の西半分について,被告甲野が使用借権を時効取得したか(争点(1)イ)
(1) 証拠(乙4,被告甲野本人)及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。
ア 中吉は,大介が死亡した後,大介の遺産であり,春子と夏子が各2分の1の割合で相続した本件各土地の耕作を続けた。
イ 被告甲野は,20歳のころ(昭和41年ころ)から中吉の農作業を手伝うようになり,遅くとも中吉が65歳になったころ,即ち遅くとも昭和49年4月1日からは,自らが主体となって祇園田の土地及び珠城の土地の西半分の耕作を行うようになった。
ウ その後今日まで,被告甲野は,祇園田の土地及び珠城の土地の西半分の耕作を続けてきた。祇園田の土地に課された土地改良区賦課金は,被告甲野において支払ってきた。
エ 中吉も被告甲野も,本件各土地共有者らに対し,上記耕作の対価を全く支払っていない。
(2) 他人の土地の継続的な用益という外形的事実が存在し,かつ,それが使用貸借による権利を行使する意思に基づくものであることが客観的にも表現されているときは,民法163条の規定により,土地の使用借権を時効により取得することができるものと解するべきであり,その場合,農地法3条の規定の適用はなく,同条1項所定の許可がない場合であっても,使用借権の時効取得が認められると解するのが相当である(賃借権について,最高裁判所第3小法廷平成16年7月13日判決・判例タイムズ1162号126頁参照)。
(1)の事実によれば,被告甲野は,遅くとも昭和49年4月ころ以降,祇園田の土地及び珠城の土地の西半分の耕作を続け,耕作者に賦課される土地改良区賦課金を支払い,他方,土地所有者に対してはこれらの土地の使用に対する対価の支払をしてこなかったのであるから,他人の土地の継続的な用益という外形的事実が存在し,かつ,それが使用貸借による権利を行使する意思に基づくものであることが客観的にも表現されていたというべきである。
よって,平成6年4月1日の経過によって時効期間が満了したから,被告甲野がした時効援用の意思表示(第2の1(4)イ)によって,被告甲野は,祇園田の土地及び珠城の土地の西半分の使用借権を時効取得したというべきである。
3 原告らがした本件解除の意思表示は効果を生ずるか(争点(1)エ)
(1) 共有物の保存行為は,各共有者が単独で行うことができるが,管理行為は持分の過半数の賛成がないと行うことができない(民法252条)。
(2) 原告らは,被告甲野との間の使用貸借契約を解除した旨主張するところ,その趣旨は,同契約には返還時期の定めがないので,契約に定めた目的にしたがい使用及び収益を終えたか,使用及び収益をするに足りる期間を経過したか,使用及び収益の目的を定めなかったことを理由に解約告知をしてその返還を請求するというものと解される(民法597条2項,3項)。しかしながら,この解約告知及び返還請求をなすか否かは,共有物全体をいかに利用するかの問題であって,共有物の管理行為に属し,持分の過半数で決するべき事項であると解するのが相当である。
(3) 原告らは,共有土地についての使用貸借契約の解約告知は,共有目的物や共有者の権利に新たな負担を発生させるものではないから,保存行為として,各共有者が単独でなすことができる旨主張する。
なるほど使用貸借は,無償行為であるから,貸主は,これを解約告知することによって,目的物を借主に使用収益させる義務を免れるという利益を受ける一方,法律的には何らの負担を被らない。しかしながら,一般に使用貸借は,特殊な関係のある者の間で特殊な事情の下に成立する契約関係であって,これを存続させるか終了させるかについては様々な利害が関係するのであって,共有者全員にとって常に利益であるとは言い得ない。そうすると,使用貸借の解約告知が共有物の保存行為として共有者単独でなし得ると解するのは相当でなく,原告らの上記主張は採用できない。
(4) よって,原告らは,本件各土地について合計12分の4の持分しか有しないから,原告らがなした使用貸借契約の解約告知の意思表示は効力を生じない。
4 珠城の土地の東半分について中吉の使用借権の有無(争点(2)ア)
2の(1)のアの事実によると,中吉は,大介が死亡した昭和20年10月13日の直後ころ,珠城の土地の東半分について,使用借権の設定を受けて,その耕作を始めたものというべきである。そして,当時は,農地の所有権,賃借権その他権利の設定又は移転に地方長官又は市町村長の許可を受けることを効力要件と定めた農地調整法(昭和20年法律第64号による改正後のもの,昭和21年2月1日施行)の施行前であるから,中吉は,有効に珠城の土地の東半分について使用借権を取得したものというべきである。
5 珠城の土地の東半分について,被告丙川は転借権を取得したか(争点(2)イ)
(1) 珠城の土地の東半分には,一部に本件ガレージが建てられているものの,大部分は農地として耕作されているから,なお,全体として農地としての性格を有しているものと認めるべきである。
(2) ところで,農地について賃借権を設定するには,当事者が農業委員会の許可を受けなければならず,この許可を受けないでした行為は,その効力を生じない(農地法3条1項,4項)。しかるに,被告丙川は,珠城の土地の東半分の転貸借契約について農業委員会の許可を受けた事実を主張しないから,被告丙川の転借権を取得した旨の主張は,それ自体で失当である。
6 被告丙川は,珠城の土地の東半分について転借権を時効取得したか(争点(2)ウ)
(1) 証拠(丙1の1,2,丙2の1ないし23,丙3,4,被告丙川本人)によると,次の事実が認められる。
ア 被告丙川は,昭和23年生まれであるが,子供のころから珠城の土地の東半分を父竹男や祖父松男が耕作しているのを記憶しており,竹男や松男からは,中吉から借りている旨の説明を受けていた。
イ その後,珠城の土地の東半分は,松男や竹男が,竹男死亡後は被告丙川が,一部に本件ガレージを所有して,その余の部分を畑として耕作して占有を続けている。
ウ 平成13年ころ,被告丙川は,竹男から珠城の土地の東半分の地代についての台帳を渡された。これには,中吉と竹男の作成名義に係り,珠城の土地の東半分を目的とし,日付の記載のない土地賃貸借契約書(丙1の1,2),昭和40年度から平成13年度までの地代支払いの記録(金額は,当初は610円であったが,徐々に値上げされ,平成2年以降は2万6400円になっている。「甲野」と刻した領収印が押捺されているのは平成7年度までである。)が綴られてあった。
エ 竹男は,平成14年12月15日,被告甲野に対し,珠城の土地の東半分の平成14年度分の地代2万6400円を提供したが,受領を拒否されたため,同月17日,京都地方法務局宇治支局に,供託者を竹男,被供託者を中吉としてこれを供託した(平成14年度金第451号)。
(2) 他人が使用借権を有する土地の継続的な用益という外形的事実が存在し,かつ,それが転借権を行使する意思に基づくものであることが客観的にも表現されているときは,民法163条の規定により,土地の転借権を時効により取得することができるものと解するべきであり,その場合,農地法3条の規定の適用はなく,同条1項所定の許可がない場合であっても,転借権の時効取得が認められると解するのが相当である。
(1)の事実によれば,竹男は,昭和40年ころ,中吉との間で珠城の土地の東半分について転貸借契約を締結し,以後,少なくとも平成7年度まで同土地を使用するとともに,中吉に対して地代を払い続けたと認めるべきであり,そうであれば,遅くとも昭和40年以降,転借権を行使する意思に基づくものであることが客観的に表現された状態で同土地の用益を継続したというべきであるから,竹男は,昭和59年の経過によって,同土地の転借権の時効期間が満了し,これを相続した被告丙川の援用(第2の1の(4)のウ)によって,竹男が珠城の土地の東半分の転借権を時効取得したことになり,これを被告丙川が相続したというべきである。
7 結論
以上の検討の結果によれば,原告らの被告甲野に対する祇園田の土地及び珠城の土地の西半分についての明渡し請求は,被告甲野がこれらの土地についての使用借権を時効取得したものであり,原告らがした使用貸借契約の解約告知は効力を生じないから,これを棄却するべきであり,原告らの被告丙川に対する珠城の土地の東半分についての明渡し請求は,被告丙川が転借権を有するからこれを棄却するべきである。
別紙 物件目録<省略>