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京都地方裁判所 平成17年(ワ)989号 判決 2006年3月28日

主文

1  被告は,原告Aに対し,28万2360円及びこれに対する平成17年5月11日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

2  被告は,原告Bに対し,30万3403円及びこれに対する平成17年5月11日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

3  被告は,原告Cに対し,28万2360円及びこれに対する平成17年5月11日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

4  被告は,原告Dに対し,28万7803円及びこれに対する平成17年5月11日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

5  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

6  訴訟費用は,これを5分し,その4を被告の負担とし,その余は原告らの負担とする。

7  この判決は,第1項ないし第4項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

1  被告は,原告Aに対し,39万8450円及びこれに対する平成17年5月11日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

2  被告は,原告Bに対し,42万1754円並びに内金41万6754円に対する平成17年5月11日から支払済みまで年6分の割合による金員及び内金5000円に対する平成17年3月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  被告は,原告Cに対し,39万8450円及びこれに対する平成17年5月11日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

4  被告は,原告Dに対し,40万2254円並びに内金39万7254円に対する平成17年5月11日から支払済みまで年6分の割合による金員及び内金

5000円に対する平成17年3月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

1  本件は,旅行業を営む被告の主催する海外旅行に参加した原告らのうち,原告A及び原告Cが,フィリピン国への入国の際,身体に入れ墨があるとして入国を拒否され,日本へ強制送還されることになったため,妻である原告B及び原告Dも共に帰国せざるをえなくなったのは,被告において,フィリピン国の入国審査体制についての情報を提供し,入れ墨がある場合には入国を拒否される危険性があると説明する義務を怠ったことによるものであるとして,旅行契約の債務不履行に基づき,原告らの被った損害を賠償請求した事案並びに原告B及び原告Dがフィリピン国において,被告の指揮監督する現地法人の社員の詐欺にあったとして,使用者責任に基づく損害賠償を請求した事案である。

2  前提事実(争いがないか証拠上明白な事実)

なお,後記本件旅行契約締結当時に施行されていた平成16年6月法律第72号による改正前の旅行業法を旅行業法といい,平成16年12月13日国土交通省令98号による改正前の旅行業法施行規則を施行規則といい,改正後のもの(平成17年4月1日施行)を新施行規則という。

(1)  被告は,昭和54年2月に設立された一般旅行業等を営む株式会社で,国土交通大臣の行う第1種旅行業務(旅行業法2条1項に定める行為を行う事業をいう。施行規則第1条の2第1項)の登録を受けている(乙8)。

被告は,社団法人日本旅行業協会(JATA)及びIATA(海外航空券を発行できる旅行業者の団体)に加盟している。

(2)  被告は,株式会社メトロポリタンが企画立案した以下のツアー(以下「本件ツアー」という。)を買い受け,被告の主催する旅行として売り出した(乙8,証人F)。

平成17年3月3日から同月7日

フィリピン航空利用

セブ島フリープラン

「プランテーションベイ」指定

5日間

代金 9万0450円/人

(3)  インターネットで本件ツアーの広告を見た原告Aは,友人であり,自己の経営する有限会社クリエイティブライフの社員でもあった原告Cとそれぞれ夫婦連れで申し込もうと思い,平成17年2月14日,被告宛に電話をして予約を入れ,関係書類(甲1ないし7,39,40)を会社宛にファックス送信してもらった(乙5)。

これらの書類は,請求書兼予約確認書(甲39),渡航手続きに関する説明書(甲1),申込書の記載例(甲40),海外旅行申込書の雛形(甲4),本件ツアーの日程及び旅行代金表(甲2),旅行業約款(乙2)の抜粋(甲3)であった。

(4)  同月17日,原告Aからの申込金が被告宛に入金され(甲11,乙5),同月22日,同原告から残金の入金がなされたので(甲12,乙5),被告は,同原告宛に最終旅行日程表(甲13,14)を郵送した。この頃,原告らと被告との間で,本件ツアーに関する旅行契約(以下「本件旅行契約」という。)が成立した。

(5)  平成17年3月3日午後1時半頃,原告らは,フィリピン航空で,関西空港からマニラ空港(ニノイアキノ国際空港)に到着した後,入国ゲートにおいて,原告Aと原告Cの両名が職員から別室に連行され,シャツをめくられて背中の入れ墨を確認された後(甲17の1・2,18の1・2),「あなたたちは,入れ墨を入れているから,やくざとして明日日本に帰ります。」と言われ,入国を拒否された。

(6)  翌日,原告B及び原告Dも,原告Aと原告Cと同じ飛行機で日本へ帰国した。その際,原告B及び原告Dは,株式会社メトロポリタンの現地法人であるメトロエクスプレスの社員Eに,帰国便のチケットを手配してくれた謝礼名義で,各5000円を交付した(甲35)。

3  争点

(1)  旅行会社は,旅行者に対し,旅行先への入国情報について,提供し,説明すべき義務があるか。

外国へ入国する責任は,旅行者個人の自己責任か。

(2)  原告らの損害額

(3)  原告B及び原告DがEに交付した金員は,詐取されたものか。

(4)  Eは,被告の指揮監督に服していたか。

4  争点に関する原告ら主張

(1)  旅行会社は,旅行先に関する情報を専ら専有しており,一方,旅行者にはその情報がなく,情報量,その分析能力にも著しい格差がある。旅行者は,旅行会社から提供される情報に全面的に依存して旅行契約締結の判断を行うものである。してみると,旅行会社には旅行契約締結意思を左右しうる事実について必要情報を調査し,これを旅行者に提供すべき義務がある。とりわけ,旅行先に入国できるか否かは,その旅行の目的の核心であり,旅行者が当該国に入国できない危険性が著しく高い場合には,旅行者は旅行契約を締結しないことが明らかであるから,旅行会社は,旅行先への入国情報について提供すべき義務がある。

フィリピン国の入国管理局においては,組織的かつ一律的に,入れ墨を有する日本人をヤクザとみなして入国拒否処分をする運用が行われており,フィリピン国の入国審査体制については,以下のような情報が存在するのであるから,被告は,原告らに対し,本件旅行契約締結に際し,入れ墨に関するフィリピン国の入国審査体制についての情報を提供し,入れ墨がある場合には入国拒否される危険性が高いことを説明する義務があった。

しかるに,被告は,これらの義務を怠った。

ア 入れ墨がある場合は入国拒否するというフィリピン国の入国審査体制は,1980年代頃より現在に至るまで,一貫して続けられており,その間これを理由に入国拒否・強制送還された日本人は,非常に多く存在する。

イ このような事態は,新聞その他のマスコミによっても報道され,旅行会社としては,容易にその情報を入手しうる状況にあった。

ウ マスコミ報道以外にも,外務省の「海外安全ホームぺージ」にも掲載され,インターネット上において,入れ墨に関する前記フィリピン国の入国審査体制は,数多く紹介されている。

エ 旅行会社と同じく,フィリピン国への入国を債務履行の当然の前提とする他業種(フィリピン人と日本人の結婚を斡旋する業者)において,入れ墨に関する前記フィリピン国の入国審査体制を紹介するとともに,入れ墨のないことを入会条件とするなどの対策を講じている。

(2)  前記被告の義務違反により,原告らは,各々以下の損害を被った。

ア 原告A

(ア) 旅行代金 9万0450円

(イ) 関西空港駐車場料 8000円

(ウ) 慰謝料 20万円

(エ) 弁護士費用 10万円

イ 原告B

(ア) 旅行代金9 万0450円

(イ) タクシー代 1940円

(ウ) ホテル代 4000円

(エ) テレフォンカード代 864円

(オ) 休業損害 1万9500円

(カ) 慰謝料 20万円

(キ) 弁護士費用 10万円

ウ 原告C

(ア) 旅行代金 9万0450円

(イ) 関西空港駐車場料 8000円

(ウ) 慰謝料 20万円

(エ) 弁護士費用 10万円

エ 原告D

(ア) 旅行代金 9万0450円

(イ) タクシー代 1940円

(ウ) ホテル代 4000円

(エ) テレフォンカード代 864円

(オ) 慰謝料 20万円

(カ) 弁護士費用 10万円

(3)  Eは,平成17年3月3日,原告B及び原告Dに対し,帰国便のチケット取得が困難であると誤信させ,その謝礼名目で5000円ずつを詐取した。

被告は,本件ツアーを株式会社メトロポリタンから,同社現地係員のサービス付きで購入した。そして,メトロエクスプレスは,株式会社メトロポリタンのフィリピンにおける現地法人であり,Eは同法人の社員である(乙3,乙4)。そして,本件ツアーにおける被告の義務の履行は,ツアー購入契約に基づき,株式会社メトロポリタンないしメトロエクスプレスの社員の現地係員を通じてなされる。Eは,メトロエクスプレスの社員であり,本件旅行の現地係員であったのだから,被告との間で,事実上,直接間接の指揮監督関係が存する。

Eは,前記行為を被告の事業の執行として行った。

5  争点に関する被告の主張

(1)  海外旅行において,当該国へ入国する責任は,すべて旅行者個人にあり,自己責任である。

被告は,社団法人日本旅行業協会の会員であるが,同協会及び同協会を指導する立場にある国土交通省から,フィリピンへの観光旅行の申込者に対し,「入れ墨が入っている場合には,フィリピンへの入国ができないこと」を告知せよとの指導ないし行政指導を受けた事実は一度もない。

また旅行業者において,フィリピンへの観光旅行者に対し,パンフレットなどにおいて,上記趣旨の告知を一般的に行っている業者は存在しない。

(2)  抗弁

原告らと被告との間の本件ツアー契約の契約書(旅行業約款)には,原告らが「官公署の命令,外国の出入国規制,伝染病による隔離又はこれらによって生じる旅行日程の変更,旅行の中止」により損害を被った場合は,被告は損害賠償責任を負わない旨の文言がある(乙2)。本件は,前記免責文言に該当するから,被告は,責任を負わない。

(3)  原告らの損害は争う。

(4)  Eが原告B及び原告Dから,各5000円ずつ受領したことは認める。これをEは,原告B及び原告Dの帰国便変更のため,航空会社の職員へ渡した。原告らのチケットは変更不可(フィックスチケット)であったので,帰国便に搭乗するため,チケットの購入が必要となり,Eが便宜を図ったものである。

Eが,被告の指揮監督に服することは否認する。

第3判断

1  争点(1)について

(1)  旅行業を営む者は国土交通大臣の登録を受けなければならず(旅行業法3条),営業所ごとに旅行業取扱主任者を選任して後記取引条件の説明等を行わせなければならず(同法11条の2),旅行業取扱主任者は,国土交通大臣の行う試験に合格した者でなければならないとされている(同法11条の2,11条の3)。

そして,旅行業者は,旅行業務に関して旅行者と契約を締結しようとするときは,国土交通省令で定めるところにより,その取引条件について説明しなければならず,その説明は書面を交付して行うものとされている(同法12条の4第1項,第2項)。

このように,旅行業者については,国家試験の合格者をもって,旅行者に対し,当該旅行に関する取引条件の説明をさせる義務が課せられているところ,これは,旅行内容や旅行先に関する情報について,専門家である旅行業者と一般旅行者との間には情報量,情報収集能力やその手段において大きな格差が存在しており,旅行者が,当該旅行に参加するか否かの意思決定に際しても,かかる情報が重要な要素をなすものと考えられるからである。

(2)  さらに,本件のような海外旅行の場合には,気候,風土,習慣等の異なる外国への旅行であるから,当該旅行中の安全や旅行先の治安等に関する情報,食べ物や疾病等,生命身体への危険性に関する情報についても,これらを収集し,旅行者に対して,告知説明すべき義務があるものというべきである(新施行規則25条1項のワにおいて,安全や衛生に関する情報についても説明の対象とされたことは,当然のことを明文化したものと考えられる。)。

そして,海外旅行の場合,当該外国へ入国できることがその旅行の当然の前提となっているのであるから,入国に関する法律上ないし事実上の制約等が存在する場合には,できる限りこれらに関する情報についても入手に努めるべきである。

(3)  もっとも,入国管理政策は,当該外国の裁量に委ねられており,我が国の旅行業者が独自にかかる情報を入手することは困難であると考えられるので,かかる場合には,我が国の公的機関等の提供する情報の入手,提供,説明でもって足りるものと解するのが相当である。

このような情報の入手先としては,被告の主張する社団法人日本旅行業協会や,同協会を指導監督する立場にある国土交通省が考えられるが,海外旅行の場合には,「海外における邦人の生命及び身体の保護その他の安全に関すること」「海外渡航に関すること」を所管事務(外務省設置法4条)とする外務省の提供する情報についても,当然その対象になるものというべきである。

そして,外務省の「海外安全ホームぺージ」のフィリピン国のページには,「安全対策基礎データ」の項目に「査証,出入国審査等」の欄が設けられ,その欄においては,平成16年3月から「入れ墨や指の欠損などの身体的特徴から日本の犯罪組織に属するものと判断され,入国を拒否される例もあります。」との記載がなされていることが認められ(甲16,38の1・2,外務省領事局海外邦人安全課宛の調査嘱託の回答),このホームページの情報は,誰でも容易かつ無償で入手することができるものである(弁論の全趣旨)。(この点について,被告が原告らにファックス送信した関係書類のうち,渡航手続きに関する説明書(甲1)にも,「渡航先によっては,外務省より危険情報などの安全関係の海外渡航関連情報が出されている場合があります。ご出発までに必ずご自身にてご確認下さい。」との記載がなされている。)

(4)  してみると,旅行業者が海外旅行を主催する場合には,少なくとも,当該外国に関する外務省の「海外安全ホームぺージ」程度はこれを閲覧し,「査証,出入国審査等」の情報を含む「安全対策基礎データ」の情報はこれを入手し,必要な情報については,旅行者に提供し,説明するべき義務があるというべきである。

(5)  しかるに,被告において,かかる情報を入手せず,原告らに対して,提供しなかったのであるから(この点は争いがない。),被告は,本件旅行契約に伴う義務を履行しなかったことになる。

(6)  そして,原告らにおいて,被告から「入れ墨や指の欠損などの身体的特徴から日本の犯罪組織に属するものと判断され,入国を拒否される例がある。」との情報を提供され,説明を受けていれば,背中に入れ墨を入れている原告Aと原告Cは,本件ツアーの申し込みをしなかったものと推認され(甲32,原告A),それぞれ妻である原告B及び原告Dについても同様であったと推認できるので,被告は,原告らが本件旅行契約を締結したことにより原告らの被った損害を賠償すべき責任がある。

(7)  被告は,社団法人日本旅行業協会及び国土交通省から,フィリピンへの観光旅行の申込者に対し,「入れ墨が入っている場合には,フィリピンへの入国ができないこと」を告知せよとの指導ないし行政指導を受けた事実は一度もないし,また旅行業者において,フィリピンへの観光旅行者に対し,パンフレットなどにおいて,上記趣旨の告知を一般的に行っている業者は存在しないと主張するが,前記のとおり,海外旅行の性質からして,海外旅行を主催する旅行業者には,前記のとおりの情報を入手し,提供し,説明すべき義務があると認められるので,これまで,国土交通省等から告知や指導がなされなかったとしても,被告の義務が消滅ないし軽減されるものではない。

(8)  また,被告は,海外旅行において,当該国へ入国する責任は,すべて旅行者個人にあり,自己責任である上,原告らと被告との間の本件ツアー契約の契約書(旅行業約款)には,原告らが「官公署の命令,外国の出入国規制,伝染病による隔離又はこれらによって生じる旅行日程の変更,旅行の中止」により損害を被った場合は,被告は損害賠償責任を負わない旨の文言がある(乙2)旨主張する。

しかし,前提事実記載のとおり,被告が原告らにファックス送信した関係書類には,旅行業約款(乙2)は含まれておらず,その抜粋(甲3)のみであったこと,そして,その抜粋(甲3)には,被告主張の記載はないのであるから,旅行業約款(乙2)を理由とする被告の抗弁は,採用できない。

(9)  もっとも,入れ墨を入れている場合には,その特殊性ゆえに,我が国においても,社会的にかなりの制約を受けていることは公知の事実であり,原告Aにおいても認めるところである(原告A)。そして,被告からファックス送信された関係書類のうち,渡航手続きに関する説明書(甲1)には,「渡航先によっては,外務省より危険情報などの安全関係の海外渡航関連情報が出されている場合があります。ご出発までに必ずご自身にてご確認下さい。」との記載がなされていること,前示のとおり,外務省の「海外安全ホームぺージ」の情報は,誰でも容易かつ無償で入手することができるものであることなどを考慮すると,自らの身体に入れ墨を入れている原告側においても,渡航先の外国において制約を受けるおそれの有無について,情報の入手,収拾に努めるべきである。

したがって,原告側において,かかる行為を怠った場合には,原告側の落ち度として,損害額を減額する事情になりうるものと考える。被告の主張する自己責任の原則もこのような趣旨に理解する。

2  争点(2)について

前記被告の義務違反により,原告らは,各々以下の損害を被ったと認められる。

(1)  原告A

ア 旅行代金 9万0450円

甲11,12,39により,認められる。

イ 関西空港駐車場料 0円

甲46によれば,関西空港駐車場料の支払名義人は,有限会社クリエイティブライフと認められるので,原告Aの損害とは認められない。

ウ 慰謝料 20万円

原告Aは,南の島での楽しい旅行を目前に,空港の留置場で一夜を明かし,翌日,我が国へ強制送還されたもので(甲32,原告A),精神的苦痛を被ったことは容易に推察できる。その慰謝料としては,20万円が相当である。

エ 減額事情

前提事実記載のとおり,原告Aは,本件ツアーの広告をインターネットで見て予約を入れたもので,外務省の「海外安全ホームぺージ」の情報も容易に閲覧できると推認できること,前示のとおり,自己の入れ墨についても,社会的にかなりの制約を受けていることを認識していること,渡航手続きに関する説明書(甲1)にも,「渡航先によっては,外務省より危険情報などの安全関係の海外渡航関連情報が出されている場合があります。ご出発までに必ずご自身にてご確認下さい。」との記載がなされていることなどを総合考慮すると,入れ墨によって渡航先の外国においても制約を受けるおそれの有無について,原告Aにおいて,情報の入手,収拾を怠ったというべきである。

この事情を原告側の落ち度とし,諸般の事情を考慮して,上記損害額の2割を減額するのが相当である。

オ 被告の賠償すべき損害額

以上に従うと,23万2360円となる。

カ 弁護士費用 5万円

本件事案の性質,内容,損害額等を考慮すると,5万円が相当である。

(2)  原告B

ア 旅行代金 9万0450円

原告Aと同様である。

イ タクシー代 1940円

甲35,原告Dによると,原告Bと原告Dが,フィリピン国マニラにおいて支出したタクシー代は,日本円に換算すると3880円(1人当たり1940円)と認められる。

ウ ホテル代 4000円

弁論の全趣旨によると,原告Bが,フィリピン国マニラにおいて支出したホテル代は,日本円に換算すると4000円と認められる。

エ テレフォンカード代 864円

甲35,原告Dによると,原告Bと原告Dが,フィリピン国マニラにおいて支出したテレフォンカード代は,日本円に換算すると1728円(1人当たり864円)と認められる。

オ 休業損害 1万9500円

甲47,原告Aによると,原告Bは,本件ツアーのため,仕事を5日間休み,その間の得べかりし給与1万9500円(日当3900円)の損害を被ったことが認められる。

カ 慰謝料 20万円

原告Bは,南の島での楽しい旅行を目前に,夫である原告Aが空港で留置され,その身を心配しながら一夜を明かし,翌日,本件ツアーに参加しないまま我が国へ帰国したもので(弁論の全趣旨),精神的苦痛を被ったことは容易に推察できる。その慰謝料としては,20万円が相当である。

キ 減額事情

原告Aと同様である。

ク 被告の賠償すべき損害額

以上に従うと,25万3403円となる。

ケ 弁護士費用 5万円

原告Aと同様である。

(3)  原告C

ア 旅行代金 9万0450円

原告Aと同様である。

イ 関西空港駐車場料 0円

弁論の全趣旨によれば,原告Aと同様,関西空港駐車場料の支払名義人は,有限会社クリエイティブライフと認められるので,原告Cの損害とは認められない。

ウ 慰謝料 20万円

原告Aと同様である。

エ 減額事情

原告Aと同様である。

オ 被告の賠償すべき損害額

以上に従うと,23万2360円となる。

カ 弁護士費用 5万円

原告Aと同様である。

(4)  原告D

ア 旅行代金 9万0450円

原告Aと同様である。

イ タクシー代 1940円

原告Bと同様である。

ウ ホテル代 4000円

原告Bと同様である。

エ テレフォンカード代 864円

原告Bと同様である。

オ 慰謝料 20万円

原告Bと同様である。

カ 減額事情

原告Aと同様である。

キ 被告の賠償すべき損害額

以上に従うと,23万7803円となる。

ク 弁護士費用 5万円

原告Aと同様である。

3  争点(3)について

(1)  証拠(甲14,32,35,41ないし44,原告A及び原告D)によると,以下の事実が認められる。

ア 原告らの持っていた航空券は,フィックスチケットで,日時や航空便の変更はできないものであった(甲41ないし44)。

イ 原告B及び原告Dは,原告A及び原告Cが留置された後,旅行日程表(甲14)の現地手配会社欄に記載されているメトロエクスプレスに電話をし,Eに空港まで来てもらい,事情を話して,翌日夫らと一緒に帰国したいので,航空機のチケットを取ってほしいと依頼した。

ウ 依頼を承諾したEは,翌日になって,「チケットが取れないかもしれない。」と言ってきた。そこで原告B及び原告Dは,Eに対し,「チケットが取れたら,お礼をするから。」と告げた。そして,Eが空港のカウンターに行き,帰国便の航空券を取ってくれたので,原告B及び原告Dは,謝礼の意味で,各5000円をEに交付した。

エ 一方,原告A及び原告Cは,留置された際,入国管理局の職員に,「明日,強制送還されるなら,妻達の航空券も手配してほしい。」と頼み,「大丈夫」と言われていたところ,翌日になって,原告B及び原告Dを一緒に帰国させるため迎えに来た職員から,同原告らに対し,帰国便の航空券についての話が出たことを認めるに足りる証拠はない。

(2)  以上の事実からすると,原告B及び原告Dの帰国便の航空券は,依頼を受けたEが空港のカウンターに行って入手したものと認められ,入国管理局の職員が,手配したものとは認めがたいというべきである。

そして,原告らの持っていた航空券がフィックスチケットであったことを考慮すると,Eにおいて,謝礼を得るために,帰国便のチケットの入手が容易であるのにことさら難しいと原告B及び原告Dを騙したとまで認めることは困難というべきである。

(3)  したがって,原告B及び原告DがEに交付した金員が詐取されたものであるとまで認めることはできず,その余の点について判断するまでもなく,使用者責任に基づく請求は理由がない。

第4結論

以上のとおりであるから,原告らの本訴請求は,主文掲記の限度で理由がある。

(裁判官 中村隆次)

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