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京都地方裁判所 平成18年(わ)435号 判決 2006年11月15日

上記の者らに対する道路交通法違反、労働基準法違反被告事件について、当裁判所は、検察官田端香織、同恒川由理子、私選弁護人松本智之各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人Y1株式会社を罰金60万円に、被告人Y2を懲役1年2月に、被告人Y3を懲役1年にそれぞれ処する。

被告人Y3に対し、この裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人Y1株式会社(以下「被告会社」ともいう)は、大津市<以下省略>に本店及び事業所を設けて石油製品の保管及び運送等を営む事業主、被告人Y2は、被告会社の代表取締役として被告会社の業務全般を統括し、統括運行管理者である被告人Y3を指揮命令するなどして被告会社使用に係る自動車の安全な運転に必要な業務を行っていたもの、被告人Y3は、上記のとおり、被告会社の統括運行管理者として、被告会社の運転者に対する輸送を指示して自動車の運送を直接管理するとともに、被告会社の労働者の労働時間管理を統括していたものであるが、被告人Y2及び同Y3は、

第1  共謀の上、被告会社の業務に関し、被告会社が、労働者の過半数を代表する者との間で、書面により、平成17年4月16日から平成18年4月15日までの時間外労働及び休日労働に関する協定を締結し、自動車運転者に対して、法定労働時間を超えて延長することができる時間は、1日につき7時間、1か月につき130時間、法定休日の範囲を超えて労働させることができる休日は、2週を通じ1回などとそれぞれ定め、平成17年4月15日、大津労働基準監督署長に届け出ていたのであるから、上記各協定時間及び協定休日の範囲を超えて労働させてはならないのに、被告会社の労働者であるBをして、上記事務所等において、

1  1日7時間を超えて、

(1) 同年12月15日に1時間15分の、

(2) 同月17日に1時間30分の、

(3) 同月22日に1時間30分の、

(4) 同月23日に30分の、

(5) 同月29日に1時間15分の、

(6) 同月31日に1時間の

それぞれ時間外労働をさせた、

2  1か月130時間を超えて、

(1) 同年11月16日から同年12月15日までの間に15時間30分の、

(2) 同月16日から平成18年1月15日までの間に38時間15分の

それぞれ時間外労働をさせた、

3  平成17年12月24日から平成18年1月6日までの2週間にわたり、1回の休日も与えず、もって、協定休日の範囲を超えて労働をさせた、

第2  被告会社の業務に関し、被告会社配車担当者Dと共謀の上、被告会社の自動車運転者であるBが過労により正常な運転ができないおそれがある状態で車両を運転することを認識しながら、平成18年2月12日午後3時15分ころ、同人に対し、被告会社の使用する特定大型特種自動車(タンクセミトレーラ)を運転して、上記の被告会社本店から大阪府堺市<以下省略>所在のa株式会社堺工場を経て大津市<以下省略>所在の株式会社b日吉台ガソリンスタンドまで石油製品を運搬した後、上記a株式会社堺工場を経て滋賀県近江八幡市<以下省略>所在の株式会社c近江八幡店ガソリンスタンドへ石油製品を運搬し、さらに、上記a株式会社堺工場を経て滋賀県甲賀市<以下省略>所在の株式会社c水口城南店ガソリンスタンドへ石油製品を運搬するよう指示してこれに従わせ、同人が、同月13日午前5時51分ころ、上記a株式会社堺工場から上記株式会社c近江八幡店ガソリンスタンドに向かう途中、京都府宇治市<以下省略>京滋バイパス上り線496.6キロポスト先道路において、過労により正常な運転ができないおそれがある状態で上記自動車を運転することを容認したものである。

(証拠の標目)なお、括弧内の甲、乙の数字は、証拠等関係カード記載の検察官請求証拠番号を示す。

判示事実の全部について

被告人Y2及び同Y3の各公判供述

判示冒頭の事実について(書証省略)

被告人Y2及び同Y3の各警察官調書

履歴事項全部証明書

捜査報告書

判示第1の全事実について(書証省略)

被告人Y2の検察官調書及び警察官調書

被告人Y3の検察官調書及び警察官調書

Bの検察官調書及び警察官調書

捜査報告書

判示第2の事実について(書証省略)

第1回公判調書中の被告人Y2及び同Y3の各供述部分

被告人Y2の検察官調書及び警察官調書

被告人Y3の検察官調書及び警察官調書

Dの検察官調書

Bの検察官調書

E、F及びGの各警察官調書謄本

捜査報告書

捜査関係事項照会書謄本

捜査関係事項回答書謄本

実況見分調書謄本

自動車検査証謄本

(法令の適用)

1  被告人Y1株式会社

被告会社の判示第1の1の(1)ないし(6)の各所為は、いずれも労働基準法121条1項、119条1号、32条2項に、判示第1の2の(1)及び(2)の各所為は、いずれも同法121条1項、119条1号、32条1項に、判示第1の3の所為は、同法121条1項、119条1号、35条に、判示第2の所為は、平成16年法律第90号附則23条により同法による改正前の道路交通法123条、117条の4第6号、75条1項4号、66条にそれぞれ該当するところ、以上は刑法45条前段の併合罪であるから、同法48条2項により各罪所定の罰金の多額を合計した金額の範囲内で、被告会社を罰金60万円に処し、訴訟費用は、刑訴法181条1項ただし書により被告会社に負担させないこととする。

2  被告人Y2及び被告人Y3

被告人両名の判示第1の1の(1)ないし(6)の各所為は、いずれも刑法60条、労働基準法119条1号、32条2項に、判示第1の2の(1)及び(2)の各所為は、いずれも刑法60条、労働基準法119条1号、32条1項に、判示第1の3の各所為は、いずれも刑法60条、労働基準法119条1号、35条に、判示第2の各所為は、いずれも刑法60条、平成16年法律第90号附則23条により同法による改正前の道路交通法117条の4第6号、75条1項4号、66条(更に、被告人Y2につき、同法123条を付加)にそれぞれ該当するところ、被告人両名につき、判示各罪について各所定刑中懲役刑をそれぞれ選択し、以上は刑法45条前段の併合罪であるから、同法47条本文、10条により最も重い判示第2の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で、被告人Y2を懲役1年2月に、被告人Y3を懲役1年にそれぞれ処し、被告人Y3に対し、情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予し、訴訟費用は、刑訴法181条1項ただし書により被告人両名に負担させないこととする。

(量刑の理由)

1  本件は、石油製品の保管及び運搬等を目的とする被告会社の代表取締役及び同社の統括運行管理者が、(1)共謀の上、同社の運転者(以下「本件運転者」という)をして、同社の労使協定によって定められた(ア)1日当たりの延長労働時間の上限を超え、6日間にわたり合計7時間の、(イ)1月当たりの延長労働時間の上限を超え、2か月にわたり、合計53時間45分の時間外労働をさせ、(ウ)法定外休日労働の範囲を超えて、2週間にわたり1回の休日も与えずに労働させたという労働基準法違反(判示第1)、(2)同社配車担当者と共謀の上、本件運転者が過労により正常な運転ができない状態にあるのを認識しながら、同人に対し、1日3往復の石油製品の運搬を指示してこれに従わせ、その運搬中の同人の過労運転を容認したという道路交通法違反(判示第2)からなる事案である。

2  被告会社は、大型牽引タンクローリー車又は大型タンクローリー車(これらの車を、以下、単に「タンクローリー」という)により大阪府堺市内の油槽場から滋賀県内の配送先であるガソリンスタンド約40店舗までガソリンや灯油等を運搬することを主たる業務とし、21台のタンクローリーとトラック1台を保有していたものであるが、平成16年ころから無人の24時間営業のガソリンスタンドが増加したことなどがあり、灯油の運搬等が加わる冬場を中心に、かねてより従業員運転者に荷積みや荷下ろしを含め往復約5時間を要する上記の運搬を1日に3回行わせるなどして長時間労働をさせることがあり、平成17年10月に大津労働基準監督署から、臨検の上、同年7月から9月までの2か月間に関し、運転者2名の各1か月の総拘束時間が320時間を連続して超えていることや勤務終了後継続8時間以上の休息時間を与えていないことなどの労使協定等の違反について是正勧告を受けた。これに対し、被告会社は、同年11月に運転者の新規雇用等を内容とする是正報告書を同労働基準監督署に提出したが、運転者の勤務状況が従前と比べ何ら改善されていなかったことから、口頭注意を受け、再度是正報告を求められた。そのころ、被告会社では、同年春ころから従業員に無断で給与の支給基準を見直し大幅に減額したことや労働が過重であったことへの不満等を原因として、同年10月ころから平成18年1月ころまでの間に8名の運転者が退職し、また、例年よりも厳冬であったため平成17年11月ころから灯油の受注が増えたことなどから、運転者の拘束時間は改善するどころか増加しており、平成18年1月19日には近畿運輸局滋賀運輸支局が同社に監査に入り、運転者の1か月の総拘束時間が320時間を超える状況があったことなどから早急な改善を促され、同年2月3日付けで同運輸支局長から文書警告処分も受けた。しかし、被告会社は、この間、運転者を何名か採用するなどしたものの、それだけでは運転者の過重労働の状況を実質的に改善したことにならず、受注を減らすなどの有効な措置をとらないまま、業務を続けた。その結果、被告会社の本件運転者に対し、平成17年11月から平成18年1月にかけて過重な長時間労働をさせて、(1)の各犯行に及んだ上、同年2月13日、(2)の犯行に及んだため、同運転者がガソリンを積載したタンクローリーを運転中居眠り状態に陥り、後述の重大な事故(以下「本件事故」という)を惹起するに至ったものである。

そもそも、自動車運転者に過重な長時間労働をさせると、睡眠不足等から疲労が蓄積し、運転者の健康障害はもとより、それにとどまらず、交通事故にもつながることから、その労働時間等については、一般の労働者に比べより厳しい基準を設けて、改善指導等の行政指導等が行われているところ、とりわけ、本件のような多量の石油製品を積載したタンクローリーにあっては、ひとたび交通事故を惹起すれば、周囲の多数の自動車運転者等の生命、身体等に重大な危険を及ぼすことが予想されるのであって、その運行を業とし、管理するものとしては、万が一にもその運転者に対して過重労働を課すことのないよう、労働基準法規や労使協定による基準を遵守するのが当然であるのに、あろうことか、本件においては、本件運転者の1か月当たりの拘束時間は、本件事故の3か月前(平成17年11月14日)から順に約432時間55分、507時間3分、419時間23分と労使協定上の上限である320時間を大幅に超えるものとなっている上、その間の年末年始を挟む1か月間には同運転者に対し1日も休日を与えずに運転業務に就かせるなどして、上記協定に甚だしく違反し、睡眠時間等を十分に確保することができないことが明らかな過重労働に従事させ、同運転者が既に過労状態にあることを認識しながら、(2)の犯行により、1日3往復で合計約15時間を要すると見込まれる過重な大阪府と滋賀県間の運行を指示し、同運転者の過労運転を容認したものである。

本件運転者は、このような過酷ともいえる長時間の拘束時間を強いられ続けたため、睡眠不足等から蓄積した疲労によって、京滋バイパスを走行中に居眠り状態に陥り、時速約90キロメートルで渋滞車両に追突し、11台の車両を巻き込む多重衝突を招き、車両を炎上させるなどして、死者3名、負傷者6名を出す本件事故を起こした。もとより、本件事故は、前を見ようとしても自然にまぶたが閉じてしまうほどの強い眠気を覚えながら運転を継続したという、タンクローリーの職業運転者としての自覚を著しく欠いた本件運転者の運転態度を直接の原因とするものである。しかし、被告会社の従業運転者の本件事故前3か月間の拘束時間は、月500時間を超えるものを含め、軒並みほとんど月400時間を超えるという本件運転者と同様の状況にあって、同社の業務は、誰が本件事故のような事故を起こしても不思議のないような極めて危険な状態で継続されていたのであって、本件事故を惹起した同運転者をして、睡魔に襲われながらも休憩をとらないで少しでも早く仕事を終わらせ、勤務後の休息時間を確保したいという思いから運転を継続するという悲壮な選択をさせたのも、ほかならぬ、そのような同社の業務体制、体質なのであって、これらのことが、同運転者に過大な精神的、肉体的負担を与え、その健康を著しく害するとともに、その運転に伴う道路交通への危険性を著しく高めたものであり、本件事故の背景事情というにとどまらず、正に本件事故を惹起した主たる原因であるといっても決して過言ではない。

確かに、他方で、上記のようなガソリンスタンドの形態の変化等に加え、平成17年冬期の気温が例年より低かったことによる灯油の需要増大や、近時のガソリン等の価格の上昇傾向による安価なうちの配送依頼の増加等から、とりわけ同年冬期における全体の運搬業務が増加していたこと、資格要件が厳しいことからタンクローリーの運転者の確保が容易ではないことなどの事情はあったにせよ、直ちに運転者の雇用増加や取引量の削減等の措置をとらなければ、各運転者の業務上の負担が過大なものとなることは明らかな情勢であり、かつ、被告会社の経営状況から取引量を削減する措置もとり得たと思われるにもかかわらず、同社の業績を維持するため、取引先との関係維持やコストの増大回避等を優先し、求人広告を出すなどして退職者数と同程度の数の運転者を新たに雇用するなどしたほかに、さしたる措置をとることなく、各運転者を過重労働に従事させていた中で、本件各犯行に及んだのであって、運転者の健康及び過労運転により生じる危険の重大性等を著しく軽視した利益の追求のみを偏重する、その強い利欲的な動機、経緯に酌むべき余地は乏しいといわざるを得ない。

そして、上記のような本件各犯行の性質に加え、かねてより各運転者に対し、交通事故を起こしても居眠り運転が原因であることは隠すよう指示してもいたことがうかがわれるなど、その組織性、反復継続性の高い犯行態様も悪質である。

さらに、本件各犯行が招いた結果は、余りにも悲惨であり、3名のかけがえのない生命がほぼ一瞬にして失われ、その被害者らの無念の思いは察するに余りある上、父親、夫や息子を突然にして失った遺族らの衝撃、悲嘆、苦悩等の精神的苦痛には、想像を絶するものがあり、その処罰感情が未だに厳しいものがあるのも当然といえる。

以上によれば、本件各犯行の犯情は極めて悪質であるが、加えて、トラック運送業界において同様の違法な時間外労働等の危険性を軽視する悪弊がはびこることとなれば、本件事故と同様の極めて重大な事故が多発するなどして深刻な事態となることは、明らかであって、そのような事態を何としても避けなければならないという一般予防の見地からも、本件各犯行に対しては厳しい非難を加える必要がある。

3  被告人Y2は、昭和40年に被告会社に運転者として入社し、昭和58年4月から同社の役員に、平成15年9月から同社の代表取締役に就任し、以来同社の業績拡大に努めるとともに、業務全般を統括してきたものであるが、運行業務の安全性を確保する職責を有しており、運行管理者の資格を有していることなどから、過労運転の危険性と各運転者が過重労働状態にあることを明確に認識しながら、しかも、平成17年9月に被告人Y3から文書により運転者の心理的肉体的負担軽減のために運転者を増加してほしい旨の要請を受けたり、上記のとおり、労働基準監督署及び運輸支局から是正勧告や警告等を受けるなどして、過重労働状態を改善する必要性も十分に認識しており、営業方針の決定権を被告人Y2が独占している同社の経営実態からすれば、その改善の方策をとり得る立場にあった唯一の人間であったといってもよいにもかかわらず、同社及び自己の利益を追求する余り、減少した運転者の数をわずかに補填したり、運転者を励ますなどするのみで、実質的に上記事態の改善を図ることなく放置したものであって、本件各犯行の主犯であることは明白である。その経営姿勢は、被告会社と自らの利益に拘泥し、危険物の運送会社の経営者としての自覚と責任感に甚だしく欠けたものであって、その規範意識も希薄といわざるを得ない。しかも、被告人Y2は、公判廷において、本件各犯行は被告会社の利益追求を目的としたものではない旨弁解している上、求人により、あたかも自らは事態改善の努力を尽くしたかのようにも述べているのであって、真摯に反省しているのか疑問があり、本件事故の遺族らが実刑を望むとの強い処罰感情を示しているのも無理からぬ面がある。

4  被告人Y3は、平成元年10月、被告会社に運転者として入社し、平成6年1月から、同社の統括運行管理者として同社保有車両の運行を直接管理するとともに、上記労使協定に従った運行指示を行う職責を有していたものであり、平成17年2月ころ以降は、同社において、被告人Y2に次ぐ地位にあったものであるが、運行管理者の資格を有し、過労運転の危険性を十分に認識している上、自身も運行業務に従事して1日に三、四時間の睡眠しかとれず運行中に睡魔に襲われるなどして、同社における運行指示が運転者に過重労働を強いるものであることを身をもって体験し、しかも、上記のとおり、公的機関による是正勧告や警告等があったにもかかわらず、同年9月ころ、被告人Y2に対して運転者の増加等を要請するも、被告人Y2がこれを聞き入れなかったことなどから、更に被告人Y2を説得することを諦め、漫然と被告人Y2の営業方針に従って、同協定違反となることが明らかな運行指示を継続していたものであって、その本件各犯行への関与には深いものがあり、その規範意識も希薄であったといわざるを得ない。しかも、被告人Y3は、公判廷において、各運転者に対し、運行中に1時間の休憩時間をとるよう指示したことなどから、自己の責任を果たしたかのように述べており、やはり本件を真摯に反省しているとまでは評価し難く、本件事故の遺族らは、被告人Y2と同様、実刑を望むとの強い処罰感情を示している。

5  そうすると、被告人らの刑責はいずれも軽視できないものがあり、とりわけ被告人Y2のそれは重いというべきである。

6  しかし、他方において、

(1)  本件事故の被害者に対し、今後保険金による被害弁償が見込まれること、遅きに失したとはいえ、本件各犯行後、取引量の削減や従業員の補充、保有するタンクローリーの減少等、労働条件の改善に向けた具体的措置がとられていることに加え、

(2)  被告人Y2については、本件各犯行を認めて反省の態度を示していること、本件事故の被害者らの葬式等に参列して謝罪をしており、本件事故の遺族及び被害者に対し、できる範囲で補償をしていきたい旨述べていること、これまで前科としては約30年前の業務上過失傷害罪による罰金刑1犯しかないことや家庭の状況など、

(3)  被告人Y3については、本件各犯行を認めて反省の態度を示していること、被告人Y3なりに、事態の深刻さを認識の上、被告人Y2に対して運転者の増加を要請し、自らも過重労働となる運行業務に従事するなど、不十分ながらも、その改善を図ろうとする姿勢を表していたこと、被告人Y3の立場で、被告人Y2の意向に反してまで取引量の削減という手段をとることは容易ではなく、本件への関与は深いものの、従属的でもあったこと、本件事故の被害者らの葬式等に参列して謝罪をしていること、前科としては約20年前の業務上過失傷害罪による罰金刑1犯しかないことや家庭の状況など、それぞれ酌むべき事情も存する。

7  そこで、以上の諸事情を総合考慮すると、被告会社に対し主文掲記の罰金刑に処し、被告人Y3に対しては、今回に限り刑の執行を猶予することとするが、本件各犯行の犯情の悪質性、結果の重大性及び被告人Y2の果たした役割等を軽くみることはできず、被告会社の代表者である被告人Y2に対しては、実刑をもって臨むのが相当であると考えた次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑・被告人Y1株式会社については罰金60万円、被告人Y2については懲役1年4月、被告人Y3については懲役1年2月)

(裁判長裁判官 東尾龍一 裁判官 景山太郎 裁判官 炭村啓)

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