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京都地方裁判所 平成18年(ワ)1171号 判決 2007年8月29日

A事件原告・B事件被告(以下「原告」という。)

株式会社日興

同代表者代表取締役

山田治行

同訴訟代理人弁護士

明尾寛

A事件被告・B事件被告(以下「被告」という。)

乙山明こと

乙山昭雄こと

乙川昭雄

同訴訟代理人弁護士

谷本俊一

B事件原告(以下「参加申出人」という。)

甲野二郎

同訴訟代理人弁護士

権藤健一

竹山直彦

中西健二

黒田紘史

重次直樹

主文

1  被告は,原告に対し,別紙物件目録2記載の建物を収去して同目録3記載の土地を明け渡せ。

2  被告は,原告に対して,18万6720円及びこれに対する平成18年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  被告は,原告に対し,平成18年9月1日から第1項の明渡し済みまで月額1万5560円の割合による金員を支払え。

4  原告のその余の請求を棄却する。

5  参加申出人の請求をいずれも棄却する。

6  訴訟費用は,原告に生じた費用の2分の1と被告に生じた費用の2分の1を被告の負担とし,その余を参加申出人の負担とする。

7  この判決は,第1項ないし第3項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

一  A事件

1  主文第1項と同旨

2  被告は,原告に対して,51万9156円及びこれに対する平成18年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  被告は,原告に対して,平成18年9月1日から第1項の明渡し済みまで月額4万3263円の割合による金員を支払え。

二  B事件

1  参加申出人と原告及び被告との間において,参加申出人が別紙物件目録2記載の建物につき,所有権を有することを確認する。

2  参加申出人と原告との間において,参加申出人が別紙物件目録3記載の土地につき,法定地上権を有することを確認する。

第二  事案の概要

一  事案の要旨

1  A事件について

本件は,別紙物件目録1記載の土地(以下「本件土地」という。)を所有する原告が被告に対し,被告は本件土地上に存する同目録2記載の建物(以下「本件建物」という。)を所有しているとして,①本件土地の所有権に基づき,本件建物を収去して本件土地のうち同目録3記載の土地(以下「本件係争土地部分」という。)を明け渡すこと,②不法行為に基づき,file_3.jpg原告が本件土地を購入した日の翌日である平成17年9月1日から平成18年8月末日までの間の賃料相当損害金合計51万9156円(月額4万3263円の12か月分)及びこれに対する平成18年9月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払,file_4.jpg平成18年9月1日から本件係争土地部分の明渡し済みまで月額4万3263円の割合による賃料相当損害金の支払,を求めた事案である。

2  B事件について

本件は,参加申出人が,原告及び被告に対して,本件建物の所有権が参加申出人に帰属していることの確認を求めるとともに,原告に対し,参加申出人が本件係争土地部分につき法定地上権を有することの確認を求めて,A事件に対して民事訴訟法47条に基づく独立当事者参加の申出をした事案である。

二  当事者間に争いのない事実

1  本件土地について

(1) 甲野花子(以下「花子」という。)は,別紙物件目録4記載の土地(以下「分筆前本件土地」という。)をもと所有していた。

(2) 花子は,昭和61年4月23日に死亡し,その法定相続人である参加申出人が分筆前本件土地を相続した。

(3) 参加申出人は,昭和61年7月22日,京都中央信用金庫に対して,自らの債務を担保するため分筆前本件土地上に根抵当権を設定し,同日その旨の登記をなした。

(4) 京都中央信用金庫は,平成6年,分筆前本件土地について競売申立てをなし(当庁平成6年(ケ)第616号,以下「平成6年競売事件」という。),同年8月9日,開始決定を得て,同月10日,分筆前本件土地に差押登記がなされた。

(5) 平成6年競売事件の物件明細書には,被告の本件建物に関する法定地上権を引き受けるものとして,分筆前本件土地の売却条件が定められた旨の記載がある。

(6) 株式会社ボローニャ(以下「ボローニャ」という。)は,平成13年5月8日,平成6年競売事件において,参加申出人から分筆前本件土地を競落し,同月11日,その旨の所有権移転登記を得た。

(7) ボローニャは,平成13年7月23日,近畿産業信用組合に対して,自らの債務を担保するため分筆前本件土地上に根抵当権を設定し,同日その旨の登記をなした。

(8) 近畿産業信用組合は,平成15年,分筆前本件土地について競売申立てをなし(当庁平成15年(ケ)第330号,以下「平成15年競売事件」という。),同年4月16日,開始決定を得て,同月17日,分筆前本件土地に差押登記がなされた。

(9) 平成15年競売事件の物件明細書(甲4)には,被告の本件建物に関する法定地上権を引き受けるものとして,分筆前本件土地の売却条件が定められた旨の記載がある。

(10) 有限会社四季(以下「四季」という。)は,平成17年5月11日,平成15年競売事件において,ボローニャから分筆前本件土地を競落し,同月13日,その旨の所有権移転登記を得た。

(11) 原告は,平成17年8月31日,四季から分筆前本件土地を購入し,その旨の所有権移転登記を得た上,同年11月9日,分筆前本件土地を本件土地と京都市東山区八坂通下河原東入八坂上町<番地略>の土地とに分筆した。

2  本件建物について

(1) 花子の姉である甲野葉子(以下「葉子」という。)は,平成6年以前に,本件係争土地部分上に本件建物を建築したが,表示登記及び所有権保存登記をしなかった。

(2) 被告は,平成6年4月25日,本件建物につき,所有者であるとして表示登記手続を行った。

(3) 被告は,平成6年ころ,本件建物を占有していた丙山太郎に対し,葉子から本件建物を買い受けたとしてその明渡し等を求める訴訟を提起したが(当庁平成6年(ワ)第1789号),京都地方裁判所は,平成8年3月25日,葉子は昭和61年4月ころに参加申出人に本件建物を贈与し,参加申出人は平成4年6月9日に丙山太郎に本件建物を賃貸して引き渡したとして,被告の請求を棄却する判決を言い渡した。

被告は,上記判決に対して控訴するとともに(大阪高等裁判所平成8年(ネ)第1479号),控訴審係属中である平成8年7月18日,本件建物につき,所有者であるとして所有権保存登記手続を行ったが,大阪高等裁判所は,平成8年8月30日,被告が葉子から本件建物を買い受けたとは認められないとして控訴を棄却し,同判決は確定した。

(以下,上記一審及び控訴審の訴訟を「前件丙山訴訟」という。)

(4) 原告は,平成19年2月9日,本件建物につき,被告に対する建物収去請求権を保全するための処分禁止仮処分決定を得て,同月14日,その旨の登記がなされた。

3  本件訴訟の経緯

(1) 原告は,平成18年5月9日,被告に対して,本件建物及びこれに隣接する別紙物件目録5記載の建物(以下「隣接建物」という。)につき,建物収去土地明渡しを求めるA事件を提起した(その後,訴訟提起直前に隣接建物の所有名義が被告から参加申出人の兄である甲野一郎に移転していたことが判明したため,原告は隣接建物に関する建物収去土地明渡請求等を取り下げた。)。

(2) A事件は,平成18年9月15日の第3回口頭弁論期日に,被告の本人尋問及び参加申出人の証人尋問を予定していたところ,当日になって,両名とも法廷に出頭しない旨の連絡をし,現に出頭しなかったため,尋問が実施できなかった。そこで,A事件は,同月29日に弁論期日が指定され,終結が予定されていたところ,同月26日,参加申出人が独立当事者参加の申出(B事件)をしたため,弁論を終結できなかった。

三  争点

1  A事件について

(1) 本件建物の帰属

(2) 被告と参加申出人との間の賃貸借契約の成否

(3) 地代不払いによる賃貸借契約の解除の可否

(4) 本件係争土地部分の賃料相当損害金

2  B事件について

(1) 本件建物の帰属

(2) 法定地上権の成否及び対抗の可否

四  争点に関する当事者の主張

1  A事件について

(1) 争点1(1)(本件建物の帰属)について

ア 原告の主張

(ア) 被告は,平成6年,葉子から本件建物を購入し,本件建物を現に所有している。

(イ) 後記ウ(イ)ないし(エ)は否認する。

(ウ) 本件建物の登記名義は被告にあるから,仮に後記ウ(イ)ないし(エ)の事実が認められ,参加申出人が本件建物の所有者であるとしても,原告に対抗できない。

イ 被告の主張

上記ア(ア)は認め,後記ウ(イ)ないし(エ)は否認する(ただし,被告が参加申出人に金銭を貸し付け,その後債務が完済されたことは認める。)。

ウ 参加申出人の主張

(ア) 上記ア(ア)は否認する。

(イ) 葉子は,昭和61年4月ころ,参加申出人に対して本件建物を贈与した。

(ウ) 参加申出人は,平成6年ころ,被告から1500万円を借り入れ,平成8年7月ころ,被告に対する上記借入債務の残金630万円を担保するため,被告に対して,本件建物につき,譲渡担保権を設定した。

(エ) 参加申出人は,平成15年6月25日,被告に対する借入債務を完済し,本件建物の完全な所有権を回復した。

(2) 争点1(2)(賃貸借契約の成否)について

ア 被告の主張

参加申出人は,平成8年7月,被告に対し,建物所有を目的とし,地代月額1000円,賃貸借期間定めなしとの約定で,本件係争土地部分を賃貸した。

イ 原告の主張

上記アは否認する。

ウ 参加申出人の主張

上記アは否認する。

(3) 争点1(3)(賃貸借契約の解除の可否)について

ア 原告の主張

(ア) 仮に,本件係争土地部分について賃貸借契約が存するとしても,地代不払いにより解除された。

(イ) 後記イ(イ)は否認する。

イ 被告の主張

(ア) 上記ア(ア)は争う。

(イ) ボローニャの代表取締役である丁木三郎(以下「丁木」という。)は,平成17年12月ころ,被告に対し,本件係争土地部分の地代について,明渡しの交渉をしている間は免除する旨の意思表示をした。また,四季及び原告は,丁木に対し,地代免除の代理権を授与した。

ウ 参加申出人の主張

(ア) 上記ア(ア)は争う。

(イ) 上記イ(イ)は認める。

(4) 争点1(4)(賃料相当損害金)について

ア 原告の主張

本件係争土地部分の賃料相当損害金は月額4万3263円を下回らない。

イ 被告の主張

上記アは否認する。本件係争土地部分の賃料相当損害金は月額1万2971円程度である。

ウ 参加申出人の主張

上記アは不知。

2  B事件について

(1) 争点2(1)(本件建物の帰属)について

ア 参加申出人の主張

上記1(1)ウと同旨

イ 原告の主張

上記1(1)アと同旨

ウ 被告の主張

上記1(1)イと同旨

(2) 争点2(2)(法定地上権)について

ア 参加申出人の主張

(ア) 参加申出人が原告に対して本件係争土地部分の占有権原を主張するにあたって,本件建物の所有権自体を対抗できることは要件ではないと解すべきである。

(イ) 建物所有権に関する対抗の可否

a 仮に,上記(ア)の解釈が認められないとしても,参加申出人は,被告に対して本件建物を譲渡担保に供していたのであり,実質的には抵当権を設定していたのと変わりがないから,本件建物についての被告名義の所有権登記をもって,本件建物の所有権を原告に対抗できると解すべきである。

b 原告は,以下の事情により,参加申出人の対抗要件欠缺を主張することができない。

(a) ボローニャは,参加人が本件建物の所有者であることを前提に分筆前本件土地を競落した。

(b) 四季は,丁木との間で,分筆前本件土地の地上げを共同で行う旨合意し,ボローニャに代わる事業主体として分筆前本件土地を競落し,丁木に地上げの交渉を依頼した。

(c) 原告も,分筆前本件土地の地上げ,転売という共同事業を行う新たな事業主体として,四季から分筆前本件土地を購入した者であり,丁木に地上げの交渉を依頼した。

(d) 原告は,法定地上権の負担を前提として分筆前本件土地を購入した。

(ウ) 法定地上権に関する対抗の可否

a 分筆前本件土地に京都中央信用金庫の根抵当権が設定された当時,分筆前本件土地と本件建物はいずれも参加申出人の所有に帰属していた。

b したがって,参加申出人は,平成6年競売事件においてボローニャが分筆前本件土地を競落したことにより,分筆前本件土地のうち本件建物の敷地に相当する本件係争土地部分につき,法定地上権を取得した。

c 法定地上権を有する建物の譲渡担保権設定者は,実質的には建物に抵当権を設定していたのと変わりがないし,土地所有者にも不利益はないから,建物の所有名義が譲渡担保権者にあったとしても,その建物登記があることによって,法定地上権をもって,その後の土地所有者に対抗できると解すべきである。

d 仮に上記cの解釈が認められないとしても,上記(イ)bの事情からすると,原告は,本件係争土地部分につき法定地上権が存在することを十分認識した上で分筆前本件土地を購入した背信的悪意者として,被告の対抗要件の欠缺を主張できない。

イ 原告の主張

いずれも否認ないし争う。

ウ 被告の主張

上記ア(イ)b(b)ないし(d)は認め,(ウ)aは否認する。

第三  当裁判所の判断

一  参加申出人の独立当事者参加の可否

1  参加申出人は,自らが本件建物の所有者であるとして,A事件に民事訴訟法47条に基づく独立当事者参加の申出をした。

2  しかしながら,原告と被告との間のA事件の訴訟物は,本件土地の所有権に基づく妨害排除請求権としての建物収去土地明渡請求権及び不法行為(本件土地の不法占拠)に基づく損害賠償請求権であるから,本件建物の所有権はA事件の「訴訟の目的」とはいえない。

3 しかも,参加申出人の主張する事実関係(上記第二の四1(1)ウ(イ)ないし(エ))を前提とした場合,原告が,参加申出人の主張によれば建物所有権者でない被告に対して土地所有権に基づく建物収去土地明渡しを請求する際の両者の関係は,あたかも建物についての物権変動における対抗関係類似の関係にあるというべきであり(最高裁平成4年(オ)第602号同6年2月8日第三小法廷判決・民集48巻2号373頁参照),原告と被告との間における本件建物の所有権の帰属,原告と参加申出人との間における本件建物の所有権の帰属,及び,被告と参加申出人との間における本件建物の所有権の帰属を合一に確定しなければならない必然性は認められない。

4 したがって,参加申出人の独立当事者参加の申出は,民事訴訟法47条に基づく参加申出としては不適法である。

もっとも,参加申出人の独立当事者参加の申出は独立の訴えとしての要件を備えているから,参加申出人の提起したB事件は,A事件と単純併合の関係にあることとなる。

二  A事件について

1  争点1(1)(本件建物の帰属)について

原告と被告との間においては,本件建物が被告に帰属していることについて争いがない(A事件とB事件は単純併合の関係にあるにすぎないから,この点に関する参加申出人の認否ないし主張は,A事件に影響しない。)。

2  争点1(2)(賃貸借契約の成否)について

(1) 被告は,参加申出人が平成8年7月に被告に対し,建物所有を目的とし,地代月額1000円,賃貸借期間定めなしとの約定で,本件係争土地部分を賃貸した旨主張し,同旨の供述をする。

(2) しかし,被告の上記供述は,次の点において到底信用できない。

① 被告と参加申出人との間に,本件係争土地部分に関する賃貸借契約が成立したことを証する契約書は書証として提出されていない。

② 被告は,平成6年競売事件において,執行官又は執行裁判所に対して,参加申出人との間に賃貸借契約が成立している旨を報告したような記憶がある旨供述する。

しかし,平成6年競売事件の記録は本件訴訟において取り寄せられたにもかかわらず,その現況調査報告書等は書証として提出されていないから,平成6年競売事件の現況調査報告書等に被告と参加申出人との間の賃貸借契約に関する記載は存しないと推認される。

したがって,被告は,平成6年競売事件において,執行官又は執行裁判所に対して,参加申出人との間に賃貸借契約が成立している旨を報告したことはないと認められ(なお,分筆前本件土地が平成6年競売事件において競落されたのは,競売開始決定があった平成6年8月から約7年間近くも経過した平成13年5月であるから,その間に,被告が執行官又は執行裁判所に対して,参加申出人との間に賃貸借契約が成立している旨を報告することは十二分に可能であったはずである。),このことは,賃貸借契約の不存在を推認させる。

③ 被告は,平成15年競売事件において,賃貸借契約の有無についての執行官からの照会に対し,本件建物の敷地について土地所有者との間に賃貸借契約は締結されていない旨回答した(甲17〔37枚目〕)。このことは,被告が賃貸借契約の不存在を自認していたことを意味する。

④ 被告は,上記第二の二3(2)で認定したとおり,平成18年9月15日に予定されていた本人尋問に出頭しなかったが,この理由につき,従兄弟の死後100日の葬祭のため韓国に行っていた旨供述する。しかし,そうであれば,あらかじめ,都合が悪いので尋問期日の変更を希望する旨申し出ていたはずであり,被告の上記供述は信用できない(なお,被告がその当時韓国に行っていたことを証するパスポートも提出されていない。)。

(3) 他に,被告と参加申出人との間に本件係争土地部分に関する賃貸借契約が成立したことを認めるに足りる証拠はない。

3  争点1(4)(賃料相当損害金)について

(1)ア 乙第2号証(10頁)によれば,分筆前本件土地の標準画地価格は1m2あたり14万3000円であると認められ,その結果,本件係争土地部分の価値は,次のとおり,311万3110円となる。

143,000円×21.77m2=3,113,110円

イ これに対し,甲第7号証には,坪単価が157万8000円である旨の記載があるが,これは,単なる不動産広告の売出価格を参考にしたものにすぎないし,その対象物件は,京都市東山区八坂通下河原東入八坂上町<番地略>の土地から分筆される151.88m2の土地である旨記載されているから,甲第7号証を基にして,本件係争土地部分の価値を認定することはできない。

ウ 他に,上記アの認定を左右するに足りる証拠はない。

(2)ア 上記(1)アで認定した事実を基礎に,賃料相当額の利回り率を年6分とすると(国税庁個別通達昭和60年6月5日課資2−58〔改正:平成3年12月18日課資2−51,平成17年5月31日,課資2−4〕参照),本件係争土地部分の賃料相当損害金は月額1万5560円であると認められる。

3,113,110円×0.06÷12≒1万5560円

イ これに対し,原告は,上記第二の四1(4)アのとおり主張し,これに沿う甲第7号証を提出する。しかし,上記(1)イで説示したとおり,甲第7号証の記載内容は信用できない。

ウ 被告は,上記第二の四1(4)イのとおり主張するが,これは,賃料相当損害金の利回り率を年5分とするものであって相当でない。

エ 他に上記アの認定を左右するに足りる証拠はない。

三  B事件について

1  争点2(1)(本件建物の帰属)について

(1) 参加申出人と原告との関係について

ア 後記(2)で説示するとおり,参加申出人が昭和61年4月ころに葉子から本件建物の贈与を受けたと認めるに足りる証拠はない。

イ 仮に,参加申出人が昭和61年4月ころに葉子から本件建物の贈与を受けたとしても,本件建物の所有名義人は,現在,被告であって参加申出人ではない(なお,上記第二の二2(4)で認定したとおり,既に,本件建物には処分禁止仮処分決定に基づく登記がなされている。)。

そして,参加申出人の主張によっても,本件建物が被告名義となっているのは,被告と参加申出人との間の譲渡担保権設定契約に基づくのであり,被告及び参加申出人の意思に基づいてなされたことは明らかである。

したがって,参加申出人は,原告に対して,本件建物の所有権を有していることを対抗できない(前掲平成6年最高裁判決参照)。

ウ(ア) 参加申出人は,上記第二の四2(2)ア(イ)aのとおり,実質的には,参加申出人は被告に抵当権を設定していたのと変わりがないから,本件建物についての被告名義の所有権登記をもって,本件建物の所有権を原告に対抗できる旨主張する。

しかし,参加申出人と被告との間の法律関係が譲渡担保権設定契約に基づくものであるか否かは,抵当権設定とは異なり,全く公示されていないのであり,かかる権利主張を認めることは土地所有者に探求の困難を強いることとなって,相当でない。

したがって,参加申出人の上記主張は理由がない。

(イ) また,参加申出人は,上記第二の四2(2)ア(イ)bのとおり,原告は参加申出人の対抗要件欠缺を主張することができない旨主張する。

しかし,平成15年競売事件において,本件建物の所有者は被告であるとされていたこと(甲4),参加申出人が本件建物の所有権を主張し始めたのはB事件の参加申出が初めてであり,それまでに,参加申出人が,原告はおろか四季や被告に本件建物の所有権を主張した形跡が全くないこと,原告は平成18年3月に被告に対して,被告が本件建物の所有者であることを前提とした内容証明郵便を送付していること(甲5の1・2)からすると,原告が,分筆前本件土地を購入した平成17年8月31日当時,本件建物の所有者は被告ではなく参加申出人であると認識していたとは到底考えられない。

したがって,原告が参加申出人の本件建物の所有権に関する対抗要件欠缺を主張できないとの参加申出人の主張は理由がない。

エ 以上によれば,参加申出人の原告に対する本件建物の所有権確認請求には理由がない。

(2) 参加申出人と被告との関係について

ア 参加申出人は,葉子から昭和61年4月ころに本件建物の贈与を受けた旨主張し,その本人尋問において,花子の通夜の席で葉子から本件建物の贈与を受けた旨供述する上,丙第6号証(参加申出人の陳述書)にも同旨の記載がある。

イ しかし,参加申出人の上記供述及び陳述書の記載は,次のとおり,信用できない。

① 葉子と参加申出人との間に,本件建物の贈与を証する書類は作成されていない(丙6,参加申出人本人〔9項〕)。

② 参加申出人は,昭和61年4月ころ以降,本件建物につき,自ら表示登記や保存登記の手続をしようとしたことがない(参加申出人本人〔9,52,56項〕)。しかも,参加申出人の主張によれば,被告に対する譲渡担保権の被担保債権は,平成15年6月25日に完済されたにもかかわらず,被告に対して,本件建物の所有名義を戻すよう求めたこともない(参加申出人本人〔58項〕)。

③ 参加申出人は,分筆前本件土地が平成6年競売事件によって競売の対象とされた後,執行官や執行裁判所に対して,本件建物の所有権を主張した形跡はない。また,参加申出人の主張によれば,平成15年6月25日に本件建物について完全な所有権を回復したにもかかわらず,平成15年競売事件においても,執行官や執行裁判所に対してその旨の主張をしたことはない(甲17)。

④ 参加申出人は,前件丙山訴訟において,本件建物の贈与を受けていない旨証言した(甲8,参加申出人本人〔8項〕)。

参加申出人は,この点につき,本件建物の贈与を受けたことについて半信半疑であったためであり,その後になされた葉子の証言や判決内容を聞いて本件建物の贈与を受けたことを確信したなど供述する。しかし,参加申出人は,前件丙山訴訟において,花子の通夜の席上で葉子から本件建物の贈与の話が出たことすら証言しておらず(参加申出人本人〔60項〕),上記供述自体不合理である。

⑤ 参加申出人は,上記第二の二3(2)で認定したとおり,平成18年9月15日に予定されていた証人尋問に出頭しなかったが,この理由につき,その前年に遭った交通事故のために痛みがひどく出頭できなかった旨供述し,また,丙第7号証(平成19年6月8日付け診断書)にはこれに沿うかのような記載がある。

しかし,参加申出人は,平成18年9月26日には,参加申出のために当裁判所を訪れ,その後同月28日までにも参加申出書の訂正のために再び当裁判所を訪問しているのであって(参加申出人本人〔68ないし71項〕,記録上明らかな事実〔参加申出書の被告に対する送達日〕),上記不出頭の理由に関する参加申出人の供述は到底信用できない。

⑥file_5.jpg参加申出人は,A事件に対して独立当事者参加の申出をしようと考えた経過として,平成18年8月ころに被告から証人として出頭することを頼まれた際に,訴訟記録の写しをもらい,本件建物が被告の名義であるのはおかしいと思った旨供述し,また,丙第6号証には,平成18年9月15日の2週間ほど前に,証人尋問のために被告から訴訟記録の資料提供を受けたため,自らの権利を守ろうとした旨の記載がある。

file_6.jpgしかしながら,参加申出人の独立当事者参加の申出書に添付されている図面は,平成18年9月15日に提出され,同日,被告に送達された原告の訴え変更の申立書に添付された図面の写しであることが明らかである。しかも,同図面は,安井健司土地家屋調査士が同月13日に行った測図に基づくものであって(甲11),参加申出人が平成18年8月ないし同年9月初めころに,被告から受領することはおよそ不可能である。

したがって,参加申出人は,平成18年9月15日より後,すなわち,証人尋問期日に出頭せず,尋問のための打合せが不要となった後に,わざわざ被告から図面の写しを受領し,独立当事者参加の申出を行ったと認められ,上記file_7.jpgの供述及び陳述書の記載は,事実に反する。

file_8.jpgしかも,上記二2(2)④及び上記⑤の説示から明らかなとおり,被告及び参加申出人の両名が平成18年9月15日の尋問期日に出頭しなかったことにはいずれも正当な理由がないと認められるところ,その両名が,全く偶然にも,それぞれ独自の判断で,正当な理由もなく尋問期日に出頭しようとしなかったということは考え難い。

このことに加えて,上記第二の二3(2)で認定したとおり,A事件は,平成18年9月29日に弁論の終結を予定していたところ,同月26日,参加申出人が独立当事者参加の申出をしたため,弁論を終結できなかったことからすると,参加申出人は,原告の訴訟追行を遅延させ,その権利行使を妨げる意図を有している疑いが濃厚である。

ウ 甲第8号証によれば,葉子は,前件丙山訴訟において,昭和61年4月23日ころに本件建物を参加申出人に贈与した旨の証言をしたと認められる。

しかしながら,葉子の前件丙山訴訟における上記証言内容は,次のとおり,必ずしも信用性が高いとはいえない。

① 参加申出人の供述によっても,葉子が本件建物を贈与する旨申し出たのは,花子の通夜の席で言われた1回だけであるとのことであり(参加申出人本人〔49項〕),本件建物の贈与を証する書類を作成しようとした形跡がないことからすると,その時点で,葉子が法的効果を発生させるに足りる確定的意思表示を行ったか否か必ずしも明らかでない。

② 分筆前本件土地上には,本件建物の隣に葉子が所有する隣接建物が建っていたところ,隣接建物については,葉子から参加申出人に対する贈与の申出があったことを窺わせる事情は全く存しない(甲3,11,21)。そして,葉子が本件建物と隣接建物とを区別して,本件建物のみ参加申出人に贈与する合理的理由はなく,贈与の動機が認められない。

エ 他に,参加申出人が葉子から本件建物の贈与を受けたと認めるに足りる証拠はない。

オ 以上によれば,参加申出人の被告に対する本件建物の所有権確認請求も理由がない。

2  争点2(2)(法定地上権)について

(1)  上記1(2)で説示したとおり,参加申出人は,昭和61年4月ころに葉子から本件建物の贈与を受けたとは認められないから,昭和61年7月22日に,京都中央信用金庫に対して分筆前本件土地上に根抵当権を設定した時点で,分筆前本件土地と本件建物が同一人に帰属していたとは認められない。

したがって,参加申出人の平成6年競売事件におけるボローニャの競落によって法定地上権が成立した旨の主張は理由がない。

(2)  また,仮に,参加申出人が昭和61年4月ころに本件建物の贈与を受け,平成6年競売事件において,ボローニャが分筆前本件土地を競落したことにより,本件建物のための法定地上権が成立したとしても,上記1(1)イ及びウで説示したとおり,参加申出人は原告に対して本件建物の所有権を有していることを対抗できないから,本件建物の敷地権である法定地上権についても対抗できないというべきである。

(3)ア  さらに,分筆前本件土地は,平成6年競売事件においてボローニャが競落した後,平成15年競売事件において四季が競落し,四季から原告へ売却されているところ,原告はその旨の所有権移転登記を得ている。したがって,参加申出人が原告に対して法定地上権をもって対抗するためには,法定地上権についての対抗要件を具備する必要があるところ,参加申出人は,本件土地について地上権設定登記を得ていないのはもちろん,本件建物の登記名義人ですらないから,法定地上権についても,原告に対抗できない(最高裁昭和60年(オ)第1496号平成元年2月7日第三小法廷判決・判例時報1319号102頁参照)。

イ  参加申出人は,この点につき,上記第二の四2(2)ア(ウ)cのとおり主張する。しかし,参加申出人と被告との間の法律関係が譲渡担保権設定契約に基づくものであるか否かは,抵当権設定とは異なり,全く公示されていないし,土地所有者にとって土地占有者が誰であるかは重大な利害を有する事項であるから,参加申出人の上記主張は理由がない。

ウ  また,参加申出人は,上記第二の四2(2)ア(ウ)dのとおり主張する。

しかし,執行裁判所が作成した物件明細書の記載内容には既判力ないし類似の効力が認められないし,四季や原告が,その物件明細書の記載内容を認識して分筆前本件土地を競落し,又は購入したとしても,それだけで法定地上権を承認したことになるものでもない。

また,甲野が被告との間で分筆前本件土地又は本件土地の明渡しについて何らかの交渉をしていたとしても,それは仲介の労を執ることによって何らかの利益にあずかろうとしているにすぎないと推認されるし(甲15,19,原告代表者〔5,39,49項〕),原告が甲野の上記行動を認識していたとしても,そのことによって原告が甲野に何らかの交渉を依頼したことになるものでもない。

したがって,参加申出人の上記主張は理由がない。

(4) 以上によれば,参加申出人の原告に対する法定地上権確認請求も理由がない。

第四  結論

よって,原告の被告に対する,建物収去土地明渡請求は理由があるから認容することとし,金銭請求は主文第2,3項の限度で理由があるから一部認容することとし,参加人の原告及び被告に対する請求はいずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法65条,64条ただし書,61条を,仮執行宣言につき同法259条を,それぞれ適用して,主文のとおり判決する。

(裁判官 阪口彰洋)

別紙物件目録<省略>

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