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京都地方裁判所 平成18年(ワ)1330号 判決 2010年1月22日

原告

X1 <他77名>

上記原告ら訴訟代理人弁護士

平尾嘉晃

彦惣弘

住田浩史

川村暢夫

服部達夫

永井弘二

舩橋恵子

長野浩三

小川顕彰

玉村匡

須田滋

功刀正彦

新保英毅

被告

Y1(以下「被告Y1」という。)

被告

Y2(以下「被告Y2」という。)

同訴訟代理人弁護士

上野富司

被告

Y3(以下「被告Y3」という。)<他7名>

被告

Y4(以下「被告Y4」という。)

同訴訟代理人弁護士

橋口玲

主文

一  別紙損害目録「被告」欄に○を付した各被告は、これに対応する同目録「原告」欄記載の各原告に対し、それぞれ、対応する同目録「合計金額」欄記載の金員及びこれに対する同目録「起算日」欄記載の日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用については、別紙損害目録「被告」欄に○を付した各被告とこれに対応する同目録「原告」欄記載の各原告との間に生じたものは、それぞれその被告の負担とし、同目録「被告」欄に○を付していない各被告とこれに対応する同目録「原告」欄記載の各原告との間に生じたものは、それぞれその原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、連帯して、各原告に対し、各原告に対応する別紙損害目録「合計金額」欄記載の金員及び同金員に対する同目録「起算日」欄記載の日(ただし、原告X2については平成一七年四月二五日、原告X3については平成一六年一二月一〇日、原告X4については同年五月七日、原告X5については平成一七年一一月一五日、原告X6については平成一六年三月一日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、連鎖販売取引を行っていた株式会社EarthWalker(以下「EW」という。)又は株式会社AJCN(以下「AJCN」という。)に加入した原告らが、EWを設立した被告Y4並びにプレジデントエグゼクティブ統括代理店、エグゼクティブ統括代理店ないし統括代理店の地位にあったその余の被告らに対し、EWの行っていた連鎖販売取引が違法な無限連鎖講に当たり、被告Y4に対しては違法な組織を開設・運営したことが、その余の被告らに対しては違法な組織の維持拡大に寄与したことがそれぞれ不法行為に当たるとして、原告らがオーナー(販売担当者)契約時等にEW又はAJCNなどに支払った金員及び弁護士費用並びにそれらに対する不法行為の日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

一  前提事実(争いのない事実並びに各項掲記の各書証及び弁論の全趣旨によって認められる事実)

(1)  当事者等

ア 原告らは、いずれもEW又はAJCNなどとオーナー契約又は代理店契約を締結した者である。

各原告が契約を締結した具体的な経緯やその内容は、別紙各原告目録記載のとおりである。

イ EWは、平成一五年一二月、被告Y4により、カタログ配布事業による情報処理及び情報提供のサービス業等を目的として設立された株式会社である。

EW設立当時、被告Y4の実姉であるA(以下「A」という。)が代表取締役であったが、平成一六年二月二九日、B(以下「B」という。)が代表取締役に就任した。

ウ AJCNは、EWにおいてプレジデントエグゼクティブ統括代理店(以下「PEX統括代理店」という。)の地位にあったC(以下「C」という。)により、平成一七年六月二〇日、通信販売業、広告宣伝の情報媒体の企画、開発及び販売並びに広告宣伝代理店業等を目的として設立された株式会社である。

エ 被告Y2は、EWにおいて、PEX統括代理店の地位にあった者である。

オ 被告Y1、被告Y3、被告Y5、被告Y6及び被告Y7は、いずれもEWにおいてエグゼクティブ統括代理店(以下「EX統括代理店」という。)の地位にあった者である。

被告Y8、被告Y9、被告Y10及び被告Y11は、いずれもEWにおいて、統括代理店の地位にあったものである。

カ EWの組織には、いくつかのグループがあり、大きなグループとしては、京都を中心に活動していたC及び被告Y1の系列下にあるネオグループ(以下「ネオ」という。)、名古屋を拠点とする被告Y2の系列下にあるエーライズグループ(以下「エーライズ」という。被告Y5もこの系列に属する。)があった。その他に、被告Y2の系列下にあるものとして、静岡を拠点とする被告Y3及び被告Y6の系列下にあるアースプレインググループ、東京都池袋周辺を拠点とする被告Y7の系列下のグループなどがあり、関西を拠点とするものにはD(以下「D」という。)の系列下にあるパッショングループ、Eの系列下にあるサンクチュアリなどがあった。被告Y8はネオグループに、被告Y9、被告Y10及び被告Y11は、いずれもパッショングループに属していた。

(2)  EWの事業内容

ア カタロくじ事業

EWは、雑貨、食品、電化製品等の商品を掲載した、カタログと宝くじをかけて「カタロくじ」と称する懸賞付き通信販売カタログ(以下「カタロくじ」という。)による通信販売業を行っていた。

カタロくじには、「カタロト4」と称する懸賞(以下「カタロト4」という。)が付いており、同懸賞は、四つの枠に1~9の数字をそれぞれ記載して応募するというものである。

当選番号は、全国自治宝くじ事務協議会が主催するナンバーズ4の当選番号と同じ四桁の数字であり、四つの数字及び順序が一致した場合(ストレート)及び四つの数字が一致するが順序は異なる場合(ボックス)に当選となる。

当選金は、カタロくじ発行部数に五五円を乗じた額であるが、そのうち発行部数に五〇円を乗じた額が当選者に、五円を乗じた額が当該カタロくじを配布した後記のオーナー(販売担当者)などに配当される。

イ オーナー(販売担当者)の募集等

EWは、カタロくじを一部二一〇円で購入した上これを無料で配布すること及びカタロくじを店舗において無料で配布する「○○協賛店」を募集することを業とするオーナー(販売担当者。以下、単に「オーナー」という。)を募集していた。

オーナーは、会社の従業員とは異なり、独立の事業者としてEWのサービスのあっせんを行うこととされ、オーナー契約には、登録時に①オーナー契約金一七万円(一五万九〇〇〇円及びその消費税並びに契約月の月額システム利用料三一五〇円の合計額一七万〇一〇〇円から一〇〇円分をサービスとして控除したもの。以下「オーナー契約金」という。)、②ビジネススタートキット代金八四〇〇円(初回事務手数料及び名刺作成費用を含む。消費税込みの額)を要し、二か月め以降は、月額システム利用料として毎月三一五〇円をEWに支払うこととされていた(ただし、平成一六年一一月ころに改訂された後のもの。)。

ウ オーナーの昇格条件

オーナーが、自ら下位のオーナーを募集して三系列のオーナーを登録させると代理店に昇格する。さらに三系列に代理店を育成すると総代理店に昇格し、三系列に総代理店を育成すると統括代理店に昇格し、自己の系列下に統括代理店を育成するごとに一系列増設することができ、最大六系列まで増設することができる。六系列のうち、三系列に統括代理店を育成し、三系列に総代理店を育成するとEX統括代理店となり、六系列のうち三系列にEX統括代理店を育成し、三系列に統括代理店を育成するとPEX統括代理店に昇格する。

エ オーナーに対する報酬等

オーナー契約上、EWからオーナーに対し、以下の報酬(以下、オーナーに支払われる報酬を「コミッション」という。)が支払われることとされていた。

(ア) ○○会員獲得コミッション

EWにおいては、カタロくじ掲載商品の購入のみを目的とし、自らオーナー契約をしない会員を○○会員と称しており(以下「○○会員」という。)、○○会員の登録には、登録金や月額システム利用料は不要である。

顧客が○○会員に登録すると、当該会員にカタロくじを配布したオーナー(以下、カタロくじを配布したオーナーを「担当オーナー」という。)に対し、一登録につき六〇〇円のコミッションが発生する(以下「○○会員獲得コミッション」という。)。

(イ) ショッピングコミッション

顧客がカタロくじ掲載商品を購入すると、担当オーナー及び当該オーナーの上位のオーナーに対し、購入商品の一定割合のコミッションが発生する(ただし、総代理店以上のオーナーに発生するコミッションは自己を含む系列下一〇段において発生したものに限る。以下「ショッピングコミッション」という。)。

ショッピングコミッションの「コミッション率」は商品ごとに異なり、カタロくじ掲載商品の商品番号の下二桁に記載されており、概ね二〇~三〇%程度であった。

オーナー契約締結時確認書には、コミッション率に関する具体的な記載はなく、オーナー契約時に配布される「概要書面」には、カタロくじ掲載商品の商品番号の下二桁がコミッション率となるとの記載がある。

また、ショッピングコミッションが発生するためには、該当月においてオーナー自身がカタロくじの商品を購入していることが条件とされる。

(ウ) 当選額配当コミッション

○○会員が「カタロト4」に当選した場合、担当オーナーに当選額の一〇%のコミッションが発生する(以下「当選額配当コミッション」という。)。

(エ) オーナー契約締結コミッション等

オーナーが直接募集した者がオーナー契約をすると、二万円のコミッションが発生する(以下「オーナー募集コミッション」という。)。

また、自己の系列において新規オーナー契約があれば、その契約金からオーナーに一五〇〇円、代理店に三〇〇〇円、総代理店に四五〇〇円、統括代理店に六〇〇〇円、EX統括代理店に八〇〇〇円、PEX統括代理店に一万円のコミッションが発生する(以下「オーナー契約締結コミッション」という。)。

なお、オーナー契約金からの配当は、直接勧誘者を除き、自己の系列下に同資格者が九名できるまでとされ、自己の系列下にPEX統括代理店又はEX統括代理店が育成されると、オーナー契約締結コミッションを受けることができなくなる。

(オ) 月額システム使用料コミッション

自己の系列下の者が支払う月額三一五〇円のシステム利用料についても、オーナーに五〇円、代理店に一〇〇円、総代理店に一五〇円、統括代理店は二〇〇円、EX統括代理店は四〇〇円のコミッションが発生する。

なお、EX統括代理店は、自己の系列下にEX代理店が育成されると、月額システム使用料コミッションを受けることができなくなる。

(カ) ファイトポイントコミッション

オーナーにおいてEWの商材の販売、購入をし、又は担当の○○会員がカタロくじ掲載商品を購入した際にファイトポイントが発生し、コミッション発生に必要なファイトポイント数を達成した全オーナーに対して、総契約金売上げの一定割合を(各オーナーの資格ごとに設定された規定割合)を、コミッション発生に必要なファイトポイントを達成した全オーナーの頭数で割った金額が、コミッションとして支払われる。

これは、EW全体のオーナー契約金の一部を、オーナーの活動実績に即して配当するものであるが、ファイトポイントコミッションが発生するためには、オーナー資格が総代理店以上であることを要する。

(3)  被告Y4の逮捕による経営体制の変更

ア 被告Y4は、平成一六年一月一九日、強盗致傷及び覚せい剤取締法違反容疑で逮捕された。被告Y4の逮捕後、同被告から依頼を受けて、BがEWの代表取締役に就任した。BはEWのオーナーではなく、被告Y4と旧知の間柄であり、カタロくじ等の印刷・発送、カタロくじ掲載商品の発送代行等の業務を委託していたダイレクトショッピング株式会社(以下「ダイレクト」という。)及び有限会社ファーストプランニングの元代表取締役である。

イ 被告Y4の逮捕後、EWはBを代表取締役として、取締役F(以下「F」という。)及びG(以下「G」という。)により運営されていた。

(4)  EWの業務停止

EWは、平成一七年二月二二日、経済産業省の職員による立ち入り検査を受け、同省は、EWに対し、同年六月二〇日、特定商取引に関する法律(以下「特定商取法」という。)違反(EWに対しては書面不交付、同社の勧誘者に対しては勧誘目的等の不提示、不実告知、断定的判断の提供、適合性原則違反等)を理由として、同法三九条一項の規定に基づき、連鎖販売業に係る連鎖販売取引を三か月間停止するよう命じ、EWの勧誘者に対し、同法三八条二項に基づき、勧誘に際し、不実告知等の違反を行わないように指示した。

二  争点

被告らの不法行為の成否

(原告らの主張)

(1) 被告らの責任(総論)

ア EWの事業が無限連鎖講に当たること

(ア) EWは、オーナー契約時に、オーナー契約金として一口一七万円を支払わせている。かかる契約金は、形式的には、EWの、カタロくじ事業における「販売担当者」の資格を得ること及び同資格に基づく各種コミッションを得ることの対価であるとの体裁を取っている。

しかし、EWは、オーナーに対し、オーナー契約時にカタロくじを購入することを要求しておらず、オーナーが後順位のオーナーに対してカタロくじを配布するよう勧めることも少ない。

むしろEWは、拠出したオーナー契約金の回収は、オーナー契約の締結に伴うコミッションによることを奨励しており、オーナーもまた、そのような奨励の下、オーナーの勧誘に専念していた。

また、平成一六年一月から平成一七年九月までのオーナー契約金、ビジネススターターキット代金及び月額システム利用料の入金総額が二四億円余りであるのに対し、カタロくじ事業の売上金は僅か三〇〇〇万円余り、売上利益は八〇万円弱、販促品等については四四〇〇万円余りの損失が出ており、カタロくじ事業による経済的収益はおよそ存在しない。

このように、カタロくじ事業は実体のない事業であって、無限連鎖講の隠れ蓑であったことは明らかである。そして、「販売担当者」たる資格には何らの価値もなく、EWのオーナー組織の実体は、オーナー契約金の配当を目的とした単なる金銭配当組織にすぎない。

(イ) また、EWの規約において、二名以上のオーナーを勧誘することが義務付けられているものではないが、オーナー契約金を回収し、それを上回る利益を得るためには、新たに直接二名以上のオーナーを勧誘しなければならないシステムであるから、加入者が二以上の倍率で無限に増加する。

(ウ) オーナーは、代理店に昇格すれば少なくとも六万四五〇〇円(二万円及び一五〇〇円の合計金二万一五〇〇円の三名分)、代理店が総代理店に昇格すれば少なくとも二万七〇〇〇円(三〇〇〇円の九名分)、統括代理店に昇格すれば少なくとも一二万一五〇〇円(四五〇〇円の二七名分)のオーナー募集コミッション及びオーナー契約締結コミッションを得ることができるところ、この時点でオーナーの得たコミッションの合計額は二一万三〇〇〇円であり、出えんした額を上回る。

そして、先順位者に対する上記コミッションの原資は、後順位者のオーナー契約金であるから、先順位者は自己の出えんした金品の価額又は数量を上回る価額又は数量の金品を後順位者から受領する。

(エ) 以上によれば、EWの事業は、無限連鎖講の防止に関する法律(以下「無限連鎖講防止法」という。)で禁止される無限連鎖講の要件を満たす。

イ 被告らの不法行為

(ア) EWの組織的犯罪活動によって原告らの損害が発生しているのであるから、被告らが不法行為責任を負うか否かは、被告らが直接又は間接に個々の原告らを勧誘したか否かによるのではなく、EWにおいて、指導的立場に立つなどして、EWの活動に積極的に加担し、EWの維持発展に寄与したか否かによるべきである。

本件においては、被告らが、EWにおける無限連鎖講という違法な商法の維持拡大を図ってこれに加担してきたことは明らかであると共に、被告らが、無限連鎖講の違法性の認識を有したか、少なくとも認識可能性があったこともまた明らかであるから、原告らに対して不法行為責任を負う。

(イ) 被告らは直接勧誘していない原告に対しても不法行為責任を負う。

すなわち、EWにおけるオーナー組織は、新規オーナー契約があった場合に、組織内での先順位者が、直接その者を勧誘していなくてもオーナー契約締結コミッションを得るというものであるから、統括代理店以上のタイトルを有する被告らは、被告らの後順位者に新規オーナー契約を獲得させるべく、集団組織的な指導教育を行い、かつ、後順位者の活動の管理監督を行っていたのであるから、EWにおけるオーナー組織の維持拡大について明白な加担が認められる。

(ウ) 被告らは、自己の系列外の原告に対しても不法行為責任を負う。

すなわち、被告ら個人の責任は、犯罪組織である無限連鎖講の維持拡大に寄与したというものであって、結果として発生した系列によって、その責任を限定するのは妥当ではない。

実際には、先順位者の都合によって後順位者の組織上の位置が適宜変更されることもあるなど、系列というのは独立性の強いものではなく、不法行為責任の存否を画する基準とはならない。

また、ファイトポイントコミッションは、EWにおけるオーナー契約金の三~七%が総代理店以上のタイトル保持者に配当されるものであるから、被告らは、いずれも自己の系列下だけではなく、系列の内外を問わず、オーナー契約金から配当を受けている。例えば、平成一六年には、一年間に四二五万六六九七円がファイトポイントコミッションとして配当されており、「利益の存するところにまた責任も帰すべし」との報償責任の見地からしても、系列内に責任は限定されないというべきである。

ウ AJCNと契約した原告らに対する責任

(ア) AJCNは、業務の目的、内容、会員のシステム、昇格条件、その構成員、構成員同士の上下関係、システムの利用料など、EWの業務の中核的内容をほとんど完全に引き継いでおり、実質的に同一会社である。

また、AJCNが設立された平成一七年六月二〇日の直後である同年七月初旬ころから、EWの関係者からEWのオーナーらに対し、AJCNに登録を変更されたいとの連絡がされており、EWとEWのオーナーとの間で締結されたオーナー契約の契約上の地位は、包括的にAJCNに移転している。

(イ) また、AJCNが設立されたのが、EWが経済産業省から取引停止命令を受けた平成一七年六月二〇日であることからすると、AJCNが、同命令をかいくぐって同命令期間中に活動を継続すべく設立されたことは明らかである。

さらに、AJCNは、EWが、契約者からのクーリングオフによる解約金の支払による破綻を免れるため、これを免脱して事業を継続する目的で設立されたものである。

このように、AJCNとEWは実質的に同一で、かつ、AJCNは法人格を濫用する目的で設立されたものであるから、法人格は否認される。

仮に濫用の目的が認められないとしても、法人格の付与は、ある団体を権利主体として扱うことが国民経済上有用であるという価値判断に立脚するところ、AJCNの事業は、EWと同様に無限連鎖講の開設及び運営という犯罪行為であり、その存在自体が許されないのであるから、いずれにしろ、AJCNの法人格は否認されるべきである。

(ウ) 以上のとおり、EWからAJCNに契約上の地位が移転され、仮に契約上の地位が移転していないとしてもAJCNの法人格は否認されるべきであるから、被告らの行為はEWないしそれと同視されるAJCNの組織拡大に向けられており、AJCNとオーナー契約をした原告らとの間においても不法行為責任を負う。

(2) 被告Y4の責任

被告Y4は、もともとHらと共に、連鎖販売取引業を営む株式会社エスエフシーコミュニケーションズ(以下「SFC」という。)を立ち上げた中心人物であるが、平成一五年ころ、Hらとの関係に問題が生じたことから、SFCから独立するべく、平成一五年一〇月、自ら一億一〇〇〇万円を出資して、SFCの加盟店組織の最上位の地位にあった被告Y2並びにC、D及びI(以下「I」という。)並びにその下位組織を株式会社オーエヌイー(以下「ONE」という。)に移行し、さらに平成一五年一二月、六〇〇〇万円を出資してEWを設立し、ONEの組織をそのままEWに移行させた。

このように、被告Y4はEWを設立し、無限連鎖講組織を開設・運営したのであるから、原告らに対し、最も重い責任を負うべきである。

(3) 被告Y2の責任

被告Y2は、EWのオーナー組織の最上位であるPEX統括代理店として、第一に、EWのオーナー組織の維持拡大を図り、第二にEX会議にオーナー側の代表として参加し、オーナーの意見を会社に提出したり、会社の運営上の決定事項を各オーナーに伝えるパイプ役を務めていた。

また、被告Y2を責任者として、「ベーシックトレーニング」や「ヒーローズ」といった企画を開催し、オーナーの活動を強化させ、また、配下のEX統括代理店及び統括代理店をして各種セミナーを開催させ、スピーカーを務めさせることにより、EWのオーナー組織の維持拡大を図ったのであるから、原告らに対して不法行為責任を負う。

(4) EX統括代理店らの責任

EX会議は、実質的にはEWの最高の意思決定機関であり、EWの運営に関する決定は同会議においてなされていた。被告Y1、被告Y3、被告Y5、被告Y7及び被告Y6は、EX統括代理店として、EX会議に出席し、オーナー組織の維持拡大に加担していた。

また、EX統括代理店らは、新規オーナーの獲得及びオーナーの脱退防止のため各種セミナーを開催し、スピーカーを務めるなどして、EWのオーナー組織の維持拡大を図っていた。

このようにEX統括代理店らは、EWのオーナー組織の維持拡大に寄与していたのであるから、原告らに対して不法行為責任を負う。

(5) 統括代理店らの責任

無限連鎖講防止法において、業として無限連鎖講に加入することを勧誘した者に対しては、一年以下の懲役又は三〇万円以下の罰金が科せられているところ、統括代理店の地位にあった被告Y8、被告Y9、被告Y10及び被告Y11は、勧誘マニュアルを作成したり、各種セミナーを主催してスピーカーを務めたほか、具体的な勧誘活動において指導的役割を果たした。

また、統括代理店らは、組織的に統括代理店による会議(以下「統括会議」という。)を月一回程度開催し、EX会議の内容の伝達、質疑応答、問題点の話し合いなどをしていた。

このように、統括代理店の地位を有していた被告らは、EWのオーナー組織の活動に積極的に加担し、同組織の維持拡大に寄与し、業として無限連鎖講への加入を勧誘していたのであるから、原告らに対して不法行為責任を負う。

(6) 共同不法行為が成立すること

被告らは、EWのオーナー組織の維持拡大に強く寄与していたのであるから共同不法行為が成立し、原告らに対し、連帯して損害を賠償する責任を負う。

(被告Y4の主張)

(1) 組織の違法性がないこと

ア カタロくじ事業は金銭配当組織を隠匿するための隠れ蓑ではない。カタロくじ事業の目的は、カタロくじを流通させることにより無料会員を増やし、無料会員登録を通じて個人情報を取得し、企業と提携することによって企業から収入を得るなど様々な事業展開の基礎とすることにあった。

被告Y4は、カタロくじを入り口とした無料会員の獲得こそがEWの事業展開に不可欠であると真剣に考えていたため、様々なカタログを集めて内容を吟味し、カタロくじを機能的にも視覚的にも魅力あるものにしようと努力した。

カタロくじによる登録は、単なる無料会員登録にすぎず、オーナー契約ではないので、カタロくじを配布して無料会員を増やしても、オーナー契約金の売上げが上がるわけではないにもかかわらず、このようにカタロくじの内容等に力をいれたのは無料会員を増やすことが目的であったからにほかならない。

また、被告Y4は無料会員登録の際にメールアドレスを取得すれば、今後メールで広告を配信し、広告主から手数料を得ることができるなど、情報流通にも有用であると考えていた。

実際に無料会員登録者数は、四~五万人程度にまで達していたのであり、オーナー数(五五一七人)の一〇倍近い。メール登録件数も一~二万件に達し、順調に増えつつあった。

イ 被告Y4は、連鎖販売取引等の経験上、無限にオーナーが拡大していけばいずれは組織が破綻することを熟知しており、上記アのとおり、カタロくじを通じて無料会員を増やすことによって組織を安定、永続させることを企図していた(オーナーの二〇倍を集めることを考えていた。)。

被告Y4は、無料会員が増えることにより、消費活動は盛んになり、カタロくじ商品の仕入単価が下がるだけではなく、協賛店との提携が上手くいくこと、広告収入が増えること、メール配信による広告収入やカード会社との提携によるカード利用手数料収入も見込めることなど、将来的に様々な事業基盤となることを見越して、当初は会社にとって赤字でも、無料会員を増やすことに尽力していた。

個別の事業内容についても、成功はしなかったものの、被告Y4は、クラブネッツカードと提携して、クラブネッツカード側の会員を取り込もうと考え、相当の費用を支出して、実際にクラブネッツカードをカタロくじに添付して無料配布するなどしていた。

もっとも、平成一六年一月に被告Y4が逮捕されたことにより、被告Y4の構築したシステム及び経営方針をEX統括代理店等に伝達することができず、結果として、被告Y4の構想どおりに無料会員が増加しなかったにすぎない。

しかしながら、現実に無料会員は増えていたのであり、EWも被告Y4が考えていた福利厚生事業やカード会社との提携など、事業内容を拡大していく考えであったものの、その途中で学生問題が発生して、事業が頓挫したのである。すなわち、EW設立当初被告Y4が構想したシステムは無限連鎖講に該当するものではなかった。

ウ EX統括代理店らは、下のタイトルの者に対し、説明や情報提供をするなどの活動をしなければ、より多くの収入を得ることができず、何もしないでコミッションを得られるわけではない。

昇格すればコミッションが増えるというのは単なる成果主義であり、資本主義社会では普通に認められているものである。

エ 新規オーナー契約希望者が経済合理性の判断をすることができれば、事業参画して自身に利益が発生するか否かを考えて、オーナー契約をするか否かを判断するから、オーナーが無限に増え続けることはない。

(2) 違法性の認識がないこと

そもそもオーナーの昇格システムが当然に無限連鎖講となるわけではない。

EWでは、単なる金銭配当組織ではなく、オーナー契約事業とカタロくじ事業との有機的連関を目指しており、被告Y4は、EWのオーナー組織は適法な連鎖販売取引であるとの認識の下、EWを開設・運営したもので、違法性の認識がない。

実際に、被告Y4の逮捕後、EWは、福利厚生事業を立ち上げ、協賛店の募集やカード会社との提携を行っている。その行われた、協賛店の拡大、掲載、EWクーポンの導入、ホームページの立ち上げなども、被告Y4の構想が実現したものであり、被告Y4がEWを単純な金銭配当組織とする意図がなかったことは明らかである。

また、まだ稼働はしていなかったものの、メールの登録件数は一~二万件、無料登録会員も四~五万人に達しており、メール配信事業も計画されていた。

(3) 因果関係がないこと

ア 被告Y4は平成一六年一月に逮捕されており、EWに対する働きかけが物理的に不可能となり、保釈後もEX統括代理店らと接触していないから、平成一六年一月以降に加入した原告ら及びAJCNと契約した原告らの損害との間に因果関係はない。

イ 被告Y4は、学生を勧誘することについては一貫して否定的な立場であった。EWが学生を本格的に勧誘すべく、契約条件を変えたのは、被告Y4の影響力がなくなった後であり、原告らのうち、平成一六年一月以降学生資格で加入した原告らの損害との間に因果関係はない。

(4) 共謀がないこと

被告Y4には違法性の認識も故意もなく、平成一六年一月一六日に逮捕勾留されて以降EWの事業を展開することは不可能であった。実際にEWの運営はすべてBに任せており、同人からEWへの関与を拒絶されていたのであるから共謀はない。

特に学生を勧誘しないという点については、被告Y4とEWとの立場が異なっており、被告Y4は学生を勧誘することについては明確に反対していたのであり、学生を勧誘する等の「運営」の要素について被告Y4は全く関与していない。

AJCNについては、物理的にも心理的にも一切の関連がない。

(被告Y2の主張)

(1) 本件のごとき無限連鎖講の組織にあっては、会員が自らの努力により代理店、総代理店、統括代理店、EX統括代理店、PEX統括代理店の地位に順次就くことができるから、原告らも何時でも加害者になることができる。精進した者が加害者、そうでない者が被害者というのは不合理である。

(2) 会社の責任は、役員等が負うべきであって、オーナーが負うものではない。

(3) 原告らの中に、被告Y2の系列下の会員は一人もおらず、原告らの損害との間に因果関係はない。

(4) 被告Y2は、名古屋を中心に活動をしていたところ、名古屋関係の会員に対して二〇〇〇万円を、C系列下の会員に対して三〇〇万円を支払った。埼玉の弁護団には二〇〇万円の財産を仮差押えされている。そうすると、被告Y2は既に賠償責任を果たしているといえる。

(被告Y1の主張)

(1) 被告らについては、組織への関わり方や程度は被告各人によって大きく異なっているにも関わらず、そのような被告各人の事情を一切捨象して、一律に等しく不法行為責任を負わせることは妥当ではなく、寄与の度合い等に応じて責任が決せられるべきである。

統括代理店は、統括会議やリーダー会議に出席資格があるというにすぎず、そもそも統括会議に参加していない者もいるし、その在籍期間や傘下にいる会員の数、活動の内容等、組織への関わり方も様々である。

本件においては、原告らは、被告Y1が統括会議やリーダー会議へ参加したことや、各種セミナーを主催したことについての具体的な主張をしていないから、被告Y1に不法行為は成立しない。

(2) 仮にEWのオーナー組織への勧誘行為について不法行為責任を負うとしても、個人責任主義の民法の下では、損害発生につき直接の原因を与えている部分についてのみ個別的に責任を負担するのが原則であり、他人の行為によって生じた結果についてまで責任を負担するのは、共同不法行為が成立するときなどの例外的な場合に限定される。

そうすると、自ら勧誘した原告以外の原告らの損害と被告らの勧誘行為との間には因果関係がなく、岐阜、名古屋、静岡等を住所地とする系列外の原告や、AJCNやSFCと契約をした者の損害について、被告Y1は責任を負わない。

また、統括会議で「共謀」の意思決定が行われたことはなく、そもそも統括会議に参加していない者もおり、EWのオーナー組織の維持拡大に加担したことのみをもって共同関係が生じるものでもないから、共同不法行為は成立しない。

(3) なお、EWのオーナー組織への加入を勧誘したことのみをもって「組織の維持拡大に加担した」というのであれば、一度でも勧誘行為をしたことのある原告らも同じである。

少なくともEWの財政状況や組織の運営状況について詳細を知らされていなかったという点においては統括代理店も原告らと同様であって、オーナー契約金の入金額やショッピングの売上げ等の情報については関知しておらず、EWのオーナー組織が適法な連鎖取引ではなく、違法な無限連鎖講であったことについて違法性の認識はなく、認識し得る立場にもなかった。

(4) AJCNとEWとは別人格の法人であり、AJCNがEWの事業を引き継いだとの事実は争う。

(5) 原告X7については、既に被告AJCNからクーリングオフに基づいて返金済みである。

(被告Y5、被告Y3、被告Y6、被告Y7、被告Y10、被告Y9、被告Y8及び被告Y11の主張)

不法行為の成立を争う。

(被告Y4の主張に対する原告らの再反論)

(1) 無限連鎖講は、その組織に加入して利益を得ようとする場合には、自らが新しい加入者を獲得することが必要であり、さらには自分の系列下に位置する加入者が新しい加入者を獲得していくことが必須であるから、組織は無限に連鎖していかざるを得ない。このように、無限連鎖講は、無限に連鎖していく性質を有するものであるところ、世界の人口には限りがあるから、破綻が必至となるものである。無限連鎖講が刑事法によって規制されているのもそのためである。

このような無限連鎖講組織において、加入者に制限を設けることは自己矛盾であって、仮に制限を設けたとしても、そのような自主規制で学生や未成年者への勧誘が防止されるとは考え難い。無限連鎖講組織を構築、運営する段階で、未成年者や学生が参加し、被害者となることは容易に予見される事態である。

よって、仮に被告Y4の方針として学生の参加を不可とし、概要書面にそのことを記載して、加入者には誓約書を書かせるといった規制を設けていたとしても、学生や未成年者が参加する危険が防止できるものではない。

実際にEWの設立当初から学生の加入者は存在し、平成一五年から平成一七年にかけてのEWに対する苦情件数は一二〇件であり、そのうち、二〇代からの苦情が九九件、一〇代からの苦情が八件、学生勧誘が八三件である。

また、無限連鎖講は組織発足初期に加入した者が、後から加入した者の加入金の配当によって利益を受けるというものであり、その時期に参加を規制されていた学生や未成年者が後に参加し、末端に位置づけられた結果、より甚大な損害を受けることになった。

(2) 被告Y4は、平成一六年一月以降も、本件無限連鎖講から生じる利益に関し、EWと報酬の取めを交わしており、平成一六年三月から平成一七年三月までの一年間で一億円以上もの利益を得ており、EWへの関与を否定することはできない。

第三争点に対する判断

一  事実認定

(1)  EW設立の経緯

《証拠省略》によれば、以下の事実が認められる。

ア SFC

(ア) 被告Y4は、平成一二年二月一日、H、J等とともに、携帯電話、損害保険、プロバイダ及びクレジット等の契約取次を主な事業内容とするSFCを設立し、Hが代表取締役となり、被告Y4も一一〇〇万円を出資した上、自ら取締役となった。

SFCでは、加盟店の資格が、下位から代理店、総代理店、統括代理店、EX統括代理店と称され、加盟店になるためには「サポートキット代」又は「教材一式」と称された加盟金一〇万円を支払う必要があり、これに加えて月ロイヤリティと称する月額三〇〇〇円のシステム利用料を支払うこととされていた。

加盟店の報酬は、新たに加盟店を募集すれば一店につき一万二〇〇〇円、自店エリア内において新たに加盟店が募集されると一店につき各加盟店資格ごとに一五〇〇円、EX統括代理店に二〇〇〇円を、月額システム利用料から、各資格につき五〇円、EX統括代理店に二〇〇円配当するとされ、複数の資格は兼ねることができ、自店の下二店から九店までの範囲で、下位にEX統括代理店ができるまで受け取れることになっていた。

(イ) 被告Y2並びにC、D及びIは、いずれもSFCにおいて、最上位のEX統括代理店の地位にあった。

(ウ) SFCにおける収入の九〇%以上は加盟店やロイヤルティによる収入であり、かかる会社の経営状態については、被告Y4を始め、上記(イ)記載のEX統括代理店らも認識していた。

イ ONE

(ア) 被告Y4は、SFCが商材とするものは利益を生み出さず、加盟金やロイヤリティのみを収益としており破綻を免れないこと、学生勧誘問題が生じて収益が激減したことなどを受け、新たな商材としてカタログ事業を展開するべく、平成一五年九月ころ、SFCから独立して、休眠状態にあったONEに、被告Y2並びにC、D及びIの各系列下にあった加盟店約三〇〇〇人を移行させた。

(イ) 被告Y4は、ONEの設立に際して一億一〇〇〇万円を出資し、被告Y2並びにC、D及びIから、それぞれ五〇〇万円の出資を受け、同人らに対し、出資の対価としてONEの新規加盟店登録料の総額〇・三%を配当金として支払うことを約束した。

(ウ) ONEの事業内容

ONEの事業内容は、カタログによる通信販売事業、加盟店の昇格資格、コミッションの種類、その配当方法について、EWとほぼ同様である。

(エ) ONEからEWを設立した経緯

被告Y4は、SFCから独立するに際して生じたHらとの紛争に関し、SFCからONEに対して民事訴訟が提起され、資産を差し押さえられるおそれがあったことや、ONEには被告Y4のほかにも株主がおり、経営権を奪われる危険もあったことなどから、平成一五年一二月一日、被告Y4は個人で六〇〇〇万円を出資してEWを設立し、ONEの加盟店組織をそのままEWに移行させた。

なお、被告Y4は、EWの実質的経営権を掌握しつつ、SFCとの紛争を避けるため、自らは役員とならず、姉であるAを代表取締役及び経理担当者とした。

(2)  EWの事業内容

《証拠省略》によれば、以下の事実が認められる。

ア 被告Y4は、ONEの活動を始めた平成一五年一〇月一四日ころまでに、カタロくじ事業、各種コミッションの内容、オーナー資格の昇格条件など組織の基本的な部分を決定したほか、カタロくじの制作及びシステム(会員並びにショッピングコミッションの計算及び配当などを管理・運用するシステム)の開発を、株式会社じんざい社の従業員であるK(以下「K」という。)に依頼するなどして、EWの前身であるONEにおいて、EWの基礎となる組織を構築した。

イ カタロくじの掲載商品は、主には飲料、食品、日用品等の消耗品であり、掲載商品の仕入及び発送は、当初はじんざい社、途中からはBが元代表取締役を務めていたダイレクトが、業務用スーパー等で仕入れて、これを発送していた。EWがダイレクトに対して安く仕入れるよう指示することなどはなかった。

ウ EWの収支状況

(ア) EWは毎月のオーナー契約金約一億円のうち、六五%をコミッションとしてオーナーに配当し、残りの三五%から役員報酬等を支払っていた。

EWに支払われたオーナー契約金の総額は二二億四九八二万二五六三円であった。月額システム利用料や研修オーナー契約金を含めると二四億〇四七三万六三一六円となる。そのうち、約一一億円をコミッションとしてオーナーらに支払い、約六億円をクーリングオフにより契約者に返金し、約七億円がEWの利益であった。

(イ) 平成一六年一月から平成一七年一〇月までの間におけるカタロくじ掲載商品の売上金合計額は三一一二万八八〇三円、仕入値は三〇二五万八四七六円、返品七万四三七二円であり、売上利益は七九万五九五五円であった。また販促品については、売上金が二四二六万五五七三円であり、仕入値は六八六七万一五一七円、返品が一五万八六〇四円であり、四四五六万四五四八円の赤字であった。

その他の収益等も含めると、同期間のカタロくじ事業における販売売上金は、合計六七八三万四四九六円であり、仕入額の合計が九九四三万九九六九円であり、三一六〇万五四七三円の赤字であった。

また、平成一六年三月から平成一七年三月までの間に発生したショッピングコミッションは総額で約二八〇万円であった。

(ウ) オーナー募集の直接コミッションであるオーナー募集コミッション並びに間接コミッションであるオーナー契約締結コミッション、エグゼクティブサポートコミッション、プレジデントエグゼクティブサポートコミッション及びシステム利用料コミッションの原資となっていたのは、もっぱらオーナー契約金及びシステム利用料である。

(エ) また、○○会員獲得コミッションの原資は、オーナーのカタログ購入代金(一部二一〇円)であるが、カタログ購入代金二一〇円のうち、一〇円はカタログ制作費用、五五円は当選金であるから、○○会員の勧誘コミッション六〇〇円の原資となるのはその残額の一四五円である。

さらに、仕入価格以下を売値としている目玉商品等の損失分についても、カタロくじ販売代金の収益から支出されていた。

(オ) EWは、被告Y4に対し、平成一六年三月、「継続的報酬に関する覚書」により、「月間加盟料売上合計四%及び所有株数一二口×〇・三%及び家賃ロイヤリティ二〇〇円×加盟店数」を業務支援手数料として支払うことを約したが、EWから多額の金銭が支払われていることを知ったEX統括代理店からの意見により、平成一七年二月七日にはこれを改定し、固定で毎月五〇〇万円を支払うことを約した。

EWから被告Y4に対し(形式的な振込先は、被告Y4が代表取締役であるリアライズマックス株式会社である。)、平成一六年三月から平成一七年三月までの間に、総額一億〇三六八万〇六四九円の金員が支払われている。

(3)  オーナーの活動

《証拠省略》によれば、以下の事実が認められる。

ア EX会議

EWにおいては、毎月一~二回、経営者、PEX統括代理店及びEX統括代理店によるEX会議が開催されていた。

EW側からは、平成一六年一月に被告Y4が逮捕されるまでの間は、被告Y4が、被告Y4が逮捕されてからは、被告Y4に代わってEW役員であるB、F及びGが出席していた。他方、オーナー側は、PEX統括代理店及びEX統括代理店に出席資格があり、C、被告Y2、I、D、被告Y1、被告Y3、被告Y6がほぼ毎回出席していた。

EX会議においては、EW側からは、EWの決定事項(各種キャンペーンの実施等)、カタログ新商品の紹介、オーナー募集活動に伴う売上金やクーリングオフの返金額の報告、下位のオーナーに対する連絡事項等の情報提供がなされ、オーナー側からは、EWの経営や勧誘活動に関する意見を述べ又は提案をするなどして、EWの業務活動について双方で話し合いをするなどしており、実質的にはEWの事業方針、企画内容等運営上の決定する最高の意思決定機関であった。

イ 統括会議

パッショングループにおいては、統括会議が月に一回程度開催されており、被告Y9、被告Y10及び被告Y11は統括代理店として同会議に出席していた。

同会議では、EX統括会議の内容の伝達、質疑応答が行われ、それらの内容や問題点、目標等につき話合いが行われていた。

ウ セミナー等の開催

EWにおいては、新規加入者を対象とした事業説明会である「OM」(オポチュニティミーティング)、登録後間もないオーナー五〇名程度を集めて勧誘方法を教示するための「FT」(フロントトレーニング)、オーナーの中からリーダーを育成するための「LM」(リーダーミーティング)、実績のあるPEX統括代理店、EX統括代理店数名による成功体験を踏まえた仕事の進め方、考え方などのスピーチを内容とする「LVUP」(レベルアップミーティング)、毎月給料締め日後に、上位者の表彰や講演、翌月の目標達成のためのアドバイスを上位者から受けるなどする決起集会である「月初M」(月初めミーティング)、オーナーや各グループのリーダーなど比較的少人数で、各種指導をしたり、相談に乗ったりする「GM」(グループミーティング)などの各種セミナーが開催されていた。各種セミナーにおいて指導者となるオーナーは、マニュアル化された勧誘方法を繰り返し教示するほか、「一ケ月に三人づつ募集した時のシミュレーション」と題する書面を示して、オーナーが増加した場合の報酬額を計算させるなどしていた。

また、オーナー資格昇格者の表彰式や、PEX統括代理店、EX統括代理店等の高額コミッション収受者によるスピーチを行う祭典もあり、全国のオーナーが一堂に集まる祭典は「ラリー」と称され、各地域においても「SLM」や「ヒーローズ」(エーライズグループの祭典)といった祭典が行われており、その会場を興奮状態にして、オーナーらの射幸心を煽っていた。

PEX統括代理店、EX統括代理店及び統括代理店は、自己の系列におけるセミナーや祭典の開催者やスピーカーとなるほか、他の系列においてもゲストスピーカーとしてスピーチをすることがあった。

エ 勧誘活動

(ア) 勧誘の方法としては、各種セミナーによる集団的な勧誘と、「ABC」と称される個別の勧誘があった。

(イ) 「ABC」とは、「情報は友人よりも第三者(特に目上の人や尊敬できる人物)から聞く方が耳に入る」という心理学の法則を利用したもので、以下の勧誘方法をいう。

まず、オーナー(以下、勧誘をするオーナーを「B(ブリッジ)」という。)が、友人や知人(以下、被勧誘者を「C(クライアント)」という。)に会い、○○会員になるのは無科であること、カタロくじが懸賞付きのカタログであること、好きな時間に仕事をすることができること、オーナー契約をしてカタロくじを配布し、配布された人がそのカタロくじで買い物をすれば、一部につき六〇〇円を受け取ることができること等の簡単な説明のみをしておき(「B」自らオーナー契約の説明をしてはならない。)、相手が興味を示したら、自己の系列の上位オーナー資格者(以下、オーナー資格の説明をする上位オーナー資格者を「A(アドバイザー)」という。)に連絡し、会うための日を設定する。

「A」と「C」が会う日までに、「B」は「A」に「C」に関する情報を伝え、他方「C」に対しては、「A」の実績や「A」が尊敬できる人柄であることを伝えておく。このように、「B」が「A」を持ち上げることを「T-UP(ティーアップ)」という。

そして、「C」の「A」に対する信頼が高まったところで「A」と面会させ、「A」から「C」に対して、EWのオーナー契約に関する説明をするというものである。

面会後は、「クロージング」といって、被勧誘者の疑問や不安を解消することにより、登録の是非を振り分けた上、「B-PUSH」(ビープッシュ)といって、できるだけ事業の説明をしたその日に契約を取り、それができなければ、日にちを空けずに再度会い、冷静に考える時間を与えないようにするよう努める。

(ウ) EWにおける勧誘活動の多くは「ABC」によってなされており、登録後間もないオーナーに対しては、セミナー等で同勧誘方法を教示し、同勧誘方法のマニュアルも作成されていた。

(エ) 勧誘に関する問題

a 不実告知、事実不告知、断定的判断の提供等

EWのオーナー勧誘活動においては、勧誘活動の困難性を秘し、「三か月で契約金は返金できる。」、「月三〇万円は儲かる。」、「損することなく利益を上げることができる。」などの事実のみを断定的に告知し、○○会員獲得コミッションに関しては、実際にはカタロくじを二一〇円で購入するため実収益は三九〇円である上、カタロくじを配布した人が○○会員の登録をしなければ得ることができないことを秘して、「カタログで収入がある。」、「カタログ配ると一冊六〇〇円もらえる。」などの事実を告げ、又は、複数口のオーナー契約は、勧誘ができなかった場合には損害がより大きくなり、月額システム利用料を口数分継続的に支払わなければならないことを秘して、「一口より二口の方が儲かる。」、「口数が多ければ多い程、自分に入ってくる報酬も多くなるし、早く元を取り戻せるんやで。お勧めは三口。三~五口が人気やし、逆に一口とか二口なんて人は少ないで。」、「二口入った方が得やで。一口やったら後悔するで。」などと誘導して複数口の登録を促すことや、自らは正確な法律知識もないのに「適法なマルチビジネスである。」と断定して告知するといった勧誘が行われていた。

また、相当数のオーナーが、勧誘者のあっせんによる消費者金融での借入れを伴うオーナー契約をしている。

さらに、勧誘において、あたかも大手メーカーと業務提携をしているかのごとく、大手メーカーの商品が掲載されているカタログを取り扱っていることを強調する者もいた。

b 学生勧誘

平成一五年度から一七年度までの京都市市民生活センターにおける苦情件数一二〇件中八三件が学生勧誘であり、原告らの中にも登録時学生であった者が含まれる。

(4)  法令の周知

《証拠省略》によれば、以下の事実が認められる。

ア EWでは、報酬や昇格条件といったEWのオーナー組織の仕組みなどが記載された「概要書面」を作成し、オーナー契約の際に渡すように指示し、平成一六年一一月一一日に特定商取法における連鎖販売取引に関する規制の改正が施行されてからは、法政正を反映した改定版の交付がなされていた。

同「概要書面」には、クーリングオフの期間が明示されているほか、勧誘活動における「禁止事項」として、目的を明示しないで勧誘する行為、「会員になると必ず儲かる。」などの射幸心をあおる発言をすること、「今しか買えない。」などの威圧困惑させる言動をすること、販売担当者資格の取得又は会員の権利義務について真実を告げず又は不実のことを告げること、未成年者及び満二〇歳以上であっても保護者の同意承諾が得られない学生への入会及び紹介普及の働きかけをすること、消費者金融など一般金融業者利用によるオーナー契約を勧めることなどが明示されていた。

イ EWの取締役であり法務担当者でもあるGは、概要書面を作成して、オーナー契約時に交付することを義務付けるほか、EX会議において、学生勧誘、強引な勧誘、書面不交付、不実の告知、事実の不告知、断定的判断の提供、消費者金融の紹介あっせん等の問題が生じていることにつき出席EX統括代理店らに問題を提起し、満二五歳未満の者に対して二〇歳以上であること又は学生については保護者の同意承諾があることを確認した誓約書を提出させることや、支払能力を超える勧誘行為や消費者金融等の一般金融業者を紹介・あっせんしての勧誘活動をしないことといった法令の遵守を指示指導するなどしていた。

また、Gは、定期的に各地で法務セミナーを開催し、参加オーナーらに法令の遵守を指示指導していた。

ウ EWにおいては、「勧誘マニュアル」が作成されており、作成時期及び作成者は不明であるが、各種セミナー等で利用されていたことが推認される。

同マニュアルにおいては、契約後二〇日間はクーリングオフが可能であることの説明は記載されているが、特定商取法上禁止されている不実告知、事実不告知の禁止(同法三四条)について「故意に事実を告げない。また不実なことを告げる行為をしてはなりません、『利益を上げるチャンスがある。』といった表現を使おう。」としか説明されておらず、概要書面の交付、特定負担に関する書類の交付(同法三七条)については、「概要書面の交付、特定負担に関する書類の交付」と記載されるのみで、それ以外の説明はない。

また、同マニュアルは、無限連鎖講とは「出資者を集める、金銭のみの配当組織をいう。すなわち物品・サービス等の普及などの商取引を伴わず、単にお金だけをやり取りする「マネーゲーム」というわけです。」と説明し、マルチ商法については、「連鎖販売取引の中で特に悪質なものをさすと解釈されています。例えば、連鎖販売取引において、業者の会社の概要や取引商品の説明を一切行わず、単に収益プログラムのみを説明して勧誘するような行為です。」と説明している。

(5)  AJCNの実態

《証拠省略》によれば、以下の事実が認められる。

ア AJCNにおいては、L及びEWにおいてPEX統括代理店であったCが代表取締役である。

イ AJCNは、カタロくじと内容の酷似する「LDC事業」という懸賞付きカタログを商材とした通信販売事業及びそれによる「代理店」会員募集事業を行っており、代理店契約金が一五万円、スターターキット代金が八〇〇〇円である点及びオーナー資格の呼称が異なる点を除いては、昇格の条件、報酬の支払方法の基本的な仕組みはEWのオーナー組織をほぼそのまま利用している。

オーナー組織は、各会員の地位だけではなく、EWにおいて形成された各会員の上下関係もそのまま維持されており、会員のID番号もEWのものがそのままAJCNにおいても利用されている。

AJCNの通信販売の返送先の住所も、EWのカタロくじにおいて商品の返送先として記載されていたBの住所から変更されていない。

ウ Cは、EWから独立するに際し、Bから、EWの取引先である会員管理ソフト制作会社及び通信販売業務の委託先について紹介を受け、同業者らに業務を委託している。

エ AJCNは、EWが取引停止命令を受けた日と同じ日に設立されている。

オ 平成一七年七月初旬ころから、EWと契約した原告らに対して、EWの担当者や直上のオーナーらから、EWからAJCNに組織替えをしたので、EWと契約していた原告らにおいてAJCNへ登録変更の手続をするように要請された。EWと契約していた原告らは、登録料を支払うことなく、AJCNと代理店契約を締結した。

AJCNは、EWからの変更手続が完了した会員らについては、AJCNの「代理店」と位置づけるとともに、AJCNからコミッションを支払い、毎月のシステム利用料を徴収しており、AJCN登録後は、EWから同会員らに対してシステム利用料の徴収は行われていない。

カ 平成一七年五月三一日に被告Y2により株式会社アールエージー(以下「RAG」という。)が設立され、EWが取引停止命令を受けるのと前後して、被告Y2の系列下にあったEWのオーナーらはRAGに移行している。

二  不法行為の成否

(1)  被告らの責任(総論)

ア 組織の違法

(ア) 無限連鎖講防止法は、無限連鎖講が、終局において破綻すべき性質のものであるのにもかかわらずいたずらに関係者の射幸心を煽り、加入者の相当部分の者に経済的な損失を与えるに至るものであることにかんがみ、これに関与する行為を犯罪行為として禁止しており、同法二条で、無限連鎖講を「金品(財産権を表彰する証券又は証書を含む。以下この条において同じ。)を出えんする加入者が無限に増加するものであるとして、先に加入した者が先順位者、以下これに連鎖して段階的に二以上の倍率をもつて増加する後続の加入者がそれぞれの段階に応じた後順位者となり、順次先順位者が後順位者の出えんする金品から自己の出えんした金品の価額又は数量を上回る価額又は数量の金品を受領することを内容とする金品の配当組織」と定義する。

(イ) これをEWのオーナー組織についてみると、前提事実記載のとおり、オーナーに二名以上のオーナーの勧誘を義務づける規定はないものの、オーナーから代理店への昇格条件は自らの下位に三系列のオーナーを登録させることとされ、その後も当該三系列のオーナーが代理店に昇格することが総代理店への昇格条件となっていることからすると、EWのオーナー組織は、連鎖して段階的に三以上の倍率をもって増加する後続の加入者がそれぞれの段階に応じた後順位者となる組織であるといえる。

また、オーナーは登録時に一口一七万円の契約金を支払うところ、三人の新規オーナーを勧誘して代理店になると、オーナー募集コミッション及びオーナー契約締結コミッション六万四五〇〇円(二万円及び一五〇〇円の三名分)が発生し、さらに、その系列下に九人の新規オーナーが登録すると、直下のオーナーが代理店に昇格し、それに伴い自らは総代理店に昇格するとともに、オーナー契約締結コミッション二万七〇〇〇円(三〇〇〇円の九名分)を得ることとなり、さらに、総代理店が統括代理店に昇格すると、少なくとも一二万一五〇〇円(四五〇〇円の二七名分)のオーナー契約締結コミッションが発生し、この時点で、得たオーナー契約締結コミッションの総額は二一万三〇〇〇円となって、出えんした契約金を上回る。

そして、上記一(2)ウ(ウ)記載のとおり、オーナー募集コミッション及びオーナー契約締結コミッションの原資は、もっぱらオーナーの出えんしたオーナー契約金及び月額システム利用料であるから、順次先順位者が後順位者の出えんする金品から自己の出えんした金品の価額又は数量を上回る価額又は数量の金品を受領するといえる。

このように、EWのオーナー組織における金銭配当に着目すると、無限連鎖講の要件を具備する金品の配当組織であるということができる。

(ウ) もっとも、前提事実によると、EWにおいては、カタロくじによる通信販売事業を展開している上、オーナーが○○会員を獲得した際には○○会員獲得コミッションが、○○会員がカタロくじ掲載商品を購入した際にはショッピングコミッションが、○○会員がカタロト4に当選すると当選額配当コミッションがそれぞれ発生するところ、形式的には、オーナーの資格は、カタロくじ事業によって得られる利益を原資とするコミッション発生の根拠ともなっているため、単純な金銭配当組織とは体裁が異なる。

しかし、前提事実及び上記一(2)イ及びウ記載のとおり、オーナー募集コミッション、オーナー契約締結コミッション及び月額システム利用料コミッションの原資はもっぱらオーナーから徴収したオーナー契約金及び月額システム利用料であったこと、カタロくじの掲載商品は、ダイレクトが顧客から注文があるごとに業務用スーパー等で仕入れており、特に仕入れ価格を安くするよう指示されたこともなかったこと、EWに支払われたオーナー契約金、月額システム利用料の総額は二四億〇四七三万六三一六円であるのに対し、平成一六年一月から平成一七年一〇月までの間におけるカタロくじ事業の収支は三一六〇万五四七三円の赤字であり、平成一六年三月から平成一七年三月までの間に発生したショッピングコミッションが総額で約二八〇万円にすぎないことからすると、カタロくじ事業がおよそ収益のある事業としての実体を有していなかったことは明らかであって、オーナーがカタロくじ事業によって収益を得ていたということはできない。

また、当選コミッションについては、毎月一度の抽選があるものの当選の確率は約〇・三%程度であり(六五六一(九の四乗)分の二四)、○○会員獲得コミッションも、カタロくじ事業による収益ではなく、オーナー自身のカタログ購入費を原資としたものである上、カタロくじを二一〇円で購入していることから、六〇〇円のコミッションを得ても、実際の収益は三九〇円にすぎず、一〇〇冊配布して一〇〇人の○○会員を獲得しても、三万九〇〇〇円の収益にしかならず、配布したすべてのカタログについて○○会員の登録がなされるものでもないことからすると、同コミッションによってオーナー契約金を回収することは予定されていなかったということができる。

さらに、前提事実のとおり、オーナー契約時に交付されるオーナー契約締結書には、ショッピングコミッションのコミッション率に関する記載はなく、同締結書のほとんどはオーナー契約締結コミッションに関する記載であることからしても、オーナーらは、さらなるオーナー募集により契約金を回収し、収益を上げることを目的としてEWのオーナー組織に登録していたということができる。

そうすると、カタロくじ事業はおよそ実体のない事業であって、同事業からオーナーが収益を得ることもなかったのであるから、EWのオーナー組織は、実質的にはオーナー契約金及び月額システム使用料を各オーナーから徴収し、それを順次上位者へ配当することのみを目的とした違法な金銭配当組織であったということができる。

(エ) 以上より、EWのオーナー組織は、実質的には、無限連鎖講防止法で禁止された無限連鎖講であったということができる。

イ オーナー組織の開設・運営者の責任

無限連鎖講の開設、運営及び同組織への勧誘行為が犯罪行為として禁止されているのは(無限連鎖講防止法五条~七条)、無限連鎖講が、組織の仕組上、加入者はその配下に新規加入者があって初めて利益を得ることができるものであって、加入当初の出えんを回収するべく新規加入者を勧誘することが無限に繰り返され、終局において破綻するべき性質のものであり、組織が拡大するに伴い、多数の犠牲者の下に一部の上位加入者が不当に利得することが当然に予定されている非生産的で射倖的な組織だからである。

そうすると、民事上においても、そのような組織を開設し、運営することは当然に違法であって、EWの設立者は、EWと契約した原告らとの間において不法行為責任を負う。

ウ PEX統括代理店及びEX統括代理店(以下、PEX統括代理店とEX統括代理店を総称して「EXら」という。)の責任

(ア) 上記イ記載のとおり、無限連鎖講であるEWのオーナー組織への勧誘行為はそれ自体犯罪行為であって、直接の被勧誘者との関係においては不法行為が成立する。

(イ)a また、上記一(3)ア記載のとおり、EXらは、毎月一~二回開催されるEX会議に参加し、EW経営者と、EWの業務活動に関する情報を共有し、経営方針について意見を述べて話し合うなどしていたことが認められるところ、EWと一体となってEWを運営していたということができ、運営者と同視することができる。

b さらに、EWにおいては、上記一(3)エ(エ)記載のとおり、連鎖販売取引の経験がない一般消費者たる被勧誘者に対して、EWのオーナー組織が終局的には破綻する性質を有することや勧誘が次第に困難性を増していくことを告げず、短期に契約金の回収が可能であると説得するなどの、不実告知、不利益事実の不告知、断定的判断の提供といった特定商取法上禁止されている違法な勧誘活動のほか、勧誘者の斡旋による消費者金融での借入れを伴うオーナー契約や、取引経験が浅く判断能力の低い学生に対する勧誘等の悪質な勧誘行為が繰り返されていたことが認められる。

そして、上記一(3)ウ及びエ記載のとおり、EWにおいては、EXらが、各種セミナーや「ラリー」等の祭典を開催し、自らもスピーカーとして自己の体験談や勧誘活動に関する指示指導などを行うなどしていたこと、各種セミナーにおいては、「仕事」又は「勉強」という名目の下に、マニュアル化された「ABC」などの勧誘方法を繰り返し教示していたこと、「一ケ月に三人づつ募集した時のシミュレーション」と題する書面を示して、オーナーが増加した場合の報酬額を計算させるなどしていたことが認められるところ、「ABC」は、オーナー契約に伴う不利益について告知せず、もっぱら収益があるということのみを強調して勧誘するものであり、被勧誘者の心理を巧妙に操り契約させる欺瞞的な手法であるほか、セミナーにおいてはことさらに「成功」や「収益の増加」を強調して、オーナー契約により生じる損失から意識を逸らせようとしていたことが窺われる上、「ラリー」等の祭典についても、オーナー資格昇格者や上位者を盛大に表彰することで、いたずらにオーナーらの射幸心を煽るものであったということができる。

このような、EWにおける悪質かつ違法な勧誘活動は、EXらがセミナーやラリー等を開催することにより指導的立場に立ち、組織的になされていたものであるということができる。

なお、上記一(4)ア、イ記載のとおり、EWにおいて、オーナー契約時に交付される「概要書面」には、勧誘における禁止行為等が明記されており、GがEX会議及び各地の法務セミナーにおいて法令の周知を行っていたことも認められる。

しかし、無限連鎖講においては、組織の拡大と共に勧誘が困難となり、下位の会員が出えんを回収するべく、欺瞞的な言動や威迫等による勧誘活動をすることは当然に予見されるところである。上記一(4)ウ記載のとおり、オーナーらに使用されていた勧誘マニュアルには、法律上の規制に関して簡易な記載のみしかなく、「無限連鎖講は、金銭のみの配当組織をいい、一種のマネーゲームである」、「マルチ商法とは連鎖販売取引の中で悪質なものを指す。」といった抽象的な記載により、EWのオーナー組織が適法であることを積極的に誤信させるものであったことからすると、オーナーらによる違法な勧誘が行われる可能性は極めて高かったということができる。

そうすると、上記の法令の周知によりEXらの責任が否定されるものではない。

c 以上のとおり、EXらは、EWと一体となって違法な無限連鎖講を運営し、組織的に違法な勧誘行為を助長したということができるから、EXらは、直接勧誘していない原告らや、自己の系列以外の系列下にある原告らとの関係においても、不法行為責任を負うというべきである。

(ウ) なお、EXらは、EX会議におけるEWの経営者からの報告により、EWの収益のほとんどはオーナー契約金等オーナーからの出えんによるものであってカタロくじ事業が形骸化していること、概要書面において禁止されている勧誘活動が頻繁に行われていることについて熟知していたものと認められるから、EWが無限連鎖講であったことの認識がないとか、違法な勧誘行為が行われていたことの認識がないということはできない。

エ 統括代理店の責任

(ア) 統括代理店についても、勧誘行為が違法となるから、直接の被勧誘者との関係においては不法行為が成立する。

(イ) さらに、統括代理店については、上記一(3)イ、ウ及びエ記載のとおり、統括会議への参加資格があるほか、各種セミナーに参加してスピーカーとなることがあったこと、「ABC」においては、上位資格オーナーとして、「A」の役割を果たしていたことが認められる。

そうすると、少なくとも、自己の系列下にあるオーナーとの関係においては、自ら違法な勧誘行為をし、又は違法な勧誘行為を助長したということができるから、自己の系列下にあるEW契約原告らとの関係においても不法行為責任が発生する。

オ AJCNと契約した原告らに対する責任

前提事実及び上記一(5)記載のとおり、AJCNのオーナー組織の基本的な仕組み及び事業内容はEWとほぼ同様であること、EWのオーナー組織がそのままAJCNに移行していること、AJCNへの移行に当たってさらに契約金を支払うことはなかったことからすると、EWのオーナー組織とAJCNの代理店組織は、実質的には同一のものであるということができる。

そして、AJCN設立の時期がEWが取引停止命令を受けた日であること、被告Y2の系列下のEWオーナーらも、AJCN設立の直前である平成一七年五月三一日に被告Y2により設立されたRAGに移行していることからすると、AJCN及びRGAは、EWが取引停止命令を受けたため、EWの経営者及びEXらが共謀して、EWに対するクーリングオフや損害賠償等による債務を免れつつ、EWの業務を継続する目的で設立されたものであることが推認される。

そうすると、AJCNと契約した原告らとの関係において、契約主体が異なることをもって不法行為責任を免れさせることは相当ではなく、EWの開設・運営者及びEXらは、AJCNと契約した原告らとの間においても、EWと契約した原告らと同様に、不法行為責任を負うというべきである。

(2)  被告Y4の責任

ア 被告Y4は、EWの開設者であり、《証拠省略》によれば、EW設立から平成一六年一月に逮捕されるまでの間、EX会議に出席し、実質的にEWを運営していたことが認められる。

そうすると、SFCと加盟店契約を締結しEWやAJCNには契約金を支払っていない別紙損害目録「被告Y4」欄に○を付していない原告らを除き、すべての原告らに対して不法行為責任を負う。

イ なお、被告Y4は、カタロくじ事業の目的は、カタロくじを流通させることにより、無料会員をオーナーの二〇倍程度に増やし、四年程度かけて、企業と提携するなどして様々な事業を展開することにあったから、被告Y4に、EW設立当初、無限連鎖講を開設・運営する意識はなかったと供述するが、《証拠省略》によれば、被告Y4は約八年間の連鎖販売取引の経験上、大手企業が連鎖販売取引業を営む会社との提携に消極的であること、四年程度すれば悪い噂が広まり、組織の拡大が困難となることについても熟知していたことが認められるところ、四年程度を目処として新規事業展開を予定したとの主張は不自然であるし、無料会員を募集することによりオーナーが受ける利益は、○○会員獲得コミッション、ショッピングコミッション及び当選額配当コミッションのみであり、○○会員獲得コミッションは高くても一冊六〇〇円から購入費二一〇円を控除した三九〇円であること(無料会員が獲得出来なかった場合には、一冊につき購入費二一〇円が自己負担となる。)、ショッピングコミッションについては、その割合すら登録時に交付される「オーナー契約確認書」及び「概要書面」に記載がないこと、当選額配当コミッションを得る可能性は極めて低いことからすると、オーナーが、オーナーの獲得以上に無料会員の獲得に尽力する動機付けがそもそも存在しないから、無料会員が増加せず、オーナー組織のみが拡大していくことは設立当初から明白であったということができ、被告Y4には、無限連鎖講を開設、運営することの故意があったということができる。

ウ また、被告Y4は、逮捕後は全くEWの運営には関与していないので、逮捕後に加入したオーナーの損害との間に因果関係はないと主張するが、被告Y4の逮捕の前後でEWのオーナー組織の仕組みに大きな変更はなく、《証拠省略》によれば、被告Y4は、平成一六年三月から平成一七年三月までの間にEWから一億〇三六八万〇六四九円を得ており、逮捕後も、Bを通じてEWに対して影響力を及ぼしていたことも明らかであるから、EWの経営に直接関与しなくなったことによって、因果関係が否定されることはない。

(3)  被告Y2の責任

ア 被告Y2は、前提事実、上記一(3)ア及びウ記載の事実及び《証拠省略》によれば、ONE及びEW開設時から、EX統括代理店又はPEX統括代理店としてEX会議に参加し、エーライズの最高位のオーナーとして、各種セミナー等を開催し、スピーカーとして講演をするなどして、被告Y4とともに活動をしていたことが認められる。

そうすると、SFCと加盟店契約を締結しEWやAJCNには契約金を支払っていない別紙損害目録「被告Y2」欄に○を付していない原告らを除き、すべての原告らに対し不法行為責任を負う。

イ なお、被告Y2は、名古屋を拠点として活動していたため、Cの系列下にあった原告らの損害との間に因果関係はないと主張するが、被告Y2は、EW経営者と一体となってEWを運営していたものであるから、自己の系列外の原告らとの間においても、責任を免れるものではない。

また、不法行為責任は、EW又はAJCNに勧誘された個々の原告との間に発生するものであるから、名古屋関係の会員に対して二〇〇〇万円を、C系列下の他の会員に対して三〇〇万円を支払ったことで、本件の個々の原告に対する責任を免れるものではない。

(4)  EX統括代理店らの責任

被告Y1、被告Y3、被告Y5、被告Y7及び被告Y6は、前提事実、上記一(3)ア及びウ記載の事実及び《証拠省略》によれば、EX統括代理店として、EX会議に参加し、各種セミナーでのスピーカーとして講演するなどしていたことが認められ、遅くとも、上記被告らがEWとの間でEX統括代理店契約を締結しEX会議に参加することができるようになって以降に勧誘を受けた原告らに対しては、不法行為責任を負うということができる。

《証拠省略》によれば、EX統括代理店契約締結日は、被告Y7が平成一六年三月二日であり、被告Y1、被告Y3、被告Y5及び被告Y6が同月六日であると認められるところ、EWにおいてEX会議が月一~二回は開かれていたことを考慮すると、上記の契約日から一か月以上後に勧誘を受けた別紙損害目録「被告Y1、被告Y3、被告Y5、被告Y7及び被告Y6」欄に○を付した各原告に対しては不法行為責任を負うというべきである。

なお、被告Y1は、原告X7については、クーリングオフにより契約金を返還済みであると主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

(5)  統括代理店らの責任

被告Y8、被告Y9、被告Y10及び被告Y11は、前提事実及び上記一(3)イ及びウのとおり、統括会議に出席し、各種セミナーでのスピーカーとして講演するなどしており、直接の勧誘をした原告や、自己の系列下にある原告との間において不法行為責任を負う。前提事実及び《証拠省略》によれば、原告X9は被告Y8が直接勧誘したものであり、その余の別紙損害目録「被告Y8」欄に○を付した各原告は、被告Y8の系列下にあること、別紙損害目録「被告Y9」欄に○を付した各原告は被告Y9の系列下にあること、原告Mは、被告Y10の系列下にあること、別紙損害目録「被告Y11」欄に○を付した各原告は被告Y11の系列下にあることが認められるから、上記各被告はそれぞれ対応する原告に対して不法行為責任を負う。

(6)  前提事実(1)アからすると、各原告の損害は、各原告がオーナー契約時等に出えんした別紙損害目録「入金額」欄記載の金員及び「弁護士費用」欄記載の金員の合計(原告X8及び同X4についてはその一部)である「合計金額」欄記載の金員並びにそれらに対する「起算日」欄記載の日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金であるということができる。また、同一の原告に対しては、その原告に対して責任を負う被告らについて共同不法行為が成立するから、被告らは、その範囲では各原告に対して連帯して責任を負うことになる。

三  結論

以上のとおり、原告らの請求は、上記二(2)ア、(3)ア、(4)、(5)記載の各原告についてそれぞれ理由があるから認容し、その余の原告らについては理由がないから棄却する(なお、認容部分のうち遅延損害金の起算日については前記第一の記載が上記二(6)の記載と異なる限度で請求を棄却する。)。

(裁判長裁判官 瀧華聡之 裁判官 佐野義孝 碩水音)

別紙 損害目録《省略》

別紙 原告目録《省略》

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