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京都地方裁判所 平成18年(ワ)35号 判決 2006年12月01日

京都府<以下省略>

原告

同訴訟代理人弁護士

加藤進一郎

藤居弘之

木内哲郎

東京都新宿区<以下省略>

被告

主文

1  被告は,原告に対し,1665万円及びこれに対する平成17年12月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  請求の趣旨

(1)  被告は,原告に対し,3380万円及びこれに対する平成17年12月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  訴訟費用は被告の負担とする。

(3)  (1)について仮執行宣言

2  請求の趣旨に対する答弁

(1)  原告の請求を棄却する。

(2)  訴訟費用は原告の負担とする。

第2当事者の主張

1  請求原因

別紙「請求の原因」記載のとおり(ただし,「被告株式会社アドニス」とあるのを「訴外株式会社アドニス」に,「被告会社」とあるのを「訴外会社」に,「被告A」とあるのを「訴外A」に,「被告A」とあるのを「訴外A」に,「被告B」とあるのを「訴外B」に,「被告B」とあるのを「訴外B」に,それぞれ読み替える。)

2  請求原因に対する認否及び被告の主張

(1)  請求の原因第1は争う。本件取引は訴外会社のシステムとして行われたもので,被告は訴外会社の指示に従っただけである。

(2)  同第2,第3は認める。

(3)  同第4ないし第6は否認ないし争う。被告は原告が指摘するような未公開株の売買を禁止する法律の規定を知らず,訴外会社の指示どおりに行動したに過ぎない。

よって,本件取引に関する全責任は訴外会社にあると考える。

第3判断

1(1)  請求原因第2及び同第3の各事実はいずれも当事者間に争いがない。

(2)  証拠(甲14ないし甲16)及び弁論の全趣旨によれば,ジャパンメディアシステム株式の1株当たりの時価は,平成17年7月ないし9月当時,7万2500円程度であり,また,バイオバンク株式の1株当たりの時価は平成17年12月当時5万円程度であったことが認められる。

2(1)  上記1の各事実によれば,被告は,証券業登録を受けておらず,業として株式の売買や仲介をすることができない訴外会社の営業担当者であったこと,原告の前任の担当者であった訴外Bが平成17年3月から同年7月7日にかけて,原告に対し,未公開株であるジャパンメディアシステム株式について,「同株式は1株300万円であるが,平成18年3月か4月に上場し,上場すれば初値は悪くとも2倍になる。」などと虚偽の事実を述べて原告にその旨誤信させ,訴外Bと同株式1株をその時価をはるかに上回る270万円で共同購入することを持ちかけ,原告に上記代金半額分に当たる135万円を訴外会社に入金させていたことを奇貨として,さらに原告に対し上記Bが持ちかけた共同購入は訴外会社の社内規則に違反しているなどと申し向けて,平成17年7月19日,原告に上記ジャパンメディアシステム株式を単独で購入させ,その代金不足分として135万円を訴外会社に入金させたこと,その後も,原告に対し,「Bが迷惑をかけたので,ジャパンメディアシステム株式を社員価格の270万円で特別に安くお分けしたい。」などと虚偽の事実を述べて,原告にその旨誤信させ,時価をはるかに上回る価格で同株式の購入を勧誘し,原告をしてその購入代金として同年8月10日270万円を訴外会社に入金させたこと,さらに,同年9月5日,ジャパンメディアシステム株式について「平成18年3月か4月にヘラクレスに上場することになった」,「上場株数は2500株でたいへん希少性がある。」などと述べて同株式が270万円以上の価値があり,必ず値上がりするとしてその追加購入を勧誘し,原告をしてその旨誤信させて,同月16日に上記株式3株分の購入代金として810万円を訴外会社に入金させたこと,また,同年10月ころから同年12月初旬ころにかけて,原告に対し,バイオバンク株式について,「平成18年中に上場予定である。」,「業績も良く,原告には特に同株式を安くお分けしたい。」,「株式分割も予定されているので今のうちに株主になっておいた方がよい。」などと述べて,その時価をはるかに超える1株150万円での購入を勧誘し,原告をして同株式が150万円以上の価値があり,さらにその後の値上がりも確実であるなどと誤信させ,同年12月9日に上記株式2株分の購入代金として300万円を訴外会社に入金させたことが認められる。

(2)  上記(1)に認定したところによれば,原告は被告の違法な勧誘行為により上記(1)の各株式購入代金として合計1515万円を支出し,損害を被ったと認められるから,被告は不法行為(詐欺)に基づき原告に対し損害賠償責任を負う。

(3)  なお,被告は,訴外会社のシステムとして同会社の指示のとおりにこれらの行為を行ったとか,未公開株の取引を禁止する法律の規定を知らなかったなどとして,本件に関する責任は訴外会社にある旨主張する。

しかし,被告の上記勧誘行為が訴外会社の業としてその指示により行われ,これにより訴外会社が共同不法行為ないし使用者責任等に基づいて原告に対し被告と連帯して損害賠償責任を負うとしても,そのことをもって直ちに被告が自己の責任を免れることにはならない。また,被告が本件取引当時,上記法律の規定を知らなかったとしても,そのことをもって被告に自己の欺罔行為や原告が錯誤に陥っていることにつき認識がなかったとはいえず,被告の主張事実は,被告の故意や責任を阻却する事由には当たらない。

よって,被告の主張は理由がない。

(4)  原告は,本訴請求につき弁護士に委任しているところ,本件被告の不法行為と相当因果関係がある弁護士費用は,150万円と認める。

(5)  よって,被告は,原告に対し,不法行為に基づく損害賠償責任として1665万円(上記(1)の各株式購入代金相当額1515万円+上記(4)の弁護士費用150万円)及びこれに対する不法行為による最終の損害発生日である平成17年12月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。

3  以上によれば,原告の本訴請求は主文記載の限度で理由があるからその限度でこれを認容し,その余は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条,64条ただし書を,仮執行の宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。

(裁判官 久保井恵子)

<以下省略>

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