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京都地方裁判所 平成19年(ワ)1050号 判決 2007年12月19日

主文

1  被告らは,原告に対し,各自金198万5000円及びこれに対する平成19年6月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は,被告らの負担とする。

3  この判決は,主文第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

主文第1項と同旨。

第2事案の概要

本件は,被告有限会社ファインハーベスト(以下「被告会社」という。)が,被告会社の従業員であった被告Cとともに,会社ぐるみで,いわゆるデート商法又は恋人商法と呼ばれるアポイントメントセールスによって,原告に電話をかけてデートに誘うように誘い出し,販売場所に連れて行き,2か月弱の間に4回にわたり,クレジットを組ませるなどして市場価格の数倍の高額で装飾品を次々と販売した旨主張して,共同不法行為による損害賠償請求権に基づき,連帯して,198万5000円及びこれに対する被告会社よりは後に送達を受けた被告Cに対する訴状送達日の翌日である平成19年6月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

1  争いのない事実等(証拠を引用しない事実は,当事者間に争いがない。)

(1)  原告は,静岡県D市に生まれ,D医大看護科を卒業した後,平成18年4月からE病院で看護師として勤務を始め,寮生活をしていた。原告は,優柔不断で,思っていることをはっきり言えない性格だと考えており,洋服や化粧品に興味がなく,ホワイトゴールドとプラチナの違いもわからないなど宝石についての知識もなかった。原告は,今回の契約をするまでは,ローンやクレジットで買い物をしたこともなかった。また,原告は,寮生活を初めてからは,看護ローテーションを組む都合上,勤務時間が個々に分かれ,個人的な悩みを話し合うことができるような親しい友人もできておらず,いつも寂しいなと思うようになっていた。(以上につき,甲7,原告本人)。

(2)  被告Cは,平成18年6月7日ころ,原告に対し,「ファインハーベストというアパレルの会社のもので,簡単なアンケートに答えてほしい。イベントをやってるけど,興味ある?」と親しげに電話をかけた。とりとめもない会話の中で,原告がD出身であることを知った被告Cは,自分のいとこがD出身である旨を話し,1時間に及ぶ話の終わりに,「友達になろう。せっかくだし,出会いを大切にしたいから会おう。」と話をし,大阪のF駅で待ち合わせをする約束をした。

(3)  被告Cは,平成18年6月9日,原告とF駅で待ち合わせをし,喫茶店で1時間ほど世間話をした後,被告会社の事務所に案内し,被告Cとその上司と名乗る者が宝石類の購入を勧めた。その結果,原告は,被告会社との間で,代金を126万円(消費税込み)と定めて商品(ホワイトゴールドシェイプダイヤモンドネックレス)の売買契約を締結し,株式会社ライフとの間のローン契約書に署名をした。(以下,この日の契約のことを「第1契約」という。)

(4)  原告は,その後,被告Cから,「つけているところが見たいから取りにおいで。」と誘われ,デートの誘いがあったものと誤信し,平成18年6月18日18時,Gで待ち合わせた。被告Cは,原告を居酒屋に誘った。被告Cは,食事中に,「業者の人にいい子がいるって話したら,すごくいいパールが入ったんだけど,是非その子にどうかな。」と言われたと話しかけてきたが,原告は,パールに興味を持っていなかった。被告Cは,食事後,同日21時前に被告会社の事務所に連れて行き,原告に第1契約の商品を渡し,「さっきの話だけど,パールはお葬式とか将来絶対必要なんだよ。どうせならいいものを1回買ってずっと使ったほうがいい。」とパールを購入させようとした。原告が,下を向いて無言でいたところ,上司が入ってきて,「なんかすごく暗くなっているみたいだけど,少しでもがんばろうという気持ちがあるならがんばってみてもいいんじゃないか。前回の分とあわせてローンはいくらまで大丈夫か。」などと原告を説得した。結局,原告は,翌19日午前2時ころになって,パールのネックレス,指輪,イヤリング3点セットを105万円(消費税込み)で購入することになり,ショッピングカードローンの申込書に署名した。(以下,この日の契約のことを「第2契約」という。)

(5)  被告Cは,平成18年6月27日,信販の話があるとして原告を呼び出した。原告は,当時,被告Cを親しい友人として信用しており,同月28日15時ころ,Gで待ち合わせたところ,被告会社の事務所に連れて行かれた。被告Cは,原告に対し,利息の安い二つの信販に切り替えるため,まず一つの信販の契約をすると説明し,原告にカタログを見せて40万円のネックレスを買うようにと述べた。被告Cの説明では,「こっちの方が金利が安いから,これを契約して,後々にこっちの信販に前の分も切り替える。商品ももらえて安くなるから,絶対に得。」とのことで,原告にはよく理解できなかったものの,求められるままに署名捺印し,消費税として2万円が必要とされ,2万円を頭金として40万円のローン申込書を作成した。(以下,この日の契約のことを「第3契約」という。)

(6)  被告Cは,平成18年7月4日20時ころ,ネックレスを渡すとして京都に赴き,Hで原告と食事をしながら,その場で原告に商品のカタログを見せて,30万円の指輪を購入させた(以下,この日の契約のことを「第4契約」という。)。また,被告Cは,同月21日,原告をGに呼び出し,同日13時ころ,三井住友銀行のローンカードで指輪の代金を支払わせることにし,原告と京都まで来て,原告に同銀行で口座とカードを作らせて借入をさせ,その場で31万5000円(消費税込み)を被告会社の口座に振り込ませた(以下,「第4契約に係る支払」という。)。

2  争点

(1)  被告らによる一連の販売方法が,社会的に許容されない販売方法として不法行為に該当するといえるか。

(原告の主張)

ア 無差別電話勧誘及び恋人商法による勧誘

被告会社の従業員であった被告Cは,被告会社でトークの仕方について指導を受けた上,名簿業者から入手した名簿をもとに,1日に7,8時間くらい,300人から400日程度の相手に対し,無差別に電話をかけ,被告会社の事務所に来るように勧誘を掛けていたが,平成18年6月7日ころ,看護師寮の個室への直通電話に電話をかけ,前記争いのない事実等(2)のとおり,「ファインハーベストというアパレルの会社のもので,簡単なアンケートに答えてほしい。イベントをやってるけど,興味ある?」と親しげに電話をかけた。とりとめもない会話の中で,原告がD出身であることを知った被告Cは,自分のいとこがD出身である旨を話し,1時間に及ぶ話の終わりに,「友達になろう。せっかくだし,出会いを大切にしたいから会おう。」,「一度,会おうや。イベントにはちょっと顔を出してくれたらいいから。」などと話をし,原告は,被告Cの言葉の真の狙いが販売目的であったことに全く気付かず,楽しい時が持てるのかなと安心して被告Cと会うことにした。

イ 第1契約の問題点(個人的感情を悪用しての強引な勧誘,暴利行為及びクーリングオフ権の行使妨害)

被告Cは,平成18年6月9日13時ころ,原告とF駅で待ち合わせ,喫茶店で1時間ほど世間話をして原告に仲良くなったとの感をもたせ,同日14時ころに,I駅近くのビルの1室にある被告会社の事務所に連れて行った。

被告会社では,顧客を誘った場合の飲食代は,会社の経費で支払うこととしており,顧客を呼び出した際は,食事などをして親近感を深めてから被告会社の事務所に連れ込むこととしていた。

原告が,被告会社の事務所の中に入ると,室内には,アクセサリーやスーツが何点か並べてあり,原告の他には客はおらず,被告Cとその上司という男性が,2時間程度をかけ,原告に対し,「卸業者から直接売るので普通の店よりも安く売れる。」,「被告会社は加納商店やキンコウ堂などと取引をしていて信用がある。」など被告会社を信用させ,高価な商品が安く買えると誤信させるような説明をした。

そして,被告Cは,原告に対し,「つけてみようか。これなら月2万円もいかないよ。」などとダイヤ入りのネックレスの購入を勧め続けた。原告は,宝石類を購入する意思はなかったが,被告Cとは友人関係になっており,その関係を壊したくないという気持ちから,「まだ早い気がする。ローンを組んだことがない。今すぐ,決められない。」などと答えると,被告C及びその上司は,原告に対し,「若いうちに買ったらずっと持っていられる。無駄使いしてお金がなくなるより,いいもの買って節約したほうがいい。もう社会人だし親に決めてもらうことではない。」などと,ダイヤのネックレスを購入するよう勧誘を続けた。原告は,断るのに疲労し,独り暮らしを始めたところで寂しい中で数少ない友達となった被告Cから勧められたことで,価値のある商品を卸売業者から格安で購入できる機会であり,月2万円の支払であれば高くないと誤信させられ,購入を承諾してしまった。

原告は,それまでは,月2万円の支払とだけ説明を受けたが,購入を承諾した後,契約書を出されて署名する時になって,商品(ホワイトゴールドシェイプダイヤモンドネックレス)が126万円(消費税込み)もの高価品であることを知らされた(なお,原告は,サービスとして,WGダイヤテニスブレスを受領した。)。

原告が購入した商品の鑑別書(甲9ないし13)は,その鑑別主体がいわゆるB鑑定と呼ばれるところであり,鑑定書と呼べるようなものではない。前記のホワイトゴールドシェイプダイヤモンドネックレスは,実際には,せいぜい20万円程度の価値しかない。

被告Cは,商品の値段について先に話をするのではなく,先に,ローンの月々の支払がいくらになるか,ローンを組む場合は60回払になるということだけを話した上,原告に安心をさせて月2万円の支払ということに承諾をさせると,逆算して120万円という値段が決まるという形で契約書に記載をさせているだけでなく,被告C自身,個別の商品の仕入値や一般市場価格は知らないと供述している。こうしたことを考慮すると,被告Cの勧誘によって原告と被告会社との間に成立した売買契約は,暴利行為であることは明らかである。

被告会社では,顧客と人間関係を形成してから商品を購入させることとしており,売買契約の際は,顧客が販売勧誘をはっきりと断ることができない性格であることを踏まえ,クーリング・オフについての説明を受けたとの書面に署名させた上で,親に相談しないように釘を刺し,契約後にも食事をしたり特段の用事がなくても電話を掛けて個人的関係が継続するという期待を抱かせ,クーリング・オフ期間内に消費者センターなどに相談させないための働きかけをすることとしている。そして,被告Cは,こした被告会社の営業方法に則り,困惑しながら署名をした原告に対し,「親には内緒にしたほうがいいよ。驚かせちゃうから。」と口止めしており,クーリングオフ権の行使を妨害している。

原告が被告会社の事務所を出たのは,19時すぎで,被告Cの勧誘等は5時間に及んだ。

ウ 第2契約の問題点(恋人商法による勧誘,個人的感情を悪用しての強引な勧誘,暴利行為及び次々販売による高額被害)

原告は,その後,被告Cから,「つけているところが見たいから取りにおいで。」と誘われ,デートの誘いがあったものと誤信し,平成18年6月18日18時にGで待ち合わせた。被告Cは,原告を居酒屋に誘った。被告Cは,食事中に,「業者の人にいい子がいるって話したら,すごくいいパールが入ったんだけど,是非その子にどうかな。」と言われたと話しかけてきたが,原告は,パールに興味を持っていなかった。被告Cは,食事後,21時前に被告会社の事務所に連れて行き,原告に第1契約の商品を渡し,「さっきの話だけど,パールはお葬式とか将来絶対必要なんだよ。どうせならいいものを1回買ってずっと使ったほうがいい。」とパールを購入させようとした。原告は,さらに購入することは無理であり,困ったことになったと下を向いて無言でいたところ,上司が入ってきて,「なんかすごく暗くなっているみたいだけど,少しでもがんばろうという気持ちがあるならがんばってみてもいいんじゃないか。前回の分とあわせてローンはいくらまで大丈夫か。」などと原告を説得し,業者と交渉するからとその場を離れてから,「月に3万円でいけるよ。」と勧誘を続けた。原告は,「いりません。」と断ったが,被告Cは聞き入れず,困惑した原告は,翌19日午前2時ころになってやむなく,100万円というパールのネックレス,指輪,イヤリング3点セット(鑑別書は鑑定書といえるようなものではなく,合わせてせいぜい16万円程度のもので,売買契約が暴利行為に該当する。)を購入することになった。消費税5万円を加え,105万円のショッピングカードローンの申込書に記載させた。

原告は,被告Cに対し,翌日朝から勤務があるため,早く帰りたいと要請したが,被告Cは,結局,契約書に署名するまでその場から退去させず,前記のとおり午前2時になってやむなく署名等をした。

被告らは,一旦購入させることができた顧客には,クーリング・オフを回避させる働きかけをしただけでなく,デートと思わせるなど,販売目的を隠して更に呼び出し,次々と購入させるターゲットにしているのである。

エ 第3契約の問題点(恋人商法による勧誘,個人的感情を悪用しての強引な勧誘,暴利行為及び次々販売による高額被害)

被告Cは,平成18年6月27日,信販の話があるとして原告を呼び出した。原告は,当時まだ,被告Cを親しい友人として信用しており,同月28日15時ころに,Gで待ち合わせたところ,被告会社の事務所に連れて行かれた。

被告Cは,原告に対し,利息の安い二つの信販に切り替えるため,まず一つの信販の契約をすると説明し,原告にカタログを見せて40万円のネックレス(鑑別書は鑑定書といえるようなものではなく,実際には6,7万円程度の商品で,売買契約が暴利行為に該当する。)を買うようにと述べた。被告Cの説明では,「こっちの方が金利が安いから,これを契約して,後々にこっちの信販に前の分も切り替える。商品ももらえて安くなるから,絶対に得。」とのことで,原告にはよく理解できなかったものの,求められるままに署名捺印し,消費税として2万円が必要とされ,2万円を頭金として40万円のローン申込書を作成した。

原告は,第3契約のときも,第2契約の信販を切り替えるためという説明を受けて被告Cと会う約束をしており,商品を購入するために会うという意思はなかったが,被告Cは,原告の個人的感情や期待感につけ込み,原告に対し,次々販売を行った。

オ 第4契約の問題点(恋人商法による勧誘,個人的感情を悪用しての強引な勧誘,暴利行為及び次々販売による高額被害)

被告Cは,平成18年7月4日20時ころ,ネックレスを渡すとして京都に赴き,Hで原告と食事をしながら,その場で原告に商品のカタログを見せて,30万円の指輪を購入させた。しかし,被告Cは,同月6日,原告に対し,ローンを組むことができなかったとして同月4日に署名捺印した契約書の返還を求め,契約書を破って契約を破棄した。被告Cは,その後,同月21日,「一番いい方法を考えた。」と原告をGに呼び出し,同日13時ころ,三井住友銀行のローンカードで支払わせることにした。そこで,被告Cは,原告と京都まで来て,原告に同銀行で口座とカードを作らせて借入をさせ,その場で代金を30万円と定めて指輪(鑑別書は鑑定書といえるようなものではなく,高くても7万円程度の商品で,売買契約が暴利行為に該当する。)の売買契約を締結させ,消費税とともに31万5000円を被告会社の口座に振り込ませた。

原告は,第4契約のときも,第3契約のネックレスを渡すという説明を受けて被告Cと会う約束をしており,商品を購入するために会うという意思はなかったが,被告Cは,原告の個人的感情や期待感につけ込み,原告に対し,次々販売を行った。

カ 総括(不法行為該当性)

被告会社の従業員である被告Cは,前記アないしオのとおり,高額の商品を次々と原告に購入させたものであるが,これは,無差別電話勧誘,恋人商法,個人的感情を悪用した強引な勧誘による契約締結,暴利行為,クーリング・オフ権の行使妨害,次々販売による高額被害をもたらした被告らの一連の日常的販売方法に基づくものであり,こうした販売方法は,社会通念上,許容される販売方法を著しく逸脱したもので,不法行為というべきである。

(被告の主張)

争う。

(2)  被告らの共同不法行為によって原告が被った財産的損害

(原告の主張)

原告は,第1契約については,株式会社ライフと販売店との間の立替払契約が解約されたが,第2契約については,その際に組んだローンの支払義務(元本のみでも売買代金及び消費税相当額の105万円)を負った。また,原告は,第3契約については,2万円を頭金として支払ったほか,ローンの支払義務(元本のみでも売買代金及び消費税相当額の42万円)を負った。さらに,原告は,第4契約について,代金31万5000円を被告会社の口座に振り込んで損害を被った。以上の損害額合計は,178万5000円となる。

なお,被告会社は,原告に対し,10万円を弁済したため,残額は168万5000円となる。

(被告の主張)

争う。

(3)  弁護士費用

(原告の主張)

原告は,本件訴訟を提起するにあたり,訴訟代理人に委任せざるを得ず,弁護士費用として30万円を支払うことを約束した。

(被告の主張)

争う。

第3争点に対する判断

1  被告らによる一連の販売方法が,社会的に許容されない販売方法として不法行為に該当するといえるか(争点(1))について

(1)  被告会社に対する請求について

被告会社は,適式の呼出を受けたにもかかわらず,口頭弁論期日に出頭しないし,原告の主張を争うことを明らかにしないから,争いのない事実等 (1)ないし(6)の各事実並びに争点(1)に係る(原告の主張)を自白したものとみなす。

これらの事実によれば,被告会社は,被告会社の従業員に対し,異性に対して無差別に電話勧誘をした上,異性の警戒心を解いて思わせぶりな言葉を用いたり,飲食をおごったりするなどして契約締結の勧誘に乗ってしまいやすいような状況を作り,被告会社の事務所に連れて行くと,勧誘行為をした者がその上司とともに長時間にわたって契約締結のための説得を行い,その際には,商品の客観的な価値についての説明をせずに,先に月々のローン支払額の負担がそれほどでもないと思わせて契約締結に応諾させた後に,商品代金を明示し,関係書類への署名をさせ,それが終了すると,顧客を送り届けるなどして印鑑を押捺させる手法により,売買契約を締結させることとし,クーリングオフ権について一応の説明はするものの,期間内の権利行使を差し控えさせるために,親には秘密にさせたり,解約しないでほしいと説明したりするなどしていたほか,商品である宝石類に添付されている鑑別書は,鑑定書といえるようなものではなく,商品代金は客観的価値の概ね4倍以上の高額なものとなっていたこと,被告Cは,被告会社からの指導に基づき,前記のような手法によって原告と被告会社との間の売買契約を締結させたが,その商品代金は,客観的な商品価値に比べて概ね4倍以上の金額になっていたことが認められる。

これらの事実によれば,被告会社及び被告Cによる一連の販売方法は,本来売買対象物と対価的牽連性を有する代金の支払を合意することを本質的な内容とする売買契約(そうした本質から同時履行の抗弁権等の各種の民法上の規定が整備されている。)における通常の契約締結過程からは著しく逸脱した方法によるものであり,全体として社会的相当性を欠くもので,不法行為に該当するものであると評価せざるを得ない。

(2)  被告Cに対する請求について

ア 前記争いのない事実等に証拠(個別に掲げるほか,甲1ないし14[枝番があるものはいずれの枝番も含む。],原告本人,被告本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。

(ア) 被告会社では,会社の方針として,警戒心を解きほぐしながら,気軽に販売員と会うことを了解させるような勧誘方法がどのようなものか,顧客が被告会社の事務所に赴いた場合に,どのようなことを説明して被告会社を信用させるか,どのような流れで話をすれば拒絶をされないかということ(例えば,電話勧誘の段階で印鑑を持参するように求めることはしないということや,高額な商品について売買契約をいきなり拒絶されないために,商品を見せ,試着してもらっている間は,ローンを組んだ場合の月々の支払額しか説明せず,顧客が購入を決断した時点で商品代金を告知し,後戻りしにくいような状況を作るということや,契約後,捺印を得るために顧客の住所近く等に出向き,商品の引渡ができる状態になると,さらに別の商品を勧める等の方法論)について,従業員にトレーニングを積ませた上,名簿業者から入手した名簿をもとに,無差別に電話をかけさせ,被告会社においては特別なセール期間等があるわけでなく,平常業務が行われているだけなのに,特別なイベントがあるなどとして被告会社の事務所に来るように勧誘をかけさせていた。

また,被告会社は,従業員と顧客が待ち合わせ場所で落ち合った後に,いきなり被告会社の事務所に案内させるのではなく,飲食をしながら話をし,良好な人間関係を築いた後に被告会社の事務所に案内させることとしていたが,こうした飲食のために要した費用については,被告会社の経費から支出することとしていた。

さらに,被告会社は,顧客が契約を解約しないように,契約成立後もたまに会って話をするように指導していた(被告本人調書133項)。

(イ) 被告Cは,平成17年10月始めころに被告会社に入社し,前記アのとおりの指導を受け,ほとんど女性をターゲットにして勧誘をしてきたが,平成18年6月7日,被告会社の方針に則り,名簿業者から入手した名簿をもとに,看護師寮の個室への直通電話に電話をかけた。被告Cは,その際,原告に対し,被告会社について,アパレル関係・ファッション関係の会社であると説明したのみで,宝石の卸売り販売をしているという説明はしなかった(被告C本人調書4項)。また,被告Cは,原告に対し,アンケートに答えてほしいとか,イベントに興味があるかということなどを親しげに話し,原告の出身地を尋ね,D出身であることを知ると,自分のいとこがD出身であるなどと話して親近感を持たせ,「友達になろう。」,「出会いを大切にしたい。」などと思わせぶりな発言をし,同月9日13時ころにF駅で待ち合わせることになった。

原告は,平成18年4月,静岡県D市内の実家から初めて離れ,京都市内で看護師として働くようになったが,同年6月ころは,親しい友人がなく,被告Cの親しげな話し方や,Dに知り合いがいるということから,心を開いてしまい,イベントに行きたいというよりは,被告Cと話がしたいと思って,会う約束をしており,宝石購入の誘いがあるとは思ってもいなかった。他方,被告Cも,原告が会う約束をしたのは,原告と話をしたいと思ったからだということは分かっていた(被告C本人調書81,82項)。

(ウ) 被告Cは,平成18年6月9日午後1時ころにF駅で原告と落ち合った後,喫茶店で1時間ほど世間話をした後に飲食代金を支払い,原告を被告会社の事務所に案内した。被告会社の事務所には,被告Cの上司がおり,被告C及び被告Cの上司は,卸業者から直接売るので普通の店よりも安く売れるなどと被告会社が信用のおける会社であることを印象付けるような説明をした後,ローンを組んで宝石を購入しないかという話を持ち掛け,「つけてみようか。これなら月2万円もいかないよ。」などと勧誘を続けた。

原告は,それまで,アクセサリーを購入したことも,ローンを組んで買い物をしたこともなく,同日もアクセサリーを着けずに被告会社の事務所に赴いた。

被告Cは,そうした原告の様子等を見て,原告について,いわゆる田舎から出てきた純粋そうな女性であると感じたほか,宝石の購入を勧められた原告が,購入をためらっている様子も分かっていた(被告C本人調書18,19項)。

しかしながら,被告C及び被告Cの上司は,購入を決断しない原告に対し,商品の宝石を身に着けさせたり,似合っているなどと歓心をくすぐるような言葉をかけたり,普通の店で買うよりは安く買えるとか,今は必要なくても,どうせ欲しくなるし,若いうちに買っておけば将来原告のためになるなどと述べて,宝石購入の勧誘を続けた。

被告Cは,被告会社の方針に従い,原告に対し,商品(ホワイトゴールドシェイプダイヤモンドネックレス)を見せている間は,月々の返済額のみを説明し,原告が必要な書類への署名に応じる旨の返答をした段階で,商品代金が120万円である旨の記載がされた契約書等を示し,署名を求めた。

原告は,商品代金が120万円であることを知ってびっくりしたが,購入する方向で話が進んでしまったことから,今更署名を拒否することができないと思ってしまい,署名をした。

被告Cは,クーリング・オフができるということやその期間について説明したが,原告は,署名後,被告Cの上司から,「解約しないでね,解約するんだったら今契約しないで」というような趣旨のことを言われたことや,被告Cと親しい関係になったと思いこんでいたことから,解約はしづらいと感じていた(原告本人調書47項)。

ところが,原告は,印鑑を持参していなかったことから,被告Cとともに京都市に戻り,被告Cと夕食を共にした際に,捺印をしたが,その際の飲食代金は,被告Cが支払った。

(エ) 被告Cは,その後,原告に対し,第1契約の商品(ホワイトゴールドシェイプダイヤモンドネックレス)ができたという連絡をし,「あなたが着けているところが見たいから取りにおいで。」などと話し,原告は,結局,平成18年6月18日18時にGで待ち合わせをした。被告Cは,原告を居酒屋に誘い,食事中に,「業者の人にいい子がいるって話したら,すごくいいパールが入ったんだけど,是非その子にどうかなと言われた。」と話しかけたほか,食事後,21時前に被告会社の事務所に連れて行き,原告に第1契約の商品を渡し,「さっきの話だけど,パールはお葬式とか将来絶対必要なんだよ。どうせならいいものを1回買ってずっと使ったほうがいい。」とパールを購入させようとした。原告は,パールの購入を勧められるとは思ってもおらず,困ったことになったと下を向いて無言でいたところ,被告Cの上司が入ってきて,「なんかすごく暗くなっているみたいだけど,少しでもがんばろうという気持ちがあるならがんばってみてもいいんじゃないか。」,「月に3万円でいけるよ。」と勧誘を続けた。原告は,「いりません。」と断ったほか,翌日朝7時半に出勤しなければならないということを話したりしたが,被告Cは勧誘をやめず,原告は,根負けして,翌19日午前2時ころ,100万円のパールのネックレス,指輪,イヤリング3点セットを購入することになり,消費税5万円を加え,105万円のショッピングカードローンの申込書に署名をし,被告Cの運転する自動車で京都の寮に帰った。

(オ) 被告Cは,平成18年6月27日,信販の話があるとして原告を呼び出し,同月28日15時ころに,Gで待ち合わせ,原告を被告会社の事務所に連れて行った。被告Cは,原告に対し,利息の安い二つの信販に切り替えるため,まず一つの信販の契約をすると説明し,三連のネックレスを買うようにと述べた。被告Cは,「こっちの方が金利が安いから,これを契約して,後々にこっちの信販に前の分も切り替える。商品ももらえて安くなるから,絶対に得。」と説明し,原告は,よく理解できなかったものの,求められるまま契約書に署名捺印し,消費税として2万円が必要とされ,2万円を頭金として40万円のローン申込書を作成した。

(カ) 被告Cは,平成18年7月4日20時ころ,ネックレスを渡すとして京都に赴き,Hで原告と食事をしながら,その場で原告に商品のカタログを見せて,30万円の指輪を購入させようとし,契約書に署名をさせた。しかし,被告Cは,同月6日,原告に対し,同月4日に署名した契約書の返還を求め,契約書を破って契約を破棄した。被告Cは,その後,同月21日,「一番いい方法を考えた。」と原告をGに呼び出し,同日13時ころ,三井住友銀行のローンカードで支払わせることにした。そこで,被告Cは,原告と京都まで来て,原告に同銀行で口座とカードを作らせて借入をさせ,その場で代金を30万円と定めて指輪の売買契約を締結させ,消費税とともに31万5000円を被告会社の口座に振り込ませた。

(キ) 被告Cは,平成18年7月25日,「ちょっと大変なことがわかって話したいことがある。」と電話をかけてきたが,原告が深夜勤務が続いていて大阪には行けない旨を返答すると,京都にやって来て,原告を食事に誘い,食事をしながら,第4契約のネックレスについて30万円だと思ったが,実際には60万円だったということや,被告Cのミスで申し訳ないが,このままというわけにはいかないことなどを話し,30万円分の契約を新たにして欲しいと述べ,原告は,これを承諾した。また,原告は,その代金については,被告Cから渡された31万5000円を原告名義の預金口座に入金し,同口座から被告会社の預金口座に振替をする方法で送金をした。

(ク) 原告は,平成18年8月ころから,宝石等を購入したことを後悔するようになり,平成19年1月ころ,被告Cに電話をかけ,解約したいがどうしたらよいかという内容の電子メールを送信した。原告は,この時,解約したいという話をしづらいと感じていたことから,実際には親には相談をしていないのに,電子メールの中に,親にばれたので解約したいという趣旨のことを記載した(原告本人調書42,43項)。

他方,被告Cは,平成18年9月末ころに被告会社を退社したが,平成19年2月ころまで原告に連絡を取っている(乙1)。

(ケ) 原告が購入した商品には,鑑別書が添付されていたが,いずれも鑑定書と呼べるようなものではなく,実際の小売価格の4倍から6倍する売買代金が定められた(甲14)。

(コ) 原告は,その後,なかなか消費者センターに相談することもできず,相談できるような親しい友人もいなかったことから,インターネットを利用して弁護士会の情報を把握し,弁護士に相談するようになった。

しかし,その後も親に打ち明けることができず,現在裁判中であることも親には秘密にしている。

イ これらの事実によれば,被告会社は,被告会社の従業員に対し,異性に対して無差別に電話勧誘をした上,異性の警戒心を解いて思わせぶりな言葉を用いたり,飲食をおごったりするなどして契約締結の勧誘に乗ってしまいやすいような状況を作り,被告会社の事務所に連れて行くと,勧誘行為をした者がその上司とともに長時間にわたって契約締結のための説得を行い,その際には,商品の客観的な価値についての説明をせずに,先に月々のローン支払額の負担がそれほどでもないと思わせて契約締結に応諾させた後に,商品代金を明示し,関係書類への署名をさせ,それが終了すると,顧客を送り届けるなどして印鑑を押捺させる手法により,売買契約を締結させることとし,クーリングオフ権について一応の説明はするものの,期間内の権利行使を差し控えさせるために,親には秘密にさせたり,解約しないでほしいと説明したりするなどしていたほか,商品である宝石類に添付されている鑑別書は,鑑定書といえるようなものではなく,商品代金は客観的価値の概ね4倍以上の高額なものとなっていたこと,被告Cは,被告会社からの指導に基づき,前記のような手法によって原告と被告会社との間の売買契約を締結させたが,その商品代金は,客観的な商品価値に比べて概ね4倍以上の金額になっていたことが認められる。

これらの事実によれば,被告会社及び被告Cによる一連の販売方法は,本来売買対象物と対価的牽連性を有する代金の支払を合意することを本質的な内容とする売買契約(そうした本質から同時履行の抗弁権等の各種の民法上の規定が整備されている。)における通常の契約締結過程からは著しく逸脱した方法によるものであり,全体として社会的相当性を欠くもので,不法行為に該当するものであると評価せざるを得ない。

被告Cの本人尋問の結果によれば,被告Cは,顧客に対する勧誘の際にかける言葉等は,一般社会で許される範囲の駆け引きの問題であると考えていることが窺われるが,最初に商品の代金を明示せずに,月々のローンの支払額がいくらになるかについてやりとりをして,先に契約締結に応諾させた上,関係書類に署名させる直前になって商品代金を告知するという方法は,一般社会で許容されるようなものではなく,思わせぶりな発言をすることについても,売買契約締結に向けての勧誘行為の過程の中でなされているということを考慮すれば,単なる男女関係の駆け引きの問題ということはいえないのであって,被告Cの感覚は,社会常識から著しく逸脱したものと言わなければならない。

したがって,被告Cに対する関係でも,被告Cの行為が不法行為を構成するものと解釈せざるを得ない。

2  被告らの共同不法行為によって原告が被った財産的損害(争点(2))について

まず,被告会社は,適式の呼出を受けたにもかかわらず,口頭弁論期日に出頭しないし,原告の主張を争うことを明らかにしないから,争点(2)に係る(原告の主張)を自白したものとみなす。

次に,証拠(甲1の①ないし4,6の①,7,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,原告代理人の本件訴訟提起後の弁護活動により,第1契約(商品代金は消費税込みで126万円)については,株式会社ライフと販売店との間の立替払契約の解約をすることができたものの,第2契約については,その際に組んだローンの支払義務(元本のみでも売買代金及び消費税相当額の105万円)を負ったほか,第3契約については,2万円を頭金として支払ったほか,ローンの支払義務(元本のみでも売買代金及び消費税相当額の42万円)を負い,第4契約について,代金31万5000円を被告会社の口座に振り込んで損害を被ったこと,以上の損害額合計は,178万5000円となるが,本件訴訟提起後,被告会社が,原告に対し,10万円を弁済したことから,残額は168万5000円となったことが認められる。

3  弁護士費用(争点(3))について

前記2に説示した財産的損害の残額は168万5000円であるが,原告訴訟代理人は,訴訟活動と併行して第1契約に係る立替払契約の解約に成功しており,被告らから126万円を回収することによって損害を回復するという方法よりも効果的な結果を原告に対してもたらしたことが明らかである。

こうしたことを考慮すると,弁護士費用は,財産的損害の残額に,本件訴訟提起後の被告会社の弁済額及び前記の被害回復額を加算した金額の約1割である30万円をもって相当と認める。

4  結論

以上によれば,原告の被告らに対する請求は,理由があるから,いずれも認容し,主文のとおり判決する。

(裁判官 和久田斉)

(注:仮名は「C」から)

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