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京都地方裁判所 平成19年(ワ)1436号 判決 2008年9月24日

主文

1  被告は,原告に対し,1108万7600円及びこれに対する平成19年2月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の本訴請求及び被告の反訴請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は本訴と反訴を通じてこれを10分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。

4  本判決は第1項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

1  本訴

(1)  被告は,原告に対し,1572万4110円及びこれに対する平成19年2月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  仮執行宣言

2  反訴

原告は,被告に対し,3488万0570円及びこれに対する平成18年8月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要など

1  事案の概要

(1)  本訴は,原告が被告との間で,いわゆるごみ袋の製造の請負契約(以下「本件契約」という。)を締結したが,被告が納品期限に本件契約に合致した製品を納品しなかったから,本件契約よりも高い単価で他の業者とごみ袋製造の請負契約の締結を余儀なくされ損害が生じたと主張して,原告が被告に対して,債務不履行に基づき1572万4110円及びこれに対する催告後の日である平成19年2月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

(2)  反訴は,原告が本件契約の解除条項に基づく本件契約の解除の意思表示をした(以下「本件解除」という。)が,本件解除は同解除条項の要件を満たさない違法無効なものであり,また,原告が被告に非がある旨の一方的な主張を新聞報道させたことは名誉・信用毀損であると主張して,被告が原告に対し,不法行為に基づき3488万0570円及びこれに対する本件解除の日である平成18年8月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

以下,特に断らない限り平成18年に生起した事実は月日のみで記載する。

2  前提事実(証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる事実)

(1)  当事者

原告は地方公共団体であり,被告は原告との間で本件契約を締結し,ごみ袋の製造を請け負った者である。

(2)  本件契約の経緯

ア 原告は,家庭系一般廃棄物処理を10月1日から有料化することを決定し(以下,単に「有料化」という。),有料化に伴い,家庭系一般廃棄物のうち缶,ガラスびん,ペットボトルなどの資源ごみの収集に用いる指定袋(以下「本件指定袋」という。)の製造の請負契約を締結するために一般競争入札を実施することとした。

原告は,4月25日,上記一般競争入札の説明会を実施し,被告の製品管理部部長Aが参加した。同説明会において,原告の担当者が参加者に対し本件契約の仕様書を配布し,有料化の制度趣旨,契約期間,納品スケジュール並びに本件指定袋の色及び印刷内容等を説明した(甲18,21)。

イ 原告は5月31日,上記一般競争入札を実施し,被告が最も低い価格で入札し落札した。そこで,原告と被告は,同日,概要以下の内容で被告が本件指定袋を製造し,原告に納品するとの本件契約を締結した(甲1)。

(ア) 代金1枚当たり,大袋6.63円,中袋5.11円,小袋3.97円。

(イ) 納品スケジュールは,8月15日までに,大袋95万枚,中袋95万枚,小袋50万枚,9月30日までに大袋37万枚,中袋37万枚,小袋18万枚。

(ウ) 寸法は,別紙「指定袋寸法について」記載のとおり。厚さはいずれも0.033mm。

(エ) 文字等の色は緑色(一色)で東洋インキ製造株式会社の色見本(TOYO94 COLOR FINDER 1050)における「CF0265」に準じるもの。最終的な色は,原告と打ち合わせて決定する。

(3)  本件契約書には概要以下の記載がある(甲1)。

ア 原告と被告とは,表記記載の物件の製造の請負契約に関して,この契約書に定めるもののほか,別添の仕様書,図面その他の関係図書(別に甲が指示する文書を含む。以下「仕様書等」という。)に従い,日本国の法令を遵守し,誠実に義務を履行しなければならない(第1条)。

イ(ア) 被告は,この契約により製造した物件の引渡しを行おうとするときは,その旨を原告に通知しなければならない。

(イ) 原告は,前項の通知を受けたときは,10日以内に検査を行わなければならない。

(ウ) 被告は,前項の検査に立ち会わなかったときは,検査の結果について異議を申し立てることができない。

(エ) 被告は,上記(イ)に規定する検査に合格しないときは,直ちに当該物件を引き取った上,補修し,又は改造して,原告の検査を受けなければならない。この場合において,これに要した費用は,被告の負担とする。

(オ) 前各項の規定による措置に必要な日数は,この契約の履行期限に影響しない。

(カ) 前各項の規定は,上記(エ)の規定により改めて義務を履行する場合について準用する。(以上 第4条)

ウ 原告は,検査を行った結果,軽微なかしがあった場合において,使用等に支障がないと認めるときは,これを不合格とせず,契約金額から相当額を減額の上,引渡しを受けることができる(第5条)。

エ(ア) 被告が履行期限までに物件の製造を完了し,その引渡しをする見込みがないときは,原告は,本件契約を解除することができる(第10条1項1号。以下「本件解約条項」という。)。

(イ) 原告が,上記(ア)の規定により契約を解除したときは,被告に損害賠償の請求を行うことがある(第10条2項)。

(4)  本件契約に添付された仕様書(以下「本件仕様書」という。)には概要,以下の記載がある。

ア(ア) 縦,横寸法については,合成樹脂加工品品質表示規程第2条第5号(3)及び表1を準用のこと。

(イ) 厚さについては,JIS Z 1711-1994の規定6.2を準用すること。(以上「4 指定袋製造について」)

イ 本格的な製造開始前に,実際に製造された指定袋が本仕様及び協議の上決定した事項に適合することを確認するために事前検査を実施する。

被告は,原告による検査に合格したことが確認された後,本件指定袋の本格的な生産を開始する。検査を受け,合格したサンプル品と同品質のものを生産する。(以上「6 製造する指定袋の事前検査について」)

ウ 発注予定数量は,大袋及び中袋が各188万2000枚,小袋が94万1000枚とする。しかし,発注予定数量は取扱実績状況により変更する場合があり,必ずしも発注予定数量を発注するものではない。(「8 発注予定数量について」)

エ 10月以降の納品予定については協議して決定する(「9 納品について」)。

オ 原告が指定する指定袋保管場所に納入されたものを,本仕様及び協議の上決定した事項に適合しているか,特に強度・寸法・レイアウト・色等を原告担当者が確認する。

原告の納品検査に合格した後,被告は,原告へ書面により合格数量について報告書を提出し,原告の承認を得ること。

原告の検査に並行して,指定袋の強度等について,第三者機関にて検査した結果の提出を求める場合がある。(以上「10 納品時の検査について」)

カ 納品後,指定袋が破れやすい,底抜けする等の不良品が見つかった場合には,落札業者の責任において,速やかに良品と無償交換するとともに,原因等の調査報告書を原告に提出すること。

また,不良品等についての苦情を,市民等から直接受けた場合は,原告へ報告の上,被告が誠意を持って直接対応し,対応完了後,速やかに調査報告書を原告に提出すること。なお,市民への直接対応にかかる費用については,被告が負担するものとする。(以上「12 その他補足事項について (1) 不良品対応」)

キ 指定袋の製造は,競争入札参加資格確認の手続のために原告に提出した申告書で,指定袋製造予定工場として挙げている工場のいずれかで必ず行うこと。なお,申告書を原告へ提出後は,指定袋製造予定工場の追加,変更は認めないこととする。ただし,原告がやむを得ないと認める場合はこの限りではないものとし,確実に製造,納品ができるようにすること。(以上「12 その他補足事項について (3) その他」)

(5)  本件契約後8月15日の納品までの経緯等

ア 本件指定袋の色は,大日産業株式会社(以下「大日産業」という。)が事前配布用の本件指定袋の製造を請け負っていたことから,原告が大日産業と調整した上で,大日本インキ化学工業株式会社の色見本「DIC214」を指定し,被告も大日産業の使用する色に合わせることを承諾した。(以下,決定された色を「指定色」といい,寸法及び厚さの契約書,仕様書の基準と指定色を合わせて「仕様書等の基準」という。)

イ 被告は原告に対して,6月21日,サンプル品を6月30日までに提出すると伝えた(甲18,23)。

ウ(ア) 被告は原告に対し,7月13日,サンプル品を提出した。第1回目提出のサンプル品は,袋の全長不足,手提げ部分が深くえぐれている,印刷の色が指定色と異なる,文字の位置が不揃いであることが仕様書等の基準に適合しなかった。そこで,原告は被告にサンプル品の再提出を求めた。(甲18)

(イ) 被告は原告に対し,同月21日,再度サンプル品を提出した。第2回目提出のサンプル品は,手提げ部分が深くえぐれている,印刷の色が指定色と異なることが仕様書等の基準に適合しなかった。そこで,原告は被告にサンプル品の再提出を求めた。(甲18,乙42)

(ウ) 被告は原告に対し,同月25日,再度サンプル品を提出した。第3回目提出のサンプル品は,仕様書等の基準を満たしていた。そこで,原告は被告に対し,本件指定袋の本格製造を指示した。(甲18)

エ 被告は本件指定袋を製造し,8月11日,原告が指定した納品場所である日本通運株式会社の梅小路倉庫(以下「梅小路倉庫」という。)に,10トントラック1台及び20フィートコンテナ1本分の本件指定袋を納品した(以下「8月11日納品分」という。)。また,被告は同月15日,梅小路倉庫に本件指定袋を納品した(以下「8月15日納品分」という。)。

被告が,8月11日及び同月15日に納品した本件指定袋の数は,合計で大袋が4961箱(124万0250枚),中袋が4298箱(107万4500枚),小袋が1945箱(48万6250枚)であった(乙1)。

(6)  8月15日の納品後の経緯等

ア 原告の担当者及びAは,8月15日午後7時ころから,原告の庁舎内会議室において,本件指定袋の納品について協議した(以下「8月15日協議」という。)(甲16〔枝番含む〕)。

イ 原告は被告に対し,8月17日付で,被告が納入した指定袋には①文字色の不備,②長さ不足,③厚さ不足の製品が混在していることが確認されたため全品不合格とするとの不合格通知を送付した(甲4)。

ウ 原告は被告に対し,8月22日付で本件解約条項に基づき本件解除の意思表示をした(甲5)。

エ 原告は大日産業との間で,8月30日,大日産業が本件指定袋を1枚当たりの代金大袋10.26円,中袋8.36円,小袋6.92円で製造し,原告に納品するとの請負契約を締結した(甲7)。

オ(ア) 被告は原告に対し,8月30日付で検査日時・検査場所・検査機関・検査した袋の抽出方法・検査方法・不合格枚数とその理由の詳細を書面にて明らかにするように求めた(乙35)。

(イ) 原告は被告に対し,9月13日付で,上記8月30日付の通知に対して概略以下の回答をした(乙36)。

a 検査日時 8月15日(同日午後納入袋の検査は同月16日)

b 検査場所及び検査機関 色及び寸法は梅小路倉庫で原告職員(A立会)。厚さは,京都市工業技術センターで原告職員。

c 抽出方法 納入品のうち20リットル用10箱,30リットル用22箱,45リットル用15箱を無作為に抽出し,各箱からそれぞれの袋について厚さを検査するために1枚ずつ,色及び寸法を検査するために1枚ずつ無作為に抽出(A立会)

d 検査方法 厚さはダイヤルゲージ(シチズンウォッチタイプV-2)NO.41250を用いて原告職員が測定。色は原告職員が目視(A立会)。寸法は原告職員が定規で計測(A立会)。

e 検査結果 20リットル用については10袋中,色の不適合3袋,寸法の不適合3袋。30リットル用については22袋中,色の不適合3袋,厚さの不適合3袋。45リットル用については15袋中,色の不適合2袋,厚さの不適合2袋,寸法の不適合1袋。

カ(ア) 被告は原告に対し,9月21日付で厚さ検査及び寸法検査の方法,基準と検査結果のデータを明らかにするように求めた(乙37)。

(イ) 原告は被告に対し,11月17日付で上記9月21日付の通知に対し,8月15日納品分の厚さ,寸法及び色の検査のデータについて,「8月15日分検査データ」と題する書面(甲3と同じもの。)を添付して回答した(乙38)。

キ 原告は被告に対し,平成19年1月24日付で本件契約の債務不履行に基づき,損害1572万4110円を平成19年2月2日までに支払うよう催告した(甲8)。

(7)ア  京都市家庭系一般廃棄物収集用指定袋品質検査要綱(以下「本件検査要綱」という。)には「納品時の指定袋の検査方法」として概要以下の記載がある(〔別紙2〕「納品時検査要領」「2 検査方法」「(1) 指定袋の検査」)(甲2)。

抽出したサンプル品の中から,1組当たり1枚ずつ,無作為に指定袋を抽出し,担当職員が下記の検査項目を実施する。ただし,厚さ検査については,その他の検査を実施することにより正確な数値が計測できない可能性があるため,その他の検査に使用した指定袋と同組から,別の指定袋を抽出し使用することができることとする。なお,下記の検査項目全てに合格した場合のみ,検査合格とする。

(ア) 外観検査

均質で泡,むら,しわ,フィッシュアイ,異物の混入,ピンホールなどの欠点がなく,形状が均整で,切断部などの仕上げが良好であることを確認する。

各種欠点や形状の不均整,切断部などの仕上げ不良が認められない場合は合格とする。

(イ) 寸法検査

別紙「指定袋寸法について」記載のAないしHの寸法を測定し,各項目が仕様書に規定する長さであるかを確認する。

縦,横寸法は,合成樹脂加工品品質表示規定第2条第5号(3)及び表1を準用するが,ポリエチレンフィルムの性質を考慮し,AからD,Hを引いた長さが,45リットル(大袋)は650mm,30リットル(中袋)は580mm,20リットル(小袋)は520mm以上であること,B及びCの合計が45リットルは550mm以上,30リットルは470mm以上,20リットルは400mm以上であること,EとFはプラスマイナス15mmまでであることが確認できる場合は寸法検査について合格とする。

(ウ) 色検査

文字の色,袋本体の色につき,指定色に適合することを目視で確認する。また,印刷プロセスで生じる各種欠点(文字欠け,色むら等)がないかを確認する。全種類を見比べ,種類によって色にばらつきがないことを確認する。

各種欠点や色のばらつきが認められない場合は合格とする。

(エ) 厚さ検査

指定袋のしわ,折り目等のない部分を選び,縦約5cm,横約10cmの大きさに切り取って試験片とし,その試験片の厚さを測定する。なお,試験片の採取は,1枚の指定袋から1片とは限らないこととする。

厚さを測定する計測器は,平滑な測定テーブルと測定子があり,0.001mmまで読める目盛りをもつものとする。

試験片の数点において,厚さの平均値が,0.030mm以上0.036mm以下である場合は合格とする。

イ  原告は被告に対して,本件検査要綱の内容を告知したり,本件検査要綱を交付したりしていなかった。

(8)  合成樹脂加工品品質表示規定第2条第5号(3)は,表示値の誤差の許容範囲を縦の長さにあってはプラス4パーセント,マイナス0パーセントとしている(甲11)。

(9)  ポリエチレンフィルム製袋に関するJIS Z 1711-1994(以下「本件JIS規格」という。)には以下の規定がある(甲10,乙13)。

ア 呼び厚さが0.030mm及び0.035mmの場合,平均厚さの差の割合の許容範囲はプラスマイナス9パーセント,厚さの差の許容範囲はプラスマイナス0.007mmとする(「6.2 寸法の許容差 表6」)。

イ(ア) 厚さ計は,JIS B 7503に規定するもので,そのスピンドルの測定子は,直径5±0.01mmの平滑な測定面をもち,アンビルは直径30mm以上の平滑面とし,スピンドルに対してアンビルは垂直であるものを用いる。ダイヤルの直径は50mm以上で,0.001mmまで読める目盛りをもつものとする。この場合,加圧荷重は1226±147mN{125±15gf}のものを用いる。

(イ) 供試袋を広げて,開口部をほぼ等間隔に4か所の厚さを測定する。

測定箇所は,開口部から少なくとも5mm内側とする。(「8 試験方法」)

3  争点及び争点に対する当事者の主張

(1)  被告に債務不履行があったか(争点(1))

ア 原告

(ア) 8月11日納品分には,大袋に色及び寸法が契約書,仕様書等の基準に適合しないものがあった。

(イ) 8月15日納品分には,以下のとおり仕様書等の基準に適合しないものがあった。

a 大袋15袋中,色の不適合が2袋,厚さの不適合が1袋,寸法の不適合が1袋

b 中袋22袋中,色の不適合が3袋,厚さの不適合が4袋

c 小袋10袋中,色の不適合が3袋,寸法の不適合が3袋

(ウ) 上記色不適合品は指定色とは明らかに異なっていた。本件契約の目的物は市民が有料化以後,ごみを出すために手数料を納めたことを表すいわば金券類似の性質を有する製品である。よって,原告は偽造品が出た際に判別できるようにしておく必要がある。しかし,色の違う指定袋が流通すると偽造品の判別が困難になり,また,ごみ収集の際に正規の指定袋かどうかの判断に支障を来し,円滑な収集業務が妨げられる。

また,被告が納品した本件指定袋の厚さは,第三者機関の測定においても0.023mm及び0.024mmであり,本件仕様書指定の0.033mmや本件検査要綱で合格として扱う0.030mmに対して極めて低い値である。そして,市民は本件指定袋を手数料を負担して入手するものであるから,通常のごみ袋よりもその品質に厳密さが要求され,上記厚さ不足は軽微な瑕疵とはいえない。

上記寸法不適合品には縦の寸法の足りない製品があったが,本件指定袋が容量に応じて手数料が定められていることから,公平の観点から縦の寸法が足りないことは一切許容されない。

これらからすると,上記不適合品の瑕疵は軽微とはいえない。

(エ) 以上から,8月15日納品分は全て不合格品であり,被告は8月15日納品期限に債務の本旨に従った本件指定袋を納品しなかった。

(オ) なお,原告がAに対し,8月15日の納品時検査の際に寸法や厚さについては許容範囲内であると言ったことはなく,8月15日協議の際にAに対し,仕様書等の基準に適合した製品を納品するように求めた。

また,原告は被告による差替えの申出を了承しておらず,上記のとおり,仕様書等の基準に適合した製品を納品するよう求めていた。差替えを前提として被告が寸法及び厚さを検査するためには外袋を破くことになるが,いったん外袋を破くと商品として市場に流通させることはできないから,被告提案の方法では仕様書に適合した製品を納入することはできなかった。

イ 被告

(ア) 争点(1)に関する原告の主張は否認ないし争う。

(イ) 確かに,原告担当者はAに対し,8月15日の納品検査時に8月15日納品分の中の若干の袋に色違い品があることを指摘した。しかし,原告は同日,色違い品を差し替えることで了承した。

同日,A立会の下で厚さの検査は行われなかったが,一連の検査終了後,担当課長から厚さは「オーケーだ。」と言われた。

原告担当者とAは同日,寸法は原告指定の寸法の許容範囲内であるとして適合を確認した。

(ウ) ごみ袋はポリエチレン製フィルムを薄く伸ばして製造する製品であり,ポリエチレン製フィルムは湿度によって伸び縮みしやすく,製品管理を尽くしても,製品の全てが基準を満たした製品とはならない。ごみ袋としては破れないことが重要であり,厚すぎることは問題とならない。また,ごみ袋は有価証券ではないから,印刷色の厳密さにも限度がある。そうであるとすると,8月11日納品分及び8月15日納品分は合格品として許容可能な製品であった。

(エ) 色違い製品の差替えについては,被告は8月17日には差替えに必要な人員及び場所の準備態勢を整えていた。同月15日の納品数量は同日期限の納品数量を大きく上回っていた上,同日以後にも,9月30日期限の納品分が中国から日本に輸送されていたから,短期間での差替えが可能であった。

それにもかかわらず,原告が一方的に解除通知を行った。

(オ) 以上のとおり被告に債務不履行があったとはいえない。

(2)  原告の損害(争点(2))

ア 原告

(ア) 原告は10月1日の有料化実施に間に合わせるために,8月30日付で大日産業との間で,1枚当たりの製造単価を大袋10.26円,中袋8.36円,小袋6.92円とするとの約定で指定袋の製造請負契約を締結した。

大日産業は事前無料配布用の指定袋を製造した実績があり,大日産業以外に10月1日の有料化実施に間に合うように予定数量の本件指定袋を製造し納品することができる業者はなかった。

(イ) 本件契約の予定数量を製造した場合の代金額は,被告との契約単価に基づく場合は2583万0450円であったが,上記大日産業との契約では4155万4560円となり,その差額は1572万4110円である。

同差額は被告が8月15日に納品すべき本件契約上の債務の履行をしなかったために原告に余分に生じた経費であり,同債務不履行による原告の損害である。

イ 被告

原告が大日産業との間で8月30日付で本件指定袋製造の請負契約を原告主張の単価で締結したことは認めるが,その余の争点(2)に関する原告の主張は否認ないし争う。

(3)  本件解除が不法行為となるか(争点(3))

ア 被告

(ア) 上記(1)イ(イ)のとおり,8月15日納品検査時に,被告が納品した本件指定袋の寸法は許容範囲内であり,厚さは「オーケーだ。」と言われ,色違いについては差し替えることで原告と合意した。

また,そもそも,上記(1)イ(ウ)のとおり,8月11日納品分及び8月15日納品分は全品,合格品として許容可能な製品であった。

(イ) 仮に,8月11日納品分及び8月15日納品分に仕様書等の基準に適合しない製品があったとしても,8月15日納品時検査の検査結果の詳細が分かっていれば,検査方法及び検査結果に対する反論や,必要な場合には差替え等により対処することができた。また,被告は上記(1)イ(エ)のとおり,短期間での差替えが可能であった。

しかし,被告が原告に対して検査データの開示を求めても,原告は検査結果を伝えるのみで,検査の詳細(検査機関,検査方法,検査枚数,合格枚数とその厚さ,不合格枚数とその厚さなど)を明らかにしなかった。その上,納品日の2日後である8月17日付で不合格通知を発し,被告が原告に対して検査データの開示を求めている最中に本件解除の意思表示をした。

(ウ) 本件契約は無催告解除を規定していないが,原告は催告をせずに本件解除をした点で,解除の要件を満たしていない。

また,上記のとおり,被告は差替え可能であったから本件解約条項の「履行期限までに物件の製造を完了し,その引渡しをする見込みがないとき。」には該当せず,解除の要件を満たしていない。

さらに,上記の原告の対応及び本件解除は,被告に製品の差替えの機会を認めている本件契約約款第4条に反し,仮に,色,寸法及び厚さについて若干の不適合があったとしても,それは本件契約約款第5条にいう「検査を行った結果,軽微なかしがあった場合において,使用等に支障がないと認めるとき」に該当し,不合格としないことができると約定されているから,原告の本件解除は本件契約条項に反する。

また,そもそも継続的商品供給契約である本件の場合,納品された商品に瑕疵があった場合でも,原告は被告に対して,当該瑕疵のある商品について,完全な商品の履行請求をなし得るだけで,瑕疵のない商品の納入を拒否することはできない。

以上から,本件解除は解除の要件を満たさず違法無効である。

(エ) また,本件契約は継続的商品供給契約であるから,一部の商品について瑕疵があったとしても契約全体を解除することはできない。さらに,継続的商品供給契約は,単に,債務不履行があっただけで契約解除が是認されるものではなく,契約の不履行が継続し,再三の催告にもかかわらず不履行の状態が改善されず,契約当事者間の信頼関係が保ち得ない場合にはじめて契約解除が認められる。しかし,本件では,このような状況に該当する事実はない。

(オ) 以上から,本件解除は理由がなく違法無効な行為であり,故意に基づく不法行為である。

イ 原告

(ア) 被告の争点(3)に関する主張は否認ないし争う。

(イ) 上記(1)アのとおり,被告が8月11日及び8月15日に納品した本件指定袋を抽出検査した結果,仕様書等の基準を満たさない不適合品があった。上記不適合品の瑕疵の程度は軽微ではなかった。

8月14日,原告の担当者はAと8月11日納品分に仕様書等の基準に適合しない製品があったことについて協議した際,Aは8月15日納品分は問題ない旨答えたが,上記のとおり,8月15日納品分にも仕様書等の基準を適合しない製品があった。

原告はAに対し,8月15日協議において有料化実施に間に合うように本件仕様書に適合した製品を納品することを求め,これが可能か否か確認したところ,Aは全量を再度製造することはできない旨答えた。

(ウ) 本件指定袋の性質,有料化実施の時期,被告が仕様書等の基準に適合しない製品が製造された原因を把握しておらず,有料化実施に間に合うように本件指定袋を納品できると原告を信用させるだけの抜本的な対策の提案をしなかったことからすると,本件解約条項の「履行期限までに物件の製造を完了し,その引渡しをする見込みがないとき。」に該当する。

(エ) したがって,本件解除は有効である。

(4)  新聞報道にかかる原告の不法行為があったといえるか(争点(4))

ア 被告

原告は,本訴提起は被告に非がある旨の一方的な主張をマスコミに発表して新聞報道させ,被告の名誉と信用を毀損した。

イ 原告

被告の争点(4)に関する主張は否認ないし争う。

(5)  被告の損害(争点(5))

ア 被告

(ア) 原告の違法な本件解除により,被告は本件契約に基づいて納品する予定であった本件指定袋の代金2583万0450円(大袋188万2000枚×6.63円=1247万7660円,中袋188万2000枚×5.11円=961万7020円,小袋94万1000枚×3.97円=373万5770円)の支払を受けることができなかった。

(イ) 本件解除により,被告は梅小路倉庫に納入済み製品の引取りに105万0120円を要した。

(ウ) 原告による上記(4)の不法行為によって毀損された被告の名誉及び信用を回復するためには,慰謝料として500万円が相当である。

(エ) 被告は,本件本訴及び反訴を遂行するために被告訴訟代理人弁護士に依頼し,300万円を支払うことを約した。同金員は,原告の不法行為と相当因果関係がある。

イ 原告

被告の争点(5)に関する主張は否認ないし争う。

第3当裁判所の判断

1  前提事実,証拠(甲3,6,16〔枝番含む〕,18,20,24,28ないし33〔枝番含む〕,乙15ないし18,42,証人B,証人C,証人A)及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる。

(1)  原告の環境局循環型社会推進まち美化推進課職員のBが8月11日,8月11日納品分を検査したところ,大袋に印刷の色が指定色と異なるものがあった(甲18,証人B9頁)。

(2)  Bは8月14日,Aに対し8月11日納品分の中に「同じ箱の中から,色の違う組が混ざって出てくる。」と指摘した(甲18,24,証人B11頁)。

(3)  Bを含む原告の職員らは,8月15日,Aの立会の下で8月15日納品分の納品時検査を行った。同検査では,原告の職員が8月15日納品分の中から小袋は10袋(以下,「小①~小⑩」という。),中袋は22袋(以下,「中①~中<22>」という。),大袋は15袋(以下「大①~大⑮」という。)をそれぞれ抽出して,抽出した袋をAが広げて押さえ,Bが定規を使用して寸法を計測し,原告の職員ら及びAが目視で色を検査した。また,厚さは京都市工業技術センターで本件検査要綱に従って切片を作成して検査した。(甲18,20,乙42,証人B11ないし14,20頁,証人A9頁)

(4)  8月15日納品時検査の色及び寸法の結果は以下のとおりであった(甲3)。

ア 小⑤及び⑥は色が指定色と異なる。小⑦及び⑧は寸法が仕様書等の基準に足りない。

イ 中⑪ないし⑬は色が指定色と異なる(中⑬は箱に色違いが混在)。

ウ 大⑦は色が指定色と異なる。大⑬は色が指定色と異なり,寸法が仕様書等の基準に足りない。

(5)ア  原告の職員とAは,上記色違い等があったことから,同日,原告の庁舎で協議(8月15日協議)を行った(甲18,証人B14頁,証人C9頁,証人A10頁)。

イ  8月15日協議では,原告の職員がAに対し,8月15日納品分から厚さ,色,寸法について仕様書等の基準に満たないものがあった旨伝え,その原因及び対策について協議した。その際,原告の職員が8月11日納品分の小袋,中袋,大袋及び8月15日納品分の小袋,大袋は色違いを差し替えて納品し,8月15日納品分の中袋は被告が全品検査の上再度納品するなどの案を提示したり,遅くとも8月31日には本件指定袋を納品してほしい旨の発言をしたりした。しかし,最終的には原告の内部で意思統一をした後に判断すること及び仕様書等の基準を満たした製品を納品してもらいたいことをAに伝え,Aは原告の担当者に対し,被告代表者と相談することを伝え,協議は終了した(甲16の2・32,34,35頁,証人A13頁)。

ウ  8月15日協議で,原告の職員はAに対し,「文字色の違う袋ばかり入っている箱と,ばらばらに入っている箱があるのか。どういうことが起こっているのか。」と聞いたところ,Aは「それは分からない。」と答えた(甲16の2・4頁)。

(6)  Aは8月16日,原告の庁舎に赴き,8月15日に検査した袋,を持参したマイクロメーターで再度計測させてほしい旨申し入れたが,原告の職員はこれに応じなかった(乙42,証人A15頁)。

(7)ア  原告作成の「8月15日分検査データ」には,厚さについて,中④は0.022-0.025mm,中⑥は0.025-0.029mm,中⑦は0.046-0.052mm,中⑩は0.022-0.029mm,大⑦は0.025-0.029mmであったとの記載がある(甲3)。

イ  原告は10月30日,財団法人科学技術戦略推進機構高分子試験・評価センター大阪事業所(以下「高分子試験場」という。)に,中袋及び大袋の厚さについて本件JIS規格による検査を依頼し,その結果(試験完了日は11月6日)は,厚さの平均値は試料名30ℓ⑩は0.027mm,試料名30ℓ⑦は0.050mm,試料名30ℓ④は0.026mm,試料名45ℓ⑦は0.029mmであった(甲6,弁論の全趣旨)。

ウ  被告は中国の工場から輸送されたコンテナ内から抽出した大袋,中袋及び小袋各1枚ずつを,8月8日,高分子試験場に本件JIS規格による検査を依頼した。その結果,厚さの平均値は大袋0.036mm,中袋0.034mm,小袋0.033mmであった(乙16,17,証人A4頁)。

エ  被告が12月12日に梅小路倉庫より抽出した本件指定袋を高分子試験場に本件JIS規格による厚さの測定を依頼した結果は,厚さの平均値は大袋⑦0.032mm,中袋⑩0.030mm,中袋⑦0.050mm,中袋④0.028mmであった(乙15,18)。

オ  被告が平成19年3月8日に梅小路倉庫より抽出した本件指定袋を高分子試験場に本件JIS規格による厚さの測定を依頼した結果は以下のとおりであった(乙15,19)

(ア) 大袋18袋のうち0.030mmが1袋,0.031mmが3袋,0.032mmが5袋,0.033mmが7袋,0.034mmが1袋,0.035mmが1袋

(イ) 中袋12袋のうち0.030mmが1袋,0.031mmが4袋,0.032mmが4袋,0.033mmが3袋

(ウ) 小袋9袋のうち0.031mmが3袋,0.032mmが4袋,0.033mmが2袋

(8)  原告は大日産業に対し,以下の本件指定袋の代金を支払った(甲28ないし33〔枝番含む〕)。

ア 9月30日までの納品分の大袋56万1500枚,中袋53万2500枚及び小袋53万2500枚

イ 10月28日までの納品分の大袋67万0750枚,中袋67万4000枚及び小袋39万8000枚

ウ 11月1日から11月30日までの納品分の大袋177万7750枚,中袋168万0250枚及び小袋65万9500枚

エ 12月28日までの納品分の大袋102万0250枚,中袋102万7250枚及び小袋152万5000枚

オ 平成19年1月10日までの納品分の大袋61万9750枚,中袋73万6000枚及び小袋93万5000枚

2  被告に債務不履行があったか(争点(1))

(1)  8月15日納品分の厚さについて

上記第2の2(4)ア(イ)のとおり,本件仕様書では,厚さについては本件JIS規格を準用するとされている。ところで,本件契約書及び本件仕様書には検査方法についての具体的な記載がないところ,本件検査要綱に関する記載がない上に,被告は本件検査要綱の内容を知らなかったのであるから原告と被告の間で本件指定袋の検査方法を本件検査要綱に従って行うとの合意はなかった。そうすると,原告の検収に関する規定の関係で原告の職員が検査を実施する必要があったとしても,少なくとも検査の手順は本件JIS規格に従った方法で行われるべきである。

そして,本件では袋を切り取って試験片を作成し,その試験片の厚さを検査しており,本件JIS規格に従った手順で検査されてはいないから,本件検査要綱に従った厚さ検査の結果のみをもって,被告が納品した製品の厚さの合否を検討することはできないというべきである。

ところで,上記1(7)イ及びエのとおり,原告が高分子試験場に依頼した本件JIS規格に従った厚さ検査の平均値は,中袋⑩は0.027mm,中袋⑦は0.050mm,中袋④は0.026mm,大袋⑦は0.029mmであり,被告が高分子試験場に依頼した本件JIS規格に従った厚さ検査の平均値は大袋⑦は0.032mm,中袋⑩は0.030mm,中袋⑦は0.050mm,中袋④は0.028mmであった。そうすると,被告に有利な検査結果からしても,0.030mm以上あるべきものとする厚さの要件を満たさないものがあったことは明らかである。

この点,被告は原告が高分子試験場に検査を依頼した袋は原告がどこかで何回も検査したもので筋が入ったようなものであった旨主張するが,高分子試験場が本件JIS規格に従って検査し,その結果を記載した試験報告書には被告主張の事実を窺わせる記載がないことからすると,被告の上記主張は採用できず,原告が高分子試験場に依頼した検査の結果は本件JIS規格に従って検査された結果であると認められる。

(2)  上記(1)を踏まえて被告に債務不履行があったか検討する。

ア 仕様書等の基準によると色が指定色と異なる製品は不合格であり,縦の寸法のマイナスは一切認められていないから,寸法不足の製品は不合格である。また,厚さが0.030mmを下回った製品は不合格である。これら本件JIS規格及び合成樹脂加工品品質表示規定はポリエチレン製フィルムの性質を考慮した上で定められているので,かかる基準を満たさない製品は不合格であるといわざるを得ない。

以上の点に前記1(4)アないしウ,(7)アに認定した検査結果を考慮すると,8月15日納品分についても検査したもののうち,少なくとも小⑤ないし⑧,中④,⑪ないし⑬,大⑦,⑬は不合格であったといえる。

そして,本件のように大量の製品が納品される場合,全品検査することは社会通念上不可能と評価せざるを得ないから,抽出検査の結果,不合格品が複数ある場合には,全品が不合格と扱うこともやむを得ないといえる。

本件では,抽出したもののうち小袋10袋中4袋,中袋22袋中4袋,大15袋中2袋の不合格品があり,各種類においてそれぞれ複数の不合格があった。その割合をみても小袋4割,中袋1割8分,大袋1割3分と最も割合の低い大袋をしても1割を超えており,小袋については4割あったのであるから,このような割合で不合格品が存在した納品分について全品を不合格とすることはやむを得ないといえる。

よって,8月15日納品分は全品不合格であったといえる。

イ ところで,本件契約では大袋95万枚,中袋95万枚,小袋50万枚の納品期限は8月15日である。

そして,本件契約では,原告の検査に合格した製品が納品された扱いとなる(前提事実(3)イ)ところ,上記のとおり,8月15日納品分が不合格であった(また,後日行われた高分子試験場における厚さ検査の結果からも不合格品の存在が認められた。)から,被告は納品期限である8月15日に上記数量を納品することができなかったといえ,同債務の不履行があったといえる。

ウ この点,被告は,原告から8月15日納品分の寸法については許容範囲内であるとの確認を受けたし,色については差し替えることを了承され,被告において差替えが可能であった上に,厚さについてはわずかに足りない製品が1袋あったにすぎないから,これらをもって債務不履行があったとはいえない旨主張する。

しかし,原告が被告に対して寸法不足について許容範囲内であると確認したことを認めるに足りる証拠はなく(AはBが許容範囲であると言った旨証言〔証人A42頁〕するが,8月15日協議の際に色,厚さ及び寸法並びに納品時期について仕様書等の基準通りの納品を求めていた(前記1(5))ことからすると,上記証言をにわかに採用することはできない。),かえって,上記8月15日協議の内容からすると,原告は最終的に寸法不足を許容していたとはいえない。また,前記1(5)イに認定した8月15日協議の際に話題になった差し替えて納品する案が原告における組織としての決定を経たものであることを認めるに足りる証拠はない。厚さ不足の製品がわずかであることは被告主張のとおりであるが,色違い及び寸法不足の点から不合格品が存在したところ,それを原告が許容したり,差替えに必要な期間を納品期限として猶予したなどの事情が認められないことからすると,債務不履行であったといわざるを得ず,上記被告の主張は採用できない。

3  原告の損害(争点(2))について

(1)ア  前提事実(6)エのとおり,原告は大日産業との間で,8月30日,本件指定袋の製造請負契約を締結し,その際の単価は大袋10.26円,中袋8.36円,小袋6.92円であった。

イ  前提事実(2)イ(イ),(4)ウ及びエのとおり,本件契約では,8月15日を納品期限として大袋95万枚,中袋95万枚及び小袋50万枚並びに9月30日を納品期限として大袋37万枚,中袋37万枚,小袋18万枚を納品する約定であったが,10月以降の納品については協議して決定することとされていて,発注予定数量は取扱実績状況により変更する場合があり,必ずしも発注予定数量を発注するものではないとされていた。

(2)  上記(1)を踏まえて検討する。

ア 被告が8月15日に合格品を納品しなかったことから,原告は10月1日からの有料化に間に合わせるために他の業者と本件指定袋の製造請負契約を締結する必要があったといえる。そして,10月1日からの有料化を前提に納期を設定する場合,上記8月15日以降納期としてのリミットと考えられる時点までの期間は約1か月しかなく,本件契約日から第1回納品期限の8月15日までの約2か月半と比較しても相当短い。こうしたことに,色については,色見本の番号を特定してインクを発注すれば同一色が印刷できるというものではなく,複数のインクを調合しながら色彩を調整するほかないこと(証人A60,61頁)などに,大日産業がお試し用指定袋を作成しており,原告からの要望に基づくインクの調合作業を実施した経験を有していたことからすると,10月1日からの有料化に間に合うように本件指定袋を製造できる業者として他に選択の余地がなかったと考えられるから,原告としては大日産業と随意契約を締結せざるを得なかったというべきである。また,当初の入札後に,大日産業の事情によらずに納期を短期間とせざるを得なくなった点を考慮すれば,大日産業に入札の際の契約価格(単価)のままで随意契約を締結することは不可能であったことが推認できる。これらのことを勘案すると,原告としては本件契約が債務の本旨に従って履行された場合の出捐分に加えて,大日産業との契約単価と本件契約の単価の差額に発注数量を乗じた金額に相当する金額のさらなる出捐を余儀なくされたものといわざるを得ない。

また,被告が8月15日に納品できず,その後も仕様書等の基準に適合する製品を納品できるとの見通しを原告に提示できなかったこと,8月15日から9月30日まで約1か月半の期間が存するが,本件全証拠をもってしても,他の業者に色彩の調合も含めた作業をさせた上でサンプル検査を行い,その検査合格後に本製造に着手して検品をするという手順で製造させることとした場合に,上記期間内に確実に納品ができたとは認め難いことを考慮すると,8月15日納期限分のみならず,9月30日納期限分についても,大日産業との間で随意契約を結ばざるを得なかったものと考えられ,前記説示のとおりの金額のさらなる出捐を余儀なくされたといえる。

イ よって,本件契約と大日産業との契約の単価の差額(大袋10.26-6.63=3.63円,中袋8.36-5.11=3.25円,小袋6.92-3.97=2.95円)に8月15日納品期限数(大袋95万枚,中袋95万枚,小袋50万枚)及び9月30日納品期限数(大袋37万枚,中袋37万枚,小袋18万枚)を乗じた合計1108万7600円(大袋3.63円×132万枚=479万1600円,中袋3.25円×132万枚=429万円,小袋2.95円×68万枚=200万6000円)が被告の債務不履行と相当因果関係のある損害であるといえる。

ウ この点,原告は,本件契約の発注予定数量に上記差額を乗じた額を原告の損害である旨主張する。しかし,上記(1)イで指摘したとおり,数量については取扱実績状況により変更する場合があり,必ずしも発注予定数量を発注するものでもなかったのであり,さらに,発注予定数量から8月15日納品期限数及び9月30日納品期限数を除いた数量(大袋56万2000枚,中袋56万2000枚,小袋26万1000枚)の納品期限は具体的に定められておらず,納品期限によっては入札を実施することによって,本件契約と同じないしはそれを下回る単価で契約を締結し得る可能性もあることからすると,本件契約と大日産業との契約の単価の差額の損害が発生したと認めるには足りない。よって,上記原告の主張は採用できない。

(3)  以上から,被告の債務不履行と相当因果関係のある原告の損害は1108万7600円であると認められ,これを左右するに足りる証拠はない。

4  本件解除が不法行為となるか(争点(3))

(1)  ところで,契約の解除の意思表示が解除原因を欠くなどその要件を満たしていない場合に当該解除の意思表示が無効であり,解除の効果が生じないとしても,かかる解除の意思表示が不法行為であると評価されるのは,解除の意思表示をした契約の一方当事者が解除原因を明らかに欠くことを認識しつつ,敢えて相手方当事者に損害を被らせる目的で解除したという不法行為法上の違法性を基礎づける特段の事情が認められる場合に限られると解するのが相当である。

(2)  そこで,本件解除原因である「履行期限までに物件の製造を完了し,その引渡しをする見込みがないとき。」といえるか検討する。

ア 上記2で認定説示したとおり,8月15日納品分は不合格であったから,8月15日に納品期限である数量を被告は納品することができなかった。

上記1(5)のとおり,8月15日協議の際,Aは色違い品が混入した原因について明確な返答ができなかった。また,8月16日以後,Aが原告の担当者に対して,厚さの再検査を申し込んだことがあったが,証拠(甲19)によると,その後本件解除までの間に,被告が原告に対し,色違い品の差替えについての具体案を提示したり,色違い品の差替えを実行したりしたことはなかったことが認められる。

イ ところで,本件契約は有料化の際の本件指定袋を製造して原告に引渡す契約であった。従前無料であったごみ収集が有料となることや,本件指定袋は容量に応じて手数料(販売価格)が設定されていて(大袋は22円,中袋は15円,小袋は10円。)単なるごみ袋と比較してその取得費用は高額であることからすると,有料化の制度そのものや本件指定袋に対する市民の関心は必然的に高くなり,色が不統一であったり,強度不足で破れやすかったり,同じ容量として販売されている袋の容量が異なったりすることについては,市民から原告に対して抗議等が寄せられることが予想される。そうすると,有料化の制度そのものに対する批判につながりかねず,有料化の制度を導入しようとする原告としては,制度導入に当たって使用する本件指定袋の製品としての品質については厳格に対応せざるを得ず,仕様書等の基準を満たした製品を制度の実施に間に合うように納品受領することは原告にとって最大の関心事であったといえる。

そして,入札説明会で有料化の制度趣旨,時期などの説明がなされていたことも合わせて考えると,10月1日からの有料化に向けて原告が立案した計画通りに本件指定袋を製造し,引渡すことが本件契約の重要な内容となっていたというべきである。

この点,証拠(甲16の2・11頁)によると原告は9月1日から本件指定袋を市内の店舗に並べると広報していたこと,そのためには8月22日から店舗に向けて配送する必要があったことが認められるから,被告が8月15日の納品期限に間に合うよう納品することは本件契約において重要な意味を有し,遅くとも8月22日からの発送に間に合うことが必須であったといえる。

ウ しかし,上記アのとおり,被告は8月15日に約定の製品を納入することができなかったのであり,上記イのとおり,同日の納品が本件契約において重要な意味を有するのであり,しかも,同日が納品期限であることや納品数は契約時に既に決まっていて被告も承諾した上で本件契約を締結したことからしても,被告が8月15日に約定の製品を納入できなかったことは本件契約において基本的かつ重要な債務の不履行であったといえる。その上,8月15日協議の際,被告の担当者であるAは色違い品が混入した原因を正確に把握することができていなかった上,不合格品に対する具体的方策を提案することができず,8月15日協議以降本件解除までの期間においても,色について8月22日からの店舗への発送に間に合うような具体案を提示することはしていなかった。確かに,8月15日の納品時検査の厚さの検査が本件JIS規格の手順とは異なった方法で行われ,さらに,その結果を直ちに開示して状況の共通認識を形成しなかった原告の行為は契約当事者として信義に反するものであり,妥当性には大きな疑問がある。また,厚さが不足しているか否かの情報は被告において対応を検討する上で重要なものであったともいえる。しかし,被告は少なくとも色については8月15日までに引渡した製品に指定色と異なるものが混入していたとの認識を有していたのであり,本件解除がなされるまでは目的物を納品する債務を負っていたのであるから,指定色に適合した製品を納品することについての方策を検討し,実行する必要があったというべきであり,そのためには中国の製造工場の状況等を調査し,色違い品が混入した原因について正確に把握して,原告に対して説得的に説明する責務があったといえる。しかし,上記のとおり,Aはかかる行為をしなかったのであるから,原告が被告に対して確実に有料化に間に合うように仕様書等の基準に適合した本件指定袋の納品があるとの信頼を抱くことは困難であったといわざるを得ない。

以上のとおり,被告が8月15日に納品予定数を納品することができず,その後も被告は,本件契約で重要な要素である有料化に間に合うように製造納品できるかについて原告に被告を信頼させるだけの努力・説明等をしなかったことを合わせて考えると,これまでに述べた事情を経た上での8月22日の時点での被告の状態は「履行期限までに物件の製造を完了し,その引渡しをする見込みがないとき。」に該当するといわざるを得ない。

エ 本件解除は本件解約条項によるものであるところ,本件解約条項は履行期限前であっても要件を満たせば原告に解除権が発生する旨を規定していて,履行遅滞による解除とは異なるから,本件解約条項による解除において催告が必要である,とはいえないと解される。

なお,仮に催告が必要であったとしても,原告は8月15日協議の際,被告に対し,本件仕様書に適合する製品を納品してほしい旨伝えており,催告がなかったとはいえず,8月15日が納品期限となっていたのであるから,8月22日になされた本件解除は相当期間経過後の解除の意思表示であるといえる。

オ ところで,本件契約は継続的商品供給契約であるが,上記のとおり,本件契約の目的は10月1日からの有料化で使用する本件指定袋の製造供給であり,10月1日からの有料化に間に合わなければ目的を達成しない契約であった。そして,被告はサンプル品の検査時においても合格するまで3度の提出を要しており,8月11日納品分についても不合格品が混入し,8月15日納品分についても不合格品が混入していたのであるから,これらの一連の経緯からすると,原告が被告の製品管理能力に疑いを持つことは自然であり,被告は色及び寸法が不合格である製品があったことは認識していたのであるから,少なくともこれらの点について原因及び解決方法について原告を説得するに足りる努力・説明を行う必要があった。しかし,被告は何ら具体的な説明を行っていないし,不合格通知を受けて引取りを要請された後も商品を引き取って差替えを実施することなく放置していた。本件契約は原告及び被告間での初めての契約であり,被告が原告との取引において実績を有しておらず,原告は10月1日開始の有料化に向けて準備を進める必要があったことからすると,上記状況の下で,9月30日納品期限分も含めて本件契約を全体として解消することを内容とする本件解除は有効であったといわざるを得ない。また,上記状況の下では,原告の被告に対する本件解除が信義則に反し無効であるとはいえない。

カ この点,被告は差替えが可能であった旨主張する。

(ア) まず,1つの箱に色の合格品と不合格品が混在した箱(以下「色混在箱」という。)があったかについて検討する。

確かに,サンプル品作成時に既に箱詰めされリサイクルに使用されるはずの製品が出荷されたのであれば,その箱に入っている製品は指定色と異なるものばかりであると考えられる。

しかし,Aは,色不合格品があった原因は,上記リサイクル品が間違って混入したことの他に,サンプル品作成時の版を本生産時にも使用したことに原因があるとも述べている(証人A50頁)。さらに,上記1(2)及び(5)のとおり,原告の担当者は8月14日に8月11日納品分の中に色混在箱があったこと,8月15日協議の際に8月15日納品分の中に色混在箱があったことを指摘している上,上記第2の2(6)カのとおり11月17日付で被告に送付した検査結果の詳細にも「箱に色違い混在」と記載されていて(乙38),原告が当初から色混在箱があったことを主張していたのに対し,被告がこれに対して異議を述べた等の事情は窺われない。

以上からすると,色混在箱があったものと認めることができる。

(イ) 上記のとおり,色混在箱があったことを前提にすると,被告が提案していた検品作業によっては,10日間程度で再度納品できたとは考え難い。仮に,色混在箱がなかったとしても,色違いの品の検品が短期間に可能であったことを認めるに足りる証拠はない(証人Aは1日10トンは検品できる見込みであった旨供述しているが,証拠〔甲16の2・11頁〕によればAは色違い品の差替え作業を行ったことがないことが窺われ,その他に上記見込みを裏付ける証拠はない。)。

よって,上記被告の主張は採用できない。

(3)  以上のとおり,本件解除は有効であり,上記(1)で述べた被告に対して損害を与えようとする等の故意的要素が原告があったことも窺えなない。したがって,本件解除の意思表示が違法であるとする被告の主張は採用できない。

5  新聞報道にかかる原告の不法行為があったといえるか(争点(4))

本件全証拠によるも,原告が新聞社などの報道機関に対してどのような発表をしたのか明らかでない上,上記4で認定説示のとおり,原告による本件解除は有効であるから,本件解除があった旨の新聞報道に関して原告の不法行為があったとの被告の主張は採用できない。

6  以上によれば,原告の本訴請求は主文1項の限度で理由があるからその限度で認容し,その余の本訴請求は理由がないからこれを棄却する。反訴請求はその余の争点(被告の損害)について判断するまでもなく理由がないからこれを棄却する。よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 辻本利雄 裁判官 和久田斉 裁判官 波多野紀夫)

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