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京都地方裁判所 平成19年(ワ)188号 判決 2008年12月08日

主文

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  被告らは,原告Aに対し,連帯して200万円及びこれに対する被告国は平成19年2月2日から,被告京都市は同月1日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  被告らは,原告Bに対し,連帯して200万円及びこれに対する被告国は平成19年2月2日から,被告京都市は同月1日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  被告らは,原告Cに対し,連帯して200万円及びこれに対する被告国は平成19年2月2日から,被告京都市は同月1日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4  被告らは,原告Dに対し,連帯して200万円及びこれに対する被告国は平成19年2月2日から,被告京都市は同月1日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要等

1  事案の要旨

本件は,京都市において開催されたいわゆるタウンミーティングに参加申込みをした原告らが,同タウンミーティングを主催した被告国及び共催者である被告京都市に対し,被告らによる不正な抽選により落選したことで,タウンミーティングに参加し意見を述べる権利を侵害されたとして,又,被告京都市によって原告A及び原告Bがその個人情報を開示されたことからプライバシー等を侵害されたとして,国家賠償法1条1項に基づき,慰謝料200万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(被告国については平成19年2月2日,被告京都市については同月1日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事案である。

2  争いのない事実等(以下,特に断らない限り,月日は平成17年のものである。)

(1)  タウンミーティングについて

タウンミーティングは,内閣の閣僚等が,内閣の重要課題について広く国民から意見を聞き,また,国民に直接語りかけることにより,内閣と国民との対話を促進することを目的として,平成13年度に,小泉純一郎元内閣総理大臣(以下「小泉元首相」という。)を首長とする内閣(以下「小泉内閣」という。)の下で始まった事業である(平成13年6月から同18年9月まで174回開催)。

タウンミーティングの運営は,内閣府大臣官房タウンミーティング担当室(以下「TM室」という。)が中心となり,開催地の地方公共団体等の協力を得て実施され,開催テーマに応じ,関係省庁との連携も行われた。

また,タウンミーティングの開催に当たって,内閣府は,業者とタウンミーティング運営業務の請負契約を締結し,その運営を業者に発注してきた(乙A15,22)。

(2)  「小泉内閣の国民対話 文化力タウンミーティングイン京都」(以下「文化力TMイン京都」という。)開催に至る経緯について

ア TM室は,平成17年の夏ころ,集中的にタウンミーティングを開催することを企画し,7月15日,「親子タウンミーティング」シリーズの開催を公表した。「親子タウンミーティング」は,子供の夏休み期間を利用して,小学校5年生から高校生までの子供とその保護者が参加するもので,「文化力」,「日本21世紀ビジョン」,「地球環境」及び「科学技術」をテーマとして,4回にわたって開催し,「文化力」に関しては8月18日に京都市において開催されることが予定されていた(乙A1,22,乙B14,弁論の全趣旨)。

イ TM室は,7月21日,文化力TMイン京都の開催概要及び参加者募集の案内を公表した(乙A2,22)。そこには,募集対象・人員として,「(対象:小学5年生〜高校生)(高校生以外は保護者同伴)(子どもと保護者あわせて200名程度)」とされ,また,応募方法に関して,「なお,応募者多数の場合は,抽選を行い,参加証の発送をもって当選者の発表に代えさせていただきます。」とされていた。

ウ 7月22日から8月10日までの間,文化力TMイン京都の参加者の募集が行われ,原告らは,この間に参加申込みをした。

エ 8月8日,衆議院が解散されたことから,同月18日に開催が予定されていた文化力TMイン京都は延期されることとなり,参加申込者に対し,その旨の通知がなされた。

オ TM室は,文化力TMイン京都について,11月27日の開催を目指すこととし,同月7日,京都市教育委員会との共催を決定し,同月11日,同月27日に京都市において文化力TMイン京都を開催することを公表した。その際,参加者の募集期間を同月11日から21日までとして,新たな参加者を募るとともに,7月22日から8月10日までの間に参加申込みをした者に対し,開催案内を送付した(乙A3,4,5,22,乙B11)。

カ その後,TM室は,京都市教育委員会からの要請を踏まえ,参加者の募集期間を11月22日まで延期した。

キ TM室は,11月22日,原告Aの応募受付番号(1065)及び原告Bの応募受付番号(1069)の末尾の数字である「5」及び「9」のほか,「7」を抽選における落選予定数字の中に入れる方法で抽選を実施し(以下「本件抽選」という場合がある。),同月23日,抽選当選者に対して参加証を,抽選落選者に対して落選通知をそれぞれ発送した(乙A11,12,22)。

ク その結果,原告A及び原告Bは,抽選に外れ,また,原告Cの応募受付番号は1005であり,原告Dの応募受付番号は1077であったことから,同原告らも抽選に外れ,文化力TMイン京都に参加できなかった。

ケ 文化力TMイン京都は,11月27日に開催された。

3  争点とこれに関する当事者の主張

(1)  抽選の経緯

(原告らの主張)

被告らが,原告A及び原告Bの落選を目的として,不正に本件抽選を行った経緯は次のとおりである。

ア 京都市教育委員会のEは,10月5日,TM室のFに対し,「かつてG(文化庁)長官(以下「G長官」という。)が出席したイベントで,大声を出したり,進行妨害をしたため,警察官を関与させることになった者が応募している可能性があるので,応募者のリストを確認したい。」と要請した。

イ これを受け,Fは,Eに対し,7月22日から8月10日までの募集期間に申込みがあった応募者リスト(乙A7)を送付した。Eは,上記応募者リストをチェックし,そこに原告Aと原告Bの名前があるのに気が付いたことから,10月下旬ころ,Fに対し,「これまで注意喚起していた,G長官の出席したイベントにおいて会場内でプラカードを掲げ,指名されなくても大声を発するなどし,進行の妨害をしたため,警察官を関与させることになった者というのは,Aさんであり,Bさんもその関係者である。」と連絡するとともに,原告Aについて,「過去にも同様の抗議活動をしている,G長官の出席したイベントでの騒ぎの中心人物である。」と伝えた。

ウ Eは,11月上旬ころ,Fに対し,「応募者が多くて抽選となった場合には,会場内で抗議活動等トラブルを起こす可能性のあるAさんとBさんを落選とすることとしたい。」と伝え,この両名を文化力TMイン京都に参加させないよう要請した。これを受けて,Fは,11月22日の昼ころ,TM室のH室長,I参事官と相談した上で,原告Aと原告Bを抽選で落選とさせることを決定し,その結果,原告Aの応募受付番号(1065)及び原告Bの応募受付番号(1069)の末尾の数字である「5」及び「9」を本件抽選における落選数字とし,同原告らを作為的に落選させた。

原告Cは,応募受付番号が1005であったことから,同様に落選した。

エ 原告Dは,従来から,甲市民会議のメンバーらとともに,再三,京都市教育委員会への申入れや,交渉などに参加しており,その際,自己の氏名を名のっていたことから,京都市教育委員会は,原告Dの氏名を把握していたといえ,文化力TMイン京都への応募者リストの中に,原告Dの氏名があることに気が付いたはずである。そうすると,Fが,落選番号とした「7」という数字についても,原告Dの応募受付番号が1077であったことから,原告Dの文化力TMイン京都への参加を阻止するために,選ばれた数字である疑いがある。

(被告京都市の主張)

被告京都市は,次のとおり,本件抽選には関与しておらず,被告国の判断により本件抽選が行われた。

ア Eは,10月5日,Fに対し,「かつてG長官が出席したイベントで,大声を出したり,進行妨害をしたため,警察官を関与させることになった者が応募している可能性があるので,応募者のリストを確認したい。」と要請したことはない。Eは,文化力TMイン京都が実施されることを,会場周辺地域に重点的に周知する手だてを講じていたところ,その手だてにより,どのくらいの応募があったのかを把握するためや,応募者数が定員を下回った場合に追加周知をするために,Fに対し,応募者数,住所等の「応募状況のわかるもの」を求めたにすぎないのであって,参加者決定に当たって,応募者リストを送付するよう依頼していない。また,Eは,追加周知の必要性を判断するために「応募状況のわかるもの」を求めたのであり,応募者をチェックするために求めたものでもない。

イ Eは,10月下旬ころ,Fに対し,「これまで注意喚起していた,G長官の出席したイベントにおいて会場内でプラカードを掲げ,指名されなくても大声を発するなどし,進行の妨害をしたため,警察官を関与させることになった者というのは,Aさんであり,Bさんもその関係者である。」と連絡したことや,11月上旬ころ,Fに対し,「応募者が多くて抽選となった場合には,会場内で抗議活動等トラブルを起こす可能性のあるAさんとBさんを落選とすることとしたい。」と伝え,この両名を文化力TMイン京都に参加させないよう要請したことはない。EがFに報告した内容は,「京都市教育委員会主催の過去の事業において,会場内でプラカードを掲げ,指名されなくても大声を発するなどの行為におよび,会場が混乱したため,京都市職員により排除され,その後,警察の事情聴取を受けた団体があるが,A氏はこの団体の関係者である。」という趣旨のものであり,事実に反する報告を行っておらず,原告Bについても,原告Bが原告Aの関係者である旨を,具体的には,「原告Bが原告Aの夫であると思われる。ただし,現在も夫であるかまではわからない。」と伝えたにすぎない。また,Eは,Fに対し,原告A及び原告Bを文化力TMイン京都に参加させないように,情報を提供したことはないし,同原告らを文化力TMイン京都に参加させないよう要請したこともない。

ウ Eは,本件抽選当時,原告Dが,甲市民会議の関係者であることを知らなかったのであるから,Fに対し,原告Dを文化力TMイン京都に参加させないよう働きかけたことはない。

(被告国の主張)

ア 10月5日,Eから,「かつてG長官が出席したイベントで,大声を出したり,進行妨害をしたため,警察官を関与させることになった者が応募している可能性があるので,応募者のリストを確認したい。」と要求され,応募者リストを送ったものである。

イ 10月下旬ころ,Eから,「これまで注意喚起していた,G長官の出席したイベントにおいて会場内でプラカードを掲げ,指名されなくても大声を発するなどし,進行の妨害をしたため,警察官を関与させることになった者というのは,Aさんであり,Bさんもその関係者である。」と連絡を受け,その際,原告Bが原告Aの元夫であると説明された。

ウ 11月上旬ころ,Eから,「応募者が多くて抽選となった場合には,会場内で抗議活動等トラブルを起こす可能性のあるAさんとBさんを落選とすることとしたい。」と伝えられた。

(2)  本件抽選の必要性

(原告らの主張)

京都市教育委員会が,次のとおり,不正な方法で多くの者を参加させることがなければ,本件抽選の必要はなく,原告らは,いずれも,文化力TMイン京都に参加できた。

ア 文化力TMイン京都の「ホール内座席レイアウト図」(乙A20)によれば,総座席数は220席とされているが,関係者席として30席,記者席12席,手話通訳席4席,親子席6席,車椅子席6席,警察席2席,児童出演者席77席がとられ,一般席は83席しか残されておらず,さらに,この一般席には,事前に発言を依頼した5人のために,保護者や友人らの席を含めて9席がとられている。結局,一般席としては74席しか残っていなかった。

イ 文化力TMイン京都の参加申込者数は277名であったが,そのうち46名は,京都市教育委員会による「教委ダミー」であり,また,京都市教育委員会が「当選」「一応当選に」と指示して,無理矢理参加を認めさせたものが78名もいたほか,一般の参加申込みとされている者の中にも,乙小の生花関係者6名,丙小関係者8名,事前に発言依頼をした子供や保護者・友人ら11名,市教委関係者2名とその家族など,少なく見積もっても30名近くが,京都市教育委員会により動員された。これらの動員がなければ,原告らは,いずれも,文化力TMイン京都に参加できた。

ウ 上記のとおり,京都市教育委員会が指示した「教委ダミー」46名,「当選」「一応当選に」された者78名,乙小の生花関係者6名,丙小関係者8名,事前に発言依頼をした子供や保護者ら30名近くの者を除けば,文化力TMイン京都の一般の応募者は,120名以下であった。そうすると,被告国の「過去のタウンミーティングの経験等から,当選者のうち実際に来場する歩留まり率を7割と考えていた」という主張を前提としても,想定していた一般座席数は約100席であるから,約140名までの申込みであれば,抽選を行わずに,全員に参加証を送ることができた。

エ また,そもそも,文化力TMイン京都の参加応募者数は,7月22日から8月10日までの間における申込みの段階で,既に143名になっており,これ以上,新たな応募者を募集する必要はなく,仮に,追加募集する必要があるとしても,当初の募集期間中に応募した者については,参加が認められるべきであった。

(被告国の主張)

次のとおり,文化力TMイン京都の会場の規模及び応募状況等を踏まえれば,その参加者を応募者の中から抽選で選んだことには合理性があり,抽選を行ったこと自体が国賠法上違法であるとの原告らの主張は,その前提を欠くものである。

ア 関係者席確保の必要性について

文化力TMイン京都に限らず,タウンミーティングにおいては,総座席数のうち,一定数の関係者席を確保する必要があるが,その席数は流動的であり,直前まで変動することがある。これに加え,文化力TMイン京都においては,京都の郷土文化等に興味又は関心を持ち,理解を深めていくために必要なイベントを行うとともに,子供たちと文化の関わり方等について,率直な意見交換を行うことを目的にしていたことから,そのようなイベントが多数開催される予定であり(「太鼓」「踊り」「お花」「お茶」の4種類),通常想定される閣僚随行者,TM室関係者,記者等の関係者席以外にも,イベント関係者席の確保が必要な状況にあった。

イ 抽選を行ったFは,次のとおり,当選率を設定する時点で把握しあるいは想定していた座席数等の事情を前提に計算をし,当選率を7割として抽選を実施する必要があると判断したものであり,そのように抽選を行うことの判断自体は合理的かつ適切なものであった。

(ア) 11月22日午前の時点について

Fは,11月22日午前の時点で,本件抽選の必要性の有無を判断しているところ,次のとおり,同時点において,本件抽選の必要性が認められた。

a 11月22日午前の時点では,Fは,「当選」「一応当選に」指定された78名,教委ダミーとされた46名,事前に発言を依頼した子供や保護者・友人ら11名の合計135名については,関係者(一般応募者以外の応募者)とは判断できなかった。なぜなら,「当選」,「一応当選に」指定及び「教委ダミー」については,同日午後8時41分に被告京都市から連絡があるまで,Fが,これらを把握することは不可能であったし(乙A9),「事前に発言を依頼した子供や保護者・友人ら」については,同月24日午前10時13分に被告京都市側から連絡があるまで,Fが,これを把握することは不可能であった(乙A13)からである。

したがって,Fが,同月22日午前の時点において,参加申込者(一般応募者)の中で関係者と判断できた者の数は,その時点での応募者リスト(乙A19)に記載のあった「太鼓関係者」32名及び「お花関係者」8名に限られる。なお,原告らは,参加申込者数を277名としているが,同時点においてFが把握していた参加申込者数は,前日である同日21日午後6時に送られてきたリスト(乙A19)に記載のある263名である。

b 上記リストは重複チェック前のものであったため,過去の他のタウンミーティングにおける経験等から,10名前後の重複者が想定されたため,一般応募者数263名から,重複が見込まれる者10名を控除する必要があったほか,Fは,過去の他のタウンミーティングにおける経験等から,当選者のうち実際に来場する歩留まり率を7割に設定した。

c 上記事情からすると,11月22日午前の時点において,Fが認識していた一般応募者数は,263名から,重複見込み10名,「太鼓関係者」32名及び「お花関係者」8名を控除した213名であるから,想定一般座席数が約100席であることを前提とすれば,歩留まり率を7割を考慮しても,抽選の必要性が認められた。

(イ) 11月22日深夜の時点について

11月22日午後6時48分に,タウンミーティング事務局から「京都会場参加申込者重複チェック済リスト」(乙A8)が,また,同日午後8時41分に,Eから「タウンミーティング参加者リスト確認後のデータ」(乙A9)がそれぞれ提出されており,Fは,同時点において,新たな参加申込者やイベント関係者等を把握しているが,次のとおり,同日深夜(午後8時41分以降)時点においても,本件抽選の必要性が認められた。

a 「タウンミーティング参加者リスト確認後のデータ」(乙A9)により,Fは,同日午後8時41分の時点において,京都市教育委員会が,別枠として参加枠の確保を求めていた41名(「丁小学校分」26名及び「乙小学校分(お花)」15名)のほか,「当選」指定74名,「一応当選に」4名,丁小の生花関係者6名の計84名を関係者と判断できた。なお,上記(ア)a記載の太鼓関係者32名については,全員「当選」の中に含まれており,また,「お花関係者」8名については,うち2名(応募受付番号044)が「当選」の中に含まれている。

「事前に発言を依頼した子供や保護者・友人ら」の11名について,Fは,同日深夜の時点において,関係者と判断することは不可能であったことは上記(ア)aのとおりである。

b TM室は,当初,「閣僚随行者,TM室関係者及び記者等」席を30席,「イベント関係者」席を80席,抽選の対象となる「その他の席」を100席準備することを想定していたところ,上記のとおり,11月22日深夜の時点において,イベント関係者席は「別枠(丁小学校(踊り)の関係者)」26名,「別枠(乙小学校(お花)の関係者)」15名,「『当選』指定(太鼓関係者)」32名,「『当選』指定(お花関係者)」4名及び「乙小学校(お花)の関係者」6名の計83名が使用すると見込まれたのであるが,これは,当初予定していたイベント関係者用の80席にほぼ見合う数字であった。

したがって,当初100席準備することとしていた「その他の席」に,「太鼓関係者」及び「お花関係者」以外の関係者である,「当選」ないし「一応当選に」の指定を受けた者のうちの42名を着席させることとなると見込まれた(乙A9)のであり,そうすると,座席を10席増設して総座席数を220席としても,一般参加者用に割り当てることが可能と見込まれる席数は68席であった。

c 一方,一般参加申込数は,参加申込者277名から,上記関係者84名,「教委ダミー」46名及びキャンセル2名を控除した145名であり,一般参加申込数145名の出席歩留まり率を7割と想定すれば,出席者数は102名となる。

d したがって,出席者数は102名となり,一般参加者用に割り当てることが可能と見込まれる座席数は68席となるから,抽選を実施する必要があることは明らかであり,この場合の抽選率は66.7%となる。

(3)  原告らの文化力TMイン京都に参加し意見を述べる権利に対する侵害の有無(原告らに共通)

(原告らの主張)

ア 原告らの,文化力TMイン京都に参加し意見を述べる権利は,参加者が直接国政に参加し,その「生命,自由,幸福追求」に対する権利を実現させ,また,自らの国政に対する意見を表明したり,閣僚や他の参加者の意見を聞いて国政の動きを理解する権利(参政権又は表現の自由)を実現させる上で重要な権利として,表現の自由(憲法21条1項),「生命,自由,幸福追求」に対する権利(憲法13条)により保障されている。

(ア) タウンミーティングは,小泉元首相が,平成13年5月7日の所信表明演説において,「私は,積極的な「国民との対話」を通じて,国民の協力と支援の下に,新しい社会,新しい未来を創造していく作業に着手します。関係閣僚などが出席するタウンミーティングを,すべての都道府県において半年以内に実施し,また,「小泉内閣メールマガジン」を発刊します。こうした対話を通じ,国民が政策形成に参加する機運を盛り上げていきたいと思います。」と述べて,国民に開催を約束したものである。

(イ) 被告国がいったん文化力TMイン京都の開催を決定し,参加者を募集した以上は,参加希望者は上記(ア)を実現できるという「期待権」を有しているというべきである。

イ 次のとおり,被告国は,文化力TMイン京都の参加応募者名簿を京都市教育委員会に送り,「問題のある人物」の有無を京都市教育委員会にチェックさせた上で,京都市教育委員会の報告に基づき,原告A及び同原告と「関係のある者」として原告Bを落選させるために不正な抽選を行い,被告京都市は,一般公募の条件を無視し,これとは「別枠」に多数の参加者を動員し,抽選の必要性を作出し,被告国(内閣府)から送られてきた応募者名簿をチェックし,原告A及び原告Bに関する虚偽の報告をして,同原告らを「文化力TMイン京都」に参加させないよう内閣府に要請することで,内閣府をして不正な抽選を行わしめ,故意(又は少なくとも過失)により,違法に原告らの文化力TMイン京都に参加し,発言する機会を奪った。このような被告らの行為は,原告らの憲法で保障された「生命,自由,幸福追求」に対する権利(13条),表現の自由(21条1項)及び平等権(14条1項)を侵害するものである。

(被告国の主張)

国家賠償法上の違法性は,公務員が個々の国民に対する職務上の義務に反して法的に保護された権利ないし利益を侵害する場合に認められるものであるところ,原告らの主張する,文化力TMイン京都に参加し意見を述べる権利は,そもそも,法的に保護された権利ないしは利益とは認められないから,そのような不確実な利益を,国賠法上の違法性を基礎づける「被侵害利益」と解することはできない。

ア 被告国は,個々の国民に対し,タウンミーティングを開催しなければならない義務や開催したタウンミーティングに出席させる義務を負うものではない。しかも,被告国は,文化力TMイン京都実施の公表段階から,応募者多数の場合には抽選の可能性がある旨を明確に表示していたのであるから(乙A2,3,5),そもそも,応募者全員が文化力TMイン京都に参加した上で,会場において自己の意見等を表明する機会が保障されていたものではない。したがって,原告らは「文化力TMイン京都に直接参加できる権利」を有していない。

イ 原告らが文化力TMイン京都に直接参加できなかったとしても,上記のとおり,もともと原告らに文化力TMイン京都に参加する機会が保障されていたわけではないから,文化力TMイン京都に参加,発言できなかったことをもって,原告らの表現の自由や幸福追求権が奪われたものと解することもできない。そもそも,タウンミーティングは,国民と政府との関係において広報と広聴の両機能を有しているものであり,その模様は内閣府のホームページにおいて動画配信され,議事要旨も公表されており,国民は,これらの情報を踏まえて各府省のホームページ上の「ご意見・ご感想」等の受付に意見表明をすることができるのであって,文化力TMイン京都に直接参加する機会を失ったことが直ちに政府への意見表明の機会を奪うことにはならない。したがって,原告らの主張する憲法13条や21条1項で保障された権利の侵害が問題となる余地はない。

ウ 小泉元首相の所信表明演説における発言は,個々の国民に対し,タウンミーティングに参加できるといった法的権利を付与するものではない。

エ 被告らは,個々の国民に対して,タウンミーティングを開催しなければならない義務を負うものではなく,原告らが主張するような期待権が認められる法的根拠はない。しかも,文化力TMイン京都において抽選の必要性が認められたことは,上記のとおりであり,原告らの主張する期待権なるものは,諸権利を実現できたかもしれない(文化力TMイン京都に参加できたかもしれない)可能性という不確実な利益にすぎない。

オ 上記のとおり,原告らには,タウンミーティングに参加する権利が保障されておらず,国家賠償法上保護されるべき権利が認められない以上,文化力TMイン京都の参加者の抽選において,不適切な取扱いがなされたとしても,憲法14条に違反したり,原告らに,国家賠償法上,金銭をもって償うべき損害が生じたということはできない。

(被告京都市の主張)

被告京都市は,(1)における被告京都市の主張のとおり,本件抽選には関与しておらず,被告国の判断により本件抽選が行われたのであるから,原告らが主張する権利を侵害していない。

(4)  京都市教育委員会が,原告A及び原告Bに関する情報をTM室に伝えたことが,プライバシー等の侵害に該当するか(原告A及び原告Bに対する権利侵害)

(原告らの主張)

ア 京都市教育委員会は,原告A及び原告Bを文化力TMイン京都に参加させないように,TM室に対し,次の情報を伝えた。

(ア) 原告Aは,甲市民会議のメンバーであり,この市民会議は,道徳教育,教育基本法改正や日の丸・君が代等への反対運動を繰り返しており,G長官を道徳教育推進の中心人物であるとし,G長官が道徳向けの副教材「心のノート」作成会議の座長でもあったことから,度々抗議行動をし,G長官が座長を務める「京都市道徳教育振興市民会議」の謝金に関する住民監査請求を実施している(以下「個人情報①」という。)。

(イ) 原告Aは,上記市民会議の中心メンバーであり,京都市教育相談総合センターでの開館1周年イベント(平成16年6月開催,G長官が出席)において,会場内でプラカードを掲げ,指名されなくても大声を発するなどしたため,会場が騒然とし,混乱したことにより,警察まで動員して退場させた(以下「個人情報②」という。)。

(ウ) 文化力TMイン京都においても,原告Aが来場した場合,G長官に対し,強い抗議行動を実施するものと思われ,京都市教育委員会や内閣府に対し,タウンミーティングの運営や経費等について,後日,情報公開請求等を行って,批判してくる可能性がある(以下「個人情報③」という。)。

(エ) 原告Bは,原告Aの元夫であり,民族差別を訴える本に名前が出ており,また,在日本大韓民国民団の支団長である(以下「個人情報④」という。)。

イ 京都市教育委員会が内閣府に伝えた上記情報は,そのうち(イ)はすべて虚偽の情報であり,(エ)についても,原告Bが,原告Aの元夫という部分や,在日本大韓民国民団の支団長であるという部分など,虚偽の事実が含まれていた上に,甲市民会議の活動内容や,原告Aの市民としての活動内容に関する事項であるから,京都市教育委員会は,原告Aの思想・信条を理由に原告Aの文化力TMイン京都への参加を阻止しようとしたといえ,このような京都市教育委員会の行為は,憲法19条に違反する。

また,京都市教育委員会が,住民監査請求や情報公開請求など市民の権利として法的に認められた行為を嫌悪して,原告Aを文化力TMイン京都に参加させないように要求したことは,原告Aの思想・信条の自由(憲法19条)及び表現の自由(同21条1項)を侵害する。

さらに,原告Aがある団体のメンバーであることや上記のイベントでの行動(報告内容は真実ではないが),原告Bが原告Aと「関係のある者」であることなどは,原告A及び原告Bの純然たる個人情報であるから,何らの正当な目的,手続きによらず,当事者に無断で,このような情報を入手したり,他人に知らせることは,プライバシーの侵害として,憲法13条に違反する。

(被告京都市の主張)

被告京都市は,原告A及び原告Bのプライバシー等を侵害していない。

ア 上記(1)における被告京都市の主張のとおり,EのFに対する報告の内容は,「京都市教育委員会主催の過去の事業において,会場内でプラカードを掲げ,指名されなくても大声を発するなどの行為におよび,会場が混乱したため,京都市職員により排除され,その後,警察の事情聴取を受けた団体があるが,A氏はこの団体の関係者である。」という趣旨のものであるから,Eは,事実に反する報告を行っていない。

そして,次のとおり,上記Eの報告は,原告Aのプライバシーを侵害するものではない。

(ア) EがFに伝えた情報は,共催者である京都市教育委員会が事業の円滑な運営のために主催者である内閣府に提供すべき事実であるから,原告Aのプライバシー権を侵害することにはならない。

(イ) 京都市教育委員会主催の過去の事業において,会場内でプラカードを掲げ,指名されなくても大声を発するなどの行為は,会場内という公共の場における多数の聴衆の面前におけるものであり,私生活上の事実に該当しないし,公共の場における多数の聴衆の面前での行為であるから,周知のものでもある。また,甲市民会議は社会的活動を行っており,原告Aが同団体の関係者であることは,同団体のホームページで明らかにされている事実であるから,このような事実は,原告Aの私生活上の事実でなく,また,周知の事実でもある。

(ウ) 原告Aは,J内閣府大臣官房長の発言や報告書が発表された直後に,自ら,「自分が当該団体の関係者である。」旨を新聞社に連絡し,テレビカメラの前で記者会見に参加していることから,原告Aが甲市民会議の関係者であることが他人に知られたとしても,これにより,原告Aの私生活上の平穏が害されるようなことはない。

(エ) Eによる原告A及び原告Bに関する情報の開示は,その相手方がTM室の担当者であるFに限られており,TM室から他に伝播する可能性はない。

(オ) 文化力TMイン京都の参加者の半数は子供が予定されていたこと,K文部科学大臣やG長官の出席が予定されていたことからすると,このような文化力TMイン京都が開催される会場において,会場内でプラカードを掲げ,指名されなくても大声を発するなどの行為が行われれば,子供たちが困惑し,ショックを受け,会場が混乱することとなり,このような事態が発生することのないような対応や要人警護のための対応を求める目的のために,Eは本件情報を開示した。

イ 京都市教育委員会は,TM室に対し,原告Aに関する情報を単に伝えたにすぎず,原告Aの文化力TMイン京都への参加を阻止しようとしていたことはない。

ウ 上記(1)における被告京都市の主張のとおり,Eは,Fに対し,「原告Bが原告Aの夫であると思われる。ただし,現在も夫であるかまではわからない。」と伝えたにすぎない。原告Aと原告Bが関係者であることなどは,出版物(乙B7)により明らかにされている事柄であり,京都市教育委員会は,原告A及び原告Bに無断で,同原告らの身辺調査を行っていない。

なお,原告Aや同原告が所属する甲市民会議は,京都市教育委員会の活動や行事に対し,種々の抗議行動などを行っているから,これらの抗議行動に対処したり,これらの抗議行動についての話を聞いたりしていた京都市教育委員会の職員は,原告Aのことを知っていた。そして,Eは,原告Aらに関する記述がある著書の存在について,京都市教育委員会の中での職員同士の会話により承知していた。

第3争点に対する判断

1  争点(1)(抽選に至る経緯)について

(1)  本件の事実経過のうち,本件抽選に至る経緯について,原告ら及び被告国の主張と被告京都市の主張とが対立している。すなわち,被告京都市は,①文化力TMイン京都が実施されることを,会場周辺地域に重点的に周知する手だてを講じていたことから,どのくらいの応募があったのかを把握するためや,応募者数が定員を下回った場合に追加周知をするために,10月5日,Fに対し,応募者数,住所等の「応募状況のわかるもの」を求めたにすぎないのであり,「かつてG長官が出席したイベントで,大声を出したり,進行妨害をしたため,警察官を関与させることになった者が応募している可能性があるので,応募者のリストを確認したい。」と要請したことはない,②10月下旬ころ,Fに対し,「これまで注意喚起していた,G長官の出席したイベントにおいて会場内でプラカードを掲げ,指名されなくても大声を発するなどし,進行の妨害をしたため,警察官を関与させることになった者というのは,Aさんであり,Bさんもその関係者である。」と連絡したことや,11月上旬ころ,Fに対し,「応募者が多くて抽選となった場合には,会場内で抗議活動等トラブルを起こす可能性のあるAさんとBさんを落選とすることとしたい。」と伝えたことはなく,Fに報告した内容は,「京都市教育委員会主催の過去の事業において,会場内でプラカードを掲げ,指名されなくても大声を発するなどの行為におよび,会場が混乱したため,京都市職員により排除され,その後,警察の事情聴取を受けた団体があるが,A氏はこの団体の関係者である。」という趣旨のものであり,原告Bについても,「原告Bが原告Aの夫であると思われる。ただし,現在も夫であるかまではわからない。」と伝えたにすぎないと主張し,証人Eは,被告京都市の上記主張に沿う証言をし,同趣旨の陳述書(乙B14)を提出している(以下「証人Eの証言等」という。)。

一方,被告国は,①10月5日,Eから,「かつてG長官が出席したイベントで,大声を出したり,進行妨害をしたため,警察官を関与させることになった者が応募している可能性があるので,応募者のリストを確認したい。」と要求され,応募者リストを送った,②10月下旬ころ,Eから,「これまで注意喚起していた,G長官の出席したイベントにおいて会場内でプラカードを掲げ,指名されなくても大声を発するなどし,進行の妨害をしたため,警察官を関与させることになった者というのは,Aさんであり,Bさんもその関係者である。」と連絡を受け,その際,原告Bが原告Aの元夫であると説明された,③11月上旬ころ,Eから,「応募者が多くて抽選となった場合には,会場内で抗議活動等トラブルを起こす可能性のあるAさんとBさんを落選とすることとしたい。」と伝えられたと主張し,証人Fは,被告国の上記主張に沿う証言をし,同趣旨の陳述書(乙A22)を提出している(以下「証人Fの証言等」という。)。

原告らも被告国とほぼ同じ主張をしている。そこで,上記各証言の信用性について検討することとする。

(2)ア  内閣府法令遵守対応室法令参与・弁護士L及び内閣府大臣官房付・弁護士M(以下「L参与ら」という。)は,平成18年12月5日及び8日にかけて,Eに対し,本件抽選に関するヒヤリング調査を行ったところ,Eは,L参与らに対し,G長官が出席したイベントにおいて,5,6人から成る団体が会場内でプラカードを掲げ,中には大声を出す人がおり,G長官の演説が妨害されたこと,団体の中には原告Aがおり,そのことはすぐにわかったこと,原告Bについては,原告Aの元夫であることなどをFに伝えたと述べた旨の陳述をしている(乙A21)ところ,証拠(乙A21)によれば,L参与らは,平成18年に内閣府に設置された「タウンミーティング調査委員会」の調査に関わり,本件抽選に関する調査に携わった者であり,公平な立場から,Eに対するヒアリングを実施したものと推測されるから,L参与らの陳述書の信用性は高いといえる。

イ  これに加え,証拠(甲1,乙A15,21,乙B14)によれば,タウンミーティング調査委員会が平成18年12月13日付けで作成した調査報告書(乙A15)には,EがFに対して,「参加応募者の中に,他のイベントにおいて,会場内でプラカードを掲げ,指名されなくても大声を発するなどしたことがある者及びその者と関係があるとみられる者が応募している。」旨の連絡をしたとの記載があるところ,L参与らは,同月11日,Eを含む京都市教育委員会関係者に対し,上記記載と同一の内容が記載された書面を提示して,間違いがないか確認し,京都市教育委員会関係者から,間違いないとの返答を受けたことが認められる。

ウ  そして,Fが,11月14日ころ,文化力TMイン京都に関係して作成した「TM京都の応募者について(取扱注意)」と題する書面には,原告Aに関する情報として,「A氏はこの市民会議の中心的メンバーであり,京都市教育相談総合相談センターでの開館1周年イベント…において,会場内でプラカードを掲げ,指名されなくても大声を発するなどした。」「今回のタウンミーティングでも,A氏が来場した場合,G長官に対する強い抗議行動を実施するものと思われる。」との記載があるほか,原告Bに関する情報として,黒塗り部分の後に「の元夫とされている。」との記載がある。

これらの証拠は,Fの証言等を基礎付けるものといえる。一方で,Eの証言等については,その信用性を妨げる証拠は存在するが,信用性を裏付ける客観的な証拠は見当たらない。

そうすると,Fの証言等は信用することができ,Eの証言等のうち,Fの証言等と相反する部分は,信用し難く,採用できない。

(3)  そこで,上記争いのない事実と証拠(甲1〜4の5,6,20,乙A3,6〜10,15,17〜24,乙B10,12,14,証人F,同E)及び弁論の全趣旨を総合すると,本件について次の事実が認められる。

ア TM室は,平成17年の夏ころ,集中的にタウンミーティングを開催することを企画し,7月15日,「親子タウンミーティング」シリーズの開催を公表した。「親子タウンミーティング」は,子供の夏休み期間を利用して,小学校5年生から高校生までの子供とその保護者が参加するもので,「文化力」,「日本21世紀ビジョン」,「地球環境」及び「科学技術」をテーマとして,4回にわたって開催し,「文化力」に関しては8月18日に京都市において開催されることが予定されていた。

イ TM室は,7月21日,文化力TMイン京都の開催概要及び参加者募集の案内を公表した。そこには,募集対象・人員として,(「対象:小学5年生〜高校生)(高校生以外は保護者同伴)(子どもと保護者あわせて200名程度)」とされ,また,応募方法に関して,「なお,応募者多数の場合は,抽選を行い,参加証の発送をもって当選者の発表に代えさせていただきます。」とされていた。

ウ Eは,8月1日,Fに対し,甲市民会議というグループの関係者が,G長官の出席した京都市教育相談総合センターの開館1周年記念イベントにおいて,会場内でプラカードを掲げ,指名されなくても大声を発するなど,進行の妨害を行ったため,警察官が関与するまでに至ったことがあったことから,同グループの関係者が,文化力TMイン京都に参加する可能性があると説明したほか,京都市教育委員会と上記関係者との間で,度々トラブルが生じていることを伝えた。

エ 7月22日から8月10日までの間,文化力TMイン京都の参加者の募集が行われ,原告らは,この間に参加申込みをした。

オ 8月8日,衆議院が解散されたことから,同月18日に開催が予定されていた文化力TMイン京都は延期されることとなり,参加申込者に対し,その旨の通知がなされた。

カ Eは,10月5日,Fに対し,かつてG長官が出席したイベントで,大声を出したり,進行妨害をしたため,警察官を関与させることになった者が応募している可能性があるので,応募者のリストを確認したいと要請した。Fは,小学生を含む子供が多数参加している狭い会場で,大声を出すなどして進行を妨害されたり,警察が関与するような事態になっては大変だと思い,主催者として,そのような者の参加の有無を把握し,場合によっては,警備を強化するなどの対策が必要となると考え,同日,Eに対し,7月22日から8月10日までの募集期間に申込みがあった応募者リスト(乙A7)を送付した。

キ Eは,10月下旬ころ,Fに対し,これまで注意喚起していた,G長官の出席したイベントにおいて会場内でプラカードを掲げ,指名されなくても大声を発するなどし,進行の妨害をしたため,警察官を関与させることになった者というのは,原告Aであり,原告Bもその関係者であると連絡した。その際,Eは,Fに対し,原告Aは,甲市民会議というグループの中心的メンバーであり,過去にも同様の抗議活動をしており,G長官の出席したイベントでの騒ぎの中心人物であること,甲市民会議というグループは,京都市道徳教育振興市民会議の謝金に関する住民監査請求をしたことなどを伝えた。また,この時,Eは,Fに対し,原告Bは,原告Aの元夫であると説明したほか,在日本大韓民国民団の支団長であると伝えた。

ク TM室は,文化力TMイン京都について,11月27日の開催を目指すこととし,同月7日,京都市教育委員会との共催を決定し,同月11日,同月27日に京都市において文化力TMイン京都を開催することを公表した。その際,参加者の募集期間を同月11日から21日までとして,新たな参加者を募るとともに,7月22日から8月10日までの間に参加申込みをした者に対し,開催案内を送付した。

ケ その後,TM室は,京都市教育委員会からの要請を踏まえ,参加者の募集期間を11月22日まで延期した。

コ Eは,11月上旬ころ,Fに対し,文化力TMイン京都の応募者が多数となり,抽選になった場合には,会場内で抗議活動等トラブルを起こす可能性のある原告A及び原告Bを落選させたいとの希望を伝えた。これを受け,Fは,Eら京都市教育委員会から提供された情報に加え,甲市民会議のホームページにG長官のイベントで抗議行動を行った旨が記載されていたことを確認するなど,自らインターネットなどを利用して情報を収集した上で,「TM京都の応募者について(取扱注意)」と題する書面(甲4の3・5,20)を作成し,同月14日,TM室の定例会議で,上記Eからの希望など,原告A及び原告Bに関する報告を行った。

サ Fは,同月21日夕方,同日までに集計した文化力TMイン京都の応募者数が約260名であることが判明したことから,会場の座席数を10席増やし,約210席にすることにした。

シ Fは,同月22日午前,事前に被告京都市から,開智童心太鼓・踊り・お花の関係者などイベント参加者の概数が約80名であるとの報告を受けていたことや,文部科学省,内閣府,京都市教育委員会関係者及び記者等の数を合わせると約30名に上ることから,約110席を関係者席として確保することを決め,総座席数210席から約110席を控除した約100席が一般参加者の席数に当たると考えた。

また,Fは,同月21日午後6時に受領していたリスト(乙A19)に「太鼓出演者」「乙小」と記載され,被告京都市から座席確保の要請を受けていた者の合計40名(「太鼓出演者」記載者32名,「乙小」記載者8名)を応募者数約260名から控除するとともに,過去の他のタウンミーティングにおける経験等から,10名前後の重複応募者が想定されたため,さらに10名を控除し,その結果,約210名を一般参加者数と想定した。そして,Fは,一般参加者数約210名について,当選率を70%とすれば,当選者は約150名となり,これに他のタウンミーティングの実績値である平均歩留まり率70%を乗ずれば,予想される一般参加者の来場数は約105名となることから,上記一般参加者の席数約100席とほぼ見合うと考えた。

ス その上で,Fは,同月22日昼ころ,抽選の要否について,TM室のH室長及びI参事官と相談し,原告A及び原告Bに関する京都市教育委員会からの要望を踏まえた上で,子供たちが参加するイベントにおいて,大声を発したりして,抗議活動が起これば,子供たちが萎縮して発言ができなくなるなどして,イベントが進められなくなるという事態を懸念し,TM室として,いずれにしても抽選をせざるを得ないのであれば,その抽選において,原告A及び原告Bを落選させることを決定した。

セ そこで,TM室は,原告Aの応募受付番号(1065)及び原告Bの応募受付番号(1069)の末尾の数字である「5」及び「9」のほか,ランダムに「7」を選んで,これらを落選予定数字の中に入れることにするとともに,Eに対し,現時点で抽選の必要性があると判断したこと,その抽選に当たって,原告A及び原告Bを落選させることを伝えた。

ソ 同日午後5時,文化力TMイン京都の応募が締め切られ,Fは,募集業務を請け負っていた業者から,同日午後6時6分ころ,同日時点での応募者リスト(乙A6)の送付を受けたところ,応募者は296名に上った。

タ その後,Fは,Eから,応募者中に必ず当選としたい者と文化力TMイン京都の参加証を発送する必要がない者がいるため,最終的な応募者リストを送って欲しいと要望されたことから,同日午後6時48分,Eに対し,最終的な応募者リスト(乙A7)を送付した。

また,同時刻,TM室には,上記請負業者から,重複チェック済の参加者リスト(277人)(乙A8)が送付された。

チ Eは,同月22日午後8時41分,Fに対し,Fが送付した上記リスト(乙A7)に「当選」「一応当選に」「教委ダミー」との記載を付したリスト(乙A9)を送付するとともに,「当選」「一応当選に」との記載がある者については,抽選で当選させることを希望し,「教委ダミー」との記載がある者は,名前を借りているだけで実際に参加しない者であるから,参加証発送の必要がないと説明した。

また,Eは,同日までに,Fに対し,丁小学校26名分及び乙小学校(お花)15名分について,一般参加者とは別枠で,席数確保して欲しい旨の連絡をした。

なお,上記シ記載の「太鼓出演者」32名については,全員「当選」の中に含まれており,また「お花関係者」8名(リスト(乙A19)に「乙小」と記載された者)については,うち2名(応募受付番号044)が「当選」の中に含まれていた。また,この時点までに,一般参加者2名のキャンセルが出ていた。

ツ 上記のとおり,同日午前から同日昼ころにかけての抽選の検討では,同月21日の応募者の集計結果を基に抽選を検討していたところ,同月22日分として追加された応募者は,いずれも「教委ダミー」との記載がある者であったことから,Fは,まず,同月21日の集計結果に基づいて,その応募受付番号の末尾が「5」「7」「9」の3つに該当する応募者(親子)を除外し,その上で,当選となった者のうち「教委ダミー」との記載がある応募者(親子)を除外する一方で,落選となった者のうち「当選」「一応当選に」との記載がある応募者(親子)及びこれ以外の「お花関係者」を当選扱いとして,最終的な当選者196名のリスト(乙A10)を作成した。

そして,Fは,上記196名から,既に関係者として席を確保していた「太鼓出演者」32名と「お花関係者」8又は10名を除外した結果,154名又は156名となり,この数字に歩留まり率7割を乗じると108名又は109名になったことから,これは,上記一般参加者の席数約100席とほぼ見合うと考えた。

テ その結果,Fは,同日昼ころの決定を変更する必要がないと判断し,同日の夜,抽選結果を示すリストを請負業者に送付した。

ト 文化力TMイン京都は同月27日に開催されたが,当日,甲市民会議のメンバーは,会場前でビラ配りを行ったり,ハンドマイクで抗議行動をしていたほか,文化力TMイン京都の終了後には,会場を出発する大臣専用車を囲んで,これに詰め寄るなどしていた。

(4)  以上のとおり,本件抽選に至る経緯は,ほぼ原告らの主張どおりであると認められる。

すなわち,文化力TMイン京都は,内閣の閣僚等が,内閣の重要課題について広く国民から意見を聞き,また,国民に直接語りかけることにより,内閣と国民との対話を促進することを目的とする事業の一環として行われたものであり,その応募方法に関して,応募者多数の場合は,抽選を行うと公表したにもかかわらず,E及びFは,抽選と称して,原告Aの応募受付番号(1065)及び原告Bの応募受付番号(1069)の末尾の数字である「5」及び「9」を選んで,これらを落選予定数字の中に入れることで,原告A及び原告Bを落選させたのであり,また,その前提として,Eは,Fに対し,G長官の出席したイベントにおいて会場内でプラカードを掲げ,指名されなくても大声を発するなどした者が,原告Aであることや,原告Bもその関係者であり,原告Aの元夫であるなど,同原告らに関する情報を伝えるなどしたものであると認められる。

そうすると,文化力TMイン京都は,その応募方法に関して,「応募者多数の場合は,抽選を行」うとうたいながら,実際には,無作為の抽選を行っていなかったことになり,被告らの行為には,公務の執行に対する信頼を傷つける点があったことは否定できない。

しかし,本件における原告らの国家賠償請求との関係では,原告らの権利ないしは利益が,国家賠償法上保護された利益といえるか,また,国家賠償法上違法と評価される程度の侵害があったといえるかについて,更に検討しなければならない。

そこで,上記認定事実を前提に,争点(2)よりも先に,争点(3)について判断することとし,①原告らを落選させる目的で作為的になされた本件抽選により,原告らが侵害されたと主張する,文化力TMイン京都に参加し意見を述べる権利は,国家賠償法上保護された利益といえるか,②本件抽選により国家賠償法上の違法と認められる程度の平等権侵害があったといえるかについて,以下,検討を加える。

2  争点(3)(原告らの文化力TMイン京都に参加し意見を述べる権利に対する侵害の有無)について

(1)  憲法21条,13条について

ア 原告らは,原告らの文化力TMイン京都に参加し意見を述べる権利は,参加者が直接国政に参加し,その「生命,自由,幸福追求」に対する権利を実現させ,また,自らの国政に対する意見を表明したり,閣僚や他の参加者の意見を聞いて国政の動きを理解する権利を実現させる上で重要な権利として,憲法21条1項,13条により保障されていると主張するので,まず,原告ら主張の権利が認められるか検討する。

憲法21条1項は,表現の自由,すなわち,人の内心における精神的作用を外部に公表する精神活動の自由を保障しているところ,右にいう表現の自由の保障とは,国民が内心における精神的作用を外部に公表することを公権力により妨げられないことを意味し,国民が,公権力に対し,内心における精神的作用を外部に公表するための機会の提供など,表現の自由をより実効化するための一定の作為を求めることができることまで意味するものではない。また,憲法13条についても,これは,国民の私生活上の自由が国家権力の行使に対して保護されるべきことを規定していると解されるのであって,公権力に対し,一定の作為を求めることができることまで保障するものでないことは,憲法21条1項と異ならない。

したがって,原告らが文化力TMイン京都に参加し意見を述べる権利は,憲法21条1項,13条により保障されているということはできない。

イ これに対し,原告らは,小泉元首相が所信表明演説において,国民にタウンミーティングの開催を約束したと主張するが,小泉元首相の所信表明演説における発言に,個々の国民にタウンミーティングに参加できる法的権利を付与するという効果を認めることはできない。

また,原告らは,被告国がいったん文化力TMイン京都の開催を決定し,参加者を募集した以上は,参加希望者は,文化力TMイン京都に参加し意見を述べる権利を実現できるという「期待権」を有しているというべきであると主張する。しかし,証拠(乙A2〜5)によれば,TM室は,7月21日に文化力TMイン京都の開催概要及び参加者募集の案内を公表した当初から,応募者多数の場合には抽選の可能性がある旨を表示していたことから明らかなとおり,文化力TMイン京都は参加希望者全員が参加できるものとして企画されたわけではなく,参加希望者の中で参加できない者が生ずることは当然の前提であったのであるから,原告らの主張する期待権は法的保護に値しないといわざるを得ない。

したがって,原告らの上記主張はいずれも理由がない。

(2)  憲法14条について

原告らは,①被告国が,原告A及び原告Bを落選させるために不正な抽選を行ったこと②被告京都市が,両原告を文化力TMイン京都に参加させないよう内閣府に要請することで,内閣府をして不正な抽選を行わしめたことは,原告らの平等権(憲法14条)を侵害すると主張するので,以下,検討する。

ア まず,原告C及び原告Dについては,被告らが意図して同原告らを落選させたと認めるに足りる証拠はないから,被告らの行為により同原告らの平等権が侵害されたという原告らの主張は理由がない。

イ 次に,原告A及び原告Bについて検討する。

上記争いのない事実等によれば,E及びFらは,原告Aの応募受付番号(1065) 及び原告Bの応募受付番号(1069)の末尾の数字である「5」及び「9」を選んで,これらを落選予定数字の中に入れることで,原告A及び原告Bを落選させたのであるから,同原告らは,他の応募者とは異なる取扱いを受けたといえる。しかし,上記(1)で判示したとおり,そもそも,同原告らが文化力TMイン京都に参加し意見を述べる権利は,憲法により認められているわけではなく,その余の事情を考慮しても,法的保護に値する利益ということはできない。しかも,上記認定事実によれば,E及びFらが同原告らを落選させたのは,同原告らの思想・信条等の精神的活動を直接の理由とするのではなく,甲市民会議というグループの関係者が,京都市教育相談総合センターの開館1周年記念イベントにおいて,会場内でプラカードを掲げるなどして,進行の妨害を行ったことがあったことを踏まえ,子供たちが参加する文化力TMイン京都において,大声を発したりして,抗議活動が起これば,子供たちが萎縮して発言ができなくなるなどすることで,イベントが進められなくなるという事態を回避するためであるから,結果的に原告Bに関する情報が間違っていたとしても,その目的自体は正当なものといえ,憲法14条が想定するような不合理な差別が行われたということもできない。

したがって,同原告らの上記主張は理由がない。

(3)  そうすると,原告らの同様の権利ないしは利益を前提とする争点(2)に関する原告らの主張は,その前提を欠くから,これを判断する必要はない。

3  争点(4)(京都市教育委員会が,原告A及び原告Bに関する情報をTM室に伝えたことが,権利侵害に該当するか)について

(1)  プライバシー権について

ア 原告Aについて

原告らは,京都市教育委員会が,個人情報①ないし同③をTM室に開示したことが,原告Aのプライバシーを侵害するとして,憲法13条に違反すると主張するので,以下,検討する。

(ア) プライバシー該当性について

プライバシー権とは,他人に知られたくない私生活上の事実又は情報をみだりに開示されない権利をいう。そして,個人情報①及び同②は,原告Aが所属する団体の活動内容や原告Aの同団体を通じた活動内容に関する情報であるところ,これらの情報については,その真偽の点をおくとしても,本人が,自己が欲しない他者にはみだりに開示されたくないと考えるのは自然なことであり,そのことへの期待は保護されるべきである。したがって,個人情報①及び同②は,原告Aのプライバシーに係る事実又は情報として法的保護の対象となるというべきである。

しかし,証人Fによれば,個人情報③はFないしEの意見・推測にすぎないところ,意見や推測については,原告Aの私生活上の事実又は情報ということはできない。したがって,個人情報③は,原告Aのプライバシーに係る事実又は情報ということはできず,法的保護の対象とならない。

(イ) プライバシー侵害の有無について

個人情報①及び②は,原告Aのプライバシーに係る事実又は情報として法的保護の対象となるというべきであるが,プライバシーに該当する情報を開示することがプライバシー侵害として不法行為を構成するためには,同情報が,一般人の感受性を基準にして私生活上の平穏を害するような態様で開示されることが必要であり,その判断に当たっては,プライバシーに該当する情報の内容,開示の目的やその態様等を総合的に考慮すべきである。

これを本件についてみるに,個人情報①及び同②は,原告Aが所属する団体の活動内容や原告Aの同団体を通じた活動内容に関する情報であるが,証拠(甲30〜33,証人F,原告A本人)によれば,甲市民会議の活動内容は,同団体のホームページで公開されていること,原告Aは,同団体が京都市道徳教育振興市民会議という団体宛に作成した文書に,甲市民会議の連絡先として,自己の名称及び電話番号を記載することを許可していることが認められる。これらの事実からすれば,原告Aは,自己が同団体の一員として,同団体を通じて活動していることなどを世間に伏せているわけではないから,個人情報①及び同②は,他者に知られたくないと感ずる程度が低い情報とするのが相当である。次に,上記認定事実によれば,EがFに対して原告Aに関する情報を開示したのは,文化力TMイン京都には,多数の子供や,G長官などの関係閣僚の出席が予定されていたため,京都市教育相談総合センターの開館1周年記念イベントにおいて生じたような事態が生ずれば,子供たちが困惑し,ショックを受け,会場が混乱することとなるため,このような事態が発生することのないような対応をTM室に求めるためであり,その目的は正当なものといえる。さらに,京都市教育委員会は,文化力TMイン京都の共催相手である被告国のTM室に対し,自己が保有していた情報を開示したのであるから,共催者の内部において情報を共有したにすぎないのであり,情報を外部に開示した場合とは態様を大きく異にする。また,本件全証拠を検討しても,被告京都市が相当性を逸脱するような方法・態様で個人情報①及び同②を収集したということもできない。

以上の諸事情を総合考慮すれば,個人情報①及び同②が,一般人の感受性を基準にして私生活上の平穏を害するような態様で開示されたということはできないから,京都市教育委員会がこれらをTM室に開示したことにより,原告Aのプライバシーが違法に侵害されたということはできず,原告らの上記主張は理由がない。

イ 原告Bについて

原告らは,京都市教育委員会が,個人情報④をTM室に開示したことが,原告Bのプライバシーを侵害するとして,憲法13条に違反すると主張するので,以下,検討する。

(ア) プライバシー該当性について

個人情報④は,真偽の点をおくとしても,原告Bの婚姻関係や同人の社会活動に係わる事項に関する情報であるところ,これらの情報については,本人が,自己が欲しない他者にはみだりに開示されたくないと考えるのは自然なことであり,そのことへの期待は保護されるべきである。したがって,個人情報④は,原告Bのプライバシーに係る事実又は情報として法的保護の対象となるというべきである。

(イ) プライバシー侵害の有無について

次に,プライバシー侵害の有無について検討するに,証拠(甲26,29,原告B本人,原告A本人)によれば,本件当時,原告Bは原告Aの夫であり,また,原告Bはかつて在日本大韓民国民団の支団長を務めたことはなかったのであるから,個人情報④は真実に反する情報であったと認められる。しかし,EがFに対して原告Bに関する情報を開示したのは,上記認定説示のとおり,文化力TMイン京都には,多数の子供や,G長官などの関係閣僚の出席が予定されていたため,京都市教育相談総合センターの開館1周年記念イベントにおいて生じたような事態が生ずれば,子供たちが困惑し,ショックを受け,会場が混乱することとなるため,このような事態が発生することのないような対応をTM室に求めるためであり,その目的自体は正当なものといえるし,文化力TMイン京都の共催者内部において情報を共有したにすぎないのであり,情報を外部に開示した場合とは態様を大きく異にする。また,本件全証拠を検討しても,被告京都市が相当性を逸脱するような方法・態様で個人情報④を収集したということもできない。

以上の諸事情を総合考慮すれば,個人情報④が,一般人の感受性を基準にして私生活上の平穏を害するような態様で開示されたということはできないから,京都市教育委員会がこれをTM室に開示したことにより,原告Bのプライバシーが違法に侵害されたということはできない。したがって,原告らの上記主張は理由がない。

(2)  憲法19条,21条1項について

原告らは,京都市教育委員会は,原告Aの思想・信条を理由に原告Aの文化力TMイン京都への参加を阻止しようとしたのであり,このような京都市教育委員会の行為は,憲法19条に違反すると主張する。しかし,上記認定説示のとおり,EがFに対して原告A及び原告Bに関する情報を開示したのは,同原告らの思想・信条等の精神的活動を直接の理由とするのではなく,甲市民会議というグループの関係者が,京都市教育相談総合センターの開館1周年記念イベントにおいて,会場内でプラカードを掲げるなどして,進行の妨害を行ったことがあったことを踏まえ,同様の事態が文化力TMイン京都において生じないように対応するためである。したがって,京都市教育委員会が,原告Aの思想・信条を理由に原告Aの文化力TMイン京都への参加を阻止しようとしたということはできない。

また,原告らは,京都市教育委員会が,住民監査請求や情報公開請求など市民の権利として法的に認められた行為を嫌悪して,原告Aを文化力TMイン京都に参加させないようにTM室に要求したことは,原告Aの思想・信条の自由(憲法19条)及び表現の自由(憲法21条1項)を侵害すると主張する。しかし,前判示のとおり,京都市教育委員会は,原告Aが住民監査請求や情報公開請求などをすることを嫌悪して,原告Aに関する情報をTM室に開示したということはできない。

したがって,原告らの上記主張はいずれも理由がない。

第4結論

よって,原告らの本件請求は,争点(2)について判断するまでもなく,理由がないから,いずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉川愼一 裁判官 上田卓哉 裁判官 森里紀之)

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