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京都地方裁判所 平成19年(ワ)2789号 判決 2009年9月07日

原告

株式会社X

被告

エイアイユーインシュアランスカンパニー

(エイアイユー保険株式会社)

主文

一  被告は、原告に対し、四九九万六八〇〇円及びこれに対する平成一九年二月二四日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、四九九万六八〇〇円及びこれに対する平成一八年六月一八日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が、衝突事故により原告所有の普通乗用自動車に損害が生じたとして、被告に対し、被告との間で締結していた上記自動車を被保険自動車とする車両保険契約に基づき、車両保険金四九九万六八〇〇円及びこれに対する上記契約の約款による保険金支払期限が経過した後である平成一八年六月一八日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

一  争いのない事実等

次の事実は、当事者間に争いがないか、証拠(後掲のもの)及び弁論の全趣旨により認めることができる。

(1)ア  原告は、石材保護剤塗布工事、石材さび除去工事、外装タイルのリフレッシュ工事等及びその関連ケミカル製品や機器類の販売等を事業内容とする株式会社である。

原告は、普通乗用自動車(ポルシェ「〔ナンバー省略〕」。以下「本件車両」という。)を所有していた(甲二)。

イ  被告は、火災保険、各種財産保険、自動車保険等を目的とする会社(会社設立の準拠法ニューヨーク州法)である。

(2)ア  原告は、平成一八年三月二二日、被告との間で、次のとおりの車両保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結した(甲七の一)。

(ア) 保険の種類 総合自動車保険

(イ) 保険期間 平成一八年三月二三日午後四時から平成一九年三月二三日午後四時まで

(ウ) 被保険自動車 本件車両

(エ) 被保険者 被保険自動車の所有者(原告)

(オ) 保険金額 七八五万円

イ  本件保険契約に適用される保険約款(以下「本件約款」という。)には次の定めがある(乙一)。

(ア) 第六章(車両条項)第一条

被告は、「衝突、接触、墜落、転覆、物の飛来、物の落下、火災、爆発、盗難、台風、こう水、高潮その他偶然な事故」によって被保険自動車に生じた損害に対して、この車両条項及び一般条項に従い、被保険者に保険金を支払う。

(イ) 第一章(一般条項)第一六条第四項

保険契約者、被保険者が、事故の状況等につき被告に通知する書面又は被告からの求めに応じて被告に提出した必要書類等(以下「本件約款第一章第一六条第四項所定の書類」という。)に故意に不実の記載をした場合には、被告は、保険金を支払わない。

(ウ) 第一章(一般条項)第二二条

被告は、被保険者が第一章第二一条第二項の手続をした日(同項所定の必要書類等を被告に提出した日)からその日を含めて三〇日以内に保険金を支払う。

(エ) 第六章(車両条項)第二条

被告は、保険契約者、被保険者の故意によって生じた損害に対しては、保険金を支払わない。

二  争点

(1)  衝突事故の発生

(原告の主張)

原告代表者は、平成一八年四月二七日午前〇時ころ、本件車両を運転し、京都市左京区静市野中町二の瀬橋付近(別紙図面一〔乙一六の一〕の写真撮影位置番号三ないし八の範囲付近)の道路を進行していたところ、上記場所において、本件車両を道路右側の山肌又は石垣等に衝突させた(以下、上記衝突事故を「本件事故」という。)。

(被告の主張)

原告の上記主張は否認する。

(2)  不実の申告

(被告の主張)

原告代表者は、平成一八年一二月一三日に行われた被告との面談調査において、本件事故の衝突場所として、別紙図面二(乙八)の②地点(電柱クラマ)と③地点(反射板A)の問の地点を指示し(乙一八の写真⑨、乙一九)、上記場所を本件事故の発生場所として申告した。また、原告代表者は、上記の面談調査の際、事故発生状況について、「何かに乗り上げたということはありません」と申告し、その旨記載した事故確認票(乙六)を被告に提出し、その後、平成一九年一月二五日に行われた面談調査において、同様の記載をした事故確認票Ⅱ(乙七)を被告に提出した。しかし、実は衝突場所や事故発生状況は上記申告とは異なるものであったのであり、原告代表者は、本件約款第一章第一六条第四項所定の書類に、故意に不実の記載をしたものである。したがって、被告は、本件約款の上記条項により、車両保険金の支払義務を負わない。

(原告の主張)

被告の上記主張のうち、原告代表者が被告に対して上記内容の申告をしたこと(ただし、事故発生場所については、ピンポイントで特定したものではなく、一定の範囲でこれを述べていたものである。)、上記の記載のある事故確認票を被告に提出したことは認め、その余は否認し争う。

(3)  原告代表者の故意による損害の拡大

(被告の主張)

仮に、本件事故が発生したことが認められる場合、原告代表者は、本件事故現場から約九キロメートルに渡って無理な走行を行った上、レッカー車に積載する時に、本件車両が引っ掛かる状態であったのに、JAFの担当者に対し、そのまま引っ張るように指示し、上記担当者においてそのままワイヤーで引っ張ったものであり、上記の無理な走行及び強引な積載によって、本件車両が著しく損傷し損害が拡大した。上記の拡大した損害は、原告代表者の故意によって生じたものであるから、被告は、本件約款第六章(車両条項)第二条により、保険金の支払義務がない(拡大した損害を含む全ての損害について、保険金請求を認めることは、信義則上も許容されるべきでない。)。

(原告の主張)

被告の上記主張のうち、本件車両の走行及びレッカー車への積載により本件車両が著しく損傷し損害が拡大したことは否認し、保険金支払義務がないとの主張は争う。

(4)  本件車両に生じた損害等

(原告の主張)

本件事故により、本件車両は、車両右前部(フード、照明及びバンパーを含む。)並びに右後方側面部を損傷し、本件車両には、修理代として四九九万五〇〇〇円及び牽引料として一八〇〇円の損害(合計四九九万六八〇〇円)が生じた。上記につき、本件保険契約に基づき被保険者に支払われる保険金は上記四九九万六八〇〇円である。

(被告の主張)

原告の上記主張は知らない。

(5)  本件約款第一章第二一条第二項所定の必要書類等の提出

(原告の主張)

原告は、遅くとも平成一八年五月一九日には、被告に対し、保険金請求書を含む本件約款第一章第二一条第二項所定の必要書類等を提出した。同年六月一八日は、上記提出日からその日を含めて三〇日が経過した後の日である。

(被告の主張)

原告の上記主張のうち、原告が被告に対して保険金請求書を提出したとの点は認め(ただし、提出した日は平成一八年五月三一日である。)、その余は否認する。

第三当裁判所の判断

一  前記第二の一の事実及び証拠(甲三ないし六、一一ないし一三、乙六、八ないし一四、一六ないし二五、証人A、原告代表者本人。後掲のもの。枝番のある書証につき枝番の記載のないものは各枝番を示す。)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1)  原告代表者(原告会社代表取締役)は、平成一八年四月二五日、出張先のロンドンから帰国し、同月二六日は、午前中に原告会社に出社し、以後社内で業務に従事した後、夕方に英会話学校へ行き、午後七時ころに原告会社に戻り、社内で知人であるB(以下「B」という。)に手伝ってもらい、仕事をしていた。

原告代表者は、同月二六日午後一一時ころ、本件車両でBを自宅(京都市左京区<以下省略>付近)まで送っていくことにし、本件車両を運転し、まず国道一号線に入り、そこから堀川通りを北上し、御薗橋を渡って鞍馬街道を北上し、同月二七日午前〇時前にB宅に到着した。

(2)  そして、原告代表者は、Bを降ろした後、本件車両を運転し、鞍馬街道を南下し、平成一八年四月二七日午前〇時ころ、京都市左京区<以下省略>の瀬橋付近(別紙図面一〔乙一六の一〕の写真撮影位置番号一ないし五の範囲付近)において、疲れから一瞬居眠りをし前方注視をしないまま進行した後、山の斜面が間近に迫っているのを認めたが、衝突を回避することができず、本件車両右前部及び右後方側面を道路右側の山の斜面又は石垣等(別紙図面二〔乙八〕の①地点から北の斜面に数メートル以上に渡って連なっている石垣等。甲一一の一ないし四。以下、上記石垣を「甲一一の一ないし四の石垣」という。)に衝突させた後、停止した(本件事故。以下、甲一一の一ないし四の石垣及びその付近を「本件事故現場」という。)。本件事故現場付近は、当時、深夜で暗く、人通りもなかった。その時、本件車両のエンジンは止まっていたが、原告代表者は、エンジンキーを回すとエンジンがかかったことから、明るくて土地勘のあるところまで移動しようと思い、本件車両を発進させた。原告代表者は、その際、本件事故現場において降車することがなく、本件車両の損傷状況や本件事故現場の状況を確認することをしなかった。

(3)  原告代表者は、本件事故現場から、本件車両を発進させ、本件車両を運転していたところ、走行中、右前タイヤがガラガラと何かに擦れる音を立てていたが、何とか走行を続けることができた。原告代表者が、Bを送っていった前記ルートを逆方向に走行し、堀川通りに入り南下していたところ、堀川中立売の交差点ないし堀川下立売の交差点付近で、自走できなくなったため、本件車両を停止させた。

原告代表者は、同日午前一時二八分ころ、携帯電話でJAF(社団法人日本自動車連盟)に連絡をし、ロードサービスを依頼した。同日午前一時四八分ころ、JAFのレッカー車が本件車両の上記停止場所に到着し、本件車両の破損していた右前輪の足回り付近に、レッカー車のウィンチワイヤーを接続し、ウィンチ巻き上げによって本件車両をレッカー車に積載した。その際、原告代表者は、ワイヤーで引っ張ったときに引っかかった状態になり積載に支障が生じているように見えたため、作業を早くしてほしいという気持ちから、JAFの担当者に対し、「引っかかるけど、どうせ壊れているから、そのまま引っ張ってしまえ。」などと言った。JAFのレッカー車は、本件車両を積載した後、原告代表者の指示に基づき、原告会社の駐車場に本件車両を搬送した。

(4)  原告代表者は、本件事故後直ちに、被告に対し、本件事故の発生を連絡し、平成一八年五月三一日までに、被告に対し、保険金請求書(甲八)を提出した。被告は、同年六月六日、原告代表者との面談調査を実施し、原告代表者に対し、さらに調査への協力を求めていたが、これを得られないまま推移するということがあった(乙二、三)。

(5)  その後、被告は、平成一八年一二月一三日、原告代表者との面談及び現場確認並びに同乗者(B)との面談調査を実施した。その際、原告代表者は、被告担当者に対し、本件事故における衝突場所として、別紙図面二(乙八)の②地点(電柱クラマ)と③地点(反射板A)の間の地点を指示し(乙一八の写真⑨、乙一九)、さらに、本件車両が衝突後に停止した場所として、上記図面の③地点(反射板A)と④地点(カーブミラー)の間の地点を指示した(乙一八の写真⑩、乙一九)。原告代表者は、同日の面談調査において、事故発生場所につき、「事故前に居眠りしてしまったのと、事故後、車を降りなかったので、多分、添付地図にマーキングした箇所(上記図面の②地点と③地点の間の上記指示地点)だったと思います。」旨述べ(なお、原告代表者は、同日の現場確認調査前の面談調査では、貴船口駅付近の左カーブを事故発生場所として申告していたが、その後同日に実施した現場確認調査によって、事故現場を上記のとおり訂正したものである。)、事故発生状況につき、「居眠りをしていたようで、ハッと気付くと、山が近づいているのが見えた。急ブレーキをかけたが、本件車両の右前部がコンクリートか石垣の壁に衝突し、その反動で、本件車両の右後部も当たったようで、気が付くと本件車両は進行方向左向きの状態で停止していた。何かに乗り上げたということはなかった。エンジンは止まっていたが、キーを回すとエンジンがかかったので、そのまま走行した。その後、本件事故現場から京都市内の堀川中立売付近か堀川下立売付近まで走行し、ミッションが入らなくなったために停車し、JAFに連絡した。JAFが本件車両をレッカー車に載せる際、引っかかりつつワイヤーで引っ張った時に、タイヤの向きが変わった。」などと申告し、その旨の記載がある事故確認票(乙六)を被告に提出した。

(6)  被告は、平成一九年一月二五日、原告代表者との面談調査を実施し、原告代表者から事故確認票Ⅱ(乙七)の提出を受けたが、同年五月一〇日ころ、原告に対し、本件事故の発生は認められず、原告代表者の申告は故意に不実の記載をした場合に該当するなどとして、現時点では車両保険金を支払うことができない旨の通知をした(甲九、乙四、五)。

二  争点(1)(衝突事故の発生)について

(1)  前判示のとおり、原告代表者は、平成一八年四月二七日午前〇時ころ、本件車両を運転し、京都市左京区<以下省略>の瀬橋付近の道路を進行していたところ、本件事故現場(甲一一の一ないし四の石垣)において、本件車両を道路右側の山の斜面又は石垣等に衝突させたものであり(本件事故)、衝突事故の発生の事実が認められる。

(2)ア  前記(1)に対し、被告は、甲一一の一ないし四の石垣は、本件車両の損傷状況と整合せず、本件車両の損傷が上記石垣に衝突したことにより生じた可能性はない旨主張し、被告提出の乙二二(意見書)にはこれに沿うCの供述の記載がある。しかしながら、前記一の事実及び証拠(甲四、五、一一、一二、乙八ないし一二、一六)によれば、本件車両は、前部ナンバープレート右側近辺から甲一一の一ないし四の石垣に衝突を開始し、バンパー右下端部が、石垣下側に衝突しながら石垣に乗り上げた後、右後輪付近が上記石垣に衝突した可能性があり、甲一一の一ないし四の石垣は、本件車両の損傷状況と整合しないものではないことが認められる。これに対し、乙二二にはこれに反するCの供述の記載があるが、上記供述は、衝突して車体に変形をもたらす可能性のある石が六箇所であったということについて具体的客観的な理由が明らかでないのみならず、本件車両が上記石垣に衝突した時の速度、車体と石垣との角度、衝突地点等如何にかかわらず、本件車両の右前部や右後輪付近の損傷が生じたり本件車両の右前部が乗り上げたりする可能性がないことについて具体的客観的な理由が明らかでない。したがって、乙二二の上記供述の記載及び被告の上記主張は採用することができない。

イ  前記(1)に対し、被告は、前記(1)の衝突事故が発生した事実がないことの根拠として、「原告代表者は、本件事故における衝突場所について、平成一八年一二月一三日、被告担当者に対し、別紙図面二(乙八)の②地点(電柱クラマ)と③地点(反射板A)の間の地点(乙一八の写真⑨)を指示し、事故の申告をしたものであり(本件車両の損傷は、その部位・状況にかんがみ、本件車両が上記申告に係る衝突場所でコンクリート壁に衝突したことにより生じたとは考えられないものであり、上記申告に係る衝突場所は本件車両の損傷状況と整合しない。)、原告代表者が、本件訴訟前になされた被告の調査において、甲一一の一ないし四の石垣を衝突場所として説明したことはなかった」との事実を主張する。しかしながら、前判示の事実及び証拠(甲一一ないし一三、乙一〇、一六、一八、一九、原告代表者本人)並びに弁論の全趣旨によれば、①原告代表者は、本件車両を運転中に居眠りをし前方注視をしないまま進行して本件事故を発生させたものであるところ、当時深夜で本件事故現場付近は暗かったが、本件事故直後、現場において、車外に出るなどして現場の状況等を確認することもなく、本件事故現場から離れたというのであるから、原告代表者が本件事故の際に本件事故現場について厳密な特定が可能な程度に正確な認識を持つことに期待できず、その指示説明には相当の誤差があり得ること、②原告代表者が本件訴訟前に指示説明をした衝突場所と甲一一の一ないし四の石垣との距離は約一〇ないし二〇メートルであり近接しており、その形状も山の斜面に設置されたコンクリート又は石垣の側壁であり類似することが認められるところであるから、原告代表者が本件訴訟前に甲一一の一ないし四の石垣を衝突場所として説明したことがなかったなどの被告主張に係る上記事実は、前記(1)の認定を左右しない。

ウ  前記(1)に対し、被告は、前記(1)の衝突事故が発生した事実がないことの根拠として、「本件車両の損傷状況(右前後輪のサスペンションアームの破断状況、右ヘッドランプの破損状況、右前輪の位置ずれ状況、ラジエーター・配管等の変形・離脱〔位置ずれ〕状況)に照らせば、本件事故後、本件事故現場から堀川中立売又は堀川下立売までの約九キロメートルの経路を自走するのは不可能であつた」旨主張し、乙一一にはこれに沿う記載がある。

しかしながら、右前後輪のサスペンションアームの破断状況については、その破断が本件事故現場で生じたのか、本件事故現場では亀裂が生じる状況であったが本件車両が堀川中立売又は堀川下立売まで走行する間に破断に至ったのかなど破断が生じた時期は明らかでなく、上記破断状況から直ちに本件車両が堀川中立売又は堀川下立売までの上記経路を自走することが不可能であったと認めることはできないし、他の損傷についてもそれが本件事故現場から堀川中立売又は堀川下立売までの経路を自走することを不可能ならしめるものであったことにつき具体的客観的な理由が明らかでない(なお、堀川中立売ないし堀川下立売において本件車両に上記損傷を生じさせる事故があったことなど、本件車両が損傷の生じた時に直ちに自走不能となったことに沿う事実があったことについては、証拠が全くない。)。したがって、乙一一及び被告の上記主張は採用することができない。

三  争点(2)(不実の申告)について

前記一、二の各事実によれば、(ア)本件事故において、本件車両が石垣等に衝突した場所は、甲一一の一ないし四の石垣であるところ、原告代表者は、平成一八年一二月一三日の面談調査において、本件事故における衝突場所として、別紙図面二(乙八)の②地点(電柱クラマ)と③地点(反射板A)の間の地点を指示し(乙一八の写真⑨、乙一九)、上記場所を本件事故の発生場所として申告し、その旨記載した事故確認票を被告に提出したこと、(イ)本件車両は、本件事故において、本件車両の右前部及び右後輪付近を石垣等に衝突した際、石垣等に乗り上げたものであるところ、原告代表者は、上記の面談調査の際、事故発生状況につき、「何かに乗り上げたということはなかった。」などと申告し、その旨記載した事故確認票を被告に提出したことが認められるところ、被告は、これらにつき、「原告代表者は、本件約款第一章第一六条第四項所定の書類に、故意に不実の記載をしたものである」旨主張する。

しかしながら、本件約款の上記所定の書類に記載した内容と本件事故の内容との上記食い違いにつき、それが故意によることについては、これを認めるに足りる証拠がない(なお、①本件事故において本件車両が衝突した場所〔甲一一の一ないし四の石垣〕と原告代表者の申告に係る上記衝突場所とは前判示のとおり近接していること、②原告代表者は前判示のとおり本件事故の際に本件事故現場の状況を十分確認しなかったこと、③本件事故は一瞬のうちに発生したものであるし、居眠りをして衝突事故を発生させたことなど前判示の事故態様からも、原告代表者が、本件事故の際に本件車両が何かに乗り上げたかどうかについて誤った認識を持つこともあり得ることなどにかんがみれば、上記の書類に記載した内容と本件事故の内容との間に上記食い違いがあることをもって、上記記載につき故意により不実の記載をしたものと推認することはできないというべきである。)。したがって、被告の上記主張は採用することができない。

四  争点(3)(原告代表者の故意による損害の拡大)について

被告は、原告代表者が、本件事故後に無理な走行を行い、また、レッカー車への強引な積載を行ったことにより、本件車両は著しく損傷し損害が拡大した旨、そして、上記損害の拡大は原告代表者の故意によって生じた旨主張する。しかしながら、被告主張に係る損害の拡大があったことを認めるに足りる証拠はない(前記一、二の各事実及び証拠〔甲四、五、乙一一、一二〕によれば、本件車両には本件事故における衝突により相当大きな損傷が生じたところ、上記の走行や積載によって、本件事故直後に本件車両に生じた損傷のほかに具体的にどのような損傷が生じたのか、具体的にどのように損害が拡大したのか〔本件事故直後には必要でなかった修理が必要となったのか〕などの事実は明らかでない。)。また、仮に、何らかの損害の拡大があったとしても、それが原告代表者の故意によって生じたことについて、これを認めるに足りる証拠がない。したがって、被告の上記主張を採用することはできない。

五  争点(4)(本件車両に生じた損害等)について

前記第二の一の事実、前記一、二の各事実、証拠(甲四ないし六、乙一)並びに弁論の全趣旨によれば、①本件事故により、本件車両は、右前部及び右後方側面部等を損傷し、本件車両には、修理代として四九九万五〇〇〇円及び牽引料として一八〇〇円の損害(合計四九九万六八〇〇円)が生じたこと、②上記①につき、本件保険契約に基づき被保険者に支払われる車両保険金は上記四九九万六八〇〇円であることが認められる。

六  争点(5)(本件約款第一章第二一条第二項所定の必要書類等の提出)について

前記一の事実及び証拠(甲八、九、乙二ないし七)並びに弁論の全趣旨によれば、①原告は、平成一八年五月三一日までに、被告に対し、本件事故に係る保険金請求書を提出したこと、②平成一九年一月二五日の面談調査の日までに、本件事故に係る本件約款第一章第二一条第二項所定の必要書類等を提出したこと、③本件約款第一章第二二条所定の「被保険者が前条(第一章第二一条)第二項の手続をした日」は上記平成一九年一月二五日であることが認められる。したがって、本件約款による本件事故に係る車両保険金の支払期限は、同日からその日を含めて三〇日以内、すなわち、同年二月二三日までと解すべきである。

七  以上によれば、被告は、原告に対し、本件保険契約に基づき、車両保険金四九九万六八〇〇円及びこれに対する本件約款による前記支払期限の翌日である平成一九年二月二四日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払う義務を負うものというべきであり、原告の被告に対する請求は、上記金員の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がない。

(裁判官 井田宏)

(別紙図面1)

現場現況図

<省略>

(別紙図面2)

現場現況図

<省略>

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