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京都地方裁判所 平成19年(ワ)3077号 判決 2009年10月30日

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告らは,原告に対し,連帯して,500万円及びこれに対する平成18年6月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は,京都府a市の前市長である原告が,公職選挙法違反の被疑事実で身柄を拘束されている間に京都府警察の司法警察員から受けた取調べにおいて,①自白を引き出すための虚偽の事実の告知等,②原告の著書の踏みつけ,③捜査記録等のたたきつけ,④市長職の辞職の強要,⑤違法な起訴後の取調べが行われ,供述の自由や自己決定権等を侵害されたことによる精神的苦痛を被ったことにつき,被告京都府は国家賠償法1条1項に基づいて,取調べを担当した司法警察員である個人の被告らは民法709条に基づいて,それぞれ損害賠償責任を負い,各責任は不真正連帯債務の関係にあるとして,被告らに対し,連帯して,慰謝料500万円(①につき50万円,②につき300万円,③につき25万円,④につき100万円,⑤につき25万円)及びこれに対する各違法行為の日の後である平成18年6月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

1  前提事実(争いがないか,掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

(1)  当事者等

ア 原告は,平成18年2月19日に行われた京都府a市長選挙において当選し同市長に就任したが,公職選挙法違反の被疑事実で逮捕勾留された後,同法違反で京都地方裁判所に起訴され,同年5月23日,同裁判所から懲役1年6月(5年間執行猶予)の判決を言い渡された者である。

なお,原告は,起訴前勾留中である同年3月22日にa市長を辞職した。

イ 被告A,被告B,被告C(以下被告A,被告B及び被告Cを併せて「被告Aら」という。)は,いずれも,平成18年3月当時に原告の取調べを担当した司法警察員で,当時京都府警察本部刑事部捜査第二課に所属し,それぞれ,警部,警部補,巡査部長の地位にあった者である。

(2)  原告は,平成18年3月12日,後記の本件事実2と同一の被疑事実により逮捕され,これに引き続いて勾留された。

(3)  被告Aら京都府警察の司法警察員は,平成18年3月12日以降,概ね,別紙取調べ状況一覧表記載のとおり,原告の取調べをした(甲60~85,乙1の1及び2(以下,特記しない限り枝番号を含む。))。

(4)  原告は,同月31日に後記(6)の本件事実2で,同年4月14日に後記(6)の本件事実1で,それぞれ京都地方裁判所に起訴された(乙3,4。平成18年(わ)第494号,同年(わ)第559号)。

(5)  両事件は弁論を併合された上,同年5月9日に第1回公判期日(以下「本件公判期日」ともいう。)が開かれ,同期日において,原告及び原告の弁護人はいずれも各公訴事実を認め,弁論は終結した。

(6)  京都地方裁判所は,同月23日,両事件について,原告を懲役1年6月(5年間執行猶予)に処する旨の判決(以下「本件有罪判決」ともいう。)をした。同判決においては,罪となるべき事実として,「被告人は,平成18年2月19日施行のa市長選挙に立候補することを決意していたものであるが,自己の当選を得る目的で,第1 いまだ立候補の届出をしていない平成17年7月24日ころから同月25日ころまでの間に,…将来同選挙の選挙人となるDら11名に対し,自己のため投票及び投票とりまとめなどの選挙運動をすることの報酬として,京都府a市b町…所在の前記D方等11か所に,宅配便業者を介して,それぞれ,メロン2個(時価合計5000円相当)を配送して受領させ,もって,自己の当選を得る目的で物品を供与するとともに,それぞれ立候補届出前の選挙運動をした 第2 Eらと共謀の上,いまだ立候補の届出をしていない同年8月5日,京都府c市…所在のdにおいて,将来同選挙の選挙人となる…12名に対し,自己のため投票及び投票とりまとめなどの選挙運動をすることの報酬として,1人当たり1万805円相当の酒食の提供をし,もって,自己の当選を得る目的で供応接待するとともに,立候補届出前の選挙運動をした」ことが認定されている(乙12,320。以下,第1の事実を「本件事実1」といい,第2の事実を「本件事実2」という。)。

(7)  原告は,本件有罪判決に対し控訴せず,同判決は,平成18年6月7日に確定した。

2  争点及び争点についての当事者の主張

(1)  虚偽の事実の告知等の有無及び違法性

(原告の主張)

被告Bは,平成18年3月13日から同月16日までの間,京都府警察本部で行われた取調べにおいて,原告が,平成17年8月5日に開催されたdにおける会合(以下「本件会合」という。)の参加者(いずれも当時の京都府e郡b町の住民ら)は全員会費を支払っており,原告が酒食の提供をした事実はない旨供述したところ,原告に対し,①bの者は全員「会費など支払っていない」と供述している,②お前1人が「全員が会費を払った」と言っても通らない,③お前の供述がbの人の供述と合わない限り,何回でもbの人に警察に来てもらわなければならない,④お前はbの人にまだ迷惑をかけるのか,早く会費を徴収していないと供述してbの人に迷惑がかからないようにしないといけない,などと述べて,自白を迫った。

上記行為①及び②は,本件会合の参加者らが自白したとの虚偽の事実を告知して行われたいわゆる切り違い尋問であり,「みだりに供述を誘導」して「供述の真実性を失わせるおそれのある」ものとして,犯罪捜査規範168条2項にも違反する違法な取調べである。

上記行為③は,原告の供述と本件会合の参加者らの供述が整合するまで参加者らを取り調べなければならない理由も必要性もないのに,これがあるかのように虚偽の事実を告知して行われたもので,犯罪捜査規範168条2項に違反するのみならず,共犯者について「みだりに供述の符合を図る」ものとして,犯罪捜査規範170条1項にも違反する違法な取調べである。

上記行為④は,原告が会費を徴収していないと供述すれば本件会合の参加者らに対する取調べを止める旨の利益誘導をしたもので,「供述の代償として利益を供与すべきことを約束する」ものとして,犯罪捜査規範168条2項にも違反する違法な取調べである。

(被告らの主張)

否認ないし争う。被告B及び被告Cは,原告を取り調べる時点で,既に,原告から供応を受けた旨の本件会合の参加者らの詳細な自白が存在し,これを裏付ける証拠も存在したことから,これらを前提として原告を取り調べていたのであって,原告に①~④のような虚偽事実の告知,利益誘導をした事実はない。原告が自白したのは,被告Bが①~④のような言辞により自白を迫ったからではない。

(2)  本を踏みつける行為等の有無及び違法性

(原告の主張)

被告Aは,平成18年3月30日に,京都府警察本部において,原告を取り調べる際,原告の著書である「我が人生一歩一歩」(以下「原告著書」ともいう。)で取調室の壁を数回たたき,原告に対し,「いつまで同じことを言っているのか」などと語気鋭く申し向けた。また,被告Aは,同取調べの際,原告と対面する席に座り,原告の面前で,「こんな本なんじゃ」と語気鋭く述べて,原告著書を机や取調室の壁に数回たたきつけ,さらに,机をたたいた際に床に落ちた原告著書を数回足で踏みつけた。

かかる行為は,特別公務員暴行陵虐罪(刑法195条)に該当する違法行為である。

(被告らの主張)

否認ないし争う。かかる事実が存在しないことは,原告と頻繁に接見し協議していた複数の私選弁護人が,原告の不満を受けて抗議や準抗告等の法的手段に及ぶことも,公判において原告の自白調書の任意性・信用性を争うこともなかったこと等に照らし明らかである。

(3)  捜査記録等をたたきつける行為の有無及び違法性

(原告の主張)

被告Bは,平成18年3月13日から同月16日までの間,京都府警察本部において,原告を取り調べる際,所持していた捜査記録等が入っているとみられるファイルで机を多数回たたき,原告に対し,「いつまで同じことを言っているのか」などと語気鋭く申し向けた。

かかる行為は,特別公務員暴行陵虐罪(刑法195条)に該当する違法行為である。

(被告らの主張)

否認ないし争う。原告の私選弁護人の対応に照らせば,かかる事実が存在しないことが明らかであることは,上記(2)のとおりである。

(4)  辞職強要の有無及び違法性

(原告の主張)

被告Bは,平成18年3月13日から同月18日までの間,京都府警察本部において,原告を取り調べる際,原告に対し,「今日は辞職しないと帰られへんぞ」などと語気鋭く申し向け,取調べを早く終わらせたいと考えた原告が翌日に辞職する旨述べたところ,更に「明日辞職する」旨記載された書面を交付して「明日辞職することを書け」と語気鋭く迫り,原告に署名をさせた。

被告Bの行為は,取調べに係る職務の範囲を大きく逸脱する違法行為である。

(被告らの主張)

否認ないし争う。被告Bが,捜査官の権限を越えて,原告に辞職を強要する必要は全くない。被告Bが辞職を強要した事実が存在しないことは,辞表の提出と自白調書の作成の経緯に関する原告の供述が客観的事実に合致しないことからも明らかである。

(5)  起訴後の取調べの違法性

(原告の主張)

被告B及び被告Cは,本件事実2により原告が公訴を提起された平成18年3月31日以後も,特段の説明をすることなく,かつ,原告の弁護人を立ち会わせることもないままに,原告を呼び出して取調べをした。

かかる取調べは,特段の必要も合理的理由もない,許されない起訴後の取調べであり,違法である。

(被告らの主張)

被告B及び被告Cが,平成18年3月31日以後も,原告の取調べをしたことは認め,その余は否認ないし争う。本件事実2による起訴後の勾留中に,起訴されていない余罪である本件事実1等につき任意に取調べをすることは違法ではない。

(6)  被告らの損害賠償責任の成否及びその関係

(原告の主張)

ア 被告Bは,上記(1),(3)~(5)の違法行為を自ら行ったほか,被告Aが行った上記(2)の違法行為について,犯罪行為を制止すべき警察官として,同席していた被告Aの行為を制止し,又は,被告Aの上司に報告して指示を仰ぐ等の義務を負っていた(警察官職務執行法5条)にもかかわらず,これを怠った。

イ 被告Cは,上記(5)の違法行為を自ら行ったほか,被告Bが行った上記(1),(3)及び(4)の違法行為について,被告Bと同席して原告の取調べを担当した者として,被告Bの行為を制止すべき義務を負っており,被告Aが行った上記(2)の違法行為について,犯罪行為を制止すべき警察官として,同席していた被告Aの行為を制止し,又は,被告Aの上司に報告して指示を仰ぐ等の義務を負っていたにもかかわらず,これらをいずれも怠った。

ウ 被告Aは,上記(2)の違法行為を自ら行ったほか,被告B若しくは被告C又は被告B及び被告Cが行った上記(1),(3)~(5)の違法行為について,これらを指示して行わせ,又は,警部として被告B及び被告Cによる取調べを指揮監督すべき義務があったのに,これを怠った。

エ 上記各行為(ないし不作為)は,いずれも被告京都府の司法警察員である被告Aらが,被疑者であった原告の取調べを行うにつきされたものであるから,被告京都府は,原告が被った損害について,国家賠償法1条1項に基づき賠償すべき責任を負う。

オ 上記各行為(ないし不作為)は,被告Aらが故意に行ったもので,私人の不法行為と異なる取り扱いをする理由はないから,被告Aらは,原告が被った上記損害について,民法709条に基づき賠償すべき責任を負う。

カ そして,被告Aらの民法に基づく不法行為責任の原因はそれぞれ関連共同しており,共同不法行為が成立するから,被告Aらは,民法719条1項に基づき,連帯して賠償する責任を負い,被告京都府の国家賠償法に基づく損害賠償責任についても,これと不真正連帯債務の関係に立つ。

(被告らの主張)

被告Aらが,別紙取調べ状況一覧表記載のとおり,原告の取調べをしたこと(ただし,被告Aが平成18年3月30日に原告の取調べをした際には,被告Bは同席していない。)は認め,その余は否認ないし争う。

なお,公権力の行使に当たる地方公共団体の公務員がその職務を行うにつき,故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には,国家賠償法1条1項により当該地方公共団体が被害者に対して損害賠償責任を負い,公務員個人は責任を負わないことは確立した判例である。

(7)  原告の損害額等

ア 上記(1)の違法行為(ないし不作為)によって,原告は,記憶に反する供述をすることもやむを得ないと考え,虚偽の自白を強制されたものであり,供述の自由(憲法38条1項)や自己決定権(憲法13条後段)を侵害されたのみならず,いわれのない刑罰を科されたもので,その受けた屈辱感等の精神的苦痛は甚大である。その精神的苦痛を慰謝するに足る慰謝料額は,50万円を下らない。

イ 上記(2)の違法行為(ないし不作為)によって,原告は,自己の人生を全否定されたかのような屈辱感を感じたもので,その精神的苦痛は計り知れない。その精神的苦痛を慰謝するに足る慰謝料額は,300万円を下らない。

ウ 上記(3)の違法行為(ないし不作為)によって原告が受けた屈辱感等の精神的苦痛は甚大であり,これを慰謝するに足る慰謝料額は,25万円を下らない。

エ 上記(4)の違法行為(ないし不作為)によって,原告は,自己決定権(憲法13条後段),職業選択の自由(憲法22条1項)を侵害されたものであり,その受けた屈辱感等の精神的苦痛は甚大である。これを慰謝するに足る慰謝料額は,100万円を下らない。

オ 上記(5)の違法行為(ないし不作為)によって,原告は,公判中心主義,適正手続(憲法31条)に違反する取調べを受けさせられたものであり,その受けた精神的苦痛は甚大である。これを慰謝するに足る慰謝料額は,25万円を下らない。

(被告らの主張)

否認ないし争う。

第3争点に対する判断

1  前記第2の1の前提事実に加え,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(1)  本件会合に関する事実経過

ア 本件会合は,平成17年8月5日に,京都府c市のf温泉にあるdにおいて開催され,後記(2)で挙げる当時のb町の住民ら12名と,原告,原告の当時の後援会長であったEが参加した。

イ 会場は,原告が設立し,当時実質的に経営していたgの従業員で,原告の二男の妻であるFが,原告の依頼により,電話で,gの名で予約した(乙35,36,59,60,91,229,236~238)。

ウ 本件会合の当日,上記12名は,原告の指示を受けた原告の妻,原告の長男Gやgの従業員らによる車での出迎えを受け,当時のb町から,当時の京都府h郡i町にあるgの敷地まで移動し,そこでdのマイクロバスに乗り換えて,会場に向かった。他方,原告とEは,gの従業員の車で先にdに到着し,上記12名を出迎えた(乙40,55,56,81,84,202,207,208,213,220,221,236,237,241,245,276)。

エ 上記12名のうち1名(H)が手違いにより上記の移動に同行できず遅れることとなったため,同人の到着を待つ間,原告を含む参加者数名がdの温泉に入浴した。上記Hの到着後,宴会が始まり,E,D(上記12名のうちの1人),原告の順に挨拶を行い,その後,I(上記12名のうちの1人)の発声で乾杯が行われ,歓談に入った(乙78,81,236,237,242,245,276)。

オ 会の終盤になって,原告から顔を出してほしい旨依頼されていた京都府議会議員のJ(当時同人の後援会長を原告が務めていた。)が現れ,参加者らに向かって挨拶をし,その後ほどなくして退席した(乙15,82,201,210,236,237,242,245,247)。

カ その後終宴となり,上記12名は,原告がFらgの従業員に指示して準備していた手みやげのゼリーセットを手にし,用意されていた送迎用のマイクロバスに乗り込んだ。会合の費用の支払はEが行い,その後Eと原告も上記12名とともにマイクロバスに乗った(乙15,16,79,80,81,82,237,241,242,245,248,276)。

キ マイクロバスは,まずgに向い,原告とEを降ろした後,当時のb町まで上記12名を送っていった(乙40,82,207,237,242,276)。

ク 会合の費用は,1人当たり1万0805円であった(乙18)。

(2)  受供応者らの供述状況等

前記b町の住民ら12名は,本件事実2において,本件会合で原告から供応接待を受けたとされているところ,この点に関する上記12名(以下「本件受供応者ら」という。)の供述状況等は,概要以下のとおりである。

ア K

平成18年2月20日,司法警察員の求めに応じて京都府警察本部に任意出頭し(乙127),同日同所で取調べを受け,本件事実2の,本件会合で原告から供応接待を受けた事実があった旨の上申書を作成・提出し(乙338),さらに,その2日後の同月22日にも,同本部に任意出頭して取調べを受け(乙128),本件事実2があった旨を供述した(乙167)。その後も,同年3月2日,同月4日,同月7日に,それぞれ,本件事実2があった旨供述した(乙168,169,264)。

イ L

同年2月20日,本件事実2の,本件会合で原告から供応接待を受けた事実があった旨の上申書を作成・提出し(乙339),翌21日には,同本部において取調べを受け,本件事実2があった旨を供述した(乙175)。同年3月2日,同月4日,同月5日にも,それぞれ,本件事実2があった旨を供述した(乙176,177,261)。

ウ M

同年2月21日,司法警察員の求めに応じて京都府五条警察署に任意出頭して取調べを受け(乙130),また,翌22日は,京都府警察本部に任意出頭して取調べを受け(乙131),本件事実2の,本件会合で原告から供応接待を受けた事実があった旨を供述した(乙179)。同年3月2日,同月5日,同月6日にも,それぞれ,本件事実2があった旨を供述した(乙180,181,266)。

エ N

同年2月21日,同人の自宅において取調べが行われ,本件事実2の,本件会合で原告から供応接待を受けた事実があった旨を供述した(乙191)。同年3月3日,同月7日にも,それぞれ,本件事実2があった旨を供述した(乙192,265)。

オ O

同年2月20日,司法警察員の求めに応じて京都府警察本部に任意出頭し(乙123),同日同所で取調べを受け,本件会合で,本件事実2のような酒食の提供を原告から受け,会費を支払わなければという話になっていたが,会費は払った記憶がない旨の上申書を作成・提出し(乙337),翌21日には京都府園部警察署で取調べを受け,上記とほぼ同旨を述べたほか,会費を支払っていないという記憶もなく,逆に支払った場面についても思い出せない旨を供述した(乙147)。その後も,同年3月2日,5日,9日,10日に,それぞれ,原告から酒食の提供を受け,会費は支払った記憶がない旨などを供述した(乙148~150,254,255)。

カ D

同年2月20日,司法警察員の求めに応じて京都府警察本部に任意出頭し(乙124),同日同所で取調べを受け,本件事実2の,本件会合で原告から供応接待を受けた事実があった旨の上申書を作成・提出し(乙334),翌21日,京都府警察本部で取調べを受け,本件事実2があった旨を供述した(乙153)。同年3月2日,4日,5日,11日にも,それぞれ,本件事実2があった旨を供述した(乙154~156,252)。

キ I

同年2月20日,司法警察員の求めに応じて京都府警察本部に任意出頭し(乙125),同日同所で取調べを受け,本件事実2の,本件会合で原告から供応接待を受けた事実があった旨の上申書を作成・提出し(乙333),翌21日にも,同本部で取調べを受けて,本件事実2があった旨を供述した(乙158)。同年3月2日,4日,10日にも,それぞれ,本件事実2があった旨を供述した(乙159~161,259,260)。

ク P

同年2月22日,司法警察員の求めに応じて京都府警察本部に任意出頭し(乙126),同日同所で取調べを受け,本件事実2の,本件会合で原告から供応接待を受けた事実があった旨の上申書を作成・提出した上(乙340),その旨の供述調書が作成された(乙163)。同年3月2日,5日,6日にも,それぞれ,本件事実2があった旨を供述した(乙164,165,257,258)。

ケ Q

同年2月20日,司法警察員の求めに応じて京都府警察本部に任意出頭し(乙129),同日同所で取調べを受け,本件事実2の,本件会合で原告から供応接待を受けた事実があった旨の上申書を作成・提出し(乙335),翌21日には,京都府園部警察署で取調べを受けて,本件事実2があった旨を供述した(乙171)。同年3月2日,6日,7日にも,それぞれ,本件事実2があった旨を供述した(乙172,173,262)。

コ H

同年2月20日,本件事実2の,本件会合で原告から供応接待を受けた事実があった旨の上申書を作成・提出し(乙336),翌21日には,京都府京北警察署において取調べを受けて,本件事実2があった旨を供述した(乙183)。同年3月2日,同月6日にも,それぞれ,本件事実2があった旨を供述した(乙184,185,267)。

サ R

同年2月23日,司法警察員の求めに応じ,京都府園部警察署に任意出頭し(乙132),同日同所で取調べを受け,本件事実2の,本件会合で原告から供応接待を受けた事実があった旨を供述した(乙186)。同年3月2日,4日,6日にも,それぞれ,本件事実2があった旨を供述した(乙188,189,263)。

シ S

同年2月21日,司法警察員の求めに応じ,京都府警察本部に任意出頭して取調べを受け(乙133),翌22日も同本部で取調べを受けて,本件事実2の,原告から供応接待を受けた事実があった旨を供述した(乙143)。同年3月3日,6日,9日にも,それぞれ,本件事実2があった旨を供述した(乙144,145,250,251)。

ス 略式命令

上記12名については,いずれも,同年4月19日付けで,本件会合で原告から供応接待を受けた公職選挙法違反の事実により起訴及び略式命令請求され,同日,京都簡易裁判所で,罰金10万円に処する等の内容の略式命令を受けた。その後,上記12名は,正式裁判の請求を行わず,上記略式命令はいずれも確定した(乙322~332)。

セ 再審請求

上記12名のうちSを除く11名は,平成19年になってから,京都簡易裁判所に,前記各略式命令についての再審請求を行った(甲58,92~94等。以下「本件各再審請求」という。なお,これらの再審請求は,平成20年12月15日,いずれも棄却され,これら各棄却決定に対し即時抗告がされたが,これらもいずれも棄却された。乙341~351,356~366)。ここで,上記11名は,本件会合について,真実は会費(5000円)を支払ったのであって,供応接待の事実はなく,本件事実2を認めた過去の供述は虚偽であった旨を供述するようになった(甲7~10,21~28,37~47。後記2(3)で詳しく検討する。)。

(3)  原告の本件事実2に関する供述状況等

一方,原告の本件事実2に関する供述状況等は,以下のとおりである。

ア 逮捕前

逮捕前の平成18年2月24日,原告は,Eが本件事実2と同一の被疑事実で逮捕されたことを受けての取材に対し,本件会合の趣旨について,会合はgが開いたもので,自分は立ち寄って出席者に声をかけたがすぐに退席した,出席者からは参加費を徴収し,会社名で領収書も発行している,などと供述した(乙116)。

イ 逮捕直後

本件事実2と同一の被疑事実で逮捕された同年3月12日,原告は,本件会合はgの誰かが企画したもので,gの営業拡大のための宴席であると思っている,会には,gの役員であるGか,Fに誘われた,会費は1万円を宴会の最後に誰かに渡して払ったなどと供述し(乙85),翌13日には,自分は接待した側ではなく招待を受けた方であるとも供述した(乙86)。

ウ その後の捜査等

その後,同月15日になって,本件事実2を認める旨の供述調書が作成された(乙88)。以後,同事実で起訴されるまでの間,原告は,同事実や同事実に係る犯行前後の経緯等について詳細に供述し,再度否認に転じることはなかった(乙91,205,206,236~239,276)。

また,その後の本件公判期日においても原告が本件事実2を認め,同事実が認定された本件有罪判決を受け,控訴することなく同判決が確定したことは,前記第2の1のとおりである。

エ 平成19年10月以降

原告は,平成19年10月以降,本件事実2を否定し,これを認めた過去の自白(上記ウ)は虚偽であり,前記第2の2で主張する違法取調べなどが理由で,本件事実2を認める虚偽の自白をした旨供述するようになった(甲2,3,52,54,59,88,原告本人尋問)。

(4)  原告の身柄拘束中の弁護人らとの接見状況

原告が平成18年3月12日に逮捕されて以降,当時の弁護人らとの接見は,同日から同月15日までは毎日1時間以上,同月16日から18日までは毎日21分~50分間,その後も同月20日,23日,24日,28日,29日,同年4月3日,5日,11日,13日,14日に1日当たり15~40分間行われた(乙1)。

(5)  取調べ等に関する不服申立て等について

原告や当時の弁護人らは,原告の勾留に関し,取調べの違法等を指摘しての不服申立て(準抗告)を一度も行わず,また,弁護人らから警察に対し,原告に対する取調べの方法等について抗議が申し入れられることもなかった。本件公判期日においても,証拠請求された原告の供述調書はすべて同意され,取調べの違法等を理由として任意性や信用性が争われることはなかったし,違法な取調べの事実を原告や弁護人らが主張することもなかった(乙9)。

(6)  a市長の辞職

原告は,前記第2の1(1)アのとおり,a市長を辞職したが,その経緯は次のとおりである。

ア 原告は,同年3月15日,a市長の座にとどまるという未練はない,心の整理がつき次第辞職する決意である旨を供述した(乙88)。

イ 同月17日ころ,原告は,同月20日付けの辞職届を書き,同月18日ころ,接見に来た当時の弁護人にこれを預けた。

ウ 同辞職届は,同月22日,当時の弁護人によってa市議会に提出され,同日付けで原告はa市長を退職した(乙319)。

(7)  原告が違法な取調べを主張するようになった経緯

原告は,本件各再審請求の関係で,本件受供応者のうちの1人に紹介されて,本件各再審請求の請求人代理人のU弁護士(原告代理人)と会い,本件会合についての聴取を受けた。その際,原告は,本件会合は選挙に関する依頼等の趣旨ではなかったこと,本件受供応者らが会費を支払ったことなどを話した上,同弁護士から,どのような取調べを受けたのか,たとえば壁や机をたたかれたりしなかったかなどと聞かれて,原告著書で壁や机をたたかれた,原告著書を踏まれた,市長の辞職を強要されたなどの本件で主張するような取調べについて初めて話をし,同弁護士から,それは違法である旨の指摘を受けたため,その後,これら取調べが違法であると主張して本件訴訟を提起した(原告本人尋問58頁,甲59)。

2  争点(1)について

(1)  前記第2の2(1)①,②について

前記のとおり,原告は,被告Bは,①「bの者は全員,会費など支払っていないと供述している」,②「お前1人が,全員が会費を払ったと言っても通らない」と述べたのであり,これは虚偽の事実を告知したものであって,いわゆる切り違い尋問で違法である旨主張している。

まず,被告Bが,「bの人たちが会費を払っていないと言っている」旨取調べの際原告に述べたことを認め(被告B本人尋問61頁以下),被告Cも,被告Bが,取調べの際原告に対し「bの人は正直に話していますよ」とか「弁解は通らないですよ」という趣旨のことを言っていた旨供述している(被告C本人尋問23頁以下)ことにも照らすと,原告の主張するような①,②を被告Bが述べた事実があった可能性はある。

しかしながら,前記1(2)で認定したとおり,本件受供応者らは,いずれも,被告Bが①,②を述べた日として原告が主張する平成18年3月13日より以前に,既に,原告から供応接待を受けた事実(本件事実2)があった旨を供述し,その旨の供述調書も作成されていたのである。したがって,上記①,②を被告Bが仮に述べたとしても,これは虚偽の事実の告知にはあたらないし(なお,前記Oについては,会費を支払った記憶がない旨の供述にとどまっていたが,他の本件受供応者らの供述と照らし合わせれば,①のように述べることが虚偽であると評価されるものではないというべきである。),切り違い尋問にもあたらず,したがって,犯罪捜査規範168条2項にも違反せず,違法でないことは明らかである。

(2)  捜査機関の側の必要性

次に,捜査機関の側の事情についてみると,被告Bによる原告の取調べが開始された時点で,捜査機関は,本件事実2の存在を根拠づけるところの,後記3(3)アで掲げた事実の多くを既に把握し,これに関する相当の裏付け証拠も有していたことが認められる。

そうすると,捜査機関の側としては,何が何でも原告に自白させる必要はなく,原告の自白を得るために,虚偽事実の告知や利益誘導などの違法あるいは違法と疑われるような取調べ方法をあえてとる必要はない状況にあったことが認められる。

(3)  原告の供述の検討

次に,本件では,前記第2の2(1)①~④を被告Bが述べた事実の証拠として,原告の供述書及び陳述書(甲2,3,52,54,59,88)が提出され,原告は,本人尋問においても,上記①~④を被告Bが述べた事実があった旨,上記供述書及び陳述書と同旨を供述しているので,以下,これら原告の供述につき検討する(なお,原告の供述の信用性については,他の争点においても問題となるが,ここでは,他の争点との関連はひとまずおき,本争点に必要な限度で検討することとする。)。

ア 虚偽の自白に至った理由に関する供述の経過

原告は,上記①~④を,本件事実2を認める旨の虚偽の自白に至った理由として供述しているので,まず,虚偽自白に至った理由に関する原告の供述経過を検討する。

(ア) 違法な取調べを主張するようになった当初(平成19年10月7日)

原告著書で机や壁をたたく,原告著書を踏みつける,辞表の提出を強要される,bの人を呼び出させて迷惑をかけるのかなどと言われる,などの種々の違法な取調べがあったために虚偽の自白をした。虚偽の自白をする前にはa市長の辞表を弁護士に渡していた。辞表を提出した後に自白調書を作成した。市長の辞表を提出する前はどうしても真実を供述しなければならないと思っていたが,市長を辞任したら一市民であるので,これ以上bの人に迷惑をかけられないとの思いから,虚偽の自白をするようになった。(甲2,3)

(イ) 同年11月28日

上記①~④のようなことを机や壁をたたきながら言われ,また,前記第2の2(4)のように強要されてa市長辞職願と書かれた念書にサインした。辞職願を出してからは,bの人に迷惑はかけられないので,bの人の調書に合うように作ってくれと言い,虚偽の自白をした。(甲52。なお,本を踏まれたこと等については虚偽の自白の理由として供述していない。)

(ウ) 平成20年7月8日以降

上記①~④のように再三言われて,bの人の調書に合わせてくれと言って虚偽の自白をした。(甲59,原告本人尋問。なお,辞職届と虚偽供述の理由との関連については特段の供述をしていない。)

イ 以上のように,虚偽の自白に至った理由に関する原告の供述は,当初種々の取調べ方法と市長の辞職を挙げていたが,そのうち原告著書を踏まれたことが理由として挙げられなくなり(なお,ここまでは,辞職が理由の中心的なものとして述べられているようにうかがわれる。),最終的には上記①~④の取調べのみが理由として挙げられており,変遷をたどっている。

また,客観的には,原告の自白調書が最初に作成されたのは平成18年3月15日(乙88),原告が辞職届を書いたのが同月17日ころ,これを当時の弁護人に預けたのが18日ころであり(前記1(6)イ),原告が原告著書を踏まれたと主張する取調べの日が同月30日であるから,原告の上記ア(ア)の供述は,原告著書を踏まれたことや辞表の提出を虚偽自白の理由としている点で,客観的事実経過に明らかに反している。そして,その後の供述では,これら客観的事実経過に明らかに反する点は理由として挙げられなくなり,また,念書はともかく,正式の辞職届を書いた時期は客観的に自白の後であるところ,この辞職の点も,最終的に上記(ウ)では理由として挙げられなくなっている。以上によると,原告の供述は,客観的事実に沿うように変遷しているものと評価することができる。

そして,原告からは,このような供述の変遷について,何らの合理的な説明はされてない。

ウ 以上によれば,このような供述が真実を語ったものであるとはにわかに認めることができない。よって,虚偽自白に至った理由に関する原告の供述は信用できないといわざるを得ない。

したがって,前記第2の2(1)①~④を被告Bが述べた旨の原告の供述も,これが虚偽自白の理由として述べられているものである以上,信用することができない。

エ なお,後記3(3)でも詳述するとおり,本件事実2を否定する原告の供述はまったく信用できずむしろ虚偽であり,他方,原告の自白の方は虚偽ではなかったこと,したがって,自白が虚偽であった旨の原告の供述も全く信用できず虚偽であることが認められる。したがって,虚偽自白に至った理由に関する原告の供述には,この点からも信用性が認められない。

(4)  以上によれば,前記第2の2(1)①,②については,仮に被告Bがそのように述べたとしても,そもそも違法ではない。そして,同③,④についても,捜査機関の側に違法あるいは違法と疑われるような取調べ方法をあえてとる必要はない状況にあり,また,これら③,④の事実の証拠である原告の供述が信用できないことからすると,その他原告が縷々主張する点を考慮しても,被告Bが③,④を述べた事実があったと認めることはできない。

よって,争点(1)に関する原告の主張は認められない。

3  争点(2)について

(1)  不服申立て等がなかったこと

ア 原告は,本件有罪判決を受けるまでの間に,一度も,取調べの際被告Aに原告著書で壁や机をたたかれ,原告著書を踏みつけられたことについて主張したことはなく,当時の原告の弁護人らも,違法な取調べを主張しての準抗告や,警察に対する取調べ方法等についての抗議をしたことは一度もなかった上,本件公判期日において,違法な取調べを理由として原告の供述調書の任意性や信用性を争うこともなく,取調べの方法を問題とすることもなかったこと,原告は,本件各再審請求の関係で原告代理人と話をした後になってようやく,違法な取調べを受けた旨主張するようになったものであることは,前記1(5),(7)のとおりである。

イ 被告Aによる上記のような取調べがあったとすれば,原告としては,当時の弁護人らにこれを訴えるのが自然であるし,仮に原告がその取調べが違法であることを認識できていなかったとしても,弁護人らは前記1(4)のように頻繁に原告と接見していたのであるから,取調べの様子を原告から聴取しているのが通常であると考えられ,これによって違法な取調べの事実を知った弁護人らから,何らかの抗議や不服申立て等がされるのが自然である。しかるに,本件では,上記のように,これらが全くされていないのである。

ウ 以上によれば,そもそも上記のような被告Aによる違法な取調べの事実はなかったことがうかがわれる。

この点について,原告は,上記の不服申立て等が全くされていないとしても不自然ではないと縷々根拠を挙げて主張し,原告本人尋問等でもほぼ同旨の供述をしているが,これらを検討しても,上記の評価は左右されない。

(2)  捜査機関の側の必要性

証拠(乙352~354)及び弁論の全趣旨によれば,本争点で問題となっている平成18年3月30日の被告Aによる取調べの対象とされた事実は,本件事実2とは余罪の関係にある,原告の後援会有力者の口座から使途不明の大金が出金され,これが原告を選挙で応援していた国会議員のところに流れたという買収疑惑であったところ,当時,この疑惑については,未だ情報提供があった程度で,事件の存在についても全く確定していない状況にあったものと認められる。

また,原告の勾留の基礎となっている被疑事実は本件事実2と同一のものであり,当時,これについては原告の自白も得られ,勾留期間の満期も近いという状況にあったことも認められる。

そうすると,捜査機関の側としては,疑惑も確実なものではなく,本件事実2については起訴が迫っているという状況の中で,原告から当該疑惑について自白を得ようとするため,違法又は違法と疑われるような取調べ方法をあえて取るような動機,必要性は乏しかったということができる。

(3)  原告の供述の検討

次に,原告が本争点で主張するところの,被告Aによる違法取調べがあった証拠として,原告の供述書及び陳述書(甲2,3,52,54,59,88)が提出され,原告は,本人尋問においても,被告Aによる違法な取調べがあった旨,上記供述書及び陳述書と同旨を供述しているので,以下,これら原告の供述について検討する(他の争点との関連はひとまずおき,本争点に必要な限度で検討するのは争点(1)と同様である。)。

ア 本件事実2を否定する供述の信用性

原告の上記供述の信用性を検討する前提として,まず,本件事実2の,本件会合における供応接待の事実を否定する原告の供述の信用性について検討すると,この点に関し,以下の事実が認められる。

(ア) 原告は,本件会合以前,a市長選挙への出馬の意思を固めた後,本件事実1のような行為を行ったほか,当時のb町に赴き原告著書を配るなど,同町の有権者に対し,選挙に向けて知名度を高める行動をしていた(乙81,246。なお,原告は,本件事実1についても選挙目的ではなかった旨主張しているが,関係の証拠に照らし,失当である。)。

(イ) 本件受供応者らは,原告の手配したgの関係者らの車及びdのマイクロバスで,当時のb町から本件会合の会場であるdまでの送迎を受け,かつ,帰りには原告の準備した手みやげのゼリーセットも受け取った(前記1(1))。

(ウ) 本件会合においては,当時既にa市長選挙への立候補を表明していた当時のi町長をけん制するような言動があった(乙15)。

(エ) Jは,本件会合において,「新しいa市のスタートに,Tさんの政治生命を絶つことがないように。いったん決戦になりましたら,これは結束して躊躇なく皆さんに頑張っていただかなくてはなりません。俺は俺でいいんだ,ということではだめです。そこのところをよく考えていただきたい。皆さんのご支援をよろしくお願いします。」という旨の挨拶を行い,これは,a市長選挙に出馬することを既に表明していた原告(乙70,71)への激励と,支援の呼びかけの趣旨と解釈できるものであった(乙15)。J自身も,本件会合が選挙協力を依頼する趣旨のものであり,自分の挨拶も上記のような趣旨のものであった旨を捜査機関に対して供述している(乙201,210)。

(オ) 本件会合には原告の当時の後援会長であったEが参加し,同人が会合における飲食等費用の支払を行った(前記1(1),乙15,16)。

(カ) Eが上記支払に用いた金銭は,原告から受け取ったものであり(乙79,82,241,242,245,248,甲2,51),原告はこの金銭をgから貸付金として入手していた(乙227,278,284~286,291,甲2)。

(キ) 本件会合で,本件受供応者らには,g代表取締役名義の領収書が配られたが,その日付は本件会合の日ではなく,その金額も,本件受供応者らが支払ったと主張する会費の額(5000円)とは異なっていた(乙92~94,268,282)。

(ク) gの会計帳簿には,上記(カ)のような原告への貸付金の記載はあっても,上記会費分の収入についての記載はない(乙278,284)。

(ケ) 原告は,本件受供応者らの取調べが開始されたと知るや,GやFらに指示して,本件会合の支払のためにgから原告が借り入れた金銭に関する会計帳簿等の改ざん等を行った(乙57~59,203~205,211,218,223,224,274,275,278,279,280,283~290)。

(コ) Eは,本件会合が選挙協力を依頼する趣旨のものであり,本件受供応者らから会費を受け取っていない旨を捜査機関に対して供述した(乙78~82,241,242,245~249)。

なお,Eは,平成19年10月10日及び同年11月14日付け各供述書(甲48,51)で,上記の各供述内容を否定し,原告からbの人たちとの親睦会があるから来てくれと言われたので行っただけで,何のための親睦会かは考えなかった,自分も原告も本件会合では選挙の話は一切していない,参加者は会費を支払っており,自分も集めて原告に渡したなどと供述している。しかし,会合の趣旨に関する供述が上記(ア)~(ク)に指摘した事実に反し不合理であり,また,その供述するような経緯で参加したのであれば,なぜ冒頭に挨拶を行い,しかも支払も担当したのか全く不明であるし,会費を集めたとの点もその根拠が全く示されておらず,さらに,以下のEに関する刑事裁判の経過にも照らせば,捜査機関に対する供述内容を否定する上記供述は全く信用できないというべきである。

なお,Eは,原告との共同正犯として,本件事実2と同一の公訴事実により起訴され,公判でも事実を認め,平成18年5月11日,京都地方裁判所で有罪判決を受け,同判決に対し控訴することもなく,同判決は確定した(乙321)。同人はその後再審請求をしたが,取り下げた(乙356)。

(サ) 本件受供応者らは,いずれも,捜査機関に対し,本件事実2に対応する,原告から供応接待を受けたことを供述した上,公職選挙法違反で略式命令を受け,これらについて正式裁判の請求を行わなかった(前記1(2)。なお,前記Oについては,会費の支払についてはやや曖昧な供述にとどまっていたが,同人も,略式命令請求に異議を述べず,正式裁判請求も行わなかったことは同様である。)。

そして,前記1(2)セのとおり,本件受供応者ら(Sを除く)は,平成19年9月以降,本当は会費を支払ったのであって供応接待の事実はなく,本件事実2を認めた過去の供述は虚偽であった旨供述するようになり,そこでは,本件会合において,原告やEは選挙に関する話などをしなかったとして,本件会合の趣旨が選挙協力依頼目的であったことを否定するかの趣旨を述べている(甲7~10,21~28,37~47)。

しかし,前記1(1)のように,本件会合の会場が,本件受供応者らが居住していた当時のb町からは離れた,京都府c市のf温泉にあるdであり,原告の手配で予約されていること,本件受供応者らは,原告の指示を受けたGらの車やマイクロバスによる送迎を受けた上で参加していることなどからして,本件受供応者らが選挙とは無関係に会費を支払って参加するような会であったとは考えにくい。また,選挙協力依頼目的ではないとすると,J,Eが参加したことの合理的説明がつかない。さらに,明らかに実際とは異なる内容の領収書(上記(キ))について,だれも特段の疑義を述べたようにはうかがわれず,この点も不自然である。また,本件事実2があったことを警察官に対し最初に認めた日について,客観的事実と異なる日を述べる者も見受けられる(甲38,39,43,45,47)。

これに対し,捜査機関に対する本件受供応者らの供述は,関係の証拠にもよく整合している。また,前記1(2)のとおり,これら供述は,身柄拘束を受けていない状況でされたものであり,身柄拘束を受けている場合に比し,虚偽の自白を強制される危険は低かったものといえる。

以上によれば,本件受供応者ら(Sを除く)の捜査機関に対する供述は信用できる一方,平成19年9月以降の供述は,不合理であって信用できないというべきである。

(シ) 原告は,本件事実2について,捜査段階の途中から事実を認め,本件公判期日においても事実を認めて本件有罪判決を受け,控訴もしなかった。(前記1(3))

なお,原告は,本件事実2について,前記各供述書及び陳述書並びに原告本人尋問においては,本件会合は選挙とは無関係であり,本件受供応者らはいずれも会費を支払った旨を供述している。

しかしながら,原告は,本件会合の趣旨につき,逮捕前の平成18年2月には,gが開いたもので自分は立ち寄ったがすぐに退席したとか,逮捕直後には,gの営業拡大のための宴席であると思っているなどと述べていたのに(前記1(3)),原告代理人との話を経て違法取調べを主張するようになってからは,本件会合は,長年親しくつきあっていた前記Oから,bの人を数人寄せて飲もうという話を持ちかけられて行われたもので,会場については自分がgの事務員に探して予約するように言ったが,bの人らが中心となって企画されていたので,会合の予算などについては知らないし,会合の趣旨も,bの者らとの会食程度と思っていた旨供述しており(甲2,52),本件会合の趣旨について供述を変遷させている。原告は,現在では,逮捕前及び逮捕直後の供述は虚偽であったことを認め,後の供述が真実である旨供述しているが(原告本人尋問48頁),供述が変遷した合理的理由は何ら説明されていない。また,本件会合の契機が上記供述のとおりだとすると,なぜ12名もの当時のb町の住民(しかも,原告にとって初対面の者も含まれていた。)が参加したのかの理由が全く不明であるし,JやEが原告の呼びかけにより参加した趣旨も全く不明である。会合の予算などについては知らないはずなのに,なぜ原告が40万円を会社から貸付金として入手し,しかもこれをEに渡して,同人が支払を行ったのかも不明である。

このように,原告の本件会合の趣旨,会費支払に関する前記各供述書及び陳述書並びに原告本人尋問における供述は,変遷をしている上に,その供述内容も極めて不合理であって到底信用できない。

以上(ア)~(シ)までの各事実によれば,本件会合は,原告がa市長選挙での協力を参加者に依頼する目的で開かれたと考えるほかないし,その見返りとして,原告が費用を負担して供応接待をし,参加者らは会費を支払っていなかったことが優に認められ,本件事実2があったことが明らかである。なお,原告は,本件事実2の存在を否定するものとして種々の証拠を提出しているが,これらを考慮しても,上記判断は左右されない。

そうすると,既に上記(シ)でも検討したように,原告が,このような本件会合が選挙目的であることを否定し,会費も支払われたと供述して,本件事実2を否定している点は,不合理であり全く信用できないし,むしろこの供述は虚偽であるということになる。

イ 自白が虚偽であった旨の供述の信用性

以上アの検討結果によれば,本件事実2を認めた捜査段階の原告の自白は,虚偽ではなかったと認められる。したがって,自白が虚偽であった旨の原告の供述も全く信用できず,むしろ虚偽であるということになる。

なお,自白後の経緯について,原告は,虚偽の自白をしはじめた際に,警察官に対し,本件受供応者らの調書に合わせてくださいと言い,その後の警察官の取調べでは,とにかく任せます,bの人に合うようにしておいてくれたらいいからと言っておいたら,自分の経歴など以外の事件の話についての調書は警察官のほうで別室で作ってきて,自分は署名をするだけであったとか(甲3,52),その後の検察官の取調べでは警察の調書に合わせてくださいと言っただけである(甲52,59,原告本人尋問35頁)などと説明しているが,実際の供述調書には,およそ捜査官が一方的に作成したとは考えられないような内容が記載されているものがあり(たとえば,当選翌日や翌々日に本件受供応者らのうち数名が警察に呼ばれたことに関する対応や,その際の自己の心情,選挙で自分を支援した衆議院議員との間のやりとり等が記載された平成18年3月23日付け警察官に対する供述調書・乙205),原告の説明は不合理というほかなく,ここには,虚偽ではない自白を虚偽であるとしたため,その後の経緯について説明するのが困難になってしまったことが如実に表れているといえ,これは,まさに自白が虚偽ではなく,むしろ自白が虚偽であったとの原告の供述の方が虚偽であることを示す一つの事情であるといえる。

ウ 被告Aの取調べについての供述の信用性

以上ア,イを前提に,被告Aの取調べについての原告の供述の信用性を検討する。

(ア) 原告が被告Aの違法な取調べを供述するに至った経緯等

前記ア,イの検討結果に加えて,前記1(7)の違法な取調べが主張されるようになった経緯に関する事実や,原告が,違法な取調べを主張するようになった当初,被告Aによる取調べをも虚偽自白の理由として供述していたこと(前記2(3)ア(ア)。供述書・甲2,3)などからすると,原告は,本件受供応者らが本件各再審請求をしたことにより,原告も本件会合の趣旨が選挙目的ではなく,会費も支払われたという真実とは異なる供述をし,本件事実2を認めていた過去の自白の方を虚偽であるとする必要が生じたため,過去に虚偽自白を述べた理由が必要になり,そこで,この理由を捜査官から受けた取調べの不当性に求めるべく,被告Aにより原告著書を踏まれるなどの取調べが行われたと供述するようになったものとうかがわれる。

そうすると,被告Aによる取調べについての原告の供述は,虚偽であって全く信用できないところの,本件事実2を否定する供述(上記ア),自白が虚偽であった旨の供述(上記イ)と極めて密接な関係にあり,これら供述と一体をなすものと考えるべきである。

また,Aによる取調べについての原告の供述は,上記のように,当初は虚偽自白の理由として述べられていたのであるが,そもそも虚偽自白の理由に関する原告の供述も信用できないものである(前記2(3))。

(イ) 原告の供述の具体性等

他方で,原告の被告Aの取調べに関する供述は,それ自体としてみると,特に本を踏まれた際の被告Aの言動,取調べに同席していた被告Bのその前後の言動等につき,相当に具体的な形で再現されており(甲53,57,原告本人尋問),供述に迫真的な面も認められる上,自らの著書を踏まれるという屈辱的な出来事につき,現実に起きていないのにあえて虚偽の話を創作することがやや考え難いといえなくもないなどの事情も認められる。

(ウ) しかしながら,(ア)で指摘したように,原告の被告Aの取調べに関する供述は,虚偽であり全く信用できない原告の供述と極めて密接で一体をなすものである上,信用できない虚偽自白の理由に関する供述の一部をなしている。これらの事情に照らすと,被告Aの取調べに関する原告の供述は,その供述の信用性を強く根拠づける特段の事情がない限り,上記の信用できない各供述と切り離して,その信用性を肯定することはできないと考えるべきである。

そして,原告が取調べ方法について虚偽の話を創作する可能性も皆無ではないこと(現に,本や書類で机等をたたくなどの取調べ方法については,ほかにもこれを述べている者がおり(甲37,48),原告代理人からも話を向けられており(前記1(7)),原告が創作できない話ではないし,また,被告Aらが原告著書を取調べの際に持ち込んでいたとの事実からすれば,原告が,著書で机等をたたくという取調べ方法のいわば延長として,著書を踏まれたとの事実を創作する可能性も全くないとはいえない。)などに照らせば,上記(イ)のような事情のみでは,未だ,被告Aの取調べに関する原告の供述の信用性が特に強く根拠づけられていると評価することはできない。

以上によれば,被告Aの取調べに関する原告の供述を信用することはできず,その供述どおりの事実を認定することもできないといわざるを得ない。

(4)  以上の(3)の検討に加え,前記(1),(2)の検討結果にも照らせば,原告が主張するような被告Aによる取調べがあった事実は認められない。

したがって,争点(2)に関する原告の主張は認められない。

4  争点(3)について

(1)  捜査機関の側に,原告の自白を得るために,あえて違法あるいは違法と疑われるような取調べ方法をとる必要のない状況であったことは,前記2(2)と同様である。

(2)  この点の捜査に関し,原告及び当時の弁護人から,不服申立てや抗議等がなく,本件公判期日においても何ら争われることがなかったことは,前記3(1)と同様であり,これは,そもそも本争点で原告が主張するような被告Bによる取調べがなかったことをうかがわせる事情である。

(3)  本争点についても,原告の主張の証拠として,原告の供述書及び陳述書並びに原告本人尋問における供述があることは,争点(1),(2)と同様である。

そして,原告の本件事実2を否定する供述,過去の自白が虚偽であった旨の供述は,いずれも虚偽であり全く信用できないことは,既に前記3(3)ア,イで述べたとおりであり,また,本争点で原告が主張するような被告Bによる取調べが主張されるようになった経緯については,前記3(争点(2))で問題とされた被告Aによる取調べとほぼ同様である(前記1(7)の事実等)。したがって,前記3(3)ウと同様に,原告の供述から,本争点で原告が主張するような被告Bの取調べがあったとは認められないことも,また同様である。

(4)  以上によれば,争点(3)に関する原告の主張は認められない。

5  争点(4)について

(1)  辞職の強要をする必要性

捜査機関にとって,原告がa市長を辞職するか否かは,本件事実2の公職選挙法違反の事実について捜査し,原告を取調べ,事案を解明する必要性には,何ら関係しない。したがって,捜査官が,被疑事実と関係なく,原告に市長の辞職を強要することには何の利点もない。よって,捜査官である被告Bがそのような行為に出るとはそもそも考え難い。

(2)  原告の供述の信用性

本争点についても,原告の主張の証拠として,原告の供述書及び陳述書並びに原告本人尋問における供述があることは同様である。

しかし,原告の本件事実2を否定する供述,過去の自白が虚偽であった旨の供述は,いずれも虚偽であり全く信用できないことは,既に述べたとおりであり,本争点で原告が主張する辞職強要の事実が主張されるようになった経緯も,前記3(争点(2)),4(争点(3))で問題とされた取調べと同様である(前記1(7)の事実等)から,前記3,4と同様に,原告の供述から被告Bによる辞職強要の事実を認めることができないことも,また同様である。

(3)  以上によれば,争点(4)に関する原告の主張は認められない。

6  争点(5)について

起訴後勾留中の被告人について,起訴されていない余罪につき任意の取調べを行うことは,それだけでは直ちに違法とはならない(刑訴法197条,198条等)。原告は,特段の説明がなかったとか,弁護人の立ち会いがなかった,任意で取調べに応じるかどうかの打診を受けたこともなかったなどと主張するが,本件では,これらを含め,例えば取調べが任意のものではなかった等の,上記取調べが違法であったことをうかがわせるような事情は,何ら立証されていない。

よって,本件における起訴後の余罪取調べが違法であったとは認められず,争点(5)に関する原告の主張は認められない。

7  争点(6),(7)について

以上のとおり,本件では,被告A,同B,同Cによる不法行為があったとは認められない。したがって,争点(6),(7)は,これを判断する必要がない。

8  結論

以上のとおり,原告の請求には理由がないから,いずれも棄却することとする。

(裁判長裁判官 瀧華聡之 裁判官 佐野義孝 裁判官 梶山太郎)

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