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京都地方裁判所 平成19年(ワ)3399号 判決 2008年2月07日

原告

甲野昭雄

上記訴訟代理人弁護士

高田良爾

被告

甲野二郎

主文

1  被告は,亡甲野一郎に対し,別紙物件目録記載の各不動産について,平成11年4月4日ころ死因贈与を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

1  請求の趣旨

(1)  (主位的請求の趣旨)

主文1項同旨

(予備的請求の趣旨)

被告は,亡甲野一郎に対し,別紙物件目録記載の各不動産について,平成11年4月4日ころ贈与を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

(2)  訴訟費用は被告の負担とする。

2  請求原因

(1)  丙川春子,被告,甲野一郎は,甲野太郎(昭和25年8月22日死亡)と甲野花子(昭和54年9月27日死亡)との間の長女,長男,二男であり,原告は,甲野一郎とその妻である甲野夏子との間の長男である(別紙相続関係図参照)。

(2)  丙川春子は,別紙物件目録記載の各不動産(以下「本件不動産」という。)を所有していた。

(3)  (主位的主張―死因贈与)

丙川春子は,平成11年4月4日ころ,甲野一郎に対し,自己の死亡を原因として本件不動産を贈与した。

(予備的主張―贈与)

丙川春子は,平成11年4月4日ころ,甲野一郎に対し,本件不動産を贈与した。

(4)  甲野一郎は,平成15年3月29日に死亡した。

(5)  丙川春子は,平成19年4月7日に死亡した。

(6)  甲野夏子と原告との間において,平成19年6月30日,原告が本件不動産を単独取得するとの遺産分割協議が成立した。

(7)  よって,原告は,被告に対し,所有権に基づき,請求の趣旨記載の所有権移転登記手続を求める。

理由

1  被告は,適式の呼出しを受けながら本件口頭弁論期日に出頭せず,答弁書その他の準備書面も提出しないから,請求原因事実を争うことを明らかにしないものとして,これを自白したものとみなす。

2  請求原因(4)及び同(5)によれば,受贈者である甲野一郎は贈与者である丙川春子より先に死亡していることが認められる。

そこで,請求原因(3)の主位的主張である死因贈与について,受贈者が贈与者より先に死亡した場合の死因贈与の効力について検討する。

民法994条1項は,遺言者の死亡以前に受遺者が死亡した場合,遺贈は効力を生じないと規定するが,遺贈は遺言者の一方的意思表示によってなされるものであるから,同時死亡の場合は別としても,受遺者が遺言者より先に死亡した場合には遺言者は当該遺贈の目的物を自己の意思に従って再度処分できるとするのが相当であるから,民法994条1項の規定は合理的な理由がある。

しかし,死因贈与は贈与者と受贈者との間の契約である以上,贈与者の意思で一方的に撤回することはできない(但し,書面によらない死因贈与は,履行の終わった部分を除き,撤回することができる〔民法550条〕。)うえ,契約成立の時点において,受贈者には贈与者の死亡によって当該死因贈与の目的物を取得できるという期待権が生じているといえる。

上記のような遺贈と死因贈与の相違及び民法994条1項を死因贈与に準用する旨の明文の規定がないことを考慮すれば,受贈者が贈与者より先に死亡した場合,死因贈与は効力を生じないとはいえない。

したがって,受贈者が先に死亡したとしても,その後,贈与者が死亡した場合,死因贈与は効力を生じ,当該死因贈与の目的物は受贈者の遺産になると解される。

そして,請求原因(6)によれば,贈与者である丙川春子の死亡によって死因贈与が効力を生じた後,甲野一郎の相続人である甲野夏子と原告との間において,原告が本件不動産を単独取得するとの遺産分割協議が成立したことが認められるから,原告は本件不動産の所有権を取得したといえる。

3  以上によれば,主位的請求の趣旨記載の所有権移転登記手続を求める原告の請求は理由があるから認容することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条を適用して,主文とおり判決する。

(裁判官 田中義則)

別紙

物件目録<省略>

相続関係図<省略>

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