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京都地方裁判所 平成19年(ワ)3475号 判決 2008年5月28日

主文

1  原告らの主位的請求に係る訴えを却下する。

2  被告の平成19年10月29日開催の第51回定時株主総会における、別紙議案目録記載の第1号議案を可決する決議、第2-1号議案を可決する決議、第3-1号議案を可決する決議、第4号議案を可決する決議及び第5号議案を可決する決議をいずれも取り消す。

3  訴訟費用は、これを7分し、その5を被告の負担とし、その余を原告らの負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  主位的請求

被告の平成19年10月29日開催の第51回定時株主総会において、別紙議案目録記載の議案のうち、①第1号議案が否決されたこと、②第2-1号議案が否決されたこと、③第2-2号議案が可決されたこと、④第3-1号議案が否決されたこと、⑤第3-2号議案が可決されたこと、⑥第4号議案が否決されたこと、⑦第5号議案が否決されたことをそれぞれ確認する。

2  予備的請求1

被告の平成19年10月29日開催の第51回定時株主総会における、別紙議案目録記載の議案のうち、①第1号議案を可決する決議、②第2-1号議案を可決する決議、③第3-1号議案を可決する決議、④第4号議案を可決する決議、⑤第5号議案を可決する決議はいずれも存在しないことを確認する。

3  予備的請求2(予備的請求1とは選択的併合)

主文第2項と同旨。

第2事案の概要

1  本件は、被告の株主である原告らが、被告の平成19年10月29日開催の第51回定時株主総会(以下「本件総会」という。)において決議が行われた別紙議案目録記載の各議案(以下、総称し「本件各議案」という。)につき、主位的に、前記第1の1記載のとおりの可決決議及び否決決議が成立したことの確認を求め、予備的に、前記第1の2記載の各可決決議が存在しないことの確認、又は前記第1の3記載の各可決決議の取消を求めた事案である。

2  当事者間に争いのない事実等

(1)  当事者等

ア 被告は、各種金属のプレス加工等を目的とする株式会社(全株式譲渡制限会社、取締役会設置会社、監査役設置会社)である(乙22)。

イ A(以下「A」という。)とB(以下「B」という。)は、昭和20年7月10日に婚姻し、その間に、長女原告X1(昭和○年○月○日生)(以下「原告X1」という。)、二女C(昭和○年○月○日生)(以下「C」という。)、三女原告X2(昭和○年○月○日生)(以下「原告X2」という。)の3子をもうけた。

昭和48年5月29日、D(被告代表者)(以下「D」という。)は、Cと婚姻するとともに、A及びBとの間で養子縁組の届出を行った。DとCは、その間に、長男E(以下「E」という。)、長女F(以下「F」という。)の2子をもうけた。

その余の親族関係は、別紙「相続関係図」記載のとおりである。

(2)  A及びBの死亡、相続

ア Aは、平成18年6月4日に死亡し、妻であるB(法定相続分2分の1)及び子である原告ら、D及びC(法定相続分各8分の1)は、Aが生前有していた権利義務を相続した。

イ Bは、平成18年8月3日、全ての財産を原告らにそれぞれ等分の割合にて相続させる旨の遺言(以下「本件遺言」という。)を残し死亡した。

ウ D及びCは、平成18年11月7日、京都家庭裁判所に対し、原告らを相手方として、Aを被相続人とする遺産分割審判の申立てを行い(同裁判所平成18年(家)第2677号遺産分割審判申立事件)、同裁判所において現在審理が行われている。

(3)  株式の帰属

ア 被告は、Aが死亡した平成18年6月4日当時、合計3万株の株式を発行しており、その株主構成は次のとおりであった。

A 9700株(以下「A保有株式」という。)

B 2500株(以下「B保有株式」という。)

原告X1 1250株(以下「X1保有株式」という。)

原告X2 1750株(以下「X2保有株式」という。)

C 5700株(以下「C保有株式」という。)

D 7100株(以下「D保有株式」という。)

E 1250株(以下「E保有株式」という。)

F 750株(以下「F保有株式」という。)

イ Aの死亡により、A保有株式は、相続人であるB、原告ら、D及びCが相続し、上記のとおり遺産分割が未了であるため、上記5名の準共有(準共有持分は、B・2分の1、原告ら、D及びCが各8分の1である。)に属することになった。

ウ Bの死亡及び本件遺言(なお、被告は、本件遺言の効力を争っていない。)により、Bの有していたA保有株式の準共有持分及びB保有株式は原告らが相続し、上記のとおりAの死亡に伴う遺産分割が未了であるため、A保有株式は、原告ら、D及びCの準共有(準共有持分は、原告らが各8分の3、D及びCが各8分の1である。)に属し、B保有株式は、原告らの準共有(準共有持分は各2分の1である。)に属することになった(乙12)。

(4)  被告の定款の内容(甲1)

被告は、定款で、営業年度は、毎年8月1日から翌年7月31日まで(第25条)、定時株主総会は、営業年度末日の翌日から3か月以内に招集し(第14条)、株主総会における議長は、代表取締役社長がこれに当たるもの(第15条、第22条第1項、第2項)と定めている。

(5)  A保有株式を巡る従前の紛争の経緯

ア 被告の役員は、Bが死亡した平成18年8月3日から同年12月11日までの間、次のとおりであった(乙22)。

代表取締役:D

取締役:D、H、C、E及びMの5名

監査役:原告X2

イ 原告らは、被告に対し、少数株主権に基づき、平成18年10月19日付けの書面により、①取締役解任の件、②取締役選任の件及び③監査役選任の件を目的事項(議題)とする臨時株主総会の招集を請求し、次の内容の議案を提出した(弁論の全趣旨)。

(ア) 目的事項(議題)①取締役解任の件について

D、C、E及びMを取締役から解任する。

(イ) 目的事項(議題)②取締役選任の件について

原告X2、原告X1及びGを取締役に選任する。

(ウ) 目的事項(議題)③監査役選任の件について

Jを監査役に選任する。

ウ 原告らの代理人であるK弁護士(原告ら訴訟代理人)(以下「K弁護士」という。)は、被告に対し、平成18年10月23日に被告に到達した同月19日付け内容証明郵便により、A保有株式の権利行使者を原告X2と指定する旨を通知した(甲5、6、弁論の全趣旨)。

エ D及びCは、被告に対し、平成18年10月25日に被告に到達した書面により、D及びCはA保有株式の権利行使者を原告X2と指定することにつき同意しておらず、原告X2が自己の判断に基づきA保有株式の議決権を行使することについて異議があるので、原告X2の議決権行使を認めないように求めた(弁論の全趣旨)。

オ 被告は、平成18年11月28日、取締役会を開催し、原告らの上記招集請求に基づき同年12月11日に京都市子育て支援総合センターにおいて臨時株主総会を開催することを決議した。代表取締役(D)は、同年11月29日ころ、被告の株主に対し、上記取締役会決議に基づき、臨時株主総会の招集通知を行った。

カ 被告は、平成18年12月11日、臨時株主総会を開催し、上記イ①ないし③の目的事項(議題)に関する各議案について決議を行った。

上記株主総会において、原告X2は、X2保有株式及びA保有株式の議決権を行使し、原告X1はX1保有株式の議決権を行使し、それぞれ上記の各議案に賛成し、他の株主は、上記の各議案に反対した。

議長(D)は、A保有株式について、原告X2の議決権行使を認めないこととして議事を進行し、上記いずれの議案についても、反対多数で否決された旨を宣言した(弁論の全趣旨)。

キ 原告X2は、平成18年12月12日、京都地方裁判所に対し、D、C、E及びMを債務者として、上記株主総会において同人らを取締役から解任する旨の決議が可決成立していると主張し、「被告の取締役としての職務を執行してはならない。」との仮処分命令を求める申立てを行った(同裁判所平成18年(ヨ)第661号)(甲14)。同裁判所は、上記申立てに対し、平成19年3月23日、被保全権利の存否について判断しないまま、保全の必要性が認められないとして、上記申立てを却下する旨決定した(乙23、弁論の全趣旨)。

(6)  本件総会に先立つ仮処分命令の申立て等

ア 原告X2は、平成19年4月13日、京都地方裁判所に対し、被告を債務者として、「A保有株式について、同株式の遺産分割協議が成立するまでの間、債権者(原告X2)に対し、株主としての議決権行使を許さなければならない。」との仮処分命令を求める申立てを行った(同裁判所平成19年(ヨ)第193号)。同裁判所は、上記申立てに対し、同年5月31日、被保全権利の存否について判断しないまま、保全の必要性が認められないとして、上記申立てを却下する旨決定した(乙24)。

イ 原告X2は、平成19年6月6日、京都地方裁判所に対し、被告を債務者として、「債務者(被告)は、A保有株式について、債権者(原告X2)が、平成19年7月31日から3か月以内に招集される債務者(被告)の定時株主総会において、その株主権を行使することを妨害してはならない。」との仮処分命令を求める申立てを行った(同裁判所平成19年(ヨ)第291号)。同裁判所は、上記申立てに対し、同年7月17日、被保全権利の存否について判断しないまま、保全の必要性が認められないとして、上記申立てを却下する旨決定した(乙25)。

原告X2は、大阪高等裁判所に対し、即時抗告の申立てを行った(同裁判所平成19年(ラ)第673号)。同裁判所は、上記申立てに対し、平成19年8月8日、次の理由で、被保全権利の疎明がないとして、抗告を棄却する旨決定した(以下「本件抗告審決定」という。)(乙26)。

(ア) 株式を相続により準共有するに至った共同相続人が、その株式の権利行使者を指定するにあたり、共有物の管理行為として、持分の価格に従いその過半数をもってこれを決することができると解されるにしても、A保有株式の権利行使者の指定が準共有者の間で協議されたことを示す決議書などの疎明はない。

(イ) 仮に、上記協議が行われたと解する余地があるとしても、抗告人(原告X2)が主張する権利行使の内容は、今回の株主総会でのA保有株式の株主権の行使であり、D及びCの取締役退任(再任しない)と抗告人(原告X2)らが相手方(被告)の取締役に選任されるという議案に賛成するという内容の議決権の行使であることは当事者双方の主張から明らかである。この議案が決議されることとなれば、D及びCの準共有持分も賛成票を構成し、当のD及びCは取締役の地位を喪失することになり、A保有株式の権利行使内容は、D及びCがA保有株式の準共有持分を有することで企図している相手方(被告)における経営関与の態様を根幹から覆す結果となる。このような株主権の行使が、多数決によって決せられる準共有物の管理行為の範囲内に属するとは到底解されない。

(ウ) したがって、A保有株式の権利行使者として抗告人(原告X2)が指定されたとし、またこの指定が法的に有効であるとしても、今回の株主総会における今回の議案の議決については、抗告人(原告X2)がA保有株式の株主権を行使することはできない。

ウ 原告X2は、平成19年8月11日、大阪高等裁判所に対し、許可抗告の申立てを行った(同裁判所平成19年(ラ許)203号)。同裁判所は、上記申立てに対し、同年9月4日、これを許可しない旨決定した(乙27、28)。

(7)  原告らによる議題・議案の提出

ア 原告らの代理人であるK弁護士及びN弁護士(以下「N弁護士」という。)(いずれも原告ら訴訟代理人)は、株主の議題・議案提案権に基づき、被告に対し、平成19年6月1日付けの書面(乙1)により、①取締役選任の件及び②監査役選任の件を平成19年度の定時株主総会(本件総会)の目的事項(議題)とすることを請求し、次の内容の議案を提出した。

(ア) 目的事項(議題)①取締役選任の件について

原告X2、原告X1、G、H、Iを取締役に選任する。

(イ) 目的事項(議題)②監査役選任の件について

Jを監査役に選任する。

イ 原告らの代理人であるK弁護士及びN弁護士は、本件抗告審決定の後である平成19年9月12日付けの書面(乙2)により、目的事項(議題)①に関する上記ア(ア)の議案を「原告X2、原告X1、H、D、Cを取締役に選任する。」と修正した。

ウ 原告らの代理人であるK弁護士及びN弁護士は、平成19年9月14日付けの書面(乙3)により、③有限会社aの件を本件総会の目的事項(議題)とすることを請求し、次の内容の議案を提出した。

目的事項(議題)③有限会社aの件

同社との間で締結されている平成10年4月1日付け業務委託契約について、同社に対して契約解除の意思表示をする。又、同社に対する金銭貸付けについて、その違法性に基づき即時に返還を請求する。

(8)  本件総会の招集

ア 被告は、平成19年10月19日、取締役会を開催し、下記日時、場所において、目的事項(議題)を別紙「議案目録」記載の目的事項(議題)①から③までとし、各目的事項(議題)に関する会社提案の議案を第1号議案、第2-1号議案及び第3-1号議案として定時株主総会(本件総会)を開催することを決議した。

なお、被告は、上記取締役会において、第3-1号議案の監査役候補者について、原告X2が就任を承諾しない場合に備え、予備の候補者としてLを推薦することとしたが、後記の招集通知には予備の候補者に関する記載をしなかった。

原告らの代理人であるK弁護士及びN弁護士から請求のあった目的事項(議題)③有限会社aの件については、取締役の業務執行上の事項であること(株主総会の決議事項ではないこと)及び株主代表訴訟の争点であることから目的事項(議題)とはしないこととした(乙4ないし6)。

(ア) 日時 平成19年10月29日午後3時

(イ) 場所<省略>

イ 代表取締役(D)は、上記取締役会決議に基づき、被告の各株主に対し、平成19年10月19日ころ、上記日時、場所、目的事項(議題)及び議案に加え、株主提案に係る別紙「議案目録」記載の第2-2号議案及び第3-2号議案の内容を記載した同日付けの書面(甲7、以下「本件招集通知」という。)により、本件総会の招集を通知した(弁論の全趣旨)。

(9)  権利行使者の指定等

ア 原告らは、D及びCに対し、平成19年10月18日にD及びCに到達した(乙8)、同日付け「協議申し入れ書」(乙7)により、①「A保有株式に係る権利行使者を原告X2とする」協議を申し入れ、②原告らは、この点について全く譲る意思がないから、原告X2をA保有株式の権利行使者に指定することを受諾するか否か「のみ」を同月19日午後5時までにファクシミリで回答することを求めた。

D及びCは、原告らの上記申入れに対し、平成19年10月19日付けの書面(乙8)により、A保有株式の権利行使者を指定するにあたっては、議決権行使の対象となる議案ごとに、原告ら、D及びCの間で実質的な協議を行って決定すべきであるなどとして、原告らに対し、逆に、Bが原告らに被告の株式を全て相続させる意思を有していたことを明確に示す証拠を示すこと、本件総会の目的事項(議題)②に関する第2-2号議案の取締役候補者を平成19年9月12日付けの書面(乙2)で修正した理由や被告の経営方針等を説明することなどを求めた。

イ 原告らは、D及びCに対し、平成19年10月19日付けの書面(乙9の2)により、D及びCが提示した上記疑問点について何ら説明・回答をしないまま、D及びCが、指定した期限までに「A保有株式に係る権利行使者を原告X2とする」ことを受諾する旨の回答をしなかったから、もはや協議を継続しても何らかの合意に達することはできないものと思われるとし、協議不調として処理する旨を通知した。原告らは、平成19年10月19日付けの書面(乙10の2)により、被告に対し、A保有株式の権利行使者として原告X2を指定する旨を通知した。

ウ D及びCは、被告に対し、平成19年10月25日付けの書面(乙11)により、A保有株式の権利行使者指定に関し実質的な協議を行っていないとして、本件株主総会において、原告X2がA保有株式の議決権を行使することを認めないように求めた。

(10)  本件総会の進行

ア 被告は、平成19年10月29日、本件招集通知記載の時刻・場所において、本件総会を開催した(乙20)。

イ 本件総会には、次のとおり、発行済み全株式につき各株主又はその代理人が出席するとともに、取締役4名が出席し、取締役H及び監査役原告X2は欠席した。

(ア) 株主(乙13ないし18)

a D

b C

c E

d 原告X1代理人N弁護士

e 原告X2代理人K弁護士

f D代理人古家野泰也弁護士(被告訴訟代理人)(以下「古家野弁護士」という。)

g C代理人兼E代理人兼F代理人O弁護士(以下「O弁護士」という。)

(イ) 取締役(乙20)

a D

b C

c E

d M

ウ 本件総会では、被告の定款に基づき、代表取締役社長であるDが議長を務めた(乙19、20)。

エ 本件総会では、議長(D)は、本件各議案につき各議案ごとに(目的事項②及び同③についても候補者ごとではなく各議案ごとに)、決議を行った。本件各議案のうち、第1号議案、第2-1号議案及び第3-1号議案は、取締役会の決議に基づく会社提案の議案であり、第2-2号議案及び第3-2号議案は、株主(原告ら)提案(上記(7)の提案)の議案である。

ついで、本件総会の席上、D(代理人古家野弁護士)は、株主の議題・議案提案権に基づき、目的事項(議題)④監査役予備候補者の件及び第4号議案、並びに目的事項(議題)⑤役員報酬の件及び第5号議案を提出した。これに対し、原告X2(代理人K弁護士)は、動議の範疇を超えるとの異議を述べたが、議長(D)は、この異議を認めず、決議を行った(乙19、20)。

オ 本件総会では、次のとおり、各株式の議決権が行使された。

(ア) A保有株式及びB保有株式を除く各株式については、上記各代理人が議決権を行使し、原告らが準共有するB保有株式(2500株)については、被告の同意のもと、原告X1(代理人N弁護士)及び原告X2(代理人K弁護士)が、それぞれ1250株ずつ議決権を行使した。

(イ) N弁護士及びK弁護士は、X2保有株式及びX1保有株式(以下併せて「原告ら保有株式」という。)(合計3000株)並びにB保有株式(2500株)につき、次のとおり、議決権を行使した。

第1号議案 反対

第2-1号議案 反対

第2-2号議案 賛成

第3-1号議案 反対

第3-2号議案 賛成

第4号議案 反対

第5号議案 反対

(ウ) 古家野弁護士及びO弁護士は、D保有株式、C保有株式、E保有株式及びF保有株式(合計1万4800株)につき、次のとおり議決権を行使した。

第1号議案 賛成

第2-1号議案 賛成

第2-2号議案 反対

第3-1号議案 賛成

第3-2号議案 反対

第4号議案 賛成

第5号議案 賛成

(エ) 原告X2(代理人K弁護士)は、A保有株式(9700株)の権利行使者として、上記(イ)と同様の内容で議決権を行使しようとしたが(以下、この議決権行使を「本件議決権行使」という。)、議長(D)は、①準共有者間で協議がされていないこと(乙20)、②本件抗告審決定が出ていること(乙19)を理由に、本件議決権行使を認めなかった。

カ 上記オの議決権行使の結果を踏まえ、議長(D)は、次のとおりの各決議(以下、総称して「本件各決議」といい、本件各決議のうち各可決決議を総称して「本件各可決決議」という。)が成立したことを宣言した。

第1号議案 可決

第2-1号議案 可決

第2-2号議案 否決

第3-1号議案 可決

第3-2号議案 否決

第4号議案 可決

第5号議案 可決

キ 被告は、本件各決議に基づき、平成19年10月31日、次のとおり、役員登記をした(乙21、22)。

(ア) D、C、E及びMの同月29日付け取締役重任登記

(イ) Dの同月29日付け代表取締役重任登記

(ウ) Hの同月29日付け取締役退任登記及び同月30日付け取締役就任登記

(エ) 原告X2の同月29日付け監査役退任登記及び同月30日付け監査役就任登記

3  争点

(1)  主位的請求に係る訴えについての確認の利益の有無

(2)  原告X2はA保有株式の議決権を行使することができるか。

(3)  前記第1の1記載の各決議は成立しているか。

(4)  本件各可決決議に不存在事由又は取消事由が存在するか。

4  争点に関する当事者の主張

(1)  争点(1)(主位的請求に係る訴えについての確認の利益の有無)について

(原告らの主張)

ア 株主総会において、ある議案が可決又は否決されたにもかかわらず、これと逆に、会社側が恣意的に否決又は可決とみなすような場合、法的にも事実的にも、前者の決議が成立しているのであり、かかる場合には、確認の利益がある限り、いつでも、誰でも、どのような方法でも、決議の成立又は不成立の確認を主張できる。

イ 本件では、本件総会における本件各議案についての決議の存否につき、原告らと被告との間で争いがある(本件総会においては、前記第1の1記載の各決議が成立しているにもかかわらず、被告は、恣意的に、これらと逆の決議〔本件各決議〕が成立したとみなしている。)し、原告らの主張する各決議の存在を前提とする個々具体的な権利又は法律関係の存否を確認するのみでは、事態の根本的解決にはほど遠く、徒に時間及び費用を浪費するだけであり、各決議の存否の確認をすることが、事案の直接かつ抜本的な解決のため、必要かつ適切であるといえるから、原告らの主位的請求に係る訴えに確認の利益が認められることは明らかである。

(被告の主張)

ア 原告らの主位的請求に係る訴えは、実質的には、本件総会における決議の不存在ではなく、本件総会において原告らが提案した議案の可決決議の存在を前提とした権利関係及び法律関係の有無についての確認を求めるものであると思われるところ、このような訴えは、決議不存在確認訴訟の範疇を超えている。

イ また、否決された決議については、これに基づき登記がされることもなく、新たな法律関係が展開されるものでもないから、確認の利益がない。

ウ したがって、原告らの主位的請求に係る訴えは、確認の利益を欠く不適法なものとして却下されるべきである。

(2)  争点(2)(原告X2はA保有株式の議決権を行使することができるか。)について

(原告らの主張)

ア 株式を相続により準共有する者の間で権利行使者を定めるにあたっては(会社法106条参照)、持分の価格に従い、その過半数をもってこれを決することができる(最高裁平成9年1月28日第三小法廷判決・裁判集民事181号83頁、最高裁平成11年12月14日第三小法廷判決、裁判集民事195号715頁)。原告らは、A保有株式について過半数の準共有持分(8分の6)を有しており、原告らにおいて、A保有株式の権利行使者を原告X2として指定した。そして、原告らは、被告に対して、平成19年10月19日付けの書面により、A保有株式について、原告X2を権利行使者と指定する旨通知した。

したがって、原告X2はA保有株式について、権利行使者としての地位にあるから、本件総会において、A保有株式の議決権を行使することができる。

イ 被告は、本件各議案のような役員選任等の議案の場合は、管理行為の範疇を超えるものであるから、A保有株式の議決権を行使する権利行使者を指定するにあたっては、準共有者全員(原告ら、D及びC)の合意が必要であると主張するが、上記最高裁判決の趣旨を曲解するものであり失当である上、議案の法的性質により議決権行使を認めるかどうかを決するのは、包括的不可分一体的に行使されるべき「議決権」概念に反するし、処分行為的性質の議案につき準共有者全員の合意が成立しないときは、当該準共有株式につき議決権を一切行使することができなくなり不当である。

なお、被告の上記主張に従っても、本件各議案は、いずれも管理行為的議案である(特に、第1号議案、第4号議案及び第5号議案は、明らかに管理行為的議案である。)から、原告X2は、本件各議案について、A保有株式の議決権を行使することができる。

ウ また、被告は、上記権利行使者の指定にあたって、本件各議案に関する議決権行使について協議がなされていないから、上記権利行使者の指定が無効であると主張するが、①そもそも、準共有株式の権利行使者の指定にあたっては、そのような協議は必要とされない上、②前記のとおり、平成19年10月18日付けの文書により、原告らは、D及びCに対し、原告X2をA保有株式の権利行使者と指定することにつき協議を求めたのに対し、D及びCはこれを拒絶する旨の回答を行ったことにより、同協議は不調終了したのであるから、必要な協議は尽くされているといえるし、③D及びCは、権利行使者を原告X2とすることに断固反対していたのであり、円満な協議が成立する見込みがなかったのであるから、被告の主張は失当である。

(被告の主張)

ア 本件総会におけるA保有株式の議決権行使は、被告の経営支配の変動に大きな影響を与えるものであるから、その議決権行使者の指定及び通知は、A保有株式の管理行為とは到底いえないものであり、処分行為に該当するから、これを行うには、準共有者全員(原告ら、D及びC)の合意が必要であることは明らかである。

イ 原告らの引用する最高裁判決は、本件には妥当しない(本件を判断するにあたり先例拘束性を持つ、準共有状態の株式の議決権行使者の指定及び行使の方法に関する最高裁判決は未だ存在しない。)。

また、上記最高裁判決は、会社法施行前のものであるところ、会社法106条ただし書の新設によって、会社の同意により株主に不統一行使等の方法により議決権を行使させることが可能となったのであるから、準共有株式の権利行使者指定の要件に関する議論状況は大きく変わった(株主総会決議の定足数を満たすことができずに会社経営が完全に停止してしまう等の事態が生じるおそれがなくなり、多数決により準共有株式の議決権行使者を指定することができるようにすべきであるとの要請は、完全に失われた。)のであり、同最高裁判決の趣旨は、会社法施行後の事案である本件には妥当しない。

ウ 仮に、準共有持分の過半数によって、準共有株式の議決権行使者を指定することができるにしても、準共有者全員で協議をした上で、議決権行使者を指定しなければならないと解するべきである。なぜなら、準共有持分の過半数で議決権行使者が決せられることになれば、かかる権利行使者の指定によって、少数派の準共有者の権利が侵害されるおそれがあり、準共有者全員による実質的な協議を経ることによって、かかる権利侵害を防止する必要があるからである。

本件では、原告らは、A保有株式の権利行使者の指定にあたり、D及びCとの間で、議決権行使者指定のために必要な協議及び多数決による決定の手続を何ら行っていない。原告らは、必要な協議は尽くされていると主張するが、原告らが送付した「協議申入書」は、原告X2をA保有株式の権利行使者と指定することを一方的に宣言するものに過ぎず、協議申入れとしての実質を備えていないし、D及びCは、これに対し、実質的な協議をすることを求めたにもかかわらず、原告らは、これを一方的に拒絶したものであるから、本件においては、権利行使者の指定にあたって必要な協議はなされていないものと評価すべきである。

エ 加えて、本件においては、準共有持分の過半数で議決権行使者を指定することができるとすると、次のような問題が生ずる。

すなわち、遺産分割協議又は審判において、A保有株式が分割されれば、D及びCは、A保有株式の全部又は一部を取得し、その結果、D及びCによって、被告の発行済株式総数の過半数の議決権行使が可能になるにもかかわらず、A保有株式が準共有状態にあるうちは、原告らにおいて、A保有株式の議決権行使が可能となることとなる結果、原告ら保有株式と併せると、被告の発行済株式総数の過半数の議決権行使が可能になり、原告らが被告の経営権を取得することとなってしまう。

このような状況下において、A保有株式の権利行使者として原告X2を指定する原告らの行為は、今後の被告の経営方針について何ら合理的な見解を述べることもなく、単に被告の経営権を奪取することだけを目論むものである上、本件議決権行使は、D及びCの有するA保有株式の準共有持分を完全に奪うものに等しく、原告らの行った権利行使者の指定及び本件議決権行使が権利濫用的なものであることは明らかである。

オ 以上の理由から、原告X2は、A保有株式の議決権を行使することはできないというべきである。

(3)  争点(3)(前記第1の1記載の各決議は成立しているか。)について

(原告らの主張)

ア 原告X2は、本件総会においてA保有株式の議決権を行使することができるから、本件総会における客観的な議決権行使状況に照らせば、第1号議案、第2-1号議案、第3-1号議案、第4号議案及び第5号議案は、反対多数(反対1万5200株に対し、賛成1万4800株)で否決されており、第2-2号議案及び第3-2号議案は、賛成多数(賛成1万5200株に対し、反対1万4800株)で可決されている。

イ 株主総会においてある議案が可決されたか否決されたかは、議長の宣言により決するのではなく、客観的な議決権行使状況(賛成多数か反対多数か)により、法的には当然にその効果が発生する(すなわち、議長の宣言は意味を持たない。)というべきであるから、本件総会においても、議長(D)が宣言した内容の決議(本件各決議)ではなく、上記アの内容の決議が成立しているものというべきである。

ウ このように解さなければ、客観的にある議案が可決又は否決されたとしても、議長がそれに相反する宣言をした以上、それに反対する株主は当該決議の取消請求をする以外になくなってしまう(当該決議の取消が本案訴訟で認められても、再度開催された株主総会で、議長が、再び客観的な議決権行使状況と異なった宣言を行えば、同取消判決は何の紛争解決能力を持たない。)。

(被告の主張)

ア 争う。

イ 株主総会における決議は、挙手などの投票による場合には、議長がその議案に対する賛成の議決権数がその決議に必要な数に達したことを確認し宣言したときに決議がされたものとみるべきであるから、本件総会においては、議長(D)が宣言したとおりの決議(本件各決議)が成立しており、原告らの主張する各決議は成立していない。

(4)  争点(4)(本件各可決決議に不存在事由又は取消事由が存在するか。)について

(原告らの主張)

仮に、被告の主張するように、本件各可決決議が成立しているとしても、次の理由から、本件各可決決議には、不存在事由又は取消事由が存在する。

ア 本件議決権行使に対する議長(D)の議事運営の誤り

(ア) 上記のとおり、原告X2は、A保有株式の議決権を行使することができたにもかかわらず、議長(D)は、本件議決権行使を認めなかった。したがって、本件各可決決議が成立しているとしても、このような議長(D)の誤った議事運営に基づき成立したものであり、その決議方法が法令に違反するものであるから、本件各可決決議には不存在事由又は取消事由が存在する。

(イ) 被告は、議長は、株主総会の円滑な運営の職責を担っており、出席者の資格が「相当の理由」に基づいて問題とされる場合には、意思決定の公正さを担保するために議決権行使を制限すること等は、議長に委託された権限の内容として肯定されると主張するが、議長(D)は、自己の恣意的判断(利欲的判断)に基づき、本件議決権行使を認めなかったものであり、「相当の理由」に基づくものとはいえない。

イ 動議の違法性

第4号議案及び第5号議案は、本件総会当日、株主(D)が動議として提案したものを、議長(D)が議案として採択し、採決を行ったものである。

株主が株主総会において提案できる「議案修正動議」は、招集通知に記載された議案の修正に限定されるものであり、議案そのものを提案することはその範囲を逸脱するものであるところ、第4号議案及び第5号議案のような議案は、本来、本件招集通知に記載し、総会議案として株主に諮るべきものであるところ、第4号議案及び第5号議案は、本件総会当日に、突如として株主(D)から提案されたものであり、動議として採択すること自体が許されないものである。したがって、本件総会において、第4号議案及び第5号議案につき何らかの決議がなされたとしても、その手続が法令に違反しており、本来的に決議としての効力を有しない。

この点につき、被告は、本件総会に被告の株主全員が出席していたのであるから、第4号議案及び第5号議案を議案として採択したことは、法令に違反しないと主張するが、本件総会に出席した原告X2(代理人K弁護士)及び原告X1(代理人N弁護士)は、第4号議案及び第5号議案を採択することにつき異議を述べているから、株主全員が出席していることをもって、上記法令違反が治癒されるものではない。

ウ 補欠監査役選任の要件の欠如

第4号議案は、補欠監査役を選任する内容のものであるが、株主総会において補欠監査役を選任することは、「定時株主総会における社外監査役補欠者の予選の可否について」(平成15年4月9日付け法務省民商第1079号民事局商事課長通知)によって認められることとなったものである。

上記通達によれば、補欠監査役を選任するには、①定款に「補欠監査役を選任することができる」旨を規定することに加え、②これを株主総会の議案とするには、監査役の同意を得ること及び取締役会の決議を得ることが必要である。

しかしながら、本件においては、①被告の定款にその旨の規定はなく、②被告監査役(原告X2)の同意がない上、第4号議案につき取締役会決議を得ていないのであるから、補欠監査役選任のための要件が欠如しており、第4号議案につき何らかの決議がなされたとしても、その手続が法令に違反しており、決議としての効力を有しない。

(被告の主張)

ア 原告らの主張アを争う。

原告X2は、本件総会において、A保有株式の議決権を行使することはできないのであるから、本件議決権行使を認めなかった議長(D)の判断は、何ら法令に違反するものではない。

仮に、原告X2がA保有株式の議決権を行使することができたとしても、次の理由から、本件各可決決議の決議方法に法令違反はない。

すなわち、株主総会の議長は、株主総会の円滑な運営の職責を担っており、出席者の資格が「相当の理由」に基づいて問題とされる場合には、意思決定の公正さを担保するために議決権行使を制限すること等は、議長に委託された権限の内容として肯定される。

本件抗告審決定は、取締役等の選解任を議案とする株主総会におけるA保有株式の議決権の行使は、多数決によって決せられる準共有物の管理行為の範囲内に属するものとは到底解されず、処分行為であるとして準共有者全員一致による議決権行使者の指定を要求している。また、本件総会前に、A保有株式の議決権行使者の指定のための協議は行われておらず、原告らとD及びCとの間で、A保有株式の議決権行使方法について激しい対立があって、A保有株式についての権利行使者の指定には、その効力に重大な疑義があった上、その判断が被告にとって致命的ともいえる打撃を与えかねないものであった。

議長(D)は、本件抗告審決定の考え方に依拠し、A保有株式について準共有者全員の同意により権利行使者の指定及び通知が行われていないことを理由の一つとして、本件議決権行使を認めなかった。このような議長(D)の判断は、「相当の理由」に基づくものであることが明らかである(むしろ、本件抗告審決定に反して、本件議決権行使を許容する方が、「相当の理由」がないというべきである。)。

これらの事情に照らせば、議長(D)が本件議決権行使を認めない議事運営を行ったことは、その正当な権限の範囲内の行為であって、何ら法令に違反するものではないことは明らかである。

イ 原告らの主張イを争う。

第4号議案は、本件招集通知に記載された「監査役選任の件」の関連で、本件総会において、株主(D)から提案されたものであるから、本件招集通知に記載された事項以外の議案とはいえない。

第5号議案については、確かに、本件招集通知に記載されておらず、また本件招集通知に記載された取締役・監査役選任の件とは直接関連性がないものではあるが、全株主が十分に承知している被告の従前の取扱いを確認するものに過ぎない上、本件総会には被告の株主全員が出席し、全株主が決議に関与することができたのであるから、第5号議案に対する決議につき、不存在事由や取消事由があるとまではいえない。

ウ 原告らの主張ウを争う。

原告らは、第4号議案につき、補欠監査役選任のための要件が欠如していると主張するが、原告らの引用する通達は、会社法329条2項及び会社法施行規則96条により変更されており、原告らの主張には理由がない。

なお、第4号議案については、本件総会に先立ち、取締役会の決議を経ている。

第3争点に対する判断

1  争点(1)(主位的請求に係る訴えについての確認の利益の有無)について

確認の利益は、判決をもって法律関係の存否を確定することが、その法律関係に関する法律上の紛争を解決し、当事者の法律上の地位ないし利益が害される危険を除去するために必要かつ適切である場合に認められるものである。そして、株主総会における決議の存在若しくは不存在、又は有効若しくは無効は、これを確定することによって、株主総会決議に伴う法律関係に関する法律上の紛争を解決し、当事者の法律上の地位ないし利益が害される危険を除去するために必要かつ適切である場合があるものと考えられることから、会社法は、明文の規定(830条)で、株主総会決議の不存在確認の訴え及び無効確認の訴えを認めており、明文の規定がもうけられていないものの、株主総会決議の存在確認の訴え及び有効確認の訴えについても、確認の利益を認めることができる場合もあるものと解するのが相当である。

しかるに、原告らが主位的請求において確認を求めているのは、予備的請求1において第1号議案、第2-1号議案、第3-1号議案、第4号議案及び第5号議案の各可決決議が存在しないことの確認を求めていることからみて、株主総会における決議の存在若しくは不存在、又は有効若しくは無効ではなく、本件各議案が可決されたこと又は否決されたことという過去の事実であるものと解されるから、確認の利益を認めることはできないものというほかはない。

以上の次第で、原告らの主位的請求に係る訴えは、いずれも、確認の利益を欠くから、却下を免れない。

2  争点(2)(原告X2はA保有株式の議決権を行使することができるか。)について

(1)  株式会社の株式について、相続により準共有するに至った共同相続人が権利行使者を指定するにあたっては、準共有持分に従いその過半数をもってこれを決することができるものと解するのが相当である(最高裁平成5年(オ)第1939号同9年1月28日第三小法廷判決・裁判集民事181号83頁、最高裁平成10年(オ)第866号同11年12月14日第三小法廷判決・裁判集民事195号715頁参照)。

これを本件についてみるに、前判示のとおり、A保有株式につき、原告らは、2人併せて8分の6の準共有持分を有しているから、原告らは、D及びC(2人併せて8分の2の準共有持分に止まる。)の反対を受けても、権利行使者を指定することができたのであり、しかも、原告らとD及びCとの間には、被告の経営方針等を巡る意見対立があり、民事保全事件や株主代表訴訟事件が裁判所に係属するほど深刻な状況にあったことから、原告らとD及びCとが話し合ったとしても、原告らが「原告X2を権利行使者に指定する考え」を変えることや、原告X2が権利行使者として原告らの考えではなくD及びCの考えに従ってA保有株式の議決権を行使することを想定することは困難であったものと推認することができることからすると、前判示のとおり、原告らがD及びCに対し書面で一方的に「原告X2を権利行使者に指定すること」に同意することを求め、D及びCが提示した疑問点について何ら説明・回答をしないまま、協議不調と取り扱い、被告に対し、A保有株式の権利行使者として原告X2を指定する旨を通知していて、被告が主張するように、権利行使者の指定にあたって実質的な協議を行っていないことが認められるものの、このことを理由に、上記通知に係るA保有株式の権利行使者の指定が無効であると解することは相当ではなく、上記指定は、有効にその法的効力を生じているものというべきである。

なお、被告は、本件各議案には処分行為的な内容が含まれているから、本件総会におけるA保有株式の議決権を行使する者を指定するにあたっては、準共有者全員で行わなければならないと主張するが、①A保有株式の準共有者という観点からすれば、本件各議案に対する議決権の行使は、何ら処分行為的な内容ではなく(原告ら、被告、D及びCらにとって、重大な影響が生じる結果となるのは、被告の前記株主構成に起因するものに過ぎない。)、②会社法106条本文は、権利行使者の指定につき、特定の株主権を行使する者をその都度指定することを定めた規定ではなく、そのような限定なく株主権を行使する者を指定することも可能であって、行使する株主権の内容によって、権利行使者の指定方法を区別することは相当でないから、被告の主張を採用することはできない。

また、被告は、会社法106条ただし書が新設されたことにより、上記各最高裁判決は、その意義を失っていると主張するが、同ただし書が新設されたことにより、準共有株式の権利行使者の指定の法的性質が変更されたものとはいえない上、会社側が同ただし書による権利行使を拒否した場合には、会社法施行前と同様の問題が残るのであるから、被告の主張を採用することはできない。

(2)  そして、株式会社において株式が数名の準共有に属する場合に、その準共有者が株式の権利行使者1人を指定し、それを会社に届け出たときは、株主総会における当該株式の議決権の正当な行使者は、その指定された権利行使者となるのであって、株主総会における個々の決議事項について共有者の間に意見の相違があっても、その指定された権利行使者は、自己の判断に基づき議決権を行使することができるのであり、準共有者の意向をふまえて会社に対して議決権の不統一行使の許諾を求めたり、意見を同じくする準共有者の準共有持分に相当する議決権の一部だけを行使したりする義務を負うことはないものと解するのが相当である(最高裁昭和52年(オ)第833号同53年4月14日第二小法廷判決・民集32巻3号601頁参照)。したがって、本件総会においては、原告X2がA保有株式の全議決権を、同原告の判断に基づき行使することができる立場にあったものというべきである。

(3)  もっとも、株主総会における議決権の行使は、議案に対する株主の意見の表明であって意思表示に準じたものと解され、意思表示等に関する民法の一般原則の適用があるものと解するのが相当であるから、株主権の権利行使者がその権限を濫用し議決権を行使した場合には、代理権や代表権が濫用された場合と同様に、相手方(会社)が、それを認識していたときは、民法93条ただし書きの規定を類推し、その議決権行使の法的効力は生じないものと解するのが相当である(最高裁昭和35年(オ)第1388号同38年9月5日第一小法廷判決・民集17巻8号909頁、最高裁昭和39年(オ)第1025号同42年4月20日第一小法廷判決・民集21巻3号697頁、最高裁平成元年(オ)第759号同4年12月10日第一小法廷判決・民集46巻9号2727頁参照)。

これを本件についてみるに、確かに、前判示の事実関係によれば、Aの死亡に伴う遺産分割審判において、A保有株式が具体的相続分(準共有持分と一致する。)に従い現物分割された場合には、原告らが被告の発行済み株式総数の過半数の株式を保有することはできず、家庭裁判所がA保有株式を具体的相続分とは異なる割合で現物分割又は代償分割することにより積極的に被告の経営権をD及びCから原告らに移転させることが確実であるとはいえないにもかかわらず、原告X2(代理人K弁護士)は、上記遺産分割審判が審理中であり、原告らがA保有株式の準共有持分の過半数を有していることを奇貨として、会社提案の議案を否決し株主(原告ら)提案の決議を可決しようと考えて本件議決権行使を行ったものと推認することができるけれども、本件全証拠によっても、原告らが、第1号議案、第2-1号議案、第3-1号議案、第4号議案及び第5号議案を否決し、第2-2号議案及び第3-2号議案を可決することにより、何らかの不正の目的を実現しようとしていることを認めることはできないことからすると、上記事実関係のみから、原告X2がその権限を濫用してA保有株式の議決権を行使したものと認めることはできないものいうべきである。

(4)  したがって、原告X2はA保有株式の議決権を行使することができたものというべきである。

3  争点(3)(前記第1の1記載の各決議は成立しているか。)について

株主総会における議案の審議の手順(議事の方式)については、会社法に格別の規定は設けられていないけれども、会議体の原則からみて、議案の上程、説明、質疑応答、株主による投票等、そして議長による可決又は否決の宣言という過程を経て行われるものである(なお、このうち、株主による投票等については、株主総会の討議の過程を通じて、その最終段階にいたって、議案に対する各株主の確定的な賛否の態度がおのずから明らかとなって、その議案に対する賛成の議決権数がその総会の決議に必要な議決権数に達したことが明白になった場合には、議長が改めてその議案について株主に対し挙手・起立・投票など採決の手続をとらなくても、そのときにおいて表決が成立したものと解するのが相当である〔最高裁昭和40年(オ)第821号同42年7月25日第三小法廷判決・民集21巻6号1669頁参照〕。)から、議長の宣言が存在する以上は、議長の宣言したとおりの決議が成立したものと認めるのが相当である(仮に、議長が、客観的な賛否の計算結果と異なる宣言を行った場合には、決議方法が法令に違反するものとして決議取消事由となり得るに過ぎない。)。

これを本件についてみるに、前判示のとおり、本件総会における議長(D)は、第1号議案、第2-1号議案、第3-1号議案、第4号議案及び第5号議案については可決決議が成立したと宣言し、第2-2号議案及び第3-2号議案については否決決議が成立したと宣言しているから、同宣言のとおりの決議(本件各決議)が成立しているものというべきであり、同宣言と相反する各決議が成立しているとする原告らの主張は採用することができない。

4  争点(4)(本件各可決決議に不存在事由又は取消事由が存在するか。)について

(1)  原告らの主張ア(本件議決権行使に対する議長〔D〕の議事運営の誤り)について

前判示のとおり、原告X2(代理人K弁護士)は、A保有株式の議決権を行使することができたのであるから、本件議決権行使を拒否した議長(D)の議事運営は、違法というべきであり、同議事運営に基づき成立した本件各可決決議については、取消事由が存在する。

この点につき、被告は、本件抗告審決定の存在をもって、議長(D)の措置に法令違反はないと主張するが、原告X2の議決権行使が認められないとする部分は、本件抗告審決定の理由中の判断に過ぎず、また、本件抗告審決定がなされた後、原告ら提案の議案の内容が変更(D、Cを取締役候補者として掲げている。)されていることに照らせば、本件抗告審決定が存在することをもって、上記法令違反が治癒されるものということはできない。

(2)  原告らの主張イ(動議の違法性)、同ウ(補欠監査役選任の要件の欠如)について

上記のとおり、原告X2(代理人K弁護士)の行った本件議決権行使を拒否した議長(D)の議事運営は違法であり、本件各可決決議には、取消事由が存在するものと認められるから、原告らが主張するその他の取消事由(動議の違法性、補欠監査役選任の要件の欠如)の有無については、判断の必要がない。

第4結論

以上の次第で、原告らの主位的請求に係る訴えは確認の利益がないからこれを却下し、予備的請求2はいずれも理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 池田光宏 裁判官 井田宏 中嶋謙英)

(別紙)議事目録<省略>

相続関係図<省略>

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