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京都地方裁判所 平成19年(ワ)3557号 判決 2009年7月08日

原告

X1(以下「原告X1」という。)<他4名>

上記五名訴訟代理人弁護士

飯田昭

被告

同訴訟代理人弁護士

相川嘉良

主文

一  被告は、原告X1に対し、八六万円及びこれに対する平成一九年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告X2に対し、三九七万円及びこれに対する平成一九年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は、原告X3に対し、八六万円及びこれに対する平成一九年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告は、原告X4に対し、六七万円及びこれに対する平成一九年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  被告は、原告X5に対し、二六万円及びこれに対する平成一九年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

六  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

七  訴訟費用は、これを一〇分し、その六を原告らの負担とし、その余は被告の負担とする。

八  この判決は、第一項から第五項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告X1に対し、五一六万円及びこれに対する平成一九年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告X2に対し、四七四万円及びこれに対する平成一九年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は、原告X3に対し、三八四万円及びこれに対する平成一九年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告は、原告X4に対し、六七万円及びこれに対する平成一九年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  被告は、原告X5に対し、二六万四〇〇〇円及びこれに対する平成一九年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

六  訴訟費用は被告の負担とする。

七  この判決は仮に執行することができる。

第二事案の概要

一  事案の要旨

本件は、原告らが、被告から、「集い」と称する集会に参加させられた上、「因縁切り」と称する儀式を受けさせられ、「集い」の参加料及び「因縁切り」の祈とう料名下に多額の金員をだまし取られ、その上、被告の霊能力に畏怖している原告らの心理状態を利用されて架空の投資話への投資金名下に多額の金員をだまし取られたとして、被告に対し、不法行為に基づき、詐取金や慰謝料などの損害金及びこれに対する不法行為の日の後の日である平成一九年一月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事案であり、原告らの主張する損害の内容は次のとおりである。

(1)  原告X1

ア 「因縁切り」の祈とう料及び「集い」の参加料 小計七一万円

イ 詐取金 小計三二〇万円

イ 慰謝料 七八万円

ウ 弁護士費用 四七万円

合計五一六万円

(2)  原告X2

ア 「因縁切り」の祈とう料及び「集い」の参加料 小計三〇一万円

イ 詐取金 小計五八万円

ウ 慰謝料 七二万円

エ 弁護士費用 四三万円

合計四七四万円

(3)  原告X3

ア 「因縁切り」の祈とう料及び「集い」の参加科 小計八一万円

イ 詐取金 小計二一〇万円

ウ 慰謝料 五八万円

エ 弁護士費用 三五万円

合計三八四万円

(4)  原告X4

ア 「因縁切り」の祈とう料及び「集い」の参加料 小計五一万円

イ 慰謝料 一〇万円

ウ 弁護士費用 六万円

合計六七万円

(5)  原告X5

ア 「因縁切り」の祈とう料及び「集い」の参加料 小計二〇万円

イ 慰謝料 四万円

ウ 弁護士費用 二万四〇〇〇円

合計二六万四〇〇〇円

二  争いのない事実等

被告は、「集い」という集会において、そこに集まった者に対し、「因縁切り」という祈とうを行ってきた者であり、原告らは、その「集い」に参加し、被告から、「因縁切り」という祈とうを受けた者である。

三  争点とこれに関する当事者の主張

(1)  「因縁切り」及び「集い」

(原告らの主張)

被告は、平成一五年秋ころ、A(以下「A」という。)と共謀して、A宅において、いわゆる「霊感集会」を開始した。被告及びA(以下、あわせて「被告ら」という。)は、別紙「祈祷料等一覧表」記載のとおり、原告らを、被告Yの主幹する「集い」と称する霊感集会に参加させ、先祖の霊が霊媒師と称するAにひょう依する様子や、霊能者と称する被告がその先祖霊と会話している様子を見せた上で、原告らに対し、「先祖が金員を欲しがっている、もっと神事に金員を使いなさい。この世もあの世も金次第です。」などと説き、原告らから、「因縁切り」と称して、多額(一回一六~一七万円)の祈とう料名目の金員及び「集い」参加料(一回三万円)を徴収した。

(被告の主張)

否認ないし争う。なお、原告らが主張する個々の事実経過に関する認否は、別紙祈とう料等一覧表記載のとおりであるほか、被告は、「因縁切り」を日曜日に限定して行っており、日曜日以外に被告が「因縁切り」を行ったことはない。

(2)  被告が「因縁切り」の祈とう料及び「集い」の参加料を徴収した行為の違法性

(原告らの主張)

被告らによる「因縁切り」の祈とう料及び「集い」の参加料の徴収行為は、社会通念上相当な範囲を逸脱した違法な行為であり、信教の自由として保障された宗教活動の範囲外であるから、被告は、各原告に対し、不法行為責任を負う。

ア 原告らが被告に祈とう料や参加料名目で支払った金員は、本件当時、ほとんど資力がなかった原告らの生活状況からすると、祈とう料や参加料としては不相当な金額である。

イ 原告らは、いずれも、離婚や家族の不幸などの心配事をかかえていたのであり、原告らが、「因縁切り」や「集い」に金員を支出するに至ったのは、被告らによって、前世の因縁が原告らに災いをもたらしており、「集い」に参加して「因縁切り」をしなければ、不幸な境遇から逃れられないなどと恐怖心を植え付けられたからである。

ウ 被告は、一連の霊感集会における霊媒師役であり、Aによる祈とう料等の集金行為は、被告の存在なしには成り立ち得なかったものであり、また、被告は、Aから取得金の分配を受けており、直接の「集い」などへの勧誘行為や、集金行為を行うAと役割を分担していたにすぎない。

エ 被告らは、健康食品や矯正下着の連鎖商法を利用して、その顧客の中から、だまされそうな人物や、資産等のある人物を選び出し、「集い」に参加させていた。

(被告の主張)

「集い」や「因縁切り」は、社会的相当性を有する宗教的活動に該当するから、被告は、各原告に対し、不法行為責任を負わない。

ア 霊魂の存在を前提とする本件においては、被告がその霊魂の善悪、現世への影響等を語ったとしても、それは当然のことであって、そのような言葉を根拠のない妄言として脅迫に該当すると主張することは妥当ではない。霊魂の存在を前提とする限り、祖先の霊が現世に影響を及ぼすことや、祖先の霊が現世のものに何らかの訴えを行っていると語ることは、当該宗教においては事実として受け入れられるのである。そして、被告は真実自身に霊能力があるものと確信しており、Aには霊媒の能力があるものと信じていた。

イ 被告は、原告らに対し、「集い」への参加や「因縁切り」を受けさせるために、脅迫的言辞を用いたことはなく、「集い」に参加した者に対し、「因縁切り」を受ける意思があるか否かを確認して「因縁切り」を行ってきた。また、「信仰心によって難病が治癒する。」「前世の因縁が災いしている。」などの言辞は、種々の宗教の布教活動でみられるものであり、これらの言辞のみで、原告らの意思の自由が奪われるものではない。

ウ 被告は、Aの依頼に応じて、「集い」に出席したり、祈とうをしたりしたにすぎず、被告が主催者となって、これらを行ったわけではない。また、被告が「因縁切り」を行うようになった経緯も、「集い」の参加者が、被告に対し、どのようにすれば悪い因縁を切れるのか、もし、被告が因縁を切ることができるなら、是非因縁を切ってほしいと要求したからである。

エ 原告らが主張する被告の言辞(別紙祈祷料等一覧表参照)は、「因縁切り」の前に被告が述べたものではなく、「因縁切り」の結果、いわゆるお告げとして、被告が述べたものであるから、原告らが「因縁切り」を受けたことの契機とならない。

オ 被告は、Aに対して指揮命令や、監督をする立場になく、勧誘を指示したこともない。新たな参加者は、既に参加していた者の紹介によって参加するようになるのであり、既に参加している者が、何らかの効能があったと判断したからこそ、「集い」などを紹介しているのである。このことは、原告X1、原告X3及び原告X4が、原告X2の紹介によって「集い」に参加するようになった経緯からも明らかである。

カ 「集い」は、組織的なものではないし、また、集いに参加した集団において、各人の地位が定まっていたわけではなく、サークル活動の性質を有していたにすぎない。

キ 被告は、金銭の管理については全く関与しておらず、Aから謝礼として金員の交付を受けることがあったが、その金額は、「因縁切り」を受けた者については、五万円程度であり、「集い」に参加しただけの者については、一万円程度であって、Aから、一六万円もの金員を受領したことはなかった。また、被告は、Aが、「集い」の参加者から、幾らの金員を受領していたか全く知らなかった。

(3)  出資金名目による原告X1に対する金銭詐取の有無

(原告X1の主張)

被告は、Aと共謀して、上記(1)記載の「因縁切り」や「集い」によって恐怖感を植え付けられ、また、被告の霊能力に畏怖している原告X1の心理状態を利用して、次のとおり、架空の投資等を名目にして、原告X1から、金員を詐取した。

ア Aは、平成一八年八月六日、JR茨木駅前のロイヤルホストにおいて、原告X1に対し、「京都のおっちゃん」と称する人物に投資すれば多額の配当がもらえると架空の投資話を持ちかけ、投資するよう執ように勧めた。

原告X1がこの誘いを断ったところ、Aは、原告X1に対し、「被告の霊能力で地獄に落とす。」「クレジットカードを作り投資するように。」などと言って強要し、また、同日から八月二三日までの二週間余りの間、毎日のように電話をかけ続けた。

そのため、原告X1は、仕方なく、同年八月二四日、クレジット会社二社のクレジットカードを作った上で、A宅へ赴いたところ、Aは、原告X1から、その二社のクレジットカードを取り上げ、後日、これを無断で使用して、現金一七〇万円を引き出した。

イ Aは、平成一八年八月一三日、原告X1をJR茨木駅のロイヤルホストに呼び出し、原告X1に対し、上記ア記載の投資金額では少ないので、さらに「京都のおっちゃん」に投資するよう迫った。原告X1がこれを断ったところ、Aは、原告X1に対し、「投資しないと地獄に落ちてYの主宰する「因縁切り」に参加させてあげない。」「あなたの家族を被告の霊能力で何もかも滅茶苦茶にしてやる。」と脅迫し、原告X1をして、同月三一日、三菱東京UFJ銀行吹田支店において、楽天キャッシングから四〇万円の借入れをさせたほか、原告X1の次女名義の口座(三菱東京UFJ銀行千里中央支店)から八〇万円を引き出させ、それら合計一二〇万円をAに交付させた。

ウ Aは、平成一八年九月一三日、原告X1に対し、同月一五日までに五〇万円を「京都のおっちゃん」に再度投資しないと今まで出資した元金と配当が全く返還されないと言って、言葉巧みに原告X1をそそのかし、原告X1をして、同月二〇日、りそな銀行のカードから二〇万円を引き出させるとともに、吹田市の株式会社日電社から、一〇万円を借り入れさせ、同日、それら合計三〇万円をA名義の郵便口座に送金させた。

(被告の主張)

否認ないし争う。

原告X1のAに対する金員の交付と、「集い」及び被告が行った「因縁切り」とは無関係であり、かつ、原告X1のAに対する金員の交付に被告が関与したことは一切ないから、被告が不法行為責任を負うことはない。

(4)  出資金名目による原告X2に対する金銭詐取の有無

(原告X2の主張)

ア 原告X2は、次のとおり、被告らから、三年間にわたり恐怖心を常に植え付けられ、洗脳され、被告の言うことがすべて正しく、被告が口に出したことは必ず真実となり、「因縁切り」や「集い」に行くことができなければ、地獄におちたり、先祖が苦しみ災いが起きたり、子どもたちに何かが起きるという結果につながると畏怖し、被告に「因縁切り」をしてもらうためには、Aの言うとおりにしておかなければならないと思い込まされていた。

(ア) 原告X2は、平成一五年九月ころから平成一八年一〇月までの約三年間、被告らから、「集い」「因縁切り」に参加し、「因縁切り」をしなければ、仕事も家庭もうまくいかない、地獄におちる、子どもが死ぬ、子どもが事件を起こす、アトピーは治らない、母が借金をして人に迷惑をかけ、それが全部災いとなってふりかかってくるなどと威迫され続けてきた。

(イ) 原告X2は、「集い」「因縁切り」に参加する日以外にも、Aから、電話や直接呼び出されては、原告X2の行いについていろいろと言われ、何時間も怒鳴られ、ののしられた。また、原告X2は、Aと一緒にAの配下であるB(以下「B」という。)からも、同様のことを言われた。

(ウ) 原告X2は、Aから、Aに言われたことができないと、被告に会わせてもらえないと言われ、また、「集い」に参加して「因縁切り」をしないと災いが真実になると言われ続けた。

(エ) 原告X2は、Aから、「因縁切り」に参加することを強要され、Aに金を貸すことを拒むと、「被告に会わせてもらえるのは誰のおかげか。」「感謝が足りない。」と言われた。

イ 被告は、Aと共謀して、上記ア記載のとおり、恐怖感を植え付けられ、また、被告の霊能力に畏怖している原告X2の心理状態を利用して、次のとおり、架空の投資等を名目にして、原告X2から、金員を詐取した。したがって、被告は、原告X2に対し、不法行為責任を負う。

(ア) Aは、平成一八年八月ころから、原告X2に対し、原告X2の祖父の年金があることを確認した上で、「何かとお金があったら助かるし、仕事もしやすいだろう。」と言葉たくみに、年金を担保にして銀行から金を借りるように仕向けた。そのため、原告X2は、同年九月、年金を担保にして、尼崎信用金庫に借入れを申請し、そのことをAに話したところ、Aは、毎日のように、原告X2に対し、「今、私が困っているので、とにかくお金を出して。」「すぐに返すから。」と言い、同年一〇月一一日、原告X2が金員を借り入れたことを知ると、同日、原告X2に対し、三五万円を出すように言って、原告X2から、三五万円を詐取した。

(イ) Aは、上記(ア)に引き続き、平成一八年一〇月一一日、原告X2に対し、「私が困っている時は助けろ。おじいちゃんの頭痛が治ったのは、誰のおかげだ。」と言い、翌一二日、「まだ出るやろ。二〇万円足りないから出してこい。月末には返してやる」と言って、原告X2から、二〇万円を詐取した。

(ウ) さらに、Aは、上記(イ)に引き続き、平成一八年一〇月一九日、原告X2に対し、「まだ足りない。」と言って、原告X2から、三万円を詐取した。

(被告の主張)

否認ないし争う。

原告X2のAに対する金員の交付と、「集い」及び被告が行った「因縁切り」とは無関係であり、かつ、原告X2のAに対する金員の交付に被告が関与したことは一切ないから、被告が不法行為責任を負うことはない。

(5)  出資金名目による原告X3に対する金銭詐取の有無

(原告X3の主張)

被告は、Aと共謀して、上記(1)記載の「因縁切り」や「集い」によって恐怖感を植え付けられ、また、被告の霊能力を畏怖している原告X3の心理状態を利用して、次のとおり、架空の投資等を名目にして、原告X3から、金員を詐取した。

ア Aは、平成一八年八月一〇日、大阪府摂津市千里丘の飲食店「がんこ」に、原告X3、原告X1、原告X2及び原告X4を呼び出し、上記原告らに対し、「京都のおっちゃん」という人物にお金を預けると多額の利息がもらえるので、その利息を流用して被告の主宰する「因縁切り」に参加し、その祈とう料を支払うよう言葉巧みに勧誘し、原告X3をして、Aが同行した上で、近畿大阪銀行千里丘支店のATMから七〇万円を借り入れさせ、その場で、Aに対し、七〇万円を交付させた。

イ Aは、平成一八年八月二二日、原告X3に対し、上記ア記載の投資金額では中途半端なので追加投資するように強引に迫り、原告X3がこれを断ると、「投資をしなければ地獄に落ちる。「因縁切り」に参加させてやらない。被告も私に協力しないと気を悪くされ、あなたのことを地獄に落とされる。」と脅迫し、原告X3をして、翌二三日、大阪府吹田市清水のマックスバリューのATMから八〇万円の現金を引き出させ、その場で、Aに対し、八〇万円を交付させた。

ウ Aは、平成一八年九月一一日、原告X3を、上記ア記載の飲食店「がんこ」に呼び出し、原告X3に対し、「投資金額がまだ少ない。もっと投資金額を増やさないと「因縁切り」に参加させない。被告は多額の現金を奈良の三輪神社や各種福祉団体に寄付されているので「因縁切り」の祈とう料が必要なんだ。そのお金が用意できない人は地獄に落ちる。」と脅迫し、原告X3をして、近畿大阪銀行千里丘支店のATMから六〇万円を引き出させ、その場で、Aに対し、六〇万円を交付させた。

(被告の主張)

否認ないし争う。

原告X3のAに対する金員の交付と、「集い」及び被告が行った「因縁切り」とは無関係であり、かつ、原告X3のAに対する金員の交付に被告が関与したことは一切ないから、被告が不法行為責任を負うことはない。

第三争点に対する判断

一  争点(1)(「因縁切り」及び「集い」)について

(1)  《証拠省略》によれば、本件について次の事実が認められる。

ア 「集い」及び「因縁切り」が始まった経緯

被告は、平成一三年ころから、近所に住んでいて偶然悩みの相談を受けるようになったCの自宅において、「集い」を行い始めた。当初は四人くらいで行っていたが、次第に人数が増え、平成一五年ころから、A宅において七、八名くらいで集まり、月一回程度「集い」を行っていた。

「集い」を行う中で、参加者から因縁を切ってもらえるなら、切ってもらいたいとの要望が出たため、平成一五年の秋ころからA宅において、「因縁切り」をするようになった。

イ 「集い」及び「因縁切り」の実態

(ア) 「因縁切り」の日程は、Aが、「因縁切り」を受けたい人がいるということを、被告に電話で知らせて、日程を調整するという方法で決定された。

(イ) 「因縁切り」では、被告がまず上座に座り、向かい側に霊媒師の役割を持つAが座り、その横に因縁を切ってもらう者が座った。そして、原告が清めたまえなどと言って儀式が始まり、原告が霊能力者として問いかけ、Aが受霊し、恐ろしい形相の声で答えるという形で進んだ。

すなわち、「因縁切り」において、被告がAに対して質問し、霊媒師としてのAが取り憑かれたように様々な因縁が出てくる様子をしゃべり、その後、「先生」である被告が、Aと同じ因縁や霊を見たと、「因縁切り」の最中の出来事について、「因縁切り」を受けた者に対して話すという段取りで行われた。

(ウ) 被告らが話した内容には、原告X1の「因縁切り」の内容を原告X2がメモした書面(甲A一一~一三)によれば、「頭の先から足のうらまで色ジョウのうらみ、ねたみ、魔によるもの」「色ジョウうらみの中で」「動物霊(キツネ、ウマ、ウシ、タヌキ、ヘビ」「深い因縁、いっぱいの魔、いっぱい、ゆうじゅうふだん、心がけ清く正しく すべて感謝」などと記載されており、原告X5が受けた「因縁切り」のテープの反訳文(乙二二)には、「お店から来る影響ね…凄いですね!それとお客さんがおいてくる因縁が凄いですね!このお店の磁場って言うか邪霊っていうか」さらに、DとYとのかけ合いで、Yが「このまま放っておいたら大変です。早くしましょうか!早くしましょうか!Dさん誰と言っていますか?」、Dが「ミナモト、ミナモトって言っています。ミナモトヨリトモ」、Yが「もういやだわ!凄いねこれ!」…Dが「無念じゃ!志半ばで思いもよらぬ事が起きる!無念じゃ。」、Yが「その無念、お名前をどうぞ!」、Dが「ミナモトじゃ。」、Yが「どういった因縁なの!この女性と!」、Dが「この店の磁場に憑いておりました。店にもこの者にも憑き、いろんな事を起こして参りました。ただただ無念の思いで…」などと話す状況が記載されており、通常人に強い恐怖心を起こさせるに足りる内容が含まれていた。

(エ) 平成一六年ころから、「集い」について参加料、「因縁切り」については祈とう料を本格的に参加者から集めるようになった。「集い」の参加料については、一回三万円程度、「因縁切り」の祈とう料については、一回一六万円程度を集めていた。参加料や祈とう料は、のし袋のようなものにお金を入れて、被告の前に置かれたお盆の上に乗せる方法で、被告に対して支払われたが、Aが、これを集め、Aから被告に対する受渡しについては、参加者の目の前では行われず、次回の「集い」の際、参加者が来る前に被告がA宅へ行って受け取るという方法で行われていた。

ウ 被告らによる原告への「集い」及び「因縁切り」への働きかけ

「集い」及び「因縁切り」が行われた日時並びに参加料及び祈とう料の支払は、別紙「祈祷料等一覧表」の原告らの主張欄記載のとおりであり、これに関する被告らによる原告らへの言動は次のとおりである。

(ア) 原告X1について

a 被告らは、平成一八年八月一三日、A宅に赴いた原告X1に対し、「「因縁切り」をしないとこれから良いことはないし、人生が開くことはない。」と言ったため、原告X1は、「因縁切り」を受け、祈とう料一七万円を支払った。

b Aは、同月二〇日、長女の離婚問題で悩んでいた原告X1に対し、「因縁切り」をすれば離婚問題は解決すると言い、原告X1の長女にも「因縁切り」を受けさせるようにと言ったため、原告X1は、「因縁切り」を受け、祈とう料一六万円を支払った。

c Aは、同月二七日、次女の問題で悩んでいた原告X1に対し、次女にも「因縁切り」を受けさせないと将来ずっと悩み続けなければならないと言ったため、原告X1は、「因縁切り」を受け、祈とう料一六万円を支払った。

d 被告及びAは、原告X1に対し、同年九月一七日に、動物の霊がいっぱい出てきていると言い、さらに、Aが、家族を守るためには、「因縁切り」をしなければならないと言い、「因縁切り」を行うようにと言ったため、原告X1は、「因縁切り」を受け、祈とう料一六万円を支払った。

e 原告X1は同年九月二日、同年一〇月七日に「集い」の参加料三万円を支払っているが、この際に受けた害悪の告知の内容は、証拠(甲A一、原告X1本人)からは明らかではない。

(イ) 原告X2について

a 被告らは、平成一五年九月一三日、仕事や夫、家庭のことで悩んでいた原告X2に対し、「夫の因縁で子供たちが大変なことになる、アトピーが酷くなるだけでなく、頭もおかしくなる。」と言ったため、「集い」に参加し、参加料一万円を支払った。

b 被告は、同年一〇月九日、原告X2の母親に対し、「あなたの人生は無茶苦茶だ。全て先祖の因縁がそうさせている。子供や孫がどうなっても良いのか。」と言い、また、被告らは、「このままにしておくとまだまだ借金は膨らみ、人からも恨まれ、最後にはきちがいになる。」と言ったほか、「その母の生き方をそのまま受け継いでいるあなたが、母と同じようになりたくないなら、二人で集いに参加しろ。」と言ったため、祈とう料二万円を支払った。

c 被告は、平成一六年三月ころ、原告X2の父が以前脳溢血で倒れ、その後頭痛が続いていることについて、因縁を切らないと頭痛は治らないと言ったため、原告X2は、平成一六年三月二七日、父親と共に「因縁切り」を受けて、祈祷料二二万円を支払った。

d Aは、平成一七年二月五日、原告X2に対し、平成一六年一二月に母の内縁の夫が亡くなったことについて、「あの人は神に裁かれた。神はあなたのお母さんに意見を求められている。あなたはお母さんに会ったからその人が憑いた。「因縁切り」をしないとどうしようもない。」と言い、被告もそれに同調していたため、祈とう料三万円を支払った。

e Aが、原告X2に対し、「夫と復縁しないと長男のアトピーは悪くなり、子供は原告X2を恨み、仕返しをする。」と言って、原告X2と夫と二人で「因縁切り」をするよう言ったため、同年一二月一八日、「因縁切り」を受け、祈とう料三二万円を支払った。その際、被告は、原告X2らに対し、「全てが因縁のせいで、子供は大変なことになる。新聞に載って警察沙汰になり、大騒動になっているのが見える。」と言った。

f Aは、原告X2に対し、「あんたの魔のお陰で先生もえらい目に遭われた」「因縁を切らないと先生に申し訳ないと思わないのか?」と言われ、平成一八年一月二二日、「因縁切り」を受けて祈とう料一六万円を支払った。

g 被告らは、原告X2が初めて「集い」に参加した平成一五年九月一三日、原告X2に対し、参加するに当たり一回でも抜けると意味がないので続けられるかと念押しをし、途中でやめると、悪いことがすべて起こると言った、そこで、原告X2は、長期間にわたり「集い」に参加し、上記以外の別紙「祈祷料等一覧表」の原告X2関係の原告らの主張欄記載の参加料を支払った。

(ウ) 原告X3について

a Aは、平成一七年一二月ころ、原告X3が、子供の慢性疾患のクローン病で悩んでいる際、その病気の原因は先祖の因縁によるので、先祖の因縁を切れば、子供が死ぬことはないが、「因縁切り」をしなければ、子供は死ぬと言われた。そして、実際に被告と顔を合わせた際にも、被告は、原告X3に対し、先祖が浮かばれないと、子供の病気は治らないなどと言ったため、原告X3は「因縁切り」を受け、祈とう料一七万円を支払った。

b 原告X3が「因縁切り」をした後、被告らから夫の「因縁切り」も必要と言われ、平成一八年八月二七日、夫も「因縁切り」を受け、祈とう料三二万円を支払った。この「因縁切り」後に、被告は、もしこれをしていなければ子供は悪くなるところだったが、これで大分良くなると言った。

c ところが、被告らは、同年九月五日、原告X3に対し、「難病の息子も「因縁切り」をやらないと病気が治らない。このままだと死んでしまう。」と言ったため、原告X3は、「因縁切り」を受け、祈とう料一六万円を支払った。

d 原告X3は、平成一八年八月一三日、祈とう料一六万円を支払っているが、被告らが原告X3に対して行った害悪の告知の内容は、証拠(甲C一三、原告X3本人)からは、明らかではない。

(エ) 原告X4について

a 原告X4が、平成一六年三月ころに被告に会った際、何に悩んでいるかを記載する紙に子供の問題と自分の離婚問題とを記載したところ、「因縁切り」に類似する儀式が行われた。この際、Aと被告が「さっきは怖かったわね。」と言い合い、さらに、被告が原告X4に対し、「誰のかは今は言えないけど、生首が出てきて。」と言い、原告X4が誰のものかを聞いても答えず、「お金を払ったら因縁を切りましょう。」と言った。そして、被告らは、そのままにすると、子供にこれから先、災いがかかってきて、バイクとかで本当に死ぬようなこともある、因縁を切らないと、永遠にたたりがあると言った。

b 被告らは、同年六月一二日にも、原告X4に対し、「一回や二回ではあなたの因縁は取りきれない。」と言ったため、原告X4は、「因縁切り」を受け、祈とう料一七万円を支払った。

c 被告Aは、同年一一月一三日、原告X4に対し、「因縁切りをしないと大変なことが起こる。」と言い、被告は「一回や二回ではあなたの因縁は取りきれない。」と言ったため、原告X4は「因縁切り」を受け、「祈とう料」一七万円を支払った。

d 同月一三日以降も、Aが、「因縁切り」を早くしないともっと恐ろしいことがあるから、「因縁切り」を早く受けるよう先生が言っていると何度も連絡をしてきたことから、平成一八年八月二七日、原告X4は「因縁切り」を受け、「祈とう料」一七万円を支払った。

(オ) 原告X5について

Aは、平成一八年九月末ころ、原告X5に対し、店舗に因縁めいたものが感じられるので「因縁切り」をしたらどうかと言った。また、被告らは、同年一〇月八日に、原告X5に対し、店に因縁がついていて、原告X5はまだ五〇〇万お金を出せると霊が言っていると言い、お金をもっと支払うよう言ったため、原告X5は、「因縁切り」を受け、祈とう料二〇万円を支払った。

(2)  「因縁切り」が行われた日付について

なお、被告本人尋問調書(乙二四)には、「因縁切り」が行われた日付について、日曜日しか行っていないとする供述部分がある。そして、その理由について日曜日でないと体力がもたないと説明しているが、ある程度日にちを開ければ、体力はもつと考えられ、合理的な説明はされていない。また、原告らの主張は、原告X2の記憶に加え、被告らから被害を受けたという人の記憶も確認して、作成したメモ(甲B六)に沿うもので、メモに書かれていない日にちも含めて、通帳などで資金状態が明らかにされている部分もあり(甲A二~四、甲B一~五、甲C二、三、五、九、一二、)、信用性が認められるところ、これと矛盾する。そこで、被告本人尋問調書(乙二四)中の上記供述部分は採用できない。

(3)  被告らの共謀について

ア 上記認定のとおり、被告らは、平成一五年ころから、A宅において、「集い」を行い、同年の秋ころから、「因縁切り」をするようになり、平成一六年ころから、「集い」について参加料、「因縁切り」については祈とう料を参加者から集めるようになったものであり、「集い」と「因縁切り」とは、被告らが、一体となって行っていたものと考えられる。

イ その上、「因縁切り」においては、被告が、Aが話した因縁の内容を実際に見たと「因縁切り」を受けた者に話すという段取りで行われていたことからすると、被告とAとが一体となって「因縁切り」を受けた者に対して害悪の告知をしていたものであり、また、被告が「集い」においても因縁の話をすることで、「因縁切り」で出てくる因縁の話が信ぴょう性を帯びる状況を作り出していたものである。

ウ そして、「集い」の参加料一回三万円程度と「因縁切り」の祈とう料一回一六万円程度はAが回収し、後に被告に対してその中から受け渡されていたものであるから、被告らは、あらかじめ、「集い」の参加料と「因縁切り」の祈とう料として支払われたお金については、Aと被告とで分けるという合意があったものと認められる。

エ そうすると、被告らは、一体となって「集い」と「因縁切り」を行って害悪を告知し、参加者から徴収した参加料と祈とう料を被告らの間で分配することを共謀していたものと推認することができる。

(4)  被告の弁解について

被告は、「因縁切り」や「集い」の際には、参加者に対し、常に自分の意思で参加するよう説明し、その最中には参加者が困惑するような言葉を発しないよう気をつけており、祈とう料を支払うよう求めたこともなく、Aと共謀したという事実もないと主張し、被告本人尋問調書(乙二四)には、これに沿う供述部分がある。しかし、次の理由により、この供述部分は採用することができない。

ア 「因縁切り」の際のAの役割について

被告本人尋問調書(乙二四)には、被告自身には霊能力があり、Aには霊媒の能力があるものと信じていた、また、いったんは、Aの役割について、Aはお手伝いとして一緒に「因縁切り」を行っていたが、「因縁切り」の最中は自分が死ぬか生きるかというような立場になるので、Aの発言は記憶に残っていない、二人でかけ合いという形で先生役の被告とお手伝いのAで「因縁切り」を行っていたなどとの供述部分がある一方で、被告とAは霊能力者と霊媒師という関係ではなく、お祈りするときには、自分と、そして後ろに座ったAがお手々を合わせて座っているだけで、発言も何もしていないなどとする供述部分があり、両者は矛盾している。また、もし二人とも黙って手を合わせて祈っているだけとすれば、Aがお手伝いをわざわざする必要はないことになり、その点でも不合理な供述がなされているといえる。

被告は、「因縁切り」を何回も行っており、Aの役割や関係について当然に答えられるはずであるにもかかわらず、上記調書における供述内容は相互に矛盾しているのに対し、これに反する原告ら本人の供述は、一貫性があり、かつメモや録音テープの内容とも合致しているため信用性が高いから、上記調書における被告の供述内容は採用できない。

イ 「因縁切り」での被告自身の言葉について

被告本人尋問調書(乙二四)には、「因縁切り」の際には、始めに、本当に切られますか、自分の本意でなさってくださいと言い、再度来た者に対しては、もう行う必要はないと言い、そして、儀式が終わってから儀式の内容を参加者に説明する際にも、きれいになりましたねということだけを話していたとの供述部分がある。そして、「集い」においても、霊の話はしておらず、始めに本意で参加してくださいと言い、悩み相談をして、お互いに幸せになりましたねというようなことしか言っていなかったとの供述部分がある。

しかし、「因縁切り」の一回の祈とう料の額は一六万円、「集い」の参加料でも一回三万円と高額である上、「集い」は月一回で、毎回七~八人は参加しており、「因縁切り」についても、複数回受けている参加者も少なくない状況があったと認められる。この事実からすれば、もし被告が供述するとおり、儀式中も終了後もきれいになりましたねとしか言わず、今後は行う必要はありません、開始時にもあなたはする必要がないなどと被告が言っていたのであれば、参加者が一六万円もの高額の祈とう料をあえて支払い、何度も足を運ぶとは通常考えられない。

また、「集い」で因縁に類する霊的な話を「因縁切り」開始後も行っていないという供述についても、「集い」が「因縁切り」を開始するきっかけとなった事実と整合的とはいえず、被告の供述は採用できない。

ウ 謝礼について

被告本人尋問調書(乙二四)には、「集い」や「因縁切り」の際、参加者が封筒にお金を入れて持ってきているのを見ていたし、参加者は悩みを持っていてお金に余裕がある人ばかりではないことは認識していたものの、お金を受け取るのは本当に申し訳ない気がしたため、直接自分は頂かず、次の「因縁切り」の際に参加者の目に付かないところでAからお金を受け取っていた。その際にも、お金をもらうことは申し訳なかったので、お金に関して一人幾ら支払っているのかも、全体として幾らAが受け取ったのかも何も聞いておらず、管理はすべてAに任せていたとする供述部分がある。

しかし、本当に参加者に対して、お金を出させるのが申し訳ないと考えるのであれば、毎回支払をする参加者を目の前にし、Aからも万単位のお金を受け取り、さらに、Aが一部を抜いて、借金返済などに使っていることを認識している以上、支払状況を把握し、それが高すぎるのであれば、支払わないように参加者に働きかけるのが自然である。それにもかかわらず、被告は、Aに支払状況を確認することも、お金を支払わないよう参加者に働きかけることもせず、放置していた行動からすれば、参加者に対してお金を支払わせるのが申し訳ないとの認識を持っていたとは考えられず、被告本人尋問調書(乙二四)の上記供述部分は採用できない。

かえって、被告本人尋問調書(乙二四)には、Aから被告に対して、祈とう料の支払がなされないことがあったが、Aが自分の借金の返済に利用していると知っていたので、Aに対して問いただすことはなかったとする供述部分があるが、被告が、Aが借金の返済に使用していることを知りつつ放置し、参加者に繰り返し「因縁切り」や「集い」に参加させている状況からすれば、あらかじめ、参加料や祈とう料として支払われた金員については、Aと被告とで分けて費消するという共謀があったことが推認されるところである。

また、確かに、「因縁切り」や「集い」以外の場で執ように参加するよう働きかけていたのはAではあり、祈とう料のAから被告への受渡しは参加者の目に付かないところでなされていたが、これは、勧誘や、お金の回収というアシスタント的な行為をAが行い、先生として、「集い」で教えたり、「因縁切り」で祈とうを行ったりする行為を被告が行うという役割分担があったからにすぎず、共謀を否定する事実には当たらない。

エ 被告本人尋問調書(乙二四)において、被告は、「因縁切り」という、被告が中心になって繰り返し行っていた儀式についてさえ、相互に矛盾し、録音テープの反訳(甲E二)やメモ(甲A一〇~一三)とも合致しない、あいまいな供述を繰り返している。

したがって、被告本人尋問調書(乙二四)は、その重要な部分に関して、信用できず、共謀を否定する被告の供述部分も採用できない。

二  争点(2)(被告が「因縁切り」の祈とう料及び「集い」の参加料を徴収した行為の違法性)について

(1)  宗教的活動は、信教の自由の一形態として保障されるが、社会的相当性を逸脱する場合には、違法な行為となり得るところ、行事への勧誘や祈とうへの勧誘について、祈とうなどをしないことによる害悪を告知することにより、いたずらに参加者の不安や恐怖心を発生させたり、助長させたりして、被勧誘者の自由な意思決定を不当に阻害し、祈とう料などについて過大な支払をさせた場合には、その行為は、社会的相当性を逸脱し、違法な行為となるというべきである。

(2)  そこで、争点(1)で認定した事実を前提として、検討する。

ア 原告X1について

被告らは、原告X1に対し、因縁を切らないと人生が開くことはないとか、原告X1や娘の離婚問題について「因縁切り」をすれば離婚問題は解決するとか、次女にも「因縁切り」を受けさせないと将来ずっと悩み続けなければならないとか、集いに参加することで原告X1や娘二人の悪い先祖の因縁が取り払われるとか、動物の霊がいっぱい出てきている、家族を守るためには、「因縁切り」をしなければならないなどと申し向けており、これは、いたずらに原告X1に不安を発生・助長させ、原告X1の自由な意思決定を阻害したものといえる。

そして、その結果、「因縁切り」の祈とう料と「集い」の参加料合計七一万円という高額な金員の支払をさせたものである。

イ 原告X2について

被告らは、仕事や夫、家庭のことで悩んでいた原告X2に対し、夫の因縁で子供たちが大変なことになる、先祖の因縁をそのままにしておくと、もっと借金が膨らみ、人からも恨まれ、最後はきちがいになる、あなたに母の内縁の夫が憑いた、夫と復縁しないと長男のアトピーは悪くなり、子供は原告X2を恨み、仕返しをする、全てが因縁のせいで、子供は大変なことになるなどと申し向けて、「集い」や「因縁切り」に参加しなければ、大変なことになると言っており、これはいたずらに原告X2の不安を発生・助長させ、原告X2の自由な意思決定を阻害したものといえる。

そして、三人の子供を育て、お金に余裕のない状況である原告X2から、「因縁切り」の祈とう料と「集い」の参加料合計三〇一万円という高額な金員の支払をさせたものである。

ウ 原告X3について

被告らは、子供の慢性疾患のクローン病で悩んでいる原告X3に対し、その病気の原因は先祖の因縁で、因縁を切れば、子供が死ぬこともないが、「因縁切り」をしないと子供は死ぬとか、原告X3の夫も「因縁切り」が必要であるとか、子供も「因縁切り」が必要で、やらないと病気が治らない、このままだと死んでしまうなどと申し向けたものであり、いたずらに原告X3の不安を発生・助長させ、原告X3の自由な意思決定を阻害したものといえる。

そして、原告X3から、「因縁切り」の祈とう料と「集い」の参加料合計八一万円という高額な金員の支払をさせたものである。

エ 原告X4について

被告は、平成一六年三月ころ、原告X4に対し、「因縁切り」に類似する儀式を行い、誰の生首かは教えないまま、生首が出てきたと言ったり、放っておくと、子供がこれから先、バイクとかで本当に死ぬようなこともある、因縁を切らないと、永遠にたたりがある、一回や二回ではあなたの因縁は取りきれないと申し向け、「因縁切り」を受けないと不幸になるということにより、原告X4に対し、いたずらに不安を発生・助長させて、原告X4の自由な意思決定を阻害したものといえる。

そして、原告X4から、「因縁切り」の祈とう料と「集い」の参加料合計五一万円という高額な金員の支払をさせたものである。

オ 原告X5について

Aは、店舗を開店して一年も経たない状況である原告X5に対し、店舗にも因縁めいたものが感じられるから「因縁切り」をしたらどうかと言い、いたずらに原告X5に不安を発生・助長させ、原告X5の自由な意思決定を阻害したものといえる。

そして、原告X5から、「因縁切り」の祈とう料として二〇万円という高額な金員を支払わせたものである。

カ これらの事実によれば、上記(1)の判断基準に照らし、被告らの原告らからの参加料及び祈とう料の徴収は違法な行為であるというべきである。

(3)  被告は、自身に霊能力があると確信しており、「因縁切り」における言葉は、霊能力によって見えた因縁や霊の様子について、見たままを語ったのであるから、社会的相当性を有する宗教的活動をしたにすぎず、違法性はないと主張する。

しかし、被告本人尋問調書(乙二四)において、自分は「因縁切り」の参加者に、恐ろしい思いをさせたくないから、きれいになりましたねという言葉しか言っておらず、霊や因縁など参加者が怖い思いをするような言葉を言っていないとする供述部分があるが、被告が自らの霊能力によって見えた因縁や霊の様子を、見たまま語ったという宗教的活動を行ったとの証拠はない。

そこで、被告は、霊能力によって見えた因縁や霊を語るという、社会的相当性を有する宗教的活動をしたにすぎないから、違法性は認められないとの被告の主張は理由がない。

(4)  また、被告は、原告らが脅したとして主張する被告の言葉は、「因縁切り」の前に述べたものではなく、「因縁切り」の結果として述べたものであるから、原告らが「因縁切り」を受けたことのきっかけにはならないと主張する。

しかし、上記認定事実のとおり、被告らが、原告X1に対し、「因縁切り」をしないと人生が開くことはない、「因縁切り」をしないと次女の問題について将来ずっと悩み続けなければならない、原告X2に対し、放っておくと人からも恨まれ最後にはきちがいになる、原告丙用に対し、難病の息子も「因縁切り」をしないとこのまま死んでしまう、原告X4に対し、因縁を切らないと子供に災いがかかってくる、などと言ったことが認められる。そして、これらの言葉の内容からすれば、「因縁切り」の後ではなく、前に述べたものと考えられ、「因縁切り」を受けたことのきっかけになっているといえる。

また、確かに、「因縁切り」や「集い」以外の場で執ように参加するよう働きかけていたのはAではあるが、争点(1)で述べたとおり、被告とAとの間に共謀が認定でき、Aが、勧誘というアシスタント的な行為を行うという役割分担があったからにすぎないことからすれば、被告が「因縁切り」の前に直接勧誘する言葉を原告らに対して言った機会が少なかったとしても、被告の行為の違法性を否定する理由とはならない。

よって、被告の主張は認められない。

三  争点(3)(出資金名目による原告X1に対する金銭詐取の有無)について

原告X1は、被告がAと共謀して、被告の霊能力に畏怖している心理状態を利用し、架空の投資等を名目にして、金員を詐取したと主張し、被告はこれに対し、原告X1のAに対する金員の交付と、被告が行った「集い」や「因縁切り」とは無関係であり、被告は関与していないと主張して争っている。

しかし、原告X1本人の供述及び陳述書(甲A一)によれば、投資の話を何度も持ちかけたのはAであり、お金の引渡しも直接Aに対して行われ、振り込みもA名義の郵便口座に送金する方法でなされていることが認められるのに対し、被告の関与を基礎づける事実は認められない。

そして、これらの行為は、すべて「因縁切り」や「集い」とは異なる場所で、専らAにより行われているため、被告とAとが共謀していたとの事実を推認するに足りず、他に原告X1が主張する事実を認めるに足りる証拠はない。

四  争点(4)(出資金名目による原告X2に対する金銭詐取の有無)について

ア  原告X2本人の供述及び陳述書(甲B八)によれば、Aが、原告X2に対し、原告X2の祖父の年金を担保に金を借りるように何度も申し向けているところ、これらの行為はすべて「集い」や「因縁切り」以外の機会で行われたものであると認められる。そして、上記証拠によると、Aは、原告X2に対し、「私が困っているときは助けろ」などと言ってお金を要求していることが認められるところ、これは「集い」や「因縁切り」の費用としてではなく、Aのために金を出せと要求しており、「集い」や「因縁切り」とは無関係であることが推認される。また、上記証拠によると、支払も「集い」や「因縁切り」とは異なる場において、Aに対して直接支払われていることが認められる。

イ  もっとも、上記証拠によれば、平成一六年八月七日、被告は、「集い」において、Aが信者からカードや現金をその信者の職場まで取りに行くのは「世のため、人のためしたこと、何も悪いことはしていない。」と言ったことが認められるが、この発言から被告とAとが出資金名目による原告X2に対する金銭詐取について共謀していたとの事実を推認するには足らない。他に原告X2が主張する事実を認めるに足りる証拠はない。

五  争点(5)(出資金名目による原告X3に対する金銭詐取の有無)について

原告X3本人の供述及び陳述書(甲C一三)によれば、原告X3は、三回にわたって、出資金名目で金銭を詐取されていることが認められる。しかし、上記証拠によれば、投資の勧誘は、Aが行っており、また、金銭は、出資金の名目で支払われており、「集い」や「因縁切り」に対する謝礼として支払われたものではないこと、さらに、原告X3にAが同行してATMから金銭を借り入れ、直接Aが受け取るという方法で支払がなされており、被告が関与したことはないことが認められる。

そこで、Aが、被告の霊能力を利用して、脅迫したとしても、それによってAに対して支払われた金員についてまで、被告が責任を負うものではない。

六  損害について

原告らは、被告らの不法行為によって、財産的損害だけではなく、精神的苦痛を受けたものと認められるから、これを慰謝するために、相当額の慰謝料の支払を命じるべきであり、また、本件を遂行するに当たっては、原告ら訴訟代理人弁護士に依頼する必要があったから、認容額の一割程度の弁護士費用は、相当因果関係がある損害である。

(1)  原告X1

「因縁切り」の祈とう料として支払った合計六五万円が経済的損害に当たり、慰謝料として一三万円、弁護士費用としては八万円が相当であるといえるから、損害額の合計は八六万円となる。

(2)  原告X2

「因縁切り」の祈とう料及び「集い」の参加料として支払った合計三〇一万円が経済的損害に当たり、慰謝料として六〇万円、弁護士費用としては三六万円が相当であるといえるため、損害額の合計は三九七万円となる。

(3)  原告X3

「因縁切り」の祈とう料として支払った合計六五万円が損害に当たり、慰謝料として一三万円、弁護士費用としては八万円が相当であるといえるため、損害額の合計は八六万円となる。

(4)  原告X4

「因縁切り」の祈とう料として支払った合計五一万円が損害に当たり、慰謝料として一〇万円、弁護士費用としては六万円が相当であるといえるため、損害額の合計は六七万円となる。

(5)  原告X5

「因縁切り」の祈とう料として支払った二〇万円が損害に当たり、慰謝料として四万円、弁護士費用としては二万円が相当であるといえるため、損害額の合計は二六万円となる。

第四結論

よって、原告X1の請求は八六万円及びこれに対する平成一九年一月一日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金、原告X2の請求は三九七万円及びこれに対する平成一九年一月一日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金、原告X3の請求は八六万円及びこれに対する平成一九年一月一日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金、原告X4の請求は、六七万円及びこれに対する平成一九年一月一日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金、原告X5の請求は二六万円及びこれに対する平成一九年一月一日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める限度で理由があるので認容し、その余はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉川愼一 裁判官 上田卓哉 西脇真由子)

別紙 祈祷料等一覧表《省略》

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