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京都地方裁判所 平成19年(ワ)3702号 判決 2012年3月29日

甲・乙・丙・丁事件原告

別紙原告目録<省略。X1他204名>記載のとおり

(以下「原告ら」という。)

原告ら訴訟代理人弁護士

岩佐英夫

毛利崇

大河原壽貴

佐藤克昭

塩見卓也

福山和人

森川明

甲・乙・丙・丁事件被告

学校法人Y(以下「被告」という。)

同代表者理事長

同訴訟代理人弁護士

諸石光熙

魚住泰宏

主文

1  被告は,別紙認容金額一覧表の「原告」欄記載の各原告に対し,同表記載の各金員及びうち同表の「平成17年」欄記載の各金員に対する平成17年12月10日から,うち同表の「平成18年」欄記載の各金員に対する平成18年12月9日から,うち同表の「平成19年」欄記載の各金員に対する平成19年12月11日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は,甲・乙・丙・丁事件を通じてこれを10分し,その3を原告らの負担とし,その余を被告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  甲事件

被告は,別紙請求金額一覧表<省略>1の「原告」欄記載の各原告に対し,同表記載の各金員及びうち同表の「平成17年」欄記載の各金員に対する平成17年12月10日から,うち同表の「平成18年」欄記載の各金員に対する平成18年12月9日から,うち同表の「平成19年」欄記載の各金員に対する平成19年12月11日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  乙事件

被告は,別紙請求金額一覧表2の「原告」欄記載の各原告に対し,同表記載の各金員及びうち同表の「平成17年」欄記載の各金員に対する平成17年12月10日から,うち同表の「平成18年」欄記載の各金員に対する平成18年12月9日から,うち同表の「平成19年」欄記載の各金員に対する平成19年12月11日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  丙事件

被告は,別紙請求金額一覧表3の「原告」欄記載の各原告に対し,同表記載の各金員及びうち同表の「平成18年」欄記載の各金員に対する平成18年12月9日から,うち同表の「平成19年」欄記載の各金員に対する平成19年12月11日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4  丁事件

被告は,別紙請求金額一覧表4の「原告」欄記載の各原告に対し,同表記載の各金員及び各金員に対する平成19年12月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要など

1  事案の概要

本件は,被告の教職員である(又はあった)原告らが,被告が従前は一時金(賞与)として,給与月額の6.1か月分及び10万円(以下,「年6.1か月+10万円」というように表記し,この額を「本件基準額」という。)を支給していたところ,平成17年度ないし平成19年度の一時金を「年5.1か月+10万円」(以下「本件一時金額」という。)で支給したことにつき,被告との間で一時金を本件基準額とすることが具体的請求権として労働契約の内容となっており,本件一時金額とする不利益変更は無効であること,誠実交渉義務違反に当たることを主張して,被告に対し,労働契約又は債務不履行に基づき,別紙請求金額一覧表1ないし4欄記載の各金員及び各支払日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

2  前提事実(争いがないか証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる事実)

(1)  当事者

ア 被告は,教育基本法及び学校教育法に従い,私立学校を設置することを目的とする学校法人であり,a大学,b大学のほか,c高等学校,d中学校等附属各校を設置している。

イ 原告らは,本件一時金額を支給された平成17年度ないし平成19年度の時点で,被告と労働契約を締結していたa大学教職員又は附属各校教職員(専任教職員)であった。

(2)  業務協議会

被告(学内理事以上で構成される常任理事会等を含む。以下同じ。)と被告の教職員における労働条件に関する交渉は,主に業務協議会による全体討議により行われてきた。

業務協議会は,被告とY教職員組合連合(a大学教職員組合・d中学校高等学校教職員組合・e中学校高等学校教職員組合・f中学校高等学校教職員組合・g中学校高等学校教職員組合等から構成されており,以下,b大学教職員組合を除き,前身であるY教職員組合を含めて「本件組合」という。)とが昭和27年11月21日に締結した労働協約(証拠<省略>)により規定された組織であり,被告と本件組合とから選任された各6名ずつの代表者によって構成される。(証拠<省略>,弁論の全趣旨)

(3)  事務折衝

被告では,業務協議会の開催前に事務折衝を行うのが通例であった。事務折衝は,労使双方の窓口として,本件組合側は書記長・書記局,被告側は総務担当理事又は総務部長が担当し,業務協議会の開始に向けて議題設定及び日程調整を行い,業務協議会を受けての交渉調整なども行ってきた。

事務折衝は,課題により,拡大事務折衝(労使双方の参加対象を拡大し,本件組合側は4役,被告側は副総長以下が参加)の形をとったり,業務協議会での議論を受け個別課題における個別交渉という形で,労使双方の議論を詰めていく場を設定する機能を有していた。

個別交渉としては,全般及び教学課題については副総長交渉・教学担当常務理事交渉,職員課題では総務担当常務理事交渉,中等・附属校問題では中等担当常務理事交渉・校長交渉等がそれぞれ行われてきた。

(4)  平成16年度までの一時金支給

昭和57年度から平成16年度まで,一時金に関して,本件組合が春闘において要求を行い,被告がそれに対して支給を検討している一時金の具体的な支給基準を回答し,かかる支給基準に関して業務協議会での協議を行い,本件組合の理解を得た後,年間の一時金の支給基準について労使協定を締結していた。

具体的な本件組合の要求,被告の回答及び妥結した一時金の支給基準額は,別紙教職員組合乃至組合連合の要求額・被告の回答額・妥結額の推移<省略>のとおりである。

(5)  平成17年度ないし平成19年度の一時金支給

被告は,平成17年5月27日,「Y教職員組合連合要求書への回答」と題する書面において,同年度のa大学教職員及び附属各校教職員(ともに専任教職員のみ)の一時金について,本件一時金額とする旨回答した。

これを受け,同年6月1日に業務協議会が開催され,その後も団体交渉や事務折衝が行われたが,被告と本件組合との間で一時金の支給基準に関して合意には至らなかった。また,本件組合は,同年12月9日,京都府労働委員会に対して,労働争議のあっせんを申し立て,平成18年3月9日,京都府労働委員会から「労使双方は,学園の発展のため現下及び将来の諸問題について合意できる環境作りに向け,真摯に対応されたい。」というあっせん案が出され,被告,本件組合ともこれを受諾するに至ったが,問題は解決しなかった。

そして,被告は,原告ら教職員に対し,平成17年度ないし平成19年度に,一時金として本件一時金額をそれぞれ支給した(平成17年12月9日,平成18年12月8日,平成19年12月10日にそれぞれ年末一時金を支給した。)。そのため,原告らは,一時金につき,本件基準額の支給を受けた場合と比較すると,別紙各請求金額一覧表記載の各金員の減額となった。

(6)  被告の就業規則,給与規程

ア 原告らに適用される学校法人Y職員就業規則(昭和23年10月4日制定。以下「本件就業規則」という。証拠<省略>)には,次の内容の定めがある。

29条 職員に対する諸給与の決定,計算,支払の時期及び方法並びに昇給に関する事項については,別に定めるところによる。

イ 本件就業規則29条を受けたY職員給与規程(昭和26年11月9日制定。以下「本件給与規程」という。証拠<省略>)には,次の内容の定めがある。

29条 職員に対しては,賞与及び臨時手当を,予算の範囲内で,理事長が定める要領により支給することができる。

なお,理事長において,「要領」を明文で定めたことはない。

3  争点及び争点に対する当事者の主張<省略>

第3当裁判所の判断

1  認定事実

前提事実,証拠(証拠・人証<省略>,原告X2本人,原告X3本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

(1)  本件組合では,毎年4月頃,執行部が春闘の方針を示し,各職場から意見を募った上,組合大会を開催して被告に対する要求事項を決定していた。これに対する一時金に関する被告の回答は,財務担当理事や総務担当理事等が原案を作成し,それを常任理事会で議論してまとめていた。

そして,本件組合の要求を受けた被告の回答が毎年5月頃になされた後,労使双方(被告側は総務担当理事又は総務部長,本件組合側は書記長・書記局等)で事務折衝を行い,業務協議会で協議するテーマ設定,内容,それに要する時間,発言者等を決定した上で,業務協議会において協議していた。業務協議会では,被告側では原則として常任理事以上はすべて出席しており,本件組合側では毎年数十名,平成17年度には数百名の教職員が参加していた。なお,業務協議会では,本件組合員以外の教職員の参加も可能であり,現に参加している教職員もいた。(人証<省略>,原告X2本人,原告X3本人)

(2)  各年度の交渉経過

ア 昭和57年度

(ア) 本件組合の要求

本件組合は,昭和57年4月30日,一時金の支給基準につき,6.4か月+13万円+扶養手当5か月分(夏季2.5か月+4万円,年末3.3か月+4万円+扶養手当5か月分,年度末0.6か月+5万円)とすることを要求し,急激な経済変動(インフレ)があった場合には,年末に増額要求する権利を留保するとした。また,本件組合は,現在の「総合的体系的」な組合要求の実現のために不可欠な年間の組合運動の効率的効果的展開の必要に合致すること,特に賃闘関係では秋季に予算闘争に力を注ぐ必要が出ていること,年度末一時金・夏季一時金が春闘と時期的に重なり,年末一時金も一時金全体の肥大化是正という方針の下では積み上げが困難になっていること,急激な物価上昇には一定の対応が可能なこと,組合員にとっては支給時期と額の固定化が積極的な意味を持つこと,私教連加盟校やh大学など他大学も「年間協定」に踏み切り,特別大きな問題を起こしていないことを理由として,一時金の年間協定化を要求した。なお,本件組合は,今春闘は初めて総体賃金と年間一時金を結び付け,いわば年間賃金闘争全体の結着を賄いした戦いとなったと述べた。(証拠<省略>)

(イ) 被告の回答

昭和57年5月頃に開催された第1回業務協議会において,被告は,年間協定化は受け入れることとし,ただし,肥大化是正のため本件組合の要求額から冬の扶養手当1か月分をカットするとの回答をした。具体的には,被告は,一時金の支給基準につき,6.4か月+13万円+扶養手当4か月分(夏季2.5か月+4万円,年末3.3か月+4万円+扶養手当4か月分,年度末0.6か月+5万円)とする旨回答した(証拠<省略>)。

(ウ) 年間協定の締結

本件組合は,本件組合の要求から扶養手当1か月分のカットを余儀なくされたものの,基本賃金の0.2%積み増しを含む平均4.6%の引上げ,扶養手当の10%引上げを勘案して,一時金の支給基準については被告の回答で妥結せざるを得ないと考えた(証拠<省略>)。

そして,被告と本件組合は,昭和57年11月16日,一時金の支給基準につき,6.4か月+13万円+扶養手当4か月分(夏季2.5か月+4万円,年末3.3か月+4万円+扶養手当4か月分,年度末0.6か月+5万円)とすることで妥結し,年間協定を締結した(証拠<省略>)。

イ 昭和58年度

(ア) 本件組合の要求

本件組合は,昭和58年4月28日,一時金の支給基準につき,6.4か月+13万円+扶養手当4か月分(夏季2.5か月+4万円,年末3.3か月+4万円+扶養手当4か月分,年度末0.6か月+5万円)を要求し,また,急激な経済変動(インフレ)があった場合には,「上積み」要求を立て,これをかちとる権利を留保するとした(証拠<省略>)。

(イ) 年間協定の締結

被告と本件組合は,昭和58年9月21日,一時金の支給基準につき,6.4か月+13万円+扶養手当3か月分(夏季2.5か月+4万円,年末3.3か月+4万円+扶養手当3か月分,年度末0.6か月+5万円)とすることで妥結し,年間協定を締結した(証拠<省略>)。

ウ 昭和59年度

(ア) 本件組合の要求

本件組合は,昭和59年4月27日,一時金の支給基準につき,6.4か月+13万円+扶養手当3か月分(夏季2.5か月+4万円,年末3.3か月+4万円+扶養手当3か月分,年度末0.6か月+5万円)を要求し,また,急激な経済変動(インフレ)があった場合には,「上積み」要求を立て,これをかちとる権利を留保するとした(証拠<省略>)。

(イ) 被告の回答

被告は,一時金の支給基準につき,6.1か月+12万円+扶養手当2.5か月(夏季2.4か月+4万円,年末3.2か月+4万円+扶養手当2.5か月分,年度末0.5か月+4万円)とする旨回答した(証拠<省略>)。

(ウ) 協議内容

第3回までの業務協議会において,本件組合は,一時金の支給基準が前年度に比して,夏季,年末,年度末それぞれ0.1か月分,扶養手当0.5か月分,定額部分1万円が変更されることにより,教職員一人当たりの平均年収が約2万円切り下がることになったため,年収の切り下げになると追及した。

これに対し,被告は,私学賃金に対する国民・父母・学生の目が厳しくなっていること,被告の賃金水準が9私大平均よりやや落ち込んでいるとしても,9私大平均が他の私学や公務員に比して高い水準にあること,第三次長期計画の実現によって教学諸条件を改善することが当面の課題であり,この計画実現によって教職員の賃金労働条件も改善できること,相対的低学費を堅持しながら第二次学生数減計画を遂行することがこれまでになく困難な状況に陥っていることなどの理由を挙げ,さらに,一時金が社会的にみて大きすぎるのでこれを6.0か月まで縮小したい,定期昇給見込みではCPI<消費者物価指数>上昇率をクリアしている,一時金回答は当初予算の6.3か月に0.2か月分上積みしたものである旨説明した。

このような被告の説明に対し,本件組合は,今回の減額回答は,私学「高賃金」攻撃に対し攻勢的に立ち向かわず,社会的賃金抑制機構にも屈服したものであるという批判を展開し,被告に対し,年収の落ち込みを回復するよう要求した。

そして,第4回業務協議会において,被告は,一時金の支給基準につき,0.05か月,平均約2万円を上積みする旨の再回答,すなわち6.15か月+12万円+扶養手当2.5か月(夏季2.4か月+4万円,年末3.2か月+4万円+扶養手当2.5か月分,年度末0.55か月+4万円)とする旨の再回答をした。

また,第5回業務協議会において,本件組合は,一時金の削減分は基本給・生活関連手当等に繰り入れることを要求し,被告はこれを考慮していく旨表明した。

(証拠<省略>)

(エ) 年間協定の締結

被告と本件組合は,昭和59年7月12日,一時金の支給基準につき,6.15か月+12万円+扶養手当2.5か月(夏季2.4か月+4万円,年末3.2か月+4万円+扶養手当2.5か月分,年度末0.55か月+4万円)とすることで妥結し,年間協定を締結した(証拠<省略>)。

エ 昭和60年度

(ア) 本件組合の要求

本件組合は,昭和60年4月25日,一時金の支給基準につき,6.4か月+13万円+扶養手当3か月分(夏季2.5か月+4万円,年末3.3か月+4万円+扶養手当3か月,年度末0.6か月+5万円)とすることを要求した(証拠<省略>)。

(イ) 被告の回答

被告は,一時金の支給基準につき,6か月+11万円+扶養手当2か月分(夏季2.4か月+3万5000円,年末3.1か月+3万5000円+扶養手当2か月分,年度末0.5か月+4万円)とする旨回答した(証拠<省略>)。

(ウ) 協議内容

昭和60年5月16日開催の第1回業務協議会において,本件組合は,被告に対し,①2.5%の賃上げ回答をする一方で,一時金を0.2か月分カットしており,本俸換算では1.1%の賃金カットに等しいこと,これでは,一律アップは0.4%(1.5%マイナス1.1%)にしかならず,落ち込み是正分を入れても1.4%のアップにしかならないこと,②9私大平均からの落ち込み回復について,被告も考慮したといっているが,①を考慮すれば実質的な回復には程遠いこと,③2年連続の一時金カットの根拠が不明確であることを主張して,再回答を要求した。これに対し,被告は,①一昨年,昨年と低額回答だったから,今年は回復しなければならないという考え方はしていない,②9私大平均は重要な指標の一つではあるが,9私大平均だけでなく,全私大,国公立なども考慮に入れた,③一時金カットについては,基本賃金を重視した,④物価上昇率については,定期昇給込みで考えたと説明した。

同月29日開催の第2回業務協議会において,本件組合は,①教職員に確信と展望を与え得るような長期的賃金政策の欠如,②「社会的水準論」にみられるような主体的財政努力の欠如,③本俸・一時金の切り離し論(年収レベルでの9私大平均への到達の努力のあいまいさ),④根拠のない一時金カット,⑤9私大平均からの落ち込み回復の実効ある政策の欠如などの諸点を批判し,被告は,本件組合の指摘を考慮することを表明した。

同年6月10日開催の第3回業務協議会において,本件組合は,①実質賃金維持,②9私大平均からの落ち込み回復,③一時金の根拠のない削減撤回について再回答することを強く要求し,被告も有額再回答の方向で検討することとした。

同月12日開催の第4回業務協議会において,本件組合は,これまでの業務協議会の到達点として,①Yの賃金水準は,9私大平均を具体的な指標とする,②今年度の賃金回答は,基本計画遂行に重大な影響を与える(教育・研究・労働の内容水準),③Yの長期賃金政策は,実質賃金維持を基本とする,④一時金の削減は,教職員の年間総収入・手取額に重大な影響を与える,という4点に整理した上で,一時金の削減撤回等について,被告に再回答を求めた。被告は,基本計画要綱について大筋の合意に達したとの認識に立ち,教職員のエネルギーに依拠し,21世紀を目指す学園創造を進めていきたい,そのエネルギーを裏付けるものとして,一時金の支給基準につき,0.1か月上積みする(総額6.4437か月)という回答,すなわち,6.1か月+11万円+扶養手当2か月分(夏季2.4か月+3万5000円,年末3.2か月+3万5000円+扶養手当2か月分,年度末0.5か月+4万円)とする旨の再回答をした。この被告の再回答に対し,本件組合は,①理事会の再回答の努力を評価するが,今年度の組合春闘要求からすると極めて不十分である,一時金カットについて実質賃金を維持するためにも,9私大平均へ回復するためにも,少なくとも一時金の昨年並みの支給が必要である,②さらに,これまでの他私大回答では一時金カットは行われていない,カットの根拠が不明確である等の諸点を指摘して,残るカット部分0.1か月の回復を強く要求した。

これに対し,被告は,①私学の賃金は相対的に高いこと,②今年度の回答では基本賃金を重視したこと,③一時金については社会的妥当性(9私大,私学全体,社会全体の賃金水準)を考慮したこと,9私大の一時金の高さが問題視されているもとで一時金の9私大水準に合わせることはできないことなどを主張し,本件組合の要求には応じなかった。(証拠<省略>)

(エ) 年間協定の締結

被告と本件組合は,昭和60年6月28日,一時金の支給基準につき,6.1か月+11万円+扶養手当2か月分(夏季2.4か月+3万5000円,年末3.2か月+3万5000円+扶養手当2か月分,年度末0.5か月+4万円)とすることで妥結し,年間協定を締結した(証拠<省略>)。

オ 昭和61年度

(ア) 本件組合の要求

本件組合は,一時金の9私大水準からの落ち込みが,年収レベルでの落ち込みの主要原因となっているとして,一時金の支給基準につき,昭和58年度実績(6.4か月+13万円+扶養手当3か月分)の回復を要求した(証拠<省略>)。

(イ) 被告の回答

被告は,一時金の年間協定は昨年どおり6.1か月+11万円+扶養手当2か月分(夏季2.4か月+3万5000円,年末3.2か月+3万5000円+扶養手当2か月,年度末0.5か月+4万円)とすること,ただし,①各一時金算定期間における欠勤日数の取扱いを,現行の「各一時金算定期間において,10日間以上欠勤した場合に10日ごとに18分の1づつ減率する。ただし最低保障は3分の2」から,「年間を通じ10日以上欠勤した場合,各一時金算定期間において,通算10日ごとに18分の1づつ減率する。ただし最低保証は3分の2」に改正する,②職務手当を一時金算定の基礎に加えるという回答をした(証拠<省略>)。

(ウ) 協議内容

被告から上記(イ)の回答が出されたことを受け,昭和61年5月23日開催の第2回業務協議会において,一時金における職務手当,欠勤日数の取扱いの問題について,本件組合要求にそぐわないという批判が提起された。被告は,このような本件組合の批判に対し,一時金への役職手当算入は,組合要求の教員への役職手当増額に対応すること,学園基本計画推進との関連で役職者は厳しい責任を負っているにもかかわらず,役職者への手当が社会的に遅れていること,一時金における欠勤日数の取扱いについては,制度の正しい運用を図り,職場に不公平感も出ていることからの提起であると反論した。

第3回業務協議会において,被告は,一時金については,予算額である6.3か月をオーバーした月数換算6.445か月の回答をしており,年収でも9私大平均をクリアしていること,一時金への職務手当算入問題は,職務・職階給制度とは一切関係ないこと,一時金における欠勤日数の取扱い問題と土曜休暇・年休繰越制度の改善がセットで出されたことに対する本件組合の批判に対しては,両者を総労働日数,総労働時間の問題としてとらえていることによる提起であること,欠勤日数の取扱いの変更が結果的に病弱者への不利となるという本件組合の批判に対しては,具体的な病弱者対策があれば受け止め協議していきたいことを説明した。

そして,第3回業務協議会においては,一時金を巡る二つの問題についての厳しい議論が中心となったので,一時金の支給基準そのものについての議論は十分に行われなかったが,被告の回答が昨年並みの回答であったため,本件組合としては,数年前からの一時金支給率の削減傾向に歯止めをかけることができたという評価であったこと,夏季一時金の支払時期とそのための事務手続上のタイムリミットが迫っていることから,同会閉会後の本件組合の組合員集会で一時金の年間協定締結の方向が確認された。(証拠<省略>)

(エ) 年間協定の締結

被告と本件組合は,昭和61年6月23日,一時金の支給基準につき,6.1か月+11万円+扶養手当2か月分(夏季2.4か月+3万5000円,年末3.2か月+3万5000円+扶養手当2か月分,年度末0.5か月+4万円)とすることで妥結し,年間協定を締結した(証拠<省略>)。

カ 昭和62年度

(ア) 本件組合の要求

本件組合は,昭和62年4月27日,一時金の支給基準につき,昭和58年度実績分,すなわち6.4か月+13万円+扶養手当3か月分(夏季2.5か月+4万円,年末3.3か月+4万円+扶養手当3か月分,年度末0.6か月+5万円)の要求をした(証拠<省略>)。

(イ) 被告の回答

被告は,昭和62年5月21日,一時金の支給基準につき,6.1か月+11万円+扶養手当2か月分とする旨回答した(証拠<省略>)。

(ウ) 協議内容

主に賃金のベースアップ問題に関して議論がなされていたが,第3回業務協議会において,被告は,9私大平均との賃金格差の実態は理解しているとしながらも財政構造上の弱さを持っているとした上で,本件組合の主張に応えて,6.1か月+11万円+扶養手当2か月分+1万円とする旨の再回答をした。

これに対し,本件組合は,依然として9私大平均との格差は拡大しており,額については不満であるなどと批判を行ったが,被告は再回答の額が限界である旨主張した。これを受けて,本件組合は,同会の交渉を一旦中断して組合員集会を開催し,一時金については支給日程を既に遅らせていることから妥結することを決定し,再開後の交渉で妥結を表明した。(証拠<省略>)

(エ) 年間協定の締結

被告と本件組合は,昭和62年6月5日,一時金の支給基準につき,6.1か月+11万円+扶養手当2か月分+1万円(夏季2.4か月+3万5000円+1万円,年末3.2か月+3万5000円+扶養手当2か月分,年度末0.5か月+4万円)とすること,夏季一時金の一律1万円は,本年度限りの特別措置とすることで妥結し,年間協定を締結した(証拠<省略>)。

キ 昭和63年度

(ア) 本件組合の要求

本件組合は,組合員のアンケートで最も要求の多かった一律分の増額要求を昨年度の一時金実績に加算すること,基本賃金部分のみを社会的平均的水準に近づけるというだけではなく,年間総収入の格差是正も追求するという観点から,年間一時金についても月数換算で9私大平均水準を要求することとして,一時金の支給基準につき,6.43か月+11万円+扶養手当2か月分とするよう要求した(証拠<省略>)。

(イ) 被告の回答

被告は,一時金の支給基準につき,本俸化した定額1万円を減額した上で,6.34か月(6.1か月+10万円+扶養手当2か月分)とする旨回答した(証拠<省略>)。

(ウ) 協議内容

昭和63年5月17日開催の第1回業務協議会において,被告は,年間臨時給与の在り方について数年前から修正の方向性を打ち出しているところ,一律11万円は今日の生活水準,賃金水準全体からみて妥当性を欠く考え方であることから10万円にすること,その削減した1万円を基本賃金重視の方向に転用することなどを説明した。

一方,本件組合は,基本賃金のアップ率が低いままで一時金の減額をすることには問題があると主張しており,同年6月1日開催の第3回業務協議会において,年収の9私大格差が大きいのは,一時金の格差による部分が大きいこと,被告は基本賃金重視というが基本賃金自体の格差が拡大していること,青年層・学舎管理職員の賃金格差は一時金にはね返ること,22歳ないし25歳の青年は,一時金本俸化を除くと消費者物価上昇率をクリアしないことなどの批判をした。これに対し,被告は,一時金については,9私大接近の方針は持たないこと,青年の賃金はまだ高い水準を保っていること,一時金の削減のみをいっているのではなく,本俸に組み入れる方向で削るといっていること,財政力量があれば研究教育充実の方向で使いたいことなどと説明した。

本件組合は,被告に対し,再回答を求めたが,第3回業務協議会後に職場委員会を開催し,最終的に,年収格差を基本賃金のアップで埋める要求を行うことなどとして,一時金については,被告が提示した支給基準で妥結することを確認した。

(証拠<省略>)

(エ) 年間協定の締結

被告と本件組合は,昭和63年6月10日,一時金の支給基準につき,6.1か月+10万円+扶養手当2か月分(夏季2.4か月+3万5000円,年末3.2か月+2万5000円+扶養手当2か月分,年度末0.5か月+4万円)とすることで妥結し,年間協定を締結した(証拠<省略>)。

ク 平成元年度

(ア) 本件組合の要求

本件組合は,年間総収入の9私大との格差是正を追求するという観点(実際一時金についても格差は拡大している。)から,一時金についてもさしあたり春闘時点は,月数換算で9私大平均を要求すること,「一時金の本俸化」要求や年間協定締結の在り方についても今後本件組合として議論を深めることとして,一時金の支給基準につき,6.43か月+11万円+扶養手当2か月分の要求をした(証拠<省略>)。

(イ) 被告の回答

被告は,一時金の支給基準につき,6か月原則が望ましいが,今年度は昭和63年度と同じ,6.1か月+10万円+扶養手当2か月とする旨回答した(証拠<省略>)。

(ウ) 年間協定の締結

被告と本件組合は,一時金の支給基準につき,6.1か月+10万円+扶養手当2か月(夏季2.4か月+3万5000円,年末3.2か月+2万5000円+扶養手当2か月分,年度末0.5か月+4万円)とすることで妥結し,年間協定を締結した(証拠<省略>)。

ケ 平成2年度

(ア) 本件組合の要求

本件組合は,平成2年4月23日,一時金の支給基準につき,6.43か月+11万円+扶養手当2か月分の要求を行うとともに,円安,公定歩合引上げ,地価高騰などによる急激な物価上昇等が起こった場合には本件組合との交渉に応じることも要求した(証拠<省略>)。

(イ) 被告の回答

被告は,平成2年5月14日,一時金の支給基準につき,従来からの主張どおり年間6か月が妥当であると考えているが,これまでの歴史的経緯も踏まえ,本年度は昨年度と同率・同額で締結したいこと,夏季,年末,年度末の配分についても昨年と同様とすることとして,6.1か月+10万円+扶養手当2か月(夏季2.4か月+3万5000円,年末3.2か月+2万5000円+扶養手当2か月分,年度末0.5か月+4万円)とする旨回答した(証拠<省略>)。

(ウ) 年間協定の締結

被告と本件組合は,一時金の支給基準につき,6.1か月+10万円+扶養手当2か月(夏季2.4か月+3万5000円,年末3.2か月+2万5000円+扶養手当2か月分,年度末0.5か月+4万円)とすることで妥結し,年間協定を締結した(証拠<省略>)。

コ 平成3年度

(ア) 本件組合の要求

本件組合は,平成3年4月22日,教職員の賃金水準が9私大平均からみて,本俸だけでなく年間総収入の面でも大きく引き離されているのは,一時金についても9私大からの格差が存在することが原因であること,教職員の意欲を削ぎ,さらには有能なバイタリティー溢れる青年層の新たな雇用に水をさすこのような一時金の水準はなんとしても改善されなければならないこと,本棒重視の基本姿勢に変化はないが,年間収入格差を改善するためには,一時金の上昇をも要求せざるを得ないとした上で,一時金の支給基準につき,6.4か月+13万円+扶養手当3か月分の要求を行った(証拠<省略>)。

(イ) 被告の回答

被告は,平成3年5月13日,従来からの主張どおり,一時金の年間協定については年間6か月が妥当であると考えていること,しかし,これまでの経緯も踏まえ,本年度は基準給与及び定額部分については昨年度と同率・同額とすること,基準給与以外の扶養手当は対象としないこと,今後,定額部分の在り方については見直しを図っていくことと基本的な考え方を示した上で,一時金の支給基準につき,6.1か月+10万円(夏季2.4か月+3万5000円,年末3.2か月+2万5000円,年度末0.5か月+4万円)とする旨回答した(証拠<省略>)。

(ウ) 協議内容

平成3年5月15日開催の第1回業務協議会において,被告は,一時金の定額10万円も可能な限り速やかに外していくという考え方を持っていること,基本の賃金で生活が当然できる条件に設定し,基本の賃金が保障されていれば一時金は必要ないというのが基本的立場であること,基本賃金を改定するとともに少なくとも一時金の到達点の水準を6か月に置きたいと考えていることなどを主張した。これに対し,本件組合は,扶養手当2か月分をカットすることによって一時金の面からも実質賃下げに拍車をかけることになること,仮に一時金をカットする場合に本俸化するのであれば応じる余地はあるが,他大学の水準は被告の基準より高いにもかかわらずこのような政策をとることは疑問であること,ただでさえ深刻な9私大平均からの年収レベルの落ち込みが一層深刻になることなどを主張した(証拠<省略>)。

また,同年6月上旬開催の第3回業務協議会において,本件組合は,仮に一時金に扶養手当,定額部分が含まれ,定率部分が6か月を超えるのが異常であるというのであればその部分をすべて本俸に組み込んでもらいたいなどと反論した(証拠<省略>)。

しかし,被告は,将来できるだけ早い時期に定額10万円のカット,6.1か月の6か月への引下げを行うことを言明し,6か月を超える一時金は異常である,扶養手当と定額部分の歴史的役割は終わったとの説明を変更しなかった。本件組合は,配偶者手当の2500円アップを勘案したとしても,子供が1人でもいる層,35歳以上の層は軒並み年収が減少し,生活が困難な層ほど負担が多くなる矛盾を指摘して反論したが,被告の回答を覆すには至らず,最終的に,来年度以降,扶養手当の復活要求,あるいはこれに代替する何らかの手立ての要求が必要となるとした上で,一時金の支給基準につき,被告の回答どおりに妥結することとした(証拠<省略>)。

(エ) 年間協定の締結

被告と本件組合は,一時金の支給基準につき,6.1か月+10万円(夏季2.4か月+3万5000円,年末3.2か月+2万5000円,年度末0.5か月+4万円)とすることで妥結し,年間協定を締結した。

サ 平成4年度

(ア) 本件組合の要求

本件組合は,平成4年4月20日,教職員の賃金水準は,9私大平均からみて,基本給だけでなく年間総賃金についても大きく引き離されているが,その一つの大きな原因が一時金における9私大からの格差であること,本件組合は基本給重視の立場をとっているが,年間総賃金における9私大平均からの落ち込み回復のためには,基本給の改善とあわせて一時金の改善が必要であること,9私大平均との格差を一層拡大するような一時金の削減は絶対に認められないこと,一時金の定率部分及び定額部分の改善と,昨年カットされた扶養手当2か月分の復活を要求するとした上で,一時金の支給基準につき,6.4か月+13万円+扶養手当2か月分に改善するよう要求した(証拠<省略>)。

(イ) 被告の回答

被告は,平成4年5月11日,従来からの主張どおり,一時金の年間協定については年間6か月が妥当であると考えているが,これまでの歴史的経緯や他私学の状況も踏まえて,本年度は昨年度と同率・同額とすること,なお,定額部分の在り方については,今後見直しを図っていくこととして,一時金の支給基準につき,6.1か月+10万円(夏季2.4か月+3万5000円,年末3.2か月+2万5000円,年度末0.5か月+4万円)とすること,支給基準については若干の見直しが必要と考えており,今後本件組合に提起したいことなどを回答した(証拠<省略>)。

(ウ) 協議内容

平成4年5月11日開催の第1回業務協議会において,被告は,一時金について年間6か月が妥当であるという考え方であること,そのため本来ならば0.1か月及び10万円のカットの着手を今年度にすべきであること,しかし,全学的,特に常任理事会の議論と我が学園の諸課題を考慮して昨年同様の回答をしたこと,基本的な考え方を変えたわけではなく,上記考え方を進めていきたいことに変わりはないことなどを説明した(証拠<省略>)。

(エ) 年間協定の締結

本件組合は,一時金の支給基準につき,詳細な内容説明を求めた上で,改めて本件組合の態度を表明していきたいとしたものの,被告と本件組合は,6.1か月+10万円(夏季2.4か月+3万5000円,年末3.2か月+2万5000円,年度末0.5か月+4万円)とすることで妥結し,年間協定を締結した(証拠<省略>)。

シ 平成5年度

(ア) 本件組合の要求

本件組合は,主要9私大を比較の対象とするのに対し,被告は例年,民間賃金全体の平均や公務員の賃金をもって「社会的水準」とするという立場をとって対抗しているが,同業種の事業体との比較を行うというのは,比較を有意味なものとするためにはごく当然な方法といえること,生活の悪化をもたらす一時金の改悪を断固阻止し,逆にその大幅な増額を実現せねばならないとして,一時金の支給基準につき,6.4か月+13万円+扶養手当2か月分に改善するよう要求した(証拠<省略>)。

(イ) 被告の回答

被告は,平成5年5月17日,従来からの主張どおり,一時金の年間協定については年間6か月が妥当であると考えているが,これまでの歴史的経緯や他私学の状況も踏まえて,本年度は昨年度と同率・同額とすること,定額部分の在り方については,今後見直しを図っていくこととして,一時金の支給基準につき,6.1か月+10万円(夏季2.4か月+3万5000円,年末3.2か月+2万5000円,年度末0.5か月+4万円)とする旨回答した(証拠<省略>)。

(ウ) 協議内容

平成5年5月11日開催の第1回業務協議会において,被告は,従来から述べるように,一時金として6か月が妥当であるとの考えを持っていること,ただし,学園の課題と教職員の全体の前進ということを考慮し,6.1か月+10万円との回答をしたと説明した。これに対し,本件組合は,一時金について,他私大と比較してかなり低いという資料は示し,それからすると本件組合の要求は正当であり,被告の回答は到底受け入れがたいことなどを主張した(証拠<省略>)。

(エ) 年間協定の締結

被告と本件組合は,一時金の支給基準につき,6.1か月+10万円(夏季2.4か月+3万5000円,年末3.2か月+2万5000円,年度末0.5か月+4万円)とすることで妥結し,年間協定を締結した。

ス 平成6年度

(ア) 本件組合の要求

本件組合は,年収で9私大平均へのキャッチアップを実現するには基本賃金の引上げとともに,一時金でも大幅な改善が必要であること,被告は昨年の業務協議会でも6か月が適当と述べており,定率分・定額分のカットを許さない戦いが重要であると主張し,一時金の支給基準につき,6.4か月+13万円+扶養手当2か月分に改善するよう要求した(証拠<省略>)。

(イ) 被告の回答

被告は,平成6年5月16日,一時金の支給基準につき,5.3か月+10万円(夏季1.6か月+3万5000円,年末3.2か月+2万5000円,年度末0.5か月+4万円)とする旨回答した(証拠<省略>)。

(ウ) 協議内容

平成6年5月18日に開催された第1回業務協議会において,本件組合は,一時金の支給基準につき,被告の回答が定率部分5.3か月であることの根拠につき説明を求めたところ,被告は,平成5年度末の特別加算の0.8か月を加味して実質的には6.1か月+10万円であると説明した。これに対し,本件組合は,本件組合の要求である6.4か月+10万円とは隔たりがあることを指摘した(証拠<省略>)。

(エ) 年間協定の締結

被告と本件組合は,一時金の支給基準につき,平成5年度末の特別加算の0.8か月を加えて,6.1か月+10万円(夏季1.6か月+3万5000円,年末3.2か月+2万5000円,年度末0.5か月+4万円)とすることで妥結し,年間協定を締結した。

セ 平成7年度

(ア) 本件組合の要求

本件組合は,基本賃金と一時金は,労働に対する正当な評価であるとともに,自分たちの生活と研究・教育・労働を支えるものであり,最重要の要求として位置付けること,同規模他私学からの落ち込みが,一時金支給率の低さにも起因していることから,基本賃金の引上げとともに,一時金での大幅な改善が必要であることを主張して,一時金の支給基準につき,6.4か月+13万円+扶養手当2か月分とするよう要求した(証拠<省略>)。

(イ) 被告の回答

被告は,平成7年5月15日,一時金の支給基準につき,6.1か月+10万円(夏季2.4か月+3万5000円,年末3.2か月+2万5000円,年度末0.5か月+4万円)とする旨回答した(証拠<省略>)。

(ウ) 協議内容

平成7年5月31日開催の第2回業務協議会において,本件組合は,9私大からの年収落ち込みの要因となっている一時金の支給率・支給額について何ら改善がなされていないことを指摘した。これに対して,被告は,一時金の在り方はこれまでどおり6か月を基本とすべきという考えであり,他私大の理事会が6か月以上の回答を行っていることに対しては批判的であると主張した(証拠<省略>)。

(エ) 年間協定の締結

被告と本件組合は,一時金の支給基準につき,6.1か月+10万円(夏季2.4か月+3万5000円,年末3.2か月+2万5000円,年度末0.5か月+4万円)とすることで妥結し,年間協定を締結した。

ソ 平成8年度

(ア) 本件組合の要求

本件組合は,9私大からの賃金水準の落ち込みに一時金の格差が拍車をかけていること,教員で,各年齢とも9私大平均から年収で100万円近い格差,職員でも年齢により40~85万円の格差が生じていること,落ち込みの回復を行う上で,他大学も基本賃金の引上げを行うのであるから,一時金支給基準を改善することが鍵になることを主張して,一時金の支給基準につき,6.4か月+13万円+扶養手当2か月分(過去最高実績)とするよう要求した(証拠<省略>)。

(イ) 被告の回答

被告は,平成8年5月13日,一時金の支給基準につき,現行どおり6.1か月+10万円(夏季2.4か月+3万5000円,年末3.2か月+2万5000円,年度末0.5か月+4万円)とする旨回答した(証拠<省略>)。

(ウ) 年間協定の締結

被告と本件組合は,一時金の支給基準につき,6.1か月+10万円(夏季2.4か月+3万5000円,年末3.2か月+2万5000円,年度末0.5か月+4万円)とすることで妥結し,年間協定を締結した(証拠<省略>)。

タ 平成9年度

(ア) 本件組合の要求

本件組合は,平成9年4月21日,一時金の格差こそ9私大から賃金水準の落ち込みをもたらしている大きな要因であること,教員の賃金格差は各年齢とも9私大から年収で100万円近く,職員でも年齢により40~85万円の格差が生じているが,その約7割が一時金の格差に由来していること,したがって,9私大からの落ち込みの回復を行う上で,大幅に一時金支給基準を改善することが不可欠になるとし,一時金の支給基準につき,6.4か月+13万円+扶養手当2か月(過去最高実績)とするよう要求した(証拠<省略>)。

(イ) 被告の回答

被告は,平成9年5月19日,一時金の支給基準につき,現行どおり,6.1か月+10万円(夏季2.4か月+3万5000円,年末3.2か月+2万5000円,年度末0.5か月+4万円)とした上で,一時金が6か月を超えるところは,公務員,民間を含めて皆無に等しく,その意味では私学の大半が業績に関係なく6か月以上,9私大においては7か月前後にあることは到底父母から理解されるものではないこと,本学は一時金について9私大に接近させていく方針はとらないことを回答した(証拠<省略>)。

(ウ) 協議内容

平成9年5月21日開催の第1回業務協議会において,本件組合は,9私大との年収比較においての落ち込みの要因は一時金であると主張したのに対し,被告は,9私大の一時金レベルが社会的水準からみても高すぎると考えていること,したがって一時金を上げることによって9私大との関係をキャッチアップしようとは考えていないこと,中等教育では他私学は軒並みカット回答がされる中で,今次の回答は積極的意味合いがあること,一時金について被告独自の有り様を構築していくことなどを主張した(証拠<省略>)。

(エ) 年間協定の締結

被告と本件組合は,一時金の支給基準につき,6.1か月+10万円(夏季2.4か月+3万5000円,年末3.2か月+2万5000円,年度末0.5か月+4万円)とすることで妥結し,年間協定を締結した。

チ 平成10年度

(ア) 本件組合の要求

本件組合は,平成10年4月20日,9私大水準からの落ち込みは,特に一時金の格差において顕著であり,格差の約7割が一時金に由来していること,この点について,前年度の被告回答は,「私学の大半が業績に関係なく6か月以上,9私大においては7か月前後であることは,到底父母や社会から理解されるものではない。」と述べているが,本件組合は,単純に一時金の増額を求めているのではなく,年収全体における9私大との格差の是正を求めているのであり,それが月例賃金格差だけでなく一時金の格差から生じているからこそ,一時金の増額を求めていること,同時に本学の課題からみれば9私大に匹敵する賃金条件で優れた人材を確保することの重要さが「父母や社会から理解される」ものであることは明らかであることを主張した上で,一時金の支給基準につき,6.4か月+13万円+扶養手当2か月(過去最高実績)を要求した(証拠<省略>)。

(イ) 被告の回答

被告は,平成10年5月18日,一時金の支給基準につき,現行どおり6.1か月+10万円(夏季2.4か月+3万5000円,年末3.2か月+2万5000円,年度末0.5か月+4万円)とした上で,公務員,民間を含めて一時金6か月以上の支給はトップ水準にあること,既に昨年度において,定員割れの中学・高校・短期大学を抱える法人では削減回答がなされ,今年度は全産業平均においても昨年実績を下回っていること,このような中で9私大が7か月前後にあることは,到底父母や社会から理解されるものではないため,被告は一時金について,9私大に接近させていく方針はとらないことを回答した(証拠<省略>)。

(ウ) 協議内容

平成10年5月22日開催の第1回業務協議会において,本件組合は,被告が9私大水準接近の方針を取らないとする一時金について,年収全体での9私大平均からの落ち込み是正を求めているのであり,月例賃金でこれが達成されるならば,その増額を求めるつもりはないと主張した。これに対し,被告は,基本賃金を重視して今回の回答をしたのであり,社会情勢をみると一時金カットがされている状況であることを認識してもらいたいなどと反論した。本件組合は,大学以外の民間企業の状況からして,一時金の要求を通すのは困難であり,基本賃金のベースアップを要求すべきだとして,一時金の支給基準に関する被告の回答に応じることとした(証拠<省略>)。

(エ) 年間協定の締結

被告と本件組合は,一時金の支給基準につき,6.1か月+10万円(夏季2.4か月+3万5000円,年末3.2か月+2万5000円,年度末0.5か月+4万円)とすることで妥結し,年間協定を締結した(証拠<省略>)。

ツ 平成11年度

(ア) 本件組合の要求

本件組合は,被告の支給する一時金を9私大平均と比較した場合,月数分でおよそ0.5か月,定額分でおよそ3万円の格差が存在すること,基本賃金での平均格差を上回り,年収での格差の大きな要因となること,本件組合は単純に一時金の増額を求めているのではなく,年収全体における格差の是正を求めていること,9私大に匹敵する賃金条件で優れた人材を確保することの重要さは父母や社会から理解されるものと確信するとした上で,一時金の支給基準につき,6.4か月+13万円+扶養手当2か月(過去最高実績)とすることを要求した(証拠<省略>)。

(イ) 被告の回答

被告は,平成11年5月19日,一時金の支給基準につき,現行どおり6.1か月+10万円(夏季2.4か月+3万5000円,年末3.2か月+2万5000円,年度末0.5か月+4万円)とした上で,昨年度の回答においても説明しているように,公務員,民間を含めて6か月を超える一時金実績は,社会的にはトップ水準にあること,また,平成10年度においては,志願者の減少や定員割れした中学・高校・短期大学を中心に一時金カットがなされたこと,本年度の第1次回答において,有力な4年制大学においても実質カットの回答が出されていること,以上の状況と被告の状況も判断して,第5次長期計画の遂行,学園・教学創造に奮闘している教職員に依拠する意味から,社会的に本年度の特徴となっている「カット」とするのではなく,厳しい状況の中でも現行どおりとしたことを回答した(証拠<省略>)。

(ウ) 協議内容

平成11年5月26日開催の第1回業務協議会において,被告は,極端なところは一時金6か月を3か月にカットするなど私学は厳しい状況に置かれていることなどを説明した(証拠<省略>)。

(エ) 年間協定の締結

被告と本件組合は,平成11年6月30日,一時金の支給基準につき,6.1か月+10万円(夏季2.4か月+3万5000円,年末3.2か月+2万5000円,年度末0.5か月+4万円)とすることで妥結し,年間協定を締結した(証拠<省略>)。

テ 平成12年度

(ア) 本件組合の要求

本件組合は,平成12年4月24日,一時金は本俸を主な基礎とした給与の形態であるから,年収の中で本俸を補う位置付けがあること,したがって,月数だけを単独に取り上げて是非を論じるのはためにするものといわざるを得ないこと,9私大における一時金の平均は平成11年度で6.7か月+13万円程度であり,本学では月数と定額部分の両方とも大きく下回っていること,一時金は過去10年以上改善されていないのみならず,かつては付加されていた扶養手当2か月分が失われたため,むしろ実質的な切下げになっていることを述べた上で,一時金の支給基準につき,6.4か月+13万円とすることを要求した(証拠<省略>)。

(イ) 被告の回答

被告は,平成12年5月24日,本件組合の要求は,待遇関連と手当関連のうち額で要求をされているものだけでも回答原資は10億円を超えるものとなっており,待遇の条件は「学費の重み」を考えれば,「社会的水準」を大きく逸脱することはできないこと,待遇において「社会的水準」から適切な範囲にあることは,大学評価が第三者機関による評価へと議論が進んでいる状況の中でも,教職員の待遇を中長期的に堅持する力であり,社会的ネットワークをはじめ,社会と共同・連携して学園・教学創造を進める社会的力となっていることに留意が必要であること,「社会的水準」を大きく上回っているものについては,その「社会的・世間一般の水準」へ中期的に調整を図ることを指摘した上で,一時金の支給基準につき,現行どおり(年6.1か月+10万円。支給も現行どおり)と回答した(証拠<省略>)。

(ウ) 年間協定締結前の一時金の支給

平成12年5月26日開催の第1回業務協議会において,被告は,一時金を増額せよとの本件組合の要求に応えることができないと回答した。そして,基本賃金のベア,諸手当の改定についての被告の回答がゼロであったため,被告と本件組合との交渉は難航し,同年6月16日開催の第2回業務協議会も休会となり,それに伴い,一時金の支給基準についても6月中の妥結が困難な状況であった(証拠<省略>)。

そこで,被告は,同月21日,第2回業務協議会は休会となっているが,本件組合は組合員全体の意見集約と今後の進め方について意思統一する時間を必要としており,直ちに再開できる見通しがないこと,教職員の住宅ローンの支払等を考慮し,被告の責任において,今次回答に沿って夏季一時金を支給することとしたいとして,教職員に対し,夏季一時金2.4か月+3万5000円を支給することを通知し,その後,同額を支給した(証拠<省略>)。

(エ) 年間協定の締結

被告と本件組合は,平成12年7月25日,一時金の支給基準につき,6.1か月+10万円(夏季2.4か月+3万5000円,年末3.2か月+2万5000円,年度末0.5か月+4万円)とすることで妥結し,年間協定を締結した(証拠<省略>)。

ト 平成13年度

(ア) 本件組合の要求

本件組合は,一時金の支給基準につき,6.4か月+13万円とすることを要求した(証拠<省略>)。

(イ) 被告の回答

被告は,平成13年5月23日,9私大の基本給水準,6か月を大きく超える一時金は,「学費の重み」の中で社会,父母の納得を得られるものであるのかどうか,今一度真剣に考える必要があること,昨年度の回答書で示した待遇のアカウンタビリティ(説明責任)としての社会的水準の視点を今次の回答においても堅持することを指摘した上で,一時金の支給基準につき,昨年度どおり(6.1か月+10万円)とする旨回答した(証拠<省略>)。

(ウ) 年間協定の締結

被告と本件組合は,平成13年6月27日,一時金の支給基準につき,6.1か月+10万円(夏季2.4か月+3万5000円,年末3.2か月+2万5000円,年度末0.5か月+4万円)とすることで妥結し,年間協定を締結した(証拠<省略>)。

ナ 平成14年度

(ア) 本件組合の要求

本件組合は,平成14年4月26日,一時金の支給基準につき,6.4か月+13万円とすることを要求した(証拠<省略>)。

(イ) 被告の回答

被告は,平成14年5月22日,6か月を超える一時金の上に基本賃金(名目本俸)の一律改定を行うことは社会から理解が得られないこと,一時金について,現在の社会状況から6か月に接近させることを基本方針とすること,さらに給与体系など今日の待遇の「社会的ありよう・水準」から現行の給与体系など待遇を巡る制度についても,社会的視点から検討を進めることを指摘した上で,一時金の支給基準につき,6.1か月+5万円とすると回答し,平成15年度には6か月とすることを目指すとした(証拠<省略>)。

(ウ) 協議内容

a 第1回業務協議会

平成14年6月5日開催の第1回業務協議会において,本件組合は,今年5万円,来年度さらに5万円+0.1か月と最終的に10万円+0.1か月というように一時金カットによって教職員全員の賃金が減ることは一律マイナス評価であるとの意味になり,これまでの教職員の努力を踏みにじる回答であり認められないこと,教職員は奮闘してきたが,教職員の努力を評価するという結果がマイナス評価では納得できないこと,教職員の一時金カットをする前に理事手当をカットすべきであること,評価制度によってカット部分を教職員同士がとりあうことは,現場への影響が大きく組織を破壊する危険性があること,父母は学費の重みに見合った教育を望んでおり,賃金カットによってモチベーションが下がった教職員が教育を担うことは父母からの不満に繋がる可能性があることなどを主張して,一時金カットについて撤回を求めた。

これに対し,被告は,基本賃金要求と一時金に対する回答だけではなく回答全体をみて欲しいこと,過去にも一時金の基準を変更したことはあること,学費の負担者である父母の給与のことは考えざるを得ないこと,一時金の高さについては従前から問題にしており,6か月にすべきと考えていること,社会的水準は全体で4.5か月であり,9私大平均をみているのではないこと,私学を取り巻く環境の厳しさ,課題が数多くある中で,5万円を原資に評価制度を導入することにより,教育研究の質の向上に繋げていきたいことなどを主張した。

本件組合は,評価は上積みされるものであり,減らした上で上積みするという提起には疑問を感じること,今回の評価制度導入と一時金カットが一体として提起されたことに教職員は問題を感じていると主張した。

幾度かのやり取りがされた後,再度事務折衝を持って今後の方向性を整理することが総長より提起され,かかる提起に本件組合,被告双方が合意し,業務協議会は一時休会となった。

(証拠<省略>)

b 夏季一時金の支給

一時金の支給基準につき妥結をみないまま第1回業務協議会が休会となり,一時金の支給に関する協定が締結できない状態であったため,本件組合は,被告に対し,平成14年度の夏季一時金を昨年度の算定基準で支給するよう申し入れた。これに対し,被告は,一時金に関して回答(6.1か月+5万円)の変更はないと基本見解を述べた上で,平成14年度の夏季一時金につき,平成13年度夏季一時金と同じ基準により平成14年6月28日に仮払すると回答し,夏季一時金2.4か月+3万5000円を支給した(証拠<省略>)。

c 再開後の第1回業務協議会

平成14年7月8日開催の再開後の第1回業務協議会において,本件組合は,一時金カットについては教職員のこれまでの実践をマイナス評価するものとして厳しく批判するとともに,一時金カットと評価制度とは一体であると説明していたが,各種折衝,個別交渉において,被告の考えに変化がみられるので統一した見解を述べて欲しいこと,今回の一時金5万円のカットは,とりわけ青年層にとっては重い意味を持っていること,将来の学園の担い手となる青年層に相対的に重いマイナス評価を与えておいて,今後の学園の発展は保障されるのかという疑問があること,被告は一時金は世間的には4.7か月であるというが,全産業・全職種を通じたものであれば,ストレートにこの数字を適用することは乱暴な論理であること,被告は教職員の一時金を一律にカットしなければならないような財政状況ではないこと,ベアゼロとあわせて一時金カットで9私大水準からの落ち込みはさらに深刻になることなどの主張をし,被告に対し,一時金カットの撤回を求めた。

これに対し,被告は,教職員をマイナス評価したものではないこと,今日の被告があるのは,多くの社会的な支援によって成り立っていること,依拠すべき社会的なものは学費の負担者である父母であり,父母のことを考えることなしに賃金の有り様は決められないこと,一時金について公務員はカット,従業員1000名以上の企業の平均は4.5か月,昨年は4.7か月であるが,いきなりそこまで削減するとは言っていないこと,平成4年度以来6か月を目指すといっているが,一時金の在り方についてはそういう基本方針を持ちたいこと,今年は一律定額で5万円をカットしたいこと,若年層に影響が大きいことは理解していること,学外の様々な支援に支えられている大学として社会性にきちんと着目しなければならないことなどを主張した。一方,本件組合は,教職員の奮闘の具体的な評価が一時金5万円のカットということなのか,カットをしないと社会的評価を得ることができないのかと疑問を述べ,9私大平均の下にあるのに一時金カットは許されないこと,同業他社との社会的水準を考慮するのが経営者の第一の責任であること,父母の大変さを理由にして5万円カットをいうのはおかしいことなどを主張した。

このような議論を受けて,被告は,一旦休憩を挟んだ後の再回答において,評価制度は理事会の責任において実行に踏み切るが,一時金の支給基準について被告は正しいと思っているものの,5万円カットの今次回答は撤回すると表明した。

これに対して,本件組合は,一時金5万円カットの取り下げは出発点に戻ったということである,理由が不明確な5万円カットは取り下げられて当然であると主張し,業務協議会は閉会となった。

(証拠<省略>)

(エ) 年間協定の締締

被告と本件組合は,平成14年11月25日,一時金の支給基準につき,6.1か月+10万円(夏季2.4か月+3万5000円,年末3.2か月+2万5000円,年度末0.5か月+4万円)とすることで妥結し,年間協定を締結した(証拠<省略>)。

ニ 平成15年度

(ア) 本件組合の要求

本件組合は,平成15年4月25日,一時金の支給基準につき,6.1か月+10万円とすること,一時金の支給方法を年3回から年2回に変更することを要求した(証拠<省略>)。

(イ) 被告の回答

被告は,平成15年5月21日,6か月を超える一時金など待遇の社会的水準を大きく上回っている「9私大平均(水準)」を前提に,被告の待遇問題を検討することはできないこと,昨年度の回答において「一時金についても,現在の社会状況から6か月に接近させることを基本方針とします。」とした「6か月」でさえ,現在の社会的状況から大きく上回っている水準であることを指摘した上で,一時金の支給基準につき,6.1か月+10万円とすること,年3回支給から2回支給(夏季2.0か月,年末4.1か月+10万円〔年度末は廃止〕)に変更することを回答し,また,昨年度の回答において,「一時金についても現在の社会的状況から6か月に接近させることを基本方針とします。平成15年度には6か月を目指す。」としており,この方針は堅持するが,全学協議会と「新世紀学園構想第1期基本計画(案)」の具体化に向けて全学の叡智と取り組みを結集していくことが今何よりも求められていることから,教職員の一層の奮闘を期待して,平成15年度は昨年どおりとすると回答した(証拠<省略>)。

(ウ) 協議内容

平成15年5月27日開催の第1回業務協議会において,被告は,世間では一時金がカットされるなど過酷な状況であり,父母よりも被告の教職員の一時金の額が多いとし,一時金の支給基準の回答に関して,一時金の課題は修正していきたい考えはあるが,諸課題などを抱える環境から今次回答としたこと,一時金について昨年5万円を評価制度の原資とすることを回答したが,今年は評価制度導入について議論を進めるという信頼で,今次回答をしたことを説明した。これに対し,本件組合は,一時金の支給基準の要求に関して,一時金については現状維持にとどめたこと,様々な社会保障制度の改悪を考えれば増額要求すべきであったが,他の学校法人の状況等を考慮し,学園発展のために今次要求とした旨説明した(証拠<省略>)。

(エ) 年間協定の締結

本件組合は,平成15年6月12日,被告に対し,春闘協議は継続中ではあるが,組合への加入の有無を問わず教職員の生活条件等を保障する立場から,平成15年度一時金の支給に関する協定書を締結するとして,一時金の支給基準につき,6.1か月+10万円(夏季2.0か月,年末4.1か月+10万円)とする年間協定の締結を申し入れた(証拠<省略>)。

これを受け,被告と本件組合は,同年6月18日,一時金の支給基準につき,6.1か月+10万円(夏季2.0か月,年末4.1か月+10万円)とすることで妥結し,年間協定を締結した(証拠<省略>)。

ヌ 平成16年度

(ア) 本件組合の要求

本件組合は,平成16年4月30日,一時金の支給基準につき,6.1か月+10万円(昨年実績)とすることを要求した(証拠<省略>)。

(イ) 被告の回答

被告は,平成16年6月2日,私学は学費によってその収入の大部分をまかっていることから,学費負担者である父母の家計状況を考慮せざるを得ないこと,父母をはじめとする世間一般の待遇の水準(社会的水準)と今年の春闘の状況から,父母にも説明でき理解できるものとすること,9私大の水準,特に6か月を優に超える一時金の水準は,現在の「社会的水準」からは大きくかけ離れ,これを比較・検討の重要な基準として置くことはできないと考えること,この間の学園・教学創造における公私協力,60億円を超える私学助成,社会的ネットワーク,リエゾン活動など社会的に支えられている被告としても,「社会的水準」を大きく超える待遇水準は,社会的な理解を得ることが困難であると考えていることを指摘した上で,一時金の支給基準につき,本件組合の要求どおり,6.1か月+10万円とする(夏季2.0か月,年末4.1か月+10万円。昨年実績)こと,ただし,6か月を超える一時金の水準は,現在の「社会的水準」からは大きくかけ離れていること,平成14年度に回答した「一時金についても現在の社会状況から6か月に接近させる。」という,この基本方針は維持するが,「今一段の飛躍」を進めるために,教職員の一層の奮闘を期待して,平成16年度については昨年どおりとすることを回答した(証拠<省略>)。

(ウ) 協議内容

平成16年6月11日開催の第1回業務協議会において,被告は,一時金についての今年度の回答は,他大学ではカットがなされている状況からして正当に評価すべきものであることを主張した(証拠<省略>)。

これに対し,本件組合は,一時金の支給基準についての被告の回答が本件組合の要求と同水準であったため,春闘は継続するが,一時金の支給基準に関しては,6.1か月+10万円(夏季2.0か月,年末4.1か月+10万円)で合意する方向で検討を行った(証拠<省略>)。

なお,年間協定締結後である同月30日開催の第2回業務協議会において,被告は,一時金は世間の相場からみれば多いと思っているが,本件組合の要求書や議案書を見,理事会の議論を経て本件基準額としたこと,被告の教育力の飛躍的高まりが見え始めたことを実感したときには,教育・研究・労働条件を抜本的に変え得ることもある旨説明した(証拠<省略>)。

(エ) 年間協定の締結

被告と本件組合は,平成16年6月22日,一時金の支給基準につき,6.1か月+10万円(夏季2.0か月,年末4.1か月+10万円)とすることで妥結し,年間協定を締結した(証拠<省略>)。

ネ 平成17年度

(ア) 本件組合の要求

本件組合は,平成17年4月28日,一時金の支給基準につき,昨年度実績(6.1か月+10万円)を要求した(証拠<省略>)。

(イ) 被告の回答

被告は,平成17年5月27日,①学園財政の中長期見通しとして,平成20年度以降,学費据置きと仮定すると平成20年度から平成23年度ではランニングコストにおいて104億円の不足となること,他方,本学の人件費比率は決して低くはないこと,21世紀に大学改革のフロントランナーたる学園であり続けるためには,社会的資金導入をはじめ自助努力を強める一方,総合的な財政政策を抜本的に見直しを図らなければならない時期にきていること,②社会的水準からみた被告の給与水準-求められる「社会的説明責任」として,私立大学・学園(学校法人)は,国から私学助成を受けており,学園運営については社会的説明責任を負っていることから,教育・研究はもとより,財政政策,教職員の待遇条件等も社会の有り様と無関係ではあり得ないこと,人事院勧告の動向や民間企業,さらには学生父母の年収等から勘案して,思い切った措置が必要な時期に来ていること,いわば「社会的水準」の中で本学の教職員の待遇条件を決めていかねばならないこと,昨年の人事院勧告では「勧告ベア0,定期昇給率1.71%,賞与4.4か月」としており,民間ベースを抑制する傾向を一層強めていること,i大学との年収ベース比較(教員)では,本学が全年齢において上回っていること,資本金5億円以上,従業員1000人以上の企業動向(平成16年6月調査)でも,年収ベース比較において35歳平均で約57万円,45歳で約24万円,55歳平均で約10万円と本学事務職員の方が上回っており,一時金の基準でも1.7か月(平成15年時点)本学が上回っているが,同調査対象は,我が国を代表する企業群であり,日本経団連加盟企業の中でもさらに選りすぐりの企業であること,一方,本学の「平成16年度新入生父母アンケート(回収率37.3%)」でも明らかなように,本学学生の主たる家計支持者の年収は,最多層が700~900万円であるが,学生父母の平均年齢は50歳代前半というところであるから,本学職員の同額所得者の年齢において大きく差が出ることは歴然としていること,私立大学学生家計負担実態調査(教職員組合実施)でも明らかなように,私立大学学費の「負担は重い」「非常に重い」を加えて,90%を超えており,この傾向は10年余り同様の傾向を示しており,これ以上の学費値上げは容易にできるものではないことなどから,被告は他私学の理事者とは教職員の給与水準について意見を異にし,同様の処遇制度を踏襲していては,社会的責任を果たして改革を行い世界に躍り出ることはできないこと,他私学の給与体系は昭和36年から続く,民間企業や公務員制度ですら準用しない伝統的な年功制度であり,改革を推進する本学の立場とは基本的に異なるものといわざるを得ないこと,被告では他私学を参考にはするが,一般的な私大平均論等の比較ありきの議論は行わないこと,③研究力向上のために被告全体で改革推進をすることとして,研究を支える教職員の処遇制度を画一的年功型から高度で多様な制度に移行する導入措置を図ること,具体的には研究重視の施策実施のために,全教職員の人件費1か月分相当額とともに法人としても新たな予算を計上すること,国際的な競争環境にある我が国の教育政策に対応するため,情勢の変化にマッチした柔軟な施策が必要であり,3,4年を目途に手当額等機敏な対応措置をとることを指摘した上で,一時金の支給基準を本件一時金額(年5.1か月+10万円)とすることなどを回答した(証拠<省略>)。

(ウ) 協議内容

a 平成17年6月1日,第1回業務協議会が開催された。同業務協議会において,被告は,大学倒産時代が到来してきた中で社会状況に対し非常に厳しい認識を持っていること,国家公務員の一時金が4.4か月まで切り詰められている社会情勢の中で,主要私立大学の年俸に対しては,教育,研究,社会貢献の実績が見合っているのかという批判も含めた世間の目は厳しいこと,現に民間企業,金融機関,国公私立大学の学長等で構成される21世紀大学経営協会の場でも一時金が7か月の水準にある私立大学もあるとして社会的説明責任を果たせない水準であると議論されたこと,9私大と横並びのやり方で行うという状況下で重点的に選択と集中で研究費を出していくことができるのか疑問であるということ,a大学の国庫補助金の約半分を占める一般補助については今後縮小,廃止という議論が出ており,こうした見直しについても深刻に考える必要があること,平成16年に行った新入生父母アンケートの結果,家計状況は極めて厳しい状況にあり,学納金収入を増額させることは既に限界に達していること,こうした厳しい状況の下でも,必要なときに必要な事業を展開できる財政力量,研究力量,教学力量を作り出し,責任を持って提起し実行することは被告の責任であること,これまで学園が切り開いてきた力量をさらに高めて大学院教育,研究の分野でも高度化し,世界に打って出る力量を早急に構築することが今後20年の被告の運命を左右することを主張し,今次の方針提起における二つの重点として,①一時金の支給基準について,昨今の社会的水準に鑑み本件一時金額とすること,②研究・大学院に重点を置いた支出約11億円を計上することを説明した。また,被告は,平成20年度から平成23年度まで学費を据え置いた場合,その学費の減収分の総額が4年間で104億円になると前記回答書の説明を訂正するなどした上で,多様な教職員処遇制度への移行を目指す必要性があり,その前提として学生・父母の生活水準や経済実態を勘案して教職員の処遇を考えなければならないこと,そのため,研究ファンドの創設や大学院手当の増額,大学院博士課程担当手当の新設などの新たな制度設計を確立する財政措置のために一時金の1か月分カットを提案したのではなく,社会的説明責任と給与の社会的水準の観点から判断した回答であると繰り返し強調したが,協議がまとまらないまま第1回業務協議会は閉会した(証拠<省略>)。

b 上記aのとおり,一時金の支給基準につき,協議がまとまらない中,被告は,本件組合に対して,平成17年6月15日,本件一時金額(夏季2.0か月,年末3.1か月+10万円)とする旨の通知を行い,同月30日,原告らを含む教職員に対して,夏季一時金(2.0か月)を支給した(証拠<省略>)。

c 被告は,平成17年6月8日の拡大事務折衝において,父母に対して社会的説明責任を果たすことが重要であり,今やらなければ教職員の将来において雇用継続の危機を迎えかねないとの回答を述べるなどした後,同月22日,本件組合との間で第1回団体交渉を行い,第1回業務協議会における説明を繰り返すなどした(証拠<省略>)。

また,同年7月8日に財務担当常務理事及び総務担当理事と本件組合側との懇談会が開かれ,同理事らが一時金の1か月カットと将来の財政見通しは全く別物であり,因果関係のないことを説明するなどした上,同月19日には第2回団体交渉が行われた。第2回団体交渉では,理事長及び総長が欠席したものの,その委任を受けた副総長,専務理事等は,教職員の営みをマイナス評価として一時金カットを提案したものではないこと,被告の財政は学費のみならず多額の補助金を受けているため,父母や社会に対して財政の使途について説明責任があり,厳しい状況に直面している点についての理解を教職員に求めてきたこと,長期的な財政見通しに立って様々な財政判断をしなければならないこと,社会的水準とは社会的説明責任が基本であり原点であること,具体的な指標は,同業他社水準である9私大平均だけではなく,人事院勧告を含めた国家公務員の給与を比較対象とし,年収・年俸の問題と一時金の支給月数それぞれに社会的水準が問われること,i大学やj大学,民間企業との比較の中で,被告の給与水準が上回っていること,私大連盟の財務担当理事者会議でも人件費の引下げ問題が検討されており,もはや9私大平均では社会的水準としての説明責任が成り立たないため,被告は人事院勧告のベースとなったデータを社会的水準の基本として考えていること,過去の回答書で示した6か月に接近させる基本方針の意味は6.1か月+10万円では多いと言っているだけであり,6か月にすることが目標ではないこと,今回は一時金の月数の大きさを挙げているが,年収についても他と比較しても多いこと,社会的説明責任という観点から,賃金の重さを受け止めてもなおカットという一定の判断をし,教職員に理解をしてもらうために協議していることなどを主張した(証拠<省略>)。

同年10月31日の第3回団体交渉において,被告は,被告の政策・有り様を議論するに当たり,社会性の観点を重視してきたこと,例えば,全学協システムは,一言では「学生参加」と言っているが,学生参加の後ろには父母がいること,学生諸君は,自分の後ろの父母がどういう家計にあるかということを通じて学園問題を議論してくるように社会性をもって議論してきたこと,したがって,我々は,厳しくなればなるほど「社会性」を原点に諸政策をうっていくことが極めて重要であることが,今次一時金回答の背景にあると説明した。また,被告は,年末一時金を1か月削るというのは大変であるが,それで我々の生活の質を基本的に変えるものではないこと,我々はその痛みに耐えながら新しい展望をしようということなどを訴えた。さらに,被告は,学園の倒産の危機が来たとき,最後に賃金カットをして大学を救えるのか,学園・教職員が意欲を持って展開し,確信を持っているときにこそ,社会性ある有り様を取らなければならないこと,攻勢的に展開できるときだからこそ,足腰を強くして被告の中長期的な見通しを含みながら学園改革や21世紀の学園政策を固めていくために,研究力強化を置き,一時金カットを研究に回すという決断をしたこと,寄付等を受けるに当たり我々の賃金が社会的説明責任に耐え得るかということを考えたときに,一時金の水準は,公務員や父母との関係からして明らかに高いこと,被告はk大学・l大学のような足腰の強い構造になっておらず,そういう大学と同様の政策は取らないし,取れないこと,公務員も人事院勧告でも一時金カット,定数削減競争も起こっていることなどを主張した(証拠<省略>)

同年11月17日の第4回団体交渉において,被告は,理事長及び総長が欠席したものの,その委任を受けた副総長,専務理事等は,一時金について,社会的水準からみて高すぎること,人事院勧告である4.4か月という水準を考慮に入れたこと,全国的な公務員給与の削減,北海道や京都府の公務員を巡る状況,その他社会的水準等に鑑み,教職員の一時金の水準が高いと判断したことなど,従前と同様の主張を繰り返した(証拠<省略>)。

同月24日の第5回団体交渉において,被告は,一時金について,1か月減少することの重みを感じていないわけではないこと,父母が学費を負担し,父母や民間の企業等から寄付を受けているところ,父母や国民の所得水準や経済状況を無視して賃金水準を決められる時代ではなく,父母等の一時金や年収について考えるべきであること,被告は学校法人として税制上の優遇措置を受けていること,平成16年度は国からの補助金は67億円,自治体からは14億円,合計81億円もの補助金を獲得してきたこと,特徴的な公私協力として,滋賀県と草津市だけで134億円を獲得してきたこと,公務員の問題,人事院勧告の問題を考慮し,社会的説明責任を考えなければならないこと,それが中長期的にみて財政難にも繋がりかねないことなどを説明した。しかし,被告と本件組合との間で妥結に至らず,最終的に,被告は,被告の責任で今次回答の執行をすると言明した(証拠<省略>)

なお,全交渉の過程において,本件組合は,被告に対し,社会的水準の根拠として,他大学の教育・研究・労働環境等を明らかにした指標比較の提示等を求めたが,被告は,具体的な資料を提示しなかった。

d そして,被告は,平成17年12月9日,原告らを含む教職員に対して,年末一時金(3.1か月+10万円)を支給した。

(エ) 労働委員会によるあっせん

本件組合は,平成17年12月9日,京都府労働委員会に対して,①被告の誠実な対応,②被告は,本件組合と議論を尽くしておらず,合意のない一時金カットや諸手当の強行執行を撤回し,昨年度実績による年末一時金の支払をすること,③中長期的な財政シミュレーションによる計算書類など財政危機の根拠となる財務資料や社会的水準の根拠となる資料の開示を要求して,労働争議のあっせんを申し立てた。

そして,平成18年3月9日,京都府労働委員会から「労使双方は,学園の発展のため現下及び将来の諸問題について合意できる環境作りに向け,真摯に対応されたい。」というあっせん案が出され,本件組合,被告ともこれを受諾するに至った。

被告は,その後,平成17年度の一時金等に関する組合交渉について,誠実な団体交渉等を尽くした上で,その権限と責任において年末一時金の振込を行ったことによって終了したと考えているとの見解を述べ,本件組合との交渉には応じなかった。

(証拠<省略>)

ノ 平成18年度及び平成19年度

(ア) 被告は,平成18年6月14日,一時金の支給額を本件一時金額(夏季2.0か月,年末3.1か月+10万円)とすることを告知し,同月30日に夏季一時金,同年12月8日に年末一時金を支給した(証拠<省略>)。

被告と本件組合との間で業務協議会等が開かれ,交渉がなされたものの,被告は,一時金に関する問題は終了していると述べ,本件組合との間で一時金に関する支給基準の妥結には至らなかった。

(イ) 被告は,平成19年度においても,本件一時金額を支給した。

ハ 平成20年度

被告は,平成20年度においても,一時金としては本件一時金額を支給したが,基本賃金について平均6.3%のベースアップを実施した。その内容は,単純な一律のベースアップではなく,教職員の職種・年齢等によって若干の傾斜配分を含む賃金改定であった。このベースアップは,一時金の引下げとは別個の判断で行われたものであるが,この結果,標準的な教職員については,一時金が本件基準額であった場合の年収と同程度の年収となっている(ただし,職種・年齢によっては,それを下回る教職員もいる。)。

(3)  被告と本件組合との間で締結された年間協定は,各年度ごとに,被告の理事長及び本件組合の執行委員長の記名押印のある書面によって作成されており,支給の算定期間(昭和63年度以降),支給額(算定基礎を含む。),支給日等が記載されている。

そして,被告は,本件組合の組合員以外の者に対しても,同協定で定めた基準によって一時金を支給していた。

(4)  業務協議会では,被告の置かれている状況や教学課題に関して多大な時間を割いて協議しており,その後,賃金などの生活関連問題に関して協議がなされていた。なお,第1回の業務協議会を開いた後,課題別に,担当の理事と本件組合側の懇談会をした後,2回目の業務協議会が開催されるなどしていた。

具体的には,業務協議会において,大きく分けて,教学課題,教職員の待遇課題がテーマとなり,基本賃金のベースアップ問題のほか,その時期に応じて,長期計画の内容,大学設置やキャンパス移転に伴う問題,週休2日制に伴う超過勤務問題等が主たる議題となっていた。一時金の支給基準に関しては,前記(2)のとおり,被告の回答が前年度の妥結額よりも低額となった場合のほかは実質的な交渉が行われることはなく,生活関連要求に関する基本賃金のベースアップ回答の関連で,一時金を含めた年収の水準が高額すぎるとの被告の主張が簡単に述べられる程度であった。これは,被告及び本件組合双方とも,一時金の額よりも基本賃金(月給)を重視していたことによる。(人証<省略>,原告X2本人,原告X3本人)

(5)  被告の財政状況は,次のとおりである。

ア 2大学,4中学高等学校・1小学校の学生・教職員数の推移

(ア) 学生数

平成11年度 3万5960名

平成18年度 4万6141名

(イ) 大学教員数

平成11年度 純専任583名 全体809名

平成19年度 純専任775名 全体1108名

(ウ) 附属校教員

平成11年度 226名(常勤講師を除くと182名)

平成19年度 374名(常勤講師を除くと268名)

(エ) 専任職員数

平成11年度 424名

平成19年度 461名

イ 財政状況

(ア) 帰属収入

平成11年度 約568億円

平成18年度 約698億円

(イ) 資産の部合計

平成11年度 約2205億円

平成18年度 約2953億円

(ウ) 基本金

平成11年度 約1612億円

平成18年度 約2544億円

ウ 平成18年度の予算額と決算額

(ア) 学生生徒等納付金

予算約494億円(構成比80%)

決算約519億円(同74.3%)

(イ) 手数料

予算約19.4億円(構成比3.1%)

決算約33億円(同4.7%)

(ウ) 寄付金

予算約6.1億円(構成比1.0%)

決算約11.5億円(同1.6%)

(エ) 補助金

予算約72.3億円(構成比11.7%)

決算約85.7億円(同12.3%)

(証拠<省略>)

2  誠実交渉義務違反(争点(1))

(1)  原告らは,被告が本件一時金額とするに当たって誠実に交渉しなかったこと,すなわち誠実交渉義務違反がある旨主張する。

そこで,被告の交渉内容について検討すると,前記1(2)ネの認定事実のとおり,被告は,平成17年5月27日,一時金の支給基準につき本件一時金額とするとの回答をした後,本件組合との間で業務協議会,団体交渉において交渉している。その中で,被告は,本件一時金額とした理由について,被告は学生の父母の納める学費,企業や父母等からの寄付,国や自治体からの私学助成,公私協力等を受けて成り立っており,人事院勧告等国家公務員や国立大学の教職員,民間企業や被告の学生の父母等との年収・一時金との比較なくして被告の教職員の給与・一時金を決定することはできないこと,すなわち,そのような社会的水準を考慮したと主張していたといえる。なお,原告らは,本件一時金額とした理由について,研究力強化のため,将来の財政不足のためと被告が説明していた旨主張するところ,被告の回答書(証拠<省略>)でもそれらの内容に関しての記載があり,関連性がないわけではないが,平成17年6月1日の第1回業務協議会において,被告が研究ファンドの創設や大学院手当の増額等新たな制度設計のためではなく,社会的説明責任と給与の社会的水準の観点から本件一時金額としたこと,同年7月8日の財務担当理事等と本件組合との懇談会で,同理事等が財政見通しと本件一時金額としたことに関連性はないことなどを明言しているとおり,本件全証拠によっても,それらを本件一時金額とした直接的な理由としていたとは認められない。被告は,社会的水準に比して原告らの一時金が高額であり,その結果,将来的に,学生生徒の父母や企業等社会からの援助を受けることができなくなるおそれがあると説明していたと認めるのが相当である。

(2)  団体交渉等に応じる使用者としては,組合の要求や主張に応じた回答,説明をするにとどまらず,被告の回答・説明の根拠となった資料等を提示する義務があると解されるところ,前記1(2)ネのとおり,被告は,そのような具体的な資料を本件組合に提示するなどしたとは認められない。

確かに,人事院勧告などは公表されているものであって,本件組合側としても当然知り得るものであったといえる。また,本件組合において,国立大学の教員一人当たり8人~10人の学生数であるのに対して,被告の場合,64人~68人の学生数であることを指摘しているように(証拠<省略>),他の大学の労働環境についてある程度把握していたところもあったといえる。

しかし,使用者としては,自己の説明内容について,組合が資料を入手できるか否かにかかわらず,できる限りの具体的な資料を示して説得すべきであったといえ,被告の考える社会的水準として,原告らの求めている福利厚生,企業年金,退職金,各種手当の有無,あるいは教育・研究・労働環境等の比較対象を説明し得る限度で説明すべきであった。また,原告らが主張するように,平成17年度の被告の回答書(証拠<省略>)において,研究力強化及び中長期的な財政不足に関する記載があり,それも本件一時金額とした理由かのように読めること,同回答書では104億円のランニングコストが不足すると説明したが,その後,学費の減収分であるなどと説明内容を変遷させたこと,同年7月8日に財務担当理事が財政不足と一時金の額とは関係ないと説明したとしても,その後の本件組合とのやり取りからして,本件組合側としてはその関係について正確に理解していない側面があったといえること,平成16年6月30日開催の第2回業務協議会において,被告は,Yの教育力の飛躍的高まりがみえ始めたことを実感したときには,教職員の労働条件を抜本的に取り組む旨一時金の水準を上げる提案したことなどからすると,平成17年度に入ってどのように状況が変化したのかなどを含め,本件一時金額とした理由について,より丁寧に説明すべきであったといえる。

また,被告は,平成18年3月に京都府労働委員会のあっせん案を受け入れながら,それ以降,本件一時金額としたことについては終了したものとして本件組合との交渉に応じなかった。しかし,当該あっせんの申立ては,平成17年度以降の一時金についての対応を求めていたものであったことは明らかであり,本件一時金額についての問題が解決したとの意見を表明し,交渉に応じなかったことは,本件組合と誠実に対応しなかった結果と評価せざるを得ない。

以上によると,被告に誠実交渉義務違反があったとみる余地がある。

(3)  しかし,仮に,誠実交渉義務違反が認められるとしても,原告らの主張するように,被告が誠実に交渉していれば本件基準額で合意していたとはいえない。

前記1(2)ネのとおり,被告は,業務協議会のほか,5回もの団体交渉において,多少説明内容の重点の置き所は異なるとしても,一貫して社会的水準に比して本件基準額では高額にすぎると主張していたのである。さらに,被告は,本件訴訟において,人事院勧告や民間企業の統計のほか,職種別民間給与実態調査「別紙・平成15年職種別給与実態調査の比較結果」,家計調査,毎月勤労統計調査による比較等を行った結果,平成10年以降平成16年までの間,賞与の支給基準(月数換算)は,約4.9か月から約4.4か月に推移していたと主張するところ,いずれも被告の主張の根拠となる基準であって,それが原告らの求める資料であるとはいえないとしても,被告がより詳しい資料を提示したところで,再考を迫られ,本件一時金額としたのを撤回する状況にあったとは認められない。

よって,誠実交渉義務違反を理由として,本件基準額と本件一時金額との差額を求める原告らの主張は採用できない。

3  一時金を本件基準額とすることが労働契約の内容となっていたか(争点(2))

(1)  原告らは,本件基準額が労働協約によって継続して支給されてきたことから,労働協約の強行性,継続的労使関係の本旨,労働条件対等決定の原則等により,本件基準額が労働契約の内容となっていた旨主張する。

前記1(2)及び(3)の認定事実のとおり,被告と本件組合との間で,昭和57年度以降平成16年度まで毎年,書面により一時金の支給基準に関する年間協定を締結し,労働組合である本件組合と使用者である被告が記名押印してきたものであり,労組法14条の要件を満たしていることからすると,こうした年間協定は労働協約として規範的効力を有し,当該労働協約に反する労働条件は無効となる(同法16条)。

そうすると,被告は,一時金につき,本件組合の組合員との間では合意した労働協約に基づいて,同組合員以外の被告の教職員との間では同労働協約に従った内容に基づいて支給していたといえる。すなわち,本件給与規程29条では,理事長が一時金を定めることができるとされているが,少なくとも本件組合の組合員との間では,理事長が自由に定めることは労働協約に反することとなり,理事長としても労働協約で定めた基準に拘束されることとなる(労基法92条1項参照)。

もっとも,当該労働協約は,各年度ごとに定められたものであることが書面上明らかであって,各年度ごとに効力を有し,翌年度以降の効力を予定していないものである。

そうすると,労働協約が締結されていない平成17年度以降については,本件給与規程29条は労働協約に抵触せず,同条により,被告の理事長が一時金をその裁量により定めることができると解される。原告らは,労働協約の強行性や継続的労使関係の本旨から,労働協約の内容はその失効後においても労働契約内容として持続される旨主張するが,就業規則等に定めがある限り,その定めに沿って労働契約の内容が決定されるべきである。このことは同内容の労働協約が長年締結されていたとしても同様であり,その内容を事実上尊重すべきとしても,直ちに労働契約の内容となるとはいえず,原告らの主張は採用できない。

この点,原告らは,本件給与規程29条が長年機能せず,形骸化していたのであるから,労働協約が失効した後に効力が復活するものではない旨主張する。

しかし,原告らの主張によると,労働協約によって締結した内容については,それまで就業規則によって定めていた内容はすべて効力を失い,労働協約と抵触する就業規則の規定がなかったかのようになるのであり,不当である。就業規則は,本来,有効期間の定めのないものであり,労働協約が失効して空白となる労働契約の内容を補充する機能を有すべきものである。被告は,労働協約を締結せず,その効力がなかった場合,本件給与規程29条を適用して被告(理事長)の裁量により定めることができると認識していたからこそ,平成17年度以降,労働協約を締結せず,本件一時金額を支給したといえる(なお,平成12年度において,被告は,労働協約を締結していないにもかかわらず,自らの責任において,今次回答に沿って夏季一時金を支給すると表明しており,このことからも,理事長が最終的に決定し得ることを前提としていたことが分かる。)。

この点,人証<省略>は,当時,被告の副総長の職にあったが,本件給与規程29条の存在を知らなかったこと,常任理事会等でも「要領」という言葉を聞いたことがないことを供述するが,必ずしも「要領」という明文の規定が必要なわけではないこと,同条は,就業規則を受けた規定であり,被告の根本的な規範であることから,仮に同人がその存在を知らなかったとしても,理事長がその存在を知らなかったとまではいえないこと,最終的に理事長が決定できることを認識していれば足りることからすると,同人の供述は上記認定を左右するものではない。

また,原告らは,給与に関する制度又は基準の制定改廃に関しては業務協議会の決議を要するとの労働協約(証拠<省略>)をもって,労使双方の合意なしに本件一時金額の額を定めることができない旨主張するが,同協約の制定当時(昭和27年),一時金に関する基準が就業規則等の規定により定められておらず,一時金に関する基準がなかったこと,被告と本件組合との間で一時金に関する労働協約が締結されたのは昭和57年度であり,相当期間経過後に締結されたものであることなどからして,一時金の支給に関して業務協議会の決議を要すると労使双方が考えていたかは疑問であり,原告らの主張は採用できない。

以上によると,原告らの主張のとおり,本件基準額が労働契約の内容となっていたとはいえない。外部規律説に基づく原告らの主張も同じく採用できない。

(2)  次に,原告らは,労使慣行論の観点からみて,本件基準額に基づく請求が認められる旨主張する。

ア 労使間で慣行として行われている労働条件等に関する取扱いである労使慣行は,①同種の行為又は事実が一定の範囲において長期間反復継続して行われていたこと,②労使双方が明示的に当該慣行によることを排除・排斥しておらず,当該慣行が労使双方(特に使用者側においては,当該労働条件の内容を決定し得る権限を有する者あるいはその取扱いについて一定の裁量をする者)の規範意識に支えられていることが認められると,事実たる慣習として,労働契約の内容を構成して当事者間に法的拘束力を有するというべきである(なお,原告らは,使用者の規範意識が不要である旨主張するが,規範意識を要しないと,労働関係における基本的な規範となるべき就業規則の効力を軽視する結果となること,その改廃の手続を省略するに等しい結果をもたらすことになることから,原告らの主張は採用できない。)。

イ そこで,まず,一時金の支給基準につき,本件基準額とする労使慣行が成立していたかを検討する。

確かに,前記1(2)の認定事実のとおり,本件基準額とする労働協約が平成3年度から平成16年度まで14年にもわたって締結され,同額に基づいて一時金が支給されていたことから,一時金を本件基準額とすることが長期間反復継続して行われていたといえる。

しかし,被告は,昭和59年度には業務協議会の場において,一時金が社会的にみて大きすぎるのでこれを6か月まで縮小したいとの考えを表明し,回答書においても,平成元年度には6か月原則が望ましい,平成2年度には6か月が妥当であると考えている,平成14年度には6か月に接近させることを基本方針とすることなどを再三表明しており,同年度には第1次回答として6.1か月+5万円の額を回答していた。すなわち,被告(理事長)は,将来にわたって本件基準額とすることを容認していたわけではなく,一時金について本件基準額とする規範意識を有していなかったことは明らかである。

なお,原告らは,被告の本件組合に対する回答書に「現行どおり」との記載があることをもって,一時金の支給基準を本件基準額とする旨の労使慣行があったかのような主張をするが,「現行どおり」との文言は,前年度の算定基準との比較を示すために便宜上用いられている用語にすぎないといえる。また,原告らは,一時金の支給基準を減額するためにはベースアップ(一時金の本俸化)を前提としていた旨主張するが,本件全証拠によっても,少なくとも被告(理事長)が,必ずしもベースアップをしなければ一時金の支給額を前年度よりも減額できないと認識していたとは認められない(平成3年度は,前年度と比較して扶養手当2か月分の一時金が削減されているが,協議内容等からして一時金削減分のベースアップをしたとは認められず,それ以降の年度においてはほとんど議論さえされておらず,関連性は不明である。)。

この点,人証<省略>は,理事会として,本件基準額を維持するとの認識があったこと,平成14年度の一時金支給基準の撤回は,5万円カットが認められない場合は本件基準額に戻るとの認識があったことの証左であることなどを供述するが,各年度の被告の回答書の記載に反すること,仮に同人の供述を基にしてもあくまで本件基準額を最大限尊重・考慮しようとの認識にすぎず,それ以上に本件組合との間で合意が形成できない場合に本件基準額が変更できないとの意見が理事長等多数の理事者にあったとは認められず,同人の供述は採用できない。

以上のことからすると,一時金の支給基準につき,本件基準額とする労使慣行が成立していたとはいえない。

ウ また,原告らは,少なくとも一時金に関する本件基準額を変更しようとする場合には,その点につき誠実に労使交渉を行うべき義務があり,その義務が尽くされない限り,被告は減額を強行できず,少なくとも従前の支給基準で一時金を支給しなければならないとの労使慣行が成立していた旨主張する。

しかしながら,前述したとおり,平成17年度までは,一時金に関して,被告と本件組合との間で,実質的な交渉はほとんどなされなかったのであり,平成3年度以降平成14年度を除いて本件基準額を変更しようとすることさえ行われなかったのであるから,被告や本件組合は,長期間,そのような義務について意識さえしていなかったといえる。そして,各年度ごとに労働協約が締結されており,前記のとおり,被告は6か月の一時金額とすることを目指すと表明していることなどからして,必ずしも従前の支給基準で一時金を支給しなければならないとの規範意識を有していたとはいえない。

よって,原告らの主張する労使慣行があったとは認められない。

エ もっとも,前記1(2)の認定事実のとおり,被告は,一時金について,各年度の回答において,6か月を目指す,6か月に接近させるなどと再三回答しており,平成16年度以前に6か月を下回る額を提示したことはなく,長年にわたって「6か月」を支給基準にしたいという意識を有していたことは明らかである。そして,被告は,本件一時金額とした平成17年度の前年である平成16年度においてさえ,6か月に「接近」させるというのが基本方針であると回答しており,6か月を下回るという意識を有していなかったということができる。そうすると,被告において,一時金の支給基準につき,6か月以上とすることは明示的に排除・排斥しておらず,6か月以上とする規範意識に支えられていたと認めることができる。

この点,被告は,変動することが予定されているという一時金(賞与)の性格や本件組合との協議内容からして,規範意識はなかった旨主張する。

しかしながら,被告は,学校法人であり,学生生徒等による納付金,父母や民間からの寄付金,国や自治体からの補助金等が主な収入源であるところ,そのうち学生生徒等による納付金が70~80%を占めるが,被告全体の学生数は近年の少子化にもかかわらず増加しており,納付金は安定しているということができ,補助金等も年度ごとに大きな変動があるとは考えられず,業績について毎年の変動が予定されている一般企業とは相当異なっているといえる。そのため,被告において,14年間もの間,本件基準額で一時金が支給されてきたのであり,形式的に一時金という性質を重視すべきではない。また,被告の一時金は,個々の教職員の勤務成績等を加味するものではなく,全員一律の基準で支給されるものであることからして,賃金の後払いとしての性質を強く有し,生活給的な性格が強いといえる。このことから,原告らとしても,6か月以上の一時金が支給されるとの期待を有していたことは明らかであり,被告もこういった原告ら教職員の期待を認識していたといえる。

本件組合は,昭和57年度に,支給時期と額の固定化等を考慮し,年間協定としての労働協約締結を要望した結果,被告との間で労働協約を締結しており,この経緯も無視できない。そして,被告と本件組合との協議において,一時金の額が前年度よりも削減されるときでない限り,実質的な議論はほとんどなされていなかったのであるから,その交渉経緯に鑑みると,毎年度労働協約が締結されてきたという事実をもってしても,6か月以上の額を支払わなければならないとの被告の規範意識を否定することはできない。本件組合の要求と被告の回答が異なる場合であっても,業務協議会において,被告は,一時金は社会的水準に鑑みて高額すぎる,将来的には一時金の額を6か月にしたい旨の発言をする程度であり,被告において6か月以上の額を支払わなければならないとの意識を持っていたことは明らかである(なお,業務協議会以外の場において,一時金の支給基準に関して具体的な議論がなされたとは本件全証拠によっても認められない。)。

以上のことからすると,被告が,一時金について,6か月以上の額を支払わなければならないとの規範意識を有していたものと認めることができる。

よって,被告が,14年間もの間,本件組合との間で一時金を本件基準額とする労働協約を締結し,原告ら教職員に対して同額を支給し,回答書や協議内容等においても6か月を下回る一時金の支給を考えていたことさえうかがわれないのであるから,経営状態が悪化したりするなど人件費抑制の必要性が高くなった場合,本給のベースアップをするなどして賃金体系を見直したために一時金の額を引き下げる必要がある場合などの特段の事情がない限り,6か月以上の一時金を支払うとの規範意識があったといえる。そして,本件全証拠によっても,平成17年度ないし平成19年度に,上記特段の事情があったとは認められない。

なお,被告は,平成15年度において,6か月でさえ現在の社会的状況から大きく上回っている水準である旨の考えを表明しているが,同回答書においても6か月を目指すとの方針を堅持するとしており,被告が,6か月を下回る額の一時金を支払うとの意識を有していなかったことは明らかである。また,人証<省略>は,平成14年度に,6か月を目指すと回答したことについて,評価報奨制度の導入のためであり,その前提を欠くと6か月を目指さないかのような供述をするが,評価報奨制度が議論になる前から6か月を目指すと被告は回答しているのであり,同人の供述は採用できない。

他方,原告らにおいても,一時金として6か月以上が支給されるとの規範意識があったことは,前記認定事実から認めることができる。

よって,原告らと被告との間で,少なくとも年6か月の一時金を支給することが労働契約の内容となっていたものと認めるのが相当である。

4  一時金を年6か月とすることが労働契約の内容となっていた場合,それを変更することに合理性はあるか(争点(3))

(1)  被告は,本件一時金額とした理由について,社会的水準に合わせるためである旨主張する(なお,原告らは,被告が本件一時金額とした理由について,第1に研究力強化のためであること,第2に財政の中長期的見通しの厳しさであることを挙げ,社会的水準論は3番目の理由にすぎなかった旨主張するところ,前述したとおり,第1及び第2の理由が直接的にその理由とされていたとまでは認められず,被告は,少なくとも現段階で社会的水準のみを主張し,それに伴う理由として第1及び第2の理由を挙げるにすぎないので,社会的水準の点についてのみ検討する。)。

(2)  労使慣行の変更が許される場合とは,その必要性及び内容の両面からみて,それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても,なお当該労使関係における当該変更の法的規範性を是認することができるだけの合理性を有する必要がある。特に,賃金,退職金など労働者にとって重要な権利,労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす労使慣行の変更については,当該変更が,そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において,その効力を生ずるものというべきであり,その合理性の有無は,具体的には,労使慣行の変更によって労働者が被る不利益の程度,使用者側の変更の必要性の内容・程度,変更後の内容自体の相当性,代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況,労働組合等との交渉の経緯,他の労働組合又は他の従業員の対応,同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきである。

しかるに,被告の一時金は,前記3のとおり,功労報償的な性格は弱く,賃金の後払いであるといえ,生活給的な性格が強いのであるから,労働者にとって重要な権利,労働条件であることは明らかであり,それを変更することについては,そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものでなければならない。原告らにとって,労働契約内容(年6か月の一時金支給)となっていた一時金の一部(0.9か月分から10万円を控除した額)について突然に削減される不利益は極めて大きい(なお,本件で労働契約の内容となった根拠は労使慣行であって,就業規則や労働協約ではないことから,その性質を考慮すべきであるとしても,単なる期待にとどまるものではなく,一旦は労働契約の内容となったのであるから,そのことを重視すべきではない。)。

そして,被告の主張する社会的水準とは,被告の教職員が国家公務員,民間企業,国立大学等と比較して一時金の水準が高いというものであり,その考え方自体は不合理なものではない。平成17年度の回答や交渉において被告が主張するように(前記1(2)ネ),被告は,学校法人であり,学生生徒の父母や国・地方自治体等社会との関わり合いなしには成り立たないものであるから,それらの者の給与・一時金を考慮すべきことはもっともであり,本件一時金額それ自体でも高額といえることから,その方向性自体は首肯できる(もっとも,被告は,平成20年度に基本賃金の大幅なベースアップをしており,被告の主張が首尾一貫しているといえるのかという疑問はある。)。

しかし,本件一時金額とした当時,被告の財政状態が良好であったことは前記認定事実から明らかであり(被告もこの点は争っていない。),被告と同規模の他の私立大学(9私大)と比較すると被告の教職員の年収が低い水準にある状況からして(証拠<省略>),企業経営上,一時金水準を切り下げる差し迫った事情があったとはいえず,当該労使慣行を変更する高度の必要性があったとは認められない。また,被告は,学生生徒等の父母の年収や学費の負担が重いことを理由として挙げているが,学生生徒等の納付金を減額するなど父母の負担軽減の措置をとるために被告の教職員の一時金を減額するのであれば格別,前記のとおり安定した収入があるのをそのままにして,明確な使途があるわけでもないのに,国家公務員や民間企業等と比較して一時金の水準が高いことのみから教職員の一時金を減額する合理性を認めることはできない。さらに,被告は,一時金減額の救済ないし激変緩和措置としての経過措置をとっておらず,何らの代償措置も行っていない。被告は,平成17年度の回答において,3,4年を目途に手当額等機敏な対応措置をとるとし,平成20年度に,被告の教職員について全体平均で6.3%もの大幅な基本賃金のベースアップをしたことは前記のとおりであるが,本件一時金額としたことと当該措置とは関係性を有せず,平成17年度ないし平成19年度の本件一時金額に当たって考慮することはできない(なお,平成20年度以降の一時金の額を検討するに当たっては,このベースアップを十分に考慮すべきである。)。

そして,本件組合との交渉経過は前記1(2)ネ及び2のとおりであって,被告は,本件組合に対して何度も説明したといえるものの,より丁寧な説明が求められる点もあり,結果として合意には達していない。

以上を総合的に考慮すると,当該労使慣行(年6か月分の一時金を支給すること)を本件一時金額とする旨の変更は,原告ら被告の教職員に対し,これを法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであるということはできない。

(3)  よって,原告らは,年間6か月分の一時金を支給するとの労働契約に基づき,平成17年度ないし平成19年度の一時金に関し,本件一時金額との差額である,0.9か月分から一律10万円を控除した額(6か月-〔5.1か月+10万円〕)の一時金を請求することができる。

各原告についてこれを計算すると,別紙認容金額一覧表記載<省略>の各金額となる。

5  結論

以上によれば,原告の請求は,別紙認容金額一覧表記載の各金員及び各金員に対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,主文1項の限度で認容し,その余の請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する(仮執行宣言は,相当でないので,付さないこととする。)。

(裁判長裁判官 大島眞一 裁判官 谷口哲也 裁判官 戸取謙治)

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