京都地方裁判所 平成19年(ワ)3949号 判決 2008年8月08日
住所<省略>
原告
X
同訴訟代理人弁護士
住田浩史
事務所・営業所
不明
(商業登記簿上の本店所在地 大阪市<以下省略>)
被告
株式会社イーグルファンドパートナーズ
同代表者代表取締役
Y1
事務所・営業所
不明
(商業登記簿上の本店所在地 大阪市<以下省略>)
被告
株式会社ライフタイム
同代表者代表取締役
Y1
住居所不明
(最後の住所 大阪市<以下省略>)
被告
Y1
住居所不明
(最後の住所 長野県松本市<以下省略>)
被告
Y2
住居所不明
(最後の住所 大阪市<以下省略>)
被告
Y3
住居所不明
(最後の就業場所 大阪市<以下省略>)
被告
Y4
住居所不明
(最後の就業場所 大阪市<以下省略>)
被告
Y5
主文
1 被告株式会社イーグルファンドパートナーズ,同Y1,同Y2,同Y3及び同Y5は,原告に対し,各自840万円及びこれに対する平成18年6月1日から,支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告Y4は,原告に対し,820万円及びこれに対する平成18年6月1日から,支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告株式会社ライフタイム,被告Y1,被告Y3は,原告に対し,各自1507万3220円及びこれに対する平成19年10月1日から,支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告の被告Y4及び同ライフタイムに対するその余の各請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は,原告と被告株式会社イーグルファンドパートナーズ,同Y1,同Y2,同Y3,同Y4及び同Y5との間では,同被告らの負担とし,原告と被告株式会社ライフタイムとの間では,これを2分し,その1を原告の負担とし,その余を被告株式会社ライフタイムの負担とする。
6 この判決1項ないし3項は仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 原告は,「(1) 被告らは,原告に対し,各自840万円及びこれに対する平成18年6月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。(2) 被告株式会社ライフタイム,被告Y1,被告Y3は,原告に対し,各自1507万3220円及びこれに対する平成19年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。(3) 訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め,請求の原因として,次のとおり述べた。
1 当事者
(1) 原告は,○年○月○日に生まれ,年金によって生計を立てている無職の女性である。
(2) 被告株式会社イーグルファンドパートナーズ(以下「被告イーグルファンド」という。)は,日本国内外の有価証券に関する投資顧問業等を目的として平成17年10月28日に設立された株式会社であるが,証券業登録を受けたことはない。
(3) 被告株式会社ライフタイム(以下「被告ライフタイム」という。)は,日本国内外の有価証券に関する投資顧問業等を目的として平成18年7月28日に設立された株式会社であるが,証券業登録を受けたことはない。
(4) 被告Y1(以下「被告Y1」という。)は,被告イーグルファンドが設立されてから平成18年6月30日まで及び平成19年1月9日以降,同社の代表取締役を務め,併せて,被告ライフタイムが設立されて以来今日まで同社の代表取締役を務めている。
(5) 被告Y2(以下「被告Y2」という。)は,平成17年12月16日から平成19年1月9日までの間,被告イーグルファンドの取締役を務めていた。
(6) 被告Y3(以下「被告Y3」という。)は,後述のとおり,原告が未公開株式を購入した当時及び原告が被告イーグルファンドとロコ・ロンドン金取引の契約を締結した当時,被告イーグルファンド及び被告ライフタイムの従業員であった。
(7) 被告Y4(以下「被告Y4」という。)は,後述のとおり,原告が未公開株式を購入した当時,被告イーグルファンドの従業員であった。
(8) 被告Y5(以下「被告Y5」という。)は,被告イーグルファンドが設立されてから平成18年6月30日まで,同会社の監査役を務めていた。
2 未公開株式の取引の経緯
(1) 被告Y3,同Y4及び同Y5は,平成17年10月ころから平成18年1月ころにかけて,原告に対し,電話をかけたり,自宅を訪問する等して,「株式会社バイオバンク(以下「バイオバンク」という。)の株式が近く必ず上場するので,同社の株式は必ず値上がりする」等と申し向け,執拗に,バイオバンク株式の購入を勧誘し,原告をしてその旨信用させ,平成18年1月ころ,被告イーグルファンドからバイオバンク株式10株を1株50万円で購入することを承諾させ,そのころその代金500万円を支払わせた。(以下「本件第1売買契約」という。)
(2) 被告Y3,同Y4及び同Y5は,平成18年4月ころ,原告に対し,「株式会社グローパートナー(以下「グローパートナー」という。)の株式が同年秋には必ず上場する,同社の株式は必ず高騰する等と申し向けてグローパートナー株式の購入を勧誘し,原告をしてその旨信用させ,同月26日ころ,被告イーグルファンドからグローパートナー株式10株を1株25万円で購入することを承諾させ,そのころその代金250万円を支払わせた。(以下「本件第2売買契約」という。)
(3) 被告Y3は,平成18年5月ころ,原告に対し,前同様の方法でバイオバンク株式の購入を勧誘し,原告をして,バイオバンク株式1株を20万円で購入することを承諾させ,そのころその代金20万円を支払わせた。(以下「本件第3売買契約」という。)
3 ロコ・ロンドン金取引の経緯
(1) 平成18年7月ころ,被告Y3は,被告ライフタイムの従業員として,被告Y1は被告ライフタイムの代表者として,それぞれ原告に対し,固定金利が必ずつくと述べるだけで,取引の内容について説明することなく「ロコ・ロンドン金取引」と称する取引を始めることを勧誘し,原告をしてその取引を始めることを承諾させ,同月27日,被告ライフタイム宛の売買取引委託契約書に署名捺印させた。
(2) 被告Y3は,この契約に基づき,ロコ・ロンドン金取引の取引保証金名目で,原告をして,同年7月28日ころに200万円,同年11月16日ころに300万円,平成19年2月22日ころに500万円,同年3月30日ころに400万円,以上の合計1400万円を支払わせた。
(3) その後,被告ライフタイムは,原告に対し,上記保証金に基づいてどのような取引をしたのかについて全く報告しなかった。平成19年6月ころ,原告は,被告Y1から,保証金の追加支払を要求されたが,取引状況がわからないまま金員を追加支払することはできないと考え,同被告に対し,取引を精算して保証金を返還することを求めたが,被告ライフタイムは,保証金の返還に応じなかった。
(4) なお,平成19年3月ころ,被告ライフタイムは,原告に対し,スワップポイントと称して22万6780円を支払ったが,原告には,その計算根拠は不明である。
4 未公開株式商法の違法性
被告Y3,同Y4及び同Y5が原告に対して上記各未公開株の購入を勧誘し(以下「本件各勧誘」という。),原告をして本件第1ないし第3各売買契約(以下「本件各売買契約」という。)を締結させた行為は,不法行為に当たる。その理由は,次のとおりである。
(1) 有価証券の売買を業として行うためには証券業の登録を要するところ〔平成18年法律第65号による改正前の証券取引法(以下「旧証券取引法」という。)28条,2条8項〕,被告イーグルファンドが証券業登録を受けていないのに,その従業員ないし役員である被告Y3,同Y4及び同Y5が本件各勧誘及び本件各売買契約の締結をしたのは,旧証券取引法28条に違反する。
(2) なお,未公開株式の勧誘は,証券業登録を受けた証券会社でさえ,原則として禁じられており(旧証券取引法40条1項1号,日本証券業協会の自主規制規則である「店頭有価証券に関する規則」第3条),いわゆるグリーンシート銘柄の取引のみが例外的に認められているにすぎない(上記「店頭有価証券に関する規則」6条,日本証券業協会の自主規制規則である「グリーンシート銘柄及びフェニックス銘柄に関する規則」)。
未公開株式の勧誘が原則として禁止される趣旨は,価格が証券会社により恣意的に決定されるおそれがあり,また,非上場会社においては,企業内容等のディスクロージャーがなされていないことが通常であって,株式の適正価格を判断する材料に乏しく,一般投資家が不測の損害を被る可能性が高いことにある。
よって,グリーンシート銘柄でない未公開株式は,一般投資家にとって適正価格の判断材料が乏しいものであり,未公開株式商法は,このことを利用して,未公開株式を客観的な適正価格に比して著しく高額な価格で売りつけるという暴利行為にあたる。
証券業の無登録営業が刑事罰の対象となることからすると,無登録業者による未公開株式の勧誘,売買は,社会的な非難の程度も高いといえる。
(3) バイオバンク株式及びグローパートナー株式は,いずれもグリーンシート銘柄ではない未公開株式である。被告Y3,同Y4及び同Y5は,原告の無知につけこみ,上記各株式がいずれも上場が間近,且つ確実で,株式高騰による利益を得ることができる等と述べて,その旨信用した原告に対し,これらの株式を適正価格に比して著しい高額で売りつけたものであり,本件未公開株式売買は,悪質な未公開株式商法の典型といえ,詐欺的商法であり,社会的相当性を逸脱し,公序良俗に反するとともに,それ自体不法行為を構成する。
(4) 暴利行為
本件におけるバイオバンク株式及びグローパートナー株式の各売買代金は,次のとおり,目的株式の客観的な価値と比して著しく高額で,被告イーグルファンドは,暴利を得ている。
ア バイオバンク株式
原告の購入価格は,1株あたり20万から50万円であったのに対し,同社の営業報告書により株価を算定すると約927円であり(平成18年3月31日時点での純資産1億7483万3000円÷発行済株式総数18万8520株),216倍から539倍の価格で売られたことになる。
イ グローパートナー株式
原告の購入価格は,1株25万円であった。しかし,グローパートナーは,設立以来赤字が続いている会社であり,その株式に上記購入価格に見合う価値は全くない。なお,平成16年4月及び平成17年4月の同会社の新株予約権の価格は,1株あたり2500円であり,平成18年6月ころの同社株式の売り出し価格は,1株あたり3万5000円であり,これらの事実からも,原告の上記購入価格が株式価値に比して著しく高額といえる。
5 ロコ・ロンドン金取引の違法性
(1) ロコ・ロンドン金取引の内容
原告は,被告Y1及び同Y3から,ロコ・ロンドン金取引の内容について説明を受けなかったため,被告ライフタイムが勧誘したロコ・ロンドン金取引の仕組みはわからない。
ところで,我が国で平成18年ころから被害が急増しているロコ・ロンドン金取引とは,顧客が,ロコ・ロンドン金取引業者に対し,一定の証拠金を預け,その何倍ないし何十倍もの取引を行うようである。
具体的には,顧客は業者に対して,ロンドン渡しの金100トロイオンスを1取引単位として,最低取引単位あたり50万円の保証金を支払,ロンドン渡しの金を売買したのと同様の(差金決済を行う)地位を取得し,任意の時点で当該地位(ポジション)と反対の取引をすることによって生ずる観念上の差損益について差金の授受を行うというものである。顧客は,この取引を行うことにより,1取引単位当たり1日数百円の「スワップ」と称する金利を取得することができる。
なお,差金決済指標となる「ロンドン渡しの金」の価格,及び同取引のために決せられる必要のある「為替レート」並びに「スワップ」は業者が任意に設定しており,1取引単位当たり,5万円程度の手数料及びその5パーセントの消費税を業者が徴求するのが一般的である。
例えば,1トロイオンスあたり600ドル,1ドル110円として,10取引単位(1000トロイオンス)の金の「買い」ポジションを建てると,顧客は,差金決済契約上は,600(ドル/トロイオンス)×110(円/ドル)×1000(トロイオンス)=6600万円の取引をしたこととなり,その際,保証金として50万円(1単位あたり)×10単位=500万円を業者に委託することとなり,取引の危険性を示すレバレッジ・レートは,13.2倍となり,極めて高い数値である。
その後,1トロイオンスあたり550ドル,1ドル108円となったときに「買い」ポジションを仕切ったとすれば,550(ドル/トロイオンス)×108(円/ドル)×1000(トロイオンス)=5940万円となり,660万円の損失を出し,これに2回分の手数料がかかるのである。
このように,ロコ・ロンドン金取引は,2つの指標を基準とした複雑な取引であり,それぞれの指標である金価格及びドル円為替レートのポラティリティ(変動の幅)は非常に大きい。
なお,「1ドル110円」「1トロイオンス当たり600ドル」というレートは,本件でもそうであると推認されるが,金価格については,実際に存在するロコ・ロンドン市場における指標を一応の基準として,ドル/円の為替レートについては,インターバンク市場におけるレートを参考として,個々の業者が独自に決定することとされている。
このように,ロコ・ロンドン金取引において,顧客と業者との間で締結される契約は,業者が提示する為替レート及び金価格を指標とする,差金決済契約ということができ,顧客と業者がそれぞれ互いに差金決済契約の当事者となって,業者が決定する金価格及び為替レートの変動に基づく金銭の得喪を争う相対取引である。
(2) ロコ・ロンドン金取引の違法性(賭博性)
ロコ・ロンドン金取引は,金価格及び為替レートの変動という偶然の事情によって財物の得喪を争うものであって,刑法上の賭博罪,常習賭博罪,及び賭博上等開帳図利罪に該当する。
そして,賭博罪該当行為は,法令による違法性阻却によってはじめて適法となるが,ロコ・ロンドン金取引には,その違法性を阻却する法令は存在しない。
仮に,法令による違法性の阻却がなくとも社会的相当性を有するが故に正当業務行為として違法性が阻却されることがあり得るとしても,ロコ・ロンドン金取引にそのような社会的相当性はない。
よって,ロコ・ロンドン金取引は,賭博行為として公序良俗(民法90条)に反し,無効であるとともに,賭博行為に顧客を引き込んで金銭を支出させる行為は,それ自体不法行為を構成する。
(3) ロコ・ロンドン金取引の違法性(類似施設開設禁止違反)
商品取引法6条は商品市場類似施設の開設を禁止する規定を設け,旧証券取引法87条の2は,これと同趣旨の規定を設けている。これらの「類似施設開設の禁止」規定の趣旨は,差金決済取引が無秩序に行われることによる弊害の禁止,すなわち,射幸心の助長,委託者保護の欠如,投機資金が取引所外取引に分散することによる取引所における公正価格形成機能の阻害の防止等にある。
ロコ・ロンドン金取引は,商品先物取引及び金融先物取引の複合取引について,専ら取扱業者が相手方となる私設市場を作出して行うものであって,金融先物取引法3条,同法44条の2に反し,その上,類似施設開設を禁止する趣旨に反し,これらの規定が阻止しようとする弊害を生じさせるから,公序良俗に反する無効な取引であって,これに顧客を誘引する行為は,不法行為を構成する。
(4) ロコ・ロンドン金取引の違法性(相場による差金決済の禁止)
商品取引所法329条は,「相場による賭博行為等の禁止」と題し,商品市場における取引によらないで商品市場における相場を利用して差金を授受することを目的とする行為等を禁止しており,同条に違反した者は,1年以下の懲役,100万円以下の罰金,あるいは双方が併科される(ただし,刑法186条の規定の適用を妨げない。商品取引所法365条)。旧証券取引法201条は,「相場による賭博行為等の罪」と題し,同趣旨の規定を設けている。これらの規定は差金決済取引が刑法上の賭博に当たることを前提として,大規模に行われうるこの種「賭博」について刑の加重を行うものである。上記規定に反する差金決済取引は,賭博であるから,当然に無効である。
ロコ・ロンドン金取引は,ロコ・ロンドン市場の金価格を参考とする独自のレートやインターバンクレートを参考にした独自のレートによって行われるものであるから,ロコ・ロンドン市場ないし金融先物取引市場における相場による差金の授受をするもの,もしくは,相場による差金の授受を禁止する上記規定の趣旨に反することは明らかであり,違法な差金決済取引であって,賭博であるから,公序良俗に反して無効であって,これに顧客を誘引する行為は,不法行為を構成する。
(5) ロコ・ロンドン金取引の違法性(のみ行為禁止規定違反)
商品取引所法212条は,「のみ行為の禁止」と題し,商品取引員が商品市場における取引等の委託を受けたときに,その委託に係る商品市場における取引等をしないで自己が相手方となって取引を成立させることを禁止し,同法363条5号では,上記違反者には1年以下の懲役等又は100万円以下の罰金,あるいは双方が併科される旨定めている。旧証券取引法129条にも同趣旨の規定がある。
これらの規定の趣旨は,委託者の保護と公正な価格決定の形成を図る点にあり,このような規定の趣旨からすると,これに違反する取引の私法上の効果は,無効とすべきである。
ロコ・ロンドン金取引は,取扱業者と顧客が契約の当事者となる相対取引であって,取引所や市場での取引について委託するものではなく,これらの規定にいうのみ行為には直接にはあたらない。
しかし,相対で取引をするロコ・ロンドン金取引は,のみ行為を禁止する上記各規定が阻止しようとした弊害を生じさせるものであることは明らかであり,公序良俗に反して無効であって,これに顧客を誘引する行為は,不法行為を構成する。
(6) ロコ・ロンドン金取引の違法性(私人間投機行為についての社会相当性の欠如)
適法な金融商品取引については,許可制,勧誘者の資格,法令による禁止行為の列挙,財産保全措置等が詳細に規定されているところ,ロコ・ロンドン金取引には,前記具体例で示したとおり,想定総取引量が証拠金の10倍以上に設定されるものが多く,商品先物取引におけるレバレッジ(想定総取引量と証拠金の比率)が10倍から20倍程度であって,そのリスクは高く,このような危険性の高い取引が,何らの規制もなくして適法に存在しうると解するのは極めて非常識である。
(7) ロコ・ロンドン金取引の違法性(取引条件等の決定における社会的許容性の欠如)
ロコ・ロンドン金取引は,為替レート及びスワップポイントについて,一方当事者である取扱業者が決定するものとされており,同取引が,高いレバレッジをその仕組みとして取り入れていることを合わせて考えると,その取引条件は,著しく適切さを欠くというべきである。
また,同取引においては,証拠金は顧客が取扱業者に対して一方的に差し入れるものとされている。適法に存在する商品先物取引においては,取引証拠金は,商品取引清算機関(クリアリングハウス)に預託することとされていて,顧客は,商品取引員の信用リスク負担を負わないものとなっていることに比較し,何らの顧客財産の保全措置も講じられていないロコ・ロンドン金取引は,異常であるとしか言いようがないものである。
(8) ロコ・ロンドン金取引の違法性(不可避的な違法勧誘・違法取引の誘発)
ロコ・ロンドン金取引が,勧誘者と顧客が構造的な利害対立状況においてなされるものとすれば,この旨を説明された者が,同取引を行おうと考えることはおよそ考えがたいから,取扱業者の従業員は,上記事柄を十分に説明せずに顧客を獲得するほかはないのであって,ロコ・ロンドン金取引は,このような違法勧誘が,取引の性質上必然的になされることになる。
また,取引の性格上,取扱業者が利益を出すためには,顧客に損をさせざるをえないものである。
このように,ロコ・ロンドン金取引は,業者が違法に勧誘し,かつ,契約締結後も,顧客に損をさせるために顧客操縦をせざるをえないというものであって,公序良俗に反し,無効な取引というべきである。
(9) ロコ・ロンドン金取引の違法性(説明義務違反)
ロコ・ロンドン金取引は,相対取引であることから,構造上,顧客と業者間との間に利益相反関係を生じさせ,業者は必然的に顧客の利益を犠牲にして自らの利益を図ろうとすることとなる。業者がこのことを秘して同取引に顧客を勧誘することは,顧客に対する違法な詐欺行為であり,業者は取引勧誘時,顧客に対して,常に利益相反状況にあることについて具体的に説明すべき義務がある。
しかるに,原告に対してロコ・ロンドン金取引を勧誘した被告Y3及び同Y1は,上記の取引の仕組みについて全く説明しておらず,被告Y3及び同Y1には重大な説明義務違反が認められる。
(10) ロコ・ロンドン金取引の違法性(適合性原則違反)
一般投資家に対して金融商品の購入を勧誘する者は,当該投資家が,リスクの発生に耐えうる潤沢な資力,法的・経済的に複雑高度な制度の理解能力,商品の価格変動要因に関する広汎な知識を有しているか,本当に投資目的を有しているのか,また有しているとすればそれはどのようなものかについてできる限り調査をし,それらが十分でなかったり,投資に適していないと判断されるべき場合には,勧誘を行わないか,既に行っている場合には,打ち切らなくてはならない。
さらに,ロコ・ロンドン金取引は,高度の危険性,相場判断の困難性,取引自体の理解の困難性,業者に対する不可避的依存的傾向があり,なおかつ,為替レート及び金価格というボラティリティの大きい2つの指標の変動を総合的に考えなければ売り買いの判断ができず,一般消費者にとっては極めて高度な取引内容となる上に,顧客と業者は常態的な利益相反状況にあることから,顧客には業者のアドバイスや勧誘をそのまま受け入れるのではなく,これらを分析して,その適否を自分自身で判断することが可能という極めて高い知識及び能力が要求される。
原告は,ロコ・ロンドン金取引の勧誘を受けた時点の年齢は73歳,無職(年金収入のみ),投資経験は株式公社債の現物取引の経験があるのみであり,ロコ・ロンドン金取引の内容を全く理解しておらず,かつ,これを理解する能力も持ち得ていないという状況であり,ロコ・ロンドン金取引を行うために要求される高い適合性の水準には全く達していないということは明白であり,このような原告に対し,ロコ・ロンドン金取引を勧誘することは絶対的に許されないというべきである。
それにもかかわらず,被告Y3は,原告をロコ・ロンドン金取引に勧誘したものであり,適合性原則違反の程度は著しいと言わざるを得ない。
6 被告らの責任
被告らは,原告に対して勧誘した未公開株取引及びロコ・ロンドン金取引(以下「本件各取引」ということがある。)につき,以下のとおり,それぞれ原告に対し損害賠償責任を負う。
(1) 被告イーグルファンドについて
被告イーグルファンドは,本件未公開株取引の経過態様等からすると,違法な未公開株式商法を,会社自身の方針に基づき組織的継続的に行っていることは明らかであり,従業員の不法行為について,使用者責任(民法715条)を負うとともに,会社自身の不法行為責任(民法709条)を負う。
(2) 被告ライフタイムについて
被告ライフタイムは,本件ロコ・ロンドン金取引の態様等からすると,ロコ・ロンドン金取引を,会社自身の営業方針に基づき組織的継続的に行っていることは明らかであり,原告が同取引によって被った損害について,被告Y3ら従業員の不法行為について使用者責任を負うとともに,会社自身の不法行為責任を負う。
更に,被告ライフタイムは,被告イーグルファンドと実質的には同一会社であり,被告イーグルファンドが行った未公開株式販売という不法行為に対する損害賠償請求に対し,異なる法人であることを主張することができない(法人格否認)。
すなわち,被告イーグルファンドと被告ライフタイム(以下「被告両会社」ということがある。)は,日本国内外の有価証券に関する投資顧問業を営むという目的が共通であり,代表取締役も同一人物であり,更に,事務所,従業員,顧客が同一であって,被告両会社が実質的に同一であることは明らかである。被告Y1が被告ライフタイムを設立した平成18年ころは,未公開株式商法が社会問題となっていた時期であること,未公開株式商法に代わる新たな商法として登場したのがロコ・ロンドン金取引商法であることからすると,被告Y1は未公開株式商法を継続することをあきらめ,ロコ・ロンドン金取引商法にシフトすることを画策し,被告イーグルファンドの会社組織,従業員等をそのまま用いつつ,かつ,被告イーグルファンドで行った未公開株式商法の被害者による損害賠償請求から免れるために被告ライフタイムを設立したものと推認でき,被告イーグルファンドないし被告Y1には,被告ライフタイムの法人格を濫用する目的があったことは自明である。よって,被告ライフタイムは,被告イーグルファンドが未公開株取引で原告に与えた損害についても,不法行為責任を負う。
(3) 被告Y1について
被告Y1は,被告両会社の代表取締役であり,違法な未公開株式取引やロコ・ロンドン金取引を業として行うために被告両会社を設立し,これらの商法を推進したものであり,それ自体不法行為を構成する。
また,被告Y1は,被告両会社の代表取締役として,違法な商法が不可避的に被害者を生み出すことを認識すべきであり,被害者が出ないように監視すべき義務を負っていたところ,従業員に未公開株式取引及びロコ・ロンドン金取引を勧誘させており,その注意義務違反は明らかであり,取締役の職務執行上の悪意又は重過失が認められ,原告が本件未公開株取引及び本件ロコ・ロンドン金取引によって被った損害を賠償すべき責任を負う(会社法429条1項)。
(4) 被告Y2について
被告Y2は,被告イーグルファンドの取締役であり,違法な未公開株式を業として行うために被告イーグルファンドの設立に積極的に関与し,その後も違法な未公開株式売買を積極的に推進したものであり,それ自体不法行為を構成する。
また,被告Y2は,被告イーグルファンドの取締役として,違法な未公開株式商法によって原告らのような被害者を出さないようにすべき監視義務を負っていたにもかかわらずこれを怠り,従業員らに未公開株式取引を勧誘させており,注意義務違反は明らかであり,職務遂行につき悪意又は重過失が認められ,原告が本件未公開株取引によって被った損害を賠償すべき責任を負う(会社法429条1項)。
(5) 被告Y3について
被告Y3は,原告に対して本件未公開株式の購入及び本件ロコ・ロンドン金取引を勧誘した者であり,これらの勧誘は,前記のとおりいずれも違法なものであるから,不法行為責任(民法709条,719条1項)を負う。
(6) 被告Y4について
被告Y4は,原告に対して本件未公開株式の購入を勧誘した者であり,この勧誘は,前記のとおり違法なものであるから,不法行為責任(民法709条,719条1項)を負う。
(7) 被告Y5について
被告Y5は,原告に対して本件未公開株式の購入を勧誘した者であり,この勧誘は,前記のとおり違法なものであるから,不法行為責任(民法709条,719条1項)を負う。
また,同被告は,被告イーグルファンドの監査役として,同社の取締役等が違法な未公開株式商法を行っていないか監視すべき義務を負うにもかかわらず,被告イーグルファンドの行っている業務が違法な未公開株式商法であることは自明であるのに,これを故意に無視したか,少なくとも重過失によりこれを認識しなかったか,あるいは,認識したとしても何ら是正措置を行わずに,原告に損害を与えたものであり,職務遂行に付き悪意または重過失が認められ,原告が被った損害を賠償すべき責任を負う(会社法429条1項)。
7 原告の損害
(1) 未公開株式売買による損害
原告が購入した本件各未公開株式は,換価が困難であり,本件各売買により原告は,支払代金額770万円及び弁護士費用相当額70万円の合計840万円の損害を被った。
(2) ロコ・ロンドン金取引による損害
原告は,取引保証金1400万円からスワップポイントとして受領した22万6780円を控除した1377万3220円及び弁護士費用相当額130万円の合計1507万3220円の損害を被った。
8 よって,原告は,被告らに対し,未公開株式売買による損害の賠償として各自840万円及び不法行為の後である平成18年6月1日から支払済みまでの民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,被告ライフタイム,被告Y1及び被告Y3に対し,ロコ・ロンドン金取引による損害の賠償として,各自1507万3220円及びこれに対する不法行為の後である平成19年10月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
第2 被告らは,いずれも公示送達による適式な呼出を受けたが,本件口頭弁論期日に出頭せず,答弁書その他の準備書面も提出しない。
第3 当裁判所の判断
1 認定できる事実
証拠(甲1ないし甲13,甲19ないし甲24,甲30,甲31,甲33ないし38,甲40,甲42)及び弁論の全趣旨によれば,請求の原因1ないし3の各事実及び次の事実が認められる。
(1) バイオバンク株式及びグローパートナー株式は,未だ上場を果たしていない。また,グローパートナー株式は,平成19年9月4日の時点で上場しておらず,平成18年内に上場する予定があったこともなく,上場する旨公表されたこともなかった。
(2) バイオバンク株式及びグローパートナー株式は,いずれもグリーンシート銘柄ではなかった。
(3) 被告Y1及び同Y3が原告に対し,ロコ・ロンドン金取引の勧誘をした際,被告Y1及び同Y3は,金の相場が上昇しているから必ず儲かる,毎月利息が確実に入ってくるので,仮に金の相場が下がっても損にはならないと説明するのみで,ロコ・ロンドン金取引の仕組みの説明をせず,パンフレット等の説明のための書類を交付したり,見せたりすることもなかった。原告が,ロコ・ロンドン金取引の取引保証金名目の金銭を支払って以降,被告ライフタイムやその従業員から原告に対し,取引の報告がなされたことは,書面でも口頭でも,全くなかった。
2 未公開株式取引について
(1) 被告Y3,被告Y4,被告Y5が原告に対して本件各勧誘をし,原告をして本件各売買契約を締結させた行為は,不法行為に当たる。その理由は,次のとおりである。
ア 被告イーグルファンドが証券業登録を受けていないのに,その従業員ないし役員である被告Y3,同Y4及び同Y5が,本件各勧誘及び本件各売買契約の締結をしたのは,旧証券取引法28条に違反する。
イ しかも,その対象がグリーンシート銘柄ではない未公開株式であり,登録を受けた証券会社ですら原則としてその勧誘を禁じられているものであるから,その違法性の程度は高いというべきである。
ウ 1の(1)の事実によれば,本件各売買当時,バイオバンク株式及びグローパートナー株式とも上場予定はなかったと認めるのが相当であって,これらが近く必ず上場すると言ってその購入を勧誘した行為は,詐欺的行為というべきである。
エ 証拠(甲25)によると,バイオバンクの平成18年3月期の純資産は1億7483万3000円であり,発行済み株式総数は18万8520株であったこと,当期未処理損失として1億7701万6000円が計上されていることが認められるから,その1株当たりの株価を純資産価額方式で算定すると,約927円にしかならないし,収益還元方式その他の評価方法を採用しても,原告が購入した1株20万円ないし50万円という価格がバイオバンク株式の客観的な価値をはるかに凌駕していることは明らかであって,同価格での売買は暴利行為というべきである。
オ 証拠(甲39,42)によると,グローパートナーは,平成16年4月及び平成17年4月に新株予約権を,いずれも1個当たり2500円で売り出したこと,平成18年夏頃関東財務局に届出をして株主に対し,株式の売り出しをしたが,その際の価格は1株3万5000円であったことが認められる。そうすると,原告が購入した価格は1株25万円との価格がグローパートナー株式の客観的な価値をはるかに凌駕していることは明らかであって,同価格での売買は暴利行為というべきである。
(2) 個々の被告の責任について
ア 被告Y3について
被告Y3は,原告に対し,本件第1ないし第3売買について違法に勧誘し,原告をして未公開株式の購入を承諾させ,合計770万円を支払わせたものであるから,民法709条に基づき,原告が被った損害(上記770万円及び相当と認められる弁護士費用70万円)を賠償する義務がある。
イ 被告Y4について
被告Y4は,原告に対し,本件第1及び第2売買について違法に勧誘し,原告をして未公開株式の購入を承諾させ,合計750万円を支払わせたものであるから,民法709条に基づき,原告が被った損害(上記750万円及び相当と認められる弁護士費用70万円)を賠償する義務がある。
なお,被告Y4が本件第3売買に関わったことを認めるに足る証拠はないから,これについて被告Y4に対し,共同不法行為者としての責任を負わせることはできない。
ウ 被告Y1について
被告Y1は,本件第1ないし第3売買契約が締結された当時,被告イーグルファンドの代表取締役であったが,後記のとおり,従業員らをして組織的に違法な販売活動に従事させ,原告に損害を与えたのであるから,会社法429条1項の規定により,原告が被った損害(原告が本件第1ないし第3売買契約に基づいて支払った代金合計770万円及び相当と認められる弁護士費用70万円)を賠償する義務がある。
エ 被告Y2について
被告Y2は,本件第1ないし第3売買契約が締結された当時,被告イーグルファンドの取締役であり,従業員らの違法な事業活動を是正すべき立場にあったにもかかわらず,これを推進又は是認していたか,少なくともこれを中止させなかったと推認できるから,取締役としての職務を行うについて少なくとも重大な過失があったというべきであり,会社法429条1項の規定により,原告が被った損害(原告が本件第1ないし第3売買契約に基づいて支払った代金合計770万円及び相当と認められる弁護士費用70万円)を賠償する義務がある。
オ 被告イーグルファンドについて
(ア) 被告イーグルファンドは,被告Y3,被告Y4の使用者として,原告に対し,民法715条に基づく使用者責任を負う。
(イ) 被告イーグルファンドは,日本国内外の有価証券に関する投資顧問業を目的とする会社であること,証券業登録を受けていないのに,従業員らが次々と原告の自宅を訪問して,異なる種類のグリーンシート銘柄ではない未公開株式の購入を虚偽の事実を述べて勧誘し,購入させたことに鑑みると,被告Y1は,従業員らをして組織的に違法な販売活動に従事させていたと推認することができる。
(ウ) また,被告イーグルファンドの上記行為は,それ自体が民法709条に該当するとみることも可能である。
(エ) よって,被告イーグルファンドは,民法715条,709条,平成18年法律第50号による改正前の民法44条1項,会社法350条により,原告が被った損害(原告が本件第1ないし第3売買契約に基づいて支払った代金合計770万円及び相当と認められる弁護士費用70万円)を賠償する義務がある。
カ 被告Y5について
(ア) 被告Y5は,原告に対し,本件第1及び第2売買について違法に勧誘し,原告をして未公開株式の購入を承諾させ,合計750万円を支払わせたものである。
(イ) 更に,被告Y5は,本件第1ないし第3売買が締結された当時,被告イーグルファンドの監査役であったところ,前記認定のとおり,被告Y1は,従業員らをして,組織的に違法な販売活動に従事させており,被告Y5はこのような状況を認識することができたと推認できる。そうすると,被告Y5は,監査役としての職務権限を適切に行使して,取締役の職務の執行を監査し,株主総会でその意見を報告し(平成17年法律第87号による改正前の商法275条),あるいは取締役の行為を差し止める(同法275条の2)等の方法で被告Y1の上記行為を是正するべきであった。しかしながら,被告Y5は,被告Y1の上記行為を黙認していたが,少なくとも是正させる措置をとらなかったと推認できるから,監査役としての職務を行うにつき少なくとも重過失があったというべきである。
(ウ) よって,被告Y5は原告に対し,民法709条,会社法429条1項の規定により,原告が被った損害(原告が本件第1ないし第3売買契約に基づいて支払った代金合計770万円及び相当と認められる弁護士費用70万円)を賠償する義務がある。
キ 被告ライフタイムについて
被告両会社は,代表取締役が同一人であること,被告両会社とも,日本国内外の有価証券に関する投資顧問業を設立の目的としていることに加え,証拠(甲3,甲4,甲30ないし甲32,甲40,甲43ないし甲46)によると,被告Y3,訴外A,同Bは,被告イーグルファンドの従業員と名乗りつつ,被告ライフタイムの従業員とも名乗っていたこと,Y3は原告に対し,「被告イーグルファンドが被告ライフタイムに名前を変えた」旨説明したこと,上記Aは,その顧客である訴外Cに対し,「被告両会社は同一である」旨説明したこと,被告イーグルファンドの本店所在地の郵便受けに,被告ライフタイムの社名が書かれた紙が貼られていたことがあることが認められる。
これらの事実によると,被告両会社は,業務内容はほぼ同一であり,役員及び従業員は相当部分が共通しており,日常事務は混然一体としてなされていて,極めて密接な関係にあったというべきである。
更に,証拠(甲14ないし18)によると,平成17年下半期から平成18年にかけて,無登録業者による未公開株の勧誘問題が社会問題化したことが認められるところ,平成18年7月28日に設立された被告ライフタイムは,原告に対し,直ちにロコ・ロンドン金取引の勧誘を始めたことを併せ考えると,被告Y1は,未公開株取引の勧誘が目論見どおりにいかなくなったことから,ロコ・ロンドン金取引の勧誘等,新たな事業を始めるに当たり,被告イーグルファンドとは異なる法主体で行う目的で被告ライフタイムを設立したものと推認することができる。
したがって,被告ライフタイムが設立された後になされた被告両会社のうちの一方の違法行為について,実質的には他方の行為でもあるとして,双方に不法行為責任を負わせる余地はあると解せられる。しかしながら,被告ライフタイムが設立される前に被告イーグルファンドがなした不法行為について,被告ライフタイムにも不法行為責任があるとするのは,被告イーグルファンドの責任財産を被告ライフタイムに移動させる等,被告イーグルファンドの債権者の債権の実現を阻害する行為があった等の特段の事情が認められれば格別,そうでない限り,困難であると言わざるを得ない。そして,上記特段の事情を認めるに足る証拠はない。
そして,本件第1ないし第3売買が締結されたのは,いずれも,被告ライフタイムが設立される以前であるから,これについて,被告ライフタイムに不法行為責任があるとすることはできない。
ク なお,以上の損害額の算定について補足するに,原告は,本件第1ないし第3売買によって,それぞれ未公開株式を取得しているが,これらは,今なお上場されておらず,換価が極めて困難であるから,その価値を損益相殺するのは相当でないと判断する。
(3) 以上によれば,未公開株式取引につき,原告に対し,株式会社イーグルファンドパートナーズ,同Y1,同Y2,同Y3及び同Y5は各自840万円,被告Y4は820万円並びにこれらに対する不法行為の後である平成18年6月1日から,支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務がある。
3 ロコ・ロンドン金取引に関して
(1) 1で認定した事実によれば,被告Y1及び同Y3は,原告に対し,ロコ・ロンドン金取引について具体的な仕組みの説明をせず,原告から取引保証金名目の金銭を受け取った後も,取引の報告を全くしなかったから,被告ライフタイムが原告から取引保証金名目の金銭を受け取ったことによって,ロコ・ロンドン渡しの金を売買したと同様の地位を取得させたかは極めて疑わしく,ロコ・ロンドン金取引への勧誘は原告から金銭を詐取するための単なる口実にすぎなかった疑いが強い。
(2) 仮に,そうではなく,被告ライフタイムが原告から取引保証金名目の金銭を受け取ったことによって,実際にロンドン渡しの金を売買したと同様の地位を取得させたのだとしても,原告に対するロコ・ロンドン金取引の勧誘行為は,次のアないしオの事情を総合すれば,原告が主張するその余の要素について検討するまでもなく違法であって,原告に対する不法行為となるというべきである。
ア 一般的に行われているロコ・ロンドン金取引の仕組みは,第1の5(1)に記載のとおりである。
イ そうすると,ロコ・ロンドン金取引は,金価格及び為替相場の変動という偶然の事情によって財物の得喪を争う行為であって,刑法上の賭博罪,常習賭博罪,及び賭博上等開帳図利罪に該当する。
ウ 商品取引所法6条は,商品市場類似施設の開設を禁止している。ロコ・ロンドン金取引は,商品先物取引に類似する取引と解することもできるから,実質的に同条に抵触する。
エ 被告Y1や同Y3は,原告をロコ・ロンドン金取引に勧誘するに際し,その取引の仕組みを全く説明しておらず,違法である。とりわけ,ロコ・ロンドン金取引は,相対取引であることから,顧客と業者間との間に利益相反関係を生じさせ,業者は必然的に顧客の利益を犠牲にして自らの利益を図ろうとすることとなる構造を有しており,顧客を勧誘する業者は,顧客に対し,そのことを具体的に説明すべきであるのに,全く,その説明をしていないのであって,その違法性の程度は高い。
オ 原告は,ロコ・ロンドン金取引の勧誘を受けた時点で,73歳で,年金収入で生計を立てている無職の女性であった。投資経験は株式及び公社債の現物取引の経験があるのみであった(弁論の全趣旨)。そうすると,原告が,ロコ・ロンドン金取引を行うについて適合性がないことは明らかであった。
(3) 被告らの責任
ア 被告Y3は,原告に対し,違法な勧誘行為をしたものであって,民法709条により,原告がロコ・ロンドン金取引によって被った損害を賠償する責任がある。
イ 被告Y1は,原告に対するロコ・ロンドン金取引への勧誘がなされた当時,被告ライフタイムの代表取締役であり,従業員を指揮監督して,違法な販売活動を防止すべき立場にありながら,違法な販売活動を継続させ,原告に対しては,自ら直接に勧誘行為を行ったのであるから,代表取締役としての職務を行うについて重大な過失があったというべきであり,会社法429条1項により,原告がロコ・ロンドン金取引によって被った損害を賠償する責任がある。
ウ 被告ライフタイムは,被告Y3の使用者として民法715条により,被告Y1の行為に基づき会社法350条により,ロコ・ロンドン金取引によって原告が被った損害を賠償する責任がある。また,被告ライフタイムは,組織的に違法なロコ・ロンドン金取引の勧誘を行っていたものと推認でき,その行為自体が民法709条に該当するとみることも可能である。
(4) 原告の損害について
ア 原告が被告ライフタイムに交付した保証金は合計1400万円であり,一方,原告が被告ライフタイムから返金を受けた額は,22万6780円であるから,原告の損害額は1377万3220円である。
イ 被告らの行為と相当因果関係があり,被告らに負担させるのが相当な弁護士費用の額は,130万円であると認められる。
(5) 以上によれば,ロコ・ロンドン金取引につき,被告ライフタイム,被告Y1及び被告Y3は,原告に対し,各自損害賠償金1507万3220円及びこれに対する不法行為の後である平成19年10月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務がある。
4 結論
よって,主文のとおり判決する。なお,原告と被告Y4との間の訴訟費用については,民訴法64条ただし書を適用する。
(裁判長裁判官 井戸謙一 裁判官 飯島敬子 裁判官 若原央子)