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京都地方裁判所 平成19年(ワ)649号 判決 2007年8月09日

主文

1  被告は、原告Aに対し、21万1764円及びこれに対する平成18年6月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  被告は、原告Bに対し、25万2855円及びこれに対する平成18年6月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  原告らのその余の請求を棄却する。

4  訴訟費用は、原告Aに生じた費用の10分の9と被告に生じた費用の100分の81を同原告の負担とし、原告Bに生じた費用の10分の1と被告に生じた費用の100分の1を同原告の負担とし、原告らに生じたその余の費用と被告に生じたその余の費用を被告の負担とする。

5  この判決は、1項及び2項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

1  被告は,原告Aに対し,269万7960円及びこれに対する平成18年6月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  被告は,原告Bに対し,27万9855円及びこれに対する平成18年6月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

1  本件は,犬が道路に飛び出したため,驚愕し,かつ犬との衝突を避けようとして,道路脇のガードレールに衝突して負傷するとともに運転していた普通自動二輪車が損傷を被ったと主張する普通自動二輪車の運転者及び所有者が,犬の飼い主に対し,民法718条1項及び同法709条に基づき,損害の賠償と損害に対する不法行為の日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事件である。

2  当事者間に争いのない事実等

(1)  次の交通事故(以下「本件事故」という)が発生した。

ア 発生日時  平成18年6月3日午後7時10分ころ

イ 発生場所  京都市a区b(以下「本件事故現場」という)

ウ 事故態様  本件事故現場付近の被告宅前の道路を進行していた原告A運転の普通自動二輪車(以下「原告車両」という)が上記道路の左脇のガードレールに衝突した(詳細は争いがある)。

(2)  原告車両は,原告Bの所有である(甲12)。

(3)  被告は,本件事故が発生した道路に面した場所に自宅を構え,Cという名前の犬を飼っていた。Cは,被告宅内で鎖につながれていたが,上記道路に面し戸が開いたままとなっていた勝手口から被告宅の外に出ることができた(Cが上記道路の中央付近まで行くことができたか〔原告らの主張〕,それとも,鎖の長さが短くCが被告宅前の側溝を超えたあたりまでしか行くことができなかったか〔被告の主張〕には争いがある)(甲1,甲3の1ないし4,乙1,弁論の全趣旨〔平成19年4月23日口頭弁論調書〕)。

(4)  原告Aは,次のとおり,通院して治療を受けた(甲4ないし6)。

ア D病院において,左足挫創,頭部打撲,前胸部擦過傷の傷病名で,平成18年6月3日,5日,8日及び12日(中止)に通院して治療を受けた(実通院日数4日)。

イ E接骨院において,頸部捻挫,左足打撲,前胸部打撲の傷病名で,平成18年6月13日から同年11月13日まで通院して治療を受けた(実通院日数71日)。

3  争点

(1)  責任原因・事故態様

(原告らの主張)

ア 原告Aが原告車両を運転して本件事故現場付近の道路を進行し,被告宅前付近に差し掛かったところ,被告宅の勝手口から鎖をつけたCが突然道路中央付近まで飛び出したため,原告Aは,驚愕し,かつCとの衝突を避けようとしたため,原告車両が上記道路の左脇のガードレールに衝突した。

イ 被告は,動物の占有者であるから,民法718条に基づく損害賠償責任を負う。また,被告は,Cの飼主としてCを被告宅内に鎖でつなぐにあたっては,Cが道路に飛び出して通行車両等の走行を妨害したり,驚愕させないような短い鎖で管理すべき注意義務があるのにこれを怠り,Cが道路中央付近まで出歩くことができる長い鎖をつけていたものであるから,民法709条に基づく損害賠償責任を負う。

(被告の主張)

ア 原告の主張アのうち,Cが鎖でつながれていたことは認め,その余の事実は否認する。Cは道路中央付近まで飛び出していない。

イ 原告の主張イのうち,被告が動物の占有者であること,Cの飼主であることは認め,その余の事実は否認する。鎖は市販のごく短いものである。

(2)  傷害の有無

(原告Aの主張)

原告Aは,本件事故により,左足挫創,頭部打撲,前胸部擦過傷等の傷害を負った。

(被告の主張)

不知

(3)  原告らの損害

(原告Aの主張)

原告Aは,本件事故により,次の損害を被った。

ア 治療費  43万0360円

内訳:D病院  1万2770円

E接骨院  41万7590円

イ 休業損害  88万8000円

説明:原告Aは,本件事故のため,勤務先(兄であるFが営むG建材を90日間(平成18年6月5日から同年11月13日まで)休業せざるを得なくなり,上記休業損害を被った。

ウ 通院交通費  2万9600円

内訳:D病院  1200円

E接骨院  2万8400円

エ 通院慰謝料  110万円

オ 弁護士費用  25万円

カ 合計  269万7960円

(原告Bの主張)

原告Bは,本件事故により,次の損害を被った。

ア 原告車両の修理費  22万9855円

イ 弁護士費用  5万円

ウ 合計  27万9855円

(被告の主張)

不知

第3当裁判所の判断

1  争点(1)責任原因・事故態様について

(1)  当事者間に争いのない事実等,証拠(甲1,2,甲3の1ないし4,甲15の1ないし11,甲16,原告A本人,被告本人,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

ア 本件事故現場の状況は,概ね,別紙「事故発生状況報告書」(甲2)の「事故発生状況略図」(以下「別紙図面」という)記載のとおりである(ただし,別紙図面に「H・I」とあるのは「H」の誤りであり,被告宅の位置を示している)。

イ 原告Aは,原告車両を運転して本件事故現場付近の道路を進行し,被告宅前付近に差し掛かったところ,被告宅の勝手口から鎖をつけたCが突然道路に飛び出してきたため,原告Aは,驚いてバランスを崩し,上記道路の左脇のガードレールに原告車両の側部を,また,電柱に原告車両の前部を,それぞれ衝突させ,その結果,原告Aは原告車両もろとも転倒した。

ウ なお,原告Aは,Cが原告車両に衝突した(甲2)あるいは接触した(甲16,原告A本人)と説明するが,原告Aから事故の発生報告を受けた警察は,原告Aから「犬の飛び出しによりバランスを崩して転倒した」という内容の事故報告を受けたとしていること(調査嘱託の結果)のほか,Cが本件事故により傷害を負っていないこと(弁論の全趣旨)に照らし,にわかに採用することができない。また,原告らは,Cが道路中央付近まで飛び出したと主張し,これに沿う証拠(甲2〔原告A作成の事故発生状況報告書〕,甲16〔原告A作成の陳述書〕,原告A本人)があるが,前判示のとおり,原告車両がCと衝突又は接触したとは認め難いことに照らし,にわかに採用することができず,他に上記主張を認めるに足りる証拠はない。

(2)  前記認定の事実関係によれば,被告は,動物の占有者として,民法718条1項に基づく損害賠償責任を負うとともに,Cの飼主としてCが被告宅前の道路を走行する車両の運転者を驚かせるなどしてその進行を妨げないようにするための配慮(被告宅の勝手口を閉めておくなど)を欠いた過失が認められるから,民法709条に基づく損害賠償責任を負うものというべきである。

2  点(2)傷害の有無について

証拠(甲4)によれば,原告Aが,本件事故により,左足挫創,頭部打撲,前胸部擦過傷の傷害を負ったことが認められ,原告がその余の傷害(原告の上記主張の「等)を負った事実を認」めるに足りる証拠はない。前判示のとおり,原告Aは,E接骨院において,頸部捻挫,左足打撲,前胸部打撲の傷病名で,通院治療を受けたことが認められるが,甲6,7(柔道整復師作成の施術証明書・施術費明細書)のみによって,同原告が頸部捻挫・前胸部打撲の傷害を負ったことを認めることはできない。

3  争点(3)原告らの損害について

(1)  原告Aの損害

証拠(後掲のもの)によれば,原告Aが本件事故により次の損害を被ったことが認められる。

ア 治療費  1万2770円(甲5)

説明:D病院における治療費である。原告Aは,前判示のとおり,E接骨院に通院したことが認められるけれども,原告Aが本件事故により受けた傷害の内容が前判示のとおりであることに加え,証拠(原告A本人)によれば,原告Aは,D病院の主治医に相談することなく(医師の指示又は承認に基づくことなく)E接骨院に通院したこと,E接骨院では電気治療と湿布薬の処方がされただけであることがそれぞれ認められるのであるから,E接骨院における治療費と本件事故との間に相当因果関係を認めることはできない。

イ 休業損害  8万8794円

説明:証拠(甲1,9,10,原告A本人)によれば,原告A(昭和49年2月14日生)は,平成元年3月中学校を卒業し,3年間ほど新聞販売店で勤務した後フリーターとなり,平成13年7月1日から兄であるFの営むG建材(個人経営)でFと二人で稼働していたことが認められる。ところで,原告Aが得ていた収入金額については,的確な裏付けを欠く休業損害証明書(甲9,10)(平成18年3月から同年5月までの合計支給額が88万8000円〔90で除すと1日あたり9866円<1円未満切り捨て>となる〕であるとするもの)があるだけで公的な証明書は提出されていないけれども(原告Aは,給与から社会保険料・所得税の控除を受けていないし,税務申告もしていない),賃金センサス(平成17年・産業計・企業規模計・男性労働者・中学卒・30歳から34歳まで)による年収が389万0300円(1日あたり1万0658円〔1円未満切り捨て〕)であることを考慮すると,基礎収入を上記休業損害証明書による1日あたり9866円とすることが相当である。そして,前記認定の事実関係によれば,休業期間は,本件事故発生日の翌日である平成18年6月4日から,D病院おける治療が中止となった同月12日までの9日間と認めるのが相当である。そこで,9866円×9日=8万8794円の計算式により,上記金額となる。

ウ 通院交通費  1200円(甲11)

説明:D病院まで公共交通機関(バス)往復400円の3日分で上記金額となる。E接骨院への通院交通費は,E接骨院における治療費と同じ理由により,本件事故との間に相当因果関係を認めることはできない。

エ 通院慰謝料  9万円

説明・前判示の本件事故の態様,原告Aが受けた傷害の部位・程度,治療の経緯等諸般の事情を総合考慮すれば,上記金額が相当である。

オ 小計  19万2764円

カ 弁護士費用  1万9000円

キ 合計  21万1764円

(2)  原告Bの損害

証拠(後掲のもの)によれば,原告Bが本件事故により次の損害を被ったことが認められる。

ア 原告車両の修理費  22万9855円(甲14)

イ 弁護士費用  2万3000円

ウ 合計  25万2855円

4  よって,主文のとおり判決する。

(裁判官 池田光宏)

(別紙の添付は省略)

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