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京都地方裁判所 平成19年(行ウ)15号 判決 2011年6月30日

主文

1  本件訴えのうち,第2事件の原告Ⅰ,同Ⅱ,同Ⅲ,同Ⅴ,同Ⅵ及び同Ⅶの請求に係る訴えをいずれも却下する。

2  本件訴訟のうち,原告Ⅳに関する部分は,平成19年12月16日,同原告の死亡により終了した。

3  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

4  訴訟費用は,第1事件及び第2事件を通じ,原告らの負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  第1事件

被告は,Aに対し,2200万円及びこれに対する平成19年1月16日から支払済みまで年5分の割合による金員の賠償命令をせよ。

2  第2事件

(1)  被告は,Bに対し,2500万円及び内金500万円に対する平成19年7月19日から,内金2000万円に対する平成20年1月1日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による各金員を支払うよう請求せよ。

(2)  被告は,Cに対し,500万円及びこれに対する平成19年7月19日から支払済みまで年5分の割合による金員の賠償命令をせよ。

(3)  被告は,Aに対し,2000万円及びこれに対する平成20年1月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。

第2事案の概要

第1事件は,京都市の住民である原告Ⅰ,同Ⅱ,同Ⅲ及び同Ⅳ(以下,上記4名を同事件との関係で「第1事件原告ら」という。)が,同市が,小中学校の生徒に社会・経済等を学習させること等を目的として行った「京都市スチューデントシティ・ファイナンスパーク事業」(以下「本件事業」という。)に関し「H」と締結した委託契約(以下「本件委託契約」という。)及び同契約に基づく支出負担行為書による委託料の支払並びにHと交わした「スチューデントシティ・ファイナンスパークの著作権等に関する覚書」(以下「本件覚書」という。)及び同覚書に基づく支出負担行為書による著作権使用料の支払が違法な公金支出であり,これにより同市が損害を被ったと主張して,被告に対し,地方自治法242条の2第1項4号ただし書,243条の2第3項に基づき,平成18年度及び平成19年度同市教育委員会事務局総務部総務部長(以下,単に「総務部長」という。)であったAに対し,本件委託契約の委託料及び本件覚書に基づく著作権使用料に相当する損害賠償金並びにこれに対する民法所定の年5分の割合による遅延損害金の賠償命令をすることを求めた住民訴訟である。

第2事件は,同市の住民である原告Ⅰ,同Ⅱ,同Ⅲ,同Ⅴ,同Ⅶ,同Ⅵ,同Ⅷ,同Ⅸ,同Ⅹ及び同ⅩⅠ(以下,上記10名を同事件との関係で「第2事件原告ら」という。)が,①Aが,本件委託契約につき債務不履行があったことを認識しながら,Hに対し委託金返還等の委託料相当額の請求をするのを怠り,これにより同市が損害を被ったと主張して,被告に対し,同法242条の2第1項4号本文に基づき,Aに対し,本件委託契約の委託料相当額の損害賠償金及びこれに対する民法所定の年5分の割合による遅延損害金の請求をすることを求め,②同市が本件事業に関しHと締結した再度の委託契約(以下「本件再委託契約」という。)に基づく委託料の支払が違法な公金支出であり,これにより同市が損害を被ったと主張して,被告に対し,同法242条の2第1項4号ただし書,243条の2第3項に基づき,平成19年度同市教育委員会事務局総務部総務課長(以下,単に「総務課長」という。)であったCに対し,本件再委託契約の委託料相当額の損害賠償金及びこれに対する民法所定の年5分の割合による遅延損害金の賠償命令をすることを求め,③平成18年度及び平成19年度同市教育委員会教育長(以下,単に「教育長」という。)であったBが,法令に反する本件事業を主導し,本件委託契約及び本件再委託契約(以下,併せて「本件各委託契約」という。)に基づく委託料の支払等の専決権者の事務処理等を管理する義務を怠り,それらにより同市が損害を被り,同市は,Bに対して民法709条に基づく損害賠償請求権を行使すべきであるにもかかわらず,その行使を違法に怠っていると主張して,被告に対し,同法242条の2第1項4号本文に基づき,怠る事実の相手方であるBに対し,本件各委託契約の委託料相当額の損害賠償金及びこれに対する民法所定の年5分の割合による遅延損害金の請求をすることを求めた住民訴訟である。

1  法令の定め等

(1)  地方自治法(平成18年法律第66号による改正前のもの。以下,単に「地方自治法」という。)

ア 同法170条2項は,1項の会計管理者がつかさどる普通地方公共団体の会計事務として,現金等の出納及び保管を行うこと(1号)及び支出負担行為に関する確認を行うこと(6号)を例示する。

イ 同法208条1項は,普通地方公共団体の会計年度は,毎年4月1日に始まり,翌年3月31日に終わるものとし,2項は,各会計年度における歳出は,その年度の歳入をもってこれに充てなければならないと規定する。

ウ 同法232条の3は,普通地方公共団体の支出の原因となるべき契約その他の行為を支出負担行為とし,法令又は予算の定めるところに従い,これをしなければならない旨規定する。

エ 同法232条の4第1項は,会計管理者は,普通地方公共団体の長の政令で定めるところによる命令(支出命令)がなければ,支出をすることができないとし,第2項は,会計管理者は,支出命令を受けた場合においても,当該支出負担行為が法令又は予算に違反していないこと及び当該支出負担行為に係る債務が確定していることを確認した上でなければ,支出をすることができない旨規定する。

オ 同法232条の5第2項は,普通地方公共団体の支出は,政令の定めるところにより,前金払等の方法によりこれをすることができる旨規定する。

カ 同法234条1項は,契約は,一般競争入札,指名競争入札,随意契約又はせり売りの方法により締結するものとし,2項は,指名競争入札,随意契約又はせり売りは,政令で定める場合に該当するときに限り,これをすることができる旨規定する。

キ 同法234条の2第1項は,普通地方公共団体が物件の買入れその他の契約を締結した場合においては,当該普通地方公共団体の職員は,政令の定めるところにより,契約の適正な履行を確保するため又はその受ける給付の完了の確認をするため必要な監督又は検査をしなければならない旨規定する。

(2)  地方自治法施行令(平成19年政令第39号による改正前のもの。以下,単に「地方自治法施行令」という。)

ア 同施行令163条2号は,委託費について,8号は,経費の性質上前金をもって支払をしなければ事務の取扱いに支障を及ぼすような経費で普通地方公共団体の規則で定めるものについて,前金払をすることができる旨規定する。

イ 同施行令167条の2第1項2号は,地方自治法234条2項の規定により随意契約によることができる場合として,「不動産の買入れ又は借入れ,普通地方公共団体が必要とする物品の製造,修理,加工又は納入に使用させるため必要な物品の売払いその他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」を挙げる。

ウ 同施行令167条の15第1項は,地方自治法234条の2第1項の規定による監督は,立会い,指示その他の方法によって行わなければならないとし,第2項は,地方自治法234条の2第1項の規定による検査は,契約書,仕様書及び設計書その他の関係書類に基づいて行わなければならない旨規定する。

エ 同施行令167条の16第1項は,普通地方公共団体は,当該普通地方公共団体と契約を締結する者をして当該普通地方公共団体の規則で定める率又は額の契約保証金を納めさせなければならない旨規定する。

オ 同施行令附則7条は,地方公共団体は,当分の間,公共工事の前払金保証事業に関する法律(昭和27年法律第184号)5条の規定に基づき登録を受けた保証事業会社の保証に係る公共工事に要する経費については,当該経費の3割を超えない範囲内に限り,前金払をすることができる旨規定する。

(3)  地方自治法施行規則(平成20年総務省令第12号による改正前のもの。以下,単に「地方自治法施行規則」という。)

同規則附則3条1項は,公共工事に要する経費のうち工事1件の請負代金の額が50万円以上の土木建築に関する工事において,当該工事の材料費,労務費,機械器具の賃借料,機械購入費,動力費,支払運賃,修繕費,仮設費,労働者災害補償保険料及び保証料に相当する額として必要な経費の前金払の割合は,これらの経費の4割を超えない範囲内とし,2項は,公共工事に要する経費のうち工事1件の請負代金の額が50万円以上の土木建築に関する工事であって,同項各号に掲げる要件に該当するものにおいて,当該工事の材料費等に相当する額として必要な経費について,1項の範囲内で既にした前金払に追加してする前金払の割合は,当該経費の2割を超えない範囲内とする旨規定する。

(4)  地方教育行政の組織及び運営に関する法律(平成19年法律第53号による改正前のもの。以下,単に「地教行法」という。)

ア 同法17条1項は,教育長は,教育委員会の指揮監督の下に,教育委員会の権限に属するすべての事務をつかさどるとし,20条1項は,教育長は17条に規定するもののほか,事務局の事務を統括し,所属の職員を指揮監督する旨規定する。

イ 同法24条4号,5号は,地方公共団体の長は,教育委員会の所掌に係る事項に関する契約を結ぶこと及び教育委員会の所掌に係る事項に関する予算を執行する旨規定する。

(5)  京都市教育長等専決規程(昭和38年5月16日訓令甲第7号。以下「教育長等専決規程」という。第1事件乙37,55(以下,第1事件の書証については,その旨の表示をしない。),第2事件乙2)

ア 同規程1条は,教育長,総務部長,所長,館長,課長,室長,学校長,幼稚園長等を「教育長等」とし,2条1項は,教育長等は,別に定めがある場合を除き,同規程の定めるところにより,主管事務について専決し,その責任を負うものとし,2項は,教育長等は,重要若しくは異例と認める事項又は解釈上疑義のある事項については,上司の決定を受けなければならないとする。

イ 同規程3条及び別表の「総務部長」欄(2)は収入決定に関することを,(3)は1件200万円以下の支出決定に関することを,(7)本文は1件2000万円以下の物品等の調達決定及び契約並びにこれらに伴う経費の支出決定に関すること(ただし,契約にあっては,理財局長が別に定める随意契約に限る。)を総務部長の専決事項とする旨規定する。

ウ 同規程3条及び別表の「総務課長」欄(1)は支出命令及び振替命令並びに出納(物品に係るものを除く。)の通知に関することを,(2)は1件100万円以下の収入決定に関することを,(15)は1件500万円以下の物品等の調達決定及び契約並びにこれらに伴う経費の支出決定に関すること(ただし,契約にあっては1件10万円以下の契約及び理財局長が別に定める随意契約に限る。)を総務課長の専決事項とする。

エ 同規程4条は,教育長等は,同規程の定めるところにより専決した事項で,必要と認めるものについては,直ちに上司に報告しなければならない旨規定する。

(6)  京都市契約事務規則(昭和39年4月1日規則第67号。以下「契約事務規則」という。甲19)

ア 同規則30条6号は,市長は,随意契約により契約を締結する場合において,契約金額が少額であり,かつ,契約の相手方が契約を履行しないと認められることとなるおそれがないと認められる場合には,契約保証金の全部又は一部の納付を免除することがある旨規定する。

イ 同規則35条1項本文は,契約書を作成する場合においては,契約の目的,契約金額,履行期限及び契約保証金に関する事項のほか,①契約履行の場所,②契約代金の支払又は納付の時期及び方法,③監督及び検査,④履行遅滞その他義務の不履行の場合における遅延利息,違約金その他の損害金,⑤危険負担,⑥瑕疵担保責任,⑦契約履行の際生ずる第三者との紛争の解決方法,⑧契約解除の要件,⑨その他必要な事項を記載するものとし,同項ただし書は,契約の性質又は目的により該当のない事項についてはその限りでない旨規定する。

ウ 同規則39条は,契約の相手方は,義務の履行について,監督職員等(監督について権限を有する京都市職員その他の者をいう。)の監督に従わなければならないと規定する。

エ 同規則43条1項は,市長が,義務の履行完済前に代価の部分払いをする旨の特約をすることがあるとし,1項に規定する部分払いの額について,2項1号は,請負契約につき,既済部分の代価に相当する額の10分の9に相当する額,2号は,物件の買入れその他の契約につき,既納部分の代価に相当する額(両号とも,前払金が支払われているときは,当該額から当該額の契約金額に対する割合を当該前払金の額に乗じて得た額を差し引いた額)の範囲内において,市長が定める旨規定する。

(7)  京都市物品等の調達に係る随意契約ガイドライン(平成15年10月23日理財局長決定。以下「随意契約ガイドライン」という。甲15)

ア 同ガイドラインの「随意契約を行うことができる場合の基準」2(1)イは,地方自治法施行令167条の2第1項2号の「その性質又は目的が競争入札に適しない」契約として,特定の1者でなければ提供できない役務に係る契約を挙げ,運用上の留意点として,他の者では履行し得ない役務の提供であることについて同業他社に確認するなど客観的に確認することを挙げる。

イ 同ガイドラインの「運用上の注意等」は,1項において,特定の者との随意契約を行う場合であっても,適正な価格の範囲内で,可能な限り低廉な価格で契約を締結するよう,コストについて積算を行うとともに詳細な見積書を提出させ,積算と突合して見積書の内容を精査し,見積書の再提出を求めるなど価格交渉を行うことを挙げる。

2  前提事実(争いのない事実並びに各項掲記の各書証及び弁論の全趣旨によって認められる事実)

(1)  当事者等

ア 原告らは,いずれも京都市の住民である。なお,原告Ⅳは,第1事件訴え提起後の平成19年12月16日,死亡した。

イ(ア) Aは,平成18年度ないし平成20年度総務部長であった者である。

(イ) Cは,平成19年度総務課長であった者である。

(ウ) Bは,平成18年度及び平成19年度教育長であった者で,現在は京都市の執行機関である京都市長である。

ウ Dは,本件事業実施当時,京都市長であった者である。

エ(ア) Hは,社会の仕組みや経済の働きを学ぶことを通して,青少年の自立した判断力等を育成するため,企業や地域社会と学校とが協力しながら学校内における経済教育の実施を支援し,社会生活で実際に役立つ知恵の形成を促し,わが国における青少年教育の振興に寄与することを目的とする権利能力なき社団である(甲23)。

(イ) Eは,本件事業実施当時,Hの理事長であった者である。

オ(ア) 21世紀型教育コンテンツ開発委員会(以下「21世紀委員会」という。)は,京都の産・学・公の連携の下,最新の教育環境を視野に入れ,起業家精神教育などの教育教材の開発を総合的・体系的に行うことを趣旨として京都市に設立された委員会である(乙6)。

(イ) Fは,本件事業実施当時,21世紀委員会の委員長であった者である。

(2)  本件事業

ア スチューデントシティ事業(乙17,19,第2事件乙16,弁論の全趣旨)

(ア) スチューデントシティ事業は,日常生活にかかわる経済の働きや社会との関わりを理解させるとともに,望ましい職業観・勤労観を育て,自らの生き方を考える力を培うことをねらいとする学習プログラムであり,小学校5年生を対象とする。

(イ) 学習プログラムは,事前学習(10時間),体験学習(6時間)及び事後学習(2時間)で構成され,事前学習及び事後学習は各学校で,体験学習は元京都市立滋野中学校校舎のうちスチューデントシティ用の部分(以下「スチューデントシティ施設」という。)で行われる。

(ウ) スチューデントシティ施設では,実在の銀行,商店,新聞社,区役所等を模した12のブースが設置されており,児童は,企業等の従業員役と消費者役それぞれの立場で役割を担い,仕事や消費活動を疑似体験する。

イ ファイナンスパーク事業(乙21,23,第2事件乙17,弁論の全趣旨)

(ア) ファイナンスパーク事業は,情報を適切に活用する力の育成,生活設計能力等の育成,各教科領域で学んだ知識,技能等の総合化,社会の仕組みや経済の働きについての知識及び認識の育成,よき消費者として必要となる基本的な知識,認識及び態度の育成並びに望ましい勤労観及び職業観の育成をねらいとする学習プログラムであり,中学1,2年生を対象とする。

(イ) 学習プログラムは,生活設計学習(8時間),シミュレーション学習(6時間),まとめ学習(1時間)で構成され,生活設計学習及びまとめ学習は各学校で,シミュレーション学習は元京都市立滋野中学校校舎のうちファイナンスパーク用の部分(以下「ファイナンスパーク施設」という。)で行われる。

(ウ) ファイナンスパーク施設では,電力やガス,水道,住宅,保険等の実在の企業の店舗を模した19のブースが設置されており,生徒は,それぞれに設定された年齢や年収,家族構成等を基に,生活費の試算,商品やサービスの購入,契約等による生活設計の体験を行う。

(3)  本件事業実施に至る経過と支出の経緯

ア Hは,平成16年10月12日,当時の教育長であったBに対し,スチューデントシティ及びファイナンスパークについての概要説明を行い,京都市教育委員会(以下,単に「教育委員会」という。)は,事業実施の検討を開始した。

イ Bは,平成17年9月26日,本件事業を実施すること,及び本件事業の実施に係る合意書を作成することを決定した(乙1)。

ウ F,E,D及びBは,同年10月5日,「『京都市スチューデントシティ・ファイナンスパーク事業』について」と題する合意書を作成した(乙4)。

エ Fは,平成18年4月13日,京都市に対し,同市におけるスチューデントシティ・ファイナンスパーク事業の実施のためという目的で,3000万円を寄附した(乙11)。

オ Aは,平成18年10月10日,京都市とHとの間で以下の内容の委託契約を締結することを決定し,同日,同市とHとの間で以下の内容の委託契約(本件委託契約)が締結された(乙14,16)。

(ア) 委託事項

Hに対し,元京都市立滋野中学校において実施する本件事業の実施に必要な業務を委託する。

(イ) 委託の範囲

Hに対し,以下の業務を委託し,それぞれの内容については,別紙1の仕様書のとおりとする。

a 事業を実施するための施設の整備に関すること

b 事業のプログラムに関すること

c ボランティア等の養成に関すること

d 事業運営の監修に関すること

(ウ) 委託の期間

平成18年10月10日から平成19年3月31日まで

(エ) 委託料

2000万円とし,Hの請求に基づき前金払いするものとする。

(オ) 報告書

Hは,京都市に対し,契約期間満了後速やかに,事業報告書及び決算報告書を提出する。

(カ) 契約の解除

京都市は,Hがこの契約に違反したと認める場合は,委託料の一部若しくは全部の返還を請求し,又はこの契約を解除することができる。

カ 2000万円の支払

京都市は,平成19年1月16日,Hに対し,本件委託契約の委託料として,2000万円を支払った(乙42)。

キ Aは,平成19年1月10日,京都市とHとの間で「スチューデントシティ・ファイナンスパークの著作権等に関する覚書」(本件覚書)に記載された以下の内容の合意(契約)をすることを決定し,同年3月15日,同市とHとの間で以下の内容の契約(以下「本件著作権契約」という。)が締結された(乙40,41,43)。

(ア) 本件事業の学習プログラム(プログラムサポートのコンピュータソフトウェアを含む。)に係る知的財産権はHに帰属する。

(イ) 本件事業の学習プログラムに基づき,京都市が独自に作成した「学習指導計画」に係る知的財産権は京都市に帰属する。

(ウ) 京都市は,Hに対し,本件事業の学習プログラムに係る著作権使用料を以下のとおり支払う。

a スチューデントシティの著作権使用料  100万円

b ファイナンスパークの著作権使用料  100万円

ク 200万円の支払

京都市は,平成19年5月2日,Hに対し,本件著作権契約の著作権使用料として,200万円を支払った(乙43)。

ケ Cは,平成19年5月30日,京都市とHとの間で以下の内容の委託契約を締結することを決定し,同年6月1日,同市とHとの間で以下の内容の委託契約(本件再委託契約)が締結された(乙92,93)。

(ア) 委託事項

Hに対し,「京都学びの街生き方探究館」における本件事業の実施に必要な業務を委託する。

(イ) 委託の範囲

Hに対し,以下の業務を委託し,それぞれの内容については,別紙2の仕様書のとおりとする。

a 事業のプログラムに関すること

b ボランティア等の養成に関すること

c 事業運営の監修に関すること

(ウ) 委託の期間

平成19年6月1日から平成20年3月31日まで

(エ) 委託料

500万円とし,Hの請求に基づき前金払いするものとする。

(オ) 報告書

Hは,京都市に対し,契約期間満了後速やかに,事業報告書及び決算報告書を提出する。

(カ) 契約の解除

京都市は,Hがこの契約に違反したと認める場合は,委託料の一部若しくは全部の返還を請求し,又はこの契約を解除することができる。

コ 500万円の支払

京都市は,平成19年7月24日,Hに対し,本件再委託契約の委託料として,500万円を支払った(乙94)。

(4)  監査請求の経緯及び本件訴訟の提起

ア 第1次監査請求

(ア) 原告Ⅰ,同Ⅱ,同Ⅲ,同Ⅳ及び同Ⅷは,平成19年1月19日,京都市監査委員に対し,①本件事業が公教育の公共性・公平性・中立性の原則に反し教育基本法(平成18年法律第120号による改正前のもの。同年12月22日廃止。以下「旧教育基本法」という。)6条に反し,②本件事業が,財界,特定の民間団体による公教育への介入であり,教授の自由を保障する憲法23条,教育基本法(平成18年法律第120号による改正後のもの)16条に反することから,本件委託契約に基づく2000万円の委託料の支出は違法であるとして,D,B,Aに対し,上記委託料相当の損害賠償金の支払を請求すること等を求める住民監査請求をした(甲1(枝番号を含む。)。以下「第1次監査請求」という。)。

(イ) 京都市監査委員は,第1次監査請求について,同年3月20日付けで,第1次監査請求を,①本件委託契約に基づく委託料2000万円の支出,②本件覚書に基づく著作権使用料200万円の支出及び③元京都市立滋野中学校校舎の耐震改修工事請負契約に係る請負代金中,平成19年1月14日掲載の新聞全面広告の費用相当額330万円の支出を違法不当な公金支出とする請求とみた上,上記③については疎明が十分にされていないとして却下し,上記①及び②については,<ア>本件事業の実施が著しく不合理であると認めるに足りる事情は見当たらず,本件事業そのものが違法であることを理由とする支出の違法に係る主張は採用できない,<イ>①について,本件委託契約の締結及び委託料の支払に違法又は不当な点は認められない,<ウ>②について,本件覚書の締結及び著作権使用料の支払に違法又は不当な点は認められないとして,棄却する旨の通知をした(甲2,弁論の全趣旨)。

イ 第1事件の提訴及び訴訟告知

(ア) 第1事件原告らは,平成19年4月17日,第1事件の訴えを提起した。

(イ) 被告は,平成19年5月18日,Aに対し,第1事件に係る訴訟告知をした。

ウ 第2次監査請求

(ア) 第2次監査請求A

a 原告Ⅰ,同Ⅱ,同Ⅲ,同Ⅴ,同Ⅵ及び同Ⅶは,平成19年11月8日,京都市監査委員に対し,本件委託契約に関し,Aが違法・不当な公金支出を見逃したとして,Aに対し,増額分の損害賠償金の支払を請求することを求める住民監査請求をした(甲33(枝番号を含む。)。以下「第2次監査請求A」という。)。

b 京都市監査委員は,第2次監査請求Aについて,同年12月28日付けで,棄却する旨の通知をした(甲16,弁論の全趣旨)。

(イ) 第2次監査請求B

a 原告Ⅰ,同Ⅱ,同Ⅲ,同Ⅴ,同Ⅵ及び同Ⅶは,平成19年11月8日,京都市監査委員に対し,Cに対し,本件再委託契約の委託料相当の損害賠償金の支払を請求することを求める住民監査請求をした(甲34,第2事件乙10,弁論の全趣旨。以下「第2次監査請求B」という。)。

b 京都市監査委員は,第2次監査請求Bについて,同年12月28日付けで,棄却する旨の通知をした(甲17,弁論の全趣旨)。

エ 第3次監査請求

(ア) 原告Ⅰ,同Ⅱ,同Ⅲ,同Ⅴ,同Ⅵ,同Ⅶ,同Ⅷ,同Ⅸ,同Ⅹ及び同ⅩⅠは,平成20年2月,京都市監査委員に対し,①B及びAに対し,連帯して本件委託契約の委託料相当の2000万円の損害賠償金の支払を請求すること,②B及びCに対し,連帯して本件再委託契約の委託料相当の損害賠償金の支払を請求することなどを求める住民監査請求をした(第2事件甲1(枝番号を含む。)。以下「第3次監査請求」という。)。

(イ) 京都市監査委員は,第3次監査請求について,同月29日付けで,①原告Ⅰ,同Ⅱ,同Ⅲ,同Ⅴ,同Ⅵ及び同Ⅶは,第2次監査請求A・Bの請求人であり,同人らの請求は,同一の住民が先に請求の対象とした財務会計上の行為及び怠る事実と同一の行為及び怠る事実を対象とする住民監査請求を重ねて行うものであり,不適法であるとして却下し,②原告Ⅷ,同Ⅸ,同Ⅹ及び同ⅩⅠの請求に係る事実は,既に実施した第2次監査請求A・Bの結果に基づき,いずれも違法又は不当であるとは認められないとして棄却する旨の通知をした(第2事件甲2,3,弁論の全趣旨)。

オ 第2事件の提訴及び訴訟告知

(ア) 第2事件原告らは,平成20年3月27日,第2事件の訴えを提起した。

(イ) 被告は,平成20年5月23日,B及びAに対し,同月24日,Cに対し,第2事件に係る訴訟告知をした。

(5)  訴訟提起後の推移

ア 第1事件

第1事件原告らは,請求の趣旨を以下のとおり変更した。

(ア) 訴状における請求の趣旨

被告は,Aに対し,金2200万円及びこれに対する平成19年1月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ

(イ) 平成21年2月18日の本件口頭弁論期日

被告は,Aに対し,2200万円及びこれに対する平成19年1月16日から支払済みまで年5分の割合による金員の賠償命令をせよ

イ 第2事件

第2事件原告らは,請求の趣旨を以下のとおり変更した。

(ア) 訴状における請求の趣旨

a 被告は,B及びAに対し,連帯して2000万円及びこれに対する平成20年1月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ

b 被告は,B及びCに対し,連帯して500万円及びこれに対する平成19年7月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ

(イ) 平成20年4月22日付け請求の趣旨訂正申立書

a 被告は,Bに対し,2500万円及びうち2000万円に対する平成20年1月1日から支払済みまで,うち500万円に対する平成19年7月19日から支払済みまで,それぞれ年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ

b 被告は,Aに対し,2000万円及びこれに対する平成20年1月1日から支払済みまで年5分の割合による金員の賠償命令をせよ

c 被告は,Cに対し,500万円及びこれに対する平成19年7月19日から支払済みまで年5分の割合による金員の賠償命令をせよ

(ウ) 平成22年6月10日の本件口頭弁論期日

a 被告は,Bに対し,2500万円及びうち2000万円に対する平成20年1月1日から支払済みまで,うち500万円に対する平成19年7月19日から支払済みまで,それぞれ年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ

b 被告は,Aに対し,2000万円及びこれに対する平成20年1月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ

c 被告は,Cに対し,500万円及びこれに対する平成19年7月19日から支払済みまで年5分の割合による金員の賠償命令をせよ

3  主な争点

(1)  本案前の争点

ア 第1事件の請求の趣旨の変更による出訴期間経過の有無(以下「本案前の争点①」という。)

イ 第2事件の出訴期間経過の有無(以下「本案前の争点②」という。)

ウ 第2事件の訴えのうち,B及びAに対し2000万円の支払を請求するよう求める部分は,別訴の禁止に該当するか(以下「本案前の争点③」という。)

(2)  本案の争点

ア 第1事件関係

(ア) 2000万円の賠償命令(本件委託契約関係)に係る請求について

a 本件委託契約締結の違法性の有無(以下「本案の争点①」という。)

b Aの2000万円の支出負担行為固有の違法性の有無(以下「本案の争点②」という。)

c Aの故意又は重過失の有無(以下「本案の争点③」という。)

d 損害の有無(以下「本案の争点④」という。)

(イ) 200万円の賠償命令(本件著作権契約関係)に係る請求について

a 本件著作権契約締結の違法性の有無(以下「本案の争点⑤」という。)

b Aの200万円の支出負担行為固有の違法性の有無(以下「本案の争点⑥」という。)

c Aの故意又は重過失の有無(以下「本案の争点⑦」という。)

d 損害の有無(以下「本案の争点⑧」という。)

イ 第2事件関係

(ア) Aに対する損害賠償請求に係る請求について

a Aによる違法な怠る事実の有無(以下「本案の争点⑨」という。)

b Aの故意又は過失の有無(以下「本案の争点⑩」という。)

c 損害の有無(以下「本案の争点⑪」という。)

(イ) Cに対する賠償命令に係る請求について

a 本件再委託契約締結の違法性の有無(以下「本案の争点⑫」という。)

b Cの故意又は重過失の有無(以下「本案の争点⑬」という。)

c 損害の有無(以下「本案の争点⑭」という。)

(ウ) Bに対する損害賠償請求に係る請求について

a Bによる不法行為(民法709条)の有無(以下「本案の争点⑮」という。)

b Bの故意又は過失の有無(以下「本案の争点⑯」という。)

c 損害の有無(以下「本案の争点⑰」という。)

d Bに対する損害賠償請求権の行使を怠る事実の違法の有無(以下「本案の争点⑱」という。)

4  当事者の主張

(1)  本案前の争点①(第1事件の請求の趣旨の変更による出訴期間経過の有無)について

【被告の主張】

第1事件の請求の趣旨の変更(上記2(5)ア(イ))は,訴訟物を異にする訴えの交換的変更に当たり,変更後の訴えに係る出訴期間は変更の時を基準として決しなければならないところ,上記変更は,平成21年2月18日にされており,変更後の訴えは出訴期間(平成19年3月21日から30日)を経過した不適法なものである。

【第1事件原告らの主張】

第1事件の請求の趣旨の変更(上記2(5)ア(イ))の前後の請求は,いずれも違法是正請求権の一環としての損害賠償請求権を訴訟物とするものであり,上記の変更は訴えの変更には当たらず,変更後の請求も出訴期間を経過していない。

(2)  本案前の争点②(第2事件の出訴期間経過の有無)について

ア Aを相手方とする請求に係る訴えについて

(ア) 監査請求の同一性と出訴期間経過の有無

【被告の主張】

第2次監査請求Aと第3次監査請求は同一の監査請求であり,出訴期間の起算点は,第2次監査請求Aを基準とすべきところ,第2事件の相手方をAとする請求に係る訴えは,平成20年3月27日に提起されており,同訴えは,出訴期間(平成20年1月4日から30日)を経過した不適法なものである。

【第2事件原告らの主張】

第2次監査請求Aと第3次監査請求とは,異なる点を問題としており,Bを新たに相手方としている点で,別個の監査請求であり,出訴期間の起算点は,第3次監査請求を基準とすべきであって,Aを相手方とする請求に係る訴えは,出訴期間を経過していない。

(イ) 訴えの変更による出訴期間経過の有無

【被告の主張】

第2事件の相手方をAとする請求の趣旨の変更(上記2(5)イ(イ)(ウ))は,訴訟物を異にする訴えの交換的変更に当たり,変更後の訴えに係る出訴期間は変更の時を基準として決しなければならないところ,最終的な変更は,平成22年6月10日にされており,変更後の請求は,出訴期間(平成20年1月4日ないし平成20年3月1日から30日)を経過した不適法なものである。

【第2事件原告らの主張】

第2事件の請求の趣旨の変更(上記2(5)イ(イ)(ウ))の前後の請求は,いずれも違法是正請求権の一環としての損害賠償請求権を訴訟物とするものであり,上記の変更は訴えの変更には当たらず,変更後の請求も出訴期間を経過していない。

イ Cを相手方とする請求に係る訴えについて

(ア) 監査請求の同一性と出訴期間経過の有無

【被告の主張】

第2次監査請求Bと第3次監査請求は同一の監査請求であり,出訴期間の起算点は,第2次監査請求Bを基準とすべきところ,第2事件の相手方をCとする請求に係る訴えは,平成20年3月27日に提起されており,同訴えは,出訴期間(平成20年1月4日から30日)を経過した不適法なものである。

【第2事件原告らの主張】

第2次監査請求Bと第3次監査請求とは,異なる点を問題としており,Bを新たに相手方としている点で,別個の監査請求であり,出訴期間の起算点は,第3次監査請求を基準とすべきであって,Cを相手方とする請求に係る訴えは,出訴期間を経過していない。

(イ) 訴えの変更による出訴期間経過の有無

【被告の主張】

第2事件の相手方をCとする請求の趣旨の変更(上記2(5)イ(イ))は,訴訟物を異にする訴えの交換的変更に当たり,変更後の訴えに係る出訴期間は変更の時を基準として決しなければならないところ,上記変更は,平成20年4月22日にされており,変更後の請求は,出訴期間(平成20年1月4日ないし平成20年3月1日から30日)を経過した不適法なものである。

【第2事件原告らの主張】

第2事件の請求の趣旨の変更(上記2(5)イ(イ))の前後の請求は,いずれも違法是正請求権の一環としての損害賠償請求権を訴訟物とするものであり,上記の変更は訴えの変更には当たらず,変更後の請求も出訴期間を経過していない。

ウ Bを相手方とする請求に係る訴えに関し,監査請求の同一性と出訴期間経過の有無

【被告の主張】

第2次監査請求A・Bと第3次監査請求は同一の監査請求であり,出訴期間の起算点は,第2次監査請求A・Bを基準とすべきところ,第2事件の相手方をBとする請求に係る訴えは,平成20年3月27日に提起されており,同訴えは,出訴期間(平成20年1月4日から30日)を経過した不適法なものである。

【第2事件原告らの主張】

第2次監査請求A・Bと第3次監査請求とは,異なる点を問題としており,Bを新たに相手方としている点で,別個の監査請求であり,出訴期間の起算点は,第3次監査請求を基準とすべきであって,Bを相手方とする請求に係る訴えは,出訴期間を経過していない。

(3)  本案前の争点③(第2事件の訴えのうち,B及びAに対し2000万円の支払を請求するよう求める部分は,別訴の禁止に該当するか)について

【被告の主張】

第2事件のうち,B及びAに対し2000万円の支払を請求するよう求める部分は,本件委託契約に基づく2000万円の支出という第1事件の対象と同一の公金支出を対象とするものであり,地方自治法242条の2第4項に反し,却下されるべきである。

【第2事件原告らの主張】

争う。

(4)  本案の争点について

ア 第1事件関係

(ア) 2000万円の賠償命令に係る請求について

a 本案の争点①(本件委託契約締結の違法性の有無)について

【第1事件原告らの主張】

以下のとおり,Aによる本件委託契約の締結は違法である。

(a) 違法な本件事業を前提とする違法

本件委託契約は,本件事業の実施を前提とするものであるところ,本件事業は,以下の点で総体として違法なものであり,本件事業を実施するためにする本件委託契約の締結も当然に違法である。

① 地方公共団体が公費で運営する公立学校は,公の性質を有するものであるところ,本件事業は,特定の企業の宣伝をするものであり,公教育の「公共性・公平性・中立性」に反し,旧教育基本法6条に反する。

② 地教行法23条6号,33条2項は,教育委員会が教科書その他の教材を作成使用させることを禁じていると解すべきところ,本件事業においては,教育委員会が委託してHが作成した教科書以外の教材を使用させており,地教行法23条6号,33条2項に反する。

③ 本件事業は,民間団体たるHや21世紀委員会のFが,教育内容に過度に介入するものであり,旧教育基本法10条に定める「不当な支配」に該当する上,教育内容の大枠を決めてしまっている点で,憲法23条の教授の自由を侵害する。

(b) 本件委託契約の締結における財務会計法規違反

以下のとおり,Aによる本件委託契約の締結は,各種の財務会計法規に違反する。

① 本件委託契約は,地方自治法施行令167条の2第1項2号に基づき,随意契約により行われているが,同条項2号の「競争入札に適しない」という要件が検討されずに締結されたものであり,同条項2号に反する。

② 本来,委託契約に添付されるべき仕様書は,契約当事者間で解釈に差異が生じないように明確かつ詳細なものでなければならず,また,業者が見積書を作成するのに十分な程度に具体的なものでなければならないところ,本件委託契約に添付された仕様書は,極めて大まかなものにすぎず,どのような事業を委託するのかという詳細が全く示されていない。

③ 随意契約ガイドラインの「運用上の注意等」1項は,詳細な見積書を提出させること,価格交渉を行った場合の交渉記録の添付等を求めているところ,本件委託契約においては,詳細な見積書の提出はなく,価格交渉を行った記録も残されていないから,同ガイドラインに反する。

④ 本件委託契約の委託料2000万円は,Fからの3000万円の寄附を受けて,契約内容を精査することなく決定された。

⑤ 本件委託契約は,契約保証金,履行遅滞その他義務の不履行の場合における遅延利息,違約金その他の損害金,危険負担,瑕疵担保責任,第三者との紛争の解決の方法に係る定めを欠き,契約事務規則35条1項本文に反する。

⑥ 本件委託契約の締結に当たって,Hに契約保証金を納めさせていないから,同契約は,地方自治法施行令167条の16第1項に反する。

⑦ 地方自治法232条の4第2項は,当該支出負担行為に係る債務が確定していることを確認した上でなければ支出できないとし,前金払はその原則に対する例外的な支払方法であるところ,公共工事の前金払について定める地方自治法施行規則附則3条1項,契約事務規則43条1項は,いずれも全額の前金払を許容しておらず,本件委託契約の委託料の全額前金払の定めは,前金払が許容される場合について規定する地方自治法232条の5第2項,地方自治法施行令163条2号の場合に該当せず,違法である。

【被告の主張】

以下のとおり,Aによる本件委託契約の締結は違法ではない。

(a) 本件事業の違法性が本件委託契約の締結を違法にするものではないこと

本件事業は,財務会計上の財産管理行為ではなく,教育行政上の見地からする事業であるから,本件事業の違法性は,本件委託契約の締結という財務会計行為を違法にするものではない。

(b) 本件事業に違法性は認められないこと

本件事業の違法性に係る主張は否認ないし争う。以下のとおり,本件事業に第1事件原告ら主張に係る違法性は認められない。

① 本件事業は,子どもたちの望ましい勤労観や職業観を育むため,「生き方探究教育」(キャリア教育)の充実を目指すという教育的な目的を有する事業であり,特定の企業の宣伝や広告を目的とするものではない。

② 地教行法23条6号によれば,教育委員会は,教科書や教材の取捨選択について指揮監督権を有し,同法33条2項は,補助教材を使用する場合に教育委員会の承認を受けなければならないとしているにすぎないから,教育委員会が作成した資料を教材として使用することは上記各規定に反するものではない。

③ 本件事業は,Hからの提案を踏まえ,これまで京都市において実践してきた「生き方探究教育」(キャリア教育)をさらに一歩進める有意義な事業であると判断されたため実施された事業であり,Hによる過度の介入はない。また,21世紀委員会は,教育委員会職員や各界の者が一体となって新しい教育コンテンツについて考える場であり,財界による教育への不当な介入を行うものではない。さらに,普通教育における教員には完全な教授の自由が認められないこと,本件事業の指導者マニュアルも教員の参考となる指導用資料にすぎないこと,教員らは自らの裁量で独自の教材を作成,使用していることなどから,本件事業は,憲法23条の教授の自由も侵害しない。

(c) 本件委託契約の締結に財務会計法規違反は認められないこと

以下のとおり,Aによる本件委託契約の締結に財務会計法規違反は認められない。

① 本件委託契約締結当時,本件事業と同種の他の事業は存在せず,競争性が全くなかったためにHと契約締結したものであり,「競争入札に適しない」場合に当たるから,本件委託契約の締結は,地方自治法施行令167条の2第1項2号に反しない。

② 京都市とHとの間には,本件委託契約に関し,仕様書に記載されていないが契約内容として共通の理解を有している事項があり,本件委託契約の具体的な内容は,双方にとって明確であったから,仕様書に具体的な内容を詳細に記載する必要はなかった。

③ 一般的に委託契約は,委託の対象となる成果を遅滞なく確実に実現することを目的としており,実施に際しては,委託時の見積りに拘束されるものではなく,委託目的の範囲内で,受託業者が一定の裁量を有し,状況に応じて柔軟に対応すべき性質のものであるから,詳細な見積書の提出がなくとも随意契約ガイドラインの趣旨には反しない。

④ 本件委託契約の委託料は,東京都品川区におけるスチューデントシティ事業及びファイナンスパーク事業を参考に経費削減のための事前協議を経て定まったものであり,その決定過程に問題はない。

⑤ 契約事務規則35条1項に適合しないことにより,直ちに契約の効力に影響が及ぶという性質のものではなく,本件委託契約の締結が違法とまではいえない。

⑥ Hは,本件委託契約以前にスチューデントシティやファイナンスパークを運営している実績があり,受託業務を履行する能力は極めて高く,倒産により受託業務が履行不能となることもないから,契約保証金の免除は地方自治法施行令167条の16第1項の趣旨に反しない上,本件委託契約の契約金額は「少額」であり,「契約の相手方が契約を履行しないと認められることとなるおそれがない場合」に当たるから,契約事務規則30条6号により,契約保証金を免除することができる。

⑦ 受託者であるHは企業からの協賛により成り立っている非営利組織であり,固有の財源を有していないため,委託料を前金で支払わなければ事業を進めることができないことにより前金払としたものであり,地方自治法232条の5第2項,地方自治法施行令163条2号の前金払が許容される場合に該当する。

b 本案の争点②(Aの2000万円の支出負担行為固有の違法性の有無)について

【第1事件原告らの主張】

Aによる平成18年10月10日付けの2000万円の支出負担行為は,以下の点で,違法である。

(a) 実際の決定が平成19年1月にされたにも関わらず,決定日及び決済日について平成18年10月10日という虚偽の内容が記載されている(刑法156条参照)。

(b) 決裁権者による決定がされた決定書について,その後担当者限りで加筆修正がされている(刑法155条参照)。

【被告の主張】

そもそも,2000万円の委託料の支出負担行為は,本件委託契約の締結であり,これと別に支出負担行為を論ずる意味はない。

そして,支出負担行為書には,支出負担行為たる本件委託契約の締結日が記載されており,虚偽の記載はない。

c 本案の争点③(Aの故意又は重過失の有無)について

【第1事件原告らの主張】

Aは,本件委託契約の締結に,上記の違法性が存することからこれを是正する義務があり,かつそれが極めて容易であったにもかかわらず,これを怠ったから,少なくとも重過失がある。

【被告の主張】

否認ないし争う。

d 本案の争点④(損害の有無)について

【第1事件原告らの主張】

本件委託契約が違法であれば,同契約による債務の履行を受けること及びその対価を支出することは許されないから,本件委託契約に基づき支出された2000万円が京都市の損害に当たる。

【被告の主張】

Hは,本件委託契約による委託内容を契約の本旨に従って処理しているから,京都市は,同契約による損害を受けていない。

(イ) 200万円の賠償命令に係る請求について

a 本案の争点⑤(本件著作権契約締結の違法性の有無)について

【第1事件原告らの主張】

以下のとおり,Aによる本件著作権契約の締結は違法である。

(a) 本件著作権契約においては,著作権の使用料がなぜ200万円となるのかの根拠が全く示されていない。

(b) 本件委託契約には,著作権使用に関する合意も含まれているにもかかわらず,著作権使用に関し別途使用料を支払うのは二重払いである。

(c) 教材やプログラムは無償であったはずであり,著作権使用料は発生していないにもかかわらず,使用料が支払われた。

【被告の主張】

以下のとおり,本件著作権契約の締結は違法ではない。

(a) 本件著作権契約における著作権使用料は,1学習プログラムにつき100万円として決定されたものであるところ,著作権を利用する価値は,著作権者の意向によるところが大きく,客観的な経済的価値により一律に決まるものでない上,詳細な項目を立ててその積算により算出する性質のものではないから,上記の著作権使用料の定め方に根拠がないとはいえない。

(b) 本件委託契約に著作権使用に関する定めはなく,委託料に著作権使用料が含まれないことは明らかであり,著作権使用料の支払は二重払いに当たらない。

(c) 教材が有償でも当然に購入したものの著作権を自由に利用できるわけではないから,別途著作権使用料を支払うことは二重払いに当たらない。

b 本案の争点⑥(Aの200万円の支出負担行為固有の違法性の有無)について

【第1事件原告らの主張】

Aによる平成19年3月16日付けの200万円の支出負担行為は,その決定文書の起案日が実際には平成19年4月25日であるにもかかわらず,決定日を同年3月16日とする虚偽の記載がされており,違法である(刑法156条参照)上,会計年度独立の原則(地方自治法208条)にも反する。

【被告の主張】

そもそも,200万円の著作権使用料の支出負担行為は,本件覚書(本件著作権契約)の締結であり,これと別に支出負担行為を論ずる意味はない。

そして,支出負担行為書には,起案日として,支出負担行為たる本件著作権契約の締結日が記載されており,虚偽の記載はなく,会計年度独立の原則に反するものでもない。

c 本案の争点⑦(Aの故意又は重過失の有無)について

【第1事件原告らの主張】

Aは,本件著作権契約の締結に,上記の違法性が存することからこれを是正する義務があり,かつそれが極めて容易であったにもかかわらず,これを怠ったから,少なくとも重過失がある。

【被告の主張】

否認ないし争う。

d 本案の争点⑧(損害の有無)について

【第1事件原告らの主張】

本件著作権契約が違法であれば,同契約による債務の履行を受けること及びその対価を支出することは許されないから,本件著作権契約に基づき支出された200万円が京都市の損害に当たる。

【被告の主張】

京都市は,本件著作権契約に係る学習プログラムを使用することにより,本件事業を実施することができたから,同契約による損害を受けていない。

イ 第2事件関係

(ア) Aに対する損害賠償請求に係る請求について

a 本案の争点⑨(Aによる違法な怠る事実の有無)について

【第2事件原告らの主張】

以下のとおり,Aが,本件事業終了後,本件委託契約につき,Hの契約違反(債務不履行)があったことを認識しながら,本件委託契約に基づく委託料の返還等の請求権の行使を怠ったことは違法である。

(a) 本件委託契約におけるHの契約違反(債務不履行)の事実(委託料返還等の請求権の存在)

Hには,本件委託契約に関して,次の契約違反があった。

① 本件委託契約6条では,本件事業終了後速やかに事業報告書及び決算報告書を提出することが定められていたにもかかわらず,Hは,本件事業終了後4か月間上記報告書を提出せず,提出された報告書も,事業報告及び決算報告を合わせても2頁しかなく,教材作成費の単価が見積りと大きく異なるなど,その内容は杜撰なものであった。さらに,Hが平成19年12月10日に提出した修正報告書も,「指導者マニュアル」の作成部数が同年7月31日の決算報告書の部数の半数以下に変更されているなど,不合理なものであった。

したがって,Hは本件委託契約6条に違反した。

② 本件委託契約においては,「協賛企業が設置する出店ブースの配置その他の施設の総合デザイン」「協賛企業が設置する出店ブース整備の総合調整」をHが行うことになっていたが,当該業務を実際に行ったのは教育委員会であった。

(b) Aが,総務部長在職中に,Hに対する委託料の返還等の請求権を行使すべき義務を負っていたこと

Aは,平成19年11月ころ,上記(a)①の契約違反の事実を認識したから,それを認識したときから総務部長の職を離れるまでの間に,Hに対する委託料の返還等の請求権を行使すべき義務を負っていた。

(c) 委託料の返還等の請求権の不行使

Aは,上記(a)及び(b)のとおり,総務部長に在職中,Hに対する本件委託契約の委託料の返還等の請求権を行使すべき義務を負っているにもかかわらず,これを怠った。

【被告の主張】

以下のとおり,Aによる,第2事件原告らの主張に係る違法な怠る事実は存在しない。

(a) 本件委託契約におけるHの契約違反(債務不履行)の事実はないこと(返還等の請求権の不存在)

Hには,次のとおり,本件委託契約に関し,委託料の返還を求めるべき契約違反はなかった。

① 報告書の提出は,本件委託契約の契約事項の一部であり,第2事件原告らが主張する報告書の提出の遅れ及び決算報告書の修正があったことは認めるが,報告書の提出は本件委託契約における付随的な義務にすぎず,その内容及び提出時期によりHに契約違反があったということはできず,委託料の返還等の請求権が生じるものでもない。

② 本件委託契約における「協賛企業が設置する出店ブースの配置その他の施設の総合デザイン」の具体的な内容は,file_2.jpg京都市で検討するブースの割振り,配置等に対して,プログラムの特性,出店業種,出店企業数などの視点から修正を加え,もっとも合理的なデザインを提示すること及びfile_3.jpgファイナンスパークについて,協賛企業数の確定を待ち,所用のブース数を確保できるよう普通教室のサイズのスペースを2ないし3に分割する間仕切りを設けること,「協賛企業が設置する出店ブース整備の総合調整」の具体的内容は,file_4.jpg協賛企業のブースの整備に当たり,必要に応じて各ブースが有するべき機能について説明を行うこと及びfile_5.jpg品川区においてHが運営するスチューデントシティ・ファイナンスパークの事例について希望する協賛企業の視察を受け入れ,説明を行うことであり,Hはそれらを行っており,契約違反はない。

(b) 返還等の請求権を行使すべき義務の不存在

仮に,Hに対する委託料の返還等の請求権を生じさせる契約違反があったとしても,本件事業が円滑に実施されていたため,Aは本件委託契約に契約違反があったことを認識し得なかった(なお,第2事件原告らの主張(a)①の事実は委託料返還等の請求権を生じさせる契約違反に当たらないから,その認識を論ずることに意味はない。)から,委託料の返還等の請求権を行使する義務を負っていたとはいえない。

b 本案の争点⑩(Aの故意又は過失の有無)について

【第2事件原告らの主張】

上記のとおり,Aは,遅くとも平成19年11月ころには,Hに対する本件委託契約に基づく委託料の返還等の請求権の存在を認識したにもかかわらず,その行使を怠っていたから,少なくとも過失が認められる。

【被告の主張】

否認ないし争う。第2事件原告らの主張はその前提において理由がない。

c 本案の争点⑪(損害の有無)について

【第2事件原告らの主張】

Aが,総務部長在職中に,本件委託契約に基づくHに対する委託料返還等の請求権の行使を違法に怠ったことにより,京都市に委託料相当額である2000万円の損害が生じた。

【被告の主張】

仮に,京都市のHに対する委託料返還等の請求権が発生し,その不行使が違法であるとしても,上記請求権は,発生していれば現在でも行使できる権利であり,上記不行使により京都市に損害は生じていない。

(イ) Cに対する賠償命令に係る請求について

a 本案の争点⑫(本件再委託契約締結の違法性の有無)について

【第2事件原告らの主張】

以下のとおり,Cによる本件再委託契約の締結は違法である。

(a) 本件再委託契約は,前年度の本件委託契約のプログラム修正を含む内容となっていたところ,本来プログラムの修正は,受託者であるHの責任において行われるべきであり,これに公金を支出することは許されない上,本件再委託契約は,本件委託契約の業務報告書が提出されていない段階で締結されており,プログラムの修正の要否すら検討されずに締結されたものであって,違法である。

(b) 本来,委託契約に添付されるべき仕様書は,契約当事者間で解釈に差異が生じないように明確かつ詳細なものでなければならず,また,業者が見積書を作成するのに十分な程度に具体的なものでなければならないところ,本件再委託契約に添付された仕様書は,極めて大まかなものにすぎず,どのような事業を委託するのかという詳細が全く示されていない。

(c) 本件再委託契約締結に際しては,およそ見積書とは呼べない杜撰な見積書しか提出されておらず,随意契約ガイドラインの「運用上の注意等」1項に反する。

(d) 本件再委託契約は,契約保証金,履行遅滞その他義務の不履行の場合における遅延利息,違約金その他の損害金,危険負担,瑕疵担保責任,第三者との紛争の解決の方法に係る定めを欠いており,契約事務規則35条1項本文に反する。

(e) 本件再委託契約に際し,Hは契約保証金を納めておらず,地方自治法施行令167条の16第1項に反する。

(f) 公共工事の前金払について定める地方自治法施行規則附則3条1項,契約事務規則43条1項は,いずれも全額の前金払を許容しておらず,本件再委託契約の委託料の全額前金払の定めは,前金払が許容される場合について規定する地方自治法232条の5第2項,地方自治法施行令163条2号の場合に該当せず,債務確定後の支出を定める地方自治法232条の4第2項に反する。

(g) 本件再委託契約の委託料500万円は,Fからの3000万円の寄附を受けて,契約内容を精査することなく決定された。

【被告の主張】

以下のとおり,本件再委託契約の締結に違法性はない。

(a) 本件再委託契約に含まれている学習プログラムの修正は,本件委託契約のモデル実施に伴い明らかになった課題を修正するものであり,京都市とHが協力して修正していくことを本件委託契約締結時に合意しており,Hのみの責任で行うものではない。また,上記プログラムの修正は,平成19年3月10日までに実施した結果を踏まえて行われたものであり,平成18年度の事業報告書の提出前とはいえ,平成18年度の成果を踏まえたものであり,適正さを欠くものではない。

(b) 本件再委託契約は,本件委託契約の実績から,詳細に明示しなくともHにおいて契約内容を把握できることに加え,プログラムに関し,本件委託契約の実施を踏まえ,どの程度の修正を要するか等の委託内容に関わる事項を契約締結時に明記することが困難であったため,事業実施に必要な事項については随時協議調整することとしていたものであり,また,京都市とHは,本件再委託契約における一定の事項については口頭でも確認しており,仕様書の記載が契約内容の把握に支障を来すものではなかった。

(c) 本件再委託契約は,本件委託契約の実績から詳細な見積りがなくとも内容を把握できることに加え,事業のプログラムに関しどの程度の修正が必要となるかは契約締結時に明記することが困難であったため,受託業者との間で,事業の実施のため必要な事項については,随時協議調整を行うこととしたものであり,見積書がある程度包括的なものであっても随意契約ガイドラインの趣旨には反しない。

(d) 本件再委託契約に契約事務規則35条1項本文所定の事項が記載されなかったのは,本件事業が,教育委員会とHとの間で随時協議を行いながら進めていくものであり,Hの債務不履行は想定しにくいから,「契約の性質又は目的により該当のない事項」(同項ただし書)として記載しなかったものである。また,契約事務規則35条1項に適合しないことにより,直ちに契約の効力に影響が及ぶという性質のものではなく,本件再委託契約の締結が違法とまではいえない。

(e) Hは,本件再委託契約以前にスチューデントシティやファイナンスパークを運営し,当初の本件委託契約の実績もあり,受託業務を履行する能力は極めて高く,倒産により受託業務が履行不能となることもないから,契約保証金の免除は地方自治法施行令167条の16第1項の趣旨に反しない上,本件再委託契約の契約金額は「少額」であり,「契約の相手方が契約を履行しないと認められることとなるおそれがない場合」に当たるから,契約事務規則30条6号により,契約保証金を免除することができる。また,契約保証金を徴収しないことが地方自治法施行令167条の16第1項に違反するとしても,直ちに契約の効力に影響が及ぶという性質のものではなく,本件再委託契約の締結が違法とまではいえない。

(f) 受託者であるHは企業からの協賛により成り立っている非営利組織であり,固有の財源を有していないため,委託料を前金で支払わなければ事業を進めることができないことにより前金払としたものであり,地方自治法232条の5第2項,地方自治法施行令163条2号の前金払が許容される場合に該当する。

b 本案の争点⑬(Cの故意又は重過失の有無)について

【第2事件原告らの主張】

Cは,本件再委託契約の締結に,上記の違法性が存することからこれを是正する義務があり,かつそれが極めて容易であったにもかかわらず,これを怠ったから,少なくとも重過失がある。

【被告の主張】

否認ないし争う。

c 本案の争点⑭(損害の有無)について

【第2事件原告らの主張】

本件再委託契約が違法であれば,同契約による債務の履行を受けること及びその対価を支出することは許されないから,本件再委託契約に基づき支出された500万円が京都市の損害に当たる。

【被告の主張】

否認ないし争う。

(ウ) Bに対する損害賠償請求に係る請求について

a 本案の争点⑮(Bによる不法行為の有無)について

【第2事件原告らの主張】

Bは,以下のとおり,京都市に対する不法行為を行った。

(a) 違法な本件事業を主導したこと

上記ア(ア)a(a)【第1事件原告らの主張】のとおり,本件事業は,旧教育基本法6条,10条,地教行法23条,33条に反する違法な事業であるところ,Bは,本件事業を実施することを決定したり,本件事業の実施に係る合意書を作成することを通じて,違法な本件事業を主導した。

(b) A及びCの違法な専決処分を看過したこと

地教行法17条1項,20条1項,教育長等専決規程2条,4条の各規定に加え,京都市の「専決規定の運用について」と題する内部指針が「専決者の上司は,専決者による専決処理の状況について常に注意を払い,事務処理の厳正な進行管理に努めること」と規定していることからすれば,Bは,専決者による専決処理の状況について常に注意を払い,事務処理の厳正な管理に努めるべき義務があったというべきところ,その義務を怠り,上記ア(ア)aのAの違法な専決処分及び上記(イ)のCの違法な専決処分を看過した。

(c) 本件委託契約の委託料の返還等の請求権を行使させるべき義務を懈怠したこと

Bは,上記(b)のとおり,専決者の事務処理を厳正に管理すべき義務があったところ,平成19年11月22日の時点で,本件委託契約に契約違反があることを把握したから,専決者に対し,Hに対する委託金返還等の請求権を行使させる義務を負っていたが,その義務を怠った。

【被告の主張】

以下のとおり,Bの京都市に対する不法行為は存在しない。

(a) 上記ア(ア)a【被告の主張】のとおり,本件事業に違法性は認められないから,本件事業を実施することを決定したり,本件事業の実施に係る合意書を作成することも違法ではない。

(b) 第2事件原告らが主張する本件事業の違法性を理由に,京都市の権利又は法的地位が侵害されるものではないから,Bの不法行為が成立するものではない。

(c) 上記ア(ア)a及び上記(イ)aの【被告の主張】のとおり,A及びCの専決処分は違法とはいえないから,これを前提とする第2事件原告らの主張は失当である。

(d) 上記(ア)aの【被告の主張】のとおり,Aに,Hの契約違反を前提とする違法な怠る事実は認められないから,これを前提とする第2事件原告らの主張は失当である。

b 本案の争点⑯(Bの故意又は過失の有無)について

【第2事件原告らの主張】

Bには,上記aの違法行為により京都市に対し後記cの損害を与えたことにつき,少なくとも過失がある。

【被告の主張】

否認ないし争う。

c 本案の争点⑰(損害の有無)について

【第2事件原告らの主張】

上記aのBの各行為により,京都市に本件委託契約の委託料2000万円及び本件再委託契約の委託料500万円の合計2500万円相当の損害が生じた。

【被告の主張】

否認ないし争う。

d 本案の争点⑱(Bに対する損害賠償請求権の行使を怠る事実の違法)について

【第2事件原告らの主張】

上記のとおり,京都市はBに対し,不法行為に基づく損害賠償請求権を有しているにもかかわらず,これを行使しておらず,被告がその行使を怠っているのは違法である。

【被告の主張】

争う。

第3当裁判所の判断

1  本案前の争点①(第1事件の請求の趣旨の変更による出訴期間経過の有無)について

(1)  第1事件の請求の趣旨の変更(上記第2の2(5)ア(イ))は,訴えの交換的変更に当たるか。

ア 地方自治法242条の2第1項4号本文に基づき「当該職員」に対する損害賠償の請求を求める訴えと,同号ただし書及び243条の2第3項に基づき同条の2第1項に規定する職員に対する賠償命令を求める訴えとは,その請求の内容を異にし,訴訟物を異にするというべきであり,前者から後者へその請求を変更することは,訴えの交換的変更に該当するというべきである。

第1事件原告らは,上記第2の2(5)ア(イ)のとおり,第1事件における請求の趣旨を,同法242条の2第1項4号本文に基づきAに対する損害賠償の請求を求めるものから同号ただし書及び243条の2第3項に基づきAに対する賠償命令を求めるものへ変更したから,同変更は,訴えの交換的変更に該当する。

イ 第1事件原告らは,上記変更前後の請求は,いずれも違法是正請求権の一環としての損害賠償請求権を訴訟物とするものである旨主張するが,両者は,上記のとおり請求の内容も根拠規定も異にするほか,その後の手続も,前者にあっては,普通地方公共団体の長が,当該判決確定後60日以内の日を期限として,当該請求に係る損害賠償金を請求し,その支払がないときは,当該普通地方公共団体はその支払を求める訴訟を提起しなければならないとされているのに対し(同法242条の3第1項,2項),後者にあっては,普通地方公共団体の長が,当該判決確定後60日以内の日を期限として,賠償命令をしなければならないとされている(同法243条の2第4項)から,両者の訴訟物を同一とみることはできず,上記主張は採用できない。

(2)  出訴期間遵守の有無

ア 訴えの交換的変更は,変更後の新請求に関する限り,新たな訴えの提起にほかならないから,変更後の訴えに関する出訴期間(監査結果通知から30日以内,地方自治法242条の2第2項1号)が遵守されているか否かは,両者の間に存する関係から,変更後の新請求に係る訴えを当初の訴え提起の時に提起されたものと同視し,出訴期間の遵守に欠けるところがないと解すべき特段の事情がある場合を除き,訴えの変更の時を基準として,これを決しなければならないと解される。

イ そこで,本件において上記の特段の事情があるか検討すると,第1事件の請求に係る訴えは,上記訴えの交換的変更の前後を通じ,本件委託契約及び同契約に基づく支出負担行為書による委託料の支払並びに本件覚書及び同覚書に基づく支出負担行為書による著作権使用料の支払が違法な公金支出であり,上記各行為を専決によって行ったAの責任を追及するというものであって,請求の内容こそ変更されているが,請求の前提,基礎となる事実関係及び問題とする財務会計行為のいずれにおいても変更はないのであるから,本件においては上記特段の事情があったといえる。

そうすると,上記訴えの交換的変更後の新請求は,当初の訴え提起の時に提起されたものと同視すべきであり,出訴期間を遵守した適法なものというべきである。

2  本案前の争点②(第2事件の出訴期間経過の有無)について

(1)  Aを相手方とする請求に係る訴えについて

ア 監査請求の範囲と出訴期間経過の有無について

(ア) 監査請求の同一性の検討を要する原告

a 地方自治法242条の2第2項は,住民訴訟の出訴期間について定めるところ,同出訴期間は,監査請求をした住民ごとに個別に定められているものと解するのが相当であり,各住民がした監査請求及びこれに対する監査結果の通知があった日等を基準として計算すべきと解される。

上記第2の2(4)ウのとおり,第2事件原告らのうち,第2次監査請求Aを行ったのは,原告Ⅰ,同Ⅱ,同Ⅲ,同Ⅴ,同Ⅵ及び同Ⅶのみであるから,同監査請求及びこれに対する監査結果の通知があった日を基準として出訴期間を計算すべきか否かは,同原告らについてのみ検討すれば足りることとなる(その余の第2事件原告らについては,この点で訴えが不適法となることはないと解される。)。

b 被告は,第3次監査請求は,原告Ⅷ,同Ⅸ,同Ⅹ及び同ⅩⅠが,同一住民が再度の監査請求をすることができないという原則を潜脱するために請求人に名を連ねたにすぎず,第2次監査請求A・Bと第3次監査請求は同一人による監査請求というべきである旨主張するが,地方自治法上,普通地方公共団体の各住民が住民監査請求することを制限する旨の定めはなく,各住民は,他の住民が提起した住民訴訟や他の住民が行った住民監査請求の対象と同一の財務会計上の行為又は怠る事実を対象とする監査請求を行うことも許されると解されるから,被告の上記主張は採用できない。

(イ) 監査請求の範囲について

地方自治法242条1項の規定による住民監査請求に関し,監査委員は,ある行為・事実について複数の主体がある場合には,いずれの者の責任を問題とするかを含めて,住民監査請求の範囲に限定されず,適切と考えるところに従って,勧告すべき是正措置の内容(同条4項)を選択することができ,また,監査委員は,請求者が主張しない違法,不当の事由についても監査することができるから,結局,監査請求の範囲は,請求の対象とされている財務会計上の行為又は怠る事実により決せられ,当該財務会計上の行為又は怠る事実については,社会経済的な行為又は事実を基礎に,住民が何を監査の対象として監査委員に措置請求をしているものとみるかという観点から,制度の趣旨,目的に適合するように判断すべきものと解される。

(ウ) 第2次監査請求Aの範囲について

a 前提事実に加え,掲記の証拠によれば,次の事実を認めることができる。

(a) 原告Ⅰ,同Ⅱ,同Ⅲ,同Ⅴ,同Ⅵ及び同Ⅶは,平成19年11月8日,京都市監査委員に対し,「京都市職員措置請求書」と題する書面を提出し,同書面には,本件委託契約に伴う2000万円の公金支出に関し,①事業報告書及び決算報告書の提出の遅滞により同契約6条に違反する,②遅れて提出された事業報告書及び決算報告書の内容も同条の定めを満たすものではなくこの点でも同条に違反する,③本件委託契約において,単価増額及び発送・仕訳・バインダ等の費用計上に伴う増額として,見積時から175万7610円が増額されているが,見積りに基づき契約が締結されている以上,大幅な単価の増額は許されない,等の違法・不当があり,Aは,本件委託契約の対象事業が適切に行われているか否かを検査・確認する責任があったにもかかわらず,上記違法・不当な公金支出を見逃したから,Aに対し,175万7610円の損害賠償金を支払うことの勧告を求める旨の記載がある(第2次監査請求A。甲33の1・2)。

(b) 京都市監査委員は,平成19年12月28日付けで,第2次監査請求Aについて,専ら本件委託契約の履行確認の方法,内容等を問題とする違法不当事由が主張されていること,並びに同契約の委託料が前払金によって支出されていること及び前払金に係る経費については事後的に生じた債務不履行等の事由によって精算を要する場合があることを考慮し,同監査請求に係る請求書及び事実証明書の記載の全趣旨から,同監査請求について,本件委託契約に係る履行確認に基づく前払金の精算(返還請求)を怠る事実を対象としているものと解し,これについて監査を実施した上,同監査請求を棄却する旨の通知をした(甲16,弁論の全趣旨)。

b 監査請求の範囲については,上記(イ)の観点から,制度の趣旨,目的に適合するように対象となる財務会計上の行為又は怠る事実を把握し,これにより決すべきところ,上記a(a)のとおり,主たる違法不当事由として本件委託契約6条違反の事実が主張されており,本件委託契約の委託料2000万円が前払いされていることなどからすれば,第2次監査請求Aは,Aの,本件委託契約の委託金として既に支払った前払金の返還請求権の行使を怠る事実をその対象とするものと認められ(上記a(b)のとおり,京都市監査委員も同様の理解の下に監査を行っている。),これにより同監査請求の範囲が画されているというべきである。

(エ) 出訴期間の経過の有無

上記(ウ)bのとおり,原告Ⅰ,同Ⅱ,同Ⅲ,同Ⅴ,同Ⅵ及び同Ⅶが行った第2次監査請求Aは,Aの,本件委託契約の委託金として既に支払った前払金の返還請求権の行使を怠る事実をその対象とし,上記(ウ)a(b)のとおり,京都市監査委員は,平成19年12月28日付けで,これに対する監査結果を通知し,同通知は,遅くとも平成20年1月4日には上記各原告らに到達したものと認められる(弁論の全趣旨)。そして,地方自治法242条の2第2項1号の出訴期間は,同日の翌日である同月5日から起算すべきところ,上記各原告らが,Aの,本件委託契約の前払金の返還請求権の行使を怠る事実が違法であるとして同人に対する損害賠償請求を求める第2事件の訴えを提起したのは,同日から30日を経過した後の日である同年3月27日であるから,上記原告らの,第2事件の訴えのうち,Aに対する2000万円の損害賠償請求を求める部分は出訴期間を経過した不適法な訴えといわざるを得ない。

(オ) 第2事件原告らの主張について

第2事件原告らは,①先行する監査請求の時点で明らかになっていなかった事実がその後判明した場合に,同事実を新たに加えて監査請求をすることが許されないと,同事実を前提とした公金支出の違法性を争うことができなくなるという不都合な結果を招来するから,同事実を新たに前提として監査請求することが許されるとした上,②第3次監査請求は,第2次監査請求Aと一部重複する部分はあるものの,措置請求の内容及び相手方が追加されており,かつ,追加されている部分は,第2次監査請求Aを行った時点では発生していない事実であるから,これを追加した第3次監査請求と第2次監査請求Aを同一の監査請求と評価することはできない旨主張する。

しかしながら,地方自治法242条の2第1項は,住民訴訟は監査請求の対象とした違法な行為又は怠る事実についてこれを提起すべきものとされているのであって,当該行為又は怠る事実について監査請求を経た以上,訴訟において監査請求の理由として主張した事由以外の違法事由を主張することは何ら禁止されていないものと解され,主張する違法事由が異なるごとに監査請求を別個のものとしてこれを繰り返すことを認める必要も実益もないといわざるを得ないから,上記①の主張は採用できない。

また,上記(イ)のとおり,監査請求に関し,監査委員は,ある行為・事実について複数の主体がある場合には,いずれの者の責任を問題とするかを含めて,監査請求の範囲に限定されず,適切と考えるところに従って,勧告すべき是正措置の内容を選択することができるから,措置請求の内容及び相手方が追加されていることは,監査請求の範囲を画する基準とはならず,上記②の主張も採用できない。

イ 訴えの変更による出訴期間経過の有無について

(ア) 第2事件の相手方をAとする請求の趣旨の変更(上記第2の2(5)イ)は訴えの交換的変更に当たるか。

上記1(1)のとおり,地方自治法242条の2第1項4号本文に基づき「当該職員」に対する損害賠償の請求を求める訴えと,同号ただし書及び243条の2第3項に基づき同条の2第1項に規定する職員に対する賠償命令を求める訴えとは,その訴訟物を異にし,前者から後者へ,又は後者から前者へその請求を変更することは,訴えの交換的変更に該当する。

第2事件原告らは,上記第2の2(5)イのとおり,第2事件における相手方Aに係る請求の趣旨を,同法242条の2第1項4号本文に基づきAに対する損害賠償の請求を求めるものから同号ただし書及び243条の2第3項に基づきAに対する賠償命令を求めるものへ変更し,さらに同法242条の2第1項4号本文に基づきAに対する損害賠償の請求を求めるものへ変更したから,上記各変更は,訴えの交換的変更に該当する。

(イ) 出訴期間遵守の有無

そこで,各請求の間に存する関係から,変更後の新請求に係る訴えを当初の訴え提起の時に提起されたものと同視し,出訴期間の遵守に欠けるところがないと解すべき特段の事情があるか検討すると,第2事件の相手方をAとする請求に係る訴えは,当初の訴え及び再度の変更後の訴えがいずれもAに対する損害賠償の請求を求める訴えである上,上記各訴えの交換的変更の前後を通じ,本件委託契約締結後のHに対する前払金の返還等の請求権の行使を怠っていることが違法であり(なお,Aに対する賠償命令を求める訴えにおいて上記以外の財務会計行為の違法も主張されているが,後記(ウ)bのとおり,これにより上記怠る事実の違法の主張が撤回されたものとは解されない。),同返還等の請求の専決権を有していたAの責任を追及するというものであって,請求の内容が一時的に変更されているが,請求の前提,基礎となる事実関係及び問題とする財務会計行為のいずれにおいても変更はないのであるから,本件においては上記特段の事情があったといえる。

そうすると,上記各訴えの交換的変更後の新請求は,当初の訴え提起の時に提起されたものと同視すべきであり,出訴期間を遵守した適法なものというべきである。

(ウ) 被告の主張について

a 被告は,上記各訴えの交換的変更は,その過程において,地方自治法243条の2第1項各号に該当しない前払金の返還等の請求権の不行使を賠償命令の対象とする不適法な訴えへの変更を介在させているものであり,変更後の新請求に係る訴えを当初の訴え提起の時に提起されたものと同視し,出訴期間の遵守に欠けるところがないと解すべき特段の事情はない旨主張する。

しかしながら,仮に,前払金の返還等の請求権の不行使が同条項各号に該当せず,途中に介在する賠償命令を求める訴えが不適法であるとしても,そのことのみをもって上記特段の事情がないと解すべきではなく,上記特段の事情の有無は,上記各訴えの交換的変更に係る各請求間に存する関係から判断されるべきところ,本件においては,上記(イ)のとおり,当初の訴え及び再度の変更後の訴えはいずれもAに対する損害賠償請求を求めるものであり,上記訴えの交換的変更の前後を通じ,本件委託契約締結後のHに対する前払金の返還等の請求権の行使を怠っていることが違法であるとするものであって,請求の前提,基礎となる事実関係及び問題とする財務会計行為のいずれにおいても変更はないから,被告が指摘する点を考慮してもなお上記特段の事情があったといえ,被告の上記主張は採用できない。

b 被告は,上記各訴えの交換的変更に係る新旧各請求は,①当初請求においては「相手方Aは履行確認義務者としてHに返還等の請求権を行使すべきでありながら,同請求権の行使を怠り,京都市に損害を与えた」ことを違法事由とし,②1度目の変更後の請求(賠償命令の請求)においては「支出負担行為及び支出負担行為が法令に違反していないことの確認,支出又は支払,地方自治法234条の2第1項の監督又は検査に法令違反があり,京都市に損害を与えた」ことを違法事由とし,③2度目の変更後の請求(損害賠償請求行為の請求)においては「決裁権者としてHに返還等の請求権を行使すべきでありながら,同請求権の行使を怠り,京都市に損害を与えた」ことを違法事由とするものであって,いずれも基礎となる違法事由を異にし,当初の訴えの提起の時に変更後の訴えが提起されたものと同視することはできない旨主張する。

確かに,被告が主張するとおり,第2事件原告らが本件において陳述した訴状及び各準備書面には,上記被告の主張のように解される記載があり,それぞれ異なる違法事由が主張されていると解する余地がないではない。

しかしながら,第2事件原告らは,上記各訴えの交換的変更の前後を通じ,本件委託契約締結後のHに対する前払金の返還等の請求権の行使を怠っていることが違法であるとし,同主張がAに対する賠償命令を求める訴えへの変更により撤回されたものとは解されないことは,第2事件に係る同原告らの準備書面(平成20年6月27日付け)2頁,釈明書(同年9月3日付け)1頁,第2準備書面(平成21年6月9日付け)7頁,第3準備書面(平成21年10月14日付け)14頁等の記載から明らかである。

また,被告は,上記①については履行確認義務者としての返還請求権が,上記③については収入の専決権者としての返還請求権が問題となり,違法事由を基礎付ける事情が異なるから,違法事由が異なる(上記①の場合であれば,履行確認義務者としてすべきことをしなかったことがAの不法行為を構成することになるのに対し,上記③の場合であれば,専決権者としてすべきことをしなかったことがAの不法行為を構成することになる)旨主張するが,第2事件原告らが,上記①及び③を明確に区別した上で主張していたとは解されない上,地方公共団体が有する債権の管理について定める地方自治法240条,地方自治法施行令171条から171条の7までの規定から,客観的に存在する債権を理由もなく放置したり免除したりすることは許されず,原則としてその行使又は不行使についての裁量はないと解されること及び客観的にAが返還等の請求権を行使する権限を有していたこと(争いがない)等からすれば,上記各訴えの交換的変更の前後で,「Aが返還等の請求権を行使する権限を有していたにもかかわらずこれを怠っていたこと」が違法であるとの主張が維持されていたものとみるべきであり,違法事由が異なるとする上記被告の主張は採用できない。

(2)  Cを相手方とする請求に係る訴えについて

ア 監査請求の同一性と出訴期間経過の有無について

(ア) 監査請求の同一性の検討を要する原告

上記(1)ア(ア)において説示したとおり,地方自治法242条の2第2項の出訴期間は,各住民がした監査請求及びこれに対する監査結果の通知があった日等を基準として計算すべきところ,上記第2の2(4)ウのとおり,第2事件原告らのうち,第2次監査請求Bを行ったのは,原告Ⅰ,同Ⅱ,同Ⅲ,同Ⅴ,同Ⅵ及び同Ⅶのみであるから,同監査請求及びこれに対する監査結果の通知があった日を基準として出訴期間を計算すべきか否かは,同原告らについてのみ検討すれば足りることとなる(その余の第2事件原告らについては,この点で訴えが不適法となることはないと解される。)。

(イ) 第2次監査請求Bの範囲について

a 前提事実に加え,掲記の証拠によれば,次の事実を認めることができる。

(a) 原告Ⅰ,同Ⅱ,同Ⅲ,同Ⅴ,同Ⅵ及び同Ⅶは,平成19年11月8日,京都市監査委員に対し,「京都市職員措置請求書」と題する書面を提出し,同書面には,本件再委託契約に伴う500万円の公金支出に関し,①本件再委託契約の契約書には契約保証金の定めがなく,履行遅滞その他義務の不履行の場合の遅延利息,違約金その他の損害金,危険負担,瑕疵担保責任等について記載されておらず,契約事務規則35条に反する,②本件再委託契約の仕様書は委託内容の詳細が記載されておらず,Hから提出された見積書でも委託料の積算根拠が示されていない,③本件再委託契約は,前年度の本件委託契約のプログラム修正を含む内容となっていたにもかかわらず,本件委託契約の事業報告書が提出されていない段階で締結されている,④本件再委託契約の締結に当たり,Hから契約保証金が納められておらず,地方自治法施行令167条の16に反する等の違法・不当があり,Cに対し,500万円の損害賠償金を支払うことの勧告を求める旨の記載がある(第2次監査請求B。甲34,第2事件乙10,弁論の全趣旨)。

(b) 京都市監査委員は,同年12月28日付けで,本件再委託契約の締結及び委託料の支出については違法又は不当な点は認められないとして,棄却する旨の通知をした(甲17,弁論の全趣旨)。

b 監査請求の範囲については,上記(1)ア(イ)の観点から,制度の趣旨,目的に適合するように対象となる財務会計上の行為又は怠る事実を把握し,これにより決すべきところ,上記a(a)において認定した事実から,第2次監査請求Bは,Cの,専決による本件再委託契約の締結をその対象とするものと認められ(上記a(b)のとおり,京都市監査委員も同様の理解の下に監査を行っている。),これにより同監査請求の範囲が画されているというべきである。

(ウ) 出訴期間経過の有無

上記(イ)bのとおり,原告Ⅰ,同Ⅱ,同Ⅲ,同Ⅴ,同Ⅵ及び同Ⅶが行った第2次監査請求Bは,Cの,専決による本件再委託契約の締結をその対象とし,上記(イ)a(b)のとおり,京都市監査委員は,平成19年12月28日付けで,これに対する監査結果を通知し,同通知は,遅くとも平成20年1月4日には上記各原告らに到達したものと認められる(弁論の全趣旨)から,地方自治法242条の2第2項1号の出訴期間は,同日の翌日である同月5日から起算すべきところ,上記各原告らが,Cの,専決による本件再委託契約の締結が違法であるとして同人に対する損害賠償請求を求める第2事件の訴えを提起したのは,同日から30日を経過した後の日である同年3月27日であるから,上記原告らの,第2事件の訴えのうち,Cに対する500万円の損害賠償命令を求める部分は出訴期間を経過した不適法な訴えといわざるを得ない。

(エ) 第2事件原告らの主張について

第2事件原告らは,①先行する監査請求の時点で明らかになっていなかった事実がその後判明した場合に,同事実を新たに加えて監査請求をすることが許されないと,同事実を前提とした公金支出の違法性を争うことができなくなるという不都合な結果を招来するから,同事実を新たに前提として監査請求することが許されるとした上,②第3次監査請求は,第2次監査請求Bと一部重複する部分はあるものの,措置請求の内容及び相手方が追加されており,かつ,追加されている部分は,第2次監査請求Bを行った時点では発生していない事実であるから,これを追加した第3次監査請求と第2次監査請求Bを同一の監査請求と評価することはできない旨主張するが,かかる主張を採用できないことは,上記(1)ア(オ)において説示したとおりである。

イ 訴えの変更による出訴期間経過の有無について

(ア) 第2事件の相手方をCとする請求の趣旨の変更(上記第2の2(5)イ)は訴えの交換的変更に当たるか。

上記1(1)のとおり,地方自治法242条の2第1項4号本文に基づき「当該職員」に対する損害賠償の請求を求める訴えと,同号ただし書及び243条の2第3項に基づき同条の2第1項に規定する職員に対する賠償命令を求める訴えとは,その訴訟物を異にし,前者から後者へその請求を変更することは,訴えの交換的変更に該当する。

第2事件原告らは,上記第2の2(5)イのとおり,第2事件における相手方Cに係る請求の趣旨を,同法242条の2第1項4号本文に基づきCに対する損害賠償の請求を求めるものから同号ただし書及び243条の2第3項に基づきCに対する賠償命令を求めるものへ変更したから,上記変更は,訴えの交換的変更に該当する。

(イ) 出訴期間遵守の有無

そこで,各請求の間に存する関係から,変更後の新請求に係る訴えを当初の訴え提起の時に提起されたものと同視し,出訴期間の遵守に欠けるところがないと解すべき特段の事情があるか検討すると,第2事件の相手方をCとする請求に係る訴えは,上記訴えの交換的変更の前後を通じ,本件再委託契約に基づく委託料の支払が違法な公金支出であり,上記各行為を専決によって行ったCの責任を追及するというものであって,請求の内容こそ変更されているが,請求の前提,基礎となる事実関係及び問題とする財務会計行為のいずれにおいても変更はないのであるから,本件においては上記特段の事情があったといえる。

そうすると,上記訴えの交換的変更後の新請求は,当初の訴え提起の時に提起されたものと同視すべきであり,出訴期間を遵守した適法なものというべきである。

(3)  Bを相手方とする請求に係る訴えに関する出訴期間経過の有無について

ア 監査請求の同一性の検討を要する原告

上記(1)ア(ア)において説示したとおり,地方自治法242条の2第2項の出訴期間は,各住民がした監査請求及びこれに対する監査結果の通知があった日等を基準として計算すべきところ,上記第2の2(4)ウのとおり,第2事件原告らのうち,第2次監査請求A・Bを行ったのは,原告Ⅰ,同Ⅱ,同Ⅲ,同Ⅴ,同Ⅵ及び同Ⅶのみであるから,上記各監査請求及びこれに対する監査結果の通知があった日を基準として出訴期間を計算すべきか否かは,同原告らについてのみ検討すれば足りることとなる(その余の第2事件原告らについては,この点で訴えが不適法となることはないと解される。)。

イ 上記(1)ア(イ)において説示したとおり,監査請求において主張される違法・不当事由や是正措置の内容・主体等は,いずれも監査請求の範囲を画する要素に当たらず,監査請求の範囲は,請求の対象とされている財務会計上の行為又は怠る事実により決せられると解され,当該財務会計上の行為又は怠る事実に関し住民訴訟を提起する場合の出訴期間は当該監査請求及びこれに対する監査結果の通知があった日を基準としてこれを決すべきところ,このことは,住民訴訟において,監査請求において求めた具体的措置の相手方とは異なる者を相手方として同措置の内容と異なる請求をする場合であっても異ならないというべきである。なぜなら,地方自治法242条の2第1項は,住民訴訟は監査請求の対象とした242条1項所定の財務会計上の行為又は怠る事実についてこれを提起すべきものと定めているが,同項には,住民が,監査請求において求めた具体的措置の相手方と同一の者を相手方として同措置と同一の請求内容による住民訴訟を提起しなければならないとする規定は存在せず,住民訴訟においては,その対象とする財務会計上の行為又は怠る事実について監査請求を経ていると認められる限り,監査請求において求められた具体的措置の相手方とは異なる者を相手方として同措置の内容と異なる請求をすることも許されると解されるからである。

ウ 第2事件の訴えのうち,Bを相手方とする請求に係る部分は,専決権者であるAの本件委託契約の委託金として既に支払った前払金の返還等の請求権の行使を怠る事実及び専決権者であるCの本件再委託契約という財務会計上の行為に関し,上記各専決権者の事務処理を管理する義務を負う立場にあるBの不法行為責任を前提とするものである(なお,その余の不法行為については,後記カにおいて説示するとおりである。)ところ,上記(1)ア(ウ)bのとおり,第2次監査請求Aは,Aの,本件委託契約の委託金として既に支払った前払金の返還請求権の行使を怠る事実をその対象とするものと認められ,上記(2)ア(イ)bのとおり,第2次監査請求Bは,Cの,専決による本件再委託契約の締結をその対象とするものと認められるから,第2事件の訴えのうち,Bを相手方とする請求に係る部分の出訴期間は第2次監査請求A・Bに対する監査結果の通知があった日を基準としてこれを決すべきである。

エ 上記第2の2(4)ウのとおり,京都市監査委員は,平成19年12月28日付けで,第2次監査請求A・Bに対する監査結果を通知し,同通知は,遅くとも平成20年1月4日には原告Ⅰ,同Ⅱ,同Ⅲ,同Ⅴ,同Ⅵ及び同Ⅶに到達したものと認められる(弁論の全趣旨)。そして,地方自治法242条の2第2項1号の出訴期間は,同日の翌日である同月5日から起算すべきところ,上記各原告らが,Bに対する損害賠償請求を求める第2事件の訴えを提起したのは,同日から30日を経過した後の日である同年3月27日であるから,上記原告らの第2事件の訴えのうち,Bを相手方とする請求に係る部分は,出訴期間を経過した不適法な訴えといわざるを得ない。

オ 第2事件原告らは,①先行する監査請求の時点で明らかになっていなかった事実がその後判明した場合に,同事実を新たに加えて監査請求をすることが許されないと,同事実を前提とした公金支出の違法性を争うことができなくなるという不都合な結果を招来するから,同事実を新たに前提として監査請求することが許されるとした上,②第3次監査請求は,第2次監査請求Bと一部重複する部分はあるものの,措置請求の内容及び相手方が追加されており,かつ,追加されている部分は,第2次監査請求Bを行った時点では発生していない事実であるから,これを追加した第3次監査請求と第2次監査請求Bを同一の監査請求と評価することはできない旨主張するが,かかる主張を採用できないことは,上記(1)ア(オ)において説示したとおりである。

カ なお,第2事件原告らは,Bを相手方とする請求において,Bの不法行為を前提にその損害賠償請求権の行使を被告が怠っているのが違法であると主張しており,その不法行為の内容は,Aの本件委託契約の委託金として既に支払った前払金の返還等の請求権の行使を怠る事実及びCの本件再委託契約という財務会計上の行為を前提とする管理義務違反に尽きるものではないが,Bのその余の不法行為のうち,専決権者たるAの本件委託契約の締結に関する管理義務違反については第1次監査請求及び同監査結果の通知を基準として出訴期間を起算すべきであり(原告Ⅰ,同Ⅱ,同Ⅲ及び同Ⅷについて。その余の第2事件原告については,第1次監査請求を行っておらず,仮に,第2次監査請求A又は第3次監査請求においてAによる本件委託契約の締結を監査請求の対象とする趣旨であったとしても,それらはいずれも監査請求期間(財務会計行為たる本件委託契約の締結から1年。地方自治法242条2項)を経過している。),上記第2の2(4)の経緯から,出訴期間(監査結果の通知から30日)を経過していることが明らかであるし,Bが本件事業を主導したことを独立の不法行為としてその損害賠償請求権の行使を怠る事実(これは,財務会計行為の違法を前提としない。)については,当該怠る事実自体について地方自治法242条1項の住民監査請求を経ているとは認められず,いずれにしても住民訴訟の訴訟要件を欠き,不適法であるから,上記エの結論を左右しないというべきである。

(4)  その余の被告の主張について

ア 被告は,第3次監査請求(上記(1)ないし(3)において説示したとおり,同監査請求を基準とすべきは,第2事件原告らのうち,原告Ⅷ,同Ⅸ,同Ⅹ及び同ⅩⅠである。)のうち,本件委託契約に関する部分について,①同契約は平成18年10月10日に締結され,現実の支払も平成19年1月16日にされており,平成20年2月1日にされた同監査請求は,地方自治法242条2項の監査請求期間を徒過している,②同監査請求が本件委託契約の違法をも監査対象としているのであれば,監査を遂げるためには同契約の違法性の有無を判断しなければならず,監査請求期間の起算点は同契約の締結日たる平成18年10月10日となり,同監査請求は監査請求期間を徒過しているなどと主張する。

イ 前提事実に加え,掲記の証拠によれば,次の事実を認めることができる。

(ア) 原告Ⅷ,同Ⅸ,同Ⅹ及び同ⅩⅠは,平成20年2月1日,京都市監査委員に対し,「京都市職員措置請求書」と題する書面を提出し,同書面には,本件委託契約の履行に関し,①事業報告書及び決算報告書の遅滞により同契約6条に違反する,②遅れて提出された事業報告書及び決算報告書の内容も同条の定めを満たすものではない上,虚偽の内容を含んでおり,この点でも同条に違反する,③本件委託契約に関する履行確認の書類が作成されていない,等全く不十分であり,B及びAは,Hに対して既に支払われた前払金の返還請求をしなければならなかったが,それを怠ったから,両名に対し,2000万円の損害賠償金を支払うことの勧告を求める旨の記載がある(第3次監査請求。第2事件甲1の2・3・4)。

(イ) 京都市監査委員は,上記原告らによる第3次監査請求について,平成20年2月29日付けで,請求に係る事実は,既に実施した第2次監査請求A・Bの結果に基づき,いずれも違法又は不当であるとは認められないとして棄却する旨の通知をした(第2事件甲3)。

ウ 地方自治法242条1項の,公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る事実は,それが継続している限り,違法ないし不当な財務会計状態が現に存在しているのであるから,その是正を求めるのに期間制限をする合理的理由は必ずしもなく,上記怠る事実については242条2項の適用はないものと解されるところ,上記イ(ア)において認定したところによれば,第3次監査請求は,本件委託契約の委託金として既に支払った前払金の返還請求権の行使を怠る事実をその対象とするものと認められる(上記イ(イ)のとおり,京都市監査委員も同様の理解の下に,第2次監査請求Aの結果に基づき,第3次監査請求を棄却している。)から,同監査請求には,同条項の適用はないと解すべきであり,被告の上記主張はその前提において採用できない。

3  本案前の争点③(第2事件の訴えのうち,B及びAに対し2000万円の支払を請求するよう求める部分は,別訴の禁止に該当するか)について

(1)  地方自治法242条の2第4項は,「別訴をもって同一の請求をすることができない」と規定するところ,その規定の文言に照らせば,別訴が禁止される「同一の請求」とは,既に係属中の住民訴訟と訴訟上の請求,すなわち訴訟物を同じくする請求を意味するものと解するのが相当である。

(2)  第1事件の訴えに係る訴訟物(ただし,訴えの交換的変更後のもの)は,地方自治法242条の2第1項4号ただし書及び243条の2第3項に基づきAに対する賠償命令を求めるものであるのに対し,第2事件の訴えのうちAを相手方とする請求に係る部分の訴訟物(ただし,各訴えの交換的変更後のもの)は,同法242条の2第1項4号本文に基づきAに対する損害賠償の請求を求めるものであるから,両者は訴訟物を異にする。

また,第2事件の訴えのうちBを相手方とする請求に係る部分の訴訟物は,Bの不法行為に基づく同人に対する損害賠償請求権の行使を求めるものであるから,第1事件の訴え(ただし,訴えの交換的変更後のもの)とはその訴訟物を異にする。

したがって,第2事件の訴えのうち,B及びAに対し2000万円の支払を請求するよう求める部分は,別訴の禁止に該当しないというべきである。

4  認定事実

前提事実に加え,掲記の証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実を認めることができる。

(1)  本件事業における体験学習及びシミュレーション学習の内容

ア スチューデントシティ事業における体験学習

体験学習が行われるスチューデントシティ施設では,別紙3のとおり,実在の銀行,商店,新聞社,市役所等を模したブースが設置され,児童は,企業等の従業員役と消費者役それぞれの立場で役割を担い,別紙4のスケジュールに従い,仕事や消費活動を疑似体験する(乙19)。

イ ファイナンスパーク事業におけるシミュレーション学習の内容

シミュレーション学習が行われるファイナンスパーク施設では,別紙5のとおり,実在の電力やガス,水道,住宅,保険等の企業の店舗を模したブースが設置され,生徒は,別紙6の要領に従い,それぞれに設定された年齢や年収,家族構成等を基に,生活費の試算,商品やサービスの購入,契約等による生活設計の体験を行う(乙23)。

(2)  本件事業実施の経過

ア 教育委員会は,平成12年度から,すべての中学生がそれぞれの興味・関心に応じて,勤労体験をはじめ様々な社会体験活動に取り組む「生き方探究・チャレンジ体験」推進事業を実施し,勤労体験,職場体験,ボランティア体験などの社会体験活動を推進していた(乙28)。

イ 国は,平成14年11月,キャリア教育の推進に関する総合的調査研究協力者会議を発足させ,同会議は,平成16年1月28日,子どもたちの成長・発達や進路を取り巻く当時の新たな状況を踏まえ,生涯にわたるキャリアを形成していく基盤を培う場として重要な意味をもつ初等中等教育におけるキャリア教育(以下「キャリア教育」という。)の基本的な方向等について,その後のキャリア教育を具体的に推進する観点から報告書を公表した。同報告書には,キャリア教育が求められる背景等に加え,キャリア教育を推進するための方策として,体験活動等の活用(職場体験等)が提示されていた。そして,国は,平成17年度から,キャリア教育実践プロジェクトとして,産学官の連携による職場体験・インターンシップの推進のためのシステム作り等を目的とした都道府県・指定都市キャリア・スタート・ウィーク支援会議を設置した上,各都道府県・指定都市において,中学校を中心として職場体験・インターンシップを5日間以上実施するなどの施策を開始した(乙29)。

ウ Hは,平成16年10月12日,Bらに対しスチューデントシティ及びファイナンスパークについての概要説明を行い,教育委員会は事業実施の検討を開始し,教育委員会職員並びに京都市立小学校及び中学校の教職員は,同月30日及び平成17年1月29日,東京都品川区のスチューデントシティの視察を行い,同日の視察にはBも参加した(乙77)。

エ 教育委員会は,同年5月の教育長ヒアリングにおいて,スチューデントシティ・ファイナンスパーク事業が,教育委員会及び国が実践するキャリア教育の推進に有効であると判断した。また,その際,G教育委員会事務局指導部担当部長が,担当者とされた(乙88)。

なお,同月当時,仕事や消費活動を体験したり,生活設計の模擬体験を行う内容のキャリア教育の事例は,Hが東京都品川区及び福島県で実施していたスチューデントシティ・ファイナンスパーク事業のみであり,他に同様のプログラムは全国的にもほとんど存在しなかった(乙79,証人A,弁論の全趣旨)。

オ 教育委員会は,本件事業がブースの出店やボランティアの派遣等の点で企業との連携・協力が不可欠な事業である一方,21世紀委員会は産学公の連携の下で教育活動に取り組んでいる組織であり,本件事業を同委員会の事業と位置付けることにより,企業との連携・協力が得やすくなり,本件事業が円滑に進むと考えられたことから,本件事業を21世紀委員会の事業と位置付けることとした。

F,E及びBは,同年7月1日,会談し,本件事業を21世紀委員会から提案すること,その上で,教育委員会が,本件事業の実現に向けて前向きに取り組んでいくことを確認した。

(以上について,乙79,88)

カ 教育委員会は,同年10月5日,本件事業の実施について広報発表を行ったが,その広報資料には,要旨次の記載がある(乙5)。

(ア) 21世紀委員会の事業として,キャリア教育等のさらなる推進を図るため,Hから教育プログラム・教材等の提供を受け,本件事業を実施する。

(イ) 目的

企業やNPO,ボランティア等の協力の下,子どもたちが現実の生活により近い環境・条件の中で,実際的な活動を通して社会全体の仕組みや経済の働きを学ぶことで,勤労観・職業観や,未来を切り拓くベンチャー精神を育成するため,先進的な取組みであるスチューデントシティ・ファイナンスパーク事業を,京都ならではの伝統文化や産業,環境保全等の視点を盛り込み,産学公の連携により推進する。

(ウ) 特色

京都市ならではの伝統文化や産業,環境保全等の視点を盛り込んだ,独自のプログラム開発を行い,京都市全体の活性化につながるよう,全市を挙げて取組みを推進する。

(エ) (別紙)参考

a 「京都市スチューデントシティ・ファイナンスパーク」の設置・運営について

本件事業は,21世紀委員会における事業の一環として,産学公の連携により展開していく。

b キャリア教育とJAの学習プログラム

スチューデントシティやファイナンスパークなどHの学習プログラムを有効に活用していくことで,キャリア教育をより効果的に推進することができる。

キ 21世紀委員会は,同年11月28日,本件事業を同委員会の事業と認定した。なお,同日時点での21世紀委員会の構成員は別紙7のとおりであった。(乙6,弁論の全趣旨)

ク Gは,同年12月ころ,本件事業実施のために必要な経費の予算について検討していたが,I教育委員会事務局指導部学校指導課初等教育係長(以下「I」という。)らがHと協議を行い,その報告等を受け,3年間で3000万円とすることとした。

Gは,上記3000万円の経費について,本件事業が,企業や市民の協力を募って進めていく事業であることから,Hへの委託経費についても寄附により確保しようと考え,寄附の依頼先として,21世紀委員会の委員長としてキャリア教育に関与し,本件事業の推進にも意欲的に関わっていたFが相当と考え,21世紀委員会委員のJを通じ,Fに対し寄附の意向打診をしたところ,Fから内諾を得た。

Bは,同年12月14日,Fに対し,正式に3000万円の寄附の依頼をし,その際,別紙8の事項が記載されたメモを示した。

(以上について,乙80,88,証人G)

ケ 教育委員会は,平成18年1月20日,委員会事務局指導部にスチューデントシティ・ファイナンスパーク開設準備室を設置し,Gが同室の室長に任命された(乙88)。

コ Fは,同年2月7日付けで,「京都市におけるスチューデントシティ・ファイナンスパーク事業の実施のため」,3000万円を寄附する申出をし,京都市は,同年4月13日付けで,同金額を受納した(乙11)。

サ 21世紀委員会は,同年3月27日,同委員会内に,本件事業の運営推進委員会を設置し(なお,同日時点での同委員会の構成員は,別紙9のとおりであった。),同日,同年6月5日,同年9月7日,同年11月27日に,会議が開催された(乙7~10)。

なお,同運営推進委員会の第3回会議(同年9月7日)において,同年10月から,小学校試行実施校及び中学校モデル実施校において本件事業に係る学習プログラムを実施し,その後各委員の意見及び平成19年3月に予定されている同運営推進委員会での評価を踏まえ,プログラムの修正を図っていくことが確認された(乙10)。

シ Gは,平成18年5月18日,企業に対する協賛依頼文書を送付することを決定し,翌19日,依頼文書を別紙10記載の各企業に送付した(乙12,13)。

ス Bは,本件委託契約締結後の同年10月27日,スチューデントシティの学習指導計画を決定したが,同計画の計画書には,要旨次の記載がある(乙17)。

(ア) 子どもたちに望ましい勤労観・職業観を育む「京都市キャリア教育スタンダード『生き方探究教育』」の充実・推進の一環として,Hのプログラムであるスチューデントシティ学習を実施する。

(イ) スチューデントシティ学習の教育課程上の位置付け(参考)

紹介する教育課程上の位置付けや参考資料等は,各学校でスチューデントシティ学習を実施するに当たり,5年生での「事前・事後学習」と「スチューデントシティでの体験学習」の教育課程上の位置付けを検討するだけではなく,学年相互のつながりや他の教育活動との関わりなど,小学校6年間を通して生き方探究教育を推進する視点により,各学校の児童や地域の実態をふまえた教育課程を編成する機会として活用されたい。

セ 教育委員会は,同月31日,スチューデントシティ試行実施校(小学校)に対し,学習指導計画及びスチューデントシティ紹介DVDを送付し,Hは,同年11月7日,上記試行実施校に対し,ワークブック,指導者マニュアル及び指導用補助教材CDを送付した(乙17~20)。

ソ Bは,同月14日,ファイナンスパークの学習指導計画を決定したが,同計画の計画書には,要旨次の記載がある(乙21)。

(ア) ファイナンスパーク学習のねらい

社会に溢れる情報を適切に活用する力を育てる,自らの生き方につながる生活設計能力などを育てる,望ましい勤労観・職業観を育てる等。

(イ) 期待できる学習効果と生き方探究教育で育てたい力(17の力)の関係

「年間収入から月所得が算出できるなどの数学的スキルを活用できた。」等の期待できる学習効果により,「自らの課題を見つけ解決する力」等を育む。

(ウ) 総合的な学習の時間への位置付けの計画(例)

同単元における将来設計プログラム学習の中で,日常生活における経済活動に積極的に興味・関心をもち,将来経験するであろう税金・保険をはじめ食費等の試算,契約行為等を通して,社会人のくらしや社会の仕組みなどについての理解を深めるとともに,現在のくらしを見つめ,将来の生活を展望することができる。

タ 教育委員会は,同月17日,ファイナンスパークモデル校(中学校)に対し,学習指導計画及び指導用資料CDを送付し,Hは,同月21日,上記モデル校に対し,ワークブック,指導者マニュアルを送付した(乙21~24)。

チ 京都市は,平成19年1月19日,スチューデントシティ・ファイナンスパーク開設記念式典を行い,教育委員会に「京都まなびの街生き方探究館」が設置され,さらに同館に「生き方探究館企画推進室」(以下「企画推進室」という。)が設置された(乙26,弁論の全趣旨)。

ツ 本件委託契約は,同年3月31日,終了し,同契約に係る検査調書は作成されなかったが,企画推進室は,「18年度委託契約にかかる履行状況の確認について」と題する文書を作成していた(乙47)。

(3)  本件委託契約に係る支出負担行為書作成の経緯等

ア Aが,平成18年10月10日,本件委託契約の締結を決定した際,京都市事務担当者は,同決定書に「支出負担行為書」を添付するのを失念した(甲3,乙14,弁論の全趣旨)。

イ 京都市事務担当者は,平成19年1月,本件委託契約の委託料2000万円の支出命令書を作成するに際し,本件委託契約締結の決定が平成18年10月10日付けでされていたことから,同日付けの支出負担行為書を作成し,回議した(乙15,弁論の全趣旨)。

ウ 京都市事務担当者は,上記イに先立ち,上記アの本件委託契約の決定書に支出負担行為書が添付されていなかったことに気付き,同決定書に「案3により経費を支出すること」と加筆したが,上記イのとおり,別途支出負担行為書が作成されたため,上記加筆部分を抹消した(甲3,乙14,弁論の全趣旨)。

エ 京都市事務担当者は,平成19年1月11日,本件委託契約の委託料2000万円の支出に係る支出命令書を作成し,Cが同日同支出命令を決定した(乙42,弁論の全趣旨)。

(4)  本件著作権契約に係る支出負担行為書作成の経緯等

ア Aが,平成19年1月10日,本件著作権契約の締結を決定した際,京都市事務担当者は,同決定書に「支出負担行為書」を添付しなかった(乙40,弁論の全趣旨)。

イ Aは,同年3月12日,上記アの決定に係る本件覚書の一部を修正する決定をした(乙58)。

ウ 京都市事務担当者は,同年4月,本件著作権契約の著作権使用料の支出命令書を作成するに際し,本件著作権契約締結の決定(修正を含む。)が同年3月12日付けでされていたことから,同月15日付けの支出負担行為書を作成し,回議した(乙41,弁論の全趣旨)。

エ 京都市事務担当者は,同年4月25日,本件著作権契約の著作権使用料200万円の支出に係る支出命令書を作成し,Cが同日同支出命令を決定した(乙43,弁論の全趣旨)。

(5)  Hからの報告書の提出

ア Hは,平成19年7月31日付けで,京都市に対し,本件委託契約に関する報告書を提出したが,同報告書の内容は,別紙11のとおりであった(甲20)。

イ Hは,同年12月10日付けで,京都市に対し,上記アの報告書を修正する報告書を提出したが,同報告書の内容は,別紙12のとおりであった(甲21)。

ウ Hは,平成20年5月27日付けで,京都市に対し,本件再委託契約に関する報告書を提出した(第2事件乙14)。

5  本案の争点①(本件委託契約締結の違法性の有無)について

(1)  本件事業の違法を前提とする違法性の有無について

ア 地方自治法242条の2第1項4号に基づく損害賠償の請求等(これには,同号ただし書及び243条の2第3項に基づき同条の2第1項に規定する職員に対する賠償命令を求める場合も含まれる。)を求める住民訴訟において,当該職員の財務会計上の行為をとらえて同規定に基づく損害賠償責任を問うことができるのは,たといこれに先行する原因行為に違法事由が存する場合であっても,同原因行為を前提としてされた当該職員の行為自体が財務会計上の義務に違反する違法なものであるときに限られると解するのが相当であり,その違法性とは,当該職員が財務会計上の行為を行うに当たって負っている職務上の行為義務ないし行為規範についての違法の有無を意味するものであって,当該職員が財務会計上の行為をするに当たり,当該普通地方公共団体に対し,原因行為との関係でいかなることをすべき行為義務(広い意味での財務会計法規上の義務,すなわち,手続的・技術的な狭い意味での財務会計法規のみではなく,これらを含むところの財務会計上の行為を行う上で当該職員が職務上負担する行為規範一般を意味する。)を負担しているか,また,その義務を尽くしたといえるかという問題であり,原因行為の違法がそれ自体でいわば無媒介に財務会計上の行為の違法をもたらすという関係にあるとは解されない。

イ 京都市における「専決規程の運用について」と題する依命通達(平成16年4月30日総総文第7号。以下「専決規程運用通達」という。)は,専決は,事務を能率的に処理するため,補助執行の一形態として,市長の権限に属する事務のうち,所管事務とされている事項について,市長に代わって判断し,決定するものであるとし,専決者が,権限を行使するに当たって,案件の処理に当たり必要がある場合は,専決権限のいかんにかかわらず,上司への報告,相談等を行うこととし,また,自己の専決事項となる案件であっても,重要又は異例と判断した案件については速やかに上司の決定を受けることとしている(乙38)ことから,総務部長は,その専決権限を行使するに当たって,本来的権限者たる市長の判断やそれに関連する上司(教育長を含む。)の決定がある場合には,同判断や決定が著しく合理性を欠きそのためこれに予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵の存する場合でない限り,それらを尊重しその内容に応じた財務会計上の措置を採るべき義務があり,これを拒むことは許されないものと解するのが相当である。

ウ(ア) 本件においては,上記第2の2(3)のとおり,上司(教育長)であるBが本件事業を実施することを決定し,本来的権限者(市長)であるDが本件事業を実施する旨の合意書を作成しており,Aは,本件事業を実施する旨のかかる決定や合意が著しく合理性を欠きそのためこれに予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵の存する場合でない限り,それらを尊重しその内容に応じた財務会計上の措置を採るべき義務がある。

(イ) 本件事業及びこれを実施する旨の決定・合意の合理性

a 旧教育基本法6条1項との関係

(a) 同条項は,法律に定める学校は,公の性質をもつものである旨規定するところ,同条項は,公教育が,国家が関与する国民全体のために行われる教育事業であり,公の性質を有することから,公教育を実施する場である学校も,上記の公の性質を有するものであることを明らかにしたものと解され,学校教育が国民全体のために行われるという意味での公の性質を維持することを確保しようとしたものと解される。

そうであるとすれば,企業の学校教育への関与が,同条項に反するか否かは,その関与の態様及び程度等から,上記の学校教育の公の性質を失わしめるものといえるかという観点から検討すべきである。

(b) 上記4(1)において認定したとおり,スチューデントシティ施設及びファイナンスパーク施設においては,別紙3及び別紙5に記載された特定の企業の店舗を模したブースが設置されており,これにより,事実上,上記各施設に出店している企業名が上記各施設に来場する者の目に触れることとなることは否定できないものの,これら企業のブースの出店は,子どもたちに,現実の生活により近い環境・条件の中で,実際的な活動を通して社会全体の仕組みや経済の働きを学ばせる教育活動の手段にすぎず,学校教育が国民全体のために行われるという意味での公の性質を直ちに変ずるものとはいい難い。

したがって,本件事業における上記のような企業のブースの出店が,学校教育の公の性質を失わしめるものとはいえない。

(c) 第1事件原告らは,教育委員会が,ホームページで本件事業の広告広報効果を強調し,本件事業を企業の広告広報の場として位置付けていた旨主張する。

この点,本件事業が,企業の広告広報を目的として行われた場合には,学校教育の公の性質に反するともいい得るところ,確かに,教育委員会が,本件事業を開始するに当たり,ホームページにおいて,各企業に対し,協賛した場合のメリットとして,協賛による広告広報効果を取り上げていたことは認められる(弁論の全趣旨)。しかし,本件事業への上記のブースの出店によって,そこに来場する子どもたちを主たるターゲットとして広告をするというのは,いかにも迂遠な方法であり,現に多数の企業によびかけたにもかかわらず,応募企業はわずかであったわけであり(乙7~10,12,13),上記ホームページの記載も応募企業を募るための一方法であったとみられ(なお,2か月半後に当該ホームページの記載が削除されたことからも,そのような記載内容が本件事業の目的からして不適当であったことは認められる。),上記事実から,教育委員会が,企業の広告広報を目的として本件事業を実施したということはできず,本件事業が,学校教育の公の性質に反するとは認められない。

b 地教行法23条6号,33条2項との関係

(a) 同法23条6号は,教育委員会は,当該地方公共団体が処理する教育に関する事務で,教科書その他教材の取扱いに関することを管理し,執行する旨規定するところ,同条号は,教科書その他の教材が,その教育的価値などから,その取扱いに慎重を要し,教育委員会が,地域の実情,要求や生徒,児童の関心,要求,能力等を把握して,最も有益適切なものが使用されるようにする責任を負い,教科書や教材の種類とそれが教育に及ぼす意味の重要性,保護者に与える負担等を考慮して,教科書や教材の取捨選択についての指揮監督権を有することを定めたものと解される。

また,同法33条2項は,教育委員会は,学校における教科書以外の教材について,あらかじめ,教育委員会に届け出させ,又は教育委員会の承認を受けさせることとする定めを設けるものとする旨規定するところ,同条項も,同趣旨の規定であると解される。

(b) 上記4(2)セ及びタにおいて認定したとおり,スチューデントシティ試行実施校及びファイナンスパークモデル校に対し,ワークブック,指導者マニュアル等が送付されたことが認められ,上記各校において利用されたことが推認されるが,それらを利用させることは,本件事業が京都市において初めて行われるものであり,教員の参考となる指導用資料を作成する必要があったことからすると,教科書や教材の取捨選択について教育委員会が有する上記の指揮監督権に含まれると解されるから,教育委員会が送付したワークブック,指導者マニュアル等を使用することは,上記各条に反するとはいえない。

(c) 第1事件原告らは,教育委員会の教科書その他の教材の取捨選択に関する指揮監督権は,教育委員会が,教員に対し,自ら作成した教材を使用させ,ひいてはその使用を事実上強制することまで肯定するものではない旨主張するが,上記(a)のとおり,教育委員会は,最も有益適切な教材が使用されるようにする責任を負い,教科書や教材の取捨選択についての指揮監督権を有しており,地域の実情などに合ったものとするため,既存のもので足りなければ,必要な範囲で自ら作成に関与することも許されるというべきであり,上記のワークブック,指導者マニュアル等の使用も,そのような場合に当たると解されるし,証拠(乙61~67)によれば,京都市の教員らが,本件事業に関し,自ら独自の指導案や教材を作成,使用していたことが認められることに照らしても,教員が上記のワークブック,指導者マニュアル等の使用を事実上強制されたような状況もうかがわれず,第1事件原告らの上記主張は失当である。

c 旧教育基本法10条との関係

(a) 同条1項は,教育は,不当な支配に服することなく,国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである旨規定するが,同条項は,教育が国民から信託されたものであり,したがって教育は,その信託に応えて国民全体に対して直接責任を負うように行われるべく,その間において不当な支配によってゆがめられることがあってはならないとして,教育が専ら教育本来の目的に従って行われるべきことを示し,教育が国民の信託に応えて上記の意味において自主的に行われることをゆがめるような支配を「不当な支配」として排斥しようとしたものと解される。

(b) そこで,本件事業により,上記の自主性がゆがめられるか検討すると,上記4(2)において認定したとおり,教育委員会が平成12年度から中学生の社会体験活動を推進してきたこと,国においても平成17年度からキャリア教育の実践プロジェクトを開始したこと,教育委員会が,スチューデントシティ・ファイナンスパーク事業が上記のキャリア教育の推進のため有効であると判断して,本件事業の実施を決定したこと,本件事業が21世紀委員会の事業と位置付けられたのは,本件事業がブースの出店やボランティアの派遣等の点で企業との連携・協力が不可欠な事業である一方,21世紀委員会は産学公の連携の下で教育活動に取り組んでいる組織であり,本件事業を同委員会の事業と位置付けることにより,企業との連携・協力が得やすくなり,本件事業が円滑に進むと考えられたためであったことなどからすれば,本件事業を実施することにより,Hや21世紀委員会の介入を招き教育の自主性がゆがめられたと認めることはできない。

したがって,本件事業の実施により,Hや21世紀委員会の「不当な支配」に服することにはならない。

(c)① 第1事件原告らは,本件事業は,Fが平成17年10月5日に京都市長にその実施を提案したことにより始まったものであり,21世紀委員会はその設立経過,組織内容,委員の選出根拠及び選出過程が不明な組織であって,かかる21世紀委員会の提案に全面的に賛同して実施が決定された本件事業は,21世紀委員会の「不当な支配」に服するものである旨主張する。

確かに,証拠(乙3)によれば,Fが,同日,Dに対し,スチューデントシティ・ファイナンスパーク事業の実施を提案した事実が認められるが,上記4(2)エのとおり,これに先立つ同年5月の教育長ヒアリングにおいて既に本件事業が京都市及び国が実践するキャリア教育の推進に有効であると判断されていたこと,本件事業を21世紀委員会の事業と位置付けることにより,企業との連携・協力が得やすくなり,本件事業が円滑に進むと考えられていたことなどからすれば,上記Fの提案は,本件事業を21世紀委員会の事業と位置付けるためにされたものとみるのが自然であり,同提案を受けて初めて本件事業の実施が決定されたかにいう第1事件原告らの主張は採用できない。

② 第1事件原告らは,本件事業が,Hの作成したワークブック及び指導者マニュアルを使用させて実施するものであり,Hの「不当な支配」に服するものである旨主張するようである。

しかしながら,上記(b)において説示したとおり,本件事業の実施は,スチューデントシティ・ファイナンスパーク事業がキャリア教育の推進のため有効であるとの教育委員会の判断の下に決定されたものであり,Hの作成したワークブック及び指導者マニュアルは,飽くまでも上記のように決定された本件事業の実施に必要な資料にすぎず,それらを使用することにより教育の自主性がゆがめられるものとはいえないから,上記主張は採用できない。

③ さらに,第1事件原告らは,本件事業の実施は,市長(D)及び教育委員会が,教育内容に過度に介入するものであり,旧教育基本法10条1項に反する旨主張するようである。

同条項は,法令に基づく教育行政機関の行為にも適用があるものと解されるが,憲法23条が保障する学問の自由から,普通教育における教師の教授の自由も一定の範囲で肯定することができる一方,憲法上,国や地方公共団体は,適切な教育政策を樹立,実施する権能を有し,教育の内容及び方法についても,必要かつ合理的な規制を施す権限を有することも明らかである。旧教育基本法10条1項は,このような教育統制権能を前提としつつ,教育行政の目標を教育の目的の遂行に必要な諸条件の整備確立に置き,その整備確立のための措置を講ずるに当たっては,教育の自主性尊重の見地から,これに対する「不当な支配」となることのないようにすべき旨の限定を付したものであり,教育に対する行政権力の不当,不要の介入は排除されるべきであるとしても,許容される目的のために必要かつ合理的と認められるそれは,たとえ教育の内容及び方法に関するものであっても,必ずしも同条項の禁止するところではないと解するのが相当である。

上記4(2)のとおり,国において平成17年度からキャリア教育の実践プロジェクトを開始し,教育委員会においてスチューデントシティ・ファイナンスパーク事業がキャリア教育の推進のため有効であると判断したため,教育委員会及びDにおいて,本件事業の実施を決定したことは,キャリア教育の推進という許容される目的のために必要かつ合理的と認められる程度の介入にとどまるというべきであり,同条項に反するとは認められない。

d 以上a~cのとおり,本件事業を実施することが,著しく合理性を欠き,そのためこれに予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存するとはいえない。

(2)  本件委託契約締結における違法性の有無

ア 地方自治法施行令167条の2第1項2号との関係

(ア) 同条項号は,地方自治法234条2項の規定により随意契約によることができる場合として,「不動産の買入れ又は借入れ,普通地方公共団体が必要とする物品の製造,修理,加工又は納入に使用させるため必要な物品の売払いその他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」を挙げるところ,上記4(2)エにおいて認定したとおり,教育委員会は,スチューデントシティ・ファイナンスパーク事業が,教育委員会及び国が実践するキャリア教育の推進に有効であると判断したが,その当時,仕事や消費活動を体験したり,生活設計の模擬体験を行う内容のキャリア教育の事例は,Hが東京都品川区及び福島県で実施していたスチューデントシティ・ファイナンスパーク事業のみであったのであり,本件事業を実施するために委託契約を締結することは,その性質ないし目的が競争入札に適しないものといえ,本件委託契約を随意契約により行ったことは,同施行令167条の2第1項2号に反しないというべきである。

(イ) 第1事件原告らは,随意契約ガイドラインが,運用上の留意点として,他の者では履行し得ない役務の提供であることについて同業他社に確認することを求めていることなどから,京都市は,本件事業の実施に当たり,他のキャリア教育や同種事業との比較検討を全く行わず,また,本件事業以外のキャリア教育事業は多く存在し,本件事業と類似の事業を行うとしても,他の業者に事業を実施するかどうか確認した上で,最終的に最も評価の高かった事業を採択すべきであったから,同条項号に反する旨主張する。

しかしながら,上記4(2)において認定したとおり,京都市は,平成12年度以降,各種の社会体験活動を推進しており,それらを踏まえて,仕事や消費活動を体験したり,生活設計の模擬体験を行う内容のキャリア教育を行うことを決定したものであり,本件事業以外のキャリア教育を検討していなかったとはいえないし,上記(ア)のとおり,上記のようなキャリア教育の事例は,Hが東京都品川区及び福島県で実施していたスチューデントシティ・ファイナンスパーク事業のみであり,これを他の業者が実施することは困難であったといえ,上記のような確認を要する状況ではなかった。よって,第1事件原告らの上記主張は採用できない。

イ 随意契約ガイドライン(見積書関係)との関係

(ア) 同ガイドラインの「運用上の注意等」は,1項において,特定の者との随意契約を行う場合であっても,適正な価格の範囲内で,可能な限り低廉な価格で契約を締結するよう,コストについて積算を行うとともに詳細な見積書を提出させ,積算と突合して見積書の内容を精査し,見積書の再提出を求めるなど価格交渉を行うことを,4項において,価格交渉を行ったときは,契約の決定において交渉の経過の記録を添付することを挙げる。

本件委託契約について,上記の詳細な見積書は作成されず,契約の決定書に交渉の経過の記録は添付されていなかった(乙14,弁論の全趣旨)から,本件委託契約は,同ガイドラインの「運用上の注意等」に反するというべきである。

(イ) 被告は,契約後に,委託目的の範囲内で受託者が裁量を有し,状況に応じて柔軟に対応すべき性質を有する委託契約等については,その契約の性質上,見積書の記載が一定程度包括的になるのもやむを得ない旨主張する。

しかしながら,同ガイドラインの「運用上の注意等」に,契約の性質に応じ例外的な取扱いを認める旨の定めはないから,上記被告の主張は採用できない。

ウ 契約事務規則35条1項との関係

(ア) 同条項本文は,契約書を作成する場合においては,契約の目的,契約金額,履行期限及び契約保証金に関する事項のほか,①契約履行の場所,②契約代金の支払又は納付の時期及び方法,③監督及び検査,④履行遅滞その他義務の不履行の場合における遅延利息,違約金その他の損害金,⑤危険負担,⑥瑕疵担保責任,⑦契約履行の際生ずる第三者との紛争の解決方法,⑧契約解除の要件,⑨その他必要な事項を記載するものとする旨規定するところ,本件委託契約の契約書には,契約保証金,④履行遅滞その他義務の不履行の場合における遅延利息,違約金その他の損害金,⑤危険負担,⑥瑕疵担保責任,⑦第三者との紛争の解決方法に係る記載がなかったことが認められる(乙16)から,本件委託契約は,同条項本文に反するというべきである。

(イ) 被告は,上記各事項が,Hが何らかの債務不履行をした場合に対処する規定であり,本件事業が,教育委員会とHとの間で随時協議をしながら進めていくものであり,Hが債務不履行となることは想定し難いから,同条項ただし書の,契約の性質又は目的により該当のない事項に該当し,上記各事項の記載がないことは,同条項本文に反しない旨主張する。

しかしながら,まず,契約保証金は,地方自治法施行令167条の16により,一定の場合を除いて納付させなければならず,契約締結の際にその取扱いを明確にする必要があることから,契約事務規則35条1項ただし書によりその記載を省略することは,想定されていないと解される。

また,上記のその余の事項について,同条項ただし書によりその記載を省略することができるか検討するに,被告が主張する本件事業の上記性質を考慮してもなお,④履行遅滞その他義務の不履行の可能性,⑤危険負担及び⑥瑕疵担保責任が問題となる可能性,⑦第三者との紛争が生ずる可能性がないとはいえず,同条項ただし書の定める場合には当たらないというべきである。

エ 地方自治法施行令167条の16第1項との関係

同条項は,普通地方公共団体は,当該普通地方公共団体と契約を締結する者をして当該普通地方公共団体の規則で定める率又は額の契約保証金を納めさせなければならない旨規定するところ,本件委託契約においては,そもそも契約保証金の定めがなく,Hは契約保証金を免除されていた(乙16,弁論の全趣旨)。

もっとも,契約保証金は,一定の場合には,その全部又は一部の減免の要件を規則で定めることができると解されるところ,契約事務規則30条6号が,市長は,随意契約により契約を締結する場合において,契約金額が少額であり,かつ,契約の相手方が契約を履行しないと認められることとなるおそれがない場合には,契約保証金の全部又は一部の納付を免除することがある旨規定していることから,本件委託契約についてこれをみるに,本件委託契約の委託料は2000万円と少額とはいえない上,Hが契約を履行しないと認められるおそれがないともいえないから,本件委託契約は,同条号により契約保証金を免除できる場合に該当せず,地方自治法施行令167条の16第1項に反するといわざるを得ない。

被告は,入札保証金の免除について,契約事務規則8条2号が,一般競争入札に参加しようとする者が落札者となったにもかかわらず契約を締結しないこととなるおそれがないと認められるときは免除することがある旨規定し,その場合,予定価格が4億円未満の工事請負契約について入札保証金を免除する運用をしていることから,2000万円という委託料は「少額」といえる旨主張するが,証拠(第2事件甲5)によれば,入札保証金に関しては,過去2年間に同種,同規模の契約を数回以上誠実に履行していること等を資格審査や指名時に確認していることから,上記の免除が行われているのであって,契約保証金をこれと同様に扱うことはできず,上記主張も採用できない。

オ 前金払との関係

(ア) 地方自治法232条の5第2項は,普通地方公共団体の支出は,政令の定めるところにより,前金払(金額の確定した債務について,履行期到来前又は相手方の義務履行前にその全部又は一部の履行をすることをいう。)の方法によりこれをすることができる旨規定し,同法施行令163条2号は,「委託費」について,前金払をすることができる旨規定する。そして,前金払は,金額の確定した債務についてされる必要があり,契約又は法令により定められた金額がその後に変動しないものであることを要すると解される。

上記第2の2(3)オのとおり,本件委託契約の委託料は2000万円とされ,その性質は上記「委託費」に該当すると認められるから,本件委託契約の委託料は,同法232条の5第2項,同法施行令163条2号の定める場合に該当し,前金払は同法232条の4第2項の例外に該当するから,本件委託契約の委託料の支払は,上記のとおり前金払の要件を満たす以上,同条項に反しない。

(イ)a 第1事件原告らは,地方自治法施行規則附則3条1項が,公共工事の前金払について経費の4割を超えない範囲内とし,契約事務規則43条1項が,部分払いの特約をした場合の部分払いの額について,請負契約につき,既済部分の代価に相当する額の10分の9に相当する額の範囲内とする旨規定していることから,全額の前金払は許されない旨主張するようである。

しかしながら,本件委託契約は,公共工事には該当せず,また,部分払いとは,契約の一部の履行がある場合に履行が完了した部分に応じて行う支払方法であって,前金払とは区別されるべきものであるから,上記主張はいずれも採用できない。

b また,第1事件原告らは,本件委託契約が,教材の作成部数が変動していること,同契約の契約書に,委託料に剰余金が生じたときは,協議のうえ,その取扱について決定する旨の定めがあることから,その委託料は金額の確定した債務に当たらない旨主張するが,上記各事情は,いずれも本件委託契約において定めた2000万円という委託料自体を変動させるものとはいえないから,同主張も採用できない。

カ 第1事件原告らのその余の主張について

(ア) 第1事件原告らは,委託契約に添付されるべき仕様書は,明確かつ詳細なものでなければならないところ,本件委託契約に添付された仕様書は,極めて大まかなものにすぎず,いかなる事業を委託するかの詳細が示されていない旨主張するが,そのことが,いかなる財務会計法規に違反するのかが全く主張されておらず,主張自体失当といわざるを得ない。すなわち,仕様書は,一般に,契約内容を具体化し,契約の履行時又は履行確認の際に,解釈の差異などから相手方との紛争が生ずるのを防止するため,具体的に記載されていることが望ましいものの,かかる要請は,契約締結手続の適不適の問題を生ずるにとどまり,財務会計法規上違法であることの根拠となり得るものではないというべきである。

また,第1事件原告らは,第2次監査請求Aの監査結果において,本件委託契約の仕様書の記載事項が全体的にあいまいで仕様書として適切なものとはいい難いとされていることも根拠とするが,住民監査請求は「不当な」財務会計上の行為又は怠る事実をも対象とする(地方自治法242条1項)ものであり,監査結果において不適切と判断されたとしても,それは飽くまでも契約締結手続の適不適に関する判断にとどまるというべきであるから,上記の判断を左右しない。

(イ) 第1事件原告らは,本件委託契約の委託料2000万円が,Fからの3000万円の寄附の申出があり,それに合わせて,契約内容を精査することなく決定されたものである旨主張するが,そのことが,いかなる意味において本件委託契約を違法とするのかが明らかでない上,その点をおいても,上記4(2)クで認定したところによれば,本件事業実施のための経費をIらとHとの協議により調整した後に,Fに対する寄附の依頼を行ったことが認められるから,上記第1事件原告らの主張は理由がない。

キ 小括

以上のとおり,本件委託契約には,随意契約ガイドラインの「運用上の注意等」,契約事務規則35条1項本文,地方自治法施行令167条の16第1項に反する点が認められる。

6  本案の争点②(Aの2000万円の支出負担行為固有の違法性の有無)について

第1事件原告らは,①実際の決定が平成19年1月にされたにも関わらず,決定日及び決済日について平成18年10月10日という虚偽の内容が記載されていること,②決裁権者による決定がされた決定書について,その後担当者限りで加筆修正がされていることなどから,Aの2000万円の支出負担行為が違法である旨主張する。

確かに,上記4(3)のとおり,京都市事務担当者が,①平成19年1月,本件委託契約の委託料2000万円の支出に係る平成18年10月10日付けの支出負担行為書を作成したこと,②本件委託契約の決定書に「案3により経費を支出すること」と加筆し,その後,上記加筆部分を抹消したことが認められるが,上記①は,支出の原因である本件委託契約締結の決定が平成18年10月10日付けでされていたことから同日付けの支出負担行為書が作成されたものであり,上記②は,財務会計システムの事務取扱文書(乙76)の記載に従い,本件委託契約締結の決定書に支出の決定部分を加えたが,別途支出負担行為書を作成することになったため,これを抹消したものであることが認められ,それらの経緯に照らせば,上記各行為は,いずれも適切とはいい難いものの,財務会計法規上支出負担行為を違法とするまでの事情とはいえないというべきである。

7  本案の争点④(損害の有無)について

上記5において検討したとおり,本件委託契約には,随意契約ガイドラインの「運用上の注意等」,契約事務規則35条1項本文,地方自治法施行令167条の16第1項に反する点が認められるが,それらの存在をもって,直ちに契約締結の必要性が失われたり,契約の効力に影響を及ぼしたり,契約の履行としての委託料の支払が制限されるかには疑問を容れる余地がある上,実際に本件委託契約に基づきHが本件事業に関する業務を行ったものと認められること(甲20,乙47)に照らすと,本件委託契約の締結により,京都市に第1事件原告らが主張する損害が発生したとは認められない。

8  本案の争点⑤(本件著作権契約締結の違法性の有無)について

(1)  本件著作権使用料の支払が二重払いに当たるか

ア 著作権法21条ないし26条の3は,著作物をそのままの形で利用する各種の権利を著作者が専有する旨規定し,27条は,著作者が,二次的著作物(著作物を翻訳し,編曲し,若しくは変形し,又は脚色し,映画化し,その他翻案することにより創作した著作物。同法2条1項11号)を創作する権利を専有する旨規定するところ,上記各権利を含む著作権を有する著作権者は,他人に対し,その著作物の利用を許諾することができ,許諾を受けた者は,その許諾(契約)に係る利用方法及び条件の範囲内において,その許諾に係る著作物を利用することができる(同法63条1項,2項)。

上記4(2)カのとおり,本件事業においては,Hからプログラムの提供を受けながらも,京都市ならではの伝統文化や産業,環境保全等の視点を盛り込んだ,独自のプログラム開発を行うことが予定されており,Hが創作した著作物をそのまま利用する場合のほか,それを翻案した著作物を創作する場合にも,著作権者であるHの許諾を必要としたことが認められる。

そこで,本件委託契約に上記の著作物の利用許諾の趣旨が含まれていたかをみると,証拠(乙16)によれば,本件委託契約は,著作物の利用に関する定めを欠いており,上記利用許諾の趣旨は含まれておらず,Hの著作物を翻案した著作物を創作するには,Hの許諾が必要であり,本件委託契約とは別に本件著作権契約を締結する必要があったと認められるから,本件著作権契約に基づく著作権使用料の支払は,本件委託契約との関係で二重払いには当たらないというべきである。

イ 第1事件原告らは,本件事業において,教材やプログラムは無償であったはずだから,著作料を支払う理由がない旨主張するが,翻案を含む著作物使用の許諾は,著作物の譲渡とは区別されるべきものであるから,上記主張は失当である。

(2)  第1事件原告らのその余の主張について

第1事件原告らは,本件著作権契約においては,著作権使用料がなぜ200万円となるかの根拠が全く示されていない旨主張するが,それがいかなる財務会計法規に反するか明らかでない上,著作権を利用する対価は,その著作権者の意向によるところが大きく,その対価の相当性を客観的に根拠付けることが困難であることからすれば,上記の点を本件著作権契約の違法とする上記主張は失当といわざるを得ない。

9  本案の争点⑥(Aの200万円の支出負担行為固有の違法性の有無)について

(1)  地方自治法208条1項は,普通地方公共団体の会計年度は,毎年4月1日に始まり,翌年3月31日に終わるものとし,同条2項は,各会計年度における歳出は,その年度の歳入をもって,これに充てなければならないとし,いわゆる会計年度独立の原則を定めている。また,歳出の会計年度所属に関し,地方自治法施行令143条1項5号は,1号ないし4号に掲げる経費以外の経費の支出は,その支出負担行為をした日,すなわち契約その他の支出の原因となる行為をした日の属する年度とする。

(2)  上記第2の2(3)キ及び上記4(4)において認定したところによれば,本件著作権契約の著作権使用料200万円の支出に係る支出負担行為書は平成19年4月に作成されているが,本件著作権契約は同年3月15日に締結されているから,本件著作権契約に伴う著作権使用料200万円の支出の所属する会計年度は平成18年度であり,上記200万円を同年度の予算から支出することは,会計年度独立の原則に反するとはいえない。

(3)  第1事件原告らは,上記著作権使用料200万円の支出に係る平成19年3月15日付けの支出負担行為書が同年4月に作成されていることなどをもって,平成19年度になって初めて著作権使用料の支払をすることを決めたにもかかわらず,平成18年度の予算に執行残があったため,平成18年度予算からの支出であるかのように上記支出負担行為書を作成したものであって,会計年度独立の原則に違反する旨主張するが,上記(2)のとおり,支出負担行為をした日,すなわち本件委託契約をした日は平成19年3月15日であるから,支出負担行為書の実際の作成日が同年4月であったとしても,会計年度独立の原則には反しないというべきである。

また,著作権使用料200万円の支出に係る同年3月15日付けの支出負担行為書が同年4月に作成されていることについては,支出の原因である本件著作権契約締結の決定(修正を含む。)が同年3月12日付けでされていたことから,上記日付の支出負担行為書が作成されたものと認められ,かかる経緯に照らせば,上記行為は,適切とはいい難いものの,財務会計法規上支出負担行為を違法とするまでの事情とはいえないというべきである。

10  本案の争点⑨(Aによる違法な怠る事実の有無)について

(1)  本件委託契約におけるHの契約違反の有無

ア 本件委託契約7条は,京都市は,Hが同契約に違反したと認める場合には,委託料の一部若しくは全部の返還を請求し,又は同契約を解除することができると定めるところ,上記契約の違反が,委託料の返還請求権の発生原因事実ないし解除権の発生原因事実とされていることからすれば,上記「違反」とは,本件委託契約の委託の範囲(同契約2条)に含まれる事項に不履行があった場合を意味するものと解するのが相当であり,同契約6条の定める報告書の提出に履行遅滞ないし不十分な履行があっても,それらは上記「違反」には該当しないというべきである。

イ そこで,本件委託契約の委託の範囲(同契約2条)に含まれる事項に不履行があったかみると,証拠(乙16)によれば,本件委託契約の委託の範囲を画する仕様書には,「協賛企業が設置する出店ブースの配置その他施設の総合デザイン」,「協賛企業が設置する出店ブース整備の総合調整」等の記載があり,それらの事項が本件委託契約の委託の範囲に含まれていたといえるが,本件全証拠によっても,上記事項を含め,本件委託契約の委託の範囲(同契約2条)に含まれる事項についてHの不履行があったとは認められない。

ウ 第2事件原告らは,京都市が,スチューデントシティ施設及びファイナンスパーク施設に出店する企業に対し,「スチューデントシティブース造作にあたっての留意事項」と題する書面及び「ファイナンスパーク造作にあたっての留意事項」と題する書面を送付したこと(甲22)をもって,「協賛企業が設置する出店ブースの配置その他施設の総合デザイン」,「協賛企業が設置する出店ブース整備の総合調整」を同市が行い,それらについてはHの不履行が認められる旨主張する。

しかしながら,上記各書面は,ブース造作に当たっての関係法令の規制及びブース設営に当たっての注意事項を記載したものにすぎず,これをもって上記各事項を同市が行ったものとまでは認められない。

(2)  その余の第2事件原告らの主張について

ア 「契約の履行確認,検査をしていないことの違法」に係る主張について

(ア) 第2事件原告らは,①本件委託契約において,Hに,仕様の追加等に関する記録,図面・納品記録等履行状況の記録を作成させなかったこと,②Hによる事業報告書,決算報告書の提出の遅滞を放置していたこと,③決算報告において,教材の単価が見積当時の6倍として調整されていること及び④本件委託契約の終了後の検査が行われなかったこと等が,違法である旨主張する。

(イ) しかしながら,そもそも,上記各事実は,Hの契約違反を理由とする本件委託契約に基づく委託料の返還等の請求権との関係では,Hの契約違反を基礎付ける事実とはいえないから,上記主張は失当である。

イ 「決算報告金額の確認資料」(乙46)の問題点に係る主張について

(ア) 「システム構築費」について

第2事件原告らは,本件委託契約においては,57台のパソコンの納品が指示され,同台数分のパソコン代金が委託料に含まれていたにもかかわらず,Hは委託料から21台しか購入せず,残りは協賛企業から寄せられたものを使用した旨主張するが,本件委託契約においては,何台のパソコンを購入するかは契約の具体的な内容となっておらず,パソコン代金に割り振る金額が具体的に定まっていたわけでもないから(乙16),上記事実は,Hの契約違反を構成しないというべきである。

(イ) 「広場・ブース設営」について

第2事件原告らは,本件委託契約において,「広場・ブース設営」を株式会社広進社が施工しており,Hは,本件委託契約8条が禁ずる再委託を行った旨主張する。

本件委託契約8条は,本件委託契約に係る業務の履行を第三者に委託することを制限しているところ,本件委託契約の委託の内容にかんがみれば,同契約において,あらゆる作業をHが自ら行うことが予定されているとは解されず,8条において制限されているのは,契約上の地位に影響を及ぼすような,業務全体の再委託と解するのが相当であり,上記事実は,Hの契約違反を構成しないというべきである。

(ウ) 「教材作成費」,「人件費」について

第2事件原告らは,「決算報告金額の確認資料」における「教材作成費」及び「人件費」に関し,疑問点を指摘するが,それらはいずれもHの契約違反を基礎付ける事実とはいえず,同主張は失当である。

ウ 当初契約にはなかった民間業者のブースを整備したこと及びアメリカからの出張に係る主張について

第2事件原告らは,本件委託契約の仕様書において,区役所,市立病院,上下水道局の内装,装飾品等の整備は本件委託契約の委託内容に含まれていたが,個々の民間企業のブースの整備は委託内容に含まれていなかったにもかかわらず,民間業者2社のブースが同契約の委託料を使用して整備されている旨主張するが,委託料は,本件委託契約において定められたHの受託業務の対価として支払われたものであり,本件委託契約で定められた受託業務が履行されている限り,実際上上記委託料として受領した金員の一部を当初の契約事項ではない事項の費用に充てたとしても,そのことが,当然にHの契約違反を構成するものではない。

また,第2事件原告らは,Hが,JAの本部スタッフを本件委託契約のプログラムの修正のためアメリカから来日させたことに要した費用を同契約の委託料から支出したことを問題とするが,同主張に理由がないことは,上記のブースの整備に関して述べたところと同様である。

(3)  小括

上記のとおり,本件委託契約の委託の範囲(同契約2条)に含まれる事項についてHの不履行があったとは認められず,本件委託契約に基づくHに対する委託料返還等の請求権は発生していないから,その行使を怠る事実も認められない。

11  本案の争点⑫(本件再委託契約締結の違法性の有無)について

(1)  随意契約ガイドライン(見積書関係)との関係

証拠(乙92,93)及び弁論の全趣旨によれば,本件再委託契約について,随意契約ガイドラインの「運用上の注意等」1項が定める詳細な見積書は作成されていなかったから,本件再委託契約は,同ガイドラインの「運用上の注意等」に反するというべきである。

被告は,本件再委託契約は,①平成18年度の本件委託契約の実績から,詳細に明示しなくとも内容を把握できることに加え,②本件委託契約について最終的にどの程度のプログラム修正が必要となるか,ボランティアの応募がどの程度になるかといったことを契約締結時に明記することが困難であったから,その契約の性質上,見積書の記載が一定程度包括的になるのもやむを得ない旨主張する。

しかしながら,上記①のような事情があれば,むしろ詳細な見積書の作成が可能なはずであり,同事情は見積書を包括的なものとする根拠とはならない。また,上記②について,同ガイドラインの「運用上の注意等」に,契約の性質に応じ例外的な取扱いを認める旨の定めはなく,同主張も採用できない。

(2)  契約事務規則35条1項本文との関係

証拠(乙93)によれば,本件再委託契約の契約書には,契約保証金,①履行遅滞その他義務の不履行の場合における遅延利息,違約金その他の損害金,②危険負担,③瑕疵担保責任,④第三者との紛争の解決方法に係る記載がなかったことが認められ,本件再委託契約は,同規則35条1項本文に反するというべきである。

被告は,上記各事項が,Hが何らかの債務不履行をした場合に対処する規定であり,本件事業が,教育委員会とHとの間で随時協議をしながら進めていくものであり,Hが債務不履行となることは想定し難いから,同条項ただし書の,契約の性質又は目的により該当のない事項に該当し,上記各事項の記載がないことは,同条項本文に反しない旨主張するが,かかる主張を採用できないことは,上記5(2)ウ(イ)において説示したところと同様である。

(3)  地方自治法施行令167条の16第1項との関係

証拠(乙93)及び弁論の全趣旨によれば,本件再委託契約においては,そもそも契約保証金の定めがなく,Hは契約保証金を免除されていたところ,本件再委託契約の委託料は500万円と少額とはいえない上,Hが契約を履行しないと認められるおそれがないともいえないから,本件再委託契約は,契約事務規則30条6号により契約保証金を免除できる場合に該当せず,地方自治法施行令167条の16第1項に反するというべきである。

被告は,入札保証金の免除について,契約事務規則8条2号が,一般競争入札に参加しようとする者が落札者となったにもかかわらず契約を締結しないこととなるおそれがないと認められるときは免除することがある旨規定し,その場合,予定価格が4億円未満の工事請負契約について入札保証金を免除する運用をしていることから,500万円という委託料は「少額」といえる旨主張するが,かかる主張を採用できないことは,上記5(2)エにおいて説示したところと同様である。

(4)  前金払との関係

上記第2の2(3)ケのとおり,本件再委託契約の委託料は500万円とされ,その性質は,地方自治法施行令163条2号の「委託費」に該当すると認められるから,本件再委託契約の委託料は,同法232条の5第2項,同法施行令163条2号の定める場合に該当し,前金払は同法232条の4第2項の例外に該当するから,本件再委託契約の委託料の支払は,上記のとおり前金払の要件を満たす以上,同条項に反しない。

第2事件原告らは,地方自治法施行規則附則3条1項が,公共工事の前金払について経費の4割を超えない範囲内とし,契約事務規則43条1項が,部分払いの特約をした場合の部分払いの額について,請負契約につき,既済部分の代価に相当する額の10分の9に相当する額の範囲内とする旨規定していることから,全額の前金払は許されない旨主張するが,かかる主張を採用できないことは,上記5(2)オ(イ)aにおいて説示したところと同様である。

(5)  第2事件原告らのその余の主張について

ア 第2事件原告らは,①本件再委託契約は,前年度の本件委託契約のプログラム修正を含む内容となっていたところ,本来プログラムの修正は,受託者であるHの責任において行われるべきであり,これに公金を支出することは許されない上,②本件再委託契約は,本件委託契約の業務報告書が提出されていない段階で締結されており,プログラムの修正の要否すら検討されずに締結されたものであって,違法である旨主張する。

まず,上記①については,上記4(2)サにおいて認定したとおり,平成18年度の本件事業に係る本件委託契約においては,本件事業の運営推進委員会での評価を踏まえ,プログラムの修正を図っていくことが予定されていたところ,本件委託契約において,プログラムの修正をHの責任において行う旨の記載はなく(乙16),また当該修正作業自体が,本件委託契約の委託内容に吸収できるようなものであったとも認められないから,同主張は理由がない。

また,上記②については,業務報告書の提出がなければプログラムの修正の要否を検討できないとは限らず,業務報告書の提出を受けていないことは,本件再委託契約の委託事項としてプログラムの修正を含んでいることを違法とするものではない。

イ 第2事件原告らは,委託契約に添付されるべき仕様書は,明確かつ詳細なものでなければならないところ,本件再委託契約に添付された仕様書は,極めて大まかなものにすぎず,いかなる事業を委託するかの詳細が示されていない旨主張するが,かかる主張を採用できないことは,上記5(2)カ(ア)において説示したところと同様である。

ウ 第2事件原告らは,本件再委託契約の委託料500万円が,Fからの3000万円の寄附の申出があり,それに併せて,契約内容を精査することなく決定されたものである旨主張するが,かかる主張を採用できないことは,上記5(2)カ(イ)において説示したところと同様である。

エ 第2事件原告らは,Fからの3000万円の寄附金は雑部金として受納されたが,上記寄附金のように特定の事業の実施のための寄附金は会計規則88条の雑部金に該当しないため,雑部金として受納したのは誤りであるとか,同寄附金を本来の収入科目である一般会計の寄附金の費目に入れると,平成18年度の歳出にしか使えず,これを本件再委託契約の委託料に充てることはできない旨主張するが,いずれの主張も,本件再委託契約の締結行為と直接の関係を有しないFからの寄附金の受納手続を論難するものにすぎず,本件再委託契約締結行為の違法事由の主張としては失当である。

(6)  小括

以上のとおり,本件再委託契約には,随意契約ガイドラインの「運用上の注意等」,契約事務規則35条1項本文,地方自治法施行令167条の16第1項に反する点が認められる。

12  本案の争点⑭(損害の有無)について

上記11において検討したとおり,本件再委託契約には,随意契約ガイドラインの「運用上の注意等」,契約事務規則35条1項本文,地方自治法施行令167条の16第1項に反する点が認められるが,それらの存在をもって,直ちに契約締結の必要性が失われたり,契約の効力に影響を及ぼしたり,契約の履行としての委託料の支払が制限されるかには疑問を容れる余地がある上,実際に本件再委託契約に基づく業務をHが行わなかったことをうかがわせる証拠もないことに照らすと,本件再委託契約の締結により,京都市に第2事件原告らが主張する損害が発生したとは認められない。

13  本案の争点⑮(Bによる不法行為の有無)について

(1)  Cの違法な専決処分を看過したことについて

第2事件原告らは,Cによる本件再委託契約の締結の違法を前提として,Bは,専決者による専決処理の状況について常に注意を払い,事務処理の厳正な管理に努めるべき義務があったにもかかわらず,これを怠ったことが不法行為である旨主張する。

確かに,京都市における専決規程運用通達(乙38)によれば,専決者の上司は,専決者による専決処理の状況について常に注意を払い,事務事業の厳正な進行管理に努めることとされており,Cの上司(教育長)であったBも上記のような地位にあったことが認められる。

しかしながら,上記専決規程運用通達の定めから,Bが,具体的にいかなる法的義務を負うことになるかは明らかでなく,上記第2事件原告らの主張によっても,Bの具体的な不法行為の内容を特定することはできないから,不法行為の主張としては失当といわざるを得ない(のみならず,Cによる本件再委託契約の締結行為により同市に損害が生じたとはいえないことは上記12のとおりであって,Bの不作為により,同市の権利又は法的に保護すべき利益が侵害されたともいえない。)。

(2)  本件委託契約の委託料の返還等の請求権を行使させるべき義務を懈怠したことについて

第2事件原告らは,Hに本件委託契約の契約違反があったことを前提として,Bは,専決者の事務処理を厳正に管理すべき義務があり,平成19年11月22日の時点で,本件委託契約に契約違反があることを把握したから,専決者(A)に対し,Hに対する委託金返還等の請求権を行使させる義務を負っていたにもかかわらず,これを怠ったことが不法行為である旨主張する。

しかしながら,Hに本件委託契約の契約違反があったと認められないことは上記10において説示したとおりであり,上記第2事件原告らの主張はその前提を欠くというべきである。

14  結論

以上によれば,本件訴えのうち,第2事件の原告Ⅰ,同Ⅱ,同Ⅲ,同Ⅴ,同Ⅵ及び同Ⅶの請求に係る訴えは,いずれも不適法なものであるから却下し,本件訴訟のうち,原告Ⅳの請求に係る部分については,同人の死亡による訴訟の終了を宣言することとし,原告らのその余の請求はいずれも理由がないから棄却する。

(裁判長裁判官 瀧華聡之 裁判官 梶山太郎 裁判官 高橋正典)

(別紙1~12省略)

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