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京都地方裁判所 平成2年(ワ)594号 判決 1998年9月11日

原告

X1

外一名

原告ら訴訟代理人弁護士

脇田喜智夫

莇立明

被告

Y2

右訴訟代理人弁護士

小越芳保

滝澤功治

右訴訟復代理人弁護士

津久井進

被告

Y1

右訴訟代理人弁護士

中村誠

右訴訟復代理人弁護士

神谷孝司

被告

Y3

亡A遺言執行者

被告

Y4

主文

一  原告らの主位的請求をいずれも棄却する。

二  被告亡A遺言執行者Y4は原告X1に対し九四七万五四〇九円を支払え。

三  被告Y2及び被告Y1は原告X1に対し別紙目録(二)二記載の不動産について昭和六三年四月一一日遺留分に基づく減殺請求を原因とする持分三億九四〇〇万三八五七分の三一一八万三四六九の所有権移転の登記手続をせよ。

四  原告X1と被告Y2及び同Y1との間で、原告X1が、別紙目録(四)第二(<省略>)記載の各財産について三億九四〇〇万三八五七分の三一一八万三四六九の各共有持分権を有すること及びA合名会社に対する持分払戻請求権について三一九万五〇八七円の持分払戻請求権を有することをそれぞれ確認する。

五  原告X1に対し、被告Y1は一三二七万八三八三円及びこれに対する昭和六三年四月一一日から完済まで年五分の割合による金員を、被告Y2は九八三万八二三五円及びこれに対する昭和六三年四月一一日から完済まで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

六  被告Y3は原告X1に対し一九三五万一一〇八円及びこれに対する平成七年一〇月一三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

七  原告X2の予備的請求、原告X1のその余の予備的請求をいずれも棄却する。

八  訴訟費用はこれを三分し、その二を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

九  この判決は、第二、五、六項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  主位的請求の趣旨

1  被告Y2、同Y1は、原告X2に対し、別紙目録(一)一記載の不動産について神戸地方法務局三田出張所昭和五八年五月二五日受付第八〇九二号の所有権移転登記(共有者持分二分の一X2、持分二分の一A)を、同目録(一)二記載の不動産について同出張所同日第八一四四号の所有権移転登記(共有者持分二分の一X2、持分二分の一A)をいずれも原告X2の全部所有権移転登記と更正する旨の各登記手続をせよ。

2  原告X1と被告亡A遺言執行者Y4、同Y2及び同Y1との間で、被告Y3作成にかかる遺言者Aの昭和六二年二月一五日付死亡危急時遺言は無効であることを確認する。

3  被告Y3は原告X1に対し九二二二万六二八四円及びこれに対する昭和六三年三月二九日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は被告らの負担とする。

5  3項及び4項について仮執行の宣言。

二  予備的請求の趣旨

1  被告亡A遺言執行者Y4は、原告X2に対し、別紙目録(一)一記載の不動産について神戸地方法務局三田出張所昭和五八年五月二五日受付第八〇九二号の所有権移転登記(前同)及び同目録(一)二記載の不動産について同出張所同日受付第八一四四号の所有権移転登記(前同)をいずれも原告X2の全部所有権移転登記と更正する旨の各登記手続をせよ。

2  被告亡A遺言執行者Y4は原告X1に対し三〇〇〇万円及びこれに対する昭和六二年二月二四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

3  被告Y2及び同Y1は原告X1に対し、別紙目録(二)記載の各不動産についていずれも昭和六三年四月一一日遺留分に基づく減殺請求を原因とする持分六億六二四五万四〇七八分の一億〇七九四万三五四四の所有権移転の各登記手続をせよ。

4  原告X1と被告Y2及び同Y1との間で、原告X1が別紙目録(四)第二記載の各財産について六億六二四五万四〇七八分の一億〇七九四万三五四四の割合の各共有持分権を有すること及びA合名会社に対する持分払戻請求権について六六七万四二二五円の持分払戻請求権を有することをそれぞれ確認する。

5  原告X1に対し、被告Y1は三二七八万一四〇三円及びこれに対する昭和六二年四月一一日から完済まで年五分の割合による金員を、被告Y2は二一二八万五三四八円及びこれに対する昭和六二年四月一一日から完済まで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

6  被告Y3は原告X1に対し四五〇八万三四二一円及びこれに対する平成七年一〇月一三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

7  訴訟費用は被告らの負担とする。

8  2項、5項ないし7項について仮執行の宣言。

三  主位的請求の趣旨に対する答弁

1  主文第一項と同旨。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

四  予備的請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  主位的請求原因

1  当事者

原告X1は亡Aの次女、原告X2は原告X1の夫である。被告Y2は亡Aの長女、被告Y1は亡Aの長男である。Y5は被告Y2の夫、Bは亡Aの内妻だった者である。

亡Aは昭和六二年二月二三日に死亡した。同人の法定相続人は、被告Y2、原告X1及び被告Y1の三名である。

被告Y3は亡Aの死亡危急時遺言において亡Aの遺言執行者に指定され、平成七年四月七日京都家庭裁判所において審判により遺言執行者の任務を辞することを許可された者である。被告亡A遺言執行者Y4(以下「被告遺言執行者」という。)は平成七年一〇月一六日同裁判所において審判により選任された亡Aの遺言執行者である。

2  更正登記請求

(一) 原告X2は昭和五七年一二月一四日に兵庫県住宅供給公社との間で、同公社から別紙目録(一)記載の各不動産(以下「本件不動産」という。)を代金三二三九万円で買い受ける旨の分譲住宅譲渡契約を締結し、内金九九〇万円について住宅金融公庫から融資を受けた上で、残金四〇〇万円を契約締結時に、一八四九万円を昭和五八年三月一〇日までに同公社に支払い、同年三月に同公社から本件不動産の引渡し等を受けた。

代金の一部の一八四九万円のうち一二一九万五四〇〇円は亡Aが原告X1に資金援助として贈与したものであるが、その余は住宅ローンで原告両名が用意したものであり、亡Aが本件不動産の共有持分権を有したことはない。

(二) しかし、本件不動産について、主位的請求の趣旨第1項掲記の各所有権移転登記(共有者持分二分の一X2、持分二分の一A)(以下「本件登記」という。)が存在する。

本件登記は、原告X1が亡Aから贈与を受けた金員につき贈与税が課税されるのを防ぐために、同人の助言と承諾の下に行ったものであり、実体に反する無効の登記である。

(三) よって、原告X2は、被告Y2及び同Y1に対し、本件不動産の所有権に基づいて本件登記を原告X2の全部所有権移転登記に更正する旨の各登記手続を求める。

3  遺言無効確認請求

(一) 被告Y3、C、D、E及びFを立会証人とし、亡Aが被告Y3に対し口授して作成されたとする、昭和六二年二月一五日付けの亡Aの死亡危急時遺言(以下「本件遺言」という。)が存在する。

(二) 本件遺言の内容は以下のとおりである。

「被相続人Aは重態で死亡の危険が切迫していたため、本日、桂病院七号室において次の通り証人らに申し述べ証人Y3がこれを記した。

一、相続財産のうち金三千万円及びX1居住の三田の住居の被相続人持分二分の一をX1に相続させる。

二、相続財産のうち金五千万円をBに慰謝料として相続させる。但し、被相続人の生前に右五千万円をB氏に慰謝料として交付してもよい。その場合には相続分はB氏にはない。

三、残りの相続財産は二分し、その各々をY1及びY2に相続させる。

四、右遺産の管理及び遺言の執行人を弁護士Y3に指定する。更に弁護士Y3は遺産の税務処理についての措置も管理するものとする。

五、不分明な点がでてきた時にはY1、Y2及びX1が各々仲良く弁護士Y3と相談して決定する。

六、先祖の回向についてはY1がこれを承継し引きつぐものとする。

七、園部町若松町の診療所と土地及び本屋敷の前の土地はY1に相続させる。三にいう残りの相続財産は七の二つの不動産を差引いたものである。

八、更にY2のワリコクも名前がいろいろむちゃくちゃなので、みんなで仲良く話し合ってわけてほしい。京セラのY1の株は費用がかからないで余る場合には、そのままY1のものにしておいてほしい。」

(三) 本件遺言は以下の理由により無効である。

(1)  本件遺言には亡Aが被告Y3に遺言の内容を口授した旨の記載があるが、亡Aは被告Y3に遺言を口授していない。

(2)  亡Aは本件遺言当時、言語による表意の機能を疾病により妨げられていたのであり、口授能力が欠如していた。

(3)  本件遺言は、被告Y3が被告Y1又は同Y2の意を受けて予め作成しておいた書面であって、亡Aが発語した内容を筆記したものではない。

(4)  亡Aは本件遺言の当時、疾病により心身喪失状態にあり、遺言能力を欠如していた。

(5)  被告Y3は、本件遺言作成の際、証人らに本件遺言を読み聞かせていない。

(6)  本件遺言は以下の無効の条項を含んでおり、他の条項もこれらの条項を前提とし、また相互の矛盾を含むものであるから、全体として論理的な構造を欠如する無効なものである。

ア 第一項後段(三田の住居に関する部分)は、相続開始時に亡Aに属していない財産である本件不動産を遺産分割の対象にするものである。

イ 第二項は、亡Aの配偶者でもなく法定相続人でもないBが相続人であるとの誤認に基づくものである。同項の「相続させる」「相続分は……ない」との文言からは、これを遺贈の趣旨と解することは不可能である。

ウ 第三項は、右理由により無効である第一項及び第二項を前提とするものである。

エ 税務処理に関する第四項後段及び遺訓の類の第五項は、法定遺言事項ではない。

オ 第八項は、第一、二項記載の財産を除いた残りの相続財産を二分して被告Y1と同Y2に相続させるとの内容の同三項と矛盾対立する内容になっている。

(四) よって、原告X1は、本件遺言の執行者である被告遺言執行者、亡Aの相続人である被告Y2及び同Y1との間で、本件遺言が無効であることの確認を求める。

4 被告Y3に対する損害賠償請求

被告Y3は、本件遺言第四項により遺言執行者に指定された者であるが、本件遺言は右に述べたとおり無効であるから、被告Y3は亡Aの相続財産に関し、何らの処分権限も有していなかったことに帰する。

にもかかわらず、被告Y3は、亡A遺言執行者名義を用いて同人のの遺産である預貯金、有価証券及び動産を昭和六二年二月二四日から特に同年四月ころから昭和六三年三月二八日までに少なくとも二億七六六七万八八五三円の解約及び換価処分行為を行った。

これにより、原告X1は右換価額の三分の一に相当する九二二二万六二八四円の損害を受けた。

よって、原告X1は被告Y3に対し、不法行為に基づく損害賠償として九二二二万六二八四円及びこれに対する最終の不法行為時の後である昭和六三年三月二九日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二 予備的請求の原因

仮に本件遺言が有効であるとしても、原告X2及び原告X1は以下のとおりの請求権を有する。

1 当事者

主位的請求原因1と同じ。

2 更正登記請求

(一) 主位的請求原因2(一)(二)と同じ。

(二) よって、原告X2は、被告遺言執行者に対し、本件不動産の所有権に基づいて本件登記を原告X2の全部所有権移転登記に更正する旨の各登記手続を求める。

3 三〇〇〇万円の支払請求

原告X1は本件遺言第一項に基づいて相続開始時である昭和六二年二月二三日に現金三〇〇〇万円を取得した。

よって、原告X1は被告遺言執行者に対し、本件遺言に基づいて三〇〇〇万円及びこれに対する相続開始の翌日である昭和六二年二月二四日から民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

4 遺留分減殺請求による移転登記請求

(一) 遺留分算定の基礎となる財産

(1)  亡Aが相続開始時に有していた財産

亡Aが相続開始時に有していた財産は、別紙目録(二)ないし(四)記載のとおりであり、その合計価額は七億五三六二万七六七八円である。

ア 亡A名義の不動産(別紙目録(二))

各不動産の相続開始時の価額は、同目録一記載の土地が五六九四万四八〇〇円、同目録三記載の土地が一億三八〇七万五〇〇〇円、同目録四記載の土地が三四〇二万円であり、合計二億二九〇三万九八〇〇円以上である(昭和六二年度の各路線価を三倍して求めた。)。

イ A合名会社に対する持分払戻請求権(同(三))

亡AのA合名会社に対する持分払戻請求権は、同人がA2から相続した一七五五万円及びA3から相続した二三四一万円の合計四〇九六万円である。

右持分の評価額は、別紙目録(三)記載のA合名会社名義の各不動産の価額に等しいものと評価すべきである。

各不動産の相続開始時の価額は、目録(三)一記載の土地が九八〇万六六四〇円、同目録二記載の土地が六五四五万二八六〇円、同目録三記載の建物が一一二一万円(但し、灯籠、庭石等を含む。)、同目録四記載の建物が一四四万円であり、合計八七九〇万九五〇〇円(土地の各価額は昭和六二年度の各路線価を三倍して求め、建物については京都家庭裁判所昭和五九年(家)第三二九〇号、第三二九一号、第三二九二号、昭和六一年(家)第三二八五号各遺産分割申立事件審判における評価額によった。)。

ウ その余の預貯金、有価証券等(同(四))

(2)  債務(同(五))

亡Aが相続開始時に有していた債務は、別紙目録(五)記載のとおりであり、その合計価額は六一一七万三六〇〇円である。

(3)  生前贈与財産(同(六)ないし(八))

ア 亡Aは、被告Y2に対し、婚姻のため又は生計の資本として、昭和四八年から昭和六〇年にかけて別紙目録(六)記載の各財産(価額合計一億四五四〇万一一八五円)を贈与した。

イ 亡Aは、被告Y1に対し、婚姻のため又は生計の資本として、昭和四九年から昭和六一年にかけて別紙目録(七)記載の各財産(価額合計七一七八万三〇〇〇円)を贈与した。

ウ 亡Aは、原告X1に対し、婚姻のため又は生計の資本として、別紙目録(八)記載の金員(合計は一六三九万五四〇〇円)の贈与をした。

(4)  したがって、右(1)から(2)を控除し、(3)を加えた九億二六〇三万三六六三円が遺留分算定の基礎となる財産の価額である。

(二) 本件遺言の内容

本件遺言は第一項で「金三千万円を……X1に相続させる」とした上で、第三項で「残りの財産は二分し、その各々をY1及びY2に相続させる。」、第七項で「園部町若松町の診療所と土地及び本屋敷の前の土地はY1に相続させる。」とし、現金三〇〇〇万円及び被告Y1に相続させる土地建物を除くその余の遺産について、被告Y2二分の一、同Y1二分の一の割合での指定相続分を伴う遺産分割方法を指定した。

(三) 別紙目録(二)一、三及び四記載の各不動産について京都地方法務局園部支局平成二年一月二四日受付第五四〇号(右一、四について)、第五三九号(右三について)で被告Y2、原告X1及び被告Y1の共有持分をそれぞれ三分の一とする登記が、同目録二記載の不動産については同支局昭和三六年七月二一日受付第一六八六号で亡A名義の登記が、それぞれ存在する。

(四) 原告X1の遺留分侵害

原告X1の遺留分は、(一)で算出した九億二六〇三万三六六三円に六分の一を乗じた一億五四三三万八九四四円から、同原告が亡Aから生前贈与を受けた別紙目録(八)記載の一六三九万五四〇〇円を控除した一億三七九四万三五四四円である。

このうち、同原告が本件遺言に基づいて取得するのは三〇〇〇万円であるから、差額の一億〇七九四万三五四四円について、同原告の遺留分が侵害されていることになる。

つまり、同原告は相続財産(前記(一)(1)から同(2)を控除した価額)六億九二四五万四〇七八円から同原告が取得する三〇〇〇万円を控除した残余の六億六二四五万四〇七八円のうち、一億〇七九四万三五四四円の遺留分を有するものである(以下、六億六二四五万四〇七八分の一億〇七九四万三五四四を「本件遺留分割合」という)。

したがって、原告X1は、亡Aの個別財産について本件遺留分割合の共有持分権を有する。

(五) 原告X1は、京都家庭裁判所昭和六二年(家イ)第一三七六号遺産分割調停事件継続中の昭和六三年四月一一日に当時亡A遺言執行者であった被告Y3に対し遺留分減殺請求をする旨の意思表示をした。

(六) よって、原告X1は、被告Y2及び同Y1に対し、遺留分減殺請求権に基づいて別紙目録(二)記載の各不動産についてそれぞれ昭和六三年四月一一日遺留分に基づく減殺を原因とする六億六二四五万四〇七八分の一億〇七九四万三五四四の所有権移転登記を求める。

5 未処分遺産に対する共有持分権の確認請求権等

原告X1は予備的請求原因4(一)、(二)、(三)、(四)、(五)のとおり、遺留分減殺請求権を行使した結果、別紙物件目録(四)第二記載の各財産について本件遺留分割合の共有持分権及びA合名会社に対する持分払戻請求権四〇九六万円のうち遺留分割合に相当する六六七万四二二五円の持分払戻請求権をそれぞれ取得した。

よって、原告X1は、被告Y2及び同Y1に対し、別紙目録(四)第二記載の未処分遺産についてそれぞれ六億六二四五万四〇七八分の一億〇七九四万三五四四の共有持分権を有すること及びA合名会社に対する持分払戻請求権のうち六六七万四二二五円の持分を有することの確認をそれぞれ求める。

6(一) 相続開始時に存在した現金

(1)  5と同様、原告X1は、遺留分減殺請求権行使の結果、亡Aが相続開始時に自宅金庫内に所有していた現金六六八七万六九四七円から原告X1が相続分の指定を受けた三〇〇〇万円を控除した三六八七万六九四七円のうち、遺留分割合に相当する六〇〇万八九一二円を取得した。

(2)  本件遺言による被告Y2の取得分の価額は、相続財産六億九二四五万四〇七八円から、遺言に基づいて被告Y1が取得する土地建物の価額一億九五〇一万九八〇〇円及び原告X1が取得する三〇〇〇万円を除いたその余の財産の二分の一である二億三三七一万七一三九円であり、被告Y1の取得分の価額はこれに同被告の取得不動産価額を加えた四億二八七三万六九三九円である。

そして、被告Y1の遺留分額は九億二六〇三万三六六三円に六分の一を乗じた額である一億五四三三万八九四四円から同人の特別受益である七一七八万三〇〇〇円を控除した八二五五万五九四四円であり、被告Y2の遺留分額は、九億二六〇三万三六六三円に六分の一を乗じた額である一億五四三三万八九四四円から同被告の特別受益である一億四五四〇万一一八五円を控除した八九三万七七五九円である。

したがって、両被告の取得分の遺留分からの超過額は、被告Y1が三億四六一八万〇九九五円、被告Y2が二億二四七七万九三八〇円である。

(3)  原告X1の遺留分侵害額について被告Y1と同Y2は三億四六一八万〇九九五対二億二四七七万九三八〇の割合で負担すべきであるから、前記六〇〇万八九一二円のうち、被告Y1は金三六四万三二八五円、同Y2は金二三六万五六二七円を、それぞれ負担することになる。

(二) 価額弁償請求

本件遺言は別紙目録(四)第一記載の各財産を被告Y1と被告Y2とが各二分の一宛取得する旨定めているが、5と同様、原告X1は同遺産についても本件遺留分割合で共有持分権を有するに至ったものであるから、同目録(四)第一のうち一記載の現金を除いた二億九四九三万二九八二円のうち、本件遺留分割合による四八〇五万七八三九円について、前記負担割合により被告Y1が二九一三万八一一八円、被告Y2が一八九一万九七二一円をそれぞれ原告X1に支払う義務がある。

(三) よって、原告X1は、被告Y1に対して、遺留分減殺請求権に基づく返還請求として現金三六四万三二八五円及び価額弁償請求による二九一三万八一一八円の合計三二七八万一四〇三円、被告Y2に対し現金二三六万五六二七円及び価額弁償請求による一八九一万九七二一円の合計二一二八万五三四八円及びこれらに対する遺留分減殺請求の日である昭和六三年四月一一日から完済まで民法所定年五分の割合による各遅延損害金の支払いを求める。

7 被告Y3に対する損害賠償請求

(一) 同被告は、亡Aの相続開始後同人の遺産である(1)別紙目録(四)第一の二記載の郵便貯金、(2)同三1記載の京都中央信用金庫本店における亡A名義の普通預金(ただし、金額は四五五万一八九七円)、(3)同三6、7記載の園部町農業協同組合における亡A名義の普通預金、(4)同八記載の割引国債、(5)同四記載の郵便定額貯金、(6)同五1記載の京都信用金庫園部支店における定期預金、(7)同七記載の株式、(8)同九記載のヨット、(9)同六1から7(東京証券)、(10)同六8及び9(三洋証券)、(11)10(西村証券)の各証券投資信託の各財産を管理するに至ったが、昭和六二年二月二四日に(1)(2)(3)の払い戻しを受け、同年四月九日に(4)を換価処分して代金を受領し、同年五月一日に(5)の払い戻しを受け、同月八日に(6)の払い戻しを受け、同年七月九日に(7)を売却しその代金を受領し、同年八月六日に(8)を売却しその代金を受領し、昭和六三年三月一八日に(9)を換価処分し一三七八万一六六九円を受領し、同月二六日に(10)を換価処分し九三四万七七四九円を受領し、同月二八日に(11)を換価処分し九三四万九六七八円を受領した。

そして、被告Y3はその後右の払い戻し金額、換価代金等の二億七六六七万八八五三円の中から相続債務、自らの報酬(昭和六三年一月三〇日の四五〇万円等)などの支払をしたとし、平成五年ころまでにその残額(ただし、三〇〇〇万円及びその利息を除く。)を被告Y2及び同Y1に交付した。

(二) ところで、本件遺言について昭和六二年四月一〇日に民法九七六条に基づく家庭裁判所による確認の審判(甲第三九号証の二)が、昭和六二年六月二二日に民法一〇〇四条に基づく家庭裁判所による検認の審判がそれぞれ行われたのであるから、同日までの被告Y3による前項の遺産の処分行為は民法九七六条二項、民法一〇〇五条にも違反し違法である。

また、被告Y3は昭和六二年六月二一日まで原告X1に対し遺産目録(甲第三四号証)の交付をせず、その間に預貯金や株式等有価証券類のかなりの部分を処分したが、これらの処分行為は民法一〇一一条一項にも違反し違法である。

(三) 本件遺言第三項によっては同項の「残りの相続財産」を構成する個別財産の権利移転の効力は生じず、相続人の遺産分割協議・審判を待って初めてその効力が生じるものであり、かつ本件遺言が遺言執行者に遺産分割の実行まで委ねたものでないことは文言上明かである。したがって、被告Y3は亡Aの遺言執行者として本件遺言第三項の「残りの相続財産」について処分する権限及び被相続人の債務を支払う権限はなく、善管注意義務をもって右遺産分割協議・審判のなされるまでその管理を継続し、また原告X1がなした減殺請求にしたがった遺産分割が実現するまでこれを管理保全する義務があった。

本件相続について昭和六二年九年一九日付で申立てられた遺産分割調停は遺産分割未了のまま平成二年二月に終了し、また原告X1は当時亡A遺言執行者の被告Y3に本件遺産の処分について同意をしたことはない。

被告Y3と原告X1は既に昭和六二年四月ころから決裂、対立関係に入っていたものであるから遅くとも同月ころには同原告が遺留分減殺請求を行うことは充分予見し得た。

したがって、被告Y3が亡A遺言執行者名義を用いて昭和六二年二月二四日(特に同年四月ころ)から昭和六三年三月二八日までに行った前記二億七六六七万八八五三円の解約、換価処分行為等は同被告の職務権限を逸脱する行為であり、かつ原告X1に無断でしたものであるから違法なものである。

(四) 被告Y3が亡A遺言執行者名義の口座を開設したのは、昭和六三年三月九日になってからのことであり、一年以上もの間、亡Aの相続財産は被告Y3の財産と区別されない状態で同人の管理を受けてきたのであるから、同人は本件相続財産の管理にあたり、これを分別管理すべき義務を怠った注意義務違反がある。

(五) 本件遺言には報酬に関する定めがないから、被告Y3は遺言執行者としての報酬を家庭裁判所による報酬付与審判を受けた上で、遺言執行終了の時点で初めて請求できるにすぎないにもかかわらず、昭和六三年一月三〇日付で亡Aの相続財産の中から弁護士費用着手金一部の名目で四五〇万円を違法に取得した。

(六) 原告X1は被告Y3の以上の一連の行為により二億七六六七万八八五三円のうち原告X1の遺留分割合に相当する金額である四五〇八万三四二一円の損害を受けた。

(七) よって、原告X1は被告Y3に対し不法行為に基づく損害賠償として四五〇八万三四二一円及びこれに対する不法行為時の後である平成七年一〇月一三日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

四 主位的請求の原因に対する認否

1 被告Y2及び被告Y1

(一) 請求原因1の事実は認める。

(二) 同2(一)の事実のうち、本件不動産の売買代金のうち一二一九万五四〇〇円を亡Aが原告X1に贈与したことは否認し、その余は知らない。

同(二)の事実のうち、本件不動産について本件登記が存在することは認め、その余は知らない。

(三) 同3(一)(二)の各事実は認める。

同(三)(1)ないし(5)の各事実は否認し、(6)は争う。

2 被告Y3

(一) 請求原因1の事実は認める。

(二) 同3(一)(二)の各事実は認める。

(三) 同4の事実のうち、被告Y3が本件遺言第四項により遺言執行者に指定された者であることは認め、本件遺言が無効であることは争う。

3 被告遺言執行者

(一) 請求原因1の事実は認める。

(二) 同3(一)の事実のうち、E及びFが本件遺言の作成の場に立ち会ったことは知らない、その余は認める。

同(二)の事実は認める。

同(三)(1)ないし(5)の各事実は否認し、(6)は争う。

五 予備的請求の原因に対する認否

1 被告Y2

(一) 請求原因1の事実は認める。

(二)(1) 同4(一)(1)の冒頭の事実のうち、亡Aが相続開始時に別紙目録(二)及び(三)記載の財産を有していたことは認め、その余は否認する。

ア 同(1)アの事実は否認する。

イ 同(1)イの第一段、第二段の事実は認める。同第三段の事実のうち、別紙目録(三)三記載の建物(但し、灯籠、庭石等を含む。)の相続開始時の価額が一一二一万円であることは認め、その余は否認する。

ウ 同(1)ウは争う。

別紙目録(四)第一の一現金1から4の合計と5から10の合計は重複するもので、いずれかが存在したにすぎない。同1の一〇〇〇万円は亡Aの相続開始時には存在しなかった(Bに支払済)。同目録第一の三5の普通預金のうち五〇〇万円、同10のうち三〇〇万円は亡Aの生前に払い戻され、Bに支払われたものである。

(2)  同(2)は争う。

別紙目録(四)第一の二の郵便貯金、同三の普通預金、同四1、2の郵便貯金(定額)を積極財産から控除して、その分葬式費用を計上しないのが相当である。Bに対する債務額は三二〇〇万円である。

(3)ア  同(3)アの事実のうち、被告Y2が亡Aから婚姻のため又は生計の資本として別紙目録(六)記載の各財産のうち、一、一一、一三、一四、六五ないし六八及び九〇を贈与されたことは認め、その余は否認する。

同目録中、二八を受領したことはあるが、労務の対価としてである。

同五一について、そのころY5が亡Aから洋服一着を受領したことはあるが、通常の社交儀礼の範囲内である。

同八一及び八四を受領したことはあるが、その後返還した。

イ  同イの事実のうち、被告Y1が亡Aから婚姻のため又は生計の資本として別紙目録(七)記載の各財産のうち一ないし五を贈与されたことは認める。

ウ  同ウの事実は否認する。原告X1は亡Aから婚姻のため又は生計の資本として次のとおり合計三〇九六万一九一八円に上る贈与を受けた。

結婚関係費用

一一五五万〇〇〇〇円以上

現金 六一一万一六〇八円

その他の金品

一三三〇万〇三一〇円以上

その内訳は別紙「X1特別受益一覧表」のとおりである。

(4)  同(4)の事実は否認ないし争う。

(三) 同4(二)、(三)及び(五)の各事実は認め、同(四)は争う。

2 被告Y1

(一) 請求原因1の事実は認める。

(二)(1) 同4(一)(1)及び(2)の事実は否認ないし争う。別紙目録(四)記載の財産の存否に関する主張は別紙「預貯金等の存否の認否一覧表」のとおりである。

(2)ア 同(3)アの事実は知らない。

イ 同イの事実は否認する。

被告Y1は亡Aから次のとおり贈与を受けた。

学費 二三五二万三〇〇〇円

生活費 八四〇万〇〇〇〇円

自動車 七二〇万〇〇〇〇円

自動車関係費用一五〇万〇〇〇〇円

結婚費用関係 四五〇万〇〇〇〇円

合計 四五一二万三〇〇〇円

右贈与は、亡Aの生前の収入及び家庭事情から見て当然の扶養の範囲内として行われたものであり、特別受益にはあたらない。

ウ 同ウの事実は否認する。原告X1は亡Aから、婚姻のため又は生計の資本として、少なくとも二七七六万一九一八円(被告Y2の主張する「X1特別受益一覧表」二枚目の三七一五万七三一八円から別紙目録(一)の三田の住宅分の一二一九万五四〇〇円を除いたものに丙第七号証の二八〇万円を加えたもの)の贈与を受けた。

(3)  同(四)は否認ないし争う。

(三) 同4(二)、(三)及び(五)の各事実は認め、同(四)は争う。

3 被告Y3

(一) 請求原因1の事実は認める。

(二)(1) 同7(一)の換価処分行為は、被告Y3が亡Aの意志に従い相続人全員の同意のもとに行ったものであり、違法ではない。

(2)  同(二)の事実のうち、本件遺言について昭和六二年四月一〇日に民法九七六条に基づく家庭裁判所による確認の審判(甲第三九号証の二)が、昭和六二年六月二二日に民法一〇〇四条に基づく家庭裁判所による検認の審判がそれぞれ行われたことは認め、その余は争う。被告Y3は昭和六二年五月一五日に原告X1に目録を交付しており、原告X1から催促を受けたこともない。

(3)  同(三)の事実は否認する。原告X1は昭和六二年六月二二日までは被告Y3に信頼をおいて換価処分に同意を与えていた。

(4)  同(四)の事実のうち、被告Y3が亡A遺言執行者名義の口座を開設したのが昭和六三年三月九日になってからのことであったことは認め、その余は争う。当初、税金対策のために売却名義や預金の明示化を避けていたものである。

(5)  同(五)の事実のうち、本件遺言に報酬に関する定めがないこと、被告Y3が昭和六三年一月三〇日付でAの相続財産の中から弁護士費用着手金一部の名目で四五〇万円を取得していることは認め、その余は争う。

本件は、何ら費用・着手金も受けとらないまま、緊急に進行した事件である。被告Y3は、亡Aから、着手金費用報酬については最高限度の金員を先に確保してやってほしいと要請されていた。

(6)  同(六)の事実は争う。

4 被告遺言執行者

(一) 請求原因1の事実は認める。

(二) 同2(一)の事実のうち、本件不動産の売買代金のうち一二一九万五四〇〇円を亡Aが原告X1に贈与したことは否認し、本件不動産について本件登記が存在することは認め、その余は知らない。

(三) 同3の事実は認める。

六 被告遺言執行者の抗弁(予備的請求原因3に対し)

1 被告遺言執行者は、平成八年一月一一日に亡Aの前遺言執行者であった被告Y3から本件遺言第一項記載の三〇〇〇万円及びこれに対する利息金の合計三五七〇万七八一四円の引渡を受け、平成八年七月三〇日に原告X1に対し、本件遺言に基づいて三〇〇〇万円を同人の指定する預金口座に振込送金する方法により支払い、その際、同月三一日に原告X1に対し右三〇〇〇万円を元本に充当する旨の意思表示をした。

2 したがって、それ以前の遅延損害金については被告遺言執行者に支払い義務はない。

七 抗弁に対する認否

抗弁1の事実は認める。

第三  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証及び証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  主位的請求原因について

1  請求原因1の事実は全当事者間に争いがない。

2  請求原因3(遺言無効確認請求)について

(一)  請求の原因3(一)(二)の事実は原告らと被告Y2及び同Y1との間では争いがなく、同3(一)の事実のうち、被告Y3、C及びDを立会証人とし亡Aが被告Y3に対し口授して作成されたとする本件遺言が存在すること及び同3(二)の事実は原告らと被告遺言執行者との間で争いがない。

(二)  成立に争いのない甲第一ないし第四号証、第二〇号証、証人Cの証言により真正に成立したものと認められる甲第五三号証及び乙第一六号証、原告らと被告Y3との間では成立に争いがなく、原告らとその余の被告らとの間では弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる戊第四号証、証人Cの証言並びに弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。

(1) 亡Aの年齢、経歴等

亡Aは大正一一年一一月二五日に京都府船井郡園部町上本町三八番地で生まれ、昭和一八年に大阪歯科医専での学業を終え、兵役を済ませた後昭和二一年から自宅において歯科医を開業してこれを継続し、その間の昭和三〇年から昭和三八年まで京都府園部町の議会議員を勤めたことがあった。

同人は、昭和四八年に母A3を亡くし、昭和五二年には妻A4及び父A2を亡くしたが、母らの相続に関係してその相続人間で長く紛争状態にあった。また、長女の被告Y2(昭和二七年一月七日生まれ)を昭和五三年に嫁がせ、次女の原告X1(昭和二八年八月二六日生まれ)を昭和三〇年にG1、G2夫婦の養子に出した。被告Y2は昭和五三年にY5と婚姻をした。長男の被告Y1(昭和三〇年一一月一二日生まれ)は昭和五八年に婚姻をした。

(2) 亡Aの昭和六二年二月一四日までの病状

亡Aは、昭和六一年六月から背部痛が、同年七月から咳が発現し、八月に公立南丹病院で診察を受けた後、同月二八日に京都桂病院で受診したが、同日にも背部及び胸部痛を訴え、診察検査の結果、胸骨に塊状腫瘍があり、両肺に多発性結節性陰影多数があってこれが骨に転移したものと認められ、病理診断は扁平上皮癌、病期分類はⅣ期と診断された。

亡Aに対し同年九月二四日に胸椎椎弓切除等の手術が行われ、その後酸素マスクによる酸素投与及び胸腔内ドレナージが行われたが、同人は同月二六日に慢性呼吸不全に陥っており、同年一〇月七日には左下葉が完全な無気肺となっていた。

当初化学療法として抗癌剤の投与が行われたが間もなく中止され、その後の癌性疼痛に対しては、鎮痛薬Z―P、ソセゴン、硬膜外チューブ留置によるレペタンの注入が実施された。同年一一月四日からはブロンプトン・カクテルと呼ばれる塩酸モルヒネ、塩酸コカイン等の麻薬の投与が行われ、同日から昭和六二年一月二日まで一日四回投与された。昭和六一年一一月一七日以降は一一時(午前)と一七時(午後)は各塩酸モルヒネ一〇mg、コカイン五mg、五時(午前)と二三時(午後)は各塩酸モルヒネ一五mg、コカイン五mgの与薬がなされていた。同年一二月下旬ころには、同人に顕著な肝機能低下が出現し、昭和六二年一月一日には全身や眼球に黄疸が出現し、同月二日にブロンプトン・カクテルの投与が中止され、三日から再びソセゴンが投与されたが、同月五日に投与を中止した。

看護記録によれば、同人は昭和六二年一月一日に「きちがいがいる。ベット棚をおろしてくれ。」と述べ、同月二日にはナースコールをして病室ドアのところまで裸足で出ており「息子が室内でビールをのみそれを怒った。見るとゴミ箱のなかに缶があったのですてに行くところです。」と述べたり、同月三日には自分が汚いところにいるようだとの幻覚を持ち、同月四日には看護婦にいろいろ意味不明のことを呂律のまわらない言葉で話し掛けたり、同月五日には家人に対し「これから北海道へ行く。」と言うなどの言動をした。また、医師記録には一月二日に「精神的不安定」、同月七日に「彼(亡A)の話すことは他人には理解できない。」という意味のことが記載されている。

こうした中で、昭和六二年一月一〇日、C医師は被告Y1に対し亡Aの病状について、「重要な決定(財産相続の件)をせまるのは、或いはその判断は困難と思われるが、最終決定は家族がすべきである。」との告知をした。

その後、同年一月一一日、一月一二日、一月二一日等にも異常行動(ただし、「看護婦記録」によってもその詳細は不明である。)があり、一月一九日には医師の診察時にも精神状態が不安定であった。

また、亡Aには昭和六二年一月中旬から下旬ころにかけて背部痛等に加え頭痛や吐き気の症状も出現し、一月一六日には医師等に「頭がわれそうに痛い。」と訴え脳転移の疑いがあったが、対症療法以外の措置は取られなかった。

C医師は同年一月二二日に被告Y1に対し「患者はたいへん抑鬱状態にある。家族に見放されたと思っている。確実に死に向かっている事を自覚しているため、何とか、精神的援助ができないだろうか。」「もう既に急変してもおかしくない時期に近づいている。」と話したが、同被告は裁判が終わるまで何とかしていて欲しい旨を答えたにすぎなかった。

一月下旬ころには亡Aの声がれは顕著となっており、一月二九日の医師の診察時にも、同人が嗄れ声、背部痛、呼吸困難等の症状に対し大きな不安を持っていた。亡Aの呼吸不全の悪化も進行し、酸素療法下でも、息苦しさ、頻呼吸、努力様呼吸が現れていた。また、入院当初から不整脈が認められ、一月下旬ころからは頻脈傾向が現れていた。

同人は同年二月二日に「最近身体の調子は如何ですか。」と尋ねたC医師に対し「まあ七五cmから五〇cm位でしょうか。」と、「頭痛、背部の痛みはどうですか。」との問いに対しては「七五cm位です。」と、亡A独特の表現で当時の自らの苦痛等を表すなどのこともあった。

C医師は同年二月一一日に被告Y1らに対し、「亡Aの意識状態の低下が現在、最も重大な問題と思われる。」「自殺を犯している風でもあり家族の精神的協力が必要と思われる。」と伝えた。

(3) 昭和六二年二月一四日深夜以降

昭和六二年二月一四日の午後一一時に亡Aからナースコールがあり、看護婦が口腔内吸引を施行し、その後も吸引及びタッピングを施行した。その後、同日午後一一時三〇分、翌一五日午前二時一〇分、午前一〇時二五分の三回にわたって同人の希望でソセゴンが注射投与された。

本件遺言書作成前の同日午後三時ころ、C医師が亡Aと簡単な問答をした。その中で、亡Aは当時が二月であること、亡A自身が家族を集めて財産分与について話し合いたいため皆に集まってもらったと述べ、その際、C医師は、亡Aには知的レベルの低下は印象として見られない、通常の応答であったとの診断をした。同医師は同日亡Aの診断書を作成し、「病名肺癌、骨転移、上記病名のため現在の病状はきわめて危険な状態であるが、昭和六二年二月一五日現在、思考・判断等については異常は認められないものと思われる。」旨の記載をした。

(4) 本件遺言作成時以後の状況

本件遺言は昭和六二年二月一五日の午後三時三〇分ころから午後四時一〇分ころまでの間に京都桂病院七号室において作成され、その場には被告Y3、C医師、D、E、F、被告Y2及び同Y1、同病院の看護婦が立ち会った。遺言の作成中は不整脈は出たものの、特に亡Aの病状には著明な変化はなかった。その直後の同月一五日午後四時一〇分ころに同人が息苦しさを訴え、午後六時二〇分には顕著な興奮状態のため抗不安薬が投与された。午後七時四〇分に気管内挿管、同八時〇〇分に人口呼吸器(サーボ)を装着し、同一〇時一〇分には気管内チューブを通じ、鮮紅色のものが多量に吸引されていた。翌二月一六日に肺水腫で気管切開の必要があると診断され、同日午後四時一五分から三〇分にかけ気管切開が施行されたが、同月二二日に顕著な血圧低下、頻脈がみられ、同月二三日午前一時七分に心停止、同一時二二分に死亡した。

以上の事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

(三)  本件遺言の有効性について

(1) 前掲甲第四号証、原告らと被告Y3との間では成立に争いがなく、原告らとその余の被告らとの間では弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる戊第五七号証、証人C及び同Dの各証言、被告Y2本人(第一、第二回)、被告亡A遺言執行者兼被告Y3本人(第一回)の各尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、亡Aは昭和六二年二月一五日の午後三時三〇分ころから午後四時一〇分ころまでの間に前記病院の病室内で前記の者らの立会いのもとで弁護士である被告Y3に本件遺言書にある内容を立会い者らに聞こえる程度の声でしゃべり、これが多少嗄れ声ではあったが被告Y3らに十分聞き取ることができたものであること、被告Y3は亡Aが発語した内容を紙に書き取り、最後に亡Aと立会い者にその内容を読み聞かせ、亡Aにその内容で遺言することを確かめ、立会い者にも書き取りの正確なことなどを確認した後、自らがその末尾に署名捺印するとともにその余の立会い者にも同様署名捺印を得たことが認められ、原告X1の本人尋問の結果中の右の認定に反する部分はたやすく信用し難く、他に右の認定に反する証拠はない。

また、前記(二)(2)ないし(4)認定の亡Aの病状の経緯及び前掲甲第五三号証、証人Cの証言を総合すると、亡Aは、昭和六二年に入ったころからそれまで続いた強い胸部、背部痛、それに対する鎮痛剤等又は病状の進行等によるものか、時々看護婦や医師らに訳の分からないことを話したりするようになったが、これらのいわば異常行動は一日単位で見ても一時的なものであり、同年二月ころには医師等が話している間にも入眠するなどの意識状態の低下が続くようになったが、覚醒時にはおおむね了解可能なやりとりを看護婦らと続けていたことが認められるのである。しかも、本件遺言の作成直前の医師とのことばのやり取りにおいても何ら異常なものはなく、周囲の状況を正確に認識した結果を表明していたし、本件遺言の内容も、相続人三名及び内妻であったBに財産を分与するなどのものであって、客観的な状況ともほぼ符合した(なお、原告らはBを相続人と表現した点を捉えてこれを非難するが、このことについては後に判断する。)首肯可能な範囲内のものと認められる。これらを要するに、亡Aはその当時事の是非善悪を判断するに足りる精神能力を保持していたものであり、遺言能力を有した上で自らの意思により、本件遺言内容を口授したと認められるのである。

原告らは本件遺言が無効である原因として請求原因3(三)(1)ないし(5)の各事実を主張し、原告X1の本人尋問の結果中にこれに沿うかのような部分があるが、これらは以上の認定事実並びに各証拠に照らし到底採用し難く、他に右の事実を認めるに足りる証拠はない。原告らのこの点の主張は採用することができない。

(2) 次に、本件遺言書の文言について判断する。

遺言は単独の法律行為であり表意者の最終意思であるから、その終意の実現のためにも、遺言の解釈において遺言書の文言のみにとらわれず、これと結合してその表示自体を形成する全ての事情をも斟酌して、遺言者の目的に添うように合理的に判断すべきである。

ア 原告らは、本件遺言第四項後段の「更に弁護士Y3は遺産の税務処理についてその措置も管理するものとする。」との部分は税務処理に関するもの、同第五項の「五、不分明な点がでてきた時にはY1、Y2及びX1が各々仲良く弁護士Y3と相談して決定する。」は遺訓の類のものであり、法定遺言事項ではなく、本件遺言全体を無効とさせるものであると主張する。

しかし、同第四項後段の効力の有無はともかく、これと同五項の記載事項は法定の遺言事項でないしても、その余の記載と何ら矛盾するものではなく、全体として本件遺言を無効にするものではないというべきである。

イ 原告らは、同第一項後段の「相続財産のうち……X1居住の三田の住居の被相続人持分二分の一をX1に相続させる。」は相続開始時に亡Aに属していない財産を対象にするものであると主張する。

しかし、この点についても、後述するとおり、右の条項でいう「X1居住の三田の住居」と認められる別紙目録(一)記載の不動産は亡Aの遺産であって、原告らの右の主張事実を認めるに足りる証拠はない。

さらに、同条項は文言上も他の条項との間に矛盾、不均衡等を生ぜしめ、本件遺言全体の趣旨を不確定にさせるようなものではないから、本件遺言全体を無効とさせるものではない。

ウ さらに、原告らは、同第二項「相続財産のうち金五千万円をBに慰謝料として相続させる。但し、被相続人の生前に右五千万円をB氏に慰謝料として交付してもよい。その場合には相続分はB氏にはない。」は、亡Aの配偶者でもなく相続人でもないBが相続人であるとの誤認を前提としているものであると主張し、同項を遺贈の趣旨と解することは不可能であるとする。

被告Y2本人尋問の結果(第一、第二回)並びに弁論の全趣旨によれば、Bは昭和五一年ころから昭和六一年までの間、亡Aと起居を共にし家事に従事するなど、実質的に亡Aと夫婦関係にあったことが認められる。また、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一八号証並びに弁論の全趣旨によれば、亡Aは被告Y3を代理人として昭和六二年二月一七日にBとの間で、同人との内縁関係を解消したうえ、同人に対し内縁関係の解消に伴う慰藉料としてBに対し五〇〇〇万円を支払う旨を約束し、同日にBに対し一〇〇〇万円を支払ったことが認められる。

したがって、Bとの右合意は、本件遺言第二項の「被相続人の生前に右五千万円をB氏に慰謝料として交付してもよい。」との記載からうかがえる亡Aの意思に合致するものであるから、同第二項を合理的に解釈すれば、「相続させる」の文言はBに対する遺贈の趣旨と解するのが相当である。

本件遺言と別に右合意がなされたものではあるが、本件遺言により五〇〇〇万円の遺贈を行ったものとすることが亡Aの真意に反するとは認められず、一種の解除条件付の遺贈として、条件成就により遺贈の効力が失われることはあっても、何ら他の遺言事項に影響を及ぼすものではないというべきである。

エ 原告らは、同第三項「残りの相続財産は二分し、その各々をY1及びY2に相続させる。」は、無効な第一項及び第二項を前提としているため、無効であると主張する。

しかし、同第一項及び第二項は無効ではないし、右にいう「残りの」という記載は、原告X1に相続させる財産及びBに遺贈する財産を控除した残余の相続財産を指すものと解することが可能かつ合理的であり、無効の原因となるものでない。

オ さらに、原告らは、同第八項「更にY2のワリコクも名前がいろいろむちゃくちゃなので、みんなで仲良く話し合ってわけてほしい。」との記載は、同三項「残りの相続財産は二分し、その各々をY1及びY2に相続させる。」との記載と矛盾対立する内容になっていると主張する。

しかし、遺言者である亡Aの合理的意思を勘案すれば、そこにいう「みんなで」との記載は被告Y2と同Y1の二人を指していると解すべきであるし、同三項の文言と矛盾するものではない。

カ  以上のとおり、本件遺言は一部に客観的な事実と異なる認識を含む点があるものの、これが全体として論理的な構造を欠如するなどとまでは認められず、無効ということはできない。

この点に関する原告らの主張はいずれも失当である。

(三)  以上により、原告らの本件遺言無効の確認請求は理由がない。

3  請求原因2(更正登記請求)について

(一)  本件不動産について本件登記が存在することは原告X2と被告Y2及び被告Y1との間に争いがない。

(二)  成立に争いのない甲第五、第六、第六八、第六九号、第七〇、第七七号証、原告らと被告遺言執行者との間では成立に争いがなく、原告らとその余の被告らとの間では弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第八号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第七、第七三ないし第七五号証並びに弁論の全趣旨によれば、原告X2と兵庫県住宅供給公社との間で、昭和五七年一二月一四日に同原告が同公社から本件不動産を代金三二三九万円で買い受ける旨の分譲住宅譲渡契約書を作成したこと、右売買代金の支払方法の内訳は住宅金融公庫融資金九九〇万円及び自己負担金二二四九万円であり、同原告は昭和五七年一二月一四日に亡Aから受領した四〇〇万円で同公社に対する手付金を支払ったこと、同原告は昭和五八年二月五日に亡Aから一二一九万五四〇〇円の送金を受け、これに自らが工面した金額を加え合計一四四九万円を同公社に支払い、同月一八日ころに同公社から本件不動産の引渡しを受けたこと、その後銀行から借り入れた四〇〇万円の住宅ローン及び住宅金融公庫に対する分割返済をしたことが認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。また、前掲甲第四号証によれば、本件遺言第一項後段に、相続財産のうち……X1居住の三田の住居の被相続人持分二分の一をX1に相続させる。」と記載されていることが認められ、この事実から亡Aが本件不動産について共有持分を有すると考えていたことが推認される。

以上の各証拠並びに認定事実を総合すると、原告X2と亡Aは実質的には一対一の割合で共同して本件不動産を兵庫県住宅供給公社から買い受け、その旨の本件登記を経由したものと認めるのが相当であり、原告X1の本人尋問の結果中のこの認定に反する部分はいかにも不自然であること、前掲の甲第四号証等に照らし信用し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(三)  そうすると、原告X2の本件主位的請求は、昭和五七年一二月一四日に本件不動産全部の所有権を取得したことに基づくものである以上、理由がないというほかない。

4  請求原因4(被告Y3に対する損害賠償請求)について

被告Y3が本件遺言により亡Aの遺言執行者に指定された者であることは当事者間に争いがなく、前述のとおり、本件遺言は無効ではないというべきであるから、被告Y3が昭和六二年四月ころから昭和六三年三月二八日までに行った亡Aの遺産である財産の換価処分行為が全くの無権限によるものとはいえないし、原告X1は、主位的請求においては、他に被告Y3の換価処分行為が故意過失による違法のものであるとの主張立証をしないから、同原告の被告Y3に対する損害賠償請求は、その余の判断をするまでもなく、理由がない。

二  予備的請求原因

1  請求原因2(更正登記請求)について

前記のとおり、原告X2が昭和五七年一二月一四日以来本件不動産を単独所有してきたとは認められないから、同原告は亡Aの遺言執行者である被告遺言執行者に対しても本件不動産全部の所有権取得を理由とする更正登記手続を求める権利はないというほかなく、同請求は理由がない。

2  請求原因3(三〇〇〇万円の支払請求)について

(一)  請求原因3の事実は当事者間に争いがないから、原告X1は、亡Aの死亡により相続が開始した昭和六二年二月二三日に本件遺言に基づいて亡Aの財産のうち現金三〇〇〇万円を取得する権利を取得したというべきである。

そして、被告遺言執行者の抗弁(一)の事実も当事者間に争いがない。

(二)  弁論の全趣旨によれば、本件遺言の確認審判が昭和六二年四月一〇日に、その検認が昭和六二年六月二二日に行われたことが認められ、被告遺言執行者が被告Y3の後任として平成七年一〇月一六日に京都家庭裁判所において審判により亡Aの遺言執行者に選任されたことは当事者間に争いがない。

(三)  そうすると、原告X1の被告遺言執行者に対する請求は、三〇〇〇万円に対する本訴状送達の日の翌日である平成二年四月五日から現実の履行日である平成八年七月三〇日まで民法所定の年五分の割合で計算した遅延損害金九四七万五四〇九円の支払を求める限度で理由があるというべきである。

3  請求原因4(遺留分減殺による移転登記請求)について

(一)  原告X1と被告Y2との間で、亡Aが相続開始時に別紙目録(二)及び(三)記載の財産を有していたこと、亡AのA合名会社に対する持分払戻請求権が、同人がA2から相続した一七五五万円及びA3から相続した二三四一万円の合計四〇九六万円であり、その持分の評価額は、別紙目録(三)記載のA合名会社名義の各不動産の価額に等しいものと評価すべきであること、別紙目録(三)三記載の建物(但し、灯籠、庭石等を含む。)の相続開始時の価額が一一二一万円であることは争いがない。

また、原告X1と被告Y1との間で、別紙目録(四)第一記載の預貯金、有価証券のうち別紙「預貯金等の存否の認否一覧表」中の○印のものが亡Aの相続財産であったことは争いがない。

(二)  亡AないしA2名義の不動産(積極財産)

成立に争いのない甲第一六ないし第一九号証並びに弁論の全趣旨によれば、亡Aが死亡時に別紙目録(二)一ないし四記載の各不動産を有していたことが認められる。

(1) そして、原告らと被告Y3との間で成立に争いがなく、原告らとその余の被告らとの間では弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる戊第一三号証によれば、別紙目録(二)一記載の宅地の近隣地である京都府船井郡園部町上本町三八番の宅地(別紙目録(三)二記載の亡Aの自宅の敷地)の鑑定評価額は昭和六一年二月当時において一平方メートル当たり六万五七〇五円であることが認められ、他に特段の反証もないことなどから、別紙目録(二)一の宅地は、時点修正を行い、亡Aの相続開始時において一平方メートル当たり六万五七〇五円の約1.03に相当する六万七六七〇円程度であると認めるのが相当である。この評価に基づくと同目録(二)一の宅地の面積も公簿面積として全体を一九四六万円と価格評価をするのが相当である。

(2) また、原告らと被告Y3との間で成立に争いがなく、原告らとその余の被告らとの間では弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる戊第一六号証によれば、別紙目録(二)三の田の価格は昭和六一年三月当時において一四〇七万円であると認められ、これが農地であることなどから亡Aの相続開始時においても同価額と評価するのが相当である。

なお、戊第二一号証の一から三にはHが亡Aから同土地を借り受け耕作しているかのような記載があるが、亡Aの署名捺印のある戊第二一号証の一は、同号証の二とともに、これらが真正に成立したものと認めるに足りる証拠はないし、昭和六二年二月四日に行われた京都家庭裁判所による審判においてもそのような資料の提出がなく、戊第二一号証の三は信用するに足りない。

(3) さらに、原告らと被告Y3との間で成立に争いがなく、原告らとその余の被告らとの間では弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる戊第一四号証によれば、別紙目録(二)四の山林は昭和六一年二月当時において一平方メートル当たり三万〇一〇三円である(なお、同号証は京都府船井郡園部町小桜町一二九番地の土地の価格の鑑定を目的とするものであるが、取引事例の中に別紙目録(二)四の山林が掲げられている。)ことが認められ、他に特段の反証もないことなどから、別紙目録(二)四の山林は、時点修正を行い、亡Aの相続開始時において一平方メートル当たり三万〇一〇三円の約1.03に相当する三万一〇〇〇円程度であると認めるのが相当である。この評価に基づくと同目録(二)四の山林の面積も公簿面積として全体を一〇〇四万円と価格評価をするのが相当である。

(4) 以上によると、別紙目録(二)一ないし四記載の不動産の相続開始時の価額は四三五七万円と認めるのが相当であり、これに前記認定の別紙目録(一)記載の不動産の約二分の一の価額である一六一九万円を加えると、亡Aが自己又はA2名義で所有していた不動産価額の合計は五九七六万円に達する。

なお、原告らは別紙目録(二)一、三、四記載の不動産の相続開始時の価額を昭和六二年の路線価格を三倍して算出するべきであると主張するが、地目の差異及び地域差にもかかわらず三倍することの根拠も証拠上明らかではないから、これを採用することはできない。

また、亡Aの相続開始時における別紙目録(一)記載の不動産の価額について格別の主張立証もないので、昭和五七年一二月の取得時の価格を相続開始時の価額と認め、計算の基礎とした。

(三)  A合名会社に対する持分払戻請求(積極財産)

次に、成立に争いのない甲第二〇号証並びに弁論の全趣旨によれば、亡Aは、A合名会社に対する持分払戻請求権全部(A2から相続した一七五五万円分及びA3から相続した二三四一万円分の合計四〇九六万円分)を取得し、相続開始時にこれを保有していたことが認められる。

また、成立に争いのない甲第二一ないし第二四号証並びに弁論の全趣旨によれば、A合名会社は、別紙目録(三)一ないし四記載の不動産を所有しているが、その実質においては右の不動産を所有するだけの法人で、いわば個人会社であることが認められるから、他に特別の主張立証もない本件では、亡Aが所有する同社の持分払戻請求権の相続開始時の価額は、別紙目録(三)一ないし四記載の不動産の評価額にほかならないと認めるのが相当である。

そこで、原告らと被告Y3との間で成立に争いがなく、原告らとその余の被告らとの間では弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる戊第一三号証によれば、同目録(三)一記載の宅地は昭和六一年二月当時において六六〇万円であることが認められ、他に特段の反証もないことなどから、時点修正を行い、亡Aの相続開始時においてその約1.03に相当する六七九万円程度であると認めるのが相当である。

同様にして、同目録(三)二記載の宅地は戊第一三号証により認められる二一七二万円の約1.03倍の二二三七万円であると評価するべきであるし、同目録(三)三記載の建物はその付属建物及び石灯籠等を合わせて同号証にある昭和六一年二月当時の評価額である一一二一万円であると認められる。

したがって、亡Aが相続開始時に所有していたA合名会社に対する持分払戻請求権は合計四〇三七万円と評価するべきである。

(四)  その他の積極財産

前掲甲第二〇号証、成立に争いのない甲三四号証、原告らと被告Y3及び同Y1との間で成立に争いがなく、原告らとその余の被告らとの間で、被告亡A遺言執行者兼被告Y3(第一回)本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第三三号証の三、原告らと被告遺言執行者との間では成立に争いがなく、原告らとその余の被告らとの間では被告亡A遺言執行者兼被告Y3(同前)本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一号証、原告らと被告Y2との間では成立に争いがなく、原告らとその余の被告らとの間では被告Y2の本人尋問の結果(第一回)により真正に成立したものと認められる丙第八号証、原告らと被告Y3との間で成立に争いがなく、原告らとその余の被告らとの間では弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる戊第一七号証の二、被告Y2(第一、第二回)、被告亡A遺言執行者兼被告Y3本人(同前)及び被告Y3(第二回)の各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1) 別紙目録(四)第一の一1から4記載の現金と同5から10記載の現金とは重複するものである。そして、同1の現金は、被告Y3が昭和六二年二月一七日にBに和解金の一部として支払ったもので、亡Aの死亡時には存在しなかった。同一の2及び4の現金は同5及び7と同一であり重複するものである。同3の現金は、亡Aが生前に原告X1に対し贈与したもので、相続開始時には存在しなかった。

したがって、同1ないし4を除く第一の一記載の現金合計三〇八二万五三二八円が亡A死亡時に存在した。

次に、同目録第一の三の1は、京都中央信用金庫本店における普通預金で金額は四五五万一八九七円であり、同3は一〇三七円、同4は二六四万八六八五円、同5及び同10は昭和六二年二月一八日にBの和解金の一部として五〇〇万円及び三〇〇万円をそれぞれ引き出した残余である五六万八八九一円(同5)及び五四万三一九七円(同10)である。以上の金額も含めた亡Aが死亡当時所有していた普通預金は合計一二九三万一〇〇八円である。

<省略>

そうすると、亡A死亡時に有した現金及び金融資産ですでに処分済み財産は、以上の点を除いては、別紙目録(四)第一記載のとおりのものが存在し、その合計は三億二二〇七万九〇一六円である。

(2) 次に、別紙目録(四)第二の二1のインゴットは一万一三五〇グラム、同5のクルーガーランド金貨は四分の一オンス三二枚(227.2グラム)と同金貨一オンス一枚(28.4グラム)であるほか、同目録第二の二記載の動産が存在していた。したがって、同第二の1ないし7記載の金の重量は合計1万5392.6グラムであり、これに昭和六二年二月二三日現在の一グラム当たりの金価格二〇三一円を乗じると、総額が三一二六万二三七〇円である。

右の点を除いては同目録第二記載のとおりの財産が存在したから、亡A死亡時に存在した財産のうち未処分財産の合計は六八七一万七八四一円である。

以上の事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

(五)  亡Aの債務(消極財産)

前掲甲第二〇号証によれば、亡Aは死亡当時別紙目録(五)一の債務一八七二万八〇〇〇円を負っていたことが認められる。

また、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第五〇号証の五によれば、同目録(五)二記載の亡Aの葬式費用として少なくとも三一九万五五二二円を費消したことが認められるが、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる丙第一二号証の三、第一三号証によれば、被告Y1は亡Aの葬儀等の際に香典として差し出された約五〇〇万円に上る現金を受領したことが認められるから、この金員を超えた費用を亡Aの葬儀等に要したと認めるに足りる証拠はない以上、三一九万五五二二円等を亡Aの債務とすることはできない。

同目録(五)三記載のBに対する債務については、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第五一号証の二、戊第一八号証、一九号証及び被告亡A遺言執行者兼被告Y3本人(第一回)及び被告Y3(第二回)の各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、被告Y3が亡Aの代理人として昭和六二年二月一七日に同人とBとの間で亡AがBに対し五〇〇〇万円を支払うことを内容とする和解を成立させ、同日にBに対し和解金の一部として一〇〇〇万円を支払い、同月一八日に八〇〇万円を支払ったことが認められ、この認定に反する証拠はない。したがって、亡Aの死亡時におけるBに対する債務の残額は三二〇〇万円というべきである。

最後に、亡Aの被告Y3に対する弁護士報酬債務についてみると、同被告は平成九年九月一二日の時点で亡Aの相続債務として別紙「被告Y3主張の相続債務一覧表」5、6記載のとおりとするが、同被告においてもこれを暫定的なものとしており、そこに掲げられた①遺言書作成手数料、②B関連事件着手金、③確認及び検認の審判手数料、④B関連事件の報酬金、⑤所要の日当、⑥遺言執行手数料も、これらが確定金額の支払約束がなく、請求できる金額が確定されていないもの(①②④⑤)か、いまだ請求することができないもの(⑥)がほとんどである。わずかに③の三〇万円のみを相当な遺言執行費用に含ませることができるが、これは亡Aの死亡後の出費であることはいうまでもないから、亡Aの死亡時の債務に含ませることはできない。

以上によれば、亡Aの死亡時の債務は合計五〇七二万八〇〇〇円であるというべきである。

(六)  相続人らの特別受益

(1) 被告Y2

被告Y2が亡Aから生前別紙目録(九)の一、一一、一三、一四、六五ないし六八及び九〇記載の財産を婚姻のため又は生計の資本として贈与され、同目録二八、八一及び八四記載の国債を受領したことは原告らと同被告との間では争いがなく、原告らとその余の被告らとの間では弁論の全趣旨によりこれを認める。

この点、被告Y2は同目録二八の国債は労務の対価として贈与されたものであると主張するが、その具体的な内容が明らかではないし、金額が七〇〇万円という多額のものであることなどからして、これを特別受益と認めるほかない。

同目録八一及び八四の国債については、被告Y2本人尋問の結果(第一回)によれば、同被告が昭和六一年一月にこれらの国債を亡Aに返還したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

さらに、同目録五一記載の「Y5服」は被告Y2の夫であるY5が亡Aから洋服一着を受領したことは原告らと同被告との間では争いがなく、原告らとその余の被告らとの間では弁論の全趣旨によりこれを認めることができるが、金額、時期等からしてこれが被告Y2に対する婚姻のため又は生計の資本として贈与されたと認めるのは困難である。

前掲丙第八号証、被告Y2本人尋問の結果(第一回)並びに弁論の全趣旨によれば、亡Aは相続人らの名義を用いて預貯金や有価証券の購入等を行っていたことが認められるから、Bの出納帳(前掲乙第八号証の各枝番)の「Y2」ないし「Y5」の記載が必ずしも同人らへの贈与であったとは認めがたく、その他の別紙目録(六)記載の各財産が被告Y2に特別受益と評価すべきものとして贈与されたと認めるに足りる証拠はない。

したがって、被告Y2は亡Aから婚姻のため又は生計の資本として別紙目録(六)の一、一一、一三、一四、二八、六五ないし六八及び九〇記載の財産合計三〇六七万円を贈与されたものと認められる。

(2) 被告Y1

被告Y1が別紙目録(七)の一の学費、同二の生活費のうち八四〇万円、同三の自動車購入費用の立替え等のうち七二〇万円、同四の自動車関係費用のうち一五〇万円及び同五の結婚費用関係のうち四五〇万円の指輪を亡Aから贈与されたことは、原告らと同被告との間では争いがなく、原告らとその余の被告らとの間では弁論の全趣旨によりこれを認める。

さらに、前掲乙第八号証(枝番の記載を省略する。以下同じ。)及び被告Y1の本人尋問の結果(第一回)並びに弁論の全趣旨によれば、被告Y1は亡Aから、右のほか、生活費として昭和五六年以降のマンション賃料等四一六万円、同年以降の自動車関係費用一九〇万円及び結婚費用関係として結納金一〇〇万円、新婚旅行費用一三〇万円及び結婚式等費用二八〇万円を贈与されていたことが認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

被告Y1は前記認定の各財産の贈与は、亡Aの生前の収入及び家庭事情から見て、当然の扶養の範囲内として行われたものであり、特別受益にはあたらないと主張する。

そこで考えるに、学資に関しては、親の資産、社会的地位を基準にしたならば、その程度の高等教育をするのが普通だと認められる場合には、そのような学資の支出は親の負担すべき扶養義務の範囲内に入るものとみなし、それを超えた不相応な学資のみを特別受益と考えるべきである。本件においては、前掲の各証拠並びに弁論の全趣旨によれば、被告Y1のみが医学教育を受けているとはいえ、原告X1及び被告Y2のいずれも大学教育を受けていること、亡Aは開業医であり被告Y1による家業の承継を望んでいたことが認められ、これらの事実のほか、弁論の全趣旨により同人の生前の資産収入及び家庭環境に照らせば、相続人らはこれを相互に相続財産に加算すべきではなく、亡Aが扶養の当然の延長ないしこれに準ずるものとしてなしたものと見るのが相当である。

自動車購入費用の立替え等及び自動車関係費用については、被告Y2本人尋問の結果により真正に成立したと認められる丙第一三号証、同尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、被告Y1は他の相続人らと比べて高価な自動車を亡Aから買い与えられていたことが認められるから、これらをすべて特別受益と認めるのが相当である。

結婚費用関係については、特別受益に含まれる婚姻のための贈与とは、持参金、支度金、結納金など婚姻のために特に被相続人からしてもらった支度の費用が含まれるものであり、親の世間に対する社交上の出費たる性質が強い結婚式及び披露宴の費用は含まれないと解すべきである。

また、被告Y1は、亡Aが原告X1及び被告Y2にも、被告Y1に贈与した婚約指輪四五〇万円と同価値の指輪を贈与していたから、これを特別受益と見るべきではないと主張するが、右事実を認めるに足りる証拠はないし、主張自体理由のないものである。

さらに、成立に争いのない甲第三四、甲第三七号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第四八号証の一、二並びに弁論の全趣旨によれば、被告Y1が昭和六二年三月一八日に亡A名義の第一生命保険相互会社との間の生命保険契約を解約し、解約金一五〇〇万円を受領したことが認められ、この認定に反する証拠はない。

したがって、被告Y1は亡Aから婚姻のため又は生計の資本として別紙目録(七)の二の一二五六万円、三のうち七二〇万円、四の三四〇万円及び五の六八〇万円(結婚指輪四五〇万円、結納金一〇〇万円、新婚旅行費用一三〇万円)、六の一五〇〇万円の合計四四九六万円の特別受益を得たものと認められる。

(3) 原告X1

原告X1が亡Aから少なくとも四二〇万円を婚姻のため又は生計の資本として贈与されたことは当事者間に争いがない。

ところで、被告Y2は、原告X1が亡Aから合計三〇九六万一九一八円に上る特別受益を得たと主張し、また被告Y1は同原告の特別受益額は二七七六万一九一八円であると主張し、これに沿うかのように窺える前掲乙第八号証、被告Y1の本人尋問の結果が存在する。確かに、乙第八号証は、別紙目録(一)の不動産に関する亡Aからの金銭の出捐等に関してはその記載が正確で信用するに足りるものではあるが、他方、前掲丙第八号証、被告Y2本人尋問の結果(第一回)からも窺えるように必ずしも全面的には信用を措くには躊躇を感ずるものでもある。しかも、乙第八号証中の「X1特別受益一覧表」の主張に沿う部分も、その記載自体からしても亡Aの家族内の立場、社会的な地位等に照らして儀礼的な範囲のものも多数含まれていることが窺われるし、金額、内容等に照らし原告X1に対する特別受益と評価すべきもの(昭和五八年一月九日の四〇〇万円、昭和六一年九月二一日の二一一万一六〇八円及び結婚関係の四二〇万円)を除いては同原告に対し交付されたことも、これが婚姻のため又は生計の資本との趣旨で贈与されたことのいずれも明確ではなく、結局乙第八号証は、右の三個の贈与を除いては、被告Y2及び同Y1の主張事実を認めるには足りないものというほかない。また、被告らの挙げる丙第七号証は丙第八号証及び被告Y2の本人尋問の結果(第一回)に照らし信用することができない。他に、被告Y2及び同Y1の主張するような金額の特別受益が原告X1にあったと認めるに足りる証拠はない。

また、同目録(八)の二の金員一二一九万五四〇〇円は別紙目録(一)記載の不動産を購入する際に亡Aが支払った金員であるが、前記認定のとおり、同人は同不動産の二分の一を取得したものであり、原告X1は右金員の贈与を受けたものではないから特別受益に含めることはできない。

したがって、原告X1は亡Aから婚姻のため又は生計の資本として、結婚関係費用四二〇万円、現金六一一万一六〇八円の合計一〇三一万一六〇八円を贈与されたものである。

(4) そうすると、亡Aの相続人である原告X1、被告Y2、同Y1が受けた特別受益の総額は八五九四万一六〇八円に上るものである。

(七)  そこで、以上の(二)の不動産の価額合計の五九七六万円、(三)の持分払戻請求権の価額の四〇三七万円及び(四)のその他の積極財産の総額三億九〇七九万六八五七円(処分済財産の価額三億二二〇七万九〇一六円と未処分財産の価額六八七一万七八四一円の合計)を合計した四億九〇九二万六八五七円から(五)の債務額五〇七二万八〇〇〇円を控除した四億四〇一九万八八五七円に(六)の特別受益総額の八五九四万一六〇八円を加算した五億二六一四万〇四六五円が遺留分算定の基礎となる財産の価額である。

なお、原告X1、被告Y2及び同Y1の亡Aからの特別受益額はいずれもこれを受けた当時の価額であるが、その時期が確定的でないものが多い上、原告X1及び被告Y2及び同Y1も特に主張をしないので、受益時期の価額を基礎としたものである。

(八)  請求原因4(二)、(三)及び(五)の各事実は当事者間に争いがなく、原告X1の遺留分減殺の意思表示(甲第八号証)は同原告と被告Y2及び同Y1との間の亡Aの遺産分割調停中に被告Y3が右被告らのために同意思表示を受領したものと推認される。

(九)  以上より、原告X1の遺留分を算出すると、

五億二六一四万〇四六五円(前記(七)で算出した遺留分算定の基礎となる財産)×六分の一(遺留分割合)―一〇三一万一六〇八円(原告X1の特別受益)=七七三七万八四六九円である。そして、七七三七万八四六九円―(三〇〇〇万円+一六一九万五〇〇〇円)(原告X1が本件遺言に基づき取得する財産)=三一一八万三四六九円について同原告の遺留分が侵害されていることとなる。

したがって、同原告は相続財産合計(前記(二)ないし(四)の合計から(五)を控除した価額)四億四〇一九万八八五七円から、同原告が本件遺言に基づき取得する現金三〇〇〇万円及び別紙目録(一)記載の各不動産の二分の一の価額一六一九万五〇〇〇円を控除した残余の三億九四〇〇万三八五七円のうち三一一八万三四六九円の遺留分を有するものである。

よって、原告X1は亡Aの個別財産について三億九四〇〇万三八五七分の三一一八万三四六九の割合の共有持分権を有することとなる(以下「本件相続分割合」という。)。

(一〇)前述のとおり、別紙目録(二)一、三及び四記載の不動産については現在原告X1の共有持分を三分の一とする登記が存在するところ、本件相続分割合は三分の一を超えないから、現在の登記により原告X1の本件相続分割合は何ら侵害されておらず、右各不動産についての遺留分減殺を理由とする移転登記請求は理由がない。

同様に、同二記載の不動産については亡A名義の登記が存在し、原告X1の請求は被告Y1及び同Y2に対して、昭和六三年四月一一日遺留分に基づく減殺を原因とする三億九四〇〇万三八五七分の三一一八万三四六九の所有権移転登記を求める限度で理由がある。

4  請求原因5(未処分遺産に対する共有持分権の確認)について

前記のとおり、原告X1は遺留分減殺請求権行使の結果、亡Aが死亡時に有していた財産について本件相続分割合の共有持分権を取得したから、原告X1の請求は、被告Y1及び同Y2に対し別紙目録(四)第二記載(ただし、二1インゴットを一万一三五〇グラム、同5クルーガーランド金貨を四分の一オンス三二枚及び一オンス一枚と改める)の未処分遺産についてそれぞれ三億九三七七万九八五九円分の三一一四万六一三六の共有持分権を有すること及びA合名会社に対する持分払戻請求権四〇三七万円のうち本件相続分割合に相当する三一九万五〇八七円の持分を有することの確認を求める限度で理由がある。

5  請求原因6(遺留分減殺による返還請求及び価額弁償請求)について

(一)  被告Y2及び同Y1の取得財産

前掲甲第四号証及び弁論の全趣旨によれば、本件遺言に基づいて被告Y2が取得する財産は、相続財産から本件遺言第一項により原告X1が取得する不動産及び現金並びに第七項の「園部町若松町の診療所と土地及び本屋敷の前の土地」を除いたその余の財産の二分の一である。

そして、被告Y2本人尋問の結果により真正に成立したと認められる丙第一三号証、被告Y1及び同Y2の各本人尋問の結果(いずれも第二回)及び弁論の全趣旨によれば、「園部町若松町の診療所と土地」は別紙目録(二)一及び二の各不動産を、「本屋敷の前の土地」は同目録四記載の不動産をそれぞれ指すと認められる。前記認定のとおり、同目録(二)一不動産の価額は一九四六万円、同四不動産の価額は一〇〇四万円であるから、各不動産の評価額は合計二九五〇万円である。

したがって、被告Y2の取得財産の価額は{四億四〇一九万八八五七円―(三〇〇〇万円+一六一九万五〇〇〇円+二九五〇万円)}×二分の一=一億八二二五万一九二八円であり、被告Y1の取得分の価格はこれに右各不動産を加えた、一億八二二五万一九二八円+二九五〇万円=二億一一七五万一九二八円である。

(二)  被告らの取得分の遺留分からの超過額

被告Y1の遺留分額は五億二六一四万〇四六五円×六分の一―四四九六万円(特別受益)=四二七三万〇〇七七円であり、被告Y2の遺留分額は五億二六一四万〇四六五円×六分の一―三〇六七万円(特別受益)=五七〇二万〇〇七七円である。

したがって、両被告の取得分の遺留分からの超過額は、被告Y1が一億六九〇二万一八五一円、被告Y2が一億二五二三万一八五一円である。

以上によれば、原告X1の遺留分侵害額について、被告Y1と同Y2は一億六九〇二万一八五一対一億二五二三万一八五一の割合で負担するべきである。

(三)  相続開始時に存在した現金

先に認定したとおり、亡Aが死亡時に自宅金庫内に所有していた現金は三〇八二万五三二八円であり、そのうち三〇〇〇万円は原告X1がこれを取得することと定められているから、同原告は遺留分減殺により残余の八二万五三二八円のうち本件相続分割合に相当する六万五三二〇円を取得した。被告らは前記(二)認定の負担割合により、被告Y1は三万七五二〇円を、同Y2は二万七八〇〇円をそれぞれ負担するべきである。

(四)  処分済遺産の価額弁償請求

前記認定のとおり、亡Aが死亡時に所有していた財産で処分済みのものは合計三億二二〇七万九〇一六円である。右財産について原告X1は本件相続分割合で共有持分権を有するから、処分済財産のうち現金を除いた二億九一二五万三六八八円のうち、原告X1は本件相続分割合に相当する二三〇五万一二九八円を取得する。被告らは前記負担割合により、被告Y1は一三二四万〇八六三円、被告Y2は九八一万〇四三五円をそれぞれ原告X1に支払う義務がある。

(五)  よって、原告X1の請求は、(1)被告Y1に対し遺留分減殺請求権に基づく返還請求として現金三万七五二〇円及び価格弁償請求による一三二四万〇八六三円の合計一三二七万八三八三円及びこれに対する遺留分減殺請求の日である昭和六三年四月一一日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求め、(2)被告Y2に対し遺留分減殺請求権に基づく返還請求として、現金二万七八〇〇円及び価格弁償請求による九八一万〇四三五円の合計九八三万八二三五円及びこれに対する遺留分減殺請求の日である昭和六三年四月一一日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度でそれぞれ理由がある。

6  請求原因7(被告Y3に対する損害賠償請求)について

(一)  本件遺言の確認審判が昭和六二年四月一〇日に行われたこと、本件遺言の検認が昭和六二年六月二二日に行われたこと、被告Y3がA遺言執行者名義の口座を開設したのが昭和六三年三月九日になってからのことであったこと、本件遺言に報酬に関する定めがないこと及び被告Y3が昭和六三年一月三〇日付でAの相続財産の中から弁護士費用着手金一部の名目で四五〇万円を取得していることは当事者間に争いがない。

(二)  前掲乙第一号証、成立に争いのない甲第三四号証、原告らと被告Y3及び同Y1との間で成立に争いがなく、原告らとその余の被告らとの間で、被告亡A遺言執行者兼被告Y3(第一回)本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第三三号証の二ないし一六、被告亡A遺言執行者兼被告Y3(第一回)本人尋問の結果より真正に成立したものと認められる乙第四号証、同尋問の結果、被告Y2及び同Y1の各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、被告Y3は昭和六二年二月一二日に亡AからBとの内縁を解消するための交渉を依頼され、同月一五日に亡Aの危急時遺言(甲第四号証)を作成した後、同月一七日にBに一〇〇〇万円を支払って同人から亡Aの前記認定の遺産の現金、通帳類及び蔵の鍵を預かったことが認められ、この認定に反する証拠はない。

したがって、被告Y3には遺言執行者としてその執行のために民法の定めのほか、一般的に委任事務の受任者として善良な管理者の注意をもって右遺産分割協議・審判のなされるまで亡Aの遺産の管理を継続するべき義務があったというべきである。

(三)  ところが、前掲乙第一号証、甲第三三号証の二ないし一六、第三四号証、乙第四号証、被告亡A遺言執行者兼被告Y3本人(同前)及び被告Y3(第二回)の各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、被告Y3は本件遺産を構成する預貯金、有価証券、動産について亡A遺言執行者名義を用いて少なくとも予備的請求の原因7(一)のとおりこれらを解約・換価の処分行為を行ったことが認められ、この認定に反する証拠はない。

これらの処分行為について、被告Y3は相続人全員の同意を得ていたと主張するが、具体的な同意の内容、時期等について何らの主張もなく、その主張事実に沿う証拠もない。その他、亡Aの遺産である預貯金、有価証券等を解約・換価することを要するなどの特別な事情があったとの主張立証もしなかった。

かえって、成立に争いのない甲第四〇号証ないし四二号証及び被告Y3本人尋問の結果によれば、原告X1は昭和六二年四月には被告Y3への委任状への署名を拒否していたことが認められ、同時期以降の前記認定の預貯金等の解約・換価処分行為が原告X1に無断で行ったものであろうと窺われるし、最終的な支出報告書と認められる戊第三八号証の五、被告亡A遺言執行者兼被告Y3本人(同前)及び被告Y3(第二回)の各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、亡Aの遺産である預貯金、有価証券等を解約・換価金から費用を除いた残額を被告Y2及び被告Y1に二分の一宛交付する意図の下に右の解約・換価を行ったものと認めざるをえないところである。しかし、この解約・換価処分は先に確定した遺言執行者としての権限に含まれず、遺産管理保全義務に反する違法のものというほかなく、遺言執行に明らかに必要と認められる費用に係るものを除いては、原告X1に対する不法行為を構成すると認めるべきである。

被告Y3は、本人尋問において、亡Aから本件遺言第四項の税務処理を委任されたとか、Bとの関係に関する事務処理を委任されたなどと供述するが、民法上の委任契約は委任者(亡A)の死亡により消滅するものであるし、遺言の執行に属さない事務の処理のための支出行為は権限を超える違法のものである。そこで、以下この立場で戊第三八号証の五(別紙「被告Y3の支出一覧表」)における支出のうち純粋に執行費用と認むべきものを確定することとする。

(四)  まず、Bに対する四回にわたる合計三二〇〇万円の支払は遺言の執行事務と認められる。銀行金庫の使用は遺言の執行事務と認めざるをえない。しかし、付添婦に対する付添費用の支払、亡Aの治療費、葬儀費用等名目の被告Y1に対する支払はいずれも遺言の執行とは関わりがない。亡A宅の電気料金、水道料金は遺産の管理費用には含まれない。これらはいずれも現に亡A宅に居住するものが負担するべきであろう。同被告が弁護士費用の金額を自らが適宜定めてこれを遺産の中から取得する立場にはないことは先に述べた。各種税金の支払はその内容が不明であり、そのすべてにわたって遺産の管理に要するものであるとの証拠がないから、これらの支払が遺言の執行事務に属するとは認められない。特に、被告Y1の自動車税の支払は権限外であることは明らかである。原告X1、被告Y2及び被告Y1の相続税の納付事務が執行事務外であるから、それに要した税理士費用も執行管理費用には含まれない。遺産に含まれるゴルフ会員権に関連した会費の支払は遺産管理費用と認められる。電話リース解約金についてもその詳細が不明であるから、これも管理費用とは認められない。その他、被告遺言執行者に対する三五七〇万七八一四円の送金を除いて、被告Y2、被告Y1らに対する送金はすべて遺産分割を実行する趣旨にほかならないから、本件遺言の定めになく遺言の執行事務には含まれない。

(五)  以上のとおり、被告Y3が亡Aの遺産として管理下においた現金及び預貯金等から換金した金員のうち少なくとも原告X1の主張する二億七六六七万八八五三円からBに支払った三二〇〇万円、銀行の貸金庫代合計一〇万三六〇〇円及びゴルフ会費七万三五四四円(合計三二一七万七一四四円)を除いた残額二億四四五〇万一七〇九円の支払により少なくとも原告X1の遺留分割合に相当する一九三五万一一〇八円の損害を被ったと認めるのが相当である。

(六)  したがって、原告X1の被告Y3に対する請求は、一九三五万一一〇八円及びこれに対する不法行為後の平成七年一〇月一三日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

三  文書提出命令の申立(平成五年(モ)第一〇六一号・第一七九五号)について

原告らは、平成五年(モ)第一〇六一号事件において所持者を被告Y2として亡Aの遺言時の状況を録音したテープの提出を同被告に求め、同年(モ)第一七九五号事件において所持者を被告Y3として同内容の録音テープの提出を同被告に求めるが、右被告らが現在においてこれらのテープを所持しているとの証拠がないうえ、これらの録音内容も証拠上不明であって証拠調べの必要性があるとも認められない。よって、原告らの右各文書提出命令の申立を却下する。

四  結論

以上によれば、原告らの主位的請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、予備的請求は主文掲記の限度で理由があるからこれらを認容し、その余を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法六一条、六四条、六五条、仮執行の宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官大出晃之 裁判官山本和人 裁判官平井三貴子)

別紙<省略>

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