京都地方裁判所 平成20年(ワ)2803号 判決 2009年6月24日
原告
X
被告
Y
主文
一 被告は、原告に対し、一七二万三七八九円及びこれに対する平成一九年三月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを二分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、三五二万三七八九円及びこれに対する平成一九年三月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、原告が、交通事故により負傷し損害を被ったとして、被告に対し、民法七〇九条に基づき、上記損害賠償金(三五二万三七八九円。後記二(3)原告の主張カ)及びこれに対する不法行為の後である平成一九年三月一七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
一 争いのない事実等
次の事実は、当事者間に争いがないか、証拠(後掲のもの)及び弁論の全趣旨により認めることができる。
(1) 次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
ア 発生日時 平成一九年三月一六日午後一〇時二〇分ころ
イ 発生場所 京都府宇治市小倉町南堀池一一〇番地の四八(以下「本件事故現場」という。また、本件事故現場の交差点を「本件交差点」と、本件事故現場付近をほぼ南北に走る道路を「本件南北道路」と、本件事故現場付近をほぼ東西に走る道路を「本件東西道路」とそれぞれいう。)
ウ 事故態様 被告は、普通乗用自動車(〔ナンバー省略〕。以下「被告車」という。)を運転し、本件南北道路を北から南に向けて進行し、本件交差点手前に差し掛かり、本件交差点北詰付近で一時停止をした。原告は、そのとき、被告車の前方の本件交差点内を西から東に向けて徒歩で横断したところ、被告は、クラクション(警音器。以下「警音器」という。)を鳴らした。原告が、これに反応し、本件交差点を横断し終わった(又は、ほぼ横断し終わった)所から反転して被告車に近づいていったところ、被告は、被告車を発進させ、被告車の左前部が原告に衝突した(以下「本件第一行為」という。)。
原告は、上記衝突後、被告車のボンネット上に乗った状態となったが、被告は、そのまま被告車を進行させたところ、約一二メートル進行した地点で、原告が被告車から路上に転落した(以下「本件第二行為」という。)。
エ 事故発生後の事情 被告は、本件第二行為後も減速することなく被告車を進行させ、傷害を負った原告を前記転落場所に残して逃走した。
(2) 責任原因
被告は、故意又は過失により、本件事故を発生させたものであり、原告に対し、民法七〇九条に基づき、本件事故により原告が被った損害を賠償する責任がある。
二 争点
(1) 暴行・傷害の故意の有無
(原告の主張)
被告には、本件第一行為につき衝突(暴行)の故意(認識・認容)が、本件第二行為につき傷害の故意(認識・認容)があった。
(被告の主張)
上記原告の主張は否認する。被告には、暴行及び傷害の故意はなく、過失があったにすぎない。
(2) 過失相殺
(被告の主張)
原告は、被告が警音器を鳴らしたことに腹を立て、動いている被告車にあえて接近していったものであり、相当な過失相殺がなされるべきである。
(原告の主張)
上記被告の主張は争う。
(3) 原告の損害
(原告の主張)
原告は、本件事故により、傷害を負い、次のとおり損害を被った。
ア 治療費 一五万〇五一〇円
イ 休業損害 七万三二七九円
ウ 傷害慰謝料 三〇〇万円
被告の行為の危険性、悪質性にかんがみれば、故意の傷害事犯の場合の傷害慰謝料として、上記金額が相当である。
エ 前記アないしウの合計 三二二万三七八九円
オ 弁護士費用 三〇万円
カ 前記エ及び同オの合計 三五二万三七八九円
(被告の主張)
上記原告の主張ア及び同イは知らない。上記原告の主張ウないしカは否認する。
第三当裁判所の判断
一 前記第二の一の事実及び証拠(後掲のもの、甲一七、原告本人)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1) 事故態様等(甲一、三ないし七、一一ないし一三、乙二、三、被告本人)
ア 本件事故現場及びその付近の状況は別紙図面(甲四の交通事故現場見取図)記載のとおりである。
被告(昭和○年○月○日生の男性)は、平成一九年三月一六日午後一〇時二〇分ころ、普通乗用自動車(被告車)を運転し、本件南北道路を北から南に向けて進行し、本件交差点手前に差し掛かり、本件交差点北詰付近(上記図面の①地点付近)で一時停止をした。原告(昭和四〇年一〇月七日生の男性)は、そのとき、被告車の前方の本件交差点内を西から東に向けて徒歩で横断したところ(上記図面のfile_4.jpg地点付近からfile_5.jpg地点付近へと横断したものである。)、被告は、その際の原告の態度に立腹し、本件交差点をほぼ横断し終わり上記図面のfile_6.jpg地点付近にいた原告に対し、警音器を鳴らした。原告が、これに立腹し、被告に対して文句を言うため、上記file_7.jpg地点付近から反転し、被告をにらみつけながら被告車に近づいていったところ、被告は、口論など争いになるのは嫌だと思い、原告が被告車の左前方直近(至近距離の位置)にいるにもかかわらず、被告車を発進させたため、被告車の左前部が原告に衝突し、原告が被告車のボンネット上に乗った状態となった(本件第一行為)。被告は、原告が被告車のボンネット上に乗った状態となっていることを認識したが、そのまま被告車を進行させたところ、被告車が約一二メートル進行した地点で原告が被告車のボンネット上から路上に転落した(本件第二行為)。
イ 被告は、本件第二行為後も減速することなく被告車を進行させ、傷害を負った原告を前記転落場所に残して逃走した。平成一九年三月一六日午後一一時一〇分ころ及び同月一七日午前一時三〇分ころ、本件事故現場において、警察官による実況見分がなされ、上記一七日午前一時三〇分ころに行われた実況見分の際には、原告は、現場において、立会人として指示説明を行ったが、被告は、上記のとおり逃走していたため、上記実況見分に立ち会うことがなかった(被告は、本件事故の一二日後に行われた実況見分において立会人として、指示説明を行ったものである。)。
(2) 原告の負傷及び治療経過等(甲二、一四ないし一六)
原告は、本件事故(主に本件第二行為)により、頭部挫創、左下腿・左手打撲傷の各傷害を負い、平成一九年三月一六日から同年五月三〇日までの間、宇治徳洲会病院に通院し上記傷害の治療を受けた。
二 争点(1)(暴行・傷害の故意の有無)について
(1) 前記一(1)の事実及び証拠(甲四ないし七、一一ないし一三、一七、乙二、三、原告本人、被告本人)によれば、被告には、本件第一行為につき暴行の未必の故意(有形力の行使の認識・認容)が、本件第二行為につき傷害の未必の故意(傷害の認識・認容)がそれぞれあったことが認められる。
(2) これに対し、被告は、いずれについても故意はなかった旨主張する。
しかしながら、本件第一行為については、被告は、「①警音器を鳴らしたのに対し、原告が被告車に近づいてきたのを見て、被告車を発進させた、②被告車を発進させた際、原告の動きをよく見ないまま発進させた、③被告車が少し進んだとき、原告が被告車の左前方直近にいることを認識し、原告と衝突してしまうと思ったが、原告が悪いと思い、ブレーキを踏まなかった。」旨供述していること(甲七―二、三丁)のほか、前判示のとおり、被告は、原告が被告車に近づいてきており被告車の左前方直近(至近距離の位置)にいることを認識しながら、被告車を発進させたことに照らせば、被告には、原告に対する暴行(有形力の行使)につき未必の故意(認識・認容)があったことが認められ、被告の上記主張は採用できない。
また、本件第二行為について、被告は、原告が被告車のボンネット上に乗った状態となっていることを認識しながら、被告車を停止させることなく進行させたものであり(この点については、被告はこれを認める旨の供述をしている〔甲七―三丁、被告本人一七、一八丁〕。)、傷害を負わせる危険性の高い行為を行う認識を有していたことなど前判示の被告の行為態様に照らせば、被告において、原告が傷害を負うことを意欲していたものではないとしても、少なくとも、原告が何らかの傷害を負うことを認容していたことが認められ、上記認定を覆すに足りる証拠はない。したがって、本件第二行為につき、被告には傷害の未必の故意があったものというべきであり(被告が、原告が傷害を負うことを意欲していなかったことは、上記判断を左右しない。)、被告の上記主張は採用できない。
三 争点(2)(過失相殺)について
(1) 被告は、過失相殺事由として、「原告は、動いている被告車にあえて接近していった」との事実を主張し、被告はこれに沿う供述をする(甲五、甲七―三丁、被告本人三、四、一二、一三丁)。
(2) しかしながら、①原告は、「被告車の直前で被告車が発進するのを認め、危険を感じて、衝突を避けようとしたが、被告車に衝突された。発進するのを認めてから、危険を感じるまでに、一歩(約〇・六メートル)前進したにとどまる。」旨供述していること(甲四、甲六―二丁、甲一七、原告本人六ないし八丁)、②被告は、原告が警音器を鳴らされたことに立腹し被告車に近づいてきたのを見て、被告車を発進させたものであるところ、被告の前記(1))の主張は、「原告は、被告車が発進し前進しているのを認めた後もさらに被告車に近づいていった」旨主張するのであるが、この点に関し、被告は、「相手(原告)の動きをよく見ないまま自動車を発進させてしまった」などと供述しており(甲七―三丁)、上記のような事実があったのかどうかは明確でないこと、③被告は、本件事故後、本件事故現場から逃走し、本件事故における自らの責任を回避する態度をとったものである上、本人尋問において、本件事故に係る捜査において警察官や検察官に対して供述した内容から変遷させた内容の供述したり、尋問中の前後で異なる供述をしたりしており(被告本人一三ないし一八丁)、その供述内容は一貫しておらず重要な点につき変遷していること、以上にかんがみれば、被告の前記(1)の供述は採用することができず、他に被告の主張する前記(1)の事実を認めるに足りる証拠はない。
そして、本件事故の発生に関しては、原告にも、被告に警音器を鳴らされたとはいえ、被告に対して文句を言うために被告車に近づいていったという落ち度があるが(被告が警音器を鳴らしたことは不適切であったが、原告が、上記のとおり被告車に近づいていったことも、口論等になるおそれのある行為であり、不適切であった。)、被告は、前判示のとおり本件第一行為及び本件第二行為につき暴行又は傷害の故意があったものであり、本件事故を発生させた被告の行為の危険性・悪質性にかんがみれば、原告の上記落ち度をもって、過失相殺における被害者の過失としてしんしゃくするのは相当でない。したがって、被告の前記(1)の主張は採用できない。
四 争点(3)(原告の損害)について
(1) 治療費 一五万〇五一〇円
前記一の事実及び証拠(甲八。各枝番を含む。なお、以下、枝番のある書証につき枝番の記載のないものは各枝番を含むものである。)並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故により、治療費として、上記金額を要し、同額の損害を被ったことが認められる。
(2) 休業損害 七万三二七九円
前記一の事実及び証拠(甲九、一〇、一七、原告本人)並びに弁論の全趣旨によれば、①原告は、本件事故による負傷のため有給休暇を四日取得し、休業損害を被ったこと、②原告は、本件事故当時、会社に雇用され就労により日額一万八三二〇円を下らない収入を得ていたところ、上記有給休暇(四日)を金銭的に評価すると七万三二八〇円(日額一万八三二〇円×四日)となること、③したがって、原告は、本件事故により、原告主張に係る七万三二七九円を下らない休業損害を被ったことが認められる。
(3) 傷害慰謝料 一三〇万円
原告が本件事故により負った傷害の内容、治療経過のほか本件事故の態様等(被告には前判示のとおり本件事故の発生に関し暴行又は傷害の故意があったこと、被告が本件事故後、事故現場から逃走したこと(ひき逃げ)のほか本件事故発生に至る前判示の経緯等)にかんがみれば、傷害慰謝料として、上記金額を認めるのが相当である。
(4) 前記(1)ないし(3)の合計 一五二万三七八九円
(5) 弁護士費用 二〇万円
本件事案の内容、本件訴訟の経過及び認容額等にかんがみれば、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用の損害として、上記金額を認めるのが相当である。
(6) 前記(4)及び同(5)の合計 一七二万三七八九円
五 以上によれば、被告は、原告に対し、民法七〇九条に基づき、一七二万三七八九円(前記四(6))及びこれに対する不法行為の後である平成一九年三月一七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務を負うものというべきであり、原告の被告に対する請求は、上記金員の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がない。
(裁判官 井田宏)
(別紙)
交通事故現場見取図
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