京都地方裁判所 平成20年(ワ)3219号 判決 2009年5月27日
原告
X1 他1名
被告
Y
主文
一 被告は、原告X1に対し、一四六万七〇三一円及びこれに対する平成一九年一一月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告X2に対し、一三五万一一九一円及びこれに対する平成一九年一一月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らのその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は、これを二分し、その一を被告の負担とし、その余は原告らの負担とする。
五 この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。ただし、被告が原告X1のため九九万円、原告X2のため九一万円の担保を供するときは、それぞれその仮執行を免れることができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告は、原告X1に対し、二九七万五五九三円及びこれに対する平成一九年一一月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告X2に対し、二七七万八五五〇円及びこれに対する平成一九年一一月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 本件は、後続車(普通乗用自動車)から追突され先行車に追突した普通乗用自動車の運転者と同乗者が、追突した後続車の運転者に対して民法七〇九条に基づき、損害の賠償と損害に対する不法行為の日(上記事故の発生日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事件である。
二 当事者間に争いのない事実等
(1) 次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した(甲一)。
ア 発生日時 平成一九年一一月二日午前九時三八分ころ
イ 発生場所 京都市伏見区竹田向代町川町四一―七
ウ 関係車両 被告運転の普通乗用自動車(〔ナンバー省略〕)(以下「被告車」という。)、原告X1(以下「原告X1」という)運転で原告X2(以下「原告X2」という)同乗の普通乗用自動車(〔ナンバー省略〕)(以下「原告車」という)及びA(以下「A」という)運転の普通貨物自動車(〔ナンバー省略〕)(以下「A車」という)
エ 事故態様 被告車が原告車に追突し、原告車がA車に追突した(いわゆる玉突き事故)。
(2) 責任原因
被告は、前方注視義務を怠って本件事故を発生させたから、民法七〇九条に基づく損害賠償責任を負う。
(3) 原告X1の治療の経緯等
ア 原告X1(昭和○年○月○日生)は、平成一九年一一月二日、医療法人清水会京都伏見しみず病院(以下「京都伏見しみず病院」という)を受診し(実通院日数一日)、頸部捻挫の傷病名で、頸椎XP検査を受けた(甲二の一、甲三の一)。
イ 原告X1は、平成一九年一一月二日から平成二〇年三月二七日まで、a整形外科医院を受診し(実通院日数八四日)、頸椎捻挫(平成一九年一一月二日から)、腰椎捻挫(平成一九年一一月五日から)、不眠症及び睡眠障害(平成一九年一一月一三日から)の傷病名で、腰椎・両手各XP検査、内服薬・外用薬の処方、消炎鎮痛等処置(器具等による療法)による治療を受けた(甲二の二ないし六、甲三の二ないし六)。
ウ 原告X1は、平成二〇年四月三日から同年七月九日まで、医療法人b整形外科医院(以下「b整形外科医院」という)を受診し(実通院日数三六日)、頸椎捻挫、腰椎捻挫、外傷性自律神経失調症、両手挫傷の傷病名で、両手XP検査、消炎鎮痛等処置(器具等による療法)による治療を受けた(甲二の七、甲三の七)。
エ 原告X1は、平成二〇年七月九日、b整形外科医院において、頸椎捻挫、腰椎捻挫、外傷性自律神経失調症、両手関節挫傷の傷病名について、同日、自覚症状(頸部痛、右下肢痛、頭痛、両手関節痛、腰痛)、他覚症状及び検査結果(頸部筋緊張、両手関節痛、腰部筋緊張、腰部圧痛、頸部圧痛、SLRテスト〔下肢伸展挙上テスト〕左右とも六〇度陽性、両下肢筋緊張強い)、頸椎部運動障害(前屈六〇度後屈六〇度右屈六〇度左屈六〇度右回旋六〇度左回旋六〇度〔正常運動可能領域は、前屈六〇度後屈五〇度右屈五〇度左屈五〇度右回旋七〇度左回旋七〇度〕)を残して、症状が固定したとの診断を受けた(甲四)。
(4) 原告X2の治療の経緯等
ア 原告X2(昭和○年○月○日生)は、平成一九年一一月二日、京都伏見しみず病院を受診し(実通院日数一日)、頸部捻挫の傷病名で、頸椎XP検査を受けた(甲五の一、甲六の一)。
イ 原告X2は、平成一九年一一月二日から平成二〇年三月二七日まで、a整形外科医院を受診し(実通院日数八二日)、頸椎捻挫(平成一九年一一月二日から)、両股関節捻挫及び不眠症(平成一九年一一月九日から)の傷病名で、両股関節XP検査、内服薬・外用薬の処方、消炎鎮痛等処置(器具等による療法)による治療を受けた(甲五の二ないし六、甲六の二ないし六、乙六―一一、一二頁〔平成二〇年二月の実通院日数は二日ではなく一一日である〕)。
ウ 原告X2は、平成二〇年四月一日から同年七月九日まで、b整形外科医院を受診し(実通院日数二五日)、頸椎捻挫、外傷性自律神経失調症の傷病名で、消炎鎮痛等処置(器具等による療法)による治療を受けた(甲五の七、甲六の七)。
エ 原告X2は、平成二〇年五月二日から同年六月二三日まで、c医院を受診し(実通院日数四日)、眩暈、平衡機能障害、頸椎症の傷病名で、血液化学検査、超音波検査、平衡機能検査を受けた(甲五の八、甲六の八)。
オ 原告X2は、平成二〇年四月一四日から同年六月二五日まで、d治療院ことBを受診し(実通院日数三日)、右肩関節の運動痛、肩頸部・背部の凝り、眩暈の症候について、全身マッサージの施術を受けた(甲八)。
カ 原告X2は、平成二〇年七月九日、b整形外科医院において、頸椎捻挫、外傷性自律神経失調症の傷病名について、同日、自覚症状(頸部痛、耳鳴り、眩暈)、他覚症状及び検査結果(後頭三叉神経に圧痛あり、頸部筋緊張強い〔ただし、ジャクソンテスト・スパーリングテストは陰性〕)、頸椎部運動障害(前屈六〇度後屈六〇度右屈六〇度左屈六〇度右回旋六〇度左回旋六〇度〔正常運動可能領域は、前屈六〇度後屈五〇度右屈五〇度左屈五〇度右回旋七〇度左回旋七〇度〕)を残して、症状が固定したとの診断を受けた(甲七)。
三 争点
(1) 原告X1の傷害・相当治療期間
(原告X1の主張)
ア 原告X1は、本件事故により頸椎捻挫、腰椎捻挫、不眠症の傷害を負った。
イ 本件事故と相当因果関係がある治療期間は、平成一九年一一月二日から平成二〇年七月九日までである。
(被告の主張)
ア 原告X1の主張アは、不知又は争う。
イ 同イのうち、平成一九年一一月二日から平成二〇年三月三一日までの治療期間について、本件事故と相当因果関係があることを認め、その余は否認する。
(2) 原告X2の傷害・相当治療期間
(原告X2の主張)
ア 原告X2は、本件事故により頸椎捻挫、両股関節捻挫、不眠症の傷害を負った。
イ 本件事故と相当因果関係がある治療期間は、平成一九年一一月二日から平成二〇年七月九日までである。
(被告の主張)
ア 原告X2の主張アは、不知又は争う。
イ 同イのうち、平成一九年一一月二日から平成二〇年三月三一日までの治療期間について、本件事故と相当因果関係があることを認め、その余は否認する。
(3) 原告X1の損害
(原告X1の主張)
ア 治療関係費(未払分) 三万三四〇〇円
内訳・京都伏見しみず病院 一万三一五〇円
a整形外科医院 五八四〇円
b整形外科医院 一万四四一〇円
イ 通院交通費 七万七〇五五円
内訳・別紙「原告X1交通費」記載のとおり。原告X1及び原告X2は、本件事故後、自動車の運転は肉体的・精神的に苦痛であったので、タクシー又は公共交通機関を利用していた。
ウ 損害賠償請求費用 二万三九五五円
内訳・a整形外科医院 ・診断書 六〇〇〇円
同 ・診療報酬明細書 六〇〇〇円
同 ・振込手数料 三一五円
b整形外科医院 ・診断書 三〇〇〇円
同 ・診療報酬明細書 三〇〇〇円
同 ・後遺障害診断書 五〇〇〇円
事故証明書 六四〇円
エ 休業損害 九二万円
説明・原告X1は、昭和四〇年から友禅染の染色・デザインの世界で活躍してきた高名な染色作家であり、平成一八年六月八日からは、株式会社eで、原告X2と協力して和洋服・美術品等の製造・販売業務などを行っていた。原告X1は、本件事故に起因する頸椎捻挫による頸部痛や頭痛、両手関節痛や腰痛などから仕事ができず、あるいは無理に仕事をしようとしても集中できず、仕事にならなかった。このことは、実質上原告X1の仕事と一体である株式会社eの業務自体に支障を来していたものである。したがって、原告X1が仕事をできなかった期間の給与は支払われていない。月額給与一一万五〇〇〇円の八か月分(平成一九年一一月分から平成二〇年六月分まで)で上記金額となる。
オ 慰謝料 一六五万円
カ 小計 二七〇万五〇八五円
キ 弁護士費用 二七万〇五〇八円
ク 合計 二九七万五五九三円
(被告の主張)
ア 原告X1の主張ア(治療関係費〔未払分〕)のうち、京都伏見しみず病院一万三一五〇円、a整形外科医院五八四〇円(合計一万八九九〇円)を認め、b整形外科医院一万四四一〇円は否認する。b整形外科医院における治療と本件事故との間には相当因果関係がない。
イ 原告X1の主張イ(通院交通費)は否認する。原告X1は、原告X2と自家用自動車で通院していた。
ウ 原告X1の主張ウ(損害賠償請求費用)は、不知ないし争う。
エ 原告X1の主張エ(休業損害)は否認する。原告X1が就労不能であったこと、原告X1が休業したことを否認する。仮に、原告X1が休業していたとしても、本件事故と相当因果関係が認められるのは平成二〇年三月一〇日までである。
オ 原告X1の主張オ(慰謝料)、カ(小計)、キ(弁護士費用)、ク(合計)は、争う。
(4) 原告X2の損害
(原告X2の主張)
ア 治療関係費(未払分) 八万〇二五〇円
内訳・京都伏見しみず病院 三一五〇円
a整形外科医院 六〇六〇円
b整形外科医院 九九七〇円
c医院 二万五〇七〇円
d治療院 三万六〇〇〇円
イ 通院交通費 八万五六九五円
内訳・別紙「原告X2交通費」記載のとおり。原告X2は、自動車の運転に恐怖を覚え、自らは運転できない状態である。
ウ 損害賠償請求費用 三万〇六八五円
内訳・a整形外科医院・診断書 六〇〇〇円
同・診療報酬明細書 六〇〇〇円
b整形外科医院・診断書 三〇〇〇円
同・診療報酬明細書 三〇〇〇円
同・後遺障害診断書 五〇〇〇円
c医院・診断書(送料込み) 三三六五円
同・診療報酬明細書(送料込み) 三三六五円
同・振込手数料 三一五円
事故証明書 六四〇円
エ 休業損害 六八万円
説明・原告X2は、昭和四九年から友禅染のデザイン・製造・販売業務に従事し、平成一八年六月八日からは、株式会社eで、原告X1と協力して和洋服・美術品等の製造・販売業務などを行っていた。原告X2は、本件事故に起因する頸椎捻挫による頸部痛、耳鳴り、眩暈などから仕事ができず、あるいは無理に仕事をしようとしても集中できず、仕事にならず、ひいては株式会社eの業務自体に支障を来していたものである。したがって、原告X2が仕事をできなかった期間の給与は支払われていない。月額給与八万五〇〇〇円の八か月分(平成一九年一一月分から平成二〇年六月分まで)で上記金額となる。
オ 慰謝料 一六五万円
カ 小計 二五二万五九五五円
キ 弁護士費用 二五万二五九五円
ク 合計 二七七万八五五〇円
(被告の主張)
ア 原告X2の主張ア(治療関係費〔未払分〕)のうち、京都伏見しみず病院三一五〇円、a整形外科医院六〇六〇円(合計九二一〇円)を認め、b整形外科医院九九七〇円、c医院二万五〇七〇円、d治療院三万六〇〇〇円(合計七万一〇四〇円)は否認する。b整形外科医院、c医院及びd治療院における治療、施術と本件事故との間には相当因果関係がない。
イ 原告X2の主張イ(通院交通費)は否認する。原告X2は、原告X1と自家用自動車で通院していた。
ウ 原告X2の主張ウ(損害賠償請求費用)は、不知ないし争う。
エ 原告X2の主張エ(休業損害)は否認する。原告X2が就労不能であったこと、原告X2が休業したことを否認する。仮に、原告X2が休業していたとしても、本件事故と相当因果関係が認められるのは平成二〇年三月一〇日までである。
オ 原告X2の主張オ(慰謝料)、カ(小計)、キ(弁護士費用)、ク(合計)は、争う。
第三当裁判所の判断
一 争点で(1)(原告X1の傷害・相当治療期間)について
(1) 証拠(甲二の一ないし六)及び弁論の全趣旨によれば、原告X1が本件事故により頸椎捻挫、腰椎捻挫、不眠症の傷害を負ったことが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
(2) 次に、原告X1の治療期間のうち、平成一九年一一月二日から平成二〇年三月三一日までについて、本件事故と相当因果関係があることは当事者間に争いがない。そこで、平成二〇年四月一日から同年七月九日までについて、本件事故と相当因果関係があるか否かについて判断する。
(3) 当事者間に争いがない事実等、証拠(後掲のもの)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア 原告X1(昭和○年○月○日生)は、平成一九年一一月二日、京都伏見しみず病院を受診し(実通院日数一日)、頸部捻挫の傷病名で診察を受けたが、意識は清明、自力歩行可能で明らかな外傷はなく、原告X1が頸部の張りを訴えたものの、頸部の回旋・屈伸は円滑に行うことができ、四肢の神経症状も認められず、しかもXP検査の結果異常所見が認められなかったことから、「頸部捻挫で初診日(平成一九年一一月二日)から一四日間の加療を要する見込みである」との診断を受け、今後の推移を見るため、住所地近くのa整形外科医院に転医した(乙一)。
イ 原告X1は、平成一九年一一月二日から平成二〇年三月二七日まで、a整形外科医院を受診し(実通院日数八四日)、頸椎捻挫(平成一九年一一月二日から)、腰椎捻挫(平成一九年一一月五日から)、不眠症及び睡眠障害(平成一九年一一月一三日から)の傷病名で、診察及び治療を受けた。原告X1は、初診日(平成一九年一一月二日)、首、背中及び大腿が重くだるいと訴え、腰椎・両手各XP検査を受け、その後、内服薬・外用薬の処方、消炎鎮痛等処置(器具等による療法〔一回一〇分間ないし二〇分間程度・頸部及び右臀部にホットパック、右臀部から下肢にかけて及び背部にスーパーカイネ〕)を受けた(乙二)。a整形外科医院の主治医は、原告X1に対し、通院期間中、医学的な面からの日常生活(就労)制限指導を行っておらず、平成二〇年三月二七日の時点で、「患者様(原告X1)が納得すれば」症状固定と判断できるとの所見を述べている(乙一二)。
ウ 原告X1は、転居に伴い、a整形外科医院からの紹介を得ないまま(乙一一)、b整形外科医院に転医し、平成二〇年四月三日から同年七月九日まで、同医院を受診し(実通院日数三六日)、頸椎捻挫、腰椎捻挫、外傷性自律神経失調症、両手挫傷(平成二〇年四月三日から)、痛風及び胃炎(平成二〇年五月二三日から)、両手関節痛(平成二〇年六月二五日から)の傷病名で、内服薬・外用薬の処方、消炎鎮痛等処置(器具等による療法)を受けた(乙三)。
エ 原告X1は、平成二〇年七月九日、b整形外科医院において、頸椎捻挫、腰稚捻挫、外傷性自律神経失調症、両手関節挫傷の傷病名について、同日、自覚症状(頸部痛、右下肢痛、頭痛、両手関節痛、腰痛)、他覚症状及び検査結果(頸部筋緊張、両手関節痛、腰部筋緊張、腰部圧痛、頸部、圧痛、SLRテスト〔下肢伸展挙上テスト〕左右とも六〇度陽性、両下肢筋緊張強い)、頸椎部運動障害(前屈六〇度後屈六〇度右屈六〇度左屈六〇度右回旋六〇度左回旋六〇度〔正常運動可能領域は、前屈六〇度後屈五〇度右屈五〇度左屈五〇度右回旋七〇度左回旋七〇度〕)を残して、症状が固定したとの診断を受けた。
(4) 上記認定の事実関係によれば、確かに、原告X1は、本件事故当日受診した京都伏見しみず病院での診察の結果、意識は清明、自力歩行可能で明らかな外傷はなく、頸部の回旋・屈伸は円滑に円滑に行うことができ、四肢の神経症状も認められず、しかもXP検査の結果異常所見が認められないなど他覚所見が認められなかったものの、首、背中及び大腿が重くだるいなどの自覚症状を訴えて、内服薬・外用薬の処方、消炎鎮痛等処置(器具等による療法)による治療を受け続けたものであるが、期間は、約九か月間と極端に長期間にわたっているものではなく、しかも、原告X1の訴える自覚症状が一貫していて格別不自然ではないことからすると、症状が固定したとの診断を受けた平成二〇年七月九日までについて、本件事故と相当因果関係があるものと認めることができる。
二 争点(2)(原告X2の傷害・相当治療期間)について
(1) 証拠(甲五の一ないし六)及び弁論の全趣旨によれば、原告X2が本件事故により頸椎捻挫、両股関節捻挫、不眠症の傷害を負ったことが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
(2) 次に、原告X2の治療期間のうち、平成一九年一一月二日から平成二〇年三月三一日までについて、本件事故と相当因果関係があることは当事者間に争いがない。そこで、平成二〇年四月一日から同年七月九日までについて、本件事故と相当因果関係があるか否かについて判断する。
(3) 当事者間に争いがない事実等、証拠(後掲のもの)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア 原告X2(昭和○年○月○日生)は、平成一九年一一月二日、京都伏見しみず病院を受診し(実通院日数一日)、頸部捻挫の傷病名で診察を受けたが、意識は清明、自力歩行可能で明らかな外傷はなく、原告X2が頸部の張りを訴えたものの、頸部の回旋・屈伸は円滑に行うことができ、四肢の神経症状も認められず、しかもXP検査の結果異常所見が認められなかったことから、「頸部捻挫で初診日(平成一九年一一月二日)から一四日間の加療を要する見込みである」との診断を受け、今後の推移を見るため、住所地近くのa整形外科医院に転医した(乙五)。
イ 原告X2は、平成一九年一一月二日から平成二〇年三月二七日まで、a整形外科医院を受診し(実通院日数八二日)、頸椎捻挫(平成一九年一一月二日から)、両股関節捻挫及び不眠症(平成一九年一一月九日から)の傷病名で診察及び治療を受けた。原告X2は、初診日(平成一九年一一月二日)、首、背中、肩、腰が痛く痺れていると訴え、内服薬・外用薬の処方、消炎鎮痛等処置(器具等による療法〔一回一〇分間ないし二〇分間程度・頸部にホットパック、背部にマイクロ、頸及び背中にスーパーカイネ〕)を受けた(乙六)。a整形外科医院の主治医は、原告X2に対し、通院期間中、医学的な面からの日常生活(就労)制限指導を行っておらず、平成二〇年三月二七日の時点で、「患者様(原告X2)が納得すれば」症状固定と判断できるとの所見を述べている(乙一五)。
ウ 原告X2は、a整形外科医院からの紹介を得ないまま(乙一一)、b整形外科医院に転医し、平成二〇年四月一日から同年七月九日まで、同医院を受診し(実通院日数二五日)、頸部荒れ肌及び咽頭炎(平成二〇年四月一日)、頸椎捻挫及び外傷性自律神経失調症(平成二〇年四月三日から)、咽頭炎(平成二〇年六月二五日から)の傷病名で、内服薬・外用薬の処方、消炎鎮痛等処置(器具等による療法)を受けた(乙七)。
エ 原告X2は、平成二〇年五月二日から同年六月二三日まで、c医院を受診し(実通院日数四日)、眩暈、平衡機能障害、頸椎症の傷病名で、血液化学検査、超音波検査、平衡機能検査を受け、①脳MRI検査の結果、正常で形態的な意味からの脳病変は否定的である、②頸部XP及びMRI検査の結果、頸椎に軽度の変形が認められる(頸部病変が交感神経刺激状態に関連した末梢血流障害〔特に内耳血流障害を含む椎骨脳底動脈系血流障害〕を生じて、眩暈と関連しているとするメカニズムも否定できない)、③脳波は正常である、④耳鼻科的検査の結果、一部の平衡機能検査に異常を認め、前庭系の異常があり、今回の眩暈は眩暈症である、積極的に運動すること(眩暈体操)により、眩暈が軽快すると思われる、⑤総合評価として、基本的な原因は、内耳傷害・頸椎病変の合併したものと思われるとの診断を受けた(甲五の八、乙八―五、六枚目各表)。
オ 原告X2は、平成二〇年四月一四日から同年六月二五日まで、医師の指示・紹介を受けることなく(原告X2本人―三、四頁)、d治療院ことBを受診し(実通院日数三日)、右肩関節の運動痛、肩頸部・背部の凝り、眩暈の症候について、全身マッサージの施術を受けた(甲八)。
カ 原告X2は、平成二〇年七月九日、b整形外科医院において、頸椎捻挫、外傷性自律神経失調症の傷病名について、同日、自覚症状(頸部痛、耳鳴り、眩暈)、他覚症状及び検査結果(後頭三叉神経に圧痛あり、頸部筋緊張強い〔ジャクソンテスト・スパーリングテストは陰性〕)、頸椎部運動障害(前屈六〇度後屈六〇度右屈六〇度左屈六〇度右回旋六〇度左回旋六〇度〔正常運動可能領域は、前屈六〇度後屈五〇度右屈五〇度左屈五〇度右回旋七〇度左回旋七〇度〕)を残して、症状が固定したとの診断を受けた(甲七)。
(4) 上記認定の事実関係によれば、確かに、原告X2は、本件事故当日受診した京都伏見しみず病院での診察の結果、意識は清明、自力歩行可能で明らかな外傷はなく、頸部の回旋・屈伸は円滑に円滑に行うことができ、四肢の神経症状も認められず、しかもXP検査の結果異常所見が認められないなど他覚所見が認められなかったものの、首、背中、肩、腰が痛く痺れているなどの自覚症状を訴えて、内服薬・外用薬の処方、消炎鎮痛等処置(器具等による療法)による治療を受け続けたものであり、c医院の検査結果でも、頸椎に軽度の変形、一部の平衡機能検査に異常が認められただけで、原告X2が訴える症状の基本的な原因は、内耳傷害・頸椎病変の合併したものと思われるとの診断を受けているけれども、期間は、約九か月間と極端に長期間にわたっているものではなく、しかも、原告X2の訴える自覚症状が一貫していて格別不自然ではないことからすると、症状が固定したとの診断を受けた平成二〇年七月九日までについて、本件事故と相当因果関係があるものと認めることができる。
三 争点(3)(原告X1の損害)について
当事者間に争いがない事実等、証拠(後掲のもの)及び弁論の全趣旨によれば、原告X1が本件事故によって被った損害は次のとおりであることが認められる。
(1) 治療関係費(未払分) 三万三四〇〇円
説明・京都伏見しみず病院一万三一五〇円、a整形外科医院五八四〇円(当事者間に争いがない)及びb整形外科医院一万四四一〇円(甲三の七)の合計金額である。
(2) 通院交通費 五万九四七〇円
説明・前記認定の原告X1の傷害の部位・程度、治療の経緯によれば、本件事故当日分を除き、通院にタクシーを利用する必要性を認めることはできないことから、公共交通機関による通院交通費を計上する。平成一九年一一月二日に原告X2と二人で利用したタクシー代九三八〇円の半額四六九〇円(甲一九の一)とa整形外科医院への通院交通費(平成一九年一一月二日を除く)バス代往復六六〇円の八三日分で五万四七八〇円の合計金額である。
(3) 損害賠償請求費用 二万三九五五円
説明・a整形外科医院の診断書六〇〇〇円・診療報酬明細書六〇〇〇円・振込手数料三一五円(甲三の五、六、甲一〇)、b整形外科医院の診断書三〇〇〇円、診療報酬明細書三〇〇〇円、後遺障害診断書五〇〇〇円(甲三の七、甲一一の一)、事故証明書六四〇円(甲九)の合計金額である(弁論の全趣旨)。
(4) 休業損害 五〇万〇二〇六円
説明・証拠(甲一三、一四の各一、二、甲一五、甲一六、一七の各一ないし三、甲一八、二〇、二一、原告X1本人、原告X2本人のほか後掲のもの)及び弁論の全趣旨によれば、原告X1は昭和四〇年から友禅染の染色・デザインに従事してきた作家であり、その妻である原告X2は昭和四九年からその手伝いをしてきたこと(乙八―一六枚目裏)、原告X1は、平成一八年六月八日、新たに、原告X1の作品を中心に扱う株式会社e(呉服のデザインに関する企画、制作及び指導等を目的とする、資本金の額五〇万円で株式の譲渡に株主総会の承認を要する会社)を、原告ら両名の子であるCを代表取締役兼取締役として設立したこと(甲二〇―二頁)、株式会社eは、代表取締役兼取締役であるCのほか、従業員二人(原告X1及び原告X2)の会社であり、事務所・原告X1の作業場を原告X1及び原告X2の自宅と同じ建物に置いていること(原告X1本人―三、六頁)、原告X1は、本件事故後通院期間中も上記作業場で創作活動をしていたが成果を上げることができなかったこと(乙一一、一二、原告X1本人―七頁)、原告X2は、平成一九年一二月初めころには、a整形外科医院の主治医から、身体を動かすようにとの指導を受けていたこと(原告X2本人―四頁)、株式会社eは、在庫(原告X1の作品)があったことから、本件事故により大きな収入減少の影響を受けなかったこと(原告X1本人―七頁)、原告X1は、税務上、平成一七年に給与三六〇万円、平成一八年に給与二八五万円(ほかに土地譲渡による収入がある)の各収入を得たが、平成一九年には一月から三月までは給与月額一五万円、四月から一〇月まては給与月額一一万五〇〇〇円の収入を得たとの取扱がされていたが、本件事故に遭った同年一一月から平成二〇年六月までの八か月間は、Cの判断で、給与全額の支給を受けないとの取扱がされたこと(同年七月からは給与月額一一万五〇〇〇円の収入を得たとの取扱がされている)、原告X2は、税務上、平成一七年に給与二四一万円、平成一八年に給与一九一万円の各収入を得たが、平成一九年には一月から三月までは給与月額一〇万円、四月から一〇月までは給与月額八万五〇〇〇円の収入を得たとの取扱がされていたが、本件事故に遭った同年一一月から平成二〇年六月までの八か月間は、Cの判断で、給与全額の支給を受けないとの取扱がされたこと(同年七月及からは給与月額八万五〇〇〇円の収入を得たとの取扱がされている)がそれぞれ認められる。
以上認定の事実関係に加え、前判示の原告X1の本件事故による傷害の部位、程度、治療の経緯によれは、原告X1は、治療期間中、作家として十分な成果をあげることかできなかったものの、稼働することはでき現に稼働していたこと、税務上平成一九年一一月から平成二〇年六月までの八か月間給与全額の支給を受けないとの取扱がされたのは子であるCの判断によるものであることがそれぞれ認められることからすると、上記未支給給与合計九二万円(一一万五〇〇〇円の八か月分で同金額となる)をもって原告X1が本件事故により被った休業損害であると認めることはできない。そして、上記認定の事実関係によれば、基礎収入を一か月一一万五〇〇〇円(一日あたり三八三三円〔一円未満切り捨て〕)とし、本件事故発生日である平成一九年一一月二日から平成一九年一二月三一日までの六〇日は一〇〇パーセント、平成二〇年一月一日から同年三月三一日までの九一日は五〇パーセント、同年四月一日から同年七月九日までの一〇〇日は二五パーセントとして算出した上記金額をもって、本件事故による休業損害と認めるのが相当である。
計算式は、3833円×(60+91×0.5+100×0.25)=50万0206円(一円未満切り捨て)である。
(5) 慰謝料 七二万円
説明・本件事故の態様、傷害の部位・程度、治療の経緯等諸般の事情を考慮すれば、上記金額を認めるのが相当である。
(6) 小計 一三三万七〇三一円
(7) 弁護士費用 一三万円
説明・前記認定の事実関係によれば、本件事故と相当因果関係を認めることのできる弁護士費用相当の損害は、上記金額である。
(8) 合計 一四六万七〇三一円
四 争点(2)(原告X2の損害)について
当事者間に争いがない事実等、証拠(後掲のもの)及び弁論の全趣旨によれば、原告X2が本件事故によって被った損害は次のとおりであることが認められる。
(1) 治療関係費(未払分) 四万四二五〇円
説明・京都伏見しみず病院三一五〇円、a整形外科医院六〇六〇円(当事者間に争いがない)、b整形外科医院九九七〇円(甲六の七)、c医院二万五〇七〇円(甲六の八)の合計金額である。d治療院における施術は、前判示のとおり、医師の指示・紹介によるものではなく、しかも、上記施術によって原告X2の傷害が治癒したことを認めるに足りる証拠はないことから、d治療院における施術費と本件事故との間に相当因果関係を認めることはできない。
(2) 通院交通費 六万六五五〇円
説明・前記認定の原告X2の傷害の部位・程度、治療の経緯によれば、本件事故当日分を除き、通院にタクシーを利用する必要性を認めることはできないことから、公共交通機関による通院交通費を計上する。平成一九年一一月二日に原告X1と二人で利用したタクシー代九三八〇円の半額四六九〇円(甲一九の一)とa整形外科医院への通院交通費(平成一九年一一月二日を除く)バス代往復六六〇円の八一日分で五万三四六〇円、c医院への通院交通費電車代往復二一〇〇円の四日分で八四〇〇円の合計金額である。
(3) 損害賠償請求費用 三万〇六八五円
説明・〇〇整形外科医院の診断書六〇〇〇円・診療報酬明細書六〇〇〇円(甲六の五、六)、b整形外科医院の診断書三〇〇〇円、診療報酬明細書三〇〇〇円、後遺障害診断書五〇〇〇円(甲六の七、甲一一の二)、c医院の診断書(送料込)三三六五円・診療報酬明細書(送料込)三三六五円、振込手数料三一五円(甲六の八、甲一二の一、二)、事故証明書六四〇円(甲九)の合計金額である(弁論の全趣旨)。
(4) 休業損害 三六万九七〇六円
説明・前判示の原告X2の本件事故による傷害の部位、程度、治療の経緯のほか、原告X2が、平成一九年一二月初めころには、a整形外科医院の主治医から、身体を動かすようにとの指導を受けていたこと、税務上平成一一年一一月から平成二〇年六月までの八か月間給与全額の支給を受けないとの取扱がされたのは子であるCの判断によるものであることがそれぞれ認められることからすると、上記未支給給与合計六八万円(八万五〇〇〇円の八か月分で同金額となる)をもって原告X2が本件事故により被った休業損害であると認めることはできない。そして、上記認定の事実関係によれば、基礎収入を一か月八万五〇〇〇円(一日あたり二八三三円〔一円未満切り捨て〕)とし、本件事故発生日である平成一九年一一月二日から平成一九年一二月三一日までの六〇日は一〇〇パーセント、平成二〇年一月一日から同年三月三一日までの九一日は五〇パーセント、同年四月一日から同年七月九日までの一〇〇日は二五パーセントとして算出した上記金額をもって、本件事故による休業損害と認めるのが相当である。計算式は、2833円×(60+91×0.5+100×0.25)=36万9706円(一円未満切り捨て)である。
(5) 慰謝料 七二万円
説明・本件事故の態様、傷害の部位・程度、治療の経緯等諸般の事情を考慮すれば、上記金額を認めるのが相当である。
(6) 小計 一二三万一一九一円
(7) 弁護士費用 一二万円
説明・前記認定の事実関係によれば、本件事故と相当因果関係を認めることのできる弁護士費用相当の損害は、上記金額である。
(8) 合計 一三五万一一九一円
五 よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 池田光宏)