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京都地方裁判所 平成20年(ワ)994号 判決 2009年9月30日

原告

被告

Y1 他2名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告Y1は、原告に対し、四六六三万二二九二円及びこれに対する平成一六年二月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告Y2は、原告に対し、一五五四万四〇九七円及びこれに対する平成一六年二月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告Y3は、原告に対し、九三二六万四五八五円及びこれに対する平成一六年二月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、普通乗用自動車と衝突した歩行者である原告が、亡Aの推定相続人(相続放棄の申述が家庭裁判所で受理されている)である被告Y1(妻)及び被告Y2(子)、並びに被告Y3に対し、亡A及び被告Y3が自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という)三条に基づく損害賠償責任(運行供用者責任)を負うと主張し、損害の賠償を求めた事件である。

二  当事者間に争いがない事実等

(1)  次の交通事故(以下「本件事故」という)が発生した(甲一、二、三八、三九)。

ア 発生日時 平成一六年二月二二日午後五時三八分ころ(天候は小雨)

イ 発生場所 京都市伏見区横大路芝生一番地(以下「本件事故現場」という)

ウ 関係車両 B運転の普通乗用自動車(〔ナンバー省略〕)(以下「B車」という)

エ 事故態様 Bは、B車を運転し、前照灯を点けて本件事故現場付近を東西に走る油掛通りの東行車線を西から東に向け進行し、本件事故現場付近の信号機による交通整理の行われている交差点(以下「本件交差点」という)に差し掛かり、対面信号が青信号であったことから、同交差点を右折して、本件事故現場付近を南北に走る国道一号線の南行車線に進入して同車線を北から南に向け進行しようと、別紙「交通事故現場見取図」(甲三九―三頁)(以下「別紙図面」という)の①の地点で右折の合図を出し、停止することなく本件交差点に進入した際、同交差点の南詰めに設置されている横断歩道上を横断する歩行者の有無及び安全を十分確認しないまま進行したため、別紙図面の③の地点で、同横断歩道上を、対面信号(青信号)にしたがい東から西に向け歩いて横断していた原告及びCを同図面のfile_2.jpg及びfile_3.jpgの地点に認め、危険を感じてブレーキを掛けハンドルを右に切ったものの間に合わず、同図面のfile_4.jpgの地点で原告及びCにB車を衝突させ、B車は同図面の⑤の地点に停止し、原告及びCは同図面のfile_5.jpg及びfile_6.jpgの地点に転倒した。

(2)  傷害、治療の経緯等

ア 原告(昭和五三年○月○日生)は、次のとおり、治療を受けた。

(ア) 医療法人社団蘇生会蘇生会総合病院(以下「蘇生会総合病院」という)において、外傷性脳挫傷及び腹部打撲(平成一六年二月二二日から)、難聴の疑い、耳管狭窄症の疑い及び右耳鳴り(同年三月一二日から)の傷病名で、平成一六年二月二二日から同月二五日まで入院し(四日)、同年三月一二日に通院して(実通院日数一日)、治療を受けた(甲三、四)。

(イ) 医療法人同仁会(社団)a病院(以下「a病院」という)において、頭部打撲、頭蓋骨骨折、脳挫傷、外傷性くも膜下出血、ストレス性潰瘍、頸椎捻挫及び嗅神経損傷(平成一六年二月二五日から)、入院ストレスによる不眠症(同月二六日から)、外傷性眩暈(同年三月二日から)、消化性潰瘍(同月一四日から)、外傷性頸部症候群(同年一二月二九日から)、症候性癲癇(平成一七年六月二九日から)、外傷性ストレスによる胃炎(同年九月二一日から)、右股関節捻挫(平成一八年二月二一日から)、外傷性ストレスによる急性胃腸炎(同年五月一四日から)の傷病名で、平成一六年二月二五日から同年三月三〇日まで入院し(三五日)、同月三一日から平成一八年一〇月四日まで通院して(実通院日数四四日)、治療を受けた(甲五、甲六の一ないし三)。

(ウ) 京都府立医科大学附属病院(以下「府立医大病院」という)において、外傷後ストレス障害の傷病名で、平成一七年二月二一日から同年五月三〇日まで通院して(実通院日数四日)治療を受けた(甲八、九)。

(エ) b歯科医院において、外傷による歯冠破折の傷病名で、平成一六年五月八日から同月一一日(治癒)まで通院して(実通院日数二日)治療を受けた(甲一一、一二)。

(オ) 京都社会事業財団京都桂病院(以下「京都桂病院」という)において、脳外傷後遺症の傷病名で、平成一八年四月一二日から同年一二月二七日まで通院して(実通院日数二三日)治療を受けた(甲一九)。

イ 原告は、次のとおり、症状が固定したとの診断を受けた。

(ア) a病院(脳神経外科)において、傷病名・頭部打撲、頭蓋骨骨折、外傷性くも膜下出血、脳挫傷、症候性てんかん、嗅神経損傷、平衡機能障害につき、平成一七年六月三〇日(甲一七の一、二)。

(イ) 府立医大病院(心療内科)において、傷病名・外傷後ストレス障害につき、平成一七年五月三〇日(甲一八、弁論の全趣旨)。

(ウ) 京都桂病院において、傷病名・脳外傷後遺症の傷病名で、平成一八年一二月二七日(甲一九)。

ウ 原告は、損害保険料率算出機構において、次のとおり後遺障害等級認定を受けた。

(ア) 平成一九年八月二〇日、自賠責後遺障害等級別表第二併合八級(①頭部外傷後の精神・神経系統の障害は、同別表第二第九級一〇号に該当し、②嗅覚障害が同別表第二第一二級相当であり、③併せて同別表第二併合第八級となる)(甲二一の二)。

(イ) 異議申立後の平成二〇年一月二四日、同別表第二併合四級(①頭部外傷後の精神・神経系統の障害は、同別表第二第五級二号に該当し、②嗅覚障害が同別表第二第一二級相当であり、③併せて同別表第二併合第四級となる)(甲二二の二)。

エ なお、原告は、平成一二年三月二一日から、a病院に看護師(正規雇用)として勤務し、平成一五年には年収四八八万七三二四円を得ていた(平成一六年の年収は一二六万八〇二八円である)。原告は、平成一五年一〇月立命館大学の入学試験に合格し、平成一六年四月立命館大学に社会人編入三回生として入学して、平成一八年三月立命館大学を卒業した。原告は、平成一八年四月、a病院に看護師(正規雇用)として勤務することとなったが、平成二〇年九月二〇日退職し(休職期間を除く勤続年数八年四か月〔甲四八の二〕)、その後はa病院の看護師(アルバイト職員)として勤務している(甲一三ないし一五、三八、四〇、四一、四三ないし四七、甲四八の一、二、甲四九)。

(3)  既払金

ア 原告は、次のとおり、自動車損害賠償責任保険契約(以下「自賠責保険契約」という)による保険金一九一八万円(内訳・傷害によるもの一二〇万円、後遺障害によるもの一七九八万円)の支払を受けた。

(ア) 平成一九年八月二三日ころ、九三九万円(内訳・傷害によるもの一二〇万円、後遺障害によるもの八一九万円)(甲二一の一、二)。

(イ) 平成二〇年一月二九日ころ、後遺障害によるもの九七九万円(甲二二の一、二)。

イ 原告は、Bから、蘇生会総合病院の治療関係費七万四〇一〇円の支払を受けた(甲四)。なお、原告の父Dは、Bから、a病院の治療関係費約二七万円程度の支払を受けたと供述している(甲四〇―一七頁)。

ウ このほか、原告は、関西電力株式会社がニッセイ同和損害保険株式会社との間で締結していた普通傷害保険契約に基づき、後遺障害保険金四四一万円の支払を受けている(甲二〇)。

(4)  被告らの身分関係等

ア 被告らの身分関係は、別紙「身分関係図」(甲二七)記載のとおりである。すなわち、被告Y1(昭和二三年○月○日生)と亡A(昭和二一年○月○日生・平成一七年三月八日没)は、昭和五二年一月二四日被告Y1の氏を称することとして婚姻し、その間に、長男E(昭和五二年○月○日生)、二男被告Y2(昭和五五年○月○日生)及び三男B(昭和五七年○月○日生)をもうけた。被告Y3(昭和一九年○月○日生)は、平成一六年五月二八日、被告Y1の父(F)の養子となる縁組をし、被告Y2は、平成二〇年五月九日、被告Y3の養子となる縁組をした(甲二七ないし三二、乙五)。

イ 被告Y1及び被告Y2は、平成二〇年六月二三日、京都家庭裁判所に対し、亡Aを被相続人とする相続について放棄する旨の申述を行い、同年七月一八日、受理されている(弁論の全趣旨)。

(5)  B車の権利関係等

ア (登録内容)B車(交付年月日・平成一一年五月七日)(初度検査年月・平成一一年)(自動車種別・軽自動車)の軽自動車検査ファイルには、次のとおり記載されていた(甲二三の二、甲三四の二)。

(ア) 発行年月日・平成一四年三月二九日

使用者兼所有者・被告Y3

有効期間の満了する日・平成一六年三月三〇日

(イ) 発行年月日・平成一六年五月二〇日

使用者兼所有者・被告Y3

有効期間の満了する日・平成一八年五月一九日

(ウ) 発行年月日・平成一六年五月二〇日

使用者兼所有者・E

有効期間の満了する日・平成一八年五月一九日

イ (自賠責保険)被保険自動車をB車とする自賠責保険契約は、日動火災海上保険株式会社(当時)との間で、次のとおり締結されていた。

(ア) 契約者兼被保険者・被告Y3、保険期間・平成一四年三月二八日から平成一六年四月二八日午前一二時まで(甲三三の二、乙一〇の一)。

(イ) 契約者兼被保険者・E、保険期間・平成一六年五月二〇日から平成一八年六月二〇日午前一二時まで(乙一〇の二)。

ウ (任意保険)被保険自動車をB車とする自動車総合保険契約は、日本興亜損害保険株式会社との間で、次のとおり締結されていた(乙一、二)。

(ア) 契約日・平成一四年一月二三日

契約者兼被保険者・E

被保険自動車・B車(保険証券には、所有者は契約者〔E〕であると記載されている)

保険期間・平成一四年二月一八日午後四時から平成一五年二月一八日午後四時まで

補償の対象となる運転者・運転者年齢条件(二一歳以上補償)・家族限定運転者(E及びその家族)

(イ) 契約日・平成一五年一月三一日

契約者兼被保険者・E

被保険自動車・B車(保険証券には、所有者は契約者〔E〕であると記載されている)

保険期間・平成一五年二月一八日午後四時から平成一六年二月一八日午後四時まで

補償の対象となる運転者・運転者年齢条件(二一歳以上補償)・家族限定運転者(E及びその家族)。

三  争点

(1)  亡Aの責任原因

(原告の主張)

ア 亡Aは、本件事故当時、任意保険の保険料を負担し、E及びBを扶養していたから、B車の運行を事実上支配管理することができる地位にあった。

イ 亡Aは、自賠法三条に基づく損害賠償責任を負う。

(被告Y1、被告Y2の主張)

争う。

(2)  被告Y3の責任原因

(原告の主張)

ア 被告Y3は、B車の所有者である。

イ 被告Y3は、自己のためにB車を運行の用に供していた。

被告Y3は、平成一四年にB車をEに譲渡していて名義残りの状態にあったものであるから、運行供用者ではないと主張している。確かに、本件事故当時、Eが日本興亜損害保険株式会社と締結していた任意保険契約(運転者の年齢二六歳以上)の契約者となっていた。しかし、被告Y3は、B及びEの伯父であり、住居もすぐ近くであること、被告Y3は、B車を平成一四年に譲渡したと言いながら、登録名義も変更せず、自賠責保険の契約も同被告が行っていたことからすると、被告Y3は、B車の所有権をきちんとEに移転していたのではなく、親族としてB及びEらにB車を使用させていたものと考えられ、B車の運行について支配を及ぼしうる地位にあった。

ウ 被告Y3は、自賠法三条に基づく損害賠償責任を負う。

(被告Y3の主張)

ア 原告の主張アを否認する。

イ 原告の主張イのうち、B車が名義残りの状態にあったと主張していること、被告Y3が本件事故当時B車の所有名義人であったことは認め、被告Y3がB車の運行について支配を及ぼす地位にあったことは否認する。被告Y3は、平成一四年二月ころ、B車をEに譲渡し、引渡しを了している。被告Y3は、Eに対し、B車の名義書換えをするように申し入れており、Eにおいて名義を書き換えていたものと考えていた。被告Y3は、B車をEに譲渡後、B車の使用、管理等について何らの関与もしていない。被告Y3と、父母と同居し独自に収入を得ていたEとは、住居も離れており、生活や経済の一体性もなかった。

ウ 原告の主張ウを争う。

(3)  被告Y1及び被告Y2の相続放棄の効力

(被告Y1及び被告Y2の主張)

被告Y1及び被告Y2は、京都家庭裁判所に対し、平成二〇年六月二三日、亡Aを被相続人とする相続について相続放棄の申述を行い、同年七月一八日、受理されている。

(原告の主張)

ア 被告Y1及び被告Y2の主張は認める。

イ(ア) 亡Aは、平成一七年三月八日死亡した。

(イ) 被告Y1及び被告Y2は、亡Aと同居していたから、亡Aが死亡したときに、その相続財産の少なくとも一部は認識していたと考えられる。

(ウ) 仮にそうでないとしても、被告Y1及び被告Y2は、亡Aの遺産を処分した(被告Y1は、京都コープの支払等のため亡Aの預金口座〔京都銀行伏見支店〕〔甲三七〕をそのまま使用している。被告Y2は、京都中央信用金庫の亡Aの預金〔甲三六、四二〕について、同人の勤務先の会社の社長が払戻しを受けるにあたり、これに協力した)。

(エ) したがって、被告Y1及び被告Y2の相続放棄は無効であるから、亡Aが平成一七年三月八日死亡したことにより、その権利義務は、被告Y1が一/二、E、被告Y2及びBが各一/六の割合で相続した。

(4)  損害

(原告の主張)

ア 治療関係費 四五万二三〇三円

内訳・蘇生会総合病院 八万〇〇八〇円(甲四)

a病院 二九万五六三三円(甲六の一ないし三)

府立医大病院 七五二〇円(甲九)

b歯科医院 二五二〇円(甲一二)

c薬局 六万二一八〇円(甲七)

d薬局 四三七〇円(甲一〇の一、二)

イ 入院雑費 五万八五〇〇円

説明・一日一五〇〇円の三九日分で上記金額となる。

ウ 通院交通費 二万六四〇〇円

説明・a病院 二万〇二四〇円(市バス往復八八〇円の二三日分)

府立医大病院 四四〇〇円(市バス往復八八〇円の五日分)

b歯科医院 一七六〇円(市バス往復八八〇円の二日分)

エ 休業損害 四八三万四七一七円

説明・原告の本件事故前三か月間の平均賃金は、一日当たり一万〇七一一円である(98万5458円÷92日=1万0711円〔1円未満切り捨て〕)。原告は、本件事故発生日から平成一六年八月二〇日までの一八二日間は全く就労できなかったから、一九〇万一〇三〇円(1万0711円×182日分-4万8372円=190万1030円)の休業損害を被った。平成一六年八月二一日から症状固定日(平成一七年六月三〇日)までの三一四日は、上記平均賃金(一日当たり一万〇七一一円)の三一四日分から、a病院が原告に同情し事務の仕事を与えてくれたことにより得た少しの給料を差し引いた二九三万三六八七円(1万0711円×314日-42万9567円=293万3687円)の休業損害を被った。

オ 入通院慰謝料 二〇〇万円

カ 後遺障害逸失利益 七七一五万二六六五円

説明・平成一五年分の賃金四八八万七三二四円を基礎収入、労働能力喪失率を九二%、期間を症状固定時の二七歳から六七歳までの四〇年とし、ライプニッツ係数一七・一五九〇を乗じて中間利息を控除すると、上記金額となる。計算式は、488万7324円×0.92×17.1590=7715万2665円(一円未満切り捨て)である。

キ 後遺障害慰謝料 一八〇〇万円

ク 弁護士費用 一〇〇〇万円

ケ 小計 一億一二五二万四五八五円

コ 既払金控除後の損害 九三二六万四五八五円

上記小計から既払金(B支払分八万円、自賠責保険金一九一八万円)を差し引くと、上記金額となる。

サ 結論

被告Y1は、上記損害の一/二にあたる四六六三万二二九二円(一円未満切り捨て)及び遅延損害金の、被告Y2は、上記損害の一/六にあたる一五五四万四〇九七円(一円未満切り捨て)及び遅延損害金の、被告Y3は、上記損害九三二六万四五八五円及び遅延損害金の各支払義務を負うことになる。

(被告Y1及び被告Y2の主張)

争う。

(被告Y3の主張)

ア 不知

イ なお、原告が主張する後遺障害五級二号の後遺障害等級は「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの」をいい、その判断基準とすれば、一般平均人の四分の一程度の労働能力しか残されていない場合がこれに該当すると言われている。しかるに、原告は、本件事故前、看護師として稼働していたが、本件事故後も治療後は専門職である看護師として稼働していた。また、原告は、原告本人及びその家族が非常な苦労を重ねた末の結果であることは認められるものの、本件事故による治療後に立命館大学を卒業している。以上によれば、原告の本件事故による後遺障害は、後遺障害等級九級一〇号の「神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」に該当するものと言わざるを得ない。

第三当裁判所の判断

一  争点(1)(亡Aの責任原因)について

(1)  原告は、「亡Aは、本件事故当時任意保険の保険料を負担し、E及びBを扶養していたから、B車の運行を事実上支配管理することができる地位にあった。」と主張する。

(2)  確かに、証拠(甲三五)によれば、Eの父亡AがB車の保険料を支払ったことが認められる。

しかしながら、当事者間に争いがない事実等、証拠(証人Eのほか後掲のもの)及び弁論の全趣旨によれば、①Eは、遅くとも平成一四年一月二三日までに、被告Y3からB車(前判示のとおり、初度検査年月が「平成一一年」であるから、その三年前の平成八年に被告Y3が購入した中古車であるものと推認することができる)を無償で譲り受けたこと、②Eは、平成一四年一月二三日、日本興亜損害保険株式会社との間で、B車を被保険自動車とする自動車総合保険契約を締結したが、同保険契約において、所有者はEであり、補償の対象となる運転者はE及びその家族であるとしたこと、③Eは、平成一六年二月当時、祖父F、父亡A、母被告Y1、弟被告Y2及びBとの六人家族の生活であり、家業の農業を手伝って小遣いをもらうほかアルバイトに従事し、B車に要する費用(税金、車検費用、保険料、ガソリン代、メンテナンス費用)を支払っていたが、不足分(保険料)については父亡Aに負担してもらっていたこと、④父亡Aは、F名義の自動車(〔ナンバー省略〕)(平成一七年四月二七日処分済み)(乙九の二)を使用しており、B車を使用していたのは、Eのほか弟のBであったことがそれぞれ認められる。

(3)  以上認定の事実関係によれば、EがB車の費用の一部(保険料)について父亡Aから援助を受けていたことが認められるものの、このことから直ちに、亡AがB車の運行を事実上支配管理することができる地位にあったことまで推認することはできないものというほかはない。

(4)  以上によれば、亡Aが自賠法三条に基づく損害賠償責任を負うとの原告の主張は理由がない。

二  争点(2)(被告Y3の責任原因)について

(1)  原告は、「被告Y3は、B車の所有者である。仮にそうでないとしても、被告Y3は、自己のためにB車を運行の用に供していた(被告Y3は、B及びEの伯父であり、住居もすぐ近くであること、被告Y3は、B車を平成一四年に譲渡したと言いながら、登録名義も変更せず、自賠責保険の契約も同被告が行っていたことからすると、被告Y3は、B車の所有権をきちんとEに移転していたのではなく、親族としてB及びEらにB車を使用させていたものと考えられ、B車の運行について支配を及ぼしうる地位にあった)。」と主張する。

(2)  確かに、当事者間に争いがない事実等、証拠(証人Eのほか後掲のもの)及び弁論の全趣旨によれば、①本件事故日(平成一六年二月二二日)時点で、B車の軽自動車検査ファイルには「使用者兼所有者」が被告Y3であると記載され、自賠責保険の「契約者兼被保険者」が被告Y3とされていたこと、②B車の平成一五年度の軽自動車税の通知書(乙一一)が被告Y3宛に発行され、平成一五年七月二五日に納付されていること(被告Y3は、同日時点でB車の名義がEに変更されていないことを知っていたものと推認することができる)、③被告Y3は、平成一六年五月二八日、被告Y1の父(F)(Eの祖父)の養子となる縁組をし、Eの弟である被告Y2が平成二〇年五月九日、被告Y3の養子となる縁組をしているほか、被告Y3は、F、亡A、被告Y1、E、被告Y2及びBの六人家族の居宅と同じ中ノ庄町で五〇〇メートル位の距離にある居宅に居住していること(甲二六)(被告Y3とFら家族六人との間には密接な人間関係があるものと推認することができる)がそれぞれ認められる。

しかしながら、前判示のとおり、④Eは、遅くとも平成一四年一月二三日までに、被告Y3からB車(前判示のとおり、初度検査年月が「平成一一年」であるから、その三年前の平成八年に被告Y3が購入した中古車であるものと推認することができる)を無償で譲り受けたこと、⑤Eは、平成一四年一月二三日、日本興亜損害保険株式会社との間で、B車を被保険自動車とする自動車総合保険契約を締結したが、同保険契約において、所有者はEであり、補償の対象となる運転者はE及びその家族であるとしたこと、⑥Eは、平成一六年二月当時、祖父F、父亡A、母被告Y1、弟被告Y2及びBとの六人家族の生活であり、家業の農業を手伝って小遣いをもらうほかアルバイトに従事し、B車に要する費用(税金、車検費用、保険料、ガソリン代、メンテナンス費用)を支払っていたが、不足分(保険料)については父亡Aに負担してもらっていたことがそれぞれ認められ、また、当事者間に争いがない事実等、証拠(証人Eのほか後掲のもの)及び弁論の全趣旨によれば、⑦被告Y3は、母G(平成二〇年七月二〇日没)(乙五)と二人で居住しており、Fら家族六人とは家計を別にしていたことがそれぞれ認められる。

そして、①②についてEは、「B車の名義変更を業者に依頼していたので変更されていると思っていた。B車の平成一五年度の軽自動車税の通知書(乙一一)を受け取ってB車の名義変更がされていないことを知った被告Y3から、名義変更を行うよう強く求められたが、半年後の車検の時期まで放置した。車検の際、業者に名義変更を依頼したものの変更されなかったことから、再度依頼して名義を変更した。」と供述しているところ(証人E)、上記供述内容は、業者に指示したが名義変更がされなかったとする点で自然であるとはいえないけれども、被告Y3及びEが軽自動車検査ファイルにおけるB車の名義や自賠責保険の契約者兼被保険者の変更をさほど重視しなかったとしても不自然ではなく、そのことから直ちに、被告Y3がB車に対する一定の支配力を保持する意思であったことを推認することはできない。

(3)  以上認定の事実関係によれば、本件事故日時点で軽自動車検査ファイルにおけるB車の名義や自賠責保険の契約者兼被保険者が被告Y3であったこと(そしてそのことを被告Y3が承知していた可能性を否定することができないこと)、被告Y3とFら六人家族との間に密接な人間関係があることが認められ又は推認されるものの、このことから直ちに、被告Y3がB車の運行を事実上支配管理することができる地位にあったことまで推認することはできないものというほかはない。

(4)  以上によれば、被告Y3が自賠法三条に基づく損害賠償責任を負うとの原告の主張は理由がない。

三  結論

以上によれば、争点(3)(被告Y1及び被告Y2の相続放棄の効力)、争点(4)(損害)について判断するまでもなく、原告の請求は、いずれも理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 池田光宏)

様式第3号

別紙 交通事故現場見取図

<省略>

別紙 身分関係図

<省略>

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