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京都地方裁判所 平成20年(行ウ)28号 判決 2010年11月30日

主文

1  原告の本訴請求を棄却する。

2  原告は,被告に対し,7092円及びうち7000円に対する平成20年3月18日から支払済みまで年10.75%の割合による金員を支払え。

3  被告のその余の反訴請求を棄却する。

4  訴訟費用は,本訴反訴を通じ,これを60分し,その59を原告の,その余を被告の各負担とする。

5  この判決は,2項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

1  本訴

被告は,原告に対し,500万円及びこれに対する平成20年7月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  反訴

原告は,被告に対し,9万4149円及びうち9万4100円に対する平成20年3月18日から支払済みまで年10.75%の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

1  本訴事件は,京都府の府議会議員であった原告が,京都府知事から,平成18年度において交付を受けた政務調査費の総額から同年度における政務調査費による支出の総額を控除した残余額の返還請求を受けたことについて,同請求に先立ち京都府監査委員が行った同趣旨の違法な監査結果の公表及び違法な監査結果に基づき京都府知事が行った政務調査費の返還請求により精神的苦痛を被ったとして,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき慰謝料500万円及びこれに対する訴状送達日の翌日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

反訴事件は,被告が原告に対し,上記残余額9万4149円及びうち9万4000円(100円未満切り捨て)に対する納期限の翌日から支払済みまで京都府税外収入延滞金徴収条例に基づく年10.75%の割合による延滞金の支払を求める事案である。

なお,原告は当初,本訴事件において,上記残余額の返還債務の不存在確認の訴えを併合提起していたが,被告が反訴を提起したことに伴い,本件第3回口頭弁論期日において,被告の同意を得て,上記訴えを取り下げた。

2  関係法令の定め等

(1)  地方自治法(平成20年法律第69号による改正前のもの。以下同じ。)

100条13項は,「普通地方公共団体は,条例の定めるところにより,その議会の議員の調査研究に資するため必要な経費の一部として,その議会における会派又は議員に対し,政務調査費を交付することができる。この場合において,当該政務調査費の交付の対象,額及び交付の方法は,条例で定めなければならない。」と規定し,同条14項は,「前項の政務調査費の交付を受けた会派又は議員は,条例の定めるところにより,当該政務調査費に係る収入及び支出の報告書を議長に提出するものとする。」と規定していた。

(2)  京都府政務調査費の交付に関する条例(平成13年京都府条例第14号。

平成19年条例第64号による改正前のもの。以下「本件条例」という。)

(甲3)

ア 2条(政務調査費の交付対象)

政務調査費は,京都府議会の会派(所属議員が1人のものを含む。以下「会派」という。)及び議員の職にある者に対して交付する。

イ 3条(会派に係る政務調査費)

会派に係る政務調査費は,月額10万円に当該会派の所属議員の数を乗じて得た額を会派に対し交付する(1項)。

(後略)

ウ 4条(議員に係る政務調査費)

議員に係る政務調査費は,月額40万円を月の初日に在職する議員に対し交付する(1項)。

(後略)

エ 7条(政務調査費の交付決定)

知事は,前条の規定による通知に係る会派及び議員について,政務調査費の交付の決定を行い,会派の代表者及び議員に通知しなければならない。

オ 8条(政務調査費の交付)

知事は,前条の交付決定を行った会派及び議員に対して,毎月政務調査費を交付するものとする。

カ 9条(政務調査費の使途)

会派及び議員は,政務調査費を議長が別に定める使途基準に従い使用しなければならない。

キ 10条(収支報告書)

会派の代表者及び議員は,政務調査費に係る収入及び支出の報告書(以下「収支報告書」という。)を,別記様式により年度終了日の翌日から起算して30日以内に議長に提出しなければならない(1項)。

(後略)

ク 11条(議長の調査)

議長は,政務調査費の適正な運用を期すため,前条の規定により収支報告書が提出されたときは,必要に応じ調査を行うものとする。

ケ 12条(政務調査費の返還)

知事は,会派又は議員がその年度において交付を受けた政務調査費の総額から,当該会派又は議員がその年度において行った政務調査費による支出(9条の規定する使途基準に従って行った支出をいう。)の総額を控除して残余がある場合,当該残余の額に相当する額の政務調査費の返還を命じることができる。

コ 13条(収支報告書の保存及び閲覧)

10条の規定により提出された収支報告書は,これを受理した議長において,提出すべき期間の末日の翌日から起算して5年を経過する日まで保存しなければならない(1項)。

(後略)

サ 14条(委任)

この条例に定めるもののほか,政務調査費の交付に関し必要な事項は,議長が定める。

(3)  京都府政務調査費の交付に関する規程(平成13年3月30日京都府議会規程。平成20年3月31日一部改正前のもの。以下「本件規程」という。)

(甲4)

ア 4条(政務調査費の使途基準)

本件条例9条に規定する使途基準は,会派に係る政務調査費については別表第1(省略),議員に係る政務調査費については別表第2のとおりとする(以下,本件条例9条及び本件規程4条で定められた使途基準を「本件使途基準」という。)。

イ 7条(証拠書類等の整理保管)

会派の政務調査費経理責任者及び議員は,政務調査費の支出について,会計帳簿を調製しその内訳を明確にするとともに,証拠書類等を整理保管し,これらの書類を当該政務調査費の収支報告書の提出期間の末日の翌日から起算して5年を経過する日まで保存しなければならない。

ウ 別表第2(4条関係)

項目

内容

調査研究費

議員が行う府の事務及び地方行財政に関する調査研究並びに調査委託に要する経費

(調査委託費,交通費,宿泊費等)

研修費

団体等が開催する研修会又は講演会等への議員及び議員の雇用する秘書等の参加に要する経費

(会費,交通費,宿泊費等)

会議費

議員が行う地域住民の府政に関する要望及び意見を吸収するための各種会議に要する経費

(会場費,機材借上げ費,資料印刷費等)

資料作成費

議員が議会審議に必要な資料を作成するために要する経費

(印刷・製本代,原稿料等)

資料購入費

議員が行う調査研究のために必要な図書・資料等の購入に要する経費

(書籍購入代,新聞雑誌購読料等)

広報費

議員が行う議会活動及び府政に関する政策等の広報活動に要する経費

(広報紙・報告書等印刷費,送料,交通費等)

事務所費

議員が行う調査研究活動のために必要な事務所の設置及び管理に要する経費

(事務所の賃借料,管理運営費等)

事務費

議員が行う調査研究に係る事務遂行に要する経費

(事務用品・備品購入費,通信費等)

人件費

議員が行う調査研究を補助する職員を雇用する経費

(給料,手当,社会保険料,賃金等)

3  前提となる事実(当事者間に争いがないか,証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

(1)  当事者

ア 原告は,平成3年4月から平成19年4月まで,京都府議会議員であった者である。

イ 被告は,本件条例に基づき,原告に対し,政務調査費を交付していた。

(2)  政務調査費の交付等

原告は,平成18年度政務調査費につき,同年4月1日付けで交付決定を受け,被告から月額40万円ずつ合計480万円の交付を受けた(乙8)。

原告は,平成19年4月16日付けで平成18年度政務調査費収支報告書を提出し,平成19年5月24日付けで交付額の確定(交付金確定額480万円)がされた(乙9,10)。

(3)  住民監査請求及び監査結果等

ア Aを始めとする京都府の住民らは,平成19年9月18日付けで,平成18年度政務調査費に関し,本件条例はそもそも違法であるから政務調査費の交付自体が許されず,仮に本件条例が適法であるとしても京都府議会の会派及び議員の政務調査費による支出はその大半が目的外支出であり,これにより被告は損害を被ったなどとして,京都府知事(以下「知事」という。)が会派及び議員に対し損害額を返還させるよう求める旨の監査請求をした(甲2)。

イ(ア) 京都府監査委員(以下「監査委員」という。)B及び同Cは,別紙「政務調査費の使途に係る本件監査における判断基準」(以下「本件監査基準」という。)に基づいて目的外支出の内容及び金額を判断し,平成19年11月19日,上記監査請求には一部理由があるものと認め,知事に対し,監査委員が認めた返還所要額について,会派や該当議員に対し返還請求を行う等の必要な措置を講じるよう勧告を行い,同月26日,京都府公報で監査結果(以下「本件監査結果」という。)が公表された。

(イ) 本件監査結果において,原告に関する監査対象支出額は556万4361円,目的外支出額は175万1022円と判断され,目的外支出の内容については次のとおり示されている。

a 政務調査目的との関連が薄い雑誌購読料は,目的外支出と判断した。

b 日常生活用品等に係る経費は,目的外支出である。

c 広報印刷物の政務調査目的以外の掲載部分相当の経費は,目的外支出である。また,掲載内容が確認できなかったものは,一定の割合を超える部分を目的外支出と判断した。

d 次に掲げる経費が計上されているが,一定の割合を超える部分は,目的外支出と判断した。

事務所賃借料,ガレージ代,光熱水費,電話料金,携帯電話料金,事務機器リース代,コピー代,備品購入費

なお,原告に関して目的外支出と判断された支出の内訳は,別表1のとおりである。

(ウ) 本件監査結果においては,被告からの交付額を上回る支出額(以下「自己負担額」という。)がある場合には,被告に返還を要する額(以下「返還所要額」という。)の算定に当たって,目的外支出の額から自己負担額を控除する必要があるとされたことから,原告については,別表4の「監査結果」欄記載のとおり,監査対象支出額556万4361円から平成18年度の交付確定額である480万円を控除した額である76万4361円が自己負担額となり,目的外支出額175万1022円から自己負担額である76万4361円を控除した98万6661円が返還所要額とされた。

(以上につき,甲2)

ウ(ア) 本件監査結果においては,監査結果後に合理的な理由から証拠書類等の追加提出等があり,収支報告書が修正された場合は,返還所要額に変更が生じることを考慮する必要があり,このような場合,措置を講じるに先立ち本件監査基準を参考に審査を行い,監査委員に通知の上,返還所要額の減額を行うこととされたことから,知事は,各会派及び各議員に対し,監査では明らかとなっていない目的外支出の内容について照会するとともに,関係資料の追加提出を求め,追加提出された資料により,本件監査基準を参考に,返還所要額の修正の審査を行った。その上で,各会派及び各議員から,平成18年度政務調査費の住民監査請求に係る収支報告書修正届の提出を受け,支出額の修正により残余が発生した会派及び議員については,勧告に基づく措置期限(平成20年2月末日)までに,残余額の納付を求めた(甲2,乙2~5)。

(イ) 原告については,平成20年2月1日と同月6日の2度にわたり,収支報告書修正届が提出された。

a 1度目の修正(乙6)

1度目の収支報告書修正届による目的外支出額の変更は,別表2のとおりである。その内容は,監査対象支出額以外に政務調査活動に関して支出した費用として,原告が発行した2回の広報のはがき代と印刷代,すなわち1回目の発行分として,はがき代40万円(別表2の項目6)と印刷代4万9350円(同項目7)の計44万9350円,2回目の発行分として,はがき代40万円(同項目8の1)と印刷代8万0703円(同項目9)の合計48万0703円が追加計上された。

これについて,1回目の発行(同項目6及び7)については按分率90%(目的外10%)に相当する部分が,2度目の発行(同項目8の1及び9)については按分率80%(目的外20%)に相当する部分が,それぞれ政務調査費の対象となる広報費と判断され,目的外支出額は当初の175万1022円に14万1075円(同項目6~9)が追加され,189万2097円となった。

b 2度目の修正(乙7)

2度目の収支報告書修正届による目的外支出額の変更は,別表3のとおりである。その内容は,広報費について,1度目の収支報告書修正届の対象となった原告の2回目の広報発行に関するはがき代として,更に5万8000円(別表3の項目8の2)が追加計上され,按分率80%(目的外20%)に相当する部分が政務調査費の対象となる広報費と判断された。また,府政報告ビラ発行の費用8回分のうち4回の支出分計5万4141円(同項目2の2)に関する成果物の提示があったため,その全額が政務調査目的分の対象支出として認められ,目的外支出に当たらないとされた。さらに,事務所費に関して,原告が監査時に誤って1か月分3516円(同項目17の1)のみを計上し,全額を目的外支出と判断されていた事務所の会議室部分のエアコンに関する電気代について,使用内容の説明があり,政務調査活動の対象と認められたことから,8か月分の2万9539円(同項目17の2)が監査対象額に追加計上され,原告に関する事務所費の按分率である50%(目的外50%)に相当する部分が目的外支出額と判断された。

このように2度目の収支報告書修正届の提出により,原告に関する目的外支出額は2万6368円の増額(同項目8の2及び17の2)と4万2363円(同項目2の2及び17の1)の減額がされ,187万6102円となった。

c 返還所要額の減額

原告に関する2度の収支報告書修正届の提出による返還所要額の減額の推移は,別表4の「第1回修正」欄及び「第2回修正」欄のとおりであり,最終的な返還所要額は,9万4149円とされた(乙7,11)。

(4)  残余額相当額の返還請求等

原告については,2度の収支報告書修正届の提出により,平成18年度政務調査費収支報告書上の残余額が9万4149円となったところ,これは本件条例12条の「残余がある場合」に該当するとして,京都府議会事務局総務課長は,原告に対し,平成20年2月8日付けで,同月15日を目処に上記残余額の自主納付を依頼した。

しかし,上記期日を経過しても原告から残余額の納付はされず,措置期限の最終日(同月末日)に至るも納付が確認できなかったため,知事は,同月29日付けで原告に対し上記残余額の返還請求(以下「本件返還請求」という。)を行い(甲1),同年3月11日,京都府公報で公表された。

なお,本件返還請求によっても原告から支払がなかったため,知事は,原告に対し,同年6月10日付けで支払の督促をしたが(乙11),現在まで支払はされていない。

4  争点及びこれに対する当事者の主張

(1)  本件返還請求の対象である政務調査費9万4149円の支出が,本件使途基準に適合するものか否か(本件監査結果が違法なものか否か)

(被告の主張)

ア 政務調査費が公金により賄われている以上,その使途の透明性が確保される必要があるところ,本件条例において,政務調査費の収支報告書の提出が義務付けられ(10条),その年度において交付を受けた政務調査費の総額から,その年度において行った政務調査費による支出(9条に規定する使途基準に従って行った支出)の総額を控除して残余がある場合,当該残余の額に相当する額の政務調査費の返還が命じられ(12条),また,本件規程において,政務調査費の支出について,会計帳簿を調製してその内訳を明確にするとともに,証拠書類等を整理保管し,5年間保存すべきことを義務付けられていること(7条)からすると,政務調査費が地方自治法や条例,規程の趣旨に従って適正に使用されなければならないことは明らかである。

そして,議員が整理保管を義務づけられている領収書等の資料に照らし,社会通念上府政に関する調査研究に資する適正な支出と認めることができない支出は,本件使途基準に合致しない違法な支出というべきであり,また,議員が政務調査活動に必要な費用として支出したことにつき,それを裏付ける資料がなく,議員においてこれを積極的に補足する説明もしないような場合には,当該支出が本件使途基準に合致しない違法な支出とされることを甘受せざるを得ないというべきである。

このように考えると,ある支出が政務調査活動のためでもあり,他の目的のためでもある場合にどのように対処すべきかについて本件条例や本件規程等に定めがないときに,その全額を政務調査費とするのが相当でないことは明らかであるから,条理上,按分した額をもって政務調査費とし,特段の資料がない限り,政務調査目的とそれ以外の目的との双方に支出した場合には2分の1ずつとするなど,社会通念に従った相当な割合をもって政務調査費を確定すること(按分率の採用)が許されると解すべきである。

イ 以上のような観点から,個々の支出が本件使途基準に適合するか否かを検討すると,次のとおりとなる。

(ア) 資料購入費(週刊ポスト及び週刊現代)

上記各週刊誌は,いずれも大衆的な娯楽記事を内容とするものであるから,一般にその購読が政務調査活動に資するものとはいえず,原告において個別記事と政務調査との関連も説明されていないのであるから,政務調査活動との関連は薄く,これら週刊誌の購入費は目的外支出である。

(イ) 広報費

原告の府政報告ビラ(別表3の項目2の1)については,成果物が確認できなかったため,本来なら対象外となるべきであるが,これまで政務調査費に係る具体的な使途基準や証拠書類の取扱いが明確にされていなかった事情等を考慮し,今回に限り支出額の4分の1を政務調査目的と認めるのが相当である。

また,広報紙の印刷代については,一つの広報紙に政務調査目的のものとそれ以外のものが掲載されている場合には,広報紙の発行により政務調査目的以外の掲載部分も宣伝されるのであるから,それにかかる経費は按分と考えるのが合理的である。

そして,原告の広報紙については,政務調査目的以外の掲載部分が少なくとも10%又は20%の割合であると考えられることから,その目的外支出の割合も10%又は20%と認めるのが相当である。

(ウ) 事務所費

事務所費については,政務調査活動のために必要な事務所の設置及び管理のための経費であることを要し,政務調査活動以外と不可分の場合は按分とし,按分率は政務調査活動に要した使用領域(面積等),使用時間等が確認できる場合はそれにより,確認できない場合は,議員単独使用の事務所の場合は10分の9,それ以外(後援会との兼用事務所等)の場合は2分の1にするのが妥当である。

原告事務所については,政務調査活動に要した使用領域(面積等),使用時間等が政務調査活動日誌等で確認できず,その他原告から按分率について合理的説明がなかったのであるから,2分の1を超える部分を目的外支出とするのが相当である。

(エ) 事務費

事務費については,政務調査活動以外の使用に係る経費は対象外とした上,政務調査活動以外と不可分の場合は按分するとし,按分率について,政務調査活動に要した使用頻度等が確認できる場合はそれにより,確認できない場合は,議員単独使用の事務所の場合は10分の9,それ以外(後援会との兼用事務所,自宅等)の場合は2分の1にするのが妥当である。

原告の事務費について政務調査活動に要した使用頻度等が政務調査活動日誌等で確認できず,その他原告から按分率について合理的説明がなかったため,2分の1を超える部分を目的外支出とするのが相当である。

ウ 以上の目的外支出の認定(その具体的内容は,別表3のとおり。)を踏まえると,本件監査及びその後の返還所要額の変更手続を経て確定された政務調査費9万4149円の支出は,本件使途基準に反する違法なものというべきである。

エ ところで,原告は,被告が本件監査基準を作成し,政務調査費の目的外支出を認定するに当たり,全国都道府県議会議長会により平成13年10月16日付けで示された「政務調査費の使途の基本的な考え方について」と題する報告書(以下「議長会報告」という。)を基本としている点を捉えて,本件監査結果ないし本件返還請求が違法であると主張する。しかし,議長会報告は,地方自治法100条14項の「議員の調査研究に資するための必要な経費」や本件条例9条及び本件規程4条の本件使途基準の内容を具体化した解釈指針といえるものであるから,これに基づく目的外支出の成否の判断はあくまでも本件使途基準に従ったものであり,本件条例にない使途基準を採用した旨の原告の批判は当たらない。また,按分率を採用している点については,政務調査費の使途基準のように多数の議員について統一的な運用を図る必要がある場合に按分率の考え方は十分合理的なものであるところ,本件監査結果も,政務調査活動による使用を明確に確認できる根拠がある場合には全額を政務調査活動によるものとし,按分率について合理的な説明がされた場合にはそれによるとしているのであるから,按分率の採用が地方自治法の趣旨を逸脱し,本件条例を実質的に変更するものであるなどとする原告の批判も当たらない。

(原告の主張)

ア 地方自治法100条13項は,政務調査費の使途については,各地の実情に応じた運用を図るべく,各地方自治体の議会が定める条例にその具体化を委ねることにしたものと解され,被告が原告に交付した政務調査費についても,同法が予定している政務調査費として使用されたか否かの判断基準は,条例に委ねていることが明らかである。そして,本件条例及び本件規程においては,本件規程の別表第2が政務調査費の使途基準を定めているから,原告による政務調査費の支出が違法ないし不当なものかどうかは,これによって判断されるべきものである。

ところが,監査委員は,被告が議員に交付した平成18年度政務調査費について,独自に本件監査基準を採用し,議長会報告を基本としてその適否を判断しているが,これは地方自治法が政務調査費の使途基準について地方自治体の議会が定める条例にその具体化を委ねることとした趣旨を逸脱するものである上に,本件条例にない使途基準を採用して監査を実施するものであり,適正手続に反し違法である。また,本件監査基準では,本件条例に定めのない按分率を導入して目的外支出を認定するものとしているが,この点においても本件監査基準は同法の上記趣旨を逸脱し,かつ,本件条例を実質的に変更するものであるから,この基準に基づいた本件監査結果は違法なものである。しかも,上記按分率は,一律に2分の1とされているが,これは各議員の調査研究の実情を無視するもので,合理的な理由はなく,本件監査結果は,このような一律の按分率を使途基準とした点においても違法である。

そして,原告は,平成17年度までも政務調査費収支報告書を提出しているが,議長が原告から収支報告書の提出を受けて調査をしたり,知事が政務調査費の返還を請求したり,監査がされたりしたことはいずれもないのである。

本件返還請求は,このような違法な本件監査結果に基づくものであり,許されない。

イ そうでないとしても,被告による目的外支出の認定は,次に指摘するような問題点があり,違法(一部違法)である。

(ア) 資料購入費

資料購入費として認められるか否かの判断は,対象となる資料の内容が政務調査目的と関連しているかどうかを吟味しない限り不可能であるにもかかわらず,被告は,週刊誌か月刊誌かといった資料の発刊方法による違いのみでしか政務調査目的との関連性を判断していない。また,原告が購入した週刊ポスト及び週刊現代は,いずれも時事問題,政治問題及び経済問題等の記事を広く掲載しており,その購読は政務調査目的によるものであることは明らかであるから,その支出は必要かつ相当なものである。

(イ) 広報費

広報費のうちコピー代(別表3の項目3)について,後援会活動費が含まれているとして,その2分の1が目的外支出と認定されているが,原告において後援会活動の占める割合は3分の1までであるから,目的外支出と認定されるのは,多くともその3分の1までとされるべきである。また,府政報告ビラ(同項目2の1)については,成果物の提出のないものについて75%が目的外支出とされているが,そもそも成果物がなく内容の検討もできないのに,このような割合で認定することには合理性がない。広報紙(同項目6~9)については,旅行会の予告等の政務調査目的以外の掲載項目の数に応じて目的外支出が認定されているが,その大半は政務調査目的の記載であり,ごく一部に政務調査目的以外の記載があるからといって,その一部につき目的外支出を認定するのは誤りである。

(ウ) 事務所費

被告は,事務所費の50%を一律に目的外支出としているが,原告においては,府政報告会を年6回開催し,事務所において毎日1件以上の府政相談を実施するなどしていたもので,このような議員の具体的な活動内容に基づいて目的外支出の割合を判断すべきである。原告における後援会活動の占める割合は3分の1までであるから,目的外支出と認定されるのは,多くとも支出合計額の3分の1までとされるべきである。

(エ) 事務費

電話代について,固定電話については50%が,携帯電話については10%がそれぞれ一律に目的外支出と認定されているが,これも各議員の具体的な活動内容の違いを考慮しないもので,合理性がない。実際に原告の事務所に敷設されていた固定電話は常設のものが4回線あり,そのうち2回線は原告による府政報告会の案内専用に使用されていた。また,平成19年1月21日から同年3月20日までの2か月間については,臨時の固定電話が8回線敷設され,この間,府政報告会の案内専用に使用されていた。これら電話代の合計は51万7481円であるところ,その全額が政務調査費と認められるべきものである。

(2)  本件監査結果の公表及び本件返還請求が不法行為に当たるか

(原告の主張)

原告に係る平成18年度の政務調査費については,前述のとおり,そもそも返還を求められるべき目的外支出はなかったにもかかわらず,監査委員はあたかも原告が公金である政務調査費を私的に流用しているかのような印象を京都府民に与える内容の違法な本件監査結果を公表し,被告は,これを京都府公報として発行した。また,監査結果の変更により原告の返還所要額が減額になったにもかかわらず,そのことは公表されなかった。被告のかかる行為は,原告の名誉を著しく害する行為に当たり,不法行為を構成することは明らかである。また,被告は原告に対し,違法な本件監査結果に基づき,本件返還請求をしたものであり,このような行為も不法行為に該当する。

(被告の主張)

争う。

本件監査結果が違法でないことのほか,監査結果の公表が地方自治法上の義務とされ,被告においては京都府公報への掲載をもって公表の方法とすることが条例上規定されている中で(京都府監査委員条例9条),知事等が監査内容に関与できないことからすれば,京都府公報に本件監査結果を掲載した知事又は被告担当職員の行為には違法性も故意過失も認める余地はない。また,監査委員から同法242条4項による勧告があったときは,知事等が勧告に示された措置を講ずることは義務とされているから,本件で知事が原告に本件返還請求を行った行為についても,違法性や故意過失を認める余地はない。

(3)  損害の有無及びその額

(原告の主張)

原告は,被告の前記不法行為により,名誉を著しく毀損され,精神的苦痛を被ったところ,これを慰謝するための金額としては500万円が相当である。

(被告の主張)

争う。

第3当裁判所の判断

1  争点(1)(本件返還請求の対象である政務調査費9万4149円の支出が,本件使途基準に適合するものか否か〔本件監査結果が違法なものか否か〕)について

(1)  地方自治法は,条例の定めるところにより,その議会の議員の調査研究に資するため必要な経費の一部として,その議会における会派又は議員に対し,政務調査費を交付することができ,この場合において,当該政務調査費の交付の対象,額及び交付の方法は,条例で定めなければならないと規定した上(100条13項),政務調査費の交付を受けた会派又は議員は,条例の定めるところにより,当該政務調査費に係る収入及び支出の報告書を議長に提出するものと規定している(同条14項)。これらの規定による政務調査費の制度は,議員の調査研究活動の基盤の充実を図って議会の審議能力を強化するため,議会における会派又は議員に対する調査研究の費用等の助成を制度化し,併せてその使途の透明性を確保しようとしたものと解される。

これを受けて制定された本件条例は,政務調査費は議員に対して交付し(2条),交付を受けた議員は,政務調査費を議長が別に定める使途基準に従い使用しなければならないと規定している(9条)。そして,本件規程は,政務調査費の使途基準(本件使途基準)として,議員について9項目を掲げて使途を限定するとともに(4条,別表第2),政務調査費の交付を受けた議員に対し,政務調査費の支出について会計帳簿を調製してその内訳を明確にするとともに,証拠書類等を5年間整理保管すべきことを義務付けている(7条)。

地方自治法の上記趣旨のほか,議員の調査研究活動は多岐にわたることからすると,個々の経費の支出が必要かどうかについては議員の合理的判断にゆだねられる部分があることは確かである。しかし反面,地方自治法が,政務調査費の交付を受けた議員に対して収支報告書の提出を義務付けるなどその使途の透明性を確保しようとし,これを受けて本件使途基準が定められるとともに,当該議員に対して会計帳簿の調製や証拠書類等の整理保管が義務付けられていることからすると,政務調査費は本件使途基準に従って適正に使用されなければならないことは明らかであって,議員が整理保管を義務付けられている証拠書類等に照らし,社会通念上議員の調査研究に資するための使途に充てられたと認められない支出については,本件使途基準に適合しない違法なものと解するのが相当である。

(2)  以上のような観点から,本件で問題とされる個々の支出について検討する。

ア 資料購入費(週刊ポスト及び週刊現代)

上記各週刊誌は,いずれも大衆的な娯楽記事がその掲載記事の相当部分を占めることが認められるところ(甲10,11,弁論の全趣旨),このことからすると,上記各週刊誌の購読が,議員としての調査研究活動の一環であるのか,個人としての雑誌購読であるのか判然と区別することができないといわざるを得ない。

これに対し,原告は,上記各週刊誌には時事問題,政治問題及び経済問題等の記事が広く掲載されているから,その購読は政務調査目的によるものであると主張し,国政レベルの記事につき府政報告会の参加者から質問を受けるので,原告もその内容を知っておく必要があったと供述する。しかし,上記各週刊誌に掲載された記事内容が府政に関するものであるとの具体的な主張立証はなく,上記各週刊誌に掲載される国政レベルの知識であれば一般市民が常識として知っているようなものであり(甲10,11,弁論の全趣旨),府議会議員として府政のために特別に調査研究の費用を使ってまで知っていなければならないものとはいえない。そうすると,これら週刊誌の購読料は本件使途基準に適合するとは認められない。

イ 広報費

(ア) 原告が府政報告ビラ(別表3の項目2の1)に係る広告費として支出したとする4万1203円については,被告がその4分の1に限り政務調査目的と認めるのに対し,原告はこのように限定して認定する合理性はない旨を主張する。

上記府政報告ビラについては,そもそも成果物が確認できなかったものであるから,本来であればその全額を政務調査費とするのは相当ではないところ,被告は,これまで政務調査費に係る具体的な使途基準や証拠書類等の取扱いが明確にされていなかった事情等を考慮し,今回に限り支出額の4分の1を政務調査目的であると認めたというのである(本件監査基準も同旨)。そして,成果物が残っていないという状態で,被告指摘のような事情があるから,その不利益をすべて議員である原告に負わせるのは相当でないとして,政務調査活動に資する支出に当たるとする割合を上記のものとしたことは合理的であるということができ,他方でその割合が上記のものを超えているといえる事情は窺えない。

(イ) また原告は,広報紙の葉書代及び印刷代(別表3の項目6~9)として,同表の「支出合計額」欄記載のとおりの金額を支出したと主張する。

証拠(甲8,9,原告本人)によれば,上記広報紙の具体的内容は,原告の活動方針やこれまでの活動状況の報告のほか,後援会旅行や激励会の案内が掲載されていることが認められ,これによれば,一つの広報紙に政務調査活動と関連する記載部分もあれば,議員の後援会活動の一環と認められる部分も存在するもので,これら全体が政務調査費の趣旨に適合するものとはいい難い。

被告は,このような事実を踏まえ,上記広報紙について,政務調査目的以外の掲載部分が少なくとも10%又は20%あったとして,その目的外支出も同割合と認めたというのであり,このような取扱いは社会通念に照らし合理性を有するものと考えられる。

(ウ) なお,広報費のその余の支出(コピー代,封筒代及び日常生活用品〔ゴムバンド,ゴミ袋〕・別表3の項目3~5)について,被告は,コピー代のうち50%,封筒代のうち75%,日常生活用品の全額が目的外支出である旨主張し,原告もこれを積極的に争うことをしないから,いずれも上記割合に相当する金額が本件使途基準に適合しない支出ということになる。

ウ 事務所費

議員の活動は幅広く多岐にわたり,ある支出が政務調査活動のためでもあるし,他の目的のためでもあるという場合があり,とりわけ事務所費等においてはこの両面を兼ね備えていることがあり得る。しかし,そうであるからといって,その全額を政務調査費として認めることは,使途の透明性を確保しようとした地方自治法の趣旨に照らし相当ではなく,事務所の使用実績に応じ按分した額をもって政務調査費と認めるのが適当である。議長会報告や本件監査基準もこのような趣旨を明らかにするとともに,現実に事務所の使用実績等を把握することが困難である場合には,政務調査費の割合を2分の1とすることも考えられるなどとしており,このような考え方は本件使途基準を解釈する際の指針として,社会通念上合理性を有すると考えられる。

これを本件についてみるに,証拠(乙16,証人D,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告は2階建ての建物を事務所として賃借し,その1階部分を後援会との兼用部分,2階部分を自宅との兼用部分として使用していたこと,原告は,政務調査費を計上するに当たり,自宅との兼用部分につき2分の1程度の按分をしていたことが認められるところ,原告からは,その事務所に関する使用実績等(使用時間,使用頻度及び使用領域等)や上記按分率について,何ら具体的な説明はされていない。そうであれば,原告が主張する事務所費のうち,政務調査活動に係る部分とそれ以外の議員活動部分とを合理的に区別することは困難というべきであるから,このような場合,原告が支出したとする金額の2分の1をもって政務調査活動に資する部分と認めるのが相当である。

これに対し,原告は,事務所において府政報告会を年6回開催し,毎日1件以上の府政相談を実施するなどしていた,原告における後援会活動の占める割合は3分の1までであるなどと主張するが,単に1年間に開かれた府政報告会と後援会の行事との回数の比率を根拠とするもので,客観的な裏付けを欠き,採用の限りでない。

エ 事務費

(ア) 原告は,事務費として固定電話の電話代,携帯電話代及び日常生活用品(電池代)を計上する(別表3の項目20~25)。事務費についても,上記事務所費と同様,例えば,電話代のうち政務調査活動に係る通話時間や使用頻度等の実績に応じ按分した額をもって政務調査費と認めるのが相当であるが,使用実績を把握することができず,政務調査活動に係る部分とそれ以外の議員活動部分とを合理的に区別することが困難な場合には,一定割合で按分するのが相当である。

この点に関し,本件監査基準は,通信費につき政務調査に係る通信時間(概数),使用頻度で按分するとの議長会報告を踏まえ,政務調査活動以外と不可分の場合は按分するとし,按分率について,政務調査活動に要した使用頻度等が確認できる場合はそれにより,確認できない場合は,議員単独使用の事務所の場合は10分の9,それ以外(後援会との兼用事務所,自宅等)の場合は2分の1,携帯電話等に要する費用等については,政務調査活動に要した使用頻度により按分し,使用実態等から不可分の場合は,支出額の10分の9を政務調査費と認定するものとしている。

これを本件についてみるに,前記ウのとおり,原告は2階建ての建物を事務所として賃借し,その1階部分を後援会との兼用部分,2階部分を自宅との兼用部分として使用し,同所に固定電話を設置していたものであるが,原告からは,通話時間等の使用実績につき具体的な説明はされず,政務調査活動に係る部分とそれ以外の部分とを合理的に区別することは困難といわざるを得ないから,このような場合,原告が支出したとする金額の2分の1を目的外支出と認めるのが相当である。また,携帯電話代については,その使用実態等に照らし,政務調査活動以外の使用と不可分であることを考慮しその10分の1を,日常生活用品(電池)については,政務調査活動に係る支出とは認められないからその全額を,それぞれ目的外支出と認めるのが相当である。

(イ) 原告は,原告事務所には常設の固定電話のほか,平成19年1月21日から同年3月20日までの2か月間については,臨時の固定電話が8回線敷設され,この間府政報告会の案内専用に使用されていた旨を主張し,これに係る書証を追加提出する(甲17~28,30~37,43)。

この点,被告は,政務調査費制度においては,提出期限までに各議員が提出した収支報告書に基づいて交付額を確定すべきものであるが,監査においては監査期間に限りがあったことから,監査後も期限を定めた上で,合理的理由に基づく証拠書類等の追加提出等を認めることとされ,原告も収支報告書修正届を提出しているところ,上記のような政務調査費の制度を前提とするならば,訴訟においても書証等は上記期限までに提出されたものに限られるべきであり,本件訴訟に至りこれを提出することは許されないなどと主張する。しかし,上記のように期限の定めがあるという事情は,多かれ少なかれ財務会計行為一般にいえることであり,住民監査請求で財務会計行為についての問題点の指摘があり,監査の結果又は勧告に不服があって住民訴訟が提起される場合や,逆に勧告の結果に不服のある職員等が訴訟で争う場合に,その財務会計行為に関して提出できる証拠が一定期限までに準備されていたものに限られるというような制限はない。政務調査費の制度を前提としたからといって,行政事件訴訟一般における証拠提出の制限以外の制限が加わるとはいえない。

そこで,前記書証を踏まえて検討すると,平成19年1月21日から同年3月20日までの2か月間,原告事務所には,臨時の固定電話が8回線敷設されたことが認められ,原告は,同月末からの京都府議会議員選挙運動用に敷設したものであるところ,それまでは同月18日の府政報告会の案内専用に使用していた旨供述するが,選挙運動に必要な期間の2か月も前に8回線の電話回線を増設した理由の説明になっているとはいえず,そもそも,府政報告会の目的が,参加者の質問等を通じて府民の府政への需要を知ることにあるといっても,後援会活動や広義の選挙活動という側面も併せ持つといわざるを得ないこと,京都府議会議員選挙直近の同月18日の府政報告会の案内だけ通常よりも極端に多い電話回線が使用されたといえることからすれば,上記の臨時の8回線の固定電話敷設が,京都府議会議員選挙の準備のためであったことが強く推認される。そうすると,増設分が府政報告会の案内専用に用いられていたとしても,すべて政務調査目的であったとは到底いえないところである。

そして,前記書証によれば,平成18年度に原告事務所で使用された固定電話の料金は,概ね51万7481円であることが認められ,別表3の項目20~23の合計額34万3368円よりも17万4113円多いことになり,この分についてもその2分の1を目的外支出と認めるのが相当であろう。そうすると,目的外支出が8万7056円増えるが,原告の自己負担額は17万4113円増えることになり,結局返還所要額が8万7057円減ることになる。

オ 以上の検討によれば,原告が政務調査費として支出した金額は,別表4の対象支出額欄658万1953円に上記エ(イ)の17万4113円を加えた675万6066円であり,別表4及び上記エ(イ)のとおり,このうち資料購入費の3万3390円,広報費中33万6281円,事務所費中133万0353円及び事務費中17万6078円に8万7056円を加えた26万3134円の合計196万3158円が,本件使途基準に適合しないものと認められる。

(3)  ところで,原告は,被告が本件監査基準を作成し,政務調査費の目的外支出を認定するに当たり,議長会報告を基本としている点を捉えて,①本件監査結果ないし本件返還請求は本件条例にない使途基準を採用して目的外支出を認定するものであり,適正手続に反する,②本件監査基準では,本件条例に定めのない按分率を導入して目的外支出を認定するものとしているが,これは地方自治法の趣旨を逸脱し,本件条例を実質的に変更するものである,③上記按分率は一律に2分の1とされているが,これは各議員の調査研究の実情を無視するもので,合理的な理由はないなどとして,そもそも本件監査結果ないし本件返還請求は違法であると主張する。

しかしながら,議長会報告は,全都道府県において政務調査費の交付に関する条例が制定されていることを前提に,各都道府県議会における運用に際しての一つの判断材料を提供するとの目的で,その具体的な使途についての基本的な考え方(政務調査費を充当するのに適しない例,会費として支出するのに適しない例,人件費・事務所費等の按分の考え方)を示したものであるところ(乙1の1~4),監査委員は,本件使途基準では対象経費について使途項目の枠組みと費目の例示がされているのみで,具体的で明確な使途基準や運用マニュアル等が定められていないことから,平成18年度政務調査費の支出が違法又は不当な支出に該当するかを判断するに当たり,議長会報告を基本としつつ,これまでの判例,他の地方公共団体の政務調査費に関する監査結果報告,学識経験者の意見等を参考にして本件監査基準を作成し,これに従って判断したというのである(甲2,乙16,証人D)。そうすると,被告は,本件使途基準に則って政務調査費が目的外支出であるかどうかを認定判断するに当たり,その解釈及び運用に係る指針として,議長会報告の示した考え方を採用することにしたということができる。また,既に述べたとおり,ある支出が政務調査活動のためでもあるし,他の目的のためでもあるという場合において,その全額を政務調査費として認めることは,使途の透明性を確保しようとした地方自治法の趣旨に照らし相当ではなく,社会通念に従った相当な割合をもって政務調査費を確定するのが適当であるところ,とりわけ政務調査費の使途基準のように多数の議員について統一的な解釈運用を図る必要がある場合には,このような按分率の考え方がその指針として合理性を有するものということができる。これらからすれば,原告の上記主張はいずれも当を得ないというほかない。

なお,原告は,平成17年度まで,議長が原告から収支報告書の提出を受けて調査をしたり,知事が政務調査費の返還を請求したり,監査がされたりしたことはいずれもないから,平成18年度だけ,本件監査基準によって判断するのは不適切であるとも主張する。しかし,平成18年度については住民監査請求での問題点の指摘を受けて,監査委員がそれまでとは異なる基準で判断を加えたものであり,元来住民監査請求の制度自体が予定していることであって,原告の主張は失当である。

2  争点(2)(本件監査結果の公表及び本件返還請求が不法行為に当たるか)について

原告は,原告に係る平成18年度政務調査費についてはそもそも返還を求められるべき目的外支出はなかったにもかかわらず,被告が,違法な本件監査結果を公表するとともに,違法な監査結果に基づき本件返還請求をしたもので,これらは不法行為を構成する旨を主張する。

しかし,前記1で検討したとおり,被告は,本件使途基準に従って適法に目的外支出を認定したものであり,本件監査結果が違法であることを前提とした原告の上記主張は,その前提において理由がなく,採用できない。

本件監査結果では,原告の返還所要額は98万6661円とされていたところ,その後2回の収支報告書の修正を経て9万4149円に減額され,結果的には後記3のとおり7092円となるが,これは,知事が原告に対し,監査では明らかとなっていない目的外支出の内容について照会するとともに関係資料の追加提出を求め,追加提出された資料により本件監査基準を参考に返還所要額の修正の審査を行った結果減額され,その後本件訴訟で新たな立証をした結果さらに減額されたものであり,本件監査結果が適法であることに影響を与えない。

原告は,監査結果の変更により原告の返還所要額が減額になったことが公表されなかったことが違法であると主張するが,前記第2の3(4)のとおり,地方自治法242条9項により,9万4149円の返還請求をしたという内容は公表されているから,この点を違法ということもできない(ただし,他の議員に関しては,全会派及び議員の合計額として返還所要額が修正されていることしか公表されておらず,政務調査費の目的外支出の返還が不利益事実であるとすれば,その修正の公表方法として問題がないとはいえないが,原告に対して違法となることはない。)。

3  返還所要額及び附帯請求(延滞金)について

(1)  返還所要額

原告に係る平成18年度政務調査費については,前記1(2)オのとおり,対象支出額675万6066円から平成18年度の交付確定額である480万円を控除した額である195万6066円が自己負担額となるところ,前記認定に係る目的外支出額196万3158円から自己負担額である195万6066円を控除した7092円が返還所要額となる。

(2)  附帯請求(延滞金)

地方自治法は,地方公共団体の歳入につき納期限までに納付しない者があるときは,期限を指定してこれを督促しなければならないとし(231条の3第1項),督促をした場合においては,条例の定めるところにより,手数料及び延滞金を徴収することができる旨を規定しているところ(同条第2項),被告においては,京都府税外収入延滞金徴収条例(乙12)を定め,同条例2条により,納入通知書の納期限の翌日から納付までの日数に応じ,年10.75%の割合で計算した延滞金を徴収するものとされている。そして,京都府会計規則38条4項(乙13)では,「納入通知書の納期限は,これを発行する日の翌日から起算して15日目の日(その日が府の休日の場合には,その日以降で直近の府の休日でない日)までの間で,適宜指定しなければならない。」と定められている。

これを本件についてみると,知事が原告に対して平成20年2月29日付けで行った平成18年度政務調査費に係る返還請求においては,返還請求日の翌日から起算して15日目の平成20年3月15日が土曜日で府の休日であったことから,その日以降の直近の府の休日でない同月17日が納期限とされたことが明らかである(甲1)。

なお,京都府税外収入延滞金徴収条例によると,延滞金の発生する収入金の額については,100円未満の端数があるときはこれを切り捨てるものとされていることから(2条括弧書き),本件における延滞金の対象額は,上記返還所要額のうち7000円ということになる。

(3)  そうすると,原告は,被告に対し,上記返還所要額7092円及びうち7000円に対する納期限の翌日である平成20年3月18日から支払済みまで年10.75%の割合による金員の返還義務を負うことになる。

4  以上によれば,原告の本訴請求は理由がないから棄却し,被告の反訴請求は上記3(3)の限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却する。

(裁判長裁判官 瀧華聡之 裁判官 奥野寿則 裁判官 碩水音)

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