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京都地方裁判所 平成20年(行ウ)49号 判決 2011年2月24日

主文

1  被告は,候補者4及び受注業者3に対し,各自3万7202円を支払うよう請求せよ。

2  被告は,候補者2及び受注業者2に対し,各自3万9710円を支払うよう請求せよ。

3  被告は,候補者16及び運転手19に対し,各自1万2500円を支払うよう請求せよ。

4  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

5  訴訟費用(補助参加費用を含む。)は,原告らの負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  被告は,別表1の「候補者名」欄及び「受注業者名」欄記載の者らに対し,それぞれ,同表の「請求金額」欄記載の額の金員を支払うよう請求せよ。(以下「請求①」といい,上記「候補者名」欄記載の者らを「請求①候補者」,上記「受注業者名」欄記載の者らを「請求①業者」という。)

2  被告は,別表2の「候補者名」欄及び「運転手名(受注業者名)」欄記載の者らに対し,それぞれ,同表の「請求金額」欄記載の額の金員を支払うよう請求せよ。(以下「請求②」といい,上記「候補者名」欄記載の者らを「請求②候補者」,上記「運転手名(受注業者名)」欄記載の者らを「請求②運転手」という。)

3  被告は,別表3の「候補者名」欄及び「賃貸人名(受注業者名)」欄記載の者らに対し,それぞれ,同表の「請求金額」欄記載の額の金員を支払うよう請求せよ。(以下「請求③」といい,上記「候補者名」欄記載の者らを「請求③候補者」,上記「賃貸人名(受注業者名)」欄記載の者らを「請求③賃貸人」という。)

第2事案の概要

本件は,京都府木津川市(以下,単に「木津川市」又は「市」という。)住民である原告らが,平成19年4月22日に投票が行われた木津川市長選挙及び木津川市議会議員選挙(以下,合わせて「本件選挙」という。)に関し,公費負担の制度に基づいて市から支払われた選挙費用について,真実とは異なる内容の申告がされたこと,不当に高額な金額で契約が行われたことなどにより,市は候補者及び支払を受けた者らに対して不当利得返還請求権又は不法行為に基づく損害賠償請求権等を有しているのに,これら請求権を行使すべき市長である被告がその行使を怠っているのは違法であると主張して,その行使を求めた住民訴訟である。

1  前提事実

(1)  当事者等

ア 原告らは,木津川市の市民である。

イ 被告は,木津川市長であり,市の有する不当利得返還請求権及び不法行為に基づく損害賠償請求権等の債権を行使する権限を有する者である(地方自治法149条6号,240条参照)。

ウ 請求①候補者,請求②候補者及び請求③候補者は,いずれも,本件選挙の候補者であった者らであり,また,請求①候補者は,本件選挙における,公職選挙法143条1項5号にいう選挙運動のために使用するポスター(以下「選挙運動用ポスター」という。)の作成に係る費用(以下「ポスター代」という。)について,後記(2)の公費負担制度の適用を受けた者ら,請求②候補者は,本件選挙における,同法141条1項にいう選挙運動のために使用される自動車(以下「選挙運動用自動車」という。)の運転手の報酬(以下「運転手報酬」という。)について,後記(2)の公費負担制度の適用を受けた者ら,請求③候補者は,本件選挙における,選挙運動用自動車の借入れに係る費用(以下「賃借料」という。)について,後記(2)の公費負担制度の適用を受けた者らである。

エ 請求①業者は,本件選挙における請求①候補者の選挙運動用ポスターの作成者として,後記(2)の公費負担制度に基づき,ポスター代の支払を市から受けた者ら,請求②運転手は,本件選挙における請求②候補者の選挙運動用自動車を運転した者として,後記(2)の公費負担制度に基づき,運転手報酬の支払を市から受けた者ら,請求③賃貸人は,本件選挙における請求③候補者に選挙運動用自動車を賃貸した者として,後記(2)の公費負担制度に基づき,賃借料の支払を市から受けた者らである。

(2)  木津川市における公費負担の制度(甲1の1・2,乙1,2)

ア 本件選挙の当時,木津川市では,市町村の選挙の費用の公費負担に関する公職選挙法141条7項・8項,143条14項・15項の規定を受けて,「木津川市議会議員及び木津川市長の選挙における選挙運動の公費負担に関する条例」(以下「本件条例」という。)及び「木津川市議会議員及び木津川市長の選挙における選挙運動の公費負担に関する規程」(以下「本件規程」という。)により,次のような公費負担の制度が定められていた(以下「本件公費負担制度」という。)。

イ 運転手報酬及び賃借料の関係

市議会議員選挙及び市長選挙における候補者は,公職選挙法93条1項等の規定により当該候補者に係る供託物が市に帰属することとならない限り,6万4500円に候補者の届出日から選挙期日の前日までの日数を乗じた金額の範囲内で,選挙運動用自動車を無料で使用することができる(本件条例2条)。

この適用を受けようとする候補者は,選挙運動用自動車の借入契約やその運転手の雇用に関する契約などの有償契約を締結した上,市選挙管理委員会に届け出なければならない(本件条例3条)。

市は,①賃借料に関しては,自動車それぞれにつき使用された各日についてその使用に対し支払うべき金額(ただし,道路運送法上の一般乗用旅客自動車運送事業を経営する者以外の者との間の契約の場合は,1万5300円を超える場合には1万5300円。)の合計金額を,②運転手報酬に関しては,運転手(同一の日に2人以上の運転手が雇用される場合には,候補者が指定するいずれか1人の運転手に限る。)それぞれにつき,運転業務に従事した各日についてその勤務に対し支払うべき報酬の額(ただし,1万2500円を超える場合には1万2500円。)の合計金額を,当該借入契約の相手方や当該運転手からの請求に基づき,これらの者に支払う(本件条例4条柱書,同条(2))。

ウ ポスター代の関係

市議会議員選挙及び市長選挙における候補者は,公職選挙法93条1項等の規定により当該候補者に係る供託物が市に帰属することとならない限り,選挙運動用ポスターの1枚当たりの作成単価に作成枚数(ただし,選挙が行われる区域におけるポスター掲示場の数(なお,本件選挙については,209であった。乙2)に相当する数を超える場合には,当該相当する数。)を乗じて得た金額の範囲内で,選挙運動用ポスターを無料で作成することができる(本件条例9条)。

この適用を受けようとする候補者は,ポスターの作成を業とする者との間で,選挙運動用ポスターの作成に関する有償契約を締結した上,市選挙管理委員会に届け出なければならない(本件条例10条)。

市は,ポスター1枚当たりの作成単価(ただし,作成単価が510円48銭に上記掲示場の数を乗じて得た金額に30万1875円を加えた金額を上記掲示場の数で除して得た金額を超える場合には,その除して得た金額。)にポスターの作成枚数を乗じて得た金額を,当該ポスターの作成を業とする者の請求に基づき,その者に対して支払う(本件条例11条)。

エ 本件規程2条~6条は,市選挙管理委員会への届出に関する事項,その他提出すべき書類,その様式等について,具体的に定めている。

(3)  本件選挙の実施

本件選挙については,平成19年4月15日に選挙期日の告示及び立候補の届出が行われ,同月22日に投票が行われた。(乙2)

(4)  本件選挙におけるポスター代,運転手報酬及び賃借料(以下「本件選挙費用」という。)の支払

本件公費負担制度に基づき,本件条例及び本件規程の定めに従った届出等がされた上,同定めに従い,市は,平成19年5月21日,同月30日,同年6月15日,同月29日又は同年8月20日に,請求①業者に対しポスター代を(各業者ごとの具体的な金額は,別表1の「請求金額」欄記載のとおり。ただし,候補者のうち候補者7(業者は受注業者5)については,同欄記載の金額ではなく,40万8177円。なお,候補者7については,平成20年9月16日に,うち5万2723円が返還された(甲6の1)ため,原告らは,上記「請求金額」欄記載の金額(35万5454円)を請求するよう求めているものである。),請求②運転手に対し運転手報酬を(各運転手ごとの具体的な金額は,別表2の「請求金額」欄記載のとおり。ただし,同欄の金額は,候補者1名につき複数名の運転手がいる場合には,その複数の運転手らに支払われた合計額である。),請求③賃貸人に対し賃借料を(各賃貸人ごとの具体的な金額は,別表3の「支払金額」欄記載のとおり。),それぞれ支払った。(甲7の1~3・5,甲8の1・2,甲9の1~5,甲10の1・3・4)

(5)  住民監査請求及び提訴

原告らは,平成20年8月8日,上記(4)等の本件選挙費用等について,水増しなど真実に反する請求あるいは最少限度を超える請求などにより生じた損害があるとして,その損害の回復のために候補者,業者及び運転手等にその損害分の金員の返還を求める措置の勧告と,木津川市長がその損害の回復を怠ることの違法性の認定及びこれに対する必要な措置の勧告などを求めて,監査請求をした。(甲5。以下「本件監査請求」という。)

木津川市監査委員は,同年10月7日,調査の結果,一部に不適切な支出が確認されたが,これら支出については既に支払を受けた者らから返金がされ,損害が回復しているから,措置の必要性が消滅したなどとして,本件監査請求を棄却した。(甲6)

そこで原告らは,同年11月5日,本件訴訟を提起した。

2  争点及び争点に関する当事者の主張

(1)  ポスター代関係(請求①関係)

ア 請求①候補者すべて又は請求①業者すべてに関する主張

(ア) 地方自治法2条14項,地方財政法4条1項の趣旨の違反の有無

(原告らの主張)

請求①候補者が請求①業者との間で締結した契約の代金は,いずれも,特段の事情もないのに実勢価格や民間における相場(200枚程度のポスターの作成であれば単価500円~600円)を超える高額なものであり,より少ない金額で目的を達成できることが明らかであるのに,あえてそれを大きく超えた条件で契約を行ったものであって,これを無効としなければ地方自治法2条14項,地方財政法4条1項(最少費用最大効果原則)の趣旨を没却する結果となるから,上記契約は無効である。

したがって,市は,請求①業者に対し,支払金額相当額(ただし,受注業者5の候補者7に係る部分については,支払後に返還された5万2723円を引いた金額。)の不当利得返還請求権を有している。

(被告の主張)

争う。

原告らの主張する実勢価格や相場の金額は根拠が不明である。また,最少費用最大効果原則の名宛人は,地方公共団体であって,地方公共団体に請求を行う候補者や業者ではない。

上記原則を,市とは異なる候補者と業者との間に適用してその効力を左右することは,契約自由の原則を害することにもなる。したがって,市が不当利得返還請求権を有する旨の原告らの上記主張は,前提を欠く。

(イ) 背任行為の有無

(原告らの主張)

上記(ア)(原告らの主張)のような高額単価で契約をすることは,市との関係で背任行為に該当する。背任行為の結果市にされた請求は不法行為に該当し,当該不法行為は請求①候補者と請求①業者の共謀によりされたものであるので,共同不法行為である。

したがって,市は,請求①候補者及び請求①業者に対し,支払金額相当額(ただし,候補者のうち候補者7及び業者のうち受注業者5の候補者7に係る部分については,上記(ア)の5万2723円を引いた金額。)の共同不法行為に基づく損害賠償請求権を有している。

(被告の主張)

争う。

上記(ア)(被告の主張)のとおりであるし,候補者及び業者が他人の事務を処理する者といえるかは疑問である。

(ウ) 信義則上の義務違反の有無

(原告らの主張)

本件選挙の候補者は,市に対して必要最少限度の費用で選挙運動用ポスターを作成する信義則上の義務を負っている。そして,上記(ア)(原告らの主張)のように,市場価格を無視した高額単価で契約を締結する行為は,上記義務に違反する。

したがって,市は,請求①候補者に対し,支払金額相当額(ただし,候補者のうち候補者7については,上記(ア)の5万2723円を引いた金額。)の,上記義務の不履行に基づく損害賠償請求権を有している。

(被告の主張)

争う。

イ 請求①候補者及び請求①業者のうち特定の者に関する主張(原告らの上記アの主張との関係では,予備的主張である。)

(ア) 請求①候補者のうち候補者23及び候補者24並びに請求①業者のうち受注業者13に関する主張

(原告らの主張)

納品書等(甲54の2~7)によれば,単価49円・350枚として契約・納品がされたことになるのに,市には単価1212円・209枚として申告され,その金額が支払われている。なお,京都府相楽郡a町議会選挙では,受注業者13は単価165円でポスターの作成を行っている。

以上によれば,上記申告は,架空の契約に基づくものであり,受注業者13が市から支払を受けた金額については,法律上の原因がないし,そのような架空の契約に基づく請求を市に対して行うことは,不法行為(共同不法行為)に該当する。

したがって,市は,受注業者13については支払金額相当額50万6616円の不当利得返還請求権ないし不法行為に基づく損害賠償請求権を有しているほか,候補者23及び候補者24に対しては,それぞれ25万3308円の範囲で受注業者13と連帯しての不法行為に基づく損害賠償請求権を有している。

なお,被告は,納品書(甲54の2・5)は室内用ポスターのものであり,原版作成などの費用を先行する掲示板用ポスター作成の際に支払っていたことなどから,金額が安くなった旨主張している。しかし,ポスター等の印刷において最もコストを要するのは,原版の作成費用であるにもかかわらず,原版の作成費用を公費負担の対象である掲示板用ポスターにのみ転嫁する被告の主張は相当ではない。これを認めてしまうと,本来公費負担の対象ではない室内用ポスターを,実質的に公費で安価に作成できることになってしまう。原版の作成費用も,1枚ごとの金額を計算するべきである。

(被告の主張)

争う。

納品書(甲54の2・5)記載のポスターは室内用のものであり,掲示板用ポスターの納品書とは異なる。掲示板用の209枚のほかに,室内用の350枚が追加で別途作成(印刷)されたものである。そして,掲示板用の209枚の契約書の作成後に室内用の350枚が追加発注されたので,掲示板用ポスターの代金には写真撮影を含むデザイン,色校正,原版作業等の諸費用が含まれている一方,室内用ポスターは,掲示板用ポスターの原版を再版して追刷り的に印刷したため,印刷業界の慣行として,印刷前の諸費用は一切含まれておらず,印刷のみの費用となったものである。掲示板用ポスターは屋外に掲示することから,耐水性に優れ破れにくいユポ紙を使用し,裏面を全面シールにしたタック紙という用材を使用し,太陽光による色とびを防ぐため耐光インキを使用したが,室内用ポスターについては,これらは必要なく,用材はコート紙を用いて作成された。これらの結果,作成単価に違いが生じた。

また,a町議会選挙で受注業者13が作成したポスターは,カラーでなく2色刷りであること,写真は候補者からの支給品を使用したこと,デザインは従来のものを踏襲したためデザイン料がかからなかったこと,色校正を行わなかったこと,ユポ紙でなく普通紙を使用したことなどから,単価が異なっている。

以上によれば,原告らの上記主張は失当である。

(イ) 請求①候補者のうち候補者4及び請求①業者のうち受注業者3に関する主張

(原告らの主張)

単価1954円・230枚の合計44万9420円で契約したと市に申告し,うち209枚分に当たる40万8386円の支払を受注業者3は受けているが,残りの21枚分については受注業者3が候補者4に寄付し,支払を免除されていることからすると,上記申告のような内容で合意したというのは虚偽であり,実際には,候補者4と受注業者3は,230枚を40万8386円(単価1776円)で契約したものといえる。よって,受注業者3が市に対して本来請求できる金額は,1776円に209枚を乗じた37万1184円である。

正確な単価計算に基づき請求可能な部分を超過する分の支払による利得は,法律上の原因を欠くから,市は,支払金額と上記の本来請求できる金額の差額である3万7202円について,受注業者3に対する不当利得返還請求権を有している。また,本来請求できない部分に関してまで請求を行うことは,詐欺による不法行為(共同不法行為)に当たるから,市は,候補者4及び受注業者3に対し,同額の共同不法行為に基づく損害賠償請求権を有している。

(被告の主張)

争う。

印刷業界では,切りのいい枚数で注文するのが通常であり,汚れや破損に備えて余剰枚数を無償で付することも慣行とされている。したがって,候補者4と受注業者3との間で,230枚のポスターの作成契約をし,代金をポスター209枚の金額相当額とし,残りの21枚をサービスとすることも,契約自由の原則により有効である。

また,原告らの主張は,当初の届出では単価1954円・230枚の合計44万9420円とされていたのを,市が割り戻し計算をして,単価1954円・209枚の合計40万8386円を認めたという経緯を無視した上,受注業者3の寄付という選挙費用支出後の候補者・業者間の事情を持ち込む点で失当である。

(ウ) 請求①候補者のうち候補者2及び請求①業者のうち受注業者2に関する主張

(原告らの主張)

a 候補者2は,証人Aと同じような経緯で,同じ内容の契約を受注業者2と締結している。その内容は,合計250枚を税込3万2813円(単価131円)とするが,本件公費負担制度の適用を受けられる場合には,市に対してその上限額の40万8595円を請求することについて双方が協力するというものである。したがって,本来は,131円に209枚を乗じた2万7379円しか市に請求することは許されないのに,候補者2は,単価1955円・209枚の合計40万8595円で受注業者2と契約を結んだと市に申告し,受注業者2は同額の支払を受けているが,209枚を40万8595円で作成する旨の契約書は,そもそも実体を欠くもので無効である。

以上によれば,上記申告は,架空の契約に基づくものであり,受注業者2が市から支払を受けた金額については法律上の原因がないし,そのような架空の契約に基づく請求を市に対して行うことは,不法行為(共同不法行為)に該当する。

したがって,市は,支払金額相当額40万8595円について,受注業者2に対する不当利得返還請求権並びに候補者2及び受注業者2に対する共同不法行為に基づく損害賠償請求権を有している。

b 候補者2及び受注業者2の主張は,否認する。

仮に候補者2の主張のとおりであったとしても,候補者2と受注業者2は,単価1765円・250枚の合計44万1407円で契約したものといえるので,受注業者2が市に対して本来請求できる金額は,1765円に209枚を乗じた36万8885円である。

正確な単価計算に基づき請求可能な部分を超過する分の支払による利得は,法律上の原因を欠くから,市は,支払金額と上記の本来請求できる金額の差額である3万9710円について,受注業者2に対する不当利得返還請求権を有している。また,本来請求できない部分に関してまで請求を行うことは,詐欺による不法行為(共同不法行為)に当たるから,市は,候補者2及び受注業者2に対し,同額の共同不法行為に基づく損害賠償請求権を有している。

以上のbの主張は,aの主張との関係で,予備的主張である。

(被告の主張)

いずれも争う。

証人Aが結んだ契約と候補者2が結んだ契約は,依頼時に同人らが同行した事実があるとしても,契約としては別個であり,また,事後の事情も同人らでは異なり(証人Aは,供託物没収により本件公費負担制度が適用されなかった。),これを同様に論じる原告らの主張は失当である。

なお,原告らは,証人Aと受注業者2との間では単価131円・250枚の合計3万2813円(税込)で契約をしたと主張しているが,証人Aが市に提出した契約書(乙5)等には単価1955円・209枚の合計40万8595円でポスターを作成する旨の記載があることや,証人Aの収支報告書に添付された領収証(乙6の1,2)によれば,証人AはA3ポスター一式(250枚)等として12万6787円を,ポスター加工費等として17万7712円を受注業者2に支払っていることになることからすると,証人Aと受注業者2は,市から公費負担してもらえる場合には公費負担の金額でよい旨の合意をして契約書等を作成し,その後本件公費負担制度の適用がなかったため,受注業者2が上記領収証の金額の受領にとどめたというべきである。

(被告補助参加人候補者2の主張)

候補者2と受注業者2との間では,合計250枚のポスターを,209枚分については公費負担による40万8595円で,残りの41枚を私費による3万2812円で作成するとの契約を結び,候補者2はその後,3万2812円については受注業者2に対して先払いをした。

(被告補助参加人受注業者2の主張)

ポスター209枚を40万8595円で作成する旨候補者2と受注業者2との間で合意した契約書は,実体を欠くものでも,無効でもない。候補者2は,3万2812円を受注業者2に対して先払いした。

原告らの上記bの主張については,そのように考えるのであれば,3万2812円と見積書(甲58の2)の46万2000円の合計49万4812円で250枚のポスターを作成したことになり,単価が1979円となり,これに209枚を乗じると41万3611円となるから,受注業者2は市に40万8595円を請求できるのであり,返還の必要はない。

(エ) 請求①候補者のうち候補者1及び請求①業者のうち受注業者1に関する主張

(原告らの主張)

実際は,244枚のポスターを,単価1914円,合計46万7220円で作成した(内訳は室外用ポスター209枚を40万8595円,室内用ポスター35枚を5万8625円。甲60の2)にもかかわらず,市に対しては,単価1955円で合計300枚を作成したと申告し,受注業者1は,うち209枚分の40万8595円の支払を受けている。本来,受注業者1が市に対して請求できる金額は,上記の1914円に209枚を乗じた40万0026円である。

正確な単価計算に基づき請求可能な部分を超過する分の支払による利得は,法律上の原因を欠くから,市は,支払金額と上記の本来請求できる金額の差額である8569円について,受注業者1に対する不当利得返還請求権を有している。また,本来請求できない部分に関してまで請求を行うことは,詐欺による不法行為(共同不法行為)に当たるから,市は,候補者1及び受注業者1に対し,同額の共同不法行為に基づく損害賠償請求権を有している。

(被告の主張)

争う。

室内用ポスターと室外用ポスターは仕様が異なるものであり,受注業者1は,室外用ポスター209枚について市に費用を請求したのであって,市に提出した契約書で300枚となっているのは,事務整理の手違いによるものである。したがって,このような異なるポスターをわざわざ合算し,単価を計算し直し,209枚を乗じた金額のみを請求し得る金額と理解することは,相当でない。

(オ) 請求①候補者のうち候補者8及び請求①業者のうち受注業者6に関する主張

(原告らの主張)

見積書(甲61の2)等によれば,実際は,250枚のポスターが,単価550円で発注・納品されたことになるにもかかわらず,市に対しては,単価1900円で250枚を作成したと申告され,うち209枚分の39万7100円の支払を受注業者6は受けているが,受注業者6が市に対して本来請求できる金額は,550円に209枚を乗じた11万4950円である。

正確な単価計算に基づき請求可能な部分を超過する分の支払による利得は,法律上の原因を欠くから,市は,支払金額と上記の本来請求できる金額の差額である28万2150円について,受注業者6に対する不当利得返還請求権を有している。また,本来請求できない部分に関してまで請求を行うことは,詐欺による不法行為(共同不法行為)に当たるから,市は,候補者8及び受注業者6に対し,同額の共同不法行為に基づく損害賠償請求権を有している。

(被告の主張)

争う。

上記見積書は正式に依頼を受ける前の仮見積りであり,最終的に決定された価格ではない。候補者8と受注業者6との話し合いの末,最終的に価格は単価1900円として契約がされた。

(2)  運転手報酬関係

(原告らの主張)

請求②候補者が届け出た運転手は,実際に運転をしていないにもかかわらず報酬請求をしている。したがって,市は,請求②候補者及び請求②運転手に対し,それぞれ支払金額相当額の共同不法行為に基づく損害賠償請求権を有している。特に,請求②運転手のうち運転手19(請求②候補者のうち候補者16の関係。)は,実際のところ選挙運動用自動車の運転をしていないにもかかわらず,7日分の運転手報酬を得ている。

被告が主張するような,運転手のうち1人が代表として報酬を受け取り,その後分配をすることは,本件条例の規定によれば,制度上予定されていない。

(被告の主張)

争う。

仮に複数の運転手に依頼をしていたとしても,そもそも選挙運動用自動車の運転は一定期間にわたるもので,各日の担当をどうするのか,無償か有償かは,候補者と依頼された者との間で協議すべき事項であり,また,運転手が複数いる場合には,1人が代表者として費用を請求して受領し,その運転手が中心となって協議をし,実際に運転をした時間等に応じてこれを分配することは,制度上当然に予定されているというべきである。

また,運転手19は全く運転をしていなかったわけではないし,候補者16は,告示日兼立候補届出日の時点において,運転手の代表者として運転手19を届け出たものであり,運転手19も公費負担受給の代表者として請求しているというべきである。

(3)  賃借料関係

ア 請求③候補者のうち候補者4,候補者12,候補者22,候補者23,候補者26,候補者27,候補者28,候補者32,候補者33及び候補者35並びに請求③賃貸人のうち賃貸人3に関する主張

(原告らの主張)

上記各候補者らと賃貸人3との間では,賃貸人3が近畿運輸局京都運輸支局に提出している貸渡料金表に定められた料金を超過(1.6倍以上)する契約が締結されている。

当該超過については,料金についての特約に該当すると解されるが,賃貸人3が近畿運輸局京都運輸支局に提出している貸渡約款1条2項によれば,特約は約款及び細則の趣旨,法令及び一般の慣習に反しない範囲で認められるところ,選挙費用を市に負担させることができるからといって通常の貸渡料金の1.6倍以上の料金を徴収するのは,地方財政法4条1項,地方自治法2条1項に反しており,市が負担する場合には通常の貸渡料金より高額でよいとする慣習もない。したがって,上記契約は,上記貸渡約款に違反する特約がされているものである。

自家用自動車の貸渡事業を営む賃貸人3が,自らが定め,所轄の陸運局に届け出た約款や料金表に違反した内容の契約を締結することはできないことは自明であるから,上記契約のうち,上記貸渡約款に反する部分,すなわち,上記貸渡料金表に定められた通常料金を超過する部分は,無効である。

なお,道路運送法80条及び同法施行規則52条が,自家用自動車の貸渡事業の許可申請に当たり,貸渡料金及び貸渡約款の添付を要求しているのは,事業の公共性から,契約内容に制限を加える趣旨であると解される。

以上によれば,市は,賃貸人3に対し,上記超過分に相当する支払金額の合計額である60万9525円の不当利得返還請求権を有している。

(被告の主張)

争う。

道路運送法に違反する事実があったとしても,そのような行政法規違反が候補者と業者との間の私法上の契約の効力を左右するものではない。

(被告補助参加人賃貸人3の主張)

選挙運動用に自動車を貸渡す場合には,通常と異なる使用目的,使用態様等の事情があるから,通常の貸渡料金と異なる料金を個別に定めるのも合理的であり,契約自由の原則からも当然に認められる。貸渡約款においても,こうした場合に個別に料金を定めることは当然想定している。また,賃貸人3が契約しているのは各候補者個人であって,地方公共団体と直接契約しているわけではないから,地方自治法や地方財政法の規定は直接に契約の有効性を規律するものではない。

イ 請求③候補者のうち候補者6,候補者8,候補者15,候補者16,候補者24及び候補者25並びに請求③賃貸人のうち賃貸人5に関する主張

(原告らの主張)

賃貸人5が近畿運輸局京都運輸支局に提出している貸渡料金表に定められた選挙運動用自動車の料金は,通常料金に比して2~3倍程度高額とされているところ,当該料金設定は通常料金との関係では特約に該当する。賃貸人5が近畿運輸局京都運輸支局に提出しているレンタカー貸渡約款1条2項によれば,特約は約款の趣旨,法令及び一般の慣習に反しない範囲で認められるが,上記のような高額な料金設定の合理的根拠はなく,これは地方財政法4条1項,地方自治法2条1項や,一般の慣習に反する。

したがって,上記各候補者らと賃貸人5との間では,上記貸渡約款に違反する特約がされているものであり,よって,上記アと同様に,上記貸渡料金表の通常料金を超過する部分については,契約は無効である。

したがって,市は,賃貸人5に対し,上記超過分に相当する支払金額の合計額である31万4160円の不当利得返還請求権を有している。

(被告の主張)

争う。

ウ 請求③候補者のうち候補者1,候補者2,候補者5,候補者9及び候補者34並びに請求③賃貸人のうち賃貸人1,賃貸人2,賃貸人4,賃貸人6及び賃貸人13に関する主張

(原告らの主張)

上記各賃貸人らは,道路運送法80条1項に基づく自家用自動車有償貸渡しに係る許可を受けていない。市は,法令に違反してその事務を処理してはならず(地方自治法2条16項),本件条例においても,適法な許可を受けた業者との契約に係る自動車の賃借料の支払が前提とされているのであって,無許可業者との間で選挙運動用自動車の賃借をした候補者にその賃借料を支払うことは全く想定されていない。候補者も,市との関係で,法令に違反する業者から選挙運動用自動車を賃借してはならない信義則上の義務を負担している。したがって,上記のような無許可業者と契約を結び賃借料の支払を受ける行為は詐欺に当たる。

よって,市は,上記各候補者ら及び上記各賃貸人らに対し,支払金額相当額の共同不法行為に基づく損害賠償請求権を有している。

(被告の主張)

争う。

地方自治法2条16項は,法治行政などの運営に関し,関係法規を遵守すべきとの当然の趣旨を定めたものにすぎず,賃借料についての請求がされた際に賃貸業者が道路運送法80条1項の許可を受けているか否かは,地方自治法2条16項とは次元の異なる議論というべきである。

また,賃借料を請求された市としては,架空請求であれば格別,賃借料の発生に疑いのない事案について,費用の支払を拒絶することはできない以上,不法行為に基づく損害賠償請求権は発生しない。

エ 請求③候補者のうち候補者10,候補者13,候補者17,候補者20及び候補者21並びに請求③賃貸人のうち賃貸人7,賃貸人8,賃貸人9,賃貸人11及び賃貸人12に関する主張

(原告らの主張)

上記各候補者らは,平成19年4月9日又は10日から同月21日まで,上記各賃貸人らから選挙運動用自動車を賃借しており,実質的,経済的には,支払対象期間である同月15日~21日の7日分の賃借料として市から支払われる額で,それ以上の賃借期間を賄っていたことになる。したがって,市から支払を受けた賃借料を実際の賃借した日数で除した金額7日分と支払金額の差額については,上記各賃貸人の利得に法律上の原因がない。

よって,市は,上記各賃貸人らに対し,上記の差額(個々の金額は別表3の「請求金額」欄記載のとおり。)の不当利得返還請求権を有している。

(被告の主張)

争う。

候補者と個人の賃貸人との間で,道路交通法上の制限外積載許可を受けるために,選挙期間前に貸借する期間を無償にした上,選挙運動期間を有料にするとの合意も想定し得る。

(被告補助参加人候補者20の主張)

請求③候補者のうち候補者20については,賃貸人である賃貸人11は,選挙時に使う際は有料,それ以外は無料で候補者20に自動車を貸していた。

第3当裁判所の判断

1  争点(1)(ポスター代関係)について

(1)  地方自治法2条14項,地方財政法4条1項の趣旨の違反の有無(争点(1)ア(ア))について

原告らは,請求①候補者と請求①業者との間の契約代金が,実勢価格や民間における相場を超える高額なものである旨主張している。

そこで検討すると,一般に,ポスターの作成費用・価格は,使用される材料の質,色の種類・構成等の仕様,デザインの内容,作成枚数,納期等によって異なってくるものと考えられ,また,選挙運動用ポスターは,候補者が有権者に対して自己の氏名や人物像を訴えるための重要な媒体であり,その点から上記の仕様,デザイン等の面において通常とは異なる配慮が必要となってくるものと考えられるところ,原告らの主張するような金額(単価500円~600円)でポスター自体を作成することは不可能ではないと考えられるけれども,その場合にどの程度の質のものが作成できるのかは証拠上明らかではなく,その関係で,上記のような特質のある選挙運動用ポスターを,必ず原告らの主張するような上記の金額の範囲内で作成できるような質のものにしなければならないかどうかについても,本件の証拠からは全く明らかではない。以上に加えて,本件においては,請求①業者によって作成された選挙運動用ポスターが,選挙運動用ポスターについて許容される質を大きく超え,請求①候補者と請求①業者との間のポスターの作成契約を無効としなければ,地方自治法2条14項,地方財政法4条1項の趣旨を没却するといい得るような状況に至っていると認めるに足りる証拠はない。

したがって,原告らの主張するような事情を根拠として,請求①候補者と請求①業者との間の選挙運動用ポスターの作成契約が無効になるとは認められない。よって,この点を理由に,市が,請求①業者に対し,不当利得返還請求権を有しているともいえない。

(2)  背任行為の有無(争点(1)ア(イ))について

上記(1)の検討結果に加えて,本件では,その他に,請求①候補者と請求①業者との間の選挙運動用ポスターの作成契約の代金が,必要以上に高額であると認めるに足りる証拠はない。

したがって,請求①候補者が他人の事務を処理する者といえるか否かにかかわらず,原告らの主張するような背任行為があったとは認められない。よって,この点を理由に,市が,請求①候補者及び請求①業者に対し,共同不法行為に基づく損害賠償請求権を有しているともいえない。

(3)  信義則上の義務違反の有無(争点(1)ア(ウ))について

上記(1)の検討結果に照らせば,仮に請求①候補者が,原告らの主張するような信義則上の義務を一般的に負っているとしても,これに違反したとは認められない。

したがって,原告らの主張するような事情を根拠として,市が,請求①候補者に対し,信義則上の義務の債務不履行に基づく損害賠償請求権を有しているとはいえない。

(4)  候補者23,候補者24及び受注業者13の関係(争点(1)イ(ア))について

ア 原告らは,単価49円・350枚として契約したのに,市には単価1212円・209枚で契約したと申告され,その金額が支払われているから,市への申告は架空の契約に基づくものであると主張している。これに対し,被告及び受注業者13は,掲示板用の209枚のほかに,室内用の350枚を追加で別途作成したものである旨主張している。

イ この点に関し,証拠を検討すると,納品書(甲54の2・5)によれば,受注業者13は,平成19年4月2日,候補者23及び候補者24それぞれに対し,単価49円の選挙運動用ポスター350枚(合計金額1万7150円)を納品していることが認められ,他方,木津川市に対しては,候補者23の関係につき,平成19年3月23日付けの,数量209枚・契約金額25万3308円・納入期限同月30日と記載のある選挙運動用ポスター作成契約書(甲33の3)が,候補者24の関係につき,平成19年3月19日付けの,数量209枚・契約金額25万3308円・納入期限同年4月5日と記載のある選挙運動用ポスター作成契約書(甲34の3)が,それぞれ提出されていることが認められる。

以上の事実,特に,納品日や各契約書に記載された日付等の事実に照らして考えると,少なくとも,上記の被告及び受注業者13の主張のとおりの事実がなかったとか,原告らの主張するように,市への申告が架空の契約に基づくものであったとまではいえない。

ウ なお,原告らは,a町議会選挙の際に受注業者13が作成したポスターの代金と上記の申告された代金とに差があることを,契約が架空であったことの根拠として主張しているが,a町議会選挙の際に受注業者13が作成したポスターの仕様等は証拠上明らかではなく,したがって,代金の額を単純に比較しても,それを根拠に,契約が架空であるとまではいえない。

また,被告及び受注業者13の主張するとおりの契約がされていたとすると,掲示板用ポスターの単価(1212円)と室内用ポスターの単価(49円)は大きく異なることになるところ,この点につき,被告及び受注業者13は,室内用ポスターは掲示板用ポスターより後に作成したため,印刷業界の慣行として,原版作成費用等の印刷前の諸費用は含まれず,印刷のみの費用となったこと,掲示板用ポスターは屋外に掲示するため,雨や太陽光に対応するなどのため,紙質・材料やインキ等につき室内用ポスターより高額なものが使われていることなどがその理由である旨説明している。これに対して,原告らは,本来公費負担の対象ではない室内用ポスターを,実質的に公費で安価に作成できることになってしまうから,印刷において最もコストを要する原版作成費用等は,掲示板用と室内用の数を合計した上,1枚ごとの金額を計算するべきであると主張している。この点については,既に原版作成費用等が計上されていた場合に,後に発注された分について原版作成費用等を含めずに単価を設定することは,契約当事者の行為として合理的であり,本件では,掲示板用ポスターの発注時に既に室内用ポスターの発注が予定されていたことを認めるに足りる証拠はない。また,上記の被告及び受注業者13の主張するような理由で,掲示板用のポスターの方が,材料等について高額のものが用いられるというのも,合理的である。以上によれば,本件において,原告らの主張するように,原版作成費用等を1枚ごとの金額に引き直して請求しなければ不法行為になるとか,契約が原版作成費用を考慮した額との差額部分について無効になるということはできない。

エ したがって,原告らの主張するような理由によって,市が,受注業者13に対する不当利得返還請求権や,受注業者13,候補者23及び候補者24に対する不法行為に基づく損害賠償請求権を有しているとはいえない。

(5)  候補者4及び受注業者3の関係(争点(1)イ(イ))について

ア 原告らは,公費負担の認められなかった枚数分について受注業者3が支払を免除したことから,実際にはポスターの単価が1954円より低かった旨主張している。

イ この点に関し,前記第2の1の前提事実並びに証拠(甲14の2~6,甲57の2・6)及び弁論の全趣旨によれば,候補者4と受注業者3は,単価1954円・230枚の合計44万9420円で契約し,市には,そのうち請求可能な209枚について,単価1954円・209枚の合計40万8386円(ほぼ公費負担の上限額)を請求し,同額が市から支払われ,公費負担のなかった21枚分については,受注業者3の取締役が個人として寄付をしたため,受注業者3は候補者4に対し代金の支払を請求していないことが認められる。

ここで,印刷業者が納入したものに汚れや破損があった場合に備えて余剰分を納入することは合理的といえるものの,上記の事実関係からすると,受注業者3は,元来同一の製品につき,公費負担のある部分を有償とし,公費負担のない部分を無償としているのであって,有償分の単価に無償分の費用を上乗せしていることになるといわざるを得ず,単価の定め方が不合理であるというほかない。

そうすると,候補者4と受注業者3とは,結局のところ,230枚を40万8386円で契約したということになり,その単価は1776円となる。

ウ したがって,原告らの主張するように,受注業者3が市に対して本来請求できる金額は,1776円に209枚を乗じた37万1184円であり,支払金額との差額3万7202円について,市は,受注業者3に対する不当利得返還請求権を有し,また,候補者4及び受注業者3に対し,同額の共同不法行為に基づく損害賠償請求権を有することになる。

(6)  候補者2及び受注業者2の関係(争点(1)イ(ウ))について

ア 原告らの主張aについて

(ア) 原告らは,候補者2は証人Aと同じ内容の契約を受注業者2と締結しており,したがって,候補者2及び受注業者2の市に対する申告は架空の契約に基づくものである旨主張している。

(イ) 証人Aと受注業者2との間の契約内容について

この点に関し,証拠を検討すると,証人Aに対し受注業者2が発行した領収証(乙6の2)には,その内訳欄に,「A3ポスター一式(250枚)」という記載があり,この領収証と総金額が一致する納品書(甲4の2)及び請求書(甲4の3)には,いずれも,A3ポスターの版下データ制作費が一式で1万5000円,A3ポスターの印刷代が単価65円・250枚の合計1万6250円である旨の記載がある。また,証人Aに対し受注業者2が発行したこれらとは別の領収証(乙6の1)には,その内訳欄に,「ポスター加工費」という記載があり,この領収証と総金額の一致する納品書(甲4の5)及び請求書(甲4の6)には,いずれも,ポスター用両面テープが数量1で1万8000円,ポスター用両面テープ作業代が数量250で単価20円の合計5000円という記載がある。他方で,市に対し,証人A及び受注業者2は,平成19年3月16日に単価1955円・209枚の合計40万8595円で契約した旨申告し(乙4),その旨の内容の契約書(乙5)も提出されていることが認められる。

以上について,受注業者2の代表者は,上記の1万5000円と1万6250円の合計に消費税を加えた金額については,代金の一部を前払いしてもらったものである旨説明し,また,契約全体については,250枚を代金約60万円ということで証人Aと合意した旨述べている(証人B)。他方,証人Aは,公費負担制度の適用を受けられた場合,ポスター代は公費負担の金額でよいが,適用を受けられなかった場合には,上記の1万5000円と1万6250円の合計に消費税を加えた金額ということで受注業者2と合意した旨述べている(陳述書・甲59,証人A。なお,陳述書では,両面テープに関する上記の1万8000円と5000円(及びこれらに対する消費税)についても,適用を受けられなかった場合に払うべき金額に含まれるものであったという趣旨の供述をしている。)。また,この点に関連して,証拠(甲4の1~6,59,乙6の1・2,証人A,証人B)によれば,証人Aは,結局,本件公費負担制度の適用を受けられなかったこと,受注業者2は,証人Aに対し,上記の1万5000円と1万6250円の合計に消費税を加えた金額と,両面テープに関する1万8000円と5000円の合計に消費税を加えた金額以外に,その後ポスターに関する費用を請求していないことが認められる。

以上の事実からすると,証人Aと受注業者2との間の契約内容は,本件公費負担制度の適用を受けられる場合には合計40万8595円をポスターの代金として支払うという内容であった可能性があるといえる。これは,原告らが主張するように,合計250枚を税込3万2813円(単価131円)で契約したものであり,40万8595円については,実質的には,ポスター代としての合意ではなく,本件公費負担制度の適用を受けられる場合に市に対して公費負担の上限額を請求するよう双方が協力するというものであったとみることも不可能ではないが,直ちにそのようなものであったといえるとも限らない。

(ウ) 候補者2と受注業者2との間の契約内容について

仮に,原告らの主張するように,証人Aと受注業者2との間の契約内容と候補者2と受注業者2との間の契約内容が同一であったとしても,上記(イ)の検討結果に加え,前記第2の1の前提事実並びに証拠(丙E1)及び弁論の全趣旨によれば,候補者2は本件公費負担制度の適用を受けていること,受注業者2は,候補者2との契約に関して,3万2812円を候補者2から,40万8595円を市からそれぞれ受領している事実が認められることからすると,証人Aと受注業者2との間の契約内容も,候補者2と受注業者2との間の契約内容も,ポスターの代金は,①3万2812円に②本件公費負担制度の適用を受けられる場合には40万8595円を加えるというものであった可能性があり,これを,40万8595円については,ポスター代としての合意ではなく,本件公費負担制度の適用を受けられる場合に市に対して公費負担の上限額を請求するよう双方が協力するというものであったとまでいえるとも限らず,結局,候補者2と受注業者2との間の契約内容が,原告らの主張するようなもの(250枚を税込3万2813円(単価131円))であったとまでは認めることができない。

(エ) まとめ

以上によれば,候補者2と受注業者2との間の契約が実体を欠くもので無効であるとか,候補者2及び受注業者2の市に対する申告が架空の契約に基づくものであるとまではいえない。よって,このような点から,市が,受注業者2に対する不当利得返還請求権や,受注業者2及び候補者2に対する共同不法行為に基づく損害賠償請求権を有しているとはいえない。

イ 原告らの主張bについて

(ア) 上記アを被告に有利に解すると,候補者2と受注業者2が,合計250枚のポスターを,209枚分については公費負担による40万8595円で,残りの41枚を私費による3万2812円で作成するとの契約を結んだことになり,これは,原告らと候補者2とが主張するところである。ここで,公費負担のある部分の単価は1955円で,公費負担のない部分の単価は800円となるところ,元来同一の製品につき,公費負担のある部分と,公費負担のない部分とで,単価に差があるのは不合理であり,公費負担のある部分の単価に公費負担のない部分の単価を上乗せしていることになるといわざるを得ず,単価の定め方が不合理であるというほかない。そうすると,結局のところ,250枚のポスターを40万8595円と3万2812円の合計44万1407円で契約したことになり,その単価は1765円となる。

(イ) この点につき,受注業者2は,250枚を3万2812円と46万2000円(見積書・甲58の2の金額。)の合計49万4812円で合意した旨主張するが,そもそも46万2000円は見積りにすぎないし,公費負担による40万8595円と上記の3万2812円以外に,候補者2が受注業者2に対し,ポスターそのものの代金として金員を支払ったことをうかがわせる証拠はないのであって,失当というほかない。

むしろ,候補者2及び受注業者2は,市に対し,平成19年3月16日に209枚を代金合計40万8595円(単価1955円)で契約した旨申告し(甲12の2),その旨の契約書(甲12の3)を提出していることなどに照らせば,候補者2と受注業者2との間の契約の内容は,上記(ア)のように解するのが合理的である。

(ウ) したがって,原告らの主張するように,受注業者2が市に対して本来請求できる金額は,1765円に209枚を乗じた36万8885円であり,支払金額との差額3万9710円について,市は,受注業者2に対する不当利得返還請求権を有し,また,候補者2及び受注業者2に対し,同額の共同不法行為に基づく損害賠償請求権を有することになる。

(7)  候補者1及び受注業者1の関係(争点(1)イ(エ))について

ア 原告らは,受注業者1の作成したメモ(甲60の2)に,ポスター209枚につき40万8595円,室内用ポスター35枚につき5万8625円という旨の記載があることから,これらを合計してポスターの単価を計算し,それが1914円になることから,候補者1や受注業者1が市に申告した単価1955円が虚偽のものであった旨主張している。

イ しかし,上記(4)で検討したとおり,室外用のポスターと室内用のポスターでは単価が異なることも合理的といえる場合が十分にあり得るから,必ずしも上記のメモに記載されたポスターの数量をすべて合計した上で単価を計算しなければならないとはいえないし,室外用と室内用のポスターそれぞれを別個に計算することが不当であるとも必ずしもいえない。

以上によれば,上記メモの記載から,候補者1及び受注業者1が,単価1955円として市に申告したことが虚偽であったとは認められない。

ウ したがって,原告らの主張するような理由によって,市が,受注業者1に対する不当利得返還請求権や,候補者1及び受注業者1に対する不法行為に基づく損害賠償請求権を有しているとはいえない。

(8)  候補者8及び受注業者6の関係(争点(1)イ(オ))について

ア 原告らは,候補者8に対し受注業者6が発行した見積書(甲61の2)を根拠に,実際は,250枚のポスターが単価550円で発注・納品されたにもかかわらず,市にはこれと異なる申告がされており,本来は上記単価に基づいた計算がされるべきである旨主張している。

イ この点に関し,証拠を検討すると,市に提出された契約書等の書類(甲18の2,3)においては,単価1900円・250枚の合計47万5000円とされていること,弁論の全趣旨によれば,上記見積書は仮見積書であり,その後候補者8と受注業者6との話し合いの末,最終的な価格が上記の市に提出された契約書等の書類のとおりとなったことがうかがわれ,これに反する証拠もないことから,候補者8と受注業者6との契約において,ポスターの単価が550円であったとは必ずしもいえない。

ウ したがって,原告らの主張するような理由によって,市が,受注業者6に対する不当利得返還請求権や,候補者8及び受注業者6に対する不法行為に基づく損害賠償請求権を有しているとはいえない。

2  争点(2)(運転手報酬関係)について

(1)  請求②候補者のうち候補者16以外の候補者らの関係

原告らは,請求②候補者が届け出た運転手は実際に運転をしていないにもかかわらず,報酬請求がされているから,市は,共同不法行為に基づく損害賠償請求権を有している旨主張している。

しかし,請求②候補者のうち候補者16以外の候補者らについての請求②運転手が,選挙期間中に実際に選挙運動用自動車を運転しなかったことを認めるに足りる証拠はない。

よって,原告らの主張するように,市が,これら候補者らや運転手らに対し,共同不法行為に基づく損害賠償請求権を有しているとはいえない。

(2)  請求②候補者のうち候補者16の関係

ア 原告らは,候補者16の届け出た運転手である運転手19は,実際のところ選挙運動用自動車の運転をしていないにもかかわらず,7日分の運転手報酬を得ている旨主張している。

イ この点,運転手19は,陳述書(丙C1,4)において,候補者16の選挙運動用自動車の運転をした旨述べており,他方,原告Cは,運転手19は選挙期間中運転をすることがなかった(陳述書・甲63),あるいは,自分が候補者16を手伝いに行った日に運転手19が運転をしていた記憶がないなどと述べている(原告C本人)。しかし,Cは,陳述書では,選挙運動用自動車の運転をしていたのは合計4人しかいなかった旨述べながら,本人尋問においては六,七人いたと訂正したり,陳述書では,運転手19は全く運転していなかったという趣旨の供述をしながら,本人尋問では,記憶がないという表現をするにとどまった上,自分が手伝いに行った日以外は運転手19が運転していたか否かは関知していないのでわからない旨供述するなど,運転手19の運転状況に関する重要な事実について供述が変遷していること等からすると,Cの供述を採用し,その内容どおりの事実を認めることはできないといわざるを得ない。

ウ 他方,運転手19は,陳述書(丙C4)において,選挙期間のうち,平成19年4月15~18,20及び21日に運転をした旨述べており,同月19日に運転をしたとは述べていない。

したがって,少なくとも,同月19日に運転手19が候補者16の選挙運動用自動車を運転していなかった事実は,これを認めることができる。

エ そして,本件公費負担制度における運転手報酬の支払については,本件条例4条(2)は,「運転手(同一の日に2人以上の選挙運動用自動車の運転手が雇用される場合には,候補者が指定するいずれか1人の運転手に限る。)のそれぞれにつき,選挙運動用自動車の運転業務に従事した各日についてその勤務に対し」報酬を支払う旨定めており,この条文の文言からすれば,運転手報酬の支払を受け得るのは,選挙期間の各日について,その日に実際に運転をした者のみであり,しかもそれが複数の場合は,うち1名のみであると解するほかなく,被告の主張するように,選挙期間全体を担当した運転手が複数いる場合に,そのうちの1人が代表者として費用のすべてを請求して受領し,その後協議をしてこれを他の運転手に分配することが制度上予定されていると解するのは,困難であるといわざるを得ない。

したがって,運転手19が市から支払を受けた運転手報酬(合計8万7500円)のうち,運転手19が運転をしていなかった同月19日の分(1万2500円)については,本来は,市から支払を受け得ないものであったのに,候補者16及び運転手19は,これを請求していたものというほかない。

オ よって,市は,候補者16及び運転手19に対し,1万2500円の共同不法行為に基づく損害賠償請求権を有している。

3  争点(3)(賃借料関係)について

(1)  賃貸人3の関係(争点(3)ア)について

ア 原告らは,選挙運動用自動車を賃貸人3の貸渡料金表を超過する金額で貸し渡すのは特約であるところ,賃貸人3は,貸渡約款で,約款及び細則の趣旨,法令及び一般の慣習に反しない範囲でしか特約を認めておらず,通常料金を超過して本件のような料金を徴収するのは,地方財政法4条1項,地方自治法2条1項という法令に反するなどしているから,上記特約は貸渡約款に反し,そして,賃貸人3は,貸渡約款に違反した内容の契約を締結することはできないから,賃貸人3と候補者との間の契約のうち,貸渡約款に反する部分,すなわち,貸渡料金表に定められた通常料金を超過する部分は無効である旨主張している。

イ そこで検討すると,まず,道路運送法80条2項は,国土交通大臣は,自家用自動車の貸渡しの態様が自動車運送事業の経営に類似していると認める場合を除くほか,同条1項の許可をしなければならないと定めていることからすれば,同条1項は,上記の同法の目的を達成するため,自家用自動車の業としての有償での貸渡しが,同法にいう自動車運送事業に対する同法の規制を潜脱するものとなることを防止する趣旨で定められたものと解される。原告らは,この点につき,道路運送法80条及び同法施行規則52条により貸渡料金及び貸渡約款の添付が要求されているのは,事業の公共性から,契約内容に制限を加える趣旨である旨主張するが,上記に照らし,採用できない。

また,同法には,同条1項に違反して締結された契約の効力を否定する旨の規定は存在しないし,同法施行規則にも,同規則52条の求める貸渡料金及び貸渡約款に違反して締結された契約の効力を否定する旨の規定は存在しない。

以上のような,同法80条1項及びその申請方式について規定する同法施行規則52条の趣旨等によれば,同条により要求される貸渡約款に反する契約が締結されたとしても,その契約は,その違反を理由に,必ずしも私法上無効になるわけではないと解される。

ウ また,選挙運動用自動車の賃貸について,通常の場合よりも高額の料金設定がされること自体については,一般に,選挙運動用自動車は,連続した長時間,しかも連日使用されること,看板等を積載・設置して使用されること,接触等により損傷が発生することも予想されやすいことなどの事情があると認められるから,これらを理由として,通常の貸渡料金より高額の料金設定が行われたとしても,直ちに不合理であるとはいえない。そして,本件において,賃貸人3は,いずれの候補者に対しても,日額1万5300円で選挙運動用自動車を賃貸したのであるが(甲10の3,14の12・13,22の10・11,32の10・11,33の8・9,36の14・15,37の10・11,38の8・9,42の10・11,43の8・9),この日額は,賃貸人3が近畿運輸局京都運輸支局に届け出ている料金表(平成20年10月1日時点のもの。甲53)の2日目以降の日額と比較すると,約2.2倍~3.2倍となっていることがうかがわれるところ,上記の諸事情にも照らせば,上記の日額は,必ずしもその金額設定が不合理であるという程度にまで達しているとはいえず,原告らの指摘するような,地方財政法4条1項,地方自治法2条1項といった法令に違反するとか,一般の慣習に反するとまではいえない。

したがって,本件選挙につき賃貸人3が候補者らと締結した賃貸借契約における貸渡料金が通常より高額であることを理由に,その契約の一部が,私法上無効になるということはできない。

エ 以上によれば,原告らの主張するような理由により,市が,賃貸人3に対して不当利得返還請求権を有しているとはいえない。

オ なお,原告らは,賃貸人3から選挙運動用自動車を賃借した候補者らに対して,賃貸人3に請求すべきとする額と同額の請求をするよう被告に求めているが(請求③の一部),この部分については,そのような請求のできる根拠,すなわち,市がこれら候補者らに対して法律上有する請求権の内容や,その請求原因に当たる事実の主張がされていないから,当該請求部分には理由がないというほかない。

(2)  賃貸人5の関係(争点(3)イ)について

ア 原告らは,賃貸人5が届け出ている貸渡料金表に定められた選挙運動用自動車の貸渡料金は,通常料金に比して高額とされているが,この料金設定に合理的な根拠はなく,地方財政法4条1項,地方自治法2条1項等に反しているところ,賃貸人5は,貸渡約款で,特約は約款の趣旨,法令及び一般の慣習に反しない範囲で認められるとしているが,上記の選挙運動用自動車用の貸渡料金は特約に当たるから,上記の法令違反がある以上,この特約は貸渡約款に反しているので,賃貸人5と候補者らとの間の契約のうち,上記貸渡約款に反する部分,すなわち,通常料金を超過する部分については無効である旨主張している。

イ そこで検討すると,まず,上記(1)イのとおり,貸渡約款に反する契約が締結されたとしても,その契約は,そのことを理由に,必ずしも私法上無効になるわけではないと解される。

ウ また,上記(1)ウのように,選挙運動用自動車の賃貸については,通常の場合よりも高額の料金設定がされても,直ちに不合理であるとはいえないところ,賃貸人5は,いずれの候補者に対しても,日額1万5300円で選挙運動用自動車を賃貸したのであるが(甲16の12・13,18の10・11,25の10・11,26の10・11,34の8・9,35の8・9),この額は,賃貸人5が近畿運輸局京都運輸支局に届け出ている料金表(法人用・代車用・選挙用でないもので,平成20年9月16日時点のもの。甲50)の2日目以降の日額と比較すると,約1.5倍~2.9倍となっていることがうかがわれるところ,上記(1)ウで指摘したような諸事情に照らせば,必ずしもその金額設定が不合理であるという程度にまで達しているとはいえず,法令や一般の慣習に違反しているともいえない。

よって,本件選挙につき賃貸人5が候補者らと締結した賃貸借契約における貸渡料金が通常より高額であることを理由に,その契約の一部が,私法上無効になるということもできない。

エ 以上によれば,原告らの主張するような理由により,市が,賃貸人5に対して不当利得返還請求権を有しているとはいえない。

オ なお,原告らは,賃貸人5から選挙運動用自動車を賃借した候補者らに対して,賃貸人5に請求すべきとする額と同額の請求をするよう被告に求めているが(請求③の一部),賃貸人3の関係と同様,この請求部分については,請求原因に当たる事実の主張がされておらず,理由がないというほかない。

(3)  賃貸人1,賃貸人2,賃貸人4,賃貸人6及び賃貸人13(以下「(3)の賃貸人ら」という。)の関係(争点(3)ウ)について

ア 原告らは,(3)の賃貸人らは道路運送法80条1項の許可を受けていないところ,市は法令に違反してその事務を処理してはならず,本件条例においても,適法な許可を受けた業者との契約に係る支払が前提とされており,許可を受けていない業者から選挙運動用自動車の賃借をした候補者にその賃借料を支払うことは想定されておらず,候補者も,市との関係で,法令に違反する業者から選挙運動用自動車を賃借してはならない信義則上の義務を負担しているから,許可を受けていない業者と契約を結び賃借料の支払を受ける行為は詐欺に当たる旨主張している。

イ そこで検討すると,道路運送法80条1項は,自家用自動車は,国土交通大臣の許可を受けなければ,業として有償で貸し渡してはならない旨を定めており,確かに,原告らの主張するように,(3)の賃貸人らは,この許可を受けていない(甲47,48)。

ウ しかし,まず,そもそも(3)の賃貸人らが行った本件選挙の候補者への選挙運動用自動車の賃貸が,同条1項にいう業としての有償貸渡しに該当するとの事実を認めるに足りる証拠はない。

エ また,本件条例では,選挙運動用自動車の賃貸人については一定の親族を除くほかは限定がされておらず(3条,4条(2)ア),賃貸人が同法80条1項の許可を受けていることも要求されていないことに加え,上記(1)イのような同条1項の趣旨や,同法には,同条1項に違反して締結された契約の効力を否定する旨の規定が存在しないことなどに照らせば,本件条例が,上記のような同法の規制の潜脱となるような場合を除いて,同条1項の許可を受けていない業者との間で選挙運動用自動車を賃借した場合の賃借料を支払うことを想定していないとは解されないし,また,候補者が,市との関係で,同条1項の許可を受けていない業者から選挙運動用自動車を賃借してはならない信義則上の義務を負担しているとも解されない。

そして,本件では,(3)の賃貸人らによる候補者への選挙運動用自動車の賃貸については,運送行為を行っているなど,その態様が同法にいう自動車運送事業の経営に類似しているとは認められないから,上記のような同法の規制の潜脱となるような場合であるとはいえない。

オ 以上によれば,(3)の賃貸人らと契約を締結し,賃借料の支払を市から受ける行為が不法行為に当たるとはいえない。したがって,市が,(3)の賃貸人ら及び同人らから選挙運動用自動車を賃借した候補者らに対し,共同不法行為に基づく損害賠償請求権を有しているとはいえない。

(4)  賃貸人7,賃貸人8,賃貸人9,賃貸人11及び賃貸人12(以下「(4)の賃貸人ら」という。)の関係(争点(3)エ)について

ア (4)の賃貸人らから選挙運動用自動車を賃借した請求③候補者(賃貸人7につき候補者10,賃貸人8につき候補者13,賃貸人9につき候補者17,賃貸人11につき候補者20,賃貸人12につき候補者21)が,その使用する選挙運動用自動車について,道路交通法上の制限外積載乗車許可を受けた日付(候補者10,候補者13,候補者17及び候補者20につき平成19年4月9日,候補者21につき同月10日。甲44)によれば,(4)の賃貸人らとこれら候補者らとの間では,選挙期間(同月15日~21日)よりも前までに,その使用する選挙運動用自動車の引渡しが行われていたものと認められる。

原告らは,このことから,これらの候補者らは,選挙期間前から選挙運動用自動車を賃借しており,実質的,経済的には,選挙期間(支払の対象となる期間)である同月15日から21日までの7日分の賃借料として市から支払われる額によって,それ以上の賃借期間を賄っていたことになると主張している。

イ しかし,証拠(甲20の1,23の1,27の1,30の1,31の1)によれば,(4)の賃貸人ら及び上記の候補者らについては,上記の選挙期間について賃貸借契約がされ,その賃借料が実際の支払金額相当額である旨の申告がされていることが認められ又はうかがわれるにすぎず,それ以外の期間について賃貸借契約がされていたことや,それ以外の期間についての賃貸借契約における賃借料が上記の金額以上には定められていないことなどを認めるに足りる証拠はない。

そうすると,上記のように,選挙期間よりも前に選挙運動用自動車の引渡しが行われ,仮にこれによって賃借期間が選挙期間前に始まっていたとしても,その選挙期間以外の期間の賃貸借が支払金額相当額によって賄われていたとまでは認められない。

ウ したがって,原告らの主張するように,交付された賃借料を実際の賃借した日数で除した金額7日分と支払金額の差額が(4)の賃貸人らの不当利得になるということはできず,市が,同額について(4)の賃貸人らに対し不当利得返還請求権を有しているとはいえない。

なお,候補者20については,同人は,選挙期間以外の期間は無償であった旨主張し,その旨を述べる候補者20や賃貸人11の陳述書等を提出しているが(丙A1,4~6),これを前提とすると,選挙期間中の使用に支払金額が対応していることになるから,上記の原告らの主張するような状況が生じることはなく,市に不当利得返還請求権は発生しない。

エ また,原告らは,上記の候補者らに対して,(4)の賃貸人らに請求すべきとする額と同額の請求をするよう求めているが(請求③の一部),賃貸人3及び賃貸人5の関係と同様,この請求部分については,請求原因に当たる事実の主張がされておらず,理由がないというほかない。

(5)  原告らは,請求③候補者のうち候補者19及び請求③賃貸人のうち賃貸人10に対して,別表3の「請求金額」欄記載の額の請求をするよう求めているが(請求③の一部),この請求部分についても,請求原因に当たる事実の主張がされておらず,理由がないというほかない。

第4結論

以上のとおり,市は,候補者4及び受注業者3に対し3万7202円の,候補者2及び受注業者2に対し3万9710円の,候補者16及び運転手19に対し1万2500円の,それぞれ請求権を有していると認められ,被告はその行使を違法に怠っているといわざるを得ないが,その他には,被告がその行使を怠っている請求権の存在は認められない。

したがって,原告らの請求は,被告に対し,候補者4及び受注業者3に各自3万7202円,候補者2及び受注業者2に各自3万9710円並びに候補者16及び運転手19に対し1万2500円の各支払を請求することを求める限度で理由があるから認容し,その余はいずれも理由がないから棄却し,訴訟費用の負担については,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法64条ただし書,66条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 瀧華聡之 裁判官 梶山太郎 裁判官 高橋正典)

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